説明

抗酸化剤、及び、美白剤、並びに、これらを含有する飲食物、化粧料、及び、医薬部外品

【課題】抗酸化活性又は美白活性を有する成分を含有する微細藻類を特定して、高い生理活性成分を得る。
【解決手段】Asterionella属、Leptocylindrus属、Skeletonema属、及び、Eucampia属の藻体、並びに、各藻体からの抽出物を調整し製品に配合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Asterionella属、Leptocylindrus属、Skeletonema属、Eucampia属の藻体又は藻体からの抽出物から得られる抗酸化剤及び美白剤、並びに、抗酸化物質、美白物質を含有する飲食物、化粧料、及び、医薬部外品に関する。
【背景技術】
【0002】
食品、化粧料、医薬品等の工業製品は大気中の酸素や製品中の溶存酸素により酸化され、変質、劣化を生じることがある。このような品質低下を防止するために抗酸化剤(酸化防止剤)を製品に配合する方法が知られている。
【0003】
人工抗酸化物質としては、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)や、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)が広く用いられている。これらは食品添加物として認可され、化学的に安定で、酸化防止効果に優れる。しかし、動物実験による生体への悪影響も報告されており、食品、化粧料等への使用を懸念する動きもある。
【0004】
天然物由来の抗酸化物質としては、例えば、L−アスコルビン酸(ビタミンC)やトコフェロール類(ビタミンE)等のビタミン類、アントシアニン、クロロフィルのようなポリフェノール類、カテキン等のフラボノイド類がよく知られており、その安全性の高さから、医薬品、食品、化粧料、等への添加物として広く利用されている。しかし、例えばビタミン類は、安全性が高いものの、安定性に欠けるため、製品中において着色、変色、臭気の原因となる等の問題が生じる場合がある。こうしたことから、安全でなおかつ安定性の高い抗酸化剤の開発が期待されている。
【0005】
一方、近年では生活習慣病が大きな問題となっている。生活習慣病は、遺伝的要因も関与するが、原因の大部分はアンバランスな食生活、アルコールやタバコ等嗜好品の過剰摂取、運動不足、ストレス、過剰な労働等、日常生活の悪習慣によって引き起こされることが知られている。これらの要因により発生する過剰な活性酸素種、活性窒素種又はフリーラジカルが引き起こす酸化ストレスは、人体に過剰な酸化を引き起こし、様々な疾病の原因となる。その予防、軽減又は治療手段として、抗酸化剤の摂取が提案されている。
【0006】
また、こうした生活習慣や紫外線等の環境条件により、皮膚において過剰な酸化反応が起こり、過酸化脂質が生じ、肌荒れ、しわ、くすみ、老化等が引き起こされる。これに対し、抗酸化物質を化粧料等に配合し、アンチエイジングとして利用されることも多い。
【0007】
体内で発生する活性酸素種としては、スーパーオキシドアニオンラジカル、過酸化水素、ヒドロキシラジカル及び一重項酸素の4種が知られている。また、不飽和脂肪酸の酸化物である不飽和脂肪酸ペルオキシラジカル、不飽和脂肪酸ラジカル、不飽和脂肪酸ヒドロペルオキシド、不飽和脂肪酸アルコキシラジカル等も同様の酸化障害を引き起こすことが知られている。これらの酸化物質が引き起こす疾病としては、動脈硬化性疾患、癌・腫瘍性疾患、細胞障害、糖尿病、脳神経疾患(脳梗塞・認知症・パーキンソン病)、皮膚の老化・色素沈着、白内障・網膜疾患、消化器・粘膜疾患、肺・気管支障害等が知られている。
【0008】
また、海洋生物を起源とする天然抗酸化物質としては、緑藻類のヒトエグサ(特許文献1参照)、緑藻類のクロレラ、(特許文献2参照)、藍藻綱ネンジュモ目のノーストック属又はアファ二ゾメノン属及びユレモ目のオシラトリア属又はスピルリナ属、紅藻綱チノリモ目のポルフィリディウム属又はロドソルス属、緑藻綱クロロコックム目のクロレラ属及びオオヒゲマワリ目のデュナリエラ属及びホシミドロ目のミカヅキモ属、ハプト藻綱イソクリシス目のプリュウロクリシス属及びプリムネシウム目のフェオキィスティス属及びユーグレナ藻綱ユーグレナ目のユーグレナ属に属する微細藻類の抽出物を少なくとも1種類含有している抗酸化剤(特許文献3参照)等がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−240991号公報
【特許文献2】特開2002−114703号公報
【特許文献3】特開2002−69443号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上述の海洋生物を起源とする天然抗酸化物質は、その特性を抗酸化物質として十分に活用されているとは言い難い。
【0011】
一方、肌のしみやそばかす等は、紫外線等の刺激によってメラノサイトが活性化され、その結果メラノサイトにて合成されたメラニン色素が皮膚内に沈着することにより発生することが知られている。このようなメラニン色素の合成、沈着を低減するために、L−アスコルビン酸、アルブチン、ハイドロキノン誘導体、コウジ酸、プラセンタエキス、グルタチオ等が配合された化粧料が市販されている。
【0012】
しかしながら、例えばL−アスコルビン酸は保存安定性が十分ではなく、熱や酸化に対して極めて弱い。このため、製品中では不安定でその効果が十分に発揮されない。また、製品中で経時的に分解して着色する等の問題点がある。
また、アルブチンは熱や酸化に対する安定性は改善されてはいるが、効果の面等で必ずしも満足できるものではない。その他の物質についてもメラニン生成抑制効果が低いものや、酸化されやすく不安定なもの、更に特有の異臭や沈殿が生じる等、製品中で変質するため美白効果が必ずしも十分とはいえない場合があった。
【0013】
上述した問題の解決のため、本発明においては、新規な抗酸化剤及び美白剤、並びに、これらを含有する飲食物、化粧料、及び、医薬部外品を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者等は、上記の課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、Asterionella属、Leptocylindrus属、Skeletonema属、Eucampia属の藻体抽出物が、抗酸化性及び美白活性を有するという知見を得て本発明に至った。
すなわち、本発明の抗酸化剤は、Asterionella属、Leptocylindrus属、又は、Skeletonema属に属する藻体、及び、この藻体の抽出物を含む。
また、本発明の美白剤は、Asterionella属、Leptocylindrus属、Skeletonema属、又は、Eucampia属に属する藻体、及び、この藻体の抽出物を含む。
また、本発明の飲食物、化粧料、及び、医薬部外品は、上記抗酸化性、又は、上記美白剤が配合されている。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、上述の微細藻類属に含まれる抗酸化成分及び美白成分により、効果に優れた抗酸化剤及び美白剤、並びに、これらを含む飲食物、化粧料、又は医薬部外品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
まず、本発明の具体的な実施形態の説明に先立ち、本発明の概要について説明する。
[藻体]
本発明においてAsterionella属、Leptocylindrus属、Skeletonema属、Eucampia属は、微細藻類の一種である珪藻植物門(Bacillariopohyta)に属する。珪藻は不等毛植物門珪藻綱に属する単細胞性の藻類であり、細胞が珪酸質の被殻に入っているのが特徴である。殻の形態が放射相称を示すものを中心珪藻、左右相称を示すものを羽状珪藻と呼ぶ。珪藻は海水中に幅広く分布している微細藻類である。
【0017】
また、Asterionella属、Leptocylindrus属、Skeletonema属、Eucampia属は、それぞれ下記に属する微細藻類を意味する(Round, F. E., et al., 「The diatoms」,1990, p.747, Cambridge Univ. Press, Cambridge.参照)。
【0018】
Asterionella属は、オビケイソウ綱(Fragilariophyceae)オビケイソウ亜綱(Fragilariophycidae)オビケイソウ目(Fragilarales)オビケイソウ科(Fragilariaceae)に属する微細藻類を意味する。
【0019】
Leptocylindrus属は、コアミケイソウ綱(Coscinodiscophyceae)ツノケイソウ亜綱 (Chaetocerotophycidae)レプトキリンドゥルス目(Leptocylindales)レプトキリンドゥルス科(Leptocylindraceae)に属する微細藻類を意味する。
【0020】
Skeletonema属は、タラシオシーラ亜綱(Thalassiosirophycidae)タラシオシーラ目(Thalassiosirales)スケレトネマ科(Skeletonemataceae)に属する微細藻類を意味する。
【0021】
Eucampia属は、コアミケイソウ綱(Coscinodiscophyceae)イトマキケイソウ亜綱(Biddulphiophycidae)ヘミアリウス目(Hemiaulales)ヘミアリウス科(Hemiaulaceae)にそれぞれ属する微細藻類を意味する。
【0022】
本発明において微細藻類は、天然のもの又は培養によるもののいずれを用いても良い。なお、安定供給及び炭素固定の観点から、培養によるものを使用することが好ましい。
上述の微細藻類は地球温暖化の原因となる二酸化炭素を固定することが知られ、地球環境にやさしい微細藻類を提供できる。培養方法は特に限定されないが、培養に供する微細藻類が棲息していた領域近辺の水を用いることが好ましい。
特に深度200m以深の海水、いわゆる海洋深層水は、清浄性、栄養性が高い。このため、海洋深層水中の微細藻類を、この海水を用いて培養することで、生理活性の高い藻体及び藻体抽出物を効率よく得ることが可能となる。
【0023】
また、本発明において使用する微細藻類は、生体又は乾燥体のいずれであっても良く、いずれかの抽出物を用いても良い。藻体から抽出物を製造する方法は特に限定されず、従来公知の方法により抽出することができる。例えば、エタノールに藻体を懸濁させ、必要により撹拌や超音波破砕処理をしながら抽出物を抽出する。
【0024】
藻体から抽出物を抽出する際の藻体濃度は用途に応じ、1質量%〜99質量%の範囲で自由に選択できる。特に、約5質量%〜30質量%の範囲で実施することが好ましい。藻体濃度が高すぎると藻体からの成分回収率が悪くなる。また、濃度が低過ぎると抽出液中の有効成分濃度が低くなり、抽出液の濃縮等でコストがさらにかかるため好ましくない。
【0025】
抽出溶媒は、水、海水、海洋深層水、緩衝液等の水、メタノール、エタノール、プロパノール等の低級アルコール、プロピレングリコール、1,3ーブチレングリコール、グリセリン等の多価アルコール、エーテル類、エステル類、ケトン類等の溶媒及びこれらの混合物を適宜用いることができる。また、超臨界抽出、蒸留等の操作と組み合わせても良い。
【0026】
藻体抽出物は公知の方法により得ることができる。例えば、藻体の分散溶液を遠心分離後、その上澄み液を、フィルター等を用いてろ過し、藻体と抽出液とを分離することで抽出物を得ることができる。また、必要に応じこの抽出物を減圧濃縮や、凍結乾燥や、噴霧乾燥等の方法により加工してもよい。
【0027】
[抗酸化作用]
本発明において、抗酸化剤の特性は、スーパーオキシド消去作用、又は、DPPH(1,1-diphenyl-2-picrylhydrazyl)ラジカル消去能を指標として評価する。つまり、本発明における抗酸化剤は、少なくともいずれか一方以上の特性評価において効果を有する。
【0028】
[スーパーオキシド消去作用]
スーパーオキシドラジカルを酸素と過酸化水素とに分解する酵素を、スーパーオキサイドディスムターゼ(Super Oxide Dismutase、以下SOD)という。スーパーオキシドラジカルは、ミトコンドリアが酸素からエネルギーを生成するとき、また、白血球などの免疫細胞が体内に侵入してきた細菌を攻撃するとき等に最も頻繁に発生する活性酸素種である。スーパーオキシドラジカルそのものは、人体に及ぼす影響がそれほど高くないが、短時間でより毒性の強い活性酸素種へと変化するため、様々な疾患や老化などに関与していると考えられている。
【0029】
生体内には、余分に発生したスーパーオキシドラジカルをSODによって分解する機構が存在しているが、細胞内のSOD活性は、年齢とともに低下していく。また若い細胞であっても、スーパーオキサイドアニオンによるダメージは少なからず受けている。そこで、少しでも多く余分なスーパーオキサイドアニオンを除去することができれば、老化のスピードを抑えることができ、若々しい肌を保つ可能性が高くなると考えられ、SOD活性を持つ物質は化粧品素材として有用であるといえる。
【0030】
[DPPHラジカル消去能]
ラジカルは、化学的には「不対電子」とよばれるもので、他の物質と反応しやすいため、反応性が高い物質であるとされている。しかし、全てのラジカルが悪い物質というわけではなく、特に問題となるのは酸素から発生するラジカル(活性酸素)である。これらには、スーパーオキシド、ヒドロキシルラジカル、ヒドロペルオキシルラジカル、アルコキシルラジカル、アルキルペルオキシルラジカル、一酸化窒素などがあり、生体内で様々な物質を酸化させてしまい、病気や老化の原因となる場合がある。
【0031】
通常ラジカルは不安定な物質であり、短時間で別の物質へと変換されていくため、評価試験で使用することは難しい。しかし、DPPHは人工的に作られた安定なラジカルなので、試験用としては非常に有益な物質として知られている。
一般的に、DPPHの持つラジカルを取り除くことができる物質であれば、この物質は、酸素から作られるラジカルも取り除くことができると考えられている。この結果、酸素から作られるラジカルは別の安全な物質へと変化するため、細胞内で他の物質を酸化させることがなくなり、疾患や老化を抑えることができるようになると推察できる。
【0032】
[美白作用]
本発明において、美白剤としての評価はチロシナーゼ活性阻害作用、又は、メラニン産生阻害作用を指標とする。つまり、本発明における美白剤は、少なくともいずれか一方以上の特性評価において効果を有する。
【0033】
[チロシナーゼ活性阻害作用]
チロシナーゼとは、メラニン色素をつくり出す色素細胞(メラノサイト)だけが持っている酸化酵素である。一般にシミ・ソバカスは過剰なメラニン色素が生成されることによって引き起こされる。そのメラニン色素の生成は次のようなメカニズムで説明される。
【0034】
太陽光の中の紫外線、ストレス、大気汚染などに曝されると皮膚の表面で活性酸素が発生し、その刺激によってメラノサイトが活性化され、チロシナーゼの生成が始まる。生成したチロシナーゼはアミノ酸の一種であるチロシンと反応し、さらにいくつかの段階を経てメラニンを作り出す。
【0035】
チロシナーゼはメラニンを作る酵素であるため、チロシナーゼ阻害効果の知られている物質(陽性対象)と比較し、添加の有無によるチロシナーゼ活性への影響を調べる事によって、メラニンの生成抑制効果が評価できる。この試験を利用し、化粧品や化粧品原料、化粧品原料となる素材(植物、酵母などの微生物、海産物など)のメラニン生成抑制による美白効果について予測することができる。
【0036】
[メラニン産生阻害作用]
メラニンは皮膚に紫外線が当たる事で生成される色素で、メラノサイトという細胞で作られる。その役割は紫外線から人体を守ることであり、メラニンはその紫外線を吸収したり、散乱したりする働きにより、強い紫外線から細胞を守る。しかし、紫外線を浴び続けるとメラノサイトが常に活性化した状態となり、必要以上にメラニンを作り続けてしまうため、シミが発生し、肌の重大な悩みの一つとなっている。このようなシミを作らせないためには、メラニンの生成を抑制することが重要となる。
【0037】
B16メラノーマ細胞とは、癌化したマウスのメラノサイトのことで、マウス黒色腫細胞株とも呼ばれている。正常な細胞は細胞数を一定に保つため、分裂・増殖しすぎないように制御機構が働いているが、癌化した細胞は制御が働いておらず、無制限に増殖を続ける。B16メラノーマ細胞は、メラニンを生成する機能をメラノサイトと同様に持っている。このため、B16メラノーマ細胞は、メラノサイトをターゲットとした簡易的な美白評価試験によく利用される細胞である。
本試験は、試験物質を添加した状態でB16メラノーマ細胞を培養し、産生されたメラニン量を測定することによってメラニン生成抑制力を評価する。この試験を利用し、化粧品や化粧品原料、化粧品原料となりうる素材(植物、酵母等の微生物、海産物等)等の美白作用について予測することができる。
【0038】
上述の藻体及び藻体抽出物を、例えば、飲食物、化粧料又は医薬部外品等に配合して用いることができる。飲食物としては、例えば、茶、果汁飲料、栄養ドリンク剤、健康食品、ダイエット食品、即席食品類、嗜好飲料類、小麦粉製品、菓子類、調味料類、乳製品、冷凍食品、水産加工品、畜産加工品及び農産加工品、その他の市販食品等が好ましい例として挙げられ、特に抗酸化活性を有する機能性飲食物又は抗酸化機能を必要とする飲食物に含有させることが好ましい。
【0039】
化粧料としては、石けん、ローション、美容液、乳液、クリーム、ファンデーション、化粧水、水系ファンデーション、水系チーク、水系アイシャドー、水系マスカラ、水系リップ、クレンジング、洗顔料、シャンプー、リムーバ、マッサージ剤等が例示でき、特に抗酸化活性又は美白活性を有する機能性化粧料に含有させることが好ましい。
【0040】
医薬部外品に対して該藻体抽出物を利用する場合、該抽出物自体を施用してもよいが、好ましくは、公知の方法によって該抽出物が配合された医薬部外品として施用することができる。その形態は限定されないが、例えば、錠剤、カプセル剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、液剤、シロップ剤等をあげることができる。
【0041】
上述の藻体及び藻体抽出物を、飲食物、化粧料又は医薬部外品等に含有させて用いる場合には、本発明の効果を損なわない範囲において配合すればよく、配合量は特に限定されないが、例えば、製品に対して該抽出物が好ましくは0.00001〜10質量%、より好ましくは0.0001〜5質量%、更に好ましくは0.001〜1質量%配合されていればよい。上記範囲内であれば本発明の効果を得るために充分であり、しかも製品本来の特性、物性等を損なうおそれが小さい。
【実施例】
【0042】
以下に本発明の実施例について説明するが、これに限定されるものではない。
[スーパーオキシド消去作用]
(実施例1)
(1)微細藻類Skeletonemaの培養
駿河湾深層水水産利用施設沖に設置された取水管より、深度397mの海洋深層水を汲み上げ、孔径3μmのカートリッジフィルターで除菌ろ過したものを培養海水とした。約4トン容の水槽に3.5トンの培養海水を満たし、ここに駿河湾深層水中より採取したSkeletonemaを初期密度750細胞/mlで接種した。培養温度は20℃、光条件は室内太陽光を基準とし、10,000ルクスに満たない場合は9:00〜17:00までの間ナトリウムランプを点灯した。
【0043】
(2)抽出物の調整
Skeletonema培養液を中空糸膜ろ過方式で濃縮した後、さらに遠心分離を用いて藻体を捕集した。得られた藻体を−30℃で凍結した後、凍結乾燥した。凍結乾燥物は0.5mm以下に粉砕した。粉砕後、藻体粉砕物の乾燥質量に対し、質量基準で20倍となるように蒸留水で分散した。分散液を超音波破砕装置により周波数20kHz、出力100Wで3分間破砕し、遠心分離(1000rpm、5分)して上澄みを取り出すことで実施例1の藻体の水抽出物を得た。
【0044】
(実施例2)
上述の実施例1と同様の方法で、駿河湾海洋深層水中より採取したAsterionellaを培養し、実施例2の藻体の水抽出物を得た。
【0045】
(実施例3)
上述の実施例1と同様の方法で、駿河湾海洋深層水中より採取したLeptocylindrusを培養し、実施例3の藻体の水抽出物を得た。
【0046】
(試験例1)
実施例1、実施例2、及び、実施例3で得られた藻体の水抽出物の抗酸化活性(活性酸素消去活性)を確認するため、スーパーオキサイド消去作用の評価を行った。
スーパーオキサイド消去作用の測定は、SOD Assay Kit−WST (DOJINDO MOLECULAR TECHNOLOGIES, INC., Lot No. VT677)を用いて行った。試料溶液の調製は、キットに準じて行った。
まず、上述の各実施例の藻体の水抽出物 20μl,WST working solution 200μl,およびEnzyme working solution 20μlを96穴プレートで混合後、37℃で20min反応させた後に450nmで吸光値を測定し、スーパーオキサイド消去率(%)を求めた。
結果を表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
(試験結果)
表1から明らかな通り、Skeletonema水抽出物は高いスーパーオキサイド消去作用を示した。また、Asterionella、Leptocylindrusの水抽出物も高いスーパーオキサイド消去作用を示した。
【0049】
[DPPHラジカル消去能]
(比較例1)
ニンジンの可食部をエタノール抽出し、藻体抽出試料と同様の測定を行った。
ニンジン可食部生重20gに対し、エタノール80gを加えてホモジナイズを行った。そして、減圧乾固した後、50ml蒸留水に溶解し、比較例1のニンジンの抽出物を得た。
【0050】
(試験例2)
0.1MのDPPH(1,1-diphenyl-2-picrylhydrazyl)溶液(50%エタノール水溶液)に、上述の実施例1〜3の藻体の水抽出物及び比較例1の抽出物を添加し、DPPHラジカルをどの程度消去できるかで判定した。
【0051】
具体的には、96穴マイクロプレートに、20μLの上述の実施例1〜3の藻体の水抽出物(又は比較例1の抽出物)、Trolox希釈系列、及び、250μLのDPPH溶液を加え、室温で20分間撹拌後、マイクロプレートリーダーで520nmにおける試料の吸光度(Asample)を測定した。
【0052】
また、コントロールとして、被検試料の代わりに200mMの2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)緩衝液(pH6.0)を添加した場合の吸光度(Acontrol)を測定した。
ブランクとして、DPPH溶液の代わりに同量の緩衝液を添加した場合の吸光度(Ablank)をそれぞれ測定した。
【0053】
DPPHラジカル消去能(%)は次式に従って求めた。
消去能(%)=[{Acontrol−(Asample−Ablank)}/Acontrol]×100
別途、Troloxの濃度を横軸、吸光度変化量を縦軸として検量線を描き、各試料のTrolox換算濃度を求めた。
結果を表2に示す。
【0054】
【表2】

【0055】
(試験結果)
表2から明らかな通り、Skeletonemaの水抽出物は高いDPPHラジカル消去率を示した。また、Asterionella、Leptocylindrusの水抽出物も高いDPPHラジカル消去能を示した。それぞれ、一般的に抗酸化作用を有するニンジンの抽出部よりも優れたDPPHラジカル消去能を示している。このことから、実施例1〜3の水抽出物が良好な抗酸化作用を有していることがわかる。
【0056】
[チロシナーゼ活性阻害作用]
(実施例4)
(1)微細藻類Skeletonemaの培養
駿河湾深層水水産利用施設沖に設置された取水管より、深度397mの海洋深層水を汲み上げ、孔径3μmのカートリッジフィルターで除菌ろ過したものを培養海水とした。約4トン容の水槽に3.5トンの培養海水を満たし、ここに駿河湾深層水中より採取したSkeletonemaを初期密度750細胞/mlで接種した。培養温度は20℃、光条件は室内太陽光を基準とし、10,000ルクスに満たない場合は9:00〜17:00までの間ナトリウムランプを点灯した。
【0057】
(2)抽出物の調整
Skeletonema培養液を中空糸膜ろ過方式で濃縮した後、濃縮液を遠心分離して藻体を捕集した。得られた藻体を−30℃で凍結した後、凍結乾燥した。凍結乾燥物は0.5mm以下に粉砕した。粉砕後、藻体粉砕物の乾燥質量に対し、質量基準で20倍となるように蒸留水で分散した。分散液を超音波破砕装置により周波数20kHz、出力100Wで3分間破砕し、遠心分離(1000rpm、5分)して上澄みを取り出すことでSkeletonema抽出物(脱塩無)を得た。
次に、Skeletonema抽出物(脱塩無)に付着した塩分を除くため、蒸留水にて2回洗浄し、得られた藻体を−30℃で凍結した後、凍結乾燥した。凍結乾燥物は0.5mm以下に粉砕し、蒸留水に分散した。分散液を超音波破砕装置により周波数20kHz、出力100Wで3分間破砕し、遠心分離(1000rpm、5分)して上澄みを取り出すことで実施例4の水抽出物(脱塩有)を得た。
【0058】
(実施例5)
上述の実施例4と同様の方法で、駿河湾海洋深層水中より採取したAsterionellaを培養し、実施例5の藻体の水抽出物を得た。
【0059】
(実施例6)
上述の実施例4と同様の方法で、駿河湾海洋深層水中より採取したLeptocylindrusを培養し、実施例6の藻体の水抽出物を得た。
【0060】
(実施例7)
上述の実施例4と同様の方法で、駿河湾海洋深層水中より採取したEucampiaを培養し、実施例7の藻体の水抽出物を得た。
【0061】
(試験例3)
抽出液の美白機能をチロシナーゼ活性阻害により評価した。
具体的には、96穴マイクロプレートに、上述の実施例4〜7の藻体の水抽出物100μLを入れ、次に120U/mLのチロシナーゼ(シグマ製)100μLを添加し、37℃で10分間プレインキュベートを行った。ここに2.5mMのL−DOPA(L-dioxyphenylalanin)100μLを添加した後、さらに37℃で5分間インキュベートを行い、マイクロプレートリーダーにて490nmにおける吸光度(Bsample)を測定した。
別途、L−DOPAの代わりに0.1Mリン酸緩衝液(pH6.8)を加えたものの吸光度(Bblank)、被検溶液の代わりに0.1Mリン酸緩衝液(pH6.8)を加えたものの吸光度(Bcontrol)を同様の操作にて測定を行った。
【0062】
チロシナーゼ阻害活性(%)は次式に従って求めた。
阻害活性(%)=[{Bcontrol−(Bsample−Bblank)}/Bcontrol]×100
測定した上述の実施例4〜7の藻体の水抽出物のチロシナーゼ阻害活性(%)を表3に示す。
【0063】
【表3】

【0064】
(試験結果)
表3に示すように、上述の実施例4〜7の藻体の水抽出物は、安定してチロシナーゼ活性阻害作用を有することが判る。これにより、該抽出物は美白機能を有する素材となることが判る。また、表3から明らかな通り、AsterionellaおよびLeptocylindrusの水抽出物はいずれも高いチロシナーゼ活性阻害能を示した。
【0065】
[メラニン産生阻害作用]
(試験例4)
抽出液の美白機能をB16メラノーマ細胞により評価した。
直径60mmの細胞培養用シャーレに、ウシ胎児血清10%含有MEM(minimum essential medium)培地中で前培養したB16メラノーマ細胞を2.5×10cells/mLとなるよう、0.1%コウジ酸を含む同培地中に接種した。CO濃度5%、37℃で24時間培養後、培地を除去し、リン酸緩衝液(PBS緩衝液)を用いて洗浄した。ここに、1.0%テオフィリン、及び、1.0%の上述の実施例5,6の藻体の水抽出物を含む同培地を加え72時間培養した。培養終了後、トリプシン処理によって細胞を剥離し、得られた細胞を遠心分離し、培地を除去後PBS緩衝液で洗浄し、細胞の色相を観察した。以下の基準に基づいて美白効果を評価した。
なお、実施例の水抽出物を用いる代りに、PBS緩衝液を加えたものをコントロールとした。また、1.0%Asterionella抽出物を用いる代りに、コウジ酸を用いて陽性コントロールとした。
【0066】
(試験結果)
上述の実施例5,6の藻体の水抽出物の美白機能の評価結果を、表4に示す。また、コントロール(PBS緩衝液)、及び、陽性コントロール(コウジ酸)を用いた美白機能の評価結果を、表4に示す。
なお、表4に示す美白効果は下記の基準により評価した。
(美白効果評価基準)
「5」: コントロールと同程度又はそれ以上の黒色
「1」〜「4」: 数字が小さいほど白色に近い色調
「0」: 白色
【0067】
【表4】

【0068】
(試験結果)
表4から明らかなように、上述の実施例5,6の藻体の水抽出物はB16メラノーマ細胞のメラニン色素産生を抑制し、細胞を白化する効果を有することが示された。これにより、実施例5,6の藻体抽出物は美白機能を有する素材であることが判る。また、表4から明らかなように、実施例5,6の藻体抽出物はB16メラノーマ細胞のメラニン色素産生を抑制し、細胞を白化する効果を有することが示された。これにより、実施例5,6の藻体抽出物は美白機能を有する素材であることが判る。
【0069】
次に、本実施の形態で説明する抗酸化剤及び美白剤を用いた、飲食物及び医薬部外品の参考例として、健康食品入浴剤の配合例を示す。
[参考例1]
(健康食品の製造)
上述の実施例4と同様の方法を用いて得られたLeptocylindrus藻体粉末1g、乳糖99g、乾燥コーンスターチ2g、タルク1.8g、ステアリン酸カルシウム0.2gを混和した。そして、一錠の重量0.5gで打錠し、健康食品として約200錠の錠剤を作製した。この健康食品によれば、抗酸化作用に優れたLeptocylindrus藻体を含むことにより、優れた抗酸化活性を有する。
【0070】
[参考例2]
(入浴剤の製造)
硫酸ナトリウム:52重量部、炭酸水素ナトリウム:42重量部、上述の実施例4と同様の方法を用いて得られたLeptocylindrus抽出液粉末:5重量部、香料1重量部、色素:適量を攪拌混合して入浴剤を作製した。この入浴剤によれば、美白作用に優れるLeptocylindrus抽出物を含むことにより、メラニン生成抑制による美白効果を有する。
【0071】
なお、本発明は上述の実施形態例において説明した構成に限定されるものではなく、その他本発明構成を逸脱しない範囲において種々の変形、変更が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
藻体、及び、前記藻体の抽出物から選ばれる少なくとも1つ以上を含み、
前記藻体が、Asterionella属、Leptocylindrus属、又は、Skeletonema属に属する
ことを特徴とする抗酸化剤。
【請求項2】
スーパーオキサイド消去作用、及び、1,1−diphenyl−2−picrylhydrazylラジカル消去能から選ばれる少なくとも1以上の抗酸化作用を有する請求項1記載の抗酸化剤。
【請求項3】
前記藻体が、海洋深層水中からの採取物、又は、前記海洋深層水中での培養物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の抗酸化剤。
【請求項4】
藻体、及び、前記藻体の抽出物から選ばれる少なくとも1つ以上を含み、
前記藻体が、Asterionella属、Leptocylindrus属、又は、Skeletonema属、又は、Eucampia属に属する
ことを特徴とする美白剤。
【請求項5】
美白作用がチロシナーゼ活性阻害、及び、メラニン産生阻害から選ばれる少なくとも1以上の美白作用を有する請求項4に記載の美白剤。
【請求項6】
前記藻体が、海洋深層水中からの採取物、又は、前記海洋深層水中での培養物であることを特徴とする請求項4又は5に記載の美白剤。
【請求項7】
藻体、及び、前記藻体の抽出物から選ばれる少なくとも1つ以上を含み、
前記藻体が、Asterionella属、Leptocylindrus属、又は、Skeletonema属、又は、Eucampia属に属する
飲食物。
【請求項8】
藻体、及び、前記藻体の抽出物から選ばれる少なくとも1つ以上を含み、
前記藻体が、Asterionella属、Leptocylindrus属、又は、Skeletonema属、又は、Eucampia属に属する
化粧料。
【請求項9】
藻体、及び、前記藻体の抽出物から選ばれる少なくとも1つ以上を含み、
前記藻体が、Asterionella属、Leptocylindrus属、又は、Skeletonema属、又は、Eucampia属に属する
医薬部外品。

【公開番号】特開2013−103915(P2013−103915A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−249896(P2011−249896)
【出願日】平成23年11月15日(2011.11.15)
【出願人】(590002389)静岡県 (173)
【出願人】(000002820)大日精化工業株式会社 (387)
【Fターム(参考)】