説明

播種機

【課題】苗移植機に使用する長方形の育苗箱について、その幅寸法によることなく、共通に適用することができる簡易な構成の播種機を提供する。
【解決手段】播種機は、苗移植機に使用する長方形状の浅底容器をなす育苗箱(T)を一端に受ける搬送装置(3)と、その搬送経路上で上記育苗箱(T)に作用する苗箱播種用の作業装置(6,7,8)とから構成され、上記搬送装置(3)は、所定の長手寸法の育苗箱(T)を搬送方向に対して横長姿勢で搬送可能な搬送幅(W)に形成するとともに、上記作業装置(6,7,8)を所定の作用幅に形成したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送装置に床土詰部、播種部等の各作業部を備えて苗移植機用の育苗箱に播種する播種機に関する。
【背景技術】
【0002】
育苗箱は、苗移植機に適合するマット苗を形成するための所定の長方形状の浅底容器である。播種機は、そのような育苗箱に種籾を播種するために、育苗箱を搬送するベルト等による搬送装置の搬送経路上にその搬送方向に沿って底土散布装置、播種装置、覆土装置等の作業装置を備えて構成される。さらに、特許文献1のごとく、搬送経路の一端に苗箱供給装置を備えた例が知られている。このような構成の播種機は、長方形状の育苗箱をその長手方向に搬送することにより、搬送行程に沿って安定して底土散布、播種、覆土等が順次実施されて育苗準備することができる。
【0003】
上記播種機によって播種された育苗箱は、所定の苗高まで育苗された時点で苗移植機により圃場に株分け移植が行われる。苗移植機による苗株の植付けは、苗の集合体であるマット状苗を育苗箱から取出して植付け条間距離(例えば30cm)と対応する幅寸法の苗載部に植付け条別にセットすることにより、所定の条間距離で複数条の苗植付けを行うことができる。また、植付け条間距離が異なる苗移植機(例えば条間距離が25cm)について対応幅寸法の育苗箱を用いることにより、異なる作付け条件の苗植付けを行うことができる。
【0004】
しかしながら、育苗箱は、苗移植機の植付け条間距離と対応した幅寸法(例えば25cm、30cm)に規定されていることから、播種機についても育苗箱の幅寸法と対応する搬送経路および作用幅の各機器で構成した専用のものが必要となり、コスト負担、設置面積、運用上およびメンテナンス上の煩雑な取扱を要するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−296971号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、苗移植機に使用する長方形の育苗箱について、その幅寸法によることなく、共通に適用することができる簡易な構成の播種機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、苗移植機に使用する長方形状の浅底容器をなす育苗箱(T)を一端に受ける搬送装置(3)と、その搬送経路上で上記育苗箱(T)に作用する苗箱播種用の作業装置(6,7,8)とからなる播種機において、上記搬送装置(3)は、所定の長手寸法の育苗箱(T)を搬送方向に対して横長姿勢で搬送可能な搬送幅(W)に形成するとともに、上記作業装置(6,7,8)を所定の作用幅に形成したことを特徴とする。
上記播種機は、搬送装置(3)の搬送幅(W)と対応する長手寸法の長方形状の育苗箱(T)を横長姿勢で搬送装置(3)の一端から横長姿勢のまま搬送するとともに、育苗箱(T)の長手方向の所定の作用幅について作業装置(6等)が作用する。
【0008】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明において、前記搬送装置(3)は、その搬送幅(W)の間隔で左右に対向する側面搬送機構(15)と、育苗箱(T)の底面を受ける底面搬送機構(16等)とから構成したことを特徴とする。
上記搬送装置(3)は、育苗箱(T)をその底面および長手方向の両端面の3面に接して横長の育苗箱(T)の搬送姿勢を維持しつつ搬送する。
【0009】
請求項3に係る発明は、請求項2に係る発明において、前記底面搬送機構(16等)を駆動搬送部材により、また、前記側面搬送機構(15)を従動案内部材により構成したことを特徴とする。
上記底面搬送機構(16等)は駆動搬送部材により育苗箱(T)の底面を支持しつつ搬送し、このとき、従動案内部材による側面搬送機構(15)が同育苗箱(T)の長手方向の両端面を案内する。
【0010】
請求項4に係る発明は、請求項1から3のいずれかに係る発明において、前記搬送装置(3)には、育苗箱(T)の当接が可能に搬送経路の一端側を閉じる端縁部材(31)と搬送幅(W)の間隔で左右に対向する側縁部材(32)とを設けて育苗箱(T)の姿勢および位置を規制可能な始端ガイドを構成したことを特徴とする。
上記搬送装置(3)の一端に設けた端縁部材(31)と左右の側縁部材(32)は始端ガイドとして機能し、この始端ガイドに育苗箱(T)を当接させることにより、育苗箱(T)の位置および姿勢が揃えられて作業装置(6,7,8)に育苗箱(T)が搬送される。
【0011】
請求項5に係る発明は、請求項1から4のいずれかに係る発明において、前記搬送装置(3)は、その一端の搬送速度を前記作業装置(6,7,8)の作業搬送速度より高速に構成したことを特徴とする。
上記搬送装置(3)は、その一端から比較的高速で作業装置(6,7,8)に向けて育苗箱(T)送出し、比較的低速の作業装置(6,7,8)において育苗箱(T)が前後に密接されつつ作業が行われる。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明により、上記播種機は、搬送装置(3)の搬送幅(W)と対応する長手寸法の長方形状の育苗箱(T)を横長姿勢で搬送装置(3)の一端から横長姿勢のまま搬送するとともに、育苗箱(T)の長手方向の所定の作用幅について作業装置(6等)が作用することから、長方形状の育苗箱(T)について、それぞれの短手寸法である幅の大小によることなく、共通に適用することができる。
【0013】
請求項2に係る発明により、請求項1に係る発明の効果に加え、上記搬送装置(3)は、育苗箱(T)をその底面および長手方向の両端面の3面に接して横長の育苗箱(T)の搬送姿勢を維持しつつ搬送することから、育苗箱(T)の搬送姿勢が横長に維持されて育苗箱(T)を安定して円滑に搬送することができる。
【0014】
請求項3に係る発明により、請求項2に係る発明の効果に加え、上記底面搬送機構(16等)は駆動搬送部材により育苗箱(T)の底面を支持しつつ搬送し、このとき、従動案内部材による側面搬送機構(15)が同育苗箱(T)の長手方向の両端面を案内することから、単一の駆動搬送部材による簡易な伝動構成によって安定搬送が可能となる。
【0015】
請求項4に係る発明により、請求項1から3のいずれかに係る発明の効果に加え、上記搬送装置(3)の一端に設けた端縁部材(31)と左右の側縁部材(32)は始端ガイドとして機能し、この始端ガイドに育苗箱(T)を当接させることにより、育苗箱(T)の位置および姿勢が揃えられて作業装置(6,7,8)に育苗箱(T)が搬送されることから、搬送装置(3)による安定した搬送と作業装置(6等)による安定した作業が可能となる。
【0016】
請求項5に係る発明により、請求項1から4のいずれかに係る発明の効果に加え、上記搬送装置(3)は、その一端から比較的高速で作業装置(6,7,8)に向けて育苗箱(T)送出し、比較的低速の作業装置(6,7,8)において育苗箱(T)が前後に密接した状態となることから、横長姿勢が安定して維持されるとともにそれぞれの作業をロス無く進めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】播種機の側面図
【図2】播種機の平面図
【図3】搬送始端部の要部斜視図
【図4】搬送始端部の要部平面図
【図5】床土タンクの内部構成の側面図
【図6】撹拌装置の別の構成例の斜視図
【図7】い草用育苗箱の断面図
【図8】親株と株挿し用の苗
【図9】株挿し補助具の斜視図(a)および平面図(b)
【発明を実施するための形態】
【0018】
この発明の実施の一形態を、以下に説明する。
図1及び図2に示すように、播種機1は、例えば水稲苗用の矩形の育苗箱Tを一方向に搬送する搬送装置3を備え、この搬送装置3による搬送経路に沿ってその上手側から順に、育苗箱Tを順次投入するための搬送始端部4と、育苗箱Tに床土を詰める床土詰装置6と、床土を詰めた育苗箱Tに灌水する灌水装置29と、育苗箱Tに播種する播種装置7と、育苗箱Tに覆土する覆土装置8を設けている。尚、床土詰装置6及び播種装置7及び覆土装置8の各々の装置は、他の装置と独立して単独で設置できるように前後左右計4本の脚部9,10で支持されている。尚、覆土装置8の前側の左右の脚部10には上下に回動するアーム11を介して該脚部10の下端より下方に突出させることができる車輪12を各々取り付けており、該車輪12を下方に突出させ播種機1を持ち上げて他の脚部9を地面から浮かせることにより、播種機1を容易に移動させることができる。
【0019】
搬送装置3は、左右両側と底面の3面の搬送機構によって構成する。すなわち、育苗箱Tの長手方向の両端面を挟むように案内する非駆動の周回ベルトによる左右の搬送ガイド15,15を設け、この左右の搬送ガイド15,15の間で横長姿勢の育苗箱Tの底面を搬送支持する底面搬送機構を設ける。
【0020】
底面搬送機構は、搬送始端部4および各作業部6,7,8についてそれぞれ搬送駆動し、すなわち、2列構成のベルトによる始端部搬送コンベア16及び床土詰部搬送コンベア17と、ローラ式の育苗箱搬送コンベアである播種部搬送コンベア18及び覆土部搬送コンベア28とを設け、また、作業部間および搬送終端部はフリーで回転する非駆動のローラ式のコンベアにより、すなわち、床土詰部搬送コンベア17と播種部搬送コンベア18の間に灌水部コンベア63を設け、播種部搬送コンベア18と覆土部搬送コンベア28の間に覆土前コンベア64を設け、覆土部搬送コンベア28の下流側に育苗箱取出コンベア75を設けて構成する。
【0021】
(搬送始端部)
搬送始端部4は、床土詰装置6の入口側に一体に構成され、左右の搬送ガイド15,15は、始端部搬送コンベア16の搬送支持面より高く、育苗箱Tの長手方向の両端面に当接可能な所定の高さ位置で、同始端部搬送コンベア16の搬送範囲内に複数のプーリ軸15a…を軸支して側面搬送機構を構成する。始端部搬送コンベア16は、搬送終端の駆動プーリ軸16aと複数の従動プーリ軸16b…とによって2列構成のベルトを周回駆動し、その搬送速度は、床土詰装置6から覆土装置8までの作業装置の搬送コンベヤ17,18,28の搬送速度より高速に構成する。
【0022】
また、始端部搬送コンベア16の始端縁には、その要部斜視図および平面図をそれぞれ図3、図4に示すように、育苗箱Tの当接が可能に搬送経路3の一端側を閉じる端縁部材31と所定間隔Wで左右に対向する側縁部材32,32とを設けて育苗箱Tの当接操作によりその姿勢および位置を規制可能な始端ガイドを構成し、左右の側縁部材32,32の搬送方向の延長位置に所定間隔Wで左右に対向して上記左右の搬送ガイド15,15を配置する。
【0023】
上記構成の搬送始端部4は、始端部搬送コンベア16による底面搬送機構と左右の搬送ガイド15,15による側面搬送機構との3面に搬送機構を備えることから、左右の搬送ガイド15,15による搬送幅Wの長手寸法の育苗箱Tを横長姿勢で搬送始端部4に投入すると、始端部搬送コンベア16の駆動力によって育苗箱Tを搬送下流の作業装置に搬送し、このとき、所定の間隔Wで対向する左右の搬送ガイド15,15のそれぞれが育苗箱Tの対応する左右の端面と接してその姿勢を維持することができることから、育苗箱Tの短手方向の幅寸法に依ることなく、横長姿勢の育苗箱Tを安定して円滑に搬送することができる。
【0024】
また、左右の搬送ガイド15,15を従動搬送部材である非駆動の周回ベルトによって構成することにより、3面搬送機構による搬送装置3を単一の伝動系により簡易に構成することができる。なお、左右の搬送ガイド15,15は、搬送幅Wを隔てて左右に対向配置したフリーローラによって構成しても同様の従動搬送部材として機能することから、同様の作用効果を得ることができる。
【0025】
また、搬送始端部4には、育苗箱Tの当接が可能に搬送経路の一端側を閉じる端縁部材31と左右の側縁部材32,32とを設けて育苗箱Tの姿勢および位置を規制可能な始端ガイドを構成することにより、育苗箱Tを供給投入した際の当接操作によって位置および姿勢合わせが可能となるので、育苗箱Tの短手方向の幅寸法に依ることなく、その横長姿勢による搬送を簡易かつ正確に確保することができる。
【0026】
搬送始端部4に育苗箱Tを供給する際は、前後の育苗箱Tが密接しないように始端部搬送コンベア16の搬送速度に合わせて隙間を空けて投入することにより、確実に搬送が開始されるので、下流の作業装置で能率良く処理することができる。また、始端部搬送コンベア16の搬送速度を各作業装置6,7,8の搬送速度より高速に構成することにより、低速の各作業位置で育苗箱Tが前後に密接した状態で横長姿勢が安定して維持されるとともにそれぞれの作業をロス無く進めることができる。
【0027】
このように、所定の長手寸法の育苗箱Tを搬送方向に対して横長の姿勢で搬送可能な搬送幅Wに搬送始端部4を構成するとともに、各作業装置6,7,8を所定の作用幅に形成することにより、搬送装置3の一端の所定位置に搬送幅Wと対応する長手寸法の育苗箱Tを横長姿勢で供給した場合に、育苗箱Tを横長姿勢でそのまま搬送するとともに搬送経路上の作業装置6,7,8が作用することから、所定の長手寸法(例えば60cm)の浅底で長方形の育苗箱Tについて、それぞれの短手寸法である幅の大小(例えば25cmと30cm)によることなく、共通に適用することができる。
【0028】
床土詰装置6は、床土となる培土を貯留する床土タンク54と、該床土タンク54内の床土を所定量ずつ繰り出して育苗箱Tへ落下させて供給する床土繰出具となる床土繰出ベルト55と、育苗箱T上で溢れる床土を均す均平具となる均平ブラシ19と、育苗箱T内に突入して床土を鎮圧する床土鎮圧具となる床土鎮圧ローラ57と、床土繰出ベルト55上の隙間を調節して床土の繰出量を変更調節する床土量調節具となる床土量調節レバーを備え、床土繰出ベルト55が床土を供給する搬送経路3上の床土詰位置の搬送下手側に均平ブラシ19が位置し、均平ブラシ19の搬送下手側に床土鎮圧ローラ57が位置する。
【0029】
床土詰装置6の伝動構成について説明すると、床土繰出モータ20により床土繰出ベルト55が駆動し、該床土繰出ベルト55から歯車伝動機構を介して均平ブラシ19が駆動する。また、床土詰搬送モータ21に設けた出力スプロケット97から搬送伝動チェーン59を介して駆動スプロケット60へ伝動し、該駆動スプロケット60と一体回転する搬送下手側のローラ61により床土詰部搬送コンベア17を駆動する。尚、均平ブラシ19と床土繰出ベルト55とが互いに逆方向に回転するようになっている。尚、床土繰出モータ20又は床土詰搬送モータ21の一方の駆動で、床土繰出ベルト55と均平ブラシ19と床土詰部搬送コンベア17へ伝動する構成としてもよい。
【0030】
(床土撹拌)
また、床土詰めに使用する水稲用の軽量培土は、親水剤等の混合によって撥水予防処置がされていても、袋詰め状態でパレット輸送される途中で圧縮されて撥水性を呈することがあるので、床土詰装置6の床土タンク54には、図5の内部構成の側面図に示すように、回転羽根等による撹拌装置121を設けることにより、床土の撥水性を解除して潅水による種籾の適切な発芽を確保することができる。
【0031】
撹拌装置の別の構成例として、図6にその斜視図を示すように、床土タンク54に軽量培土を供給する昇降装置122を設ける。この昇降装置122の上部シュート122aを床土タンク54に接続し、基部には床土供給部123および回収コンベヤ124を接続するとともに、床土供給部123に撹拌装置125を設けることにより、上記同様に軽量培土の撥水性を解除することができる。
【0032】
また、フレコンと略称される可撓性袋に収容された軽量培土を取扱う場合は、その開封後で軽量培土を供給する間の搬送行程をスクリューコンベヤ等の撹拌搬送部材によって構成し、土詰めする直前に撹拌することにより、軽量培土の撥水性を解除することができる。
【0033】
播種装置7は、播種する種子(種籾)を貯留する種子タンク68と、該種子タンク68内の種子を間欠的に所定量ずつ繰り出して育苗箱Tへ落下させて播種位置で供給する外周に所定のピッチで複数の繰出溝を備える種子繰出具となる種子繰出ローラ69と、該種子繰出ローラ69の外周面に接触して該種子繰出ローラ69の繰出溝から溢れる種子を除去する除去ブラシ70と、種子繰出ローラ69に臨む種子タンク68の出口の隙間を調節して種子繰出ローラ69への種子の供給状態を変更調節する種子供給調節具となる種子供給調節ハンドル72を備える。
【0034】
播種装置7の伝動構成について説明すると、播種モータ65に設けた出力スプロケット66から繰出伝動チェーン67を介して種子繰出ローラ69へ伝動され、前記出力スプロケット66から第一除去チェーン73及び第二除去チェーン74を介して除去ブラシ70へ伝動され、前記出力スプロケット66から搬送伝動チェーン71を介して播種部搬送コンベア18の搬送下手側のローラ75へ伝動し、該搬送下手側のローラ75からチェーン77を介して搬送上手側のローラ76へ伝動する。尚、搬送上手側のローラ76と搬送下手側のローラ75の間に、播種位置がある。尚、除去ブラシ70及び播種部搬送コンベア18と種子繰出ローラ69とが互いに逆方向に回転するべく、第一除去チェーン73と搬送伝動チェーン71を側面視で交差するように巻き掛けている。尚、種子繰出ローラ69の外周部において除去ブラシ70の位置と播種位置との間には、繰出溝から種子が脱落しないように該繰出溝を覆うガイド体を設けている。
【0035】
覆土装置8は、覆土となる培土を貯留する覆土タンク84と、該覆土タンク84内の覆土を所定量ずつ繰り出して育苗箱Tへ落下させて覆土位置で供給する覆土繰出具となる覆土繰出ベルト85と、育苗箱T上で溢れる覆土を均す均平具となる均平板86と、覆土繰出ベルト85上の隙間を調節して覆土の繰出量を変更調節する覆土量調節具となる覆土量調節レバーとを備え、覆土繰出ベルト85が覆土を供給する搬送経路3上の覆土位置の搬送下手側に均平板86が位置する。
【0036】
覆土装置8の伝動構成について説明すると、覆土モータ78により覆土繰出ベルト85が駆動し、覆土モータ78に設けた出力スプロケット79から搬送伝動チェーン80を介して覆土部搬送コンベア28の搬送下手側のローラ81へ伝動し、該搬送下手側のローラ81からチェーン98を介して搬送上手側のローラ82へ伝動する。尚、搬送上手側のローラ82と搬送下手側のローラ81の間に、覆土位置がある。尚、覆土繰出ベルト85と覆土部搬送コンベア28とが互いに逆方向に回転するべく、搬送伝動チェーン80を側面視で交差するように巻き掛けている。
【0037】
覆土装置8の前側の脚部10には、育苗箱搬送コンベアを手動で回転させるための操作具となる手動搬送ハンドル92をフック93を介して保持している。この手動搬送ハンドル92により、播種装置7で播種をしている途中で故障で播種機1が停止したときや播種作業を終了するために播種機1を停止させたとき、手動で育苗箱Tを搬送して該育苗箱Tを播種機1から容易に取り出すことができる。
【0038】
灌水装置29は、灌水部コンベア63の上側に設けられ、灌水部コンベア63の左右の搬送ガイド15の外側から各々立ち上がる左右の支持フレーム100を設け、左右に配列される複数のノズルを備える左右に延びる灌水パイプ99を、左右の支持フレーム100で両持ち支持している。該灌水パイプ99すなわち灌水位置は、灌水部コンベア63の搬送上手寄りの位置に配置されている。
【0039】
灌水部コンベア63及び覆土前コンベア64及び育苗箱取出コンベア75の各々のコンベアは、左右の搬送ガイド15の前後端部で搬送上手側及び搬送下手側の装置に嵌る嵌合部材101により、播種機1本体に対して独立して個別に着脱可能に設けられている。従って、これらのコンベアを短いものに組み替えることにより、各装置間の距離を変更でき、ひいては灌水装置の灌水位置から次工程の播種装置7の播種位置及び覆土装置8の覆土位置までの間隔を変更できる。
【0040】
また、灌水部コンベア63及び覆土前コンベア64及び育苗箱取出コンベア75の各々のコンベアは、育苗箱Tの短手方向の長さより長く設定されている。従って、床土詰装置6と播種装置7と覆土装置8の何れの機器で育苗箱Tへの作業の不具合があっても、その直後で不具合のあった育苗箱Tを即座に取り出すことができ、無駄な作業を防止でき、床土や種子や覆土の無駄を防ぐことができる。しかも、灌水部コンベア63の灌水位置より後側部分自体が育苗箱Tの短手方向の長さより長く設定されているので、灌水作業で不具合があった育苗箱Tを即座に取り出すことができ、種子や覆土の無駄を防ぐことができる。
【0041】
また、灌水部コンベア63を播種装置7と覆土装置8の間に組み付けることにより、播種装置7と覆土装置8の間に灌水装置29を配置することができる。あるいは、灌水部コンベア63を覆土装置8の後側に組み付けることにより、覆土後に灌水する構成とすることもできる。これらの場合も、灌水部コンベア63を組み替えて該灌水部コンベア63の長さを変更できる構成とすればよい。
【0042】
以上により、この播種機1は、育苗箱Tに播種する播種機であって、前記育苗箱Tを一方向に搬送する搬送装置3を備え、その搬送経路に沿って上手側から順に育苗箱Tに床土を詰める床土詰装置6と育苗箱Tに播種する播種装置7と育苗箱Tに覆土する覆土装置8とを設け、床土詰装置6と播種装置7の間又は播種装置7と覆土装置8の間に育苗箱Tに灌水する灌水装置29を設け、灌水部コンベア63を組み替えることにより、灌水装置29の灌水位置から次工程の播種装置7の播種位置及び覆土装置8の覆土位置までの間隔を変更できる構成とした。
【0043】
従って、搬送経路に沿って育苗箱Tを搬送させることにより、育苗箱Tに床土を詰め、播種し、覆土する。また、育苗箱Tに床土を詰めた後の覆土する前に、育苗箱Tに灌水する。そして、例えば水田の土壌等、吸水性の悪い土を床土詰めするときは、灌水部コンベア63を長いものに組み替えることで灌水位置から播種位置及び覆土位置までの間隔を大きく変更し、播種及び覆土までに育苗箱に灌水した水が床土の上面に溜まらず吸水されるようにできる。逆に、吸水性の良い土を床土詰めするときは、灌水部コンベア63を短いものに組み替え、灌水位置から播種位置及び覆土位置までの間隔を、播種及び覆土までに育苗箱に灌水した水が床土の上面に溜まらず吸水される適宜の間隔に短く変更できる。
【0044】
よって、床土の土質に拘らず播種及び覆土までに育苗箱に灌水した水が床土の上面に溜まらず吸水されるように、灌水位置から播種位置及び覆土位置までの間隔を変更できるので、床土の上面に播種された種子が溜まった水と共に床土と覆土の間に閉じ込められて酸欠を起こし出芽不良となるのを防止できると共に、灌水位置から播種位置及び覆土位置までの間隔が不必要に大きくならないため、播種機が短くコンパクトになり、作業者が、搬送始端部4へ空の育苗箱Tを供給したり、床土詰装置6の床土タンク54へ床土を供給したり、播種装置7の種子タンク68へ種子を供給したり、覆土装置8の覆土タンク84へ覆土を供給したり、育苗箱取出コンベア75から播種作業が終わった育苗箱Tを取り出したりする作業において、相互の作業をあまり移動せずに容易に行え、播種作業の作業性の向上が図れる。
【0045】
尚、種子タンク68の上端の開口より覆土タンク84の上端の開口を低位に設け、覆土タンク84の上端の開口より床土タンク54の上端の開口を低位に設けている。これにより、使用量が多いため作業者が頻繁に床土タンク54へスコップで床土を供給しなければならないが、この床土供給作業を低位で容易に行え、次いで供給頻度が高い覆土タンク84への覆土供給作業を容易に行える。しかも、種子タンク68の上端の開口が高位となるので、床土供給作業又は覆土供給作業を行うとき、誤って種子タンク68へ床土又は覆土を供給するようなことを防止でき、土が供給されることで播種装置7が故障するようなことを防止できる。
【0046】
床土タンク54は変形可能なゴム製の弾性体113を介して支持されており、作業者が床土を供給する度にその重みで揺れる構成となっている。これにより、床土タンク54内での床土のブリッジ現象を防止でき、特に水田の土壌等、ブリッジ現象を生じ易い土壌を床土として使用するとき、床土の繰り出しを適正に行える。尚、作業者がスコップ等で床土タンク54に触れることで、床土タンク54を揺らすこともできる。
【0047】
尚、前述では、灌水部コンベア63及び覆土前コンベア64及び育苗箱取出コンベア75の各々のコンベアを組み替えて、該コンベアの長さを変更する方法について説明したが、これらのコンベアを伸縮できる構成として長さを変更する構成としてもよい。このときは、該コンベアの左右の搬送ガイド15を前後に複数に分割して重複させることによりコンベアを縮小し、該コンベアのローラの互いの間隔が変更される構成とすればよい。
また、前述では、床土詰装置6と灌水装置29と播種装置7と覆土装置8を独立して構成したが、播種装置7と覆土装置8を一体で構成し、灌水部コンベア63のみ組み替え又は伸縮できる構成としてもよい。
【0048】
(播種量設定)
次に、播種機による播種量の設定について説明する。
疎植栽培により必要苗箱数が通常より少ない苗植え付け技術に対して、密播疎植は、1苗箱当たりの播種量を多くした密播苗を使用して必要箱数を更に低減する技術であり、例えば、植付け面積10a当たりの苗箱数が、通常の20箱に対して、疎植で10箱、密播疎植で5〜7箱を使用する。
【0049】
圃場における植付け苗量の調節は、従来の水稲の育苗では慣行的に一定の播種量(例えば、1苗箱当たり140g)の苗箱を使用して田植機側で苗の取分け量を調節し、一方、密播疎植では苗立本数が多いので、現状の田植機では、取分け苗量の下限域となり調節余裕がなくなり、希望の植付けができないという問題がある。
具体的な事例によって説明すると、播種量を250g/箱とした苗については、千粒重が26gの品種では、1箱の苗立本数が8653本(苗立率が90%の場合)となり、田植機の最小掻取り量が1820回(横28回×縦65回)であれば、1株あたりでは4.75本(8653本÷1820回)となり、計算上からも植付け限界の3〜4本/株となる。
【0050】
その解決のために、苗箱側で植付け本数に見合った量を予め播種するように播種装置7の種子繰出ローラ69の回転速度を制御する。その播種量の算出のために、密播疎植に必要な播種量を計算するモードを播種機に設ける。播種量は、(a)乾籾千粒重、(b)田植機の横送り回数、縦送り回数、(c)平均植付け本数、(d)苗立ち率を入力項目として算出する。
【0051】
また、密播疎植における10a当たりの苗箱数に対応する播種量を算出するモードを設ける。播種量は、(a)10a当たりの苗箱数(6箱以上)、(b)平均植付け本数、(c)乾籾千粒重、(d)坪あたり株数を入力項目として算出する。
具体的には、千粒重が26g、田植機が横送り28回、縦送り65回、平均植付け本数が3.5本、苗立率が90%の場合は、1箱当たりの播種量が184gとして算出される。
【0052】
このようにして算出された播種量に対応して播種装置7の種子繰出ローラ69の回転速度を制御することにより、田植機による所要の密播疎植に適合する苗株の取分けが可能となり、さらに、千粒重が異なる品種についても、上記播種機を幅広く適用することができる。
【0053】
(い草用育苗箱)
次に、い草用育苗箱について説明する。
い草(藺草)用育苗箱41は、い草苗の集合体であるい草マット苗を形成するための長方形状で浅底型の育苗容器であり、このい草用育苗箱に対する従来の株挿し作業は、株挿機を使用する自動株挿し(例えば1箱当たり480株)により、親株を2〜3本の細苗に割って培土に挿し付けていたことから、育苗途中で細苗が枯死することによって欠株となったり、生育不良となって移植後の植え直しを強いられる場合があり、また、マットの縮み等により移植の際に2株を掻取る場合があり、結果として次の欠株を招くという問題や、太い苗による定植にも対応できないという問題があった。
【0054】
このような問題の解消のために、い草(藺草)用育苗箱41は、図7にその断面図を示すように、外形寸法が短手方向190mm、長手方向580mm、箱深さDが20〜25mm、箱正面に横シボ加工により微細な凸凹を表面に施して構成し、さらに株挿し補助具42を用いて手作業により株丈Hを10〜12cmに抑えて株挿(例えば1箱当たり320〜480株)を行う。
【0055】
上記構成の育苗箱41は、所要の株挿し作業をすることにより、株挿機の株挿しの安定化のために30mmの苗箱深さを要する従来の場合より少ない土量により資材コストを低減できるとともに、安定して高精度で融通性に優れた株挿しが可能となることから、育苗箱41の深さまですり切りで土詰めしても、軽量化とコスト低減が可能なマット苗を形成することができるとともに、ポット方式に比べて資材コストが高く、かつ、重いというマット苗のデメリットを解消することができる。
【0056】
詳細に説明すると、育苗箱41に使用する苗株は、図8に示すように、親株Sから割った2、3本の株を2つ1組として1株Pを大きく形成し、例えば、5〜8本(3芽)程度、株元の幅を15〜25mmに割ることにより、光合成する葉の量を確保できるので、薄い床厚に対応するために丈高さを抑えても生育遅れが補われ、また、太い株Pを1株ずつ植えるようにすることにより、2本植え等を少なくすることができる。
【0057】
株挿し補助具42は、その斜視図(a)および平面図(b)を図9に示すように、育苗箱41にフィットしてその上方からセットできる矩形フレーム状のガイド部材43に太さが1mm前後のピアノ線等の鋼材による12列の仕切り44…を設け、それぞれに長手方向に40株の株位置を示す目印44a…をつける。この株挿し補助具42を育苗箱41にセットして目印44a…の位置に手作業で株挿しを行った後に上方に抜き取るようにして取外すことにより育苗箱41毎の株挿しが終了する。なお、目印44a…の代わりに長手方向と同様の仕切りを短手方向に設けて格子状に構成してもよい。
【0058】
上記株挿し補助具42による株挿しは、手作業により、株挿機を使用する場合より苗を選ぶことなく多様な苗について容易に株割りすることができるので、従来の問題に幅広く対応することが可能となる上に、3人作業で通常の株挿機の最大能力相当の処理が可能となり、そのほか、一人作業や非力者によるマイペース作業および、特段のコストを要しない導入と煩わしいメンテナンスを要しない運用が可能となる。
【符号の説明】
【0059】
1 播種機
3 搬送装置
4 搬送始端部
6 床土詰装置(作業装置)
7 播種装置(作業装置)
8 覆土装置(作業装置)
15 搬送ガイド(搬送装置)
16 始端部搬送コンベア(搬送装置)
17 床土詰部搬送コンベア(搬送装置)
18 播種部搬送コンベア(搬送装置)
28 覆土部搬送コンベア(搬送装置)
29 灌水装置
31 端縁部材
32 側縁部材
63 灌水部コンベア(搬送装置)
64 覆土前コンベア(搬送装置)
75 育苗箱取出コンベア(搬送装置)
T 育苗箱
W 搬送幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
苗移植機に使用する長方形状の浅底容器をなす育苗箱(T)を一端に受ける搬送装置(3)と、その搬送経路上で上記育苗箱(T)に作用する苗箱播種用の作業装置(6,7,8)とからなる播種機において、
上記搬送装置(3)は、所定の長手寸法の育苗箱(T)を搬送方向に対して横長姿勢で搬送可能な搬送幅(W)に形成するとともに、上記作業装置(6,7,8)を所定の作用幅に形成したことを特徴とする播種機。
【請求項2】
前記搬送装置(3)は、その搬送幅(W)の間隔で左右に対向する側面搬送機構(15)と、育苗箱(T)の底面を受ける底面搬送機構(16等)とから構成したことを特徴とする請求項1記載の播種機。
【請求項3】
前記底面搬送機構(16等)を駆動搬送部材により、また、前記側面搬送機構(15)を従動案内部材により構成したことを特徴とする請求項2記載の播種機。
【請求項4】
前記搬送装置(3)には、育苗箱(T)の当接が可能に搬送経路の一端側を閉じる端縁部材(31)と搬送幅(W)の間隔で左右に対向する側縁部材(32)とを設けて育苗箱(T)の姿勢および位置を規制可能な始端ガイドを構成したことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の播種機。
【請求項5】
前記搬送装置(3)は、その一端の搬送速度を前記作業装置(6,7,8)の作業搬送速度より高速に構成したことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の播種機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−74828(P2013−74828A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−216088(P2011−216088)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】