説明

撮影装置および焦点調整方法

【課題】プリセットされた撮影方向にカメラの撮影方向を変更した後において、焦点位置の調整を迅速に行う。
【解決手段】マイクロコンピュータは、プリセットボタンの短押しを検出すると、EEPROMに記憶されたプリセット値を読み出し、このプリセット値に応じて、パン位置、チルト位置、ズームレンズの位置、フォーカスレンズの位置等を調節する。そして、フォーカスレンズの可動範囲を、以前の合焦位置である背景位置から近方向端部までに制限し、この制限範囲内において山登り制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撮影装置の焦点を自動的に調整する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、据え置き型のカメラでは、ユーザが任意に調整したパン位置やチルト位置、ズーム倍率等の種々のパラメータをカメラにプリセットできるものがある。このようなカメラでは、プリセットされたパラメータを呼び出すことで、迅速に撮影方向を変更することができる。カメラは、こうして撮影方向を変更すると、フォーカスレンズの位置を調整し、被写体に対して焦点を合焦させる。
【0003】
近年のカメラは、自動的に焦点を調整するいわゆるオートフォーカス機能を備えるものが多い。オートフォーカスの制御方法としては、撮影した画像の輝度値の高周波成分から算出される評価値が最大の値となるようにフォーカスレンズをレンズユニット内で移動させる山登り制御と呼ばれる方法が一般的である(下記特許文献1,2参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平7−87377号公報
【特許文献2】特開平1−125065号公報
【0005】
しかし、上述した山登り制御では、フォーカスレンズを移動させつつ、撮影した画像を解析して、その高周波成分から評価値を取得し、その最大値を検出するという、複雑な処理を伴うため、比較的処理時間が長いという性質がある。そのため、プリセット値に基づいて撮影方向を変更した後に上述した山登り制御を行うと、迅速にカメラの撮影方向は変更されるが、フォーカスレンズの位置を調整するのに時間がかかるといった現象が生じ、ユーザに対してレスポンスの遅延を意識させてしまうおそれがあった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような山登り制御に起因する問題を考慮し、本発明が解決しようとする課題は、プリセットされた撮影方向にカメラの撮影方向を変更した後において、焦点位置の調整を迅速に行うことにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を踏まえ、本発明を次のように構成した。すなわち、
レンズを有する光学系を介して被写体を撮影する撮影装置であって、
前記光学系の撮影方向が調節可能な撮影方向調節部と、
前記光学系の特性を調整することで該光学系の焦点を調整する焦点調整部と、
調節された前記撮影方向と、該撮影方向において前記光学系が合焦した際の該光学系の特性値とをプリセット値として記憶するプリセット値記憶部と、
所定のタイミングで前記プリセット値を読み出し、該プリセット値に基づき、前記光学系の撮影方向を調節するとともに、該光学系の特性を調整するプリセット動作部と、
前記特性値の調整範囲を、前記プリセット値として記憶された特性値から、前記焦点が至近となる特性値までに制限する制限部と、
前記制限された調整範囲内において、前記調整された光学系の特性値を変更しつつ、該光学系によって撮影した像を解析して該光学系を被写体に合焦させる合焦制御を行う合焦制御部とを備えることを要旨とする。
【0008】
本発明の撮影装置では、プリセット値に基づき光学系の撮影方向およびその特性を調整した後において、合焦制御のための特性値の調整範囲を、プリセットされた特性値から、焦点が至近となる特性値までに制限する。従って、例えば、プリセットされた特性値による焦点の合焦位置が、壁や床などの背景の位置であり、被写体がこの背景と当該撮影装置との間に存在すれば、焦点を調整する特性値の調整範囲が制限されていても、その調整範囲の中で迅速にレンズの特性を変更し、焦点を合焦させることができる。つまり、焦点を調整するための特性値の調整範囲を制限することで、合焦制御を行う時間が短縮され、迅速に合焦を行うことが可能になるのである。
【0009】
なお、前記合焦制御部は、前記光学系によって撮影した像の高周波成分がピーク値となるように前記特性値を変更することで前記合焦制御を行うものとすることができる。また、プリセット値を読み出す所定のタイミングとしては、例えば、ユーザによる所定の操作を受け付けたタイミングや、スケジューリングされた時間タイミングなどが挙げられる。
【0010】
上記構成の撮影装置において、
前記焦点調整部は、前記光学系の特性として、前記レンズの光軸上の位置を調整することで前記焦点を調整するものとすることができる。
【0011】
このような構成であれば、光学系内のレンズの位置を移動させることで、焦点の位置を調整することができるので、容易に焦点を調整することが可能になる。なお、その他に光学系の焦点を調整する手法としては、例えば、内部に透明なゲル状の物質を備えたレンズの厚みを動的に可変させて焦点を調整する手法などがある。
【0012】
上記構成の撮影装置において、
前記合焦制御部は、前記制限された調整範囲内において前記焦点が合焦しないと判断した場合に、前記制限を解除し、前記調整範囲全域を用いて、前記合焦制御を行う再合焦制御部を備えるものとしてもよい。
【0013】
このような構成であれば、制限された調整範囲内において光学系の焦点が被写体に合焦しない場合には、この制限を解除することで、特性値の調整範囲全域を用いて合焦させることができる。そのため、例えば、壁や床などのレイアウトの変更に伴って背景の位置が変更されたり、撮影装置の設置場所が変更されたとしても、当該撮影装置の撮影範囲を超えない限り、確実にレンズを被写体に合焦させることが可能になる。
【0014】
上記構成の撮影装置において、
前記再合焦制御部は、前記調整範囲全域のうち、前記解除前において制限されていた調整範囲以外の範囲での前記特性値を優先させて、前記合焦制御を行うものとしてもよい。
【0015】
このような構成であれば、一度合焦制御をした調整範囲以外の範囲を優先させて再度の合焦制御を行うため、迅速に光学系の焦点を被写体に合焦させることが可能になる。
【0016】
上記構成の撮影装置において、
前記再合焦制御部は、前記制限が解除された調整範囲内において前記焦点が合焦した場合に、前記プリセット値を、該合焦した際の前記特性値に更新する更新部を備えるものとしてもよい。
【0017】
このような構成であれば、新たな合焦位置となる特性値をプリセット値として記憶することができるため、撮影装置の設置場所の変更や、背景のレイアウトの変更などがあっても、このような変更を、迅速にプリセット値に反映させることが可能になる。
【0018】
なお、本発明は、上述した撮影装置としての構成のほか、この撮影装置における焦点調整方法、あるいは、この焦点調整方法を実現するためのコンピュータプログラムとしても構成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、上述した本発明の作用・効果を一層明らかにするため、本発明の実施の形態を実施例に基づき次の順序で説明する。
A.ビデオカメラの構成:
B.メイン処理:
C.プリセット値記憶処理:
D.プリセット動作処理:
E.オートフォーカス処理:
【0020】
A.ビデオカメラの構成:
図1は、本発明の実施例としてのビデオカメラ10の外観図である。本実施例のビデオカメラ10は、据置型のカメラであり、例えば、机や天井、壁面等に設置され、防犯や監視等の目的で使用される。
【0021】
図1に示すように、ビデオカメラ10は、机等の設置対象物に設置される台座12と、その上部に位置するレンズ包囲フレーム14とを備えている。台座12とレンズ包囲フレーム14とは、後述するパンモータ550によって接続されている。レンズ包囲フレーム14は、このパンモータ550の駆動制御に応じて、台座12に対して水平方向に旋回する。以下の説明では、こうしてビデオカメラ10の撮影方向が水平方向に移動する動作のことを、「パン動作」という。台座12の後端側には、このビデオカメラ10によって撮影した映像の信号を外部機器に出力する出力端子や操作パネルが備えられている。
【0022】
レンズ包囲フレーム14は、その側面を左右に分割したカバーで構成されており、このカバー内にレンズユニット100を備えている。レンズユニット100は、レンズ包囲フレーム14に軸支係合されており、チルトモータ540に接続されている。レンズユニット100は、このチルトモータ540の駆動制御に応じて垂直方向に旋回する。以下の説明では、こうしてビデオカメラ10の撮影方向が垂直方向に移動する動作のことを、「チルト動作」という。
【0023】
図2は、ビデオカメラ10の概略構成を示すブロック図である。図示するように、本実施例のビデオカメラ10は、レンズユニット100と、CCD200と、AGC回路310と、画像処理DSP(Digital Signal Processor)320と、AF回路330と、マイクロコンピュータ400と、EEPROM600と、操作パネル700とを備えている。
【0024】
レンズユニット100は、被写体側の最前面から順に、ユニット内に固定された第1レンズ110と、光軸方向に移動して変倍動作を行うズームレンズ120と、ユニット内を透過する光量を調整するアイリス機構130と、ユニット内に固定された第3レンズ140と、光軸方向に移動して焦点位置を調整するフォーカスレンズ150とを備えている。以下の説明では、近接した被写体に近づくようにピントが合っていく方向を「近方向」、無限遠に遠ざかる方向を「遠方向」と呼ぶ。本実施例のレンズユニット100では、図2に示すように、フォーカスレンズ150の移動方向が被写体側のときが「近方向」で、CCD200側のときが「遠方向」であるものとする。また、インナーフォーカス式のレンズユニットにおいては、ズームレンズのことをバリエータレンズと、フォーカスレンズのことをコンペンセータレンズと呼ぶ場合がある。
【0025】
ズームレンズ120には、ズームレンズ120を光軸方向に往動あるいは復動させるリードスクリューを備えたズームモータ510が接続されている。ズームモータ510はステッピングモータであり、当該ズームモータ510の駆動を行うズームドライバ515を介して、マイクロコンピュータ400に接続されている。従って、ズームレンズ120は、マイクロコンピュータ400から指定されたステップ数に応じて、レンズユニット100内を光軸方向に移動し、変倍動作を行うことができる。
【0026】
フォーカスレンズ150には、フォーカスレンズ150を光軸方向に往動あるいは復動させるリードスクリューを備えたフォーカスモータ530が接続されている。フォーカスモータ530はステッピングモータであり、当該フォーカスモータ530の駆動を行うフォーカスドライバ535を介して、マイクロコンピュータ400に接続されている。従って、フォーカスレンズ150は、マイクロコンピュータ400から指定されたステップ数に応じて、レンズユニット100内を光軸方向に移動し、焦点位置を調整することができる。
【0027】
アイリス機構130には、当該アイリス機構130の絞りを調整するアイリスモータ520が接続されている。アイリスモータ520はガルバノメータであり、当該アイリスモータ520の駆動を行うアイリスドライバ525を介して、マイクロコンピュータ400に接続されている。従って、アイリス機構130は、マイクロコンピュータ400からの指示に応じて、レンズユニット100を透過する光量を調整することができる。なお、本実施例では、ズームモータ510やフォーカスモータ530はステッピングモータであるとし、アイリスモータ520はガルバノメータであるとしたが、直流モータなど他の形式のモータを採用するものとしてもよい。
【0028】
ビデオカメラ10は、チルトモータ540とパンモータ550とを備えている。チルトモータ540は、当該チルトモータ540の駆動を行うチルトドライバ545を介してマイクロコンピュータ400に接続されている。また、パンモータ550についても、当該パンモータ550の駆動を行うパンドライバ555を介してマイクロコンピュータ400に接続されている。マイクロコンピュータ400は、これらのモータを制御することで、図1に示したように、ビデオカメラ10をチルト動作あるいはパン動作させ、その撮影方向を自在に可変させることができる。
【0029】
上述したように、ズームレンズ120とフォーカスレンズ150とは、レンズユニット100内を光軸方向に移動する。そのため、レンズユニット100は、これらのレンズが予め定めた基準位置である原点に移動したかを検出するために、第1原点センサ170と、第2原点センサ180とを備えている。第1原点センサ170と第2原点センサ180とは、フォトインタラプタによって構成されており、マイクロコンピュータ400に接続されている。マイクロコンピュータ400は、これらのセンサを用いることで、ズームレンズ120の位置やフォーカスレンズ150の位置を正確に調整することができる。
【0030】
CCD200は、レンズユニット100を透過した光を受光し、この光を電気信号に変換するイメージセンサである。
【0031】
AGC回路310は、CCD200から出力される電気信号を入力し、この電気信号の出力を適切な出力に増幅する回路である。
【0032】
画像処理DSP320は、AGC回路310から電気信号を入力し、この信号に対してA/D変換を施すことで画像データを生成する。画像処理DSP320は、こうして生成された画像データを、コンポジットビデオ信号やSビデオ信号に変換し、これを出力端子800を介して、テレビモニタや録画装置等の外部機器に出力する。更に、画像処理DSP320は、A/D変換によって生成した画像データから、輝度信号を抽出し、これをAF回路330に出力する機能を備えている。画像処理DSP320は、他にも、画像データに対してガンマ補正やアパーチャ補正、ホワイトバランスの調整など、種々の画像処理を施す機能を備えている。
【0033】
AF回路330は、ハイパスフィルタや絶対値回路、ゲート回路、検波回路からなる回路である。AF回路330は、画像処理DSP320から輝度信号を入力すると、この輝度信号からハイパスフィルタで高周波成分を抽出し、絶対値回路によって、この高周波成分を絶対値化する。そして、ゲート回路によって、絶対値化された高周波成分のうち、所定の測距枠内の高周波成分だけを取り出し、この高周波成分から検波回路によってピーク検波することでAF評価値を生成する。AF回路330は、こうして、AF評価値を生成すると、このAF評価値をマイクロコンピュータ400に出力する。AF評価値は、フォーカスレンズ150の合焦状態が良好になるほど高い値を示す。
【0034】
操作パネル700は、パンボタンやチルトボタン、ズーム調整ボタン、フォーカス調整ボタンなどを備えている。操作パネル700は、マイクロコンピュータ400に接続されており、ユーザがこれらのボタンを操作すると、その操作指示がマイクロコンピュータ400に伝達される。マイクロコンピュータ400は、この操作指示に応じて、パンモータ550やチルトモータ540等を制御し、パン動作やチルト動作、ズーム動作、フォーカス動作などを行う。
【0035】
操作パネル700は、また、フォーカスモードボタン710を備えている。ユーザは、フォーカスモードボタン710を操作することで、自動的に焦点を調整するオートモードや、手動で焦点を調整するマニュアルモードにビデオカメラ10の焦点調整方法を設定することができる。マイクロコンピュータ400は、フォーカスモードボタンの操作によってフォーカスモードがオートモードに設定されると、内部RAMに用意したフォーカスモードフラグFLを「1」とし、マニュアルモードに設定されると、フォーカスモードフラグFLを「0」とする。以下で説明する処理において、マイクロコンピュータ400は、このフォーカスモードフラグFLを参照することで、現在のフォーカスモードを判別することができる。
【0036】
操作パネル700は、更に、複数のプリセットボタン720を備えている。プリセットボタン720は、パン位置やチルト位置等をビデオカメラ10に記憶させるためのボタンである。本実施例では、3つのプリセットボタンが用意され、各プリセットボタン720には、「1」から「3」までのプリセット番号PNが割り当てられている。
【0037】
マイクロコンピュータ400は、操作パネル700を介して、ユーザによるいずれかのプリセットボタン720の長押しを検出すると、現在のパン位置、チルト位置、ズームレンズ位置、フォーカスレンズ位置、各種モードの設定等を表すパラメータを、そのプリセットボタン720の番号に対応させてEEPROM600に不揮発的に記憶させる。こうしてEEPROM600に記憶された各パラメータのことを、以下では「プリセット値」という。なお、本実施例において、「長押し」とは、プリセットボタン720を2秒以上押し続けてからそのボタンを解放することをいう。
【0038】
また、マイクロコンピュータ400は、操作パネルを介してユーザによるいずれかのプリセットボタン720の短押しを検出すると、そのプリセット番号PNに対応付けて記憶されたプリセット値をEEPROM600から読み込み、その値に応じて、パン位置やチルト位置、ズームレンズ位置、フォーカスレンズ位置、各種モードを調整する。なお、本実施例において、「短押し」とは、プリセットボタン720を押してから1秒以内にそのボタンを解放することをいう。
【0039】
操作パネル700には、上述した以外にも、例えば、露出モードの設定を行うボタンや、撮影された像を静止画として保存するボタン、撮影された映像に対して種々の画像処理を行うためのボタンなど、種々のボタンが備えられている。本実施例では、操作パネル700は、ビデオカメラ10に一体的に備えられているものとする。しかし、操作パネル700は、所定の通信路を介してビデオカメラ10とは遠隔の場所に設置されているものとしてもよい。また、操作パネル700は、出力端子800に接続される外部機器に備えられているものとしてもよい。そのほか、赤外線や超音波、各種無線手段によってビデオカメラ10と通信を行うリモートコントローラとして構成することも可能である。
【0040】
マイクロコンピュータ400は、操作パネル700を介したユーザによる操作指示に応じて、チルトモータ540やパンモータ550、ズームモータ510、フォーカスモータ530等の各モータの駆動制御を行う機能を備えている。
【0041】
また、マイクロコンピュータ400は、AF回路330からAF評価値を入力し、このAF評価値に応じて、フォーカスレンズ150の合焦位置を調整する機能を備えている。具体的には、フォーカスレンズ150を光軸方向に微振動させつつ、入力したAF評価値の増減に基づき、AF評価値の山登り方向を判断する。そして、その方向にフォーカスレンズ150を移動させながら入力したAF評価値が、ピークとなる位置を合焦位置として判断し、その位置にフォーカスレンズ150を移動させる。こうすることでマイクロコンピュータ400は、フォーカスレンズ150の合焦位置を自動的に調整することができる。このような制御は、「山登り制御」として広く知られた制御方法である。なお、マイクロコンピュータ400は、本願の「プリセット動作部」、「制限部」、「合焦制御部」に対応し、EEPROM600は、本願の「プリセット値記憶部」に対応する。
【0042】
B.メイン処理:
図3は、ビデオカメラ10の電源が投入された後にマイクロコンピュータ400が常時実行するメイン処理のフローチャートである。
【0043】
この処理が開始されると、マイクロコンピュータ400は、操作パネル700を介してユーザによる操作を受け付け、その操作に応じた動作を行う(ステップS10)。具体的には、パンボタンが操作された場合には、パンモータ550を制御して、ビデオカメラ10を指定された方向にパン動作させ、チルトボタンが操作された場合には、チルトモータ540を制御して、ビデオカメラ10を指定された角度にチルド動作させる。また、ズームボタンが押された場合には、ズームモータ510を制御して指定された倍率にズームを行い、マニュアルフォーカスモード時にフォーカスボタンが押されれば、フォーカスモータ530を制御して、近方向もしくは遠方向の指定された方向にフォーカスを行う。
【0044】
次に、マイクロコンピュータ400は、フォーカスモードフラグFLを参照し、操作パネル700によって設定されたフォーカスモードが、オートモード(FL=1)であるかを判断する(ステップS20)。オートモード(FL=1)であれば、後述するオートフォーカス処理を行い(ステップS30)、マニュアルモード(FL=0)であれば、このステップS30の処理はスキップする。
【0045】
続いて、マイクロコンピュータ400は、1番から3番までのいずれかのプリセットボタン720が長押しされたかを検出する(ステップS40)。いずれかのプリセットボタン720が長押しされれば、そのボタンのプリセット番号PNに対応付けて、パン位置、チルト位置、ズームレンズ位置、フォーカスレンズ位置、各種モードの設定等のパラメータをEEPROM600に記憶するプリセット値記憶処理を実行する(ステップS50)。長押しされなければ、このステップS50の処理はスキップする。プリセット値記憶処理の詳細については後述する。
【0046】
続いて、マイクロコンピュータ400は、1番から3番までのいずれかのプリセットボタンが短押しされたかを検出する(ステップS60)。いずれかのプリセットボタン720が短押しされれば、そのボタンのプリセット番号PNに対応付けられたプリセット値をEEPROM600から読み出してチルト位置等を調整するプリセット動作処理を実行する(ステップS70)。短押しされなければ、このステップS70の処理はスキップする。プリセット動作処理の詳細については後述する。以上で説明した一連の処理により当該メイン処理は終了し、マイクロコンピュータ400は、引き続き、このメイン処理を繰り返して実行する。
【0047】
C.プリセット値記憶処理:
図4は、上述したメイン処理のステップS50でマイクロコンピュータ400が実行するプリセット値記憶処理の詳細なフローチャートである。この処理が開始されると、マイクロコンピュータ400は、上記メイン処理のステップS40において長押しされたプリセットボタン720のプリセット番号PNを判別する(ステップS100)。そして、現在のズームレンズ位置、フォーカスレンズ位置、パン位置、チルト位置等の光学系の特性値を内部RAMから取得する(ステップS110)。これらのパラメータは、マイクロコンピュータ400がズームモータ510等の各モータの駆動制御をするためにRAM内に記憶しているパラメータである。
【0048】
更に、マイクロコンピュータ400は、現在の露出モードを取得するとともに(ステップS120)、フォーカスモードフラグFLを参照することで現在のフォーカスモードを取得する(ステップS130)。そして、現在のフォーカスモードがオートであるかマニュアルであるかを判断する(ステップS140)。
【0049】
フォーカスモードがオートモード(FL=1)であれば、マイクロコンピュータ400は、現在のフォーカスレンズ150が合焦状態であるかを判断する(ステップS150)。合焦状態であるか否かは、AF回路330から取得されるAF評価値がピーク値であるかを公知の山登り制御によって検出することで判断することができる。この処理によって、AF評価値がピーク値であり、合焦していると判断した場合には(ステップS150:Yes)、マイクロコンピュータ400は、後述するオートフォーカス処理で用いる「合焦位置パラメータFP」を、現在のフォーカスレンズ150の位置に設定するとともに(ステップS160)、同じく、オートフォーカス処理で用いる「背景位置パラメータBP」についても、現在のフォーカスレンズ150の位置に設定する(ステップS170)。
【0050】
上記ステップS150において、現在のフォーカスレンズ150が合焦状態ではないと判断した場合には(ステップS150:No)、マイクロコンピュータ400は、合焦位置パラメータFPおよび背景位置パラメータBPの値をクリアする(ステップS180,S190)。
【0051】
上述した一連の処理によって、現在のズームレンズ位置、フォーカスレンズ位置、パン位置、チルト位置、露出モード、フォーカスモードが取得され、更に、合焦位置パラメータFPと、背景位置パラメータBPとが用意される。そこで、マイクロコンピュータ400は、これらのパラメータの値をプリセット値として上記ステップS100で判別したプリセット番号PNに対応付けてEEPROM600に書き込む(ステップS200)。
【0052】
以上で説明したプリセット値記憶処理によれば、ユーザが操作パネル700上のいずれかのプリセットボタン720を長押しした場合に、そのプリセット番号PNに対応付けて、ビデオカメラ10の撮影方向やズームレンズの位置、フォーカスレンズの位置をEEPROM600に記憶させることができる。
【0053】
D.プリセット動作処理:
図5は、上述したメイン処理のステップS70でマイクロコンピュータ400が実行するプリセット動作処理の詳細なフローチャートである。このプリセット動作処理は、EEPROM600に記憶されたプリセット値に基づき、パン位置やチルト位置、ズームレンズ位置等を調整する処理である。
【0054】
この処理が開始されると、マイクロコンピュータ400は、メイン処理のステップS60で短押しされたプリセットボタン720のプリセット番号PNを判別する(ステップS300)、そして、判別したプリセット番号PNに対応するプリセット値をEEPROM600から読み込む(ステップS310)。
【0055】
EEPROM600からプリセット値を読み込むと、マイクロコンピュータ400は、読み込んだプリセット値に基づき、ズームモータ510等の各種モータを制御して、ズームレンズ位置、パン位置、チルト位置を調整し、更に、フォーカスレンズ150の位置を合焦位置パラメータFPによって表される位置に移動させる(ステップS320)。このとき、合焦位置パラメータFPがクリアされていれば、フォーカスレンズ150は移動されないことになる。そして、更に、マイクロコンピュータ400は、露出モードおよびフォーカスモードを、読み込んだプリセット値に基づき設定する(ステップS330)。
【0056】
続いて、マイクロコンピュータ400は、上記ステップS330によって設定されたフォーカスモードがオートであるかマニュアルであるかを判断する(ステップS340)。オートモード(FL=1)であれば、後述するオートフォーカス処理を実行し(ステップS350)、当該プリセット動作処理を終了する。このオートフォーカス処理により、上記ステップS320で、以前の合焦位置に移動されたフォーカスレンズ150を、再び、正確に合焦させることができる。一方、マニュアルモード(FL=0)であれば、オートフォーカス処理を実行することなく、当該プリセット動作処理を終了する。
【0057】
なお、上記ステップS350においてオートフォーカス処理を実行する際には、マイクロコンピュータ400は、現在、自身がプリセット動作処理の実行中であることを表すプリセット動作フラグPFを「1」を設定し、オートフォーカス処理からリターンした場合に、このフラグPFを「0」に設定するものとする。このプリセット動作フラグPFを参照すれば、後述するオートフォーカス処理がプリセット動作処理から呼び出されたか否かを容易に判断することが可能となる。
【0058】
以上で説明したプリセット動作処理によれば、予めEEPROM600に記憶されたプリセット値を読み出すことで、パン位置やチルト位置、ズームレンズ位置等を、ユーザが頻繁に利用する位置に容易に移動させることが可能になる。
【0059】
E.オートフォーカス処理:
図6は、上記メイン処理のステップS30もしくは上記プリセット動作処理のステップS350においてマイクロコンピュータ400が実行するオートフォーカス処理の詳細なフローチャートである。このオートフォーカス処理は、フォーカスレンズ150を被写体に自動的に合焦させるための処理である。
【0060】
この処理が開始されると、マイクロコンピュータ400は、プリセット動作フラグPFを参照し、このオートフォーカス処理がプリセット動作処理から呼び出されたかを判断する(ステップS400)。プリセット動作処理から呼び出されていなければ(ステップS400:No)、フォーカスレンズ150の可動範囲を、近方向端部から遠方向端部までの全域に設定し(ステップS410)、この可動範囲内において山登り制御を行うことで合焦位置にフォーカスレンズ150を移動させる(ステップS420)。こうすることで、メイン処理実行時には、確実にフォーカスレンズ150を被写体に合焦させることができる。なお、「近方向端部」、「遠方向端部」とは、フォーカスレンズ150が移動可能な範囲における端部のことをいい、レンズユニット100の端部を意味するわけではない。
【0061】
一方、当該オートフォーカス処理がプリセット動作処理から呼び出されていれば(ステップS400:Yes)、マイクロコンピュータ400は、フォーカスレンズ150の可動範囲を、近方向端部から背景位置パラメータBPによって表される位置までの間に制限する(ステップS430)。そして、この可動範囲内において、フォーカスレンズ150の山登り制御を行う(ステップS450)。背景位置パラメータBPがクリアされている場合には、フォーカスレンズ150の可動範囲は、近方向端部から遠方向端部までの全域に設定される。
【0062】
図7は、フォーカスレンズ150の可動範囲の概念を視覚的に示す説明図である。図示するように、フォーカスレンズ150は、レンズユニット100内を近方向端部から遠方向端部まで移動可能であるが、当該オートフォーカス処理がプリセット動作処理から呼び出されていれば、その可能範囲は近方向端部から背景位置パラメータBPによって表される位置までの間に制限される。背景位置パラメータBPによって表されるレンズの位置は、プリセット値記憶処理において、一旦合焦されたレンズの位置である。このレンズの位置は、撮影方向に人物等の被写体が存在しなければ、その背景として存在する壁や床などに焦点が合う位置(背景位置)となる。従って、マイクロコンピュータ400は、フォーカスレンズ150の可動範囲を近端から背景位置までに制限して山登り制御を行うことで、背景とビデオカメラ10との間に存在する被写体に迅速に焦点を合わせることが可能になる。
【0063】
続いて、マイクロコンピュータ400は、上記ステップS450の山登り制御の結果、フォーカスレンズ150が合焦したかどうかを判断する(ステップS460)。合焦した場合には(ステップS460:No)、合焦位置パラメータFPを、合焦したフォーカスレンズ150の位置に更新し(ステップS470)、その値をEEPROM600に書き込む(ステップS480)。
【0064】
一方、近方向端部から背景位置までの範囲で合焦されなかった場合には(ステップS460:Yes)、ビデオカメラ10の設置場所が変更されか、背景となる壁や床のレイアウトが変更されたおそれがあるため、マイクロコンピュータ400は、フォーカスレンズ150の可動範囲の制限を解除する(ステップS490)。そして、再度、近方向端部から遠方向端部までの全域を用いて山登り制御を行い、フォーカスレンズ150を合焦させる(ステップS500)。このとき、マイクロコンピュータ400は、これまで移動を制限していた範囲を優先させて山登り制御を行う。
【0065】
こうして再度の山登り制御を行うと、マイクロコンピュータ400は、背景位置パラメータBPを、この山登り制御の結果合焦したフォーカスレンズ150の位置に更新するとともに(ステップS510)、合焦位置パラメータFPについても、上記山登り制御の結果合焦したフォーカスレンズ150の位置に更新する(ステップS470)。こうすることで、ビデオカメラ10の設置場所が変更されたり、背景のレイアウトが変更されたりしても、このような変更を迅速にプリセット値に反映させることが可能になる。マイクロコンピュータ400は、最後に、これらの更新結果を、EEPROM600に書き込み(ステップS480)、当該オートフォーカス処理を終了する。
【0066】
以上で説明した本実施例のビデオカメラ10によれば、プリセット動作の過程においてオートフォーカスを行う際には、フォーカスレンズ150の移動範囲を背景位置から近方向端部までに制限するため、フォーカスレンズ150の移動量を削減することができる。この結果、プリセット動作時における山登り制御を迅速に行うことが可能となる。
【0067】
また、本実施例では、ビデオカメラ10の設置場所が変更されたり、背景となる壁や床のレイアウトが変更されたことにより、制限された可動範囲内においてフォーカスレンズ150が合焦しなくても、この制限を解除した上で、再度、可動範囲を全域とした山登り制御を行う。そのため、確実に、フォーカスレンズ150を合焦させることが可能になる。
【0068】
更に、本実施例では、レンズの可動範囲の制限を解除して再度の山登り制御を行う場合に、一旦山登り制御を行った範囲以外の範囲を優先させて山登り制御を行う。従って、この場合においても、迅速にフォーカスレンズ150を合焦させることが可能になる。
【0069】
以上、本発明の実施例について説明したが、本発明はこのような実施例に限定されず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の構成を採ることができることはいうまでもない。
【0070】
例えば、本実施例では、ビデオカメラ10のオートフォーカス動作について説明したが、スチルカメラのオートフォーカス時にも本実施例の制御方法を適用することができる。
【0071】
また、上記実施例では、ユーザからプリセットボタン720が短押しされた場合にプリセット動作処理を実行するものとした。これに対して、例えば、スケジューリングされた時間タイミングで自動的にプリセット動作処理を実行するものとしてもよい。また、ビデオカメラ10の可動範囲に進入する物体を検出するセンサを備えるものとし、このセンサによって物体を検出した場合に、プリセット動作処理を実行するものとしてもよい。つまり、プリセット動作処理は、ユーザからの明示的な指示によって実行されるだけでなく、ビデオカメラ10が所定のタイミングで行うものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】ビデオカメラ10の外観図である。
【図2】ビデオカメラ10の概略構成を示すブロック図である。
【図3】メイン処理のフローチャートである。
【図4】プリセット値記憶処理の詳細なフローチャートである。
【図5】プリセット動作処理の詳細なフローチャートである。
【図6】オートフォーカス処理の詳細なフローチャートである。
【図7】フォーカスレンズの可動範囲の概念を視覚的に示す説明図である。
【符号の説明】
【0073】
10...ビデオカメラ
12...台座
14...レンズ包囲フレーム
100...レンズユニット
110...第1レンズ
120...ズームレンズ
130...アイリス機構
140...第3レンズ
150...フォーカスレンズ
170...第1原点センサ
180...第2原点センサ
200...CCD
310...AGC回路
320...画像処理DSP
330...AF回路
400...マイクロコンピュータ
510...ズームモータ
515...ズームドライバ
520...アイリスモータ
525...アイリスドライバ
530...フォーカスモータ
535...フォーカスドライバ
540...チルトモータ
545...チルトドライバ
550...パンモータ
555...パンドライバ
600...EEPROM
700...操作パネル
710...フォーカスモードボタン
720...プリセットボタン
800...出力端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズを有する光学系を介して被写体を撮影する撮影装置であって、
前記光学系の撮影方向が調節可能な撮影方向調節部と、
前記光学系の特性を調整することで該光学系の焦点を調整する焦点調整部と、
調節された前記撮影方向と、該撮影方向において前記光学系が合焦した際の該光学系の特性値とをプリセット値として記憶するプリセット値記憶部と、
所定のタイミングで前記プリセット値を読み出し、該プリセット値に基づき、前記光学系の撮影方向を調節するとともに、該光学系の特性を調整するプリセット動作部と、
前記特性値の調整範囲を、前記プリセット値として記憶された特性値から、前記焦点が至近となる特性値までに制限する制限部と、
前記制限された調整範囲内において、前記調整された光学系の特性値を変更しつつ、該光学系によって撮影した像を解析して該光学系を被写体に合焦させる合焦制御を行う合焦制御部と
を備える撮影装置。
【請求項2】
請求項1に記載の撮影装置であって、
前記焦点調整部は、前記光学系の特性として、前記レンズの光軸上の位置を調整することで前記焦点を調整するものである
撮影装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の撮影装置であって、
前記合焦制御部は、前記制限された調整範囲内において前記焦点が合焦しないと判断した場合に、前記制限を解除し、前記調整範囲全域を用いて、前記合焦制御を行う再合焦制御部を備える
撮影装置。
【請求項4】
請求項3に記載の撮影装置であって、
前記再合焦制御部は、前記調整範囲全域のうち、前記解除前において制限されていた調整範囲以外の範囲での前記特性値を優先させて、前記合焦制御を行う
撮影装置。
【請求項5】
請求項3または請求項4に記載の撮影装置であって、
前記再合焦制御部は、前記制限が解除された調整範囲内において前記焦点が合焦した場合に、前記プリセット値を、該合焦した際の前記特性値に更新する更新部を備える
撮影装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の撮影装置であって、
前記合焦制御部は、前記光学系によって撮影した像の高周波成分がピーク値となるように前記特性値を変更することで前記合焦制御を行う
撮影装置。
【請求項7】
レンズを有する光学系を介して被写体を撮影する撮影装置の焦点を調整する焦点調整方法であって、
前記光学系の撮影方向を調節し、
前記光学系の特性を調整することで該光学系の焦点を調整し、
調節された前記撮影方向と、該撮影方向において前記光学系が合焦した際の該光学系の特性値とをプリセット値として記憶し、
所定のタイミングで前記プリセット値を読み出し、該プリセット値に基づき、前記光学系の撮影方向を調節するとともに、前記光学系の特性を調整し、
前記特性値の調整範囲を、前記プリセット値として記憶された特性値から、前記焦点が至近となる特性値までに制限し、
前記制限された調整範囲内において、前記調整された光学系の特性値を変更しつつ、該光学系によって撮影した像を解析して該光学系を被写体に合焦させる合焦制御を行う
焦点調整方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−165142(P2008−165142A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−458(P2007−458)
【出願日】平成19年1月5日(2007.1.5)
【出願人】(000000424)株式会社エルモ社 (104)
【Fターム(参考)】