説明

振動試験方法及び装置、並びに振動試験用プログラム

【課題】 実環境に合致した振動試験を容易に高精度で行うことができる振動試験方法を提供する。
【解決手段】 供試品の振動耐久性を評価するための振動試験方法であって、実輸送の輸送条件に基づいて供試品の基準用振動条件を決定する試験仕様設定ステップ(S10)と、基準用振動条件下における供試品の振幅レベル及び目標蓄積疲労値を算出する基準値取得ステップ(S20)と、供試品の振動検出値から算出される蓄積疲労値が目標蓄積疲労値となるように、振幅レベルに対する許容増幅率及び希望加振時間に基づいて試験用振動条件及び試験時間を決定する試験条件決定ステップ(S30)と、試験用振動条件及び試験時間に基づいて供試品を振動する振動付与ステップ(S40)とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動試験方法及び装置、並びに振動試験用プログラムに関し、より詳しくは、自動車、鉄道車両等の輸送手段により輸送される輸送品や、輸送手段など振動を伴う装置などに搭載される機器、部品等の振動耐久性を評価するための振動試験方法及び装置、並びに振動試験用プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両、鉄道、航空機等の輸送手段に搭載される貨物、機器等の輸送品等に対しては、事前に振動試験を行うことにより、その耐久性を評価することが従来から行われている。このような振動試験として、例えば特許文献1に開示されている方法が知られている。
【0003】
特許文献1に記載の振動試験方法は、実輸送時に車両等の輸送手段で発生する振動加速度、輸送時間、振動周波数などの輸送条件を予めデータベース化しておき、使用者が選択した輸送条件の振動加速度で振動試験機を作動させて輸送品に生じる振動加速度を計測し、この振動加速度から実輸送時に輸送品に蓄積される理論蓄積疲労値を算出する。そして、実輸送時の輸送条件における振動加速度から振動加速度を徐々に増大させ、各振動加速度の条件下で算出し総和した蓄積疲労値が理論蓄積疲労値に達するまで振動試験を行う。
【特許文献1】特開2005−181195号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した振動試験方法は、実輸送環境を振動試験条件に反映させつつ、振動試験を実際の輸送時間よりも短時間で終了させることが可能である。ところが、試験時間短縮の観点から供試品に付与する振動を増大させると、試験中に供試品が破損する危険性が高まるため、具体的な振動加速度及び振動時間の設定にはある程度の経験や熟練を必要としており、この点において更に改良の余地があった。
【0005】
そこで、本発明は、実環境に合致した振動試験を容易に高精度で行うことができる振動試験方法及び装置、並びに振動試験用プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の前記目的は、輸送品の振動耐久性を評価するための振動試験方法であって、実輸送の輸送条件に基づいて供試品の基準用振動条件を決定する試験仕様設定ステップと、前記基準用振動条件下における供試品の振幅レベル及び目標蓄積疲労値を算出する基準値取得ステップと、供試品の振動検出値から算出される蓄積疲労値が前記目標蓄積疲労値となるように、前記振幅レベルに対する許容増幅率及び希望加振時間に基づいて試験用振動条件及び試験時間を決定する試験条件決定ステップと、前記試験用振動条件及び試験時間に基づいて供試品を振動する振動付与ステップとを備える振動試験方法により達成される。この振動試験方法によれば、試験精度を高精度に維持しつつ、試験時間の短縮を図ることができる最適な試験条件下で、振動試験を容易に行うことができる。
【0007】
上述した振動試験方法において、前記試験仕様設定ステップは、少なくとも、輸送品毎の耐久性のばらつきに関する変動係数、実輸送で許容される輸送品の破損確率に関する許容破損確率、及び、前記許容破損確率と同等の破損確率を有する供試品の振動試験における破損確率に関する希望破損確率を用いて安全係数を算出し、実輸送の輸送条件に相当する蓄積疲労値に前記安全係数を乗じて前記目標蓄積疲労値を算出するステップを備えることができる。この振動試験方法によれば、実輸送の輸送条件よりも短時間で且つ供試品の数量を少なくしても、高い試験精度を維持することが可能であり、市場でのクレーム発生率の低下を図りつつ、過剰包装を防止してコスト削減を図ることができる。
【0008】
また、上述した振動試験方法において、前記基準値取得ステップは、実輸送の輸送経路が複数存在する場合に、前記目標蓄積疲労値を輸送経路毎に算出して求めるステップを備えることができる。この振動試験方法によれば、実輸送の輸送条件を正確に反映した振動試験を行うことができ、試験精度をより高めることができる。
【0009】
また、上述した振動試験方法において。前記振動付与ステップは、供試品の振動検出値に基づく指標の変化から供試品の破損の有無を判別するステップを備えることができる。この振動試験方法によれば、目視では確認し難い破損も検出することができ、振動試験に対する信頼性を高めることができる。
【0010】
また、本発明の前記目的は、供試品に振動を付与する加振手段と、前記加振手段の作動を制御する制御手段と、前記供試品の振動を検出する振動検出手段とを備える振動試験装置であって、前記制御手段は、ユーザからの指示を入力可能な入力部と、前記入力部から入力された実輸送の輸送条件に基づいて供試品の基準用振動条件を決定する試験仕様設定部と、前記基準用振動条件下における供試品の振幅レベル及び目標蓄積疲労値を算出する基準値取得部と、供試品の振動検出値から算出される蓄積疲労値が前記目標蓄積疲労値となるように、前記振幅レベルに対する許容増幅率及び希望加振時間に基づいて試験用振動条件及び試験時間を決定する試験条件決定部とを備え、前記試験用振動条件及び試験時間に基づいて、前記加振手段を作動させる振動試験装置により達成される。
【0011】
また、本発明の前記目的は、供試品に振動を付与する加振手段と、前記加振手段の作動を制御する制御手段と、前記供試品の振動を検出する振動検出手段とを備える振動試験装置において、前記制御手段を、ユーザからの指示を入力可能な入力部と、前記入力部から入力された実輸送の輸送条件に基づいて供試品の基準用振動条件を決定する試験仕様設定部と、前記基準用振動条件下における供試品の振幅レベル及び目標蓄積疲労値を算出する基準値取得部と、供試品の振動検出値から算出される蓄積疲労値が前記目標蓄積疲労値となるように、前記振幅レベルに対する許容増幅率及び希望加振時間に基づいて試験用振動条件及び試験時間を決定する試験条件決定部とを備えるものとして機能させ、前記試験用振動条件及び試験時間に基づいて、前記加振手段を作動させる振動試験用プログラムにより達成される。
【0012】
これらの振動試験装置及び振動試験用プログラムについても、上述した振動試験方法と同様、試験精度を高精度に維持しつつ、試験時間の短縮を図ることができる最適な試験条件下で、振動試験を容易に行うことができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、実環境に合致した振動試験を容易に高精度で行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実態形態について添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施形態にかかる振動試験装置の概略構成を示すブロック図である。
【0015】
図1に示すように、振動試験装置1は、供試品Pが載置される振動台2aを備える加振機2と、加振機2の作動を制御する制御手段10と、振動台2aの振動を検出する第1の加速度センサ4と、供試品Pの振動を検出する第2の加速度センサ6とを備えている。第1の加速度センサ4及び第2の加速度センサ6は、振動台2a及び供試品Pにそれぞれ取り付けられ、検出した振動加速度を制御手段10に出力する。供試品Pに取り付ける第2の加速度センサ6は、複数個を備えた構成として、供試品Pの複数箇所または多段積みされた各供試品Pに取り付け可能としてもよい。
【0016】
制御手段10は、表示部11、入力部12、CPU13、ROM14、RAM15およびメモリ部16を備えており、それぞれバス19を介して接続されている。この制御手段10は、A/D変換器17を介して第1の加速度センサ4及び第2の加速度センサ6に接続されると共に、D/A変換器18を介して加振機2に接続される。制御手段10は、例えばパーソナルコンピュータなどの情報処理装置により構成することができる。
【0017】
表示部11は、液晶モニタやCRTモニタなどから構成され、入力部12は、マウス、入力キー、タッチパネルなどから構成される。CPU13は、振動試験用プログラムを実行して加振機2の作動を制御し、後述するように供試品Pの振動試験を行う。ROM14は、各種の輸送経路に対応する輸送条件(実輸送時の振動加速度、輸送時間、振動周波数など)や、CPU13が実行する振動試験用プログラムなどを格納する。RAM15は、振動試験用プログラムの実行時に発生する一時的なデータを格納する。
【0018】
メモリ部16は、供試品Pに対して予め各種の輸送経路毎に計測された振動データ、輸送状態を再現する伝達関数、入力部12からの入力情報、第1の加速度センサ4及び第2の加速度センサ6の検出情報、CPU13による演算情報などの各種情報を格納する。
【0019】
次に、上述した振動試験装置1を用いた供試品Pの振動試験方法について説明する。本実施形態の振動試験方法の大まかな流れは、図2にフローチャートで示す通りである。まず、実輸送の輸送条件に基づいて、供試品Pの基準用振動条件を決定する試験仕様設定ステップを行い、実輸送状態を反映した振動条件を求める(ステップS10)。ついで、基準用振動条件下における供試品Pの振幅ピーク値及び目標蓄積疲労値を算出する基準値取得ステップを行い、本振動試験の試験条件の決定に用いる基準値を求める(ステップS20)。そして、供試品Pの振動検出値から算出される蓄積疲労値が目標蓄積疲労値となるように、振幅ピーク値に対する許容増幅率及び目標加振時間に基づいて試験用振動条件及び試験時間を決定する試験条件決定ステップを行い、本振動試験の試験条件を決定する(ステップS30)。この後、試験用振動条件及び試験時間に基づいて供試品Pを振動する振動付与ステップを行い、本振動試験を行う(ステップS40)。以下、ステップ毎に更に詳細に説明する。
【0020】
(1)試験仕様設定ステップ(ステップS10)
図3に示すフローチャートを適宜参照しながら、試験仕様設定ステップを説明する。
【0021】
まず、供試品Pを振動台2a上に載置する(ステップS11)。供試品Pとしては、精密機器などの内容物が、発泡材料、紙、木材等の緩衝材と共にダンボール等の容器に収納された輸送品を例示することができる。供試品Pの載置においては、実輸送の輸送状態を考慮して、振動伝達の非線形性に対応した試験を可能にすることが好ましく、例えば、実輸送において、輸送品が段積み状態(垂直方向に積み重ねられた状態)で輸送される場合には、振動台2a上に複数の供試品Pを段積みして振動試験を行うことができる。振動伝達の非線形性が生じるケースとしては、段積み状態での振動以外に、輸送品のがたつきや叩き合いによる振動、輸送品が液体等の流動体である場合の振動などを挙げることができる。
【0022】
ついで、ユーザから制御手段10の入力部12を介して実輸送経路の入力を促し、輸送経路全体の輸送条件を表す輸送シナリオを決定する(ステップS12)。CPU13は、例えば図4に示す試験仕様設定画面を表示部11に表示させ、ユーザが入力部11から「シナリオ選択/編集」ボタンを押下することにより、図5に示すシナリオ設定画面を表示部11に表示させる。
【0023】
図5に示すシナリオ設定画面においては、トラック、飛行機、船舶など種々の輸送手段に対して輸送条件(輸送距離、輸送時間、輸送路、オプションの有無など)が予め設定されたシナリオ名称が一覧表示されており、ユーザは、実輸送を考慮してシナリオ名称を選択する。例えば、ユーザが「3.国内トラック輸送」をマウス操作で選択して「読み込み」ボタンを押下すると、CPU13は、選択されたシナリオ名称の輸送条件をサブシナリオとして取り込み、メモリ部16に格納する。
【0024】
選択するシナリオ名称に対して輸送条件の修正が必要な場合は、図5に示すシナリオ設定画面において「編集」ボタンを押下することにより、CPU13は、図6に示す編集画面を表示部11に表示させる。ユーザは、この編集画面において、修正が必要な項目を選択して修正することができる。また、実輸送に対応するシナリオ名称が存在しない場合には、図5に示すシナリオ設定画面において「新規作成」ボタンを押下することにより、図6と同様の編集画面が表示され、新規なシナリオ名称(例えば、自転車、台車など)に対応する輸送条件を入力することができる。
【0025】
実輸送においては、単一の輸送手段のみにより輸送されるケースは少なく、複数の輸送手段を乗り継いで輸送されるのが一般的である。そこで、CPU13は、選択されたシナリオ名称を読み込んだ後、再び図5に示すシナリオ設定画面において、他のシナリオ名称を選択可能に表示する。ユーザから複数のシナリオ名称の選択があった場合には、CPU13は、それらの相互関係に関する情報の入力もユーザに促して、最終的には各サブシナリオから構成される全体の輸送シナリオのマクロ式を作成する。例えば、輸送シナリオが、図7に示すように、サブシナリオa1〜a5によって構成される場合、輸送シナリオは、{a1 and (a2 or a3) and a4} or a5 と表される。
【0026】
次に、CPU13は、決定した輸送シナリオに基づきメモリ部16を検索することにより、輸送シナリオの各サブシナリオに対応する振動データを取得して、これらを組み合わせることにより、全体の輸送シナリオに対応する振動データを生成し、実輸送の輸送条件に基づく基準用振動条件を決定する(ステップS13)。
【0027】
メモリ部16に格納されている振動データは、例えば図5に示すシナリオ設定画面に表示された各シナリオ名称の輸送条件で、実輸送時における輸送品の載置面(例えば、トラックの荷台など)の振動加速度を、振動記録計により実際に計測することにより得られる。本実施形態においては、一定時間の実波形データ(時系列データ)をフーリエ変換したパワースペクトル密度(Power Spectral Density、以下「PSD」という)を、振動データとしてメモリ部16に格納しているが、試験精度を向上させる観点から、実波形データ(時系列データ)をそのまま振動データとしてもよい。また、実波形データ(時系列データ)に対してデータ処理を施すことにより、振動データを取得することもできる。このようなデータ処理方法としては、極大値/極小値法、最大値/最小値法、振幅法、レベルクロッシング法、レインフロー法、2次元レインフロー法など、疲労評価方法として公知の頻度解析処理を例示することができる。
【0028】
また、CPU13は、図4に示す試験仕様設定画面において、ユーザに変動係数、許容破損確率、及び希望破損確率の入力を促し、ユーザから入力部12を介して入力されたこれらの情報に基づいて、安全係数を算出する(ステップS14)。
【0029】
変動係数は、輸送品毎の耐久性のばらつきを表す指標であり、例えば、ユーザが大、中、小の3段階から選択することにより、変動係数が120%、60%、30%のいずれかに設定される。変動係数の入力においては、各種の輸送品(例えば、ディスプレイ、DVD、バッグインボックスなど)に対応する変動係数を予め測定してメモリ部16に格納しておき、ユーザが輸送品の種類を選択することにより、対応する変動係数を読み出して設定するようにしてもよい。
【0030】
許容破損確率は、実輸送で許容される輸送品の破損確率を表す指標であり、輸送品が高価な場合や破損時に危険性を伴う場合は小さい値に設定する一方、輸送品が安価な場合やすぐに代替可能な場合は大きい値に設定する。
【0031】
希望破損確率は、供試品Pの破損確率が上述した許容破損確率と同等である場合に、供試品Pが振動試験によって破損する確率を表す指標であり、供試品Pの数量が多い場合には、小さい値に設定できる一方、供試品Pの数量が少ない場合には、大きい値に設定する。
【0032】
本実施形態の振動試験方法は、実輸送の輸送条件よりも短時間で且つ供試品の数量を少なくしても高い試験精度を維持できるようにするため、実輸送の輸送条件に相当する蓄積疲労値xRに安全係数Sを乗じて目標蓄積疲労値xTを算出し(すなわちxT=S×xR)、この目標蓄積疲労値xTを供試品に付与するものであり、これによって、最適な条件下で振動試験を行うことができ、市場でのクレーム発生率の低下を図りつつ、過剰包装を防止してコスト削減などを図ることができる。
【0033】
輸送品の耐久性の確率分布をワイブル分布と仮定すると、入力された変動係数η、許容破損確率PM、及び希望破損確率PTは、それぞれ以下の数式1から3で表される。ここで、α及びβは、それぞれワイブル分布のパラメータである形状母数及び尺度母数である。
[数1]
η =[{Γ(1+(2/α))/{Γ(1+(1/α))}2 } − 1]1/2 (1)
[数2]
PM = 1−exp { −( xR/β)α } (2)
[数3]
PT = 1−exp { −( xT/β)α} (3)
【0034】
CPU13は、以上の数式を用いて、入力された変動係数η、許容破損確率PM、及び希望破損確率PTから安全係数Sを算出し、図4の試験仕様設定画面に表示する。なお、このような安全係数の求め方は、本実施形態のように、振動試験で加える目標蓄積疲労値の算出だけでなく、テーラリング手法による振動試験条件の導出や、(落下)衝撃試験、繰り返し衝撃試験などの試験条件の導出にも応用することができる。その結果、これらの試験においても、市場で想定される負荷レベルだけでなく、製品の安全保証水準(市場許容破損確率)、製品のばらつき、試料数などを、試験条件に反映させることができる。
【0035】
図4の試験仕様設定画面においては、更に供試品Pの試料数Nも入力可能であり、CPU13は、入力された希望破損確率PT及び試料数Nに基づいて、危険率Dを算出して表示する。危険率とは、輸送品が許容破損確率PMを満たさないにも拘わらず、振動試験を行った全ての供試品Pが破損せずに合格してしまう確率をいい、以下の数式4で表される。
[数4]
D=(1−PTN (4)
【0036】
本実施形態においては、希望破損確率PT及び試料数Nの入力に基づいて危険率Dを算出しているが、危険率Dの好ましい値を予め設定した場合には、数式4から明らかなように、試料数Nの入力により許容破損確率PMを算出することができる。すなわち、試料数Nの入力を希望破損確率PTの入力とみなして、安全係数Sを算出することも可能である。
【0037】
以上の安全係数の算出は、本実施形態のように試験仕様設定ステップ(ステップS10)で行う代わりに、後述する基準値取得ステップ(ステップS20)で行うこともできる。
【0038】
(2)基準値取得ステップ(ステップS20)
図8に示すフローチャートを適宜参照しながら、基準値取得ステップを説明する。
【0039】
ユーザは、本試験において非線形性を考慮するか否かを選択する(ステップS21)。この選択は、CPU13が表示部11に表示する図9に示す予備試験設定画面において行うことができる。予備試験設定画面において、ユーザが「非線形性を考慮しない」の欄をクリックすると、CPU13は、実輸送における供試品Pの振動データが、試験仕様設定ステップ(ステップS10)で生成した基準用振動条件と同一であるとして、実輸送における輸送品の蓄積疲労値を算出すると共に、振幅ピーク値を求める(ステップS22)。
【0040】
本実施形態においては、輸送品の振幅レベルを代表する指標として、振幅ピーク値を使用しているが、これに限定されるものではなく、例えば、二乗平均平方根(RMS)などを振幅レベルの指標として用いることもできる。
【0041】
一方、ユーザが非線形性を考慮する場合、輸送状態を再現するか否かをユーザが選択する(ステップS23)。図9に示す予備試験設定画面においては、振動伝達の非線形性が生じる輸送状態の一例として、段積み状態に関する入力が可能となっており、実輸送において段積みをしない場合や、段積みの影響を無視できるとユーザが判断した場合は、振動台2aに供試品Pを段積みせずに載置し、「段積み試験を実施しない」の欄をクリックする。これにより、CPU13は、ステップS21で生成した輸送シナリオに対応する振動データに基づき振動機2の作動を制御して、供試品Pを段積みしない状態での予備試験を行う(ステップS24)。そして、予備試験における、供試品Pに取り付けられた第2の加速度センサ6の検出に基づいて、実輸送における輸送品の蓄積疲労値を算出すると共に、振幅ピーク値を求める(ステップS22)。
【0042】
ステップS23において、輸送状態を再現する場合には、ユーザは、更に、非線形性を表す伝達関数を、予め設定されたものから選択するか、実際に計測して取得するかを選択する(ステップS25)。段積み状態を再現する伝達関数を、予め設定された各種伝達関数から選択する場合、図9の予備試験設定画面で「段積み状態再現伝達関数を選択する」の欄をクリックして、メモリ部16に格納された段積み状態再現伝達関数の名称を入力することにより、段積み状態を再現するための伝達関数を選択する(ステップS26)。この場合は、振動台2aでは供試品Pの段積みを行わずに、試験仕様設定ステップ(ステップS10)で生成した基準用振動条件及び選択された伝達関数に基づいて、CPU13が振動機2の作動を制御することにより、供試品Pの段積み状態を再現する予備試験を行うことができる(ステップS27)。そして、予備試験における、供試品Pに取り付けられた第2の加速度センサ6の検出に基づいて、実輸送における輸送品の蓄積疲労値を算出すると共に、振幅ピーク値を求める(ステップS22)。
【0043】
ステップS25において、ユーザが実際に計測することを選択した場合、振動台2aに供試品Pを段積みし、図9の予備試験設定画面では「段積み状態再現伝達関数を取得する」の欄をクリックして、試験仕様設定ステップ(ステップS10)で生成した基準用振動条件に基づきCPU13が振動機2の作動を制御することにより、供試品Pを実際に段積みした状態での予備試験を行う(ステップS28)。そして、予備試験における、供試品Pに取り付けられた第2の加速度センサ6の検出に基づいて、実輸送における輸送品の蓄積疲労値を算出すると共に、振幅ピーク値を求める(ステップS22)。このとき、CPU13は、第2の加速度センサ6の検出データから、段積み状態を再現する伝達関数を取得して、メモリ部26に格納することができる。
【0044】
ステップS22における蓄積疲労値の算出方法の一例として、本実施形態においては、供試品Pに取り付けられた第2の加速度センサ6が検出する一定期間の時系列データに基づいてPSDを求め、このPSDから蓄積疲労値を算出している。PSDからの蓄積疲労値の算出は、例えば、特開2005−181195号公報に開示された方法で行うことができる。
【0045】
蓄積疲労値の算出においては、サブシナリオ毎に算出した蓄積疲労値を用いて、全体の輸送シナリオに対応する蓄積疲労値を算出する。例えば、図7に示す輸送シナリオの場合、サブシナリオa1〜a5に対応する蓄積疲労値をそれぞれA1〜A5とすると、実輸送における輸送品の蓄積疲労値は、max[ sum{A1 , max(A2 , A3 ), A4}, A5](max:最大値、sum:総和)となる。
【0046】
実輸送の蓄積疲労値は、上述の方法で求めたxRに対し、市場で想定される蓄積疲労値のばらつきを更に考慮して、算出することもできる。例えば、3σ(99.87%)の信頼性を有する蓄積疲労値をXRとすると、XR= (1 + 3ηXR) μXRである。ただし、ηは変動係数であり、μXRは蓄積疲労値の平均値である。
【0047】
こうして、ステップS22において実輸送における輸送品の蓄積疲労値を算出した後、ステップS14で算出した安全係数を乗じることにより、目標蓄積疲労値を算出する(ステップS29)。
【0048】
また、ステップS22の振幅ピーク値の取得においては、各サブシナリオにおける輸送品の振幅ピーク値の最大値を、全体の輸送シナリオにおける振幅ピーク値とすることができる。
【0049】
(3)試験条件決定ステップ(ステップS30)
図10に示すフローチャートを適宜参照しながら、試験条件決定ステップを説明する。
【0050】
ユーザは、本試験における希望加振時間及び許容増幅率を入力する(ステップS31)。この入力は、CPU13が表示部11に表示する図11に示す本試験設定画面において行うことができる。また、本試験設定画面においては、希望加振時間及び許容増幅率の両立が不可能な場合に、どちらを優先させるかを選択して、優先順位付けを行うことができる(ステップS32)。
【0051】
希望加振時間は、ユーザが本試験において希望する供試品Pの加振時間であり、許容増幅率は、実振動における輸送品の振幅ピーク値に対して許容する最大増幅率である。一般には、希望加振時間を短くすると、本試験が短時間で終了するために試験効率が向上する一方、輸送品の振幅ピーク値の増幅率を大きくせざるを得ず、許容増幅率を超える可能性が高まる。また、増幅率が大きくなることで、実振動の振動レベルと本試験の振動レベルとが乖離して、試験精度が低下するおそれが生じる。
【0052】
CPU13は、入力された希望加振時間及び許容増幅率、並びに優先順位に基づいて、実際に本試験を行う場合の試験用振動条件及び試験時間を決定する(ステップS33)。具体的には、供試品Pの振動を検出する第2の加速度センサ6加速度検出データから求めたPSDの値(PSD)から、供試品Pの蓄積疲労速度V(xT)を、以下の数式5により算出する。
【数5】

【0053】
そして、振動数帯域毎の目標蓄積疲労xT(fi)を希望加振時間Tで除したものを目標蓄積疲労速度(xT(fi)/T)と定義し、上記の蓄積疲労速度が目標蓄積疲労速度となるように、且つ、第2の加速度センサ6が検出する振幅ピーク値が許容増幅率を上回らないように、CPU13が加振機2の作動を制御する。この結果、希望加振時間Tで試験を終了することができる。なお、加振機2の作動制御においては、加振機2の定格を超えないように安全機能を持たせることが好ましい。
【0054】
供試品Pの蓄積疲労速度の算出に用いる検出データは、振動伝達の非線形性を考慮しない場合には、振動台2aに取り付けられた第1の加速度センサ4の検出データを用いてもよい。また、複数の第2の加速度センサ6が、多段に段積みされた供試品Pのそれぞれに取り付けられる場合には、最も遅い蓄積疲労速度が目標蓄積疲労速度となるように、加振機2の作動を制御することが好ましく、これによって、希望加振時間T内での試験終了を達成することができる。
【0055】
このように、入力された希望加振時間及び許容増幅率の両立が可能な場合には、希望加振時間をそのまま試験時間として設定すると共に、上述したCPU13による加振機2の作動制御パターンを、試験用振動条件として設定する。
【0056】
これに対し、CPU13による加振機2の作動制御中に、第2の加速度センサ6が検出する振幅ピーク値が許容増幅率を上回った場合、CPU13は、本試験設定画面で入力された優先順位を把握し、希望加振時間が優先されている場合には、そのまま加振機2の作動制御を続行し、実際の振幅増幅率を表示部11に表示する。一方、許容増幅率が優先されている場合には、検出する振幅ピーク値が許容増幅率以下となるように加振機2の作動を制御し、この場合の蓄積疲労速度から算出される試験時間を表示部11に表示する。
【0057】
このように、入力された希望加振時間及び許容増幅率の両立が不可能な場合には、優先順位に基づいていずれか一方の条件を満たすようにし、その場合の他方の修正値を表示部11に表示する。ユーザは、この修正値を確認して問題がなければ、入力部12の操作でこれを了承することにより、本試験における試験用振動条件及び試験時間が最終的に決定される。こうして、試験精度を高精度に維持しつつ、試験時間の短縮を図ることができる最適な試験条件を得ることができる。
【0058】
許容増幅率が優先されている場合、検出する振幅ピーク値が許容増幅率を上回ると、CPU13は、目標蓄積疲労速度を下げて、加振機2の作動を制御する。但し、目標蓄積疲労速度を下げたままにすると、試験時間が長時間になるため、検出する振幅ピーク値のレベルが小さくなれば、再び目標蓄積疲労速度を上げるような制御を行うことが好ましい。
【0059】
(4)振動付与ステップ(ステップS40)
図12に示すフローチャートを適宜参照しながら、振動付与ステップを説明する。
【0060】
供試品Pを振動台2aに載置した後、決定された試験用振動条件及び試験時間に基づいて、本振動試験を開始する(ステップS41)。供試品Pが、例えば段積み状態で輸送される場合には、本振動試験においても、供試品Pを段積みした状態で試験することができる。
【0061】
第2の加速度センサ6(第1の加速度センサ4で代用できる場合は、第1の加速度センサ4でも可)は、本振動試験中の供試品Pの振動加速度を検出し、CPU13は、この検出に基づいて、上記数式5により供試品Pの蓄積疲労速度をリアルタイムに算出する。そして、蓄積疲労速度の変化量に基づいて、供試品の破損の有無を判別する(ステップS42)。例えば、蓄積疲労速度の変化量が閾値を超えた場合、CPU13は、供試品Pに破損が生じたと判断して、表示部11に警告表示を行うと共に、その時点までの経過時間、蓄積疲労値、その時点の前後における蓄積疲労速度、PSDなどを算出して、これを破損情報としてメモリ部16に格納する(ステップS43)。そして、一定時間の経過後に振動試験を終了する。
【0062】
これに対し、ステップS42において、供試品に破損が生じていないと判断した場合、ステップS44に移行し、試験終了時間となった場合には、振動試験を終了する一方、まだ試験終了時間でない場合には、ステップS42以降を繰り返す。
【0063】
図13は、本振動試験における蓄積疲労速度の時系列変化の一例を示す図である。試験開始から230秒付近で蓄積疲労速度が急激な増加を示しており、この時点で何らかの破損が生じていることが推測される。このように、蓄積疲労速度の変化量に基づいて供試品Pの破損の有無を判別する方法は、目視では確認できない微細な破損や供試品内部の破損なども発見することが可能であり、メモリ部16に蓄積したデータを解析することで、振動耐久性の評価や改良に利用することができる。
【0064】
本実施形態においては、供試品Pの破損の有無を、蓄積疲労速度の変化量に基づいて判別しているが、供試品の振動検出値に基づく振動伝達系の指標であれば他の指標を用いることも可能であり、例えば、PSD値やRMS値などの変化量に基づいて、供試品Pの破損の有無を判別することもできる。また、これらの指標の変化量ではなく、変化率に基づいて破損の有無を判別することもできる。
【0065】
また、本実施形態においては、供試品が輸送品である場合について説明したが、輸送手段など振動を伴う装置などに搭載される機器や部品に対しても、本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の一実施形態にかかる振動試験装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】本実施形態の振動試験方法の概要を説明するためのフローチャートである。
【図3】試験仕様設定ステップを説明するためのフローチャートである。
【図4】試験仕様設定画面の一例を示す図である。
【図5】シナリオ設定画面の一例を示す図である。
【図6】編集画面の一例を示す図である。
【図7】輸送シナリオの一例を模式的に示す図である。
【図8】基準値取得ステップを説明するためのフローチャートである。
【図9】予備試験設定画面の一例を示す図である。
【図10】試験条件決定ステップを説明するためのフローチャートである。
【図11】本試験設定画面の一例を示す図である。
【図12】振動付与ステップを説明するためのフローチャートである。
【図13】本振動試験における蓄積疲労速度の時系列変化の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0067】
1 振動試験装置
2 加振機
4 第1の加速度センサ
6 第2の加速度センサ
10 制御手段
11 表示部
12 入力部
13 CPU
14 ROM
15 RAM
16 メモリ部
P 供試品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
供試品の振動耐久性を評価するための振動試験方法であって、
実輸送の輸送条件に基づいて供試品の基準用振動条件を決定する試験仕様設定ステップと、
前記基準用振動条件下における供試品の振幅レベル及び目標蓄積疲労値を算出する基準値取得ステップと、
供試品の振動検出値から算出される蓄積疲労値が前記目標蓄積疲労値となるように、前記振幅レベルに対する許容増幅率及び希望加振時間に基づいて試験用振動条件及び試験時間を決定する試験条件決定ステップと、
前記試験用振動条件及び試験時間に基づいて供試品を振動する振動付与ステップとを備える振動試験方法。
【請求項2】
前記試験仕様設定ステップは、少なくとも、供試品毎の耐久性のばらつきに関する変動係数、実輸送で許容される供試品の破損確率に関する許容破損確率、及び、前記許容破損確率と同等の破損確率を有する供試品の振動試験における破損確率に関する希望破損確率を用いて安全係数を算出し、実輸送の輸送条件に相当する蓄積疲労値に前記安全係数を乗じて前記目標蓄積疲労値を算出するステップを備える請求項1に記載の振動試験方法。
【請求項3】
前記基準値取得ステップは、実輸送の輸送経路が複数存在する場合に、前記目標蓄積疲労値を輸送経路毎に算出して求めるステップを備える請求項1または2に記載の振動試験方法。
【請求項4】
前記振動付与ステップは、供試品の振動検出値に基づく指標の変化から供試品の破損の有無を判別するステップを備える請求項1から3のいずれかに記載の振動試験方法。
【請求項5】
供試品に振動を付与する加振手段と、前記加振手段の作動を制御する制御手段と、前記供試品の振動を検出する振動検出手段とを備える振動試験装置であって、
前記制御手段は、
ユーザからの指示を入力可能な入力部と、
前記入力部から入力された実輸送の輸送条件に基づいて供試品の基準用振動条件を決定する試験仕様設定部と、
前記基準用振動条件下における供試品の振幅レベル及び目標蓄積疲労値を算出する基準値取得部と、
供試品の振動検出値から算出される蓄積疲労値が前記目標蓄積疲労値となるように、前記振幅レベルに対する許容増幅率及び希望加振時間に基づいて試験用振動条件及び試験時間を決定する試験条件決定部とを備え、
前記試験用振動条件及び試験時間に基づいて、前記加振手段を作動させる振動試験装置。
【請求項6】
供試品に振動を付与する加振手段と、前記加振手段の作動を制御する制御手段と、前記供試品の振動を検出する振動検出手段とを備える振動試験装置において、
前記制御手段を、
ユーザからの指示を入力可能な入力部と、
前記入力部から入力された実輸送の輸送条件に基づいて供試品の基準用振動条件を決定する試験仕様設定部と、
前記基準用振動条件下における供試品の振幅レベル及び目標蓄積疲労値を算出する基準値取得部と、
供試品の振動検出値から算出される蓄積疲労値が前記目標蓄積疲労値となるように、前記振幅レベルに対する許容増幅率及び希望加振時間に基づいて試験用振動条件及び試験時間を決定する試験条件決定部とを備えるものとして機能させ、
前記試験用振動条件及び試験時間に基づいて、前記加振手段を作動させる振動試験用プログラム。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2007−286016(P2007−286016A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−116890(P2006−116890)
【出願日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【出願人】(000205627)大阪府 (238)
【出願人】(000100676)IMV株式会社 (17)