説明

摩擦材

【課題】モーニングエフェクトなど摩擦面が冷えた状態から発生する鳴き現象を抑制した摩擦材を提供すること。
【解決手段】繊維基材、結合材及び摩擦調整材等を含む摩擦材であって、金属Ga及びGa合金の少なくとも何れかを摩擦材全体に対して0.5〜10体積%含む摩擦材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦材に関するものであり、特に乗用車、荷物車両、産業機械などに用いられる摩擦材に関するものであり、より具体的には前記の用途に使用されるブレーキパッド、ブレーキライニング等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般にブレーキ装置において発生する、鳴き、異音といったNV現象を抑制するために、キャリパーの固有値変更、ロータ形状の変更といったメカ対策やブレーキパッド形状の改善や摩擦材の配合内容、製造条件の検討による改良が行われている。
ところで、朝方等の低温時や高湿時に車両の運転を開始した初期のブレーキ操作時に効きが異常に上昇するモーニングエフェクトの発生が以前より問題になっている。摩擦界面に水分が存在することによる吸着現象が原因と考えられるが、根本的なメカニズムは分かっていないのが現状である。
従来、本問題を解決するため、例えば、特許文献1〜3のように撥水材或いは撥水材を被覆した材料を配合することで摩擦界面に存在する水分の量を抑制する方法や、特許文献4のように摩擦面の凹部へ水分を貯める方法等がある。
なお、特許文献5では、摩擦ライニングの腐食防止を目的として、アルミニウム−亜鉛合金を含むことが開示されている。この合金の陽極電極中に金属Gaが0.02〜0.25%含まれているが、それがモーニングエフェクトに有効である旨の記載はない。
以上のような従来技術では、全ての状況においてモーニングエフェクトに対して必ずしも十分に対処できているとは言えず、その改善が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−40380号公報
【特許文献2】特開2000−53945号公報
【特許文献3】特開2000−204351号公報
【特許文献4】特開平10−8035号公報
【特許文献5】特表2002−519443号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、モーニングエフェクトなど摩擦面が冷えた状態から発生する鳴き現象を抑制した摩擦材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の通りである。
1)繊維基材、結合材及び摩擦調整材等を含む摩擦材であって、金属Ga及びGa合金の少なくとも何れかを摩擦材全体に対して5〜10体積%含むことを特徴とする摩擦材。
2)前記Ga合金として、In、Sn、及びZnのうち少なくとも1種以上を含む1)に記載の摩擦材。
3)金属Ga及びGa合金の平均粒径が20〜2000μmである1)又は2)に記載の摩擦材。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、朝方等の低温時や高湿時に車両の運転を開始した場合、初期のブレーキ操作時に効きが異常に上昇して鳴き現象が発生するモーニングエフェクトを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】実施例及び比較例の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、金属GaまたはGa合金、あるいはその両者を用いる。
Ga合金としては、In、Sn、Znの合金が好ましい。
Ga合金は、組成が同じものを単独でも組成が異なるものを2種以上組み合わせて用いることができる。また、更に金属Gaと併用してもよいことは上記のとおりである。
本発明で用いる金属GaまたはGa合金は摩擦材全体に対して0.5〜10体積%、好ましくは1〜5体積%含み、本発明の効果を有効に発揮することができる。0.5体積%未満の場合、潤滑の効果が少なくモーニングエフェクトによる鳴きを抑制することが出来ない。10体積%を超える場合、Gaの腐食性によって製造時の熱型が腐食し易くなり型交換のサイクルが早くなる。
本発明で用いる金属GaまたはGa合金の平均粒径は、20〜2000μmが好ましく、50〜200μmが更に好ましく、本発明の効果の発揮に寄与することができる。20μm未満の場合は、常温付近に融点がある関係上、微粒化するために凍結粉砕だけでなく、より複雑なプロセスが必要であり、コストアップともなる。2000μmを超えると分散性が悪くなり、摩擦面の局所的な潤滑となってしまうため、鳴き抑制の効果が低くなる。
この平均粒径は、レーザー回折式粒度分布計により測定される値である。
【0009】
本発明に用いる摩擦調整材として、例えば、アルミナ、シリカ、マグネシア、ジルコニア、酸化クロム、二酸化モリブデン等の金属酸化物、合成ゴム、カシュー樹脂等の有機物、銅、アルミニウム、亜鉛等の金属、バーミキュライト、マイカ等の鉱物、炭酸カルシウム等の塩、黒鉛を挙げることができ、単独または2種以上組み合わせて用いることができる。これらは、粉体等で用いられ、粒径等は種々選定される。摩擦調整材は、摩擦材全体に対して、通常、45〜85体積%、好ましくは55〜70体積%用いられる。
【0010】
本発明に用いられる繊維基材としては、有機系でも無機系でもよく、例えば、有機系としては、芳香族ポリアミド(アラミド)繊維、ポリアクリル系繊維等が挙げられ、無機系としては、銅、スチール等の金属繊維、チタン酸カリウム繊維、Al−SiO系セラミック繊維、ガラス繊維、カーボン繊維、ロックウール等が挙げられ、各々単独、または2種以上組み合わせて用いられる。繊維基材は、摩擦材全体に対して通常、5〜35体積%、好ましくは15〜30体積%用いられる。
【0011】
本発明に用いられる結合材としては、フェノール樹脂(ストレートフェノール樹脂、ゴム等による各種変性フェノール樹脂を含む)、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂等の熱硬化性樹脂を挙げることができる。結合材は、摩擦材全体に対して、通常、5〜25体積%、好ましくは10〜20体積%用いられる。
【0012】
本発明の摩擦材を製造するには、上記各成分を配合し、その配合物を通常の製法に従って予備成形し、熱成形、加熱、研磨等の処理を施すことにより製造することができる。
上記摩擦材を備えたブレーキパッドは、板金プレスにより所定の形状に成形され、脱脂処理及びプライマー処理が施され、そして接着剤が塗布されたプレッシャプレートと、摩擦材の予備成形体とを、熱成形工程において所定の温度及び圧力で熱成形して両部材を一体に固着し、アフタキュアを行い、最終的に仕上げ処理を施す工程により製造することができる。
【実施例】
【0013】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0014】
実施例1〜3及び比較例1〜2
表1に示す摩擦材の原材料(体積%)をミキサーにて均一に攪拌、混合し、摩擦材混合品を得た。続いて該摩擦材混合品を室温、圧力20MPaで予備成形した後、温度150℃、圧力40MPaで加熱加圧成形し、次いで温度250℃、2時間熱処理し、摩擦材を得た。
【0015】
【表1】

【0016】
なお、上表中、平均粒径については、Gaは120μm、Ga0.55−Zn0.45及びGa0.62−In0.25−Sn0.13は共に100μmとなるように各々の試薬(平均粒径:2〜3mm)を凍結粉砕機により粉砕し、調整した。
得られた摩擦材の性能を以下の実車試験条件及び試験方法により評価した。
(実車試験条件)
車種:3000cc級後輪駆動自動車
車両重量:2110kg
対象ブレーキ:フロント
パッド:上記作製材質
ディスクロータ:鋳鉄FC200相当
ロータサイズ:φ296×28V
ホイルシリンダ径:44.4mmの2pot
タイヤ有効半径:343mm
(試験方法)
JASO C 406−2000の摺り合わせに準じる当たり付けを実施してから、一晩放置して、モーニングエフェクトによる鳴き試験を行った。なお鳴きの評価は、上記の自動車をそれぞれゆっくり発進させ初速5km/hから0.98m/sの減速度でブレーキを踏んだとき発生する鳴きの音圧を騒音計で測定した。この手順を10回繰り返した。なお騒音レベルはピーク値、A特性にて読んだ。その結果、実施例1〜3は鳴きのクリープグローン音圧が小さく、ブレーキ回数が増すと発生頻度が小さくなるのに対して、比較例は同音圧が最大90dBと高い値であり、10回制動しても鳴き発生が止まらなかった。以上の詳細は、図1に示す通りである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維基材、結合材及び摩擦調整材等を含む摩擦材であって、金属Ga及びGa合金の少なくとも何れかを摩擦材全体に対して0.5〜10体積%含むことを特徴とする摩擦材。
【請求項2】
前記Ga合金として、In、Sn、及びZnのうち少なくとも1種以上を含む請求項1に記載の摩擦材。
【請求項3】
金属Ga及びGa合金の平均粒径が20〜2000μmである請求項1又は2に記載の摩擦材。

【図1】
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【公開番号】特開2010−163515(P2010−163515A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−5707(P2009−5707)
【出願日】平成21年1月14日(2009.1.14)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)