説明

放熱装置

【目的】 CPUの放熱に適した放熱装置を得る。
【構成】 熱伝導率が200W/mK以上のピッチ系炭素繊維束からなる伝熱繊維束と;この伝熱繊維束を保持する絶縁材料からなる保持担体と;この保持担体に保持された伝熱繊維束の長さ方向の両端部にそれぞれ形成した吸放熱部と;をを有する伝熱デバイスを用い、その吸熱部に、保持担体を除去した伝熱繊維束の端面及び外表面にかけて金属層を形成し、発熱体を載置すべき金属シューと一体に、この伝熱繊維束の吸熱側端部を挿入する挿入溝部を設け、この挿入溝部に、上記伝熱繊維束の吸熱側端部を挿入して上記金属層と該挿入溝部を半田付または銀ロウ付で固定し、金属シューと発熱体との間に、ゴム材料中に高熱伝導粉体を分散したゴム系放熱シートを介在させた放熱装置。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【技術分野】本発明は、放熱装置に関する。
【0002】
【従来技術及びその問題点】コンピュータのCPUは、負荷を与える程発熱量が増える。特に小型のノートパソコンでは、放熱構造が制限されるため、CPUの動作保証温度である100℃を越えないようにするべく、各種の放熱装置が利用されている。従来、アルミ板、ヒートパイプ、放熱シリコンゴム、放熱ファン等を組み合わせるものが主に用いられてきた。
【0003】これらの放熱装置はしかし、CPUの高機能化、ハイディユーティ化に伴い、より厳しい状況下に置かれており、より放熱効果の高い放熱装置が望まれている。
【0004】こうした背景から、本発明者らは、炭素繊維のうち、宇宙航空素材用として開発された高強度高弾性の特定の炭素繊維は、非常に高い熱伝導性を有することを見出し、これを伝熱素材として用いた放熱装置を提案した(特願平11−182258号)。
【0005】
【発明の目的】本発明は、この特願平11−182258号で提案した放熱装置をさらに進め、特に、吸熱部側での伝熱効率に優れた放熱装置を得ることを目的とする。すなわち、熱伝導率が200W/mK以上のピッチ系炭素繊維束からなる伝熱繊維束は、伝熱特性に優れるが、発熱源からこの伝熱繊維束に伝熱するための具体的構造が問題であり、本発明は、吸熱部におけるこの具体的な伝熱構造を提案する。
【0006】
【発明の概要】まず、本発明者らが特願平11−182258号で提案した伝熱デバイスは、熱伝導率が200W/mK以上のピッチ系炭素繊維束からなる伝熱繊維束と;この伝熱繊維束を保持する絶縁材料からなる保持担体と;この保持担体に保持された伝熱繊維束の長さ方向の両端部にそれぞれ形成した吸放熱部と;を有することを特徴としている。
【0007】炭素繊維のうち、ピッチ系の高強度高弾性の特定の炭素繊維は、200W/mK以上の熱伝導率を示す。具体的には、三菱化学(株)製のダイアリード(商品名)のうちの複数のあるものは200W/mK以上の熱伝導率を有し、別の複数のあるものは、600W/mK以上の熱伝導率を有する。600W/mKという数値は、一般的に熱伝導率が高いとされている銅の約1.5倍以上に相当する。この材料は、ピッチ系の炭素繊維に属するもので、本来的には、「エアロスペースグレード」内の商品ラインアップを含むことからも分かるように、宇宙航空分野での飛行機やシャトルに使用しうる軽量、高強度、高弾性の素材として開発されたものである。しかし、このピッチ系炭素繊維は、縦方向の引張強度は非常に強いが、折り曲げ強度は弱く、導電性であるという性質があるため、この問題点を解消するために、絶縁材料からなる保持担体と組み合わせ、その炭素繊維の両端部を吸放熱部としたものである。
【0008】保持担体については、絶縁性であること、伝熱繊維束を固定した状態で保持できること、という条件を満足できるものであれば、高い自由度で素材や形状を選択することができる。具体例をあげると、可撓性を有する樹脂フィルム、樹脂材料の成形品及び含浸成形品、ゴム材料等である。
【0009】ピッチ系炭素繊維束からなる伝熱繊維束としては、少なくも、上述の三菱化学(株)製のダイアリードK1392U、K13A1L、K13A10、K13B2U、K13C2U、K13D2U(商品名)を用いることができる。ピッチ系炭素繊維の熱伝導率は、200W/mK以上であれば、従来の伝熱デバイスより優れた伝熱性を得ることができる。好ましくは、400W/mK以上、より好ましくは600W/mK以上のピッチ系炭素繊維を用いるのがよい。
【0010】本発明は、以上の伝熱デバイスを用いることを前提として特にその吸熱部の構造を提案するものである。本発明の伝熱装置は、伝熱繊維束の両端部の吸放熱部の少なくとも吸熱部に、保持担体を除いた該伝熱繊維束の端面及び外表面にかけて金属層を形成し、発熱体を載置すべき金属シューと一体に、この伝熱繊維束の吸熱側端部を挿入する挿入溝部を設け、この挿入溝部に、伝熱繊維束の吸熱側端部を挿入して金属層と該挿入溝部を半田付または銀ロウ付で固定し、金属シューと発熱体との間に、ゴム材料中に高熱伝導粉体を分散したゴム系放熱シートを介在させたことを特徴としている。
【0011】以上の伝熱装置によると、伝熱繊維束の吸熱側端部全体に、保持担体を除去して金属層を形成することで、該金属層と伝熱繊維束との伝熱性を高めることができる。次にこの金属層と、金属シューの挿入溝部とを、半田付けまたは銀ロウ付けすることで、金属シューと金属層との伝熱性を高め、さらに、金属シューと発熱体との間にゴム系放熱シートを介在させることで、発熱体と金属シューとの伝熱性を高めることができるため、発熱体から伝熱繊維束に至る伝熱性に優れた吸熱部ができる。
【0012】伝熱繊維束の吸熱部側端面に形成する金属層は、伝熱繊維束と金属層とを微細な空隙もなく一体化するために、無電解メッキまたは金属蒸着によって形成するニッケル、金または銀とするのが好ましい。ゴム系伝熱シートとしては、例えば、シリコーンゴム中に、窒化ホウ素等の高伝熱性粉体を分散した伝熱シートを用いることができる。高伝熱性粉体の熱伝導率は、200W/mK以上であり、シート全体として5W/mk以上の熱伝導率を示すものが好ましい。具体的には、藤倉ゴム工業(株)製の「フジクール FG−2」、「同FG−3」、又は「同FG−4」等の高伝熱性シートを用いることができる。
【0013】発熱体は、例えばCPUである。CPUが、本体とこの本体に対して開閉される蓋体とを有するノート型パソコンのCPUであって、該本体に搭載される場合、保持担体に保持された伝熱繊維束の柔軟性を利用して、放熱部を蓋体に導くことができる。
【0014】
【発明の実施形態】本発明による放熱装置10は、伝熱デバイス20と、この伝熱デバイス20の両端部に形成した吸熱部30と、放熱部40とを備えている。
【0015】伝熱デバイス20は、熱伝導率が200W/mK以上のピッチ系炭素繊維束からなる伝熱繊維束21と、離間した複数の伝熱繊維束21、あるいは面状に配置した伝熱繊維束21を固定的に保持する絶縁性の保持担体22とを備えている。保持担体22は、柔軟性を求められる場合には、例えば、伝熱繊維束21の表裏に、ポリエステルのフィルムを同じくポリエステル系の接着剤(粘着剤)により貼り付けて構成することができる。あるいはゴム材料を用いてもよく、柔軟性を要求されなければ樹脂材料の成形品でもよい。
【0016】伝熱繊維束21は、繊維径が例えば10μm前後のピッチ系炭素繊維を数万ないし数十万本纏めた繊維束を一単位とし、これらを図に示すように適当な間隔を置いて、または面状に並べて用いる。熱伝導率が200W/mK以上のピッチ系炭素繊維束としては、少なくも三菱化学(株)製のダイアリード(商品名)のK1392U、K13A1L、K13A10、K13B2U、K13C2U、K13D2U(品番)が使用できる。その物性値は次の通りである。
【0017】K1392U熱伝導率 W/mK ;210引張強度 MPa ;3,700引張弾性率 GPa ;760破断伸び % ;0.49密度 g/cm ;2.15電気抵抗 Ω ;5フィラメント径 μm;10フィラメント数 k本;2繊度 g/km ;270
【0018】K13A1L熱伝導率 W/mK ;220引張強度 MPa ;3,700引張弾性率 GPa ;790破断伸び % ;0.47密度 g/cm ;2.15電気抵抗 Ω ;4.7フィラメント径 μm;7フィラメント数 k本;1繊度 g/km ;66
【0019】K13A10熱伝導率 W/mK ;220引張強度 MPa ;2,600引張弾性率 GPa ;790破断伸び % ;0.36密度 g/cm ;2.15電気抵抗 Ω ;4.7フィラメント径 μm;10フィラメント数 k本;10繊度 g/km ;1,400
【0020】K13B2U熱伝導率 W/mK ;260引張強度 MPa ;3,800引張弾性率 GPa ;830破断伸び % ;0.46密度 g/cm ;2.16電気抵抗 Ω ;4.1フィラメント径 μm;10フィラメント数 k本;2繊度 g/km ;270
【0021】K13C2U熱伝導率 W/mK ;620引張強度 MPa ;3,800引張弾性率 GPa ;900破断伸び % ;0.42密度 g/cm ;2.20電気抵抗 Ω ;1.9フィラメント径 μm;10フィラメント数 k本;2繊度 g/km ;270
【0022】K13D2U熱伝導率 W/mK ;800引張強度 MPa ;3,700引張弾性率 GPa ;930破断伸び % ;0.40密度 g/cm ;2.12電気抵抗 Ω ;1.6フィラメント径 μm;11フィラメント数 k本;2繊度 g/km ;365
【0023】これらのピッチ系炭素繊維が非常に高い熱伝導率を示す理由は、必ずしも明らかではないが、次のように推論される。ピッチ系炭素繊維は、タールピッチを糸状に加工し、焼成することで形成される。この焼成の条件の選択によって、グラファイトの結晶成長度を高め、熱伝導率を高くすることができる。
【0024】伝熱デバイス20の吸熱部30側の端部には、図2、図3に模式的に示すように、金属層31が形成されている。この金属層31は、伝熱デバイス20の端部の保持担体22を除いて、伝熱繊維束21を露出させ、その露出部(端面と外表面)に、無電解メッキまたは金属蒸着により形成したものである。図3では、この金属層31にハッチングを付して示した。金属としては、ニッケル、銀または金が好ましく、その厚さは1〜10μmとする。1μm未満では厚さが不十分で伝熱繊維束21と金属層31の伝熱性が確保できず、10μm以上としても、伝熱性の向上が期待できない。
【0025】CPU32に接触させる金属シュー33には、一体に挿入溝部(コ字状断面部)34が形成されており、この金属層31を付した伝熱デバイス20の端部は、挿入溝部34内に挿入され、その金属層31と挿入溝部34内面とが半田付けまたは銀ロウ付けされて結合される。図2の35は、半田層または銀ロウ層を示す。金属層31は、その全表面が挿入溝部34の内面に結合されることが好ましい。この半田層または銀ロウ層35の厚さは、0.5〜3mmとする。0.5mm未満では厚さが不十分で金属層31と挿入溝部34の伝熱性及び固定性が確保できず、3mm以上としても、伝熱性の向上は期待できず逆に省スペースの妨げとなる。
【0026】金属シュー33とCPU32との間には、ゴム系放熱シート36を介在させる。ゴム系放熱シート36は、シリコーンゴム中に、窒化ホウ素等の高熱伝導性粉体を分散させて混入したもので、金属シュー33とCPU32との間の伝熱性を高める作用をする。このシート36は、シート全体として5W/mk以上の熱伝導率を示すものが好ましい。このゴム系放熱シート36が存在しないと、CPU32と半田層または銀ロウ層35とを熱的に密着させることができず、良好な伝熱性が得られない。ゴム系放熱シート36は、具体的には、「フジクール」(商品名、藤倉ゴム工業(株)製)を用いることができる。
【0027】放熱部40は、図1の例では、伝熱デバイス20の伝熱繊維束21に接触する伝熱フィルム41によって構成されている。図4の例では、伝熱デバイス20の伝熱繊維束21に接触する放熱板42の上部に放熱ファン43を設けている。図5の例では、伝熱デバイス20の伝熱繊維束21に接触させて放熱フィン44を設けている。放熱部40の構造として、吸熱部30の構造を適用することもできる。
【0028】図6、図7は、本発明の放熱装置10をノートパソコン100の放熱装置に適用した実施形態である。ノートパソコン100は、本体101と、この本体101に対して開閉可能な蓋体(ディスプレイ)102とを有している。本体101内には、CPU32が内蔵されており、伝熱デバイス20の一端吸熱部30は、このCPU32に対応させて設けられている。図6の実施形態では、伝熱デバイス20の他端部の放熱部40は、可撓性の保持担体22を介して蓋体102に設けた放熱板104に接続されており(放熱板104が放熱部40を構成しており)、本体101内のCPU32からの発熱が蓋体102の放熱板104で放熱される。保持担体22は、合成樹脂フィルムのような柔軟材から構成することができ、蓋体102に設ける放熱板104は大面積化が可能であるため、このような放熱構造が可能である。
【0029】一方、図7の実施形態では、本体101に放熱部40の放熱フィン44を露出させている。この実施形態では、CPU32と放熱フィン44の位置関係が固定されるから、保持担体22は例えば樹脂の成形材料から構成することができる。
【0030】
【発明の効果】本発明によれば、発熱体と伝熱繊維束との間の伝熱性に優れ、伝熱繊維束による高い熱伝導率を持ち、保持担体により保持態様に高い自由度を持つ放熱装置を得ることができる。特にCPUの放熱装置に用いれば、高機能化、ハイデューティ化の進むCPUを動作保証温度以下に確実に保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による放熱装置の一実施形態の概念的斜視図である。
【図2】図1のII−II線に沿う断面図である。
【図3】伝熱繊維束の端部に対する金属層の形成態様を示す模式斜視図である。
【図4】本発明の放熱装置の放熱部の他の構成例を示す斜視図である。
【図5】本発明の放熱装置の放熱部のさらに他の構成例を示す斜視図である。
【図6】本発明をノートパソコンの放熱装置に適用した一実施形態を示す縦断面図である。
【図7】本発明をノートパソコンの放熱装置に適用した別の実施形態を示す縦断面図である。
【符号の説明】
10 放熱装置
20 伝熱デバイス
21 伝熱繊維束
22 保持担体
30 吸熱部
31 金属層
32 CPU(発熱体)
33 金属シュー
34 挿入溝部
35 半田層または銀ロウ層
36 ゴム系放熱シート
40 放熱部
41 伝熱フィルム
42 放熱板
43 放熱ファン
44 放熱フィン
101 本体
102 蓋体
104 放熱板

【特許請求の範囲】
【請求項1】 熱伝導率が200W/mK以上のピッチ系炭素繊維束からなる伝熱繊維束と;この伝熱繊維束を保持する絶縁材料からなる保持担体と;この保持担体に保持された伝熱繊維束の長さ方向の両端部にそれぞれ形成した吸放熱部と;を有し、上記吸放熱部の少なくとも吸熱部に、保持担体を除去した伝熱繊維束の端面及び外表面にかけて金属層を形成し、発熱体を載置すべき金属シューと一体に、この伝熱繊維束の吸熱側端部を挿入する挿入溝部を設け、この挿入溝部に、上記伝熱繊維束の吸熱側端部を挿入して上記金属層と該挿入溝部を半田付または銀ロウ付で固定し、上記金属シューと発熱体との間に、ゴム材料中に高熱伝導粉体を分散したゴム系放熱シートを介在させたことを特徴とする放熱装置。
【請求項2】 請求項1記載の放熱装置において、伝熱繊維束の吸熱部側端面に形成する金属層は、無電解メッキまたは金属蒸着によって形成されるニッケル、白金、金または銀である放熱装置。
【請求項3】 請求項1または2記載の放熱装置において、ゴム系伝熱シートは、藤倉ゴム工業(株)製の「フジクール」(商品名)からなっている放熱装置。
【請求項4】 請求項1ないし3のいずれか1項記載の伝熱デバイスにおいて、上記発熱体は、CPUである放熱装置。
【請求項5】 請求項4記載の放熱装置において、CPUは、本体とこの本体に対して開閉される蓋体とを有するノート型パソコンのCPUであって、該本体に搭載され、上記放熱部は、蓋体に導かれている放熱装置。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図3】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2001−110952(P2001−110952A)
【公開日】平成13年4月20日(2001.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−282953
【出願日】平成11年10月4日(1999.10.4)
【出願人】(000005175)藤倉ゴム工業株式会社 (120)
【Fターム(参考)】