説明

放射能汚染土除去方法及びこれに用いる草刈り・根切断・土壌ほぐし装置

【課題】放射能で汚染された土地の除染に際し、汚染濃度の高い表面付近土壌の除去回収を容易にする。
【解決手段】この方法では、土壌の表層に差し込み当該表層を当該表層内の根を切断するとともにほぐす形式の回転式カッター1とクローラ式の車両2とからなる草刈り・根切断・土壌ほぐし装置を用い、汚染土上で回転式カッター1をカッターの下端が汚染土の表層の所定の深さに接するように回転させながら走行して、当該表層を所定の深さまで当該表層内の根を切断するとともにほぐし、地上部に草が繁茂している場合は、その草の刈り取りも同時に前記回転式カッター1で行うようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射能汚染土除去方法及びこれに用いる草刈り・根切断・土壌ほぐし装置に関する。
【背景技術】
【0002】
東日本大地震及びこれに伴う津波により原子力発電所に事故が発生したため、放射性物質が大気に拡散され地表に降下して土壌が放射能で汚染されるという事態が起きた。放射能汚染された地域では、汚染土の除去及びその処分が急がれている。この汚染土の除去では、除去された汚染土が、仮置きや中間貯蔵された後、洗浄等の処理を経て、最終処分されることになり、これには、多大な用地面積と費用が必要になるため、この点にも十分に配慮した適切な方法が採用されることが望まれる。
なお、このような放射能による汚染土の除去方法に関する技術の蓄積がないため、記載すべき先行技術文献情報はない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そこで、ここでは、汚染された地域での除染対策と現状の問題点について検討する。
1.除染対策
そもそも放射性物質が地表に降下し土壌を放射能で汚染するという現象は、放射性物質がセシウム134、137等であった場合、これらの物質が土壌粒子に極めて強く吸着される状態である。つまり、降下した放射性物質は、地表面付近の土壌に吸着され、その後降雨等があった場合でも、ほとんど再溶出することなくその場所にとどまり、下方にはわずかしか移行しない。したがって、セシウム134、137等により汚染された土地の土壌は、表面のわずか2cm程度のみが高濃度に汚染され、それ以深はほとんど汚染されていないのが普通である。
よって、汚染された地域での除染対策としては、汚染土の表面の2cm程度の土のみを除去すればよく、これを超えて5cmも10cmも除去(採取)したのでは、除去後の汚染土の仮置き、中間貯蔵、洗浄等の処理、最終処分の数量を大幅に増やすことになり、極めて不経済になるばかりか、用地の確保が困難になる。
このように汚染されている土地を修復するには、土壌表面のわずか2cm程度の高濃度の汚染土を除去するだけで十分である。なお、ここでいう「2cm」は例示であり、実際には状況により異なるが、1〜3cm程度になると考えられる。ここでは代表的な例として2cmと表記する。
2.現状の問題点
しかしながら、汚染されている土地が、学校の校庭のようにほぼ平らで、ある程度以上の広い面積があり、雑草等が繁茂していない土地であれば、モーターグレーダー等の機械を用いて、表面の2cm程度のみの土を除去することは可能であるが、実際に汚染されている土地にこのような好条件のところは少なく、例えば、田畑等の土地では雑草等が繁茂していることが多く、そのままでは重機類を投入しても表土の除去は困難である。この場合、草刈機などを使って事前に地上の雑草等を刈り取った後に重機類ですき取りを行うことは可能であるが、地表面から下には雑草や以前栽培していた植物の根が残っていることが多く、この根が障害となるため、土壌の表層厚さ2cm程度の土のみを的確にすき取ることは難しい。また、汚染により放置されていた土壌の表面は硬く固結していることも多く、このことも2cm程度の土壌のみをすき取ることを困難にしている。また、草刈機等で事前に地上の雑草等を刈り取った後にさらに別の機械で根を切断し土壌をほぐし、その後に表土すきとり用の機械を投入したのでは、作業に手間がかかりすぎて効率的な表土除去ができない。
【0004】
そこで、本願発明者らは、鋭意研究の結果、放射能で汚染された土地の除染に際し、汚染濃度の高い表面の土壌を除去する場合において、雑草等の刈り取りから表土除去までの作業を効率的に行うため、地上部の刈り取り、根の切断、土壌表面付近の土のほぐしまでを一度に行い得る装置を発明したものであり、本発明は、これを利用して汚染濃度の高い表面付近土壌の除去回収を容易にする新たな放射能汚染土除去方法及びこの方法に用いる草刈り・根切断・土壌ほぐし装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明は、放射能で汚染された土地の汚染土を除去するための放射能汚染土除去方法であって、土壌の表層に差し込み当該表層内に存在する根を切削する構造を有する回転式カッターを備える草刈り・根切断・土壌ほぐし装置を用い、汚染土上で前記回転式カッターを当該カッターの下端が汚染土の表層の所定の深さに接するように回転させながら移動し、当該カッターにて地上部の草の切断を行いつつ、当該表層内の根の切断及び表層のほぐしを行う、ことを要旨とする。
【0006】
また、本発明は、上記放射能汚染土除去方法に用いる草刈り・根切断・土壌ほぐし装置であって、回転駆動体、及び前記回転駆動体の外周に突状に当該回転駆動体の軸方向に並列に配設され、先端に破砕用の爪を具備する複数のカッターを有する回転式カッターと、前記回転式カッターを汚染土上で移動するための移動手段とを備える、ことを要旨とする。
この場合、カッターはそれぞれ、縦に長い板状に形成され、その先端縁に一つ又は複数の爪が外側に向けて突出されることが好ましい。
また、この場合、走行手段は車両、又は動力前進式若しくは手押し式の台車が採用され、回転式カッターが前記車両、又は前記動力前進式若しくは手押し式の台車に搭載されることが好ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明の放射能汚染土除去方法及びこれに用いる草刈り・根切断・土壌ほぐし装置によれば、放射能で汚染された土地の除染に際し、汚染濃度の高い表面の土壌を除去する場合において、回転式カッターを汚染土上で回転させ、汚染土の表層の所定の深さに差し込んで移動し、当該所定の深さの範囲の表層を当該表層内に存在する根を切断するとともにほぐすようにしたので、汚染土壌表面の除去したい深さまで、地上部の刈り取り、根の切断、土壌のほぐしを一度に行うことができ、汚染濃度の高い表面付近土壌の除去回収を容易にすることができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の第1の実施の形態における放射能汚染土除去方法に用いる草刈り・根切断・土壌ほぐし装置を示す図
【図2】同方法に用いる同装置の特に回転式カッターを示す図
【図3】本発明の第2の実施の形態における放射能汚染土除去方法に用いる草刈り・根切断・土壌ほぐし装置を示す図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、この発明を実施するための形態について図を用いて説明する。
この放射能汚染土除去方法は、放射能で汚染された土地の汚染土を除去するためのもので、この方法では、特に、土壌の表層に差し込み当該表層を当該表層内に存在する根を切断するとともにほぐすことができる構造を有する回転式カッターを備える装置を用い、汚染土上で回転式カッターを当該カッターの下端が汚染土の表層の所定の深さに接するように回転させながら移動し、当該カッターにて地上部の草の切断を行いつつ、当該表層を所定の深さまで当該表層内の根を切断しながらほぐす、ものとした。
【0010】
図1及び図2にこの放射能汚染土除去方法に用いる草刈り・根切断・土壌ほぐし装置を示している。
図1及び図2に示すように、この装置は、回転駆動体10、及び回転駆動体10の外周に突状に当該回転駆動体10の軸方向に並列に配設され、先端に破砕用の爪12を具備する複数のカッター11を有する回転式カッター1と、回転式カッター1を汚染土上で移動するための移動手段2とを備えて構成される。
この場合、回転式カッター1は、回転駆動体10と、複数のカッター11と、これらの回転駆動体10を収容するカッターハウジング13とを備える。回転駆動体10は、回転軸101、及びこれを駆動する駆動部(図示省略)により構成される。カッター11はそれぞれ、縦に長い平板を2枚略くの字形に折り曲げて接合され、全体が略逆Y字形に形成されて、先端に両側方に突出する爪12を有する。爪12は側方に突出しているため、地上部にあっては草を切断することが可能であると同時に地表面より下の部分では地中の根の切断及び土壌のほぐしが可能である。これらのカッター11はそれぞれ、回転軸101の外周に周方向の所定の間隔でかつ軸方向に並列に突設される複数の取付部102に取付ピン103を介して取り付けられる。カッターハウジング13はこれら回転軸101及び各カッター11を上から各カッター11が回転可能に覆い収容する下方を開放されたボックス形に形成され、前面の下半面が開閉部131になっている。移動手段2は車両が採用され、この場合、車両本体21とクローラ22とにより構成される。この車両2の車両本体21に回転式カッター1が搭載される。この場合、回転式カッター1は車両本体21の前部に各カッター11が地表面よりも下方に所定の深さまで差し込み可能に高さ調整手段を介して取り付けられ、回転軸101の所定方向の回転駆動により、各カッター11が下方から前方回りで上方に向けて回転される。なお、この車両2は車両本体21の後部に立ち乗り操作式の操作部211が設けられており、作業者はこの操作部211に立った状態で乗り、車両2を運転し、回転式カッター1を操作するようになっている。
このようにして作業者が車両2に乗り、車両2の運転とともに回転式カッター1を操作して、汚染土のすき取り面上で各カッター11を回転させ、すき取り面の表層の一定の厚さの範囲に差し込んだ状態で移動し、地上部の草の切断を行いつつ、当該一定の厚さの範囲の表層を当該表層内に存在する根を切断するとともにほぐす作業を行う。
【0011】
本願出願人は、このような草刈り・根切断・土壌ほぐし装置の実機を作り、この実機で、地上部の草の切断を行いつつ、表層内に存在する根を切断し、土壌をほぐす実験を行った。
この装置では、回転式カッターの回転軸の高さを上下に変更できるようにしたので、土壌での実験に当たり、回転式カッターの高さを調整し、地表面より下の所望の深さ(表層の一定の厚さ)までの根の切断及び土壌のほぐしができるようにした。この場合、各カッターの下端が地表面から下2cm程度になるようにしてある。
作業者が車両に乗り、回転式カッターを駆動しながら、車両を移動すると、地表面から下2cm程度の土のほぐしとともに、地上部の草、地表面から下2cm付近の根を切断することができた。なお、根の密度、硬さや土壌の固結状態によって一度通過させただけでは根の切断や土壌のほぐしが不十分な場合は、同じ箇所を数回通過させることにより十分な切断やほぐしが可能となった。このようにして各カッターで根を切断する際、同時に地表面から下2cm程度の範囲の土壌がすべてほぐされるため、その後の表層土壌の回収が容易になる。
この装置により、地上部の雑草等の刈り取り、根の切断、土壌表面付近の土のほぐしまでを行った後は、この表層土を雑草や根等とともに、法面用バケットを装着したバックホウ等を使って回収した。土壌の深さ2cmのところで根が切断され、2cmより浅い部分の土壌がほぐされ、2cmより深い部分の土壌は硬いままなので、2cmより浅い部分の土壌を容易に回収することができた。
また、各カッターは回転軸に遊びのあるピン構造で取り付けられていることで、硬いものに当たったり抵抗が大きくなったりした場合は力を逃がすようにピン部分で回転するため、回転軸に過大なトルクを与えることがなく、カッターで地表面から下の根の切断や土壌のほぐしまでを行っても機械に過負荷を与えることがない。
なお、この装置では、回転式カッターは進行横断方向が斜面になっていても問題なく進行、刈り取りができる。すなわち、土壌が斜面になっていてもその斜面の形状なりに的確に地表面から2cmの深さの根の切断や土壌のほぐしが可能である。したがって、堤防の土手の斜面などにも適用することができる。
この実験から、この装置を用いた方法により、地上に雑草等が繁茂し、地下には根が張り、ある程度固結している状態の土地でも、表層2cm程度の土壌の除去回収が効率的に可能であることが判明したため、実際にセシウムで放射能汚染されており雑草が繁茂している土地において、この方法での表層土の除去による除染効果を確認した。
この汚染土での実験では、除去前の表土1〜2mmをスコップで剥ぎ取り、この土壌の放射能をゲルマニウム半導体分析器で測定して、処理前の土壌の放射能濃度とした。また、この草刈り・根切断・土壌ほぐし装置の実機を同じ場所で4回走行(4パス)させ、ほぐされた2cm程度の表層を除去した後の新しい土壌表面の土1〜2mmをスコップで剥ぎ取り、同様に放射能分析して、処理後の土壌の放射能濃度とした。なお、参考のために1回走行(1パス)、2回走行(2パス)後、試料を採取するのに必要な部分のみほぐされた土壌を除去して同様に表面の土1〜2mmを採取し、中間段階における放射能濃度を測定した。
その結果を表1に示す。
【表1】

表1に示す通り、処理前には1890Bq/kgの濃度であったものが、草刈り・根切断・土壌ほぐし装置の実機による、根切断、ほぐし処理後の、ほぐされた土壌を除去した後の表土の放射能濃度は137Bq/kgと、当初の濃度の7%程度に下がっており、十分な効果が確認できた。
【0012】
以上のことから明らかなように、この放射能汚染土除去方法及びこれに用いる装置では、放射能で汚染された土地の除染に際し、汚染濃度の高い表面の土壌を除去する場合において、土壌の表層に差し込み当該表層を当該表層内の根を切断するとともにほぐすと同時に地上部の草を刈り取る形式の回転式カッター1とクローラ式の車両2とからなる装置を用い、汚染土上で回転式カッター1をカッター11の下端が汚染土の表層の所定の深さに接するように回転させながら走行移動して、当該表層を所定の深さまで当該表層内の根を切断するとともにほぐすようにしたので、汚染土の表層土を精度よく効率的に除去することができ、汚染濃度の高い表面付近の土壌の除去回収を容易にすることができる。
【0013】
なお、この実施の形態では、移動手段2を車両としたが、図3に示すように、手押し式又は動力により前進する形式の台車としてもよい。この場合、回転式カッター1の基本構成は同じであるが、全体が車両に搭載するものに比べて小型になるため、施工面が小さい場合に適している。この装置の場合、手押し車を押す要領で回転式カッター1を移動すればよい。
【符号の説明】
【0014】
1 回転式カッター
10 回転駆動体
101 回転軸
102 取付部
103 取付ピン
11 カッター
12 破砕用の爪
13 カッターハウジング
131 開閉部
2 移動手段(車両、手押し式の台車)
21 車両本体
211 操作部
22 クローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射能で汚染された土地の汚染土を除去するための放射能汚染土除去方法であって、
土壌の表層に差し込み当該表層を当該表層内の根を切断するとともにほぐす構造を有する回転式カッターを備える草刈り・根切断・土壌ほぐし装置を用い、汚染土上で前記回転式カッターを当該カッターの下端が汚染土の表層の所定の深さに接するように回転させながら移動し、当該表層を所定の深さまで当該表層内の根を切断するとともにほぐし、地上部に草が繁茂している場合は、その草の刈り取りも同時に前記回転式カッターで行う、
ことを特徴とする放射能汚染土除去方法。
【請求項2】
回転駆動体、及び前記回転駆動体の外周に突状に当該回転駆動体の軸方向に並列に配設され、先端に破砕用の爪を具備する複数のカッターを有する回転式カッターと、
前記回転式カッターを汚染土上で移動するための移動手段と、
を備える、
ことを特徴とする請求項1に記載の放射能汚染土除去方法に用いる草刈り・根切断・土壌ほぐし装置。
【請求項3】
カッターはそれぞれ、縦に長い板状に形成され、その先端縁に一つ又は複数の爪が外側に向けて突出される請求項2に記載の草刈り・根切断・土壌ほぐし装置。
【請求項4】
走行手段は車両、又は手押し式若しくは動力前進式の台車が採用され、回転式カッターが前記車両、又は前記手押し式若しくは動力前進式の台車に搭載される請求項2又は3に記載の草刈り・根切断・土壌ほぐし装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2013−94139(P2013−94139A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−241601(P2011−241601)
【出願日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【出願人】(303057365)株式会社間組 (138)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】