説明

感温ワッシャ

【課題】 ネジやボルトなどの締結具が緩んだ場合に温度変化を生じるような機械部品を非接触にて温度計測するための技術を提供する。
【解決手段】 締結具の外形寸法よりも一回り大きい直径をなすリング状をなし、そのリングの最外周(樹脂リング11)を樹脂製として樹脂リング(11)を形成し、 その樹脂リング(11)には感温染料(12)を含有させた感温ワッシャとする。または、締結具の外形寸法よりも一回り大きい直径をなすリング状をなし、そのリング状の少なくとも一面に樹脂製の樹脂リング(11)を形成し、その樹脂リング(11)には感温染料(12)を含有させた感温ワッシャとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ネジやボルトが取り付けられた物体の温度や、ネジやボルトの緩みによる発熱を、非接触にて計測するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
非接触にて計測対象の温度を計測する技術としては、たとえば、特許文献1および特許文献2に開示された技術がある。
特許文献1に開示された技術は、サーモグラフィカメラにて取得した計測対象の映像を画像解析することによって温度を計測する技術である。 サーモグラフィカメラが計測対象から発せられる赤外線を画像データとすることによって実現できる。
【0003】
特許文献2に開示された技術では、『金属基材に断熱コーティングを施しその上に感温液晶を塗布した試験体を準備し、その表面を流れる流体温度をステップ状に変化させ、時間の経過と共に試験体表面に現れる等温度線を示す縞模様を撮像し、撮像した縞模様から試験体表面の温度分布を計測し、計測した時間と温度分布から試験体表面の熱伝達率の分布を求める』というものである。
【0004】
さて、ある装置に異常が発生してその一部が加熱する、といった事態が発生することは、様々な分野で起きている。 より具体的には、空気調和機などのネジ式電源端子台において、ネジ部の接続不良があると、そのネジ部が発熱し、場合によっては発火して火災の原因となることもある。
これを防ぐため、発熱を検知して通電を停止するといった保護装置を備えることも多い。保護装置としては、所定の温度にまで上昇すると溶融して断電する温度ヒューズが代表的である。
【0005】
しかし、温度ヒューズを採用すると、復帰させるのに温度ヒューズの交換作業が必要となる。そこで、その交換作業の発生を減らすため、特許文献3に開示されたような技術がある。
この文献には、『ネジ式電源端子台に密着させた感温式SWがある設定温度で働き、直ちにリレーの接点を開にさせ、前記ネジ部に流れる電流を遮断して前記ネジ部での発熱を止める。この発熱が治まり充分時間が経過した後、前記ネジ式電源端子台の温度も下がり、感温式SWが接片の復帰温度で復帰し、リレーの接点が閉になり運転待機状態に戻る。』といった技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2002−5227745号公報
【特許文献2】特開2004−85228号公報
【特許文献3】特開平5−91651号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
さて、特許文献1および特許文献2に開示されている技術は、温度を計測したい対象物に感温液晶を接触させるのが困難な場合、採用しがたい。
より具体的には、端子台に用いるネジは、緩んでしまうと発熱する場合があり、火災の原因ともなりかねない。 点検対象とすべきこうした端子台が点検者からは物理的にやや離れた場所にある場合、非接触にて点検できることが望ましい。
しかし、端子台やネジに対して、感温液晶を常時接触させた構造とすることは困難である。
【0008】
本発明が解決すべき課題は、ネジやボルトなどの締結具が緩んだ場合に温度変化を生じるような部品を非接触にて温度計測するための技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(第一の発明)
本願における第一の発明は、締結具に用いるワッシャであって、その締結具の外形寸法よりも一回り大きい直径をなすリング状をなし、そのリングの最外周(樹脂リング11)を樹脂製として樹脂リング(11)を形成し、 その樹脂リング(11)には感温染料(12)を含有させた感温ワッシャに係る。
【0010】
(用語説明)
「感温染料(12)」とは、温度によって色彩が変化する感温性材料を、樹脂になじむように加工した染料をいう。感温性材料としては、主に感温染料とマイクロカプセル化された感温液晶などが有る。感温塗料は、所定の温度で色の消失や発生などの劇的な色の変化が起こり、感温液晶は温度に応じたスムーズな色の変化が起きる。本願ではマイクロカプセルは力を加えると破裂するため、圧力による破損保護を行っている。
【0011】
(作用)
雄ネジやボルトなどの締結具を締める際に、第一の発明に係るワッシャを用いる。 このワッシャは、締結具の外形寸法よりも一回り大きい直径をなしているので、第一の発明に係るワッシャ締結後にも締結具越しに目視可能である。加えて、ワッシャ締結による力が直接感温液晶や感温塗料に加わらないことから、感温液晶や感温塗料の破損を防いでいる。
そして、そのリングの最外周となる樹脂リング(11)には、感温染料(12)が含有されているので、サーモグラフィカメラなど非常に高価で特殊なカメラを用いることなく、通常の安価なデジタルカメラにて取得した画像データでも十分に、その樹脂リング(11)の温度を把握することができる。
【0012】
(第二の発明)
本願における第二の発明は、締結具に用いるワッシャであって、その締結具の外形寸法よりも一回り大きい直径をなすリング状をなし、そのリング状の少なくとも一面に樹脂製の樹脂リング(11)を形成し、 その樹脂リング(11)には感温染料(12)を含有させた感温ワッシャに係る。
【0013】
(用語説明)
「少なくとも一面」としているのは、両面に樹脂リング(11)を形成してもよいし、一面でもよい。ただし、一面にのみ樹脂リング(11)を形成した場合には、ワッシャにおける樹脂リング(11)側が目視できるようにして用いる必要がある。
【0014】
(作用)
雄ネジやボルトなどの締結具を締める際に、第二の発明に係るワッシャを用い、そのワッシャにおける樹脂リング(11)側が目視できるように締結具を締める。樹脂リング(11)には、感温染料(12)が含有されているので、サーモグラフィカメラなど非常に高価で特殊なカメラを用いることなく、通常の安価なデジタルカメラにて取得した画像データによって、その樹脂リング(11)の温度を把握することができる。
【0015】
(第一および第二の発明のバリエーション1)
第一の発明または第二の発明のいずれか一方または双方において、樹脂リング(11)の外表面には透明な樹脂による透明保護層(17)を備えることとしても良い。
【0016】
(作用)
透明保護層(17)の存在により、樹脂リング(11)に塗布された感温液晶や感温塗料が外力により剥離することから保護される。
その一方、赤外線は透過しにくいのでサーモグラフィカメラでは影響が大きいが、可視光域においては光学的に透明なので可視光域に感度が合わせている通常のデジタルカメラにて取得する画像データには、ほとんど影響が出ない。
【0017】
(第一および第二の発明のバリエーション2)
第一の発明または第二の発明のいずれか一方または双方において、樹脂リング(11)の樹脂には絶縁体(13)を含有させることとしても良い。
ここで、「絶縁体(13)」とは、たとえば、ポリエチレンの微粒子である。
【0018】
(作用)
絶縁体(13)を含有させているので、感温塗料が非絶縁体であっても、絶縁性を補うことができる。
【発明の効果】
【0019】
第一の発明および第二の発明によれば、ネジやボルトなどの締結具が緩んだ場合に温度変化を生じるような部品を非接触にて温度計測することを可能にしたワッシャを提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】第一の実施形態を示す平面図、側断面図および部分拡大図である。
【図2】第一の実施形態に係るワッシャを用いてボルトを締結した状態を示す平面図および側断面図である。
【図3】第二の実施形態を示す平面図および側断面図である。
【図4】第三の実施形態を示す平面図、側断面図および部分拡大図である。
【図5】第四の実施形態を示す平面図、側断面図および部分拡大図である。
【図6】一般のデジタルカメラを用いた非接触での温度計測技術を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本願発明をいくつかの実施形態に基づいて、更に詳しく説明する。 ここで用いる図面は、図1から図6である。
【0022】
(図6)
まず、本願発明を用いたい場面について、図6に基づいて説明する。
図6(B)には、端子台50を示している。図6(A)に示すような端子台50は、電線53および圧電端子52に対して、ワッシャ54を介してネジ51にて締結している環境においは、そのネジ51が緩むと発熱してしまう。
端子台50を含む機器が所定のガスで覆われている必要があるような場合、図6(A)に示されるように、ガラス板、アクリル板、塩ビ板などの保護カバー55(図中では、「アクリルカバー」)にて覆われている。
【0023】
さて、端子台50のネジ51に緩みが発生していないかどうかを点検する必要がある。
その場合、保護部カバー55に覆われた状態を解除しなければならない。すなわち、所定の安全保護された状態を一時的になくし、ネジ51の緩みがないことを点検者が締結部に触れて確認するか、温度計測にて発熱の有無を確認する必要がある。
赤外線サーモグラフィカメラを用いて、保護部材越しに非接触での温度計測をすることができないためである。すなわち、保護カバー55を構成する前述のような素材は赤外線を透過しにくいため、赤外線サーモグラフィカメラにて赤外線を検知できないのである。
【0024】
(図1)
図1(A)には、第一の実施例に係るワッシャの平面図および部分拡大図を示す。
このワッシャは、撮影画像の色彩を分析すれば温度が把握できる感温ワッシャである。図1(A)および(B)にて明らかなように、金属製の金属ワッシャ20と、その金属ワッシャ20の最外周において一回り大きな樹脂製の樹脂リング11とからなる。
そしてその樹脂リング11には、部分拡大図にて示すように、樹脂11を基材とし、感温染料12と絶縁体13とを含有させている。
【0025】
(図2)
図2は、図1に示した感温ワッシャを、端子台30に締結するボルト40に用いた場合を示している。
ボルト40における雄ネジ部の外径よりも、感温ワッシャの内径がわずかに大きい。また、ボルト40における頭部の外径よりも、感温ワッシャにおける金属ワッシャ20の外径がわずかに大きい。
【0026】
端子台30の雌ネジ部31に対して、感温ワッシャを介在させつつボルト40を締結した場合、ボルト40の頭部は金属ワッシャ20に接するので、強く締結することができる。
このボルト40に緩みが生じると、端子台30が発熱することがある。端子台30が発熱すると、端子台30に接触しているボルト40も、そのボルト40および端子台30に接触している金属ワッシャ20も発熱する。 樹脂リング10は、その金属ワッシャ20にも端子台30にも接触しているため、樹脂リング10も発熱する。
【0027】
図示は省略するが、発熱した樹脂リング10をデジタルカメラにて撮影し、その撮影画像を解析すれば、受信リング10の温度が判明する。 換言すれば、発熱したか否か不明な状態の樹脂リング10を撮影し、その撮影画像を解析することによって樹脂リングの温度を把握することができ、その温度から端子台30が発熱しているか否かを判定できる。発熱していると判定された場合には、ボルト40に緩みが発生していると推定することができる。
【0028】
(図3)
図3には、図1および図2に示した第一の実施形態に係る感温ワッシャとは異なる構造の感温ワッシャを図示している。
すなわち、金属ワッシャ20の両面に、樹脂ワッシャ15を固定したものである。 この樹脂ワッシャ15は、第一の実施形態として示した感温ワッシャにおける樹脂リング10よりも、図2に示すようにボルト40を締め付けても耐えられるような剛性の高い樹脂を採用している。 したがって、第一の実施形態と同様に、端子台30が発熱しているか否かを判定することに寄与する感温ワッシャとして機能する。
【0029】
(図4)
図4は、図3に示した第二の実施形態に係る感温ワッシャと、やや構造を異ならせた感温ワッシャを図示している。
樹脂ワッシャ15には、金属製の剛性メッシュ14を備え、感温染料12を含んだ樹脂11の剛性を高めている。
【0030】
なお、第二の実施形態において採用していた金属ワッシャ20の代わりに、中間ワッシャ16を採用した。この中間ワッシャ16は、締結したいボルト40や端子台30に要求される機能や用途によって選択する。
たとえば、ボルト40の着脱時に作業者が感電しにくいようにするために、中間ワッシャ16の材質を絶縁材料としたり、振動を吸収するために弾性のある材質を採用したりするのである。
【0031】
(図5)
図5は、図4に示した第三の実施形態に係る感温ワッシャと、やや構造を異ならせた感温ワッシャを図示している。
すなわち、感温染料12を含有した樹脂ワッシャ15の機能を保護するため、樹脂ワッシャ15の外側に透明保護層17を備えている。 この透明保護層17は、その名の通り、透明であるので、感温ワッシャとしての機能を妨げない。 また、ボルト40を含む外力へ抗する性能を高める堅い素材を採用している。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、機械機器(たとえば端子台)の製造業、機械機器のメンテナンス業、温度計測装置の製造業、温度計測の代行やデータ管理などのサービス業などにおいて、利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0033】
10 樹脂リング 11 樹脂
12 感温染料 13 絶縁体
14 剛性メッシュ 15 樹脂ワッシャ
16 中間ワッシャ 17 透明保護層
20 金属ワッシャ
30 端子台 31 雌ネジ部
40 ボルト
50 端子台 51 ネジ
52 圧着端子 53 電線
54 ワッシャ(樹脂または金属)
55 保護カバー
60

【特許請求の範囲】
【請求項1】
締結具に用いるワッシャであって、
その締結具の外形寸法よりも一回り大きい直径をなすリング状をなし、
そのリングの最外周を樹脂製として樹脂リングを形成し、 その樹脂リングには感温染料を含有させた感温ワッシャ。
【請求項2】
締結具に用いるワッシャであって、
その締結具の外形寸法よりも一回り大きい直径をなすリング状をなし、
そのリング状の少なくとも一面に樹脂製の樹脂リングを形成し、 その樹脂リングには感温染料を含有させた感温ワッシャ。
【請求項3】
樹脂リングの外表面には、透明な樹脂による透明保護層を備えた請求項1または請求項2のいずれかに記載の感温ワッシャ。
【請求項4】
樹脂リングの樹脂には、絶縁体を含有させることとした請求項1から請求項3のいずれかに記載の感温ワッシャ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−29318(P2013−29318A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−163526(P2011−163526)
【出願日】平成23年7月26日(2011.7.26)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)