説明

摩擦撹拌接合したアルミニウム合金材における表面処理方法

【課題】摩擦撹拌接合したアルミニウム合金材の表層部に陽極酸化処理により形成される被膜において、該アルミニウム合金材の撹拌部に対応する部分及びその周囲部分に対応する部分との間で色調差が発生することを防止する。
【解決手段】アルミニウム合金材の蓋材2と側材3を摩擦撹拌接合により形成される撹拌部6及びその周囲部分7に対して、端面に凹湾曲面状の凹陥部11’を形成した円柱状のピン無し回転ツール11により色調差の発生を防止したい範囲内で表面摩擦撹拌を行って表面摩擦撹拌層8を形成することにより、その後面削し、陽極酸化処理により被膜9を形成しても、両者における第二相粒子の分布状態の相違は小さくなって均質化するので、被膜において色調差が発生することを防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、例えば建材や電子電気IT機器の用途におけるアルミニウム合金材において摩擦撹拌接合したアルミニウム合金材の撹拌部において、陽極酸化処理により形成される被膜での意匠性を確保するために行う表面処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、アルミニウム合金材同士の接合技術として摩擦撹拌接合が周知されてきている。この摩擦撹拌接合は、例えばアルミニウム合金等の軟質金属からなる合金材同士の突合せ面に対して、硬質のピンツールを回転させながら差し込み、摩擦熱を発生させながら撹拌して、塑性流動を起こし、該合金材同士を接合してなる固相接合法の一種である。
【0003】
しかしながら、上記摩擦撹拌接合したアルミニウム合金材の表層部において陽極酸化処理によって被膜を形成すると、該被膜において前記アルミニウム合金材の撹拌部(すなわち摩擦撹拌接合により塑性流動が発生した部分)に対応する部分と、該撹拌部の周囲部分に対応する部分との間に色調差が発生する。すなわち、陽極酸化処理により形成される被膜において発生する色調差は、摩擦撹拌接合により形成される撹拌部とその周囲部分とにおいて含有される、主としてFeを含む晶出物(以下、「第二相粒子」という。)の分布状態が相違するために発生するものである。そして、陽極酸化処理により形成される被膜において、撹拌部に対応する部分とその周囲部分に対応する部分との間で発生する色調差は製品の意匠性を著しく低下させるものとなる(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特願2003−225780号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
解決しようとする問題点は、摩擦撹拌接合したアルミニウム合金材の表層部に陽極酸化処理により形成される被膜において、該被膜の色調差の発生を防止したい範囲内で該アルミニウム合金材の撹拌部に対応する部分とその周囲部分に対応する部分との間で発生する色調差を簡易且つ確実に解消することができない点である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明は、摩擦撹拌接合したアルミニウム合金材の表層部に形成される陽極酸化処理による被膜において撹拌部とその周囲部分との間に発生する色調差を解消するために、該被膜の色調差の発生を防止したい範囲に対応する撹拌部とその周囲部分とを合わせて表面摩擦撹拌を施すことにより、撹拌部とその周囲部分とにおける第二相粒子の分布状態の相違をなくして均質化させることを最も主要な特徴とする。
【0007】
第1の特徴として、
摩擦撹拌接合したアルミニウム合金材に形成される撹拌部及びその周囲部分の表層部をツールにより表面摩擦撹拌した後に、陽極酸化処理を行うものである。
【0008】
そのため、摩擦撹拌接合したアルミニウム合金材に形成される撹拌部及びその周囲部分の表層部における第二相粒子の分布状態が相違していてもツールによる表面摩擦撹拌を施すことにより、両者における第二相粒子の分布状態の相違がきわめて小さくなって均質化される。その結果、表面摩擦撹拌後に前記アルミニウム合金材の表層部に対して陽極酸化処理により被膜を形成しても、撹拌部に対応する部分と該撹拌部の周囲部分に対応する部分との間で色調差が発生することを防止できる。
【0009】
なお、前記表面摩擦撹拌は、陽極酸化処理によって形成される被膜において意匠性が低下しない範囲で色調差が発生しないようにする必要がある。そのため、表面摩擦撹拌を行う範囲が広い場合には、該ツールを縦又は横方向に複数並置することで、迅速且つ確実に表面摩擦撹拌を行うようにするものである。
さらに、表層部に対して表面摩擦撹拌を施す深さは、陽極酸化処理により形成した被膜において色調差が発生しないようにすれば足り、しかもアルミニウム合金材の表面を平滑にするために施す面削量をも考慮すると、最低でも0.25mm超とすることが適当であり、0.5mm以上とすることが最適である。
【0010】
第1の特徴を踏まえて、第2の特徴として、
前記表面摩擦撹拌の後、陽極酸化処理を行う前に、撹拌部及びその周囲部分の表層部を摩擦撹拌接合により形成される撹拌部の深さの範囲内で平滑化してなるものである。
【0011】
そのため、表面摩擦撹拌の後陽極酸化処理しても、該表面摩擦撹拌を行った箇所とそれ以外とでは、第二相粒子の分布状態の相違はきわめて小さくなって均質化されるので色調差を発生させることがなく、しかも平滑となる。その結果、摩擦撹拌接合したアルミニウム合金材において陽極酸化処理によって形成される被膜の意匠性を格段に向上させることができる。
【0012】
第1の特徴及び第2の特徴を踏まえて、第3の特徴として、
前記表面摩擦撹拌を行うツールが、略円形形状のショルダーと、アルミニウム合金材に接する側の端面を平滑面、凹湾曲面、又は凸湾曲面のうちいずれか1つとからなるものである。
【0013】
そのため、アルミニウム合金材の撹拌部及びその周囲部分の表層部に対する表面摩擦撹拌を行うことができる。特に、アルミニウム合金材に接する側の端面を凹湾曲面とすると、バリの発生を抑制して撹拌部の表層部を平滑にすることができ、又は凸湾曲面とすると、ツール先端に圧力が集中してより効率よく表面摩擦撹拌を行うことができる。その結果、両者における第二相粒子の分布状態の相違をきわめて小さくして均質化するので、陽極酸化処理により被膜を形成しても、該被膜では色調差を発生することが防止できるとともに、平滑にして意匠性を向上させることもできる。
ここで、上記摩擦撹拌処理による表面処理において、ツールのショルダーを略円柱形状とするものであって、その直径は20〜200mmとするものである。すなわち、ツールのショルダーの直径が20mm未満であると、摩擦撹拌接合によりアルミニウム合金材に形成された撹拌部に対応して表面摩擦撹拌を行うことができないので陽極酸化処理により形成される被膜に発生する色調差を解消することができず、200mm超であると表面摩擦撹拌による表面処理を行う部分が大きくなりすぎ必要な範囲に限定して表面処理を行うことができないのでコストが上昇してしまうものである。そこで、ツールのショルダーの直径を20〜200mmとすることが適当である。
【0014】
第1の特徴乃至第3の特徴を踏まえて、第4の特徴として、
前記表面摩擦撹拌を行うツールが、アルミニウム合金材に接する側の端面の中心に略円柱形状のピンを突出するように形成するものである。
【0015】
そのため、アルミニウム合金材に形成される撹拌部及びその周囲部分の表層部に対する表面摩擦撹拌において、ピンは撹拌部及びその周囲部分の表層部に深く食い込み、迅速且つ確実に塑性流動を起こすことができる。その結果、摩擦撹拌接合によりアルミニウム合金材に形成される撹拌部及びその周囲部分の表層部では第二相粒子の分布状態の相違がきわめて小さくなって均質化するので、陽極酸化処理により被膜を形成しても、該被膜では撹拌部とその周囲部分に対応する部分との間で色調差が発生することを防止できる。
【0016】
第4の特徴を踏まえて、第5の特徴として、
前記表面摩擦撹拌を行うツールのアルミニウム合金材に接する側の端面の中心に形成される略円柱形状のピンにおいて、
ツールのショルダー径をD、ピンの直径をP、ピンの長さをLとした場合に、
D/10≦P≦D/2 20≦P≦200(mm) 0<L≦3(mm)
及び
該表面摩擦撹拌に使用するツールのピンの長さを摩擦撹拌接合に使用するツールのピンの長さより短くするものである。
【0017】
そのため、アルミニウム合金材に形成される撹拌部及びその周囲部分の表層部に対する表面摩擦撹拌において、所定のショルダー径のツールにおける所定のピンの直径及びピンの長さとしたピンは該表層部に必要最小限の範囲で深く食い込むことになるので効率よく表面摩擦撹拌を行うことができる。その結果、撹拌部及びその周囲部分の表層部において相違する第二相粒子の分布状態が迅速且つ確実に均質化するので、陽極酸化処理による被膜において、該撹拌部とその周囲部分に対応する部分との間で色調差が発生することを防止できる。
【0018】
第3の特徴乃至第5の特徴を踏まえて、第6の特徴として、
前記表面摩擦撹拌を行うツールのアルミニウム合金材に接する側の端面を凹湾曲面又は凸湾曲面とした場合に、該凹湾曲面又は凸湾曲面の端面における曲率半径Rを、
100≦R≦1000(mm)とするものである。
【0019】
そのため、摩擦撹拌接合によりアルミニウム合金材に形成されるの撹拌部及びその周囲部分の表層部に対する表面摩擦撹拌において、凹湾曲面とすると、バリの発生を抑制して撹拌部の表層部を平滑にすることができ、又は凸湾曲面とすると、ツール先端に圧力が集中してより効率よく表面摩擦撹拌を行うことができるものである。その結果、陽極酸化処理により被膜を形成しても、該被膜、特に撹拌部及びその周囲部分に対応する被膜では色調差を発生することがなく、しかもより平滑化するものとなるので、製品の意匠性を格段に向上させることができる。
ここで、表面摩擦撹拌を行うツールの端面において形成される凹湾曲面又は凸湾曲面の曲率半径Rはツールの直径に対して100〜1000mmとするものである。すなわち、ツールの端面において形成される凹湾曲面又は凸湾曲面の曲率半径Rが、ツールの直径に対して小さすぎると表面摩擦撹拌の際に狭い範囲でしか摩擦撹拌を行えないので十分な表面処理を行うことができず、また曲率半径が大きすぎると表面摩擦撹拌の際に塑性流動したアルミニウム合金材がバリとして外側に溢出し易いので被膜に凹凸が発生する恐れがある。そのため、例えばツールの直径が20mmであればツールの端面における凹湾曲面又は凸湾曲面の曲率半径Rは100mmとし、またツールの直径が200mmであればツールの端面における凹湾曲面又は凸湾曲面の曲率半径Rは1000mmとするものが適当である。
【0020】
第1の特徴及び第2の特徴を踏まえて、第7の特徴として、
前記表面摩擦撹拌を行うツールが、ピン無し柱状のヘラ状ツールであって、該ヘラ状ツールとアルミニウム合金材に形成される撹拌部及びその周囲部分に対して押圧密着させるとともに、前後左右方向に摺動させてなるものである。
【0021】
そのため、摩擦撹拌接合により一体に接合されたアルミニウム合金材に形成される撹拌部及びその周囲部分の表層部に対する前記ピン無し柱状のヘラ状ツールによる表面摩擦撹拌では、バリの発生を最小限にしながら、両者における第二相粒子の分布状態の相違がきわめて小さくなって均質化する。その結果、表面摩擦撹拌後に、前記アルミニウム合金材の表面に対して陽極酸化処理により被膜を形成しても、該被膜は平滑になるとともに、色調差の発生を防止したい範囲内で、撹拌部に対応する部分と撹拌部の周囲部分に対応する部分との間で色調差が発生することを防止できる。
【0022】
第7の特徴を踏まえて、第8の特徴として、
前記表面摩擦撹拌を行うピン無し柱状のヘラ状ツールの断面形状を、四角形状、台形状、楕円形状又は円形状のうちいずれか1つとするものである〔図6(イ)(a)〜(d)参照〕。
【0023】
そのため、表面摩擦撹拌を行う場所に合わせて、前記四角形状、台形状、楕円形状又は円形状の断面形状を有するピン無し柱状のヘラ状ツールを使い分けることで、該ツールの端面が確実に表面摩擦撹拌を行う撹拌部及びその周囲部分をとらえるので、効率よく、しかも正確に表面摩擦撹拌を行うことができる。その結果、両者における第二相粒子の分布状態の相違をきわめて小さくして均質化させるので、表面摩擦撹拌の後、陽極酸化処理により被膜を形成しても、該被膜において色調差の発生を防止したい範囲内で、該被膜における撹拌部とその周囲部分に対応する部分との間で色調差が発生することを防止できる。
【0024】
第7の特徴及び第8の特徴を踏まえて、第9の特徴として、
前記表面摩擦撹拌を行うピン無し柱状のヘラ状ツールのアルミニウム合金材に接する側の端面に、角錐状又は湾曲状に凹陥部を形成するものである〔図6(ロ)(a)、(b)参照〕。
【0025】
そのため、アルミニウム合金材に形成される撹拌部及びその周囲部分の表層部に対する表面摩擦撹拌において、バリの発生を抑制して撹拌部の表層部の表面はより平滑なものとなる。その結果、陽極酸化処理により被膜を形成しても、該被膜、特に撹拌部及びその周囲部分に対応する被膜の表面はより平滑化し、摩擦撹拌接合したアルミニウム合金材の表層部において陽極酸化処理によって形成される被膜の意匠性を格段に向上させることができる。
【0026】
第1の特徴及び第2の特徴を踏まえて、第10の特徴として、
前記表面摩擦撹拌を行うツールが、ローラー状ツールであって、該ローラー状ツールをアルミニウム合金材に形成される撹拌部及びその周囲部分に対して押圧密着させた上で、相対的に移動させるとともに、該ローラー状ツールのローラーを回転させてなるものである。
【0027】
そのため、摩擦撹拌接合により一体に接合されたアルミニウム合金材の撹拌部及びその周囲部分の表層部に対する前記ローラー状ツールによる表面摩擦撹拌では、バリの発生を最小限に抑制しながら、両者における第二相粒子の分布状態の相違をきわめて小さくして均質化させる。その結果、表面摩擦撹拌後に、前記アルミニウム合金材の表面に対して陽極酸化処理により被膜を形成しても、該被膜において色調差の発生を防止したい範囲内で、該被膜では、撹拌部に対応する部分及び撹拌部の周囲部分に対応する部分との間で色調差が発生することを防止できる。
なお、摩擦撹拌処理による表面処理により塑性流動したアルミニウム合金材がバリとして排出されても凹凸を形成しないようにするため、該ローラー状ツールにおけるバリ排出位置〔図4(イ)、(ロ)参照〕において排出されたバリを鎮圧して平滑にする押え付け治具を適宜配置してもよいものである。
【0028】
第1の特徴乃至第10の特徴を踏まえて、第11の特徴として、
上記摩擦撹拌接合によりアルミニウム合金材の撹拌部とその周囲部分に対する各種ツールによる表面摩擦撹拌を多段階に分けて行うものである。
【0029】
そのため、摩擦撹拌接合により一体に接合されたアルミニウム合金材に形成される撹拌部及びその周囲部分に対する表面摩擦撹拌において長時間を熱を与え続けることを防ぐことができる。その結果、アルミニウム合金材に形成される撹拌部とその周囲部分での熱変形を防止することができる。
【発明の効果】
【0030】
本願発明の摩擦撹拌接合により一体に接合されたアルミニウム合金材に形成される撹拌部及びその周囲部分に対する表面摩擦撹拌によりアルミニウム合金材に形成される撹拌部とその周囲部分との間で第二相粒子の分布状態の相違はきわめて小さくなって均質化するので、その後の陽極酸化処理による被膜では色調差は確実に解消されるとともに、しかも平滑になることから、製品の意匠性を著しく向上させることができるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】図1は本願発明の実施例1の摩擦撹拌接合したアルミニウム合金材における表面処理方法を施したアルミニウム合金製容器の要部拡大断面図である。
【図2】図2(イ)〜(ヘ)は本願発明の摩擦撹拌接合したアルミニウム合金材における表面処理方法を示した模式図である。
【図3】図3は実施例1における回転ツールによる摩擦撹拌処理を示した斜視図である。
【図4】図4は本願発明の実施例2の摩擦撹拌接合したアルミニウム合金材における表面処理方法でローラ状ツールに使用した場合の模式図であって、ローラ状ツールの回転方向を示したものでもあり、(イ)はローラ状ツールの回転方向がローラ進行方向に対して逆方向、(ロ)はローラ状ツールの回転方向がローラ進行方向に対して順方向の場合である。
【図5】図5は実施例2におけるローラ状ツールによる表面摩擦撹拌を示した模式図である。
【図6】図6(イ)(a)〜(d)は柱状のヘラ状ツールの全体斜視図であり、(ロ)(a)は端面に形成する凹陥部が四角錘状であって断面形状が四角形状であるヘラ状ツール、同(b)は端面に形成する凹陥部が凹湾曲面状であって断面形状が円形状であるヘラ状ツールの透視全体斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
表面に形成した陽極酸化処理による被膜において色調差の発生を防止したい範囲内で、摩擦撹拌接合により形成された撹拌部に対応する部分とその周囲部分に対応する部分との間で色調差が発生することを簡易且つ確実に防止するという目的を、陽極酸化処理により形成される被膜において色調差の発生を防止したい範囲に対応する範囲内で、アルミニウム合金材に形成される撹拌部及びその周囲部分に対して表面摩擦撹拌を行うことで実現した。
【0033】
そこで、本願発明における効果を以下のようにして比較例1と比較しつつ確認した。
【実施例1】
【0034】
まず、図1において示す1は本願発明である摩擦撹拌接合したアルミニウム合金材における表面処理方法を適用したアルミニウム合金製容器である。該アルミニウム合金製容器1は、アルミニウム合金材の蓋材2及び側材3から構成される。そして、蓋材2と側材3とは、該側材3の内周面全周に渡り周設された段差部4に載置された蓋材2と該側材3との突合せ部5の全周を摩擦撹拌接合により一体に接合して撹拌部6を形成する。そして、その後の陽極酸化処理による被膜9において色調差の発生を防止したい範囲内に対応する該撹拌部6及びその周囲部分7の表層部に対して本願発明の表面処理方法によって表面摩擦撹拌層8を形成した上で、陽極酸化処理による被膜9を形成するものである。
【0035】
そして、前記アルミニウム合金製容器1は、図2に示すようにして具体的に作製した。
すなわち、厚さ5mmのJIS A 1050−H24のアルミニウム合金材を絞り加工により90×90mmの角筒型とするとともに、高さ50mmに切断して側材3とした。その上で、該側材3の内周面全周にわたって、開口縁より5mmの位置に段差幅0.5mmの段差部4を切削加工により周設した。
一方、前記アルミニウム合金材を打ち抜き加工により90×90mmの蓋材2とした〔図2(イ)参照〕。
次に、該蓋材2を側材3の内周面3’に周設された段差部4に載置し〔図2(ロ)参照〕、該側材3の内周面3’と蓋材2の側面2’との突合せ部5に対して、ピン有り回転ツール(ショルダー径φ12mm、ピン径4mm、ピンの長さ2mm)10により回転数1500rpm、接合速度500mm/分で、該突合せ部5全周に渡って摩擦撹拌接合することで撹拌部6を形成した。ここで、該突合せ部5に対する摩擦撹拌接合は、摩擦撹拌接合の終末端が開始端から20mmに渡って重複するようにして行った〔図2(ハ)参照〕。
そして、端面において撹拌部6に対して凹湾曲面状の凹陥部11’を形成したピン無し回転ツール(ショルダー径φ100mm、端面の凹陥部11’における凹湾曲面の曲率半径Rを625mmとする。)11により回転数3000rpm、処理速度500mm/分で〔図2(ニ)参照〕、その後の陽極酸化処理による被膜9において色調差の発生を防止したい範囲内に対応する該撹拌部6及びその周囲部分7に対して表面摩擦撹拌を行い〔図2(ホ)参照〕、表面摩擦撹拌層8を形成した〔図2(ヘ)〕。
その後、表面摩擦撹拌層8に対して0.25mm面削するとともにバフ研磨した上で、陽極酸化処理により厚さ10μmの銀白色の被膜9を形成した。
【0036】
その結果、該被膜9において撹拌部6に対応する部分とその周囲部分7に対応する部分とでは目視による色調差は見出されず、本願発明の効果が確認された。
また、面削後の表面摩擦撹拌層8においてその表面から深さ0.25mmの範囲で断面組織観察を行ったところ、表面摩擦撹拌を行った箇所(撹拌部6及びその周囲部分7)以外では1〜50μmの第二相粒子が総粒子面積に対する面積率で40%以上を占めているのに対し、表面摩擦撹拌を行った箇所は1μm以下の第二相粒子が総粒子面積に対する面積率で50%以上を占める割合で分断されており、第二相粒子の分布状態は均質化していることが確認された。
【実施例2】
【0037】
まず、上記実施例1と同様に、摩擦撹拌接合により形成した撹拌部6により蓋材2と側材3とを一体に接合した後、該撹拌部6及びその周囲部分7を全面にわたって0.5mm面削して平滑とした。
さらに、図4において示すSKD製ローラー状ツール12のローラー(ローラー径φ150mm、ローラー幅25mm)12’により回転数1000rpmとし、5mmずつ重複させながら1kNの荷重を複数回掛け、処理速度500mm/分で、その後の陽極酸化処理による被膜9において色調差の発生を防止したい範囲内に対応する撹拌部6及びその周囲部分7の表層部に対して表面摩擦撹拌を行い表面摩擦撹拌層8を形成した〔図5参照〕。
その後、表面摩擦撹拌層8に対して0.25mm面削するとともにバフ研磨した上で、陽極酸化処理により厚さ10μmの銀白色の被膜9を形成した。
【0038】
その結果、該被膜9において撹拌部6に対応する部分とその周囲部分7に対応する部分とでは目視による色調差は見出されず、本願発明の効果が確認された。
また、面削後の表面摩擦撹拌層8においてその表面から深さ0.32mmの範囲で断面組織観察を行ったところ、表面摩擦撹拌を行った箇所(撹拌部6及びその周囲部分7)以外では1〜50μmの第二相粒子が総粒子面積に対する面積率で40%以上を占めているのに対し、表面摩擦撹拌を行った箇所は1μm以下の第二相粒子が総粒子面積に対する面積率で50%以上を占める割合で分断されており、第二相粒子の分布状態は均質化していることが確認された。
【比較例】
【0039】
一方、上記実施例1及び2に対して比較例は以下のようにして作製した。
すなわち、厚さ5mmのJIS A 1050−H24のアルミニウム合金材を絞り加工により90×90mmの角筒型とするとともに、高さ50mmに切断して側材とした。その上で、該側材の内周面全周において、開口縁より5mmの位置に段差幅0.5mmの段差部を切削加工により周設した。
一方、前記アルミニウム合金材を打ち抜き加工により90×90mmの蓋材とした。
次に、該蓋材を側材の内周面に周設された段差部に載置し、該側材の内周面と蓋材の側面との突合せ部全周に対して、ピン有り回転ツール(ショルダー径φ12mm、ピン径4mm、ピン長さ2mm)により回転数1500rpm、接合速度500mm/分で、摩擦撹拌接合して撹拌部を形成した。ここで、摩擦撹拌接合は、該撹拌部がその開始端から20mmに渡って重複するように行った。
その後、撹拌部及びその周囲部分を0.25mm面削するとともにバフ研磨した上で、陽極酸化処理により厚さ10μmの銀白色の被膜を形成した。
【0040】
その結果、被膜において撹拌部に対応する部分とその周囲部分に対応する部分とでは顕著な色調差が認められた。
また、面削後の撹拌部においてその表面から深さ0.25mmの範囲で断面組織観察を行ったところ、その周囲部分では1〜50μmの第二相粒子(Feを含む晶出物、JIS A 1050の場合はAl−Fe系および/またAl−Fe−Si系晶出物)が面積率で40%以上を占めているのに対し、撹拌部では1μm以下の第二相粒子(Feを含む晶出物、JIS A 1050の場合はAl−Fe系および/またAl−Fe−Si系晶出物)が総粒子面積に対する面積率で50%以上を占める割合で分断されていることが確認され、撹拌部とその周囲部分とでは第二相粒子の分布状態の相違が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本願発明は、摩擦撹拌接合により一体に接合した後、表面に陽極酸化処理による被膜を形成する場合のみならず、表面摩擦撹拌によりその表面を改質させた場合においても適用することができる。
【符号の説明】
【0042】
1 アルミニウム合金製容器
2 蓋材
2’ 側面
3 側材
3’ 内周面
4 段差部
5 突合せ部
6 撹拌部
7 周囲部分
8 表面摩擦撹拌層
9 被膜
10 ピン有り回転ツール
11 ピン無し回転ツール
11’ 凹陥部
12 ローラー状ツール
12’ ローラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
摩擦撹拌接合したアルミニウム合金材に形成される撹拌部及びその周囲部分の表層部をツールにより表面摩擦撹拌した後に、陽極酸化処理を行う
ことを特徴とする摩擦撹拌接合したアルミニウム合金材における表面処理方法。
【請求項2】
前記表面摩擦撹拌の後、陽極酸化処理を行う前に、撹拌部及びその周囲部分の表層部を摩擦撹拌接合により形成される撹拌部の深さの範囲内で平滑化してなる
ことを特徴とする請求項1記載の摩擦撹拌接合したアルミニウム合金材における表面処理方法。
【請求項3】
前記表面摩擦撹拌を行うツールが、略円形形状のショルダーと、アルミニウム合金材に接する側の端面を平滑面、凹湾曲面、又は凸湾曲面のうちいずれか1つとからなる
ことを特徴とする請求項1又は2記載の摩擦撹拌接合したアルミニウム合金材における表面処理方法。
【請求項4】
前記表面摩擦撹拌を行うツールが、アルミニウム合金材に接する側の端面の中心に略円柱形状のピンを突出するように形成する
ことを特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか1つに記載の摩擦撹拌接合したアルミニウム合金材における表面処理方法。
【請求項5】
前記表面摩擦撹拌を行うツールのアルミニウム合金材に接する側の端面の中心に形成される略円柱形状のピンにおいて、
ツールのショルダー径をD、ピンの直径をP、ピンの長さをLとした場合に、
D/10≦P≦D/2 20≦P≦200(mm) 0<L≦3(mm)
及び
該表面摩擦撹拌に使用するツールのピンの長さを摩擦撹拌接合に使用するツールのピンの長さより短くする
ことを特徴とする請求項4記載の摩擦撹拌接合したアルミニウム合金材における表面処理方法。
【請求項6】
前記表面摩擦撹拌を行うツールのアルミニウム合金材に接する側の端面を凹湾曲面又は凸湾曲面とした場合に、該凹湾曲面又は凸湾曲面の端面における曲率半径Rを、
100≦R≦1000(mm)とする
ことを特徴とする請求項3乃至5のうちいずれか1つに記載の摩擦撹拌接合したアルミニウム合金材における表面処理方法。
【請求項7】
前記表面摩擦撹拌を行うツールが、ピン無し柱状のヘラ状ツールであって、該ヘラ状ツールとアルミニウム合金材に形成される撹拌部及びその周囲部分に対して押圧密着させるとともに、前後左右方向に摺動させてなる
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の摩擦撹拌接合したアルミニウム合金材における表面処理方法。
【請求項8】
前記表面摩擦撹拌を行うピン無し柱状のヘラ状ツールの断面形状を、四角形状、台形状、楕円形状又は円形状のうちいずれか1つとする
ことを特徴とする請求項7記載の摩擦撹拌接合したアルミニウム合金材における表面処理方法。
【請求項9】
前記表面摩擦撹拌を行うピン無し柱状のヘラ状ツールのアルミニウム合金材に接する側の端面に、角錐状又は湾曲状に凹陥部を形成する
ことを特徴とする請求項7又は8記載の摩擦撹拌接合したアルミニウム合金材における表面処理方法。
【請求項10】
前記表面摩擦撹拌を行うツールが、ローラー状ツールであって、該ローラー状ツールをアルミニウム合金材に形成される撹拌部及びその周囲部分に対して押圧密着させた上で、相対的に移動させるとともに、該ローラー状ツールのローラーを回転させてなる
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の摩擦撹拌接合したアルミニウム合金材における表面処理方法。
【請求項11】
上記摩擦撹拌接合によりアルミニウム合金材に形成される撹拌部とその周囲部分に対する各種ツールによる表面摩擦撹拌を多段階に分けて行う
ことを特徴とする請求項1乃至10記載のいずれか1つに記載の摩擦撹拌接合したアルミニウム合金材における表面処理方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate