説明

振動センサ、携帯情報端末

【課題】より小型な振動センサを実現する。また、筐体が折り畳まれた状態など閉状態において、筐体に内蔵されたマイクロフォンにより、振動を検出できる携帯情報端末を実現する。
【解決手段】音声入力用のマイクロフォンを用いて振動センサを構成する。筐体を、与えられる外力に応じて変形し外力がなくなると元の形状に戻る性質を有する可撓性部材と該性質を有しない非可撓性部材とで構成し、筐体の密閉空間内にマイクロフォンを設ける。密閉空間内の空気圧の変化をマイクロフォンによって検出する。携帯情報端末を閉じた状態において、一部分が可撓性部材で構成された密閉空間が形成される構造を採用すれば、通話のためのマイクロフォンを用いて振動を検出し、歩数や心拍数を検出できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は振動を検出する振動センサ、および振動センサを内蔵した携帯情報端末に関する。
【背景技術】
【0002】
振動を検出する振動センサや加速度センサの多くは内部に錘を内蔵し、振動が加わることによる、センサ本体と錘の相対的な動きを検出するものである。このセンサの検出原理としては、ピエゾ抵抗式、静電容量式、または圧電式のものが知られているが(例えば、特許文献1参照)、いずれにしてもセンサの感度は錘の質量に依存し、基本的にはセンサ全体の大きさを小さくすると感度は低下する傾向にある。
【0003】
一方、近年の携帯情報端末は様々なセンサが内蔵されるようになっており、振動センサや加速度センサもその一つになっている。例えば、三軸加速度センサを、携帯情報端末の使用状況を判別し電力のウェイクアップコントロールを行う目的で使用することが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
また、加速度センサを外付けすることで歩数を計測できる携帯情報端末もある(例えば、特許文献3参照)。また携帯情報端末を用いて心音等の体内音を取得し、健康状態をモニターする試みも始まりつつある(例えば、特許文献4参照)。
【0004】
一方、通信機器端末やオーディオ等に用いられるコンデンサマイクロフォンの技術分野においては、近年ではマイクロマシニング技術を半導体加工に応用して作製されたMEMS(Micro Electro Mechanical System)マイクロフォンチップを用いた小型のシリコンコンデンサマイクロフォンが知られている(例えば、特許文献5参照)。このMEMSマイクロフォンチップは、通常はプリント基板上にパッケージが実装された状態で使用される。
【0005】
このようなコンデンサマイクロフォンを振動センサとして用いる試みとして、可撓体で形成された中空のフレームにコンデンサマイクロフォンを設けたセンサユニットを用いる方法が提案されている(特許文献6参照)。この方法では、センサユニットを横臥姿勢の人体の下に敷くことで、人体に起因する振動データを取り出し、心拍数、呼吸数、寝返りの時間及び鼾の回数を推定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平5−46902号公報
【特許文献2】特開2009−63563号公報
【特許文献3】特開2009−106374号公報
【特許文献4】特開2007−159682号公報
【特許文献5】特開2004−537182号公報
【特許文献6】特開平11−28195号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
携帯情報端末に振動を検出するための振動センサや加速度センサを内蔵すれば、該携帯情報端末に加わる振動を計測することは可能である。しかしながら、携帯情報端末に内蔵される機能は増加傾向にあり、搭載する部品を小型化あるいは削減することが求められている。
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その目的はより小型で好感度な振動センサを提供することである。本発明の他の目的は、筐体が折り畳まれた状態など閉じた状態において、筐体に内蔵されたマイクロフォンを利用して、振動を検出できる携帯情報端末を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による振動センサは、与えられる外力に応じて変形し外力がなくなると元の形状に戻る性質を有する可撓性部材と該性質を有しない非可撓性部材とから構成され、内部に密閉空間を有する筐体と、前記密閉空間内に設けられたマイクロフォンとを含み、前記密閉空間内の空気圧の変化を前記マイクロフォンによって検出することを特徴とする。この構成によれば、マイクロフォンを用いることにより、より小型で高感度な振動センサを実現できる。
前記マイクロフォンは、MEMS素子で構成されているのが好ましい。この構成によれば、振動センサをより小型化することができる。
前記マイクロフォンは、前記密閉空間への孔部を有するパッケージに収容されていることが好ましい。この構成によれば、密閉空間内の空気圧の変化を効率良く検出することができる。
【0009】
前記筐体は、前記マイクロフォンを収容する収容部分と他の部分とを備えており、
前記可撓性部材は、孔部を有する枠形状であり、
前記可撓性部材の孔部を介して、前記収容部分の空間と前記他の部分とが接続されて前記密閉空間が形成されていてもよい。この構成によれば、上記他の部分が、可撓性部材を介して収容部分に対する錘となるので、振動を感度良く検知することができる。また、マイクロフォンを収容する収容部分を、錘とすることもできる。
前記可撓性部材は、前記密閉空間と前記筐体外部とを隔てるシート形状であってもよい。この構成によれば、シート形状の可撓性部材によって、密閉空間内の空気圧の変化を効率良く検出することができる。
【0010】
また、本発明による携帯情報端末は、孔部を有する枠形状であり、かつ、与えられる外力に応じて変形し外力がなくなると元の形状に戻る性質を有する可撓性部材と、マイクロフォンを収容する収容部分と、他の部分とを含み、前記収容部分と他の部分との位置関係が、第1の状態(例えば、携帯情報端末が閉じている状態)または第2の状態(例えば、携帯情報端末が開いている状態)になり、前記位置関係が前記第1の状態である場合に、前記可撓性部材の孔部を介して、前記収容部分の空間と前記他の部分とが接続されることによって密閉空間が形成され、前記密閉空間内の空気圧の変化を前記マイクロフォンによって検出することを特徴とする。この構成によれば、携帯情報端末が閉状態である場合に携帯情報端末を振動センサとして機能させることができる。その場合、上記マイクロフォン収容部分か他の部分のどちらか一方が、錘として作用するため、振動を良好に検出できる。そして、通話のための構成を、振動を検出するための構成としても用いることができ、携帯情報端末のサイズへの影響を抑えることができる。
【0011】
前記マイクロフォンは、MEMS素子で構成されているのが好ましい。この構成によれば、振動を検出するための構成をより小さくすることができ、携帯情報端末のサイズへの影響を抑えることができる。
前記マイクロフォンは、前記密閉空間への孔部を有するパッケージに収容されていることが好ましい。この構成によれば、密閉空間内の空気圧の変化を効率良く検出することができる。
上記携帯情報端末は、歩行する生体に装着され、前記マイクロフォンの出力に基づいて、前記生体の歩数を検出するようにしてもよい。これにより、歩行による振動をマイクロフォンで検出し、歩数を得ることができる。
【0012】
上記携帯情報端末は、生体に装着され、前記マイクロフォンの出力に基づいて、前記生体の心音と脈拍との少なくとも一方を検出するようにしてもよい。これにより、心音や脈拍をマイクロフォンで検出し、心拍数や脈拍数を得ることができる。
上記携帯情報端末は、前記マイクロフォンの出力に基づいて、前記収容部分と他の部分との位置関係が、第1の状態(例えば、携帯情報端末が閉じている状態)または第2の状態(例えば、携帯情報端末が開いている状態)であることを検出するようにしてもよい。これにより、携帯端末の開閉状態を知ることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、密閉空間内に設けられたマイクロフォンを用いることによって、より小型で高感度な振動センサを実現できるという効果が得られる。また、筐体を閉じた状態などにおいて振動センサを構成することにより、振動を検出できる携帯情報端末を実現できるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の振動センサの実施の一形態の構成を示す斜視図である。
【図2】本発明の振動センサの実施の一形態の断面構成を示す模式図である。
【図3】本発明の振動センサの他の形態の構成を示す斜視図である。
【図4】本発明の振動センサの他の形態の断面模式図である。
【図5】本発明の携帯情報端末の一例の筐体を開いた状態を示す斜視図である。
【図6】本発明の携帯情報端末の一例の筐体を閉じた状態を示す斜視図である。
【図7】本発明の携帯情報端末の一例の筐体を閉じた状態におけるマイクロフォン付近の断面模式図である。
【図8】本発明の実施例による携帯情報端末を服のポケットに入れて歩行したときのマイクロフォンの出力を示した波形図の一例である。
【図9】本発明の実施例による携帯情報端末をシャツ左胸部のポケットに入れ安静にした時のマイクロフォンの出力を示した波形図の一例である。
【図10】歩行振動の回数または心拍数を計数するための測定回路の構成例を示すブロック図である。
【図11】本発明の携帯情報端末の一例の筐体を開いた状態と閉じた状態で検出されるマイクロフォンの出力の周波数スペクトルの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。なお、以下の説明において参照する各図では、他の図と同等部分は同一符号によって示されている。
(振動センサの構成例)
図1は本発明の振動センサの実施の一形態の構成を示す斜視図、図2は図1のA−A部の断面構成を示す模式図である。両図を参照すると、本例の振動センサ1は、筐体として機能する構造体2および構造体3と、これら構造体2と構造体3との間に位置する可撓性部材6とを有している。また、この振動センサ1は、構造体2と構造体3と可撓性部材6とで周囲を囲まれ密閉された密閉空間を有している。可撓性部材6は、与えられる外力に応じて変形し、外力がなくなると元の形状に戻る性質を有する。つまり、振動センサ1は、可撓性部分(可撓性部材6)と可撓性を有しない部分(構造体2および構造体3)との2つから構成されており、可撓性部分は柔らかく、可撓性を有しない部分は形状保持のため固くなっている。
【0016】
そして、構造体2内には、その密閉空間への開口部70に接続された音孔7を有するマイクロフォン5が収容されている。マイクロフォン5はマイクロフォン素子5aを内蔵している。このマイクロフォン素子5aによって検出された信号は、例えば、図示しないリード線によって導出することができる。
なお、本例において、可撓性部材6の形状に、孔部を有する枠形状を採用している。また、本例において、構造体2および構造体3は、略円柱形状になっているが、この形状に限定されるものではなく、角柱であったり、球形であったり、用途に応じて任意の形状を採用すればよい。
【0017】
(振動センサの他の構成例)
図3は本発明の振動センサの実施の一形態の構成を示す斜視図、図4は図3のB−B部の断面構成を示す模式図である。両図を参照すると、本例の振動センサ1aは、筐体として機能する構造体2aと、その上部に設けられた可撓性部材6aとを有している。また、この振動センサ1aは、構造体2aと可撓性部材6aとで周囲を密閉された密閉空間を有し、構造体2内に、その密閉空間への開口部分となる音孔7を有するマイクロフォン5を備えている。マイクロフォン5はマイクロフォン素子5aを内蔵している。このマイクロフォン素子5aによって検出された信号は、図示しないリード線によって導出することができる。
【0018】
本例において、可撓性部材6aはシート形状になっており、密閉空間と筐体外部とを隔てている。このシート形状の可撓性部材6aによって、密閉空間内の空気圧の変化を効率良く検出することができる。
なお、本例において、構造体2は、直径の異なる2つの略円柱形状を重ねて接続したような形状になっているが、この形状に限定されるものではなく、角柱であったり、球形であったり、用途に応じて任意の形状を採用すればよい。また可撓性部材6aの上に別の構造体を接続しても良い。
【0019】
(可撓性材料、非可撓性材料)
上述した可撓性部材6および可撓性部材6aを形成する可撓性材料は、外力が加わると変形し該外力がなくなると元の形状に戻る材料である。例えば、天然ゴム、ウレタンゴム、及びシリコーンゴムなどのゴム、ゲル、並びにエラストマーを、可撓性材料の例として挙げることができる。
また、非可撓性材料とは、上記の可撓性材料よりも可撓性が低く(剛性の高い)、外力を加えても容易には変形しない材料を意味する。例えば、金属、及び硬質プラスチックを、非可撓性材料の例として挙げることができる。
【0020】
(構造体)
筐体として機能する、上述した構造体2、2a、3は、目的とする機能に適した材料と形状とを有する加工品またはその組合せを意味し、金属板またはプラスチック板製の筐体のように内部が空洞のものも含む。これら構造体2、2a、3は可撓性材料を用いて構成してもよいし、非可撓性材料を構成してもよいし、それらを組合せてもよい。ただし、形状を保つという観点からは非可撓性材料であることが好ましい。
【0021】
なお、図1および図2においては、2つの構造体2と構造体3とから1つの構造体が構成され、これに1つの可撓性部材を組み合わせた場合を例示しているが、この場合に限定されるものではない。すなわち、3つ以上の構造体であったり、2つ以上の可撓性部材であったり、3つ以上の構造体と2つ以上の可撓性部材とを組み合わせたものであったりしても良い。いずれの場合でも密閉空間を構成できることはいうまでもない。
ここで、密閉空間とは、外部空間との間に隙間や孔等の空気の通路がないことを意味する。密閉空間と外部空間との間に微小な空気の通路がある場合は、そこから音圧がもれるため感度が低下し、特に低周波では感度低下が大きい。従って、実際に使用する周波数領域において感度が低下しない程度の密閉性を有していればよい。
【0022】
(マイクロフォン)
マイクロフォン5は、音波を受けて同じ波形の電流を発生する装置である。マイクロフォンには、コンデンサマイクロフォン(静電型)、ムービングコイルマイクロフォン(動電型)、リボンマイクロフォン(速度型)、クリスタルマイクロフォン(圧電型)などがある。本例においては、密閉化かつ小型化が可能との観点からコンデンサマイクロフォンが好ましく、エレクトレットコンデンサマイクロフォン及びMEMS素子で構成されているシリコンコンデンサマイクロフォンがより好ましい。
【0023】
(動作原理)
以上の構成によれば、密閉空間を構成する壁面の少なくとも一部分が可撓性部材であるので、外部から構造体に伝えられた振動を、その密閉空間内の空気の圧力変化(すなわち空気圧の変化)に変換することができる。従って、音孔7を有するマイクロフォン5を、密閉空間内に配置することにより、その密閉空間内の空気の圧力変化を計測することができ、外部から加わる振動をマイクロフォン5で測定することが可能になる。振動に対する感度は可撓性部材に接する構造体の質量に依存するが、構造体の質量は一般的に十分大きいため、マイクロフォン5により振動を高感度に計測することが可能である。
【0024】
密閉空間内の空気の圧力変化は、振動による密閉空間内壁の可撓性部材の変位量と密閉空間の体積とに依存し、該密閉空間の振動による体積変化量に対する全体積の比が小さいほど圧力変化を大きくし振動に対する感度を高めることができる。従って、MEMS素子を用いたマイクロフォン5を使用することにより、マイクロフォンパッケージを小型化することで、より高感度な振動計測が可能となる。また、密閉空間の内壁における可撓性部材の面積が大きいほど圧力変化を大きくし振動に対する感度を高めることができる。なお、可撓性部材の弾性定数と構造体の質量とで決まる共振周波数以下の振動においては、可撓性部材を構成する可撓性材料の体積弾性率が小さいほど変位が大きくなるので感度はより高くなる。
【0025】
(携帯情報端末)
次に、図5から図7までを参照して、上記の振動センサを用いて構成した携帯情報端末の構成例について説明する。図5は携帯情報端末の筐体を開いた状態を示す斜視図、図6は携帯情報端末の筐体を閉じた状態を示す斜視図、図7は図6のC−C部(マイクロフォン付近)の断面構成を示す模式図である。
図5において、本例の携帯情報端末1bは、マイクロフォンを収容し、上述した構造体2としての機能を有する筐体20と、上述した構造体3としての機能を有する筐体30とを備えている。筐体20と筐体30とはヒンジを介して接続されているため、軸Jを中心に矢印Yのように開閉動作が可能である。同図は、筐体20と筐体30とを開いた状態(すなわち携帯情報端末1bを開いた状態)を示している。同図において、筐体20には入力用のキーボードKが、筐体30には表示用のディスプレイDが、それぞれ配置されている。
【0026】
また、筐体20には、端末利用者が発する音声などを筐体内部に取り込むための開口部70が設けられている。この開口部70の周囲には、枠形状の可撓性部材6が設けられている。可撓性部材6は、中央に孔部を有する枠形状である。つまり、枠形状の孔部(例えば、枠形状の中央部)に開口部70が位置するように、可撓性部材6が設けられている。本例では、可撓性部材6は、筐体20に接着されているものとする。また、可撓性部材6は、例えば、アスカーC硬度0のウレタンゲルを用いて構成し、厚みは例えば1mm、孔部は例えば半径2mmとする。
【0027】
一方、図6は、筐体20と筐体30とを閉じた状態(すなわち携帯情報端末1bを折畳んだ状態)を示している。同図の状態では、筐体30は、筐体20の可撓性部材6と接している。この状態では、筐体20と筐体30とが可撓性部材6を介して対向して接続された状態になっている。これらが接続された状態において、密閉空間が形成される。
【0028】
ここで、マイクロフォン付近の断面図である図7を参照すると、筐体20の内部には、プリント基板4が設けられている。このプリント基板4には、MEMSマイクロフォン5のパッケージが実装されている。また、MEMSマイクロフォン5の音孔7の位置は、可撓性部材6の孔部および開口部70の位置と一致している。このため、筐体30、可撓性部材6、および、筐体20のMEMSマイクロフォン5によって密閉空間が形成される。このとき、筐体20の内壁とMEMSマイクロフォン5の上部とは密着しており、音孔7以外に隙間はない。この構成によれば、携帯情報端末が閉状態である場合に携帯情報端末を振動センサとして機能させることができる。また、MEMSマイクロフォン5を用いているので、振動を検出するための構成を比較的小さくすることができ、携帯情報端末のサイズへの影響を抑えることができる。
なお、筐体20ではなく、筐体30に可撓性部材6を接着した場合でも、密閉空間を形成できることはもちろんである。
【0029】
以上のように、携帯情報端末1bが折畳まれて密閉空間が形成された状態(一般的には通話不可能な状態)では、携帯情報端末1bはMEMSマイクロフォン5を利用した振動センサとして機能することになる。一方、図5のように、携帯情報端末1bが開いて開放空間になった状態(一般的には通話可能な状態)では、MEMSマイクロフォン5を通話用のマイクロフォンとした携帯電話機として機能することになる。このように、1つのMEMSマイクロフォン5を、振動検出用と通話用とに兼用できるので、振動検出用のセンサ、通話用マイクロフォンを別々に用意する必要がない。このため、通話のための構成を、振動を検出するための構成としても用いることができ、携帯情報端末のサイズへの影響を抑えることができる。
【実施例】
【0030】
発明者は、作製した試作品について、携帯情報端末1bを折畳んだ状態において、筐体30と可撓性部材6との間には隙間はできず、密閉空間となっていることを確認した。MEMSマイクロフォン5には、Knowles社製SP0208を用いた。MEMSマイクロフォン5の音孔7は筐体20にも設けられた開口部70に接続されている。
この構成によれば、開閉可能な2つの筐体20、30とマイクロフォン5とを有する携帯情報端末において、筐体20と筐体30との位置関係は閉じた状態または開いた状態となる。そして、開いた状態ではマイクロフォン5が通話に使用されると共に、閉じた状態ではマイクロフォン5と2つの筐体20および30とで振動センサを構成することによって、該携帯情報端末に加わる振動を検出することができる。
【0031】
ところで、このような携帯情報端末としては、例えば、折畳み式、スライド式、及び回転式の携帯電話機が知られている。図5及び図6を参照して説明した折畳み式携帯情報端末では通常音声通話等の使用がなされない状態では筐体20と筐体30とが重なるように端末本体が折畳まれる。本例では、この折畳まれた状態(すなわち閉じた状態)においてマイクロフォン5の音孔7を含む空間が密閉空間となるように、マイクロフォン5のパッケージが筐体20内に収容されている。
【0032】
このような構成を採用することにより、可撓性材料6が2つの筐体20、30で挟み込まれるため、一方の筐体30が振動センサの錘として機能し、別途の振動センサを組みこまなくてもマイクロフォン5を利用して感度良く振動を検知することができる。
この構成の場合の振動センサとしての感度は、可撓性部材6に設けられている孔部の面積と密閉空間の体積との比に依存する。すなわち、孔部の面積と密閉空間との体積の比である、(孔部の面積)/(密閉空間の体積)の値が大きいほど感度は大きくなる。筐体20に伝わった振動は筐体30が振動センサの錘として働き、逆に筐体30に伝わった振動は筐体20が振動センサの錘として働く。筐体20および筐体30は、一般的な小型振動センサの錘に比べて質量が十分大きいので、このように構成した振動センサは優れた感度を示す。
【0033】
(携帯情報端末を用いた振動センサの構成)
このような携帯情報端末の、別の用途の一例として、心音または脈拍を検出する用途が考えられる。すなわち、携帯情報端末が生体に接することによって、心音または脈拍を検知することができる。検知された信号から実際の心拍数や脈拍数を求めるには、間隔の周期性を考慮したアルゴリズム等を用いてノイズを除去することが好ましい。なお、後述するように、閾値レベルと比較することによって、ノイズを排除することもできる。
【0034】
携帯情報端末の用途の他の例として、歩数計が考えられる。すなわち、携帯情報端末を歩行時に携行することによって、歩行による振動を検知し歩数を計測することができる。検知された信号から実際の歩数を求めるには、間隔の周期性を考慮したアルゴリズム等を用いてノイズを除去することが好ましい。ノイズを除去に用いるアルゴリズムの一例としては、先述した先行文献6に記載の適応化平滑化法や理想信号波形との相関度算出法などの公知の方法が利用できる。なお、後述するように、閾値レベルと比較することによって、ノイズを排除することもできる。
【0035】
(歩行振動の検出)
発明者は実施例の携帯情報端末を模擬的に再現し、それを被験者の服のポケットに入れて歩行した時のMEMSマイクロフォンの出力を記録したものが図8である。同図において、横軸は時間、縦軸は電圧である。同図を参照すると、矢印Y1〜Y9で示したタイミングで信号レベルが顕著に高くなっている。この部分が被験者の歩行による振動である。したがって、この振動の出現回数をカウントすることにより歩数を計測することができる。
【0036】
(心音の検出)
また、模擬的に再現した実施例の携帯情報端末を、被験者のシャツの左胸ポケットに入れて安静にした時のMEMSマイクロフォンの出力を記録したものが図9である。同図において、横軸は時間、縦軸は電圧である。同図を参照すると、一定の周期で信号レベルが高くなっている。この部分が被験者の心音である。このように、本実施例の携帯情報端末を利用すれば、心音を明瞭に検出することができる。したがって、この心音の出現回数をカウントすることにより心拍数を計測することができる。心音に限らず、脈拍を検出し、その出現回数をカウントすることにより脈拍数を計測することができる。また、人体に限定されず、動物の生体に装着すれば、その心音や脈拍を検出することができる。
【0037】
(検出回数の測定回路)
図10は歩行振動の回数または心拍数を計数するための測定回路の構成例を示すブロック図である。
同図において、本例の測定回路は、MEMSマイクロフォン5の出力を入力とする3ステートバッファ8と、3ステートバッファ8の出力を入力とするコンパレータ9と、コンパレータ9の比較結果である出力300によってカウントアップ動作するカウンタ10とを含んで構成されている。
このような構成において、3ステートバッファ8の制御端子には、例えば、開閉構造を備えた、折畳み式の携帯情報端末の閉検出信号100が印加される。携帯情報端末の開閉状態は、例えば、ホール素子と磁石とを組合せることによって検出することができ、閉状態である場合に閉検出信号100が生成されるように構成すればよい。折畳み式以外の開閉構造として、スライド式や回転式を採用した携帯情報端末もあり、これらについても、開閉状態を検出し、閉検出信号100を生成すればよい。
【0038】
携帯情報端末が開いている場合(通話可能状態)、閉検出信号100が入力されず、3ステートバッファ8はハイインピーダンス状態になり、MEMSマイクロフォン5の出力はコンパレータ9に入力されない。一方、携帯情報端末が折畳まれて閉じている場合(通話不可能状態)、MEMSマイクロフォン5の出力はコンパレータ9に入力される。すなわち、携帯情報端末が閉じている場合に限り、MEMSマイクロフォン5の出力がコンパレータ9に入力されることになる。なお、MEMSマイクロフォン5の出力を、常にコンパレータ9に入力させる必要がある場合には、3ステートバッファ8を設ける必要はない。
コンパレータ9は、3ステートバッファ8の出力レベルを、閾値レベル200と比較し、閾値レベル200を超えた場合にのみカウンタ10をカウントアップ動作させる。ここで、閾値レベル200を適切に設定しておくことにより、ノイズを排除しつつ、歩行振動の回数または心拍数を計数することができる。
【0039】
(筐体の開閉状態の検出)
また、模擬的に再現した実施例の携帯情報端末を手に持ち、筐体を閉じた状態と開いた状態のマイクロフォンの出力の周波数スペクトルを示したものが図11である。同図において、横軸は周波数、縦軸は出力レベルである。同図を参照すると、筐体を閉じた状態(同図中に「閉」と表記)では周囲環境及び人体に起因する振動が測定される。これに対し、筐体を開いた状態(同図中に「開」と表記)ではこの振動は測定されず周囲環境のバックグラウンド雑音のみが測定されるため、低周波域のレベルの差が20dB以上あり明らかに異なる。従って、マイクロフォンの低周波域の出力レベルを定期的にモニターすることにより、筐体の開閉状態を判別することができる。判別するアルゴリズムとして、閾値レベルと比較することや、定期的モニタリングによる変化量の検出が利用できる。
なお、携帯情報端末についての開閉状態に限らず、蓋などを閉じた状態で密閉空間が形成され、かつ、蓋などを開いた状態で密閉空間が形成されない筐体について、その開閉状態を検出できる。
【0040】
(まとめ)
本発明者は、開閉可能な2つの筐体からなり音声入力用マイクロフォンを有する携帯電話機などの携帯情報端末において、筐体を開いた状態で音声入力用に使用されているマイクロフォンを振動センサとして使用することを着想した。検討の結果、2つの筐体を閉じた状態で2つの筐体同士の間に配置した可撓性部材とにより密閉空間を構成することでマイクロフォンを振動センサとして使用できることを見出し、本発明を完成させた。
【0041】
本発明によれば、密閉空間内に設けられたマイクロフォンを用いることによって、より小型な振動センサを実現できる。また、筐体を閉じた状態などの通話不可能な状態において振動センサを構成することにより、振動を検出し、歩数や心拍数などを検出できる携帯情報端末を実現できる。
また本発明は用途を携帯情報端末に限定するものではなく、2つの筐体と可撓性部材とにより構成した密閉空間にマイクロフォンを配置することにより、高感度な振動センサを実現できる。
【符号の説明】
【0042】
1、1a 振動センサ
1b 携帯情報端末
2、2a、3 構造体
4 プリント基板
5 マイクロフォン
5a マイクロフォン素子
6、6a 可撓性部材
7 音孔
8 ステートバッファ
9 コンパレータ
10 カウンタ
20、30 筐体
70 開口部
100 閉検出信号
200 閾値レベル
300 出力
D ディスプレイ
J 軸
K キーボード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
与えられる外力に応じて変形し外力がなくなると元の形状に戻る性質を有する可撓性部材と該性質を有しない非可撓性部材とから構成され、内部に密閉空間を有する筐体と、前記密閉空間内に設けられたマイクロフォンとを含み、前記密閉空間内の空気圧の変化を前記マイクロフォンによって検出することを特徴とする振動センサ。
【請求項2】
前記マイクロフォンは、MEMS素子で構成されていることを特徴とする請求項1記載の振動センサ。
【請求項3】
前記マイクロフォンは、前記密閉空間への孔部を有するパッケージに収容されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の振動センサ。
【請求項4】
前記筐体は、前記マイクロフォンを収容する収容部分と他の部分とを備えており、
前記可撓性部材は、孔部を有する枠形状であり、
前記可撓性部材の孔部を介して、前記収容部分の空間と前記他の部分とが接続されて前記密閉空間が形成されていることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の振動センサ。
【請求項5】
前記可撓性部材は、前記密閉空間と前記筐体外部とを隔てるシート形状であることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の振動センサ。
【請求項6】
孔部を有する枠形状であり、かつ、与えられる外力に応じて変形し外力がなくなると元の形状に戻る性質を有する可撓性部材と、マイクロフォンを収容する収容部分と、他の部分とを含み、
前記収容部分と他の部分との位置関係が、第1の状態または第2の状態になり、前記位置関係が前記第1の状態である場合に、前記可撓性部材の孔部を介して、前記収容部分の空間と前記他の部分とが接続されることによって密閉空間が形成され、前記密閉空間内の空気圧の変化を前記マイクロフォンによって検出することを特徴とする携帯情報端末。
【請求項7】
前記マイクロフォンは、MEMS素子で構成されていることを特徴とする請求項6記載の携帯情報端末。
【請求項8】
前記マイクロフォンは、前記密閉空間へ接続される孔部を有するパッケージに収容されていることを特徴とする請求項6または請求項7に記載の携帯情報端末。
【請求項9】
歩行する生体に装着され、前記マイクロフォンの出力に基づいて、前記生体の歩数を検出することを特徴とする請求項6から請求項8までのいずれか1項に記載の携帯情報端末。
【請求項10】
生体に装着され、前記マイクロフォンの出力に基づいて、前記生体の心音と脈拍との少なくとも一方を検出することを特徴とする請求項6から請求項8までのいずれか1項に記載の携帯情報端末。
【請求項11】
前記マイクロフォンの出力に基づいて、前記収容部分と他の部分との位置関係が、第1の状態または第2の状態であることを検出することを特徴とする請求項6から請求項8までのいずれか1項に記載の携帯情報端末。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−169697(P2011−169697A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−32802(P2010−32802)
【出願日】平成22年2月17日(2010.2.17)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【Fターム(参考)】