説明

放射性物質の除染・除去方法

【課題】除染率が高く、低コストで、かつ、放射性物質を含む廃棄物の量が少ない放射性物質の除染・除去方法を提供する。
【解決手段】セシウムを主とする放射性物質を含む汚染水を浄化するものであり、生物膜11を用いて汚染水12の放射性物質を除染・除去する生物膜処理工程と、生物膜処理工程により処理した処理水13から余剰汚泥14を分離する余剰汚泥分離工程と、余剰汚泥分離工程により分離した余剰汚泥14を脱水する脱水工程とを含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セシウム(Cs−137・Cs−134)等の放射性物質を含む汚染水を浄化する除染・除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
東京電力福島第一原子力発電所の事故に伴い、セシウムを中心とした放射性物質による汚染が問題となっている。特に、汚染水に含まれる放射性物質のうち水溶性セシウム(Cs−137・Cs−134)については、効果的な除去手段がなく、無機系の吸着材による吸着除去が行われている。しかし、吸着材にかかる費用が高く、しかも、セシウムを吸着させた後の吸着材が産業廃棄物として多量にでてしまうという問題があった。そこで、例えば、脱窒菌を用いてセシウムを除去する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−271306号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1は、原子炉施設等から排出される放射性物質を含む廃液の処理を目的とし、活性汚泥法により処理するものであり、原子炉施設等から排出される廃液に比べて放射性物質の濃度が格段に低い汚染水を処理する場合に、この方法をそのまま適用することは難しい。
また、多量の汚染水を処理しなければならないことを考えると、余剰汚泥の量をより少なくする必要がある。
加えて、先行技術は、セシウム蓄積菌(Rhodococcus)、脱窒菌等の特殊な微生物を用いなければそのセシウム吸着効果の発現が不可であり、汎用性に著しく欠ける点に問題があった。
【0005】
本発明は、このような問題に基づきなされたものであり、除染率が高く、低コストで、かつ、放射性物質を含む廃棄物の量が少ない放射性物質の除染・除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の放射性物質の放射性物質の除染・除去方法は、生物膜を用いて放射性物質を含む汚染水を浄化するものである。
【発明の効果】
【0007】
セシウム蓄積菌がその細胞膜に有するカリウム輸送ポンプを介してセシウムを細胞内に取り込むことが知られており、特許文献1は脱窒菌もまた同様な機構によりセシウムの吸着能をもつことを述べている。
ところで、一般に微生物は多糖類、アミノ酸等の様々な有機物を分泌して膜状の構造体(生物膜)を形成しており、生物膜内には嫌気性菌から好気性菌まで様々な種類の微生物が存在している。発明者らは独自の研究により生物膜に含まれるある種の有機物がセシウムイオンを選択的に吸着することを見出した。
本発明の放射性物質の除染・除去方法によれば、生物膜を用いるようにしたので、生物膜内に住む微生物がカリウム輸送ポンプを介してセシウムを細胞内に取り込む機構と、生物膜自身がセシウムイオンを吸着する機構の2つの機構によりセシウムを吸着することができ、単にカリウム輸送ポンプを介してセシウムを細胞内に取り込む場合と比較して除染率を比較的に高くすることを可能にした。
本発明で使用する微生物は、生物膜を形成する微生物であればその種類を問わず用いることができ、ゼオライト、プルシアンプルー等の高価な吸着剤を全く必要としないので、低コストで汚染水を処理することができる。
また、多段式処理槽を用いて、各槽の生物相をバクテリア、原生生物、後生生物と変えることにより食物連鎖によるセシウム濃縮機構の発現も期待することができ、放射性物質を含む廃棄物の量も少なくすることができる。
【0008】
特に、基幹部の周囲に、複数の繊維条糸を螺旋状に撚った多撚多条糸により網翼を形成した多撚多条糸網翼担体を用いるようにすれば、担体上に生物膜が張られ微生物の大群落を出現させることができ、微生物の個体密度が飛躍的に向上するため、放射性物質の濃度が低い汚染水からも効果的にセシウムを回収することができる。
また、撚多条糸網翼担体を用いることにより、多種多様な微生物を定着増殖させることができ、微生物の大群落の剥離・脱落が抑制され、処理能力を向上させることができると共に、食物連鎖により余剰汚泥の量をより減少させることができる。
【0009】
更に、生物膜により汚染水を処理することにより生じた余剰汚泥をろ布膜を用いて脱水するようにすれば、余剰汚泥の量をより減少させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施の形態に係る放射性物質の除染・除去方法の工程を表す工程図である。
【図2】図1に示した放射性物質の除染・除去方法で用いる担体の構成を表す図である。
【図3】図1に示した放射性物質の除染・除去方法で用いる担体の他の構成を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0012】
図1は、本実施の形態に係る放射性物質の除染・除去方法の工程を表すものである。この放射性物質の除染・除去方法は、セシウムを主とする放射性物質を含む汚染水を浄化するものであり、例えば、生物膜11を用いて汚染水12の放射性物質を除染・除去する生物膜処理工程と、生物膜処理工程により処理した処理水13から余剰汚泥14を分離する余剰汚泥分離工程と、余剰汚泥分離工程により分離した余剰汚泥14を脱水する脱水工程とを含んでいる。
【0013】
生物膜処理工程では、例えば、まず、生物膜11を保持する担体15を配設したpH調節槽16の中に汚染水12を入れ、pH調節剤等により汚染水12のpHを調節する。次いで、生物膜11を保持する担体15を配設した多段式処理槽17の中に、pHを調節した汚染水12を入れ、担体15の表面に付着した微生物の生物膜11により汚染水12を処理する。汚染水12は、多段式処理槽17の中で循環させることが好ましく、必要に応じて、酸素の注入、温度の調節、及び餌の注入等を行う。
【0014】
生物膜処理工程で用いる担体15としては、例えば、図2に示したように、一方向に伸長された基幹部15Aの周囲に、複数の繊維条糸を螺旋状に撚った多撚多条糸により網翼15Bを形成した多撚多条糸網翼担体(特願2010−203692号参照)を用いることが好ましい。
【0015】
基幹部15Aは、例えば、山形に折り返しながら一方向に伸長された複数本(例えば図2では6本)の縦糸15Cを有している。なお、図2では、縦糸15Cを破線で表している。縦糸15Cは、例えば、同一ピッチで配置されており、各縦糸15Cが交差することにより複数の小さな桝目が形成されている。基幹部15Aは、また、この桝目内を縦糸15Cに沿って編みこまれた複数の横糸15Dを有している。なお、図2では、横糸15Dを実線で表している。基幹部15Aは、これら縦糸15C及び横糸15Dにより、縦型レースと呼ばれる編込組織が形成されている。
【0016】
網翼15Bは、基幹部15Aを構成する横糸15Dが、基幹部15Aから外側へ大きく伸出し、穏やかな弧を描きながら再び基幹部15Aへ進入することにより形成された複数のU字形円弧の集合体により構成されている。すなわち、横糸15Dは、複数の桝目内を縦糸15Cに沿って通過することにより基幹部15Aの組織形成に寄与したのち、基幹部15Aから外側へ大きく伸出し、折り返して弧を描きながら基幹部15Aに浸入するという変形コの字運動を繰り返しており、例えば図2では、基幹部15Aの6編目毎に伸出浸入を繰り返している。これにより、網翼15Bは、基幹部15Aの外側に複数のU字形円弧が連続して重なりあい、多数の網目を持つ翼が張り出すように形成されている。
【0017】
横糸15Dは、複数の繊維条糸を螺旋状に撚った多撚条糸により構成されており、複数の多撚条糸を撚り合わせた複合多撚条糸により構成するようにすればより好ましい。微生物をより増殖させることができるからである。横糸15Dの材質としては、例えば、ナイロン、綿、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニリデン、ポリエステル等の有機質、炭素、セラミック等の無機質、又は金属質が挙げられる。横糸15Dの一例としては、例えば、140本の直径3.5μmのナイロンよりなる多撚条糸と、30本の直径10μmのビニリデンよりなる多撚条糸とを撚り合わせた複合多撚条糸が挙げられる。
【0018】
網翼15Bにおける1つのU字形円弧の長さは、液体の中でU字形円弧を維持することができる限り制限はない。例えば、一例を挙げれば60mmから80mm程度である。U字形円弧の両端部間の距離は、例えば、30mmから40mm程度が好ましい。基幹部15Aの幅は、網翼15Bを固定することができればよく、特に制限はない。例えば、一例を挙げれば5mmから20mm程度である。
【0019】
この多撚多条糸網翼担体では、多撚多条糸よりなる各U字形円弧をそれぞれ独立の存在とし、その両端部間に十分な間隔を保って基幹部15Aに植立することにより、基幹部15Aの近傍に微生物の大群落を出現させることができると共に、液体の滞留を防止することができる。これにより、多種多様な微生物が定着増殖し、単位体積当たりの微生物の個体数が増大する。
【0020】
また、この多撚多条糸網翼担体は、例えば図3に示したように、基幹部15Aを捻じることにより網翼15Bを螺旋状とするようにすればより好ましい。網翼15Bが平面状の場合には、液体が網翼15Bの表面を流れるだけであるが、螺旋状とすることにより、液体は網翼15Bの内部を下降する流れと、螺旋に導かれて旋回下降する流れとに分かれるので、生物膜と液体との接触の機会がより多くなるからである。すなわち、担体に張られた生物膜の両面から生物膜内の微生物に対して酸素、栄養物質が供給されるわけである。生物膜の片面のみから酸素が供給される方法と比較して優れた効果をもたらす。また、螺旋状とすることにより、各部分におけるU字形円弧の形状及び密度を維持しながら、担体15の径(容積)が増大し、生物膜と液体との接触の機会がより多くなるからである。これにより、より多種多様な微生物が定着増殖し、処理能力が向上すると共に、食物連鎖により余剰汚泥の量がより減少する。
【0021】
余剰汚泥分離工程では、例えば、生物膜処理工程により処理した処理水を沈殿槽18に移し、濃縮された放射性物質を含む余剰汚泥14を沈殿させて分離する。
【0022】
脱水工程では、例えば、余剰汚泥分離工程により分離した余剰汚泥14をろ布膜19を用いて脱水する。脱水方法としては、例えば、重力吸引脱水又は加圧脱水等が挙げられる。脱水した余剰汚泥14は、例えば、濃縮された放射性物質を含む廃棄物として、ドラム缶等の容器20に注入し封印する。このように余剰汚泥14を脱水することにより、放射性物質を含む廃棄物の量が減少する。
【0023】
このように、本実施の形態によれば、生物膜11を用いるようにしたので、生物膜11内に住む微生物がカリウム輸送ポンプを介してセシウムを細胞内に取り込む機構と、生物膜11自身がセシウムイオンを吸着する機構の2つの機構によりセシウムを吸着することができ、単にカリウム輸送ポンプを介してセシウムを細胞内に取り込む場合と比較して除染率を比較的に高くすることができる。
また、生物膜11を形成する微生物であればその種類を問わず用いることができるので、ゼオライト、プルシアンプルー等の高価な吸着剤が必要なく、低コストで汚染水を処理することができる。
更に、多段式処理槽17を用いて、各槽の生物相をバクテリア、原生生物、後生生物と変えることにより食物連鎖によるセシウム濃縮機構の発現も期待することができ、放射性物質を含む廃棄物の量も少なくすることができる。
【0024】
特に、基幹部15Aの周囲に、複数の繊維条糸を螺旋状に撚った多撚多条糸により網翼15Bを形成した多撚多条糸網翼担体を用いるようにすれば、担体15上に生物膜11が張られ、微生物の大群落を出現させることができ、微生物の個体密度が飛躍的に向上するため、放射性物質の濃度が低い汚染水12からも効果的にセシウムを回収することができる。
また、撚多条糸網翼担体を用いることにより、多種多様な微生物を定着増殖させることができ、微生物の大群落の剥離・脱落が抑制され、処理能力を向上させることができると共に、食物連鎖により余剰汚泥14の量をより減少させることができる。
【0025】
更に、生物膜11により汚染水12を処理することにより生じた余剰汚泥14をろ布膜19を用いて脱水するようにすれば、余剰汚泥14の量をより減少させることができる。
【実施例】
【0026】
担体12として図3に示した多撚多条糸網翼担体を配設した多段式処理槽17の中に、放射性物質を含む汚染水12を入れ、担体12の表面に付着した生物膜11により汚染水12を処理した。汚染水12は、福島県内の小学校のプールから採取した。汚染水12、生物膜11により処理した処理水13、及び、処理により生じた余剰汚泥14について、放射性物質の濃度を測定した。なお、汚染水の処理は数日間にわたり連続して行い、余剰汚泥14については、日を替えて3回採取し、放射性物質の濃度を測定した。得られた結果を表1に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
表1に示したように、汚染水12に含まれていた放射性セシウムは、処理水13では大幅に減少し、高い除染率を得られることが分かった。一方、余剰汚泥14には、放射性セシウムが濃縮されていることが分かった。
【0029】
また、第1回から第3回の余剰汚泥14について、含水率のばらつきを調整するために、含水率を85%及び70%とした場合の放射性セシウムの濃度を計算した。その結果を表2に示す。
【0030】
【表2】

【0031】
表2に示したように、第1回から第3回の余剰汚泥14について、含水率を同一とすると、放射性セシウムの濃度は略同程度となった。すなわち、放射性物質を含む汚染水12生物膜11により安定して処理できることが分かった。また、余剰汚泥14の含水率を85%又は70%まで下げることにより、放射性セシウムの濃度を大幅に濃縮することができ、余剰汚泥14の量を大幅に減少させることができることも分かった。
【0032】
以上、実施の形態及び実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態及び実施例に限定されるものではなく、種々変形可能である。例えば、上記実施の形態及び実施例では、担体12の構成について具体的に説明したが、他の構成を有するようにしてもよい。また、上記実施の形態では、放射性物質の除染・除去方法の各工程について具体的に説明したが、全ての工程を含んでいなくてもよく、また、他の工程を含んでいてもよい。更に、各工程についても他の方法で行ってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0033】
放射性物質を含む汚染水の浄化に用いることができる。
【符号の説明】
【0034】
11…生物膜、12…汚染水、13…処理水、14…余剰汚泥、15…担体、15A…基幹部、15B…網翼、16…pH調節槽、17…多段式処理槽、18…沈殿槽、19…ろ布膜、20…容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物膜を用いて放射性物質を含む汚染水を浄化することを特徴とする放射性物質の除染・除去方法。
【請求項2】
生物膜を保持する担体を配設した処理槽内において放射性物質を含む汚染水を処理する生物膜処理工程を含み、
前記担体として、基幹部の周囲に、複数の繊維条糸を螺旋状に撚った多撚多条糸により網翼を形成した多撚多条糸網翼担体を用いる
ことを特徴とする請求項1記載の放射性物質の除染・除去方法。
【請求項3】
前記生物膜により汚染水を処理することにより生じた余剰汚泥をろ布膜を用いて脱水する工程
を含むことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の放射性物質の除染・除去方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−104765(P2013−104765A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−248243(P2011−248243)
【出願日】平成23年11月14日(2011.11.14)
【出願人】(510245072)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)