説明

手袋

【課題】手袋の指袋が指にフィットし、着用感が良好で脱ぎにくい手袋を提供する。
【解決手段】本発明の手袋(30)は、紡績糸を編成した手袋であって、前記紡績糸は、手袋にした状態で撚りトルクが発現するように、軽度な撚り止めヒートセットがされており、少なくとも指袋の部分の編目は斜行(31a〜31e)している。指袋の編目の斜行により、斜目又は歪んだ応力が指にかかるため、フィット感が良好となり、脱ぎにくい手袋となる。前記斜行は、左手袋の場合、左上から右下に編目が斜行し、右手袋の場合、右上から左下に編目が斜行していると、指の握り方向に沿って編目が曲がるので、指の自然な動きに追従して着用感がさらに良好となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、指にフィットし、着用感及び摩擦性が良好な手袋に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から紡績糸を用いた編物の手袋は使用されている。例えば毛糸の手袋とか、軍手といわれている手袋は編物手袋の典型例である。これらの手袋は、指袋と指の摩擦はあまり高くなく、指のフィット感もいまだ満足されてはいない。特許文献1の請求項5〜6、段落0031にも、撚りによるトルクを下げることが開示されている。
【0003】
さらに、高強力繊維を用い、防護性、耐切創性を向上させた手袋も提案されている(特許文献2〜5)。具体的には、特許文献2〜3には高強度ポリエチレン繊維を使用した防護手袋が提案されている。特許文献4にはアラミド繊維等を利用した防護手袋が提案されている。特許文献5にはスーパー繊維とポリフェニレンサルファイド繊維を使用し、耐切創性と保温性を向上させた手袋が提案されている。
【特許文献1】特開2001−303374号公報
【特許文献2】特開2006−342463号公報
【特許文献3】特開2006−070400号公報
【特許文献4】特開2005−029938号公報
【特許文献5】特開2003−306817号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記従来の手袋は、表面が滑りやすいという問題があった。これは、繊維自体が滑りやすく、物を掴む動作をする際、滑って掴めなかったり、物を落としたりする危険性をともなっていた。このため、樹脂、ゴム、プラスチゾルなどをドット状に塗布したり、全体にコーティングすることも行われている。しかし、樹脂、ゴム、プラスチゾルなどを塗布すると、指の繊細な感覚が鈍くなり、精密な作業や運動ができなくなるという問題がある。
【0005】
本発明は、前記従来の問題を解決するため、手袋の指袋が指にフィットし、着用感が良好で脱ぎにくい手袋を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の手袋は、紡績糸を編成した手袋であって、前記紡績糸は、手袋にした状態で撚りトルクが発現する撚り止めヒートセットがされており、少なくとも指袋の部分の編目は斜行していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、紡績糸は手袋にした状態で撚りトルクが発現するように、軽度な撚り止めヒートセットがされており、少なくとも指袋部分の編目は斜行していることにより、手袋の指袋が指にフィットし、着用感が良好で脱ぎにくい手袋を提供できる。すなわち、指袋の編目の斜行により、斜目又は歪んだ応力が指にかかるため、フィット感が良好となり脱ぎにくい手袋となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は本発明の実施例1に使用する意匠撚糸の側面図である。
【図2】図2は本発明の実施例2に使用する意匠撚糸の側面図である。
【図3】図3は本発明の実施例1における手袋の正面図である。
【図4】図4は本発明の実施例2における手袋の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の手袋に使用する紡績糸は、手袋にした状態で撚りトルクが発現するように、軽度な撚り止めヒートセットがされており、少なくとも指袋の編目は斜行している。前記において、軽度な撚り止めヒートセットとは、繊維材料によって異なるが、通常トルクの発現を止めるための撚り止めヒートセットよりは、温度が低いか又は処理時間が短いことを言う。すなわち、手袋に編成したときに少なくとも指袋の編目は撚りトルクによる斜行が発現する状態である。指袋の部分は面積が小さいことから、撚りトルクによる斜行が発現しやすい。掌や裏の部分に編目の斜行が出てもよいが、この部分は面積が広く、斜行は発現しにくい。
【0010】
通常、撚りトルクの発現による編目の斜行は、見た目が悪く品位を落とすため、これを避けるために撚りトルクを残さないのが常識である。しかし、本発明は逆の発想により、撚りトルクを発現させて編目を斜行させ、フィット感が良好で脱ぎにくい手袋を実現できた。
【0011】
前記斜行は、左手袋の場合、左上から右下に編目が斜行し、右手袋の場合、右上から左下に編目が斜行している好ましい。これにより、指の握り方向に沿って編目が曲がるので、指の自然な動きに追従して着用感がさらに良好となる。このように編目を斜行させるには、左用手袋の場合は、S撚の紡績糸を製造し、撚りトルクを残してヒートセットし、指先から手袋編機で編成することにより得られる。右用手袋の場合は、Z撚の紡績糸を製造し、撚りトルクを残してヒートセットし、指先から手袋編機で編成することにより得られる。
【0012】
本発明で使用する糸は紡績糸であればどのようなものでも良い。紡績糸の繊維は、コットン、ウール、麻等の天然繊維、レーヨン等の再生繊維、ポリエステル、ナイロン、アクリル系繊維等の合成繊維等、どのような繊維でも使用できる。糸の形態は、単糸、双糸以上の複数本の撚り糸などを使用できる。通常の紡績糸でも良いし、意匠撚糸でも良い。意匠撚糸は、芯糸の周囲に浮き糸を配置し、浮き糸の上から押さえ糸を巻きつけることにより得られる。芯糸及び押さえ糸は、強度が14cN/deci tex以上の高強力合成繊維(スーパー繊維)を含む糸であっても良い。スーパー繊維は、強度と耐久性を高く維持するのに有用である。この意匠撚糸の一定長さ当たりにおいて、浮き糸の長さは芯糸よりも長い。これにより、浮き糸が芯糸の周囲に部分的に直線状に配列されたり、ループを形成して配列されることにより、手袋を形成したときには浮き糸は表面に杢状ないしは突出して存在し、滑り止め機能を発揮する。前記意匠撚糸の一定長さ当たり、前記浮き糸の長さは前記芯糸よりも1〜100%長いことが好ましい。
【0013】
本発明で使用できるスーパー繊維糸は、アラミド繊維、ポリベンズイミダゾール繊維、ポリベンズオキサゾール繊維、ポリベンズチアゾール繊維、ポリアリレート繊維、ポリケトン繊維、高強力ポリエチレン繊維及び高強力ポリビニルアルコール(PVA)繊維から選ばれる少なくとも一つの糸が好ましい。これらの繊維はいずれも強度が14cN/deci tex以上の高強力繊維である。例えばアラミド繊維(東レ・デュポン社製商品名“ケブラー”、テイジントワロン社製商品名“トワロン”、帝人社製商品名“テクノーラ”)は強度:19〜25cN/deci tex、弾性率380〜980cN/deci texである。ポリアリレート繊維(クラレ社製商品名“ベクトラン”)は強度:18〜22cN/deci tex、弾性率600〜741cN/deci texである。ポリベンズオキサゾール繊維(東洋紡社製商品名“ザイロン”)は強度:37cN/deci tex、弾性率1060〜2200cN/deci texである。高強力ポリエチレン繊維(東洋紡社製商品名“ダイニーマSK60”、DMS社製商品名“ダイニーマSK71”)は強度:26〜40cN/deci tex、弾性率883〜1413cN/deci texである。高強力ポリビニルアルコール(PVA)繊維(クラレ社製商品名“クラロン−KII”)は強度:14〜18cN/deci texである。
【0014】
浮き糸は、前記スーパー繊維、前記スーパー繊維以外の合成繊維、化学繊維、及び天然繊維から選ばれる少なくとも一つの糸が好ましい。例えば木綿やウールであっても良い。
【0015】
本発明で使用する紡績糸の繊度は118〜11811dtex(綿番手:0.5〜50番)が好ましい。紡績糸の好ましい撚り数は200〜700回/mの範囲である。紡績糸はリング紡績機で製造できる。意匠撚糸は、意匠撚糸機で製造できる。この際には浮き糸の供給速度を芯糸の供給速度よりも1〜100%早く(オーバーフィード)することが好ましい。
【0016】
本発明で使用する紡績糸は、軽度の撚り止めヒートセットがされている。これにより、手袋に編成したときに指袋の部分の編目が斜行する。撚り止めヒートセットは、乾熱又は湿熱で90〜110℃、30〜60分間熱処理するのが好ましい。好ましくは湿熱を使用する。
【0017】
このようにして得られた意匠撚糸は、手袋編み機で直接手袋に編成しても良いし、横編、丸編、経編などの編み物生地に編成した後、手袋に縫製しても良い。
【0018】
本発明の手袋の重量は、薄手の場合はSサイズ1双で例えば28g、Mサイズ1双で例えば32gとすることができる。もちろん、これ以上重いものも軽いものも自由に形成できる。
【0019】
用途としては、例えば岩登りなどに使用する登山用手袋、ゴルフ、野球、サッカー、スキーなどのスポーツ用手袋、寒冷条件下で複数の手袋を重ねて使用する際のインナー手袋、一般作業手袋、保護手袋、アーク溶接などの溶接作業手袋、溶鉱炉などの炉前作業手袋、加熱調理用手袋、消防消火作業手袋、エンジン補修などの高熱物体を扱う作業に使用する耐熱手袋、防刃手袋などとしても有用である。
【0020】
以下図面を用いて説明する。図1は本発明で使用する一実施例の意匠撚糸10の側面図である。この意匠撚糸10は、芯糸1と浮き糸2とその上からの押さえ糸3で構成され、浮き糸2はループを形成している。浮き糸2は木綿又はウール等の天然繊維の例である。
【0021】
図2は本発明の別の実施例で使用する意匠撚糸20の側面図である。この意匠撚糸20は、芯糸4と浮き糸5とその上からの押さえ糸6で構成され、浮き糸5は芯糸4の周囲に部分的に直線状に配置されている。直線の部分は5〜50mmの範囲である。浮き糸5はスーパー繊維を使用した例である。
【0022】
図3は図1の意匠撚糸を使用して編んだ手袋30の正面図である。手袋30の各指袋の斜め線(31a−31e)は編目が斜行している状態を示している。図3の編目の斜行部分31a〜31eに示すように、左手の場合、左上から右下に編目が斜行していると(右手の場合は逆となる)、指の握り方向に沿って編目が曲がるので、指の自然な動きに追従して着用感が良好となる。掌部には斜行は見られない。手袋30の掌部や指部にドット状に見え、指部の側面に細かく突出しているのが、図1における浮き糸2のループである。
【0023】
図4は図2の意匠撚糸を使用して編んだ手袋40の正面図である。手袋40の各指袋の斜め線(41a−41e)は編目が斜行している状態を示している。図4の編目の斜行部分41a〜41eに示すように、左手の場合、左上から右下に編目が斜行していると(右手の場合は逆となる)、指の握り方向に沿って編目が曲がるので、指の自然な動きに追従して着用感が良好となる。掌部には斜行は見られない。手袋40の掌部や指部の紋様42は、図2における浮き糸5の直線部分が重なって見えるためである。
【実施例】
【0024】
以下実施例を用いて、さらに本発明を具体的に説明する。
【0025】
(実施例1)
図1において、芯糸1及び押さえ糸3としてメタ系アラミド繊維[帝人社製“コーネックス”、単繊維繊度2.2deci tex(2デニール)、繊維長51mm]からなる紡績糸40/2(メートル番手40番の双糸使い)2本を合撚して用いた。合撚条件は、S撚600回/mとし、湿熱で110℃、40分間のヒートセットをした。浮き糸2は、防縮加工したウール紡績糸1/70(メートル番手70番の単糸使い)1本を使用した。これらの糸を意匠撚糸機に供給し、この際、芯糸1及び押さえ糸3に対して浮き糸2を1.7倍(170%)オーバーフィードした。意匠撚糸機における撚り回数はS撚600回/mとした。混率は、メタ系アラミド繊維72wt%、ウール28wt%であった。この意匠撚糸10は、105℃の湿熱で30分間ヒートセットした。得られた糸は左手用とした。右手用の糸は、前記S撚をZ撚に変えて製造した。
【0026】
得られた意匠撚糸を使用して、シマセイキ社製手袋編み機(10ゲージ)を使用して図3に示す手袋30を編成した。編成した手袋は1双(両手)でSサイズは28g、Mサイズは32gであった。
【0027】
この手袋30を使用して、30日間、ヨーロッパアルプスの登山に使用した。岩登り及び氷河歩きを含め、標高3000〜4800mの山登りに使用した結果、指袋の編目の斜行により、指袋と指の摩擦が高くなり、手袋の指袋が指にフィットし、着用感が良好になるとともに、脱ぎにくいことが確認できた。とくに図3の編目の斜行部分31a〜31eに示すように、左手の場合、左上から右下に編目が斜行していると(右手の場合は逆となる)、指の握り方向に沿って編目が曲がるので、指の自然な動きに追従して着用感が良好となる。また、穴明き、擦り切れ、破損は見られず、手及び手指の保護機能も高かった。岩登りやピッケル操作などにおいて、微妙な指の感覚も落ちることはなかった。このことから、薄手で耐久性が高く、指の繊細な感覚を保持できる手袋であることが確認できた。気温が寒いときはインナー手袋としても有用であった。
【0028】
(実施例2)
図2において、芯糸4及び押さえ糸6としてメタ系アラミド繊維[帝人社製“コーネックス”、単繊維繊度2.2deci tex(2デニール)、繊維長51mm]からなる紡績糸40/2(メートル番手40番の双糸使い)2本を合撚して用いた。合撚条件は、S撚600回/mとし、湿熱で110℃、30分間のヒートセットをした。浮き糸5は、ポリベンズオキサゾールからなるフィラメント繊維(東洋紡社製商品名“ザイロン”)278deci texを使用し、湿熱で100℃、30分間のヒートセットをした。これらの糸を意匠撚糸機に供給し、この際、芯糸4及び押さえ糸6に対して浮き糸5を1.01倍(101%)オーバーフィードした。意匠撚糸機における撚り回数はS撚600回/mとした。混率は、メタ系アラミド繊維68wt%、ポリベンズオキサゾール繊維32wt%であった。この意匠撚糸20は、110℃の湿熱で30分間ヒートセットした。得られた糸は左手用とした。右手用の糸は、前記S撚をZ撚に変えて製造した。
【0029】
得られた意匠撚糸を使用して、シマセイキ社製手袋編み機(10ゲージ)を使用して図4に示す手袋40を編成した。編成した手袋は1双でSサイズは28g、Mサイズは32gであった。
【0030】
この手袋40を使用して、30日間、ヨーロッパアルプスの登山に使用した。岩登り及び氷河歩きを含め、標高3000〜4800mの山登りに使用した結果、指袋の編目の斜行により、指袋と指の摩擦が高くなり、手袋の指袋が指にフィットし、着用感が良好になるとともに、脱ぎにくいことが確認できた。とくに図4の編目の斜行部分41a〜41eに示すように、左手の場合、左上から右下に編目が斜行していると(右手の場合は逆となる)、指の握り方向に沿って編目が曲がるので、指の自然な動きに追従して着用感が良好となる。また、穴明き、擦り切れ、破損は見られず、手及び手指の保護機能も高かった。岩登りやピッケル操作などにおいて、微妙な指の感覚も落ちることはなかった。このことから、薄手で耐久性が高く、指の繊細な感覚を保持できる手袋であることが確認できた。気温が寒いときはインナー手袋としても有用であった。
【符号の説明】
【0031】
1,4 芯糸
2,5 浮き糸
3,6 押さえ糸
10,20 意匠撚糸
30,40 手袋
31a〜31e,41a〜41e 編目の斜行部分
42 紋様

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紡績糸を編成した手袋であって、
前記紡績糸は、手袋にした状態で撚りトルクが発現する撚り止めヒートセットがされており、
少なくとも指袋の部分の編目は斜行していることを特徴とする手袋。
【請求項2】
前記斜行は、左手袋の場合、左上から右下に編目が斜行し、右手袋の場合、右上から左下に編目が斜行している請求項1に記載の手袋。
【請求項3】
前記紡績糸は、芯糸の周囲に浮き糸を配置し、前記浮き糸の上から押さえ糸を巻きつけた意匠撚糸であって、前記芯糸及び押さえ糸は、強度が14cN/deci tex以上の高強力合成繊維(スーパー繊維)を含む糸であり、前記意匠撚糸の一定長さ当たりの前記浮き糸の長さは前記芯糸よりも長い請求項1に記載の手袋。
【請求項4】
前記スーパー繊維糸は、アラミド繊維、ポリベンズイミダゾール繊維、ポリベンズオキサゾール繊維、ポリベンズチアゾール繊維、ポリアリレート繊維、ポリケトン繊維、高強力ポリエチレン繊維及び高強力ポリビニルアルコール(PVA)繊維から選ばれる少なくとも一つの糸である請求項3に記載の手袋。
【請求項5】
前記浮き糸は、前記スーパー繊維、前記スーパー繊維以外の合成繊維、化学繊維、及び天然繊維から選ばれる少なくとも一つの糸である請求項3に記載の手袋。
【請求項6】
前記意匠撚糸の一定長さ当たり、前記浮き糸の長さは前記芯糸よりも1〜100%長い請求項3〜5のいずれかに記載の手袋。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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