説明

放射能汚染土壌の浄化方法

【課題】放射能汚染土壌を効率良く浄化する方法の提供。
【解決手段】放射能汚染土壌に、土壌表面からの水深が少なくとも5cmとなるように水を導入し、当該水と土壌表面を攪拌した後、放置し、土壌を粒径別に分級して粗粒子画分を沈降させた後、細粒子画分を除去する放射能汚染土壌の浄化方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射能汚染土壌を、効率良く浄化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
福島原子力発電所における放射性物質流出事故に伴い、農用地の放射性セシウムが国の暫定基準値(5000Bq/kg)を超過した地域が広範囲に及ぶことが懸念され、汚染地の修復が喫緊の課題となっている。
【0003】
従来、重金属や放射性物質で汚染された土壌の浄化について検討され、例えば、重金属汚染土壌の浄化には、種々の薬剤を用いて、重金属含有土壌から重金属を溶出させて除去することにより、汚染土壌を浄化する方法が検討されている。例えば、薬剤として、カルシウム塩、有機酸、無機酸及びアミノカルボン酸から選ばれる1種以上の水溶液を用いて洗浄する方法(特許文献1)や、土壌pH(H2O)以下において加水分解により水酸イオンを配位して金属水酸化物を生成する金属塩化合物を用いて洗浄する方法(特許文献2)などが提案されている。
しかしながら、放射性物質汚染土壌について適用された例は知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−283743号公報
【特許文献2】特開2005−169381号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、放射能汚染土壌を、効率良く浄化する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、斯かる実情に鑑み、種々検討した結果、放射能汚染土壌に水を導入し、土壌表面と水を攪拌した後、粗粒子画分を沈降させ、細粒子画分を含む土壌懸濁液を排水することにより、放射能汚染土壌を、効率良く浄化できることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、放射能汚染土壌に、土壌表面からの水深が少なくとも5cmとなるように水を導入し、当該水と土壌表面を攪拌した後、放置し、土壌を粒径別に分級して粗粒子画分を沈降させた後、細粒子画分を除去することを特徴とする放射能汚染土壌の浄化方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、放射能汚染土壌を、効率良く浄化することができる。また、土壌表面のみを攪拌するため、作土全体に対する最終的な土壌損失量が少なく、浄化処理に伴う土壌排出量を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明で浄化対象となる汚染土壌としては、市街地、山林、工業跡地、農用地(畑、水田)、沼地、排土等で、放射性物質を含有する土壌が挙げられる。
放射性物質としては、ヨウ素131、放射性セシウム(セシウム134、137)、ストロンチウム90、ウラン、プルトニウム等が挙げられる。
特に、放射性セシウム汚染水田土壌の浄化に好適であり、現位置で浄化することができる。
【0010】
放射性物質、特に放射性セシウムは、土壌の最表面(0−2cm程度)に集積している。そこで、汚染土壌の表面のみを処理することにより、効率良く土壌を浄化することができる。
本発明においては、まず、土壌表面からの水深が5cm以上、好ましくは5〜20cm、より好ましくは10〜20cmとなるように水を導入する。このような深さに水を導入することにより、土壌粒子が分散できる水厚を確保して粒径別に分級する効率を向上させ、排水中に土壌細粒子を多く含ませることができる。
水を水田土壌に導入する際には、畦畔に、水深より深い波板を設置するのが好ましい。
【0011】
土壌表面に導入する水は、アルカリ剤又は分散剤を含有していても良い。
アルカリ剤としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、消石灰、生石灰、炭酸水素ナトリウム等が挙げられ;分散剤としては、ヘキサメタリン酸、ピロリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム等の化学的分散剤が挙げられる。
水田の土壌表面をアルカリ剤で処理する場合には、pH6〜10、特に、pH8〜10となるように用いるのが好ましい。このpHとするために、アルカリ剤の添加量は、1平米あたり0.1〜2モル量を用いるのが、土壌粒子を分散させる点から好ましい。
また、分散剤の濃度は0.1g/L〜2g/Lとするのが好ましい。
【0012】
アルカリ剤又は分散剤は、水に溶解して水溶液として用いる以外に、土壌にアルカリ剤又は分散剤と水を別々に加えて混合しても良いし、水を含む土壌にアルカリ剤又は分散剤を混合しても良い。何れの場合にも、アルカリ剤又は分散剤の濃度や使用量が、前記の範囲内になるように用いれば良い。また、アルカリ剤及び分散剤を併用することもできる。
【0013】
現位置で、分散剤と水を別々に加える場合、例えば、分散剤の施用には肥料撒布機などを用いることができる。水は、通常水田に導水する方法により、加えることができる。
【0014】
また、アルカリ剤又は分散剤を水溶液として加える場合には、例えば、タンクを用いてアルカリ剤又は分散剤を水に溶解し、所定の濃度になるよう混合した後、肥料散布機等を用いて施用できるほか、所定濃度より高濃度の溶液を調製して施用した後、所定濃度になるように水を加えても良い。また、導水時に連続的に薬剤を投入できる装置により施用しても良い。
【0015】
水(又はアルカリ剤若しくは分散剤水溶液)を導入後、導入した水と土壌表面を攪拌する。撹拌は、例えば、フロート式のプロペラ攪拌機や、チェーン攪拌機等を用いて行なうことができる。
攪拌は、土壌表面、特に土壌表面1〜5cm程度を攪拌するのが、効率良く土壌を浄化することができるので好ましい。
土壌表面を攪拌することにより、土壌粒子を水中に分散させ、懸濁状態とする。
【0016】
本発明においては、上記のように土壌表面に水を導入する前に、土壌表面が湿潤される程度に水を加えて放置するのが好ましく、表面の粗大な土塊を崩壊させることができる。また、アルカリ剤又は分散剤を含有する水を用いて浄化する場合に、下部の土壌への影響を抑えることができる。
【0017】
土壌表面の土壌粒子を懸濁状態とした後、放置して、土壌を粒径別に分級させる。放置時間は、土壌により異なるが、1〜100分間、特に1〜45分間程度放置するのが好ましい。この間に、土壌粒子のうち、粗粒子画分の粒子が土壌表面に沈降する。このような粗粒子は、放射性物質含量が低いため、そのまま土壌に戻すことにより、土壌損失量を低減することができる。
【0018】
上記のように放置した後、放射性物質含量の高い細粒子画分を除去する。細粒子画分を除去する方法は特に制限されないが、細粒子画分が、細粒子画分を含む土壌懸濁液である場合には、それを排水すれば良い。また、分級後の細粒子画分を、ユンボ、バックホー、ホイルローダー等を用いて、薄くはぎ取っても良い。
排水は、水田の場合、通常水田で落水する時開く排水口を開けて排水し、一時的にピットに貯留し、その後ポンプで廃水処理設備に入れても良いし、そのままポンプで水田から排水しても良い。
【0019】
このような処理を、少なくとも1回、好ましくは1〜5回行うことにより、放射能汚染土壌を浄化することができる。
【0020】
排水された細粒子画分を含む土壌懸濁液は、凝集剤を加えた沈殿、ベルトプレスやフィルタープレス等や、これらの手法を組み合わせて、細粒子をオンサイトで回収することができる。
【実施例】
【0021】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに何ら制限されるものではない。
【0022】
実施例1
現地ミニカラムにおける放射能汚染土壌の浄化を、以下の方法に従って行った。
(1)放射性セシウム(137Cs)で汚染された水田に、φ30cm×H45cmの円筒形ステンレスカラムを3連で耕盤まで打ち込み、土壌表面がひたひたとなるように土壌用水を加え、放置した。
(2)土壌表面が充分湿潤した後、水深10cmとなるように用水を加え、1M水酸化ナトリウムを加えてpHを約9.5とした。
(3)土壌表面に撹拌羽をセットし、攪拌機で30秒×3回撹拌する。
(4)撹拌後45分放置した。この放置時間は完全分散条件で6μmの粒子が10cm沈降する時間である。放置後、サイホンで懸濁水を排水した。
(5)(1)〜(4)の手順を4回繰り返した後、土壌採取用のコアサンプラーをミニカラムの中心に耕盤まで打ち込み、土壌カラムを採取した。
(6)土壌カラム除去後の残土を耕盤まで採取した。
(7)採取した土壌および排水懸濁液中の137Cs含量および土壌微粒子含量を測定した。
【0023】
処理後の土壌及び排水懸濁液中の137Cs含量は、ゲルマニウム半導体検出器で測定した。また、除去量合計/(除去量合計+除去処理後の土壌)から、除去率(%)を求めた。
土壌表面撹拌後の排水懸濁液及び除去処理後の土壌中に含まれる137Cs含量を表1に示す。
【0024】
【表1】

【0025】
表1の結果より、撹拌処理回数の増加に伴い、排水される137Cs量の低減が認められた。
また、土壌撹拌処理土と無処理土の作土(カラム周辺から採取した作土、3連)の137Cs濃度を比較すると、低減率は71%となった(表2)。
なお、除去量合計は、No.3処理区で最も高い値を示しているが、撹拌終了後の目視では、撹拌羽の位置が3連処理の中で土壌表面に最も近接しており、137Csを高濃度に含む表面土壌の巻き上げが効率的に行えたと推察される。
【0026】
【表2】

【0027】
また、作土に対する懸濁排水中に含まれる土壌微粒子の割合(土壌損失率)を算出した結果を、表3に示す。
【0028】
【表3】

【0029】
作土全体に対する最終的な土壌損失量は処理区の作土厚によって異なるが、2〜4%程度となった。この値は面積換算すると、10アール当たり5〜7トン程度の土壌排出量であり、仮比重を1としたときの土壌厚さで換算すると、約5〜7mmの土壌が排出されたことになる。浄化処理に伴う土壌排出量を抑制することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射能汚染土壌に、土壌表面からの水深が少なくとも5cmとなるように水を導入し、当該水と土壌表面を攪拌した後、放置し、土壌を粒径別に分級して粗粒子画分を沈降させた後、細粒子画分を除去することを特徴とする放射能汚染土壌の浄化方法。
【請求項2】
細粒子画分を除去する方法が、細粒子画分を含む土壌懸濁液を排水することである請求項1記載の浄化方法。
【請求項3】
土壌表面に導入する水が、アルカリ剤又は分散剤を含有するものである請求項1又は2記載の浄化方法。
【請求項4】
土壌表面に水を導入する前に、土壌表面が湿潤される程度に水を加えて放置する請求項1〜3のいずれか1項記載の浄化方法。
【請求項5】
放射能汚染土壌に、土壌表面からの水深が5〜20cmとなるように水を導入する請求項1〜4のいずれか1項記載の浄化方法。
【請求項6】
水と土壌表面を攪拌した後の放置時間が1〜100分間である請求項1〜5のいずれか1項記載の浄化方法。
【請求項7】
放射能汚染土壌が、放射性セシウム汚染水田土壌である請求項1〜6のいずれか1項記載の浄化方法。

【公開番号】特開2013−50407(P2013−50407A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−189240(P2011−189240)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(501245414)独立行政法人農業環境技術研究所 (60)
【出願人】(391041062)福島県 (42)