説明

摩擦材およびその製造方法

【課題】摩擦材用バインダーとして、高温で酸化分解を起こしやすい熱硬化性樹脂を用いているにも拘わらず、耐熱性および耐摩耗性に優れた摩擦材およびその製造方法を提供する。
【解決手段】バインダーとしての熱硬化性樹脂を含む摩擦材用成形物の少なくとも表面に無機質セラミックスを存在させてなる摩擦材、並びにバインダーとしての熱硬化性樹脂を含む摩擦材用成形物を形成し、該成形物を無機質セラミックスを含む溶液で処理して摩擦材を製造する方法、または、バインダーとしての熱硬化性樹脂を含む摩擦材用材料粉末を、無機質セラミックスを含む溶液で処理したのち、成形して摩擦材用成形物を作製する摩擦材の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦材およびその製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、摩擦材用バインダーとして、高温で酸化分解を起こしやすい熱硬化性樹脂を用いているにも拘わらず、高温・高負荷の摩擦においても耐熱性および耐摩耗性に優れた摩擦材およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車部品の軽量化・小型化の要求は、車両の燃費向上や原材料の高騰といったマクロ環境を受けて高まっており、ブレーキ部品においてはブレーキディスクの小径化に伴い摩擦材にかかる熱的、機械的負担が大きくなっている。以上の現状から、摩擦材の耐熱性、耐摩耗性を向上させることが求められている。
【0003】
しかしながら、例えば特許文献1に記載されたように、フェノール樹脂をバインダーとする摩擦材組成物は、バインダーであるフェノール樹脂が600℃付近で急激に酸化分解を起こし消失する為に、高温・高負荷の摩擦では急激に摩擦材の摩耗量が増大するという課題があり、解決が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−275198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような事情のもとで、摩擦材用バインダーとして、高温で酸化分解を起こしやすい熱硬化性樹脂を用いているにも拘わらず、耐熱性および耐摩耗性に優れた摩擦材およびその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明者等は鋭意研究を重ねた結果、高温で酸化分解を起こしやすいフェノール樹脂等の熱硬化性樹脂をバインダーとして含む摩擦材用成形物を無機質セラミックスを含む溶液で処理した後、乾燥させることにより、あるいは、前記バインダーを含む摩擦材用材料粉末を無機質セラミックスを含む溶液で処理し、乾燥処理した摩擦材用材料粉末、又は前記バインダーを除く摩擦材用材料粉末を無機質セラミックスを含む溶液で処理し、乾燥処理後、これに該バインダーを混合して得られたバインダーを含む摩擦材用材料粉末を用いて、摩擦材用成形物を形成させることにより、耐熱性および耐摩耗性に優れた摩擦材が得られることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、
(1)バインダーとしての熱硬化性樹脂を含む摩擦材用成形物の少なくとも表面に無機質セラミックスを存在させたことを特徴とする摩擦材、
(2)無機質セラミックスが、摩擦材用成形物の内部には存在しない上記(1)項に記載の摩擦材、
(3)無機質セラミックスが、摩擦材用成形物の内部にも存在する上記(1)項に記載の摩擦材、
(4)摩擦材用成形物が、繊維状補強材、潤滑材、摩擦調整材およびフィラーを含む上記(1)〜(3)項のいずれか1項に記載の摩擦材、
(5)無機質セラミックスが、水酸化カリウム、炭酸ナトリウムおよびメタルシリコンと水との反応物を含む上記(1)〜(4)項のいずれか1項に記載の摩擦材、
(6)上記(1)、(2)、(4)、(5)項のいずれか1項に記載の摩擦材の製造方法であって、バインダーとしての熱硬化性樹脂を含む摩擦材用成形物を形成し、該成形物を無機質セラミックスを含む溶液で処理した後、乾燥させ、次いで所定の寸法に調整することを特徴とする摩擦材の製造方法、
(7)摩擦材用成形物の無機質セラミックスを含む溶液による処理を浸漬法、噴霧法または塗布法により行う上記(6)項に記載の方法、
(8)上記(1)、(3)、(4)、(5)項のいずれか1項に記載の摩擦材の製造方法であって、(i)バインダーとしての熱硬化性樹脂を含む摩擦材用材料粉末を無機質セラミックスを含む溶液で処理し、乾燥処理した摩擦材用材料粉末、又は(ii)バインダーとしての熱硬化性樹脂を除く摩擦材用材料粉末を無機質セラミックスを含む溶液で処理し、乾燥処理後、これにバインダーとしての熱硬化性樹脂を混合して得られた摩擦材用材料粉末を用いて、摩擦材用成形物を形成し、次いで所定の寸法に調整することを特徴とする摩擦材の製造方法、
(9)摩擦材用材料粉末の無機質セラミックスを含む溶液による処理を、浸漬法または噴霧法により行う上記(8)項に記載の方法、
(10)無機質セラミックスを含む溶液が、水酸化カリウム、炭酸ナトリウムおよびメタルシリコンと水との反応物を含む溶液である上記(6)〜(9)項のいずれか1項に記載の方法、および
(11)無機質セラミックスを含む溶液が、さらにホウ砂、リン酸およびホウ酸を含む上記(6)〜(10)項のいずれか1項に記載の方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、バインダーとして、高温で酸化分解を起こしやすい熱硬化性樹脂を用いているにも拘わらず、耐熱性および耐摩耗性に優れた摩擦材およびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
まず、本発明の摩擦材について説明する。
[摩擦材]
本発明の摩擦材は、バインダーとしての熱硬化性樹脂を含む摩擦材用成形物の少なくとも表面に無機質セラミックスを存在させたことを特徴とするものであり、少なくとも表面に無機質セラミックスを存在させることにより、バインダーである熱硬化性樹脂の酸化分解が抑えられ、耐熱性および耐摩耗性に優れた摩擦材を得ることができる。
【0010】
本発明の摩擦材の本体を構成する摩擦材用成形物は、バインダーとしての熱硬化性樹脂を含むものである。
【0011】
バインダーとして用いられる熱硬化性樹脂としては、公知の熱硬化性樹脂の中から任意のものを適宜選択して用いることができるが、フェノール樹脂またはポリベンゾオキサジン樹脂を用いるのが特に好ましい。その理由は、これらの樹脂が特に高温で酸化分解を起こしにくいものであるからである。
【0012】
フェノール樹脂としては、ノボラック型、レゾール型のいずれであってもよいが、レゾール型の場合、硬化触媒として酸触媒を必要とするため、機器の腐食等の観点から、ノボラック型が好ましい。
【0013】
ノボラック型フェノール樹脂は、フェノール類とホルムアルデヒド類とを縮合反応させて得られるものである。
【0014】
原料のフェノール類としては、フェノール、o−、m−又はp−クレゾール、キシレノール、p−tert−ブチルフェノール、α−ナフトール、β−ナフトール、p−アミノフェノール、p−フェニルフェノール等の1価フェノール類;カテコール、レゾルシノール、4,4’−ジヒドロキシジフェニルメタン(ビスフェノールF)、4,4’−イソプロピリデンジフェノールまたは2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)等の2価フェノール類;トリスフェノール化合物、テトラフェノール化合物等の3価以上の多価フェノール類等が挙げられるが、フェノール、クレゾール、レゾルシノールを用いるのが好ましい。
【0015】
ホルムアルデヒド類としては、ホルマリン、パラホルムアルデヒド、トリオキサン等が挙げられるが、パラホルムアルデヒドを用いるのが好ましい。
【0016】
ノボラック型フェノール樹脂の場合、硬化剤としては、通常ヘキサメチレンテトラミン(ヘキサミン)が用いられるが、後記するポリベンゾオキサジン樹脂を併用する場合には、ヘキサメチレンテトラミン等の硬化触媒を用いなくてもよい。
【0017】
ポリベンゾオキサジン樹脂は、フェノール類と1級アミン類とホルムアルデヒド類とを縮合反応させて得られるものである。
【0018】
原料のフェノール類としては、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、キシレノール、p−tert−ブチルフェノール、α−ナフトール、β−ナフトール、p−アミノフェノール、p−フェニルフェノール等の1価フェノール類;カテコール、レゾルシノール、4,4’−ジヒドロキシジフェニルメタン(ビスフェノールF)、4,4’−イソプロピリデンジフェノールまたは2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)等の2価フェノール類;トリスフェノール化合物、テトラフェノール化合物、フェノール樹脂等の3価以上の多価フェノール類等を挙げることができる。これらの中で、得られるポリベンゾオキサジン樹脂の性能の観点から、ビスフェノールA、p−アミノフェノールを用いるのが好ましい。
【0019】
他の原料である、1級アミン類としては、脂肪族アミンおよび芳香族アミンが挙げられるが、脂肪族アミンであると、得られるポリベンゾオキサジン樹脂は、耐熱性の劣るものとなるので、芳香族アミンが好ましい。芳香族アミンとしては、例えばアニリン、トルイジン、キシリジン、アニシジン等を挙げることができる。これらの中で、アニリンを用いるのが特に好ましい。
【0020】
フェノール類としてp−アミノフェノールなどの1級アミノ基を含有するフェノール類を用いる場合には、これが1級アミン類を兼ねるので、1級アミン類を用いなくてもよい。
【0021】
ホルムアルデヒド類としては、ホルマリン、パラホルムアルデヒド、トリオキサン等を挙げられるが、パラホルムアルデヒドを用いるのが特に好ましい。
【0022】
なお、熱硬化性樹脂としては、上記フェノール樹脂およびポリベンゾオキサジン樹脂以外に、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂等が挙げられる。
【0023】
本発明の摩擦材の本体を構成する摩擦材用成形物は、繊維状補強材、潤滑材、摩擦調整材およびフィラーを含み、これらがバインダーである上記熱硬化性樹脂で一体化されて摩擦材用成形物を形成している。
【0024】
繊維状補強材としては、有機繊維および無機繊維のいずれも用いることができる。有機繊維としては、高強度の芳香族ポリアミド繊維(アラミド繊維;デュポン社製、商品名「ケブラー」等)、耐炎化アクリル繊維、ポリイミド繊維、ポリアクリレート繊維、ポリエステル繊維等を挙げることができる。一方、無機繊維としては、チタン酸カリウム繊維、バサルト繊維、炭化珪素繊維、ガラス繊維、炭素繊維、ワラストナイト等の他、アルミナシリカ系繊維等のセラミック繊維、ステンレス繊維、銅繊維、真鍮繊維または黄銅繊維、ニッケル繊維、鉄繊維等の金属繊維等を挙げることができる。これらの繊維状物質は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
潤滑材としては、特に制限はなく、従来摩擦材に潤滑材として使用されている公知のものの中から、任意のものを適宜選択することができる。この潤滑材の具体例としては、黒鉛、フッ化黒鉛、カーボンブラックや、硫化スズ、二硫化タングステン等の金属硫化物、さらにはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、窒化硼素等を挙げることができ、これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
摩擦調整材としては、特に制限はなく、従来摩擦材に摩擦調整材として使用されている公知のものの中から、任意のものを適宜選択することができる。この摩擦調整材の具体例としては、アルミナ、シリカ、マグネシア、ジルコニア、酸化鉄等の金属酸化物;ケイ酸ジルコニウム;炭化ケイ素;銅、黄銅、亜鉛、鉄等の金属粉末類やチタン酸塩粉末等の無機摩擦調整材、NBR、SBR、タイヤトレッド等のゴムダストや、カシューダスト等有機ダスト等の有機摩擦調整材を挙げることができる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
フィラーとしては、粘土鉱物を含有させることができる。この粘土鉱物としては、例えばカオリン、タルク、スメクタイト、バーミキュライト、雲母等が挙げられる。また、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化カルシウム等を含有させることができる。
【0028】
本発明の摩擦材の本体を構成する摩擦材用成形物には、下記の2つの態様、すなわち、(1)無機質セラミックスが、摩擦材用成形物の内部には存在せず、表面のみに存在する摩擦材用成形物(以下、「摩擦材用成形物I」と称することがある。)、及び(2)無機質セラミックスが、摩擦材用成形物の表面に存在すると共に、内部にも存在する摩擦材用成形物(以下、「摩擦材用成形物II」と称することがある。)がある。
【0029】
(摩擦材用成形物I)
本発明の摩擦材における摩擦材用成形物Iは、無機質セラミックスが、該成形物の内部には存在せず、表面のみに存在する成形物であって、上記繊維状補強材、潤滑材、摩擦調整材、フィラーおよびバインダーをミキサーで混合後、得られた摩擦材用材料粉末を金型等に充填し、通常常温にて10〜50MPa程度の圧力で予備成形し、次いで温度140〜180℃、好ましくは145〜165℃、圧力10〜50MPa程度の条件で5〜30分間程度圧縮成形したのち、この成形物の表面に、無機質セラミックスを存在させる(無機質セラミックスの被覆層を設ける)ことにより、作製することができる。この被覆層を設ける方法については、後述する摩擦材の製造方法の説明において詳述する。
【0030】
前記無機質セラミックスとしては、摩擦材に耐熱性および耐摩耗性を付与するものであればいかなる無機質セラミックスを用いることができるが、特に水酸化カリウム、炭酸ナトリウムおよびメタルシリコンと水との反応物を含むものを用いるのが好ましい。
【0031】
水酸化カリウム、炭酸ナトリウムおよびメタルシリコンと水との反応物は、例えば該反応物を水で希釈したアルカリ性溶液(A)または該アルカリ性溶液(A)にホウ砂、リン酸およびホウ酸を含む酸性溶液を加えた中性溶液(B)から水分を除去して得られるものである。
【0032】
上記アルカリ性溶液(A)は、特開平10−306521号公報に記載されており、上記中性溶液(B)は特開2002−121424号公報に記載されている。また上記アルカリ性溶液(A)および中性溶液(B)は、(有)共栄工業所からセメスロスアルカリ性液およびセメスロス中性液として市販されており、これらをそのまま用いることができる。
【0033】
(摩擦材用成形物II)
本発明における摩擦材用成形物IIは、無機質セラミックスが摩擦材用成形物の表面に存在すると共に、内部にも存在する成形物であって、バインダーとしての熱硬化性樹脂を含む摩擦材用材料粉末を無機質セラミックスを含む溶液で処理し、乾燥処理した摩擦材用材料粉末、又はバインダーとしての熱硬化性樹脂を除く摩擦材用材料粉末を無機質セラミックスを含む溶液で処理し、乾燥処理後、これに前記のバインダーとしての熱硬化性樹脂を混合して得られた摩擦材用材料粉末を、前述した摩擦材用成形物Iの場合と同様な条件で成形することにより、作製することができる。
なお、無機質セラミックスについては、前述したとおりであり、また無機質セラミックスを含む溶液による処理については、後述の摩擦材の製造方法において詳述する。
【0034】
本発明の摩擦材は、摩擦材用成形物の少なくとも表面に無機質セラミックスを存在させることにより、配合材料の中においては、高温で酸化分解を起こしやすいフェノール樹脂やポリベンゾオキサジン樹脂などの熱硬化性樹脂をバインダーとして用いているにも拘わらず、得られる摩擦材が耐熱性および耐摩耗性に優れている。
【0035】
次に、本発明の摩擦材の製造方法について説明する。
[摩擦材の製造方法]
本発明の摩擦材の製造方法には、製造方法I及び製造方法IIの2つの態様がある。
【0036】
(製造方法I)
本発明の摩擦材の製造方法Iは、バインダーとしての熱硬化性樹脂を含む摩擦材用成形物を無機質セラミックスを含む溶液で処理した後、乾燥させて摩擦材用成形物Iを作製し、次いで所定の寸法に調整することを特徴とする。
【0037】
前記摩擦材用成形物Iは、無機質セラミックスが内部に存在せず、表面のみに存在する成形物であり、得られた摩擦材は高温で酸化分解を起こしやすい熱硬化性樹脂をバインダーとして用いているにも拘わらず、耐熱性および耐摩耗性に優れているという利点を有する。
【0038】
本発明の摩擦材の製造方法Iにおいて用いられる前記摩擦材用成形物としては、上記したとおり、バインダーである熱硬化性樹脂とともに繊維状補強材、潤滑材、摩擦調整材およびフィラーを含むものであるが、これらは、本発明の摩擦材の項で詳述したので、ここでの記載は省略する。
【0039】
無機質セラミックスを含む溶液としては、水酸化カリウム、炭酸ナトリウムおよびメタルシリコンと水との反応物を含む溶液を用いるのが好ましい。この溶液は上記のアルカリ性溶液(A)に相当し、アルカリ性であるが、この溶液にホウ砂、リン酸およびホウ酸を加えることにより中性液(上記の中性溶液(B)に相当)とし、これを用いることもできる。他の材料との反応を考慮すると、中性溶液が好ましい。
【0040】
また、摩擦材への濡れ性を良くするために、アルコール系やケトン系の溶媒を上記のアルカリ性溶液や中性溶液に混ぜてもよい。
【0041】
摩擦材用成形物の無機質セラミックスを含む溶液による処理は、浸漬法、噴霧法または塗布法により行うことができる。
【0042】
浸漬法は、摩擦材用成形物を無機質セラミックスを含む溶液に浸漬することにより行われる。無機質セラミックスを含む溶液の温度は、10℃〜40℃が好ましく、20℃〜30℃がより好ましい。浸漬時間は、10分〜3時間が好ましく、30分〜1時間がより好ましい。
【0043】
噴霧法は、摩擦材用成形物に無機質セラミックスを含む溶液をスプレーなどにより噴霧することにより行われる。
【0044】
塗布法は、摩擦材用成形物に無機質セラミックスを含む溶液をブラシ、ハケなどにより塗布することにより行われる。
【0045】
無機質セラミックスを含む溶液による処理後に行う乾燥は、無機質セラミックスを含む溶液から水分等の溶媒が蒸発して、摩擦材用成形物の表面に無機質セラミックスが存在する状態になるまで行われ、この乾燥は、加熱処理、風乾等により行うことができる。
【0046】
加熱処理は、温度200℃〜300℃で行うのが好ましく、240℃〜260℃で行うのがより好ましい。加熱時間は、30分〜5時間が好ましく、1時間〜3時間がより好ましい。
【0047】
(製造方法II)
本発明の製造方法IIは、(i)バインダーとしての熱硬化性樹脂を含む摩擦材用材料粉末を無機質セラミックスを含む溶液で処理し、乾燥処理した摩擦材用材料粉末、又は(ii)バインダーとしての熱硬化性樹脂を除く摩擦材用材料粉末を無機質セラミックスを含む溶液で処理し、乾燥処理後、これに前記のバインダーとしての熱硬化性樹脂を混合して得られた摩擦材用材料粉末を用いて、摩擦材用成形物IIを形成し、次いで所定の寸法に調整することを特徴とする。
【0048】
前記摩擦材用成形物IIは、無機質セラミックスがその表面に存在すると共に、内部にも存在しており、得られた摩擦材は高温で酸化分解を起こしやすい熱硬化性樹脂をバインダーとして用いているにも拘わらず、耐熱性および耐摩耗性に優れているという利点を有する。
【0049】
本発明の製造方法IIにおいては、無機質セラミックスを含む溶液で処理してなる摩擦材用材料粉末は、(i)バインダーとしての熱硬化性樹脂を含む摩擦材用材料粉末を無機質セラミックスを含む溶液で処理し、乾燥処理してなる粉末であってもよいし、あるいは(ii)バインダーとしての熱硬化性樹脂を除く摩擦材用材料粉末を無機質セラミックスを含む溶液で処理し、乾燥処理後、これに前記のバインダーとしての熱硬化性樹脂を混合して得られた粉末であってもよい。
【0050】
前記摩擦材用粉末は、バインダーである熱硬化性樹脂とともに繊維状補強材、潤滑材、摩擦調整材およびフィラーを含むものであるが、これらは、本発明の摩擦材の項で詳述したので、ここでの記載は省略する。
また、無機質セラミックスを含む溶液については、前述した摩擦材の製造方法Iにおいて説明したとおりである。
【0051】
摩擦材用材料粉末の無機質セラミックスを含む溶液による処理は、浸漬法または噴霧法により行うことができる。
【0052】
浸漬法は、摩擦材用材料粉末を無機質セラミックスを含む溶液に浸漬することにより行われる。無機質セラミックスを含む溶液の温度は、10℃〜40℃が好ましく、20℃〜30℃がより好ましい。浸漬時間は、10分〜3時間が好ましく、30分〜1時間がより好ましい。
【0053】
噴霧法は、摩擦材用材料粉末に無機質セラミックスを含む溶液をスプレーなどにより噴霧することにより行われる。
【0054】
無機質セラミックスを含む溶液による処理後に行う乾燥は、無機質セラミックスを含む溶液から水分等の溶媒が蒸発して、摩擦材用材料粉末粒子の表面に無機質セラミックスが存在する状態になるまで行われ、この乾燥は、加熱処理、風乾等により行うことができる。
【実施例】
【0055】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【0056】
実施例1
(i)4つ口フラスコ中に、ポリベンゾオキサジン樹脂用原料であるp−アミノフェノール300gおよびパラホルムアルデヒド176gを加え、さらに溶媒であるテトラヒドロフラン900gを加えて還流下で12時間反応させ、反応溶液を得た。該反応溶液を、真空オーブン中100℃で10時間減圧乾燥後、粉砕しポリベンゾオキサジン樹脂Aを得た。
(ii)上記(i)で得られたポリベンゾオキサジン樹脂Aをバインダーとして用い、後掲の表2に示す配合物をミキサーで混合後、混合物を予備成形型に投入し、常温、30MPaで圧縮して予備成形を行い、予備成形体を得た。次いで、該予備成形体と予め接着剤を塗布したプレッシャプレートとを熱成形型にセットし、加熱圧縮成形(180℃、50MPa、300秒)を行い、摩擦材用成形物を作製した。
(iii)上記(ii)で得られた摩擦材用成形物を、セメスロス中性液((有)共栄工業所製)1000mlに常温で1時間浸漬した後、オーブン中で250℃で3時間の熱処理を行い、摩擦材(65mm×50mm×10mm)を作製した。
【0057】
比較例1
実施例1の(i)、(ii)の工程を実施して摩擦材用成形物を得た後、(iii)の工程において、セメスロス中性液に浸漬する工程を行わずに、直ちにオーブン中で250℃で3時間の熱処理を行い、摩擦材を作製した。
【0058】
実施例2
(i)ヘキサミンを含有するフェノール樹脂(カシュー(株)製R155)からなるフェノール樹脂Bをバインダーとして用い、後掲の表2に示す配合物をミキサーで混合後、混合物を予備成形型に投入し、常温、30MPaで圧縮して予備成形を行い、予備成形体を得た。次いで、該予備成形体と予め接着剤を塗布したプレッシャプレートとを熱成形型にセットし、加熱圧縮成形(150℃、50MPa、300秒)を行い、摩擦材用成形物を作製した。
(ii)上記(i)で得られた摩擦材用成形物を、セメスロス中性液((有)共栄工業所製)1000mlに常温で1時間浸漬した後、オーブン中で250℃で3時間の熱処理を行い摩擦材(65mm×50mm×10mm)を作製した。
【0059】
比較例2
実施例2の(i)の工程を実施して摩擦材用成形物を得た後、(ii)の工程において、セメスロス中性液に浸漬する工程を行わずに、直ちにオーブン中で250℃で3時間の熱処理を行い摩擦材を作製した。
【0060】
前記の実施例1、2及び比較例1、2で得られた各摩擦材の高温摩擦試験を、下記のように実施し、平均摩擦係数および摩耗量を測定した。結果を表2に示す。
【0061】
<高温摩擦試験>
各摩擦材からテストピースを切り出し、スケールテスタ摩擦試験機(曙エンジニアリング(株)製、機種名[慣性型1/10スケールテスタ])を用いて表1の条件で摩擦試験を行い、高温摩擦試験での平均摩擦係数と摩擦材摩耗量を測定した。
【0062】
【表1】

【0063】
【表2】

【0064】
表2より、次のことが明らかになった。
(1)実施例1で得られた摩擦材は、表面に無機質セラミックスが存在することにより、比較例1で得られた摩擦材に比べ、高負荷摩擦試験において摩耗量が減少していることが分かる。
(2)実施例2で得られた摩擦材も、表面に無機質セラミックスが存在することにより、比較例2で得られた摩擦材に比べ、高負荷摩擦試験において摩耗量が減少していることが分かる。
【0065】
実施例3
表3に示す組成の摩擦材原材料を10Lのアイリッヒミキサー(日本アイリッヒ社製、機種名「RV02E」)中に投入し、パン回転数500rpm、攪拌回転数2000rpmで攪拌しながら、セメスロス中性液((有)共栄工業所製)500gをミキサー内にスプレーして5分間攪拌を行った。
得られた攪拌物を予備成形型に投入し、常温、30MPaで圧縮して予備成形を行い、予備成形体を得た。次いで、該予備成形体と予め接着剤を塗布したプレッシャプレートとを熱成形型にセットし、加熱圧縮成形(150℃、50MPa、300秒)を行い、摩擦材(65mm×50mm×10mm)を作製した。
【0066】
実施例4
表3に示す組成の原材料からフェノール樹脂(カシュー(株)製R155、ヘキサミン含有)を除いたものを、ビーカー中で2Lのセメスロス中性液(前出)に浸漬したのちろ取し、オーブン中で110℃にて24時間乾燥処理した。この乾燥物と前記フェノール樹脂を、10Lアイリッヒミキサー(前出)で、パン回転数500rpm、攪拌翼回転数2000rpmで5分間攪拌を行った。
得られた攪拌物を予備成形型に投入し、常温、30MPaで圧縮して予備成形を行い、予備成形体を得た。次いで、該予備成形体と予め接着剤を塗布したプレッシャプレートとを熱成形型にセットし、加熱圧縮成形(150℃、50MPa、300秒)を行い、摩擦材(65mm×50mm×10mm)を作製した。
【0067】
比較例3
表3に示す組成の原材料を、10Lアイリッヒミキサー(前出)でパン回転数500rpm、攪拌翼回転数2000rpmにて5分間攪拌を行った。
得られた攪拌物を予備成形型に投入し、常温、30MPaで圧縮して予備成形を行い、予備成形体を得た。次いで、該予備成形体と予め接着剤を塗布したプレッシャプレートとを熱成形型にセットし、加熱圧縮成形(150℃、50MPa、300秒)を行い、摩擦材(65mm×50mm×10mm)を作製した。
【0068】
前記の実施例3、4及び比較例3で得られた各摩擦材のフェード試験を、下記のように実施すると共に、前述で示した高温摩擦試験を実施した。その結果を表4に示す。
【0069】
<フェード試験>
各摩擦材からテストピースを切り出し、スケールテスタ摩擦試験機(曙エンジニアリング(株)製、機種名[慣性型1/10スケールテスタ])を用いて、JASO−C406−82に準拠して試験を行い、第1フェードの最小摩擦係数と、試験後の摩擦材摩耗量を測定した。
【0070】
【表3】

【0071】
【表4】

【0072】
表4より、次のことが明らかになった。
摩擦材フェード試験において、実施例3及び4は最低摩擦係数の上昇と、摩擦材摩耗量の減少が見られ、また、高温摩擦試験においても、実施例3及び4は、平均摩擦係数が上昇し、摩擦材摩耗量が低下しており、セメスロスの添加による高温摩擦性能の向上が確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の摩擦材は、バインダーとして、高温で酸化分解されやすい熱硬化性樹脂を用いているにも拘わらず、耐熱性および耐摩耗性に優れている。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダーとしての熱硬化性樹脂を含む摩擦材用成形物の少なくとも表面に無機質セラミックスを存在させたことを特徴とする摩擦材。
【請求項2】
無機質セラミックスが、摩擦材用成形物の内部には存在しない請求項1に記載の摩擦材。
【請求項3】
無機質セラミックスが、摩擦材用成形物の内部にも存在する請求項1に記載の摩擦材。
【請求項4】
摩擦材用成形物が、繊維状補強材、潤滑材、摩擦調整材およびフィラーを含む請求項1〜3のいずれか1項に記載の摩擦材。
【請求項5】
無機質セラミックスが、水酸化カリウム、炭酸ナトリウムおよびメタルシリコンと水との反応物を含む請求項1〜4のいずれか1項に記載の摩擦材。
【請求項6】
請求項1、2、4、5のいずれか1項に記載の摩擦材の製造方法であって、バインダーとしての熱硬化性樹脂を含む摩擦材用成形物を形成し、該成形物を無機質セラミックスを含む溶液で処理した後、乾燥させ、次いで所定の寸法に調整することを特徴とする摩擦材の製造方法。
【請求項7】
摩擦材用成形物の無機質セラミックスを含む溶液による処理を浸漬法、噴霧法または塗布法により行う請求項6に記載の方法。
【請求項8】
請求項1、3、4、5のいずれか1項に記載の摩擦材の製造方法であって、(i)バインダーとしての熱硬化性樹脂を含む摩擦材用材料粉末を無機質セラミックスを含む溶液で処理し、乾燥処理した摩擦材用材料粉末、又は(ii)バインダーとしての熱硬化性樹脂を除く摩擦材用材料粉末を無機質セラミックスを含む溶液で処理し、乾燥処理後、これにバインダーとしての熱硬化性樹脂を混合して得られた摩擦材用材料粉末を用いて、摩擦材用成形物を形成し、次いで所定の寸法に調整することを特徴とする摩擦材の製造方法。
【請求項9】
摩擦材用材料粉末の無機質セラミックスを含む溶液による処理を、浸漬法または噴霧法により行う請求項8に記載の方法。
【請求項10】
無機質セラミックスを含む溶液が、水酸化カリウム、炭酸ナトリウムおよびメタルシリコンと水との反応物を含む溶液である請求項6〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
無機質セラミックスを含む溶液が、さらにホウ砂、リン酸およびホウ酸を含む請求項6〜10のいずれか1項に記載の方法。

【公開番号】特開2010−168550(P2010−168550A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−280629(P2009−280629)
【出願日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)