説明

抗菌剤組成物

【課題】酸性組成物における酢酸耐性微生物、特に酢酸耐性乳酸菌に対して優れた抗菌作用を示す抗菌剤組成物、並びに酸性組成物の抗菌又は保存方法の提供。
【解決手段】キトサン及びチアミンラウリル硫酸塩を有効成分として含有する酸性組成物用抗菌剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酢酸耐性微生物、特に酢酸耐性乳酸菌に対して優れた抗菌作用を有し、酸性組成物に適した抗菌剤組成物、並びに酸性組成物の抗菌又は保存方法に関する。
【背景技術】
【0002】
抗菌性物質は、微生物による製品の汚染や変質の防止又は感染症の予防などのため、化粧品、医薬品、食品、日用品などの製品に広く配合されており、品質管理や公衆衛生の面から非常に有用である。このような抗菌性物質には、銅、銀及び亜鉛などの金属イオン化させた無機系物質、第四級アンモニウム塩、プロピオン酸及び安息香酸などの有機合成系物質、天然系物質などが知られている。
特に食品においては高い安全性が求められており、消費者のニーズとして健康志向の観点からも天然系のものが好まれる。例えば、キトサンは、エビ、カニなどの甲殻類に含まれるキチンを脱アセチル化して得られる多糖類であり、細菌等に対し優れた抗菌作用を発揮することから広く利用されている。また、チアミンラウリル硫酸塩は、ビタミンB1としての生理活性に加えて、カビや酵母などに対し優れた抗菌作用を発揮し、食品の日持ち剤として利用されている。キトサンとチアミンラウリル硫酸塩に、さらに可溶化成分として乳酸、酢酸ナトリウム及びエチルアルコールを配合した食品保存用水溶液組成物が、米飯における一般菌数、酵母及び大腸菌数の増殖を抑制することも報告されている(特許文献1)。
【0003】
一方、ラクトバチルス・フルクチボランス(Lactobacillus fructivorans)に代表される酢酸耐性乳酸菌は、耐熱・耐塩・好酢酸性の性質を持ち、しばしば酸性食品の変敗を引き起こすことが知られている(非特許文献1)。酢酸耐性乳酸菌の増殖は、通常、加熱殺菌、特数値(塩分濃度、酢酸濃度)において制御可能であることが知られているが、近年、消費者の嗜好性の多様化が進み、減塩志向からも塩味が少なく、また酸味も抑えられたマイルドな風味を求める風潮が高まっており、特数値が緩和され内容液の耐菌性が低下しているため、低塩・低酸味の食品において酢酸耐性乳酸菌の増殖を抑制することが一層重要となる。
前記キトサンは、酢酸を配合したマヨネーズ中のラクトバチルス・フルクチボランスに対し抗菌作用を発揮することが報告されている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−206356号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】食品の腐敗変敗防止対策ハンドブック(株式会社サイエンスフォーラム)
【非特許文献2】Journal of Food Protection,Vol.63,No.2,2000:202−209
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、抗菌性物質には、苦味やエグ味、渋味を呈するものが多く、たとえ酢酸耐性乳酸菌の増殖抑制作用を有する抗菌性物質であっても酸性食品の風味を損なうものは使用できないか、使用できても配合量は制限されざるを得ないという問題がある。実際、前記キトサンも独特な不快な呈味を有するため、非特許文献2のように多量のキトサンを添加した場合はマヨネーズの風味が損なわれてしまい、さらには乳化安定性にも悪影響が生じることが判明した。
これまでに酸性食品本来の風味を損なうことなく、酢酸耐性乳酸菌を抗菌できる抗菌性物質は知られていない。
【0007】
本発明は、酸性組成物における酢酸耐性微生物、特に酢酸耐性乳酸菌に対して優れた抗菌作用を示す抗菌剤組成物、並びに酸性組成物の抗菌又は保存方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題について検討したところ、キトサンとチアミンラウリル硫酸塩を併用することにより、酢酸耐性乳酸菌に対する抗菌作用が相乗的に増強され、キトサン単独、チアミンラウリル硫酸塩単独では効果が認められなかった低濃度においても酸性組成物における酢酸耐性乳酸菌の抗菌が可能であることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、キトサン及びチアミンラウリル硫酸塩を有効成分として含有する酸性組成物用抗菌剤組成物を提供するものである。
また、本発明は、キトサン及びチアミンラウリル硫酸塩を有効成分として含有する酢酸耐性微生物に対する抗菌剤組成物を提供するものである。
また、本発明は、酸性組成物に、キトサン及びチアミンラウリル硫酸塩を添加する酸性組成物の抗菌又は保存方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、酸性組成物中の酢酸耐性乳酸菌の抗菌が可能であり、酸性組成物の変敗を防ぎ、保存性を向上させることができる。また、キトサンとチアミンラウリル硫酸塩の使用量を低減できることから酸性組成物の風味維持の点からも有用である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明で用いられるキトサンとしては、特に制限されず、カニやエビの甲殻類、昆虫などの外骨格、イカや貝類などの有機骨格、キノコ類やカビなどの細胞壁などに含まれるキチンをアルカリ・酸処理、酵素処理など公知の方法(例えば、内田泰著,“キチン,キトサンの抗菌性”,フードケミカル,No.2,p22(1988))にて脱Nアセチル化したもの、さらに酸、酵素などで加水分解した低分子キトサン、キトサンオリゴ糖などを用いることができる。また、キトサンは、水溶性ものが好ましい。
【0012】
キトサンの脱Nアセチル化度は50%以上が好ましく、70%以上がより好ましい。また、キトサンの重量平均分子量は、400,000以下、好ましくは1,000〜100,000、より好ましくは、2,000〜50,000、更に好ましくは、3,000〜20,000であるのが、酢酸耐性乳酸菌に対する抗菌効果及び酸性組成物の風味維持の点から好ましい。
キトサンは、「ハイシャンKG」(アサマ化成(株))などの市販品を用いることもできる。
【0013】
本発明で用いられるチアミンラウリル硫酸塩は、ビタミンB1誘導体の一種であり、ビタミンB1(チアミン)にラウリル硫酸がモル比1:2の比率で結合した化合物である。
本発明では、チアミンラウリル硫酸塩製剤として、「ビタゲン(登録商標)AS5」(田辺三菱製薬(株))、「デイプラス(登録商標)V」(上野製薬)、「トップサラダビタミンDL5」(奥野製薬工業(株))などの市販品を用いることができる。
【0014】
後記実施例に示すように、キトサン及びチアミンラウリル硫酸塩を併用することによって、酢酸耐性乳酸菌に対して優れた抗菌作用を示す。ここで酢酸耐性乳酸菌とは、Lactobacillus属に属するラクトバチルス・フルクチボランス(L.fructivorans)、ラクトバチルス・ブチネリ(L.buchneri)、ラクトバチルス・ブレビス(L.brevis)、ラクトバチルス・プランタラム(L.plantarum)、ラクトバチルス・パラカセイ(L.paracasei)などが挙げられる。
なお、本発明において「抗菌」とは、微生物を死滅させる「殺菌」、「滅菌」、微生物の発生、発育、増殖を抑える「静菌」、「制菌」等いずれの概念も含む語である。
【0015】
また、キトサン及びチアミンラウリル硫酸塩を併用することによって、耐酢酸性の性質を有するカビ、酵母などの真菌、細菌などの酢酸耐性微生物に対しても優れた抗菌作用を示す。酢酸耐性微生物としては、具体的に、耐酢酸性酵母Zygosaccharomyces bailii、耐酢酸性カビMoniliella acetoabutansなどが挙げられる。
従って、キトサン及びチアミンラウリル硫酸塩を配合してなる組成物は、抗菌剤組成物として、当該微生物が増殖し得る酸性組成物の抗菌、保存性向上に有用である。また、キトサン及びチアミンラウリル硫酸塩を食品、医薬品、医薬部外品、化粧品などの製品に配合又は使用することにより、当該微生物に対する抗菌性を付与できる。
【0016】
本発明の抗菌剤組成物は、必要に応じて、例えば、他の抗菌性物質、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、希釈剤、乳化剤、着色剤などを添加し、常法に従い、例えば、液状、粉末状、ペースト状、錠剤状、カプセル状、ジェル状などの任意の形態とすることができる。
キトサンとチアミンラウリル硫酸塩は、単一製剤としてもよく、別々に製剤化してセット(キット)として使用してもよい。また、この場合、キトサンとチアミンラウリル硫酸塩は同一の形態としなくてもよい。
【0017】
本発明の抗菌剤組成物は、酢酸耐性乳酸菌に対する抗菌効果の点及び酸性組成物の風味維持の点から、酸性組成物中にキトサンが0.006質量%(以下、単に「%」とする)以上、より0.006〜0.054%、更に0.012〜0.054%、より更に0.018〜0.054%、殊更0.03〜0.042%となるように用いられるのが好ましい。また、同様の点から、酸性組成物中にチアミンラウリル硫酸塩が0.03%以上、より0.03〜0.06%、更に0.03〜0.05%、より更に0.035〜0.05%となるように用いられるのが好ましい。
酸性組成物におけるキトサンとチアミンラウリル硫酸塩の質量比は、酢酸耐性乳酸菌に対する抗菌効果の点から、3:1〜1:15、より2:1〜1:10、更に2:1〜1:3とするのが好ましい。
このとき、抗菌剤組成物を、酸性組成物中のキトサン及びチアミンラウリル硫酸塩の濃度が前記範囲となるようにそのまま用いてもよいが、キトサン及びチアミンラウリル硫酸塩を前記範囲よりも高含有とした抗菌剤組成物を前記任意の形態で調製し、酸性組成物に配合した後適宜希釈して、希釈後に前記範囲内となるように用いてもよい。希釈倍率は、5〜50質量倍、更に10〜40質量倍、より更に20〜30質量倍とすることが好ましい。希釈には、脱イオン水を無菌処理した水を用いるのが好ましい。
【0018】
本発明において酸性組成物とは、酢酸耐性微生物が発生、発育、増殖し得る組成物であって、組成物のpH(組成物が油相部と水相部を有する場合は水相部のpH、20℃)が、7.0以下のものである。pHは、更に5.5以下、更に2〜4.5、より更に2.5〜4.1が好ましい。
酸性組成物が食品である場合、耐酢酸性が高いことが知られているラクトバチルス・フルクチボランスに対する抗菌効果を考慮すると、pHは4.1以下が好ましく、更に2〜4.1、より更に3.5〜4.1、殊更3.5〜3.9の範囲が好ましい。
【0019】
酸性組成物としては、食品、医薬品、医薬部外品、化粧品などが例示されるが、好ましくは食品である。酸性の食品としては、例えば、乳製品、冷凍食品、インスタント食品、でんぷん加工製品、加工肉製品、その他加工食品、飲料、スープ類、調味料、栄養補助食品などが挙げられる。なかでも、各種つゆ類、各種たれ類、各種ソース類、各種ドレッシング類、味醂、ポン酢などの酸性液体調味料が好ましく、特に各種ドレッシング類が好ましい。ドレッシング類としては、水相部のみからなるもの、水相部と油相部を含有する非乳化型のもの(分離型)、水中油型の乳化物からなる乳化型のもの、又は水中油型の乳化物に油相を積層した分離型のものが挙げられる。具体的には、半固体状ドレッシング、乳化液状ドレッシング、分離液状ドレッシング、ドレッシングタイプ調味料、サラダ用調味料が挙げられる。
【0020】
酸性の食品が、水相部と油相部を含有する場合、油相部と水相部の質量比率は、5/95〜60/40であることが好ましく、更に10/80〜55/45、より更に10/85〜35/65であることが酢酸耐性乳酸菌に対する抗菌効果及び風味の点から好ましい。
【0021】
ここで、油相部を形成する油相成分としては、食用油脂が主成分であり、例えば、動物油及び/又は植物油、並びにこれらを原料として加水分解後にグリセリンとエステル化反応した油脂、エステル交換油、水素添加油等が挙げられる。動物油としては、例えば牛脂、豚脂、魚油等が挙げられ、植物油としては、例えば大豆油、パーム油、パーム核油、綿実油、落花生油、ナタネ油、コーン油、サフラワー油、サンフラワー油、米油等が挙げられる。
また、油脂は、トリアシルグリセロール、ジアシルグリセロール、モノアシルグリセロールのいずれか1種以上を含むものとする。油脂は、ジアシルグリセロールを15%以上含むことが、生理効果の点から好ましい。油脂中のジアシルグリセロール含有量は、より15〜95%、更に35〜95%、より更に50〜95%、殊更70〜93%とすることが、同様の点から好ましい。
【0022】
酸性の食品には、野菜類、果実類、水、食酢、食塩、醤油、香辛料、糖、蛋白質素材、有機酸、アミノ酸系調味料、核酸系調味料、動植物エキス、発酵調味料、酒類、増粘剤、安定剤、乳化剤、着色料等の各種食品素材又は添加剤等を含んでいてよい。また、これらは、必要に応じて成形加工したものを使用してもよい。
【0023】
組成物のpHを上記範囲に低下させるためには、食酢、クエン酸、リンゴ酸等の有機酸;リン酸等の無機酸等の酸味料を使用することができ、特に食酢、クエン酸を用いることが好ましい。食酢は、穀物酢、りんご酢、ビネガー類等様々な種類を用いることができる。
【0024】
食酢の含有量は、酸性組成物中に3〜50%、より5〜30%、更に6〜26%であることが好ましい。また、酢酸の含有量は5〜10%程度が好ましい。
本発明の酸性組成物の酸度(酸性組成物が油相部を有する場合は水相部の酸度)は、0.15〜10%、より0.25〜6%、更に0.3〜3%であることが風味の点から好ましい。なお、「酸度」とは、測定の対象となる液体を0.1mol/Lの水酸化ナトリウムで滴定を行い、その終点の滴定量から次の式(1)により算出したもの(食酢の日本農林規格(平成9年9月3日農林水産省告示第1381号)を参考に酢酸相当酸度の質量%を導出したもの)をいう。
酸度=(a×v×f)/w×100 (1)
(a:0.1mol/Lの水酸化ナトリウム1mLに相当する酢酸量0.006g、v:0.1mol/Lの水酸化ナトリウムの使用量(mL)、f:0.1mol/Lの水酸化ナトリウムの力価、w:試料採取量(g))
酸度は、酢酸の他、グルコン酸、クエン酸等の各種有機酸のいずれを使用した場合でも、これら全ての酸を酢酸換算して得た値の試料質量中の百分率で表したものである。
【0025】
また、食塩の含有量は、酸性組成物(酸性組成物が油相部を有する場合は水相部)中に2.6%以上、より2.6〜15%、更に2.6〜11%、殊更3〜4.7%であることが風味の点、酢酸耐性乳酸菌に対する抗菌効果の点から好ましい。
食塩としては、並塩、天日塩、岩塩等様々な種類のものを用いることができ、その一部を塩化カリウムや硫酸マグネシウム等に置き換えたものも用いることができる。
【0026】
本発明のキトサンとチアミンラウリル硫酸塩を用いて酸性組成物を抗菌、保存するには、これら成分を酸性組成物に添加すればよい。キトサンとチアミンラウリル硫酸塩は、酸性組成物中のそれぞれの濃度が前記範囲となるように添加するのが酢酸耐性乳酸菌に対する抗菌効果の点及び酸性組成物の風味維持の点から好ましい。
【0027】
キトサンとチアミンラウリル硫酸塩を酸性組成物に添加する方法は、特に制限されず、これら成分を酸性組成物に接触させる方法が挙げられ、例えば、キトサンとチアミンラウリル硫酸塩を酸性組成物の表面や内部に塗布、注入、付着等したり、これら成分の溶液に酸性組成物を浸漬したりする方法などが挙げられる。また、酸性組成物を製造する際に、キトサンとチアミンラウリル硫酸塩を配合してもよい。
キトサンとチアミンラウリル硫酸塩は、例えば、液状、粉末状、ペースト状、錠剤状、カプセル状、ジェル状などの任意の形態で用いることができる。また、これらは同時に添加してもよいし、間隔を置いて別々に添加してもよい。
【実施例】
【0028】
〔酸度の測定〕
上記「食酢の日本農林規格(平成9年9月3日農林水産省告示第1381号)」に基づき酢酸相当酸度の質量%を導出した。
【0029】
〔NaCl濃度の測定〕
モール法により測定した。試料をメスフラスコに秤量し、蒸留水を加えて定容としたものを試料溶液とした。試料溶液をメスピペットを用いて三角フラスコにとり、指示薬として1.0%クロム酸カリウム溶液を加え、0.1mol/l硝酸銀溶液で褐色ビュレットを用いて滴定し、液の色が微橙色になる点を終点とした。
NaCl濃度は下記の計算式で算出した。
NaCl濃度(%)=0.00585×A×F/W×100
A: 0.1mol/L硝酸銀溶液の滴定量(mL)
F:0.1mol/L硝酸銀溶液の力価
W:試料採取量(mL)
【0030】
〔pHの測定〕
pHは、試料の品温を20℃にした後、(株)堀場製作所製pHメーター(F−22)を使用し測定した。
【0031】
実施例1
(1)培地の調製
3質量%NaCl,0.5質量%酢酸加Nutrient broth 培地(5ml)をpH4.5に調整し、キトサン製剤(「ハイシャンKG」、キトサン含有量6質量%、アサマ化成(株)製)、チアミンラウリル硫酸塩製剤(「ビタゲンAS5」、田辺三菱製薬(株)社製)をそれぞれキトサン、チアミンラウリル硫酸塩の最終濃度が0〜0.015質量%になるように添加し試験用培地とした。
【0032】
(2)接触試験
試験菌として、酢酸耐性乳酸菌の中で特に耐酢酸性が高いことが知られているラクトバチルス・フルクチボランス JCM1117株を用いた。
ラクトバチルス・フルクチボランス JCM1117株はMRS寒天培地(OXOID)、30℃で嫌気的に3日間培養した。培養した菌体を生理食塩水に1056cfu/mlになるように調整して菌液とした。菌液を1700cfu/mlになるように試験用培地に添加し、強攪拌後30℃で4週間培養した。培養後、生理食塩水で希釈しMRS寒天培地(OXOID社製)に植菌して生存菌数を平板塗沫法にて測定した。結果を表1に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
表1に示すように、キトサンとチアミンラウリル硫酸塩を併用することで酢酸耐性乳酸菌の抗菌作用が相乗的に増強された。
【0035】
実施例2
(1)酸性調味料の調製
水相部の原料を表2に示した量で配合し、撹拌混合(ホモディスパー:特殊機化工業製)して均一に溶解した。そこにキトサン製剤を加えさらに撹拌混合して溶解して水相部を調製した。次に、調製した水相部を常温から加熱して80℃に到達してから4分間保持することにより殺菌処理を行った後、常温まで冷却した。
次いで、表2に示した量のチアミンラウリル硫酸塩をジアシルグリセロール(DAG)脱臭油に添加し、攪拌混合しながら60℃まで加温し、チアミンラウリル硫酸塩を完全に溶解させたあと、常温まで冷却し油相部を調製した。
容器に水相部:油相部を7:3の割合で充填することにより液状の分離型酸性調味料(試験例1−6)を調製した。なお、表2記載のキトサン製剤中のキトサン含量は6質量%であった。また、キトサンの脱Nアセチル化度は80〜90%であり、重量平均分子量はおよそ10,000であった。
【0036】
【表2】

【0037】
(2)接触試験
試験菌として、酢酸耐性乳酸菌の中で特に耐酢酸性が高いことが知られているラクトバチルス・フルクチボランス JCM1117株を用いた。
ラクトバチルス・フルクチボランス JCM1117株はMRS寒天培地(OXOID)、30℃で嫌気的に3日間培養した。培養した菌体を生理食塩水に1056cfu/mlになるように調整して菌液とした。なお、菌の最終濃度103cfu/mlとなるように分離型酸性調味料100gに上記菌液を1ml接種し、30℃で60日間好気的に保存し菌の挙動を確認した。菌数測定は、保存後の調味料を強攪拌して系内を均一化した後、生理食塩水で希釈し、MRS寒天培地(OXOID社製)に塗抹して測定した。菌濃度として1オーダー以上の増殖が確認された場合を「増殖」、1オーダー未満の増殖が確認された場合を「非増殖」と判断した。結果を表3に示す。
【0038】
【表3】

【0039】
表3から明らかなように、キトサン及びチアミンラウリル硫酸塩を特定量配合した試験例1−4では、酢酸耐性乳酸菌の増殖が見られず、酢酸耐性乳酸菌に対する抗菌作用が認められた。これに対し、pHが高い試験例5及び6ではキトサン及びチアミンラウリル硫酸塩の配合濃度が試験例1−4と同じであったが、酢酸耐性乳酸菌増殖が見られた。
【0040】
実施例3
実施例1と同様にして、表4に示した配合で液状の分離型酸性調味料(試験例7−10)を調製した。
【0041】
【表4】

【0042】
調製したそれぞれの分離型酸性調味料(試験例7−10)について実施例1と同様に、接触試験を行った。結果を表5に示す。
【0043】
【表5】

【0044】
表5から明らかなように、キトサン及びチアミンラウリル硫酸塩を特定量配合した試験例8及び9では、酢酸耐性乳酸菌の増殖が見られず、酢酸耐性乳酸菌に対する抗菌作用が認められた。これに対し、キトサン及びチアミンラウリル硫酸塩を配合しなかった試験例7では、酢酸耐性乳酸菌増殖が認められた。また、酸性調味料のpHが高い試験例10では酢酸耐性乳酸菌増殖が認められた。
【0045】
実施例4
(1)酸性調味料の調製
キトサン及びチアミンラウリル硫酸塩の配合量をかえた以外は表2の試験例1の調味料と同様の組成で液状の分離型酸性調味料(試験例11−27)を調製した。
調製したそれぞれの分離型酸性調味料(試験例11−27)について実施例1と同様に、接触試験を行った。結果を表6に示す。
【0046】
【表6】

【0047】
表6から明らかなように、キトサン及びチアミンラウリル硫酸塩を特定量配合した試験例12〜17では、酢酸耐性乳酸菌に対する抗菌作用が認められた。これに対し、キトサン及びチアミンラウリル硫酸塩を配合しなかった試験例11では、酢酸耐性乳酸菌増殖が認められた。また、キトサン又はチアミンラウリル硫酸塩を単独で特定濃度配合した試験例18〜23では、酢酸耐性乳酸菌増殖が認められた。単独での配合で酢酸耐性乳酸菌増殖が認められた濃度以下のキトサン及びチアミンラウリル硫酸塩を同時に配合した試験例24〜27では酢酸耐性乳酸菌に対する抗菌作用が認められた。
【0048】
実施例5
(1)酸性調味料の調製
水相部の原料を表7に示した量で配合し、撹拌混合(ホモディスパー:特殊機化工業製)して均一に溶解した。そこにキトサン製剤を加えさらに撹拌混合して溶解して水相部を調製した。次に、調製した水相部を常温から加熱して80℃に到達してから4分間保持することにより殺菌処理を行った後、常温まで冷却した。
次いで、表7に示した量のチアミンラウリル硫酸塩をジアシルグリセロール(DAG)脱臭油に添加し、攪拌混合しながら60℃まで加温し、チアミンラウリル硫酸塩を完全に溶解させたあと、常温まで冷却し油相部を調製した。
水相部と油相部を7:3の割合で混合し、乳化機(T.K.ホモディスパー2.5型:プライミクス(株))を用いて乳化型の酸性調味料(試験例28−34)を調製した。
【0049】
【表7】

【0050】
(2)接触試験
試験菌として、ラクトバチルス・ブチネリJCM1115株、ラクトバチルス・ブレビス JCM1059株、ラクトバチルス・プランタラム JCM1149株、ラクトバチルス・パラカセイ 土壌単離株の4菌種を用いた。
菌はMRS寒天培地(OXOID)、30℃で嫌気的に3日間培養した。培養した菌体を4菌株の菌数が均等になるように混合し、生理食塩水に合計菌数が1056cfu/mlになるように調整して菌液とした。菌の最終濃度103cfu/mlとなるように乳化型酸性調味料100gに上記菌液を1ml接種し、30℃で60日間好気的に保存し菌の挙動を確認した。菌数測定は、保存後の調味料を強攪拌して系内を均一化した後、生理食塩水で希釈し、MRS寒天培地(OXOID社製)に塗抹して測定した。菌濃度として1オーダー以上の増殖が確認された場合を「増殖」、1オーダー未満の増殖が確認された場合を「非増殖」と判断した。結果を表8及び9に示す。
【0051】
【表8】

【0052】
【表9】

【0053】
表8から明らかなように、キトサン及びチアミンラウリル硫酸塩を特定量配合した試験例28−32では酢酸耐性乳酸菌に対する抗菌作用が認められ、これに対し、表9に示されるように、キトサン及びチアミンラウリル硫酸塩を配合しなかった試験例33、チアミンラウリル硫酸塩の配合量が少なかった試験例34では、酢酸耐性乳酸菌増殖が認められた。
【0054】
実施例6
(1)酸性調味料の調製
市販のノンオイルドレッシングに、表10に示す濃度になるようにキトサン、チアミンラウリル硫酸塩及びDAG脱臭油を特定量配合し、分離型酸性調味料(試験例35−40)を調製した。
【0055】
【表10】

【0056】
(2)官能評価
市販レタス40gに、分離型酸性調味料を15gかけ、パネル3名による食味試験を行い、協議により評点を決定した。
評価は、以下に示す基準に従って行った。すなわち、無添加のものと風味上差がない場合は○(合格)、風味に差があるが許容できる場合は△(合格)、風味上許容できない場合は×(不合格)とした。結果を表11に示す。
【0057】
【表11】

【0058】
表11から明らかなように、キトサン及びチアミンラウリル硫酸塩を、酢酸耐性乳酸菌を抗菌できる濃度範囲で配合した試験例35−38では風味上問題がなかった、これに対し、キトサン及びチアミンラウリル硫酸塩を高濃度配合した試験例39及び40は、苦渋みがあり風味上許容できるものではなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キトサン及びチアミンラウリル硫酸塩を有効成分として含有する酸性組成物用抗菌剤組成物。
【請求項2】
酸性組成物中にキトサンが0.006質量%以上、かつチアミンラウリル硫酸塩が0.03質量%以上となるように用いられる請求項1記載の酸性組成物用抗菌剤組成物。
【請求項3】
酸性組成物がpH4.1以下の食品である請求項1又は2記載の酸性組成物用抗菌剤組成物。
【請求項4】
食品が調味料である請求項3記載の酸性組成物用抗菌剤組成物。
【請求項5】
キトサン及びチアミンラウリル硫酸塩を有効成分として含有する酢酸耐性微生物に対する抗菌剤組成物。
【請求項6】
酢酸耐性微生物が酢酸耐性乳酸菌である請求項5記載の抗菌剤組成物。
【請求項7】
酸性組成物に、キトサン及びチアミンラウリル硫酸塩を添加する酸性組成物の抗菌又は保存方法。
【請求項8】
酸性組成物中にキトサンが0.006質量%以上かつチアミンラウリル硫酸塩が0.03質量%以上となるように添加する請求項7記載の酸性組成物の抗菌又は保存方法。
【請求項9】
酸性組成物がpH4.1以下の食品である請求項7又は8記載の酸性組成物の抗菌又は保存方法。
【請求項10】
食品が調味料である請求項9記載の酸性組成物の抗菌又は保存方法。

【公開番号】特開2012−111704(P2012−111704A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−260981(P2010−260981)
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【出願人】(000101215)アサマ化成株式会社 (37)
【Fターム(参考)】