説明

改質ポリエステル樹脂組成物、および上記ポリエステル樹脂組成物の成形体

【課題】本発明は、耐衝撃性に優れた改質ポリエステル樹脂組成物、およびこれを用いた成形体を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明の改質ポリエステル樹脂組成物は、エポキシ基を有するトランス型ポリイソプレンからなる樹脂改質剤と、ポリエステル樹脂と、を加熱混合することにより、耐衝撃性に優れた組成物となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐衝撃性に優れたポリエステル樹脂組成物、および上記ポリエステル樹脂組成物の成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、温暖化現象などの環境問題に鑑み、ポリエステル系樹脂の研究開発においては低環境負荷であるポリ乳酸などが注目されている。該ポリ乳酸などのポリエステル系樹脂は、生分解性樹脂であり、さらに強度に優れ、かつ弾性に富むが、耐衝撃性が充分でないため改良の検討が種々行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、脂肪族ポリエステルおよび変性エラストマーを含有する組成物をアニール処理した結晶性生分解性樹脂組成物が開示されている。
また、特許文献2には、脂肪族ポリエステルに未変性天然ゴムと共に所定量のエポキシ化天然ゴムを含有せしめた脂肪族ポリエステル組成物が開示されている。
さらに、特許文献3には、ポリ乳酸系樹脂とエラストマーとを含有する生分解性樹脂組成物が記載されており、このようなエラストマーとしてエポキシ化天然ゴムの含有量が25重量%以上であるエポキシ化天然ゴムと天然ゴムとの混合物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−35691号公報
【特許文献2】特開2005−29758号公報
【特許文献3】米国特許第5922832号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記した従来のポリエステル系樹脂は、依然として耐衝撃性が充分でなく、さらに耐衝撃性能を向上させたポリエステル系樹脂の提供が望まれていた。
【0006】
そこで、本発明は、上記問題を解消して耐衝撃性能が向上した改質ポリエステル樹脂組成物、および上記改質ポリエステル樹脂組成物の成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するための手段として、エポキシ基を有するトランス型ポリイソプレンからなる樹脂改質剤と、ポリエステル樹脂と、を加熱混合して得られる改質ポリエステル樹脂組成物を提供するものである。
上記樹脂改質剤と上記ポリエステル樹脂とは、5:95〜50:50質量比に配合されていることが望ましい。
また、上記ポリエステル樹脂は、融点が150℃〜250℃の範囲であることが望ましく、さらに155℃〜230℃の範囲であることがより望ましい。
また、上記ポリエステル樹脂は、ポリ乳酸および/またはポリブチレンテレフタレートであることが望ましい。
さらに、本発明は、上記の改質ポリエステル樹脂組成物を加熱成形して得られる成形体を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
〔作用〕
本発明の改質ポリエステル樹脂組成物は、樹脂改質剤としてエポキシ基を有するトランス型ポリイソプレンを含み、従来構成に比べて耐衝撃性に優れている。
上記改質ポリエステル樹脂組成物において、上記樹脂改質剤と上記ポリエステル樹脂とを5:95〜50:50質量比に配合すると、より一層耐衝撃性に優れた改質ポリエステル樹脂組成物が得られる。
また、上記ポリエステル樹脂の融点を150℃〜250℃の範囲とすると、耐熱性および成形性の点においてバランスに優れた改質ポリエステル樹脂組成物が得られる。
さらに、上記ポリエステル樹脂を、ポリ乳酸とすると低環境負荷の組成物とすることができ、またポリブチレンテレフタレートとすると、耐熱性に優れた組成物とすることができる。
さらに、上記改質ポリエステル樹脂組成物を加熱成形して得られた成形体は、耐衝撃性に優れた成形品となる。
【0009】
〔効果〕
本発明では、耐衝撃性に優れた改質ポリエステル樹脂組成物、および耐衝撃性に優れた成形体が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の改質ポリエステル樹脂組成物、およびこの成形体の実施形態を説明する。
【0011】
本発明の改質ポリエステル樹脂組成物は、エポキシ基を有するトランス型ポリイソプレン(以下、エポキシ化変性トランス型ポリイソプレンという。)からなる樹脂改質剤と、ポリエステル樹脂と、を加熱混合して得られる。
【0012】
〔樹脂改質剤〕
本発明の樹脂改質剤としては、エポキシ化変性トランス型ポリイソプレンが用いられる。なお、ポリイソプレンとしては、シス型ポリイソプレンとトランス型ポリイソプレンとがあり、天然ゴムの大部分はシス型ポリイソプレンであるが、本発明者は、該シス型ポリイソプレンはトランス型ポリイソプレンに比べて、ポリエステル樹脂に対する耐衝撃性向上効果が劣る場合があることを見出した。特に本発明ではエポキシ基で変性したトランス型ポリイソプレンを使用するが、上記エポキシ基を有するトランス型ポリイソプレンは、エポキシ基がポリエステル樹脂の有する官能基と反応して化学結合を生ずるので、トランス型ポリイソプレンとポリエステル樹脂とが密接に結びつく結果、耐衝撃性能向上効果が顕著に発揮される。
本発明において、樹脂改質剤として使用するエポキシ化変性トランス型ポリイソプレンのエポキシ化率は20〜60%の範囲が望ましい。エポキシ化率が20%を下回る場合には、ポリエステル樹脂との反応性が充分でなく、エポキシ化率が60%を超えると樹脂が不安定になる傾向がある。該エポキシ化率は、原料としてのトランス型ポリイソプレン中の二重結合がエポキシ化されている割合を示す。
なお、エポキシ化変性トランス型ポリイソプレンは、酸化剤であるOXONE(商標名:デュポン株式会社)を用いたトランス型ポリイソプレンのエポキシ化等の公知の方法で得ることができる。例えば、エポキシ化変性トランス型ポリイソプレンの製造方法として、以下のような方法がある。
三ツ口フラスコにイオン交換水140ml、アセトン110ml、炭酸水素ナトリウム96gを入れ、攪拌する。攪拌後、さらに固体のOXONE180gを少量ずつ加えつつ、アルゴンでバブリングし、発生した気体をドライアイス−アセトン−トラップで液体にして捕集する。全てのOXONEを加えて液体の捕集が完了したところで、該液体に無水硫酸ナトリウムを加えて栓をし、冷凍保存してジメチルジオキシランアセトン溶液を34ml得る。一方、トランス型ポリイソプレン0.21gをトルエン60mlに溶解させた溶液を準備し、該容器に、濾過した上記ジメチルジオキシランアセトン溶液を20分かけて滴下し、一晩室温で攪拌する。攪拌後、かかる反応液をメタノール80mlに攪拌しながら加え、1時間以上攪拌した後、濾過、乾燥して無色のゴム状物質であるエポキシ化変性トランス型ポリイソプレン0.20gを得る。
【0013】
〔ポリエステル樹脂〕
本発明のポリエステル樹脂とは、主鎖にエステル結合を有した重合体である。上記ポリエステル樹脂としては、例えばポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ(3−ヒドロキシ酪酸)、ポリ(4−ヒドロキシ酪酸)、ポリ(4−ヒドロキシ吉草酸)、ポリカプロラクトン等の開環重付加系脂肪族ポリエステル、並びに、ポリエステルカーボネート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリヘキサメチレンサクシネート、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリヘキサメチレンアジペート、ポリエチレンオキサレート、ポリブチレンオキサレート、ポリヘキサメチレンオキサレート、ポリエチレンセバケート、ポリブチレンセバケート等の重縮合反応系脂肪族ポリエステルがあるが、そのなかでも特にポリ乳酸またはポリブチレンテレフタレート(PBT)が望ましい。
ポリ乳酸(PLA)は乳酸がエステル結合によって重合して高分子化した樹脂である。乳酸にはL体とD体の2種が存在するが、L体のみを重合させたものはポリ−L−乳酸(PLLA)、D体のみを重合させたものはポリ−D−乳酸(PDLA)と呼ばれ、主鎖がそれぞれ逆回りのらせん構造をとる。PLLAとPDLAとの混合物は上記らせん構造の噛み合いが良好であり、耐熱性が高くなる。
上記PLAはラクチド法あるいは直接重合法によって製造され、生分解性があり、かつカーボンニュートラルな樹脂(合成過程と生分解過程とのトータルとして見た場合、二酸化炭素の量を増やさない樹脂)である。
ポリブチレンテレフタレート(PBT)はテレフタル酸と、1,4−ブタンジオールとから製造され、熱安定性や寸法精度、電気特性に優れている。
上記ポリエステル樹脂は、上記1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、上記ポリエステル樹脂は、融点が150℃〜250℃の範囲であることが望ましく、さらには155℃〜230℃の範囲であることが望ましい。該融点が150℃に満たない場合は、成形品の耐熱性が低下してしまい、250℃を超えた場合、加熱成形が困難となる。該ポリエステル樹脂の融点は、JIS K 7121に準拠して求められる。
【0014】
〔その他の成分〕
上記成分以外にも所望により、本発明の特徴を損なわない範囲において、必要に応じて他の成分を配合することができる。望ましいその他の成分としては、本発明の組成物を押出成形、射出成形等によって成形する際、溶融物の張力が向上して延展性を向上させる添加剤があり、このような添加剤としては、例えばステアリン酸カルシウム等の高級脂肪酸塩類がある。
その他、例えばタルク、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、亜硫酸カルシウム、燐酸カルシウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化鉄、酸化亜鉛、アルミナ、シリカ、珪藻土、ドロマイト、石膏、焼成クレー、アスベスト、マイカ、ケイ酸カルシウム、ベントナイト、ホワイトカーボン、カーボンブラック、鉄粉、アルミニウム粉、石粉、高炉スラグ、フライアッシュ、セメント、ジルコニア粉等の無機充填材や、リンター、リネン、サイザル、木粉、ヤシ粉、クルミ粉、でん粉、小麦粉、米粉等の有機充填材や、木綿、麻、羊毛等の天然繊維、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ビスコース繊維、アセテート繊維等の有機合成繊維や、アスベスト繊維、ガラス繊維、炭素繊維、セラミック繊維、金属繊維、ウィスカー繊維等の繊維充填材や、色素、顔料、カーボンブラックなどの着色剤や、あるいは、帯電防止剤、導電性付与剤、老化防止剤、難燃剤、防炎剤、撥水剤、撥油剤、防虫剤、防腐剤、ワックス類、界面活性剤、滑剤、紫外線吸収剤、DBP、DOP、熱安定剤、キレート剤、分散剤等の各種添加剤を添加してもよい。
また、本発明の組成物は、本発明の特徴を損なわない範囲であれば、他のポリマーをブレンドして使用することも可能である。
【0015】
〔配合〕
本発明において望ましい配合は、上記樹脂改質剤と上記ポリエステル樹脂との質量比が5:95〜50:50の割合であり、さらに望ましくは20:80〜30:70の割合である。上記範囲を超えて該樹脂改質剤が多く添加された場合、成形性の悪化あるいは環境負荷の増大のおそれが生じてしまい、一方上記範囲よりも該樹脂改質剤が少なく添加された場合、改質ポリエステル樹脂組成物の耐衝撃性が充分に得られない。
【0016】
〔成形体〕
改質ポリエステル樹脂組成物を加熱成形して成形体を得るには、ブロー成形、射出成形、射出ブロー成形、インフレーション成形、真空圧空成形、あるいは異形押出成形や紡糸押出成形などの押出成形などが選択可能であり、ブロー成形品、射出成形品、圧縮成形品、押出成形品等としては、フィルム状、ボトル等の各種容器状、繊維状など種々な形状とすることが可能である。
【0017】
以下、実施例および比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0018】
〔実施例1〕
エポキシ化変性トランス型ポリイソプレン(エポキシ化率31%)と、ポリ乳酸(海生生物材料有限公司製、REVODE110、融点:160℃)とを10:90の質量比で混合し、なおかつ該混合物100質量部に対してステアリン酸カルシウム(堺化学工業株式会社製、SC−PG)1質量部を添加し、これらをBrabender社製プラストミルを用いて180℃、混練速度60rpmで溶融混練し、組成物を得た。次に、該組成物をプレス機にて200℃で熱プレス成形し、2mm厚シートを得た。そして、該シートを切削機(大阪ワイエス工機株式会社製)、サンプルマシン(東洋精機製作所製)、およびノッチングツール(東洋精機製作所製)を用いてノッチ入りのシャルピー衝撃試験片を作成した。シャルピー衝撃試験は試験片が2mm厚であることを除き、JIS K 7111−1に準拠した。得られた耐衝撃性の測定結果を表1に示す。
【0019】
〔実施例2〕
実施例1のエポキシ化変性トランス型ポリイソプレンと、ポリ乳酸との質量比を20:80に変更した以外は実施例1と同様にして試験を行った。得られた耐衝撃性の測定結果を表1に示す。
【0020】
〔実施例3〕
実施例1のエポキシ化変性トランス型ポリイソプレンと、ポリ乳酸との質量比を30:70に変更した以外は実施例1と同様にして試験を行った。得られた耐衝撃性の測定結果を表1に示す。
【0021】
〔実施例4〕
実施例3のポリ乳酸を、ポリブチレンテレフタレート(ウィンテックポリマー株式会社製、ジュラネックス2002、融点:225℃)に代え、混練温度240℃、熱プレス温度245℃とした以外は実施例1と同様にして試験を行った。得られた耐衝撃性の測定結果を表1に示す。
【0022】
〔比較例1〕
エポキシ化変性トランス型ポリイソプレンを添加しなかったこと以外は実施例1と同様にして試験を行った。得られた耐衝撃性の測定結果を表2に示す。
【0023】
〔比較例2〕
実施例3のエポキシ化変性トランス型ポリイソプレンを、未変性トランス型ポリイソプレン(株式会社クラレ製、TP−301)に代えた以外は実施例3と同様にして試験を行った。得られた耐衝撃性の測定結果を表2に示す。
【0024】
〔比較例3〕
実施例3のエポキシ化変性トランス型ポリイソプレンを、エポキシ化変性シス型ポリイソプレン(MMGPCL.製、ENR50、エポキシ化率50%)に代えた以外は実施例3と同様にして試験を行った。得られた耐衝撃性の測定結果を表2に示す。
【0025】
〔比較例4〕
比較例1のポリ乳酸を、ポリブチレンテレフタレートに代えた以外は比較例1と同様にして試験を行った。得られた耐衝撃性の測定結果を表2に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
【表2】

【0028】
上記表1,2に示した結果から明らかなように、樹脂改質剤としてエポキシ化変性トランス型ポリイソプレンを用いた場合(実施例1〜4)は、得られた成形体において耐衝撃性が充分に高かった。一方、樹脂改質剤を一切含まない場合(比較例1,4)、さらに樹脂改質剤として未変性のトランス型ポリイソプレンを用いた場合(比較例2)は、耐衝撃性が低くなった。また、樹脂改質剤としてエポキシ化変性シス型イソプレンを用いた場合(比較例3)は、耐衝撃性の向上は見られたが、対応する実施例3の結果と比べると低くなった。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の改質ポリエステル樹脂組成物、および上記改質ポリエステル樹脂組成物を用いた成形体は、耐衝撃性に優れており、様々な形状に成形されて有用であるから、産業上利用可能である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ基を有するトランス型ポリイソプレンからなる樹脂改質剤と、ポリエステル樹脂と、を加熱混合して得られる改質ポリエステル樹脂組成物。
【請求項2】
上記樹脂改質剤と上記ポリエステル樹脂とは、5:95〜50:50質量比に配合されている請求項1に記載の改質ポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
上記ポリエステル樹脂は、融点が150℃〜250℃の範囲である請求項1または2に記載の改質ポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
上記ポリエステル樹脂は、ポリ乳酸および/またはポリブチレンテレフタレートである請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の改質ポリエステル樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の改質ポリエステル樹脂組成物を加熱成形して得られる成形体。


【公開番号】特開2012−107137(P2012−107137A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−258018(P2010−258018)
【出願日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(000000505)アロン化成株式会社 (317)
【Fターム(参考)】