説明

挿入形流量計の取付誤差判定方法、流量算出方法、及び計測治具

【課題】簡易な計測治具により、コストをかけずに、挿入形流量計の取付誤差を判定する。
【解決手段】流管3の外周面に設けられた開口部から計測治具5を挿入し、挿入した計測治具5の先端部56が流管3の内面に当接した状態で、計測治具5を用いて先端部56からの挿入距離Yを測定し、該測定した挿入距離Yに基づいて挿入形流量計のプローブ挿入角を算出し、算出した挿入形流量計のプローブ挿入角、挿入形流量計のプローブ挿入距離、及び流管3の内径に基づいて、挿入形流量計の実際のプローブ挿入深さを算出する。そして、算出した挿入形流量計の実際のプローブ挿入深さ、挿入形流量計のプローブ挿入距離、及び流管3の内径に基づいて、挿入形流量計を流管3に取り付ける際の取付誤差の判定値を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、挿入形流量計の取付誤差判定方法、流量算出方法、及び計測治具に関し、より詳細には、被測定管内の部分流速を測定して被測定管内の平均流速又は流量を求める挿入形流量計の取付誤差判定方法、流量算出方法、及び該取付誤差判定方法に用いる計測治具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、熱式(サーマルマスフロー)流量計、渦流量計、容積流量計、超音波流量計、差圧流量計、タービン流量計、コリオリ流量計など様々な形態の流量計が実用化されている。これらの流量計は、被測定流体が流動する流管(被測定管ともいう)全体又はその分岐管を測定対象として、流量又は平均流速を測定する。
【0003】
一方、被測定管内の部分流速を測定し、その測定値に基づいて被測定管内を流動する被測定流体の流量又は平均流速を求める流量計も実用化されている。こうした流量計は、挿入形流量計と呼ばれ、熱式流量計、渦流量計、超音波流量計などで実用化されている。非挿入形の流量計の測定対象が被測定管内を流動する全被測定流体であるのに対して、挿入形流量計は、上記のように、被測定管内の所定の部分を対象として流速を測定し、この部分流速により被測定管内を流れる被測定流体の平均流速又は流量を推量する。挿入形流量計の被測定管への取り付けは、部分流速測定用のプローブを被測定管に開けた孔から挿入し溶接等により固定して行うのが一般的である。
【0004】
挿入形流量計は、実質的な測定対象が部分流速であり挿入形流速計ともいえるが、被測定管内の全流速を最終的に求める場合には、被測定管内の部分流速を、被測定管の断面の平均流速(面平均流速)に換算した後、断面積を乗じることで全流量を算出している。このとき、流速分布を理論的に解析して得られたデータを用いて、部分流速を面平均流速に換算するのが一般的である。
【0005】
円管であれば、レイノルズ数と流速分布との関係式が一般化されているので、挿入深さによる測定位置とレイノルズ数とから、部分流速を被測定管内の面平均流速に換算することができ、流量を得たい場合には、こうして求めた面平均流速に管内断面積を乗じることにより流量を推量できる。例えば、流速分布から求めた平均流速位置を部分流速の測定位置としておけば、測定値をそのまま面平均流速値として採用でき、さらにその面平均流速値に対して単に被測定管の断面積を積算して流量が求まる。
【0006】
このような挿入形流量計において、例えば、特許文献1には、部分流速から換算により面平均流速又は流量を求める際に、被測定管内の流速分布によらず、且つ、器差や取付影響や使用条件などの誤差影響を全て含めた換算を実行できるようにする方法が記載されている。これによれば、挿入形流量計による実際の流量測定の前準備として、被測定管に一時的に配設した基準流量計を用いて実流校正を行うようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−17152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述の挿入形流量計は、既設の配管(被測定管)に取付用のボス又はノズルを設置し、この配管に流量計を差し込むだけで、流量を計測することができることから、簡便で設置コストが安価であり、特に口径の大きな配管において多用されている。
【0009】
しかしながら、既設の配管に対してボス又はノズルを現場で溶接加工するため、その加工の仕上がり具合によっては、流量計の取付誤差が生じ、設計通りの挿入深さに流量計が設置されない場合がある。そして、流量を計測する際には、通常、挿入深さの設計値に応じた流速分布補正等が行われるが、上記の取付誤差により、実際の挿入深さが設計値から外れてしまう場合、正しい流速分布補正が行われず、流量計の計測精度を劣化させてしまう。特に、流量計の絶対的な精度を重視する場合には、取付誤差を現場で評価する手段がないため、その取付誤差が流量計の計測精度にどの程度影響するのか評価することができないという問題があった。
【0010】
これに対して、上記特許文献1には、挿入形流量計の取付影響等を含めた流量換算を実行する方法について記載されているが、この方法は、挿入形流量計とは別の基準流量計を必要とするため、大掛かりなシステム構成となり、コストがかかってしまう。
【0011】
本発明は、上述のごとき実情に鑑みてなされたもので、簡易な計測治具により、コストをかけずに、挿入形流量計の取付誤差を判定することができる挿入形流量計の取付誤差判定方法、流量算出方法、及び該取付誤差判定方法に用いる計測治具を提供すること、を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明の第1の技術手段は、流管内に流れる被測定流体の部分流速を測定して、該流管内に流れる被測定流体の平均流速又は流量を前記部分流速から換算する挿入形流量計の取付誤差判定方法であって、前記流管の外周面に設けられた開口部から計測治具を挿入し、該挿入した計測治具の先端部が前記流管の内面に当接した状態で、前記計測治具を用いて前記先端部からの挿入距離を測定し、該測定した挿入距離に基づいて前記挿入形流量計のプローブ挿入角を算出し、該算出した前記挿入形流量計のプローブ挿入角、前記挿入形流量計のプローブ挿入距離、及び前記流管の内径に基づいて、前記挿入形流量計の実際のプローブ挿入深さを算出し、該算出した前記挿入形流量計の実際のプローブ挿入深さ、前記挿入形流量計のプローブ挿入距離、及び前記流管の内径に基づいて、前記挿入形流量計を前記流管に取り付ける際の取付誤差の判定値を算出することを特徴としたものである。
【0013】
第2の技術手段は、第1の技術手段において、前記挿入形流量計のプローブ挿入角をθ、前記挿入形流量計のプローブ挿入距離をLn、前記流管の内径をDとした場合、前記挿入形流量計の実際のプローブ挿入深さLは、
【数1】

により算出され、
前記取付誤差の判定値Tは、
T=(Ln−L)/D
により算出されることを特徴としたものである。
【0014】
第3の技術手段は、第1又は第2の技術手段における挿入形流量計の取付誤差判定方法により算出された前記取付誤差の判定値が許容範囲に入らないと判定した場合、前記挿入形流量計の実際のプローブ挿入深さに基づいて流量を算出することを特徴としたものである。
【0015】
第4の技術手段は、第3の技術手段において、前記挿入形流量計の実際のプローブ挿入深さに基づいて、前記部分流速から前記平均流速へ換算する際に用いる流速分布補正係数を決定することを特徴としたものである。
【0016】
第5の技術手段は、第3の技術手段において、前記挿入形流量計の実際のプローブ挿入深さに基づいて、前記流管の断面積が前記挿入形流量計のプローブによって絞られることによる前記部分流速の上昇を補正するための封鎖効果補正係数を決定することを特徴としたものである。
【0017】
第6の技術手段は、第1又は第2の技術手段における挿入形流量計の取付誤差判定方法に用いる計測治具であって、該計測治具の先端部からの挿入距離を測定するための目盛りが設けられていることを特徴としたものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、簡易な計測治具を流管に挿入するだけで、コストをかけることなく、挿入形流量計の取付誤差を判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る挿入形流量計の一例を説明するための図である。
【図2】本発明の取付誤差判定方法に用いる情報処理装置のハードウェアの構成例を示す図である。
【図3】計測治具を流管にセットする方法の一例を説明するための図である。
【図4】計測治具を流管にセットする方法の一例を説明するための図である。
【図5】計測治具を用いた実際のプローブ挿入深さの算出方法の一例を説明するための図である。
【図6】計測治具が流管に対して挿入角θで挿入された状態を模式的に示した図である。
【図7】本発明に係る流速分布補正係数の決定方法の一例を説明するための図である。
【図8】本発明に係る封鎖効果補正係数の決定方法の一例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の挿入形流量計の取付誤差判定方法、流量算出方法、及び該取付誤差判定方法に用いる計測治具に係る好適な実施の形態について説明する。
【0021】
図1は、本発明に係る挿入形流量計の一例を説明するための図である。図中、1は挿入形流量計の一例である熱式流量計、2は情報処理装置、3は被測定管(流管)を示す。熱式流量計1は、本体部10、流速センサ11、温度センサ12、及び測定プローブ13を備える。この熱式流量計1は、流管3内を流れる被測定流体(流体F)の部分流速を測定して、その流管3に流れる流体Fの平均流速又は流量を部分流速から換算し、その換算値を表示する挿入形流量計の一つであるが、本発明による取付誤差判定方法は、熱式流量計に限らず、挿入形の渦流量計、超音波流量計などにも適用できることは言うまでもない。
【0022】
熱式流量計1は、本体部10の先端に測定プローブ(以下、プローブという)13が設けられており、プローブ13を流管3に穿った開口部に挿入して部分流速を測定するものである。プローブ13は、流速センサ11及び温度センサ12を内部に有し、流速センサ11及び温度センサ12のセンシング位置には流体Fと接触可能で圧力損失を少なくするように上流側及び下流側に窓が設けてある。流速センサ11は、ヒータ及び温度センサ(温度センサ12とは別)を備え、この温度センサと温度センサ12で計測した温度差を比較制御することで、そのヒータの温度が周囲温度に対して一定の温度差になるように制御される。
【0023】
ヒータから奪われる熱量が質量流量と相関があるため、加熱電力量から質量流量を求めることができるが、ここで測定される加熱電力量は、プローブ13の挿入位置における加熱電力量であって、流管3へのプローブ挿入深さを変えることで変化する量であり、部分流速に相当する。
【0024】
図2は、本発明の取付誤差判定方法に用いる情報処理装置2のハードウェアの構成例を示す図である。情報処理装置2は、PC(パーソナルコンピュータ)などの汎用的なコンピュータで構成され、情報処理装置2を制御するCPU21と、揮発性メモリであるRAM22と、各種プログラムやデータを格納する不揮発性メモリであるROM23と、キーボードやマウスなどで構成される入力装置24と、LCD(Liquid Crystal Display)などで構成される表示装置25と、熱式流量計1と通信する通信装置26とを備える。この情報処理装置2は、後述の計測治具を用いて算出される熱式流量計1の実際のプローブ挿入深さに対して取付誤差を判定し、この結果、各種補正係数を変更する必要があれば、熱式流量計1と通信して補正係数の変更を行う。なお、この情報処理装置2の機能を熱式流量計1の本体部10に備えるようにしてもよい。
【0025】
図3は、計測治具を流管にセットする方法の一例を説明するための図である。図中、4は取付ボス、5は計測治具を示す。図3(A),(B)に示すように、流管3の外周面には開口部31が形成されている。また、取付ボス4には貫通孔41が形成され、貫通孔41の内面はテーパ状にネジ溝42が形成されている。取付ボス4は、流管3の開口部31の位置に、取付ボス4の貫通孔41を合わせるようにして固定される。なお、取付ボス4は流管3に溶接固定されるが、この際、計測治具5あるいは計測治具5とは異なる固定治具(図示せず)が流管3に対して垂直に保持されるように、目視で確認しながら取付ボス4を溶接固定し、流管3の軸方向への倒れ誤差がないようにすることが望ましい。
【0026】
また、取付ボス4は、流管3の径方向(短手方向)よりも、流管3の軸方向(長手方向)に長い略矩形状に構成されている。このように軸方向に長い略矩形状にすることで、流管3に取付ボス4を介して熱式流量計1をセットした際に、流管3の軸方向に対して熱式流量計1が倒れにくい状態で固定されるため、流管3の軸方向への倒れ誤差を低減することが可能となる。
【0027】
図3(B)において、計測治具5は熱式流量計1の実際のプローブ挿入深さを算出するための治具であり、本体51には目盛り52が設けられており、その先端部56から取付ボス4を介して開口部31に挿入される。本体51は、図1のプローブ13と同じ径を有し、プローブ13の取付構造と略同じ取付構造を有しているものとする。本例の場合、取付ネジ54にはテーパ状にネジ溝55が形成されており、この取付ネジ54が取付ボス4の貫通孔41に螺入され、取付ボス4に固定される。
【0028】
そして、固定ナット53を緩める方向に回転させることで、図4に示すように、本体51を取付ボス4に対して移動させ、本体51を流管3内に挿入させる。また、固定ナット53を締める方向に回転させることで、本体51を取付ボス4に対して固定させることができる。なお、計測治具5の取付構造は本例に限定されるものではなく、対象とする流量計の取付構造に応じて適宜設計すればよい。
【0029】
図5は、計測治具を用いた実際のプローブ挿入深さの算出方法の一例を説明するための図である。図中、Dは流管3の内径の実測値あるいは規格値である。計測治具5の先端部56が流管3の内面に当接した状態で、計測治具5を用いて先端部56からの挿入距離を測定し、測定した挿入距離に基づいて、熱式流量計1のプローブ挿入角を算出し、算出した熱式流量計1のプローブ挿入角、熱式流量計1のプローブ挿入距離、及び流管3の内径に基づいて、熱式流量計1の実際のプローブ挿入深さを算出する。具体的には、まず、計測治具5に設けられた目盛り52を目視で確認し、距離Ysを求める。これより、計測治具5の挿入距離Yを以下の式(1)により求めることができる。
Y=Ys−(H+t) …式(1)
但し、Hは取付部高さの実測値、tは流管3の板厚の実測値又は規格値
【0030】
図5の例において、流管3に対して取付ボス4を現場で溶接加工するため、その加工の仕上がり具合によっては、熱式流量計1の取付誤差が生じ、設計通りのプローブ挿入深さに熱式流量計1が設置されない場合がある。図中、点線部分が設計通りのプローブ挿入深さで設置された状態を示し、実線部分が設計通りのプローブ挿入深さで設置されていない状態を示す。そして、流量を計測する際には、通常、プローブ挿入深さの設計値に応じた流速分布補正等が行われるが、上記の取付誤差により、実際のプローブ挿入深さが設計値から外れてしまう場合、正しい流速分布補正が行われず、流量計の計測精度を劣化させてしまう。
【0031】
図6は、計測治具が流管に対して挿入角θで挿入された状態を模式的に示した図である。図6(A)において、流管内径の実測値あるいは規格値をD、熱式流量計1の実際のプローブ挿入深さをL、熱式流量計1のプローブ挿入距離をLnとした場合、計測治具5の挿入角θは、上記式(1)で求めた挿入距離Yに基づいて、以下の式(2)により求めることができる。なお、プローブ13が流管3の中心に向けてまっすぐに挿入された場合、プローブ挿入距離Lnは、流管3の内壁からプローブ13内のセンサ中心までの距離に相当し、プローブ挿入深さの設計値に相当する。
θ=cos−1(Y/D) …式(2)
【0032】
また、熱式流量計1の実際のプローブ挿入深さLは、
【数2】

と求めることができる。
【0033】
ここで、上記式(3)の算出根拠について図6(B)に基づいて具体的に説明する。まず、計測治具と流管との幾何学的関係に基づいて、
+a=Ln
+b=P
と表すことができる。
【0034】
これより、
=Ln−a
=P−b
となる。
【0035】
従って、
−b=Ln−a
=Ln−a+b
となる。
【0036】
ここで、
a=Lncosθ
b=(D/2)−a=(D/2)−Lncosθ
である。
【0037】
これより、
=Ln−Lncosθ+((D/2)−Lncosθ)
=Ln−Lncosθ+(D/4)−LnDcosθ+Lncosθ
=Ln−LnDcosθ+(D/4)
となる。
【0038】
従って、
【数3】

となる。
【0039】
そして、実際のプローブ挿入深さL=(D/2)−Pであることから、上記式(3)、すなわち、
【数4】

を得ることができる。
【0040】
そして、上記式(3)で求めた熱式流量計1の実際のプローブ挿入深さL、プローブ挿入距離Ln、及び流管3の内径Dに基づいて、熱式流量計1を流管3に取り付ける際の取付誤差の判定値Tを算出する。さらに、算出した取付誤差の判定値Tが許容範囲に入るか否かを判定する。ここで、挿入深さの許容誤差判定基準値をSとすると、以下の式(4)により判定することができる。なお、許容誤差判定基準値Sは流管3の各口径毎に適宜決定される値である。
【数5】

【0041】
判定値T=(Ln−L)/Dが上記式(4)を満たす場合、取付誤差は許容範囲内として、各種補正値の設定は変更しない。また、判定値T=(Ln―L)/Dが上記式(4)を満たさない場合、実際のプローブ挿入深さLに基づいて流量を算出する。具体的には、各種補正値として、例えば、流速分布補正係数、封鎖効果補正係数を、実際のプローブ挿入深さLに基づいて設定し、これにより正確な流量を算出する。
【0042】
ここで、前述の図5、図6において、流管3として、呼び径400AのSGP管(配管用炭素鋼管、通称ガス管)を適用した場合、規格寸法は、外径406.4mm、板厚t=7.9mm、内径D=390.6mmとなる。また、取付部高さH=40mm、プローブ挿入距離Ln=97.9mmとする。例えば、計測治具5により距離Ys=430.5mmと測定された場合、式(1)により、距離Y=430.5−(40+7.9)=382.6mmと求まる。そして、プローブ挿入角θは、式(2)より、11.6°と求まる。
【0043】
そして、式(3)により、実際のプローブ挿入深さL=93.97mm、式(4)により、判定値T=0.01と求まる。ここで、本例では、呼び径400Aの流管に対して、流量計測精度への影響を0.5%以下とするために、許容誤差判定基準値Sを0.007に設定しているものとする。この場合、判定値T>許容誤差判定基準値Sとなり、式(4)の条件を満たさないため、実際のプローブ挿入深さLに基づいて流量を算出する。
【0044】
以上の処理は、上記式(1)〜(4)及び各式において計算に必要なパラメータを、図2の情報処理装置2に格納しておくことで実現することができる。すなわち、作業者が、計測治具5で実際に測定した距離Ysの値を情報処理装置2に入力すると、情報処理装置2が上記式(1)〜式(4)を演算し、取付誤差が許容範囲内にあるか否かを判定する。そして、情報処理装置2がこの判定結果を表示させることで、作業者は実際のプローブ挿入深さLに基づいて補正係数を設定すべきか否かを決めることができる。
【0045】
そして、実際のプローブ挿入深さLに基づいて流量を算出するために、情報処理装置2は、補正係数として、例えば、上記の流速分布補正係数、封鎖効果補正係数を設定する場合、実際のプローブ挿入深さLに基づいて補正係数の値を求め、この補正係数の値を熱式流量計1に設定する処理を行う。以下、実際のプローブ挿入深さLに基づいて、流速分布補正係数、封鎖効果補正係数を決定する場合の具体例について図7、図8に基づいて説明する。
【0046】
図7は、本発明に係る流速分布補正係数の決定方法の一例を説明するための図である。この流速分布補正係数αは、熱式流量計1のプローブ13の挿入深さ(挿入位置)における部分流速から面平均流速に換算する際に用いる補正係数である。例えば、管内径Dの流管3において、図7(A)に示す流速分布を持つ流体Fが流れていると想定する。この場合、図7(B)に示すような、プローブ13のプローブ挿入深さLと流速分布補正係数αとを対応付けたテーブルを予め準備して情報処理装置2に格納しておく。なお、この熱式流量計1は、工場出荷時に、プローブ挿入深さの設計値Lnに対応する流速分布補正係数の設計値αnが設定されているものとする。
【0047】
そして、現場において、上記の熱式流量計1を流管3に取り付ける際に、計測治具5を用いて算出された実際のプローブ挿入深さLが取付誤差により設計値Lnではなく例えばLn−1であった場合、情報処理装置2は、この実際のプローブ挿入深さLn−1に基づいて、図7(B)のテーブルを参照することにより、流速分布補正係数をαn−1に決定し、これを熱式流量計1に設定する。
【0048】
図8は、本発明に係る封鎖効果補正係数の決定方法の一例を説明するための図である。流管3の断面積は熱式流量計1のプローブ13により絞られる(封鎖効果)ことで流路が狭くなる。このため、プローブ13のセンサ部分の部分流速が上昇するため、これを補正する必要がある。封鎖効果補正係数βは、流管3の断面積が熱式流量計1のプローブ13によって絞られることによる部分流速の上昇を補正するための補正係数である。
【0049】
この封鎖効果補正係数βは、流管3の断面積とプローブ13のプローブ挿入深さとによって決まるため、プローブ13の実際のプローブ挿入深さLに合わせて決定する。なお、この熱式流量計1は、工場出荷時に、プローブ挿入深さの設計値Lnに対応する封鎖効果補正係数βの設計値が設定されているものとする。
【0050】
図8において、流管3の断面積をA(m)、プローブ13による封鎖面積をA(m)とすると、封鎖効果補正係数βは以下の式(5)により求めることができる。
β=1−(A/A) …式(5)
但し、封鎖面積Aは、プローブ13のセンサ挿入部分の投影面積となる。
【0051】
例えば、現場において、上記の熱式流量計1を流管3に取り付ける際に、計測治具5を用いて算出された実際のプローブ挿入深さLが取付誤差により設計値Lnではなく例えばLn−1であった場合、情報処理装置2は、この実際のプローブ挿入深さLn−1に基づいて、プローブ13による封鎖面積Aを算出し、これにより、式(5)を演算して、封鎖効果補正係数βを決定し、これを熱式流量計1に設定する。
【0052】
このように、本発明による取付誤差判定方法の判定結果に基づいて、流量計の実際のプローブ挿入深さに応じた適切な補正係数を決定することができるため、流量計の計測精度を向上させることができる。
【符号の説明】
【0053】
1…熱式流量計、2…情報処理装置(PC)、3…流管、4…取付ボス、5…計測治具、10…本体部、11…流速センサ、12…温度センサ、13…プローブ、21…CPU、22…RAM、23…ROM、24…入力装置、25…表示装置、26…通信装置、31…開口部、41…貫通孔、42,55…ネジ溝、51…本体、52…目盛り、53…固定ナット、54…取付ネジ、56…先端部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流管内に流れる被測定流体の部分流速を測定して、該流管内に流れる被測定流体の平均流速又は流量を前記部分流速から換算する挿入形流量計の取付誤差判定方法であって、
前記流管の外周面に設けられた開口部から計測治具を挿入し、該挿入した計測治具の先端部が前記流管の内面に当接した状態で、前記計測治具を用いて前記先端部からの挿入距離を測定し、該測定した挿入距離に基づいて前記挿入形流量計のプローブ挿入角を算出し、該算出した前記挿入形流量計のプローブ挿入角、前記挿入形流量計のプローブ挿入距離、及び前記流管の内径に基づいて、前記挿入形流量計の実際のプローブ挿入深さを算出し、該算出した前記挿入形流量計の実際のプローブ挿入深さ、前記挿入形流量計のプローブ挿入距離、及び前記流管の内径に基づいて、前記挿入形流量計を前記流管に取り付ける際の取付誤差の判定値を算出することを特徴とする挿入形流量計の取付誤差判定方法。
【請求項2】
前記挿入形流量計のプローブ挿入角をθ、前記挿入形流量計のプローブ挿入距離をLn、前記流管の内径をDとした場合、前記挿入形流量計の実際のプローブ挿入深さLは、
【数1】

により算出され、
前記取付誤差の判定値Tは、
T=(Ln−L)/D
により算出されることを特徴とする請求項1に記載の挿入形流量計の取付誤差判定方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の挿入形流量計の取付誤差判定方法により算出された前記取付誤差の判定値が許容範囲に入らないと判定した場合、前記挿入形流量計の実際のプローブ挿入深さに基づいて流量を算出することを特徴とする挿入形流量計の流量算出方法。
【請求項4】
前記挿入形流量計の実際のプローブ挿入深さに基づいて、前記部分流速から前記平均流速へ換算する際に用いる流速分布補正係数を決定することを特徴とする請求項3に記載の挿入形流量計の流量算出方法。
【請求項5】
前記挿入形流量計の実際のプローブ挿入深さに基づいて、前記流管の断面積が前記挿入形流量計のプローブによって絞られることによる前記部分流速の上昇を補正するための封鎖効果補正係数を決定することを特徴とする請求項3に記載の挿入形流量計の流量算出方法。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の挿入形流量計の取付誤差判定方法に用いる計測治具であって、
該計測治具の先端部からの挿入距離を測定するための目盛りが設けられていることを特徴とする計測治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−32272(P2012−32272A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−171974(P2010−171974)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【出願人】(000103574)株式会社オーバル (82)
【Fターム(参考)】