説明

手持ち回転工具の安全体感装置

【課題】手持ち回転工具を用いた際に生ずることがある、いわゆるキックバック現象の衝撃を被験者が体感することのできる安全体感装置を提供する。
【解決手段】上記課題を解決するための手持ち回転工具の安全体感装置は、少なくとも手持ち回転工具の持ち手部を有する工具本体14と、持ち手部の先端側に設けられる回転刃相当部16と、回転刃相当部16が擬似被加工物100へ接触した際の物理的変位を感知する荷重センサ18と、工具本体14を前記持ち手部を模した回転工具の回転刃回転方向と逆方向へ移動させるアクチュエータ19と、荷重センサ18から出力される変位信号を得ることによりアクチュエータ19を稼動させる稼動信号を出力する制御部30と、を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手持ち回転工具の安全体感装置に係り、特に、グラインダや回転鋸等の回転刃を持った手持ち回転工具の安全体感装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工場や建設現場などの、いわゆる作業現場には、様々な労働災害リスクが潜在しており、その発生防止、発生時の原因究明、および再発防止対策は、非常に重要な課題とされてきている。
【0003】
特に、建設現場では、使用頻度の高いグラインダや丸鋸などの、いわゆる手持ち回転工具による災害頻度が高い。具体的な災害事例としては、次のようなものを挙げることができる。まず第1に、作業姿勢や作業位置を変えようとした時に、回転中の砥石や刃が体の一部に触れることによる損傷がある。第2に、機器に対して規格外や、用途外の換え刃や砥石を使用したことによる刃や砥石の破損、および破損により飛散した刃や砥石への接触による負傷がある。さらに第3として、回転中の砥石や刃が被削物や被切断物などの被加工物に当たって弾き飛ばされる、いわゆるキックバック現象により、砥石や刃が体の一部に当たって損傷する場合などがある。
【0004】
このような被災事例の中、熟練した作業者であっても体験することのあるキックバック現象については、広く作業者にその感覚を知ってもらい、その危険性を認識把握してもらう必要性が高い。
【0005】
このような、作業の危険性を認識するための技術としては、例えば非特許文献1に開示されているようなヴァーチャルリアリティーシステムがある。非特許文献1に開示されているシステムは、表示画面に映像として、作業状態と作業者の手が映し出され、被験者が画面に映し出された作業者の手を操るというものである。そして、被験者の操る作業者の手が画面上の回転体や刃物などに近づくことにより、巻き込みや切断といった事故が生じ、これに関連付けられた映像が再現される。
このようなシステムによれば、被験者は、実際に損傷を負う事無く、作業の危険性を視覚的に擬似体験することができる。
【0006】
また、作業現場における各種作業に潜む災害についての情報を知るための技術が、特許文献1に開示されている。特許文献1に開示されている技術は、建設工事の現場において、過去に発生した多数の労働災害について、その対象となった作業や状況等の原因をデータベース化し、端末への入力情報に基づいて、該当する災害を表示するというものである。
【0007】
このようなシステムによれば、作業者が実際に行う作業について、どのような点に気をつければ、同様な災害を避けることができるかを、事前に知ることができる。
【0008】
さらに非特許文献2、3には、建設現場や工場などにおいて使用する機器を安全に使用するための訓練を行うための装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平6−44211号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】「労働災害擬似体験VRシステム セーフマスター はさまれ・巻き込まれ災害編 カタログ」、ソリッドレイ研究所
【非特許文献2】「溶接訓練支援システム カタログ」、リンカーンエレクトリックジャパン株式会社
【非特許文献3】「複合現実感を用いた汎用工作機械の操作訓練 日本人間工学会関東支部大会講演集 巻:40th、頁:120−121」、御簾納陽介、他4名
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記非特許文献1によれば、労働災害を視覚的に感じとることができる。また、特許文献1に開示されているシステムによれば、労働災害の原因となる危険性の高い状態を事前に知ることが可能となる。
また、非特許文献2、3に開示されている装置によれば、各種装置や工具の扱い方を学ぶことができる。
【0012】
しかし、いずれのシステム、装置においても、機器に生じるトラブルや衝撃を被験者自体が受けることは無い。このため、労働災害の実状は認知しているものの、それがどのように危険であるかを感じとることが難しい。
【0013】
そこで本発明では、手持ち回転工具を用いた際に生ずることがある、いわゆるキックバック現象の衝撃を被験者が体感することのできる安全体感装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するための本発明に係る手持ち回転工具の安全体感装置は、少なくとも手持ち回転工具の持ち手部を有する工具本体と、前記持ち手部の先端側に設けられる回転刃相当部と、前記回転刃相当部が擬似被加工物へ接触した際の物理的変位を感知する感知部と、前記工具本体を前記持ち手部を模した回転工具の回転刃回転方向と逆方向へ移動させるアクチュエータと、前記感知部から出力される変位信号を得ることにより、前記アクチュエータを稼動させる稼動信号を出力する制御部と、を備えることを特徴とする。
【0015】
また、上記のような特徴を有する手持ち回転工具の安全体感装置において、前記制御部は、前記変位信号が、予め定めた閾値に達したか否かを判断する比較器を備え、前記変位信号が前記閾値に達した場合に、前記稼動信号を出力するようにすると良い。このような構成とすることにより、擬似被加工物に対する回転刃相当部の押し付け圧力に応じてアクチュエータを作動させることができる。
【0016】
また、上記のような特徴を有する手持ち回転工具の安全体感装置において、前記アクチュエータは、エアシリンダと前記エアシリンダに空気を供給する空気供給手段であり、前記エアシリンダと前記空気供給手段との間には、前記稼動信号が入力されない非稼動状態では前記エアシリンダにおけるシリンダ室またはロッド室を外部へ開放し、前記稼動信号が入力された稼動状態では前記エアシリンダと前記空気供給手段との間の空気供給経路を構成する電磁弁を備えるようにすることができる。このような構成とすることにより、工具本体を瞬時的に移動させることが実現できる。
【0017】
また、上記のような構成において、前記工具本体と前記エアシリンダとの連結部に、リンク機構を備えるようにすると良い。このような構成とすることにより、エアシリンダを連結した工具本体を動かす際の自由度が向上する。
【0018】
また、上記のような特徴を有する手持ち回転工具の安全体感装置において、前記アクチュエータは、前記工具本体に連結されたワイヤと、前記稼動信号の入力により前記ワイヤを巻き取る巻取り手段とから成るようにすることもできる。
【0019】
また、上記のような構成において前記ワイヤは、予め定められた張力を維持する自動巻取り機構が附帯した他の回転軸に接続され、前記巻取り手段の回転軸と前記他の回転軸との間には、前記稼動信号の入力により作動して前記巻取り手段の回転軸の動力を前記他の回転軸に伝達する電磁クラッチが設けられるようにするとよい。このような構成とすることで、他の回転軸と巻取り手段の回転軸との間の動力伝達を実行・解除することができる。
【0020】
また、上記のような構成において、前記制御部は、前記稼動信号の出力時間を定めるタイマ機能を備えるようにしても良い。このような機能を備えることにより、ワイヤの過剰巻取りを防止することができる。
【0021】
また、上記のような特徴を有する手持ち回転工具の安全体感装置では、手持ち回転工具を使用する際の各動作に合わせた音声が記録された記憶手段と、前記音声を可聴音として出力する音声出力手段と、前記記憶手段に記憶された音声の中から、前記工具本体の動作に合った音声を選択して前記音声出力手段へ出力する音声再生部と、を備えるようにすると良い。このような構成とすることにより、被験者の動作(被験者が操る手持ち回転工具の動き)に応じて音声が切り替わり、作業の臨場感を向上させることができる。
【0022】
また、上記のような特徴を有する手持ち回転工具の安全体感装置では、前記工具本体の位置、および姿勢を検出する検出手段と、少なくとも検出手段によって検出された工具本体の位置、および予め定められた前記擬似被加工物の位置に基づいて、手持ち回転工具の動きを示す映像を生成する画像生成部と、前記画像生成部によって、生成された映像を視認可能に写し出す表示手段と、を備えるようにすると良い。このような構成とすることで、安全体験を行う際の視覚的効果を高めることができる。
【0023】
さらに、上記のような特徴を有する手持ち回転工具の安全体感装置において、前記画像生成部は、前記手持ち回転工具による作業状態を模した付加映像を加えて前記映像の生成を行うようにすると良い。付加映像として、研削時の火花や、キックバック時の擬似災害映像などを用いることで、より臨場感を高めることができる。
【発明の効果】
【0024】
上記のような特徴を有する手持ち回転工具の安全体感装置によれば、被験者は、手持ち回転工具を用いた際に生ずることがあるキックバック現象の衝撃を安全に体感することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】第1の実施形態に係る安全体感装置の構成を説明するための図である。
【図2】第1の実施形態に係る安全体感装置使用時における動作を説明するための図である。
【図3】第2の実施形態に係る安全体感装置の構成を説明するための図である。
【図4】第3の実施形態に係る安全体感装置の構成を説明するための図である。
【図5】第4の実施形態に係る安全体感装置の構成を説明するための図である。
【図6】第4の実施形態に係る安全体感装置の変形形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明に係る手持ち回転工具の安全体感装置に係る実施の形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の実施形態では、手持ち回転工具として、電動式のグラインダを例に挙げて説明するが、これは手持ち回転工具の一例に過ぎない。よって、手持ち回転工具を丸鋸とした場合であったり、動力をエアとした場合であっても、その適応性に影響を及ぼすことは無い。
【0027】
本実施形態に係る手持ち回転工具の安全体感装置(以下、単に安全体感装置10と称す)は、模擬グラインダ12と、アクチュエータ19、制御部30、および擬似被加工物100を基本として構成される。
【0028】
模擬グラインダ12は、安全体感装置10を構成する対象となる手持ち工具を模した模擬回転工具の一具体例である。模擬グラインダ12は、少なくとも工具本体14と、回転刃相当部16、および荷重センサ18を有する。工具本体14は、少なくとも手持ち回転工具の持ち手部分を担う部位であり、望ましくは、対応する手持ち回転工具の持ち手部分の形態を模したものであると良い。形態が、実際の工具に似ていることにより、模擬体験の臨場感が向上するからである。
【0029】
回転刃相当部16は、詳細を後述する擬似被加工物100への回転刃(砥石や鋸刃等)の接触状態を再現するための部位である。このため、その形態について特に問うものでは無いが、対応する手持ち回転工具における回転刃の形態を模したものであることが望ましい。上記工具本体14と同様に、実際の工具に似ていることにより、擬似体験の臨場感が向上するからである。
【0030】
本実施形態では、工具本体14と回転刃相当部16との間に、感知部としての荷重センサ18が設けられている。本実施形態で用いる荷重センサ18は、擬似被加工物100への回転刃相当部16の押し付け荷重を検出する役割を担う。このため、荷重センサ18の検出軸は、対応する手持ち回転工具における回転刃相当部16の押し付け方向に沿うように設けられることが望ましい。回転刃相当部16の押し付け方向と荷重センサ18の検出軸方向を一致させることで、押し付け時における荷重検出精度が向上するからである。荷重センサ18は、検出した荷重を変位信号(電圧)として詳細を後述する制御部30へと出力される。なお、荷重センサ18としては、圧縮型ロードセルや、加速度センサ等であれば良い。
【0031】
アクチュエータ19は、工具本体14を強制的に移動する(弾き飛ばす)ことのできる動作が可能であれば、その形態は問わない。本実施形態では、アクチュエータ19の動作ユニットとして、エアシリンダ20を用いる構成とした。エアシリンダ20は、シリンダ部22とロッド部24とを有する。図1に示すエアシリンダ20は、片側ロッド型のものであり、シリンダ部22には、シリンダ室とロッド室が設けられることとなり、シリンダ室側にエアが供給された場合には、ロッド部24が伸張し、ロッド室側にエアが供給された場合には、ロッド部24が収縮する。いずれの場合においても、エアを供給される側と反対側の室(ロッド室またはシリンダ室)は、大気開放されることとなる。
【0032】
このような構成とされるエアシリンダ20は、シリンダ部22側、あるいはロッド部24側のいずれか一方の端部が、固定部材102に固定され、他方の端部が工具本体14に接続される。本実施形態では、シリンダ部22側を固定部材102に固定し、ロッド部24側を工具本体14に接続する構成とした。なお、シリンダ部22と固定部材102との固定部、およびロッド部24と工具本体14との接続部には、それぞれリンク機構38,40が備えられる。工具本体14を被験者の手によって動かすことを可能にするためである。リンク機構38,40としては、自在継手のように、縦横斜め、回転など、様々な動きに対応可能なものであると良い。工具本体14を任意の位置へ、任意の角度で動かすことが可能となり、実際の手持ち回転工具の持ち方、使用姿勢等を体現することが可能となるからである。
【0033】
シリンダ部22には、エアチューブなどにより構成される空気供給路42a,42bを介して、空気供給手段としてのエアコンプレッサ26が接続されている。そして、シリンダ部22とエアコンプレッサ26との間に位置する空気供給路42a,42bには、電磁弁28が設けられている。
【0034】
電磁弁28は、ON状態においては、シリンダ部22側の空気供給路42aとエアコンプレッサ26側の空気供給路42bとを接続する。一方、OFF状態では、シリンダ部22側の空気供給路42aを大気に開放し、エアコンプレッサ26側の空気供給路42bを閉塞する。電磁弁28のON、OFF制御は、詳細を後述する制御部30から出力される稼動信号の入力により成される。なお、本実施形態では、シリンダ部22側の空気供給路42aは、シリンダ室に接続されており、ロッド室側は、常時開放されている。このような構成とすることにより、稼動信号の入力が無い状態では、被験者が工具本体14を自在に操ることが可能となる。
【0035】
ここで、本実施形態では、被験者の視点を基準として、固定部材102を模擬グラインダ12の右側に配置し、ロッド部24と工具本体14の接続箇所が工具本体14の先端側に位置する構成とした。
【0036】
グラインダは通常、作業状態において右回転となるように砥石が回転する。このため、エアシリンダ20と工具本体14との関係を上記のようなものとすることで、エアシリンダ20におけるロッド部24が伸張した際には、模擬グラインダ12には、工具本体14における持ち手部分を基点として左回転の力、すなわち回転刃の回転方向と逆方向へ向かう力が加えられることとなる。これにより、グラインダ作業時におけるいわゆるキックバック現象を再現することができる。
【0037】
制御部30は、少なくとも増幅回路32と、コンパレータ回路34、および論理演算回路36を有する。増幅回路32は、上述した荷重センサ18からの変位信号が入力される回路であり、変位信号として入力された微弱電圧を、後述する閾値電圧と比較可能な電圧にまで増幅させて出力する役割を担う。なお、電圧の増幅率は、予め設定しておく。
【0038】
コンパレータ回路34は、増幅回路32からの出力電圧と、予め定められた閾値電圧とを比較する比較器である。増幅回路32からの出力電圧と閾値電圧とを比較した結果を論理演算回路36へと出力する。コンパレータ回路34からの出力は例えば、増幅回路32からの出力電圧<閾値電圧であった場合には、出力電圧を0Vとし、増幅回路32からの出力電圧>閾値電圧であった場合には、出力電圧を所定電圧とすれば良い。なお、ここでいう所定電圧とは、論理演算回路36の駆動電圧であれば良い。
【0039】
論理演算回路36は、例としてタイマとリレーで構成される。すなわち、論理演算回路36への入力電圧が所定電圧であった場合にはタイマが起動し、設定時間(例えば0.5秒)の間だけリレーをONして電磁弁28へ動作電圧を出力する。つまり、エアシリンダ20はタイマの設定時間内だけ伸張され、その後大気開放状態に戻る。このような構成とすることで、あたかも一瞬だけグラインダに何らかの外力が加わったような感覚を体験可能となる。
【0040】
擬似被加工物100は、模擬グラインダ12における回転刃相当部16を押し付ける部材である。擬似被加工物100を備えることにより、回転刃相当部16を押し付けた際の力加減を体感することができると共に、被験者に手持ち回転工具による研削、あるいは切断等を行っているという臨場感を与えることができる。
【0041】
次に、本実施形態に係る安全体感装置10の被験者による体感状態と、装置の動作について説明する。被験者はまず、模擬グラインダ12における工具本体14を把持する。現段階においては、工具本体14に接続されたエアシリンダ20におけるロッド部24は、伸縮自在な状態である。このため、被験者は、工具本体14をエアシリンダ20におけるロッド部24の伸縮範囲内において自由に動かすことができる。
【0042】
次に、被験者は、模擬グラインダ12における回転刃相当部16を擬似被加工物100に接触させ、模擬グラインダ12による研削状態を体現する。ここで、上述したように、工具本体14はフリーな状態であるため、被験者は、グラインダを使用する際の実際の作業姿勢を採ることも可能となる。また、アクチュエータ19は、荷重センサ18から出力される変位信号(増幅回路32によって増幅された電圧)が、閾値電圧を超えない限り稼動しないため、荷重の少ない研削状態では、通常の研削状態を体感することができる。
【0043】
被験者による研削状態の体感中に、擬似被加工物100に対する回転刃相当部16の押し付け荷重が大きくなり、変位信号が閾値電圧を超えた場合には、電磁弁28がON状態となり、エアコンプレッサ26からシリンダ室へと空気が供給される。これにより図2に示すように、エアシリンダ20におけるロッド部24は瞬時に伸張状態となり、ロッド部24の先端に連結された工具本体14は、ロッド部24の伸張と同時に、持ち手部分を基準として反時計回りの力を受けて弾き飛ばされることとなる。
【0044】
このような動作により、被験者は、模擬グラインダ12が強制的に移動させられる(弾き飛ばされる)衝撃を体感することができる。これにより、被験者は、キックバック現象によるグラインダの強制移動に、自己の動作が反応しきれない可能性が高い事を知ることができ、キックバック現象発生時においても負傷する可能性の低い作業姿勢等を検討することが可能となる。
【0045】
上記実施形態では、エアシリンダ20の固定部材102を模擬グラインダ12の右側に配置し、空気供給路42aをシリンダ室側に接続する旨記載した。しかしながらこのような構成は、ロッド部24の伸張によりキックバック現象を再現する場合の要素であり、ロッド部24の収縮を用いる場合には、次のような構成とすることができる。
【0046】
すなわち、固定部材102を模擬グラインダ12の左側に配置する。なお、この際の左右は、工具本体14を把持した被験者の視点を基準とする。また、シリンダ部22に接続される空気供給路42aは、ロッド室側に接続する。このような構成とすることで、エアコンプレッサ26からの空気の供給により、ロッド部24の収縮が成され、上記実施形態と同様なキックバック現象を再現することが可能となるからである。
【0047】
なお、固定部材102の配置位置は、回転刃の回転方向や、模擬グラインダ12を強制移動させる際の方法を押しにするか引きにするか、および模擬グラインダ12による作業姿勢等により異なる。具体的には、模擬グラインダ12の強制移動を押しにより実施する場合には、回転刃の回転方向側(右回転であれば右側)、引きにより実施する場合には、回転方向と逆側(回転方向が右回転の場合には左側)に配置することとなる。
【0048】
次に、本発明の手持ち回転工具の安全体感装置に係る第2の実施形態について、図3を参照しつつ説明する。
本実施形態に係る安全体感装置10aの殆どの構成は、上述した第1の実施形態に係る安全体感装置10と同様である。よって、その構成を同一とする箇所には、図面に同一符号を付して、その詳細な説明は省略することとする。
【0049】
本実施形態に係る安全体感装置10aと、第1の実施形態に係る安全体感装置10との相違点は、キックバック現象を再現するためのアクチュエータにある。具体的には、第1の実施形態では、アクチュエータ19の動作ユニットとしてエアシリンダ20を用いたのに対し、本実施形態では、アクチュエータ19aの動作ユニットとして電動モータ44を用い、この電動モータ44によってワイヤ54を巻き取ることでキックバック現象を再現する構成とした。
【0050】
電動モータ44には、回転軸56(他の回転軸)、電磁クラッチ46、定荷重伝達プーリー48、ワイヤ巻取りプーリー52が附帯されている。回転軸56は、電動モータ44の回転軸(不図示)と物理的に切り離された回転軸であり、詳細を後述する定荷重伝達プーリー48、およびワイヤ巻取りプーリー52を支持する回転軸としての役割を担う。
【0051】
電磁クラッチ46は、電動モータ44の回転軸(不図示)の回転力を回転軸56に伝達する役割を担う。電磁クラッチ46は、制御部30からの稼動信号を受けることにより稼動し、電動モータ44による回転力を回転軸56に伝達し、回転軸56を強制回転させる。なお、回転軸56は、軸受け等に保持され、電磁クラッチ46が稼動していない状態においては、回転自在とされている。
【0052】
定荷重伝達プーリー48には、定荷重伝達ベルト58が巻回され、附帯する自動巻取り機構としての定荷重バネ50による発生荷重を回転軸56に伝達する構成とされている。これにより、詳細を後述するワイヤ巻取りプーリー52に巻き取られるワイヤ54に、所定の張力を持たせた状態で、巻取り、送り出しを行うことが可能となる。
【0053】
ワイヤ巻取りプーリー52には、ワイヤ54が巻回され、定荷重バネ50の作用、あるいは電磁クラッチ46により伝達される電動モータ44の回転力の作用による回転軸56の回転と共に回転する。すなわち、回転軸56の回転が自由回転である場合には、定荷重バネ50や、被験者による模擬グラインダ12の引っ張り動作により、ワイヤ54の巻取り、あるいは送り出しが成される。一方、回転軸56の回転が強制回転である場合には、電動モータ44の回転により、ワイヤ54の巻取りが成される。なお、ワイヤ54と工具本体14との接続部には、リンク機構38が設けられている。
【0054】
本実施形態では、キックバック現象をワイヤ54の巻取り、すなわち「引き」により再現する構成としている。このため、アクチュエータ19aの動作ユニットである電動モータ44は、模擬グラインダ12の左側に固定されることとなる。
【0055】
このような構成の安全体感装置10aでは、擬似被加工物100(図1参照)に対する被験者による回転刃相当部16の押し付け荷重が閾値の範囲内、すなわち荷重センサ18の出力電圧(増幅回路による増幅後の電圧)が、閾値電圧よりも小さい場合には、模擬グラインダ12を自在に操作することができる。電動モータ44、および電磁クラッチ46が稼動状態に無い場合、ワイヤ54には、定荷重バネ50による張力維持の引っ張り荷重のみが作用することとなるからである。
【0056】
一方、荷重センサ18の出力電圧が閾値電圧を超えた場合には、制御部30から、電動モータ44と電磁クラッチ46に対して稼動信号が出力される。電動モータ44と電磁クラッチ46に対して稼動信号が入力されると、電動モータ44は回転力を発生し、電磁クラッチ46が回転軸56に対して電動モータ44の回転力を伝達する。これにより、ワイヤ54はワイヤ巻取りプーリー52に高速で巻き取られ、工具本体14は、ワイヤ巻取り方向へと強制移動され、キックバック現象が再現される。
【0057】
このような構成の安全体感装置10aであっても、上記第1の実施形態に係る安全体感装置10と同様な効果を得ることができる。なお、本実施形態を採用する際には、制御部30に対し、稼動信号の出力時間を定めるタイマ機能を備えることが望ましい。ワイヤ54を過剰に巻取ることを防ぐことができ、ワイヤ54の過剰巻取りによる機器の破損等を防ぐことができるからである。
【0058】
次に、本発明の手持ち回転工具の安全体感装置に係る第3の実施形態について、図4を参照して説明する。本実施形態は、説明を簡単化するために、第1の実施形態の変形形態として示すこととする。よって、その構成を同一とする箇所には、図面に同一符号を付して、その詳細な説明は省略する。
【0059】
本実施形態に係る安全体感装置10bは、音声再生部60、および音声出力手段としてのスピーカ70を備えている。音声再生部60は、模擬グラインダ12の動作に連動させて、予め記憶しておいた音声信号をスピーカ70へ出力する役割を担う。
【0060】
音声再生部60は、例えば、論理演算回路62、再生回路64、メモリ66、および増幅回路68等を有する。本実施形態における論理演算回路62には、少なくとも3つの信号入力ポートと、1つの信号出力ポートが設けられており、信号入力ポートに入力された信号の組み合わせに基づいて、“00、01、10”といったデジタル信号を出力する(出力を2進数とする場合)。
【0061】
本実施形態では、3つの信号入力ポートのうち、第1入力ポートへの入力信号を模擬グラインダ12のダミー電源スイッチ(不図示)の入力信号とする。また、第2入力ポートへの入力信号を、荷重センサ18からの出力信号(変位信号)とする。そして、第3入力ポートへの入力信号は、制御部30からの出力信号(稼動信号)とする。
【0062】
このような入力条件の下、第1入力ポートへの信号の入力があった場合には、出力ポートからの出力信号として、“00”を出力する。そして、第1入力ポートと第2入力ポートへの信号の入力があった場合には、出力ポートからの出力信号として、“01”を出力する。さらに、第1〜第3入力ポート全てへの信号の入力があった場合には、出力ポートからの出力信号として、“10”を出力する。
【0063】
再生回路64は、論理演算回路62からの出力信号に基づいて、メモリ66に記憶された音声データを選択し、音声信号として増幅回路68へと出力する役割を担う。具体的には、本実施形態においてメモリ66には、空転音データ66aと、研削音データ66b、および衝撃音データ66cが記憶されている。空転音データ66aは、グラインダ操作時に生ずる空転音を記憶した音声データである。また、研削音データ66bは、グラインダにおける砥石を被削物に接触させた際に生ずる音を記憶した音声データである。さらに、衝撃音データ66cは、キックバック現象が生じたことを効果的に体感させるための擬似的な音声データであり、例えば炸裂音などであれば良い。
【0064】
再生回路64は、上記のような音声データが記憶されたメモリ66から、論理演算回路62からの出力信号に基づいて、予め定められた音声データを選択し、再生する。論理演算回路62からの出力信号と選択・再生される音声データとの関係は、次のようなものである。まず、論理演算回路62からの出力信号が“00”であった場合には、空転音データ66aが選択・再生される。次に、出力信号が“01”であった場合には、研削音データ66bが選択・再生される。さらに、出力信号が“10”であった場合には、衝撃音データ66cが選択・再生される。このような構成によれば、模擬グラインダ12の動作に応じて音声データが再生されることとなり、安全体感装置10bを使用する被験者の臨場感を高めることができる。
【0065】
再生された音声データは、音声信号として増幅回路68へ出力されて増幅され、スピーカ70から、可聴音として出力される。
このような構成の安全体感装置10bであれば、被験者の災害体験(キックバック体験)をよりリアルに再現することが可能となる。
【0066】
次に、図5を参照して、本発明の手持ち回転工具の安全体感装置に係る第4の実施形態について説明する。本実施形態に係る安全体感装置10cも、その基本的な構成は、上述した第1〜第3の実施形態に係る安全体感装置10〜10bと同一としながら視覚的効果を高めた点を特徴とする。よって、その機能を同一とする構成については、図面に同一符号を付して、その詳細な説明は省略することとする。
【0067】
本実施形態では具体的構成として、角度センサ76と、画像生成部72、および表示手段74を付加した点を特徴とする。角度センサ76は、被験者の手によって動かされる模擬グラインダ12の位置や姿勢を検出する検出手段である。本実施形態では、模擬グラインダ12とエアシリンダ20、およびエアシリンダ20と固定部材102をそれぞれ接続するリンク機構38,40に、少なくとも2軸、模擬グラインダ12側(リンク機構38側)において望ましくは3軸の動作検出が可能な角度センサ76を設ける構成とした。
【0068】
このような構成とすることにより、エアシリンダ20の先端に接続された模擬グラインダ12の位置と傾き(姿勢)をデータ(以下、姿勢信号と称す)として取得することが可能となる。
【0069】
画像生成部72は、被験者の操る模擬グラインダ12の動きに合わせて動作するグラインダや、グラインダの回転刃が被加工物に接触することによって生ずる火花等を再現した映像を作成する部位である。画像生成部72には、荷重センサ18から出力される変位信号と、角度センサ76から出力される姿勢信号とが入力される。そして、入力された各種信号の情報に基づいて、予め記憶されているグラインダ画像や持ち手画像、被加工物画像、および火花画像等を組み合わせて研削状態を模した映像が作成される。
【0070】
表示手段74は、画像生成部72により作成された映像を視認可能な状態で表示するための手段である。本実施形態では、安全体感装置10cとしての臨場感を高めるために、表示手段74として、ヘッドマウント型のディスプレイを採用することとした。これにより、被験者の視野全体がディスプレイとなり、臨場感が向上する。
【0071】
このような構成とすることにより、模擬グラインダ12では再現することが困難な火花やキックバック現象再現時の事故映像などの付加映像を加えることが可能となる。このため、実際の作業を行っているという臨場感が出せると共に、労働災害発生時の様子を視覚的にも認識することができる。よって、肉体的な体感と視覚的な体感を同時に得ることができ、体感装置としての効果を高めることができる。
【0072】
また、本実施形態では、映像のみを付加する構成としているが、図6に示すように、映像に加え、第2の実施形態で付加したような音声も付加する構成としても良い。すなわち、音声再生部60とスピーカ70を付加し、映像と共にその映像に合致した音声を再生する構成とするのである。このような構成とすることで、安全体感装置10cを使用した際の臨場感をより高めることができる。
【0073】
また、上記実施形態ではいずれも、変位信号を出力する感知部として、荷重センサ18を用いる旨記載した。しかしながら、本発明を構成する上で感知部は、荷重センサ18に限る必要は無い。すなわち、感知部として、歪みゲージや、スイッチなどを用いても良い。歪みゲージを用いた場合には、回転刃相当部16を擬似被加工物100に押し付けた際の回転刃相当部16、あるいは回転刃相当部16と工具本体14との接続部分の歪みを検出するようにすれば良い。また、スイッチを採用した場合には、回転刃相当部16の先端等に押し込み式のスイッチを配置し、回転刃相当部16の押し付け荷重が、スイッチの押し戻し荷重を超えた場合に、アクチュエータ19,19aが作動するようにすれば良い。
【符号の説明】
【0074】
10………安全体感装置、12………模擬グラインダ、14………工具本体、16………回転刃相当部、18………荷重センサ、19………アクチュエータ、20………エアシリンダ、22………シリンダ部、24………ロッド部、26………エアコンプレッサ、28………電磁弁、30………制御部、32………増幅回路、34………コンパレータ回路、36………論理演算回路、38………リンク機構、40………リンク機構、42a………空気供給路、42b………空気供給路、100………擬似被加工物、102………固定部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも手持ち回転工具の持ち手部を有する工具本体と、
前記持ち手部の先端側に設けられる回転刃相当部と、
前記回転刃相当部が擬似被加工物へ接触した際の物理的変位を感知する感知部と、
前記工具本体を前記持ち手部を模した回転工具の回転刃回転方向と逆方向へ移動させるアクチュエータと、
前記感知部から出力される変位信号を得ることにより、前記アクチュエータを稼動させる稼動信号を出力する制御部と、
を備えることを特徴とする手持ち回転工具の安全体感装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記変位信号が、予め定めた閾値に達したか否かを判断する比較器を備え、
前記変位信号が前記閾値に達した場合に、前記稼動信号を出力することを特徴とする請求項1に記載の手持ち回転工具の安全体感装置。
【請求項3】
前記アクチュエータは、エアシリンダと前記エアシリンダに空気を供給する空気供給手段であり、
前記エアシリンダと前記空気供給手段との間には、前記稼動信号が入力されない非稼動状態では前記エアシリンダにおけるシリンダ室またはロッド室を外部へ開放し、前記稼動信号が入力された稼動状態では前記エアシリンダと前記空気供給手段との間の空気供給経路を構成する電磁弁を備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の手持ち回転工具の安全体感装置。
【請求項4】
前記工具本体と前記エアシリンダとの連結部に、リンク機構を備えたことを特徴とする請求項3に記載の手持ち回転工具の安全体感装置。
【請求項5】
前記アクチュエータは、前記工具本体に連結されたワイヤと、
前記稼動信号の入力により前記ワイヤを巻き取る巻取り手段とから成ることを特徴とする請求項1または2に記載の手持ち回転工具の安全体感装置。
【請求項6】
前記ワイヤは、予め定められた張力を維持する自動巻取り機構が附帯した他の回転軸に接続され、
前記巻取り手段の回転軸と前記他の回転軸との間には、
前記稼動信号の入力により作動して前記巻取り手段の回転軸の動力を前記他の回転軸に伝達する電磁クラッチが設けられたことを特徴とする請求項5に記載の手持ち回転工具の安全体感装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記稼動信号の出力時間を定めるタイマ機能を備えることを特徴とする請求項5または6に記載の手持ち回転工具の安全体感装置。
【請求項8】
手持ち回転工具を使用する際の各動作に合わせた音声が記録された記憶手段と、
前記音声を可聴音として出力する音声出力手段と、
前記記憶手段に記憶された音声の中から、前記工具本体の動作に合った音声を選択して前記音声出力手段へ出力する音声再生部と、を備えたことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の手持ち回転工具の安全体感装置。
【請求項9】
前記工具本体の位置、および姿勢を検出する検出手段と、
少なくとも検出手段によって検出された工具本体の位置、および予め定められた前記擬似被加工物の位置に基づいて、手持ち回転工具の動きを示す映像を生成する画像生成部と、
前記画像生成部によって、生成された映像を視認可能に写し出す表示手段と、を備えたことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の手持ち回転工具の安全体感装置。
【請求項10】
前記画像生成部は、前記手持ち回転工具による作業状態を模した付加映像を加えて前記映像の生成を行うことを特徴とする請求項8または9に記載の手持ち回転工具の安全体感装置。

【図3】
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【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−114066(P2013−114066A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−260635(P2011−260635)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【Fターム(参考)】