説明

排痰促進装置

【課題】安全かつ簡便に利用できる、効果的な排痰装置を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂を原料又は主原料として、押し出し成形によってループ状に無秩序に絡まり合い部分的に熱溶着する複数の中実連続線条から構成されるスプリング構造を備える三次元網状構造体2は、嵩密度0.03〜0.4g/cm3、連続線条の線径0.1〜4mmに設定され、三次元網状構造体2に振動子を内設し、振動子の振動が三次元網状構造体2を介して対象者の背中又は胸に伝わる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、主に肺炎、慢性気管支炎、喘息、胸膜圧等の種々の原因による呼吸不全を示す患者および老人を対象者として、排痰を補助する排痰促進装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の排痰装置として、垂直空気通路に連結された水平空気通路を有し、この垂直空気通路に設けた漏斗状の脱出チャンネル中にボールを配置し、このボールの重量によって呼気前に脱出チャンネルを塞ぎ、このボールが呼気に際してその脱出チャンネルから持ち上げられ、それ自体の重量作用で呼気に対して抵抗する装置がある(特許文献1)。
【0003】
また、別の排痰装置として、患者の口に接続する接続具にフレキシブルパイプを介して加振装置および圧力発生装置を接続し、圧力発生装置からの気流によって加振装置により振動気流を発生させ、それによって患者の気管支内の排痰除去を促進させる装置がある(特許文献2)。
【0004】
さらに別の排痰装置として、人体内の気管支に対して低周波電流を通電することによって、人体内の気管支を振動させて排痰を促す装置がある(特許文献3)。
【0005】
【特許文献1】特許第2515358号公報
【特許文献2】特開2005−27879号公報
【特許文献3】特開2000-126311号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、文献1または文献2に記載の従来の装置は、痰の吸引を行うものなので、呼吸に関して危険が伴うものであった。医療従事者の有資格者の管理下で利用することが望ましく、家族や介護者による使用には不安があった。また、取り扱いも面倒であった。これらのため、頻繁に行うべきにもかかわらず、手軽に利用できるものではなかった。また例えば、病院、自宅等で、椅子に腰かけた状態、あるいは、ベッドで休んでいる状態など、簡便に利用したいという需要もある。
【0007】
文献3に記載の装置は対象者の肺や気管支を振動させることにより排痰を促進するものであって、痰の吸引は伴わないものである。しかし、低周波電流を患者に通電するといった行為は家庭で容易に利用するには不安なものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題に鑑み、より安全かつ簡便に利用できる排痰促進装置を提供することを目的とする。
【0009】
かかる目的を達成するため、本発明は、ループ状にランダムに絡まり合い部分的に熱溶着する連続線条から構成されるスプリング構造を備える三次元網状構造体でなり、前記三次元網状構造体に振動子を内設し、該振動子の振動が前記三次元網状構造体を介して外部に伝わることを特徴とする排痰促進装置である。
【0010】
三次元網状構造体における連続線条の嵩密度は、0.03〜0.4g/cm3が好ましく、0.06〜0.15g/cm3がより好ましい。三次元網状構造体における連続線条の密度について空隙率で表すと、好ましくは60〜97%、さらに好ましくは85〜94%となる。
【0011】
この嵩密度は均一でもよいが、硬軟が分かれていてもよい。例えば、表層が硬部で、表層の内側の領域部が軟部でもよい。この場合、表層(硬部)の嵩密度は0.1〜0.6g/cmが好ましく、0.2〜0.4g/cmがより好ましい。表層の空隙率は40〜90%が好ましく、60〜80%がより好ましい。内層(軟部)の嵩密度は0.01〜0.85g/cmが好ましく、0.04〜0.2g/cmがより好ましい。内層の空隙率は15〜99%が好ましく、80〜96%がより好ましい。
【0012】
連続線条の線径について、好ましくは直径0.1〜4mm、さらに好ましくは直径0.5〜1mmである。また、この連続線条は中実でも中空でもよい。
【0013】
三次元網状構造体の寸法は、長さ100mm〜300mm、幅100mm〜300mm、厚み30mm〜150mmが例示されるが限定されるものでなく、想定する対象者により適宜設計変更されうる。
【0014】
三次元網状構造体は、中実線条により構成されることが好ましいが、中実線条に代えて中空線条としてもよい。中空線条の場合は中空率を30〜95%として好ましい。
【0015】
振動子の内設は、広範囲にわたって振動が対象者に伝達するように行う。振動が伝播するように振動子は底面から内設することが望ましいが、これに限らない。また、内設する振動子は、三次元網状構造体に埋め込んで外部から見えない状態としてもよく、外部に露出していてもよい。ここでいう露出とは、振動子が外部に突出している状態と突出していない状態の両方を含む。外部振動子の内設箇所も適宜設定できる。内設する振動子の個数は単数でも複数でもよい。複数の振動子を内設する場合には、振動が広範囲にわたるように配置するものとする。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、従来の排痰装置と違い、振動を直接的に対象者に与えることによって排痰を促進するものである。本発明の排痰促進装置によれば、拡散された振動を対象者に伝達することができる。これにより、気管支に詰まった痰が切れ自然に喉から出てきたり、痰が食道を経て胃に自然に流れたりして、簡便に排痰が促進される効果がある。吸引機による吸引を伴わないものであるため、安全に利用できる。また、取り扱い容易な装置であるので、対象者の家族や介護者、さらに本人であっても手軽に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】排痰促進装置1の斜視図(その1)である。
【図2】排痰促進装置1の斜視図(その2)である。
【図3】排痰促進装置1の振動子の斜視図である。
【図4】排痰促進装置1の三次元網状構造体の表層の組織を写真撮像した画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明実施形態の排痰促進装置1について図面を参照して説明する。この排痰促進装置1は、図1〜図4に示す通り、三次元網状構造体2に振動子3を内設したものである。これは振動子3の振動が弾性を有する三次元網状構造体2を介して外部に伝わる構造である。
【0019】
三次元網状構造体2は、ランダムなループ状に形成された複数本の連続線条を相互に接触絡合集合して成る、所定の嵩密度の空隙を備えた網状構造である(図4参照)。連続線条は、押し出し成形によってループ状に無秩序に絡まり合い、部分的に熱融着されてスプリング構造となる。
【0020】
三次元網状構造体2の全体としての形状は、一定の厚み寸法にて、肺に振動を付与すべく、対応する背中又は胸に当てることができる程度の面積に拡がる形状である。本実施例による三次元網状構造体2は、底面が平らな面であり、上面には2つの凸部とその間に1つの凹部が形成され、人体との接触領域が2つの凸部になるように形成されている。形状はこれに限定されず、機能を発揮できるものであれば適宜の形状でもかまわない。
【0021】
三次元網状構造体2の寸法は、長さ100mm〜300mm、幅100mm〜300mm、厚み30mm〜150mmが例示されるが、これに限定されるものでない。三次元網状構造体2の寸法は、幼児、老人、成人等の用途別に応じて、溶断、機械的切断、ホットプレスなどにより任意に形成できる。
【0022】
三次元網状構造体2は、網状構造の嵩密度を低く設定した内層と、該内層に比べて嵩密度を高く設定した表層(硬部)とからなる積層構造となっている。表層の表面が人体と接触する接触面を構成している。図4に三次元網状構造体2の組織を示す。また、振動子3は、積層構造の積層方向が振動子から人体に向かう方向と直交するように配置されている。さらに、前記表層は、前記内層の表裏両面に配置されている。
【0023】
なお、接触面は実際に人体に接触しているものに限られるものではなく、接触面を生地等のカバーで覆って使用するようにしてもよいし、接触面が直接人体に接触するように使用してもよい。ただし、前記カバーには、三次元網状構造体の振動を吸収してしまうものは避けたほうが好ましい。
【0024】
三次元網状構造体2は、熱可塑性樹脂を原料又は主原料とする。例えば、熱可塑性樹脂として、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などのポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル、ナイロン66などのポリアミド、ポリ塩化ビニルなどの塩化ビニル系樹脂、ポリスチレンなどのスチレン系樹脂が挙げられる。また、上記樹脂をベースとして共重合したコポリマーやエラストマー、上記樹脂をブレンドしたもの等が挙げられる。例えば、酢酸ビニル樹脂、ゴムを混合したポリエチレン樹脂が好適である。また、PETボトル等のフレーク状又はチップ状を使用してもよい。PETボトルをそのまま粉砕しそれを溶融させてフレーク形状にしたものが例示できる。再生以外の熱可塑性樹脂等においてもバージン樹脂等を適用可能である。
【0025】
さらに、前記の熱可塑性樹脂に、酢酸ビニル樹脂(以下VACと記す)、エチレン酢酸ビニル共重合体(以下EVAと記す)又は、スチレンブタジエンスチレン(以下SBSと記す)等を混合したものでもよい。例えば、ポリオレフィン系樹脂に、酢酸ビニル樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、又はスチレンブタジエンスチレンを混合したものを原料としてもよい。PE、PP等のポリオレフィン系樹脂と、VAC、EVA又はSBSとの混合物(例えば、熱可塑性エラストマー)を原料としてもよい。
【0026】
溝2aの形成は、カッタで三次元網状構造体2を切断するなどにより行われる。溝2aは必ずしも、三次元網状構造体2に対して直角である必要はなく、用途などに応じて角度を変更しても良く、溝2aの個数も任意である。
【0027】
振動子3は、バイブレータ(vibrator)とも呼ばれ、振動するものであり、モーターの軸に重心を偏らせた重りを取り付け、回転させることで振動を生む方式が一般的である。ここでは、振動子3は、図1〜図3に示す通り、円筒ケース3aと、円筒ケース3aの両端部に固定された一対のモータ3bと、モータ3bの回転軸3cに重心が偏心して固定された半月形の偏芯板3dと、モータ3bと接続する配線3eと、を備えている。振動子3は三次元網状構造体2の切り欠かれた溝2aに嵌め込まれている。円筒ケース3aは透明である。偏芯板3dの偏芯回転により発生する振動が、円筒ケース3aを介して、三次元網状構造体2に伝播される。
【0028】
つぎに、排痰促進装置1の製造方法を説明する。まず三次元網状構造体2の製造方法について説明する。ループ成形装置において、ホッパーより投入したPE,PP等のポリオレフィン系樹脂を、所定温度で溶融混錬し、押出成形機の成形ダイ(金型)に備えられた、所定径の多数のノズルから所定の押出速度において溶融した熱可塑性樹脂の連続線条を押し出す。前記の押出速度よりも引取機のロール又はベルトの移動速度が遅く設定されていて、引取機の上部が水面から突出し、引取機の他の部分は水没している。この引取機により前記連続線条を引き取る。
【0029】
このように引き取る際、前記連続線条は、ループ状にランダムに成形され、ループ同士が部分的に絡合接触して溶着する。この連続線条を水中で固化して、巻取ロールにより取り出すと線条集合体となる。
【0030】
取り出された線条集合体を切断装置により適宜長さに切断したものが三次元網状構造体2となる。
【0031】
ループ成形装置において、前記連続線条が水槽の水面に触れる前に、線条集合体の外周側面部となる部分の厚さを絞込んで嵩密度を高めることによって、表層の密度を高めた三次元網状構造体2を得ることができる。また、前記連続線条がコンベアの無端ベルト又は引取ロールに触れる前に、その表面を冷却固化させベルトの噛み痕が製品につかないようにすることもできる。ループ同士の融着を均一化させるために、ループは滑らかに形成させることが望ましい。
【0032】
水中においてループが形成された連続線条を引取機により引き取る際には、引取機の速度を変更することで、三次元網状特性を変更しても良い。
【0033】
つぎに、この三次元網状構造体2に切込みを入れて溝2aを形成し、この溝2aに振動子3を固定し、排痰促進装置1が完成する。
【0034】
痰を切る能力は、振動子3で発生される振動の振動数、振幅、振動の強度、三次元網状構造体の密度等によって影響を受けるので、適切な範囲の物性が設定される。
【0035】
排痰促進装置1の使用方法について説明する。まず対象者の背中に2つの凸部を接触させ、次に電源を入れ振動子3を振動させる。これにより、背中に当るだけで排痰を促進できる。また、胸側に当て使用することもできる。
【0036】
本発明実施形態の排痰促進装置1は、従来の排痰促進装置の開発延長線上にあるものではなく、その形態および構成を異にするものである。それ故に、本発明に係る排痰促進装置は、今までにない新しい感じ(肺がゆさぶられるよう感覚)を創出することができるものである。具体的には、振動子3で発生した振動が三次元網状構造体2を介在させて、人体の胸又は背中の表面全体に効果的に拡散される効果がある。よって、振動子による振動が気管支に詰まった痰を有効に切り、喉から自然に排出させたり、あるいは、振動により切れた痰が気管支から食道を経て胃に流入したりするので、症状がより緩和される。排痰促進装置1は、痰の吸引を伴わないので使用に際し安全であり、構造上取り扱いも容易である。痰の吸引装置を使用しなくてもよくなり、あるいは使用回数を減じることができる。対象者の都合により吸引装置を併用しても、痰切れがよくなり効果的である。
【0037】
なお、本発明は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲において、改良、変更、追加等を加えることができる。それらの改変、均等物等も本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の排痰促進装置は、自宅、病院等で幅広く活用できる。
【符号の説明】
【0039】
1・・・排痰促進装置 2・・・三次元網状構造体 3・・・振動子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ループ状にランダムに絡まり合い部分的に熱溶着する連続線条から構成されるスプリング構造を備える三次元網状構造体でなり、前記三次元網状構造体に振動子を内設し、該振動子の振動が前記三次元網状構造体を介して外部に伝わることを特徴とする排痰促進装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−160973(P2011−160973A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−26787(P2010−26787)
【出願日】平成22年2月9日(2010.2.9)
【出願人】(300054206)株式会社シーエンジ (15)
【Fターム(参考)】