説明

摩擦材用結合材、その製造方法および摩擦材

【課題】 使用初期のフェード現象の発生が抑制され、表面焼き工程を必要としない摩擦材を与えることのできる摩擦材用結合材、およびこのものを効率よく製造する方法を提供する。
【解決手段】 中空状ポリシロキサン粒子を含む熱硬化型樹脂からなる摩擦材用結合材、並びに熱硬化型樹脂製造時において、反応系中に中空状ポリシロキサン粒子を分散させて、中空状ポリシロキサン粒子含有熱硬化型樹脂を得る、摩擦材用結合材の製造方法、および熱硬化型樹脂を含む有機溶媒溶液に、中空状ポリシロキサン粒子を加えて分散させたのち、有機溶媒を留去させる、摩擦材用結合材の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦材用結合材、その製造方法および摩擦材に関する。さらに詳しくは、本発明は、使用初期のフェード現象の発生が抑制され、表面焼き工程を必要としない摩擦材を与えることのできる摩擦材用結合材、このものを効率よく製造する方法、および該摩擦材用結合材を用いて得られた、前記の性状を有する摩擦材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両用ブレーキなどに用いられる摩擦材は、従来、予備成形工程、熱成形工程、研磨工程、加熱工程、冷却工程、表面焼き工程、フリー冷却工程、塗装工程の順に行われて製造されていた。
【0003】
予備成形工程では、摩擦材形成用材料が予備成形型に充填されて所定形状に成形される。熱成形工程では、予備成形品が熱成形型に挿入され、所定温度及び所定圧力が所定時間だけ加えられる。研磨工程では、熱成形された摩擦材の表面が研磨される。
【0004】
また、加熱工程では、摩擦材がオーブンに入れられて所定の温度で所定の時間だけ加熱される。冷却工程では、摩擦材が冷却されてその物性(強度、気孔率等)が安定化する。表面焼き工程では、摩擦材の表面を加熱することによって使用初期のフェード現象の発生を防止する。フリー冷却工程では、摩擦材が常温にて冷却される。塗装工程では、摩擦材に塗装が施される。
【0005】
しかしながら、従来の摩擦材の製造方法では、表面焼き工程において、摩擦材にクラックやフクレ、表層剥離などが生じるという問題があった。これは、冷却工程で冷却された摩擦材が吸湿し、次の表面焼き工程で摩擦材が急激に加熱されること、及び摩擦材の表面に含まれている水分が急激に加熱されて膨張することが原因である。
【0006】
そこで、このような問題を解決するために、例えば摩擦材の製造に当り、赤熱された面状発熱体による輻射熱により摩擦材表面を加熱処理することを特徴とする摩擦材の輻射熱式表面熱処理方法(特許文献1参照)や、熱成形後に加熱された摩擦材を冷却せずに表面焼きをすることを特徴とする摩擦材の製造方法(特許文献2参照)が開示されている。
【0007】
これらの方法によると、摩擦材にクラックやフクレ、表面剥離などが生じるのを防止することができるが、表面焼き工程そのものは必要である。この表面焼き工程を省略することができれば、摩擦材の生産性向上につながる。
【0008】
【特許文献1】特開平8−177914号公報
【特許文献2】特開平11−117970号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような事情のもとで、使用初期のフェード現象の発生が抑制され、表面焼き工程を必要としない摩擦材を与えることのできる摩擦材用結合材、このものを効率よく製造する方法、および該摩擦材用結合材を用いて得られた、前記の性状を有する摩擦材を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、中空状ポリシロキサン粒子を含む熱硬化型樹脂からなる摩擦材用結合材により、その目的を達成し得ること、そして、この摩擦材用結合材は、特定の方法により、効率よく製造し得ることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0011】
すなわち、本発明は、
(1) 中空状ポリシロキサン粒子を含む熱硬化型樹脂からなる摩擦材用結合材、
(2) 中空状ポリシロキサン粒子の含有量が、結合材全量に基づき1〜30質量%である、上記(1)項に記載の摩擦材用結合材、
(3) 中空状ポリシロキサン粒子の平均粒径が10nm〜1μmである上記(1)または(2)項に記載の摩擦材用結合材、
(4) 熱硬化型樹脂が、フェノールノボラック型樹脂および/またはポリベンゾオキサジン樹脂である上記(1)〜(3)項のいずれか1項に記載の摩擦材用結合材、
(5) 熱硬化型樹脂製造時において、反応系中に中空状ポリシロキサン粒子を分散させて、中空状ポリシロキサン粒子含有熱硬化型樹脂を得ることを特徴とする、上記(1)〜(4)項のいずれか1項に記載の摩擦材用結合材の製造方法、
(6) 熱硬化型樹脂を含む有機溶媒溶液に、中空状ポリシロキサン粒子を加えて分散させたのち、有機溶媒を留去させることを特徴とする、上記(1)〜(4)項のいずれか1項に記載の摩擦材用結合材の製造方法、
(7) 有機溶媒がアルコール系溶媒である、上記(6)項に記載の摩擦材用結合材の製造方法、および
(8) 上記(1)〜(4)項のいずれか1項に記載の摩擦材用結合材を用いたことを特徴とする摩擦材、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、使用初期のフェード現象の発生が抑制され、表面焼き工程を必要としない摩擦材を与えることのできる摩擦材用結合材、このものを効率よく製造する方法、および該摩擦材用結合材を用いて得られた、前記の性状を有する摩擦材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
まず、本発明の摩擦材用結合材について説明する。
[摩擦材用結合材]
本発明の摩擦材用結合材は、中空状ポリシロキサン粒子を含む熱硬化型樹脂からなることを特徴とする。
【0014】
(熱硬化型樹脂)
本発明の摩擦材用結合材に用いられる熱硬化型樹脂に特に制限はなく、従来摩擦材用結合材として知られている公知の熱硬化型樹脂の中から、任意のものを適宜選択して使用することができる。このような熱硬化型樹脂としては、例えば、ポリベンゾオキサジン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂および縮合多環芳香族炭化水素樹脂などを挙げることができ、これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0015】
<ポリベンゾオキサジン樹脂>
このポリベンゾオキサジン樹脂は、分子内にジヒドロベンゾオキサジン環を有する熱硬化型樹脂であって、例えばフェノール性水酸基を有する化合物と、1級アミン類と、ホルムアルデヒド類とを縮合反応させることにより製造することができる。
【0016】
前記フェノール性水酸基を有する化合物としては、芳香環上の水酸基のオルト位の少なくとも一方に水素原子を有する1価または2価以上の多価フェノール類を用いることができ、具体的には、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、キシレノール、p−t−ブチルフェノール、α−ナフトール、β−ナフトール、p−フェニルフェノールなどの1価フェノール類;カテコール、レゾルシノール、4,4’−ジヒドロキシジフェニルメタン(ビスフェノールF)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)などの2価フェノール類;トリスフェノール化合物、テトラフェノール化合物、フェノール樹脂などの3価以上の多価フェノール類等を挙げることができる。これらの中では、得られるポリベンゾオキサジン樹脂の性能の観点から、ビスフェノールAが好ましい。
【0017】
一方、1級アミン類としては、脂肪族アミンおよび芳香族アミンがあるが、脂肪族アミンであると、得られるポリベンゾオキサジン樹脂は、耐熱性の劣るものとなり、芳香族アミンが好ましい。この芳香族アミンとしては、例えばアニリン、トルイジン、キシリジン、アニシジンなどを挙げることができる。
【0018】
ホルムアルデヒド類としては、ホルマリン、パラホルムアルデヒド、トリオキサンなどを挙げることができる。
【0019】
また、アミノフェノール化合物と前記ホルムアルデヒド類との縮合反応物を用いることもできる。
このアミノフェノール化合物において、ヒドロキシ基と、アミノ基またはアミノアルキル基の位置については、反応性の観点から、m−位又はp−位が好ましく、特にp−位が好ましい。
【0020】
ヒドロキシ基と、アミノ基またはアミノアルキル基がp−位にあるアミノフェノール化合物としては、例えばp−アミノフェノール、4−アミノ−3−メチルフェノール、4−アミノ−3−エチルフェノール、4−アミノ−3−n−プロピルフェノール、4−アミノ−3−イソプロピルフェノール、4−アミノ−3−メトキシフェノール、4−アミノ−3−エトキシフェノール、4−アミノ−3−n−プロポキシフェノール、4−アミノ−3−イソプロポキシフェノール、4−ヒドロキシベンジルアミン、4−ヒドロキシ−2−メチルベンジルアミン、2−エチル−4−ヒドロキシベンジルアミン、4−ヒドロキシ−2−n−プロピルベンジルアミン、4−ヒドロキシ−2−イソプロピルベンジルアミン、4−ヒドロキシ−2−メトキシベンジルアミン、2−エトキシ−4−ヒドロキシベンジルアミン、4−ヒドロキシ−2−n−プロポキシベンジルアミン、4−ヒドロキシ−2−イソプロポキシベンジルアミン、4−ヒドロキシフェネチルアミン、4−ヒドロキシ−2−メチルフェネチルアミン、2−エチル−4−ヒドロキシフェネチルアミン、4−ヒドロキシ−2−n−プロピルフェネチルアミン、4−ヒドロキシ−2−イソプロピルフェネチルアミン、4−ヒドロキシ−2−メトキシフェネチルアミン、2−エトキシ−4−ヒドロキシフェネチルアミン、4−ヒドロキシ−2−n−プロポキシフェネチルアミン、4−ヒドロキシ−2−イソプロポキシフェネチルアミンなどが挙げられる。
【0021】
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよいが、これらの中で、反応性や耐熱性などの観点から、p−アミノフェノール、4−ヒドロキシベンジルアミンおよび4−ヒドロキシフェネチルアミンが好ましく、特にp−アミノフェノールが好適である。
【0022】
<フェノール樹脂>
フェノール樹脂としては、ノボラック型、レゾール型のいずれであってもよいが、レゾール型の場合、硬化触媒として酸触媒を必要とするため、機器の腐食などの観点から、ノボラック型が好ましい。ノボラック型フェノール樹脂の場合、硬化剤としては、通常ヘキサメチレンテトラミンが用いられるが、前記のポリベンゾオキサジン樹脂と併用する場合には、ヘキサメチレンテトラミンなどの硬化触媒を用いなくてもよい。
【0023】
このフェノール樹脂としては、ストレートフェノール樹脂や、ゴムなどによる各種変性フェノール樹脂など、いずれも用いることができる。
【0024】
<エポキシ樹脂>
エポキシ樹脂としては、得られる複合材料の性能の観点から、ビスフェノールのグリシジルエーテル型のエポキシ樹脂が好適である。
【0025】
上記ビスフェノールとしては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、ビス(ヒドロキシフェニル)メタン(ビスフェノールF)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン(ビスフェノールS)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンなどが挙げられる。これらのエポキシ樹脂の場合、硬化剤としてアミン系硬化剤や、酸物水物系硬化剤などが用いられ、また硬化促進剤として、イミダゾール系硬化促進剤などが用いられる。
【0026】
<縮合多環芳香族炭化水素樹脂>
縮合多環芳香族炭化水素樹脂(通称コプナ樹脂)としては特に制限はなく、従来公知のコプナ樹脂を挙げることができる。具体的には、ナフタレン、アセナフテン、フェナントレン、アントラセン、ピレンおよびそれらのアルキル置換体などの縮合多環芳香族炭化水素と、架橋剤として少なくとも2個のヒドロキシメチル基またはハロメチル基で置換された芳香族炭化水素化合物、好ましくはジヒドロキシメチルベンゼン(キシリレングリコール)、ジヒドロキシメチルキシレン、トリヒドロキシメチルベンゼン、ジヒドロキシメチルナフタレンなどのヒドロキシメチル化合物とを、酸触媒の存在下で反応させて得られる縮合多環芳香族炭化水素樹脂を挙げることができる。
【0027】
このようなコプナ樹脂は、耐摩耗性及び耐熱性に優れる硬化物を与える熱硬化性樹脂である。しかし、前記コプナ樹脂は、硬化触媒として酸触媒を用いるため、機器の腐食などの問題がある。したがって、酸触媒を用いず、ヘキサメチレンテトラミンなどを硬化触媒とするフェノール核を導入したコプナ樹脂が好ましい。フェノール核の導入は、前記の縮合多環芳香族炭化水素に、フェノール、ナフトール、レゾルシノールなどの芳香族ヒドロキシ化合物を混合して得た混合物と前記の架橋剤とを、酸触媒の存在下に反応させることにより、行うことができる。
【0028】
フェノール核が導入されたコプナ樹脂は、上記したように、ヘキサメチレンテトラミンなどで硬化するが、前述のポリベンゾオキサジン樹脂と併用する場合、該ポリベンゾオキサジン樹脂のジヒドロベンゾオキサジン環が開環して自己架橋する際に、当該コプナ樹脂をも架橋し硬化する。したがって、ポリベンゾオキサジン樹脂と併用する場合、ヘキサメチレンテトラミンなどの硬化触媒を必要としないため、硬化時にアンモニアなどの硬化触媒に由来するガスの発生がなく、環境負荷物質を低減させることができる。
【0029】
本発明の摩擦材用結合材においては、この熱硬化型樹脂は、前述したポリベンゾオキサジン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、コプナ樹脂などを1種単独で用いてもよいが、別途硬化触媒を必要とせず、かつ硬化時のガス発生量が少ない、ポリベンゾオキサジン樹脂単独、並びにこのポリベンゾオキサジン樹脂とノボラック型フェノール樹脂との併用が好適である。
【0030】
(中空状ポリシロキサン粒子)
本発明の摩擦材用結合材に含まれる中空状ポリシロキサン粒子としては、使用初期におけるフェード現象を抑制する観点から、平均粒径10nm〜1μm程度、好ましくは50nm〜500nmのものが好適であり、また、その含有量は、結合材全量に基づき、1〜30質量%程度が好ましく、5〜20質量%がより好ましい。
【0031】
当該中空状ポリシロキサン粒子は、例えばアルキル(又はアリール)トリアルコキシシランを、酸性条件下で加水分解処理することにより作製することができる。前記アルキル(又はアリール)トリアルコキシシランとしては、例えばプロピルトリエトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシランなどが挙げられるが、中でもフェニルトリエトキシシランが好ましい。また、市販品を用いることもできる。
【0032】
[摩擦材用結合材の製造方法]
本発明の摩擦材用結合材を製造するには、以下に示す本発明の製造方法に従えば、使用初期のフェード現象の発生が抑制され、表面焼き工程を必要としない摩擦材を与えることのできる摩擦材用結合材を効率よく製造することができる。
【0033】
本発明の摩擦材用結合材の製造方法には、2つの態様があり、第1の態様は、熱硬化型樹脂製造時において、反応系中に中空状ポリシロキサン粒子を分散させて、中空状ポリシロキサン粒子含有熱硬化型樹脂を得る方法であり、第2の態様は、熱硬化型樹脂を含む有機溶媒溶液に、中空状ポリシロキサン粒子を加えて分散させたのち、有機溶媒を留去させる方法である。
【0034】
前記第1の態様における中空状粒子の反応系への添加時期については、特に制限はなく、反応前に、原料と共に反応器に投入してもよいし、反応中の反応液に添加してもよく、あるいは反応後の反応終了液に添加してもよい。
【0035】
一方、前記第2の態様における有機溶媒は、用いる熱硬化型樹脂を溶解し、容易に留去し得る溶媒であればよく、特に制限はないが、例えばエタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノールなどのアルコール系溶媒が、熱硬化型樹脂の溶解性、留去性、環境性などの観点から好適でり、特にフェノール樹脂の場合に有効である。これらの溶媒は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
前記熱硬化型樹脂を含む有機溶媒溶液の濃度に特に制限はないが、操作性および生産性のバランスなどの観点から、30〜70質量%が好ましく、40〜60質量%がより好ましい。また、操作温度は、通常20〜50℃程度、好ましくは20〜30℃である。
【0037】
このようにして、中空状ポリシロキサン粒子を分散状態で含む熱硬化型樹脂からなる摩擦材用結合材が効率よく得られる。
【0038】
[摩擦材]
本発明の摩擦材は、前述した本発明の摩擦材用結合材を用いたことを特徴とする。
本発明の摩擦材を作製するには、まず、摩擦材形成用材料を調製する。この摩擦材形成用材料としては、前述した本発明の摩擦材用結合材、繊維状補強材、潤滑材、摩擦調整材、各種フィラーなどを含む材料を挙げることができる。
【0039】
(繊維状補強材)
当該摩擦材形成用材料における繊維状補強材としては、有機繊維および無機繊維のいずれも用いることができる。有機繊維としては、高強度の芳香族ポリアミド繊維(アラミド繊維;デュポン社製、商品名「ケブラー」など)、耐炎化アクリル繊維、ポリイミド繊維、ポリアクリレート繊維、ポリエステル繊維などを挙げることができる。一方、無機繊維としては、チタン酸カリウム繊維、バサルト繊維、炭化珪素繊維、ガラス繊維、炭素繊維、ワラストナイトなどの他、アルミナシリカ系繊維などのセラミック繊維、ステンレス繊維、銅繊維、黄銅繊維、ニッケル繊維、鉄繊維などの金属繊維等を挙げることができる。これらの繊維状物質は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
(潤滑材、摩擦調整材、フィラー)
当該摩擦材形成用材料における潤滑材としては、特に制限はなく、従来摩擦材に潤滑材として使用されている公知のものの中から、任意のものを適宜選択することができる。この潤滑材の具体例としては、黒鉛、フッ化黒鉛、カーボンブラックや、硫化スズ、二硫化タングステン等の金属硫化物、さらにはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、窒化硼素などを挙げることができ、これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
また、当該摩擦材形成用材料における摩擦調整材としては、特に制限はなく、従来摩擦材に摩擦調整材として使用されている公知のものの中から、任意のものを適宜選択することができる。この摩擦調整材の具体例としては、アルミナ、シリカ、マグネシア、ジルコニア、酸化鉄などの金属酸化物;ケイ酸ジルコニウム;炭化ケイ素;銅、黄銅、亜鉛、鉄などの金属粉末類やチタン酸塩粉末等の無機摩擦調整材、NBR、SBR、タイヤトレッドなどのゴムダストや、カシューダストなど有機ダスト等の有機摩擦調整材を挙げることができる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
当該摩擦材形成用材料においては、フィラーとして、膨潤性粘土鉱物を含有させることができる。この膨潤性粘土鉱物としては、例えばカオリン、タルク、スメクタイト、バーミキュライト、雲母などが挙げられる。
また、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化カルシウムなどを含有させることができる。
【0043】
なお、当該摩擦材形成用材料においては、前記の潤滑材、摩擦調整材およびフィラーの中で無機系フィラーは、当該摩擦材形成用材料中への分散性を良好なものとするために、有機化合物で処理されたフィラーを用いることができる。
【0044】
有機化合物で処理されたフィラーとしては、例えば膨潤性粘土鉱物を始め、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、マグネシア、アルミナ、ジルコニア、シリカ、アルミニウム粉、銅粉、亜鉛粉、黒鉛あるいは硫化スズ、二硫化タングステンなどの、有機化合物による処理物を挙げることができる。
【0045】
膨潤性粘土鉱物は層状構造を有し、有機化合物による処理によって、層間化合物を形成すると共に、層間が拡大し、層剥離が生じやすくなり、当該摩擦材形成用材料中への分散性が向上する。
【0046】
(摩擦材の作製)
本発明の摩擦材を作製するには、当該摩擦材形成用材料を金型などに充填し、通常常温にて5〜30MPa程度の圧力で予備成形し、次いで温度150〜300℃、圧力10〜100MPa程度の条件で2〜20分間程度圧縮成形したのち、必要に応じ200〜300℃程度の温度で1〜10時間程度、アフターキュア処理を行うことで、所望の摩擦材を作製することができる。
【実施例】
【0047】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
なお、各例で得られた摩擦材の性能は以下の方法に従って評価した。
【0048】
(1)フェード試験
各摩擦材からテストピースを切り出し、テストピース摩擦試験機を用いて、JASO−C406−82に準拠してフェード試験を行い、第一フェードの最小摩擦係数を測定した。
【0049】
製造例1 中空状ポリシロキサン粒子前駆体の作製
フェニルトリエトキシシラン50g(0.2mol)を300mLビーカーに取り、酢酸2.5g(0.04mol)、蒸留水7g(0.4mol)を加えて、室温で5時間攪拌し、さらに、蒸留水500mLを加えて、中空状ポリシロキサン粒子前駆体を作製し、洗浄を行った。
【0050】
実施例1
(1)摩擦材用結合材Aの作製
1000mLのセパラブルフラスコに、p−アミノフェノール200g(1.83mol)、パラホルムアルデヒド82.6g(2.75mol)、テトラヒドロフラン(THF)600mLを取り、65℃で6時間加熱還流した。次いで、これに製造例1で得た中空状ポリシロキサン粒子前駆体27gを加えて、室温で15時間攪拌し、さらに100℃で10時間真空乾燥することで前駆体の重合が進行し、中空状ポリシロキサン粒子となる。乾燥後に粉砕することにより、摩擦材用結合材Aを得た。この結合材A中の中空状ポリシロキサン粒子の含有量は10質量%であった。
【0051】
この摩擦材用結合材Aについて、走査型透過電子顕微鏡(STEM)[日立ハイテク社製、機種名「HD−2000」]で観察したところ、中空状ポリシロキサン粒子が分散していることが確認された。図1に、摩擦材用結合材AのSTEM写真図を示す。
【0052】
(2)摩擦材の作製
上記(1)で得られた摩擦材用結合材Aと、表1に示す各成分とを、表1に示す配合割合で、ミキサーにより混合することにより、摩擦材形成用材料を調製した。
【0053】
この摩擦材形成用材料を、予備成形型に投入し、常温、30MPaで圧縮して予備成形を行った。ついで、予備成形体と予め接着剤を塗布したプレッシャプレートを熱成形型にセットし、200℃、50MPa、600秒で加熱圧縮成形を行った。熱成形後300℃、3時間加熱を行い摩擦材試料とした。
【0054】
この摩擦材試料について、表面焼きを行わずにフェード試験を行い、最小摩擦係数を測定した。結果を表2に示す。
【0055】
実施例2
(1)摩擦材用結合材Bの作製
市販のストレートフェノール樹脂[住友ベークライト社製、商品名「スミライトレジン」、ノボラック型]180g、エタノール300mLを500mLビーカーに取り、50℃で攪拌し、そこへ製造例1で得た中空状ポリシロキサン粒子前駆体20gを加えて、室温で15時間攪拌したのち、さらに100℃で10時間真空乾燥後、粉砕処理して、摩擦材用結合材Bを得た。この結合材B中の中空状ポリシロキサン粒子の含有量は10質量%であった。
【0056】
(2)摩擦材の作製
上記(1)で得られた摩擦材用結合材Bを使用して、実施例1(2)と同様にして摩擦材を作製し、表面焼きを行わずにフェード試験を行った。結果を表2に示す。
【0057】
比較例1
実施例2(1)で用いた市販のストレートフェノール樹脂を使用し、実施例1(2)と同様にして摩擦材を作製して、表面焼きを行わずにフェード試験を行った。結果を表2に示す。
【0058】
比較例2
実施例2(1)で用いた市販のストレートフェノール樹脂を使用し、実施例1(2)と同様にして摩擦材を作製して、表面焼き後にフェード試験を行った。結果を表2に示す。
【0059】
比較例3
1000mLのセパラブルフラスコに、p−アミノフェノール200g(1.83mol)、パラホルムアルデヒド82.6g(2.75mol)、THF600mLを取り、65℃で6時間加熱還流を行い、さらに100℃で10時間真空乾燥後、粉砕処理して、摩擦材用結合材Cを得た。
【0060】
この摩擦材用結合材Cを用い、実施例1(2)と同様にして摩擦材を作製し、表面焼きを行わずにフェード試験を行った。結果を表2に示す。
【0061】
比較例4
表面焼き後にフェード試験を行った以外は、比較例3と同様な操作を行った。結果を表2に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
【表2】

表2から分かるように、実施例の最小摩擦係数は、比較例よりも向上している。以上のことから、本発明の効果が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の摩擦材用結合材は、使用初期のフェード現象の発生が抑制され、表面焼き工程を必要としない摩擦材を与えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】実施例1で得られた摩擦材用結合材の走査型透過電子顕微鏡写真図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空状ポリシロキサン粒子を含む熱硬化型樹脂からなる摩擦材用結合材。
【請求項2】
中空状ポリシロキサン粒子の含有量が、結合材全量に基づき1〜30質量%である、請求項1に記載の摩擦材用結合材。
【請求項3】
中空状ポリシロキサン粒子の平均粒径が10nm〜1μmである請求項1または2に記載の摩擦材用結合材。
【請求項4】
熱硬化型樹脂が、フェノールノボラック型樹脂および/またはポリベンゾオキサジン樹脂である請求項1〜3のいずれか1項に記載の摩擦材用結合材。
【請求項5】
熱硬化型樹脂製造時において、反応系中に中空状ポリシロキサン粒子を分散させて、中空状ポリシロキサン粒子含有熱硬化型樹脂を得ることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の摩擦材用結合材の製造方法。
【請求項6】
熱硬化型樹脂を含む有機溶媒溶液に、中空状ポリシロキサン粒子を加えて分散させたのち、有機溶媒を留去させることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の摩擦材用結合材の製造方法。
【請求項7】
有機溶媒がアルコール系溶媒である、請求項6に記載の摩擦材用結合材の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の摩擦材用結合材を用いたことを特徴とする摩擦材。

【図1】
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【公開番号】特開2010−150376(P2010−150376A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−329689(P2008−329689)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)