説明

摩擦攪拌加工装置及び摩擦攪拌加工方法

【課題】加工操作の繰り返しによるツールの摩耗に対応することができ、欠陥の発生を抑制して良好な加工を可能とする摩擦攪拌加工装置及び摩擦攪拌加工方法を提供する。
【解決手段】摩擦攪拌加工装置1は、ツール20を上下に移動させて被加工材に対して上から押し付けるツール高さを設定するための昇降駆動手段32を備える。そして摩擦攪拌加工装置1は、同じツール20により同じ材質の被加工材を順次に複数回摩擦攪拌加工するときの上記ツール高さは、最初に加工する被加工材に対して設定したツール高さを基準ツール高さとし、2回目以降に加工する被加工材に対しては、加工操作によるツール20の摩耗に対応して、ツール20のショルダ面と被加工材との間で必要な接触面積を確保するために予め定められた下げ幅だけ上記基準ツール高さより低く設定されるように上記昇降駆動手段32を制御するツール高さ調節手段88を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、金属材料の被加工材同士を突き合せた接合線に沿って回転するツールを押し付けて摩擦熱により軟化させて接合する摩擦攪拌加工装置及び摩擦攪拌加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
上記加工法として、摩擦攪拌接合(FSW)が知られている。摩擦攪拌接合は、金属材料の被加工材同士を突き合せた接合線に対して円柱状のツールを回転させながら押し付けて接合方向に相対移動させることにより、発生する摩擦熱で被加工材を軟化させて接合する方法である。また、上記ツールを用いて、被加工材表面の強度及び硬さ等を向上させる摩擦攪拌改質(FSP)や、被加工材を点接合する摩擦攪拌点接合(FSJ)も行われ、これらと上記摩擦攪拌接合とを総称して摩擦攪拌加工と称される。
【0003】
上記ツールは、円柱状のツール本体と、ツール本体における被加工材と接触する円形のショルダ面と、ショルダ面の中央に突設して被加工材中に押し入れるプローブとを備える(図3)。そして、ツールは、被加工材よりも硬さ、融点、耐摩耗性等の物性の高い材料が要求され、アルミニウム材等の被加工材の接合にはSKD鋼等の工具鋼が主に使用されている。一方、アルミニウム材よりも高融点の材料であるステンレス等の鉄系材料の被加工材を接合する場合は、セラミックス製や超硬合金製等のツールが使用されている。しかし、セラミックス製のツールは破損しやすく、超硬合金製のツールは短時間で摩耗が生じやすい等の問題がある。そこで、ツールの材質として高強度で優れた高温特性を有するNi基2重複相金属間化合物合金からなるものが提案されている(特許文献2)。
【0004】
また、上記摩擦攪拌加工中におけるツールの被加工材へのツール深さ(被加工材表面からのショルダ面の押込み量)に変動が生じると接合部に欠陥が発生しやすくなる。そこで、このような欠陥防止の対策として、ツールが被加工材から受けるツール荷重と上記ツール深さとの相関に基づいて、加工中に検出するツール荷重が一定になるようにツールの上下位置を常時調節することでツール深さを一定に保持する荷重制御の技術が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−198683号公報
【特許文献2】特開2009−255170号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記ツールは、例えば鉄系材料を超硬合金製等のツールで接合する場合のように、ツールと被加工材の組み合わせによっては加工操作により摩耗して短くなっていく。そのため、被加工材を順次に複数回加工操作する場合は、ツールと被加工材との間で十分な接触面積が確保できなくなって加工部に欠陥を発生させる。また、ツールの摩耗は、ショルダ面の摩耗が顕著であり、プローブはそれほど摩耗しない。このことは、被加工材との接触速度が、ショルダ面では速く、ショルダ面の中心位置にあるプローブでは遅いため、ショルダ面ほど磨耗速度が大きいからである。そのため、ツールの摩耗が進行するとショルダ面との関係でプローブ長さが見かけ上長くなる傾向となる。この場合、上記荷重制御によると、ショルダ面と被加工材の接触面積を一定に保持しようとするので、見かけ上長くなったプローブの被加工材への挿入深さが深くなる。そして、荷重変動によるツール深さ変動により摩耗の少ないプローブの挿入深さが被加工材の板厚を超えてしまうと、加工部にバリや空洞等の欠陥を発生させる。このような現象は、被加工材が薄板(例えば、板厚1.5mm以下)の場合に顕著である。薄板の場合には加工装置によるツール押付荷重の変動の影響を受けやすいからであって、薄板は加工中に許容されるツール押付荷重の変動幅が小さいため、上記荷重制御を適切に実行することが困難だからである。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑み、加工操作の繰り返しによるツールの摩耗に対応することができ、欠陥の発生を抑制して良好な加工を可能とする摩擦攪拌加工装置及び摩擦攪拌加工方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る摩擦攪拌加工装置は、
ショルダ面にプローブを突設して金属材料からなる被加工材を摩擦攪拌加工するためのツールと、
ツールを回転させるための回転駆動手段と、
ツールを上下に移動させて被加工材に対して上から押し付けるツール高さを設定するための昇降駆動手段と、
ツールを被加工材の加工方向に相対移動させるための移送駆動手段と、
同じツールにより同じ材質の被加工材を順次に複数回摩擦攪拌加工するときの上記ツール高さは、最初に加工する被加工材に対して設定したツール高さを基準ツール高さとし、2回目以降に加工する被加工材に対しては、加工操作によるツールの摩耗に対応して、ツールのショルダ面と被加工材との間で必要な接触面積を確保するために予め定められた下げ幅だけ上記基準ツール高さより低く設定されるように上記昇降駆動手段を制御するツール高さ調節手段とを備える。
【0009】
上記ツール高さ調節手段により、2回目以降に加工する被加工材に対してはツールの摩耗に対応してツール高さが調節されるので、ツールのショルダ面と被加工材との間で十分な接触面積を確保することができる。また、薄板のようにツール荷重の許容変動幅が比較的小さいために従来の荷重制御では高さ調節が困難であった被加工材であっても、上記ツール高さ制御手段によれば、ツールの摩耗に対応してツール高さが調節されるので、ツールのショルダ面と被加工材との間で十分な接触面積を確保することができる。従って、被加工材への加工操作を同じツールを用いて繰り返しても、ツールによる摩擦熱の発熱量を過不足無く適正に制御することができ、加工部での欠陥の発生が抑制される。
【0010】
上記ツールは、Ni基2重複相金属間化合物合金からなるのが好ましく、また、上記被加工材は、鉄系材料の板材からなるのが好ましい。
【0011】
これにより、ツールの耐熱及び耐摩耗性が向上され、加工時の摩擦熱による高温下でもツールは必要な硬さを発揮することができる。従って、加工時の温度が比較的高温となるステンレスなどの鉄系材料からなる被加工材に対して同じツールを用いて加工操作を繰り返しても、良好な加工状態を実現することができる。
【0012】
また、上記摩擦攪拌加工装置において、
摩擦攪拌加工により摩耗した上記ツールを砥石により研削するツール再生機構を備えるのが好ましい。
【0013】
ツールが摩耗することにより、ツールと被加工材の接触状態が不安定になり良好な接合状態を得ることができなくなる。これに対して、上記ツール再生機構によれば、ツールが摩耗しても、ツール再生機構によりツールを研削して再生することができる。従って、摩耗したツールを再生により再使用することができるので、ツールの寿命が延び、ツール交換頻度を少なくすることができ、被加工材の加工コストを抑えることもできる。
【0014】
ところで、加工操作の繰り返しによるツール摩耗は、ショルダ面の摩耗が顕著であり、プローブはそれほど摩耗しない。そのため、従来の荷重制御のように、ショルダ面の摩耗によってツール荷重が減少した分、ツールの押込み量を増加させると、プローブの挿入深さが被加工材の板厚を超えてしまい、加工部にバリや空洞等の欠陥を発生させる。
【0015】
そこで、上記ツール再生機構は、砥石により上記ツールのプローブだけを研削する構成とすることができる。
これにより、加工操作の繰り返しによりツールのショルダ面が顕著に摩耗したために長くなってしまったプローブを上記ツール再生機構によって研削することで、プローブ長さを被加工材の厚さに対応した適切な長さに再生することができる。従って、ツールを再生することによってもツールの摩耗に対応することができるので、被加工材への加工操作を同じツールを用いて繰り返しても、加工部での欠陥の発生を抑制して良好な加工状態を実現することができる。また、プローブのみの再生であれば、簡易に且つ迅速にツールを再生させることができる。
【0016】
上記ツール再生機構による再生の際、上記ツールを回転させながら砥石を回転させてツールを研削するように制御し、ツールの回転トルク又は砥石の回転トルクを検出するトルク検出手段の出力値が所定の設定値に達すると再生を停止するように制御する再生制御手段を備えるのが好ましい。
【0017】
これにより、ツール再生時にツール又は砥石の回転トルクをトルク検出手段により検出して、例えば、ツールの表面形状が適切な状態になった時の回転トルクの値を設定値とし、回転トルクがこの設定値になった時に再生を停止することで、時間の無駄がなく、削りすぎることもなく良好なツール再生を行なうことができる。
【0018】
また、本発明に係る摩擦攪拌加工方法は、
金属材料の被加工材に対してツールを回転させながら押し付けて発生する摩擦熱により被加工材を軟化させて加工する摩擦攪拌加工方法であって、
同じツールにより同じ材質の被加工材を順次に複数回摩擦攪拌加工するときに被加工材を上から押し付けるツール高さは、最初に加工する被加工材に対して設定したツール高さを基準ツール高さとし、2回目以降に加工する被加工材に対しては、加工操作によるツールの摩耗に対応して、ツールのショルダ面と被加工材との間で必要な接触面積を確保するために予め定められた下げ幅だけ上記基準ツール高さより低く設定して被加工材の加工を行う。
【0019】
これにより、被加工材への加工操作によるツールの摩耗に対応してツールのショルダ面と被加工材との間で十分な接触面積を確保することができる。従って、被加工材への加工操作を同じツールを用いて繰り返しても、ツールによる摩擦熱の発熱量を過不足無く適正に制御することができ、加工部での欠陥の発生が抑制される。そして、従来の荷重制御では十分に欠陥防止対応するのが困難である場合として、例えば、薄板のようにツール荷重の許容変動幅が比較的小さい被加工材に対しても、ツールによる摩擦熱の発熱量を過不足無く適正に制御することができ、加工部での欠陥の発生を抑制することができる。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、本発明に係る摩擦攪拌加工装置及び摩擦攪拌加工方法によれば、被加工材への加工操作を同じツールを用いて繰り返しても、ツールの摩耗に対応することができ、加工部での欠陥の発生を抑制して良好な加工状態を実現することができる。また、被加工材が薄板の場合であっても良好な加工状態を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】摩擦攪拌接合装置の全体構成を示す斜視図である。
【図2】摩擦攪拌接合装置におけるツール高さを設定する機構を説明するための模式図である。
【図3】摩擦攪拌加工用のツールを示す図であり、同図(A)はツールの斜視図であり、同図(B)はその側面図である。
【図4】摩擦攪拌接合装置のツール再生機構としてのツール研削装置の部分を拡大した断面図である。
【図5】ワーク加工操作位置とツール再生操作位置との関係を示す模式図である。
【図6】実施例1における加工距離とツール摩耗との相関関係を示すグラフである。
【図7】実施例1の摩擦攪拌接合の加工操作(1回目)により得られた薄板の接合部を表側から撮影した写真である。
【図8】実施例1の摩擦攪拌接合の加工操作(7回目)により得られた薄板の接合部を表側から撮影した写真である。
【図9】実施例1の摩擦攪拌接合の加工操作(13回目)により得られた薄板の接合部を表側から撮影した写真である。
【図10】実施例2における加工距離とツール摩耗との相関関係を示すグラフである。
【図11】実施例2の摩擦攪拌接合の加工操作(1回目)により得られた薄板の接合部を表側から撮影した写真である。
【図12】実施例2の摩擦攪拌接合の加工操作(7回目)により得られた薄板の接合部を表側から撮影した写真である。
【図13】実施例2の摩擦攪拌接合の加工操作(14回目)により得られた薄板の接合部を表側から撮影した写真である。
【図14】実施例3の摩擦攪拌接合の加工操作(再生前)により得られた薄板の接合部を表側から撮影した写真である。
【図15】実施例3の摩擦攪拌接合の加工操作(再生後)により得られた薄板の接合部を表側から撮影した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、摩擦攪拌加工装置の一実施形態として、金属材料の被加工材となる板材(以下、適宜「ワーク」)を摩擦攪拌接合するための摩擦攪拌接合装置を例に挙げて説明する。図1に示すように、摩擦攪拌接合装置1は、基台7上のワークW1,W2に対して摩擦攪拌接合を行うための加工機構2を備える。
【0023】
基台7上には、2枚の平板状のワークW1,W2を配置する冶具4が設けられ、冶具4には、ワークW1,W2の裏面に配置される裏当て材41が取り付けられている。ワークW1,W2は、冶具4に設けたワーク押さえ6により互いの端面を突き合わせた接合線Lが裏当て材41の中央に位置するように固定される。裏当て材41の材質は、セラミックス製とすることが好ましいが、これに限定されるものではない。例えば、ワークW1,W2が鉄系合金の板材であれば、良好な接合を行うために板材の裏面側からの放熱を遮断できる熱伝導率の小さい材質(例えば、Si)を選択することが可能である。なお、裏当て材41は、図1に示すような平板部材以外に棒状部材等で構成してもよい。
【0024】
加工機構2は、摩擦攪拌加工用のツール20と、ツール20を保持するツール保持部30と、ツール20を回転させるための回転用モータ(回転駆動手段)32と、ツール保持部30を昇降させるための昇降用モータ(昇降駆動手段)85と、ツール保持部30を横方向に移動させるための移送用モータ(移送駆動手段)83とを備える。
【0025】
ツール保持部30は、下部にツール20を着脱自在に取り付けるツールホルダー3を備える。ツールホルダー3は、ツール回転用モータ23と連結されており、このツール回転用モータ23の駆動によりツールホルダー3とともにツール20が回転される。ツール保持部30は、図2に示すように、スライダー80に対してボールネジ86により昇降自在に取り付けられており、スライダー80に設ける昇降用モータ85により基台7に対して上下に移動自在にされ、これにより、ツール20をワークW1,W2に接触させるツール高さが設定される。また、ツール保持部30は、スライダー80に対して回動自在に取り付けられており、ツール20を所定の前進角θ(図5参照)に設定できるようになっている。スライダー80は、一対のガイドレール81とボールネジ82とを備える直動機構84に取り付けられており、送り用モータ83の駆動により基台7に平行に移動される。これにより、スライダー80に取り付けたツール保持部30が移動されるので、ツール保持部30に保持するツール20がワークW1,W2の加工方向となる接合線L方向に沿って移動される。
【0026】
(摩擦攪拌加工用ツール)
図3に示すように、ツール20は、円柱状のツール本体21と、ツール本体21の基端側にフランジ25を介して形成する六角柱状の取付部24とを有する。取付部24がツールホルダー3に着脱自在に固定されることにより、ツール保持部30にツール20が取り付けられる。ツール本体21の先端面は、平面状のショルダ面22と、ショルダ面22の中心部に突設された球面状のプローブ23とを有する。そして、ツール20は、ワークW1,W2を摩擦攪拌加工する際、回転しながらツール本体21のショルダ面22及びプローブ23をワークW1,W2に押し付けて摩擦熱を発生させるようにする。
【0027】
ツール20は、Ni基2重複相金属間化合物合金により形成されるのが好ましい。これにより、ツール20の耐熱及び耐摩耗性が向上され、加工時の摩擦熱による高温下でもツール20が必要な硬さを発揮することができ、被加工材がアルミニウム合金等に比べて高融点材料である鉄系合金等であっても確実に且つ良好な接合を行うことができる。
【0028】
Ni基2重複相金属間化合物合金として、例えば、NiAl(L1)−NiTi(D024)−NiV(D022)系金属間化合物合金(国際公開WO2006/1011212号パンフレットを参照)や、NiAl(L1)−NiNb(D0)−NiV(D022)系金属間化合物合金(国際公開WO2007/086185号パンフレットを参照)などが知られている。
【0029】
上記NiAl(L1)−NiTi(D024)−NiV(D022)系相金属間化合物合金として、具体的には、Al:5原子%より大で13原子%以下、V:9.5原子%以上で17.5原子%より小、Ti:0原子%以上で3.5原子%以下、B:0重量ppm以上で1000重量ppm以下、残部は不純物を除きNiからなり、かつ初析L12相と(L12+D022)共析組織との2重複相組織を有するNiAl基金属間化合物が挙げられる。
【0030】
この金属間化合物は、Al:5原子%より大で13原子%以下、V:9.5原子%以上で17.5原子%より小、Ti:0原子%以上で3.5原子%以下、B:0重量ppm以上で1000重量ppm以下、残部は不純物を除きNiからなる合金材に対して、初析L12相とAl相とが共存する温度で第1熱処理を行い、その後L12相とD022相とが共存する温度に冷却するか、当該L12相とD022相とが共存する温度で第2熱処理を行うことによって、Al相を(L12+D022)共析組織に変化させて2重複相組織を形成する工程を備える方法によって製造することができる。もしくは、上記組成の合金を高温のA1単相領域から徐冷することによって2重複相組織を形成する工程を備える方法によっても製造することができる。
【0031】
また、上記NiAl(L1)−NiNb(D0)−NiV(D022)系金属間化合物合金として、具体的には、Al:5原子%より大で13原子%以下、V:9.5原子%以上で17.5原子%より小、Nb:0原子%以上で5原子%以下、B:50重量ppm以上1000重量ppm以下、残部は不純物を除きNiからなり、初析L12相と(L12+D022)共析組織との2重複相組織を有するNiAl基金属間化合物が挙げられる。
【0032】
この金属間化合物は、Al:5原子%より大で13原子%以下、V:9.5原子%以上で17.5原子%より小、Nb:0原子%以上で5原子%以下、B:50重量ppm以上で1000重量ppm以下、残部は不純物を除きNiからなる合金材に対して、初析L12相とAl相とが共存する温度、又は初析L1相とAl相とD0が共存する温度で第1熱処理を行い、その後、L1相とD022相とが共存する温度に冷却するか、その温度で第2熱処理を行うことによって、Al相を(L12+D022)共析組織に変化させて2重複相組織を形成する工程によって製造することができる。もしくは、上記組成の合金を高温のA1単相領域から徐冷することによって2重複相組織を形成する工程を備える方法によっても製造することができる。
【0033】
そして、ツール20の材質には、Niを主成分とし且つAl:2〜9原子%、V:10〜17原子%、Ta及び/又はW:0.5〜8原子%、Nb:0〜6原子%、Co:0〜6原子%、Cr:0〜6原子%を含む合計100原子%の組成の合計重量に対してB:10〜1000重量ppmを含み且つ初析L12相と(L12+D022)共析組織とからなる2重複相組織を有するNi基2重複相金属間化合物合金が、耐熱及び耐摩耗性に優れる点で好ましい。なお、本明細書において、上記「〜」は、上限値、下限値をそれぞれ含む。
Ta及び/又はWが0.5〜8原子%含むことにより硬さの向上効果が得られる。
Nb、Co、Crは、任意成分であるが、Nbは、2重複相組織の強度向上のために添加され、また、Co、Crは、耐酸化性向上のために添加される。
Bは、得られる合金の延性向上のために添加される。
また、初析L12相と(L12+D022)共析組織とからなる2重複相組織を有することにより、金属間化合物合金は引張強度などの機械的特性や耐クリープ特性に優れるものとなる。
【0034】
また、ツール20の材質には、Niを主成分とし且つAl:5.5〜13原子%、V:10〜17原子%、Nb:0〜6原子%、Ti:0〜6原子%、Co:0〜6原子%、Cr:0〜6原子%を含む合計100原子%の組成の合計重量に対してB:10〜1000重量ppmを含み且つ初析L12相と(L12+D022)共析組織とからなる2重複相組織を有するNi基2重複相金属間化合物合金も、上記のものと同様に、耐熱及び耐摩耗性に優れる点で好ましい。
【0035】
また、ツール20の製造は、溶解・鋳造法、鋳造材を熱間鍛造等の塑性加工、粉末冶金法等にて賦形してもよい。例えば、Ni基2重複相金属間化合物合金のツール20の製造は、種々の製造方法にて行うことができ、所定の組成になるように所定の元素の地金(それぞれ純度99.9重量%以上)とBを秤量したものを真空誘導溶解法やアーク溶解法等によって溶解、鋳造することによって鋳塊を作製する。この鋳塊から放電加工、切削加工、研削加工、研磨加工等を適宜用いて所定の形状に加工することによりツールを製造することができる。
【0036】
そして、上記摩擦攪拌接合装置1によりワークW1,W2を接合する際、高速回転(例えば、500rpm〜2000rpm程度)させたツール20を、ワークW1,W2の接合線Lの一端に押し付ける。すると、発生する摩擦熱により接合線L周辺のワークW1,W2が軟化する。次いで、ツール20を接合線Lの他端に向かって移動させることにより、回転による摩擦熱で接合線L周辺のワークW1,W2が連続的に軟化し、ワークW1,W2の接合線L付近が摩擦攪拌により接合される。
【0037】
(ツール高さ調節手段)
また、上記摩擦攪拌接合装置1は、同じツール20により同じ材質の被加工材(ワークW1,W2)を順次に複数回摩擦攪拌加工するとき、ツール20の摩耗に対応して、繰り返し行う加工操作毎に、ツール高さを低く設定するように上記昇降用モータ85を制御するツール高さ調節手段88を備えている(図1参照)。
【0038】
すなわち、ツール20は、被加工材の加工操作を繰り返すことにより摩耗して短くなっていく。このツール摩耗の度合いは、被加工材の材質、ツール20の材質、ツール回転数、加工速度等により変動するが、これら条件が同じ場合、ツール20は加工距離にほぼ比例して摩耗する(図6、図10を参照)。そこで、ツール摩耗度合いについて、ツール回転数を一定にして同じツール20により同じ材質の被加工材を摩擦攪拌接合したときの実験結果により、同条件下での加工距離に対するツール摩耗の相関データを取得する。
【0039】
そして、ツール高さ調節手段88において、このツール摩耗の相関データを基に、同じ条件下で2回目以降に加工する被加工材に対して、ツール20のショルダ面22と被加工材との間で必要な接触面積が確保されるツール高さを決定し、最初に加工する被加工材に対して設定したツール高さ(基準ツール高さ)より低くする下げ幅を予め設定しておく。なお、ツール20のショルダ面と被加工材との間での必要な接触面積としては、例えば、ショルダ面の70%以上とするのが好ましい。
【0040】
そして次に、同じツール20により同じ材質の被加工材を順次に複数回摩擦攪拌接合するときのツール高さは、上記ツール高さ調節手段88により、2回目以降に加工する被加工材に対しては、加工操作によるツール20の摩耗に対応して、上記下げ幅だけ上記基準ツール高さより低く設定されるように上記昇降用モータ85が制御されることとなる。なお、最初に加工する被加工材に対して設定するツール高さ(基準ツール高さ)は、例えば、ショルダ面22の70%以上が被加工材に接触されるツール高さに設定されるのが好ましく、この基準ツール高さは、例えば、ツール20の前進角θを加味して、ショルダ面22が被加工材の表面に接触する位置から所定深さだけショルダ面22被加工材へ押込んだときの位置とされる。
【0041】
上記ツール高さ調節手段88により、ツール20の摩耗に対応してツール高さが調節されるので、2回目以降に加工する被加工材に対してもツール20のショルダ面22と被加工材との間で十分な接触面積を確保することができる。従って、被加工材への加工操作を同じツール20を用いて繰り返しても、ツール20による摩擦熱の発熱量を過不足無く適正に制御することができ、接合部での欠陥の発生が抑制される。
【0042】
そして、従来の荷重制御では十分に欠陥防止対応するのが困難である場合として、例えば、薄板(例えば、板厚1.5mm以下)のようにツール荷重の許容変動幅が比較的小さい被加工材に対しても、ツール20による摩擦熱の発熱量を過不足無く適正に制御することができ、接合部での欠陥の発生を抑制することができる。
【0043】
従って、被加工材への加工操作を同じツール20を用いて繰り返しても、ツール20の摩耗に対応することができ、接合部での欠陥の発生を抑制して良好な接合状態を実現することができる。また、被加工材が薄板の場合であっても良好な接合状態を実現することができる。
【0044】
なお、上記ツール高さ調節手段88は、次に述べるツール再生機構によりツール20が再生された場合は、再生後に最初に加工する被加工材に対して改めて上記基準ツール高さが設定され、再生後の2回目以降に加工する被加工材に対しては、再生後に改めて設定された基準ツール高さより上記下げ幅だけ低く設定されるように上記昇降用モータ85が制御されるようにする。
【0045】
(ツール再生機構)
また、摩擦攪拌接合装置1は、冶具4に隣接して基台7上の一方側に、摩擦攪拌加工の操作により摩耗したツール20を再生させるツール再生機構としてのツール研削装置5を備えている。
【0046】
ところで、ツール20は、加工操作を繰り返すと摩耗するが、ツール20の摩耗は、ショルダ面22の摩耗が顕著であり、プローブ23はそれほど摩耗しない。このことは、被加工材との接触速度が、ショルダ面22では速く、ショルダ面22の中心位置にあるプローブ23では遅いためである。そのため、ツール20の摩耗が進行するとプローブ長さが長くなる傾向となる。この場合、上述した荷重制御による接合では、ショルダ面と被加工材の接触面積を一定に保持しようとするため、荷重が変動すると摩耗の少ないプローブ23の挿入深さが被加工材の板厚を超えて被加工材の接合部にバリや空洞等の欠陥を発生させ易くなる。
【0047】
そこで、ツール研削装置5は、ツール20のショルダ面22の顕著な摩耗により見かけ上長くなったプローブ23を研削する。図3に示すように、ツール研削装置5は、円板状の砥石支持板52の外周に形成した砥石51と、砥石支持板52に取り付けられた回転軸58に接続されて砥石51を回転させる砥石回転用モータ53とを備える。砥石51の外周部は、プローブ23の断面凸形状に一致する断面凹形状の凹溝51aが全周に連続形成されている。砥石51としては、プローブ23の研削が円滑に行えるようにダイヤモンド砥石等を使用することが好ましいが、これに限定されるものではなく、例えば、ボラゾンのような立方晶窒化ホウ素(CBN)等によるものでも良い。また、砥石51は、ツール20及び砥石51から発生する研削クズ等が外部に飛散されないようにするため、カバー54により覆われており、このカバー54には、ツール20を配置させるツール挿入口56が上面に設けられるとともに、研削クズ等を排出させる排出口57が下面に設けられている。
【0048】
そして、図3を参照して、ツール20の再生のためプローブ23を研削する際は、摩耗したツール20を回転させながらツール研削装置5の上方に移動させて先端のプローブ23を、回転している砥石51の凹溝51aに接触させて研削する。このとき、図5を参照して、ワークW1,W2の接合線Lが伸びる方向と砥石51の回転方向が一致するようにツール研削装置5を基台7上に配設することにより、ツール20に前進角θを保持させた状態のままでも砥石51により研削できるので、ツール20の再生操作を容易にすることができる。
【0049】
上記再生操作の際、砥石51の周速は、CBN(立法晶窒化硼素)やダイヤモンド砥石の場合は5〜80m/sec程度に設定されるが、これらには限られない。これにより、ツール20を回転させながら砥石51を回転させて研削するに際して、ツール20を欠損等させることなく円滑に研削することができる。また、この再生時のツール20の回転数は、砥石51の種類や砥石51の周速等を考慮して研削に最適な回転数が設定される。例えば、ツール20の回転数は、2000rpm前後程度に設定されるのが好ましいが、これに限定されない。
【0050】
なお、このツール20の研削時には、砥石51周辺に冷風及び/又はミストを供給するようにしてもよい。これにより、ツール研削時に冷風及びミストを供給することで、砥石51の研削面の粗さを細かくし、滑らかに且つ効率的にツール20を研削することができる。
【0051】
以上の再生操作により、摩擦攪拌接合の加工操作の繰り返しによりツール20のショルダ面22が顕著に摩耗したために見かけ上長くなってしまったプローブ23を研削することで、プローブ形状を整え、プローブ長さを被加工材の厚さに対応した適切な長さに再生することができる。従って、被加工材への加工操作を同じツール20を用いて繰り返しても、被加工材の接合部での欠陥の発生を抑制して良好な接合状態を実現することができる。また、プローブ23のみを研削するので、簡易に且つ迅速にツール20を再生させることができる。さらには、摩耗したツール20を再生により再使用することでツール寿命が延び、ツール交換頻度を少なくすることができ、被加工材の加工コストを抑えることもできる。
【0052】
さらに、摩擦攪拌接合装置1は、ツール20を回転させるツール回転用モータ23の回転トルクを検出するトルク検出部33(図1参照)が設けられており、このトルク検出部33は、ツール20を砥石51により研削している際中もツール20の回転トルクを検出するようになっている。また、摩擦攪拌接合装置1は、ツール研削中にトルク検出部33で検出した回転トルクが所定の設定値に達すると研削加工を停止するように制御する再生制御手段(図示せず)が設けられている。
【0053】
研削加工を停止する回転トルクとしての設定値は、摩擦攪拌接合の加工操作の繰り返しによりツール20のプローブ23が長くなりプローブ表面が凸凹となった状態で研削されている時の回転トルクよりも研削によりプローブ23が初期の適切な形状・長さになった時の回転トルクが小さくなるので、回転トルクが減少して所定時間一定値を維持すると研削加工を停止する。これにより、時間の無駄がなく、削りすぎることもなく良好なツール再生を行なうことができる。なお、上記トルク検出部33は、砥石回転用モータ53の回転トルクを検出するようにし、上記再生制御手段は、この砥石回転用モータ53の回転トルクが所定の設定値に達すると研削加工を停止するように制御してもよい。
【0054】
なお、本発明は上記実施形態のみに限定されず、本発明の範囲で種々の変更を施すことが可能である。例えば、ツール研削装置5は、ツール20のショルダ面22及びプローブ23を砥石51により研削して再生するようにしてもよい。加工操作の繰り返しによりショルダ面22が摩耗により著しく凹凸となるとショルダ面22と被加工材の接触状態が不安定になり良好な接合状態を妨げるおそれがあるが、ツール研削装置5により摩耗したショルダ面22及びプローブ23を平滑な状態に復元して再生することでショルダ面22と被加工材との接触状態を良好に保持することができる。
【実施例】
【0055】
(実施例1)
1.ツール摩耗の相関性
Ni基2重複相金属間化合物合金製のツールを用いて、図1に示した摩擦攪拌接合装置1により、鉄系材料からなる2枚の被加工材(薄板)を突き合わせて摩擦攪拌接合する加工操作を複数回行い、加工距離に対する同ツールの摩耗の相関性を調べた。
ツールは、図3に示す形状を有し、ショルダ径(ショルダ面の直径)12mmであり、その中央のプローブ径(プローブの直径)4mm、プローブ長さ(ショルダ面からのプローブの突出高さ)0.44mmである。
ツールの材質は、Niが75原子%、Alが7原子%、Vが13原子%、Taが5原子%を含む合計100原子%の組成の合計重量に対して、Bが50重量ppmを含み且つ初析L12相と(L12+D022)共析組織とからなる2重複相組織を有するNi基2重複相金属間化合物合金である。
被加工材は、SUS430からなり、板厚1.0mm、縦横300mm×300mmの平板状の薄板である。
裏当て材は、図1に示す摩擦攪拌接合装置1では、板状のものを使用するが、実施例1では、窒化珪素(Si)製からなり、30×30mm角、長さ100mmの角材を接合方向に3本並べて使用した。
摩擦攪拌接合条件は、ツール高さをショルダ面端部が薄板の表面に接触してから0.4mm下降させた位置に設定し、前進角3度、ツール回転数1500rpmでツールを回転させながら2枚の薄板の接合線上に押し付け、摩擦熱によりツールがオレンジ色に発光した後、ツール送り速度900mm/minで直線状に250mm移動させて摩擦攪拌接合した。
【0056】
以上の加工操作を複数回行ったところ、加工距離と上記ツールのショルダ高さ(ツール本体のフランジとの連設位置からショルダ面までの長さ)の減少量との関係は、図6のグラフに示すように、加工距離に比例してツールのショルダ高さが減少した。その結果、上記条件下では、図6のグラフより、加工距離250mm毎に約0.02mmずつツールが摩耗するというツール摩耗の相関データが得られた。
【0057】
2.ツール高さ調節による摩擦攪拌接合
次に、上記ツール摩耗の相関データを上記摩擦攪拌接合装置のツール高さ調節手段に設定して、この摩擦攪拌接合装置は、上記と同条件下では、1回の加工距離を250mmとする摩擦攪拌接合を複数回繰り返す場合、2回目以降の加工操作毎に、ツール高さを下げ幅0.02mmずつ低く設定する制御が行われるようにした。そして、上記と同条件下で、1回の加工距離を250mmとする摩擦攪拌接合の加工操作を13回連続して行った。なお、加工操作の初回(1回目)、中間(7回目)、最終回(13回目)の薄板接合品についてその接合部の写真をそれぞれ図7、図8、図9に示す。
【0058】
3.引張試験
次に、上記薄板の突き合せ接合した接合部の強度を調べるために、加工操作の初回(1回目)、中間(7回目)、最終回(13回目)の薄板接合品について、接合部の接合方向に対して直交する向きに切り出して試験片を作製し、JISZ 2241「金属材料引張試験方法」に準じて引張試験を行った。試験片は、JISZ 2201 5号試験片の形状に準じ、幅25mm、平行部長さ50mmとした。また、測定時のクロスヘッド速度は20mm/minとした。
【0059】
(実施例2)
1.ツール摩耗の相関性
実施例2では、ツールは、ショルダ径を10mm、プローブ長さを0.33mmとした以外は実施例1と同様のものを用い、被加工材は、実施例1と同様の薄板とし、摩擦攪拌接合条件は、ツール回転数を1800rpmとした以外は実施例1と同様にして、加工距離に対する同ツールの摩耗の相関性を調べた。
【0060】
以上の加工操作を複数回行ったところ、加工距離と上記ツールのショルダ高さの減少量との関係は、図10のグラフに示すように、加工距離に比例してツールのショルダ高さが減少した。その結果、上記条件下では、図10のグラフより、加工距離250mm毎に約0.04mmずつツールが摩耗するというツール摩耗の相関データが得られた。
【0061】
2.ツール高さ調節による摩擦攪拌接合
実施例2では、摩擦攪拌接合装置は、2回目以降の加工操作毎に、ツール高さを下げ幅0.04mmずつ低く設定する制御が行われるようにした以外は、実施例1と同様に設定した。そして、上記と同条件下で、1回の加工距離を250mmとする摩擦攪拌接合の加工操作を14回連続して行った。なお、加工操作の初回(1回目)、中間(7回目)、最終回(14回目)の薄板接合品についてその接合部の写真をそれぞれ図11、図12、図13に示す。
【0062】
3.引張試験
実施例2でも、実施例1と同様に、加工操作の初回(1回目)、中間(7回目)、最終回(14回目)の薄板接合品について引張試験を行った。
【0063】
以上の各実施例の条件を表1に示し、加工操作毎の外観状態及び引張試験の結果を表2に示す。
【0064】
【表1】



【0065】
【表2】



【0066】
表2より、実施例1,2は、外観上、全ての加工操作で接合部の施工状態が良好であった。このことから、SUS430の薄板への摩擦攪拌接合の加工操作を、Ni基2重複相金属間化合物合金からなるツールを用いて繰り返しても、接合状態は、全ての加工操作にわたって良好な仕上り状態が得られた。
【0067】
引張強度については、実施例1では507〜512N/mmの範囲に有り、その加工操作の1回目のものが接合部で破断しその引張強度が508N/mmであったが、これと変わりない引張強度507N/mmであった加工操作の13回目のものが母材で破断していた。また、実施例2では468〜508N/mmの範囲に有り、その加工操作の1回目のものが接合部で破断しその508N/mmであったが、これより低い引張強度498N/mmであった加工操作の7回目、引張強度468N/mmであった加工操作の14回目のものがいずれも母材で破断していた。このことから、各実施例は、SUS430母材と比較しても見劣りしない十分な強度が得られていることが判った。
【0068】
以上より、被加工材(SUS430の薄板)への摩擦攪拌接合の加工操作を同じツール(Ni基2重複相金属間化合物合金製)を用いて繰り返しても、加工操作毎に、加工距離とツール摩耗との相関性に基づいた下げ幅でツール高さを低く設定するように制御することで、ツールの摩耗に対応することができ、接合部での欠陥の発生を抑制して良好な摩擦攪拌接合を行うことができた。
【0069】
(実施例3)
次に、摩耗したツールのプローブを再生し、再生後のツールでも良好な摩擦攪拌接合が行えることを確かめるため、以下の実施例3を行った。
実施例3では、ツールは、ショルダ径を12mm、プローブ長さを0.35mmとした以外は実施例1と同様のものを用い、被加工材は、実施例1と同サイズのSUS430からなる薄板とし、摩擦攪拌接合条件も実施例1と同様にして、摩擦攪拌接合を行った。
【0070】
上記摩擦攪拌接合の加工操作回数を23回行った後、そのツールを、図4に示すツール研削装置より、プローブを研削して再生させた。なお、ツール研削装置の砥石は、ダイヤモンド電着砥石を使用し、再生時の条件は、砥石の周速が8.9m/secとなる回転数に砥石回転用モータを制御すると共に、ツール回転2000rpmとなるようにツール回転用モータを制御してツールを研削し、そして、砥石回転用モータの回転トルクが1.2N・mとなった時点で、ツールの研削を停止させ、ツールの再生を終えた。
その後、このツール再生後、再び上記と同条件で摩擦攪拌接合を行った。
ツール再生前の加工操作による接合部の写真を図14に示し、また、ツール再生後の加工操作による接合部の写真を図15の写真に示す。
【0071】
次いで、上記再生前後の薄板接合品について、実施例1と同様に、試験片を作製して引張試験を行った。
以上の実施例3の条件及び結果を表3に示す。
【0072】
【表3】



【0073】
表3より、再生前のツールによる薄板接合品では、外観上施工ムラが見られ(図14参照)、また、引張強度は、370N/mmと低く、しかも接合部で破断が起こっていたことから、接合状態が良くないことが判った。これに対して、再生後のツールによる薄板接合品では、外観上、施工状態も良好であり(図15参照)、また、引張強度も502N/mmと高く、しかも母材位置で破断が起こっていたことから、接合状態が良く十分な強度が得られていたことが判った。
【0074】
以上のことから、ツール摩耗に対して被加工材の接合部の接合品質が悪化しても、ツール再生により、再生後のツールを用いて再び接合品質の良い摩擦攪拌接合を行えることが判った。従って、ツール再生により、ツールの摩耗に対応することができるので、被加工材への加工操作を同じツールを用いて繰り返しても、加工部での欠陥の発生を抑制して良好な加工状態を実現することができる。
【符号の説明】
【0075】
1 摩擦攪拌接合装置(摩擦攪拌加工装置)
2 加工機構
5 ツール再生機構(ツール研削装置)
20 ツール
22 ショルダ面
23 プローブ
51 砥石
88 ツール高さ調節手段
L 接合線
W1,W2 ワーク(被加工材)
θ 前進角



【特許請求の範囲】
【請求項1】
ショルダ面にプローブを突設して金属材料からなる被加工材を摩擦攪拌加工するためのツールと、
ツールを回転させるための回転駆動手段と、
ツールを上下に移動させて被加工材に対して上から押し付けるツール高さを設定するための昇降駆動手段と、
ツールを被加工材の加工方向に相対移動させるための移送駆動手段と、
同じツールにより同じ材質の被加工材を順次に複数回摩擦攪拌加工するときの上記ツール高さは、最初に加工する被加工材に対して設定したツール高さを基準ツール高さとし、2回目以降に加工する被加工材に対しては、加工操作によるツールの摩耗に対応して、ツールのショルダ面と被加工材との間で必要な接触面積を確保するために予め定められた下げ幅だけ上記基準ツール高さより低く設定されるように上記昇降駆動手段を制御するツール高さ調節手段とを備える摩擦攪拌加工装置。
【請求項2】
請求項1に記載の摩擦攪拌加工装置において、
上記ツールは、Ni基2重複相金属間化合物合金からなる摩擦攪拌加工装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の摩擦攪拌加工装置において、
上記被加工材は、鉄系材料の板材からなる摩擦攪拌加工装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の摩擦攪拌加工装置において、
摩擦攪拌加工により摩耗した上記ツールを砥石により研削するツール再生機構を備える摩擦攪拌加工装置。
【請求項5】
請求項4に記載の摩擦攪拌加工装置において、
上記ツール再生機構は、砥石により上記ツールのプローブだけを研削する構成とした摩擦攪拌加工装置。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の摩擦攪拌加工装置において、
上記ツール再生機構による再生の際、上記ツールを回転させながら砥石を回転させてツールを研削するように制御し、ツールの回転トルク又は砥石の回転トルクを検出するトルク検出手段の出力値が所定の設定値に達すると再生を停止するように制御する再生制御手段を備える摩擦攪拌加工装置。
【請求項7】
金属材料の被加工材に対してツールを回転させながら押し付けて発生する摩擦熱により被加工材を軟化させて加工する摩擦攪拌加工方法であって、
同じツールにより同じ材質の被加工材を順次に複数回摩擦攪拌加工するときに被加工材を上から押し付けるツール高さは、最初に加工する被加工材に対して設定したツール高さを基準ツール高さとし、2回目以降に加工する被加工材に対しては、加工操作によるツールの摩耗に対応して、ツールのショルダ面と被加工材との間で必要な接触面積を確保するために予め定められた下げ幅だけ上記基準ツール高さより低く設定して被加工材の加工を行う摩擦攪拌加工方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図10】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−200872(P2011−200872A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−68083(P2010−68083)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度経済産業省中小企業庁戦略的基盤技術高度化支援事業「摩擦攪拌接合による鉄系高融点材料の接合システムの開発」に係る委託業務、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【出願人】(000125347)学校法人近畿大学 (389)
【出願人】(801000061)財団法人大阪産業振興機構 (168)
【出願人】(000205627)大阪府 (238)
【出願人】(000100838)アイセル株式会社 (62)
【Fターム(参考)】