説明

感震器

【課題】水平度依存性が少なく、動作回数が半永久的であり、さらに、複雑な信号処理を必要とせず、安価で、消費電力も少ない感震器を提供する。
【解決手段】球状の容器と、容器に、容器の一部に空気空間を残した状態で充填された液体と、液体に浸漬した状態で前記容器内に配置された高感度感温素子とを備えており、高感度感温素子の測定電流による自己発熱により、液体を加熱して高感度感温素子の周囲に高温域を形成し、加震時の液体の流動による高感度感温素子周囲の温度の低下を検知することを特徴とする感震器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震等の加震時の振動を検知する感震器に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の感震器としては、機械型の感震器や加速度センサ型の感震器が知られている(例えば、特許文献1、特許文献2)。
【0003】
図2は、従来の機械型の感震器を模式的に示した図であって、(a)は定常時の状態を示す図、(b)は加震時の状態を示す図である。図2に示すように、機械型の感震器100は、電気接点101を鋼球102により開閉するように構成されている。そして、定常時は、図2(a)に示すように、電気接点101が閉の状態にされており、加震時に、図2(b)に示すように、鋼球102の移動により電気接点101が開放されるように構成されている。
【0004】
図3は、加速度センサ型の感震器のブロック図である。図3に示すように、加速度センサ型の感震器200は、加速度センサ201およびセンサドライバ・マイコン202を備えており、図4に示すように、加震時には、加震の大きさそのものを時系列で測定して出力するように構成されている。なお、図4は、縦軸に出力をとり、横軸に時間をとったときの加速度の時系列データを示す図であり、(a)は定常時のデータを示す図、(b)は加震時のデータを示す図である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−72778号公報
【特許文献2】特開平11−173447号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
機械式の感震器100は、単純構造で、低価格化が容易となり、また、機械動作であるため、待機電力が不要になる。しかし、設置時の水平依存性が非常に大きいため、設置の水平度によっては動作不能になり、また、機械式接点であるため、動作回数が限定されるという問題がある。
【0007】
一方、加速度センサ型の感震器200は、設置時の水平依存性を考慮しなくてもよく、また、加震の大きさそのものが時系列に分かり、超高感度品も容易に作ることができる。しかし、一般的に高価であり、オーバースペック(過剰性能)になることが多い。また、複雑な信号処理が必要であり、これに伴い待機電力がドライバ、マイコンで多く消費されるため、消費電力も多くなるという問題がある。
【0008】
本発明は、これらの問題に鑑み、水平度依存性が少なく、動作回数が半永久的であり、さらに、オーバースペックにならず、また複雑な信号処理を必要とせず、安価で、消費電力も少ない感震器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意検討の結果、以下に示す発明により、上記の課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
以下、各請求項の発明を説明する。
【0011】
請求項1に記載の発明は、
球状の容器と、
前記容器に、前記容器の一部に空気空間を残した状態で充填された液体と、
前記液体に浸漬した状態で前記容器内に配置された高感度感温素子と
を備えており、
前記高感度感温素子の測定電流による自己発熱により、前記液体を加熱して前記高感度感温素子の周囲に高温域を形成し、
加震時の前記液体の流動による前記高感度感温素子周囲の温度の低下を検知する
ことを特徴とする感震器である。
【0012】
請求項2に記載の発明は、
前記高感度感温素子が、前記球状の容器の球心近傍に配置されている
ことを特徴とする請求項1に記載の感震器である。
【0013】
請求項3に記載の発明は、
前記液体が、蒸気圧の低い液体である
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の感震器である。
【0014】
請求項4に記載の発明は、
前記高感度感温素子の温度変化を認識する回路を備えている
ことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の感震器である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、水平度依存性が少なく、動作回数が半永久的であり、さらに、オーバースペックにならず、また複雑な信号処理を必要とせず、安価で、消費電力も少ない感震器を提供することできる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態に係る感震器を模式的に示す図である。
【図2】機械型の感震器を模式的に示した図であって、(a)は定常時の状態を示す図、(b)は加震時の状態を示す図である。
【図3】加速度センサ型の感震器のブロック図である。
【図4】縦軸に出力をとり、横軸に時間をとったときの加速度の時系列データを示す図であり、(a)は定常時のデータを示す図、(b)は加震時のデータを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施の形態に基づいて説明する。
【0018】
1.感震器の構成
図1は、本発明の実施の形態に係る感震器を模式的に示す図である。図1に示すように、感震器1は、球状の容器2と、容器2に充填される液体3と、液体3中に漬浸される高感度感温素子の一種であるサーミスタ5と、微分回路、増幅回路および温度補償回路を有する回路部8と、サーミスタ5の検知信号により振動を報知する報知手段(図示省略)とを備えている。高感度感温素子としては、サーミスタの外、高精度白金測温抵抗体、熱電対などを用いることも好ましい。
【0019】
容器2は、空球体である。材質としては、ステンレス、樹脂、ガラス等が好ましいが、液体を安定して保持できる限り、特に制限されない。
【0020】
液体3としては、シリコーン油等の蒸気圧の低い液体が使用される。
【0021】
容器2内の液体3の上部には、空気空間部4が形成されており、容器2が加震されたときに液体3に流動性を持たせている。
【0022】
サーミスタ5は、サーミスタ5のリード線5aに接続された状態で容器2の中心部に配置されている。リード線5aは、容器2の上部に形成された封止部7を通って回路部8に接続されている。なお、2aは貫通孔である。
【0023】
リード線5aの周囲には、流れ止め6が配置されている。流れ止め6は、所定の強度を有する中空管で形成され、内部にリード線5aが挿通され、容器2に封止部7により固定されている。封止部7は、球状の容器の材質に応じた材料を用いて封止がされている。例えば、容器が樹脂製あるいはステンレス製であれば、樹脂封止などが、ガラス製の容器であれば、ガラス封止などが採用される。
【0024】
流れ止め6は、加震時に容器2が揺れた場合でも、サーミスタ5の位置が液体3の流体圧により移動しないようにしている。なお、強度のあるリード線5aを使用する場合は、流れ止め6は不要になる。
【0025】
2.感震器の動作
前記のように構成される感震器1の基本的な動作を説明する。
【0026】
サーミスタ5には、常に測定電流が流されることにより、定常時と加震時における温度差を認識できるようになっている。
【0027】
このため、サーミスタ5は、測定電流による自己発熱を起こしてサーミスタ5の周囲の液体3を加熱する。
【0028】
したがって、定常時には、サーミスタ5の周囲に高温域(図1の一点鎖線で示す領域内)を形成して、サーミスタ5は高温度を検知することになる。
【0029】
一方、加震時には、液体3が容器2の振動により流動するため、高温域の液体3とその周囲にあった低温域の液体3とが混ざり合う。このため、サーミスタ5の周囲の高温域の液体3の温度が低下する。そして、サーミスタ5の定常時と加震時における温度変化量を微分回路で検出し、増幅回路で増幅した後、温度補償回路で温度変化の誤差を修正し、定常時の温度との差を精度高く認識し、適宜、報知手段を通じて監視者に報知する。
【0030】
3.本実施の形態の効果
(1)本実施の形態においては、上部に空気空間部が設けられた球状の容器内の液体中にサーミスタのような高感度感温素子を浸漬して、液体の流動による高感度感温素子の温度変化を利用する方式が採用されている。そして、加震時に感震器が揺れた場合でも、空気空間部は常に上方にあり、高感度感温素子は常に液体中に浸漬されている。
【0031】
このため、地震になどによる揺れの方向に影響されず、常に正確な検知が可能となる。即ち、従来の機械型の感震器の場合、水平に設置した場合でも、揺れの方向が上下の場合と、左右の場合とで検知結果に差が出やすい。また、加速度センサ型の感震器の場合、設置時の水平依存性は比較的考慮しなくてもよいが、揺れ方向が上下の場合と、左右の場合とで検知結果に差が出やすい。しかし、本実施の形態においては、液体の流動による高感度感温素子の温度変化を利用する方式が採用されているため、揺れの方向に影響されず、常に正確な検知が可能となる。
【0032】
さらに、容器が球状であるため、設置方向に拘わらず、正確な検知が可能になる。特に、高感度感温素子が、球状の容器の球心近傍に配置されている場合には、揺れ方向に対する方向依存性が全くなくなるため、極めて正確な検知が可能となる。
【0033】
このように、本実施の形態の感震器には、設置の水平依存性だけでなく、揺れ方向に対する方向依存性が全くなくなるため、極めて正確な検知が可能となる。
【0034】
(2)定常時と加震時の温度変化が認識できるだけでよいため、高感度感温素子からの信号は、微分回路、増幅回路、温度補償回路程度の簡単な回路で処理するだけで済み、消費電力が少なく100μW以下での動作可能となるため、乾電池で長時間動作が可能となる。
【0035】
(3)高感度感温素子の測定電流による自己発熱により液体を加熱しているため、別途加熱手段を設ける必要がなく、構造が簡単であり、消費電力も少なくて済む。
【0036】
(4)機械式接点をなくす一方、容器内の液体に浸漬した高感度感温素子により加震時の温度の低下を検知する単純な方式であるため、動作回数が半永久的になる。
【0037】
(5)前記の通り、高感度感温素子の測定電流を利用した自己発熱による液体加熱方式を採用しており、高感度感温素子を液体に浸漬させるだけの単純な構造であり、処理回路も単純な回路で済むため、安価であり、定常時と加震時の温度変化を検知するだけであるため、加速度センサ型のような複雑な信号処理を必要としない。
【0038】
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、上記の実施の形態に対して種々の変更を加えることができる。
【符号の説明】
【0039】
1 感震器
2 容器
2a 貫通孔
3 液体
4 空気空間部
5 サーミスタ
5a リード線
6 流れ止め
7 封止部
8 回路部
100 機械型の感震器
101 電気接点
102 鋼球
200 加速度センサ型の感震器
201 加速度センサ
202 センサドライバ・マイコン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
球状の容器と、
前記容器に、前記容器の一部に空気空間を残した状態で充填された液体と、
前記液体に浸漬した状態で前記容器内に配置された高感度感温素子と
を備えており、
前記高感度感温素子の測定電流による自己発熱により、前記液体を加熱して前記高感度感温素子の周囲に高温域を形成し、
加震時の前記液体の流動による前記高感度感温素子周囲の温度の低下を検知する
ことを特徴とする感震器。
【請求項2】
前記高感度感温素子が、前記球状の容器の球心近傍に配置されている
ことを特徴とする請求項1に記載の感震器。
【請求項3】
前記液体が、蒸気圧の低い液体である
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の感震器。
【請求項4】
前記高感度感温素子の温度変化を認識する回路を備えている
ことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の感震器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−184952(P2012−184952A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−46628(P2011−46628)
【出願日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【特許番号】特許第4750910号(P4750910)
【特許公報発行日】平成23年8月17日(2011.8.17)
【出願人】(591020445)立山科学工業株式会社 (71)
【Fターム(参考)】