説明

摩擦伝動ベルト及びその製造方法

【課題】摩擦伝動ベルト本体のプーリ接触部分のプーリ接触表面における被水時の異音の発生を抑制するVリブドベルトを提供する。
【解決手段】摩擦伝動ベルトBは、ベルト本体10の少なくともプーリ接触部分13がエラストマー組成物で形成されている。ベルト本体10のプーリ接触部分13は、プーリ接触表面に、エラストマー組成物に配合された中空粒子18の一部が切除されて構成された多数のセル状凹孔15が形成されている。摩擦伝動ベルトの製造方法は、中空粒子18が配合されたエラストマー組成物を加熱成形することによりベルト本体前駆体を形成するステップと、形成されたベルト本体前駆体を切削して、エラストマー組成物に配合された中空粒子18の一部が切除されることにより多数のセル状凹孔15がプーリ接触表面に構成されたプーリ接触部分13を形成するステップとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベルト本体の少なくともプーリ接触部分がエラストマー組成物で形成された摩擦伝動ベルト及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車に搭載されたエンジンの動力を補機駆動のために伝達する摩擦伝動ベルトとして、Vリブドベルトが広く一般に用いられている。
【0003】
ところで、このVリブドベルトを回転変動や負荷が大きいエンジンの補機駆動系に用いた場合、降雨等によりベルトが被水するとベルトがプーリ上で滑って異音を発することがある。このような異音は、被水後のウエット状態ではベルトの動摩擦係数が通常時に比べて低くなる一方、ウエット状態からドライ状態に状態が変化すると動摩擦係数が高くなるところ、ウエット状態からドライ状態への状態の変化が急激に不連続に起こることから、ベルトの周方向に沿ってウエット状態の部分とドライ状態の部分とが混在することとなり、ベルトとプーリとの間の滑りと密着とを交互に繰り返すスティック−スリップ現象が生じるために発生するものと考えられる。
【0004】
特許文献1には、圧縮ゴム層に綿短繊維及びパラ系アラミド短繊維を含有するとともにリブ側面から突出させ、さらに突出したパラ系アラミド短繊維がフィブリル化しており、さらに上記綿短繊維とパラ系アラミド短繊維の含有量を圧縮ゴム層のゴム100重量部に対して綿短繊維を10〜40重量部、パラ系アラミド短繊維を5〜10重量部含有したVリブドベルトが開示されており、これにより、自動車用ベルトで回転変動の大きいエンジンに使用する場合に注水時の微小滑りを抑えることで発音を無くすことができる、と記載されている。
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に開示されたVリブドベルトでは、短繊維の含有量が多いためにベルト自体の剛性が高くなるため、却ってベルトのプーリ上でのスリップが生じ易いという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−165244号公報
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ベルト本体の少なくともプーリ接触部分が、中空粒子が配合されたエラストマー組成物で形成された摩擦伝動ベルトであって、
上記ベルト本体のプーリ接触部分は、プーリ接触表面に、エラストマー組成物に配合された中空粒子の一部が切除されて構成された多数のセル状凹孔が形成されていることを特徴とする。
【0008】
また、上記本発明の摩擦伝動ベルトの製造方法は、
中空粒子が配合されたエラストマー組成物を加熱成形することによりベルト本体前駆体を形成するステップと、
上記形成されたベルト本体前駆体を切削して、エラストマー組成物に配合された中空粒子の一部が切除されることにより多数のセル状凹孔がプーリ接触表面に構成されたプーリ接触部分を形成するステップと、
を備えたことを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、ベルト本体のプーリ接触部分のプーリ接触表面に多数のセル状凹孔が形成されていることにより、被水時の異音の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】Vリブドベルトの斜視図である。
【図2】リブの拡大断面図である。
【図3】Vリブドベルトの製造方法の説明図である。
【図4】補機駆動用ベルト伝動装置のプーリレイアウトを示す図である。
【図5】耐久評価用のベルト走行試験機のプーリレイアウトを示す図である。
【図6】動摩擦係数測定装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0012】
図1は、本実施形態に係るVリブドベルトB(摩擦伝動ベルト)を示す。このVリブドベルトBは、例えば、自動車エンジンの動力を補機駆動のために伝達するものであり、長さ1000〜2500mm、幅10〜20mm及び厚さ4.0〜5.0mmに形成されている。
【0013】
このVリブドベルトBは、外側部分の接着ゴム層11と内側部分のリブゴム層12との二重層に構成されたVリブドベルト本体10を備えており、そのVリブドベルト本体10の外側表面に補強布17が貼設されている。また、接着ゴム層11には、ベルト幅方向にピッチを形成するように螺旋状に設けられた心線16が埋設されている。
【0014】
接着ゴム層11は、断面横長矩形の帯状に構成され、例えば、厚さ1.0〜2.5mmに形成されている。接着ゴム層11は、ベースエラストマーに種々の配合剤が配合されたエラストマー組成物で形成されている。ベースエラストマーとしては、例えば、エチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、水素添加ニトリルゴム(H−NBR)等が挙げられる。配合剤としては、例えば、架橋剤、老化防止剤、加工助剤、可塑剤、補強材、充填材等が挙げられる。なお、接着ゴム層11を形成するエラストマー組成物は、ベースエラストマーに配合剤が配合されて混練された未架橋エラストマー組成物を加熱及び加圧して架橋させたものである。
【0015】
リブゴム層12は、プーリ接触部分を構成する複数のリブ13が内側に垂下するように設けられている。これらの複数のリブ13は、各々が周方向に延びる断面略逆三角形の突条に形成されていると共に、ベルト幅方向に並列に設けられている。各リブ13は、例えば、リブ高さが2.0〜3.0mm、基端間の幅が1.0〜3.6mmに形成されている。また、リブ数は、例えば、3〜6個である(図1では、リブ数が3)。
【0016】
リブゴム層12は、ベースエラストマーに種々の配合剤が配合されたエラストマー組成物で形成されている。ベースエラストマーとしては、例えば、エチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、水素添加ニトリルゴム(H−NBR)等が挙げられる。配合剤としては、例えば、架橋剤、老化防止剤、加工助剤、可塑剤、補強材、充填材、短繊維14、中空粒子18等が挙げられる。なお、リブゴム層12を形成するエラストマー組成物は、ベースエラストマーに配合剤が配合されて混練された未架橋エラストマー組成物を加熱及び加圧して架橋させたものである。
【0017】
リブゴム層12を形成するエラストマー組成物には短繊維14が配合されているが、その短繊維14は、ベルト幅方向に配向するように設けられている。また、短繊維14のうちプーリ接触表面、つまり、リブ表面に露出したものは、そのリブ表面から突出している。そのような短繊維14としては、例えば、アラミド繊維、ポリエステル繊維、綿等が挙げられる。短繊維14は、例えば、長さが0.2〜3.0mmであり、ベースエラストマー100質量部に対する配合量が3〜30質量部である。
【0018】
リブゴム層12を形成するエラストマー組成物には中空粒子18が配合されているが、その中空粒子18のうちリブ表面、つまり、プーリ接触表面に露出したものは、一部分が切除されてリブ表面に多数のセル状凹孔15を形成している。このセル状凹孔15は、図2に示すように、リブ表面に開口した微細な凹孔であり、平均孔径が3〜60μmであることが好ましく、3〜30μmであることがより好ましい。そのような中空粒子18としては、例えば、日本フィライト株式会社製のEHM303やEMS−022、積水化学株式会社製の092−40や092−120のアクリルニトリル共重合体のもの、和信化学工業社製のワシンマイクロカプセル等が挙げられる。中空粒子18は、例えば、粒径が2〜38μmであることが好ましく、2〜17μmであることがより好ましい。また、中空粒子18は、ベースエラストマー100質量部に対する配合量が1質量部以上15質量部未満であることが好ましく、5〜10質量部であることがより好ましい。
【0019】
補強布17は、ポリエステル繊維や綿等の経糸及び緯糸からなる平織り等の織布17’で構成されている。補強布17は、Vリブドベルト本体10に対する接着性を付与するために、成形加工前にレゾルシン・ホルマリン・ラテックス水溶液(以下「RFL水溶液」という)に浸漬して加熱する処理及びVリブドベルト本体10側となる表面にゴム糊をコーティングして乾燥させる処理が施されている。
【0020】
心線16は、アラミド繊維やポリエステル繊維等の撚り糸16’で構成されている。心線16は、Vリブドベルト本体10に対する接着性を付与するために、成形加工前にRFL水溶液に浸漬した後に加熱する処理及びゴム糊に浸漬した後に乾燥させる処理が施されている。
【0021】
次に、上記VリブドベルトBの製造方法を、図3に基づいて説明する。
【0022】
VリブドベルトBの製造では、外周に、ベルト背面を所定形状に形成する成形面を有する内金型と、内周に、ベルト内側を所定形状に形成する成形面を有するゴムスリーブとが用いられる。
【0023】
まず、内金型の外周を補強布17となる織布17’で被覆した後、その上に、接着ゴム層11の外側部分11bを形成するための未架橋ゴムシート11b’を巻き付ける。
【0024】
次いで、その上に、心線16となる撚り糸16’を螺旋状に巻き付けた後、その上に、接着ゴム層11の内側部分11aを形成するための未架橋ゴムシート11a’を巻き付け、さらにその上に、リブゴム層12を形成するための未架橋ゴムシート12’を巻き付ける。このとき、リブゴム層12を形成するための未架橋ゴムシート12’として、巻付方向に直交する方向に配向した短繊維14及び中空粒子18が配合されたものを用いる。この未架橋ゴムシート12’は、ベースエラストマー100質量部に対して中空粒子18が1質量部以上15質量部未満配合されたものであることが好ましく、5〜10質量部配合されたものであることがより好ましい。
【0025】
しかる後、内金型上の成形体にゴムスリーブを套嵌してそれを成形釜にセットし、内金型を高熱の水蒸気などにより加熱すると共に、高圧をかけてゴムスリーブを半径方向内方に押圧する。このとき、ゴム成分が流動すると共に架橋反応が進行し、撚り糸16’及び織布17’のゴムへの接着反応も進行する。また、中空粒子18は、粒子中のペンタンやヘキサンなどが揮発して膨張し、内部に多数の微小な中空部を形成する。そして、これによって、筒状のベルトスラブ(ベルト本体前駆体)が成形される。
【0026】
そして、内金型からベルトスラブを取り外し、それを長さ方向に数個に分割した後、それぞれの外周を研磨切削してリブ13、つまり、ベルト接触部分を形成する。このとき、ベルト接触表面に露出する中空粒子18は、一部分が切除されて開口し、ベルト接触表面にセル状凹孔15を形成する。
【0027】
最後に、分割されて外周にリブ13が形成されたベルトスラブを所定幅に幅切りし、それぞれの表裏を裏返すことによりVリブドベルトBが得られる。
【0028】
図4は、VリブドベルトBを用いた自動車エンジンにおけるサーペンタインドライブの補機駆動用ベルト伝動装置40のプーリレイアウトを示す。
【0029】
この補機駆動用ベルト伝動装置40のレイアウトは、最上位置のパワーステアリングプーリ41、そのパワーステアリングプーリ41の下方に配置されたACジェネレータプーリ42、パワーステアリングプーリ41の左下方に配置された平プーリのテンショナプーリ43と、そのテンショナプーリ43の下方に配置された平プーリのウォーターポンププーリ44と、テンショナプーリ43の左下方に配置されたクランクシャフトプーリ45と、そのクランクシャフトプーリ45の右下方に配置されたエアコンプーリ46とにより構成されている。これらのうち、平プーリであるテンショナプーリ43及びウォーターポンププーリ44以外は全てリブプーリである。そして、VリブドベルトBは、リブ13側が接触するようにパワーステアリングプーリ41に巻き掛けられ、次いで、ベルト背面が接触するようにテンショナプーリ43に巻き掛けられた後、リブ13側が接触するようにクランクシャフトプーリ45及びエアコンプーリ46に順に巻き掛けられ、さらに、ベルト背面が接触するようにウォーターポンププーリ44に巻き掛けられ、そして、リブ13側が接触するようにACジェネレータプーリ42に巻き掛けられ、最後にパワーステアリングプーリ41に戻るように設けられている。
【0030】
上記の構成のVリブドベルトBによれば、Vリブドベルト本体10のリブ13のリブ表面、つまり、プーリ接触部分のプーリ接触表面に多数のセル状凹孔15が形成されていることにより、例えば、上記のように自動車の補機駆動用ベルト伝動装置に用いて被水したときであっても異音の発生を抑制することができる。これは、ベルトとプーリとの間に介在する水がセル状凹孔15に取り込まれた後に外部に排水されて速やかに除去され、ウエット状態からドライ状態に連続的に状態が変化するので、ウエット状態の部分とドライ状態の部分とが混在することなくベルトが周方向に沿って状態が均一となり、スティック−スリップ現象の発生を抑えることができるためではないかと推測される。
【0031】
なお、上記実施形態では、VリブドベルトBを例としたが、特にこれに限定されるものではなく、例えば、その他のVベルト等の摩擦伝動ベルトであってもよい。
【実施例】
【0032】
(試験評価用ベルト)
以下の実施例1〜9及び比較例のVリブドベルトを作製した。それぞれの構成は表1にも示す。
【0033】
<実施例1>
ベースエラストマーとしてエチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)(DuPont Dow Elastomers社製 商品名:ノーデルIP 4640)100質量部に対して、カーボンブラックHAF40(東海カーボン社製 商品名:シースト3)及びカーボンブラックFEF30(新日化カーボン社製 商品名:HTC#100)を合わせて70質量部、軟化剤(日本サン石油社製 商品名:サンパー2280)12質量部、酸化亜鉛(堺化学工業社製 商品名:亜鉛華3種)3質量部、ステアリン酸(花王社製 商品名:ステアリン酸)1質量部、ジクミルパーオキサイド(架橋剤)(日本油脂社製 商品名:パークミルD)3質量部、ナイロン短繊維(東レ社製 商品名:レオナ66 繊維長1mm)20質量部、及び、中空粒子A(日本フィライト社製 商品名:092−40 粒子径10〜17μm)1質量部を配合して混練した未架橋エラストマー組成物を用いてリブゴム層を形成したVリブドベルトを作製し、これを実施例1とした。
【0034】
なお、接着ゴム層をEPDMのエラストマー組成物、補強布をナイロン繊維製の織布、心線をポリエチレンナフタレート繊維(PEN)製の撚り糸でそれぞれ構成し、ベルトの長さを2280mm、幅を25mm及び厚さを4.3mmとし、そして、リブ数を6個とした。
【0035】
<実施例2>
未架橋エラストマー組成物に配合した中空粒子Aの配合量を5質量部としたことを除いて実施例1と同一構成のVリブドベルトを作製し、これを実施例2とした。
【0036】
<実施例3>
未架橋エラストマー組成物に配合した中空粒子Aの配合量を10質量部としたことを除いて実施例1と同一構成のVリブドベルトを作製し、これを実施例3とした。
【0037】
<実施例4>
未架橋エラストマー組成物に配合した中空粒子Aの配合量を15質量部としたことを除いて実施例1と同一構成のVリブドベルトを作製し、これを実施例4とした。
【0038】
<実施例5>
未架橋エラストマー組成物に 中空粒子Aの代わりに中空粒子B(積水化学社製 商品名:EHM303 粒子径24〜34μm)をベースエラストマー100質量部に対して10質量部配合したことを除いて実施例1と同一構成のVリブドベルトを作製し、これを実施例5とした。
【0039】
<実施例6>
未架橋エラストマー組成物に、中空粒子Aの代わりに中空粒子C(積水化学社製 商品名:EMS−022 粒子径25〜35μm)をベースエラストマー100質量部に対して10質量部配合したことを除いて実施例1と同一構成のVリブドベルトを作製し、これを実施例6とした。
【0040】
<実施例7>
未架橋エラストマー組成物に配合した中空粒子Aの配合量を20質量部としたことを除いて実施例1と同一構成のVリブドベルトを作製し、これを実施例7とした。
【0041】
<実施例8>
未架橋エラストマー組成物に、中空粒子Aの代わりに中空粒子D(日本フィライト社製 商品名:092−120 粒子径28〜38μm)をベースエラストマー100質量部に対して10質量部配合したことを除いて実施例1と同一構成のVリブドベルトを作製し、これを実施例8とした。
【0042】
<実施例9>
未架橋エラストマー組成物に、中空粒子Aの代わりに中空粒子E(和信化学工業社製 商品名:ワシンマイクロカプセル 粒子径2〜5μm)をベースエラストマー100質量部に対して10質量部配合したことを除いて実施例1と同一構成のVリブドベルトを作製し、これを実施例9とした。
【0043】
<比較例>
未架橋エラストマー組成物に中空粒子を配合していないことを除いて実施例1と同一構成のVリブドベルトを作製し、これを比較例とした。
【0044】
【表1】

【0045】
(試験評価方法)
<ベルト曲げ弾性率>
実施例1〜9及び比較例のそれぞれについて、JIS K6911に準じ、長さ80mm、幅10mm及び厚さ4mmのテストピースを切り出し、支点間距離60mm及び荷重速度2mm/minとしてベルト曲げ弾性率を計測した。
【0046】
<ベルト耐久走行試験>
図5は、VリブドベルトBの耐久評価用のベルト走行試験機50のプーリレイアウトを示す。
【0047】
このベルト走行試験機50は、上下に配設されたプーリ径120mmの大径のリブプーリ(上側が従動プーリ、下側が駆動プーリ)51,52と、それらの上下方向中間の右方に配されたプーリ径45mmの小径のリブプーリ53とからなる。小径のリブプーリ53は、ベルト巻き付け角度が90°となるように位置付けられている。
【0048】
実施例1〜9及び比較例のそれぞれのVリブドベルトBについて、3つのリブプーリ51〜53に巻き掛けると共に、834Nのセットウェイトが負荷されるように小径のリブプーリ53を側方に引っ張り、雰囲気温度23℃の下で駆動プーリである下側のリブプーリ52を4900rpmの回転速度で回転させるベルト走行試験を実施した。そして、リブ表面にクラックが発生するまでの時間を計測した。
【0049】
<セル状凹孔の平均孔径>
実施例1〜9のそれぞれについて、リブ先端表面及びリブ側面表面のそれぞれを光学顕微鏡観察し、それぞれの表面の50〜70個のセル状凹孔の開口径を測定して、その平均値を平均孔径とした。
【0050】
<動摩擦係数変化>
図6は、VリブドベルトBの動摩擦係数測定装置60の構成を示す。
【0051】
この動摩擦係数測定装置60は、縦壁に取付固定されたロードセル61と、その側方に設けられたリブプーリ62とからなる。
【0052】
実施例1〜9及び比較例のそれぞれのVリブドベルトBについて、長さ1170mmの短冊状のテストピースを切り出し、その一端をロードセル61に固定すると共に水平に延ばしてリブプーリ62に巻き掛け、他端に1.75kgのウエイト63を吊り下げて17.2Nの荷重を負荷し、その状態でロードセル61を引っ張る方向にリブプーリ62を20rpmの回転数で回転させた。回転開始から1分後にリブプーリ62上に120ml/minの量の水を滴下し、動摩擦係数の時間的変化を計測した。そして、ドライ状態での動摩擦係数とウエット状態での動摩擦係数との差を求めた。なお、動摩擦係数は、下記式に基づいて算出した。
【0053】
【数1】

【0054】
<被水後の音圧>
実施例1〜9及び比較例のそれぞれのVリブドベルトについて、回転変動が大きく、しかも負荷が大きい自動車エンジンの補機駆動用ベルト伝動装置に取り付け、アイドリング状態でVリブドベルトに120ml/minの量の水を滴下し、そのときの音圧を測定した。そして、90dB以上を「大」、80dB以上90dB未満を「中」、75dB以上80dB未満を「小」、70dB以上75dB未満を「微小」、70dB未満を「無し」と評価した。なお、測定をアイドリング状態で行ったのは、音の発生がエンジンの低回転時に最も顕著となるからである。
【0055】
(試験評価結果)
試験評価の結果を表1に示す。
【0056】
これによると、中空粒子が配合されたエラストマー組成物で形成され、リブ表面に多数のセル状凹孔が形成されたリブゴム層を有する実施例1〜9は、中空粒子が配合されていないエラストマー組成物で形成され、リブ表面にセル状凹孔が形成されていないリブゴム層を有する比較例と比べて、被水後の音圧が高いことが分かる。これは、比較例では、ウエット状態からドライ状態への状態の変化が急激に不連続に起こるので、ベルトの周方向に沿ってウエット状態の部分とドライ状態の部分とが混在することとなり、ベルトとプーリとの間の滑りと密着とを交互に繰り返すスティック−スリップ現象が生じて異音を発するのに対し、実施例1〜9では、ベルトとプーリとの間に介在する水がセル状凹孔に取り込まれた後に外部に排水されて速やかに除去され、ウエット状態からドライ状態に連続的に状態が変化するので、ウエット状態の部分とドライ状態の部分とが混在することなくベルトが周方向に沿って状態が均一となり、スティック−スリップ現象の発生を抑えることができるためではないかと推測される。
【0057】
また、実施例1〜9は、比較例と比べて、被水後の動摩擦係数の低下が小さいことが分かる。これも、実施例1〜9では、ベルトとプーリとの間に介在する水がセル状凹孔に取り込まれた後に外部に排水されて速やかに除去されることによるものであると考えられる。
【0058】
中空粒子Aの配合量を変量した実施例1〜4及び実施例7を比較すると、ベースエラストマー100質量部に対する配合量が1質量部以上15質量部未満の範囲では、配合量が多くなるに従って被水後の音圧も低くなっているが、配合量が15質量部以上になると徐々に音圧が高くなる傾向があるのが分かる。また、被水後の動摩擦係数の低下傾向もそれに対応するものであることが分かる。従って、中空粒子の配合量としては、ベースエラストマー100質量部に対して1質量部以上15質量部未満とすることが好ましい。
【0059】
また、実施例1〜4及び実施例7を比較すると、ベースエラストマー100質量部に対する配合量が多くなるに従って、ベルト曲げ剛性が低くなっているのが分かる。これは、中空粒子によってリブゴム層の内部に形成される中空部がベルト曲げ剛性を低下させる因子となるため、中空粒子の配合量が多いほど中空部の占有体積が高くなり、ベルト曲げ剛性をより大きく低下させるためであると考えられる。
【0060】
さらに、実施例1〜4では、ベルト曲げ剛性が低くなるに従ってベルト走行耐久性が向上しているものの、実施例7では、ベルト曲げ剛性が実施例1〜4よりもさらに低いにも関わらずベルト走行耐久性が低下しているのが分かる。これは、実施例7では、中空粒子の配合量が多いためにリブゴム層の中空部間及びセル状凹孔間の距離が実施例1〜4に比べて短く、それらの間でクラックが発生し易くなるためであると考えられる。
【0061】
中空粒子の種類のみが異なる実施例3、5、6、8、及び9を比較すると、中空粒子E,A、B、及びDの順にセル状凹孔の平均孔径が大きく、これが大きいほどベルト曲げ剛性が低く、また、中空粒子Eの実施例9と中空粒子Aの実施例3とで僅かに逆転しているものの、ベルト走行耐久性が高い傾向が伺われる。しかしながら、一方、セル状凹孔の平均孔径が大きいほど被水後の音圧が高いことが分かる。また、被水後の動摩擦係数の低下傾向もそれに対応するものであることが分かる。これらの結果に基づけば、被水後の音圧を低く抑えるという観点からは、セル状凹孔の平均孔径が3〜30μmであることが望ましいと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、ベルト本体の少なくともプーリ接触部分がエラストマー組成物で形成された摩擦伝動ベルト及びその製造方法について有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベルト本体の少なくともプーリ接触部分が、中空粒子が配合されたエラストマー組成物で形成された摩擦伝動ベルトであって、
上記ベルト本体のプーリ接触部分は、プーリ接触表面に、エラストマー組成物に配合された中空粒子の一部が切除されて構成された多数のセル状凹孔が形成されていることを特徴とする摩擦伝動ベルト。
【請求項2】
請求項1に記載された摩擦伝動ベルトにおいて、
上記セル状凹孔は、平均孔径が3〜60μmであることを特徴とする摩擦伝動ベルト。
【請求項3】
請求項2に記載された摩擦伝動ベルトにおいて、
上記セル状凹孔は、平均孔径が3〜30μmであることを特徴とする摩擦伝動ベルト。
【請求項4】
請求項1に記載された摩擦伝動ベルトにおいて、
上記ベルト本体がVリブドベルト本体であることを特徴とする摩擦伝動ベルト。
【請求項5】
請求項1に記載された摩擦伝動ベルトの製造方法であって、
中空粒子が配合されたエラストマー組成物を加熱成形することによりベルト本体前駆体を形成するステップと、
上記形成されたベルト本体前駆体を切削して、エラストマー組成物に配合された中空粒子の一部が切除されることにより多数のセル状凹孔がプーリ接触表面に構成されたプーリ接触部分を形成するステップと、
を備えたことを特徴とする摩擦伝動ベルトの製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載された摩擦伝動ベルトの製造方法において、
上記エラストマー組成物を、ベースエラストマー100質量部に対して上記中空粒子が1質量部以上15質量部未満配合されたものとすることを特徴とする摩擦伝動ベルトの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−102641(P2011−102641A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−269515(P2010−269515)
【出願日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【分割の表示】特願2007−543633(P2007−543633)の分割
【原出願日】平成19年7月9日(2007.7.9)
【出願人】(000005061)バンドー化学株式会社 (429)
【Fターム(参考)】