説明

摩擦調整材及び摩擦材

【課題】耐摩耗性に優れたブレーキ性能を有し、かつノイズの少ない摩擦材を提供できる摩擦調整材及びそれを用いた摩擦材を提供すること。
【解決手段】少なくとも生体溶解性無機繊維、フェノール系化合物、触媒及び硬化剤からなる組成物を硬化し、次いで粉砕してなる平均粒径10〜1000μmの摩擦調整材。上記摩擦調整材を含む摩擦材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦調整材及びそれを含む摩擦材に関するものであり、特に自動車、荷物車両、産業機械などに用いられるものに関し、より具体的には前記の用途に使用されるブレーキパッド、ブレーキライニング等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
摩擦材の摩擦調整材としては、従来から有機ダストが使用されており、カシューダストは最も多く使用されている原材料の一つである。
特許文献1には、芳香族炭化水素樹脂変性ノボラック型エポキシ樹脂(I)に、(a)多官能性シアン酸エステル、該シアン酸エステルプレポリマー或いは該シアン酸エステルとアミンとのプレポリマー、又は前記(a)と(b)多官能性マレイミド、該マレイミドプレポリマー或いは該マレイミドとアミンとのプレポリマーとを主成分とするシアン酸エステル系の硬化性樹脂組成物(II)を配合して、最終硬化温度200℃以上にて硬化させ、粉砕してなる耐熱性レジンダストを開示し、常温〜400℃以上の温度範囲で略同等の摩擦係数を示す耐熱性を示すとしている。
特許文献1の発明では、有機ダスト合成時にポリイミドを添加することで高耐熱性を図っているが、複雑な合成工程が必要である。
また、カシューダストは、機械的、熱的に弱く、280℃前後で液状となり、500℃程度で分解してしまうため、摩擦特性の安定性に問題がある。
このため、高強度、高温領域での摩擦特性を有し、更にブレーキ性能に優れた、ノイズの少ない摩擦材を提供できる摩擦調整材が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−157721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、耐摩耗性に優れたブレーキ性能を有し、かつノイズの少ない摩擦材を提供できる摩擦調整材及びそれを用いた摩擦材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、少なくとも生体溶解性無機繊維、フェノール系化合物、触媒及び硬化剤からなる組成物を硬化し、次いで粉砕してなる平均粒径10〜1000μmの摩擦調整材、及び前記摩擦調整材を含む摩擦材である。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、耐摩耗性に優れたブレーキ性能を有し、かつノイズの少ない摩擦材を提供できる摩擦調整材及びそれを用いた摩擦材を提供することができる。また、本発明は生体溶解性無機繊維を用いるため環境保全に寄与するものである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の摩擦調整材は、少なくとも生体溶解性無機繊維、フェノール系化合物、触媒及び硬化剤からなる組成物を硬化し、次いで粉砕してなる平均粒径が100〜1000μmである。
本発明に用いる生体溶解性無機繊維について説明する。
本発明において、生体溶解性無機繊維とは、生体内で溶解可能と考えられる繊維である(ただし、このことについては実証の有無は問わないものとする)が、IARC(国際がん研究機関)において、人に対する発がん性について分類しえないグループ3のもの或いはEU指令971691ECで発がん性分類の適用から除外されているものを言う。
生体溶解性無機繊維は、直径0.1〜10μm、長さ1〜1000μmであることが好ましく、直径0.2〜6μm、長さ10〜850μmであることが更に好ましい。この範囲で、本発明の効果を有効に発揮することができる。
生体溶解性無機繊維としては、上記定義内であれば特に制限されない。具体的には、ロックウール、ガラス繊維、セラミック繊維等が挙げられる。
また、本発明の生体溶解性無機繊維は、その表面にシランカップリング剤、ゴム等により表面処理が施されていてもよい。
生体溶解性無機繊維含有量は、摩擦調整材全体に対して1〜80質量%が好ましく、30〜75質量%が更に好ましい。
【0008】
次に本発明に用いられるフェノール系化合物について説明する。
本発明において、フェノール系化合物とは、フェノール、またはフェノール性水酸基を有する化合物であって、触媒及び硬化剤の存在下に硬化剤との結合反応が可能な化合物を言う。
本発明に用いられるフェノール系化合物としては、フェノール、炭素数1〜25、好ましくは炭素数13〜17の直鎖、分岐または環状の、アルキル基またはアルケニル基あるいはアルキニル基、ハロゲン原子、ニトロ基、ケトン基、アルコキシ基、アシルオキシ基、水酸基、カルボキシル基、フェニル基等から選択される置換基が、フェノールに1〜4個、好ましくは1〜2個置換したもの、同置換基がナフトールに1〜6個、好ましくは1〜3個置換したもの等が挙げられる。例えば、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール等のクレゾール、2,3−キシレノール、2,4−キシレノール、2,5−キシレノール、2,6−キシレノール、3,4−キシレノール、3,5−キシレノール等のキシレノール、o−エチルフェノール、m−エチルフェノール、p−エチルフェノール等のエチルフェノール、イソプロピルフェノール、ブチルフェノール、p−tert−ブチルフェノール等のブチルフェノール、p−tert−アミルフェノール、p−オクチルフェノール、p−ノニルフェノール、p−クミルフェノール等のアルキルフェノール、フルオロフェノール、クロロフェノール、ブロモフェノール、ヨードフェノール等のハロゲン化フェノール、p−フェニルフェノール、アミノフェノール、ニトロフェノール、ジニトロフェノール、トリニトロフェノール等の1価フェノール置換体、及び、1−ナフトール、2−ナフトール等の1価のフェノール類、レゾルシン、アルキルレゾルシン、ピロガロール、カテコール、アルキルカテコール、ハイドロキノン、アルキルハイドロキノン、フロログルシン、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ジヒドロキシナフタリン等の多価フェノール類、若しくはこれら化合物の環上の水素原子が上記置換基で置換された化合物が挙げられ、中でもカシューナッツの外殻の抽出物が好ましく、カルダノール、カルドール、2−メチルカルドール等の少なくとも何れか1種を含むものが好ましい。本発明では、フェノール系化合物として、これらを単独または2種類以上組み合わせて使用することができる。
フェノール系化合物含有量は、摩擦調整材全体に対して20〜99質量%が好ましく、25〜70質量%が更に好ましい。
【0009】
次に本発明に用いられる硬化剤について説明する。
硬化剤としては、アルデヒド化合物、アミン化合物(例えば、ヘキサメチレンテトラミン等)、エポキシ化合物(例えば、エピクロルヒドリン等)等が挙げられるが、中でもアルデヒド化合物が好ましい。
アルデヒド化合物としては、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、トリオキサン、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ポリオキシメチレン、クロラール、グリオキザール、n−ブチルアルデヒド、カプロアルデヒド、アリルアルデヒド、クロトンアルデヒド、アクロレイン、テトラオキシメチレン、フルフラール、ベンズアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、o−トルアルデヒド、サリチルアルデヒド等が挙げられるが、中でもフルフラール、パラホルムアルデヒド等が好ましい。
【0010】
次に本発明に用いられる触媒について説明する。
触媒は、フェノール系化合物と硬化剤との反応促進機能を有するものであれば、各々の反応物質の種類に応じて種々選択される。フェノール系化合物とアルデヒド化合物との反応の触媒としては、酸触媒が好ましい。酸触媒としては、塩酸、硫酸、燐酸などの鉱物酸、それらのアルキルエステル、シュウ酸などの有機酸、パラトルエンスルホン酸、パラフェノールスルホン酸などを使用することができるが、中でも鉱物酸のアルキルエステルが好ましく、例えば、硫酸アルキルエステル、具体的には、ジメチル硫酸、ジエチル硫酸等が挙げられる。
【0011】
本発明の摩擦調整材は、基本的には生体溶解性無機繊維、フェノール系化合物、硬化剤などを混合したものに、触媒を添加、混合し、液状の組成物をゲル化し、このゲル化したものを加熱処理により硬化物を得た後、放冷、粉砕し、その後、分級して所望のサイズの摩擦調整材を得ることができる。ここで、ゲル化とは、液状の組成物中の高分子が網目構造に変化し、流動性を失い固形の状態となることを意味する。
ゲル化は、常温で、1〜48時間行うことが好ましい。
また、加熱処理は種々の加熱パターンを用いることができる。例えば、100〜250℃で、1〜24時間行うことが挙げられる。
摩擦調整材の平均粒径は、10〜1000μm、好ましくは100〜600μmに調整される。この平均粒径は、レーザー回折式粒度分布計により測定される値である。上記範囲とすることにより本発明の効果が有効に発揮される。
このようにして調製された摩擦調整材は、上述のような高分子網目構造を有するものであるが、以下の特性を有することが好ましい。
具体的にアセトン抽出量について説明する。摩擦調整材3gをアセトン100mlに90〜95℃で、4時間、溶解処理したときの可溶分を減圧乾固したときの抽出量が、処理前の摩擦調整材に対して、1〜50質量%であり、2〜40質量%が好ましい範囲であり、本発明の効果を有効に発揮することができる。
【0012】
本発明の摩擦材は、少なくとも本発明の摩擦調整材を含む。従って、摩擦材は本発明の摩擦調整材のみから構成されたものでもよいが、通常、本発明の摩擦調整材とともにこの摩擦調整材に使用の成分とは独立にそれら成分またはそれら成分以外の成分を用いることができる。
本発明の摩擦調整材は、摩擦材全体に対し1〜50体積%配合されていることが好ましく、5〜30体積%配合されていることが更に好ましい。この範囲で、本発明の効果を有効に発揮することができる。
【0013】
本発明の摩擦調整材成分とは独立の摩擦調整材としては、例えば、アルミナ、シリカ、マグネシア、ジルコニア、酸化クロム、二酸化モリブデン等の金属酸化物、合成ゴム、カシュー樹脂等の有機物、銅、アルミニウム、亜鉛等の金属、バーミキュライト、マイカ等の鉱物、炭酸カルシウム等の塩、黒鉛を挙げることができ、単独または2種以上組み合わせて用いることができる。これらは、粉体等で用いられ、粒径等は種々選定される。
【0014】
本発明の摩擦調整材成分とは独立の繊維基材としては、有機系でも無機系でもよく、例えば、有機系としては、芳香族ポリアミド(アラミド)繊維、ポリアクリル系繊維等が挙げられ、無機系としては、生体溶解性無機繊維、銅、スチール等の金属繊維、チタン酸カリウム繊維、Al−SiO系セラミック繊維、ガラス繊維、カーボン繊維、ロックウール等が挙げられ、各々単独、または2種以上組み合わせて用いられる。繊維基材は、摩擦材全体に対して、通常、2〜40体積%、好ましくは5〜20体積%用いられる。
【0015】
本発明の摩擦調整材成分とは独立の結合材としては、フェノール樹脂(ストレートフェノール樹脂、ゴム等による各種変性フェノール樹脂を含む)、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂等の熱硬化性樹脂を挙げることができる。結合材は、摩擦材全体に対して、通常、10〜30体積%、好ましくは14〜20体積%用いられる。なお、上記熱硬化性樹脂は、本発明の摩擦調整材に併用し得る。
【0016】
本発明の摩擦材を製造するには、上記各成分を配合し、その配合物を通常の製法に従って予備成形し、熱成形、加熱、研摩等の処理を施すことにより製造することができる。
上記摩擦材を備えたブレーキパッドは、板金プレスにより所定の形状に成形され、脱脂処理及びプライマー処理が施され、そして接着剤が塗布されたプレッシャプレートと、摩擦材の予備成形体とを、熱成形工程において所定の温度及び圧力で熱成形して両部材を一体に固着し、アフタキュアを行い、最終的に仕上げ処理を施す工程により製造することができる。
【実施例】
【0017】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0018】
実施例1〜3及び比較例1〜3
(摩擦調整材の調製)
表1に示す原材料組成(質量%)の摩擦調整材の配合材料を用いて硬化物を得、これを粉砕後、分級して、表1に示す平均粒径の摩擦調整材1(実施例)、摩擦調整材2〜3(比較例)を得た。摩擦調整材2は、摩擦調整材1において、生体溶解性無機繊維に代えてチタン酸カリウム繊維を用いるものであり、摩擦調整材3は、摩擦調整材1において生体溶解性無機繊維を除いたものである。
【0019】
【表1】

【0020】
表1の2成分の詳細は以下の通りである。
生体溶解性無機繊維:ラピナス社製RB260−Roxu1000、直径 9μm、長さ 300±50μm
チタン酸カリウム繊維:大塚化学社製ディスモD、直径 0.4μm、長さ 15±5μm
【0021】
(摩擦材の調製)
表2に示す組成(体積%)の配合材料の混合物を常温、20MPaで10秒間加圧し、予備成形物を作製した。この予備成形物を熱成形型に投入し、予め接着剤を塗布したプレッシャプレートを重ね150℃、40MPaで5分間加熱圧縮成形を行った。この加熱圧縮成形体に220℃、3時間の熱処理を実施後、所定の厚みに研摩し摩擦材を得た。
得られた摩擦材の性能を以下により評価し、結果を表2に示した。
(第1フェード平均摩擦係数並びに摩擦材摩耗量)
摩擦材から試験片を切り出し試験片摩擦試験機を使用して、JASO−C406に準拠して実施した。
(ノイズ発生状況)
上記と同様な試験機を用いてノイズ性能試験を行いノイズ(音圧 70dB以上)の発生回数を比較した。
○:発生なし、×:発生あり
【0022】
【表2】

【0023】
表2から以下のことが分かる。
(1)摩擦性能試験において、フェード時摩擦係数の向上と摩擦材摩耗量の減少結果より、従来のカシューダストに代えて本発明の摩擦調整材を使用することにより摩擦係数の向上及び摩耗量の低減が可能となった。
(2)ノイズ性能試験結果より、本発明の摩擦調整材の添加によりノイズ性の改善効果が認められた。
(3)チタン酸カリウム繊維を複合化した摩擦調整材2を用いた摩擦材では、粉砕不良、チタン酸カリウム繊維の脱落のため目的組成の摩擦調整材が得られず、粒度調整もできないため評価不可であった。
以上より、実施例は比較例に対し顕著な改良効果が認められる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも生体溶解性無機繊維、フェノール系化合物、触媒及び硬化剤からなる組成物を硬化し、次いで粉砕してなる平均粒径10〜1000μmの摩擦調整材。
【請求項2】
前記生体溶解性無機繊維は、直径0.1〜10μm、長さ1〜1000μmである請求項1に記載の摩擦調整材。
【請求項3】
前記フェノール系化合物はカシューナッツの外殻の抽出物、前記触媒は酸触媒、及び前記硬化剤はアルデヒド化合物である請求項1又は2に記載の摩擦調整材。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の摩擦調整材を含む摩擦材。
【請求項5】
前記摩擦調整材は、摩擦材全体に対し1〜50体積%配合されている請求項4に記載の摩擦材。

【公開番号】特開2010−242002(P2010−242002A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−94242(P2009−94242)
【出願日】平成21年4月8日(2009.4.8)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)