説明

抗トリガーファクターモノクローナル抗体

【課題】Trigger Factor(略してTF)に対する部分ペプチドを抗原として取得したモノクローナル抗体を提供すること。またTFをアフィニティタグとしてTF融合タンパク質の検出、測定方法を開発すること。
【解決手段】大腸菌由来シャペロンの一種であるTFを認識する抗TFモノクローナル抗体、当該モノクローナル抗体を含有する測定試薬、当該モノクローナル抗体を使用するTF、そのフラグメント又は分子内にTFもしくはそのフラグメントを含有するタンパク質の測定方法、TF、そのフラグメント又は分子内にTFもしくはそのフラグメントを含有するタンパク質の精製方法、当該モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリガーファクターに対して特異性を有する抗トリガーファクターモノクローナル抗体及びその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質の結晶構造解析あるいはプロテオーム解析などでは、タンパク質を大量に発現・精製することが大変重要である。従来、このような目的には、目的のタンパク質にアフィニティタグ(親和性物質)を付加し、この目的タンパク質を含む試料をアフィニティタグに親和性を有する担体に接触させて担体に目的タンパク質を吸着させ、さらに夾雑物を洗浄、除去した担体から吸着物を脱離させることにより、目的タンパク質を濃縮、精製する方法が知られている。
【0003】
トリガーファクター(以下、TFと記載する)は、イン・ビトロでの大腸菌外膜タンパク質のOmpAの前駆体であるproOmpAの膜への輸送に必要な細胞質因子として発見された因子である(非特許文献1)。また、分子量48kDaのTFをコードする遺伝子としてtig遺伝子がクローニングされている。アミノ酸配列の解析により、TFはFK506結合タンパク質(FKBP)ドメインを有し、FK506との結合活性とペプチジル−プロリルイソメラーゼ(PPIase)活性の発現に必要なすべてのアミノ酸が保存されていることが明らかにされている。
【0004】
TFは、大腸菌リボソームの50Sサブユニットに結合したPPIaseとしても同定され、変異型RNaseT1のイン・ビトロでのリフォールディングにおけるプロリル異性化反応を著しく促進することが報告されている(非特許文献2)。さらに、クロスリンク試薬を用いた実験により、TFは大腸菌リボソーム上の新生ポリペプチド鎖と結合することが見出されている
【0005】
PPIaseはペプチド鎖中のプロリン残基に作用し、ペプチド結合に関する配置のシス−トランス異性化を触媒する。この反応はタンパク質の折畳み過程の律速段階とされており、PPIaseファミリータンパク質の役割として、細胞内でのタンパク質折畳み、リフォールディング、会合と解離、輸送などへの関与が考えられている。
【0006】
このようにTFは、分子量48kDaのタンパク質でリボソームに会合して存在し、タンパク質の翻訳と共役しながら、新生ポリペプチドのフォールディングを促進すると考えられている。このようなTFの性質を利用して、難溶性のタンパクの発現向上と可溶化を目的とした融合型発現ベクターが開発されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】プロシーディングス オブ ナショナル アカデミー オブ サイエンス(Proceedings of National Academy of Sciences USA)、第84巻、第5216−5220頁、1987年
【非特許文献2】エンボ ジャーナル(EMBO J)、第14巻、第4939−4948頁、1995年
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4249832号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
目的とするタンパク質を発現させるツールとして利用されるTFに関して、操作が簡便で、精度、特異性、再現性に優れた検出手段及び精製手段の開発が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは鋭意努力を重ね、TFと融合した目的タンパク質を特異的に検出可能な抗TF抗体を作製した。すなわち、従来入手されていなかった、TFを特異的に認識する抗体の創成に成功し、当該モノクローナル抗体を使用することにより、従来の課題が解決されること、すなわち当該モノクローナル抗体がTFを利用した目的タンパク質の調製に際して、当該タンパク質の検出、定量、精製に有用であることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
本発明を概説すれば、本発明は、
[1]トリガーファクターに反応することを特徴とする抗トリガーファクターモノクローナル抗体、
[2]配列表の配列番号1記載のアミノ酸配列を有するトリガーファクターと反応する[1]記載の抗トリガーファクターモノクローナル抗体。
[3]抗トリガーファクターモノクローナル抗体が、寄託番号NITE BP−1028で表わされるハイブリドーマより産生される[1]記載の抗トリガーファクターモノクローナル抗体、
[4]被験試料中のトリガーファクターを測定する試薬において、[1]記載の抗トリガーファクターモノクローナル抗体を含むトリガーファクター測定試薬、
[5][1]記載の抗トリガーファクターモノクローナル抗体を使用する被験試料中のトリガーファクター、そのフラグメント又は分子内にトリガーファクターもしくはそのフラグメントを含有するタンパク質の測定方法、
[6]被験試料が、培養細胞由来試料から選ばれる[5]記載の測定方法
[7][1]記載の抗トリガーファクターモノクローナル抗体を産生する、寄託番号NITE BP−1028で表わされるハイブリドーマ、及び
[8]以下の工程を包含するトリガーファクター、そのフラグメント又は分子内にトリガーファクターもしくはそのフラグメントを含有するタンパク質の精製方法;
(a)トリガーファクター、そのフラグメント又は分子内にトリガーファクターもしくはそのフラグメントを含有するタンパク質を含有する試料を、[1]に記載のモノクローナル抗体と接触させる工程;
(b)前記(a)の抗体から捕捉されたタンパク質を溶出させる工程、
に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、操作が簡便で、かつ測定精度が高く、特異性並びに再現性にも優れた抗TFモノクローナル抗体が安定して提供される。
本発明の試薬は、被験試料中のTF又はTFを分子内に含有するタンパク質(例えばTFと他のタンパク質との融合タンパク質)を検出、定量することができ、さらにTFをタグとしたTFと他のタンパク質との融合タンパク質の精製に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、ウェスタンブロッティング解析を示す図である。
【図2】図2は、免疫沈降解析を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
「トリガーファクター」(TF)は、大腸菌外膜タンパク質のOmpAの前駆体であるproOmpAの膜への輸送に必要な細胞質因子として発見された因子である。
【0015】
本発明において「TFを分子内に含有するタンパク質」とは、分子内にTF又はその一部(フラグメント)のアミノ酸配列を含有するタンパク質を意味する。特に限定するものではないが、例えば、目的の任意のタンパク質とTF又はそのフラグメントとの融合タンパク質(以下TF融合タンパク質と記載する)が例示される。本発明に使用されるTF融合タンパク質は、TF又はそのフラグメントが目的のタンパク質のN末端、C末端のどちらかに結合している融合タンパク質、両方に結合している融合タンパク質の両方が含まれる。さらに、本発明に使用されるTF融合タンパク質は、別のタグ配列を含有していてもよい。
【0016】
本発明において「モノクローナル抗体」とは、単一クローンの抗体生産細胞が分泌する抗体を意味し、単クローン(性)抗体ともいう。特定の抗原決定基を認識する抗体であり、アミノ酸配列の一次構造が均一である。本発明のモノクローナル抗体は、細胞融合法により調製されるハイブリドーマが産生する抗体に加えて、抗体産生細胞のmRNA等を用いて遺伝子工学的に作製された抗体も含まれる。
【0017】
(1)本発明の抗TFモノクローナル抗体
本発明は抗TFモノクローナル抗体を提供する。本発明の抗体は、TF融合タンパク質であっても目的のタンパク質に阻害されることなく、簡便で、かつ測定精度が高く、特異性並びに再現性よくTF又はTF融合タンパク質を検出することができる。例えば、ウェスタンブロッティング解析に使用することができる。本発明の抗TFモノクローナル抗体として、TFのアミノ酸配列TIDFTGSVDGEEFEC(配列番号1)の配列をエピトープとして特異的に認識する抗体が例示される。
【0018】
また、本発明の抗体にペプシン、パパイン等のタンパク質分解酵素を作用させ、抗体のFc部分を除去して得られる、F(ab’)、Fab’、Fab等のフラグメントも本発明で使用する抗体に含まれる。
【0019】
さらに、得られたモノクローナル抗体を基に、遺伝子工学的に製造される組換え抗体や、定常領域を他の抗体の定常領域に置換したキメラ抗体であっても良い。このような抗体は、二重特異性抗体(二価抗体)、scFv、Fab、Diabody、Triabody、Tetrabody、Minibody、Bis−scFv、(scFv)−Fc、intact−IgGが例示され、Holligerら、Nature Biotechnology、第23巻、第9号、p.1126−36(2005)に詳述される。
【0020】
本発明のモノクローナル抗体は、いわゆる細胞融合法によって作製されたハイブリドーマを使用して製造され得る。前記ハイブリドーマは、抗体産生細胞の集団と骨髄腫細胞と融合ハイブリドーマを形成させ、該ハイブリドーマをクローン化し、TFを認識する抗体を産生するクローンを取捨選択し、さらに本発明の目的に好適なクローンを選別することによって初めて樹立される。
抗体産生細胞には、TF又はその一部によって免疫された動物の脾細胞、リンパ節細胞、Bリンパ球等が利用できる。免疫させる動物としては、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウマ、ヤギ、ウサギ等が挙げられる。免疫原として用いる前記TFは、TFをコードする遺伝子を使用して遺伝子工学的に組換えタンパク質として調製することができる。また、人工的にTF又はその一部のポリペプチドを合成して調製することができる。かくして得られたTF又はその一部を、そのまま単独で動物の免疫に使用する。また、例えばKLH(Keyhole Limpet Hemocyanin)に代表されるキャリアタンパクと結合後、又はPVP(ポリビニルピロリドン)と混合後、フロイントのアジュバントと混合し、動物の免疫に使用する。あるいはTF又はその一部を直接フロイントのアジュバントと混合し、動物の免疫に使用する。免疫は動物の皮下、筋肉内あるいは腹腔内に1回に20〜200μgの抗原−アジュバント混合物を投与することにより行われる。例えば、抗原−アジュバント混合物を2〜3週間に1回の間隔で3〜7回投与することにより、最終免疫より約3〜5日後、免疫動物の脾臓から抗体産生細胞を分取することができる。また、抗原−アジュバント混合物を1回投与し、約2〜3週間後に免疫動物のリンパ節から抗体産生細胞を分取することができる。
【0021】
骨髄腫細胞としてはマウス、ラット、ヒト等由来のものが使用される。細胞融合は例えばG.ケラー(G.Kehler)、ネーチャー(Nature)第256巻、第495頁(1975)に記載の方法、又はこれに準ずる方法により行われる。この際、30〜50%ポリエチレングリコール(分子量1000〜6000)を用い、抗体産生細胞と骨髄腫細胞とを30〜40℃の温度下、約1〜3分間程度反応させる。細胞融合により得られたハイブリドーマはスクリーニングに付される。例えば、抗原としてTFを用いた酵素抗体法(EIA)等により前記配列表の配列番号1で表されるアミノ酸配列を含むTFと反応する抗体を生産するハイブリドーマのスクリーニングが行われる。得られた抗体産生ハイブリドーマは、例えば限界希釈法によりクローン化される。得られたクローンは、次いで目的とする高感度、高特異性のモノクローナル抗体を産生するクローンを選択するため、例えば酵素抗体法等によるスクリーニングに供される。
こうして選ばれたクローンは、例えばあらかじめプリスタン(2,6,10,14−テトラメチルペンタデカン)やFIA(Freund incomplete adjuvant)を投与したBALB/cマウスの腹腔内へ移植し、10〜14日後にモノクローナル抗体を高濃度に含む腹水を採取する。この腹水からのモノクローナル抗体の回収は、イムノグロブリンの精製法として従来既知の硫安分画法、ポリエチレングリコール分画法、イオン交換クロマトグラフ法、ゲルクロマトグラフ法、アフィニティークロマトグラフ法等を応用することで達成される。
【0022】
例えば、本発明の一態様として、TFモノクローナル抗体は、ハイブリドーマ細胞TF−C57ZZ 19−7Fにより産生されるモノクローナル抗体TF−C57ZZ 19−7Fが挙げられる。ハイブリドーマ細胞TF−C57ZZ 19−7Fは、平成23年1月7日(原寄託日)より独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(千葉県木更津市かずさ鎌足2丁目5番地8(郵便番号292−0818))にNITE BP−1028として寄託されている。
【0023】
本発明は前記の抗体を産生する細胞、すなわち本発明のモノクローナル抗体TF−C57ZZ 19−7Fを産生するハイブリドーマ細胞TF−C57ZZ 19−7Fを包含する。
【0024】
(2)本発明のTF測定試薬及び測定方法
本発明のTF測定試薬は、被験試料中のTF又はTF融合タンパク質を測定可能な試薬であって、前記(1)記載の抗TFモノクローナル抗体を含むことを特徴とする。本発明の測定試薬は、菌体培養物などの被験試料中のTF又は分子内にTF又はTFのフラグメントを含有する融合タンパク質を、簡便、精度、特異性並びに再現性よく定量することができる。
【0025】
本発明の一態様として、本発明はさらにハイブリドーマ細胞TF−C57ZZ 19−7Fより産生されるモノクローナル抗体TF−C57ZZ 19−7Fを含むTF測定試薬である。
【0026】
本発明の測定試薬が測定対象とする被験試料には特に限定はなく、例えば培養細胞由来試料(微生物培養物、細胞培養物、微生物、細胞、これらの抽出物及び培養上清等)が挙げられる。前記微生物には特に限定はなく、例えば大腸菌、枯草菌、酵母などが挙げられる。前記細胞にも特に限定はなく、例えばヒト、マウス、ラットなどの哺乳動物細胞、昆虫細胞などが挙げられる。
【0027】
本発明の測定試薬に使用されるモノクローナル抗体は、特に限定されるものではないが、放射性同位元素、ハプテン、酵素、蛍光物質、発光物質、タンパク質などを用いて標識化できる。放射性同位元素としては、特に限定されるものではないが、例えば[125I]、[131I]、[H]、[14C]などが好ましい。ハプテンとしてはジゴキシゲニンが例示される。酵素としては、特に限定されるものではないが、安定で比活性の大きなものが好ましく、例えばβ−ガラクトシダーゼ、β−グルコシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、ペルオキシダーゼ(POD)、リンゴ酸脱水素酵素などが挙げられる。蛍光物質としては、特に限定されるものではないが、例えばフルオレスカミン、フルオレッセインイソチオシアネートなどが挙げられる。発光物質としては、特に限定されるものではないが、例えばルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニンなどが挙げられる。さらに、ビオチンのような化合物を用いることができる。
【0028】
本発明の測定試薬に使用されるモノクローナル抗体は、固定化用担体に固定化して固相抗体とすることができる。固相抗体は、ビーズ、マイクロタイタープレート、試験管、ニトロセルロース膜、ナイロン膜等の担体表面に、当業者には公知の方法によって、TFを認識する本発明の抗体を結合させることによって調製される。また、固相抗体を調製するための抗体、担体及び固相化に必要な試薬を、固定化する前の段階で提供しても良い。前記目的に使用される抗体も、本発明の固相抗体に含まれる。
【0029】
本発明の測定試薬の態様としては、本発明の一態様のモノクローナル抗体に加えて、様々な試薬、材料、器具等を適宜含有させることができる。本発明の測定試薬を構成するモノクローナル抗体を吸着させるための吸着プレートを含んでいてもよい。また、標識した抗体を検出するための試薬、使用する際にコントロールとなる試薬を含んでいてもよい。
【0030】
(3)本発明のTF又はTF融合タンパク質の精製方法
本発明のTF又はTF融合タンパク質の精製方法は、前記(1)に記載の抗TFモノクローナル抗体を使用し、TF又はTF融合タンパク質を捕捉することを特徴とする方法であり、抗TFモノクローナル抗体とTF又はTF融合タンパク質との特異的な結合を利用することを特徴とする。当該方法では、試料中のTF又はTF融合タンパク質を抗TFモノクローナル抗体に捕捉させ、捕捉されなかった夾雑物を抗TFモノクローナル抗体と分離した後、抗TFモノクローナル抗体からTF又はTF融合タンパク質を遊離させる。夾雑物と抗TFモノクローナル抗体との分離には、例えば固定化プロテインA、固定化二次抗体、ビオチン修飾と固定化アビジンの組合せ、といった公知の抗体分離方法を使用することができる。
本発明のTF又はTF融合タンパク質の精製方法には固定化用担体に固定化した抗TFモノクローナル抗体を使用することができる。本態様は、例えば以下の工程を包含する。
(a)TF、そのフラグメント又は分子内にTFもしくはそのフラグメントを含有するタンパク質を含有する試料を、固定化用担体に固定化した前記(1)に記載のモノクローナル抗体と接触させる工程;
(b)前記(a)の固定化担体から捕捉されたタンパク質を溶出させる工程。
【0031】
工程(a)において、固定化用担体への抗体の固定化手段としては、(I)疎水性相互作用や静電相互作用にもとづく吸着による固定化、(II)予め捕捉部に導入した、抗体と反応性を有する官能基との化学結合による固定化、(III)予め捕捉部に導入した、抗体と特異的に結合する物質との相互作用による固定化、などを利用することができる。
【0032】
(II)に記述の官能基としては、アルデヒド基、アミノ基、カルボキシル基、ヒドラジド基、カルボジイミド基、エポキシ基、チオール基、ヒドロキシル基、各種の無水環、マレイミドなどを好適に用いることができ、アルデヒド基、アミノ基、カルボキシル基がより好ましい。官能基の導入には、プラズマ処理、コロナ放電処理、紫外線照射、火炎処理、薬剤処理、表面グラフト重合、カップリング剤処理、官能基を有する物質のコーティングなどの手段を用いることができる。
【0033】
(III)に記述の、抗体と特異的に結合する物質としては、プロテインA、プロテインG、プロテインL、固定化したい抗体に対する抗体(二次抗体)、アビジン及びその誘導体、ビオチン及びその誘導体、各種金属イオンなどを用いることができる。ただし、アビジン、ビオチン及びそれらの誘導体を用いる場合には、抗体にそれぞれビオチンあるいはアビジンを導入しておく必要がある。プロテインA、プロテインG、プロテインLによる抗体の固定化は、抗原との結合能を阻害しにくいため、特に好ましく用いることができる。
【0034】
固定化用担体は、被験試料中に含まれるTF又はTF融合タンパク質の捕捉効率を高めるため、被験試料と接触する面積を可能な限り大きくすることが好ましい。この観点から、固定化担体は、微小な粒子又は多孔体などであることが好ましい。前記粒子としてはガラス、各種プラスチック、ゲル状物質、金属、セラミック粉末などが利用可能であり、その好ましい粒径は、直径が0.001〜1000μm、より好ましくは0.01〜500μm、さらに好ましくは0.01〜100μmであり、特に好ましくは0.1〜100μmである。多孔体としては多孔質ポリマー、多孔質ガラス、多孔質プラスチック、多孔質セラミック、金属の焼結体などが利用可能であり、その好ましい孔径は、0.001〜1000μm、より好ましくは0.01〜500μm、さらに好ましくは0.01〜100μmであり、特に好ましくは0.1〜100μmである。
【0035】
抗体が固定化された担体(以下固定化抗体と記載する)は、カラムなどに充填されていてもよい。この場合、TF又はTF融合タンパク質を含有する試料との接触は、試料をカラムにアプライし、重力又は送液装置により試料をカラムに通すことにより実施される。
【0036】
また、固定化抗体とTF又はTF融合タンパク質を含有する試料との接触は、固定化抗体をTF又はTF融合タンパク質を含有する試料中に懸濁、分散させることにより実施することができる。この場合、固定化抗体を添加した試料を振とう又は撹拌し、その後遠心分離、ろ過又は静置することにより固定化抗体を回収することができる。
【0037】
TF又はTF融合タンパク質を含有する試料を、固定化抗体と接触させた後、固定化抗体を洗浄することができる。TF又はTF融合タンパク質が結合する固定化抗体を洗浄することにより、TF又はTF融合タンパク質の精製純度を向上させることができる。
【0038】
工程(b)において、固定化抗体からTF又はTF融合タンパク質を溶出(離脱)させる手段としては、pH変化、塩濃度の変化、各種有機溶剤、界面活性剤による溶出などの一般的な方法が利用可能である。
【実施例】
【0039】
以下に、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例の範囲のみに限定されるものではない。
【0040】
実施例1 抗体の作製と選抜
(1)抗原免疫・細胞融合
免疫原として大腸菌TFの部分アミノ酸配列からなるペプチドであるTF−1(配列番号1)、TF−2(配列番号2)、TF−3(配列番号3)を化学的に合成し、それぞれ1mg/mL調製し、そのうち0.2mLと10mgのKLH(Thermo社製)0.1mL、10mg/mLの架橋剤BS3(Thermo社製)50μLを混合し、室温で45分反応後、1Mグリシン緩衝液(pH8.0)を添加し、それぞれ架橋抗原を調製した。1mg/mLの架橋抗原を等量ずつ混合し0.3mLの混合抗原溶液とした。混合抗原溶液をC57BL6マウス3匹に100μg/shot/bodyの投与量で、初回免疫ではフロイント完全アジュバントとエマルジョンを形成させてから腹腔投与し、2週間後、眼窩静脈血清中のTFに対する抗体価の上昇を確認した上で、すべての個体に最終追加免疫を実施した。この最終免疫3日後に、3匹のマウスのリンパ節を摘出し、無血清培地で分散・洗浄しリンパ節細胞とした。このリンパ節細胞を細胞融合用ミエローマ(P3U1)と5:1(リンパ節細胞:ミエローマ)の割合で混合した後に遠心分離に供し、上清を除いて細胞混合物(ペレット)を得た。この細胞混合物に適温に保温した50%PEG溶液1mLを一定速度で、軽い振とうを加えながら添加して混合し、合計3mLの容量となるまで50%PEG溶液を加えた。そのあとは、無血清培地7mLを同様に一定速度で加え、この操作で細胞融合を実施した。
上記操作により多数の融合細胞を取得した。この幅広い母集団より抗原に特異的な抗体をスクリーニングした。
【0041】
(2)HAT選択
融合細胞のスクリーニングには、クローニング培地(三光純薬社製)にHAT(H:ヒポキサンチン、A:アミノプテリン、T:チミジン)を加えたものを用意し、融合日の翌日から3回の培地交換をこのHAT培地で行った。この培地交換操作で、成長してきた細胞は、脾臓由来のde novo合成系を持ちかつ不死化した融合細胞であった。
【0042】
(3)スクリーニング
pCold(登録商標)TF(タカラバイオ社製)ベクターにR3遺伝子(DDBJ Accession No.AB159785)を導入したプラスミド、pCold(登録商標)TF−R3を構築し、pCold(登録商標)TFベクターの使用説明書に従ってTFとR3からなる融合タンパク質のサンプルを調製した(以下、TF−R3タンパク質と記載)。このTF−R3タンパク質を2μg/mL リン酸緩衝生理食塩水(PBS)の濃度で調製し、50μL/ウェルで、イムノプレート(ナルジェヌンク社製)上に添加して、4℃で一晩放置して物理吸着させた。翌日、TF−R3タンパク質溶液を捨てて、25%ブロッカーカゼイン(ピアス社製)を200μL/ウェルになるように加えて、室温(20〜30℃)で一晩放置して、ブロッキング操作を行った。その後、ブロッキング溶液を捨て、上記(2)で得られた融合細胞の培養上清(原液使用)を、ナンバリングした上でイムノプレートに投入し、一次反応を室温(20〜30℃)で1時間行った。0.1% Tweenを含むPBSで反応が終了した各ウェルを3回洗浄し、ペーパータオルで充分に液を切った。検出には、抗マウスIgGラットモノクローナル抗体カクテル−ペルオキシダーゼ標識抗体(タカラバイオ社製)を使用した。前記抗体を1000倍希釈、50μL/ウェルで添加し、室温(20〜30℃)で1時間反応を行った。その後、標識抗体液を捨て、ウェルをPBSで4回洗浄した。ペーパータオルで、洗浄液を充分に除き、ペルオキシダーゼ基質であるTMBZ(3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン)溶液(BioFX社製)を50μL/ウェルで投入し、室温で15〜30分発色させ、等量の1N 硫酸を加えて反応を停止させた後、肉眼及びプレートリーダーで陽性株を確認し、TFに特異的に反応する株の選抜を試みた。
(4)陽性株選抜とクローニング、株樹立
(3)に示す厳格なスクリーニングの結果、TFに特異的に反応する株は、試験したウェルに含まれる10,000以上のコロニー(株)中わずかに3株であった。この3株を用い、直ちに限界希釈法によりクローニングを行った。クローニングされた抗TF抗体産生ハイブリドーマ種類について、それぞれクローンを各2種(本株・亜株)確保した。
【0043】
(5)ペプチド競合阻害試験
(3)のスクリーニングで得られた陽性の3株について、各陽性株の抗体が(1)の各ペプチドを認識するか否かペプチド競合阻害試験を行った。TF−R3タンパク質を2μg/mL PBSの濃度で調製し、50μL/ウェルで、イムノプレート上に添加して、4℃で一晩放置して物理吸着させた。翌日、TF−R3タンパク質溶液を捨てて、25%ブロッカーカゼイン(Thermo社製)を200μL/ウェルになるように加えて、室温(20〜30℃)で一晩放置して、ブロッキング操作を行い、ブロッキング溶液を捨てた。上記(3)で得られた融合細胞の培養上清50μLに(1)の各ペプチドの溶液10μL(1mg/mL)を添加して、室温で30分間プレインキュベートした。該溶液をブロッキング済みのプレートに50μL/ウェル添加して、室温で1時間反応させた。その後2次抗体反応として、抗マウスIgGラットモノクローナルをPBSで1000倍希釈して50μL/ウェルずつ添加して、1時間反応させた。各ウェル内をPBSで3回洗浄後、ペーパータオルで、洗浄液を充分に除き、ペルオキシダーゼ基質であるTMBZ溶液を50μL/ウェルで投入し、室温で15〜30分発色させ、等量の1N 硫酸を加えて反応を停止させた後、肉眼及びプレートリーダーで陽性株を確認した。
【0044】
(6)陽性株選抜とクローニング、株樹立
(5)に示すペプチド競合阻害試験の結果、3株中わずか1株のみTF−1ペプチドによって抗体とTF−R3タンパク質との反応が阻害された。このことから、前記の細胞株(ハイブリドーマクローン)はTF−1ペプチドを認識する抗体を産生していると判断された。
【0045】
(7)マウス腹水採取
上記(5)で選抜された特異性の高い前記ハイブリドーマクローンは、本株・亜株ともに凍結細胞としてマスター細胞を保管した。この操作とほぼ並行しながら、本株を複数のscid(T、B細胞欠損型)マウスの腹腔内で大量培養し、腹水として粗精製抗体を得た。腹水は、1個体あたりおよそ3〜5mLであった。
【0046】
(8)抗体精製
得られた腹水は、50%飽和硫安塩析・透析を行い、その画分をProtein A カラムに供した。平衡化緩衝液は、3M NaCl、1.5M glycin−NaOH緩衝液(pH8.9)の高塩濃度のものを調製し、どのサブクラスのIgGであっても良好に結合する条件を採用した。平衡化緩衝液で2倍希釈した腹水硫安塩析画分を腹水液量とほぼ等量の容積のProtein A樹脂にアプライし、波長280nmの吸光度がほぼゼロになるまで平衡化緩衝液でカラムを洗った。その後、クエン酸緩衝液(pH4.0)とクエン酸緩衝液(pH3.0)の2段階で溶出を行った。溶出画分は、ただちに1M Tris−HCl緩衝液(pH9.0)で中和し、硫安塩析もしくは、遠心限外ろ過濃縮を行った。最終抗体は、PBSで透析し、0.22μmフィルターろ過により無菌化した。抗体の純度は、10%SDS−PAGE(還元加熱条件)により分析し、H鎖とL鎖以外のものがない良好な純度の抗体であることを確認した。
【0047】
実施例2 ウェスタンブロッティング
実施例1−(8)で調製した本発明に係るモノクローナル抗体(以下、TF−C57ZZ 19−7Fと記載)を酵素標識してウェスタンブロッティングを行った。実施例1−(3)で使用したTF−R3タンパク質(サンプル3)と同様にpCold(登録商標)TFベクターにMazF遺伝子(GenBank Accession No.NC_000913.2)を導入したpCold(登録商標)TF−MazFを構築し、TFとMazF融合タンパク質サンプル(サンプル2)を調製した。同様に対照として、pCold(登録商標)ProS2(タカラバイオ社製)ベクターに、ヒトOct4遺伝子(GenBank Accession No.NM_002701.4)を導入したpCold(登録商標)ProS2−Oct4を構築し、プロテインSとヒトOct4の融合タンパク質サンプル(サンプル1)を調製した。これらのタンパク質サンプル2μLをBis−Trisゲル(NuPAGE、10%Bis、インビトロジェン社製)にアプライし、電気泳動後PVDF膜(IPVH000 10、ミリポア社製)にトランスファーした。このPVDF膜を、50%ブロッカーカゼインを含むPBS中で振とう後、1μg/mLのTF−C57ZZ 19A抗体、25%ブロッカーカゼインを含むPBS中で振とうして反応させた。さらに二次抗体としてPOD標識した抗マウスIgGラットモノクローナル抗体を反応させた。0.1%Tween20を含むPBSで洗浄後、検出はHRP基質であるSuperSignal West Femto kit(Thermo社製)を使用して発色させた。Bis−TrisゲルのCBB(Coomassie Brilliant Blue)染色と、PVDF膜のPOD標識抗体の発色結果を図1に示す。図1中のMは分子量マーカーを示す。
【0048】
図1に示すように、TF融合タンパク質であるサンプル2及び3にのみ70kDa付近に目的のバンドが検出された。これにより本発明の抗体がTFのみに有意に反応していることがわかった。
【0049】
実施例3 免疫沈降
本発明の抗体(TF−C57ZZ 19−7F)は、TF融合タンパクを含むタンパク粗抽出液中でも目的のタンパク質を捕捉できることを確認するために、免疫沈降試験を行った。本試験では、実施例2で調製したTF−MazF精製タンパク質、ならびにTF融合タンパク質ではない組換えタンパク質を発現する大腸菌の破砕液を用いた。
Dynabeads Sheep Anti−MouseIgG(VERITAS社製、Cat.No.112.02D)100μLに本発明の抗体の実施例1−(4)で調製したハイブリドーマの培養上清液1mLを混合し、4℃、1時間で転倒混和して抗体をビーズに結合させた。抗体と結合したビーズをPBSで洗浄する操作を3回繰り返し、抗体ビーズ液を調製した。ここでサンプルとして1:大腸菌破砕液(フィルター滅菌済み)、2:TF−MazF精製タンパク質、3:大腸菌破砕液(フィルター滅菌済み)+TF−MazF精製タンパク質、4:3の試料を抗体ビーズ液に添加して、4℃、1時間転倒混和した後に上清とビーズに分離した上清、5:4の操作後のビーズ、の1〜5の計5種類を調製し、SDS−PAGE及び実施例2と同様にウェスタンブロッティングを行った。
【0050】
図2に示すように、サンプル5において目的のTF−MazFが70kDa付近に検出されていることより、ビーズと結合したTF−C57ZZ 19−7FはTFを捕捉可能であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0051】
以上の結果は、本発明のTF抗体は、TFを特異的に高感度で測定し、性能的にも安定であることを示している。
【配列表フリーテキスト】
【0052】
SEQ ID NO:1 ; amino acid sequence of Trigger Factor polypeptide 1 (TF-1)
SEQ ID NO:2 ; amino acid sequence of Trigger Factor polypeptide 2 (TF-2)
SEQ ID NO:3 ; amino acid sequence of Trigger Factor polypeptide 3 (TF-3)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリガーファクターに反応することを特徴とする抗トリガーファクターモノクローナル抗体。
【請求項2】
配列表の配列番号1記載のアミノ酸配列を有するトリガーファクターと反応する請求項1記載の抗トリガーファクターモノクローナル抗体。
【請求項3】
抗トリガーファクターモノクローナル抗体が、寄託番号NITE BP−1028で表わされるハイブリドーマより産生される請求項1記載の抗トリガーファクターモノクローナル抗体。
【請求項4】
被験試料中のトリガーファクターを測定する試薬において、請求項1記載の抗トリガーファクターモノクローナル抗体を含むトリガーファクター測定試薬。
【請求項5】
請求項1記載の抗トリガーファクターモノクローナル抗体を使用する被験試料中のトリガーファクター、そのフラグメント又は分子内にトリガーファクターもしくはそのフラグメントを含有するタンパク質の測定方法。
【請求項6】
被験試料が、培養細胞由来試料から選ばれる請求項5記載の測定方法。
【請求項7】
請求項1記載の抗トリガーファクターモノクローナル抗体を産生する、寄託番号NITE BP−1028で表わされるハイブリドーマ。
【請求項8】
以下の工程を包含するトリガーファクター、そのフラグメント又は分子内にトリガーファクターもしくはそのフラグメントを含有するタンパク質の精製方法;
(a)トリガーファクター、そのフラグメント又は分子内にトリガーファクターもしくはそのフラグメントを含有するタンパク質を含有する試料を、請求項1に記載のモノクローナル抗体と接触させる工程;
(b)前記(a)の抗体から捕捉されたタンパク質を溶出させる工程。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−157353(P2012−157353A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−4605(P2012−4605)
【出願日】平成24年1月13日(2012.1.13)
【出願人】(302019245)タカラバイオ株式会社 (115)
【Fターム(参考)】