説明

排気管及び排気管の製造方法

【課題】 エンジンの運転時に加わる熱によって消滅する、エンジンの運転時に加わる振動によって排気管の破損を引き起こす等の不具合が発生しない情報表示を備えた排気管を提供する。
【解決手段】 金属からなる基材と、上記基材の表面上に形成された非晶質無機材を含む表面被覆層と、文字部と背景部からなる情報表示とを有し、上記文字部及び上記背景部の少なくとも一方は上記表面被覆層に含まれていることを特徴とする排気管。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気管及び排気管の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンから排出された排ガス中に含まれる有害ガス等の有害物質を処理するため、排気管の経路には、触媒コンバータが設けられる。
触媒コンバータによる有害物質の浄化効率を高めるためには、排ガス及び排ガスが流通する排気管等の温度を触媒活性化に適した温度(以下、触媒活性化温度ともいう)に維持する必要がある。
【0003】
従来の排ガス浄化システムでは、エンジンの始動時における触媒コンバータの温度は、触媒活性化温度よりも低い。
そのため、エンジンに接続される排気管には、エンジンの始動時から短時間で触媒活性化温度まで昇温することができることが求められている。
【0004】
例えば、特許文献1には、金属からなる筒状の基材と、外周面上に形成された、結晶性無機材と非晶質結合材(非晶質無機材)とからなる表面被覆層を備えた排気管が開示されている。
特許文献1に記載の従来の排気管では、表面被覆層の熱伝導率が基材の熱伝導率よりも低いと、断熱性に優れることが記載されている。その結果、特許文献1に記載の従来の排気管では、エンジンの始動から短時間で触媒活性化温度まで昇温することができることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−133214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような排気管に関して、製品の製造履歴等を、識別可能な位置に明確に表示しておくことが望まれており、様々な識別情報を付与した排気管が求められている。識別情報の表示の仕方により、様々な問題が生じると考えられる。
【0007】
本発明は、エンジンの運転時に加わる熱によって消滅する、エンジンの運転時に加わる振動によって排気管の破損を引き起こす等の不具合が発生しない情報表示を備えた排気管、及び、排気管の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の排気管は、金属からなる基材と、上記基材の表面上に形成された非晶質無機材を含む表面被覆層と、文字部と背景部からなる情報表示とを有し、上記文字部及び上記背景部の少なくとも一方は上記表面被覆層に含まれていることを特徴とする。
【0009】
上記構成では、情報表示が文字部と背景部で構成され、上記文字部及び上記背景部の少なくとも一方が上記表面被覆層に含まれるようになっている。表面被覆層は非晶質無機材を含んでなるため、エンジンの運転時に加わる熱によって消滅することがない。また、金属基材に刻印がされていないのでエンジンの運転時に加わる振動によって排気管が破損することがない。
【0010】
請求項2に記載の排気管において、上記文字部と上記背景部では、表面被覆層の厚さが異なる。
請求項3に記載の排気管において、上記文字部の表面被覆層の厚さは、上記背景部の表面被覆層の厚さよりも厚い。
請求項4に記載の排気管において、上記文字部又は上記背景部の一方は、金属基材の表面からなる。
請求項5に記載の排気管において、上記文字部は、金属基材の表面からなる。
これらの構成では、文字部と背景部には段差があることになる。
文字部と背景部に段差があると、作業者が手で触っただけで他の部位との違いを感じ取ることができる。そのため、この段差を排気管の取り付け位置(取り付け方向)に対応させるように設けておくことができる。その結果、識別情報としての文字情報等の情報を付すことができ、さらに、排気管の取り付け時の作業性を向上させることができる。
また、他の部位に比べて表面被覆層の厚さが厚い部分は、他の部位に比べて熱衝撃に起因するクラックが生じやすいため、熱衝撃に対するセンサーともなり得る。このような部位がある場合は、熱衝撃に対する耐久性を、この部位のみをチェックすることによって確かめることができる。その結果、排気管全体のチェックを行う必要がなく、便利である。
熱衝撃に対するセンサーとは、排気管が受けた熱衝撃に起因して表面被覆層にクラックが生じているかを検査することができる部位のことをいう。
【0011】
請求項6に記載の排気管において、上記文字部と上記背景部では、表面被覆層の化学組成が異なり、上記文字部若しくは上記背景部の一方となる表面被覆層が非晶質無機材と結晶性無機材を含む組成であり、かつ、上記文字部若しくは上記背景部の他方となる表面被覆層が非晶質無機材のみを含む組成である、又は、上記文字部となる表面被覆層と上記背景部となる表面被覆層で、非晶質無機材の種類が異なる、結晶性無機材の種類が異なる、非晶質無機材及び結晶性無機材の種類がいずれも異なる、若しくは、非晶質無機材に対する結晶性無機材の含有割合が異なる。
請求項7に記載の排気管において、上記文字部及び上記背景部の少なくとも一方は、厚み方向に化学組成が異なる複数の層が積層されてなり、上記化学組成が異なる複数の層では、一方の層が非晶質無機材と結晶性無機材を含む組成であり、かつ、他方の層が非晶質無機材のみを含む組成である、又は、上記化学組成が異なる複数の層では、非晶質無機材の種類が異なる、結晶性無機材の種類が異なる、非晶質無機材及び結晶性無機材の種類がいずれも異なる、若しくは、非晶質無機材に対する結晶性無機材の含有割合が異なる。
請求項8に記載の排気管において、上記基材の表面には、表面粗さの大きい部位と表面粗さが小さい部位が設けられており、上記文字部は、上記表面粗さの大きい部位と表面粗さが小さい部位のいずれかの上に形成された表面被覆層であり、上記背景部は、上記文字部が形成された部位とは異なる表面粗さを有する部位の上に形成された表面被覆層である。
これらの構成では、文字部と背景部での表面被覆層の外観が異なるため、情報を表示することができる。
【0012】
請求項9に記載の排気管において、上記情報表示により表示される情報の内容は、製品名、製品番号、製造番号、品種、重量、製品サイズ、適用車種、注記喚起、連絡先及び会社名から選ばれる少なくとも一つの情報である。
請求項10に記載の排気管において、上記文字部で表示される文字は、アルファベット、数字、漢字、ひらがな、カタカナ、記号及びドットから選ばれる少なくとも一つの情報である。
上記情報は、排気管を取り扱う作業者等にとって識別可能な、有益な情報であるため、排気管に設けられる情報表示として好ましい。
【0013】
請求項11に記載の排気管において、上記非晶質無機材は、軟化点300〜1000℃を有する低融点ガラスであり、SiO−B−ZnO系ガラス、SiO−B−Bi系ガラス、SiO−PbO系ガラス、SiO−PbO−B系ガラス、SiO−B−PbO系ガラス、B−ZnO−PbO系ガラス、B−ZnO−Bi系ガラス、B−Bi系ガラス、B−ZnO系ガラス、BaO−SiO系ガラス及びSiO−BaO−B系ガラスからなる群から選択された少なくとも一種である。
上記低融点ガラスの軟化点が300℃未満であると、排気管としての使用時に熱が加わりガラスが容易に軟化してしまう。そのため、外部から石又は砂などの異物が飛来し排気管の表面被覆層に接触した際に、軟化したガラスに異物が付着しやすくなる。その結果、表面被覆層のガラスの表面に異物が付着すると外観が変化するため識別性が損なわれやすくなる。
上記低融点ガラスの軟化点が1000℃を超えると、排気管の表面被覆層を形成する際の熱処理により、排気管の基材が劣化しやすくなる。
【0014】
請求項12に記載の排気管では、上記表面被覆層がさらに結晶性無機材を含む。
請求項13に記載の排気管において、上記結晶性無機材は、マンガン、鉄、銅、コバルト、クロム及びアルミニウムのうちの少なくとも一種の酸化物からなる無機粒子を含む。
結晶性無機材の熱膨張係数は低く、非晶質無機材の熱膨張係数は高い。そのため、結晶性無機材と非晶質無機材との配合比を調整することにより、表面被覆層の熱膨張係数を制御することができる。従って、表面被覆層と金属からなる基材との熱膨張係数を近付けることにより、表面被覆層と金属からなる基材との密着力を向上させることができる。
【0015】
請求項14に記載の排気管の製造方法は、金属からなる基材の表面に、非晶質無機材を含む表面被覆層を形成する工程と、文字部と背景部からなる情報表示を形成する工程とを含み、上記文字部及び上記背景部の少なくとも一方は表面被覆層に含まれており、上記表面被覆層は、非晶質無機材を含む塗料を塗装して塗膜を形成する塗膜形成工程と、上記塗膜を上記非晶質無機材の軟化点以上の温度に加熱して上記表面被覆層を形成する加熱工程とを含んで形成されることを特徴とする。
上記工程により、表面被覆層を形成し、文字部と背景部の少なくとも一方が表面被覆層に含まれている情報表示を形成することによって、情報表示を備えた排気管を製造することができる。
このようにして形成された情報表示は、エンジンの運転時に加わる熱によって消滅することがない。また、エンジンの運転時に加わる振動によって排気管が破損することがない。
【0016】
請求項15に記載の排気管の製造方法において、上記情報表示を形成する工程は、上記基材への上記塗膜の形成を抑制する工程、上記基材への上記塗膜の形成を促進する工程、及び、上記基材に形成した上記塗膜の一部又は上記表面被覆層の一部を除去する工程のうち少なくとも一つの工程を含む。
請求項16に記載の排気管の製造方法において、上記基材への上記塗膜の形成を抑制する工程は、基材をマスキングする工程、及び、塗料をはじく材料を上記基材上へ形成する工程から選ばれる少なくとも一つの工程を含む。
請求項17に記載の排気管の製造方法において、上記基材への上記塗膜の形成を促進する工程は、表面に凹凸形状を有する転写ローラーを用いた転動転写工程、表面に凹凸形状を有する平板形状を有する平板を用いた押印転写工程、及び、液体噴霧ヘッドから液体を噴霧させる液体噴霧工程から選ばれる少なくとも一つの工程を含む。
請求項18に記載の排気管の製造方法において、上記基材に形成した上記塗膜の一部又は上記表面被覆層の一部を除去する工程は、ショットブラスト、サンドブラスト、研磨、溶出、及び、切削から選ばれる少なくとも一つの工程を含む。
これらの方法により、文字部と背景部での表面被覆層の厚さを異ならせることができる。
また、基材に形成した上記塗膜の一部又は上記表面被覆層の一部を除去する工程を含む場合には、文字部又は背景部の一方を、金属基材の表面とすることができる。
そして、表面被覆層の厚さの違いにより識別情報を表示することができる。
【0017】
請求項19に記載の排気管の製造方法において、上記塗膜形成工程は、霧化塗装、液体静電塗装、粉体静電塗装、電着塗装、及び、ディッピングから選ばれる少なくとも一つの工程を含む。
上記方法によると、非晶質無機材を含む塗料を用いた塗膜形成工程を好適に行うことができる。
その結果、非晶質無機材を含む表面被覆層を形成して識別情報を表示することができる。
【0018】
請求項20に記載の排気管の製造方法において、上記非晶質無機材を軟化点以上に加熱する温度は、300〜1000℃である。
上記非晶質無機材を軟化点以上に加熱する温度が300℃未満であると、排気管として用いた場合に容易に非晶質無機材が軟化し、排気管の表面被覆層に異物が付着する原因となる。
上記非晶質無機材を軟化点以上に加熱する温度が1000℃を超えると、表面被覆層を形成する際の熱処理により、排気管の基材が劣化することがある。
【0019】
請求項21に記載の排気管の製造方法では、上記塗膜形成工程は、化学組成が異なる複数種類の塗料を用いて文字部となる部分と背景部となる部分で化学組成が異なる表面被覆層を形成する工程を含み、上記化学組成が異なる複数種類の塗料は、一方の塗料が非晶質無機材と結晶性無機材を含む組成であり、かつ、他方の塗料が非晶質無機材のみを含む組成である、又は、上記化学組成が異なる複数種類の塗料は、非晶質無機材の種類が異なる、結晶性無機材の種類が異なる、非晶質無機材及び結晶性無機材の種類がいずれも異なる、若しくは、非晶質無機材に対する結晶性無機材の含有割合が異なる。
この方法であると、文字部と背景部で化学組成が異なる表面被覆層を形成することができる。そのため、文字部と背景部での表面被覆層の外観の違いにより、識別情報を表示することができる。
【0020】
請求項22に記載の排気管の製造方法では、上記塗膜形成工程において、第1の塗膜形成工程と、第1の塗膜形成後にさらに塗膜を積層させる第2の塗膜形成工程を含む。
請求項23に記載の排気管の製造方法では、上記第1の塗膜形成工程と、上記第2の塗膜形成工程の間に、非晶質無機材の軟化点以上の温度に加熱する工程を含む。
請求項24に記載の排気管の製造方法では、上記情報表示を形成する工程は、上記基材の表面に表面粗さの大きい部位と表面粗さが小さい部位を設ける工程をさらに含む。
請求項25に記載の排気管の製造方法では、上記基材の表面に表面粗さの大きい部位と表面粗さが小さい部位を設ける工程は、ショットブラスト、サンドブラスト、研磨、溶出及び切削から選ばれる少なくとも一つの工程を含む。
これらの方法では、文字部と背景部での表面被覆層の外観を異ならせることができる。そのため、文字部と背景部での表面被覆層の外観の違いにより、情報を表示することができる。
【0021】
請求項26に記載の排気管の製造方法では、上記非晶質無機材は、軟化点300〜1000℃を有する低融点ガラスである。
請求項27に記載の排気管の製造方法では、上記塗料がさらに結晶性無機材を含む。
請求項28に記載の排気管の製造方法では、上記結晶性無機材は、マンガン、鉄、銅、コバルト、クロム、アルミニウムのうちの少なくとも一種の酸化物からなる無機粒子を含む。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、本発明の第一実施形態に係る排気管の一例を模式的に示す斜視図である。
【図2】図2は、図1に示す排気管の一部のA−A線断面図である。
【図3】図3は、本発明の第一実施形態に係る排気管の別の一例を模式的に示す斜視図である。
【図4】図4は、図3に示す排気管の一部のB−B線断面図である。
【図5】図5(a)、図5(b)、図5(c)、図5(d)、図5(e)及び図5(f)は、本発明の第一実施形態に係る排気管の製造方法の第一の態様を模式的に示す工程図である。
【図6】図6(a)、図6(b)、図6(c)及び図6(d)は、本発明の第一実施形態に係る排気管の製造方法の第三の態様を模式的に示す工程図である。
【図7】図7(a)、図7(b)、図7(c)、図7(d)及び図7(e)は、本発明の第一実施形態に係る排気管の製造方法の第四の態様を模式的に示す工程図である。
【図8】図8は、本発明の第二実施形態に係る排気管の一例を模式的に示す断面図である。
【図9】図9は、本発明の第二実施形態に係る排気管の別の一例を模式的に示す断面図である。
【図10】図10は、本発明の第三実施形態に係る排気管の一例を模式的に示す断面図である。
【図11】図11は、本発明の第四実施形態に係る排気管の一例を模式的に示す断面図である。
【図12】図12は、本発明の第四実施形態に係る排気管の別の一例を模式的に示す断面図である。
【図13】図13は、本発明の第五実施形態に係る排気管の一例を模式的に示す断面図である。
【図14】図14は、本発明の第五実施形態に係る排気管の別の一例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明する。しかしながら、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。
【0024】
排気管に関して、様々な識別情報を付与するために、油性塗料で表面被覆層に直接文字を記載して表示する方法が考えられる。
また、金属からなる基材の表面に刻印を施して識別情報を付与する方法が考えられる。
【0025】
しかしながら、油性塗料を用いて表面被覆層に直接文字を記載した場合には、エンジンの運転時に加わる熱によって塗料が燃焼、揮発することにより情報が消滅してしまう。
また、金属基材の表面に刻印を施した場合には、エンジンの運転時に加わる振動によって、刻印部分を起点として金属基材全体に亀裂が拡がってしまい、排気管の破損が生じる。
【0026】
本発明の実施形態に係る排気管は、金属からなる基材と、上記基材の表面上に形成された非晶質無機材を含む表面被覆層と、文字部と背景部からなる情報表示とを有し、上記文字部及び上記背景部の少なくとも一方は上記表面被覆層に含まれていることを特徴とする。
【0027】
また、本発明の実施形態に係る排気管の製造方法は、金属からなる基材の表面に、非晶質無機材を含む表面被覆層を形成する工程と、文字部と背景部からなる情報表示を形成する工程とを含み、上記文字部及び上記背景部の少なくとも一方は表面被覆層に含まれており、上記表面被覆層は、非晶質無機材を含む塗料を塗装して塗膜を形成する塗膜形成工程と、上記塗膜を上記非晶質無機材の軟化点以上の温度に加熱して上記表面被覆層を形成する加熱工程とを含んで形成されることを特徴とする。
【0028】
本発明の実施形態に係る排気管及び本発明の実施形態に係る排気管の製造方法は、エンジンの運転時に加わる熱によって消滅する、エンジンの運転時に加わる振動によって排気管の破損を引き起こす等の不具合が発生しない情報表示を備えた排気管、及び、排気管の製造方法を提供することができる。
【0029】
(第一実施形態)
以下、本発明の排気管、及び、排気管の製造方法の一実施形態である第一実施形態について説明する。まず、本発明の第一実施形態に係る排気管について説明する。
図1は、本発明の第一実施形態に係る排気管の一例を模式的に示す斜視図であり、図2は、図1に示す排気管の一部のA−A線断面図である。
図1に示す排気管1Aは、金属からなる基材10と、基材10の表面上に形成された表面被覆層20とを備えている。
表面被覆層20は、非晶質無機材を含む層であり、その組成の詳細については後述する。
排気管1Aはさらに情報表示30を有する。情報表示30は、文字情報である文字部40と文字情報の背景である背景部50とからなる。
排気管1Aにおいては、文字部40と背景部50はともに表面被覆層20に含まれており、文字部40と背景部50では、表面被覆層の厚さが異なる。
図2に示すように、排気管1Aでは、文字部40における表面被覆層20の厚さTbは、背景部50における表面被覆層の厚さTaより小さい。
【0030】
図3は、本発明の第一実施形態に係る排気管の別の一例を模式的に示す斜視図であり、図4は、図3に示す排気管の一部のB−B線断面図である。
図3に示す排気管1Bは、金属からなる基材10と、基材10の表面上に形成された表面被覆層20とを備えている。
排気管1Bは、文字情報である文字部40と文字情報の背景である背景部50とからなる情報表示30を有する。
図4に示すように、排気管1Bでは、文字部40における表面被覆層20の厚さTaは、背景部50における表面被覆層の厚さTbより大きい。
【0031】
排気管1A及び排気管1Bのように、表面被覆層の厚さが、文字部と背景部とで異なっている。そのため、文字部及び背景部が区別されて作業者に視認されるため、文字部及び背景部により情報を表示することができる。
【0032】
基材の材質としては、例えば、ステンレス、鋼、鉄、銅等の金属、又は、インコネル、ハステロイ、インバー等のニッケル合金等が挙げられる。これらの基材の金属材料は、後述するように、表面被覆層を構成する材料と熱膨張係数を近付けることにより、表面被覆層と金属からなる基材との密着力を向上させることができる。
基材の形状は特に限定されるものではないが、排気管として用いる場合には、筒状であることが好ましく、円筒形状であることがより望ましい。
【0033】
表面被覆層に含まれる非晶質無機材は、軟化点が300〜1000℃である低融点ガラスであることが好ましい。また、上記低融点ガラスの種類は特に限定されるものではないが、ソーダ石灰ガラス、無アルカリガラス、硼珪酸ガラス、カリガラス、クリスタルガラス、チタンクリスタルガラス、バリウムガラス、ボロンガラス、ストロンチウムガラス、アルミナ珪酸ガラス、ソーダ亜鉛ガラス、ソーダバリウムガラス等が挙げられる。
これらのガラスは、単独で用いてもよいし、2種類以上が混合されていてもよい。
【0034】
上記のような低融点ガラスは、軟化点が300〜1000℃の範囲にあると、低融点ガラスを融解させて基材(金属材料)の表面上に塗布(コート)した後、加熱焼成処理を施すことにより、金属からなる基材の表面上に表面被覆層を容易にしかも強固に形成することができる。
上記低融点ガラスの軟化点が300℃未満であると、排気管としての使用時に熱が加わりガラスが容易に軟化してしまう。そのため、外部から石又は砂などの異物が飛来し排気管の表面被覆層に接触した際に、軟化したガラスに異物が付着しやすくなる。ガラスの表面に異物が付着すると外観が変化するため識別性が損なわれやすくなる。
一方、上記低融点ガラスの軟化点が1000℃を超えると、排気管の表面被覆層を形成する際の熱処理により、排気管の基材が劣化しやすくなる。
なお、低融点ガラスの軟化点は、JIS R 3103−1:2001に規定される方法に基づいて、例えば、有限会社オプト企業製の硝子自動軟化点・歪点測定装置(SSPM−31)を用いて測定することができる。
【0035】
上記硼珪酸ガラスの種類は、特に限定されないが、SiO−B−ZnO系ガラス、SiO−B−Bi系ガラス等が挙げられる。上記クリスタルガラスは、PbOを含むガラスであり、その種類は特に限定されないが、SiO−PbO系ガラス、SiO−PbO−B系ガラス、SiO−B−PbO系ガラス等が挙げられる。上記ボロンガラスの種類は、特に限定されないが、B−ZnO−PbO系ガラス、B−ZnO−Bi系ガラス、B−Bi系ガラス、B−ZnO系ガラス等が挙げられる。上記バリウムガラスの種類は、特に限定されないが、BaO−SiO系ガラス、SiO−BaO−B系ガラス等が挙げられる。
また、非晶質無機材は、上述した低融点ガラスのうちの一種類の低融点ガラスのみからなるものであってもよいし、複数種類の低融点ガラスからなるものであってもよい。
【0036】
表面被覆層には、非晶質無機材に加えてさらに結晶性無機材が含まれていてもよい。
表面被覆層に含まれる結晶性無機材としては、遷移金属の酸化物を用いることが望ましい。
また、表面被覆層に含まれる結晶性無機材としては、アルミニウム、マンガン、鉄、銅、コバルト、クロム及びアルミニウムのうちの少なくとも一種の酸化物からなる無機粒子であることがより望ましい。
これらの酸化物からなる無機粒子は、単独で用いてもよいし、2種類以上が混合されていてもよい。
【0037】
上記情報表示により表示される情報の内容の例としては、製品名、製品番号、製造番号、品種、重量、製品サイズ、適用車種、注記喚起、連絡先及び会社名から選ばれる少なくとも一つの情報が挙げられる。但し、上記情報の内容は、上記例に限定されるものではない。
【0038】
また、上記文字部で表示される文字の例としては、アルファベット、数字、漢字、ひらがな、カタカナ、記号及びドットから選ばれる少なくとも一つの情報が挙げられる。
但し、上記文字は、上記例に限定されるものではなく、本発明の排気管が製造又は販売される国及び地域で使用される文字等に応じて適宜変更されてもよい。
このような情報表示を排気管に行うことにより、排気管を取り扱う作業者等が情報を識別することができる。
【0039】
本実施形態に係る排気管において、文字部と背景部における表面被覆層の厚さの関係は、文字部における表面被覆層の厚さと背景部における表面被覆層の厚さのうち、厚いほうの厚さをTa、薄いほうの厚さをTbとして、Ta−Tb=7〜20μmであることが望ましい。
【0040】
(Ta−Tb)が7μm以上であると、表面被覆層の厚さの違いが大きくなり、表面被覆層を作業者が手で触ることによって、文字部と背景部の厚さの差に起因する段差を容易に感じ取ることができる。そのため、情報表示を排気管の取り付け位置(取り付け方向)に対応させるように設けておくことができる。その結果、識別情報としての文字情報等の情報を付すことができ、さらに、排気管の取り付け時の作業性を向上させることができる。
【0041】
(Ta−Tb)が20μmを超える場合は、表面被覆層の厚さが20μmより厚い部分が存在することになり、この部分に熱衝撃による表面被覆層のクラック、剥離が発生しやすくなる。
【0042】
また、表面被覆層の厚さは、厚いほうの厚さTaが8〜30μmであることが望ましく、薄いほうの厚さTbが1〜10μmであることが望ましい。
Ta及びTbをこのような範囲に定めることにより、(Ta−Tb)を最適な範囲である7〜20μmの範囲に定めることができる。
表面被覆層の厚さは、基材の材質及び表面被覆層の材質を考慮して、ISO 2178 (磁性素地上の非磁性被覆‐皮膜厚さ測定‐磁力式試験方法)、又は、ISO 2360 (非磁性金属素地上の非電導性被覆‐皮膜厚さ測定‐渦電流式試験方法)に準拠して測定することができる。
【0043】
次に、本発明の第一実施形態に係る排気管の製造方法について説明する。
本発明の第一実施形態に係る排気管の製造方法は、
金属からなる基材の表面に、非晶質無機材を含む表面被覆層を形成する工程と、
文字部と背景部からなる情報表示を形成する工程とを含み、
上記文字部及び上記背景部の少なくとも一方は表面被覆層に含まれており、
上記表面被覆層は、非晶質無機材を含む塗料を塗装して塗膜を形成する塗膜形成工程と、上記塗膜を上記非晶質無機材の軟化点以上の温度に加熱して上記表面被覆層を形成する加熱工程とを含んで形成されることを特徴とする。
【0044】
本発明の第一実施形態に係る排気管の製造方法には、いくつかの態様が含まれるが、まず、本発明の第一実施形態に係る排気管の製造方法の第一の態様について、図1及び図2に示す排気管1Aを作製する場合を例にして説明する。
【0045】
図5(a)、図5(b)、図5(c)、図5(d)、図5(e)及び図5(f)は、本発明の第一実施形態に係る排気管の製造方法の第一の態様を模式的に示す工程図である。
【0046】
(1)金属からなる基材を準備する工程
金属からなる基材(以下、金属基材又は金属材料ともいう)を出発材料とし、まず、金属基材の表面の不純物を除去するために洗浄処理を行う。
上記洗浄処理としては特に限定されず、従来公知の洗浄処理を用いることができ、具体的には、例えば、アルコール溶媒中で超音波洗浄を行う方法等を用いることができる。
【0047】
また、上記洗浄処理後には、必要に応じて、金属基材の表面の比表面積を大きくしたり、金属基材の表面粗さを調整したりするために、金属基材の表面に粗化処理を施してもよい。具体的には、例えば、サンドブラスト処理、エッチング処理、高温酸化処理等の粗化処理を施してもよい。これらは単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
この粗化処理後に、さらに洗浄処理を行ってもよい。
図5(a)には、基材10を示している。
【0048】
(2)マスキング工程(基材への塗膜の形成を抑制する工程)
基材上で、表面被覆層の厚さを薄くするべき部位(ここでは、文字部となるべき部位)にマスキング材を貼り付ける。マスキング材としては、マスキングテープ、マスキング用樹脂等を用いることができる。この工程は、マスキング材が貼り付けられた部位において、後述する1回目の塗膜形成工程における塗膜の形成を抑制する工程であるため、「基材への塗膜の形成を抑制する工程」といえる。
図5(b)には、基材10上にマスキング材11を貼り付けた状態を示している。
【0049】
(3)1回目の塗膜形成工程
以下、結晶性無機材及び非晶質無機材を含む表面被覆層を形成する場合を例にして各工程を説明する。
結晶性無機材及び非晶質無機材を混合し、表面被覆層を形成するための塗料(以下、表面被覆層用原料組成物ともいう)を調製する。
具体的には、例えば、結晶性無機材の粉末と、非晶質無機材の粉末とをそれぞれ所定の粒度、形状等になるように調製し、各粉末を所定の配合比率で混合して混合粉末を調製する。さらに、混合粉末に水を加えて、ボールミルで混合することにより表面被覆層用原料組成物を調製する。
ここで、混合粉末と水との配合比は、特に限定されるものでないが、混合粉末100重量部に対して、水100重量部程度が望ましい。金属基材に塗布するために適した粘度となるからである。また、必要に応じて、上記表面被覆層用原料組成物には、有機溶剤等の分散媒及び有機結合材等の結合材を配合してもよい。
【0050】
次に、金属基材の表面に、表面被覆層用原料組成物をコートする。
上記表面被覆層用原料組成物をコートする方法としては、例えば、スプレーコート(霧化塗装)、静電塗装、インクジェット、スタンプやローラ等を用いた転写、ハケ塗り、又は、電着塗装等の方法を用いることができる。
また、上記表面被覆層用原料組成物中に、上記金属基材を浸漬することにより、上記表面被覆層用原料組成物をコートしてもよい。
この工程により、マスキング材が貼り付けられていない部位にのみ塗膜が形成される。
図5(c)には、基材10上のマスキング材11が貼り付けられていない部位に塗膜21が形成された状態を示している。
【0051】
(4)マスキング材の剥離工程
マスキング材を基材から剥離する。マスキング材を剥離すると、マスキング材が貼られていた部位には基材が露出し、マスキング材が貼られていなかった部位には塗膜が形成された状態となる。そのため、マスキング材が貼られていた部位とマスキング材が貼られていなかった部位の間に段差が形成されることとなる。
図5(d)には、基材10からマスキング材11を剥離した状態を示している。
【0052】
(5)2回目の塗膜形成工程
1回目の塗膜形成工程と同様にして、表面被覆層用原料組成物をコートする。
この工程では、基材が露出している部位(マスキング材が貼られていた部位)と塗膜が形成されている部位(マスキング材が貼られていなかった部位)の両方に、同じ程度の厚さの塗膜を形成するようにして、1回目の塗膜形成工程で設けた段差を維持するようにする。
図5(e)には、2回目の塗膜形成工程を行い、厚さが厚い塗膜21a、及び、厚さが薄い途膜21bを形成した状態を示している。
【0053】
(6)加熱工程
続いて、表面被覆層用原料組成物をコートした金属基材に加熱処理を施す。
具体的には、表面被覆層用原料組成物をコートした金属基材を乾燥後、加熱焼成することにより表面被覆層を形成する。
加熱温度は、非晶質無機材の軟化点以上とすることが望ましく、配合した非晶質無機材の種類にもよるが300℃〜1100℃が望ましい。加熱温度を非晶質無機材の軟化点以上の温度とすることにより金属基材と非晶質無機材とを強固に密着させることができる。その結果、金属基材と強固に密着した表面被覆層を形成することができる。
図5(f)には、加熱工程を行い、表面被覆層20が形成された状態を示している。
【0054】
上記手順により形成された表面被覆層には段差が設けられており、表面被覆層の厚さが厚い部位が背景部となり、表面被覆層の厚さが薄い部位が文字部となっている。そして、文字部及び背景部が表面被覆層に含まれる情報表示が形成されている。
【0055】
上記手順により、本発明の第一実施形態に係る排気管の一例である、図1及び図2に示す排気管1Aを作製することができる。
上記手順では、マスキング工程において文字部となるべき部位にマスキング材を貼り付けて図1及び図2に示す排気管1Aを作製したが、背景部となるべき部位にマスキング材を貼り付けて同様の工程を行うことにより、図3及び図4に示す排気管1Bを作製することができる。
【0056】
続いて、本発明の第一実施形態に係る排気管の製造方法の第二の態様について説明する。
この態様では、上述した、排気管の製造方法の第一の態様における手順を変更し、(1)金属からなる基材を準備する工程、(2)1回目の塗膜形成工程、(3)マスキング工程(基材への塗膜の形成を抑制する工程)、(4)2回目の塗膜形成工程、(5)マスキング材の剥離工程、(6)加熱工程、の順序で各工程を行う。
【0057】
上記手順に従うと、1回目の塗膜形成工程では基材上に均一な厚さの塗膜が形成される。マスキング工程では、上記塗膜の上の所定の位置にマスキング材を貼り付ける。
2回目の塗膜形成工程ではマスキング材が貼り付けられていない部位にのみ塗膜が形成される。その結果、2回目の塗膜形成工程を行う時点でマスキング材が貼り付けられていた部位とマスキング材が貼りつけられていなかった部位の間に段差が形成されることとなる。
マスキング材を貼りつける部位は、文字部となるべき部位であってもよく、背景部となるべき部位であってもよい。
【0058】
続いて、本発明の第一実施形態に係る排気管の製造方法の第三の態様について説明する。
図6(a)、図6(b)、図6(c)及び図6(d)は、本発明の第一実施形態に係る排気管の製造方法の第三の態様を模式的に示す工程図であり、図1及び図2に示す排気管1Aを作製する工程を模式的に示している。
【0059】
この態様では、上述した、排気管の製造方法の第一の態様における手順のうち、(1)金属からなる基材を準備する工程、(2)1回目の塗膜形成工程、(3)加熱工程を行って、基材上に表面被覆層を形成した後、以下の工程を行う。
図6(a)には、基材10上に表面被覆層20が形成された状態を示している。
表面被覆層20の厚さは、作製される排気管1Aの背景部50となるべき部位の厚さTaと等しい。
【0060】
(4)マスキング工程
表面被覆層上で、表面被覆層の厚さを厚くするべき部位にマスキング材を貼り付ける。
マスキング材を貼り付ける部位は、図1に示す排気管1Aを作製する場合は、背景部となるべき部位である。逆に、図3に示す排気管1Bを作製する場合は、文字部となるべき部位である。
マスキング材としては、マスキングテープ、マスキング用樹脂等を用いることができるが、後述するショットブラスト工程に耐える材料であることが好ましい。
図6(b)には、表面被覆層20上にマスキング材11を貼り付けた状態を示している。
【0061】
(5)ショットブラスト工程(基材に形成した表面被覆層の一部を除去する工程)
ショットブラストを行い、露出した表面被覆層(マスキング材が貼られていない部位の表面被覆層)を削って除去する。
ショットブラストの条件(時間、投射速度等)を調整することによって表面被覆層の研削量を調整することができる。そして、所定の厚さだけ表面被覆層を研削した段階でショットブラストを終了する。なお、この工程では、金属基材が露出しないように、研削された部分に表面被覆層が残るようにショットブラストの条件を調整する。
ショットブラストにより、マスキング材が貼られていない部位の表面被覆層のみが研削される。
この工程は、「基材に形成した表面被覆層の一部を除去する工程」といえる。
図6(c)には、ショットブラストにより表面被覆層20を研削した状態を模式的に示している。
【0062】
(6)マスキング材の剥離工程
マスキング材を表面被覆層から剥離する。マスキング材を剥離すると、マスキング材が貼られていた部位は表面被覆層の厚さが厚い部位となり、マスキング材が貼られていなかった部位は表面被覆層の厚さが薄い部位となる。
図6(d)には、表面被覆層20からマスキング材11を剥離した状態を示している。
上記工程を経て作製された排気管は図2に示す排気管1Aである。
このようにして形成された、表面被覆層の厚さが厚い部位及び表面被覆層の厚さが薄い部位は、文字部又は背景部となり、文字部及び背景部が表面被覆層に含まれる情報表示が形成される。
【0063】
続いて、本発明の第一実施形態に係る排気管の製造方法の第四の態様について説明する。
図7(a)、図7(b)、図7(c)、図7(d)及び図7(e)は、本発明の第一実施形態に係る排気管の製造方法の第四の態様を模式的に示す工程図である。
この態様では、上述した、本発明の第一実施形態に係る排気管の製造方法の第一の態様における手順のうち、(1)金属からなる基材を準備する工程、(2)1回目の塗膜形成工程を行って、基材上に塗膜を形成した後、以下の工程を行う。
図7(a)には、基材10上に塗膜21が形成された状態を示している。
【0064】
(3)マスキング工程
塗膜上で、塗膜の厚さを厚くするべき部位にマスキング材を貼り付ける。
マスキング工程は、マスキング材を貼り付ける部位が、表面被覆層ではなく塗膜である他は、本発明の第一実施形態に係る排気管の製造方法の第三の態様におけるマスキング工程と同様である。
図7(b)には、塗膜21上にマスキング材11を貼り付けた状態を示している。
【0065】
(4)ショットブラスト工程(基材に形成した塗膜の一部を除去する工程)
ショットブラストを行い、露出した塗膜(マスキング材が貼られていない部位の塗膜)を削って除去する。
ショットブラスト工程は、研削する対象が、表面被覆層ではなく塗膜である他は、本発明の第一実施形態に係る排気管の製造方法の第三の態様におけるショットブラスト工程と同様である。
ショットブラストにより、マスキング材が貼られていない部位の塗膜のみが研削される。
この工程は、「基材に形成した塗膜の一部を除去する工程」といえる。
図7(c)には、ショットブラストにより塗膜21を研削した状態を模式的に示している。
【0066】
(5)マスキング材の剥離工程
マスキング材を塗膜から剥離する。マスキング材を剥離すると、マスキング材が貼られていた部位は塗膜の厚さが厚い部位となり、マスキング材が貼られていなかった部位は塗膜の厚さが薄い部位となる。
図7(d)には、塗膜21からマスキング材11を剥離した状態を示している。
【0067】
(6)加熱工程
本発明の第一実施形態に係る排気管の製造方法の第一の態様における加熱工程と同様にして表面被覆層を形成する。
図7(e)には、加熱工程を行い、表面被覆層20が形成された状態を示している。
上記工程を経て作製された排気管は図2に示す排気管1Aである。
このようにして形成された、表面被覆層の厚さが厚い部位及び表面被覆層の厚さが薄い部位は、文字部又は背景部となり、文字部及び背景部が表面被覆層に含まれる情報表示が形成される。
【0068】
上記手順により、本発明の第一実施形態に係る排気管の一例である、図1、図2、図3及び図4に示す排気管1A及び排気管1Bを製造することができる。
【0069】
以下に、本発明の第一実施形態に係る排気管、及び、本発明の第一実施形態の第一〜第四の態様に係る排気管の製造方法の作用効果について列挙する。
(1)本実施形態の排気管は、金属からなる基材と、上記基材の表面上に形成された非晶質無機材を含む表面被覆層と、文字部と背景部からなる情報表示とを有し、上記文字部及び上記背景部の少なくとも一方は上記表面被覆層に含まれている。
上記構成では、情報表示が文字部と背景部で構成され、上記文字部及び上記背景部の少なくとも一方が上記表面被覆層に含まれている。表面被覆層は非晶質無機材を含んでいるため、エンジンの運転時に加わる熱によって消滅することがない。また、金属基材に刻印がされていないのでエンジンの運転時に加わる振動によって排気管が破損することがない。
【0070】
(2)本実施形態の排気管は、上記文字部と上記背景部では、表面被覆層の厚さが異なる。
本実施形態の排気管では、文字部と背景部には段差があることになる。
文字部と背景部に段差があると、作業者が手で触っただけで他の部位との違いを感じ取ることができる。そのため、段差を排気管の取り付け位置(取り付け方向)に対応させるように設けておくことができる。その結果、識別情報としての文字情報等の情報を付すことができることに加えて、さらに排気管の取り付け時の作業性を向上させることができる。
また、他の部位に比べて表面被覆層の厚さが厚い部分は、他の部位に比べて熱衝撃に起因するクラックが生じやすいため、熱衝撃に対するセンサーともなり得る。このような部位がある場合は、熱衝撃に対する耐久性を、この部位のみをチェックすることによって確かめることができる。その結果、排気管全体のチェックを行う必要がなく、便利である。
【0071】
(3)本実施形態の排気管では、上記情報表示により表示される情報の内容は、製品名、製品番号、製造番号、品種、重量、製品サイズ、適用車種、注記喚起、連絡先及び会社名から選ばれる少なくとも一つの情報である。また、上記文字部で表示される文字は、アルファベット、数字、漢字、ひらがな、カタカナ、記号及びドットから選ばれる少なくとも一つの情報である。
上記情報は、排気管を取り扱う作業者等にとって識別可能な、有益な情報であるため、排気管に設けられる情報表示として好ましい。
【0072】
(4)本実施形態の排気管では、上記非晶質無機材は、軟化点300〜1000℃を有する低融点ガラスであり、SiO−B−ZnO系ガラス、SiO−B−Bi系ガラス、SiO−PbO系ガラス、SiO−PbO−B系ガラス、SiO−B−PbO系ガラス、B−ZnO−PbO系ガラス、B−ZnO−Bi系ガラス、B−Bi系ガラス、B−ZnO系ガラス、BaO−SiO系ガラス及びSiO−BaO−B系ガラスからなる群から選択された少なくとも一種である。
上記低融点ガラスの軟化点が300〜1000℃の範囲にあると、低融点ガラスを融解させて基材(金属材料)の表面上に塗布(コート)した後、加熱焼成処理を施すことにより、金属からなる基材の表面上に表面被覆層を容易にしかも強固に形成することができる。
【0073】
(5)本実施形態の排気管では、上記表面被覆層がさらに結晶性無機材を含み、上記結晶性無機材は、マンガン、鉄、銅、コバルト、クロム及びアルミニウムのうちの少なくとも一種の酸化物からなる無機粒子を含む。
結晶性無機材の熱膨張係数は低く、非晶質無機材の熱膨張係数は高い。そのため、結晶性無機材と非晶質無機材との配合比を調整することにより、表面被覆層の熱膨張係数を制御することができる。従って、表面被覆層と金属からなる基材との熱膨張係数を近付けることにより、表面被覆層と金属からなる基材との密着力を向上させることができる。
【0074】
(6)本実施形態の排気管の製造方法は、金属からなる基材に、文字部と背景部を有し、上記文字部及び上記背景部の少なくとも一方が表面被覆層に含まれている情報表示を形成する工程を含み、上記表面被覆層は、非晶質無機材を含む塗料を塗装して塗膜を形成する塗膜形成工程と、上記塗膜を上記非晶質無機材の軟化点以上の温度に加熱して上記表面被覆層を形成する加熱工程とを含んで形成される。
上記工程により、表面被覆層を形成し、文字部と背景部の少なくとも一方が表面被覆層に含まれている情報表示を形成することによって、情報表示を備えた排気管を製造することができる。
このようにして形成された情報表示は、エンジンの運転時に加わる熱によって消滅することがない。また、エンジンの運転時に加わる振動によって排気管が破損することがない。
【0075】
(7)本実施形態の排気管の製造方法において、上記情報表示を形成する工程は、上記基材への上記塗膜の形成を抑制する工程、及び、上記基材に形成した上記塗膜の一部又は上記表面被覆層の一部を除去する工程のうち少なくとも一つの工程を含む。
また、上記基材への上記塗膜の形成を抑制する工程は、基材をマスキングする工程を含む。
また、上記基材に形成した上記塗膜の一部又は上記表面被覆層の一部を除去する工程は、ショットブラスト工程を含む。
これらの方法では、文字部と背景部での表面被覆層の厚さを異ならせることができる。その結果、表面被覆層の厚さの違いにより識別情報を表示することができる。
【0076】
(実施例)
以下、本発明の第一実施形態をより具体的に開示した実施例を示す。なお、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0077】
(実施例1)
(1)金属からなる基材を準備する工程
金属からなる基材として、長さ100mm×幅100mm×厚さ2.0mmの平板状のステンレス基材(SUS430製)を準備した。
この基材に、アルコール溶媒中で超音波洗浄を行い、続いて、サンドブラスト処理を行って基材の表面(両面)を粗化した。サンドブラスト処理は、♯100のAl砥粒を用いて10分間行った。
表面粗さ測定機((株)東京精密製 ハンディサーフE−35B)を用いて、基材の表面の表面粗さを測定したところ、基材の表面の表面粗さは、RzJIS=10.3μmであった。
表面粗さRzJISは、JIS B 0601(2001)に準拠して測定した。
上記処理により、平板状の基材を準備した。
【0078】
(2)マスキング工程
基材の表面の、文字部となるべき部位にマスキングテープ(品番:3M社製 851T)を貼り付けた。
各実施例における文字部には、「IBIDEN」の文字を、書体を「MS Pゴシック体」とし、文字の線幅1mm、文字の高さ(H)7mm、幅(W)29mmで示すようにした。
文字部の幅W、高さHは、図1に点線で示すような、文字部の全てが入る形状の面の幅、高さである。
【0079】
(3)1回目の塗膜形成工程
(3−1)表面被覆層用原料組成物の調製
無機粒子(結晶性無機材)として、MnO粉末24重量部、FeO粉末8重量部、CuO粉末4重量部及びCoO粉末4重量部からなる金属酸化物粉末を準備した。また、低融点ガラス(非晶質無機材)として、軟化点が720℃のSiO−BaO−B系ガラス粉末(旭硝子株式会社製、K807)60重量部を準備した。
上記金属酸化物粉末及びガラス粉末を混合して、混合粉末を作製した。
続いて、結合材としてメチルセルロース水溶液70重量部(信越化学工業株式会社製、製品名:METOLOSE−65SH)を上記混合粉末に添加し、混合して表面被覆層用原料組成物を調製した。
【0080】
(3−2)表面被覆層用原料組成物のコート
マスキング材を貼り付けた部位を含む、基材の全面に、(3−1)で調製した表面被覆層用原料組成物を約0.4g、スプレーコート(霧化塗装)により塗布した。
【0081】
(4)マスキング材の剥離工程
マスキング材を基材から剥離した。
【0082】
(5)2回目の塗膜形成工程
一部に基材の表面が露出し、一部に表面被覆層用原料組成物が塗布された基材の全体に、(3−1)で調製した表面被覆層用原料組成物を約0.2g、スプレーコート(霧化塗装)により塗布した。
【0083】
(6)加熱工程
表面被覆層用原料組成物が塗布された基材を、乾燥機内で、炉内温度160℃、60分間の条件で乾燥処理した。続いて、加熱炉内で、炉内温度850℃、20分間の条件で加熱して焼成し、表面被覆層を形成した。
上記工程により、特性評価用のサンプルを作製した。
【0084】
実施例1で作製した特性評価用のサンプルでは、文字部における表面被覆層の厚さは5.3μmであり、背景部における表面被覆層の厚さは15.2μmであった。
表面被覆層の厚さは、ISO 2178 (磁性素地上の非磁性被覆‐皮膜厚さ測定‐磁力式試験方法)に準じて測定した。
測定装置としては、膜厚計(Fisher株式会社製 デュアルスコープ MP40E−S)を使用した。
この特性評価用のサンプルについて、以下の手順で識別性の評価、及び、表面被覆層の密着性の評価を行った。
【0085】
(識別性の評価)
表面被覆層に含まれている文字部及び背景部による情報表示の識別性を以下の手順で評価した。
5名の被験者が、それぞれ目視で文字の視認性を判定して点数化した。
判定は3段階(5点:明確に視認できる、3点:視認できる、1点:視認できない)とし、5名の被験者の判定の平均点を算出し、「4点以上:良、2点以上4点未満:可、2点未満:不良」とした。
識別性評価は、特性評価用のサンプルの作製直後(初期状態)、及び、加熱試験後の2通りについて行った。
加熱試験は、加熱炉での加熱による800℃へのサンプル加熱と水中へのサンプルの投入による25℃へのサンプル冷却のサイクルを10サイクル繰り返すことにより行った。
実施例1で作製した特性評価用のサンプルでは、初期状態、加熱試験後のいずれにおいてもその評価は「良」であった。
【0086】
(表面被覆層の密着性の評価)
識別性の評価で加熱試験を行った特性評価用のサンプルの表面を目視で観察し、「良:表面被覆層の脱落及びクラックなし、不可:表面被覆層に脱落あり」として、評価した。
実施例1で作製した特性評価用のサンプルの評価は「良」であった。
【0087】
実施例1で作製した特性評価用のサンプルの特徴及び評価結果を表1にまとめて示した。
「組成」の欄は、文字部又は背景部が表面被覆層に含まれている場合「表面被覆層」としている。
「配合比」の欄は、表面被覆層用塗料中の非晶質無機材と結晶性無機材の配合比(重量比)を「非晶質無機材:結晶性無機材」で表している。
実施例1で用いた表面被覆層用塗料中の配合比は、非晶質無機材:結晶性無機材=6:4である。
すなわち、文字部について、組成:表面被覆層、配合比:6:4、層厚:5.3μm、基材表面粗さ:10.3μmである。背景部について、組成:表面被覆層、配合比:6:4、層厚:15.2μm、基材表面粗さ:10.3μmである。
初期状態の識別性:良、加熱試験後の識別性:良、密着性:良である。
【0088】
(実施例2)
実施例1におけるマスキング工程において、文字部となるべき部位に代えて、背景部となるべき部位に実施例1で用いたものと同じマスキングテープを貼り付けた。文字部のデザインは実施例1と同様とした。
その他の工程は実施例1と同様にして特性評価用のサンプルを作製した。
【0089】
実施例2で作製した特性評価用のサンプルでは、文字部における表面被覆層の厚さは16.1μmであり、背景部における表面被覆層の厚さは4.8μmであった。
識別性の評価を行ったところ、初期状態、加熱試験後のいずれにおいてもその評価は「良」であった。
また、実施例2の特性評価用のサンプルの表面被覆層の密着性の評価は「良」であった。
実施例2で作製した特性評価用のサンプルの特徴及び評価結果を表1にまとめて示した。
すなわち、文字部について、組成:表面被覆層、配合比:6:4、層厚:16.1μm、基材表面粗さ:10.3μmである。背景部について、組成:表面被覆層、配合比:6:4、層厚:4.8μm、基材表面粗さ:10.3μmである。
初期状態の識別性:良、加熱試験後の識別性:良、密着性:良である。
【0090】
(参考例1)
1回目の塗膜形成工程、2回目の塗膜形成工程において塗布する表面被覆層用原料組成物の量をともに0.2gとした他は実施例1と同様にして特性評価用のサンプルを作製した。
文字部における表面被覆層の厚さは5.1μmであり、背景部における表面被覆層の厚さは10.2μmであった。
文字部における表面被覆層の厚さと背景部における表面被覆層の厚さの差は実施例1よりも小さくなっていた。そのため、識別性評価は、初期状態、加熱試験後のいずれにおいても「可」であった。また、参考例1の特性評価用のサンプルの表面被覆層の密着性の評価は「良」であった。
参考例1で作製した特性評価用のサンプルの特徴及び評価結果を表1にまとめて示した。
すなわち、文字部について、組成:表面被覆層、配合比:6:4、層厚:5.1μm、基材表面粗さ:10.3μmである。背景部について、組成:表面被覆層、配合比:6:4、層厚:10.2μm、基材表面粗さ:10.3μmである。
初期状態の識別性:可、加熱試験後の識別性:可、密着性:良である。
【0091】
(参考例2)
1回目の塗膜形成工程、2回目の塗膜形成工程において塗布する表面被覆層用原料組成物の量を、1回目を0.2g、2回目を0.4gに変更した他は実施例1と同様にして特性評価用のサンプルを作製した。
文字部における表面被覆層の厚さは9.8μmであり、背景部における表面被覆層の厚さは15.4μmであった。
文字部における表面被覆層の厚さと背景部における表面被覆層の厚さの差は実施例1よりも小さくなっていた。そのため、識別性評価は、初期状態、加熱試験後のいずれにおいても「可」であった。また、参考例2の特性評価用のサンプルの表面被覆層の密着性の評価は「良」であった。
参考例2で作製した特性評価用のサンプルの特徴及び評価結果を表1にまとめて示した。
すなわち、文字部について、組成:表面被覆層、配合比:6:4、層厚:9.8μm、基材表面粗さ:10.3μmである。背景部について、組成:表面被覆層、配合比:6:4、層厚:15.4μm、基材表面粗さ:10.3μmである。
初期状態の識別性:可、加熱試験後の識別性:可、密着性:良である。
【0092】
(比較例1)
実施例1において用いたステンレス基材(SUS430製)に、アルコール溶媒中で超音波洗浄を行い基材とした。サンドブラスト処理は行わなかった。
この基材に、実施例1における文字部と同じデザインの文字を油性ペン(ゼブラ株式会社製、マッキー極細)で書いて文字部とした。基材上が油性ペンで塗られていない部位を背景部として、特性評価用のサンプルを作製した。
【0093】
(比較例2)
比較例1と同様の基材に対し、比較例1における背景部に相当する部位を油性ペンで塗って背景部として、特性評価用のサンプルを作製した。
基材上が油性ペンで塗られていない部位を文字部とした。
【0094】
比較例1及び比較例2の、文字部及び背景部の「組成」の欄には、基材上を油性ペンで塗った箇所を「基材+油性ペン」と示した。基材上を油性ペンで塗っていない箇所を「基材」と示した。
比較例1及び比較例2で作製した特性評価用のサンプルの識別性の評価は、初期状態では「良」であったが、加熱により油性ペンの色が消失したため、加熱試験後の識別性の評価は「不可」であった。
また、表面被覆層を形成していないため、密着性の評価は行っていない。
比較例1及び比較例2で作製した特性評価用のサンプルの特徴及び評価結果を表1にまとめて示した。
比較例1及び比較例2では、表面被覆層を形成していないため、表1における「配合比」、「層厚」の欄は「−」と示した。また、基材表面粗さは測定していないため、「−」と示した。
すなわち、比較例1の文字部について、組成:基材+油性ペン、配合比:−、層厚:−、基材表面粗さ:−である。比較例1の背景部について、組成:基材、配合比:−、層厚:−、基材表面粗さ:−である。
比較例1では、初期状態の識別性:良、加熱試験後の識別性:不可、密着性:−である。
比較例2の文字部について、組成:基材、配合比:−、層厚:−、基材表面粗さ:−である。比較例2の背景部について、組成:基材+油性ペン、配合比:−、層厚:−、基材表面粗さ:−である。
比較例2では、初期状態の識別性:良、加熱試験後の識別性:不可、密着性:−である。
【0095】
(比較例3)
比較例1と同様の基材(厚さが0.5mmである点のみ異なる)に対し、実施例1における文字部と同じデザインの文字を、英字刻印セット(Monota RO製)を用いてハンマーで打ちつけることによって刻印して文字部として、特性評価用のサンプルを作製した。
刻印がされていない部位を背景部とした。
【0096】
(振動試験)
比較例3で作製した特性評価用のサンプルに対しては、振動試験を行い、刻印に起因する基材の割れの評価を行った。
振動試験は、ASTM D671に記載の方法に準じ、東洋精機製作所製、繰り返し曲げ振動疲労試験機B70TH型を用いて行った。
具体的には、サンプルをASTM D671に記載された形状に加工し、その一端を固定し、他端が上下動可能なように振動試験機に配置した。そして、サンプルに負荷される歪みが1000μmとなるように荷重を設定し、10サイクルの振動試験を行った。その結果、刻印を起点として基材に亀裂が発生しているかどうかを目視により確認した。
表1において、比較例3の、文字部及び背景部の「組成」の欄には、基材上に刻印した部位を文字部として「基材+刻印」と示した。基材上に刻印をしていない部位を背景部として「基材」と示した。
比較例3で作製した特性評価用のサンプルの識別性の評価は、初期状態、加熱試験後ともに「良」であった。
しかし、振動試験後の基材には刻印を起点とした亀裂が生じていた。
【0097】
対照試験として、基材に刻印を行っていない実施例1及び2、参考例1及び2並びに比較例1及び2の特性評価用のサンプルについて、比較例3で行った振動試験と同様の振動試験を行った。その結果、実施例1及び2、参考例1及び2並びに比較例1及び2の特性評価用のサンプルの基材には亀裂が発生していなかった。
【0098】
また、比較例3では、表面被覆層を形成していないため、密着性の評価は行っていない。
比較例3で作製した特性評価用のサンプルの特徴及び評価結果を表1にまとめて示した。
すなわち、文字部について、組成:基材+刻印、配合比:−、層厚:−、基材表面粗さ:−である。背景部について、組成:基材、配合比:−、層厚:−、基材表面粗さ:−である。
初期状態の識別性:良、加熱試験後の識別性:良、密着性:−である。
【0099】
【表1】

【0100】
実施例1及び2の特性評価用のサンプルでは、文字部及び背景部からなる情報表示が形成されており、文字部及び背景部は表面被覆層に含まれている。
そして、文字部と背景部における表面被覆層の厚さが異なるため、文字部により示された情報を識別することができたと考えられる。特に、実施例1及び2では、文字部と背景部における表面被覆層の厚さの差がそれぞれ9.9μm、11.3μmであり、7μm以上と大きいため、初期状態、加熱試験後ともに識別性が優れていたと考えられる。
また、表面被覆層と基材の密着性も良好であり、加熱試験後に表面被覆層にクラックや脱落は存在していなかった。
比較例1及び2の特性評価用のサンプルでは、基材の表面を油性ペンで塗ることにより情報表示が形成されていた。比較例1及び2の特性評価用のサンプルでは、加熱試験後には油性ペンの色が消失しており、識別性が悪くなっていた。
比較例3の特性評価用のサンプルでは、振動試験後の基材には刻印を起点とした亀裂が生じていた。
【0101】
(第二実施形態)
以下、本発明の排気管、及び、排気管の製造方法の一実施形態である第二実施形態について説明する。
本発明の第二実施形態に係る排気管は、文字部又は背景部が金属基材の表面である点で本発明の第一実施形態に係る排気管と異なる。
図8は、本発明の第二実施形態に係る排気管の一例を模式的に示す断面図であり、図9は、本発明の第二実施形態に係る排気管の別の一例を模式的に示す断面図である。
【0102】
図8に示す排気管2Aは、背景部50が基材10の表面である例である。
排気管2Aにおいて、表面被覆層20は、基材10の一部にのみ形成されている。
文字部40は表面被覆層20に含まれており、基材10上に表面被覆層20が形成されていない部位の基材の表面が背景部50となっている。
【0103】
図9に示す排気管2Bは、排気管2Aとは反対に、文字部40が基材10の表面である例である。
背景部50は表面被覆層に含まれており、基材10上に表面被覆層20が形成されていない部位の基材の表面が文字部40となっている。
【0104】
排気管2A及び排気管2Bのように、文字部又は背景部の一方が金属基材の表面であり、文字部又は背景部の他方が表面被覆層に含まれている。そのため、文字部及び背景部が区別されて作業者に視認されるため、文字部及び背景部により情報を表示することができる。
【0105】
次に、本発明の第二実施形態に係る排気管の製造方法について説明する。
本発明の第二実施形態に係る排気管は、本発明の第一実施形態に係る排気管の製造方法の第一の態様において、(1)金属からなる基材を準備する工程、(2)マスキング工程、(3)1回目の塗膜形成工程、(4)マスキング材の剥離工程を行い、2回目の塗膜形成工程を行わずに、(5)加熱工程を行うことにより製造することができる。
【0106】
また、本発明の第二実施形態に係る排気管は、本発明の第一実施形態に係る排気管の製造方法の第三の態様又は第四の態様の「ショットブラスト工程」において、金属基材の表面が露出するようにショットブラストの条件を調整することにより製造することができる。
【0107】
本発明の第二実施形態に係る排気管、及び、排気管の製造方法は、本発明の第一実施形態に係る排気管、及び、排気管の製造方法の作用効果(1)及び(3)〜(6)を発揮することができる。
また、以下の効果を発揮することができる。
(8)本実施形態の排気管では、文字部又は背景部の一方が金属基材の表面であり、文字部又は背景部の他方が表面被覆層に含まれている。
すなわち、本実施形態の排気管では、文字部と背景部には段差があることになる。
文字部と背景部に段差があると、作業者が手で触っただけで他の部位との違いを感じ取ることができる。そのため、段差を排気管の取り付け位置(取り付け方向)に対応させるように設けておくことができる。その結果、識別情報としての文字情報等の情報を付すことができ、さらに、排気管の取り付け時の作業性を向上させることができる。
また、他の部位に比べて表面被覆層の厚さが厚い部分は、他の部位に比べて熱衝撃に起因するクラックが生じやすいため、熱衝撃に対するセンサーともなり得る。このような部位がある場合は、熱衝撃に対する耐久性を、この部位のみをチェックすることによって確かめることができる。そのため、排気管全体のチェックを行う必要がなく、便利である。
【0108】
(9)本実施形態の排気管の製造方法において、上記情報表示を形成する工程は、上記基材への上記塗膜の形成を抑制する工程、及び、上記基材に形成した上記塗膜の一部又は上記表面被覆層の一部を除去する工程のうち少なくとも一つの工程を含む。
また、上記基材への上記塗膜の形成を抑制する工程は、基材をマスキングする工程を含む。
また、上記基材に形成した上記塗膜の一部又は上記表面被覆層の一部を除去する工程は、ショットブラスト工程を含む。
これらの方法では、文字部又は背景部の一方を、金属基材の表面とすることができる。
そして、表面被覆層の厚さの違いにより識別情報を表示することができる。
【0109】
以下、本発明の第二実施形態をより具体的に開示した実施例を示す。なお、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0110】
(実施例3)
(1)金属からなる基材を準備する工程
実施例1の「(1)金属からなる基材を準備する工程」と同様にして平板状の基材を作製した。
【0111】
(2)塗膜形成工程
実施例1の「(3−1)表面被覆層用原料組成物の調製」と同様にして表面被覆層用原料組成物を調整した。(1)で準備した金属基材の全面に、表面被覆層原料組成物を約0.2g、スプレーコート(霧化塗装)により塗布した。
【0112】
(3)加熱工程
表面被覆層用原料組成物が塗布された基材を、乾燥機内で、炉内温度160℃、60分間の条件で乾燥処理した。続いて、加熱炉内で、炉内温度850℃、20分間の条件で加熱して焼成し、表面被覆層を形成した。
【0113】
(4)マスキング工程
表面被覆層の表面の、文字部となるべき部位にマスキングテープ(品番:3M社製 851T)を貼り付けた。文字部のデザインは実施例1と同様とした。
【0114】
(5)ショットブラスト工程(基材に形成した表面被覆層の一部を除去する工程)
マスキング材が貼られていない部位に金属基材の表面が露出するまでショットブラストを行った。
金属基材の露出は目視で確認した。
【0115】
(6)マスキング材の剥離工程
マスキング材を基材から剥離した。
上記工程により、特性評価用のサンプルを作製した。
上記特性評価用のサンプルでは、剥離後のマスキング材が剥離された部分が文字部となり、金属基材が露出した部分が背景部となっていた。
そして、実施例1と同様に識別性及び表面被覆層の密着性の評価を行った。
【0116】
実施例3で作製した特性評価用のサンプルでは、文字部における表面被覆層の厚さは6.1μmであり、背景部における表面被覆層の厚さは0.0μmであった。
実施例3で作製した特性評価用のサンプルについて、識別性の評価を行ったところ、初期状態、加熱試験後のいずれもその評価は「良」であった。また、実施例3の特性評価用のサンプルの表面被覆層の密着性の評価は「良」であった。
実施例3で作製した特性評価用のサンプルの特徴及び評価結果を表2にまとめて示した。
実施例3では、背景部が表面被覆層に含まれておらず、金属基材が露出した部分であるため、背景部における「組成」の欄は「基材」と示している。
すなわち、文字部について、組成:表面被覆層、配合比:6:4、層厚:6.1μm、基材表面粗さ:10.3μmである。背景部について、組成:基材、配合比:−、層厚:0.0μm、基材表面粗さ:10.3μmである。
初期状態の識別性:良、加熱試験後の識別性:良、密着性:良である。
【0117】
(実施例4)
実施例3におけるマスキング工程において、文字部となるべき部位に代えて、背景部となるべき部位に実施例3で用いたものと同じマスキングテープを貼り付けた。文字部のデザインは実施例3と同様とした。
その他の工程は実施例3と同様にして特性評価用のサンプルを作製した。
そして、実施例1と同様に識別性及び表面被覆層の密着性の評価を行った。
【0118】
実施例4で作製した特性評価用のサンプルでは、文字部における表面被覆層の厚さは0.0μmであり、背景部における表面被覆層の厚さは5.2μmであった。
実施例4で作製した特性評価用のサンプルについて、識別性の評価を行ったところ、初期状態、加熱試験後のいずれもその評価は「良」であった。
また、実施例4の特性評価用のサンプルの表面被覆層の密着性の評価は「良」であった。
実施例4で作製した特性評価用のサンプルの特徴及び評価結果を表2にまとめて示した。
実施例4では、文字部が表面被覆層に含まれておらず、金属基材が露出した部分であるため、文字部における「組成」の欄は「基材」と示している。
すなわち、文字部について、組成:基材、配合比:−、層厚:0.0μm、基材表面粗さ:10.3μmである。背景部について、組成:表面被覆層、配合比:6:4、層厚:5.2μm、基材表面粗さ:10.3μmである。
初期状態の識別性:良、加熱試験後の識別性:良、密着性:良である。
【0119】
【表2】

【0120】
実施例3及び4の特性評価用のサンプルでは、初期状態、加熱試験後ともに識別性が優れていた。
また、実施例3及び4の特性評価用のサンプルでは、表面被覆層と基材の密着性も良好であり、加熱試験後に表面被覆層にクラックや脱落は存在していなかった。
【0121】
(第三実施形態)
以下、本発明の排気管、及び、排気管の製造方法の一実施形態である第三実施形態について説明する。
本発明の第三実施形態に係る排気管では、文字部と背景部で表面被覆層の化学組成が異なる。
図10は、本発明の第三実施形態に係る排気管の一例を模式的に示す断面図である。
【0122】
図10に示す排気管3では、文字部40である表面被覆層20aと背景部である表面被覆層20bの化学組成が異なる。図10では、表面被覆層の化学組成が異なることを、ハッチングを区別することによって示している。
表面被覆層の化学組成が異なると、その外観が異なる。色調が異なる場合もあれば、光沢が異なる場合もある。
文字部と背景部の外観が異なると、文字部及び背景部が区別されて作業者に視認される。そのため、文字部及び背景部により情報を表示することができる。
また、表面被覆層の化学組成が異なると、表面粗さが異なる場合もある。その場合は、作業者が手で触っただけで情報を認識することもできる。
【0123】
表面被覆層の化学組成の組み合わせとしては、文字部又は背景部の一方となる表面被覆層が非晶質無機材と結晶性無機材を含む組成であり、文字部又は背景部の他方となる表面被覆層が非晶質無機材のみを含む組成である例が挙げられる。
また、文字部となる表面被覆層と背景部となる表面被覆層で、非晶質無機材の種類が異なる例、結晶性無機材の種類が異なる例、非晶質無機材及び結晶性無機材の種類がいずれも異なる例、非晶質無機材に対する結晶性無機材の含有割合が異なる例、若しくは、これらの例の組み合わせも挙げられる。
【0124】
次に、本発明の第三実施形態に係る排気管の製造方法について説明する。
本発明の第三実施形態に係る排気管は、複数種類の表面被覆層用原料組成物(以下、塗料ともいう)を用いて、基材の文字部となる部位と背景部となる部位に異なる塗料を塗布することによって製造することができる。
基材の文字部となる部位と背景部となる部位に異なる塗料を塗布する方法の一例として、複数種類の塗料として、非晶質無機材と結晶性無機材を含む塗料Aと、非晶質無機材を含み結晶性無機材を含まない塗料Bを用いた例を示す。
また、塗布方法として電着塗装を用いた例を示す。
【0125】
(1)金属からなる基材を準備する工程
本発明の第一実施形態の排気管の製造方法と同様にして金属からなる基材を準備する。
【0126】
(2)電着塗料Aの調製工程
非晶質無機材の粉末と結晶性無機材の粉末を混合し、さらに、電着樹脂を混合粉末に添加し、混合した後、純水を加えて表面被覆層用原料組成物A(以下、電着塗料Aという)を調製する。
電着樹脂としては、アニオン型電着樹脂又はカチオン型電着樹脂を用いることができる。
アニオン型電着樹脂としては、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基等の官能基を有するアクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、マレイン化油、ポリエステル樹脂、ポリブタジエン樹脂が挙げられる。
カチオン型電着樹脂としては、アミノ基、スルフィド基、ホスフィン基等を有するアクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂等が挙げられる。
【0127】
(3)電着塗料Bの調製工程
非晶質無機材の粉末に電着樹脂を添加し、混合した後、純水を加えて表面被覆層用原料組成物B(以下、電着塗料Bという)を調製する。
電着塗料Bの調製に使用する非晶質無機材及び電着樹脂は電着塗料Aの調製に使用した電着樹脂と同じであってもよく、また、異なっていてもよい。
【0128】
(4)第1のマスキング工程(基材への塗膜の形成を抑制する工程)
基材上で、背景部となる部位にマスキング材を貼り付けることによってマスキングを行う。
【0129】
(5)第1の塗膜形成工程
マスキングを施した基材と電極板を電着塗料A中に配置し、基材と電極板に電圧を印加して電着塗装を行う。マスキングが施されていない部位(文字部となる部位)に電着塗料Aが塗布される。
【0130】
(6)第1の乾燥及び硬化工程
上記(5)の工程により電着塗料Aが塗布された基材を、乾燥機内で、炉内温度100〜200℃で5〜90分間加熱することにより、金属基材の表面に形成された電着塗料Aの塗膜を乾燥させ、硬化させる。
【0131】
(7)第1のマスキング剥離工程
基材上に貼り付けたマスキング材を剥離する。
【0132】
(8)第2のマスキング工程(基材への塗膜の形成を抑制する工程)
基材上に塗布された電着塗料A(文字部となる部位)に、マスキング材を貼り付けることによってマスキングを行う。
【0133】
(9)第2の塗膜形成工程
マスキングを施した基材と電極板を電着塗料B中に配置し、基材と電極板に電圧を印加して電着塗装を行う。マスキングが施されていない部位(背景部となる部位)に電着塗料Bが塗布される。
【0134】
(10)第2の乾燥及び硬化工程
上記(9)の工程により電着塗料Bが塗布された基材を、乾燥機内で、炉内温度100〜200℃で5〜90分間加熱することにより、金属基材の表面に形成された電着塗料Bの塗膜を乾燥させ、硬化させる。
【0135】
(11)第2のマスキング剥離工程
電着塗料A上に貼り付けたマスキング材を剥離する。
【0136】
(12)加熱工程
本発明の第一実施形態における加熱工程と同様にして、電着塗料A及び電着塗料Bが塗布された基材を加熱焼成して表面被覆層を形成する。
【0137】
上記手順により本実施形態に係る排気管3を作製することができる。
なお、上記例とは反対に、第1のマスキング工程において、文字部となる部位にマスキングを行い、第1の塗膜形成工程において背景部となる部位に先に電着塗装を行うようにしてもよい。
【0138】
本発明の第三実施形態に係る排気管、及び、排気管の製造方法は、本発明の第一実施形態に係る排気管、及び、排気管の製造方法の作用効果(1)及び(3)〜(6)を発揮することができる。
また、以下の効果を発揮することができる。
(10)本実施形態の排気管では、文字部と背景部では、表面被覆層の化学組成が異なる。
表面被覆層の化学組成が異なると、文字部と背景部の表面被覆層の外観が異なる。そのため、文字部及び背景部が区別されて作業者に視認される。その結果、文字部及び背景部の外観の違いにより情報を表示することができる。
【0139】
(11)本実施形態の排気管の製造方法において、上記基材への上記塗膜の形成を抑制する工程は、基材をマスキングする工程、及び、塗料をはじく材料を上記基材上へ形成する工程から選ばれる少なくとも一つの工程を含み、塗膜形成工程において、化学組成が異なる複数種類の塗料を用いる。
このような方法によると、文字部と背景部で化学組成の異なる表面被覆層を形成することができる。
そのため、文字部及び背景部の外観の違いにより情報を表示することができる。
【0140】
以下、本発明の第三実施形態をより具体的に開示した実施例を示す。なお、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0141】
(実施例5)
(1)金属からなる基材を準備する工程
実施例1の「(1)金属からなる基材を準備する工程」と同様にして平板状の基材を作製した。
【0142】
(2)電着塗料Aの調製工程
実施例1の「(3−1)表面被覆層用原料組成物の調製」と同様にして、金属酸化物粉末及びガラス粉末を混合して、混合粉末を作製した。
反応容器に、単量体組成物と溶媒と重合開始剤とを添加し、単量体組成物を重合させることにより、アニオン型電着樹脂を作製した。具体的には、単量体組成物として、エチルアクリレート13重量部、2−エチルヘキシルメタクリレート30重量部、メチルメタクリレート31重量部、アクリル酸9重量部、2−ヒドロキシエチルアクリレート17重量部、及び、N−メチロールメタクリルアミド4重量部を添加した。また、溶媒として、イソプロピルアルコール(IPA)54重量部、及び、ブチルセロソルブ15重量部を添加した。また、重合開始剤として、アゾビスイソブチロニトリル3重量部を添加した。
金属酸化物粉末及びガラス粉末の混合粉末100重量部に、上記重合により得られたアニオン型電着樹脂170重量部を添加し、混合後、純水を添加混合して、固形分濃度15%の電着塗料Aを調製した。
【0143】
(3)電着塗料Bの調製工程
軟化点が720℃のSiO−BaO−B系ガラス粉末(旭硝子株式会社製、K807)60重量部を準備し、このガラス粉末に、「上記(2)電着塗料Aの調製工程」で説明したアニオン型電着樹脂100重量部を添加し、混合後、純水を添加混合して、固形分濃度15%の電着塗料Bを調製した。
【0144】
(4)第1のマスキング工程
基材上で、背景部となる部位に、マスキングテープ(品番:3M社製 851T)を貼り付けた。
【0145】
(5)第1の塗膜形成工程
上記(2)の工程で作製した電着塗料Aを、上記(4)でマスキングを施した基材の表面に、電着塗装により塗装した。具体的には、上記電着塗料A中に、上記基材と電極板を配置し、上記基材を陽極として機能させ、上記電極板を陰極として機能させて、電圧を印加した。
電着塗装は、電圧100V、浴温26〜32℃、通電時間3分間として、回転式攪拌機を使用して、電着塗料Aを攪拌状態にして行った。
この結果、マスキングが施されていない部位(文字部となる部位)に電着塗料Aが塗布された。
【0146】
(6)第1の乾燥及び硬化工程
上記(5)の工程により電着塗料Aが塗布された基材を、乾燥機内で、炉内温度160℃で60分間加熱することにより、基材の表面に形成された電着塗料Aの塗膜を乾燥させ、硬化させた。
【0147】
(7)第1のマスキング剥離工程
マスキング材を基材から剥離した。
【0148】
(8)第2のマスキング工程
基材上に塗布された電着塗料A(文字部となる部位)に、マスキングテープ(品番:3M社製 851T)を貼り付けた。
【0149】
(9)第2の塗膜形成工程
上記(3)の工程で作製した電着塗料Bを、上記(8)でマスキングを施した基材の表面に、電着塗装により塗装した。電着塗装の方法は、第1の塗膜形成工程と同じであり、この結果、マスキングが施されていない部位(背景部となる部位)に電着塗料Bが塗布された。
【0150】
(10)第2の乾燥及び硬化工程
第1の乾燥及び硬化工程と同様にして基材の表面に形成された電着塗料Bの塗膜を乾燥させ、硬化させた。
【0151】
(11)第2のマスキング剥離工程
マスキング材を基材から剥離した。
【0152】
(12)加熱工程
電着塗料A及び電着塗料Bが塗布された基材を、加熱炉内、炉内温度400℃で60分加熱し、続けて炉内温度850℃で20分間加熱して焼成し、表面被覆層を形成した。
上記工程により、特性評価用のサンプルを作製した。
そして、実施例1と同様に識別性及び表面被覆層の密着性の評価を行った。
【0153】
上記サンプルの文字部における非晶質無機材と結晶性無機材の配合比は、非晶質無機材:結晶性無機材=6:4である。
一方、背景部における非晶質無機材と結晶性無機材の配合比は、非晶質無機材:結晶性無機材=6:0である。
また、文字部における表面被覆層の厚さは5.0μmであり、背景部における表面被覆層の厚さは4.2μmであった。
実施例5の特性評価用のサンプルについて、識別性の評価を行ったところ、初期状態、加熱試験後のいずれもその評価は「良」であった。また、実施例5の特性評価用のサンプルの表面被覆層の密着性の評価は「良」であった。
実施例5で作製した特性評価用のサンプルの特徴及び評価結果を表3にまとめて示した。
すなわち、文字部について、組成:表面被覆層、配合比:6:4、層厚:5.0μm、基材表面粗さ:10.3μmである。背景部について、組成:表面被覆層、配合比:6:0、層厚:4.2μm、基材表面粗さ:10.3μmである。
初期状態の識別性:良、加熱試験後の識別性:良、密着性:良である。
【0154】
(実施例6)
第1の塗膜形成工程において電着塗料Bを用い、第2の塗膜形成工程において電着塗料Aを用いた他は実施例5と同様にして特性評価用のサンプルを作製した。
そして、実施例1と同様に識別性及び表面被覆層の密着性の評価を行った。
【0155】
上記サンプルの文字部における非晶質無機材と結晶性無機材の配合比は、非晶質無機材:結晶性無機材=6:0である。
一方、背景部における非晶質無機材と結晶性無機材の配合比は、非晶質無機材:結晶性無機材=6:4である。
また、文字部における表面被覆層の厚さは6.2μmであり、背景部における表面被覆層の厚さは6.4μmであった。
実施例6の特性評価用のサンプルについて、識別性の評価を行ったところ、初期状態、加熱試験後のいずれもその評価は「良」であった。また、実施例6の特性評価用のサンプルの表面被覆層の密着性の評価は「良」であった。
実施例6で作製した特性評価用のサンプルの特徴及び評価結果を表3にまとめて示した。
すなわち、文字部について、組成:表面被覆層、配合比:6:0、層厚:6.2μm、基材表面粗さ:10.3μmである。背景部について、組成:表面被覆層、配合比:6:4、層厚:6.4μm、基材表面粗さ:10.3μmである。
初期状態の識別性:良、加熱試験後の識別性:良、密着性:良である。
【0156】
(参考例3)
電着塗料Bに代えて化学組成の異なる電着塗料Cを用いた他は実施例5と同様にして特性評価用のサンプルを作製した。そして、実施例1と同様に識別性及び表面被覆層の密着性の評価を行った。
電着塗料Cは以下のように調製した。
無機粒子(結晶性無機材)として、MnO粉末12重量部、FeO粉末4重量部、CuO粉末2重量部及びCoO粉末2重量部からなる金属酸化物粉末、計20重量部を準備した。
軟化点が720℃のSiO−BaO−B系ガラス粉末(旭硝子株式会社製、K807)60重量部を準備した。そして、金属酸化物粉末とガラス粉末を混合して混合粉末を作製した。
金属酸化物粉末とガラス粉末の混合粉末80重量部に、「実施例5の(2)電着塗料Aの調製工程」で説明したアニオン型電着樹脂133重量部を添加し、混合後、純水を添加混合して、固形分濃度15%の電着塗料Cを調製した。
【0157】
上記サンプルの文字部における非晶質無機材と結晶性無機材の配合比は、非晶質無機材:結晶性無機材=6:4である。
一方、背景部における非晶質無機材と結晶性無機材の配合比は、非晶質無機材:結晶性無機材=6:2である。
また、文字部における表面被覆層の厚さは5.2μmであり、背景部における表面被覆層の厚さは5.4μmであった。
参考例3の特性評価用のサンプルについて、識別性の評価を行ったところ、初期状態、加熱試験後のいずれもその評価は「可」であった。また、参考例3の特性評価用のサンプルの表面被覆層の密着性の評価は「良」であった。
参考例3で作製した特性評価用のサンプルの特徴及び評価結果を表3にまとめて示した。
すなわち、文字部について、組成:表面被覆層、配合比:6:4、層厚:5.2μm、基材表面粗さ:10.3μmである。背景部について、組成:表面被覆層、配合比:6:2、層厚:5.4μm、基材表面粗さ:10.3μmである。
初期状態の識別性:可、加熱試験後の識別性:可、密着性:良である。
【0158】
【表3】

【0159】
実施例5及び6の特性評価用のサンプルでは、文字部又は背景部となる表面被覆層の組成比の差がそれぞれ、文字部6:4に対して背景部6:0、又は、文字部6:0に対して背景部6:4と大きいため、初期状態、加熱試験後ともに識別性が優れていたと考えられる。
また、実施例5及び6の特性評価用のサンプルにおいては表面被覆層と基材の密着性も良好であり、加熱試験後に表面被覆層にクラックや脱落は存在していなかった。
【0160】
(第四実施形態)
以下、本発明の排気管、及び、排気管の製造方法の一実施形態である第四実施形態について説明する。
本発明の第四実施形態に係る排気管では、文字部及び背景部の少なくとも一方は、厚み方向に化学組成が異なる複数の層が積層されている。
図11は、本発明の第四実施形態に係る排気管の一例を模式的に示す断面図であり、図12は、本発明の第四実施形態に係る排気管の別の一例を模式的に示す断面図である。
【0161】
図11に示す排気管4Aでは、背景部50は、化学組成の異なる表面被覆層20a及び表面被覆層20bが積層されてなる。文字部40は表面被覆層20aからなる。
反対に、図12に示す排気管4Bでは、文字部40は、化学組成の異なる表面被覆層20a及び表面被覆層20bが積層されてなる。背景部50は表面被覆層20aからなる。
【0162】
排気管4A及び排気管4Bでは、本発明の第一実施形態の排気管と同様に、表面被覆層の厚さが文字部と背景部とで異なっている。さらに、本発明の第三実施形態の排気管と同様に、表面被覆層の化学組成が文字部と背景部とで異なっている。そのため、文字部及び背景部が区別されて作業者に視認されるため、文字部及び背景部の厚さの違い及びの外観の違いによりにより情報を表示することができる。
【0163】
表面被覆層の化学組成の組み合わせは、本発明の第三実施形態の排気管で説明した例と同様にすることができる。
【0164】
次に、本発明の第四実施形態に係る排気管の製造方法について説明する。
本発明の第四実施形態に係る排気管の製造方法としては、本発明の第一実施形態の排気管の製造方法の第二の態様において、1回目の塗膜形成工程と2回目の塗膜形成工程で、化学組成の異なる表面被覆層用原料組成物を使用する方法が挙げられる。
【0165】
具体的には、1回目の塗膜形成工程において、基材の全体に表面被覆層20aとなる塗膜を形成し、本発明の第一実施形態における加熱工程を行って表面被覆層20aを形成し、表面被覆層20aの所定の位置にマスキング材を貼り付ける。
2回目の塗膜形成工程では、1回目の塗膜形成工程で用いた表面被覆層用原料組成物とは化学組成の異なる表面被覆層用原料組成物を用いて、マスキング材が貼り付けられていない部位にのみ表面被覆層20bとなる塗膜を形成する。その後、加熱工程を行って表面被覆層20bを形成する。
その結果、2回目の塗膜形成工程を行う時点でマスキング材が貼り付けられていた部位とマスキング材が貼りつけられていなかった部位の間に段差が形成されることとなる。また、表面被覆層の化学組成が文字部と背景部とで異なることとなる。
マスキング材を貼りつける部位は、文字部となるべき部位であってもよく、背景部となるべき部位であってもよい。
【0166】
本発明の第四実施形態に係る排気管、及び、排気管の製造方法は、本発明の第一実施形態に係る排気管、及び、排気管の製造方法の作用効果(1)〜(6)、及び、本発明の第三実施形態に係る排気管の作用効果(10)を発揮することができる。
また、以下の効果を発揮することができる。
(12)本実施形態の排気管の製造方法において、上記情報表示を形成する工程は、上記基材への上記塗膜の形成を抑制する工程を含む。
上記基材への上記塗膜の形成を抑制する工程は、基材をマスキングする工程を含む。
塗膜形成工程において、化学組成が異なる複数種類の塗料を用いる。
このような方法によると、文字部と背景部で厚さが異なり、かつ、化学組成の異なる表面被覆層を形成することができる。
そして、表面被覆層の厚さの違い、及び、外観の違いにより情報を表示することができる。
【0167】
以下、本発明の第四実施形態をより具体的に開示した実施例を示す。なお、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0168】
(実施例7)
(1)金属からなる基材を準備する工程
実施例1の「(1)金属からなる基材を準備する工程」と同様にして平板状の基材を作製した。
【0169】
(2−1)表面被覆層用原料組成物Aの調製
実施例1の「(3−1)表面被覆層用原料組成物の調製」と同様にして表面被覆層用原料組成物を調製した。この表面被覆層用原料組成物を表面被覆層用原料組成物Aとする。
【0170】
(2−2)表面被覆層用原料組成物Bの調製
低融点ガラス(非晶質無機材)として、軟化点が720℃のSiO−BaO−B系ガラス粉末(旭硝子株式会社製、K807)60重量部を準備し、結合材としてメチルセルロース水溶液40重量部(信越化学工業株式会社製、製品名:METOLOSE−65SH)を上記ガラス粉末に添加し、混合して表面被覆層用原料組成物を調製した。
この表面被覆層用原料組成物を表面被覆層用原料組成物Bとする。
【0171】
(3)表面被覆層用原料組成物Aのコート
基材の全面に、(2−1)で調製した表面被覆層用原料組成物Aを約0.2g、スプレーコート(霧化塗装)により塗布した。
【0172】
(4)1回目の加熱工程
表面被覆層用原料組成物Aが塗布された基材を、乾燥機内で、炉内温度160℃、60分間の条件で乾燥処理した。続いて、加熱炉内で、炉内温度850℃、20分間の条件で加熱して焼成し、表面被覆層(表面被覆層20a)を形成した。
【0173】
(5)マスキング工程
基材の表面の、文字部となるべき部位にマスキングテープ(品番:3M社製 851T)を貼り付けた。
【0174】
(6)表面被覆層用原料組成物Aのコート
マスキング材を貼り付けた部位を含む、基材の全面に、(2−2)で調製した表面被覆層用原料組成物Bを約0.2g、スプレーコート(霧化塗装)により塗布した。
【0175】
(7)マスキング材の剥離工程
マスキング材を基材から剥離した。
【0176】
(8)2回目の加熱工程
表面被覆層用原料組成物Bが塗布された基材を、乾燥機内で、炉内温度160℃、60分間の条件で乾燥処理した。続いて、加熱炉内で、炉内温度850℃、20分間の条件で加熱して焼成し、表面被覆層(表面被覆層20b)を形成した。
上記工程により、特性評価用のサンプルを作製した。
そして、実施例1と同様に識別性及び表面被覆層の密着性の評価を行った。
【0177】
上記サンプルの文字部における非晶質無機材と結晶性無機材の配合比は、非晶質無機材:結晶性無機材=6:4である。また、文字部における表面被覆層の厚さは5.6μmである。
一方、背景部における非晶質無機材と結晶性無機材の配合比は、下層の表面被覆層20aの部分が非晶質無機材:結晶性無機材=6:4であり、上層の表面被覆層20bの部分が非晶質無機材:結晶性無機材=6:0である。
また、背景部における表面被覆層の厚さは、下層の表面被覆層20aの部分が5.6μm、上層の表面被覆層20bの部分が6.1μmである。
実施例7の特性評価用のサンプルについて、識別性の評価を行ったところ、初期状態、加熱試験後のいずれもその評価は「良」であった。また、実施例7の特性評価用のサンプルの表面被覆層の密着性の評価は「良」であった。
実施例7で作製した特性評価用のサンプルの特徴及び評価結果を表4にまとめて示した。
表4には、背景部の配合比を、下層の6:4と上層の6:0の意味で「6:4+6:0」と示した。また、表面被覆層の厚さ(層厚)を、下層の5.6μmと上層の6.1μmの意味で「5.6+6.1」と示した。
すなわち、文字部について、組成:表面被覆層、配合比:6:4、層厚:5.6μm、基材表面粗さ:10.3μmである。背景部について、組成:表面被覆層、配合比:6:4+6:0、層厚:5.6+6.1μm、基材表面粗さ:10.3μmである。
初期状態の識別性:良、加熱試験後の識別性:良、密着性:良である。
【0178】
(実施例8)
実施例7におけるマスキング工程で、背景部となるべき部位にマスキングテープを貼り付けた。その他は実施例7と同様にして特性評価用のサンプルを作製した。
そして、実施例1と同様に識別性及び表面被覆層の密着性の評価を行った。
【0179】
上記サンプルの文字部における非晶質無機材と結晶性無機材の配合比は、下層の表面被覆層20aの部分が非晶質無機材:結晶性無機材=6:4であり、上層の表面被覆層20bの部分が非晶質無機材:結晶性無機材=6:0である。
また、文字部における表面被覆層の厚さは、下層の表面被覆層20aの部分が5.4μm、上層の表面被覆層20bの部分が5.8μmである。
一方、背景部における非晶質無機材と結晶性無機材の配合比は、非晶質無機材:結晶性無機材=6:4である。また、背景部における表面被覆層の厚さは5.4μmである。
実施例8の特性評価用のサンプルについて、識別性の評価を行ったところ、初期状態、加熱試験後のいずれもその評価は「良」であった。また、実施例8の特性評価用のサンプルの表面被覆層の密着性の評価は「良」であった。
実施例8で作製した特性評価用のサンプルの特徴及び評価結果を表4にまとめて示した。
すなわち、文字部について、組成:表面被覆層、配合比:6:4+6:0、層厚:5.4+5.8μm、基材表面粗さ:10.3μmである。背景部について、組成:表面被覆層、配合比:6:4、層厚:5.4μm、基材表面粗さ:10.3μmである。
初期状態の識別性:良、加熱試験後の識別性:良、密着性:良である。
【0180】
【表4】

【0181】
実施例7及び8の特性評価用のサンプルでは、文字部又は背景部となる表面被覆層の厚さが異なり、かつ、化学組成が異なるため、初期状態、加熱試験後ともに識別性が優れていた。
また、表面被覆層と基材の密着性も良好であり、加熱試験後に表面被覆層にクラックや脱落は存在していなかった。
【0182】
(第五実施形態)
以下、本発明の排気管、及び、排気管の製造方法の一実施形態である第五実施形態について説明する。
本発明の第五実施形態に係る排気管では、上記基材の表面には、表面粗さの大きい部位と表面粗さが小さい部位が設けられており、上記文字部は、上記表面粗さの大きい部位と表面粗さが小さい部位のいずれかの上に形成された表面被覆層であり、上記背景部は、上記文字部が形成された部位とは異なる表面粗さを有する部位の上に形成された表面被覆層である。
図13は、本発明の第五実施形態に係る排気管の一例を模式的に示す断面図であり、図14は、本発明の第五実施形態に係る排気管の別の一例を模式的に示す断面図である。
【0183】
図13に示す排気管5Aでは、基材10の表面に、表面粗さの大きい部位10aと表面粗さが小さい部位10bが設けられている。
基材上の任意の1cmの領域内での任意の5点の表面粗さの平均と、他の任意の1cmの領域内での任意の5点の表面粗さの平均を比較したときに、その表面粗さがRzJISで2μmを超えて異なる箇所が存在する場合に、「表面粗さが大きい部位」と「表面粗さが小さい部位」が設けられているとする。
表面粗さRzJISは、JIS B 0601(2001)に準拠して測定される。
【0184】
文字部40は、表面粗さの大きい部位10aの上に形成された表面被覆層20である。背景部50は、表面粗さの小さい部位10bの上に形成された表面被覆層20である。
表面被覆層20を構成する非晶質無機材は、通常は透明な材料である。そのため、表面被覆層の外観は、基材の表面の表面粗さの差異を反映した外観となる。
そして、文字部40と背景部50とでは、基材の表面の表面粗さが異なるためその外観が異なる。
【0185】
図14に示す排気管5Bでは、基材10の表面に、表面粗さの大きい部位10aと表面粗さが小さい部位10bが設けられている点は排気管5Aと同様である。
文字部40は、表面粗さの小さい部位10bの上に形成された表面被覆層20である。背景部50は、表面粗さの大きい部位10aの上に形成された表面被覆層20である。
図14に示す排気管5Bの構成であっても、文字部40と背景部50とでは、基材の表面の表面粗さが異なるためその外観が異なる。
【0186】
従って、排気管5A及び排気管5Bでは、文字部及び背景部が区別されて作業者に視認される。そのため、文字部及び背景部により情報を表示することができる。
【0187】
本発明の第五実施形態に係る排気管において、表面粗さの大きい部位と表面粗さの小さい部位の表面粗さの差は、RzJISで2μm以上であることが好ましい。
上記表面粗さの差がRzJISで2μm以上であると、文字部と背景部の外観が明確に区別されるようになり、識別性がより高くなる。
また、表面粗さの大きい部位と表面粗さの小さい部位の表面粗さの差は、RzJISで20μm以下であることが好ましい。
表面粗さの差がRzJISで20μmを超える場合、表面粗さがRzJISで20μmを超える部分が存在することになり、この部分は表面被覆層との密着性が弱くなり易いためである。
また、表面粗さの大きい部位における基材の表面の表面粗さはRzJISで5μm〜14μmであることが望ましく、表面粗さの小さい部位における基材の表面の表面粗さはRzJISで0.1μm〜3.0μmであることが望ましい。
表面粗さの大きい部位における基材の表面の表面粗さ、及び、表面粗さの大きい部位における基材の表面の表面粗さを上記範囲とすると、表面粗さの大きい部位と表面粗さの小さい部位の表面粗さの差を一定の範囲に制御することができる。
【0188】
本発明の第五実施形態に係る排気管において、表面被覆層の厚さは、7μm以下であることが望ましい。表面被覆層の厚さが7μm以下であると、表面被覆層の表面から基材の表面までの距離が近く、表面被覆層の外観が基材の表面の表面粗さの差異を反映しやすくなるため好ましい。
また、表面被覆層の厚さは、1μm以上であることが望ましい。
表面被覆層の厚さが1μm以上であると、表面被覆層を設けることによる断熱性能が発揮されやすいためである。
【0189】
次に、本発明の第五実施形態に係る排気管の製造方法について、図13に示す排気管5Aを作製する場合を例にして説明する。
(1)金属からなる基材を準備し、洗浄する工程
本発明の第一実施形態の排気管の製造方法の第一の態様(1)で説明した手順と同様にして、金属からなる基材を準備し、洗浄処理を行う。
【0190】
(2)マスキング工程
基材の表面上で、表面粗さの小さい部位となるべき部位(ここでは、背景部となるべき部位)にマスキング材を貼り付ける。マスキング材としては、マスキングテープ、マスキング用樹脂等を用いることができる。
後述する粗化処理に耐える材料であることが好ましい。
【0191】
(3)粗化処理工程
基材の表面の露出した部分(ここでは、文字部となるべき部位)に粗化処理を施し、基材の表面を粗化する。
粗化処理の方法としては、例えば、サンドブラスト、エッチング、高温酸化処理、ショットブラスト、研磨、溶出、又は、切削等の粗化処理方法を用いることができる。
を施してもよい。これらは単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
この粗化処理後に、さらに洗浄処理を行ってもよい。
【0192】
(4)マスキング材の剥離工程
マスキング材を基材から剥離する。マスキング材を剥離すると、マスキング材が貼られていた部位は表面粗さの小さい部位となり、マスキング材が貼られていなかった部位は表面粗さが大きい部位となる。
【0193】
(5)塗膜形成工程〜加熱工程
本発明の第一実施形態の排気管の製造方法の第一の態様「(3)1回目の塗膜形成工程」及び「(6)加熱工程」の手順と同様にして、基材の表面全体に表面被覆層を形成する。
このようにして形成された、基材の表面粗さの大きい部位の上に形成された表面被覆層は文字部となり、基材の表面粗さが小さい部位の上に形成された表面被覆層は背景部となり、文字部及び背景部が表面被覆層に含まれている情報表示が形成される。
また、塗膜形成工程として、本発明の第三実施形態の排気管の製造方法で説明した、電着塗料を用いた電着塗装を行ってもよい。
【0194】
なお、(2)マスキング工程において、背景部となるべき部位に代えて、文字部となるべき部位にマスキング材を貼り付けた場合、基材の表面粗さの大きい部位の上に形成された表面被覆層は背景部となり、基材の表面粗さが小さい部位の上に形成された表面被覆層は文字部となる。
【0195】
上記手順により、本発明の第五実施形態に係る排気管の一例である、図13及び図14に示す排気管5A及び排気管5Bを製造することができる。
【0196】
本発明の第五実施形態に係る排気管、及び、排気管の製造方法は、本発明の第一実施形態に係る排気管、及び、排気管の製造方法の作用効果(1)、(3)〜(6)を発揮することができる。
また、以下の効果を発揮することができる。
(13)本実施形態の排気管では、基材の表面には、表面粗さの大きい部位と表面粗さが小さい部位が設けられており、上記文字部は、上記表面粗さの大きい部位と表面粗さが小さい部位のいずれかの上に形成された表面被覆層であり、上記背景部は、上記文字部が形成された部位とは異なる表面粗さを有する部位の上に形成された表面被覆層である。
表面被覆層の外観は、基材の表面の表面粗さの差異を反映した外観となる。そのため、文字部及び背景部が区別されて作業者に視認される。その結果、文字部及び背景部により情報を表示することができる。
【0197】
(14)本実施形態の排気管の製造方法では、情報表示を形成する工程は、上記基材の表面に表面粗さの大きい部位と表面粗さが小さい部位を設ける工程を含む。
このような方法によると、文字部と背景部での表面被覆層の外観を異ならせることができる。
そのため、文字部と背景部での表面被覆層の外観の違いにより、情報を表示することができる。
【0198】
以下、本発明の第五実施形態をより具体的に開示した実施例を示す。なお、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0199】
(実施例9)
(1)金属からなる基材を準備し、洗浄する工程
金属からなる基材として、長さ100mm×幅100mm×厚さ2.0mmの平板状のステンレス基材(SUS430製)を準備した。
この基材に、アルコール溶媒中で超音波洗浄を行った。
【0200】
(2)マスキング工程
基材の表面の、背景部となるべき部位にマスキングテープ(品番:3M社製 851T)を貼り付けた。
【0201】
(3)粗化処理工程
続いて、サンドブラスト処理を行って基材の表面(両面)を粗化した。サンドブラスト処理は、♯100のAl砥粒を用いて10分間行った。
【0202】
(4)マスキング材の剥離工程
マスキング材を基材から剥離した。
表面粗さ測定機((株)東京精密製 ハンディサーフE−35B)を用いて、マスキング材が貼られていた部位(背景部となるべき部位)、及び、マスキング材が貼られていなかった部位(文字部となるべき部位)の基材の表面の表面粗さを測定した。
背景部となるべき部位の表面粗さは、RzJIS=1.6μmであった。
文字部となるべき部位の表面粗さは、RzJIS=10.3μmであった。
【0203】
(5)塗膜形成工程〜加熱工程
実施例5の「(2)電着塗料Aの調製工程」と同様にして、固形分濃度15%の電着塗料Aを調製した。
この電着塗料Aを用いて、実施例5の「(5)第1の塗膜形成工程」と同様にして、基材の表面の全体に電着塗料Aを塗布した。
その後、電着塗料Aが塗布された基材を、加熱炉内、炉内温度400℃で60分加熱し、続けて炉内温度850℃で20分間加熱して焼成し、表面被覆層を形成した。
上記工程により、特性評価用のサンプルを作製した。
そして、実施例1と同様に識別性及び表面被覆層の密着性の評価を行った。
【0204】
実施例9の特性評価用のサンプルの文字部における表面被覆層の厚さは4.7μmであり、背景部における表面被覆層の厚さは4.5μmであった。
実施例9の特性評価用のサンプルについて、識別性の評価を行ったところ、初期状態、加熱試験後のいずれもその評価は「良」であった。また、実施例9の特性評価用のサンプルの表面被覆層の密着性の評価は「良」であった。
実施例9で作製した特性評価用のサンプルの特徴及び評価結果を表5にまとめて示した。
すなわち、文字部について、組成:表面被覆層、配合比:6:4、層厚:4.7μm、基材表面粗さ:10.3μmである。背景部について、組成:表面被覆層、配合比:6:4、層厚:4.5μm、基材表面粗さ:1.6μmである。
初期状態の識別性:良、加熱試験後の識別性:良、密着性:良である。
【0205】
(実施例10)
実施例9におけるマスキング工程で、背景部となるべき部位にマスキングテープを貼り付けた。その他は実施例9と同様にして特性評価用のサンプルを作製した。
そして、実施例1と同様に識別性及び表面被覆層の密着性の評価を行った。
【0206】
実施例10の特性評価用のサンプルでは、背景部となるべき部位の基材の表面の表面粗さは、RzJIS=10.3μmであった。
文字部となるべき部位の基材の表面の表面粗さは、RzJIS=1.6μmであった。
実施例10の特性評価用のサンプルの文字部における表面被覆層の厚さは4.9μmであり、背景部における表面被覆層の厚さは4.9μmであった。
実施例10の特性評価用のサンプルについて、識別性の評価を行ったところ、初期状態、加熱試験後のいずれもその評価は「良」であった。また、実施例10の特性評価用のサンプルの表面被覆層の密着性の評価は「良」であった。
実施例10で作製した特性評価用のサンプルの特徴及び評価結果を表5にまとめて示した。
すなわち、文字部について、組成:表面被覆層、配合比:6:4、層厚:4.9μm、基材表面粗さ:1.6μmである。背景部について、組成:表面被覆層、配合比:6:4、層厚:4.9μm、基材表面粗さ:10.3μmである。
初期状態の識別性:良、加熱試験後の識別性:良、密着性:良である。
【0207】
(参考例4)
実施例9の「(3)粗化処理工程」におけるサンドブラスト処理において、砥粒の番手を♯220に変更した。その他の手順は実施例9と同様にして評価用のサンプルを作製した。
そして、実施例1と同様に識別性及び表面被覆層の密着性の評価を行った。
背景部となるべき部位の基材の表面の表面粗さは、RzJIS=1.6μmであった。
文字部となるべき部位の基材の表面の表面粗さは、RzJIS=3.0μmであった。
【0208】
参考例4の特性評価用のサンプルの文字部における表面被覆層の厚さは5.3μmであり、背景部における表面被覆層の厚さは5.7μmであった。
参考例4の特性評価用のサンプルについて、識別性の評価を行ったところ、初期状態、加熱試験後のいずれもその評価は「可」であった。また、参考例4の特性評価用のサンプルの表面被覆層の密着性の評価は「良」であった。
参考例4で作製した特性評価用のサンプルの特徴及び評価結果を表5にまとめて示した。
すなわち、文字部について、組成:表面被覆層、配合比:6:4、層厚:5.3μm、基材表面粗さ:3.0μmである。背景部について、組成:表面被覆層、配合比:6:4、層厚:5.7μm、基材表面粗さ:1.6μmである。
初期状態の識別性:可、加熱試験後の識別性:可、密着性:良である。
【0209】
(参考例5)
実施例9の「(5)塗膜形成工程」における電着塗装において、通電時間を10分間に変更し、実施例9よりも厚さの厚い塗膜を形成した。その他の手順は実施例9と同様にして特性評価用のサンプルを作製した。
そして、実施例1と同様に識別性及び表面被覆層の密着性の評価を行った。
背景部となるべき部位の基材の表面の表面粗さは、RzJIS=1.6μmであった。
文字部となるべき部位の基材の表面の表面粗さは、RzJIS=10.3μmであった。
【0210】
上記サンプルの文字部における表面被覆層の厚さは8.2μmであり、背景部における表面被覆層の厚さは8.0μmであった。
参考例5の特性評価用のサンプルについて、識別性の評価を行ったところ、初期状態、加熱試験後のいずれもその評価は「可」であった。また、参考例5の特性評価用の表面被覆層の密着性の評価は「良」であった。
参考例5で作製した特性評価用のサンプルの特徴及び評価結果を表5にまとめて示した。
すなわち、文字部について、組成:表面被覆層、配合比:6:4、層厚:8.2μm、基材表面粗さ:10.3μmである。背景部について、組成:表面被覆層、配合比:6:4、層厚:8.0μm、基材表面粗さ:1.6μmである。
初期状態の識別性:可、加熱試験後の識別性:可、密着性:良である。
【0211】
【表5】

【0212】
実施例9及び10の特性評価用のサンプルでは、基材の表面に表面粗さの大きい部位(それぞれ文字部又は背景部が10.3μm)と表面粗さの小さい部位(それぞれ背景部又は文字部が1.6μm)が設けられており、さらに、その表面粗さの差が大きい(それぞれ8.7μm)ために、初期状態、加熱試験後ともに識別性が優れていた。
また、実施例9の特性評価用のサンプルでは表面被覆層の厚さが文字部で4.7μm、背景部で4.5μmであり、実施例10の特性評価用のサンプルでは表面被覆層の厚さが文字部及び背景部で4.9μmであり、ともに表面被覆層の厚さが厚すぎないために、初期状態、加熱試験後ともに識別性が優れていたと考えられる。
また、実施例9及び10の特性評価用のサンプルでは表面被覆層と基材の密着性も良好であり、加熱試験後に表面被覆層にクラックや脱落は存在していなかった。
【0213】
(その他の実施形態)
本発明の排気管において、情報表示の大きさは、排気管の表面積の1〜30%であることが好ましい。
情報表示の大きさが排気管の表面積の1%以上であると、情報表示の大きさが充分に大きく、作業者が容易に情報表示を視認することができる。
また、情報表示の大きさが排気管の表面積の30%以下であると、情報表示の存在が排気管の断熱性能に与える影響が小さいため好ましい。
情報表示の大きさは、図1に点線で示すような、文字部の全てが入る形状の面(幅W、高さH)を排気管の表面に描き、その面積として定めることができる。
幅Wは、0.5〜4500mmであることが望ましく、高さHは、3.0〜350mmであることが望ましい。
【0214】
文字部を構成する文字の線幅は、0.5〜50mmであることが望ましく、0.6〜30mmがより望ましく、0.7〜10mmが更に望ましい。
文字の線幅が0.5mm以上であると、作業者が容易に情報表示を視認することができる。また、排気管の作製時に文字部を容易に形成することができる。
文字の線幅が50mm以下であると、文字の大きさを大きくし過ぎることなく、作業者にとって視認し易い情報表示とすることができる。
【0215】
本発明の排気管において、基材の形状は、平板、半円筒、円筒状の他、その断面の外縁の形状は、楕円形、多角形等の任意の形状であってもよい。
排気管の基材が筒状体である場合、基材の径が長手方向に沿って一定でなくてもよく、また、長さ方向に垂直な断面形状が長手方向に沿って一定でなくてもよい。
【0216】
本発明の排気管において、基材の厚さの望ましい下限は0.2mm、より望ましい下限は0.4mmであり、望ましい上限は10mm、より望ましい上限は4mmである。
排気管の基材の厚さが0.2mm未満であると、排気管の強度が不足する。また、排気管の基材の厚さが10mmを超えると、排気管の重量が大きくなり、例えば、自動車等の車輌に搭載することが難しくなり、実用に適しにくくなる。
【0217】
本発明の排気管を製造する際に、マスキング工程で用いられるマスキング材としては、表面被覆層用原料組成物のコートをスプレーコートにより行う場合には、文字部又は背景部の形状が切り抜かれた鉄板、紙等を用いても良い。
【0218】
本発明の排気管の製造方法において、基材への塗膜の形成を抑制する工程として、基材をマスキングする工程に代えて、塗料をはじく材料を基材上に形成する工程を行っても良い。
塗料をはじく材料を基材上に形成すると、塗料をはじく材料の上には塗料は塗布されないので、基材をマスキングした場合と同様に塗膜が形成される場所を定めることができる。
塗料をはじく材料としては、油が挙げられる。
【0219】
本発明の排気管を製造する際に、塗膜の一部若しくは表面被覆層の一部を除去するため、又は、基材の表面に表面粗さの大きい部位を設けるためには、サンドブラストを用いてもよい。サンドブラストを用いる場合、サンドブラストの条件を変更することによって、塗膜若しくは表面被覆層の除去量、又は、基材の表面粗さを所定の範囲に調整することができる。
変更可能なサンドブラストの条件としては、砥粒の粒径(番手)、砥粒の噴射時間、砥粒の噴射圧力が挙げられる。
なお、本発明の排気管を製造する方法の説明においてショットブラストを用いて説明した各工程においては、サンドブラストが用いられてもよい。
【0220】
本発明の排気管を製造する際に用いられる表面被覆層用原料組成物が結晶性無機材及び非晶質無機材を含む場合、非晶質無機材の配合量は、非晶質無機材の粉末と結晶性無機材の粉末の合計重量に対して、望ましい下限が50重量%、望ましい上限が99.5重量%である。
排気管の表面被覆層に含まれる非晶質無機材の配合量が50重量%未満では、排気管の表面被覆層と基材の接着に寄与する非晶質無機材の量が少なすぎるので、製造された排気管において表面被覆層が脱落しやすくなる。一方、排気管の表面被覆層に含まれる非晶質無機材の配合量が99.5重量%を超えると、結晶性無機材の量が少なくなり、排気管の表面被覆層と基材との密着性が向上する効果が充分に得られにくくなる。上記表面被覆層用原料組成物に含まれる非晶質無機材の配合量は、より望ましい下限が60重量%であり、より望ましい上限が95重量%である。
【0221】
本発明の排気管を製造する際に用いられる表面被覆層用原料組成物が結晶性無機材及び非晶質無機材を含む場合、結晶性無機材の配合量は、非晶質無機材の粉末と結晶性無機材の粉末の合計重量に対して、望ましい下限が0.5重量%、望ましい上限が50重量%である。
排気管の表面被覆層に含まれる結晶性無機材の配合量が0.5重量%未満では、排気管の表面被覆層と基材との密着に寄与する結晶性無機材の量が少なすぎるので、排気管の表面被覆層と基材との密着性が向上する効果が充分に得られにくくなる。一方、排気管の表面被覆層に含まれる結晶性無機材の配合量が50重量%を超えると、排気管の表面被覆層と基材の接着に寄与する非晶質無機材の量が少なくなり、製造された排気管において表面被覆層が脱落することがある。
【0222】
排気管の表面被覆層を構成する材料のうち、遷移金属の酸化物からなる結晶性無機材の熱膨張係数は8〜9×10−6/℃と低いことが望ましく、低融点ガラスからなる非晶質無機材の熱膨張係数は8〜25×10−6/℃と高いことが望ましい。そのため、上記結晶性無機材と上記非晶質無機材との配合比を調整することにより、排気管の表面被覆層の熱膨張係数を制御することができる。一方、基材を構成する材料のうち、ステンレスの熱膨張係数は10〜18×10−6/℃である。従って、上記結晶性無機材と上記非晶質無機材との配合比を調整することにより、排気管の表面被覆層と基材との熱膨張係数を近付けることができる。その結果、排気管の表面被覆層と基材との密着力を向上させることができる。
排気管の表面被覆層の熱膨張係数と、基材の熱膨張係数との差は、10×10−6/℃以下であることが望ましい。両者の熱膨張係数の差が10×10−6/℃以下であると、両者の密着性が強くなるため、排気管の表面被覆層が高温に曝される場合であっても、両者の間での剥離、又は、排気管の表面被覆層及び基材の変形もしくは破損が発生しにくくなる。
【0223】
本発明の排気管を製造する際に用いられる表面被覆層用原料組成物に配合することのできる分散媒としては、例えば、水や、メタノール、エタノール、アセトン等の有機溶媒等が挙げられる。表面被覆層用原料組成物に含まれる混合粉末又は非晶質無機材の粉末と分散媒との配合比は、特に限定されるものでないが、例えば、混合粉末又は非晶質無機材の粉末100重量部に対して、分散媒が50〜150重量部であることが望ましい。基材に塗布するのに適した粘度となるからである。
表面被覆層用原料組成物に配合することのできる有機結合材としては、例えば、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
また、分散媒と有機結合材とを併用してもよい。
【0224】
本発明の排気管においては、金属からなる基材と、上記基材の表面上に形成された非晶質無機材を含む表面被覆層と、文字部と背景部からなる情報表示を有し、上記文字部及び上記背景部の少なくとも一方は上記表面被覆層に含まれていることが必須の構成要素である。
係る必須の構成要素に、本発明の第一実施形態〜第五実施形態、及び、本発明のその他の実施形態で詳述した種々の構成(例えば、文字部及び背景部における表面被覆層の厚さの関係、表面被覆層の化学組成等)を適宜組み合わせることにより所望の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0225】
1A、1B、2A、2B、3、4A、4B、5A、5B 排気管
10 基材
10a 基材の表面の表面粗さの大きい部位
10b 基材の表面の表面粗さの小さい部位
11 マスキング材
20 表面被覆層
21 塗膜
30 情報表示
40 文字部
50 背景部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属からなる基材と、
前記基材の表面上に形成された非晶質無機材を含む表面被覆層と、
文字部と背景部からなる情報表示を有し、
前記文字部及び前記背景部の少なくとも一方は前記表面被覆層に含まれていることを特徴とする排気管。
【請求項2】
前記文字部と前記背景部では、表面被覆層の厚さが異なる請求項1に記載の排気管。
【請求項3】
前記文字部の表面被覆層の厚さは、前記背景部の表面被覆層の厚さよりも厚い請求項2に記載の排気管。
【請求項4】
前記文字部又は前記背景部の一方は、金属基材の表面からなる請求項1に記載の排気管。
【請求項5】
前記文字部は、金属基材の表面からなる請求項4に記載の排気管。
【請求項6】
前記文字部と前記背景部では、表面被覆層の化学組成が異なり、
前記文字部若しくは前記背景部の一方となる表面被覆層が非晶質無機材と結晶性無機材を含む組成であり、かつ、前記文字部若しくは前記背景部の他方となる表面被覆層が非晶質無機材のみを含む組成である、又は、
前記文字部となる表面被覆層と前記背景部となる表面被覆層で、非晶質無機材の種類が異なる、結晶性無機材の種類が異なる、非晶質無機材及び結晶性無機材の種類がいずれも異なる、若しくは、非晶質無機材に対する結晶性無機材の含有割合が異なる、請求項1〜3のいずれかに記載の排気管。
【請求項7】
前記文字部及び前記背景部の少なくとも一方は、厚み方向に化学組成が異なる複数の層が積層されてなり、
前記化学組成が異なる複数の層では、一方の層が非晶質無機材と結晶性無機材を含む組成であり、かつ、他方の層が非晶質無機材のみを含む組成である、又は、
前記化学組成が異なる複数の層では、非晶質無機材の種類が異なる、結晶性無機材の種類が異なる、非晶質無機材及び結晶性無機材の種類がいずれも異なる、若しくは、非晶質無機材に対する結晶性無機材の含有割合が異なる、請求項1〜3のいずれかに記載の排気管。
【請求項8】
前記基材の表面には、表面粗さの大きい部位と表面粗さが小さい部位が設けられており、
前記文字部は、上記表面粗さの大きい部位と表面粗さが小さい部位のいずれかの上に形成された表面被覆層であり、
前記背景部は、前記文字部が形成された部位とは異なる表面粗さを有する部位の上に形成された表面被覆層である、請求項1〜3のいずれかに記載の排気管。
【請求項9】
前記情報表示により表示される情報の内容は、製品名、製品番号、製造番号、品種、重量、製品サイズ、適用車種、注記喚起、連絡先及び会社名から選ばれる少なくとも一つの情報である1〜8のいずれかに記載の排気管。
【請求項10】
前記文字部で表示される文字は、アルファベット、数字、漢字、ひらがな、カタカナ、記号及びドットから選ばれる少なくとも一つの情報である1〜9のいずれかに記載の排気管。
【請求項11】
前記非晶質無機材は、軟化点300〜1000℃を有する低融点ガラスであり、SiO−B−ZnO系ガラス、SiO−B−Bi系ガラス、SiO−PbO系ガラス、SiO−PbO−B系ガラス、SiO−B−PbO系ガラス、B−ZnO−PbO系ガラス、B−ZnO−Bi系ガラス、B−Bi系ガラス、B−ZnO系ガラス、BaO−SiO系ガラス及びSiO−BaO−B系ガラスからなる群から選択された少なくとも一種である請求項1〜10のいずれかに記載の排気管。
【請求項12】
前記表面被覆層がさらに結晶性無機材を含む請求項1〜11のいずれかに記載の排気管。
【請求項13】
前記結晶性無機材は、マンガン、鉄、銅、コバルト、クロム及びアルミニウムのうちの少なくとも一種の酸化物からなる無機粒子を含む請求項12に記載の排気管。
【請求項14】
金属からなる基材の表面に、非晶質無機材を含む表面被覆層を形成する工程と、
文字部と背景部からなる情報表示を形成する工程とを含み、
前記文字部及び前記背景部の少なくとも一方は表面被覆層に含まれており、
前記表面被覆層は、非晶質無機材を含む塗料を塗装して塗膜を形成する塗膜形成工程と、前記塗膜を前記非晶質無機材の軟化点以上の温度に加熱して前記表面被覆層を形成する加熱工程とを含んで形成されることを特徴とする排気管の製造方法。
【請求項15】
前記情報表示を形成する工程は、
前記基材への前記塗膜の形成を抑制する工程、前記基材への前記塗膜の形成を促進する工程、及び、前記基材に形成した前記塗膜の一部又は前記表面被覆層の一部を除去する工程のうち少なくとも一つの工程を含む請求項14に記載の排気管の製造方法。
【請求項16】
前記基材への前記塗膜の形成を抑制する工程は、
基材をマスキングする工程、及び、塗料をはじく材料を前記基材上へ形成する工程から選ばれる少なくとも一つの工程を含む請求項15に記載の排気管の製造方法。
【請求項17】
前記基材への前記塗膜の形成を促進する工程は、
表面に凹凸形状を有する転写ローラーを用いた転動転写工程、表面に凹凸形状を有する平板形状を有する平板を用いた押印転写工程、及び、液体噴霧ヘッドから液体を噴霧させる液体噴霧工程から選ばれる少なくとも一つの工程を含む請求項15又は16に記載の排気管の製造方法。
【請求項18】
前記基材に形成した前記塗膜の一部又は上記表面被覆層の一部を除去する工程は、
ショットブラスト、サンドブラスト、研磨、溶出、及び、切削から選ばれる少なくとも一つの工程を含む請求項15〜17のいずれかに記載の排気管の製造方法。
【請求項19】
前記塗膜形成工程は、霧化塗装、液体静電塗装、粉体静電塗装、電着塗装、及び、ディッピングから選ばれる少なくとも一つの工程を含む請求項14〜18のいずれかに記載の排気管の製造方法。
【請求項20】
前記非晶質無機材を軟化点以上に加熱する温度は、300〜1000℃である請求項14〜19のいずれかに記載の排気管の製造方法。
【請求項21】
前記塗膜形成工程は、化学組成が異なる複数種類の塗料を用いて文字部となる部分と背景部となる部分で化学組成が異なる表面被覆層を形成する工程を含み、
前記化学組成が異なる複数種類の塗料は、一方の塗料が非晶質無機材と結晶性無機材を含む組成であり、かつ、他方の塗料が非晶質無機材のみを含む組成である、又は、
前記化学組成が異なる複数種類の塗料は、非晶質無機材の種類が異なる、結晶性無機材の種類が異なる、非晶質無機材及び結晶性無機材の種類がいずれも異なる、若しくは、非晶質無機材に対する結晶性無機材の含有割合が異なる、請求項14〜20のいずれかに記載の排気管の製造方法。
【請求項22】
前記塗膜形成工程において、第1の塗膜形成工程と、第1の塗膜形成後にさらに塗膜を積層させる第2の塗膜形成工程を含む請求項14〜21のいずれかに記載の排気管の製造方法。
【請求項23】
前記第1の塗膜形成工程と、前記第2の塗膜形成工程の間に、非晶質無機材の軟化点以上の温度に加熱する工程を含む請求項22に記載の排気管の製造方法。
【請求項24】
前記情報表示を形成する工程は、前記基材の表面に表面粗さの大きい部位と表面粗さが小さい部位を設ける工程をさらに含む請求項14〜23のいずれかに記載の排気管の製造方法。
【請求項25】
前記基材の表面に表面粗さの大きい部位と表面粗さが小さい部位を設ける工程は、ショットブラスト、サンドブラスト、研磨、溶出及び切削から選ばれる少なくとも一つの工程を含む請求項24に記載の排気管の製造方法。
【請求項26】
前記非晶質無機材は、軟化点300〜1000℃を有する低融点ガラスである請求項14〜25のいずれかに記載の排気管の製造方法。
【請求項27】
前記塗料がさらに結晶性無機材を含む請求項14〜26のいずれかに記載の排気管の製造方法。
【請求項28】
前記結晶性無機材は、マンガン、鉄、銅、コバルト、クロム、アルミニウムのうちの少なくとも一種の酸化物からなる無機粒子を含む請求項27に記載の排気管の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−202380(P2012−202380A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−70412(P2011−70412)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000000158)イビデン株式会社 (856)
【Fターム(参考)】