説明

振動試験装置及び振動試験方法

【課題】複数の制御量による影響が等しく反映されるドライブ波形による振動試験を可能とする振動試験装置の提供
【解決手段】振動試験装置1は、測定した変位及び加速度に関する伝達特性に基づき、周波数重み特性を決定する(S703)。周波数重み特性の決定の際は、変位及び加速度の伝達関数の対角成分の周波数−ゲイン曲線について、各周波帯域における変位のゲインと加速度のゲインとの差が小さくなるように調整する。このとき、それぞれの周波数−ゲイン曲線について、振幅値が大きい上位数ラインの平均値を算出し、その平均値を合わせるように調整することによって、加速度に対するスケーリング係数w、変位に対するスケーリング係数wを設定し、周波数重み特性を決定する。振動試験装置1は、周波数重み特性及び伝達特性に基づき、逆伝達特性を算出する(S705)。振動試験装置1は、算出した逆伝達特性を用いてドライブ波形を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試験物を加振する振動試験装置に関し、特に、複数の制御量を用いて振動試験を行うものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の振動試験装置を図8を用いて説明する。振動試験装置1100は、多変量の制御を行うために、複数のコントローラ(適応制御を適用した2自由度系制御装置)を設けている。振動試験装置1100は、低周波領域で有効である変位制御コントローラ1131、中周波領域で有効である速度制御コントローラ1132及び高周波領域で有効である加速度制御コントローラ1133から構成される。これらのコントローラ1131〜1133は、各自が有効である領域以外の領域では出力を行わないように予め定められている。例えば、変位制御コントローラは低周波領域では制御を行うが、中周波、高周波領域では出力を行わない。
【0003】
図8の目標波形r1、r2及びr3は、それぞれ同じ目標波形rを異なる物理量で表したもの(r1は変位、r2は速度、r3は加速度)である。また、試験体115に変位センサ1121、速度センサ1122及び加速度センサ1123を取り付けて、各コントローラ1131〜1133に試験体115の変位制御応答信号y1、速度制御応答信号y2及び加速度制御応答信号y3をフィードバックする。
【0004】
変位制御コントローラ1131は目標波形r1とフィードバック量y1から操作量x1を出力し、速度制御コントローラ1132は目標波形r2とフィードバック量y2から操作量x2を出力し、加速度制御コントローラ1133は目標波形r3とフィードバック量y3から操作量x3を出力する。そして、低周波領域では操作量x1、中周波領域では操作量x2及び高周波領域では操作量x3がそれぞれ駆動信号uとなる。
【0005】
従って、このシステムによれば、同時に広い周波数帯域で精度の良い制御を行うことができる。
【0006】
【特許文献1】特開2001−133357
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述の振動試験装置1100には、以下に示すような改善すべき点がある。振動試験装置1100は複数の制御量を周波数帯域に分けて制御を行っているが、制御量毎の伝達関数の特性を調整しているわけではない。制御量毎の伝達関数の特性は、振動試験装置1100において現れる各制御量が示す物理量の特性や、各制御量に対応して用いるセンサの特性等に影響されるが、振動試験装置1100では、このような制御量毎の伝達関数の特性を考慮していない。このため、全ての周波数帯域で安定した制御ができない場合がある、という問題があった。
【0008】
そこで、本発明は、複数の制御量による影響が等しく反映されるドライブ波形による振動試験を行うことができる振動試験装置を提供することを目的とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に関する課題を解決するための手段および発明の効果を以下に示す。
【0010】
本発明に係る振動試験装置、振動試験方法、及びドライブ波形生成方法では、前記状態量に基づき前記ドライブ波形を生成する際に、前記制御量のそれぞれに関する伝達関数を調整し、調整した伝達関数の逆関数を用いてドライブ波形を生成する。
【0011】
これにより、ドライブ波形を生成する際に、いずれかの制御量に関する伝達関数による影響が大きくなることを防止することができる。
【0012】
本発明に係る振動試験装置では、前記制御量のそれぞれに関する伝達関数のゲインを周波数領域に応じて調整して、前記ドライブ波形を生成する。
【0013】
これにより、ドライブ波形を生成する際に、いくつかの周波数領域に分けて、いずれかの制御量に関する伝達関数による影響が大きくなることを防止することができる。
【0014】
本発明に係る振動試験装置では、前記制御量のそれぞれに関する伝達関数のゲインの差が小さくなるように調整する。
【0015】
これにより、ドライブ波形を生成する際に、全ての制御量に関する伝達関数による影響を等しくすることができる。
【0016】
本発明に係る振動試験装置では、前記試験体載置部についての変位及び加速度を状態量として獲得する。
【0017】
これにより、ドライブ波形を生成する際に、いずれかの制御量に関する伝達関数による影響が大きくなることを容易に防止することができる。
【0018】
本発明に係る振動試験装置では、低周波領域において前記変位についての伝達関数のゲインを大きくするように調整し、高周波領域において前記加速度についての伝達関数のゲインを大きくするように調整することによって、それぞれに関する伝達関数のゲインの差が小さくなるように調整する。
【0019】
これにより、ドライブ波形を生成する際に、変位及び加速度に関する伝達関数による影響を等しくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明における振動試験装置の実施例を以下において説明する。
【実施例1】
【0021】
1. 振動試験装置1の構成
簡略化した振動試験装置1の全体構成を図1に示す。振動試験装置1は、振動発生機111、変位センサ131、及び加速度センサ133を有している。
【0022】
図1における振動発生機111の構成を図2に示す。振動発生機111は、主に試験体載置部121、励磁コイル123、駆動コイル125、可動部支持機構127、及び励磁電源129(図示せず)から構成される。
【0023】
励磁電源129を用いて励磁コイル123に励磁電流を流すことによって、磁界が生じる。この磁界中に存在する駆動コイル125に駆動電流を流すと、加振力が発生する。加振力は試験体載置部121を所定の方向へ振動させる。試験体載置部121には試験体(図示せず)が取り付けられており、試験体載置部121が振動することによって試験体も振動する。
【0024】
図1に戻って、変位センサ131は、所定の軸に沿った試験体載置部121の変位量を検出する。加速度センサ133は、試験体載置部121に生ずる加速度を検出する。
【0025】
制御部141をCPU411を用いて実現した場合のハードウェア構成を図3に示す。制御部141は、CPU411、メモリ412、ハードディスク413、ディスプレイ416、CD−ROMドライブ417、D/A変換回路418及びA/D変換回路419を有している。
【0026】
CPU411は、ハードディスク413に記録されているオペレーティング・システム(OS)、ドライブ波形生成プログラム等その他のアプリケーションに基づいた処理を行う。メモリ412は、CPU211に対して作業領域を提供する。ハードディスク413は、オペレーティング・システム(OS)、ドライブ波形生成プログラム等その他のアプリケーション、及び各種のパラメータを記録保持する。
【0027】
ディスプレイ416は、ユーザインターフェイス等を表示する。CD−ROMドライブ417は、CD−ROM410からドライブ波形生成プログラム等、CD−ROMからのデータの読み取りを行う。A/D変換回路418は、アナログ信号をデジタル信号へ変換する。D/A変換回路419は、デジタル信号をアナログ信号へ変換する。
【0028】
2. 制御部141の動作
ドライブ波形生成プログラムに基づく制御部141の動作について図4を用いて説明する。制御部141のCPU411は、試験体検査装置1の電源が入ると、スケーリング処理を実行する(S401)。CPU411は、メモリ412へ記憶されている各パラメータを取得する(S403)。CPU411は、CD−ROMドライブ417を介してCD−ROM410から目標波形を獲得すると(S405)、ステップS403で取得したパラメータを用いてドライブ波形を生成する(S407)。CPU411は、生成したドライブ波形をD/A変換回路418を介して振動発生機111へ出力する(S409)。
【0029】
CPU411は、ドライブ波形をD/A変換回路418を介して振動発生機111へ出力し、振動発生機111の動作させる(S411)。
【0030】
以下において、ステップS401におけるスケーリング処理について説明する。
【0031】
2.1. スケーリング処理
2.1.1. スケーリング処理の概要
CPU411が実行するスケーリング処理の概要について説明する。変位センサ131から取得する変位量及び加速度センサ133から取得する加速度を用いて、試験体の振動状態を制御する場合、試験体に関する伝達特性は、以下の式(1)で表すことができる。
【0032】
【数1】

【0033】
ここで、yaccは加速度センサ133の値(加速度応答)を、ydispは変位センサ131の値(変位応答)を、xdrvはドライブ波形を、Gは伝達特性を、Gaccは加速度の伝達特性を、Gdispは変位の伝達特性を、それぞれ示す。また、記号*は、たたみ込み演算を示す。
【0034】
また、ある周波数における伝達特性Gは、以下の式(2)で表すことができる。
【0035】
【数2】

【0036】
振動試験装置1に関する式(1)に示す伝達特性の対角成分の一例を図5に示す。図5に示すように、ほとんどの周波数帯域において変位に基づく伝達特性が支配的となり、5Hz近傍から高周波の帯域で加速度に基づく伝達特性が支配的となる。但し、変位に基づく伝達特性が支配的となる低周波帯域における変位のゲインに比して、加速度に基づく伝達特性が支配的となる高周波帯域における加速度のゲインが小さい。このため、変位に対してはよい制御結果を得られるが、加速度に対しては,変位ほどよい制御結果が得られない。
【0037】
そこで、変位に対しても、加速度に対してもよい制御結果を得るために、低周波帯域における変位のゲインと高周波帯域における加速度のゲインとの差を小さくする。図5に示す伝達特性の対角成分について、低周波帯域における変位のゲインと高周波帯域における加速度のゲインとの差を小さくすることによって得られる伝達特性の対角成分の一例を図6に示す。
【0038】
このように、低周波帯域における変位のゲインと高周波帯域における加速度のゲインとの差を小さくし、加速度及び変位を均等にドライブ波形に反映するために、式(2)における伝達関数Gを以下の式(3)に示す周波数重み特性wによって調整する。
【0039】
【数3】

【0040】
ここで、wは加速度に対するスケーリング係数を、wは変位に対するスケーリング係数を、それぞれ示す。ここで、周波数重み特性wは、対角行列となる。
【0041】
式(3)に示す周波数重み特性を考慮した式(1)に関する逆伝達特性は、以下の式(4)となる。
【0042】
【数4】

【0043】
ここで、Fは、関数Fの一般化逆行列を示す。
【0044】
式(4)により算出した逆伝達特性を用いて、ドライブ波形を以下の式(5)により算出する。
【0045】
【数5】

【0046】
ここで、raccは目標加速度を、rdispは目標変位を、xdrvはドライブ波形を、それぞれ示す。
【0047】
2.1.2. フローチャート
CPU411が実行するスケーリング処理を図7に示すフローチャートを用いて説明する。CPU411は、振動試験装置の伝達特性を測定する(S701)。なお、伝達特性の測定においては、変位センサ131から変位を、加速度センサ133から加速度を、それぞれ取得する。
【0048】
CPU411は、測定した変位及び加速度に関する伝達特性に基づき、式(3)に示す周波数重み特性を決定する(S703)。ここでは、変位、加速度、それぞれの伝達関数の対角成分を用いて、低周波帯域における変位のゲインと高周波帯域における加速度のゲインとの差が小さくなるように、加速度に対するスケーリング係数w、変位に対するスケーリング係数wを算出し、周波数重み特性を決定する。周波数重み特性の決定に当たっては、CPU411は、変位、加速度、それぞれの伝達関数の対角成分の周波数−ゲイン曲線について、各周波帯域における変位のゲインと加速度のゲインとの差が小さくなるように調整する。このとき、例えば、CPU411は、それぞれの伝達関数の対角成分の周波数−ゲイン曲線について、振幅値が大きい上位数ラインの平均値を算出し、それぞれの平均値を合わせるように調整する。そして、CPU411は、平均値の調整に基づいて、加速度に対するスケーリング係数w、変位に対するスケーリング係数wを設定し、周波数重み特性を決定する。
【0049】
CPU411は、決定した周波数重み特性及び測定した伝達特性に基づき、式(4)を用いて逆伝達特性を算出する(S705)。CPU411は、算出した逆伝達特性をメモリ412へ記憶する(S707)。
【0050】
[その他の実施例]
(1)周波数重み特性の決定
前述の実施例1においては、周波数重み特性を決定するにあたって、CPU411は、加速度に対するスケーリング係数w、変位に対するスケーリング係数wを設定し、周波数重み特性を決定することとしたが、周波数重み特性を決定できるものであれば、例示のものに限定されない。例えば、周波数重み特性の決定に当たっては、変位、加速度、それぞれの伝達関数の対角成分の周波数−ゲイン曲線をディスプレイ上に表示し、ユーザーが確認しながら、各周波帯域における変位のゲインと加速度のゲインとの差が小さくなるように調整し、CPU411は、ユーザによる調整に基づいて、加速度に対するスケーリング係数w、変位に対するスケーリング係数wを設定し、周波数重み特性を決定するようにしてもよい。
【0051】
また、各伝達関数の最大特異値が、周波数に対してフラットになるようにゲインを調整する作業を、ユーザーがディスプレイ上に表示された周波数−ゲイン曲線を確認しながら行い、周波数重み特性を決定するようにしてもよい。
【0052】
さらに、各伝達関数のオーバーオール値が等しくなるようにゲインを調整する作業を、CPU411が自動的に行い、周波数重み特性を決定するようにしてもよい。
【0053】
なお、周波数重み特性wは、周波数を通して一定値に決定するようにしてもよく、また、周波数毎に設定するようにしてもよい。
【0054】
(2)変位センサ131、加速度センサ133
前述の実施例1においては、被制御系の状態量として、試験体載置部121の変位量及び加速度値を例示したが、取得できる状態量であれば他の状態量であってもよい。
【0055】
また、前述の実施例1においては、変位については低周波帯域で支配的とし、加速度については高周波帯域で支配的としたが、周波数領域に応じて各制御量の伝達関数を調整するものであれば例示のものに限定されない。
【0056】
(3)ドライブ波形生成処理
前述の実施例1においては、ドライブ波形の修正にあたりドライブ補正項を用いることとしたが、他の方法によりドライブ波形を修正するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明における振動試験装置1の全体構成図である。
【図2】振動発生機111の構成図である。
【図3】制御部141をCPU411を用いて実現した場合のハードウェア構成図である。
【図4】制御部141の動作を示すフローチャートである。
【図5】伝達特性の対角成分を示す周波数特性図である。
【図6】調整した伝達特性の対角成分を示す周波数特性図である。
【図7】スケーリング処理を示すフローチャートである。
【図8】従来の振動試験装置を示す図である。
【符号の説明】
【0058】
1・・・振動試験装置
11・・・試験体
121・・・試験体載置部
131・・・変位センサ
133・・・加速度センサ
141・・・制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験体を載置する試験体載置部、
前記試験体載置部を加振する加振部、
試験体を加振するためのドライブ波形を生成するドライブ波形生成部、
前記ドライブ波形に基づき制御された前記試験体載置部の複数の状態量を獲得する状態量獲得部、
前記ドライブ波形に基づき前記加振部の加振状態を制御する制御部、
を有する振動試験装置において、
前記ドライブ波形生成部は、
前記状態量に基づき前記ドライブ波形を生成する際に、前記制御量のそれぞれに関する伝達関数を調整し、調整した伝達関数の逆関数を用いてドライブ波形を生成すること、
を特徴とする振動試験装置。
【請求項2】
請求項1に係る振動試験装置において、
前記ドライブ波形生成部は、
前記制御量のそれぞれに関する伝達関数のゲインを周波数領域に応じて調整して、前記ドライブ波形を生成すること、
を特徴とする振動試験装置。
【請求項3】
請求項3に係る振動試験装置において、
前記ドライブ波形生成部は、
前記制御量のそれぞれに関する伝達関数のゲインの差が小さくなるように調整すること、
を特徴とする振動試験装置。
【請求項4】
請求項1〜請求項3に係る振動試験装置のいずれかにおいて、
前記状態量獲得部は、
前記試験体載置部についての変位及び加速度を状態量として獲得すること、
を特徴とする振動試験装置。
【請求項5】
請求項4に係る振動試験装置において、
前記ドライブ波形生成部は、
低周波領域において前記変位についての伝達関数のゲインを大きくするように調整し、高周波領域において前記加速度についての伝達関数のゲインを大きくするように調整することによって、それぞれに関する伝達関数のゲインの差が小さくなるように調整すること、
を特徴とする振動試験装置。
【請求項6】
試験体載置部に載置された試験体を加振部によって加振するためのドライブ波形に基づき、前記加振部の加振状態を制御しながら前記試験体を加振する振動試験方法であって、
前記ドライブ波形に基づき制御された前記試験体載置部の複数の状態量を獲得し、
前記状態量に基づき前記ドライブ波形を生成する際に、前記制御量のそれぞれに関する伝達関数を調整し、
調整した伝達関数の逆関数を用いてドライブ波形を生成すること、
を特徴とする振動試験方法。
【請求項7】
コンピュータを用いて、試験体載置部に載置された試験体を加振部によって加振するためのドライブ波形を生成するドライブ波形生成方法であって、
コンピュータが、前記ドライブ波形に基づき制御された前記試験体載置部の複数の状態量を獲得し、
コンピュータが、前記状態量に基づき前記ドライブ波形を生成する際に、前記制御量のそれぞれに関する伝達関数を調整し、
コンピュータが、調整した伝達関数の逆関数を用いてドライブ波形を生成すること、
を特徴とするドライブ波形生成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−151506(P2010−151506A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−327762(P2008−327762)
【出願日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(000100676)IMV株式会社 (17)
【出願人】(591190955)北海道 (121)