説明

抗癌剤としての併用医薬組成物

本発明は、優れた抗腫瘍作用を有する医薬組成物を提供する。すなわち、N−(3−クロロ−1H−インドール−7−イル)−4−スルファモイルベンゼンスルホンアミドまたはその塩と、(1)カルボプラチン、(2)オキサリプラチン、(3)カペシタビンおよび(4)前記(1)乃至(3)の塩から選ばれる少なくとも1の物質とを組み合わせてなる医薬組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は抗癌剤として有用な化合物、特にN−(3−クロロ−1H−インドール−7−イル)−4−スルファモイルベンゼンスルホンアミドまたはその薬理学的に許容できる塩と、他の抗癌剤とを組み合わせてなることを特徴とする新規な医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
癌の化学療法剤として従来用いられているものには、アルキル化剤のサイクロホスファミド、代謝拮抗剤のメトトレキセート、フルオロウラシル、抗生物質のドキソルビシン、マイトマイシン、ブレオマイシン、植物由来のビンクリスチン、エトポシド、金属錯体のシスプラチンなど多くの薬剤があるが、いずれもその抗腫瘍効果は不十分であり、新しい抗腫瘍剤の開発が切望されていた。
【0003】
一方、本発明者らは全く新規な芳香族スルホン酸アミドまたは芳香族スルホン酸エステル系化合物を初めて合成することに成功し、予想外にも当該化合物が優れた抗腫瘍活性を示すことを発見して、新たな作用機序を示す有用な抗腫瘍剤を提供した(特開平7−165708号公報)。特に、下記式
【0004】
【化1】

で表わされるN−(3−クロロ−1H−インドール−7−イル)−4−スルファモイルベンゼンスルホンアミド[以下、「E7070」と称することがある]は、種々のタイプの腫瘍に活性を示し非常に有用である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ある種の化合物はある種の癌に有効であるが、それ以外の癌には有効率が低いことがある。また、単独の成分の投与だけでは十分な効果が得られない場合もある。即ち、本発明の目的は、これらの問題を解決し得る優れた抗腫瘍活性を有する医薬組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記趣旨に鑑み、優れた抗腫瘍性組成物を求めて鋭意研究を行った結果、N−(3−クロロ−1H−インドール−7−イル)−4−スルファモイルベンゼンスルホンアミドまたはその塩に、ある種の抗癌剤を併用することで、予想外にも、相乗的にさらに優れた抗腫瘍活性が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
即ち、本発明は、
1)N−(3−クロロ−1H−インドール−7−イル)−4−スルファモイルベンゼンスルホンアミドまたはその塩と、(1)カルボプラチン、(2)オキサリプラチン、(3)カペシタビンおよび(4)前記(1)乃至(3)の塩から選ばれる1以上の物質とを組み合わせてなる医薬組成物;
2)抗癌剤である前記1)記載の医薬組成物;
3)N−(3−クロロ−1H−インドール−7−イル)−4−スルファモイルベンゼンスルホンアミドまたはその塩と、カルボプラチンまたはその塩を含む前記2)記載の医薬組成物;
4)N−(3−クロロ−1H−インドール−7−イル)−4−スルファモイルベンゼンスルホンアミドまたはその塩と、オキサリプラチンまたはその塩を含む前記2)記載の医薬組成物;
5)N−(3−クロロ−1H−インドール−7−イル)−4−スルファモイルベンゼンスルホンアミドまたはその塩と、カペシタビンまたはその塩を含む前記2)記載の医薬組成物;
6)N−(3−クロロ−1H−インドール−7−イル)−4−スルファモイルベンゼンスルホンアミドまたはその塩と、5−フルオロウラシルまたはその塩と、オキサリプラチンまたはその塩を含む医薬組成物;
7)抗癌剤である前記6)記載の医薬組成物;
8)N−(3−クロロ−1H−インドール−7−イル)−4−スルファモイルベンゼンスルホンアミドまたはその塩と、(1)カルボプラチン、(2)オキサリプラチン、(3)カペシタビンおよび(4)前記(1)乃至(3)の塩から選ばれる少なくとも1の物質とを癌の予防剤または治療剤の製造のために用いること;
9)N−(3−クロロ−1H−インドール−7−イル)−4−スルファモイルベンゼンスルホンアミドまたはその塩と、5−フルオロウラシルまたはその塩と、オキサリプラチンまたはその塩とを癌の予防剤または治療剤の製造のために用いること;
10)N−(3−クロロ−1H−インドール−7−イル)−4−スルファモイルベンゼンスルホンアミドまたはその塩と、(1)カルボプラチン、(2)オキサリプラチン、(3)カペシタビンおよび(4)前記(1)乃至(3)の塩から選ばれる少なくとも1の物質とを有効量を同時にまたは別々に患者に投与するための医薬品キット;および
11)N−(3−クロロ−1H−インドール−7−イル)−4−スルファモイルベンゼンスルホンアミドまたはその塩と、5−フルオロウラシルまたはその塩と、オキサリプラチンまたはその塩とを有効量を同時にまたは別々に患者に投与するための医薬品キットに関する。
【0008】
以下に、本願明細書において記載する記号、用語等の意義を説明し、本発明を詳細に説明する。
【0009】
本願明細書中においては、化合物の構造式が便宜上一定の異性体を表すことがあるが、本発明にかかる医薬組成物に含有される化合物は便宜上の式の記載に限定されるものではなく、構造上生ずる総ての幾何異性体、不斉炭素に基づく光学異性体、回転異性体、立体異性体、互変異性体等の異性体や該異性体混合物が含まれることはいうまでもない。また、前記化合物には結晶多形が存在することもあるが同様に限定されず、いずれかの結晶形が単一または結晶形混合物であってもよい。更に、前記化合物は、無水物であっても水和物であってもよく、いずれも本願明細書の特許請求の範囲に含まれる。本発明にかかる医薬組成物は強い抗腫瘍活性を示すが、生体内で酸化、還元、加水分解、抱合などの代謝を受けて抗腫瘍活性を示す上記化合物の誘導体をも包含する。またさらに、本発明は生体内で酸化、還元、加水分解などの代謝を受けて本発明組成物中の化合物を生成する化合物をも包含する。
【0010】
本願明細書におけるN−(3−クロロ−1H−インドール−7−イル)−4−スルファモイルベンゼンスルホンアミドおよびE7070とは、式
【0011】
【化2】

で表わされる化合物を示す。
【0012】
本願明細書における5−フルオロウラシル(5−FU(5−Fluoro−2,4−(1H,3H)−pyrimidinedione))とは、式
【0013】
【化3】

で表わされる化合物を示す。
【0014】
本願明細書におけるカルボプラチン(cis−diammine(1,1−cyclobutanedicarboxylato)platinum)とは、式
【0015】
【化4】

で表わされる化合物を示す。
【0016】
本願明細書におけるオキサリプラチン(oxalato(1R,2R−cyclohexanediamine)platinum)とは、式
【0017】
【化5】

で表わされる化合物を示す。
【0018】
本願明細書におけるカペシタビン(N−4−pentyloxycarbonyl−5’−deoxy−5−fluorocytidine)とは、式
【0019】
【化6】

で表わされる化合物を示す。
【0020】
本願明細書において用いる「塩」は、特に種類は限定されないが、例えば塩酸塩、硫酸塩、炭酸塩、重炭酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩などの無機酸の付加塩;酢酸塩、マレイン酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、トリフルオロ酢酸塩などの有機カルボン酸の付加塩;メタンスルホン酸塩、ヒドロキシメタンスルホン酸塩、ヒドロキシエタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、タウリン塩などの有機スルホン酸の付加塩;トリメチルアミン塩、トリエチルアミン塩、ピリジン塩、プロカイン塩、ピコリン塩、ジシクロヘキシルアミン塩、N,N'−ジベンジルエチレンジアミン塩、N−メチルグルカミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩、トリス(ヒドロキシメチルアミノ)メタン塩、フェネチルベンジルアミン塩などのアミンの付加塩;アルギニン塩、リジン塩、セリン塩、グリシン塩、アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩などのアミノ酸の付加塩などを挙げることができる。
【0021】
N−(3−クロロ−1H−インドール−7−イル)−4−スルファモイルベンゼンスルホンアミド(E7070)は、公知の方法(WO95/07276または特開平7−165708号公報における実施例19)またはそれに準じた方法によって合成することができる。
【0022】
5−フルオロウラシル、カルボプラチン、オキサリプラチンおよびカペシタビンは、いずれも公知化合物であり、それぞれ公知の方法またはそれに準じた方法によって製造することができる。
【0023】
前記各製造工程における原料化合物・各種試薬は、塩や水和物を形成していてもよく、いずれも出発原料、使用する溶媒等により異なり、また反応を阻害しない限りにおいて特に限定されない。用いる溶媒についても、出発原料、試薬等により異なり、また反応を阻害せず出発物質をある程度溶解するものであれば特に限定されないことは言うまでもない。化合物がフリー体として得られる場合、薬理学的に許容できる塩の状態に常法に従って変換することができる。また、得られる種々の異性体(例えば幾何異性体、不斉炭素に基づく光学異性体、回転異性体、立体異性体、互変異性体、等)は、通常の分離手段、例えば再結晶、ジアステレオマー塩法、酵素分割法、種々のクロマトグラフィー(例えば薄層クロマトグラフィー、カラムクロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、等)を用いることにより精製し、単離することができる。
【0024】
本願明細書における「抗癌剤」とは、腫瘍、特に悪性腫瘍に対して用いられる薬剤を意味する。本発明にかかる医薬組成物または抗癌剤が治療または予防に有用な癌疾患としては、例えば脳腫瘍、頭頸部癌、食道癌、胃癌、大腸癌、肝癌、膵癌、肺癌、乳癌、皮膚癌、卵巣癌、前立腺癌、腎癌、膀胱癌、リンホーマ、白血病、等があげられる。本発明にかかる医薬組成物または抗癌剤は、哺乳類(例えばヒト、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、イヌ、ウマ、サル等)の癌疾患、特にヒトの癌疾患の治療または予防に有用である。
【0025】
本発明にかかる「組み合わせてなる医薬組成物」および「含む医薬組成物」とは、それぞれ2種以上の有効成分物質または医薬組成物を組み合わせてなる「医薬組成物」を意味し、かかる「医薬組成物」は、2種以上の有効成分物質を含有してなる単剤として調製して投与してもよいし、2種以上の医薬組成物を別個に調製して同時に併用投与してもよいし、2種以上の医薬組成物を別個に調製して一方の医薬を投与しその一定時間経過後に他方の医薬を投与する形態の併用投与に付してもよい。これらの投与形態にかかる医薬組成物すべてが本発明にかかる「医薬組成物」に含まれる。また、2種以上の医薬組成物を組み合わせる好適な成分割合は限定されず、適宜行われる。
【0026】
上記の如き成分で本願発明医薬組成物を構成することができるが、該医薬組成物または抗癌剤の投与に当たっては、同時併用投与に限られず、各成分を一定時間の間隔で投与して相乗効果を上げることもできる。
【0027】
具体的には、
(A)E7070またはその塩を患者に投与し、それから一定時間経過後に、(1)カルボプラチン、(2)オキサリプラチン、(3)カペシタビンおよび(4)前記(1)乃至(3)の塩から選ばれる少なくとも1の物質を前記患者に投与することを特徴とする癌の予防または治療方法、
(B)E7070またはその塩を患者に投与し、それから一定時間経過後に、5−フルオロウラシルまたはその塩およびオキサリプラチンまたはその塩を前記患者に投与することを特徴とする癌の予防または治療方法、
(C)(1)カルボプラチン、(2)オキサリプラチン、(3)カペシタビンおよび(4)前記(1)乃至(3)の塩から選ばれる少なくとも1の物質を患者に投与し、それから一定時間経過後に、E7070またはその塩を前記患者に投与することを特徴とする癌の予防または治療方法、または
(D)5−フルオロウラシルまたはその塩およびオキサリプラチンまたはその塩を患者に投与し、それから一定時間経過後に、E7070またはその塩を前記患者に投与することを特徴とする癌の予防または治療方法によっても、相乗効果を上げることができ、かかる予防または治療方法も本願発明に含まれる。
【0028】
また、前記予防または治療方法におけるが如く、一定間隔毎に各成分を投与する目的で、(A)E7070またはその塩と、(1)カルボプラチン、(2)オキサリプラチン、(3)カペシタビンおよび(4)前記(1)乃至(3)の塩から選ばれる少なくとも1の物質とを有効量を同時にまたは別々に患者に投与するための医薬品キット、または
(B)E7070またはその塩と、5−フルオロウラシルまたはその塩およびオキサリプラチンまたはその塩とを有効量を同時にまたは別々に患者に投与するための医薬品キットを用いることによっても相乗的な抗癌作用を得ることができ、かかる医薬品キットは本願発明中に含まれる。例えば、各成分を小容器に包装し、全体として1つの箱に装填されたような医薬品のキットが挙げられる。
【0029】
本発明にかかる医薬組成物を医薬として使用する場合は、投与形態は特に限定されず、経口もしくは非経口的に投与される。哺乳類(例えばヒト、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、イヌ、ウマ、サル、等)、特にヒトにおける治療・予防に有用である。投与量は、症状の程度、患者の年齢、性別、体重、感受性差、投与方法、投与時期、投与間隔、医薬製剤の性質、調剤、種類、有効成分の種類等によって異なり特に限定されないが、例えばE7070またはその塩にあっては、通常成人1日あたり5乃至6000mg、好適には約50乃至4000mg、更に好適には100乃至3000mgでありこれを通常1日1乃至数回にわけて投与する。その他の成分については、例えば、通常1日当たり、5−フルオロウラシルは5乃至20mg/kg、カルボプラチンは300乃至400mg/m2、オキサリプラチンは85乃至130mg/m2、カペシタビンは1900乃至2500mg/m2とされているが、これは各単剤を投与する場合の目安であり、本願発明においては成分の構成により適宜増減して投与することが可能である。例えば各成分通常成人1日あたり1乃至6000mg、好適には約10乃至1000mg、更に好適には20乃至300mgの投与量設定が可能である。
【0030】
本発明にかかる医薬組成物の調製は、有効成分物質をそのまま用いるか、または、自体公知の薬学的に許容できる担体等と混合して慣用される方法による製剤化によってすることができる。好ましい剤形としては注射剤、錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、被覆錠剤、カプセル剤、シロップ剤、トローチ剤、吸入剤、坐剤、軟膏剤、眼軟膏剤、点眼剤、点鼻剤、点耳剤、パップ剤、ローション剤等があげられる。これら製剤化には通常用いられる賦形剤,結合剤,滑沢剤,着色剤,矯味矯臭剤等,および必要により安定化剤,乳化剤,吸収促進剤,界面活性剤等を使用することができ、一般に医薬品製剤の原料として用いられる成分を配合して常法により製剤化される。
【0031】
前記製剤化成分としては、例えば動植物油(大豆油、牛脂、合成グリセライドなど)、炭化水素(流動パラフィン、スクワラン、固形パラフィンなど)、エステル油(ミリスチン酸オクチルドデシル、ミリスチン酸イソプロピルなど)、高級アルコール(セトステアリルアルコール、ベヘニルアルコールなど)、シリコン樹脂、シリコン油、界面活性剤(ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマーなど)、水溶性高分子(ヒドロキシエチルセルロース、ポリアクリル酸、カルボキシビニルポリマー、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、メチルセルロースなど)、アルコール(エタノール、イソプロパノールなど)、多価アルコール(グリセリン、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ソルビトールなど)、糖(グルコース、ショ糖など)、無機粉体(無水ケイ酸、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、ケイ酸アルミニウムなど)、精製水などが挙げられる。pH調製のためには無機酸(塩酸、りん酸など)、無機酸のアルカリ金属塩(りん酸ナトリウムなど)、無機塩基(水酸化ナトリウムなど)、有機酸(低級脂肪酸、クエン酸、乳酸など)、有機酸のアルカリ金属塩(クエン酸ナトリウム、乳酸ナトリウムなど)、有機塩基(アルギニン、エタノールアミンなど)などを用いることができる。また、必要に応じて、防腐剤、抗酸化剤などを添加することができる。
【0032】
例えば経口用固形製剤を調製する場合は、主薬に賦形剤さらに必要に応じて結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味矯臭剤などを加えた後、常法により錠剤、被覆錠剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、カプセル剤等とする。
【0033】
賦形剤としては、例えば乳糖、コーンスターチ、白糖、ぶどう糖、ソルビット、結晶セルロース、二酸化ケイ素などが、結合剤としては、例えばポリビニルアルコール、エチルセルロース、メチルセルロース、アラビアゴム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等が、滑沢剤としては、例えばステアリン酸マグネシウム、タルク、シリカ等が、着色剤としては医薬品に添加することが許可されているものが、矯味矯臭剤としては、ココア末、ハッカ脳、芳香酸、ハッカ油、龍脳、桂皮末等が用いられる。これらの錠剤、顆粒剤には糖衣、ゼラチン衣、その他必要により適宜コーティングすることは勿論差し支えない。
【0034】
注射剤を調製する場合には、必要により主薬にpH調整剤、緩衝剤、懸濁化剤、溶解補助剤、安定化剤、等張化剤、保存剤などを添加し、常法により静脈、皮下、筋肉内注射剤とする。その際必要により、常法により凍結乾燥物とすることもある。
【0035】
懸濁化剤としては、例えばメチルセルロース、ポリソルベート80、ヒドロキシエチルセルロース、アラビアゴム、トラガント末、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートなどを挙げることができる。
【0036】
溶解補助剤としては、例えばポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリソルベート80、ニコチン酸アミド、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、マクロゴール、ヒマシ油脂肪酸エチルエステルなどを挙げることができる。
【0037】
また安定化剤としては、例えば亜硫酸ナトリウム、メタ亜硫酸ナトリウム等を、保存剤としては、例えばパラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、ソルビン酸、フェノール、クレゾール、クロロクレゾールなどを挙げることができる。
【0038】
本発明により、従来有効率が十分でなかった癌種にも優れた抗腫瘍活性を示す新規な併用医薬組成物を提供できた。本発明にかかる医薬組成物は、脳腫瘍、頭頸部癌、食道癌、胃癌、大腸癌、肝癌、膵癌、肺癌、乳癌、皮膚癌、卵巣癌、前立腺癌、腎癌、膀胱癌、リンホーマ、白血病、等の治療または予防に有用である。本願組成物の各単剤を多量に投与するよりも、各単剤の量を減らして併用とする方が各成分の副作用が起こりにくく、全体としての副作用も低減でき、さらに高価な薬物の多量長期使用による費用負担を低廉で比較的効果の大きい薬物の併用で軽減することができる。
【実施例】
【0039】
以下に、本発明組成物の有利な効果を示すため実施例、試験例を示すが、これらは例示的なものであって、本発明は如何なる場合も以下の具体例に制限されるものではない。
【0040】
記述の如く、E7070またはその塩と、(1)カルボプラチン、(2)オキサリプラチン、(3)カペシタビンおよび(4)前記(1)乃至(3)の塩から選ばれる1以上の物質とを組み合わせてなることを特徴とする医薬組成物およびE7070またはその塩と、5−フルオロウラシルまたはその塩およびオキサリプラチンまたはその塩とからなることを特徴とする医薬組成物は、各単剤が示す抗腫瘍活性が相乗的に作用し優れた抗腫瘍活性を示すが、この相乗作用の有無の判定は、ツーウェイアノーバ(Two−way ANOVA)法(例えば以下の文献(i)から(iii)を参照:(i)Effects of 5−fluorouracil,leucovorin,and glucarate in rat colon−tumor explants.Cancer Chemother Pharmacol.1992;30(1):25−30;(ii)Enhancement of vincristine cytotoxicity in drug−resistant cells by simultaneous treatment with onconase,an antitumor ribonuclease.J Natl Cancer Inst.1996 Jun 5;88(11):747−53;(iii)Effects of growth hormone and testosterone on cortical bone formation and bone density in aged orchiectomized rats.Bone.1999 May;24(5):491−7)を用いて行った。
【0041】
実施例1 [ヒト乳癌HBC4皮下移植モデルにおけるE7070とカペシタビンの併用効果検討]
ヒト乳癌HBC4(財団法人 癌研究所(東京)より購入)を、5%炭酸ガスインキュベーター内においてRPMI1640(10%FBS含)で約80%コンフルエントとなるまで培養し、トリプシン−EDTAにより、細胞を回収し、Hanks balanced solutionで、5x107cells/ml懸濁液を調製し、細胞懸濁液を0.1mlづつヌードマウス皮下に移植した。移植後、平均腫瘍体積が114mm3になった時点から、E7070を30.625mg/kg/day、カペシタビンを1.3125mmol/kg/dayの量にて、単剤あるいは併用で投与した。E7070単剤は1日1回5日間(1〜5日目)静脈内投与し、カペシタビン単剤は1日1回14日間(1〜14日目)経口投与した。併用は、E7070先行投与(E7070は1〜5日目、カペシタビンは6〜19日目)で行った。投与開始時から、2回/週の頻度で、腫瘍長径・短径をデジマチックキャリパ(Mitsutoyo)で測定し、以下の式で腫瘍体積を算出した。
【0042】
腫瘍体積=腫瘍長径(mm)x腫瘍短径(mm)2/2
【0043】
なお、抗腫瘍効果判定項目は、以下の2項目とした。
x4: 初期腫瘍体積の4倍まで腫瘍が増殖するのに要した時間(日数)
最少比腫瘍体積(mRTV): 比腫瘍体積(RTV)*の最小値
*: n日目の腫瘍体積/初期腫瘍体積
【0044】
併用群が両単剤処理群より優れた抗腫瘍効果を発揮し、かつ、two−way ANOVAで統計的有意な交互作用が認められた場合、相乗効果と判定した。結果は、表1および図1示される通りであった。
【0045】
表1および図1から明らかな通りE7070とカペシタビンの併用はそれぞれの効果を相加的に増加するものであり、E7070とカペシタビンの併用剤が優れた抗癌剤となることを示すものである。
【0046】
実施例2 [ヒト大腸癌細胞HCT15を用いた、E7070とシスプラチン、E7070とカルボプラチンおよびE7070とオキサリプラチンのin vitro併用効果検討]
対数増殖期のヒト大腸癌細胞株HCT15(ATCCより購入)を、96穴プレートに1,250 細胞/ウェルの濃度で播種した。day0から、薬剤をDMSO(E7070)、生理食塩水(シスプラチンおよびカルボプラチン)または5% グルコース溶液(オキサリプラチン)に溶解し、様々な濃度になるように培養液を希釈して、各処理につき3 ウェルに添加した。
【0047】
同時処理の場合、E7070とシスプラチン、E7070とカルボプラチンおよびE7070とオキサリプラチンの添加をday0に同時に行ない、37℃かつ5% CO2下で72時間培養後、MTT assayで生細胞の量を測定した(day3)。
【0048】
連続処理(E7070先行処理)の場合、day0にE7070を添加し、24時間培養後、培地でウェルを洗浄し、プラチナ系抗癌剤を添加した(day1)。さらに37℃かつ5% CO2下で48時間培養後、MTT assayで生細胞の量を測定した(day3)。
【0049】
連続処理(プラチナ系抗癌剤先行処理)の場合、day0にプラチナ系抗癌剤、すなわち、シスプラチン、カルボプラチンまたはオキサリプラチンを添加した。24時間培養後、培地でウェルを洗浄し、E7070を添加した(day1)。さらに37℃かつ5% CO2下で48時間培養後、MTT assayで生細胞の量を測定した(day3)。
【0050】
E7070とシスプラチン、E7070とカルボプラチンおよびE7070とオキサリプラチンの併用効果の判定は、SteelおよびPeckhamのイソボログラム分析(Steel GG and Peckham MJ: Exploitable mechanisms in combined radiotherapy-chemothrapy: the concept of additivity. Int J radiat oncol Biol Phys 5: 85-91, 1979)のKanoらによる改良法(Kano Y, Suzuki K, Akutsu M, et al: Effect of CPT-11 in combination with other anti-cancer agents in culture. Int J Cancer 50:604-610, 1992)を用いて行った。イソボログラムにおける併用効果の評価基準を図2に図示した。3本の線(Mode I、Mode IIaおよびMode IIb)は、薬剤A単剤、薬剤B単剤の増殖抑制曲線から算出したIC50値である。したがって、実際の併用におけるIC50値(data points)がこれら3本の線で囲まれた領域(相加領域)に入った場合、この併用効果は相加効果であると評価される(point Pb)。また、実際の併用におけるIC50値が相加領域の左に入った場合(point Pa)、右に入った場合(point Pc)および領域外であった場合、2つの薬剤の相互作用は、それぞれ相乗効果、拮抗作用およびプロテクションであると判定した。E7070とプラチナ系抗癌剤の併用結果を、図3、4および5に示す。
【0051】
図3、4および5に示すように、E7070とシスプラチンの併用は、E7070先行処理でのみ相乗効果が認められ、その他の処理スケジュールでは、相加効果であった。一方、E7070とカルボプラチンおよびE7070とオキサリプラチンの併用では、同時処理において相乗効果が認められ、さらにE7070とオキサリプラチンの併用では、オキサリプラチン先行処理においても相乗効果を示した。
【0052】
これらのデータから、1)E7070とプラチナ系抗癌剤の併用は、抗腫瘍効果の相乗的な増強が期待される有用な併用レジメであり、2)E7070とカルボプラチンまたはE7070とオキサリプラチンの併用が、E7070とシスプラチンの併用に比較して、相乗効果を発揮する投与スケジュールの柔軟性があることを示唆している。すなわち、E7070とカルボプラチンの併用は、同時投与およびE7070先行処理で相乗効果が認められた。E7070とオキサリプラチンは同時に投与することができる。または、2剤の一方を投与して、決められた時間の後に他方を投与することもでき、この場合、E7070とオキサリプラチンのどちらを先に投与しても、相乗効果を示す。
【0053】
上記実験例から明らかなように本発明組成物は優れた抗腫瘍作用を有し、抗腫瘍剤として有用である。有効な癌種としては、各成分が有効な癌であるが、本願組成物の構成により異なり、さらに本願の相乗効果により効果が各単剤の効果よりも高くなるので、特に限定されない。
【0054】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】E7070とカペシタビンの併用効果を示すグラフである。縦軸は比腫瘍重量(上図)および比体重を示し、横軸は投与開始時からの日数を示す。
【図2】イソボログラムの評価基準を示すグラフである。縦軸はBの投与量を示し、横軸はAの投与量を示す。
【図3】ヒト大腸癌細胞HCT15を用いた、E7070とシスプラチンの併用の、イソボログラム分析による評価基準を示すグラフである。縦軸はシスプラチンの投与量を示し、横軸はE7070の投与量を示す。
【図4】ヒト大腸癌細胞HCT15を用いた、E7070とカルボプラチンの併用の、イソボログラム分析による評価基準を示すグラフである。縦軸はカルボプラチンの投与量を示し、横軸はE7070の投与量を示す。
【図5】ヒト大腸癌細胞HCT15を用いた、E7070とオキサリプラチンの併用の、イソボログラム分析による評価基準を示すグラフである。縦軸はオキサリプラチンの投与量を示し、横軸はE7070の投与量を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
N−(3−クロロ−1H−インドール−7−イル)−4−スルファモイルベンゼンスルホンアミドまたはその塩と、(1)カルボプラチン、(2)オキサリプラチン、(3)カペシタビンおよび(4)前記(1)乃至(3)の塩から選ばれる少なくとも1の物質とを組み合わせてなる医薬組成物。
【請求項2】
抗癌剤である請求項1記載の医薬組成物。
【請求項3】
N−(3−クロロ−1H−インドール−7−イル)−4−スルファモイルベンゼンスルホンアミドまたはその塩とカルボプラチンまたはその塩を含む請求項2記載の医薬組成物。
【請求項4】
N−(3−クロロ−1H−インドール−7−イル)−4−スルファモイルベンゼンスルホンアミドまたはその塩とオキサリプラチンまたはその塩を含む請求項2記載の医薬組成物。
【請求項5】
N−(3−クロロ−1H−インドール−7−イル)−4−スルファモイルベンゼンスルホンアミドまたはその塩とカペシタビンまたはその塩を含む請求項2記載の医薬組成物。
【請求項6】
N−(3−クロロ−1H−インドール−7−イル)−4−スルファモイルベンゼンスルホンアミドまたはその塩と、5−フルオロウラシルまたはその塩と、オキサリプラチンまたはその塩を含む医薬組成物。
【請求項7】
抗癌剤である請求項6記載の医薬組成物。
【請求項8】
N−(3−クロロ−1H−インドール−7−イル)−4−スルファモイルベンゼンスルホンアミドまたはその塩と、(1)カルボプラチン、(2)オキサリプラチン、(3)カペシタビンおよび(4)前記(1)乃至(3)の塩から選ばれる少なくとも1の物質とを癌の予防剤または治療剤の製造のために用いること。
【請求項9】
N−(3−クロロ−1H−インドール−7−イル)−4−スルファモイルベンゼンスルホンアミドまたはその塩と、5−フルオロウラシルまたはその塩と、オキサリプラチンまたはその塩とを癌の予防剤または治療剤の製造のために用いること。
【請求項10】
N−(3−クロロ−1H−インドール−7−イル)−4−スルファモイルベンゼンスルホンアミドまたはその塩と、(1)カルボプラチン、(2)オキサリプラチン、(3)カペシタビンおよび(4)前記(1)乃至(3)の塩から選ばれる少なくとも1の物質とを有効量を同時にまたは別々に患者に投与するための医薬品キット。
【請求項11】
N−(3−クロロ−1H−インドール−7−イル)−4−スルファモイルベンゼンスルホンアミドまたはその塩と、5−フルオロウラシルまたはその塩と、オキサリプラチンまたはその塩とを有効量を同時にまたは別々に患者に投与するための医薬品キット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公表番号】特表2006−525321(P2006−525321A)
【公表日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−507727(P2006−507727)
【出願日】平成16年4月30日(2004.4.30)
【国際出願番号】PCT/JP2004/006292
【国際公開番号】WO2004/098613
【国際公開日】平成16年11月18日(2004.11.18)
【出願人】(000000217)エーザイ株式会社 (102)
【Fターム(参考)】