説明

播種構造及びその構造に使用する植栽パック

【課題】少ない数量の種子で所望の樹林を創出できる播種構造と、その播種構造に使用する植栽パックを提供する。
【解決手段】本発明に係る播種構造では、地表面(G)に敷設した不透水性シート(1)に通芽用開口(3)を形成し、種子が埋め込み固定された固形播種床材(2)を、該通芽用開口に対する相対位置関係が固定されるよう、該不透水性シートの接地面(B)側に配置する。本発明に係る植栽パックは、上記播種構造の構築に好適に使用でき、該不透水性シートの該接地面側に該固形播種床材の収容部(5)を設け、該収容部に、該種子が埋め込み固定された該固形播種床材を収容したものとなっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、のり面に樹林を創出するための播種構造と、その播種構造に使用する植栽パックに関するものである。
【背景技術】
【0002】
のり面の強度向上や景観改善等のために、のり面に樹木を導入して樹林を創出する試みがなされている。そして、そのための工法として、主に、直接樹木を植え付けるもの(植樹工法)と植生基材に種子を混合し吹付播種するもの(木本種子吹付工法)が採用されている。
【0003】
植樹工法及び木本種子吹付工法については、どちらも、様々な方式が提案されており、例えば、樹木工法としては、本出願人の一人が提案する特開2006−075010号公報に開示された苗木植栽工法が、一方、木本種子吹付工法としては、特開2003−047330号公報に開示された植物導入方法がある。
【特許文献1】特開2006−075010号公報
【特許文献2】特開2003−047330号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、植樹工法は、植栽基盤整備や施工労務に大きなコストを要するという問題があった。これに対し、木本種子吹付工法は、その施工が容易であるため、施工労務のコストを低く抑えることができるという利点がある。
【0005】
ところが、木本種子吹付工法には、埋設枯死や露地的な発芽環境により発芽確率が低下するという問題があった。そのため、所望の樹林を創出するためには、相当量の種子を播く必要性が生じ、十分な数量の種子を調達することが困難となり、また、その調達コストが大きくなるという問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、少ない数量の種子で所望の樹林を創出できる播種構造と、その播種構造に使用する植栽パックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る播種構造は、地表面に敷設した不透水性シートに通芽用開口を形成し、種子が埋め込み固定された固形播種床材を、該通芽用開口に対する相対位置関係が固定されるよう、該不透水性シートの接地面側に配置することを特徴とする。
なお、本発明において、固形播種床材とは、種子を埋め込み固定でき、更に、通芽・通根が可能で変形しない素材をいうものとし、例えば、ロックウールやネットに充填した土砂を本発明の固形播種床材としてもよい。
【0008】
本発明に係る植栽パックは、不透水性シートの接地面側に固形播種床材の収容部を設け、該不透水性シートに形成した通芽用開口と該固形播種床材に埋め込み固定された種子との相対位置関係が固定されるよう、該固形播種床材を該収容部に収容したことを特徴とする。
なお、本発明において、収容部は、発芽・成長する種子を内包するものであることから、その種子の成長を妨げない素材で形成することが前提となっている。そのような素材としては、例えば、麻布などの生分解性シートが好適である。
【0009】
該固形播種床材が、該収容部の伸縮力により固定されていてもよく、或いは、該収容部の内面に貼付されていてもよい。
【0010】
該固形播種床材が、客土とともに該収容部に収容されていてもよい。
【0011】
該不透水性シートは、本体部と、該本体部に形成された該固形播種床材の挿入用開口を閉じる蓋部とで構成され、該通芽用開口は該蓋部に形成されていてもよい。
【0012】
本発明において、該不透水性シートは複数の片で構成され、該片同士の一部を重ね合わせて形成した導水路と集水口とを備えるもので、該導水路の終端において該集水口が該固形播種床材に対し開口していているものであってもよい。
なお、固形播種床材に対し開口する状態とは、飛来してきた種子が不透水性シートの下側の固形播種床材に到達する余地を与えずに、雨水のみを固形播種床材に供給できる状態をいう。例えば、2つの片の縁部同士を重ね合わせ、重複する部分を交差する帯状の未接着部分を残しながら、これらを接着することにより得られた構造が挙げられる。このような構造においては、飛来してきた種子が未接着部分を通って不透水性シートの下側に自然に進入する確率は極めて低いが、雨水がこの未接着部分を通過することに問題はないため、飛来してきた種子が不透水性シートの下側の固形播種床材に到達する余地を与えずに、雨水のみを固形播種床材に供給できることになる。ただし、集水口の構造に制限はなく、その他の構造としてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る播種構造によれば、固形播種床材を使用することにより、不透水性シートに対する種子の位置を固定することができ、また、その位置を、不透水性シートに形成した通芽用開口に対し適切なものにすることにより、種子の発芽確率を高めることができる。更に、通芽用開口の周囲は、不透水性シートの機能により、飛来してきた種子の生育できない環境となっているため、固形播種床材に固定した種子の育成が、飛来してきた種子の生育により阻害されることもなく、発芽した種子を確実に成長させることができる。従って、少ない数量の種子で所望の樹林を創出できる。
【0014】
なお、固形播種床材に固定した種子の通芽用開口に対する位置関係を適切なものとするには、まず、発芽した種子の生育を阻害しないよう、芽の伸びる方向に通芽用開口が配置されている必要がある。このような位置関係は、通常、通芽用開口の直下に種子を固定することにより実現されるが、種子から芽が伸びる方向は品種により異なる場合もあるため、種子品種の持つ性質に応じて決めることが好ましい。また、種子が、通芽用開口から発芽に適した距離に配置されている必要がある。発芽に適した地表面からの深さ位置は、品種により異なるため、この距離も種子品種の持つ性質に応じて決めることが好ましい。
【0015】
また、本発明に係る播種構造は、本発明に係る植栽パックにより、容易に構築することができる。すなわち、本発明に係る植栽パックは、種子が埋め込み固定された固形播種床材が、種子と通芽用開口との適切な相対位置関係が固定されるよう収容部に収容されているため、地面に載置するのみの作業で、本発明に係る播種構造を、極めて容易に構築することができる。
【0016】
本発明に係る植栽パックにおいて、通芽用開口と種子との相対位置関係の固定は、固形播種床材を不透水性シートに対し固定することで実現されるが、その固定方法に制限はなく、植栽パックの製造条件や設置条件等を考慮し最適な方法を選択すればよい。例えば、植栽パックの接地面側にシート材を接着して収容部を形成する場合に、収容部と大きさの等しい固形播種床材を採用したいのであれば、収容状態において固形播種床材を収容部の内面に圧着させることにより、収容部の伸縮力を利用して固定することができる。また、コスト的な理由等から収容部よりも小さい固形播種床材を採用したいのであれば、不透水性シートの接地面或は収容部を形成するシート材の内面に貼付することにより固定することができる。更に、収容部内面の固形播種床材周囲に、仕切り壁のような移動規制手段を設けることにより固定することもできる。ただし、この場合、移動規制手段は、生分解性素材のメッシュなど、種子から伸びる根の生育を阻害しないものを採用することが好ましい。
【0017】
なお、収容部よりも小さい固形播種床材を採用する場合、固形播種床材は、客土とともに収容部に収容されていてもよい。すなわち、収容部内の、固形播種床材が配置されない部分には客土を充填することで、収容部内全体において、種子から伸びる根を生育させることができる。
【0018】
また、不透水性シートの接地面側に先に形成した収容部に固形播種床材を収容する場合は、不透水性シートを、本体部と、本体部に形成された固形播種床材の挿入用開口を閉じる蓋部とで構成し、通芽用開口を蓋部に形成してもよい。この場合、通芽用開口を固形播種床材の収容部への挿入に使用する必要がなくなるので、その大きさを通芽に必要な最小のものとして、通芽用開口に種子が飛来して根付く可能性を低く抑えることができる。
【0019】
更に、透水性シートを複数の片で構成し、片同士の一部を重ね合わせて形成した導水路と集水口とを備えたものとし、集水口を、導水路の終端において固形播種床材に対し開口するものとすれば、飛来してきた種子の根付く可能性を低く抑えながら固形播種床材における水分条件が大きく変わることを防止し、発芽後の枯損率を低く抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
図1及び図2に、本発明に係る植栽パックとその植栽パックを使用して構築した播種構造の実施例を示す。図1は、同植栽パックを使用して構築した播種構造の縦断面図、図2は同植栽パックの正面図である。
【0021】
図1に示す播種構造は、地表面Gに敷設した不透水性シート1と固形播種床材2とで構成されている。
不透水性シート1には、公知のマルチングシートが用いられ、表面Fと接地面Bを貫通する通芽用開口3が形成されている。一方、固形播種床材2には、公知のロックウールが用いられ、樹木の種子4が埋め込み固定されている。そして、固形播種床材2は、通芽用開口3に対する相対位置関係が固定されるよう、不透水性シート1の接地面B側に配置されている。
【0022】
なお、不透水性シート1は、その上に飛来してきた種子の生育を阻むことができるものであれば、その材質に制限はなく、同様の機能を備えるその他のシート類であってもよい。固形播種床材2についても、その材質に制限はなく、種子を埋め込み固定でき、更に、通芽・通根が可能で変形しない素材であれば、その他のもの、例えば、ネットに充填した土砂であってもよい。また、通芽用開口3の形状は、図2に示すように、幅の極めて狭い長方形とされているが、特に制限はなく、円形や線状の切り込み等にしてもよい。
【0023】
固形播種床材2の通芽用開口3に対する相対位置関係は、種子4から芽が伸びる方向に通芽用開口3が配置され、かつ、種子4と通芽用開口3との距離が種子4の発芽に適した深さとなるよう、固定されている。なお、発芽に適した深さは、例えば、種子4が好光性の種子であれば0〜2cm程度、嫌光性の種子であれば2〜8cm程度である。
【0024】
この播種構造によれば、固形播種床材2を使用することにより、不透水性シート1に対する種子4の位置を固定することができ、また、その位置を、不透水性シート1に形成した通芽用開口3に対し適切なものにすることにより、種子の発芽確率を高めることができる。更に、通芽用開口3の周囲は、不透水性シート1の機能により、飛来してきた種子の生育できない環境となっているため、固形播種床材2に固定した種子4の育成が、飛来してきた種子の生育により阻害されることもなく、発芽した種子を確実に成長させることができる。従って、少ない数量の種子で所望の樹林を創出できる。
【0025】
なお、図1において播種対象となっているのり面は2層になっているが、これは、切盛土11の表面に補強層12が施されているためであり、この播種構造の構築要件ではない。
【0026】
この播種構造の構築に使用されている植栽パックは、不透水性シート1の接地面B側に固形播種床材2の収容部5を設け、この収容部5に、樹木の種子4が埋め込み固定された固形播種床材2を収容したものとなっている。不透水性シート1の収容部5を備える部位には、表面Fと接地面Bを貫通する通芽用開口3が形成されており、固形播種床材2の収容状態は、そこに埋め込み固定された種子4と通芽用開口3との相対位置関係が固定されるものとなっている。
【0027】
この植栽パックは、種子4が埋め込み固定された固形播種床材2が、種子4と通芽用開口3との適切な相対位置関係が固定されるよう収容部5に収容されているため、地面に載置するのみの作業で、上記播種構造を、極めて容易に構築することができる。
【0028】
また、この植栽パックの不透水性シート1は、2片で構成され、2片の一部を重ね合わせて形成した導水路6と集水口7と備えている。図2に示す2片は、図2において上側に配置された略凸状の片部の両斜辺が、略凹状をなす他方の片部に、導水路6を形成する重複部分が離れた状態で接着され、略凸状片部の突出した部分の基部が未接着の状態とされている。そして、この未接着とされた基部が集水口7をなし、導水路6の終端において固形播種床材2対し開口しているため、これら導水路6及び集水口7を利用し、飛来してきた種子の根付く可能性を低く抑えながら固形播種床材2へ雨水を集め、固形播種床材における水分条件が大きく変わることを防止し、種子4が発芽した後の枯損率を低く抑えるものとなっている。なお、図2に示す植栽パックにおいて、略凸状片部は、その突出した部分で収容部5を形成するものとなっているが、収容部5を別のシート材で形成してもよい。
【0029】
この植栽パックにおいては、収容部5と大きさの等しい固形播種床材2を採用し、収容状態において固形播種床材2を収容部5の内面に圧着させ、収容部5の伸縮力を利用して固定することにより、通芽用開口3と種子4との相対位置関係を固定している。ただし、固形播種床材2を不透水性シート1に対し固定する方法に制限はなく、植栽パックの製造条件や設置条件等を考慮し最適な方法を選択すればよい。また、固形播種床材2の固形安定性が高ければ、不透水性シート1の接地面Bに収容部5を設けることなく固形播種床材2を貼付し、それを敷設することによって、この播種構造を構築してもよい。
【0030】
次に、図3を参照しながら、本発明に係る植栽パックの他の実施例について説明する。なお、図3において、図1及び図2と実質的に同じ部分には同符号を付し、その説明を簡略化又は省略する。
【0031】
図3(a)に示す植栽パックは、固形播種床材2として、収容部5よりも小さいものが採用されている。そして、固形播種床材2は、不透水性シート1の接地面B側に貼付固定されている。なお、収容部5の固形播種床材2が配置されていない空隙5aには、図示しない客土が充填される。
【0032】
図3(b)に示す植栽パックは、図3(a)と同様、固形播種床材2として、収容部5よりも小さいものが採用され、空隙5aには、図示しない客土が充填される。ただし、固形播種床材2の固定には、移動規制手段8が用いられている。移動規制手段8は、種子4から伸びる根の生育を阻害しないものであれば特に制限はないが、この植栽パックでは、生分解性素材のメッシュが採用されている。
【0033】
このように、固形播種床材2の不透水性シート1に対する固定方法に制限はなく、製造条件や設置条件等を考慮し最適な方法を選択すればよい。また、収容部5よりも小さい固形播種床材2を採用する場合、収容部5内の、固形播種床材が配置されない部分(空隙5a)には客土を充填することで、収容部5内全体において、種子から伸びる根を生育させることができる。
【0034】
図3(c)に示す植栽パックは、不透水性シート1を、本体部1aと、本体部1aに形成された固形播種床材2の挿入用開口9を閉じる蓋部1bとで構成し、通芽用開口3を蓋部1bに形成したものである。この植栽パックは、収容不透水性シート1の接地面B側に先に形成した収容部5に固形播種床材2を収容する場合に特に好適である。すなわち、通芽用開口3を固形播種床材2の収容部5への挿入に使用する必要がなくなるので、その大きさを通芽に必要な最小のものとして、通芽用開口3に種子が飛来して根付く可能性を低く抑えることができる。なお、この植栽パックは、まず、収容部5内部における移動規制手段8の周囲に客土10を充填し、移動規制手段8で囲まれた空隙に挿入用開口9を図中の白抜矢線の方向に通して固形播種床材2を配置し、最後に固形播種床材2の上側を蓋部1bで塞ぐことにより作ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明に係る植栽パックを使用して構築した本発明に係る播種構造の実施例を示す縦断面図である。
【図2】同植栽パックの正面図である。
【図3】本発明に係る植栽パックの他の実施例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0036】
1 不透水性シート
1a 本体部
1b 蓋部
2 固形播種床材
3 通芽開口
4 種子
5 収容部
5a 空隙
6 導水路
7 集水口
8 移動規制手段
9 挿入口
10 客土
B 接地面
F 表面
G 地表面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地表面(G)に敷設した不透水性シート(1)に通芽用開口(3)を形成し、種子が埋め込み固定された固形播種床材(2)を、該通芽用開口(3)に対する相対位置関係が固定されるよう、該不透水性シート(1)の接地面(B)側に配置することを特徴とする播種構造。
【請求項2】
該不透水性シート(1)は複数の片で構成され、該片同士の一部を重ね合わせて形成した導水路(6)と集水口(7)とを備え、該導水路(6)の終端において該集水口(7)が該固形播種床材(2)に対し開口している請求項1に記載の播種構造。
【請求項3】
不透水性シート(1)の接地面(B)側に固形播種床材(2)の収容部(5)を設け、該不透水性シート(1)に形成した通芽用開口(3)と該固形播種床材(2)に埋め込み固定された種子(4)との相対位置関係が固定されるよう、該固形播種床材(2)を該収容部(5)に収容したことを特徴とする植栽パック。
【請求項4】
該固形播種床材(2)が、該収容部(5)の伸縮力により固定されている請求項3に記載の植栽パック。
【請求項5】
該固形播種床材(2)が、該収容部(5)の内面に貼付されている請求項3に記載の植栽パック。
【請求項6】
該固形播種床材(2)が、移動規制手段(8)により固定されている請求項3に記載の植栽パック。
【請求項7】
該固形播種床材(2)が、客土(10)とともに該収容部(5)に収容されている請求項3〜6のいずれか一つの項に記載の植栽パック。
【請求項8】
該不透水性シート(1)は、本体部(1a)と、該本体部(1a)に形成された該固形播種床材(2)の挿入用開口(9)を閉じる蓋部(1b)とで構成され、該通芽用開口(3)は該蓋部(1b)に形成されている請求項3〜7のいずれか一つの項に記載の植栽パック。
【請求項9】
該不透水性シート(1)は複数の片で構成され、該片同士の一部を重ね合わせて形成した導水路(6)と集水口(7)とを備え、該導水路(6)の終端において該集水口(7)が該固形播種床材(2)に対し開口している請求項3〜8のいずれか一つの項に記載の植栽パック。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−65855(P2009−65855A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−235530(P2007−235530)
【出願日】平成19年9月11日(2007.9.11)
【出願人】(505398952)中日本高速道路株式会社 (94)
【出願人】(500146484)ダイトウテクノグリーン株式会社 (12)
【Fターム(参考)】