説明

抗肥満トランスジェニックブタ

【課題】 抗肥満性又は抗糖尿病性の動物モデルとして利用可能なトランスジェニックブタ及びその作製方法を提供すること。
【解決手段】 トランスジェニックブタは、レプチン遺伝子又はアジポネクチン遺伝子が導入されたものである。また、トランスジェニックブタの作製方法は、ブタ細胞内で機能するプロモーターの下流に前記レプチン遺伝子又はアジポネクチン遺伝子が挿入されたベクターを、精子ベクター法又は前核注入法により卵に導入し、得られた受精卵から個体を発生させることを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗肥満性又は抗糖尿病性のトランスジェニックブタに関する。
【背景技術】
【0002】
トランスジェニックマウスにおいて、レプチンやアジポネクチンなどの脂肪組織から分泌されるアジポサイトカインを過剰発現させると、抗肥満作用やインスリン感受性増強作用、抗動脈硬化作用が観察され、肥満又は糖尿病研究者の注目を集めている。
【0003】
【非特許文献1】Pro. Natl. Acad. Sci. USA Vol.95, 11852-11857, 1998, ELLA IOFFE et al. Abnormal regulation of the leptin gene in the pathogenesis of obesity.
【非特許文献2】J. Bio. Chem. Vol278, 2461-2468, 2003, Toshimasa Yamauchi et al. Globular Adiponectin Protected ob/ob Mice from Diabetes and ApoE-deficient Mice from Atherosclerosis.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
レプチン遺伝子又はアジポネクチン遺伝子を導入したトランスジェニックマウスは作製されているが、げっ歯類であるマウスとヒトとの差は大きく、ヒトのモデルとしては無理な部分も多い。一方、ブタは遺伝的、生理的にヒトにより近いとされており、さらに食性においても雑食性でヒトと同じものを食べることから、食生活が及ぼす肥満、糖尿病の研究や一過性に流行る様々なダイエット方法等を検証するのによいモデルになると考えられる。また、ストレスに対しても敏感に反応するために、ストレスの多い現代社会におけるストレスの影響がどのように肥満、糖尿病と関わってきているのか調べるよいモデル動物になると考えられる。しかしながら、抗肥満性又は抗糖尿病性のトランスジェニックブタは得られていない。従って、本発明の目的は、抗肥満性又は抗糖尿病性の動物モデルとして利用可能なトランスジェニックブタを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願発明者らは、ブタ細胞内で機能するプロモーターの下流に前記レプチン遺伝子又はアジポネクチン遺伝子が挿入されたベクターを、精子ベクター法又は前核注入法により受精卵に導入し、該受精卵から個体を発生させることにより、レプチン遺伝子又はアジポネクチン遺伝子が導入されたトランスジェニックブタの作製に成功し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、レプチン遺伝子又はアジポネクチン遺伝子が導入されたトランスジェニックブタを提供する。また、本発明は、ブタ細胞内で機能するプロモーターの下流に前記レプチン遺伝子又はアジポネクチン遺伝子が挿入されたベクターを、精子ベクター法又は前核注入法により卵に導入し、得られた受精卵から個体を発生させることを含む、トランスジェニックブタの作製方法を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、レプチン遺伝子又はアジポネクチン遺伝子が導入されたトランスジェニックブタが初めて提供された。ブタは遺伝的、生理的にヒトに近いので、本発明のトランスジェニックブタは、ヒトにおけるレプチンやアジポネクチンなど、肥満のメカニズムに中心的に関与するアジポサイトカインの作用を解明したり、肥満のメカニズムと糖尿病の発症メカニズムの関連を解明したりするためのモデル動物として利用可能であるので、本発明は、ヒトの肥満及び糖尿病研究に大いに貢献するものと考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
上記の通り、本発明のトランスジェニックブタは、外来性のレプチン遺伝子又はアジポネクチン遺伝子が導入されたものである。本明細書において、「遺伝子」は、ゲノミック遺伝子のみならずcDNAも包含し、むしろcDNAを利用するのが簡便で好ましい。また、遺伝子は、ブタ由来の遺伝子が好ましい。ブタアジポネクチン遺伝子自体は公知であり、その塩基配列も公知である(NCBI Accession No. AY135647)(配列番号1)。また、ブタレプチン遺伝子自体も公知であり、その塩基配列も公知である(NCBI Accession No. AF026976)(配列番号3)。本発明では、これらの塩基配列が公知の遺伝子をそのまま利用できる。
【0009】
なお、一般に、生理活性を有するタンパク質のアミノ酸配列中、少数のアミノ酸が置換し若しくは欠失し、又は少数のアミノ酸が挿入され、若しくは付加された場合であってもその生理活性が維持される場合があることは当業者において広く知られている。従って、公知のレプチンのアミノ酸配列(配列番号2)において、少数のアミノ酸が置換し若しくは欠失し、又は少数のアミノ酸が挿入され、若しくは付加されたアミノ酸配列を有するポリペプチドであって、レプチン活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子も本発明において利用することができ、このような遺伝子も本明細書でいう「レプチン遺伝子」に包含される。なお、この場合、配列番号2のアミノ酸配列において、少数のアミノ酸が置換し若しくは欠失し、又は少数のアミノ酸が挿入され、若しくは付加されたアミノ酸配列は、配列番号2のアミノ酸配列と90%以上、さらに好ましくは95%以上である。アミノ酸配列の同一性は、BLASTのような周知のコンピューターソフトを用いて容易に算出することができ、このようなソフトはインターネットによっても利用に供されている。さらに、少数のアミノ酸が置換、欠失及び/又は挿入される場合、置換、欠失及び/又は挿入されるアミノ酸の総数は1個ないし数個であることが好ましい。また、天然のタンパク質を構成する20種類のアミノ酸は、低極性側鎖を有する中性アミノ酸(Gly, Ile, Val, Leu, ala, Met, Pro)、親水性側鎖を有する中性アミノ酸(Asn, Gln, Thr, Ser, Tyr Cys)、酸性アミノ酸(Asp, Glu)、塩基性アミノ酸(Arg, Lys, His)、芳香族アミノ酸(Phe, Tyr, Trp)のように類似の性質を有するものにグループ分けでき、これらの各グループ内での置換であればタンパク質の生理活性が実質的に変化しないことが多い。アジポネクチン遺伝子についても同様であり、公知のアジポネクチンのアミノ酸配列(配列番号4)において、少数のアミノ酸が置換し若しくは欠失し、又は少数のアミノ酸が挿入され、若しくは付加されたアミノ酸配列を有するポリペプチドであって、アジポネクチン活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子も本発明において利用することができ、このような遺伝子も本明細書でいう「アジポネクチン遺伝子」に包含される。なお、この場合、配列番号4のアミノ酸配列において、少数のアミノ酸が置換し若しくは欠失し、又は少数のアミノ酸が挿入され、若しくは付加されたアミノ酸配列は、配列番号4のアミノ酸配列と90%以上、さらに好ましくは95%以上である。さらに、少数のアミノ酸が置換、欠失及び/又は挿入される場合、置換、欠失及び/又は挿入されるアミノ酸の総数は1個ないし数個であることが好ましい。
【0010】
また、レプチン遺伝子又はアジポネクチン遺伝子は、レポーター遺伝子と連結された融合遺伝子の形態にあると、このようなレポーター遺伝子の産物を利用してレプチン遺伝子又はアジポネクチン遺伝子が導入された受精卵を容易に識別できるので便利である。レポーター遺伝子としては、公知の種々のレポーター遺伝子が利用でき、好ましくは、GFP(green fluorescent protein)遺伝子や、その変異体で蛍光量が増大されたEGFP(enhanced green fluorescent protein)遺伝子を用いることができる。これらのレポーター遺伝子を組み込んだ発現ベクターが市販されているので、それらを利用することができる。
【0011】
本発明のトランスジェニックブタは、ブタ細胞内で機能するプロモーターの下流に前記レプチン遺伝子又はアジポネクチン遺伝子が挿入されたベクターを、ブタ精子と共存培養して精子内に該ベクターを導入し、得られたブタ精子をブタ卵に受精させ、得られた受精卵を培養して胚にし、この胚をブタの子宮に導入して妊娠、出産させることにより作出することができる(精子ベクター法)。ブタ細胞内で機能するプロモーターの下流に、レポーター遺伝子が導入されている発現ベクターが市販されているので、このような市販のベクターのクローニング部位に、レプチン遺伝子又はアジポネクチン遺伝子を挿入することにより、精子ベクター法に用いる発現ベクターを得ることができる。トランスジェニックブタの作出に用いた精子ベクター法の詳細は、下記実施例に記載されている。また、レプチン遺伝子又はアジポネクチン遺伝子を導入した上記発現ベクターを、ブタ受精卵の前核にマイクロインジェクションすることによっても、レプチン遺伝子又はアジポネクチン遺伝子が導入された受精卵を得ることができ(前核注入法)、この受精卵から個体を発生させることによっても本発明のトランスジェニックブタを得ることができる。この方法の詳細も下記実施例に記載されている。
【0012】
本発明のトランスジェニックブタは、レプチン遺伝子又はアジポネクチン遺伝子が導入されているので、レプチン又はアジポネクチンを過剰生産し、その結果、抗肥満性又は抗糖尿病性になるものである。
【0013】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0014】
精子ベクター法によるアジポネクチン遺伝子導入トランスジェニックブタの作製
改良したNCSU23培養液(Kurome M, Fujimura T, Murakami H, Takahagi Y, Wako N, Ochiai T, Miyazaki K, Nagashima H. Comparison of electro-fusion and intracytoplasmic nuclear injection methods in pig cloning. Cloning and Stem Cells 2003; 5: 367-378.、組成は後述)あるいはTCM199培養液(Kurihara T, Kurome M, Wako N, Ochiai T, Mizuno K, Fujimura T, Takahagi Y, Murakami H, Kano K, Miyagawa S, Shirakura R, Nagashima H. Developmental competence of in vitro matured porcine oocytes after electrical activation. J Reprod Dev 2002; 48: 271-279、組成は後述)中で成熟した卵母細胞を単純DCパルス(150 V/mm,100μsec)によって活性化し、その後7.5μg/mlサイトカラシンBで3-4時間処理した。活性化された卵母細胞は7日間培養された。この一部は、この細胞のin vitro およびin vivoでの発育能を調べるため受精用の若い雌ブタの卵管に導入した。BTS(Pursel VG, Johnson LA. Freezing of boar spermatozoa : Freezing capacity with concentrated semen and a new thawing procedure. J. Anim. Sci. 1975; 40: 99-102、組成は後述)またはBF5(Pursel et al., 前掲、組成は後述)溶液中に冷凍保存されたブタ精子を2-5 x 105個の濃度に調整し、アジポネクチン-GFP DNA(2.5ng/μl)(作製方法は後述)とともに5分間共存培養した。こののち、単離 された精子をIVM卵母細胞にピエゾ型微細細胞操作器(マイクロマニピュレーター)により注入し、上記の方法で同様に電気刺激により活性化した。精子を注入された卵母細胞は、6日間NCSN23培養液中で培養され胚盤胞に発育した。アジポネクチン遺伝子の発現をGFPの発現により蛍光顕微鏡で確認した。また、胚盤胞中のメッセジャーRNAを抽出し、PCRによってアジポネクチンの遺伝子の存在を確認した。
【0015】
9匹のレシピエントブタに170個の単為発生卵を移植し、16-18日後開腹した結果、4匹から40個(23.5%)の体節ステージの胎児がえられた。70個の活性化された卵母細胞を7日間培養すると、このうちの30個(42.9%)が胚盤胞に発育した。
【0016】
160個のアジポネクチン遺伝子注入精子で処理(上記記載条件下)した卵母細胞から、30個(18.8%)の胚盤胞がとれ、このうち15個(50%)がGFPの蛍光をもっていた。また、蛍光をもつ胚盤胞のうち、PCRによりアジポネクチンのDNAの存在を確認したところ、10個(67%)にその存在がみとめられた。対照実験として、アジポネクチン-GFP DNAを共存させなかった精子を注入した卵母細胞からは、全くGFPの蛍光をもった胚盤胞は出現しなかった。
【0017】
アジポネクチン遺伝子導入胚250個を4匹のレシピエントに移植した結果、4匹の産仔が得られ、その内2匹がトランスジェニック個体であった。
【0018】
なお、上記した精子ベクター法に用いた、アジポネクチン発現ベクターは、次のようにして作製した。ブタ脂肪細胞由来mRNAはISOGEN(日本ジーン社製)により、プロトコールに従って抽出、精製した。さらに、得られたmRNAからSuperScriptII RNaseH- 逆転写酵素(インビトロジェン社製)によりファーストストランドcDNAを合成した。ブタアジポネクチン(NCBI Accession No.AY135647)cDNAは、先に作製したブタ脂肪細胞由来ファーストストランドcDNAブタをテンプレイトにし、PfuTurbo DNA Polymerase(東洋紡績株式会社)を使用してPCRによりクローニングした。クローニングの際、EGFP発現ベクター:pEGFP-N1(日本ベクトン・ディッキンソン社製)に挿入できるように、センスプライマー及びアンチセンスプライマーの5末端にBamHIのタグを付けた。2本のプライマーは以下の通り(センスプライマー:ggatccaggggctcaggatgctgttg、アンチセンスプライマー:tggatcctcaatgttgtggtagagaag)。得られたPCRプロダクトはpCR4Blunt-TOPO(インビトロジェン(株))にサブクローニングし、シークエンスにより配列を確認した。配列の確認できたクローンをBamHIにて切り出し、BamHI/CIAP(Calf Intestine Alkaline Phosphatase)処理したpEGF-N1にライゲーションしてブタアジポネクチンとEGFPの融合タンパク発現ベクターを完成した。
【0019】
NCSU23培養液組成
NaCl 108.73 mM, KCl 4.78 mM, CaCl2・2H2O 1.70 mM, MgSO4・7H2O 1.19 mM, NaHCO3 25.07 mM, KH2PO4 1.19 mM, グルコース 5.55 mM、グルタミン 1.00 mM、タウリン 7.00 mM、ヒポタウリン 5.00 mM、BSA 0.4%、ペニシリンG 100 IU/L、ストレプトマイシン 50 mg/L
【0020】
TCM199培養液組成
CaCl2(無水) 200.00 mg/L、Fe(NO3)3・9H2O 0.72 mg/L、KCl 400.00 mg/L、MgSO4(無水) 97.67 mg/L、NaCl 6800.00 mg/L、NaH2PO4・H2O 140.00 mg/L、アデノシン硫酸 10.00 mg/L、ATP(2 Na塩) 1.00 mg/L、アデニル酸 0.20 mg/L、コレステロール 0.20 mg/L、デオキシリボース 0.50 mg/L、D-グルコース 1000.00 mg/L、グルタチオン(GSH) 0.05 mg/L、グアニン・HCl 0.30 mg/L、ヒポキサンチン(Na塩) 0.354 mg/L、フェノールレッド 20.00 mg/L、リボース 0.50 mg/L、酢酸ナトリウム 50.00 mg/L、チミン 0.30 mg/L、Tween 80(登録商標) 20.00 mg/L、ウラシル 0.30 mg/L、キサンチン(Na塩) 0.344 mg/L、DL-アラニン 50.00 mg/L、L-アルギニン・HCl 70.00 mg/L、DL-アスパラギン酸 60.00 mg/L、L-システイン・HCl・H2O 0.11 mg/L、L-シスチン・2HCl 26.00 mg/L、DL-グルタミン酸・H2O 150.00 mg/L、L-グルタミン 100.00 mg/L、グリシン 50.00 mg/L、L-ヒスチジン・HCl・H2O 21.88 mg/L、L-ヒドロキシプロリン 10.00 mg/L、DL-イソロイシン 40.00 mg/L、DL-ロイシン 120.00 mg/L、L-リジン・HCl 70.00 mg/L、DL-メチオニン 30.00 mg/L、DL-フェニルアラニン 50.00 mg/L、L-プロリン 40.00 mg/L、DL-セリン 50.00 mg/L、DL-トレオニン 60.00 mg/L、DL-トリプトファン 20.00 mg/L、L-チロシン(2Na塩) 57.88 mg/L、DL-バリン 50.00 mg/L、アスコルビン酸 0.05 mg/L、α-トコフェロールホスフェート(2Na塩) 0.01 mg/L、d-ビオチン 0.01 mg/L、カルシフェロール 0.10 mg/L、p-パントテン酸カルシウム 0.01 mg/L、塩化コリン 0.50 mg/L、葉酸 0.01 mg/L、i-イノシトール 0.05 mg/L、メナジオン 0.01 mg/L、ナイアシン 0.025 mg/L、ナイアシンアミド 0.025 mg/L、p-アミノ安息香酸 0.05 mg/L、ピリドキサール・HCl 0.025 mg/L、ピリドキシン・HCl 0.025 mg/L、リボフラビン 0.01 mg/L、チアミン・HCl 0.01 mg/L、ビタミンA(アセテート) 0.14 mg/L
【0021】
BTS溶液組成
無水デキストロース 3.7 g/100 mL、クエン酸ナトリウム二水塩 0.6 g/100 mL、炭酸水素ナトリウム 0.125 g/100 mL、EDTA 2Na 0.125 g/100 mL、塩化カリウム 0.075 g/100 mL
【0022】
BF5溶液組成
Ter-N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル2アミノエタン スルフォン酸 1.2 g/100 mL、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン 0.2 g/100 mL、無水デキストロース 3.2 g/100 mL、卵黄 20 mL/100 mL、Orbus BSペースト 0.5 mL/100 mL
【実施例2】
【0023】
前核注入法によるレプチン遺伝子導入トランスジェニックブタの作製
レプチン遺伝子導入トタンスジェニックブタの作出には、前核注入法(Murakami H, Nagashima H, Takahagi Y, Miyagawa S, Fujimura T, Toyomura K, Nakai R, Yamada M, Kurihara T, Shigehisa T, Okabe M, Seya T, Shirakura R, Kinoshita T. Transgenic pigs expressing human decay-accelerating factor regulated by porcine MCP gene promoter. Mol Reprod Dev 2002; 61: 302-311)を用い、以下のようにして行なった。すなわち、発情期の成熟雌ブタ(Landrace/Large White x Duroc種)を雄と交尾させ、翌日雌の輸卵管から受精卵を取り出し、ヒアルロニダーゼ(300単位/ml)で処理し卵丘細胞を取り除いた。これらの卵の内、前核が明瞭なものを実験に供した。こうして得られた受精卵をマイクロマニプレータを用い、先の丸いピペット(直径150μm)に吸引し固定した。インジェクタション・ニードルの先端を、透明帯と卵黄を突き抜けて、卵の前核に挿入し、レプチン−GFP DNA(5〜10 ng/μLにTris-EDTA緩衝液 pH7.4で希釈)(作製方法は後述)を注入した。遺伝子注入後の受精卵をNCSU23培養液で1〜2日間培養し,発情同期化された雌ブタの卵管に戻した。
【0024】
前核へのマイクロインジェクションの有効性を見るため、DNAを注入された卵を16〜24時間培養し、GFPの発現を蛍光顕微鏡で観察し、確認した。合計512個のマイクロインジェクション操作により遺伝子を導入した卵のうち、298個(58.2%)がGFPの蛍光を示した。
【0025】
この298個のマイクロインジェクション卵を、4頭のレシピエント雌ブタに移植した結果2頭が妊娠し、合計8頭の産仔が得られた。これらを解析の結果、1頭がトランスジェニックブタであった。
【0026】
上記前核注入法に用いたレプチン遺伝子発現ベクターは、次のようにして作製した。ブタレプチン(NCBI Accession No.AF026976)cDNAは、先に作製したブタ脂肪細胞由来ファーストストランドcDNAをテンプレイトにし、PfuTurbo DNA Polymerase(東洋紡績株式会社)を使用してPCRによりクローニングした。クローニングの際、EGFP発現ベクター:pEGFP-N1(日本ベクトン・ディッキンソン社製)に挿入できるように、センスプライマー及びアンチセンスプライマーの5末端にBamHIのタグを付けた。2本のプライマーは以下の通り(センスプライマー:ggatccaaaggaaaatgcgctgtgga、アンチセンスプライマー:tggatcccagccagggctgaggtccag)。得られたPCRプロダクトはpCR4Blunt-TOPO(インビトロジェン社製)にサブクローニングし、シークエンスにより配列を確認した。配列の確認できたクローンをBamHIにて切り出し、BamHI/CIAP(Calf Intestine Alkaline Phosphatase)処理したpEGF-N1にライゲーションしてブタレプチンとEGFPの融合タンパク発現ベクターを完成した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レプチン遺伝子又はアジポネクチン遺伝子が導入されたトランスジェニックブタ。
【請求項2】
前記レプチン遺伝子又はアジポネクチン遺伝子がcDNAである請求項1記載のトランスジェニックブタ。
【請求項3】
前記レプチン遺伝子又はアジポネクチン遺伝子がブタ由来の遺伝子である請求項1又は2記載のトランスジェニックブタ。
【請求項4】
前記レプチン遺伝子又はアジポネクチン遺伝子にはレポーター遺伝子が連結されている請求項1ないし3のいずれか1項に記載のトランスジェニックブタ。
【請求項5】
ブタ細胞内で機能するプロモーターの下流に前記レプチン遺伝子又はアジポネクチン遺伝子が挿入されたベクターを、精子ベクター法又は前核注入法により卵に導入し、得られた受精卵から個体を発生させたものである請求項1ないし4のいずれか1項に記載のトランスジェニックブタ。
【請求項6】
ブタ細胞内で機能するプロモーターの下流に前記レプチン遺伝子又はアジポネクチン遺伝子が挿入されたベクターを、精子ベクター法又は前核注入法により卵に導入し、得られた受精卵から個体を発生させることを含む、トランスジェニックブタの作製方法。


【公開番号】特開2006−121964(P2006−121964A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−313820(P2004−313820)
【出願日】平成16年10月28日(2004.10.28)
【出願人】(801000027)学校法人明治大学 (161)
【出願人】(301000505)株式会社バイオス医科学研究所 (10)
【Fターム(参考)】