感温性吸着剤及びその製造方法
【課題】ポーラスシリカの外表面に、均一かつ少量の感温性高分子が被覆され、温度制御によって、ポーラスシリカの細孔入口径を制御することが可能な感温性吸着剤を提供する。
【解決手段】温度変化に対応して体積が変化する感温性高分子が、官能基を介して、ポーラスシリカの外表面に結合されてなる、感温性吸着剤とする。
【解決手段】温度変化に対応して体積が変化する感温性高分子が、官能基を介して、ポーラスシリカの外表面に結合されてなる、感温性吸着剤とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外部温度の変化により細孔の入口径を可逆的に変化させることが可能な感温性吸着剤及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポーラスシリカは、高比表面積かつ均一な細孔を有し、触媒や分離/吸着材料として広く使用されている。例えば、細孔内部に有機官能基が修飾されたポーラスシリカは、水中に溶存している金属イオンや有機分子に対して優れた吸着能を示す。ポーラスシリカの細孔内部に有機官能基を修飾する方法の一つとして、いわゆるco-condensation法がある。co-condensation法は、シリカ源とともに有機官能基を有するシランを混合することで、one-pot合成する方法である。界面活性剤の除去は通常、酸性溶媒を用いて行われる。この方法によれば、有機官能基が細孔内に均一に分散し、また有機官能基の固定化量の制御も容易であるなどの長所を持つ。この場合、細孔内壁に固定化する有機官能基量を変化させることにより、細孔径を変化させることができる(非特許文献1)。このことは、有機官能基量によって吸着可能な分子の大きさを制御できることを示し、吸着対象分子の迅速かつ優先的な分離・吸着が可能と考えられる。しかしながら、この場合、細孔径を数Å単位でしか変化させることができず、また、大量に有機官能基を導入するとポーラスシリカの骨格構造が壊れてしまうといった問題もあった。
【0003】
一方、新たな吸着材料として刺激応答性高分子が期待されている。刺激応答性高分子は、pHや光、電場などの外部からの刺激に応答して、その体積を変化させる。特に感温性高分子の一種であるポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)といったアクリルアミド誘導体は、所定の温度(例えば、32℃)を境に可逆的に水和又は脱水和を起こす。それに伴い、高分子自身が膨潤又は収縮し、体積が変化する。この体積変化の際に、分子を網目構造に取り込んで吸着させることが可能である。しかしながら、刺激応答性高分子を吸着剤として用いる場合、吸着量が極めて少なく、また、機械的な強度が十分でないといった問題があった(非特許文献2)。
【0004】
上記のようなポーラスシリカ特有の問題と刺激応答性高分子特有の問題とを双方解消するため、ポーラスシリカと刺激応答性高分子とを複合化させる研究が行われてきた(非特許文献3−11)。当該研究の目的のするところは、ポーラスシリカの持つ吸着容量や比表面積、機械的強度を活かしつつ、刺激応答性高分子の体積変化により細孔入口径を制御することにある。しかしながら、ポーラスシリカに刺激応答性高分子を被覆する場合、被覆量の制御が容易でなく、刺激応答性高分子を適切に被覆しようとした場合、ポーラスシリカ外表面の刺激応答性高分子の量が多量となってしまい、ポーラスシリカ外表面を刺激応答性高分子の層が厚く覆うこととなる結果、ポーラスシリカの細孔入口径を制御することが困難であった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】K. Murakami, K. Fuda and M. Sugai, Geometrical Study on Change of Pore Volume of MCM-41 Functionalized with Aminopropyl Groups, Mater. Res. Soc. Symp. Proc., 1056E (2007) 1056-HH08-41
【非特許文献2】T. Oya, T. Enoki, A. Y. Grosberg, S. Masamune, T. Sakiyama, Y. Takeoka, K. Tanaka, G. Wang, Y. Yilmaz, M. S. Feld, R. Dasari, and T. Tanaka, Reversible molecular adsorption based on multiple-point interaction by shrinkable gels, Science, 286 (1999) 1543-1545
【非特許文献3】Y. Zhu, J. Shi, W. Shen, X. Dong, J. Feng, M. Ran, and Y. Li, Stimuli-Responsive Controlled Drug Release from a Hollow Mesoporous Silica Sphere/Polyelectrolyte Multilayer Core-Shell Structure, Angew. Chem. Int. Ed., 44 (2005) 5083-5087.
【非特許文献4】S-W. Song, K. Hidajat, and S. Kawi, pH-Controllable drug release using hydrogel encapsulated mesoporous silica, Chem. Commn., 42 (2007) 4396-4398.
【非特許文献5】W. Xu, Q. Gao, Y. Xu, D. Wu, Y. Sun, pH-Controlled drug release from mesoporous silica tablets coated with hydroxypropyl methylcellulose phthalate, Materials Research Bulletin 44 (2009) 606-612.
【非特許文献6】H-J. Kim, H. Matsuda, H. Zhou, and I. Honma, Ultrasound-Triggered Smart Drug Release from a Poly(dimethylsiloxane)-Mesoporous Silica Composite, Adv. Mater. 18 (2006) 3083-3088.
【非特許文献7】N. K. Mal, M. Fujiwara, and Y. Tanaka, Photocontrolled reversible release of guest molecules from coumarin-modified mesoporous silica, Nature, 421 (2003) 350-353.
【非特許文献8】G.V. Rama Rao, M. E. Krug, S. Balamurugan, H. Xu, Q. Xu, and G. P. Lopez, Synthesis and Characterization of Silica-Poly(N-isopropylacylamide) Hybrid Membranes: Switchable Molecular Filters, Chem. Mater., 14 (2002) 5075-5080.
【非特許文献9】Q. Fu, G.V. Rama Rao, L. K. Ista, Y. Wu, B. P. Andrzejewski, L. A. Sklar, T. L. Ward, and G. P. Lopez, Control of Molecular Transport Through Stimuli-Responsive Ordered Mesoporous Materials, Adv. Mater., 15 (2003) 1262-1266.
【非特許文献10】Q. Fu, G. V. Rama Rao, T. L. Ward, Y. Lu, and G. P. Lopez, Thermoresponsive Transport through Ordered Mesoporous Silica/PNIPAAm Copolymer Membranes and Microspheres, Langmuir, 23 (2007) 170-174.
【非特許文献11】B.-S. Tian, and C. Yang, Temperature-Responsive Nanocomposites Based on Mesoporous SBA-15 Silica and PNIPAAm: Synthesis and Characterization, J. Phys. Chem. C., 113 (2009) 4925-4931.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、ポーラスシリカの外表面に、均一かつ少量の感温性高分子が被覆され、温度制御によって、ポーラスシリカの細孔入口径を制御することが可能な感温性吸着剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を採る。すなわち、
本発明の第1の態様は、温度変化に対応して体積が変化する感温性高分子が、官能基を介して、ポーラスシリカの外表面に結合されてなる、感温性吸着剤である。
【0008】
本発明において、「ポーラスシリカの外表面」とは、ポーラスシリカの細孔内壁以外の表面をいい、外観視で露出している表面をいう。また、「感温性高分子が、官能基を介して、ポーラスシリカの外表面に結合されてなる」とは、感温性高分子が、官能基に共有結合やイオン結合等によって化学的に結合されてなる形態の他、物質同士の物理的吸着や絡み合い等によって物理的に結合されてなる形態の双方を含み得る。特に、本発明では、官能基の存在により、感温性高分子をポーラスシリカ外表面に化学的に結合させることが可能である。
【0009】
本発明の第1の態様においては、感温性高分子の量を、感温性吸着剤全体を基準(100質量%)として、5質量%以下とすることが可能である。本発明では、感温性高分子が官能基を介してシリカ外表面に結合されているので、感温性高分子がシリカ外表面を単に被覆する形態と比較して、感温性高分子の量を少量とすることができる。すなわち、官能基を介さずに感温性高分子をシリカ外表面に被覆しようとしても、感温性高分子の量が少ないと、当該感温性高分子をうまく被覆することはできない。例えば、Tianらの場合(上記非特許文献11)、高分子の量を21〜28質量%としており、或いは、Fuらの場合(上記非特許文献9)、高分子の量を24質量%としている。すなわち、従来の形態にあっては、シリカ外表面を非常に多くのポリマーで被覆していた。言い換えれば、官能基を介さずに感温性高分子を固定化する場合、感温性高分子の量を極めて多量にしなければ、固定化できなかったといえる。一方、本発明では、5質量%以下という極めて少量な官能性高分子量であっても、官能基を介することで、ポーラスシリカ外表面に適切に固定化できる。
【0010】
本発明の第1の態様において、官能基が、アミノ基、モノ置換アミノ基、ジ置換アミノ基又はビニル基から選ばれる少なくとも一種であることが好ましく、この中でも特に、ジメチルアミノ基であることが好ましい。これらの官能基によって、シリカ外表面に感温性高分子をより適切に結合させることができる。
【0011】
本発明の第1の態様において、感温性高分子が、(メタ)アクリルアミド誘導体由来の単量体単位を備えることが好ましく、特に、ポリ(N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド)であることが好ましい。これにより、温度変化による細孔径制御の精度が一層向上する。
【0012】
本発明の第1の態様において、ポーラスシリカが、細孔内部にイオン交換基を有していることが好ましい。特に、当該イオン交換基が、1〜3級アミノ基、4級アンモニウム基,カルボキシル基、又はスルホン酸基であることが好ましい。これにより、感温性吸着剤をイオン交換用途にも用いることが可能となる。
【0013】
本発明の第2の態様は、ポーラスシリカ骨格の外表面に官能基を付加する、官能基付加工程と、官能基に、温度変化に対応して体積が変化する感温性高分子を結合する、感温性高分子結合工程とを備える、感温性吸着剤の製造方法である。
【0014】
ここで、「ポーラスシリカ骨格」とは、ポーラスシリカとなり得るシリカ骨格を意味する。界面活性剤等を鋳型としてポーラスシリカ骨格を形成する場合は、当該界面活性剤等が残存していてもよい。「官能基に、…感温性高分子を結合する」とは、例えば、液中において、感温性高分子を形成する単量体を官能基付近で重合させることにより感温性高分子を官能基に化学的或いは物理的に結合する形態等、官能基に感温性高分子を結合可能なものであれば、いずれも適用可能である。
【0015】
本発明の第2の態様において、界面活性剤とシリカ源とを含む溶液を用いて、当該界面活性剤を鋳型としてポーラスシリカ骨格を形成し、その後、界面活性剤を除去することにより、細孔を形成するとよい。この場合、溶液がイオン交換基源をさらに含むものであることが好ましい。尚、「シリカ源」とは、ポーラスシリカの原料となる化合物を意味する。シリカ源としては従来公知のシリカ源を用いることができ、具体的にはテトラエトキシシラン(TEOS)等のケイ酸化合物が挙げられる。「イオン交換基源」とは、ポーラスシリカの細孔内に固定化されるイオン交換基を有する化合物を意味する。イオン交換基源としては従来公知のものを用いることができ、例えば、有機官能基を有するケイ酸化合物を用いることができる。
【0016】
本発明の第2の態様において、感温性高分子結合工程を、官能基が付加されたポーラスシリカ骨格を含む液中にて感温性高分子を形成する単量体を重合することにより、官能基に感温性高分子を結合する工程、とすることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ポーラスシリカの外表面に官能基を介して感温性高分子を結合させることにより、ポーラスシリカの外表面に均一かつ少量の感温性高分子が被覆される。これにより、温度制御によって、ポーラスシリカの細孔入口径を制御することが可能な感温性吸着剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】一実施形態に係る本発明の感温性吸着剤100の断面構造を概略的に示す図である。
【図2】感温性高分子の体積相転移について説明するための概略図である。
【図3】一実施形態に係る本発明の感温性吸着剤の製造方法の流れを説明するための図である。
【図4】一実施形態に係る本発明の感温性吸着剤の製造方法の流れを説明するための図である。
【図5】比較例の形態を概略的に示す図である。
【図6】比較例の形態を概略的に示す図である。
【図7】官能基20のみが付加されたポーラスシリカ10からなる複合体300についてのXRDパターンを示す図である。
【図8】官能基20のみが付加されたポーラスシリカ10からなる複合体300についてのFT−IRスペクトルを示す図である。
【図9】感温性吸着剤100及び感温性高分子を備えていない複合体400についてのSEM写真図である。
【図10】感温性吸着剤100及び感温性高分子を備えていない複合体400についてのXRDパターンを示す図である。
【図11】感温性吸着剤100及び感温性高分子を備えていない複合体400についてのFT−IRスペクトルを示す図である。
【図12】熱重量分析結果を示す図である。
【図13】感温性高分子を備えていない複合体400について、メチルオレンジに対する吸脱着特性を示す図である。
【図14】従来の方法により作製した複合体500’について、メチルオレンジに対する吸脱着特性を示す図である。
【図15】本発明の感温性吸着剤100について、メチルオレンジに対する吸脱着特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
1.感温性吸着剤
図1に、一実施形態に係る本発明の感温性吸着剤100の断面構造を概略的に示す。図1に示すように、感温性吸着剤100は、細孔10a、10a、…を有するポーラスシリカ10の外表面に、官能基20を介して、感温性高分子30が結合されている。また、細孔10a、10a、…の内壁には、イオン交換基40、40、…が修飾されている。
【0020】
1.1.ポーラスシリカ
ポーラスシリカ10は、細孔10a、10a、…を有するものであり、細孔10a、10a、…の内壁に特定の物質を吸着可能とされている。細孔10a、10a、…の径は特に限定されるものではないが、特にメソ孔(孔径が2〜50nm程度)が好ましい。すなわち、ポーラスシリカ10としてはメソポーラスシリカを用いるとよい。また、ポーラスシリカ10の比表面積についても特に限定されるものではなく、吸着剤として用い得る程度の比表面積を有していればよい。
【0021】
1.2.官能基
官能基20は、ポーラスシリカ10の外表面(ポーラスシリカ10の細孔10a、10a、…の内壁以外の表面であり、外観視で露出している表面)に付加されている。官能基20は、ポーラスシリカ10の外表面と後述する感温性高分子30とを接続・結合可能なものであれば、特に限定されるものではない。例えば、アミノ基、モノ置換アミノ基、ジ置換アミノ基又はビニル基から選ばれる少なくとも一種であることが好ましく、ジ置換アミノ基であることがより好ましい。特に、ジメチルアミノ基を用いるとよい。
【0022】
1.3.感温性高分子
感温性高分子30は、官能基20を介してポーラスシリカ10の外表面に結合されている。これは、感温性高分子30がポーラスシリカ10の外表面を単に被覆している(ポーラスシリカ10の外表面付近に単に存在している)従来の形態とは大きく異なる。感温性高分子30は、温度変化に応じて体積を変化させるものであれば特に限定されるものではない。特に、ポリ(N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド)やポリ(N−アクリロイルピペリジン)、ポリ(N−プロピルアクリルアミド)といったN−アルキル(メタ)アクリルアミド誘導体由来の単量体単位を備える高分子や、ポリ(N,N−ジエチルアクリルアミド)といったN,N−ジアルキルアクリルアミド由来の単量体単位を備える高分子を用いることが好ましい。例えば、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)は体積相転移温度が32℃付近であり、これよりも高温側においては感温性高分子30が収縮し、低温側においては感温性高分子30が膨潤する。すなわち、図2に示すように、体積相転移温度よりも高温側では、感温性高分子30は隙間の小さな密な網目構造を採るため、被吸着物質Xを透過させることはない(図2(A))。一方、体積相転移温度よりも低温側では、感温性高分子30は隙間の大きな疎な網目構造を採るため、被吸着物質Xを透過させ得る(図2(B))。本発明では、温度制御によって、感温性高分子30の隙間の大きさを制御し、これにより、ポーラスシリカ10の細孔10a、10a、…の入口径を制御するものとしている。
【0023】
感温性高分子30の量は、感温性吸着剤100を全体基準(100質量%)として、上限が5質量%以下、好ましくは3質量%以下、より好ましくは1質量%以下である。下限については特に限定されるものではなく、0質量%を超えていれば本発明の効果は奏される。特に0.5質量%以上が好ましい。本発明では、感温性高分子30が官能基20を介してポーラスシリカ10の外表面に結合された形態にあるため、感温性高分子30がポーラスシリカ10を単に被覆している従来の形態に比べて、少量の感温性高分子30でポーラスシリカ10の外表面を均一に被覆することが可能である。すなわち、感温性高分子30の厚みを容易に薄くすることができ、細孔10a、10a、…の入口径を精度よく制御することが可能となる。
【0024】
1.4.イオン交換基
本発明の感温性吸着剤100においては、ポーラスシリカ10の細孔10aの内壁に、イオン交換基40、40、…が修飾されている。これにより、感温性吸着剤100の細孔10a内壁において、被吸着物質を物理的に吸脱着させるだけでなく、化学的に吸脱着させることも可能となる。すなわち、イオン交換基40を修飾することにより、本発明の感温性吸着剤100をイオン交換体として機能させることができる。イオン交換基40としては、イオン交換基として従来より採用されているものを特に限定されることなく適用可能である。具体的には、1〜3級アミノ基、4級アンモニウム基,カルボキシル基、スルホン酸基等である。例えば、細孔10aの内壁にアミノ基を修飾した場合、本発明の感温性吸着剤100は、低pHにおいて陰イオンを吸着し、高pHにおいて陰イオンを脱離可能なイオン交換体として機能し得る。
【0025】
このように、本発明の感温性吸着剤100は、ポーラスシリカ10の外表面に、官能基20を介して、均一かつ少量の感温性高分子30が結合・被覆されているので、温度制御によって、ポーラスシリカ10の細孔10aの入口径を制御することが可能となる。また、細孔10aの内壁をイオン交換基40で修飾することにより、液中の金属イオン等をイオン交換可能なイオン交換体として用いることができる。当該イオン交換体は、イオン交換クロマトグラフィー用のカラム充填剤として好適に利用することができる。また、細孔10aの内部に所定の薬物を保持した感温性吸着剤100を体内に投与し、体内の所定の箇所にて温度変化によって薬物を脱離・放出させることも可能と考えられ、新規なドラッグデリバリーシステムとしての応用も可能である。
【0026】
2.感温性吸着剤の製造方法
図3、4に本発明の感温性吸着剤100の製造方法の一例(製造方法S10)を示す。図3、4に示すように、製造方法S10は、界面活性剤50を含む溶液を作製する工程S1と、作製した溶液にシリカ源及びイオン交換基源を添加し、界面活性剤50を鋳型(テンプレート)としてポーラスシリカ10の骨格を形成することにより複合体101を作製する工程S2と、複合体101の外表面に官能基20を付加し、官能基付加複合体102とする、官能基付加工程S3と、工程S3にて付加した官能基20に感温性高分子30が結合した感温性高分子結合体103を作製する、感温性高分子結合工程S4と、工程S4にて得られた感温性高分子結合体103から、界面活性剤50を除去し、本発明に係る感温性吸着剤100を得る工程S5と、を備えている。
【0027】
2.1.工程S1、工程S2
工程S1は、界面活性剤50を含む溶液を作製する工程であり、工程S2は、作製した溶液において、界面活性剤50をテンプレートとしてポーラスシリカ10の骨格を形成し、複合体101を作製する工程である。溶液中にて、界面活性剤50をテンプレートとしてポーラスシリカ10の骨格を形成する手法は公知のものであり、本発明でも従来の方法を適用することが可能である。すなわち、溶液(例えば、アンモニア水溶液等の水溶液)中に従来公知の界面活性剤(例えば、臭化セチルトリメチルアンモニウム等のテンプレートとして機能し得るもの)を添加し、ホットスターラー等を用いて加熱・攪拌することにより、界面活性剤50が溶解した溶液を作製する(工程S1)。その後、溶液の温度を下げ、シリカ源(例えば、オルトケイ酸テトラエチル等のケイ酸化合物)を加え、さらに、イオン交換基源(例えば、3−アミノプロピルトリエトキシシラン等のイオン交換基を備えたケイ酸化合物)を添加し、攪拌の後、懸濁液を濾過・洗浄し、沈殿物を乾燥することにより、複合体101を得ることができる(工程S2)。
【0028】
2.2.官能基付加工程S3
工程S3は、工程S1、S2を経て得られた複合体101の外表面に、官能基20を付加し、官能基付加複合体102とする工程である。工程S3は、官能基付加複合体102を作製可能であれば特に限定されるものではないが、例えば、溶媒に複合体101と官能基源とを加えて攪拌し、懸濁液を濾過・洗浄し、沈殿物を乾燥して官能基付加複合体102とする工程、とすることができる。工程S3にて用いる溶媒としては、例えば、トルエン等の有機溶媒が挙げられる。また、工程S3にて用いる官能基源としては、例えば、3−ジメチルアミノプロピルジエトキシメチルシラン、3−(N−アクリロイルアミノ)プロピルトリエトキシシラン、アリルトリクロロシラン、アリルトリエトキシシラン等の所定の官能基を備えたケイ酸化合物が挙げられる。
【0029】
2.3.感温性高分子結合工程S4
工程S4は、工程S3を経て得られた官能基付加複合体102の官能基20に感温性高分子30が結合された感温性高分子結合体103を作製する工程である。工程S4は、感温性高分子結合体103を作製可能であれば特に限定されるものではないが、例えば、感温性高分子30を形成可能な単量体を溶解させた溶液に、官能基付加複合体102を添加して懸濁させ、必要に応じて懸濁液中の溶存酸素を除去し、公知の重合開始剤を添加して重合反応を行うことで感温性高分子30を生成させつつ、感温性高分子30を化学的或いは物理的に官能基20に結合させることにより、感温性高分子結合体103を作製する工程、とすることができる。特に、感温性高分子30を官能基20に化学的に結合させる形態がよい。工程S4にて用いる単量体としては、例えば、N−イソプロピルアクリルアミド、N−アクリロイルピペリジン、N−プロピルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド等のアクリルアミド誘導体或いはメタクリルアミド誘導体が挙げられる。工程S4にて単量体を溶解させる溶媒としては、例えば水が挙げられる。重合開始剤としては従来公知のものを広く適用でき、例えば、過硫酸アンモニウム等を用いればよい。
【0030】
2.4.工程S5
工程S5は、工程S4を経て得られた感温性高分子結合体103から、界面活性剤50を除去し、本発明に係る感温性吸着剤100を得る工程である。工程S5は、界面活性剤50を適切に除去可能であれば特に限定されるものではないが、例えば、感温性高分子結合体103を酸性溶液(例えば、塩酸)に加えて攪拌することにより、界面活性剤50を酸性溶液中へと溶出させ、その後、溶液を濾過し、抽出した固形分を洗浄・乾燥することにより感温性吸着剤100を得る工程、とすることができる。工程S5においては、界面活性剤50を除去することによって細孔10aを形成する。当該細孔10aの内壁にはイオン交換基40、40、…が残され、細孔10aの内壁にイオン交換基40、40、…が均一に修飾された状態となる。
【0031】
このように、本発明に係る感温性吸着剤の製造方法S10においては、いわゆるco-condensation法を用いてポーラスシリカ10の細孔10aの内部にイオン交換基40を修飾するものとし、また、所定の方法にてポーラスシリカ10の外表面に官能基20を付加し、当該官能基20を介して感温性高分子30を結合させている。これにより、感温性高分子30を薄く被覆・結合させることが可能となるとともに、得られた感温性吸着剤100をイオン交換体として機能させることが可能となる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例に基づいて、本発明の感温性吸着剤についてさらに詳述する。尚、以下の説明においては、分かりやすさため、図4にて使用した符号を適宜用いることとする。
【0033】
<感温性吸着剤100の作製>
以下の流れで、実施例に係る感温性吸着剤100を作製した。
【0034】
(複合体101の作製)
複合体101の作製は、Grunらの方法(M. Grun, K.K. Unger, A. Matsumoto, K. Tsutsumi, Novel pathways for the preparation of mesoporous MCM41 materials: control of porosity and morphology, Microporous and Mesoporous Mater., (1999) 207-216)に従った。
界面活性剤50としてアルキル鎖の炭素数が16の臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTMABr)を用いた。蒸留水120ml(6.66mol)と28%アンモニア水9.5ml(0.14mol)の混合溶液に、6.6mmolのCTMABrを加え、80℃に設定したホットスターラーでCTMABrが溶解するまで攪拌した。界面活性剤溶液が無色透明になったら、溶液の温度を25℃に下げ、シリカ源としてオルトケイ酸テトラエチル(TEOS)を9.9ml(47.5mmol)加え、さらに3−アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)を0.5ml(2.5mmol)添加し、25℃で1時間攪拌した。攪拌終了後、懸濁液を吸引濾過・水洗浄し、固形物を60℃で24時間乾燥し、イオン交換基40としてアミノ基を修飾した複合体101を得た。
【0035】
(官能基付加複合体102の作製)
トルエン120ml中に1gの複合体101と3−ジメチルアミノプロピルジエトキシメチルシラン(信越化学工業社製、LS−3675)を0.1〜1ml添加し、約200℃で4時間還流しながら攪拌した。攪拌終了後、懸濁液を吸引濾過・エタノール洗浄し、固形物を60℃で24時間乾燥し、官能基20としてジメチルアミノ基を付加した官能基付加複合体102を得た。
【0036】
(感温性高分子結合体103の作製)
3g(26.5mmol)のN−イソプロピルアクリルアミド(NIPAM)を30mlの蒸留水に溶解した。その後、NIPAM水溶液に0.3gの官能基付加複合体102を加え入れ、懸濁液とした。懸濁液中の溶存酸素を除去するために、窒素を吹きこんだ。10分後、懸濁液に、ラジカル重合開始剤として過硫酸アンモニウム(APS)水溶液(濃度:20mg/ml)を3ml混合し、重合反応を行った。反応中は溶液の温度を30℃に保ち、また、窒素を導入し続けた。4時間の攪拌後、濾過・水洗して生成物を抽出し、60℃で24時間乾燥し、感温性高分子30としてポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)を備えた感温性高分子結合体103を得た。
【0037】
(界面活性剤50の除去、感温性吸着剤100の作製)
感温性高分子結合体103から界面活性剤50を除去するために、感温性高分子結合体103を濃塩酸3.5mlとエタノール150mlとの混合液に加え入れ、75℃の恒温槽で1時間還流しながら攪拌した。攪拌終了後、吸引濾過・エタノール洗浄し、60℃、24時間乾燥することで固形分を得た。その後、当該固形分について、再度、濃塩酸とエタノールとの混合液に加え入れ、攪拌、吸引濾過・エタノール洗浄し、乾燥することによって界面活性剤50を完全に除去した。これにより、ポーラスシリカ10の細孔10aの内壁にイオン交換基40としてアミノ基を備え、外表面に官能基20としてジメチルアミノ基を備えるとともに、当該ジメチルアミノ基を介して感温性高分子としてポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)が結合された感温性吸着剤100を得た。
【0038】
上記のようにして得られた感温性吸着剤100の他、比較例として、図5(A)に示すような、ポーラスシリカ10の細孔10aの内壁にイオン交換基40としてアミノ基を備えるのみの複合体200、図5(B)に示すような、感温性高分子30及びイオン交換基40を備えない複合体300、図5(C)に示すような、感温性高分子30を備えない複合体400を作製した。すなわち、複合体101から界面活性剤50を除去したものを複合体200とし、界面活性剤50を鋳型としてイオン交換基源を添加せずにシリカ源のみを添加してなるポーラスシリカ骨格の外表面に、官能基20を付加し、界面活性剤50を除去したものを複合体300とし、官能基付加複合体102から界面活性剤50を除去したものを複合体400とした。
【0039】
さらに、官能基20を介さずにポーラスシリカ10に感温性高分子30を被覆した複合体(例えば、図5(D)に示されるような複合体500)を作製するべく、調製を行った。すなわち、NIPAM水溶液に上記と同様にして作製した複合体101を加え入れ、懸濁液とした後、重合開始剤を用いてNIPAMを重合させた。その後、界面活性剤50の除去を行った。NIPAM水溶液の濃度や複合体の添加量等は、上記と同様の条件とした。すなわち、官能基の付加を行わない点以外は、上記と同様の操作を行った。しかしながら、後述するように、得られた複合体の評価を行ったところ、上記操作では、感温性高分子30がポーラスシリカ10の外表面にうまく被覆できておらず、図6に示す複合体500’のような形態をとっているものと考えられた。
【0040】
<感温性吸着剤100の評価方法>
上記実施例に係る感温性吸着剤100や比較例に係る複合体について、以下のような評価を行った。
【0041】
(キャラクタリゼーション)
(1)走査電子顕微鏡(日本電子社製、JSM−6510LV)を用いて表面形態の観察を行った。観察の際は、加速電圧を30kVとした。
(2)X線回折装置(Rigaku社製、Rigaku RAD−C回折計)を用いてX線回折パターンを得た。測定条件は、CuKα線を用い、発散スリット1.0degree、受光スリット0.30mm、スキャンスピード2.000°/min、2θ=1.500°から10.000°、サンプリング幅を0.20°とした。
(3)FT−IR装置(Perkin Elmer社製、FT−IR2000)を用いてIRスペクトルパターンを得た。測定条件は、サンプル1mgに対してKBr99mgを混合して直径10mmのペレットを作製し、透過法でスキャン数16回、分解能4cm−1とした。
(4)熱重量分析計(Bruker社製、TG−DTA 2000SA)を用いて、熱重量分析を行った。測定条件は、空気雰囲気、昇温速度10℃/min、温度範囲を室温から800℃とした。
(5)CHN元素分析装置(ヤナコ分析工業社製、HCN corder MT−700HCN)を用いて、CHN元素分析を行った。
【0042】
(メチルオレンジイオン交換能)
0.1gのサンプルを100ppmのメチルオレンジ水溶液100mlに加えた。溶液温度は25℃又は40℃とした。サンプル投入後、アンモニア水又は塩酸を滴下することにより、溶液のpHを約9.5又は2.5に調整した。30分毎に溶液を2mlサンプリングし、pH調整を繰り返した。サンプリングした溶液は遠心分離し、上澄み液を0.2mlだけ採取し、塩酸で希釈することによりpHを調整したのち、分光光度計(日本分光社製、UV−Vis V630)を用いて510nmの吸光度を測定することによりメチルオレンジの吸着量を算出した。尚、遠心分離後に残った懸濁液はイオン交換実験溶液に戻した。
【0043】
<評価結果>
(アミノ基量及びジメチルアミノ基量の定量)
まず、複合体200のアミノ基量を元素分析によって算出した。元素分析測定の結果、複合体200における窒素量は0.87wt%であり、これがすべてアミノ基由来であると仮定すると、アミノ基量は0.62mmol/gとなる。この量は、仕込みのAPTES量から算出されるアミノ基量(0.80mmol/g)の78%に相当した。また、複合体300のジメチルアミノ基量を元素分析によって算出した。表1に3−ジメチルアミノプロピルジエトキシメチルシラン(LS−3675)の仕込み量とジメチルアミノ基の固定化量との関係を示す。LS−3675の添加量が0.1mlの場合、固定化されたジメチルアミノ基量は0.65mmol/gであり、仕込み値である0.71mmol/gの92%が固定化された。また、LS−3675の添加量が少量である場合、添加量を増加させると固定化されるジメチルアミノ基量もわずかではあるが増加することが分かった。しかしながら、LS−3675を1ml以上添加しても固定化されるジメチルアミノ基量はほとんど増加しないことが分かった。
【0044】
【表1】
【0045】
(構造解析結果)
図7、8に、複合体300のXRDパターン、IRスペクトルをそれぞれ示す。尚、図中、L(x)MSとは、LS−3675の添加量(仕込み量)がx(ml)である複合体300を意味する。図より、複合体300は、六方晶系に帰属される構造を有していることが分かった。また、XRDパターンには、4つの回折線が見られ、それぞれ(100)、(110)、(200)、(210)面に相当する。これらの試料の回折角度に大きな違いは見られず、(100)面間隔d100は、いずれの試料でも約40Åであることが分かった。この結果は、ジメチルアミノ基を固定化しても、ポーラスシリカ10の骨格構造に影響はほとんどないことを示している。一方、図8から、ジメチルアミノ基を固定化してもC−Nに関する吸収は認められなかったが、1480cm−1付近に吸収ピークが現れており、これはメソポーラスシリカには見られないものである。1480cm−1付近の吸収ピークは、LS−3675のC−H変角振動に起因するものと考えられる。また1480cm−1付近の吸収ピークはLS−3675の添加量を増加させてもほとんど変化していない。これは、上述したように、LS−3675の添加量を増加させても固定化されるジメチルアミノ基の量がほとんど変化しないことと一致している。
【0046】
図9に複合体400及び感温性吸着剤100のSEM写真を示す。図9(A)が複合体400について、図9(B)が感温性吸着剤100について示している。双方ともに粒子径1μm程度の六角形状の粒子が凝集していることが分かる。一部、棒状の粒子も認められた。しかし、外観上は感温性高分子30の有無による形状の違いは認められなかった。感温性吸着剤100において、感温性高分子30の結合・被覆量が極めて少ないため、外観に影響を与えていないものと考えられる。
【0047】
図10に複合体400及び感温性吸着剤100のXRDパターンを示す。感温性高分子30の結合・被覆によって、わずかではあるが回折強度の低下が認められた。さらに、感温性吸着剤100の場合、(210)回折線がほとんど現れていない。このことから、感温性高分子30を結合・被覆することにより、若干の構造規則性の乱れが生じていると考えられる。
【0048】
図11に複合体400及び感温性吸着剤100のFT−IRスペクトルを示す。両スペクトルともに非常によく似ており、感温性高分子30を結合・被覆しても、感温性高分子30に特徴的なN−H伸縮吸収(1551cm−1)、C=O伸縮吸収(1633cm−1)は認められなかった。このことは、感温性高分子30の結合・被覆量が極めて少ないことを示唆している。
【0049】
(熱重量分析結果)
図12に複合体400及び感温性吸着剤100の熱重量曲線を示す。双方ともに100℃から重量減少が起こり、500℃以上の温度では緩やかな重量減少を示した。感温性高分子30を単独で熱重量分析すると、320℃で大きな重量減少を示す。これは高分子が分解していることを示している。実際、320℃付近から複合体400と感温性吸着剤100との重量減少量は大きく変わっている。したがって、この重量減少量の違いが固定化された感温性高分子30の量と考えられる。図より、感温性吸着剤100における感温性高分子30の固定化量を見積もると、5質量%であることが分かった。また、複合体400と感温性吸着剤100について元素分析により窒素量を測定し、当該窒素量から感温性吸着剤100における感温性高分子30の固定化量を算出したところ5質量%となり、熱重量分析の結果と一致した。
【0050】
(吸脱着実験結果)
図13に複合体400を用いた場合におけるメチルオレンジイオン交換吸着量のpH依存性を示す。ここでは、溶液温度を40℃とした。尚、仕込んだメチルオレンジがすべて吸着するとイオン交換量は約0.3mmol/gとなり、これはイオン交換サイトであるアミノ基量0.62mmol/gの約半分となる。複合体400の場合、感温性高分子30が固定化されていないので、通常の陰イオン交換体と同様の可逆的な吸脱着挙動を示すはずである。実際、図より、pH2.5の時は、約0.25mmol/gのメチルオレンジを吸着し、pH9.5の時はメチルオレンジをほぼ完全に脱着したことが確認された。一方、溶液中に存在するすべてのメチルオレンジが吸着されなかったのは、イオン交換時間を30分という短時間としたためであると考えられる。
【0051】
図14に複合体500’を用いた場合におけるメチルオレンジイオン交換吸着量のpH依存性を示す。ここでも溶液温度は40℃とした。複合体500’の場合、ジメチルアミノ基が存在せず、感温性高分子30がポーラスシリカ10に化学的に固定化されてはおらず、感温性高分30がポーラスシリカ10の外表面に単に物理的に接触している状態と考えられた。そして、溶液温度40℃においては、感温性高分子30は密な構造をとって吸着種を通さないため、感温性高分子30がポーラスシリカ10にただ単に物理的に接触している場合でも、感温性高分子30が障害となって、吸着挙動に大きな変化が表れるであろうと考えられた。しかしながら、結果を見てみると、複合体500’の場合も複合体400の場合と同様の可逆的吸脱着挙動を示した。このことは、複合体500’においては、感温性高分子30がポーラスシリカ10とただ単に共存しているだけであり、感温性高分子30がポーラスシリカ10の外表面にほとんど存在しておらず(図6)、感温性高分子30が、吸着挙動にほとんど影響を及ぼさなかったことを示唆している。すなわち、感温性高分子30の濃度(NIPAM水溶液の濃度)が低すぎたため、シリカ10外表面に感温性高分子30がうまく被覆されておらず、吸着挙動において、感温性高分子30の影響が現れなかったものと考えられる。これにより、感温性高分子30を、官能基20を介さずにシリカ10外表面に単に物理被覆する場合は、感温性高分子30の量を極めて多量とせざるを得ないことが分かった。一方、吸着量については約0.2mmol/gと複合体400に比べて若干の低下が認められた。これは感温性高分子30がポーラスシリカ10と共存していることにより、液中におけるメチルオレンジの拡散に抵抗が生じたため、30分という短時間では、メチルオレンジが吸着スポットへと十分に到達できなかったものと考えられる。
【0052】
図15に感温性吸着剤100を用いた場合におけるメチルオレンジイオン交換吸着量のpH依存性を示す。ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)の相転移温度は約32℃であるが、この温度はポーラスシリカ10と複合化させてもほとんど変化しない。ここでは、溶液温度を40℃、25℃、40℃と順に変化させて吸脱着実験を行った。その結果、25℃では、複合体400、500と同様、メチルオレンジはpH変化に伴い、可逆的に吸脱着を繰り返した。一方、40℃では、吸着量は最大でも0.05mmol/gとなり、吸脱着しなくなった。このことは、感温性高分子30がポーラスシリカ10の細孔10aの入口付近に存在しており、ポーラスシリカ10の細孔10aの入り口を閉じていることを示している。すなわち、溶液温度が感温性高分子30の相転移温度よりも高い場合、感温性高分子30中に存在する水和水が脱水和し、感温性高分子が収縮して密な網目構造を採る結果、細孔10a内へメチルオレンジが侵入することを防いだものと考えられる。一方、溶液温度が感温性高分子30の相転移温度よりも低い場合は、感温性高分子30が再度水和して膨潤し、疎な網目構造を採る結果、メチルオレンジは細孔10a内へと容易に侵入することが可能となり、イオン交換基40に容易に吸着できるようになったものと考えられる。尚、感温性高分子30がポーラスシリカ10の外表面に結合していることは、メチルオレンジの吸着量が0.15mmol/g程度に低下していることからも明らかである。このように、本発明によれば、ポーラスシリカ10の外表面に、官能基20を介して感温性高分子30を結合することによって、少量の感温性高分子30であっても、ポーラスシリカ10の外表面に均一に固定化することができ、溶液温度の変化により吸脱着挙動を変化させることが可能となる。
【0053】
以上、現時点において、最も実践的であり、且つ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨あるいは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う感温性吸着剤及びその製造方法もまた本発明の技術範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
【0054】
例えば、上記説明では、感温性吸着剤100において、イオン交換基40を必須の構成として説明したが、本発明はこの形態に限定されるものではない。感温性吸着剤100の用途に応じて、細孔10aの内部をイオン交換基40で修飾してもよいし、しなくてもよい。ただし、感温性吸着剤100をイオン交換体として好適に機能させる観点からは、イオン交換基40を備えた感温性吸着剤100とすることが好ましい。
【0055】
また、上記説明では、感温性吸着剤100の製造方法S10において、工程S1、S2にていわゆるco-condensation法を用いるものとして説明したが、本発明はこの形態に限定されるものではない。いわゆるgrafting法等を用いることも可能である。ただし、細孔10a内のイオン交換基40の量を容易に制御でき、且つ、感温性吸着剤100を容易に製造可能な観点からは、工程S1、S2においていわゆるco-condensation法を用いることが好ましい。
【0056】
また、上記説明では、感温性吸着剤100の製造方法S10において、感温性高分子30を結合する工程S4を、液中にて、官能基付加複合体102の存在下、感温性高分子30を形成する単量体を重合させるものとして説明したが、感温性高分子30を官能基20に結合可能なものであれば、本発明はいずれの方法を用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明に係る感温性吸着剤は、ポーラスシリカの細孔入口径を制御可能であり、細孔入口径を変化させることで、吸着種の選択分離等を効率的に行うことができる。例えば、イオン交換クロマトグラフィー用のカラム充填剤として好適に利用することができる。また、本発明に係る感温性吸着剤の諸特性を応用することにより、細孔の内部に所定の薬物を保持した感温性吸着剤を体内に投与し、体内の所定の箇所にて温度変化によって薬物を脱離・放出させることも可能と考えられ、新規ドラッグデリバリーシステムとしての応用も可能である。
【符号の説明】
【0058】
10 ポーラスシリカ
20 官能基
30 感温性高分子
40 イオン交換基
50 界面活性剤
100 感温性吸着剤
101 複合体
102 官能基付加複合体
103 感温性高分子結合体
【技術分野】
【0001】
本発明は、外部温度の変化により細孔の入口径を可逆的に変化させることが可能な感温性吸着剤及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポーラスシリカは、高比表面積かつ均一な細孔を有し、触媒や分離/吸着材料として広く使用されている。例えば、細孔内部に有機官能基が修飾されたポーラスシリカは、水中に溶存している金属イオンや有機分子に対して優れた吸着能を示す。ポーラスシリカの細孔内部に有機官能基を修飾する方法の一つとして、いわゆるco-condensation法がある。co-condensation法は、シリカ源とともに有機官能基を有するシランを混合することで、one-pot合成する方法である。界面活性剤の除去は通常、酸性溶媒を用いて行われる。この方法によれば、有機官能基が細孔内に均一に分散し、また有機官能基の固定化量の制御も容易であるなどの長所を持つ。この場合、細孔内壁に固定化する有機官能基量を変化させることにより、細孔径を変化させることができる(非特許文献1)。このことは、有機官能基量によって吸着可能な分子の大きさを制御できることを示し、吸着対象分子の迅速かつ優先的な分離・吸着が可能と考えられる。しかしながら、この場合、細孔径を数Å単位でしか変化させることができず、また、大量に有機官能基を導入するとポーラスシリカの骨格構造が壊れてしまうといった問題もあった。
【0003】
一方、新たな吸着材料として刺激応答性高分子が期待されている。刺激応答性高分子は、pHや光、電場などの外部からの刺激に応答して、その体積を変化させる。特に感温性高分子の一種であるポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)といったアクリルアミド誘導体は、所定の温度(例えば、32℃)を境に可逆的に水和又は脱水和を起こす。それに伴い、高分子自身が膨潤又は収縮し、体積が変化する。この体積変化の際に、分子を網目構造に取り込んで吸着させることが可能である。しかしながら、刺激応答性高分子を吸着剤として用いる場合、吸着量が極めて少なく、また、機械的な強度が十分でないといった問題があった(非特許文献2)。
【0004】
上記のようなポーラスシリカ特有の問題と刺激応答性高分子特有の問題とを双方解消するため、ポーラスシリカと刺激応答性高分子とを複合化させる研究が行われてきた(非特許文献3−11)。当該研究の目的のするところは、ポーラスシリカの持つ吸着容量や比表面積、機械的強度を活かしつつ、刺激応答性高分子の体積変化により細孔入口径を制御することにある。しかしながら、ポーラスシリカに刺激応答性高分子を被覆する場合、被覆量の制御が容易でなく、刺激応答性高分子を適切に被覆しようとした場合、ポーラスシリカ外表面の刺激応答性高分子の量が多量となってしまい、ポーラスシリカ外表面を刺激応答性高分子の層が厚く覆うこととなる結果、ポーラスシリカの細孔入口径を制御することが困難であった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】K. Murakami, K. Fuda and M. Sugai, Geometrical Study on Change of Pore Volume of MCM-41 Functionalized with Aminopropyl Groups, Mater. Res. Soc. Symp. Proc., 1056E (2007) 1056-HH08-41
【非特許文献2】T. Oya, T. Enoki, A. Y. Grosberg, S. Masamune, T. Sakiyama, Y. Takeoka, K. Tanaka, G. Wang, Y. Yilmaz, M. S. Feld, R. Dasari, and T. Tanaka, Reversible molecular adsorption based on multiple-point interaction by shrinkable gels, Science, 286 (1999) 1543-1545
【非特許文献3】Y. Zhu, J. Shi, W. Shen, X. Dong, J. Feng, M. Ran, and Y. Li, Stimuli-Responsive Controlled Drug Release from a Hollow Mesoporous Silica Sphere/Polyelectrolyte Multilayer Core-Shell Structure, Angew. Chem. Int. Ed., 44 (2005) 5083-5087.
【非特許文献4】S-W. Song, K. Hidajat, and S. Kawi, pH-Controllable drug release using hydrogel encapsulated mesoporous silica, Chem. Commn., 42 (2007) 4396-4398.
【非特許文献5】W. Xu, Q. Gao, Y. Xu, D. Wu, Y. Sun, pH-Controlled drug release from mesoporous silica tablets coated with hydroxypropyl methylcellulose phthalate, Materials Research Bulletin 44 (2009) 606-612.
【非特許文献6】H-J. Kim, H. Matsuda, H. Zhou, and I. Honma, Ultrasound-Triggered Smart Drug Release from a Poly(dimethylsiloxane)-Mesoporous Silica Composite, Adv. Mater. 18 (2006) 3083-3088.
【非特許文献7】N. K. Mal, M. Fujiwara, and Y. Tanaka, Photocontrolled reversible release of guest molecules from coumarin-modified mesoporous silica, Nature, 421 (2003) 350-353.
【非特許文献8】G.V. Rama Rao, M. E. Krug, S. Balamurugan, H. Xu, Q. Xu, and G. P. Lopez, Synthesis and Characterization of Silica-Poly(N-isopropylacylamide) Hybrid Membranes: Switchable Molecular Filters, Chem. Mater., 14 (2002) 5075-5080.
【非特許文献9】Q. Fu, G.V. Rama Rao, L. K. Ista, Y. Wu, B. P. Andrzejewski, L. A. Sklar, T. L. Ward, and G. P. Lopez, Control of Molecular Transport Through Stimuli-Responsive Ordered Mesoporous Materials, Adv. Mater., 15 (2003) 1262-1266.
【非特許文献10】Q. Fu, G. V. Rama Rao, T. L. Ward, Y. Lu, and G. P. Lopez, Thermoresponsive Transport through Ordered Mesoporous Silica/PNIPAAm Copolymer Membranes and Microspheres, Langmuir, 23 (2007) 170-174.
【非特許文献11】B.-S. Tian, and C. Yang, Temperature-Responsive Nanocomposites Based on Mesoporous SBA-15 Silica and PNIPAAm: Synthesis and Characterization, J. Phys. Chem. C., 113 (2009) 4925-4931.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、ポーラスシリカの外表面に、均一かつ少量の感温性高分子が被覆され、温度制御によって、ポーラスシリカの細孔入口径を制御することが可能な感温性吸着剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を採る。すなわち、
本発明の第1の態様は、温度変化に対応して体積が変化する感温性高分子が、官能基を介して、ポーラスシリカの外表面に結合されてなる、感温性吸着剤である。
【0008】
本発明において、「ポーラスシリカの外表面」とは、ポーラスシリカの細孔内壁以外の表面をいい、外観視で露出している表面をいう。また、「感温性高分子が、官能基を介して、ポーラスシリカの外表面に結合されてなる」とは、感温性高分子が、官能基に共有結合やイオン結合等によって化学的に結合されてなる形態の他、物質同士の物理的吸着や絡み合い等によって物理的に結合されてなる形態の双方を含み得る。特に、本発明では、官能基の存在により、感温性高分子をポーラスシリカ外表面に化学的に結合させることが可能である。
【0009】
本発明の第1の態様においては、感温性高分子の量を、感温性吸着剤全体を基準(100質量%)として、5質量%以下とすることが可能である。本発明では、感温性高分子が官能基を介してシリカ外表面に結合されているので、感温性高分子がシリカ外表面を単に被覆する形態と比較して、感温性高分子の量を少量とすることができる。すなわち、官能基を介さずに感温性高分子をシリカ外表面に被覆しようとしても、感温性高分子の量が少ないと、当該感温性高分子をうまく被覆することはできない。例えば、Tianらの場合(上記非特許文献11)、高分子の量を21〜28質量%としており、或いは、Fuらの場合(上記非特許文献9)、高分子の量を24質量%としている。すなわち、従来の形態にあっては、シリカ外表面を非常に多くのポリマーで被覆していた。言い換えれば、官能基を介さずに感温性高分子を固定化する場合、感温性高分子の量を極めて多量にしなければ、固定化できなかったといえる。一方、本発明では、5質量%以下という極めて少量な官能性高分子量であっても、官能基を介することで、ポーラスシリカ外表面に適切に固定化できる。
【0010】
本発明の第1の態様において、官能基が、アミノ基、モノ置換アミノ基、ジ置換アミノ基又はビニル基から選ばれる少なくとも一種であることが好ましく、この中でも特に、ジメチルアミノ基であることが好ましい。これらの官能基によって、シリカ外表面に感温性高分子をより適切に結合させることができる。
【0011】
本発明の第1の態様において、感温性高分子が、(メタ)アクリルアミド誘導体由来の単量体単位を備えることが好ましく、特に、ポリ(N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド)であることが好ましい。これにより、温度変化による細孔径制御の精度が一層向上する。
【0012】
本発明の第1の態様において、ポーラスシリカが、細孔内部にイオン交換基を有していることが好ましい。特に、当該イオン交換基が、1〜3級アミノ基、4級アンモニウム基,カルボキシル基、又はスルホン酸基であることが好ましい。これにより、感温性吸着剤をイオン交換用途にも用いることが可能となる。
【0013】
本発明の第2の態様は、ポーラスシリカ骨格の外表面に官能基を付加する、官能基付加工程と、官能基に、温度変化に対応して体積が変化する感温性高分子を結合する、感温性高分子結合工程とを備える、感温性吸着剤の製造方法である。
【0014】
ここで、「ポーラスシリカ骨格」とは、ポーラスシリカとなり得るシリカ骨格を意味する。界面活性剤等を鋳型としてポーラスシリカ骨格を形成する場合は、当該界面活性剤等が残存していてもよい。「官能基に、…感温性高分子を結合する」とは、例えば、液中において、感温性高分子を形成する単量体を官能基付近で重合させることにより感温性高分子を官能基に化学的或いは物理的に結合する形態等、官能基に感温性高分子を結合可能なものであれば、いずれも適用可能である。
【0015】
本発明の第2の態様において、界面活性剤とシリカ源とを含む溶液を用いて、当該界面活性剤を鋳型としてポーラスシリカ骨格を形成し、その後、界面活性剤を除去することにより、細孔を形成するとよい。この場合、溶液がイオン交換基源をさらに含むものであることが好ましい。尚、「シリカ源」とは、ポーラスシリカの原料となる化合物を意味する。シリカ源としては従来公知のシリカ源を用いることができ、具体的にはテトラエトキシシラン(TEOS)等のケイ酸化合物が挙げられる。「イオン交換基源」とは、ポーラスシリカの細孔内に固定化されるイオン交換基を有する化合物を意味する。イオン交換基源としては従来公知のものを用いることができ、例えば、有機官能基を有するケイ酸化合物を用いることができる。
【0016】
本発明の第2の態様において、感温性高分子結合工程を、官能基が付加されたポーラスシリカ骨格を含む液中にて感温性高分子を形成する単量体を重合することにより、官能基に感温性高分子を結合する工程、とすることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ポーラスシリカの外表面に官能基を介して感温性高分子を結合させることにより、ポーラスシリカの外表面に均一かつ少量の感温性高分子が被覆される。これにより、温度制御によって、ポーラスシリカの細孔入口径を制御することが可能な感温性吸着剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】一実施形態に係る本発明の感温性吸着剤100の断面構造を概略的に示す図である。
【図2】感温性高分子の体積相転移について説明するための概略図である。
【図3】一実施形態に係る本発明の感温性吸着剤の製造方法の流れを説明するための図である。
【図4】一実施形態に係る本発明の感温性吸着剤の製造方法の流れを説明するための図である。
【図5】比較例の形態を概略的に示す図である。
【図6】比較例の形態を概略的に示す図である。
【図7】官能基20のみが付加されたポーラスシリカ10からなる複合体300についてのXRDパターンを示す図である。
【図8】官能基20のみが付加されたポーラスシリカ10からなる複合体300についてのFT−IRスペクトルを示す図である。
【図9】感温性吸着剤100及び感温性高分子を備えていない複合体400についてのSEM写真図である。
【図10】感温性吸着剤100及び感温性高分子を備えていない複合体400についてのXRDパターンを示す図である。
【図11】感温性吸着剤100及び感温性高分子を備えていない複合体400についてのFT−IRスペクトルを示す図である。
【図12】熱重量分析結果を示す図である。
【図13】感温性高分子を備えていない複合体400について、メチルオレンジに対する吸脱着特性を示す図である。
【図14】従来の方法により作製した複合体500’について、メチルオレンジに対する吸脱着特性を示す図である。
【図15】本発明の感温性吸着剤100について、メチルオレンジに対する吸脱着特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
1.感温性吸着剤
図1に、一実施形態に係る本発明の感温性吸着剤100の断面構造を概略的に示す。図1に示すように、感温性吸着剤100は、細孔10a、10a、…を有するポーラスシリカ10の外表面に、官能基20を介して、感温性高分子30が結合されている。また、細孔10a、10a、…の内壁には、イオン交換基40、40、…が修飾されている。
【0020】
1.1.ポーラスシリカ
ポーラスシリカ10は、細孔10a、10a、…を有するものであり、細孔10a、10a、…の内壁に特定の物質を吸着可能とされている。細孔10a、10a、…の径は特に限定されるものではないが、特にメソ孔(孔径が2〜50nm程度)が好ましい。すなわち、ポーラスシリカ10としてはメソポーラスシリカを用いるとよい。また、ポーラスシリカ10の比表面積についても特に限定されるものではなく、吸着剤として用い得る程度の比表面積を有していればよい。
【0021】
1.2.官能基
官能基20は、ポーラスシリカ10の外表面(ポーラスシリカ10の細孔10a、10a、…の内壁以外の表面であり、外観視で露出している表面)に付加されている。官能基20は、ポーラスシリカ10の外表面と後述する感温性高分子30とを接続・結合可能なものであれば、特に限定されるものではない。例えば、アミノ基、モノ置換アミノ基、ジ置換アミノ基又はビニル基から選ばれる少なくとも一種であることが好ましく、ジ置換アミノ基であることがより好ましい。特に、ジメチルアミノ基を用いるとよい。
【0022】
1.3.感温性高分子
感温性高分子30は、官能基20を介してポーラスシリカ10の外表面に結合されている。これは、感温性高分子30がポーラスシリカ10の外表面を単に被覆している(ポーラスシリカ10の外表面付近に単に存在している)従来の形態とは大きく異なる。感温性高分子30は、温度変化に応じて体積を変化させるものであれば特に限定されるものではない。特に、ポリ(N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド)やポリ(N−アクリロイルピペリジン)、ポリ(N−プロピルアクリルアミド)といったN−アルキル(メタ)アクリルアミド誘導体由来の単量体単位を備える高分子や、ポリ(N,N−ジエチルアクリルアミド)といったN,N−ジアルキルアクリルアミド由来の単量体単位を備える高分子を用いることが好ましい。例えば、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)は体積相転移温度が32℃付近であり、これよりも高温側においては感温性高分子30が収縮し、低温側においては感温性高分子30が膨潤する。すなわち、図2に示すように、体積相転移温度よりも高温側では、感温性高分子30は隙間の小さな密な網目構造を採るため、被吸着物質Xを透過させることはない(図2(A))。一方、体積相転移温度よりも低温側では、感温性高分子30は隙間の大きな疎な網目構造を採るため、被吸着物質Xを透過させ得る(図2(B))。本発明では、温度制御によって、感温性高分子30の隙間の大きさを制御し、これにより、ポーラスシリカ10の細孔10a、10a、…の入口径を制御するものとしている。
【0023】
感温性高分子30の量は、感温性吸着剤100を全体基準(100質量%)として、上限が5質量%以下、好ましくは3質量%以下、より好ましくは1質量%以下である。下限については特に限定されるものではなく、0質量%を超えていれば本発明の効果は奏される。特に0.5質量%以上が好ましい。本発明では、感温性高分子30が官能基20を介してポーラスシリカ10の外表面に結合された形態にあるため、感温性高分子30がポーラスシリカ10を単に被覆している従来の形態に比べて、少量の感温性高分子30でポーラスシリカ10の外表面を均一に被覆することが可能である。すなわち、感温性高分子30の厚みを容易に薄くすることができ、細孔10a、10a、…の入口径を精度よく制御することが可能となる。
【0024】
1.4.イオン交換基
本発明の感温性吸着剤100においては、ポーラスシリカ10の細孔10aの内壁に、イオン交換基40、40、…が修飾されている。これにより、感温性吸着剤100の細孔10a内壁において、被吸着物質を物理的に吸脱着させるだけでなく、化学的に吸脱着させることも可能となる。すなわち、イオン交換基40を修飾することにより、本発明の感温性吸着剤100をイオン交換体として機能させることができる。イオン交換基40としては、イオン交換基として従来より採用されているものを特に限定されることなく適用可能である。具体的には、1〜3級アミノ基、4級アンモニウム基,カルボキシル基、スルホン酸基等である。例えば、細孔10aの内壁にアミノ基を修飾した場合、本発明の感温性吸着剤100は、低pHにおいて陰イオンを吸着し、高pHにおいて陰イオンを脱離可能なイオン交換体として機能し得る。
【0025】
このように、本発明の感温性吸着剤100は、ポーラスシリカ10の外表面に、官能基20を介して、均一かつ少量の感温性高分子30が結合・被覆されているので、温度制御によって、ポーラスシリカ10の細孔10aの入口径を制御することが可能となる。また、細孔10aの内壁をイオン交換基40で修飾することにより、液中の金属イオン等をイオン交換可能なイオン交換体として用いることができる。当該イオン交換体は、イオン交換クロマトグラフィー用のカラム充填剤として好適に利用することができる。また、細孔10aの内部に所定の薬物を保持した感温性吸着剤100を体内に投与し、体内の所定の箇所にて温度変化によって薬物を脱離・放出させることも可能と考えられ、新規なドラッグデリバリーシステムとしての応用も可能である。
【0026】
2.感温性吸着剤の製造方法
図3、4に本発明の感温性吸着剤100の製造方法の一例(製造方法S10)を示す。図3、4に示すように、製造方法S10は、界面活性剤50を含む溶液を作製する工程S1と、作製した溶液にシリカ源及びイオン交換基源を添加し、界面活性剤50を鋳型(テンプレート)としてポーラスシリカ10の骨格を形成することにより複合体101を作製する工程S2と、複合体101の外表面に官能基20を付加し、官能基付加複合体102とする、官能基付加工程S3と、工程S3にて付加した官能基20に感温性高分子30が結合した感温性高分子結合体103を作製する、感温性高分子結合工程S4と、工程S4にて得られた感温性高分子結合体103から、界面活性剤50を除去し、本発明に係る感温性吸着剤100を得る工程S5と、を備えている。
【0027】
2.1.工程S1、工程S2
工程S1は、界面活性剤50を含む溶液を作製する工程であり、工程S2は、作製した溶液において、界面活性剤50をテンプレートとしてポーラスシリカ10の骨格を形成し、複合体101を作製する工程である。溶液中にて、界面活性剤50をテンプレートとしてポーラスシリカ10の骨格を形成する手法は公知のものであり、本発明でも従来の方法を適用することが可能である。すなわち、溶液(例えば、アンモニア水溶液等の水溶液)中に従来公知の界面活性剤(例えば、臭化セチルトリメチルアンモニウム等のテンプレートとして機能し得るもの)を添加し、ホットスターラー等を用いて加熱・攪拌することにより、界面活性剤50が溶解した溶液を作製する(工程S1)。その後、溶液の温度を下げ、シリカ源(例えば、オルトケイ酸テトラエチル等のケイ酸化合物)を加え、さらに、イオン交換基源(例えば、3−アミノプロピルトリエトキシシラン等のイオン交換基を備えたケイ酸化合物)を添加し、攪拌の後、懸濁液を濾過・洗浄し、沈殿物を乾燥することにより、複合体101を得ることができる(工程S2)。
【0028】
2.2.官能基付加工程S3
工程S3は、工程S1、S2を経て得られた複合体101の外表面に、官能基20を付加し、官能基付加複合体102とする工程である。工程S3は、官能基付加複合体102を作製可能であれば特に限定されるものではないが、例えば、溶媒に複合体101と官能基源とを加えて攪拌し、懸濁液を濾過・洗浄し、沈殿物を乾燥して官能基付加複合体102とする工程、とすることができる。工程S3にて用いる溶媒としては、例えば、トルエン等の有機溶媒が挙げられる。また、工程S3にて用いる官能基源としては、例えば、3−ジメチルアミノプロピルジエトキシメチルシラン、3−(N−アクリロイルアミノ)プロピルトリエトキシシラン、アリルトリクロロシラン、アリルトリエトキシシラン等の所定の官能基を備えたケイ酸化合物が挙げられる。
【0029】
2.3.感温性高分子結合工程S4
工程S4は、工程S3を経て得られた官能基付加複合体102の官能基20に感温性高分子30が結合された感温性高分子結合体103を作製する工程である。工程S4は、感温性高分子結合体103を作製可能であれば特に限定されるものではないが、例えば、感温性高分子30を形成可能な単量体を溶解させた溶液に、官能基付加複合体102を添加して懸濁させ、必要に応じて懸濁液中の溶存酸素を除去し、公知の重合開始剤を添加して重合反応を行うことで感温性高分子30を生成させつつ、感温性高分子30を化学的或いは物理的に官能基20に結合させることにより、感温性高分子結合体103を作製する工程、とすることができる。特に、感温性高分子30を官能基20に化学的に結合させる形態がよい。工程S4にて用いる単量体としては、例えば、N−イソプロピルアクリルアミド、N−アクリロイルピペリジン、N−プロピルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド等のアクリルアミド誘導体或いはメタクリルアミド誘導体が挙げられる。工程S4にて単量体を溶解させる溶媒としては、例えば水が挙げられる。重合開始剤としては従来公知のものを広く適用でき、例えば、過硫酸アンモニウム等を用いればよい。
【0030】
2.4.工程S5
工程S5は、工程S4を経て得られた感温性高分子結合体103から、界面活性剤50を除去し、本発明に係る感温性吸着剤100を得る工程である。工程S5は、界面活性剤50を適切に除去可能であれば特に限定されるものではないが、例えば、感温性高分子結合体103を酸性溶液(例えば、塩酸)に加えて攪拌することにより、界面活性剤50を酸性溶液中へと溶出させ、その後、溶液を濾過し、抽出した固形分を洗浄・乾燥することにより感温性吸着剤100を得る工程、とすることができる。工程S5においては、界面活性剤50を除去することによって細孔10aを形成する。当該細孔10aの内壁にはイオン交換基40、40、…が残され、細孔10aの内壁にイオン交換基40、40、…が均一に修飾された状態となる。
【0031】
このように、本発明に係る感温性吸着剤の製造方法S10においては、いわゆるco-condensation法を用いてポーラスシリカ10の細孔10aの内部にイオン交換基40を修飾するものとし、また、所定の方法にてポーラスシリカ10の外表面に官能基20を付加し、当該官能基20を介して感温性高分子30を結合させている。これにより、感温性高分子30を薄く被覆・結合させることが可能となるとともに、得られた感温性吸着剤100をイオン交換体として機能させることが可能となる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例に基づいて、本発明の感温性吸着剤についてさらに詳述する。尚、以下の説明においては、分かりやすさため、図4にて使用した符号を適宜用いることとする。
【0033】
<感温性吸着剤100の作製>
以下の流れで、実施例に係る感温性吸着剤100を作製した。
【0034】
(複合体101の作製)
複合体101の作製は、Grunらの方法(M. Grun, K.K. Unger, A. Matsumoto, K. Tsutsumi, Novel pathways for the preparation of mesoporous MCM41 materials: control of porosity and morphology, Microporous and Mesoporous Mater., (1999) 207-216)に従った。
界面活性剤50としてアルキル鎖の炭素数が16の臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTMABr)を用いた。蒸留水120ml(6.66mol)と28%アンモニア水9.5ml(0.14mol)の混合溶液に、6.6mmolのCTMABrを加え、80℃に設定したホットスターラーでCTMABrが溶解するまで攪拌した。界面活性剤溶液が無色透明になったら、溶液の温度を25℃に下げ、シリカ源としてオルトケイ酸テトラエチル(TEOS)を9.9ml(47.5mmol)加え、さらに3−アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)を0.5ml(2.5mmol)添加し、25℃で1時間攪拌した。攪拌終了後、懸濁液を吸引濾過・水洗浄し、固形物を60℃で24時間乾燥し、イオン交換基40としてアミノ基を修飾した複合体101を得た。
【0035】
(官能基付加複合体102の作製)
トルエン120ml中に1gの複合体101と3−ジメチルアミノプロピルジエトキシメチルシラン(信越化学工業社製、LS−3675)を0.1〜1ml添加し、約200℃で4時間還流しながら攪拌した。攪拌終了後、懸濁液を吸引濾過・エタノール洗浄し、固形物を60℃で24時間乾燥し、官能基20としてジメチルアミノ基を付加した官能基付加複合体102を得た。
【0036】
(感温性高分子結合体103の作製)
3g(26.5mmol)のN−イソプロピルアクリルアミド(NIPAM)を30mlの蒸留水に溶解した。その後、NIPAM水溶液に0.3gの官能基付加複合体102を加え入れ、懸濁液とした。懸濁液中の溶存酸素を除去するために、窒素を吹きこんだ。10分後、懸濁液に、ラジカル重合開始剤として過硫酸アンモニウム(APS)水溶液(濃度:20mg/ml)を3ml混合し、重合反応を行った。反応中は溶液の温度を30℃に保ち、また、窒素を導入し続けた。4時間の攪拌後、濾過・水洗して生成物を抽出し、60℃で24時間乾燥し、感温性高分子30としてポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)を備えた感温性高分子結合体103を得た。
【0037】
(界面活性剤50の除去、感温性吸着剤100の作製)
感温性高分子結合体103から界面活性剤50を除去するために、感温性高分子結合体103を濃塩酸3.5mlとエタノール150mlとの混合液に加え入れ、75℃の恒温槽で1時間還流しながら攪拌した。攪拌終了後、吸引濾過・エタノール洗浄し、60℃、24時間乾燥することで固形分を得た。その後、当該固形分について、再度、濃塩酸とエタノールとの混合液に加え入れ、攪拌、吸引濾過・エタノール洗浄し、乾燥することによって界面活性剤50を完全に除去した。これにより、ポーラスシリカ10の細孔10aの内壁にイオン交換基40としてアミノ基を備え、外表面に官能基20としてジメチルアミノ基を備えるとともに、当該ジメチルアミノ基を介して感温性高分子としてポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)が結合された感温性吸着剤100を得た。
【0038】
上記のようにして得られた感温性吸着剤100の他、比較例として、図5(A)に示すような、ポーラスシリカ10の細孔10aの内壁にイオン交換基40としてアミノ基を備えるのみの複合体200、図5(B)に示すような、感温性高分子30及びイオン交換基40を備えない複合体300、図5(C)に示すような、感温性高分子30を備えない複合体400を作製した。すなわち、複合体101から界面活性剤50を除去したものを複合体200とし、界面活性剤50を鋳型としてイオン交換基源を添加せずにシリカ源のみを添加してなるポーラスシリカ骨格の外表面に、官能基20を付加し、界面活性剤50を除去したものを複合体300とし、官能基付加複合体102から界面活性剤50を除去したものを複合体400とした。
【0039】
さらに、官能基20を介さずにポーラスシリカ10に感温性高分子30を被覆した複合体(例えば、図5(D)に示されるような複合体500)を作製するべく、調製を行った。すなわち、NIPAM水溶液に上記と同様にして作製した複合体101を加え入れ、懸濁液とした後、重合開始剤を用いてNIPAMを重合させた。その後、界面活性剤50の除去を行った。NIPAM水溶液の濃度や複合体の添加量等は、上記と同様の条件とした。すなわち、官能基の付加を行わない点以外は、上記と同様の操作を行った。しかしながら、後述するように、得られた複合体の評価を行ったところ、上記操作では、感温性高分子30がポーラスシリカ10の外表面にうまく被覆できておらず、図6に示す複合体500’のような形態をとっているものと考えられた。
【0040】
<感温性吸着剤100の評価方法>
上記実施例に係る感温性吸着剤100や比較例に係る複合体について、以下のような評価を行った。
【0041】
(キャラクタリゼーション)
(1)走査電子顕微鏡(日本電子社製、JSM−6510LV)を用いて表面形態の観察を行った。観察の際は、加速電圧を30kVとした。
(2)X線回折装置(Rigaku社製、Rigaku RAD−C回折計)を用いてX線回折パターンを得た。測定条件は、CuKα線を用い、発散スリット1.0degree、受光スリット0.30mm、スキャンスピード2.000°/min、2θ=1.500°から10.000°、サンプリング幅を0.20°とした。
(3)FT−IR装置(Perkin Elmer社製、FT−IR2000)を用いてIRスペクトルパターンを得た。測定条件は、サンプル1mgに対してKBr99mgを混合して直径10mmのペレットを作製し、透過法でスキャン数16回、分解能4cm−1とした。
(4)熱重量分析計(Bruker社製、TG−DTA 2000SA)を用いて、熱重量分析を行った。測定条件は、空気雰囲気、昇温速度10℃/min、温度範囲を室温から800℃とした。
(5)CHN元素分析装置(ヤナコ分析工業社製、HCN corder MT−700HCN)を用いて、CHN元素分析を行った。
【0042】
(メチルオレンジイオン交換能)
0.1gのサンプルを100ppmのメチルオレンジ水溶液100mlに加えた。溶液温度は25℃又は40℃とした。サンプル投入後、アンモニア水又は塩酸を滴下することにより、溶液のpHを約9.5又は2.5に調整した。30分毎に溶液を2mlサンプリングし、pH調整を繰り返した。サンプリングした溶液は遠心分離し、上澄み液を0.2mlだけ採取し、塩酸で希釈することによりpHを調整したのち、分光光度計(日本分光社製、UV−Vis V630)を用いて510nmの吸光度を測定することによりメチルオレンジの吸着量を算出した。尚、遠心分離後に残った懸濁液はイオン交換実験溶液に戻した。
【0043】
<評価結果>
(アミノ基量及びジメチルアミノ基量の定量)
まず、複合体200のアミノ基量を元素分析によって算出した。元素分析測定の結果、複合体200における窒素量は0.87wt%であり、これがすべてアミノ基由来であると仮定すると、アミノ基量は0.62mmol/gとなる。この量は、仕込みのAPTES量から算出されるアミノ基量(0.80mmol/g)の78%に相当した。また、複合体300のジメチルアミノ基量を元素分析によって算出した。表1に3−ジメチルアミノプロピルジエトキシメチルシラン(LS−3675)の仕込み量とジメチルアミノ基の固定化量との関係を示す。LS−3675の添加量が0.1mlの場合、固定化されたジメチルアミノ基量は0.65mmol/gであり、仕込み値である0.71mmol/gの92%が固定化された。また、LS−3675の添加量が少量である場合、添加量を増加させると固定化されるジメチルアミノ基量もわずかではあるが増加することが分かった。しかしながら、LS−3675を1ml以上添加しても固定化されるジメチルアミノ基量はほとんど増加しないことが分かった。
【0044】
【表1】
【0045】
(構造解析結果)
図7、8に、複合体300のXRDパターン、IRスペクトルをそれぞれ示す。尚、図中、L(x)MSとは、LS−3675の添加量(仕込み量)がx(ml)である複合体300を意味する。図より、複合体300は、六方晶系に帰属される構造を有していることが分かった。また、XRDパターンには、4つの回折線が見られ、それぞれ(100)、(110)、(200)、(210)面に相当する。これらの試料の回折角度に大きな違いは見られず、(100)面間隔d100は、いずれの試料でも約40Åであることが分かった。この結果は、ジメチルアミノ基を固定化しても、ポーラスシリカ10の骨格構造に影響はほとんどないことを示している。一方、図8から、ジメチルアミノ基を固定化してもC−Nに関する吸収は認められなかったが、1480cm−1付近に吸収ピークが現れており、これはメソポーラスシリカには見られないものである。1480cm−1付近の吸収ピークは、LS−3675のC−H変角振動に起因するものと考えられる。また1480cm−1付近の吸収ピークはLS−3675の添加量を増加させてもほとんど変化していない。これは、上述したように、LS−3675の添加量を増加させても固定化されるジメチルアミノ基の量がほとんど変化しないことと一致している。
【0046】
図9に複合体400及び感温性吸着剤100のSEM写真を示す。図9(A)が複合体400について、図9(B)が感温性吸着剤100について示している。双方ともに粒子径1μm程度の六角形状の粒子が凝集していることが分かる。一部、棒状の粒子も認められた。しかし、外観上は感温性高分子30の有無による形状の違いは認められなかった。感温性吸着剤100において、感温性高分子30の結合・被覆量が極めて少ないため、外観に影響を与えていないものと考えられる。
【0047】
図10に複合体400及び感温性吸着剤100のXRDパターンを示す。感温性高分子30の結合・被覆によって、わずかではあるが回折強度の低下が認められた。さらに、感温性吸着剤100の場合、(210)回折線がほとんど現れていない。このことから、感温性高分子30を結合・被覆することにより、若干の構造規則性の乱れが生じていると考えられる。
【0048】
図11に複合体400及び感温性吸着剤100のFT−IRスペクトルを示す。両スペクトルともに非常によく似ており、感温性高分子30を結合・被覆しても、感温性高分子30に特徴的なN−H伸縮吸収(1551cm−1)、C=O伸縮吸収(1633cm−1)は認められなかった。このことは、感温性高分子30の結合・被覆量が極めて少ないことを示唆している。
【0049】
(熱重量分析結果)
図12に複合体400及び感温性吸着剤100の熱重量曲線を示す。双方ともに100℃から重量減少が起こり、500℃以上の温度では緩やかな重量減少を示した。感温性高分子30を単独で熱重量分析すると、320℃で大きな重量減少を示す。これは高分子が分解していることを示している。実際、320℃付近から複合体400と感温性吸着剤100との重量減少量は大きく変わっている。したがって、この重量減少量の違いが固定化された感温性高分子30の量と考えられる。図より、感温性吸着剤100における感温性高分子30の固定化量を見積もると、5質量%であることが分かった。また、複合体400と感温性吸着剤100について元素分析により窒素量を測定し、当該窒素量から感温性吸着剤100における感温性高分子30の固定化量を算出したところ5質量%となり、熱重量分析の結果と一致した。
【0050】
(吸脱着実験結果)
図13に複合体400を用いた場合におけるメチルオレンジイオン交換吸着量のpH依存性を示す。ここでは、溶液温度を40℃とした。尚、仕込んだメチルオレンジがすべて吸着するとイオン交換量は約0.3mmol/gとなり、これはイオン交換サイトであるアミノ基量0.62mmol/gの約半分となる。複合体400の場合、感温性高分子30が固定化されていないので、通常の陰イオン交換体と同様の可逆的な吸脱着挙動を示すはずである。実際、図より、pH2.5の時は、約0.25mmol/gのメチルオレンジを吸着し、pH9.5の時はメチルオレンジをほぼ完全に脱着したことが確認された。一方、溶液中に存在するすべてのメチルオレンジが吸着されなかったのは、イオン交換時間を30分という短時間としたためであると考えられる。
【0051】
図14に複合体500’を用いた場合におけるメチルオレンジイオン交換吸着量のpH依存性を示す。ここでも溶液温度は40℃とした。複合体500’の場合、ジメチルアミノ基が存在せず、感温性高分子30がポーラスシリカ10に化学的に固定化されてはおらず、感温性高分30がポーラスシリカ10の外表面に単に物理的に接触している状態と考えられた。そして、溶液温度40℃においては、感温性高分子30は密な構造をとって吸着種を通さないため、感温性高分子30がポーラスシリカ10にただ単に物理的に接触している場合でも、感温性高分子30が障害となって、吸着挙動に大きな変化が表れるであろうと考えられた。しかしながら、結果を見てみると、複合体500’の場合も複合体400の場合と同様の可逆的吸脱着挙動を示した。このことは、複合体500’においては、感温性高分子30がポーラスシリカ10とただ単に共存しているだけであり、感温性高分子30がポーラスシリカ10の外表面にほとんど存在しておらず(図6)、感温性高分子30が、吸着挙動にほとんど影響を及ぼさなかったことを示唆している。すなわち、感温性高分子30の濃度(NIPAM水溶液の濃度)が低すぎたため、シリカ10外表面に感温性高分子30がうまく被覆されておらず、吸着挙動において、感温性高分子30の影響が現れなかったものと考えられる。これにより、感温性高分子30を、官能基20を介さずにシリカ10外表面に単に物理被覆する場合は、感温性高分子30の量を極めて多量とせざるを得ないことが分かった。一方、吸着量については約0.2mmol/gと複合体400に比べて若干の低下が認められた。これは感温性高分子30がポーラスシリカ10と共存していることにより、液中におけるメチルオレンジの拡散に抵抗が生じたため、30分という短時間では、メチルオレンジが吸着スポットへと十分に到達できなかったものと考えられる。
【0052】
図15に感温性吸着剤100を用いた場合におけるメチルオレンジイオン交換吸着量のpH依存性を示す。ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)の相転移温度は約32℃であるが、この温度はポーラスシリカ10と複合化させてもほとんど変化しない。ここでは、溶液温度を40℃、25℃、40℃と順に変化させて吸脱着実験を行った。その結果、25℃では、複合体400、500と同様、メチルオレンジはpH変化に伴い、可逆的に吸脱着を繰り返した。一方、40℃では、吸着量は最大でも0.05mmol/gとなり、吸脱着しなくなった。このことは、感温性高分子30がポーラスシリカ10の細孔10aの入口付近に存在しており、ポーラスシリカ10の細孔10aの入り口を閉じていることを示している。すなわち、溶液温度が感温性高分子30の相転移温度よりも高い場合、感温性高分子30中に存在する水和水が脱水和し、感温性高分子が収縮して密な網目構造を採る結果、細孔10a内へメチルオレンジが侵入することを防いだものと考えられる。一方、溶液温度が感温性高分子30の相転移温度よりも低い場合は、感温性高分子30が再度水和して膨潤し、疎な網目構造を採る結果、メチルオレンジは細孔10a内へと容易に侵入することが可能となり、イオン交換基40に容易に吸着できるようになったものと考えられる。尚、感温性高分子30がポーラスシリカ10の外表面に結合していることは、メチルオレンジの吸着量が0.15mmol/g程度に低下していることからも明らかである。このように、本発明によれば、ポーラスシリカ10の外表面に、官能基20を介して感温性高分子30を結合することによって、少量の感温性高分子30であっても、ポーラスシリカ10の外表面に均一に固定化することができ、溶液温度の変化により吸脱着挙動を変化させることが可能となる。
【0053】
以上、現時点において、最も実践的であり、且つ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨あるいは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う感温性吸着剤及びその製造方法もまた本発明の技術範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
【0054】
例えば、上記説明では、感温性吸着剤100において、イオン交換基40を必須の構成として説明したが、本発明はこの形態に限定されるものではない。感温性吸着剤100の用途に応じて、細孔10aの内部をイオン交換基40で修飾してもよいし、しなくてもよい。ただし、感温性吸着剤100をイオン交換体として好適に機能させる観点からは、イオン交換基40を備えた感温性吸着剤100とすることが好ましい。
【0055】
また、上記説明では、感温性吸着剤100の製造方法S10において、工程S1、S2にていわゆるco-condensation法を用いるものとして説明したが、本発明はこの形態に限定されるものではない。いわゆるgrafting法等を用いることも可能である。ただし、細孔10a内のイオン交換基40の量を容易に制御でき、且つ、感温性吸着剤100を容易に製造可能な観点からは、工程S1、S2においていわゆるco-condensation法を用いることが好ましい。
【0056】
また、上記説明では、感温性吸着剤100の製造方法S10において、感温性高分子30を結合する工程S4を、液中にて、官能基付加複合体102の存在下、感温性高分子30を形成する単量体を重合させるものとして説明したが、感温性高分子30を官能基20に結合可能なものであれば、本発明はいずれの方法を用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明に係る感温性吸着剤は、ポーラスシリカの細孔入口径を制御可能であり、細孔入口径を変化させることで、吸着種の選択分離等を効率的に行うことができる。例えば、イオン交換クロマトグラフィー用のカラム充填剤として好適に利用することができる。また、本発明に係る感温性吸着剤の諸特性を応用することにより、細孔の内部に所定の薬物を保持した感温性吸着剤を体内に投与し、体内の所定の箇所にて温度変化によって薬物を脱離・放出させることも可能と考えられ、新規ドラッグデリバリーシステムとしての応用も可能である。
【符号の説明】
【0058】
10 ポーラスシリカ
20 官能基
30 感温性高分子
40 イオン交換基
50 界面活性剤
100 感温性吸着剤
101 複合体
102 官能基付加複合体
103 感温性高分子結合体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度変化に対応して体積が変化する感温性高分子が、官能基を介して、ポーラスシリカの外表面に結合されてなる、感温性吸着剤。
【請求項2】
前記感温性高分子の量が、感温性吸着剤全体を基準(100質量%)として、5質量%以下である、請求項1に記載の感温性吸着剤。
【請求項3】
前記官能基が、アミノ基、モノ置換アミノ基、ジ置換アミノ基又はビニル基から選ばれる少なくとも一種である、請求項1又は2に記載の感温性吸着剤。
【請求項4】
前記官能基が、ジメチルアミノ基である、請求項3に記載の感温性吸着剤。
【請求項5】
前記感温性高分子が、(メタ)アクリルアミド誘導体由来の単量体単位を備える、請求項1〜4のいずれかに記載の感温性吸着剤。
【請求項6】
前記感温性高分子が、ポリ(N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド)である、請求項5に記載の感温性吸着剤。
【請求項7】
前記ポーラスシリカの細孔内部にイオン交換基を有している、請求項1〜6のいずれかに記載の感温性吸着剤。
【請求項8】
前記イオン交換基が、1〜3級アミノ基、4級アンモニウム基,カルボキシル基、又はスルホン酸基である、請求項7に記載の感温性吸着剤。
【請求項9】
ポーラスシリカ骨格の外表面に官能基を付加する、官能基付加工程と、
前記官能基に、温度変化に対応して体積が変化する感温性高分子を結合する、感温性高分子結合工程と、
を備える、感温性吸着剤の製造方法。
【請求項10】
界面活性剤とシリカ源とを含む溶液を用いて、該界面活性剤を鋳型として前記ポーラスシリカ骨格を形成し、
その後、前記界面活性剤を除去することにより、細孔を形成する、請求項9に記載の感温性吸着剤の製造方法。
【請求項11】
前記溶液が前記界面活性剤及び前記シリカ源に加えて、イオン交換基源をさらに含む、請求項10に記載の感温性吸着剤の製造方法。
【請求項12】
前記感温性高分子結合工程において、前記官能基が付加された前記ポーラスシリカ骨格を含む液中にて、前記感温性高分子を形成する単量体を重合することにより、前記官能基に前記感温性高分子を結合する、請求項9〜11のいずれかに記載の感温性吸着剤の製造方法。
【請求項1】
温度変化に対応して体積が変化する感温性高分子が、官能基を介して、ポーラスシリカの外表面に結合されてなる、感温性吸着剤。
【請求項2】
前記感温性高分子の量が、感温性吸着剤全体を基準(100質量%)として、5質量%以下である、請求項1に記載の感温性吸着剤。
【請求項3】
前記官能基が、アミノ基、モノ置換アミノ基、ジ置換アミノ基又はビニル基から選ばれる少なくとも一種である、請求項1又は2に記載の感温性吸着剤。
【請求項4】
前記官能基が、ジメチルアミノ基である、請求項3に記載の感温性吸着剤。
【請求項5】
前記感温性高分子が、(メタ)アクリルアミド誘導体由来の単量体単位を備える、請求項1〜4のいずれかに記載の感温性吸着剤。
【請求項6】
前記感温性高分子が、ポリ(N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド)である、請求項5に記載の感温性吸着剤。
【請求項7】
前記ポーラスシリカの細孔内部にイオン交換基を有している、請求項1〜6のいずれかに記載の感温性吸着剤。
【請求項8】
前記イオン交換基が、1〜3級アミノ基、4級アンモニウム基,カルボキシル基、又はスルホン酸基である、請求項7に記載の感温性吸着剤。
【請求項9】
ポーラスシリカ骨格の外表面に官能基を付加する、官能基付加工程と、
前記官能基に、温度変化に対応して体積が変化する感温性高分子を結合する、感温性高分子結合工程と、
を備える、感温性吸着剤の製造方法。
【請求項10】
界面活性剤とシリカ源とを含む溶液を用いて、該界面活性剤を鋳型として前記ポーラスシリカ骨格を形成し、
その後、前記界面活性剤を除去することにより、細孔を形成する、請求項9に記載の感温性吸着剤の製造方法。
【請求項11】
前記溶液が前記界面活性剤及び前記シリカ源に加えて、イオン交換基源をさらに含む、請求項10に記載の感温性吸着剤の製造方法。
【請求項12】
前記感温性高分子結合工程において、前記官能基が付加された前記ポーラスシリカ骨格を含む液中にて、前記感温性高分子を形成する単量体を重合することにより、前記官能基に前記感温性高分子を結合する、請求項9〜11のいずれかに記載の感温性吸着剤の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図13】
【図14】
【図15】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図13】
【図14】
【図15】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−35179(P2012−35179A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−176475(P2010−176475)
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年2月10日 国立大学法人秋田大学 工学資源学部環境物質工学科発行の「秋田大学卒業論文発表会 平成21年度工学資源学部環境物質工学科 卒業論文発表会要旨集」に発表
【出願人】(504409543)国立大学法人秋田大学 (210)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年2月10日 国立大学法人秋田大学 工学資源学部環境物質工学科発行の「秋田大学卒業論文発表会 平成21年度工学資源学部環境物質工学科 卒業論文発表会要旨集」に発表
【出願人】(504409543)国立大学法人秋田大学 (210)
【Fターム(参考)】
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