説明

感染抑制剤およびそれを含有する飲食品

【課題】感染抑制作用を有する新たな食品素材及びこの食品素材を用いた飲料品を提供する。
【解決手段】ユキノシタ科スグリ属に属する植物であるカシスの果実に含まれる成分を有効成分とする感染抑制剤。カシスの果実に含まれる成分を含有し、感染抑制作用を有するものであって、感染抑制作用を有する旨の表示を付した飲食品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカシス果汁由来の成分、例えばカシス果汁の有機溶媒沈殿画分等を有効成分とする感染抑制剤および飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
病原微生物の侵入に対する感染防御機構は、感染後数時間以内に働く予め備わった自然免疫、感染数時間後に誘導される早期誘導免疫と感染数日後から働く適応免疫に分類される。自然免疫を担う細胞性因子として、上皮系細胞やマクロファージなどがあげられる。上皮細胞は、微生物の侵入を防ぐ機械的バリアーとしてのみならず、サイトカインの産生によって、早期誘導免疫を誘導する。マクロファージは Toll-like receptor (TLR) をはじめ多数の表面レセプターによって、微生物を認識し、迅速に貪食、排除を行うとともに炎症性サイトカインを産生する。早期誘導免疫には、ナチュラルキラー(NK)細胞、γδ型T細胞レセプター(TCR)T細胞、NK陽性T(NKT)細胞、上皮間Tリンパ球、CD5陽性B1細胞などが関与する。それら自身は持続する免疫にはつながらず、自然免疫と適応免疫との橋渡し的役割を担うと考えられている。適応免疫は抗原特異的Tリンパ球とBリンパ球によって誘導されるが、クローン増殖によってエフェクター細胞に分化する必要があるために機能するまでに数日かかる。メモリーT、B細胞への変化によって持続性の感染防御機構を担うことができる点が特徴である。適応免疫の中心的役割を担うヘルパーTリンパ球(Th細胞)はそのサイトカイン産生プロファイルによってIFN-γ産生Th1、IL-4産生Th2、TGF-β産生Th3細胞さらにIL-10産生Tr1細胞に細分類される。Th0細胞がどのタイプのTh細胞に分化するかは、抗原エピトープの種類、量、MHCハプロタイプ、抗原提示細胞のアクセサリー分子さらに周囲に存在するサイトカインの種類によって決定される。早期誘導免疫で産生されるサイトカインは初期の感染防御を行うのみならず、適応免疫のタイプを決定する重要な役割を担っている。
【0003】
最近の食と健康志向の高まりの中、免疫を調節する素材としてビタミン、乳酸菌等の有用菌やキノコ類由来の多糖類等が提案されている(非特許文献1〜5参照)。乳酸菌においては、乳酸菌またはその処理物を有効成分とする、薬剤によって低下した液性免疫機能を回復する作用を有する液性免疫回復剤が開示されている(特許文献1)。
【0004】
【特許文献1】特開平10−29946号公報
【非特許文献1】“Medical mushrooms as a source of antitumor and immunomodulating polysaccharides”Appl Microbiol Biotechnol 60, p.258-274(2002)
【非特許文献2】“酵母由来のβ-グルカン”FOOD Style 21 3(12), p.38-41(1999)
【非特許文献3】“Lactobacillus casei シロタ株による免疫調節作用と発がん予防効果”FOOD Style 21 6(9), p.54-57(2002)
【非特許文献4】“Immunopharmacological activity of Echinacea preparations following simulated digestion on murine macrophages and human peripheral blood mononuclear cells”J. Leukocyte Biology 68(10), p.503-510(2000)
【非特許文献5】“Antitumor Activity and Immune Response of Mekabu Fucoidan Extracted from Sporophyll of Undaria pinnatifida”in vivo 17, p.245-250(2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、病原菌等の感染抑制効果に優れ、機能が明確であり、かつ安全性が高く、人体に適用可能な感染抑制作用を有する新たな食品素材およびこの食品素材を用いた飲食品を提供することを目的とする。
【0006】
本発明者らが検討したところ、これまでの特定保健用食品に利用されている食物繊維のなかには、果実由来の食物繊維が含まれていないことが分かった。その上で、果実由来の食物繊維であれば、イメージはより明るく手軽で、しかも香味はより美味しいものであり、新たな飲食品用の素材として期待できると考えられた。そこで、本発明者らは果実の中から感染抑制作用を有する成分を含む果実を探索した。
【0007】
その結果、本発明者らは、ユキノシタ科スグリ属に属するカシス(英名ブラックカラント)の含有する成分が優れた感染抑制作用を有することを見出し、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の通りである。
(1) カシス果汁に含まれる成分を有効成分とする感染抑制剤。
(2) カシス果汁に含まれる成分がカシス果汁の有機溶媒沈殿画分である請求項1記載の感染抑制剤。
(3) 有機溶媒沈殿画分がエタノール沈殿画分である請求項2記載の感染抑制剤。
(4) エタノール沈殿画分がエタノール濃度70%(v/v)以上の沈殿画分である請求項3記載の感染抑制剤。
(5) カシス果汁に含まれる成分が、カシス果汁をイオン交換樹脂カラムおよび逆相カラムに通液し、次いで透析または限外ろ過により得られた請求項1記載の感染抑制剤。
(6) カシス果汁に含まれる成分を含有し、感染抑制作用を有するものであって、感染抑制作用を有する旨の表示を付した飲食品。
【発明の効果】
【0009】
本発明の感染抑制剤は、食品由来であることで安全性が高く、この感染抑制剤を摂取することにより、細胞性免疫を中心とした生体防御機構の活性化が促進され、病原菌等の感染予防効果が期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
[感染抑制剤]
本発明の感染抑制剤は、カシス果実に含まれる成分を有効成分とする。カシスは、ユキノシタ科スグリ属に属し、英名ブラックカラントとも呼ばれる。欧州からアジアの寒冷地に生息し、広く栽培されている。カシスの果実は、独特の良い香りがあり、直径1cm弱の濃い紫色の実である。さらに、カシスは日常的に食用に供されている果実であり、そのためその安全性も経験上確かめられている。
【0011】
「カシス果実に含まれる成分」は、例えば、カシス果汁の有機溶媒沈殿画分であることができる。カシス果汁は、カシスピューレ(カシス果実の圧搾物)を遠心し、固形物を分離することで得ることができる。上記有機溶媒は、例えば、水と相溶性を有する有機溶媒であることが、カシス果汁に含まれる有効成分をより確実に沈殿させることができるという観点から好ましい。水と相溶性を有する有機溶媒としては、例えば、アルコール、アセトン、アセトニトリル等を挙げることができる。アルコールとしては、例えば、エタノールを挙げることができる。即ち、本発明において、好ましい有機溶媒沈殿画分はエタノール沈殿画分である。さらに、沈殿画分を得るために用いるエタノールは、終濃度で70%(v/v)以上であることが好ましい。その範囲の濃度であることで、カシス果汁由来の有効成分を十分に沈殿させることができ、回収することが可能であるという利点がある。
【0012】
さらに、有効成分の純度を上げるためには、カシス果汁を予め、以下のように処理すればよい。すなわち、カシス果汁を、例えばアンバーライトIR 120B H AG(オルガノ社製)、CMセファロース FF(ファルマシア社製)、AG 50W-X2(バイオラッド社製)等の陽イオン交換カラム、およびアンバーライトIRA 410 OH AG(オルガノ社製)、DEAEセファロース FF(ファルマシア社製)、AG 1-X2(バイオラッド社製)等の陰イオン交換カラムに順次通液することで各種のイオン性物質を除去する。なお、陽イオン交換処理と陰イオン交換処理はどちらを先に行っても良く、樹脂は混床で使用しても良い。次いで、SEP-PAK(C18)(ウオータース社製)等の逆相カラムに通液してポリフェノール類等の非イオン性不純物を除去する。これに少量の塩化ナトリウムや塩化カリウム等の塩溶液を加えることにより極性を上げた状態で、例えば、終濃度が70%(v/v)となるようエタノールを添加し、生じた沈殿物を適切な遠心分離によって回収することで、より有効成分の純度が高い感染抑制剤を得ることができる。遠心分離の条件は、固形物の分離の程度等を考慮して適宜決定できる。例えば、3000〜10,000 x g、1〜20分間の範囲とすることができる。
その他、カシス果汁からエタノール等の有機溶媒で沈殿させる方法以外にも、前述のイオン交換処理によりポリフェノール等の除去後に、得られる処理液を透析や限外濾過し、分子量約10000以下の低分子を除去することでも目的とする感染抑制剤を得ることができる。
【0013】
本発明の感染抑制作用を有する組成物は、上記沈殿画分またはその乾燥物を、感染抑制作用を有する有効成分として含有する。さらに、本発明の感染抑制作用を有する組成物は、この有効成分以外に、ブドウ糖、果糖、ショ糖、マルトース、ソルビトール、乳糖、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、カゼイン、ゼラチン、ペクチン、寒天、アミノ酸類、色素、香料、保存料等を含有することもできる。本発明の感染抑制作用を有する組成物が有効成分以外の成分を含む場合、有効成分の含有量は、例えば、0.001〜100 mg/g の範囲とすることが適当である。
【0014】
[飲食品]
本発明は、カシス果実に含まれる成分を含有し、感染抑制作用を有するものであって、感染抑制作用のために用いられるものである旨の表示を付した飲食品を包含する。カシス果汁に含まれる成分は、上記本発明の感染抑制剤において説明したものと同様のものであることができる。また、感染抑制作用も上記感染抑制剤において説明したものと同様である。
【0015】
本発明の上記飲食品は、「感染抑制作用を有する旨の表示」を付した飲食品である。ここで、「表示」とは、例えば、飲食品の容器や取扱い説明書における表示のみならず、紙媒体上及びウエブ上に掲載された飲食品についての広告文や音声による広告等も包含する。
【0016】
また、「表示を付した飲食品」とは、飲食品の容器や取扱い説明書に表示を付した飲食品のみならず、容器や取扱い説明書に表示を付していなくても、この飲食品の紙媒体上及びウエブ上に掲載されたこの飲食品についての広告文や音声による広告等により、同様の表示をしている場合も含む。表示には、「感染抑制効果に優れている」、「感染予防作用がある」、等の直接的な表示だけでなく、「病原菌退治に役立つ」や「悪い菌から体を守る」等の間接的な表示も包含する。
【0017】
本発明の飲食品は、上記の感染抑制作用を有する成分を常法に従って飲食品に配合したものであり、それを摂取する対象は、ヒトに限定するものでなく、イヌ、ネコをはじめとするペットやあらゆる動物にも適応される。即ち、本発明において、飲食品には動物用の飼料も包含する。
【0018】
本発明の飲食品としては、感染抑制効果の強化を目的としてカシス果汁から調製された上記感染抑制剤を混合したものを挙げることができる。食品の形態としては、固形食品、クリーム状などの半流動食品、ゲル状食品、飲料等のあらゆる形態が可能である。または、粉状、顆粒状、カプセル状、タブレット状、液状等の形態でも良い。
【0019】
カシス果実に含まれる有効成分とともに飲食品に配合される各種成分は、特に制限はなく、通常使用される各種成分がいずれも使用可能である。このような成分としては、例えば、ブドウ糖、果糖、ショ糖、マルトース、ソルビトール、乳糖、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、カゼイン、ゼラチン、ペクチン、寒天、アミノ酸類、色素、香料、保存料等が挙げられる。
【0020】
本発明にかかる飲食品の具体例としては、清涼飲料、ジュース、ジャム、菓子類、乳製品等が挙げられる。カシス果汁に含まれる有効成分の、これらの飲食品中の含有量は、0.001〜100mg/gの範囲が適当であるが、この範囲よりも多量に配合しても問題ない。
【実施例】
【0021】
次に実施例を記載して本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
カシス果汁由来の感染抑制剤の製造を以下に記した。
カシス・ピューレを遠心(9000×g,10min)し、固形分を分離することで、カシス果汁を得た。次いで、得られたカシス果汁を陽イオン交換樹脂(アンバーライト IR 120B H AG[オルガノ社製])と陰イオン交換樹脂(IRA 410 OH AG[オルガノ社製])を等量ずつ詰めた(混床)カラムに通液し、非吸着画分を回収画分とした。さらに、得られた画分をSep-Pak C18 Vac(ミリポア社製)に通液することでポリフェノール化合物類を固相樹脂に吸着させ、非吸着画分を回収した。本画分を脱イオン水に対して透析後、凍結乾燥することによりによりカシス成分の乾燥物を得た。本凍結乾燥物をPBS(リン酸緩衝生理食塩水(pH7.4)、ディフコ社製)で懸濁しカシス果汁由来の感染抑制剤とした。なお、本感染抑制剤の濃度は14.7mg/mlであった。
【0022】
7 週齢のwistar ラット(SPF、♂、日本エスエルシー株式会社より購入)を7 日間の予備飼育を行った後、試験群(各7匹)とコントロール群(7匹)に分けて実験に供した。ラットは予備飼育期間および実験期間を通して室温22℃、相対湿度55% の感染動物飼育室(照明時間8時〜20 時)で飼育した。なお、ラットのサルモネラ菌感染時の週齢は、9 週齢とした。 ラットは1 匹/ ゲージとし、滅菌蒸留水を給水瓶にて、またラット用放射線滅菌固形試料(CE-2、日本クレア)を給餌器にて、それぞれ自由に与えた。これらの飼育器具は全て滅菌したものを使用した。
【0023】
試験群には、カシス果汁由来の感染抑制剤を経口投与した。カシス果汁由来の感染抑制剤(14.7 mg/mL, 以降、「CAPS」と記載する)を感染前11日間(1日1回)および感染後2時間の合計12回、ラット用経口ゾンデを用いて強制経口投与した。投与容量はラットの体重 200 g 当り 1.5 ml とし、コントロール群にはPBSを投与した。
その後、感染菌株として臨床分離株 Salmonella Enteritidis S381(以降、「Salmonella」と記載する)を 1×109 CFU / ラットとなるように経口投与した。
【0024】
被験物質投与 10 日目にSalmonella を接種し、この日を 0 日として剖検までの 2〜5 日間、1日1回の観察を行ったが、いずれの群においても死亡例は認められなかった。また、各群における被験物質投与期間中の体重増加およびSalmonella 接種後の体重増加に統計学的有意差は認められなかった。
【0025】
一般にウイルス、リステリア菌、抗酸菌、サルモネラ菌などの細胞内寄生菌による感染症では、その感染防御にCTL や武装化マクロファージが関与している。そのため、CTL 増殖、マクロファージ武装化を司るIL-2 やIFN-γを産生するTh1 細胞が重要な働きを持つ。一方、細胞外で増殖する微生物(大腸菌、黄色ブドウ球菌、真菌、寄生虫等)に対する感染防御は抗体がメインであり、抗体を産生するB 細胞の増殖、免疫グロブリンのクラススイッチに関与するIL-4, 5, 6 を産生するTh2 細胞が中心的役割を担う。Th1/Th2 細胞はそれぞれが産生するサイトカインによって互いの分化を抑制し、いずれかの免疫反応が過剰とならないようバランスが取られている。つまり、Salmonella 感染症ではTh1 有意の免疫状態へとシフトする必要があるが、Th1 反応の持続あるいは過剰は自己免疫性疾患の要因とも考えられていることから、必要十分なTh1 反応を誘導し、かつ治癒と同時に速やかに健常状態のTh1/Th2 バランスに復帰することが求められる。
【0026】
そこで、脾臓より全細胞を回収して、抗ラット CD4 抗体、抗ラット IFN-γ抗体、抗ラット IL-4抗体を用いた三重染色により、CD4+、IFN-γ+は Th1 細胞、CD4+、IL-4+はTh2 細胞そしてCD4+、IFN-γ+、IL-4+はTh0 細胞と識別し、フローサイトメトリーにより細胞数の測定を行った。
【0027】
その結果を表 1に示す。 Th0 細胞について、感染コントロール群に対してCAPS 投与感染5 日群ではTh0 細胞の減少が見られた。これはTh1 細胞の補給に対してTh0 細胞の産生が不足しているためにプールされているTh0 細胞が減少したものと思われる。しかし、Th2, total Th の変動を加味すると、全Th 細胞に占めるTh1 細胞の割合は変化する。
【0028】
【表1】

【0029】
全Th 細胞に対するTh1 細胞の割合を感染コントロール群と比較すると、 CAPS 投与感染2 日群ではその割合は増加していた。この群では、余剰のTh2 細胞を除去したことによりTh1 細胞の割合を増加させて、Th1 優位状態を作り出しSalmonella 感染に抵抗していたと考えられた。
【0030】
一方、CAPS 投与感染5 日群ではTh0 細胞の減少、Th1 細胞の減少傾向にあり、相対的な Th2 細胞の割合は増加しており、Th2 優位状態にある可能性が考えられた。
【0031】
次に、各実験群より心採血した血液における血中の好中球(桿状核、分葉核)、リンパ球、単球、好酸球、好塩基球の細胞数測定を行った。
【0032】
その結果を表2に示す。CAPS投与感染2日群では、総白血球、好中球、単球は低値を示し、Salmonella 菌の旺盛な貪食、細胞質への取り込みと殺菌作用により、細胞数が減少した可能性が考えられた。このとき、リンパ球も増加傾向にあることより、抗体を利用した免疫反応の誘導時期とも考えられた。さらに、CAPS投与感染5日群では好中球数、単球数は各群の中で最も高値を示した。特に、未熟な好中球である桿状核好中球が増加しており、好中球の新生を促進しており自然免疫ステージの増強が生じているものと推測された。さらに、リンパ球も増加傾向にあるとともに Th2 細胞の割合も増加していることより、B細胞を介した抗体産生による体液性免疫によるすばやく、強い免疫応答が生じている可能性が示唆された。
【0033】
【表2】

【0034】
腸管内から上皮細胞を経て体内に侵入したSalmonella 菌は、様々な遊走因子により感染局所に即座に遊走してくる好中球、マクロファージによって貪食される。貪食を逃れた菌は、粘膜固有層に散在するリンパ小節、あるいはリンパ管を経由して近傍のリンパ節である腸間膜リンパ節(MLN)に到達し、ここでもマクロファージや樹状細胞により貪食され、抗原として提示される。その後リンパ行性あるいはリンパ管を逆行し、脾臓、肝臓といった臓器に侵入するものと考えられる。
【0035】
最後に、肝臓、脾臓及び腸間膜リンパ節(MLN) を採取し、生体内に侵襲したSalmonella の菌数を HIT 寒天平板培地を用いて定法に従って調べた。各臓器からの検出菌数を示した結果を図1に示す。
【0036】
各実験群においてもMLN で最多菌数を示し、次いで肝臓、脾臓の順に検出菌数が減少することもこの予測を裏付けている。マクロファージや樹状細胞は抗原提示を行い、IL-15 等のサイトカインを介してリンパ球系の細胞(early induced reaction)を活性化する。その後はearly induced reaction〜adaptation immunity のサイトカインネットワークを介して抗原特異的免疫に移行するものと考えられる。
【0037】
MLN において、CAPS投与感染2 日群では対照の感染コントロール群より細胞数は減少していた。これは腸管上皮付近の感染局所における好中球の動員による防御効果と考えられた。よって被検物質による差異は自然免疫およびそれ以降の早期誘導反応、適応免疫の強度に現れ、結果として肝臓、脾臓の侵入菌数に影響を及ぼすものと予測される。
【0038】
肝臓、脾臓の菌数を最も抑制したのはCAPS投与感染5日群であったことより、CAPS投与群では、感染初期の自然免疫に続く早期誘導免疫から効果を発揮し、持続性の感染防御機構を担う適応免疫を速やかに機能させたことで、コントロール群よりも菌排除が早まったものと考えられた。
【0039】
以上説明したように、本発明によれば、カシス果汁に含まれる成分を有効成分として含有させることにより、優れた感染抑制効果を有する組成物を提供できる。また、本発明の感染抑制組成物を飲料品に添加することにより、病原菌等の感染を予防する飲料品を提供できる。
【0040】
本発明の感染抑制組成物の有効成分は、食品由来であるので安全性が高く、この感染抑制組成物を接種することにより、自然免疫に続く早期誘導免疫から適応免疫にかけて広範な生体防御機構の活性化が促進され、病原菌等の感染予防効果が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】各実験群における臓器中のSalmonella 菌数の測定結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カシス果汁に含まれる成分を有効成分とする感染抑制剤。
【請求項2】
カシス果汁に含まれる成分がカシス果汁の有機溶媒沈殿画分である請求項1記載の感染抑制剤。
【請求項3】
有機溶媒沈殿画分がエタノール沈殿画分である請求項2記載の感染抑制剤。
【請求項4】
エタノール沈殿画分がエタノール濃度70%(v/v)以上の沈殿画分である請求項3記載の感染抑制剤。
【請求項5】
カシス果汁に含まれる成分が、カシス果汁をイオン交換樹脂カラムおよび逆相カラムに通液し、次いで透析または限外ろ過により得られた請求項1記載の感染抑制剤。
【請求項6】
カシス果汁に含まれる成分を含有し、感染抑制作用を有するものであって、感染抑制作用を有する旨の表示を付した飲食品。

【図1】
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【公開番号】特開2006−213655(P2006−213655A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−28647(P2005−28647)
【出願日】平成17年2月4日(2005.2.4)
【出願人】(000001915)メルシャン株式会社 (48)
【Fターム(参考)】