説明

整腸剤および飲食品

【課題】整腸作用を有する新たな食品素材およびこの食品素材を用いた飲食品を提供する。
【解決手段】カシス果実に含まれる成分を有効成分とする整腸剤。カシス果実に含まれる成分を含有し、整腸作用を有するものであって、腸内環境の改善を伴う整腸のために用いられるものである旨の表示を付した飲食品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カシス果実に含まれる成分、例えば、カシス果実から抽出した抽出物を有効成分とする整腸剤および飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
最近の生理機能に関する研究の進展により、腸内環境の改善は便秘の予防などを意味する整腸作用に止まらず、消化器疾病予防、発ガンリスクの低減、その他免疫賦活による様々な疾病のリスク低減に関わっていることが明らかにされてきている。つまり、人の健康維持・疾病予防に腸内環境の改善が大きく関わっている。
【0003】
この腸内環境の改善とは善玉菌優位の状態にすることである。腸内善玉菌(ビフィズス菌や乳酸菌等)により生成される有機酸は、大腸の蠕動運動を活発化して大腸内容物の排泄促進(便秘改善)、腸管粘膜細胞の正常状態の維持、腸内pH低下による大腸発ガン物質(ニトロソアミン等)の生成阻害をもたらす(非特許文献1、2および3参照)。
【0004】
また、腸内善玉菌自身の細胞壁は、腸管を介して免疫細胞に作用し、免疫力を亢進させる(非特許文献4参照)。一方、腸内悪玉菌が生成するβ-グルクロニダーゼは、大腸内で胆汁酸より生成される発ガン物質の腸管からの吸収促進に関与するため、腸内悪玉菌の減少は大腸発ガンリスクの低減につながると考えられている。
【0005】
さらに腸内発酵により産生される短鎖脂肪酸 (SCFA) は、腸管運動を活発にし、便秘などを改善する作用を有することが知られている(非特許文献5参照)。大腸上皮細胞はSCFAの主要な構成成分である酢酸、プロピオン酸および酪酸をエネルギー源として利用しているが、酪酸は細胞増殖やアポトーシスに関係しており、大腸粘膜の防御能の維持に重要な役割を果たしている(非特許文献6参照)。
【0006】
そこで、腸内の酪酸濃度を上昇させる試みが数多くなされており、例えば、糖アルコールの一種であるD-マンニトールやD-ソルビトールを実験飼料に5%添加し、ラットに3週間摂取させることにより、盲腸内容物に含まれる酪酸濃度を増加させたことが報告されている(特許文献1参照)。
【0007】
一方、食物繊維やオリゴ糖といった糖類やそれらの分解生産物は、それらが消化器官で発揮する生理活性が注目され、近年非常に研究されている分野である。食物繊維は従来から糖質代謝や脂質代謝といった生体の基本的代謝に関わるフードファクターとして重要視されている。食物繊維が糖質や脂質代謝へ関与することはよく研究されており、糖質とともに食物繊維を摂取すると低分子である糖質の吸収は抑制され、血中のインスリン量も抑制される。また、食物繊維を摂取することで糞中の蛋白質や脂質の排泄量は増加し、見かけの栄養吸収能は低下することや血糖値の上昇抑制作用や血清中のコレステロールの低下作用が知られている(非特許文献7参照)。
【0008】
例えば、食物繊維として、ポリデキストロース、サイリウム種皮由来の食物繊維、難消化性デキストリン、グアーガム分解物、小麦ふすま、低分子化アルギン酸ナトリウム、ビール酵母由来の食物繊維、寒天由来の食物繊維、水溶性コーンファイバーなどがあり、これらは特定保健用食品に利用されている。
【0009】
食物繊維の一種であるビール酵母細胞壁画分を食餌中に含有させて便秘モデルラット(Sprague-Dawlayラットを塩酸ロペラミドにより便秘誘導)に自由摂取させたところ、繊維を含まない食餌を摂取させたラットと比較して、糞便重量および糞便水分含量の増加が報告されている。つまり、酵母細胞壁由来の食物繊維は便秘予防・改善効果をもたらすことを示している(特許文献2参照)。
【0010】
【非特許文献1】Bauer, H. Gら;Cancer Res., 41, 2518-2523 (1981).
【非特許文献2】印南 敏ら;食物繊維., p313-314.(第一出版(株)刊、1995年)
【非特許文献3】印南 敏ら;食物繊維., p95-98, p226.(第一出版(株)刊、1995年)
【非特許文献4】光岡 知足 編著;ビフィズス菌の研究., p130-142.((財)日本ビフィズス菌センター刊、1998年)
【非特許文献5】坂田 隆;化学と生物., 32, 23-31 (1994).
【非特許文献6】Wachhtershauser, A and Stein, J.;Eur. J. Nutr., 39, 164-171 (2000).
【非特許文献7】Rotenberg, S.ら;J. Cli. Nutr., 108, 1384 (1978).
【0011】
【特許文献1】特開2004-49093号公報
【特許文献2】特開2001-55338号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、整腸効果に優れ、かつ安全性が高く、人体に適用可能な整腸作用を有する新たな食品素材およびこの食品素材を用いた飲食品を提供することを目的とする。
【0013】
本発明者らが検討したところ、これまでの特定保健用食品に利用されている食物繊維のなかには、果実由来の食物繊維が含まれていないことが分かった。その上で、果実由来の食物繊維であれば、イメージはより明るく手軽で、しかも香味はより美味しいものであり、新たな飲食品用の素材として期待できると考えられた。そこで、本発明者らは果実の中から整腸作用を有する成分を含む果実を探索した。
【0014】
その結果、本発明者らは、ユキノシタ科スグリ属に属するカシス(英名ブラックカラント)の含有する成分が優れた整腸作用を有することを見出し、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、以下の通りである。
[請求項1] カシス果実に含まれる成分を有効成分とする整腸剤。
[請求項2] カシス果実に含まれる成分がカシス果汁の有機溶媒沈殿画分である請求項1記載の整腸剤。
[請求項3] 有機溶媒沈殿画分がエタノール沈殿画分である請求項2記載の整腸剤。
[請求項4] エタノール沈殿画分が60〜80%(v/v)エタノール沈殿画分である請求項3記載の整腸剤。
[請求項5] カシス果実に含まれる成分を含有し、整腸作用を有するものであって、整腸のために用いられるものである旨の表示を付した飲食品。
【発明の効果】
【0016】
本発明の整腸剤は、腸内発酵により生産される短鎖脂肪酸を増加させ、腸内悪玉菌である大腸菌の減少による菌叢バランスの改善や糞便への適度な水分付与により排便をスムーズにすることで糞便量の増加をもたらし、腸内環境の改善を伴う整腸に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
[整腸剤]
本発明の整腸剤は、カシス果実に含まれる成分を有効成分とする。カシスは、ユキノシタ科スグリ属に属し、別名ブラックカラントとも呼ばれる。欧州からアジアの寒冷地に生息し、広く栽培されている。カシスの果実は、独特の良い香りがあり、直径1cm弱の濃い紫色の実である。さらに、カシスは日常的に食用に供されている果実であり、そのためその安全性も経験上確かめられている。
【0018】
「カシス果実に含まれる成分」は、例えば、カシス果汁の有機溶媒沈殿画分であることができる。カシス果汁は、カシスピューレ(カシス果実の圧搾物)を遠心し、固形物を分離することで得ることができる。上記有機溶媒は、例えば、水と相溶性を有する有機溶媒であることが、カシス果汁に含まれる有効成分をより確実に沈殿させることができるという観点から好ましい。水と相溶性を有する有機溶媒としては、例えば、アルコール、アセトン、アセトニトリル等を挙げることができる。
【0019】
アルコールとしては、例えば、エタノールを挙げることができる。即ち、本発明において、有機溶媒沈殿画分はエタノール沈殿画分であることができる。さらに、沈殿画分を得るために用いるエタノールは、例えば、60〜80%(v/v) エタノールであることが好ましい。その範囲の濃度であることで、カシス果汁由来の有効成分を十分に沈殿させることができ、回収することが可能であるという利点がある。
【0020】
カシス果汁からの沈殿画分の調製は、例えば、具体的には以下のように行うことができる。すなわち、市販のカシスピューレを遠心分離して、上清のカシスジュース(カシス果汁)を回収する。遠心分離の条件は、固形物の分離の程度等を考慮して適宜決定できる。例えば、3000〜10,000×g、1〜20分間の範囲とすることができる。
【0021】
得られたカシスジュースに、例えば、終濃度が70%(v/v)となるようにエタノールを加える。次いで、遠心分離により沈殿した画分を回収する。遠心分離の条件は、上記カシスピューレの遠心分離と同様とすることができる。遠心分離以外に濾過等により沈殿画分を回収することもできる。得られた沈殿画分は、ウエットの状態か凍結乾燥等により乾燥物とすることもできる。
【0022】
本発明の整腸剤は、上記沈殿画分またはその乾燥物を、整腸作用を有する有効成分として含有する。さらに、本発明の整腸剤は、この有効成分以外に、ブドウ糖、果糖、ショ糖、マルトース、ソルビトール、乳糖、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、カゼイン、ゼラチン、ペクチン、寒天、アミノ酸類、色素、香料、保存料等を含有することもできる。本発明の整腸剤が有効成分以外の成分を含む場合、有効成分の含有量は、例えば、0.01〜100 mg/g の範囲とすることが適当である。
【0023】
本発明の整腸剤は、腸内環境の改善に伴う整腸作用を有する。本発明の整腸剤は、1日当たり0.1〜100 gを1回あるいは数回に分けて摂取すれば良い。好ましくは、食事とともに摂取することが望ましい。
【0024】
[飲食品]
本発明は、カシス果実に含まれる成分を含有し、整腸作用を有するものであって、腸内環境の改善を伴う整腸のために用いられるものである旨の表示を付した飲食品を包含する。カシス果汁に含まれる成分は、上記本発明の整腸剤において説明したものと同様のものであることができる。また、整腸作用も上記整腸剤についての説明と同様である。
【0025】
本発明の上記飲食品は、「整腸のために用いられる旨の表示」を付した飲食品である。ここで、「表示」とは、例えば、飲食品の容器や取扱い説明書における表示のみならず、紙媒体上およびウエブ上に掲載された飲食品についての広告文や音声による広告等も包含する。
【0026】
また、「整腸のために用いられる旨の表示」は、整腸効果に優れている、整腸作用がある、等の直接的な表示だけでなく、おなかすっきり、おなか爽快、おなか快調、毎朝すっきり、腸も元気、おなかの調子を健康に保つ、おなかの調子を整える、おなかの調子に気をつけている方に適している、等の間接的な表示も包含する。
【0027】
さらに、「表示を付した飲食品」とは、飲食品の容器や取扱い説明書に表示を付した飲食品のみならず、容器や取扱い説明書に表示を付していなくても、この飲食品の紙媒体上およびウエブ上に掲載されたこの飲食品についての広告文や音声による広告等により、同様の表示をしている場合も含む。
【0028】
本発明の飲食品は、上記の整腸剤を定法に従って飲食品に配合したものであり、それを摂取する対象は、ヒトに限定するものでなく、イヌ、ネコをはじめとするペットやあらゆる動物にも適応される。即ち、本発明において、飲食品には動物用の飼料も包含する。
【0029】
本発明の飲食品としては、上記の腸内環境の改善に伴う整腸作用を目的としてカシス果実からその有効成分を抽出した抽出物を混合して調製される。食品の形態としては、固形食品、クリーム状などの半流動食品、ゲル状食品、飲料等のあらゆる形態が可能である。または、粉状、顆粒状、カプセル状、タブレット状、液状等の形態でも良い。
【0030】
カシス果実から抽出された有効成分とともに飲食品に配合される各種成分は、特に制限はなく、通常使用される各種成分がいずれも使用可能である。このような成分としては、例えば、ブドウ糖、果糖、ショ糖、マルトース、ソルビトール、乳糖、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、カゼイン、ゼラチン、ペクチン、寒天、アミノ酸類、色素、香料、保存料等が挙げられる。
【0031】
本発明にかかる食品の具体例としては、清涼飲料、ジュース、ジャム、菓子類、乳製品等が挙げられる。カシス果実からの抽出物の有効成分の含有量は、0.01〜100mg/gの範囲が適当であるが、この範囲よりも多量に配合しても問題ない。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例によって限定されるものではない。
【0033】
実施例1:カシス成分(沈殿画分)の調製
市販のカシスピューレを遠心(9000×g,10 min)し、固形分を分離して12 Lのカシスジュースを得た。これに終濃度が70%(v/v)となるようにエタノールを加え、遠心(9000×g,10 min)により沈殿画分を回収した。この沈殿画分を凍結乾燥することによりカシス成分(沈殿画分)の乾燥物を約210 g得た。
【0034】
実施例2:モデル動物を用いた整腸作用の確認
供試動物として、C57BL/6J系雄マウス(4週齢、日本チャールズリバー)を8日間市販粉末飼料(MF, オリエンタル酵母工業製)で予備飼育し、実験環境への馴化を行った。次いで、これらマウスを各群10匹ずつに区分けし、市販粉末飼料(MF)を与えた普通飼料群、表1の餌配合表に示した高脂肪食を与えた高脂肪食飼料群と高脂肪食のカゼインを等量のカシス沈殿画分に置き換えたカシス沈殿画分含有高脂肪食飼料群の3群とし、飼料は自由摂取にてマウスに与え、4週間飼育した。
【0035】
【表1】

【0036】
試験食を摂取させて3週間後に、普通飼料群、高脂肪食飼料群およびカシス沈殿画分含有高脂肪食飼料群の各マウスにおいて、24時間の糞便を採取し糞便重量の測定を行った。さらに、試験食を摂取させてから4週間後に解剖し、新鮮な糞便および盲腸内容物を採取し、糞便水含量、盲腸内短鎖脂肪酸(SCFA)産生量の測定および糞便内細菌叢の解析を行った。
【0037】
これらの結果を図1〜4に示す。図1〜4からもわかるように、カシス沈殿画分を摂取していると、糞便重量(図1)、糞便水分含量(図2)および盲腸内短鎖脂肪酸産生量(図3)のいずれにおいても、高脂肪食摂取群に比して大きな値を示し、便性の改善効果があることを示している。また、盲腸内容物中の悪玉菌である大腸菌(Enterobacteriaceae)数(図4)においては、カシス沈殿画分群の方が減少していることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、健康食品、特定保健用食品等を含む飲食品の分野に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】モデルマウスにおける24時間の糞便重量を示す図である。
【図2】モデルマウスの新鮮な糞便における水分含量を示す図である。
【図3】モデルマウスにおける盲腸内の短鎖脂肪酸産生量を示す図である。
【図4】モデルマウスにおける糞便中の細菌数を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カシス果実に含まれる成分を有効成分とする整腸剤。
【請求項2】
カシス果実に含まれる成分がカシス果汁の有機溶媒沈殿画分である請求項1記載の整腸剤。
【請求項3】
有機溶媒沈殿画分がエタノール沈殿画分である請求項2記載の整腸剤。
【請求項4】
エタノール沈殿画分が60〜80%(v/v)エタノール沈殿画分である請求項3記載の整腸剤。
【請求項5】
カシス果実に含まれる成分を含有し、整腸作用を有するものであって、整腸のために用いられるものである旨の表示を付した飲食品。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−104121(P2006−104121A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−292192(P2004−292192)
【出願日】平成16年10月5日(2004.10.5)
【出願人】(000001915)メルシャン株式会社 (48)
【Fターム(参考)】