説明

摩擦材及び摩擦材用造粒物

【課題】繊維基材で補強しなくても、優れた機械的強度を有する摩擦材、特に、原材料や気孔径および気孔率の配置を制御して、用途に応じた種々の摩擦性能を有する摩擦材を提供する。
【解決手段】摩擦調整用粒子材料、並びに、結合材として、平均粒径が0.1〜0.5μmのチタン酸カリウム粒子、未架橋ゴム及び熱硬化性樹脂を含む熱硬化性樹脂組成物を含有する摩擦材を得る。特に該熱硬化性樹脂組成物を造粒用結合材として用いて該摩擦調整用粒子材料の造粒物を製造し、それを成形して摩擦材を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦性能等の品質に優れた摩擦材及びそれに用いることのできる摩擦材用造粒物に関し、特に自動車、鉄道車両、産業機械等のブレーキパッド、ブレーキライニング、クラッチフェーシング等に用いられる摩擦材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ディスクブレーキやドラムブレーキなどのブレーキ、或いはクラッチなどに使用される摩擦材は、補強作用をする繊維基材、摩擦作用を与え且つその摩擦性能を調整する摩擦調整材、及び、これらの成分を一体化する結合材などの材料からなっている。
摩擦材に摩擦作用を与え且つ摩擦性能を調整する材料として、一般に摩擦調整材、固体潤滑材、充填材等と呼ばれる種々の固体粉末状の材料が用いられている。これらはそれぞれの特徴があり、通常2種類以上のものを組み合わせて摩擦材に使用されている。
【0003】
摩擦材の結合材として通常使用されるフェノール系熱硬化性樹脂(各種エラストマー変性も含む)は、耐熱性や耐久性に優れるが、このようなフェノール系熱硬化性樹脂は、アラミド系繊維等の繊維基材との濡れ性が十分でないため、その濡れ性を改善した樹脂組成物が特許文献1に、また、特許文献2には、アラミド繊維等の繊維基材、ストレートフェノール樹脂とフェノールアラルキル樹脂、充填材を含有する組成物からなるディスクパッド摩擦材への高負荷条件下において、ディスクパッドとしての耐久性を維持しつつ鳴き発生の低減、及び摩擦材とバックプレート接着面端部および近傍のキレツ、はがれを低減化するディスクパッドが開示されている。
【0004】
また、摩擦材のこれらの原材料は粉体であるため、材料凝集や製造プロセス内での壁面付着、粉塵の発生、さらには繊維材料の配合によるプロセスの簡素化の阻害など、環境面やプロセス改革上の大きな課題となっている。この対策として、これらの粉体原材料を造粒物とする方法があるが、一般的に、造粒物は強固な表面をもった球形状をしているため、成形体内での造粒物界面の残存が成形体の強度低下の大きな原因となっている。これを解決するものとして、造粒用結合材としてポリビニルアルコール等の水溶性ないし水分散性結合材を用いる方法が特許文献3に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−231850号公報
【特許文献2】特開2006−275198号公報
【特許文献3】特開2008−189738号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような状況の下、アラミド繊維等の芳香族ポリアミド繊維は、摩擦材等に使用した場合、粉体原材料の偏析・分離、あるいは飛散による品質、環境面での影響が懸念されるため、繊維を含まない摩擦材等が望まれている。しかしながら、従来の樹脂組成物を含む系では、原材料間の接着性が小さいため、摩擦材等から当該繊維を除くと性能が悪化するという問題があり、より安全で、かつ十分な耐久強度を有する摩擦材の出現が望まれている。
【0007】
一方、従来の摩擦材は、原材料の混合方法を種々工夫することにより、材料分散を制御し、原材料特性、配合技術、成形条件等により、種々の摩擦性能および気孔率を調整しているが、原材料あるいは気孔の配置制御は難しく、根本的な摩擦材の性能や機能のコントロールは困難である。
【0008】
更に、従来の造粒物を用いた場合でも、これらの造粒物は成形用結合材として従来用いられているフェノール系熱硬化性樹脂を用いて成形しているため、アラミド繊維等の有機繊維を用いるという点では上記と同様の課題があり、更に、特許文献3の技術では、造粒用結合材として水溶性ないし水分散性結合材を用いているため、耐熱性の点においても課題がある。また、造粒物を成形するための成形用結合材は粉末であるため、依然原材料あるいは気孔の配置を制御して、根本的な摩擦材の性能や機能をコントロールすることは困難である。
【0009】
本発明は、上記の課題を解決するものであり、第一に、アラミド繊維等の繊維基材で補強しなくても、十分な機械的強度に優れる摩擦材を提供するものである。
本発明は更に、原材料や気孔径及び気孔率の配置を制御して、要求に応じた摩擦性能を得ることができる摩擦材を提供するものである。
本発明は更に、上記摩擦材に用いることのできる摩擦材用造粒物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、種々検討の結果、特定の熱硬化性樹脂組成物を結合材として用いることにより、上記課題が解決できることを見出し、以下のとおりの本発明に到達したものである。
【0011】
(1)摩擦調整用粒子材料、並びに、結合材として、平均粒径が0.1〜0.5μmのチタン酸カリウム粒子、未架橋ゴム及び熱硬化性樹脂を含む熱硬化性樹脂組成物を含有する摩擦材。
(2)摩擦調整用粒子材料、並びに、造粒用結合材として、平均粒径が0.1〜0.5μmのチタン酸カリウム粒子、未架橋ゴム及び熱硬化性樹脂を含む熱硬化性樹脂組成物を含有する摩擦材用造粒物を成形して得た上記(1)記載の摩擦材。
(3)該摩擦材用造粒物が、2種以上の摩擦調整用粒子材料を含む多層構造の造粒物である上記(2)記載の摩擦材。
(4)更に中空粒子を含有する上記(1)から(3)のいずれかに記載の摩擦材。
【0012】
(5)摩擦調整用粒子材料、並びに、造粒用結合材として、平均粒径が0.1〜0.5μmのチタン酸カリウム粒子、未架橋ゴム及び熱硬化性樹脂を含む熱硬化性樹脂組成物を含有する摩擦材用造粒物。
(6)更に中空粒子を含有する上記(5)記載の摩擦材用造粒物。
【0013】
本発明者らは、平均粒径が0.1〜0.5μmのチタン酸カリウム粒子、未架橋ゴム及び熱硬化性樹脂を含む熱硬化性樹脂組成物を、摩擦調整用粒子材料(原材料)の結合材として用いることにより、該原材料が強固に接着され、アラミド繊維等の繊維基材で補強しなくとも優れた機械的特性を有する摩擦材が得られることを見出したものである。
【0014】
更に、上記熱硬化性樹脂組成物を造粒用結合材として用いて、摩擦調整用粒子材料の造粒物とすることにより、該造粒物は、該熱硬化性樹脂組成物が該摩擦調整用材料(原材料)の表面に被覆される構造となるため、それを熱硬化したときに原材料同士が十分に接着して成形されるとともに、これらの造粒物を成形する際に従来用いられていたフェノール樹脂等の成形用結合材粉末を用いる必要がなくなるため、熱硬化時における成形用結合材の軟化による移動が小さくなり、造粒物の構造が反映された、すなわち、原材料の配置等が制御された摩擦材が得られることが見出された。該造粒物は更に、任意の2種以上の摩擦調整用粒子材料を含む多層構造の造粒物とすることにより、原材料の配置等の設計・制御が更に容易になる。更に、これらの造粒物中に中空粒子などの気孔形成材料を含有させることで、気孔径及び気孔率を制御することもできる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、アラミド繊維等の繊維基材で補強しなくても、十分な機械的強度に優れる摩擦材が得られる。更に、原材料の配置や気孔率等を設計・制御して、用途の要求に応じた種々の摩擦性能を有する摩擦材を容易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例4で得られた3層構造からなる摩擦材用造粒物のSEM像(倍率200倍)を示す。
【図2】図1で示される摩擦用造粒物の核であるカシューダストのSEM像を示す。
【図3】図2で示されるカシューダストの周囲層であるチタン酸カリウムのSEM像を示す。
【図4】図3で示されるチタン酸カリウムの周囲層であるケイ酸ジルコニウムのSEM像を示す。
【図5】実施例4で得られた摩擦材用造粒物内のSEM像(倍率10000倍)を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の摩擦材は、摩擦調整用粒子材料及び特定の結合材を含有する。摩擦材には、通常、摩擦材を補強する作用を有する繊維基材、摩擦材に含まれる材料を一体化させるための結合材、及び、摩擦材に摩擦作用を与え、且つその摩擦性能を調整するための種々の固体粉末材料が用いられており、これらの固体粉末材料は、場合によって、摩擦調整材、固体潤滑材、充填材等の名称で呼ばれている。本発明では、これらを特に区別することなく、繊維基材及び結合材以外の、摩擦材に摩擦作用を与え且つその摩擦性能を調整する固体粉末状の材料を、総称して「摩擦調整用粒子材料」または単に「摩擦調整材」と称する。
【0018】
本発明の摩擦材は、平均粒径が0.1〜0.5μmのチタン酸カリウム粒子、未架橋ゴム及び熱硬化性樹脂を含む熱硬化性樹脂組成物を結合材として用いることを特徴とし、これにより摩擦調整用粒子材料が強固に接着されるため、繊維基材を含有せずとも十分な機械的強度を得ることができる。
【0019】
本発明において、チタン酸カリウム粒子は熱硬化性樹脂の補強材として使用される。チタン酸カリウム粒子は、熱硬化性樹脂の中へ分散させるため、未架橋ゴムやそれ以外の摩擦材用原材料よりも粒子が小さいことが好ましい。
そのため、本発明におけるチタン酸カリウム粒子の平均粒径は、0.1〜0.5μmが好ましく、より好ましいのは0.1〜0.3μmである。この範囲のチタン酸カリウム粒子を使用することにより、300℃以上の高温域での機械的強度の向上が可能である。なお、平均粒径の測定方法は、レーザー回折式、あるいは動的光散乱式粒度分布計により測定される値である。また、熱硬化性樹脂組成物の他の粉体についても同様である。
【0020】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、摩擦調整材とともに用いることにより、熱硬化性樹脂と未架橋ゴムのポリマーブレンドによって、摩擦調整材間の密着性を向上させることができる。また、熱硬化性樹脂中のチタン酸カリウム粒子は、アンカー効果により熱硬化後の熱硬化性樹脂組成物の機械的強度を向上させる。これらの複合効果により、本発明の熱硬化性樹脂組成物は摩擦調整材の結合材として機能し、高温においても機械的強度の高い摩擦材となるものと推定される。以下、本発明の熱硬化性樹脂組成物について更に詳述する。
【0021】
本発明で用いるチタン酸カリウム粒子は、所定の平均粒径を有するものであれば特に制限はないが、流通しているものは平均粒径が大きいのが通例であり、湿式粉砕処理が施されたチタン酸カリウム粒子を用いることが好ましい。
湿式粉砕機としては、ジェットミル、ビーズミル等が挙げられ、特にビーズミルが好ましい。分散媒としては、処理によりチタン酸カリウム粒子の構造、及び分散性に悪影響を与えないものであれば特に制限なく用いることができるが、イソプロピルアルコール、エタノール等が好ましいものとして挙げられる。
また、ビーズミルに用いるビーズとしては、ジルコニア、アルミナ等が挙げられ、ビーズ直径を0.05〜0.3mmから選択することが好ましい。また、この場合、ビーズの充填率、処理時間等を組み合わせることにより、所定の平均粒径を有したチタン酸カリウム粒子を得ることができる。
【0022】
粉砕処理されたチタン酸カリウム粒子は、乾燥させて粉末状としても、そのままのスラリー状としても熱硬化性樹脂組成物の調製に用いることができる。
チタン酸カリウム粒子は、熱硬化性樹脂組成物全体(固形分)に対して5〜25質量%が好ましく、10〜20質量%が更に好ましく、本発明の効果を有効に発揮することができる。5質量%未満では、添加効果が小さく、25質量%を超えると、それ以上の向上効果が発現しない。
【0023】
未架橋ゴムは、熱硬化性樹脂組成物とともに用いられる摩擦調整用粒子材料との界面による接着性を強固にする機能を有する。
用いられる未架橋ゴムの例としては、NBR(アクリロニトリルブタジエンゴム)、SBR(スチレンブタジエンゴム)、IIR(ブチルゴム)、NR(天然ゴム)、IR(合成天然ゴム)、BR(ブタジエンゴム)、ACM(アクリルゴム)、EPDM(エチレンプロピレンゴム)、及びそれらの変性体(アミノ基、カルボキシル基などの官能基を導入したもの)などが挙げられ、所望の特性(モノマー配合率)を示すものを適宜選択して、単独または2種以上組み合わせて用いる。この場合、種類が同じものであってもよいし、異なる種類のものであってもよい。例えば、NBRとしては、高ニトリルタイプあるいは中高ニトリルタイプが好ましい。ここで、高ニトリルタイプとは、結合アクリロニトリル含有量が、NBRに対し36〜42質量%のものを意味し、中高ニトリルタイプとは、結合アクリロニトリル含有量が、NBRに対し31〜35質量%のものを意味する。
【0024】
未架橋ゴムは、熱硬化性樹脂組成物全体(固形分)に対して3〜35質量%が好ましく、10〜30質量%が更に好ましい。この範囲において、摩擦材の十分な機械的強度を保持したまま、十分な添加効果が得られ、本発明の効果を有効に発揮することができる。
【0025】
熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂(ストレートフェノール樹脂、化合物等(前記未架橋ゴムは除く)による各種変性フェノール樹脂を含む)、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂等が挙げられ、単独または2種以上組み合わせて用いられる。
熱硬化性樹脂は、熱硬化性樹脂組成物(固形分)に対して40〜92質量%が好ましく、50〜80質量%が更に好ましく、この範囲において、本発明の効果を有効に発揮することができる。
【0026】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、チタン酸カリウム粒子、未架橋ゴム、及び熱硬化性樹脂のみでも、それ以外の成分(有機溶媒を除く)を含んでもよい。これらの他の成分は特に制限はなく、有機物質でも無機物質でもよく、熱硬化性樹脂組成物(固形分)に対して0〜30質量%用いられる。
【0027】
本発明の熱硬化性樹脂組成物の形態は、特に限定されないが、液状又は粒子状であることが好ましい。また、本発明の熱硬化性樹脂組成物の製造方法には制限はないが、例えば、以下の製法で製造することが好ましい。
【0028】
(1)液状の熱硬化性樹脂組成物を調製する場合
有機溶媒は、熱硬化性樹脂および未架橋ゴムを均一に溶解できるものであれば特に制限されないが、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系化合物、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール系化合物、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系化合物等が挙げられ、これらのうち、ケトン系化合物が好ましく、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンがさらに好ましい。これらの単独あるいは混合溶媒中に未架橋ゴム、及び熱硬化性樹脂並びに粉砕処理されたチタン酸カリウムまたはそのスラリーを添加し、未架橋ゴムと熱硬化性樹脂を溶解させるとともに粉砕処理されたチタン酸カリウム粒子を分散させた熱硬化性樹脂組成物溶液を調製することができる。この際、有機溶媒中に上記材料を添加した初期および終了期に各々5〜15分超音波照射処理を行うことが好ましい。これにより、チタン酸カリウム粒子の凝集を効果的に防止することができる。
【0029】
(2)粒子状の熱硬化性樹脂組成物を調製する場合
上記の液状の熱硬化性樹脂組成物を50〜70℃で加熱乾燥あるいは真空減圧し、有機溶媒を捕集除去し、固体状の熱硬化性樹脂組成物を得る。これを凍結粉砕し、所定のサイズに調整し、粒子状の熱硬化性樹脂組成物を得ることができる。または、未架橋ゴム、及び熱硬化性樹脂並びに粉砕処理されたチタン酸カリウムまたはそのスラリーを混練機に投入し、70〜100℃で上記材料が均一に混合されるまで混練する。その後、この組成物をローラーでシート状に引き延ばし、凍結粉砕し、所定のサイズの調整し、粒子状の熱硬化性樹脂組成物を得ることができる。使用できる混練機としては、加圧ニーダー、押出機等が挙げられる。
【0030】
本発明では、摩擦作用を与え且つその摩擦性能を調整するための摩擦調整材として、目的に応じて種々の摩擦調整材を用いることができ、通常摩擦材に用いられる、摩擦調整材、充填材、固体潤滑材等と呼ばれる種々の固体粒子材料を使用することができる。
【0031】
本発明に用いられる摩擦調整用粒子材料としては、従来、摩擦材に一般に摩擦調整材として使用されているものを用いることができる。このような摩擦調整材として、例えば研削材、潤滑材、有機ダスト、金属類、充填材などを挙げることができる。これらは、製品に要求される摩擦特性、例えば、摩擦係数、耐摩耗性、振動特性、鳴き特性等に応じて、単独または2種以上組み合わせて配合することができる。
【0032】
研削材としては特に制限はなく、従来摩擦材に研削材として使用されている公知のものの中から、任意のものを適宜選択することができる。この研削材の具体例としては、酸化鉄、酸化アルミニウム、炭化ケイ素、酸化ジルコニウム、ケイ酸ジルコニウム、酸化マグネシウム、二酸化ケイ素などを挙げることができ、これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。その配合量は、摩擦係数の確保や攻撃性抑制などの観点から、原材料混合物の全量に基づき、通常0〜30質量%程度、好ましくは5〜15質量%である。
【0033】
潤滑材としては特に制限はなく、従来摩擦材に潤滑材として使用されている公知のものの中から、任意のものを適宜選択することができる。この潤滑材の具体例としては、黒鉛や、二硫化モリブデン、三硫化アンチモン等の金属硫化物などを挙げることができ、これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。その配合量は、潤滑力や摩擦係数の確保の観点から、原材料混合物の全量に基づき、通常0〜30質量%程度、好ましくは0〜15質量%である。
【0034】
有機ダストとしては特に制限はなく、従来摩擦材に有機ダストとして使用されている公知のものの中から、任意のものを適宜選択することができる。この有機ダストの具体例としては、NBR、SBRなどのゴムダスト、カシューダストなどを挙げることができ、これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。その配合量は、フェード時のガス発生の抑制や気孔の効果維持などの観点から、原材料混合物の全量に基づき、通常0〜30質量%程度、好ましくは0〜15質量%である。
【0035】
金属類としては特に制限はなく、従来摩擦材に金属類として使用されている公知のものの中から、任意のものを適宜選択することができる。この金属類の具体例としては、銅、真ちゅう、亜鉛、鉄などを挙げることができ、これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。その配合量は、造粒物の比重の増加による摩擦材中での偏析を抑制する観点から、原材料混合物の全量に基づき、通常0〜50質量%程度、好ましくは0〜25質量%である。
【0036】
充填材などとして、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、あるいはバーミキュライトやマイカなどの鱗片状無機物等の無機充填材、さらには有機充填材を含有することができる。これらの充填材は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。その配合量は、樹脂結合材が充分に行き渡って結合力を維持すると共に、摩擦材の異常摩耗を抑制するなどの観点から、原材料混合物全量に基づき、通常0〜70質量%程度、好ましくは0〜50質量%である。
【0037】
また、本発明の摩擦材には、本発明の目的が損なわれない範囲で、所望により、各種添加成分、例えば酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、離型剤、着色剤、硬化剤などを、上記摩擦調整用粒子材料とともに適宜含有させることができる。
【0038】
本発明の摩擦材は、摩擦材全体に対して、摩擦調整用粒子材料70〜90体積%及び熱硬化性樹脂組成物(固形分)10〜30体積%を含むことが好ましく、摩擦材全体に対して、摩擦調整用粒子材料75〜85体積%及び熱硬化性樹脂組成物(固形分)15〜25体積%を含むことが更に好ましい。この範囲とすることにより、本発明の効果を有効に発揮することができる。
【0039】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、摩擦調整材の成形用結合材として粉体として用いてもよく、また、該摩擦調整材の造粒用結合溶液として用いていったん造粒物を製造し、それを成形することにより摩擦材を製造してもよい。
本発明の熱硬化性樹脂組成物を粉体の成形用結合材として用いた摩擦材の製造方法としては、特に制限はなく、例えば、摩擦調整用粒子材料、本発明の熱硬化性樹脂組成物、及び所望により用いられる他の成分を、ヘンシェルミキサーやタンブラーブレンダーなどの通常の混合機を用いて混合し、その混合物を加熱加圧成形、アフタキュア、研摩等の処理を施すことにより製造することができる。
【0040】
また本発明では、液状の熱硬化性樹脂組成物を造粒用結合材として用いることにより、上記各成分が包含された造粒物を作製し、この造粒物を上記混合物として用いることにより摩擦材を製造することができる。本発明の熱硬化性樹脂組成物を造粒用結合材として用いて摩擦材用粒子材料を粒子成長させた造粒物は、熱硬化性樹脂組成物が摩擦調整用粒子材料表面に被覆される構造を有するため、その後の成形工程における熱硬化時の原材料の接着性に優れている。また、成形にあたり、フェノール樹脂等の成形用結合材粉末を用いる必要がないので、熱硬化時における成形用結合材の軟化による移動が小さく、造粒物の構造を反映した、すなわち、摩擦材粒子材料等の配置構造が制御された摩擦材を得ることができる。
【0041】
更に上記造粒物は、熱硬化性樹脂組成物が摩擦調整用粒子材料表面に被覆される構造を有するため、造粒工程を2回以上繰り返すことにより、任意の2種以上の原材料からそれぞれ構成される多層構造の造粒物とすることもでき、これにより配置構造の制御が更に容易となる。また、摩擦調整用粒子材料中に中空粒子等の気孔形成成分を配合することにより、これらの摩擦材中の配置構造を制御することができ、気孔径及び気孔率をも制御することができる。
【0042】
造粒物の造粒方法については、上記各成分が包含される造粒物を作製できる方法であれば、制限はなく、例えば、流動層造粒法、攪拌、混練造粒法等、あるいはこれらを組み合わせた複合型造粒法により作製することができる。
本発明の摩擦材用造粒物を流動層で造粒する場合には、前記のようにして調製した原材料混合物と液状の熱硬化性樹脂組成物を用い、前記原材料混合物を当該液状熱硬化性樹脂組成物の存在下に流動層で造粒することにより、摩擦材用造粒物を製造することができる。
この造粒に使用する流動層造粒機としては、下部から吹き込まれる気体によって、流動層を形成し得る造粒機であればよく、特に制限されず、従来公知の各種流動層造粒機、例えば通常流動層造粒機、循環流型流動層造粒機、強制循環流型流動層造粒機、噴流層造粒機などいずれも用いることができる。
【0043】
複合型造粒法(攪拌転動流動層型)を用いる場合の具体的造粒法としては、底を流動板ロータとした容器内に、原材料混合物の粉体を入れ、該流動板ロータから加温された空気を送り込むことによって、前記粉体を流動層状態とし、さらに攪拌羽根により粉体を攪拌させ、これに造粒用結合材溶液(当該熱硬化性樹脂組成物溶液)をスプレーノズルから噴霧することによって、粉体同士をポーラスな状態で結合させることにより、摩擦材用造粒物を形成させる。
【0044】
この場合、流動層となっている容器内の温度、容器内の圧力(流動層の状態)、噴霧される結合材含有液の濃度や量、該結合材の種類、結合材含有液の噴霧圧力、流動板ロータや攪拌羽根の回転数などを制御することにより、摩擦材用造粒物の気孔率、粒子径などを調整することができる。例えば、気孔率を高くするためには、相対的に、容器内温度を高く、結合材濃度を高く噴霧量を少なく噴霧圧を高くすればよく、粒子径を大きくするためには、相対的に、容器内温度を低く、結合材濃度を高く噴霧量を多く噴霧圧を低くすればよい。
【0045】
気孔形成材料としては、アルミナ、シリカ等の金属酸化物や炭酸塩を主成分とした無機中空粒子を挙げることができる。単独でも2種以上でもよい。
【0046】
本発明の摩擦材用造粒物は、以下に示す物性を有する摩擦材用造粒物であることが好ましい。すなわち、粒子径は、流動性の観点から100〜2000μmであって、平均粒子径D50は300〜900μm程度である。なお、粒子径および平均粒子径は、レーザー回折散乱法粒度分布計(島津製作所製SALD−2000A)にて測定し、平均粒子径D50は、体積基準の積算50%径を意味する。また、JISR9301−2−2に準拠して測定した安息角は40°以下である。この安息角が40°を超えると流動性が不十分であり、下限は、通常15°程度である。好ましい安息角は20〜40°であり、より好ましくは20〜35°である。さらに、圧縮破壊強度は10MPa以下である。この圧縮破壊強度が10MPaを超えると、造粒物を熱成形型に投入して加熱加圧成形する際に、該造粒物が壊れにくく、成形体内に造粒物界面が残存し、成形体強度低下の原因となる。また、圧縮破壊強度が低すぎると造粒物の搬送中や造粒物と他の成分との混合中に壊れたりするなどの不都合が生じる。したがって、該圧縮破壊強度の下限は、通常1MPa程度である。好ましい圧縮破壊強度は1〜10MPa、より好ましくは1〜5MPaである。なお、この圧縮破壊強度は、微小圧縮試験機(島津製作所製MCTM−500)により測定した。
【0047】
上記のようにして得られた摩擦材用造粒物を加熱加圧成形して熱成形体を得たのち、熱処理することによって、本発明の摩擦材を製造することができる。すなわち、上記で得られた摩擦材用造粒物を、熱成形型に投入し、加熱加圧成形して熱成形体を作製したのち、この熱成形体をさらに熱処理することにより、所望の摩擦材を製造する。
【0048】
本発明においては、当該摩擦材用造粒物を熱成形型に投入し、加熱加圧成形するに際し、当該摩擦材用造粒物と繊維基材との混合物を熱成形型に投入することもできる。この場合、繊維状基材は、摩擦材中で骨格を形成し、摩擦材に形成された気孔がつぶれないように、その骨格を維持する機能を有している。
【0049】
繊維基材としては、有機繊維および無機繊維のいずれも用いることができる。有機繊維としては、高強度の芳香族ポリアミド繊維(アラミド繊維;デュポン社製、商品名「ケブラー」など)、耐炎化アクリル繊維、ポリイミド繊維、ポリアクリレート繊維、ポリエステル繊維などを挙げることができる。一方、無機繊維としては、チタン酸カリウムウィスカーや炭化珪素ウィスカーなどの無機ウィスカー;ガラス繊維;炭素繊維;ワラストナイト、セピオライト、アタパルジャイト、ハロイサイト、モルデナイト、ロックウールなどの鉱物繊維;アルミナシリカ系繊維などのセラミック繊維;アルミニウム繊維、ステンレス繊維、銅繊維、黄銅繊維、ニッケル繊維などの金属繊維等を挙げることができる。これらの繊維状物質は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合せて用いてもよい。
【0050】
前記繊維基材の平均繊維径は、強度の観点から、通常0.1〜500μm程度、好ましくは0.1〜300μmであり、平均長さは、補強の観点から、通常5〜1000μm、好ましくは10〜300μmである。
【0051】
本発明の摩擦材用造粒物と繊維基材の割合は、繊維状基材が、摩擦材中で骨格を形成し、摩擦材に形成された気孔がつぶれるのを抑制する観点から、両者の合計量に基づき、繊維基材が3〜50質量%であることが好ましく、10〜45質量%であることがより好ましい。
【0052】
本発明においては、当該摩擦材用造粒物または当該摩擦材用造粒物と繊維基材との混合物を熱成形型に投入し、加熱加圧成形する際の条件としては、通常、温度100〜250℃程度、圧力10〜70MPa程度であり、好ましくは温度140〜190℃程度、圧力30〜50MPaである。
【0053】
本発明においては、前記熱成形体をさらに熱処理することにより、目的の原材料の配置や気孔率を有する摩擦材を製造することができる。この熱処理は、通常150〜350℃程度の温度で、0.5〜12時間程度、好ましくは200〜300℃の温度で、0.5〜6時間行われる。
【0054】
例えばディスクブレーキ用ブレーキパッドを製造する場合は、板金プレスにより所定の形状に成形され、脱脂処理及びプライマー処理が施され、そして接着剤が塗布されたプレッシャプレートと、上記摩擦材用造粒物あるいはそれらと繊維基材との混合物とを、熱成形工程において所定の温度及び圧力で熱成形して両部材を一体に固着し、アフタキュアを行い、最終的に仕上げ処理を施す工程により製造することができる。
【0055】
本発明に従い、本発明の造粒物を用いて摩擦材を成形することにより、以下に示す効果を奏する。
(1)当該造粒物は、本発明の熱硬化性樹脂組成物により表面被覆された構造を有するため、熱硬化時において、造粒物同士の接着性に優れており、繊維基材を用いずとも十分な強度の摩擦材を得ることができる。また、フェノール樹脂等の成形用結合材粉末が不要であるため、熱硬化時における成形用結合材の軟化による移動が小さく、造粒物の構造を反映した摩擦材が得られる。また、各原料の分離・偏析を抑制することができ、各成分を均質に分散させることができる。
(2)従来造粒用結合材として用いられていた水溶性合成樹脂等を用いる必要がないため、耐熱性に優れている。
(3)造粒用結合材としての熱硬化性樹脂組成物の濃度や種類を変えたり、また、気孔形成材料を用いることにより、摩擦材の気孔率、気孔径を制御することができる。
(4)摩擦調整用粒子材料の表面に熱硬化性樹脂組成物が被覆された構造となるため、2つ以上の被覆工程を行うことにより、任意の2つ以上の原材料から構成される多層構造とすることができるため、原材料の配置を更に制御することができる。
【実施例】
【0056】
以下に、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0057】
調製例1(熱硬化性樹脂組成物の調製)
1)チタン酸カリウム微粒子の作製
ビーズミルによる湿式粉砕処理により、動的光散乱式粒度分布測定(日機装株式会社製ナノトラックUPA)にて平均粒子径117nmのチタン酸カリウム粒子を2−プロパノール中に分散させたスラリーを得た。
【0058】
2)熱硬化性樹脂組成物の調製
表1に記載のとおりの配合の熱硬化性樹脂組成物を、下記の手順により調製した。
NBRは、高ニトリルタイプを使用し、フェノール樹脂はノボラックタイプを用い、硬化剤としてヘキサメチレンテトラミンを10質量%添加したものを用いた。まずNBRとフェノール樹脂を2−ブタノン中に溶解させ、次いで上記で調製した2−プロパノール中に分散させたチタン酸カリウム微粒子を混合した後、超音波照射を行うことにより、チタン酸カリウム微粒子を分散させた熱硬化性樹脂組成物を得た。この際、2−ブタノン中の熱硬化性樹脂組成物固形分は3質量%に調製して、実施例1、2及び4の複合型流動層の造粒用結合材溶液として用いた。また、実施例3の攪拌造粒機用については、固形分を20質量%とした。
【0059】
【表1】

【0060】
実施例1
複合型流動層(フロイント産業(株)製SFC−MINI)を用い、表2に示す摩擦調整材を表2に示すとおりの量で流動層内に投入し、上記の通りに調製して得た固形分3質量%の熱硬化性樹脂組成物溶液を噴霧することにより摩擦材用造粒物を作製した。得られた造粒物を熱成形型へ直接投入して加圧成形及び熱処理を行い、摩擦材を作製した。
【0061】
実施例2
摩擦調整用粒子材料として中空粒子を配合した組成であり、表2に示すとおりの組成で摩擦材を製造した。摩擦材用造粒物及び摩擦材の製造方法は実施例1と同様にして、摩擦材を作製した。中空粒子として、フィライト(日本フィライト(株)製、150μm篩パス品)を使用した。
【0062】
実施例3
攪拌造粒機(深江パウテック(株)製ハイフレックスグラル)を用い、表2に示す摩擦調整用粒子材料を表2に示すとおりの量で攪拌造粒機に投入し、上記の通りに調製して得た固形分20質量%の熱硬化性樹脂組成物溶液を滴下することにより摩擦材用造粒物を作製した。得られた造粒物は50℃の送風式乾燥機にて10時間乾燥した。摩擦材の製造方法は実施例1と同様にして、摩擦材を作製した。
【0063】
比較例1
表2に示すとおりの原材料の組成、すなわち、繊維基材としてアラミドパルプを配合し、成形用結合材としてフェノール樹脂を用いた組成の原材料を乾式混合機により混合し、摩擦材原材料の混合物を作製した。これを常温成形して予備成形体を作製し、更に加圧成形及び熱処理して摩擦材を作製した。
【0064】
比較例2
表2に示すとおりの原材料の組成、すなわち、繊維基材であるアラミドパルプを配合せず、成形用結合材としてフェノール樹脂を用いた組成の原材料を乾式混合機により混合し、摩擦材原材料の混合物を作製し、この混合粉を熱成形型へ直接投入して加圧成形及び熱処理を行い、摩擦材を作製した。
【0065】
比較例3
実施例1で用いた複合型流動層を用い、表2に示す摩擦調整用粒子材料及びフェノール樹脂粉末を表2に示すとおりの量で流動層内に投入し、ポリビニルアルコール水溶液(日本合成化学工業(株)製GH−17Sを固形分4質量%に調製したもの)を噴霧することにより摩擦材用造粒物を作製した。得られた造粒物を熱成形型へ直接投入して加圧成形及び熱処理を行い、摩擦材を作製した。比較例3は、繊維基材であるアラミドパルプを配合せずに成形用結合材としてフェノール樹脂を用いた比較例2と同様の組成であって、更に、造粒用結合材としてポリビニルアルコール水溶液を用いて造粒物を作製して摩擦材としたものである。
【0066】
上記の実施例1〜3及び比較例1〜3で得られた各摩擦材の気孔率及び最大応力についての測定結果を表2に示す。ここで、気孔率は水銀圧入式ポロシメータを用いて測定したものであり、最大応力は、万能試験機(島津製作所製AG−X、10kN)を用いて試験片サイズを8×8×10mm(成形加圧方向が10mm)に加工し、これを常温及び300℃にて30分間保持した条件下で圧縮し、破壊に至るまでの最大応力を求めたものである。
【0067】
【表2】

【0068】
<摩擦材の機械的強度>
比較例1(アラミドパルプ基材配合)の摩擦材に対して、比較例2(アラミドパルプ基材配合せず)の摩擦材の300℃最大応力は、76MPaから50MPaに低下する。これはアラミドパルプ基材による摩擦材の補強効果の有無を示している。これに対し、本発明の熱硬化性樹脂組成物を用いた実施例1〜3の摩擦材の300℃最大応力は63MPa以上を示し、アラミドパルプ基材を配合していないにもかかわらず、比較例2の摩擦材に比して大幅に機械的強度が向上していることが分かる。これは、熱硬化性樹脂組成物が高い接着力を有するために、摩擦調整用粉末材料(原材料)を強固に接着保持する効果と、熱硬化性樹脂組成物中に分散したチタン酸カリウム微粒子による樹脂マトリックスのアンカー効果による補強効果によるものと推定され、このため、アラミドパルプ基材を配合しなくても機械的強度に優れた摩擦材が得られる。
【0069】
一方、比較例3の摩擦材は、造粒用結合材としてポリビニルアルコール水溶液を用いて得た造粒物を成形したものであり、300℃最大応力が比較例2により更に低下する。これはポリビニルアルコールが熱可塑性樹脂材料であり、耐熱性に劣るために摩擦材に影響を与えるものと推定される。
【0070】
また、実施例2に示すように、気孔形成成分として中空粒子(フィライト)を造粒物内に内包した場合、内包していない実施例1に比して、気孔率は5%から10%に増大する。
これらのことから、本発明によれば、原材料及び気孔形成成分から構成された造粒物を作製することにより、必要な気孔設計が可能となる。
【0071】
実施例4
実施例1で用いた複合型流動層を用い、表3に示すとおりの摩擦調整用粒子材料及び組成の3層構造の造粒物を作製した。すなわち、実施例1と同様の方法で、カシューダストとチタン酸カリウムの2層構造の造粒物を得、次いで、2層構造の造粒物の表層にケイ酸ジルコニウム層を形成し、3層構造の造粒物を作製した。ここで、造粒用結合材である熱硬化性樹脂組成物溶液(固形分3質量%)は、2層構造形成時に6質量%分、3層構造形成時に7質量%分を使用し、3層構造造粒物として13質量%の硬化性樹脂組成物を含むものである。得られた造粒物を熱成形型へ直接投入して加圧成形及び熱処理を行い、実施例1と同様にして、摩擦材を作製した。
【0072】
【表3】

【0073】
<摩擦材用造粒物の粒度分布>
実施例4で得られた造粒物の粒度分布を表4に示す。粒度分布のD10%が149μmであり、微粉のない造粒物が得られることが分かる。
【0074】
【表4】

【0075】
<摩擦材用造粒物の内部構造>
実施例4で得られた摩擦材用造粒物のSEM像(倍率200倍)を図1〜図4に示す。核がカシューダストであり(図2参照)、その周囲にチタン酸カリウム層(図3参照)、さらにケイ酸ジルコニウム層(図4参照)が形成された造粒物が得られていることが分かる。さらに、元素分析におけるCKα線(図2中の「C(カシューダスト)」)から、熱硬化性樹脂組成物(元素分析ではCで検出される)が凝集することなく造粒用結合材として機能していることが分かる。
従来の摩擦材用造粒物は、成形用結合材としてフェノール樹脂等の熱硬化性樹脂粉末(数十μmサイズ)が使用されており、このような材料を用いて多層構造の造粒物を調製するにしても、造粒物の各層中には、成形に必要な量の結合材粉末を配合しなければならない。また、この場合の造粒用結合材としては従来PVCやCMC等の熱可塑性材料が使用されており、熱硬化性樹脂に比べて耐熱性に劣り、成形後の摩擦材強度が低下してしまう。この結果、多層構造造粒物を形成したとしても、成形過程における成形用結合材の軟化、流動による造粒物構造の変形が生じるため、熱硬化性樹脂粉末の粒子径より小さい原材料を多層化した成形体は、設計通りの構造を維持しにくい。
【0076】
図5に、実施例4で得られた摩擦材用造粒物内の熱硬化性樹脂組成物の状態を示すSEM像を示す。熱硬化性樹脂組成物は、摩擦調整用粒子材料の表面に被覆され、粒子材料の粒子成長を行っていることが分かる。さらに、熱硬化性樹脂組成物は、造粒用結合材であるとともに成形用結合材であるため、造粒物内における原材料の配置の制御が可能となる。また、成形後の摩擦材の機械的強度が低下することもない。
【0077】
以上のことから、本発明の熱硬化性樹脂組成物を造粒用結合材として用いることにより、微粉のない造粒物を作製できるとともに、任意の原材料からなる多層構造を有する摩擦材用造粒物を得ることが可能であり、更にかかる造粒物を用いることにより、機械的強度に優れ、かつ摩擦性能の制御された摩擦材を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の摩擦材は、優れた機械的強度を有するとともに、摩擦性能の制御が容易であり、自動車、大型トラック、鉄道車両、各種産業機械等のディスクパッド、ブレーキライニング、クラッチフェーシング等に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
摩擦調整用粒子材料、並びに、結合材として、平均粒径が0.1〜0.5μmのチタン酸カリウム粒子、未架橋ゴム及び熱硬化性樹脂を含む熱硬化性樹脂組成物を含有する摩擦材。
【請求項2】
摩擦調整用粒子材料、並びに、造粒用結合材として、平均粒径が0.1〜0.5μmのチタン酸カリウム粒子、未架橋ゴム及び熱硬化性樹脂を含む熱硬化性樹脂組成物を含有する摩擦材用造粒物を成形して得た請求項1記載の摩擦材。
【請求項3】
該摩擦材用造粒物が、2種以上の摩擦調整用粒子材料を含む多層構造の造粒物である請求項2記載の摩擦材。
【請求項4】
更に中空粒子を含有する請求項1から3のいずれか1項に記載の摩擦材。
【請求項5】
摩擦調整用粒子材料、並びに、造粒用結合材として、平均粒径が0.1〜0.5μmのチタン酸カリウム粒子、未架橋ゴム及び熱硬化性樹脂を含む熱硬化性樹脂組成物を含有する摩擦材用造粒物。
【請求項6】
更に中空粒子を含有する請求項5記載の摩擦材用造粒物。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−256255(P2011−256255A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−131030(P2010−131030)
【出願日】平成22年6月8日(2010.6.8)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)