説明

抗ストレス性疾患組成物

リジンをリジン以外の抗ストレス性疾患剤と併用することにより、従来品よりも改良された抗ストレス性疾患剤、特にその効果(薬効)が増強され、また副作用が低減された抗ストレス性疾患剤を提供する。 医薬品(動物薬を含む。)、飲食品或いは飼料の形態で使用することができる。各種ストレス性疾患の予防、治療、改善、進展防止等に極めて有用である。 上記二つの有効成分を同時に使用することもできるし、それぞれ別形態で時を異にして使用することもできる。 更に、本発明によりストレス性疾患の予防治療方法や、上記有効成分のストレス性疾患予防治療剤への使用等も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、新規抗ストレス性疾患組成物(医薬品、動物薬、飲食品、飼料等)や抗ストレス性疾患剤(抗ストレス性疾患作用を示す薬剤)として、同時又は別々に使用可能なリジンとリジン以外の抗ストレス性疾患剤(抗ストレス性疾患作用を示す薬剤)との組合わせ等に関する。医薬品に使用する場合、ヒト等の動物のストレス性疾患に対する治療、予防、進展防止、改善等に極めて有用である。
更に、本発明はストレス性疾患の予防治療(治療、予防、進展防止、改善等を含む。)方法や、上記有効成分のストレス性疾患予防治療(治療、予防、進展防止、改善等を含む。)剤への使用等にも関する。
【背景技術】
ストレスにより循環器、消化器等様々な全身の臓器が影響を受け、うつ病、不安症、胃・十二指腸潰瘍、過敏性腸症候群、気管支喘息、高血圧症、自律神経失調症等のストレス性疾患が生じる。うつ病の場合、その治療の基本としては「十分な休養をとる」、「適切な抗うつ薬の使用」、「認知療法的な支持的精神療法を受ける」等が行われており、薬物療法においては、従来、三環系乃至四環系抗うつ薬が用いられてきていたが、これらの薬物(薬剤)は、口渇、便秘、排尿障害、眼の調節障害等があり、使い難かった。最近、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)や選択的セロトニン・ノルエピネフリン再取り込み阻害薬(SNRI)が提案されて、副作用が少なくなってきてはいるが、胃粘膜障害等の副作用が認められており、そのような副作用が生じないことが望まれている。
また、他のストレス性疾患である過敏性腸症候群の場合、治療としては精神的療法や、食事療法に加え、薬物療法が行われている。薬物療法の場合、現状としては主にその症状(腹痛、下痢、便秘等)の緩和を目的とした抗コリン薬、止痢薬、緩下薬等が使用されたり、マイナートランキライザー等が使用されているが、十分な効果が得られておらず、有効性の高い治療薬が望まれている。
この様に、これらのストレス性疾患の薬物治療(療法)における問題点として、(1)十分な効果が得られないこと;及び(2)副作用の出現による有用性の低さ等を挙げることができる。これらの問題点を解消又は改善できるよう現在まで様々な取り組みがなされてきているが、満足された治療法が無いのが現状である。
以上のような情況下に、前記問題点が改善された抗ストレス性疾患剤の開発が求められている。
【発明の開示】
1. 発明が解決しようとする課題
本発明が解決しようとする課題は、改善された抗ストレス性疾患剤(抗ストレス性疾患作用を示す薬剤)、例えば従来品よりも効果(薬効)が増強され、また副作用の低減された抗ストレス性疾患剤を提供することにある。
2. 課題を解決するための手段
上記課題を解決するために本発明者らは鋭意検討を重ね、アミノ酸の1種であるリジンと、既存の或いは今後見出される抗ストレス性疾患剤を配合した組成物に、或いはリジンと当該薬剤との組合わせに、リジンを併用する前の前記抗ストレス性疾患剤に比較して、効果(薬効)が増強され、また副作用が低減された抗ストレス性作用があることを見出し、本発明を完成するに到った。
ところで最近、必須アミノ酸の一つであるリジンが抗ストレス効果を有することが本発明者らの一部らにより見出され、この内容について特許出願されている(PCT/JP02/02571)。従って、リジンは抗ストレス性疾患剤に該当するので、本発明においては、リジンとリジン以外の前記抗ストレス性疾患剤が少なくとも有効成分として採用される。
本発明においては、上記疾患に対し治療薬として用いられている薬剤の効果をリジンが増強する可能性やそのことによる従来の薬剤の投与量を軽減することによる副作用の出現頻度の低下を生じさせる可能性が考えられる。以上のことより、リジンの併用により抗ストレス性疾患剤の効果を相乗的に又は相加的に増強することができ、特に好ましくは、従来ストレス性疾患治療薬として用いられるもののうち、単独で十分効果が示されていないもの、また効果があるものの副作用がその有用性を低くしているもの等について、リジンの併用により、薬剤の有用性を上げ、このストレス性疾患の薬物治療(療法)に大きな医療上の、又は食品上の貢献ができるものと期待される。
即ち、本発明は、少なくともリジンとリジン以外の抗ストレス性疾患剤とを有効成分として含有することに特徴を有する抗ストレス性疾患組成物に存する(本発明の組成物)。
リジンは、塩酸塩、グルタミン酸塩等、塩の形態でも使用することができる。リジンの光学異性体については、D−体、L−体及びDL−体何れも使用可能であるが、天然に存するということでL−体が好ましく使用される。抗ストレス性疾患剤を与えられる対象としては、ヒト(患者或いはその予防を求めるヒト等)に限らず、ストレス性疾患を有し、又は当該疾患になり得る動物、例えば家畜等を挙げることができる。
前記組成物は、医薬品(動物薬を含む。)、飲食品及び飼料の何れかの形態で使用することができる。
前記抗ストレス性疾患剤としては下記薬剤▲1▼〜▲3▼から、1種又は2種以上を選択することができる。
▲1▼中枢及び自律神経系に関与する神経伝達系に作用する薬剤;
▲2▼免疫系に作用する薬剤;及び
▲3▼症状を神経伝達系及び免疫系以外の機序により緩和する薬剤。
前記抗ストレス性疾患剤として、下記薬剤から1種又は2種以上を選択することができる。
抗うつ薬、抗不安薬、過敏性腸症候群治療薬、胃・十二指腸潰瘍治療薬、気管支喘息治療薬、高血圧治療薬、抗狭心症薬、糖尿病治療薬及び抗リウマチ薬。
前記抗うつ薬としては、選択的セロトニン再取り込み阻害薬及び選択的セロトニン・ノルエピネフリン再取り込み阻害薬を、前記抗不安薬としては、ベンゾジアゼピン誘導体、ジェフェニルメタン誘導体及びセロトニン5−HT1A受容体作用薬を、前記過敏性腸症候群治療薬としては、抗コリン薬、止痢薬及び緩下薬を、前記胃・十二指腸潰瘍治療薬としては、ヒスタミンH2受容体拮抗薬、プロトンポンプ阻害薬及びプロスタグランジン系薬を、前記気管支喘息治療薬としては、アドレナリンβ2受容体作動薬及び抗ヒスタミン薬を、前記高血圧治療薬としては、Caチャネル拮抗薬、アンジオテンシン変換酵素阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬及び利尿薬を、前記抗狭心症薬としては、有機硝酸エステル及びアドレナリンβ受容体遮断薬を、前記糖尿病治療薬としては、インスリン分泌促進薬、インスリン製剤及びスルホニル尿素薬を、それぞれ挙げることができる。
前記医薬品としては、抗ストレス性疾患用医薬品(抗ストレス性疾患作用を有する医薬品。)を挙げることができ、ストレス性疾患の治療、予防、改善、進展防止等に使用することができる。
前記抗ストレス性疾患剤(有効成分)とリジンの使用比率については、特に制限は無いが、抗ストレス性疾患剤とリジンの使用比率(重量)をリジンの遊離体換算で表して、好ましくは1:0.5〜1:100000程度、より好ましくは1:1〜1:10000程度、更に好ましくは1:2〜1:5000程度となるよう使用することができる。
上記本発明の組成物には、少なくともリジンとリジン以外の抗ストレス性疾患剤(有効成分1種以上)を含むことができ、更に本発明の目的を阻害しない範囲で他の成分を使用することができる。例えば、リジン以外のアミノ酸を添加使用することができる。一例を挙げると、アルギニン、グルタミン酸、アスパラギン酸等を添加してもよい。
本発明は、別の形態として、抗ストレス性疾患剤として、同時又は別々に使用可能なリジンとリジン以外の抗ストレス性疾患剤との組合わせにも存する(本発明の組合わせ)。
前記発明と同様、リジンは、塩酸塩、グルタミン酸塩等、塩の形態でも使用することができる。リジンの光学異性体については、D−体、L−体及びDL−体何れも使用可能であるが、天然に存するということでL−体が好ましく使用される。抗ストレス性疾患剤を適用する対象としては、ヒトに限らずストレス性疾患になり得る動物、例えば家畜等を挙げることができる。
本発明の組合わせは、前記2種の有効成分を同時に使用する一形態として前記本発明の組成物を包含する。前記本発明の組成物における説明は、「組成物」自体についての説明を除き、全てこの発明にも適用される。
本発明の組合わせは、前記医薬品(動物薬を含む。)、飲食品、飼料等何れの形態でも使用することができる。特に、抗ストレス性疾患剤は医薬品又は動物薬とし(単独製剤)、一方リジンは医薬品、飲食品又は飼料の形態とし(リジン単独製剤、リジン含有飲料、リジン含有飼料等)、それぞれ時を異にして、与える(投与、摂食、給与等)こともできる。この際、医薬品(動物薬を含む。)、飲食品、飼料等として更に必要な成分を含み、また必要な処理を行うことは当然可能である。
本発明は、別の形態として、リジン及びリジン以外の抗ストレス性疾患剤を生体内に摂取又は投与することに特徴を有するストレス性疾患の予防治療(治療、予防、進展防止、改善等を含む。)方法に存する。リジンは塩の形態でもよい。
当該摂取又は投与する形態については、前記本発明の組成物又は前記本発明の組合わせの形態で摂取又は投与することができる。
本発明は、更に別の形態として、リジン及びリジン以外の抗ストレス性疾患剤のストレス性疾患予防治療(治療、予防、進展防止、改善等を含む。)剤(又はその製造)への使用にも存する。リジンは塩の形態でもよい。
ストレス性疾患については本明細書中で説明する通りであり、当該ストレス性疾患予防治療剤として前記本発明の組成物又は前記本発明の組合わせの形態或いはこれらに上記成分が使用された形態をその好ましい例として挙げることができる。
【図面の簡単な説明】
[図1]
図1は、過敏性腸症候群モデルにおいて(実施例1)、リジンとマイナートランキライザーであるアルプラゾラムとの併用効果を示す図である。
*:コントロールと比較し有意である(p<0.05)。
[図2]
図2は、胃潰瘍モデルにおいて(実施例2)、SSRIの胃内出血の増悪に対するリジンの軽減効果を示す図である。SSRI:パロキセチン。
*:コントロールと比較し有意である(p<0.05)。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本発明においては前述の如く、医薬品(動物薬を含む。)、飲食品、飼料の形態で使用することができる。更に、2種有効成分であるリジンと抗ストレス性疾患剤(有効成分)とを、それぞれ別形態で使用することができる。以下、本発明の代表的な形態として上記2種有効成分を同一製品(製剤)に含む例を中心に、本発明を説明するが、代表的な例を示すものであり、本発明はこれらに限定されるものではない。
本発明において、ストレス性疾患とは、ストレスに起因する疾患であり(「からだの科学」、223;58−61、2002参照。)、詳細は下記の通りである。
ストレスにより自律神経系及び免疫系が影響を受け、以下の様なストレス性疾患を生じる。即ち、精神神経系においてはうつ病、不安症等、消化器系においては胃・十二指腸潰瘍、過敏性腸症候群等、呼吸器系においては気管支喘息、過換気症候群等、循環器系においては高血圧症、狭心症等、内分泌系においては糖尿病等、神経筋肉系においては偏頭痛、自律神経失調症等、免疫・アレルギー系においては慢性関節リウマチ、膠原病等である。
これらの疾患に用いられる薬剤としては大きく3群に分けられる。一つはストレスそのものにより活性化される中枢及び自律神経系に関与する神経伝達系に作用する薬剤、二つ目はストレスにより変化した免疫系に作用する薬剤、三つ目としては上記の神経伝達系及び免疫系の変化に伴う各疾患に認められる症状そのものを改善(緩和)する薬剤。
リジンのストレス性疾患に対する作用の出現には、主なものとして、セロトニン神経系に対する作用、及びベンゾジアゼピンレセプターに対する修飾等が考えられている(in house data)。
従って、リジンとの併用により、効果の増強が期待できる薬剤、例えば従来の薬剤或いは今後開発される薬剤としては、好ましくはリジンの作用機序と異なる作用で効果を発現しているものである。即ち、▲1▼中枢及び自律神経系に関与する神経伝達系に作用する薬剤群であれば、リジンが関与すると考えられるセロトニン神経系、ベンゾジアゼピンレセプター以外に作用点を有する薬剤であり、▲2▼免疫系に作用する薬剤群、及び▲3▼症状を神経伝達系及び免疫系以外の機序により緩和する薬剤群を挙げることができる。
具体的な例として、▲1▼中枢及び自律神経系に関与する神経伝達系に作用する薬剤群としては、抗うつ薬として最近使用されているSSRIであるパロキセチン及びフルボキサミン、SNRIであるミルナシプラン等、抗不安薬としてはベンゾジアゼピン系誘導体であるジアゼパム、オキザゼパム及びフルトプラゼパム、ジェフェニルメタン誘導体であるヒドロキシジン、セロトニン5−HT1A受容体作用薬であるタンドスピロン等が挙げられ、またその他神経伝達系(カテコラミン、セロトニン、アセチルコリン、神経ペプチド等)を制御する薬剤、アドレナリンβ受容体遮断薬であるプロプラノロール、ピンドロール及びチモロール、アドレナリンα1受容体遮断薬であるプラゾシン及びブナゾシン、アドレナリンα、β受容体遮断薬であるラベタロール、ムスカリン受容体拮抗薬であるチキジウム及びトロスピウム、セロトニン5−HT3受容体拮抗薬であるアロセトロン、セロトニン5−HT4受容体作用薬であるテガセロット等が挙げられる。
▲2▼免疫系に作用する薬剤群としては、非特異的免疫賦活薬であるレンチナン及びシゾフィラン、インターロイキン産生抑制薬であるシクロスポリン、スプラタスト及びタザノラスト等が挙げられる。
▲3▼症状を神経伝達系及び免疫系以外の機序により緩和する薬剤群としては、胃・十二指腸潰瘍治療薬であれば攻撃因子である酸の分泌機構を直接抑制するヒスタミンH2受容体拮抗薬であるファモチジン、シメチジン、ラニチジン及びニザチジン、プロトンポンプ阻害薬であるランソプラゾール、オメプラゾール及びラベプラゾール等を挙げることができる。過敏性腸症候群治療薬であれば便秘を改善するために用いられているポリカルボフィルカルシウム、メチルセルロース及びラグノロース等が挙げられる。また、高血圧症治療薬であれば血管平滑筋を直接弛緩させ血圧を低下させるCaチャネル拮抗薬であるシルニジピン、アムロジピン及びエホニジピン等を挙げることができ、血圧を上昇させる因子であるレニン・アンジオテンシン系を直接抑制するアンジオテンシン変換酵素阻害薬であるエナラプリル、カプトプリル及びテモカプリル等、或いはアンジオテンシンII受容体拮抗薬であるロサルタン、バルサルタン及びカンデサルタンシレキセチル等が挙げられる。気管支喘息治療薬であれば気管支を直接弛緩させるアドレナリンβ2受容体作動薬であるプロカテロール、トリメトキノール、ヘキソプレナリン及びサルブタモール等が挙げられ、糖尿病治療薬であれば直接インスリン分泌を制御するトルブタミドやナテグリニド、グリベンクラミド及びクロルプロパミド等が挙げられる。
以上のような抗ストレス疾患剤の使用法については、それぞれの薬剤として知られている方法を採用することができ、その有効成分の使用量としては、知られている通りの方法を採用することもできるし、本発明の効果を考慮してその使用量を適当に低減することもできる(10−80%程度の使用量。)。
従って、前記これらの薬剤はリジンと併用することにより、その効果の増強による投与量の低減による副作用出現の減少も図れるものと考えられる。
ストレス性疾患治療薬との併用に用いられるリジンについては、前記薬剤の製剤中に併用使用することができる。勿論、そのまま若しくはそれ自体公知の薬学的に許容されうる担体、賦形剤等と混合した医薬組成物として使用に供される。その場合、投与方法については特に制限は無く、例えば錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、丸剤等の経口投与、注射剤、シロップ剤、軟膏剤、坐剤等の非経口投与等を採用することができる。リジンの投与量は、投与対象、投与ルート、症状等によって異なるが、リジンの単独製剤か併用製剤かにかかわらず、1日当たり好ましくは10mg〜50g程度、より好ましくは100mg〜20g程度であり、これを1日1〜数回に分けて投与することができる。
前記の通り本発明は、別の形態として、リジン及びリジン以外の抗ストレス性疾患剤を生体内に摂取又は投与することに特徴を有するストレス性疾患の予防治療(治療、予防、進展防止、改善等を含む。)方法や、更に別の形態として、リジン及びリジン以外の抗ストレス性疾患剤のストレス性疾患予防治療(治療、予防、進展防止、改善等を含む。)剤(又はその製造)への使用にも存する。これらの場合、リジンは塩の形態でもよい。
これらの発明については、何れも前記本発明の組成物及び前記本発明の組合わせについての説明や、後述の実施例等に基づいて、また必要により従来の公知技術を参考にすることにより、容易に実施をすることができる。
好適な実施の形態
以下、実施例を示して本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何等制限されるものではない。
【実施例1】
過敏性腸症候群の動物モデルを用いたアルプラゾラムとリジンの併用効果
[方法]
過敏性腸症候群の動物モデルとして、ウイリアムズ(Williams,C.L.,Villar,R.G.,Peterson,J.M.,Burks,T.F.(1988)Stress−induced changes in intestinal transit in the rat:a model for irritable bowel syndrome.Gastroenterol.94:611−621)らが報告している方法に準じ作成したモデルを用いた。即ち、7週齢のウイスター系雄性ラットの前肢に綿テープを巻き、飼育ブラケットケージに放置し、その後2時間の間に排泄される糞量を測定した。被験物質はラップストレスを与える40分前に経口投与した。検討した群は、1)コントロール群、2)リジン塩酸塩(1g/kg)単独群、3)マイナートランキライザーであるアルプラゾラム(10mg/kg、武田薬品工業)単独群、4)リジン塩酸塩(1g/kg)とアルプラゾラム(10mg/kg)との併用群で、各群10匹を用いた。
[結果]
ラップストレス負荷後2時間における糞便量は約1.4gで、ストレスを与えないときの糞便量に対し有意に増加した。このストレスによる糞便量の増加に対し、リジン塩酸塩及びアルプラゾラムの各単独群は明らかな作用を有しなかった。しかしながら、リジンとアルプラゾラムとの併用群は、糞便量の増加を有意に抑制した(図1参照。)。即ち、図1からリジンがマイナートランキライザーであるアルプラゾラムの作用を増強していることが分かる。
【実施例2】
胃潰瘍モデルを用いたSSRIとリジンの併用効果
[方法]
広く用いられている水浸拘束による胃潰瘍モデルを用いた。即ち、ラットをストレスケージに入れて、5時間、胸部まで浸水(温度22−25度)させた。その後、胃を摘出し、胃内出血の度合いを、NHIイメージソフトウェアを用いて胃内出血面積を算出した。
被験物質の評価を以下のように行った。5週齢ウイスター系雄性ラットを3群に分け、1群は正常粉餌で、2群は選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)(パロキセチン、グラクソスミスクライン、298mg/kg diet)単独を添加した粉餌で、3群はSSRIとリジン塩酸塩(13.3g/kg diet)との併用にアルギニン(13.3g/kg diet)を添加した粉餌で飼育した。各群10匹ずつとした。ラットは14週齢になるまで自由に摂食させ、その後餌と水を連続2日間抜き、3日目に全ラットを5時間の拘束水浸ストレスにかけた。
[結果]
SSRIは胃内出血を有意に増悪させたが、リジンと併用した場合、SSRIによる増悪は認められなかった(図2参照。)。即ち、図2からリジンがSSRIの胃内出血の増悪を軽減していることが分かる。
以上の結果から、抗ストレス性疾患剤とリジンの併用効果が確認された。
【発明の効果】
以上の説明から明らかな如く、本発明により、リジンと抗ストレス性疾患剤との組合わせ、特にこの2種有効成分を含む組成物、例えば配合剤等医薬品(動物薬を含む。)を提供する。抗ストレス性疾患剤単独、特に従来の抗ストレス性疾患剤の単独品に比べて、リジンの併用により薬理効果及び副作用が改善され、本発明品は極めて有効性が高い。更に、本発明によりストレス性疾患の予防治療(治療、予防、進展防止、改善等を含む。)方法や、上記有効成分のストレス性疾患予防治療(治療、予防、進展防止、改善等を含む。)剤への使用等も提供する。
従って、本発明は医薬品(動物薬を含む。)、医療、食品、飼料等の分野で広く実施可能であり、故に産業上極めて有用である。
【図1】

【図2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
リジンとリジン以外の抗ストレス性疾患剤とを有効成分として含有することを特徴とする抗ストレス性疾患組成物。
リジンは塩の形態でもよい。
【請求項2】
医薬品、動物薬、飲食品及び飼料の何れかである請求の範囲1記載の組成物。
【請求項3】
前記抗ストレス性疾患剤が下記薬剤▲1▼〜▲3▼から選択される請求の範囲1記載の組成物:
▲1▼中枢及び自律神経系に関与する神経伝達系に作用する薬剤;
▲2▼免疫系に作用する薬剤;及び
▲3▼症状を神経伝達系及び免疫系以外の機序により緩和する薬剤。
【請求項4】
前記抗ストレス性疾患剤が下記薬剤から選択される請求の範囲1〜3何れか記載の組成物:
抗うつ薬、抗不安薬、過敏性腸症候群治療薬、胃・十二指腸潰瘍治療薬、気管支喘息治療薬、高血圧治療薬、抗狭心症薬、糖尿病治療薬及び抗リウマチ薬。
【請求項5】
前記抗うつ薬が選択的セロトニン再取り込み阻害薬及び選択的セロトニン・ノルエピネフリン再取り込み阻害薬から選ばれ、前記抗不安薬がベンゾジアゼピン誘導体、ジェフェニルメタン誘導体及びセロトニン5−HT1A受容体作用薬から選ばれる請求の範囲4記載の組成物。
【請求項6】
前記過敏性腸症候群治療薬が抗コリン薬、止痢薬及び緩下薬から選ばれ、前記胃・十二指腸潰瘍治療薬がヒスタミンH2受容体拮抗薬、プロトンポンプ阻害薬及びプロスタグランジン系薬から選ばれる請求の範囲4記載の組成物。
【請求項7】
前記気管支喘息治療薬がアドレナリンβ2受容体作動薬及び抗ヒスタミン薬から選ばれ、前記高血圧治療薬がCaチャネル拮抗薬、アンジオテンシン変換酵素阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬及び利尿薬から選ばれ、前記抗狭心症薬が有機硝酸エステル及びアドレナリンβ受容体遮断薬から選ばれ、前記糖尿病治療薬がインスリン分泌促進薬、インスリン製剤及びスルホニル尿素薬から選ばれる請求の範囲4記載の組成物。
【請求項8】
前記医薬品がストレス性疾患用医薬品である請求の範囲2記載の組成物。
【請求項9】
前記抗ストレス性疾患剤とリジンの使用比率(重量)が、リジンの遊離体換算で1:0.5〜1:100000である請求の範囲1〜8何れか記載の組成物。
【請求項10】
リジン以外のアミノ酸を含有する請求の範囲1又は2記載の組成物。
【請求項11】
抗ストレス性疾患剤として、同時又は別々に使用可能なリジンとリジン以外の抗ストレス性疾患剤との組合わせ。
リジンは塩の形態でもよい。
【請求項12】
リジン及びリジン以外の抗ストレス性疾患剤を生体内に摂取又は投与することを特徴とするストレス性疾患の予防治療方法。
リジンは塩の形態でもよい。
【請求項13】
当該摂取又は投与する形態が請求の範囲1〜10何れか記載の組成物又は請求の範囲11記載の組合わせの形態にある請求の範囲12記載の方法。
【請求項14】
リジン及びリジン以外の抗ストレス性疾患剤のストレス性疾患予防治療剤への使用。
リジンは塩の形態でもよい。
【請求項15】
当該ストレス性疾患予防治療剤が請求の範囲1〜10何れか記載の組成物又は請求の範囲11記載の組合わせの形態にある請求の範囲14記載の使用。

【国際公開番号】WO2004/026296
【国際公開日】平成16年4月1日(2004.4.1)
【発行日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−537563(P2004−537563)
【国際出願番号】PCT/JP2003/011754
【国際出願日】平成15年9月16日(2003.9.16)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】