説明

感光性材料、ホログラフィック記録媒体、及びホログラフィック記録方法

【課題】ホログラフィック記録材料として用いた場合に高いM#、高い感度が得られ、スケジューリングが不要で、予備露光を行う必要がない感光性材料、それを用いた大容量(高密度)、高転送レートを実現可能なホログラフィック記録媒体及びホログラフィック記録方法を提供する。
【解決手段】ポリマーマトリックス、ラジカル重合性モノマー及び光ラジカル重合開始剤を含む感光性材料であって、前記ポリマーマトリックスが側鎖に安定ニトロキシルラジカルを有し、前記安定ニトロキシルラジカルの前記ラジカル重合性モノマーに対するモル比が0.03〜0.25の範囲である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スケジューリングを要しないホログラフィック記録媒体に対して好適に用いることができる感光性材料、ホログラフィック記録媒体及びホログラフィック記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ホログラフィック記録は、イメージ情報を持った信号光とともに参照光を同時に照射して生じる干渉縞を、記録媒体に回折格子(以下、グレーティングともいう。)として記録することにより行われる。記録媒体からの再生は、イメージ情報が記録された記録媒体に参照光を照射して、イメージ情報を回折格子からの再生信号光として読み出すことによって行われる。
【0003】
記録材料としては、記録媒体製造の簡便性、原料選択の多様性などが考慮され、フォトポリマーが用いられる場合が多い。フォトポリマーを用いたホログラフィック記録媒体では、干渉縞が屈折率変調回折格子として記録されるライトワンス型が一般的である。
【0004】
ホログラフィック記録は、上記イメージ情報を1ページとして、ページ単位で一括記録、再生でき、かつ、記録媒体の同一箇所にページを重畳させて記録すること(以下、多重記録という。)ができることから、従来のCD、DVD、ブルーレイディスクで用いられるビット・バイ・ビットの記録方式に替わる高転送レートでかつ大容量の光記録方式として期待される技術である。
【0005】
ホログラフィック記録媒体において、大容量化のためには大きなM#(エムナンバー)が必要である。M#とは多重記録性能を表す指標であり、m多重記録された信号においてiページ目の回折効率をηとしたとき、次式で表される数値である。
【数1】

【0006】
また、ホログラフィック記録媒体において、高転送レート化のためには短時間の記録露光で十分な回折効率が得られる必要があるため、高い記録感度が求められる。
【0007】
ライトワンス型のホログラフィック記録媒体を用いて多重記録が行なわれる場合、一般的に、1ページ目の記録によって記録可能成分(ここではラジカル重合性モノマーを指す。以下同じ。)がある割合で光反応して変化し、2ページ目の記録によって残りの未反応の記録可能成分がある割合で光反応して変化し、3ページ目の記録によって更に残りの未反応の記録可能成分がある割合で光反応して変化し、・・・、が順次繰り返されて多重記録が行なわれる。
【0008】
多重が繰り返されるほど残存記録可能成分は減少し、それに伴って記録感度が低下する。すなわち、各ページを同じ露光エネルギーで記録すると、多重後半のページになるほど再生信号強度が減少することになり、記録再生システム上不都合が生じる。
【0009】
上記の不都合を解消するために、スケジューリングと呼ばれる手法が用いられる。これは、多重による再生信号強度の変化、つまり記録感度の変化を予測して、露光エネルギーをページ毎に変化させながら多重記録を行なうもので、これによって各ページからの再生信号強度を均一化しようとするものである。
【0010】
スケジューリングを行う場合、感度の低下が予測されるページに対しては高い露光エネルギーで記録することになる。露光パワーと露光時間の積である露光エネルギーを変えるには、露光パワーと露光時間の少なくとも一方を変化させることが必要である。しかしながら、露光パワーをページ毎に変化させるには記録システム上複雑な制御が要求されるため、露光時間を調整することで露光エネルギーを変えるのが一般的である。つまり、高い露光エネルギーで記録するためには露光時間を長くすることになり、これは記録システムの転送レートの低下を引き起こすという問題につながる。
【0011】
従って、簡便な記録再生システムで大容量(高密度)、高転送レートを実現させるためには、スケジューリングを行わなくても各ページからの再生信号強度が均一化される記録媒体であることが望ましい。
【0012】
特許文献1には、ラジカル重合性モノマー、光ラジカル重合開始剤、ポリマーマトリックス、及び重合禁止剤を含む記録層を有し、重合禁止剤が、フェノール誘導体、ヒンダードアミン、及びニトロキシド化合物からなる群から選択され、共有結合を介してポリマーマトリックスに結合して構成されたホログラム記録媒体が開示されている。
【0013】
しかしながら、特許文献1に記載のホログラム記録媒体は重合禁止剤を含むため、実際の記録に先立って予備露光(以下、記録前露光ともいう。)を行ない、重合禁止剤を失活させる必要がある。特許文献1に記載の技術によれば、上記予備露光を一定の条件下で行うことができる。但し、特許文献1に記載の技術においても、スケジューリング自体は依然として必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2010−66326号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、ホログラフィック記録材料として用いた場合に高いM#、高い感度が得られ、スケジューリングが不要で、予備露光を行う必要がない感光性材料、それを用いた大容量(高密度)、高転送レートを実現可能なホログラフィック記録媒体及びホログラフィック記録方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成すべく、本発明は、
ポリマーマトリックス、ラジカル重合性モノマー及び光ラジカル重合開始剤を含む感光性材料であって、前記ポリマーマトリックスが側鎖に安定ニトロキシルラジカルを有し、前記安定ニトロキシルラジカルの前記ラジカル重合性モノマーに対するモル比が0.03〜0.25の範囲であることを特徴とする、感光性材料に関する。
【0017】
また、本発明は、
少なくとも一つの透明基板と、
前記透明基板上に形成された、上記感光性材料からなる情報記録層と、
を具えることを特徴とする、ホログラフィック記録媒体に関する。
【0018】
さらに、本発明は、
上記ホログラフィック記録媒体に対し、重畳する複数の屈折率変調回折格子を、それぞれ本質的に同一の露光エネルギーで形成させることを特徴とする、ホログラフィック記録方法に関する。
【0019】
また、本発明は、
上記ホログラフィック記録媒体に対し、少なくとも一の屈折率変調回折格子を、予備露光を行うことなく形成させることを特徴とする、ホログラフィック記録方法に関する。
【0020】
本発明のホログラフィック記録媒体の情報記録層を構成する感光性材料は、ポリマーマトリックスの側鎖に安定ニトロキシルラジカルを有している。このため、ポリマーマトリックスに固定された安定ニトロキシルラジカルが適切な比率で空間的に分散、配置されていることによって、多重記録の初期における過度な重合の抑制や多重記録の全行程に亘る重合度の適度な制御が行われ、また干渉縞の光強度分布を正確に反映した屈折率変調構造の形成、記録可能成分(ラジカル重合性モノマー)の無駄のない利用などの相互の連関する利点がもたらされ、これらの利点に基づいて記録感度が向上し、高いM#を実現することができるものと考えられる。結果として、スケジューリングかつ予備露光を行わずに、大容量(高密度)、高転送レートのホログラフィック記録媒体を得ることができる。
【0021】
本発明の一例において、ポリマーマトリックスは、芳香環及びラジカル重合反応性基を有する化合物を構成単位として含むことができる。この場合、ポリマーマトリックス中に芳香環が存在するようになるので、感光性材料中に芳香環を有する高屈折率のラジカル重合性モノマーを有する場合でも相溶性が高く濁りを生じにくいため、比較的多くのラジカル重合性モノマーを含有させることができる。その結果、ポリマーマトリックスとラジカル重合性モノマーやその重合体との屈折率差を大きくすることができ、感光性材料の屈折率変調度を高めることができる。
【0022】
また、感光性材料の感光時に、ラジカル重合性モノマーの少なくとも一部がポリマーマトリックスに存在するラジカル重合反応性基と反応して共重合することができるため、相溶性が高まり透明性が向上するとともに、形成された屈折率変調構造が安定化される。
【0023】
したがって、感光性材料をホログラフィック記録媒体の情報記録層として用いた場合に、屈折率変調構造によって複数の回折格子を高いコントラストで形成することができ、複数の回折格子に応じた複数のページ情報を高いSNRで記録し、再生することができる。
【発明の効果】
【0024】
以上、本発明によれば、ホログラフィック記録材料として用いた場合に高いM#、高い感度が得られ、スケジューリングが不要で、予備露光を行う必要がない感光性材料、それを用いた大容量(高密度)、高転送レートを実現可能なホログラフィック記録媒体及びホログラフィック記録方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施例でSNRの評価に用いた多重記録用光学系の概略構成図である。
【図2】実施例でSNRの評価に用いた再生用光学系の概略構成図である。
【図3】実施例でSNRの評価に用いた記録信号光のパターンを示す図である。
【図4】実施例における記録露光エネルギーに対するM#の積算値を示すグラフである。
【図5】実施例における記録露光エネルギーに対する感度を示すグラフである。
【図6】実施例における540多重記録におけるページ毎のSNRを示したグラフである。
【図7】実施例における540多重記録におけるページ毎のSNRを示したグラフである。
【図8】実施例におけるページ毎の記録露光エネルギーを示したグラフである。
【図9】実施例における135多重記録でのページ毎のSNRを示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の詳細並びにその他の特徴について、実施の形態に関連させて詳細に説明する。
【0027】
(ポリマーマトリックス)
本発明の感光性材料を構成するポリマーマトリックスは、イソシアネート−ヒドロキシル重付加物、イソシアネート−アミン重付加物、イソシアネート−チオール重付加物、エポキシ−アミン重付加物、エポキシ−チオール重付加物、エピスルフィド−アミン重付加物及びエピスルフィド−チオール重付加物等を挙げることができ、特に比較的穏やかな温度条件下での反応が可能で、生じるポリマーマトリックスの光学特性に優れ、臭気が比較的少ないイソシアネート−ヒドロキシル重付加物であることが好ましい。
【0028】
イソシアネート−ヒドロキシ重付加物を構成するポリイソシアネート成分としては、1分子中に2以上のイソシアネート基を有するイソシアネート化合物又はその混合物が使用される。例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート(MDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)、ナフチレン−1,5−ジイソシアネート(NDI)、トリフェニルメタン−4,4’,4”−トリイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート(H12MDI)、水素化キシリレンジイソシアネート(H6XDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMHDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ノルボルナンジイソシアネート(NBDI)、シクロヘキサン−1,3,5−トリイソシアネート及びこれらのイソシアネート化合物から得られる三量体、ビウレット体、アダクト体、プレポリマーなどが挙げられる。これらのイソシアネート化合物は、単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
イソシアネート−ヒドロキシ重付加物を構成するポリオール成分としては、1分子中に2以上のヒドロキシル基を有するヒドロキシ化合物又はその混合物が使用される。例えば、ポリエーテルポリオール類、ポリエステルポリオール類、ポリカーボネートジオール類などが挙げられる。これらのヒドロキシ化合物は、単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
(ラジカル重合性モノマー)
本発明の感光性材料は、特にホログラフィック記録媒体用の記録材料として好適に使用することができる。ホログラフィック記録媒体においては、低屈折率のポリマーマトリックスに加えて、高屈折率のラジカル重合性モノマーを含み、記録時にラジカル重合性モノマーを重合させることによって媒体中に屈折率変調構造を形成し、この屈折率変調構造によって複数の回折格子を高いコントラストで形成することができる。したがって、複数の回折格子に応じた複数のページ情報を高いSNRで記録し、再生することができる。
【0031】
本発明の感光性材料を構成するラジカル重合性モノマーは、当業者に知られているものであれば特に制限はないが、分子中に芳香環を有する高屈折率のラジカル重合性モノマーを用いることが好ましい。
【0032】
分子中に芳香環を有する高屈折率のラジカル重合性モノマーとしては、例えば、スチレン、クロロスチレン、ブロモスチレン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼン、ビニルナフタレン、ジビニルナフタレン、ビニルビフェニル、ジビニルビフェニル、ビニルターフェニル、ビニルピレン、インデン、アセナフチレン、ジベンゾフルベン、フェニル(ビニルフェニル)スルフィド、ベンジル(ビニルベンジル)スルフィド、N−ビニルカルバゾール、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ナフトキシエチル(メタ)アクリレート、トリブロモフェニル(メタ)アクリレート、トリブロモフェノキシエチル(メタ)アクリレート、アルキレンオキシド変性ビスフェノールAのジ(メタ)アクリレート、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンのジ(メタ)アクリレート、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレンのジ(メタ)アクリレート、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンのジ(メタ)アクリレート、ビス(4−メタクリロイルチオフェニル)スルフィド、ビス(4−ビニルチオフェニル)スルフィド、などが挙げられる。これらのラジカル重合性モノマーは、単独で用いても2種以上を組み合せてもよい。
【0033】
ラジカル重合性モノマーの配合量は、感光性材料の全体に対して0.5〜30質量%が好ましく、1〜20質量%がより好ましく、1.5〜10質量%が更に好ましい。
【0034】
なお、本発明において、“モノマー”とは重合性を示すオリゴマーを含む。
【0035】
(光ラジカル重合開始剤)
本発明の感光性材料を構成する光ラジカル重合開始剤としては、記録時において上記ラジカル重合性モノマーの重合を開始させるためのものであって、当業者に知られている種々の光ラジカル重合開始剤を用いることができ、使用する光の波長に応じて適宜選択して用いることがよい。
【0036】
好ましい光ラジカル重合開始剤としては、例えば、ビス(η−2,4−シクロペンタジエン−1−イル)ビス(2,6−ジフルオロ−3−(1H−ピロール−1−イル)フェニル)チタニウム、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、2−ベンジル−2−(ジメチルアミノ)−1−[4−(モルフォリン−4−イル)フェニル]ブタン−1−オン、2−(ジメチルアミノ)−2−(4−メチルベンジル)−1−[4−(モルフォリン−4−イル)フェニル]ブタン−1−オン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−(モルフォリン−4−イル)プロパン−1−オン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、(1−ヒドロキシシクロヘキシル)フェニルケトン、などが挙げられる。
【0037】
光ラジカル重合開始剤の配合量は、使用する光ラジカル重合開始剤の種類、ラジカル重合性モノマーの配合量などによって異なるため一概には決められないが、感光性材料の全体に対して0.05〜10質量%の範囲が好ましく、0.1〜5質量%の範囲がより好ましく、0.15〜3質量%の範囲が更に好ましい。
【0038】
(安定ニトロキシルラジカル)
本発明の感光性材料は、ポリマーマトリックスの側鎖に安定ニトロキシルラジカルを有しているので、記録感度が向上し、高いM#を実現することができる。その結果、スケジューリングが不要かつ予備露光を行わずに、大容量(高密度)、高転送レートのホログラフィック記録媒体を得ることができる。
【0039】
これは、ポリマーマトリックスに固定された安定ニトロキシルラジカルが適切な比率で空間的に分散、配置されていることによって、多重記録の初期における過度な重合の抑制や多重記録の全行程に亘る重合度の適度な制御が行われ、また干渉縞の光強度分布を正確に反映した屈折率変調構造の形成、記録可能成分(ラジカル重合性モノマー)の無駄のない利用などの相互の連関する利点がもたらされたことに起因すると考えられる。
【0040】
安定ニトロキシルラジカルには、公知の安定ニトロキシルラジカルを用いることができるが、化学式(1)、(2)又は(3)で示されるものが好ましい
【化1】

【化2】

【化3】

(式中、Zはヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基、カルバモイル基又はグリシジル基を表す。)。
【0041】
これらの安定ニトロキシルラジカルは、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基、カルバモイル基又はグリシジル基を有しているので、上述したポリマーマトリックスを構成する重付加物の側鎖の官能基に付加反応により結合することができる。
【0042】
化学式(1)で表される安定ニトロキシルラジカルとしては、例えば、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4−スルファニル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4−アミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4−カルボキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4−カルバモイル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4−(2,3−エポキシプロポキシ)−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシルなどが挙げられる。
【0043】
化学式(2)で表される安定ニトロキシルラジカルとしては、例えば、3−ヒドロキシ−2,2,5,5−テトラメチルピロリジン−1−オキシル、3−スルファニル−2,2,5,5−テトラメチルピロリジン−1−オキシル、3−アミノ−2,2,5,5−テトラメチルピロリジン1−オキシル、3−カルボキシ−2,2,5,5−テトラメチルピロリジン−1−オキシル、3−カルバモイル−2,2,5,5−テトラメチルピロリジン−1−オキシル、3−(2,3−エポキシプロポキシ)−2,2,5,5−テトラメチルピロリジン−1−オキシルなどが挙げられる。
【0044】
化学式(3)で表される安定ニトロキシルラジカルとしては、例えば、3−ヒドロキシ−2,2,5,5−テトラメチルピロリン−1−オキシル、3−スルファニル−2,2,5,5−テトラメチルピロリン−1−オキシル、3−アミノ−2,2,5,5−テトラメチルピロリン−1−オキシル、3−カルボキシ−2,2,5,5−テトラメチルピロリン−1−オキシル、3−カルバモイル−2,2,5,5−テトラメチルピロリン−1−オキシル、3−(2,3−エポキシプロポキシ)−2,2,5,5−テトラメチルピロリン−1−オキシルなどが挙げられる。
【0045】
安定ニトロキシルラジカルの含有率としては、ラジカル重合性モノマーに対するモル比が0.03〜0.25の範囲であることが好ましく、0.04〜0.23の範囲であることがより好ましく、0.05〜0.2の範囲であることが更に好ましい。安定ニトロキシルラジカルの含有率が高過ぎると、記録目的の露光時にラジカル重合反応が十分に進行せず、回折格子の形成に必要な屈折率変調度が得られないため、記録感度が低下する。一方、安定ニトロキシルラジカルの含有率が低過ぎると、本発明の作用効果が得られないことがある。
【0046】
(ラジカル重合反応性基を有する化合物)
本発明の感光性材料におけるポリマーマトリックスは、所定の化学式で表されるラジカル重合反応性基を有する化合物を構成単位として含むことができる。
【0047】
このようなラジカル重合反応性基は、例えば化学式(4)、(5)又は(6)に示すようなものとすることができる。
【化4】

(式中、Arは1以上の芳香環を有する2価の基を表し、R、Rはそれぞれ独立して水素原子又はメチル基を表し、Lは酸素原子、硫黄原子又は−(ORO−(Rは炭素数1〜4のアルキレン基を表し、nは1〜4の整数)を表し、Lは芳香環を有してもよい2価の基を表す。)
【化5】

(式中、Rはそれぞれ独立して水素原子又はメチル基を表し、Rはそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。Lは酸素原子、硫黄原子又は−(ORO−(Rは炭素数 〜 のアルキレン基を表し、nは1〜4の整数)を表し、Lは芳香環を有してもよい2価の基を表す。Lは単結合、酸素原子、硫黄原子、スルホニル基、炭素数1〜4のアルキレン基又は9,9−フルオレニレン基を表す。)
【化6】

(式中、Rはそれぞれ独立して水素原子又はメチル基を表し、Rはそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。Lは酸素原子、硫黄原子又は−(ORO−(Rは炭素数1〜4のアルキレン基を表し、nは1〜4の整数)を表す。Lは単結合又はメチレン基を表す。)
【0048】
この場合、ポリマーマトリックス中に芳香環が存在するようになるので、感光性材料中に芳香環を有する高屈折率のラジカル重合性モノマーを有する場合でも相溶性が高く濁りを生じにくいため、比較的多くのラジカル重合性モノマーを含有させることができる。その結果、ポリマーマトリックスとラジカル重合性モノマーやその重合体との屈折率差を大きくすることができ、感光性材料の屈折率変調度を高めることができる。
【0049】
また、感光性材料の感光時に、ラジカル重合性モノマーの少なくとも一部がポリマーマトリックスに存在するラジカル重合反応性基と反応して共重合することができるため、相溶性が高まり透明性が向上するとともに、形成された屈折率変調構造が安定化される。
【0050】
したがって、感光性材料をホログラフィック記録媒体の情報記録層として用いた場合に、屈折率変調構造によって複数の回折格子を高いコントラストで形成することができ、複数の回折格子に応じた複数のページ情報を高いSNRで記録し、再生することができる。
【0051】
化学式(4)、(5)又は(6)で表されるラジカル重合反応性基を有する化合物は、ポリマーマトリックスに対して0.5〜20質量%が好ましく、1〜10質量%がより好ましく、1.5〜6質量%が更に好ましい。化学式(4)、(5)又は(6)で表されるラジカル重合反応性基の含有率が高過ぎると、感光性材料の粘度が高くなって感光性材料の製造が煩雑になったり、安定ニトロキシルラジカルを含有させたことによる本発明の作用効果が損なわれたりすることがある。一方、化学式(4)、(5)又は(6)で表されるラジカル重合反応性基を有する化合物を含有しないか又は含有率が低過ぎると、ポリマーマトリックスとラジカル重合性モノマーやその重合体との相溶性が低下し、感光性材料に濁りを生じる場合がある。
【0052】
化学式(4)又は(5)で表されるラジカル重合反応性基を有する化合物としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂の(メタ)アクリル酸付加物、同3−ブテン酸付加物、同ビニル安息香酸付加物、同ビニルフェノール付加物、同ビニルチオフェノール付加物、同ビニルアニリン付加物、ビスフェノールF型エポキシ樹脂の(メタ)アクリル酸付加物、同3−ブテン酸付加物、同ビニル安息香酸付加物、同ビニルフェノール付加物、同ビニルチオフェノール付加物、同ビニルアニリン付加物、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンジグリシジルエーテルの(メタ)アクリル酸付加物、同3−ブテン酸付加物、同ビニル安息香酸付加物、同ビニルフェノール付加物、同ビニルチオフェノール付加物、同ビニルアニリン付加物、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレンジグリシジルエーテルの(メタ)アクリル酸付加物、同3−ブテン酸付加物、同ビニル安息香酸付加物、同ビニルフェノール付加物、同ビニルチオフェノール付加物、同ビニルアニリン付加物、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンジグリシジルエーテルの(メタ)アクリル酸付加物、同3−ブテン酸付加物、同ビニル安息香酸付加物、同ビニルフェノール付加物、同ビニルチオフェノール付加物、同ビニルアニリン付加物、などが挙げられる。
【0053】
化学式(6)で表されるラジカル重合反応性基を有する化合物としては、化学式(4)又は(5)で表されるラジカル重合反応性基を有する化合物のうち、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンジグリシジルエーテルの(メタ)アクリル酸付加物、同3−ブテン酸付加物、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレンジグリシジルエーテルの(メタ)アクリル酸付加物、同3−ブテン酸付加物、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンジグリシジルエーテルの(メタ)アクリル酸付加物、同3−ブテン酸付加物などが挙げられる。
【0054】
9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンジグリシジルエーテルのアクリル酸付加物の主成分は、化学式(6)中のRが水素原子、Rが水素原子、Lが酸素原子、Lが単結合で表される化合物である。
【0055】
9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンジグリシジルエーテルのメタクリル酸付加物の主成分は、化学式(6)中のRがメチル基、Rが水素原子、Lが酸素原子、Lが単結合で表される化合物である。
【0056】
9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンジグリシジルエーテルの3−ブテン酸付加物の主成分は、化学式(6)中のRが水素原子、Rが水素原子、Lが酸素原子、Lがメチレン基で表される化合物である。
【0057】
(その他)
本発明の感光性材料及び感光性材料前駆体は、可塑剤、相溶化剤、連鎖移動剤、重合促進剤、重合抑制剤、界面活性剤、シランカップリング剤、消泡剤、剥離剤、安定化剤、酸化防止剤、難燃剤などの添加剤を必要に応じて更に含んでもよい。
【0058】
(感光性材料の製造)
本発明の感光性材料の製造方法について説明する。最初に、ポリマーマトリックス形成成分、例えば、イソシアネート−ヒドロキシ重付加物を構成するポリイソシアネート成分及びポリオール成分、ラジカル重合性モノマー、光ラジカル重合開始剤、及び安定ニトロキシルラジカル、さらには必要に応じて、化学式(4)等のラジカル重合反応性基を有する化合物を配合する。次いで、ポリマーマトリックス形成成分に対し、ラジカル重合反応以外の反応による重合を生ぜしめてポリマーマトリックスを形成する。この場合、ポリマーマトリックスは、ポリマーマトリックス形成成分が、ラジカル重合性モノマー及び光ラジカル重合開始剤の共存下で重合することによって形成される。
【0059】
これによって、安定ニトロキシルラジカルを側鎖に含むポリマーマトリックス中にラジカル重合性モノマー及び光ラジカル重合開始剤を含んでなる感光性材料を得ることができる。
【0060】
一方、ラジカル重合性モノマーや前記光ラジカル重合開始剤が反応して減少してしまうと、感光性材料としての性能が低下するので、これらを減少させることなくポリマーマトリックスを形成させることが好ましい。したがって、ラジカル重合とは別の反応形態での重合が優先的に生じるように、反応触媒などを配合したり、反応温度を調整したりすることがよい。
【0061】
上記反応触媒としては、例えば、イソシアネート−ヒドロキシル重付加反応の触媒として、ジメチルスズジラウレート、ジブチルスズジラウレートなどのスズ化合物、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン(DABCO)、イミダゾール誘導体、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、N,N−ジメチルベンジルアミンなどの三級アミン化合物などを用いることができる。これらの触媒は、単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0062】
(ホログラフィック記録媒体)
本発明のホログラフィック記録媒体は、上記の感光性材料からなる情報記録層を有する。
【0063】
本発明のホログラフィック記録媒体は、必要に応じて、上側基板、下側基板、反射膜等のその他の層を有することができる。
【0064】
本発明のホログラフィック記録媒体は、透過型及び反射型のいずれであってもよい。
【0065】
以下に、本発明のホログラフィック記録媒体に含まれ得る各基板、情報記録層の詳細な紹介をする。
【0066】
基板材料としては、通常、ガラス、セラミックス、樹脂、などが用いられるが、成形性、コストの点から、樹脂が好ましい。樹脂としては、例えば、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリシクロオレフィン樹脂、エポキシ樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体、ABS樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、ウレタン樹脂、などが挙げられる。これらの中でも、成形性、光学特性、コストの点から、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリシクロオレフィン樹脂が特に好ましい。また、基板表面をUV硬化樹脂等でハードコート処理したものや反射防止処理をしたものも適宜使用することができる。また記録再生方式に応じて、予め反射層が設けられた基板を用いることもできる。
【0067】
情報記録層は、上記感光性材料からなり、ホログラフィック記録を利用して情報が記録され得るものである。情報記録層の厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。情報記録層の厚みが1〜3000μmの範囲であれば、記録波長領域350nm〜800nmでの透過率が高く有利である。前記基板を用いない場合は、情報記録層表面にUV硬化樹脂等でハードコート処理したものや反射防止処理を施したものも適宜使用することができる。
【0068】
本発明の感光性材料およびこれを使用した記録媒体はホログラフィック記録再生に好ましく用いられるが、ホログラフィック記録方法に関してはどの様な記録方法であっても構わない。例えば、二光束干渉法に基づくホログラフィック記録再生方法や、同軸上に参照光と情報光を配置し集光させるコアキシャルホログラフィック記録再生方法が好ましく用いられる。これらの記録方法において、ホログラフィック記録媒体に対し、重畳する複数の屈折率変調回折格子を、それぞれ本質的に同一の露光エネルギーで形成させることが好ましい。また、記録媒体への処理方法として、少なくとも一の屈折率変調回折格子を、予備露光を行うことなく形成させる方法をとることが好ましい。
【0069】
また、重畳する複数の屈折率変調回折格子を、それぞれ本質的に同一の露光エネルギーで形成させる方法をとった場合、材料の特性としては、同一露光エネルギーで多重記録する場合の最大感度Smaxと最小感度Sminとの比Smin /Smaxが0.5以上であることが好ましく、0.7以上であることがより好ましい。
【実施例】
【0070】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0071】
(実施例1)
<感光性材料の調製>
ポリマーマトリックス形成成分として、ヘキサメチレンジイソシアネート(東京化成工業(株)製)33.8質量部、ポリエーテルトリオール((株)ADEKA製、G−400、平均分子量425、屈折率n=1.469)56.3質量部、及びポリマーマトリックス形成触媒としてジブチルスズジラウレート(東京化成工業(株)製)0.08質量部を配合し、さらに、安定ニトロキシルラジカルとして4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン1−オキシル(Sigma−Aldrich社製)0.2質量部(ラジカル重合性モノマーに対するモル比として0.056)、ラジカル重合反応性基を有する化合物として9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンジグリシジルエーテルの3−ブテン酸付加物(新日鐵化学(株)製、屈折率n=1.616)1.0質量部、ラジカル重合性モノマーとしてフェニル(4−ビニルフェニル)スルフィド(新日鐵化学(株)製、屈折率n=1.648)4.0質量部、光ラジカル重合開始剤としてビス(η−2,4−シクロペンタジエン−1−イル)−ビス(2,6−ジフルオロ−3−(1H−ピロール−1−イル)−フェニル)チタニウム(BASF社製、イルガキュア784)0.6質量部、及び可塑剤としてO−アセチルクエン酸トリブチル(東京化成工業(株)製、屈折率nD=1.441)4.0質量部を配合して、感光性材料を調製した。
【0072】
この感光性材料を、シリコンフィルムスペーサー(厚み0.2mm又は0.3mm)を介して貼り合わせた2枚のガラス基板(30mm×30mm)の空隙に導入した。窒素雰囲気下、60℃で2時間加熱処理を施した。2枚のガラス基板の間に感光性材料からなる情報記録層が厚さ0.2mm又は0.3mmで形成されたホログラフィック記録媒体を得た。
【0073】
(実施例2)
4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン1−オキシルを0.1質量部(ラジカル重合性モノマーに対するモル比として0.056)、フェニル(4−ビニルフェニル)スルフィドを2.0質量部、及びO−アセチルクエン酸トリブチルを6.0質量部とした以外は実施例1と同様にしてホログラフィック記録媒体を得た。
【0074】
(実施例3)
ポリエーテルトリオールの替わりにペンタエリスリトールプロポキシレート(Sigma−Aldrich社製、平均分子量629、屈折率n=1.460)を58.5質量部、ヘキサメチレンジイソシアネートを31.7質量部とした以外は実施例2と同様にしてホログラフィック記録媒体を得た。
【0075】
(実施例4)
4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン1−オキシルを0.2質量部(ラジカル重合性モノマーに対するモル比として0.112)とした以外は実施例3と同様にしてホログラフィック記録媒体を得た。
【0076】
(実施例5)
ヘキサメチレンジイソシアネートを32.7質量部、ペンタエリスリトールプロポキシレートを60.5質量部、O−アセチルクエン酸トリブチルを3.0質量部とした以外は実施例3と同様にしてホログラフィック記録媒体を得た。
【0077】
(比較例1)
4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン1−オキシルの替わりにN−tert−ブチル−α−フェニルニトロン(安定ニトロキシルラジカルとは異なる重合禁止剤の例)を用いた以外は実施例1と同様にしてホログラフィック記録媒体を得た。
【0078】
(比較例2)
4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン1−オキシルの替わりにN−tert−ブチル−α−フェニルニトロンを用いた以外は実施例2と同様にしてホログラフィック記録媒体を得た。
【0079】
実施例1〜5、比較例1、2の感光性材料前駆体の組成を表1に示す。
【0080】
【表1】

【0081】
(実施例6〜9、比較例3〜8)
表2に示す組成で感光性材料を調製した以外は実施例1と同様にしてホログラフィック記録媒体を得た。
【0082】
【表2】

【0083】
<ホログラフィック記録再生評価>
ホログラフィック記録再生評価は、二光束干渉法に基づくホログラフィック記録再生評価機を用いて行なった。多重記録は、角度多重とペリストロフィック多重を組み合わせて行った。
【0084】
(平面波記録再生方法)
M#及び記録感度の評価には、パルステック工業(株)製の平面波テスターSHOT−500Gを用いた。記録・再生には波長532nmの連続発振(CW)全固体レーザを用いた。
【0085】
〔平面波記録条件〕
記録前露光:無し
記録スケジューリング:無し
多重度:49多重
角度方向:7多重(−6〜+6°、ステップ 2°)
ぺリストロフィック:7多重(−60〜+60°、ステップ 20°)
記録総露光量:5000mJ/cm
記録後露光:LEDにて、10000mJ/cm
【0086】
またSNRの評価には、図1、図2に示す光学系を用いてページデータの記録再生を行なった。図1、図2は同一の光学系であり、図1は記録、図2は再生の説明のために示したものである。
【0087】
(ページデータ記録方法)
まず、ページデータ記録方法について、図1に示す光学系を用いて説明する。
【0088】
レーザ(波長532nmのYAGレーザ)11から発せられたレーザ光は、光路に沿って、順次1/2波長板(HWP)12パワーの調整を受けた後、偏光ビームスプリッタ(PBS)13で下方に向けて反射され、ビームエキスパンダ14でビーム径が拡大された後、シャッタ15を通過して絞り16に至ってビーム径が狭窄され、HWP17を通ってPBS18に至る。PBS18において、レーザ光は2つに分割され、分割された一方の光は空間光変調器(SLM)21で反射され、記録信号光Lsとしてレンズ19で集光された後、ホログラフィック記録媒体Sに照射される。
【0089】
HWP12は光学系全体のパワー調整を、HWP17は、信号光と参照光のパワー比率調整を行うためのものである。また、SLM21は、レーザ光を変調させて、明暗のドットパターンとし、記録信号光を生成する。例えば、図3に示すようなドットパターンの記録信号光を生成する。図3の左側は1ページ全体を示しており、50×50ドットの領域を7×7個並べた状態を示す図であり、122.5kビットを構成する。図3の右側は中央の50×50ドットの領域を拡大したものである。
【0090】
また、PBS18で分割された他方の光は、角度走査機構24に導入され、所定の角度走査を受けた後、記録参照光Lwとして入射角θでホログラフィック記録媒体Sに照射される。
【0091】
この際、SLM21に1ページ目の信号を表示させ、θとφを所定の値に設定して、所定の時間シャッタを開いて露光させ、ホログラフィック記録媒体に1ページ目を記録する。次に、θとφを次の所定の値に設定して、所定の時間シャッタを開いて露光させて2ページ目を記録する。以下、所定の多重度になるまで上記の操作を繰り返し、多重記録を行なった。
【0092】
〔ページデータ記録条件〕
記録前露光:無し
記録スケジューリング:無し
多重度:540多重、又は135多重
角度方向:15多重(θ=50〜64°、ステップ 1°)
ぺリストロフィック:36多重(φ=0〜350°、ステップ 10°)、又は
9多重(φ=0〜320°、ステップ 40°)
記録総露光量:1500〜2700mJ/cm
記録後露光:LED にて、54000mJ/cm 以上
【0093】
記録後露光は、ホログラフィック記録媒体の残存モノマーを全て重合させて安定化させる目的で行なわれる。
【0094】
(ページデータ再生方法)
次に、ページデータ再生方法について、図2に示す光学系を用いて説明する。
【0095】
ホログラフィック記録媒体Sの後方(裏面側)に、結像光学系22とCMOSやCCDのようなイメージャ23とを配置している。結像光学系22は複数のレンズで構成され、記録されたドットパターンがイメージャ23上に結像するように配置される。
【0096】
再生においては、レーザ11から発せられたレーザ光が、シャッタ15が開の状態で、HWP12、PBS13、ビームエキスパンダ14を経由して角度走査機構24に至り、再生参照光Lrとしてホログラフィック記録媒体S上に照射される。このとき、所定の(再生したい)ページに対応するθとφに設定して再生参照光Lrを媒体に照射し、記録されたホログラムによって回折光を再生信号光として取り出し、結像光学系22を経由してイメージャ23で再生画像を得、輝度に基づいて2/4復調して再生信号を得る。SNRは、T. Ando, et al: Jpn. J. Appl. Phys. 46, 6B (2007) 3855.に示されるSNRと同じ方法で求めた。
【0097】
<評価結果>
〔平面波記録特性〕
図4は、記録露光エネルギーに対するM#の積算値である。実施例1〜5による媒体はいずれも比較例1、2による媒体に比べてM#が高く、多重記録性に優れたものであることが分かる。
【0098】
図5は、記録露光エネルギーに対する感度を示したものである。実施例1〜5による媒体はいずれも比較例1、2による媒体に比べて感度が高く、高いデータ転送レートが実現可能である。また、比較例1、2では感度の変化が大きいのに対し、実施例では、特に記録露光エネルギーが3500mJ/cm以下の領域では、感度の均一性が高く、スケジューリングが不要である。さらに、実施例1〜5による媒体はいずれも比較例1、2による媒体に比べて多重記録の1回目から十分に感度が高く、記録前露光が不要であることが分かる。
【0099】
全ての実施例及び比較例による媒体の35多重目まで(記録露光エネルギー=3571.4mJ/cm)のM#、35多重目までの平均感度、35多重目までの感度の均一性(Smin/Smax)を数値で比較した結果を表3、4に示す。
【0100】
【表3】

【0101】
【表4】

【0102】
ラジカル重合性モノマーは、ホログラフィック記録が行なわれる際の屈折率変調構造を形成する担い手であるので、含有量を増加させればM#と感度は向上するが、反面重合収縮を起しやすくなるため、少ない含有量で大きなM#と感度が得られることが望ましい。
【0103】
表1、3より明らかに、同じモノマーの含有量同士で比較した場合、いずれも実施例による媒体の方が比較例による媒体に比べてM#、感度が高く好ましい。
【0104】
また、実施例1〜5による媒体におけるSmin/Smaxはいずれも0.7以上ありスケジューリングが本質的に不要であるのに対し、比較例1、2では0.5未満であるため、スケジューリングを必要とする。
【0105】
表2、4より明らかに、安定ニトロキシルラジカルであってもポリマーマトリックスに側鎖として結合可能な反応性基を有さないものを用いた場合(比較例3〜5)は積算M#、平均感度ともに大きく劣ることが分かる。
【0106】
また、表2、4より明らかに、安定ニトロキシルラジカルを含まない場合(比較例6)は積算M#、平均感度ともに低く、特に感度の均一性(Smin/Smax)が極端に低いことが分かる。
【0107】
さらに、表2、4より明らかに、安定ニトロキシルラジカルの含有率が低過ぎる場合(比較例7)は感度の均一性(最大感度Smaxと最小感度Sminとの比Smin/Smax)が低く、逆に安定ニトロキシルラジカルの含有率が高過ぎる場合(比較例8)は積算M#、平均感度ともに低いことが分かる。
【0108】
〔ページデータ記録特性〕
図6、図7は、540多重記録におけるページ毎のSNRを示したグラフであり、図6がラジカル重合性モノマーの含有量4.0質量部、図7が2.0質量部である。実施例の媒体においてはスケジューリングを実施せず、比較例による媒体においてはスケジューリングを実施して記録したものである。いずれも実施例による媒体の方が比較例による媒体に比べてSNRが高く良好である。また、実施例による媒体においては、感度の均一性が高いために、スケジューリングを実施しなくても全てのページにわたってSNRが高いのに対し、比較例による媒体においては、後半のページにおいて感度が低下するため、スケジューリングを実施したにもかかわらず、後半のページにおいてSNRが低下する。
【0109】
図8は、上記540多重記録を行なった際のスケジューリング、つまり、ページ毎の記録露光エネルギーを示したグラフである。実施例の媒体においては、感度が高くかつ均一性が高いために、少ない一定の記録露光エネルギーで記録しても高いSNRが得られ、高いデータ転送レートが実現可能である。一方、比較例の媒体におけては、スケジューリングを要するため、記録露光エネルギーが多重記録が進むにしたがって増大していることが分かる。
【0110】
図9は、実施例3、4、5及び比較例2による媒体における135多重記録でのページ毎のSNRを示したグラフである。いずれの媒体においても、スケジューリングを実施せずに記録したものである。記録多重数が比較的少ない場合でも、実施例による媒体のSNRの方が比較例のSNRより高い。
【0111】
以上、540多重、135多重記録における各媒体の平均SNRと記録の際の総露光エネルギーとスケジューリング有/無をそれぞれ、表5、表6に示す。
【0112】
【表5】

【0113】
【表6】

【0114】
以上、本発明を上記具体例に基づいて詳細に説明したが、本発明は上記具体例に限定されるものではなく、本発明の範疇を逸脱しない限りにおいてあらゆる変形や変更が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーマトリックス、ラジカル重合性モノマー及び光ラジカル重合開始剤を含む感光性材料であって、前記ポリマーマトリックスが側鎖に安定ニトロキシルラジカルを有し、前記安定ニトロキシルラジカルの前記ラジカル重合性モノマーに対するモル比が0.03〜0.25の範囲であることを特徴とする、感光性材料。
【請求項2】
前記安定ニトロキシルラジカルが、化学式(1)、(2)又は(3)で表されるものであることを特徴とする、請求項1に記載の感光性材料。
【化1】

【化2】

【化3】

(式中、Zはヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基、カルバモイル基又はグリシジル基を表す。)。
【請求項3】
ポリマーマトリックスが、ラジカル重合反応性基を有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の感光性材料。
【請求項4】
前記ラジカル重合反応性基は、化学式(4)で表される化合物に由来する反応性基であることを特徴とする、請求項3に記載の感光性材料
【化4】

(式中、Arは1以上の芳香環を有する2価の基を表し、R、Rはそれぞれ独立して水素原子又はメチル基を表し、Lは酸素原子、硫黄原子又は−(ORO−(Rは炭素数1〜4のアルキレン基を表し、nは1〜4の整数)を表し、Lは芳香環を有してもよい2価の基を表す。)
【請求項5】
前記ラジカル重合反応性基は、化学式(5)で表される化合物に由来する反応性基であることを特徴とする、請求項3に記載の感光性材料
【化5】

(式中、Rはそれぞれ独立して水素原子又はメチル基を表し、Rはそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。Lは酸素原子、硫黄原子又は−(ORO−(Rは炭素数 〜 のアルキレン基を表し、nは1〜4の整数)を表し、Lは芳香環を有してもよい2価の基を表す。Lは単結合、酸素原子、硫黄原子、スルホニル基、炭素数1〜4のアルキレン基又は9,9−フルオレニレン基を表す。)
【請求項6】
前記ラジカル重合反応性基は、化学式(6)で表される化合物に由来する反応性基であることを特徴とする、請求項3に記載の感光性材料。
【化6】

(式中、Rはそれぞれ独立して水素原子又はメチル基を表し、Rはそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。Lは酸素原子、硫黄原子又は−(ORO−(Rは炭素数1〜4のアルキレン基を表し、nは1〜4の整数)を表す。Lは単結合又はメチレン基を表す。)
【請求項7】
少なくとも一つの透明基板と、
前記透明基板上に形成された、請求項1〜6のいずれか一に記載の感光性材料からなる情報記録層と、
を具えることを特徴とする、ホログラフィック記録媒体。
【請求項8】
請求項7に記載のホログラフィック記録媒体に対し、重畳する複数の屈折率変調回折格子を、それぞれ本質的に同一の露光エネルギーで形成させることを特徴とする、ホログラフィック記録方法。
【請求項9】
請求項7に記載のホログラフィック記録媒体に対し、少なくとも一の屈折率変調回折格子を、予備露光を行うことなく形成させることを特徴とする、ホログラフィック記録方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−103984(P2013−103984A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−248249(P2011−248249)
【出願日】平成23年11月14日(2011.11.14)
【出願人】(000006644)新日鉄住金化学株式会社 (747)
【Fターム(参考)】