説明

断熱材及び断熱材の製造方法

【課題】無機繊維等を含む凝集体が充分に凝集した断熱材であって、断熱材中に無機粒子が保持された、性能の高い断熱材を提供すること。
【解決手段】無機繊維、無機粒子、粘土鉱物、カチオン性凝集剤、及び、アニオン性凝集剤を含むことを特徴とする断熱材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断熱材及び断熱材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、抄造法を用いたシリカアルミナファイバ又はアルミナファイバ等の無機繊維を主成分とし、コロイダルシリカ等を結合剤とする断熱材が製造されている。しかしながら、この種の断熱材は、その製造工程における乾燥時に結合剤であるコロイダルシリカが上記断熱材の表面に移行するマイグレーション現象が起こる。そのため、上記断熱材内部では結合剤不足が生じ、充分な機能的強度は得られず、上記断熱材の加工性及び加工後の機械的強度が著しく低下するという欠点があった。
【0003】
そこで、特許文献1に示すような従来の断熱材の製造方法では、無機繊維を水中に投入し、撹拌、開繊した後、無機繊維を含む水に、結合剤としてコロイダルシリカと、結合助剤として粘土鉱物であるモンモリロナイトとを添加して撹拌し、その後、濾過、脱水、乾燥することにより断熱材を得ている。
粘土鉱物であるモンモリロナイトは、水及び有機溶媒中において大きな膨潤力を呈し、また、その分散液は膨潤に起因するチクソトロピー特性が著しく増加する。そのため、粘土鉱物を断熱材の製造時に用いた場合、成形時における結合剤であるコロイダルシリカのマイグレーション現象を抑制させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭61−037228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に示すような有機系のバインダーや凝集剤を使わない断熱材では、性能を高めるために無機粒子(例えば、断熱性を高めるための酸化チタン粉末、耐熱性を高めるためのアルミナ粉末)をスラリーに加えた際、得られた凝集体は充分に凝集しない。その結果、断熱材中に無機粒子を充分に保持できず、狙いの性能を出せないという問題がある。
【0006】
本発明は、このような問題を解決するためにされたものであり、無機繊維等を含む凝集体が充分に凝集した断熱材であって、断熱材中に無機粒子が保持された、性能の高い断熱材を提供すること、及び、無機粒子を含むスラリーを充分に凝集させて、無機粒子を含む断熱材を効率的に製造することのできる断熱材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、請求項1に記載の断熱材は、無機繊維、無機粒子、粘土鉱物、カチオン性凝集剤、及び、アニオン性凝集剤を含むことを特徴とする。
請求項1に記載の断熱材は、断熱材中に無機粒子が保持されているため、無機粒子の特性に応じた性能の高い断熱材とすることができる。
【0008】
請求項2に記載の断熱材では、強熱減量が1重量%以下である。
有機系のバインダーや凝集剤を含む断熱材は、高温環境下で使用される際に悪臭のガスを発生するという問題があるが、強熱減量が1重量%以下であると、悪臭の燃焼ガスの発生を抑えることができる。
強熱減量が1重量%を超えると、悪臭の燃焼ガスを発生する場合がある。
【0009】
請求項3に記載の断熱材では、上記無機繊維は、生体溶解性ファイバ、ロックウール、アルミナファイバ、シリカ−アルミナファイバ、又は、シリカアルミナジルコニアファイバである。
生体溶解性ファイバは、生理食塩水に対して溶解する性質を有し、人間の体内に取り込まれたとしても溶解し、体外に排出されることになる。そのため、無機繊維として生体溶解性ファイバを含む断熱材は、人体に対する安全性に優れている。
無機繊維がロックウール、アルミナファイバ、シリカ−アルミナファイバ、シリカアルミナジルコニアファイバであると、断熱材の耐熱性を高めることができる。具体的には、ロックウールの場合は600℃、アルミナファイバの場合は1600℃、シリカ−アルミナファイバの場合は1260〜1500℃、シリカアルミナジルコニアファイバの場合は1400℃において耐熱性を有する断熱材が得られる。
【0010】
請求項4に記載の断熱材では、上記生体溶解性ファイバは、アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物を含む。
生体溶解性ファイバがアルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物を含むと、生体溶解性の高い断熱材となる。
【0011】
請求項5に記載の断熱材では、上記粘土鉱物は、カオリン、雲母、スメクタイト、ベントナイトからなる群から選ばれる少なくとも1種である。
粘土鉱物がカオリン、雲母、スメクタイト、ベントナイトからなる群から選ばれる少なくとも1種であると、凝集性を向上し、成形時の歩留まりが向上する。また、上記粘土鉱物は、水及び有機溶媒中において大きな膨潤力を呈し、さらに、その分散液は膨潤に起因するチクソトロピー特性が著しく増加するため、粘土鉱物を断熱材の製造時に用いた場合、成形時における結合剤のマイグレーション現象を抑制させることができる。
【0012】
請求項6に記載の断熱材では、上記粘土鉱物がベントナイトであって、上記無機繊維100重量部に対する上記ベントナイトの含有量は、5〜80重量部である。無機繊維100重量部に対するベントナイトの含有量が5〜80重量部であると、ベントナイトが接着剤として適切に機能して無機繊維同士を少なくともその一部で接着する。従って、さらに高い強度や硬度を有する断熱材とすることができる。
無機繊維100重量部に対するベントナイトの含有量が5重量部未満であると、接着剤として機能するベントナイトの量が少ないため、断熱材の強度や硬度が劣る場合がある。
無機繊維100重量部に対するベントナイトの含有量が80重量部を超えると、密度が上がり、固体伝導伝熱が増えるため、断熱性能が低下する。
【0013】
請求項7に記載の断熱材では、上記無機粒子は、酸化チタン粉末、シリカ粉末、アルミナ粉末及びムライト粉末からなる群から選ばれる少なくとも1種である。
断熱材が酸化チタン粉末、シリカ粉末、アルミナ粉末、ムライト粉末等を含有することにより、それぞれの無機粒子の機能に応じた特性を断熱材に付与することができる。具体的には、断熱材が酸化チタン粉末を含有することにより、輻射熱を散乱させることができ、断熱性が向上する。断熱材がシリカ粉末を含有することにより、密度が増加し、断熱材の硬度及び強度が向上する。断熱材がアルミナ粉末を含有することにより、断熱材の温度が無機繊維の耐熱温度以上になったとしても、無機繊維とアルミナ粉末とが反応して、耐熱性が維持される。断熱材がムライト粉末を含有することにより、断熱材の温度が無機繊維の耐熱温度以上になったとしても、無機繊維とムライト粉末とが反応して、耐熱性が維持される。
また、断熱材が酸化チタン粉末、シリカ粉末、アルミナ粉末、ムライト粉末等を含有することにより、密度が高くなるので、断熱材の硬度が向上する。
【0014】
請求項8に記載の断熱材では、上記無機粒子が酸化チタン粉末であって、上記無機繊維100重量部に対する上記酸化チタン粉末の含有量は、5〜80重量部である。
無機繊維100重量部に対する酸化チタン粉末の含有量が5〜80重量部であると、輻射熱を散乱させることができ、断熱材にさらなる高断熱性を付与することができる。
無機繊維100重量部に対する酸化チタン粉末の含有量が5重量部未満であると、輻射熱を散乱させる酸化チタン粉末の量が少ないため、断熱性の向上が充分でない場合がある。
無機繊維100重量部に対する酸化チタン粉末の含有量が80重量部を超えると、断熱材中に保持されない酸化チタン粉末が多いため、断熱材の強度が劣る場合がある。
【0015】
請求項9に記載の断熱材では、上記無機粒子がアルミナ粉末であって、上記無機繊維100重量部に対する上記アルミナ粉末の含有量は、5〜80重量部である。
無機繊維100重量部に対するアルミナ粉末の含有量が5〜80重量部であると、輻射熱を散乱させることができ、断熱材にさらなる高耐熱性を付与することができる。
無機繊維100重量部に対するアルミナ粉末の含有量が5重量部未満であると、アルミナ粉末の量が少ないため、耐熱性の向上が充分でない場合がある。
無機繊維100重量部に対するアルミナ粉末の含有量が80重量部を超えると、断熱材中に保持されないアルミナ粉末が多いため、断熱材の強度が劣る場合がある。
【0016】
請求項10に記載の断熱材では、上記無機粒子が酸化チタン粉末であり、上記粘土鉱物がベントナイトであって、上記ベントナイト100重量部に対する上記酸化チタン粉末の含有量は、5〜800重量部である。
ベントナイト100重量部に対する酸化チタン粉末の含有量が5〜800重量部であると、輻射熱を散乱させることができ、断熱材にさらなる高断熱性を付与することができる。
ベントナイト100重量部に対する酸化チタン粉末の含有量が5重量部未満であると、輻射熱を散乱させる酸化チタン粉末の量が少ないため、断熱性の向上が充分でない場合がある。
ベントナイト100重量部に対する酸化チタン粉末の含有量が800重量部を超えると、断熱材中に保持されない酸化チタンが多いため、断熱材の強度が劣る場合がある。
【0017】
請求項11に記載の断熱材では、上記無機粒子がアルミナ粉末であり、上記粘土鉱物がベントナイトであって、上記ベントナイト100重量部に対する上記アルミナ粉末の含有量は、5〜800重量部である。
ベントナイト100重量部に対するアルミナ粉末の含有量が5〜800重量部であると、断熱材にさらなる高耐熱性を付与することができる。
ベントナイト100重量部に対するアルミナ粉末の含有量が5重量部未満であると、アルミナ粉末の量が少ないため、耐熱性の向上が充分でない場合がある。
ベントナイト100重量部に対するアルミナ粉末の含有量が800重量部を超えると、断熱材中に保持されないアルミナ粉末が多いため、断熱材の強度が劣る場合がある。
【0018】
請求項12に記載の断熱材の製造方法では、無機繊維、無機粒子及び粘土鉱物を水中に投入して上記無機繊維、上記無機粒子及び上記粘土鉱物が水中に分散したスラリーとした後、上記スラリーに、カチオン性凝集剤、アニオン性凝集剤の順序で添加して凝集体を得て、その後、上記凝集体を型に投入し、脱水成形することを特徴とする。
【0019】
請求項12に記載の断熱材の製造方法では、無機繊維が、水中で開繊した状態となる。この際に、無機繊維は、水中でマイナスに帯電していると考えられる。具体的には、シリカを含む無機繊維の場合、シリカの一部はSiOHの状態で存在し、このSiOHは、水中でHを放出し、SiOとなるため、水中でマイナスに帯電すると考えられる。
また、粘土鉱物も水中で表面にSiOを有し、マイナスに帯電すると考えられる。無機粒子は表面がプラスに帯電すると考えられ、粘土鉱物に近づいて集団となり、ほぼ電荷を失う。つまり、マイナスの電荷を有する粘土鉱物により、プラスの電荷を有する無機粒子の電荷をほぼゼロにすることで、無機粒子を凝集させることができる。
この後、カチオン性凝集剤を添加すると、カチオン性凝集剤は、マイナスに帯電している無機繊維に絡みつく。しかし、粘土鉱物と無機粒子とからなる集団は、ほぼ電荷を失っているので、カチオン性凝集剤とともに無機繊維に付着し易く、無機繊維、粘土鉱物、無機粒子及びカチオン性凝集剤を含むフロックが形成される。続いて、アニオン性凝集剤を添加することにより、上記した無機繊維、粘土鉱物、無機粒子及びカチオン性凝集剤を含むフロック同士が繋がり、大きな凝集体となる。従って、この凝集体の脱水成形を行うことにより、無機粒子を含むスラリーを充分に凝集させて、無機粒子を含む断熱材を効率的に製造することができる。なお、水中に分散した無機繊維にほぼ帯電が無い場合、カチオン性凝集剤及びアニオン性凝集剤の添加により、これらの凝集剤に付着する状態で凝集し、同様に大きな凝集体となる。また、無機粒子を含む凝集体が充分に凝集しているので、短時間で脱水成形を行うことができ、効率的に断熱材を製造することができる。
【0020】
請求項13に記載の断熱材の製造方法では、上記無機繊維100重量部に対する上記カチオン性凝集剤と上記アニオン性凝集剤との合計添加量は、0.5重量部以下である。
粘土鉱物と無機粒子とからなる集団は、ほぼ電荷を失っているので、カチオン性凝集剤とともに無機繊維に付着し易い。その結果、カチオン性凝集剤とアニオン性凝集剤との合計添加量が0.5重量部以下であっても、無機粒子を含むスラリーを充分に凝集させて、無機粒子を含む断熱材を効率的に製造することができる。
カチオン性凝集剤とアニオン性凝集剤との合計添加量が0.5重量部を超えると、高温環境下で使用される際に悪臭のガスを発生することがあるため、使用前にカチオン性凝集剤とアニオン性凝集剤とを燃焼させる工程を別途設けなければならない場合がある。
【0021】
請求項14に記載の断熱材の製造方法では、上記無機繊維は、生体溶解性ファイバ、ロックウール、アルミナファイバ、シリカ−アルミナファイバ、又は、シリカアルミナジルコニアファイバである。
無機繊維として生体溶解性ファイバ、ロックウール、アルミナファイバ、シリカ−アルミナファイバ、シリカアルミナジルコニアファイバを用いた場合でも、本発明の方法を用いることにより充分に凝集したフロックを形成することができるので、無機粒子を含むスラリーを充分に凝集させて、無機粒子を含む断熱材を効率的に製造することができる。
【0022】
請求項15に記載の断熱材の製造方法では、上記生体溶解性ファイバは、アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物を含む。
生体溶解性ファイバがアルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物を含むと、生体溶解性の高い断熱材を製造することができる。
【0023】
請求項16に記載の断熱材の製造方法では、上記粘土鉱物は、カオリン、雲母、スメクタイト、ベントナイトからなる群から選ばれる少なくとも1種である。
粘土鉱物がカオリン、雲母、スメクタイト、ベントナイトからなる群から選ばれる少なくとも1種であると、製造時に無機粒子の凝集性が向上し、無機粒子の歩留りが向上する。
【0024】
請求項17に記載の断熱材の製造方法では、上記粘土鉱物がベントナイトであって、上記無機繊維100重量部に対する上記ベントナイトの添加量は、5〜80重量部である。
無機繊維100重量部に対するベントナイトの添加量が5〜80重量部であると、ベントナイトが接着剤として適切に機能して無機繊維同士を少なくともその一部で接着することができる。
無機繊維100重量部に対するベントナイトの添加量が5重量部未満であると、ベントナイトの量が少ないため、接着材として適切に機能せず、無機繊維同士を充分に接着することができない場合がある。
無機繊維100重量部に対するベントナイトの添加量が80重量部を超えると、スラリー中のベントナイトの量が多いため、凝集体を作製しようとしても充分に凝集せず、成形できない場合がある。また、スラリーを脱水する際の濾水性が低下し、生産性が低下する。
【0025】
請求項18に記載の断熱材の製造方法では、上記無機粒子は、酸化チタン粉末、シリカ粉末、アルミナ粉末及びムライト粉末からなる群から選ばれる少なくとも1種である。
断熱材に酸化チタン粉末、シリカ粉末、アルミナ粉末、ムライト粉末等を添加することにより、それぞれの無機粒子の機能に応じた特性を持つ断熱材を製造することができる。具体的には、断熱材に酸化チタン粉末を添加することにより、輻射熱を散乱させることができ、断熱性の高い断熱材を製造することができる。断熱材にシリカ粉末を添加することにより、密度が増加し、硬度及び強度が高い断熱材を製造することができる。断熱材にアルミナ粉末を添加することにより、断熱材の温度が無機繊維の耐熱温度以上になったとしても、無機繊維とアルミナ粉末とが反応して、耐熱性の高い断熱材を製造することができる。断熱材にムライト粉末を添加することにより、断熱材の温度が無機繊維の耐熱温度以上になったとしても、無機繊維とムライト粉末とが反応して、耐熱性の高い断熱材を製造することができる。
また、断熱材に酸化チタン粉末、シリカ粉末、アルミナ粉末、ムライト粉末等を添加することにより、密度が高くなるため、硬度の高い断熱材を製造することができる。さらに、これらを組み合わせることで、一層効果的に硬度を増加させることも可能となる。
【0026】
請求項19に記載の断熱材の製造方法では、上記無機粒子が酸化チタン粉末であって、上記無機繊維100重量部に対する上記酸化チタン粉末の添加量は、5〜80重量部である。
無機繊維100重量部に対する酸化チタン粉末の添加量が5〜80重量部であると、輻射熱を散乱させることができ、さらに断熱性の高い断熱材を製造することができる。
無機繊維100重量部に対する酸化チタン粉末の添加量が5重量部未満であると、輻射熱を散乱させる酸化チタン粉末の量が少ないため、充分な断熱性を有する断熱材を製造できない場合がある。
無機繊維100重量部に対する酸化チタン粉末の添加量が80重量部を超えると、スラリー中の酸化チタン粉末の量が多いため、充分に凝集せず、成形できない場合がある。また、スラリーを脱水する際の濾水性が低下し、脱水に時間がかかり、生産性が低下する場合がある。
【0027】
請求項20に記載の断熱材の製造方法では、上記無機粒子がアルミナ粉末であって、上記無機繊維100重量部に対する上記アルミナ粉末の添加量は、5〜80重量部である。
無機繊維100重量部に対するアルミナ粉末の添加量が5〜80重量部であると、輻射熱を散乱させることができ、さらに耐熱性の高い断熱材を製造することができる。
無機繊維100重量部に対するアルミナ粉末の添加量が5重量部未満であると、アルミナ粉末の量が少ないため、充分な耐熱性を有する断熱材を製造できない場合がある。
無機繊維100重量部に対するアルミナ粉末の添加量が80重量部を超えると、スラリー中のアルミナ粉末の量が多いため、充分に凝集せず、成形できない場合がある。また、スラリーを脱水する際の濾水性が低下し、脱水に時間がかかり、生産性が低下する場合がある。
【0028】
請求項21に記載の断熱材の製造方法では、上記無機粒子が酸化チタン粉末であり、上記粘土鉱物がベントナイトであって、上記ベントナイト100重量部に対する上記酸化チタン粉末の添加量は、5〜800重量部である。
ベントナイト100重量部に対する酸化チタン粉末の添加量が5〜800重量部であると、プラスの電荷を有する酸化チタンの電荷をよりゼロに近づけることができ、酸化チタンをさらに凝集させることができる。従って、さらに多くの酸化チタンを含み、より断熱性の高い断熱材を効率的に製造することができる。
ベントナイト100重量部に対する酸化チタン粉末の添加量が5重量部未満であると、酸化チタン粉末の添加量が相対的に少ないため、充分な断熱性を有する断熱材を製造できない場合がある。
ベントナイト100重量部に対する酸化チタン粉末の添加量が800重量部を超えると、スラリー中の酸化チタン粉末の量が多いため、充分に凝集せず、成形できない場合がある。また、スラリーを脱水する際の濾水性が低下し、脱水に時間がかかり、生産性が低下する場合がある。
【0029】
請求項22に記載の断熱材の製造方法では、上記無機粒子がアルミナ粉末であり、上記粘土鉱物がベントナイトであって、上記ベントナイト100重量部に対する上記アルミナ粉末の添加量は、5〜800重量部である。
ベントナイト100重量部に対するアルミナ粉末の添加量が5〜800重量部であると、プラスの電荷を有するアルミナの電荷をよりゼロに近づけることができ、アルミナ粉末をさらに凝集させることができる。従って、さらに多くのアルミナ粉末を含み、より耐熱性の高い断熱材を効率的に製造することができる。
ベントナイト100重量部に対するアルミナ粉末の添加量が5重量部未満であると、アルミナ粉末の添加量が相対的に少ないため、充分な断熱性を有する断熱材を製造できない場合がある。
ベントナイト100重量部に対するアルミナ粉末の添加量が800重量部を超えると、スラリー中のアルミナ粉末の量が多いため、充分に凝集せず、スラリーを脱水する際の濾水性が低下し、脱水に時間がかかり、生産性が低下する場合がある。
【0030】
請求項23に記載の断熱材の製造方法では、上記凝集体を作製した際のスラリーの上澄み液の吸光度が0.1以下である。
スラリーの上澄み液の吸光度が0.1以下であると、無機繊維を含んだ凝集体に無機粒子が充分に凝集しており、無機粒子が充分に保持された断熱材を効率的に製造することができる。
スラリーの上澄み液の吸光度が0.1を超えると、無機粒子が凝集体と充分に凝集せず、無機粒子の特性に応じた性能の高い断熱材を製造することができない場合がある。
【0031】
請求項24に記載の断熱材の製造方法では、収率が85重量%以上である。
収率が85重量%以上であると、無機繊維を含む凝集体と無機粒子とが充分に凝集しており、無機粒子が充分に保持された断熱材を効率的に製造することができる。
収率が85重量%未満であると、無機粒子が凝集体と充分に凝集せず、無機粒子の特性に応じた性能の高い断熱材を製造することができない場合がある。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明する。しかしながら、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。
【0033】
(第一実施形態)
以下、本発明の断熱材の一実施形態である第一実施形態について説明する。
本実施形態に係る断熱材は、無機繊維、無機粒子、粘土鉱物、カチオン性凝集剤、及び、アニオン性凝集剤を含む。
【0034】
断熱材の形状は特に限定されるものではないが、厚さが5〜100mmのブロック体等に形成されることが望ましい。これにより、工業炉、ヒータ等の用途に好適に用いることができる。
【0035】
上記無機繊維は、生体溶解性ファイバ、ロックウール、アルミナファイバ、シリカ−アルミナファイバ、又は、シリカアルミナジルコニアファイバであることが望ましく、生体溶解性ファイバ、ロックウールであることがより望ましい。
【0036】
上記生体溶解性ファイバとは、短期吸入試験による生体内滞留試験で20μmより長い繊維が10日未満の荷重半減期となるもの、又は、気管内注入による短期の生体内滞留試験で20μmより長い繊維が40日未満の荷重半減期となるものをいう。これらの荷重半減期を満たすものは、生体溶解性ファイバが生体内に取り込まれた際の発がん性の危険性を低くすることができるからである。
【0037】
上記生体溶解性ファイバは、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、及び、ホウ素化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含むことが望ましく、アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物を含むことがより望ましい。
【0038】
上記アルカリ金属化合物としては、例えば、ナトリウム、カリウムの酸化物又は塩が挙げられ、上記アルカリ土類金属化合物としては、マグネシウム、カルシウム、バリウムの酸化物又は塩が挙げられる。上記ホウ素化合物としては、ホウ素の酸化物又は塩が挙げられる。無機繊維の材料として用いられるシリカ、アルミナ、シリカアルミナ、ガラス等に、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ホウ素の酸化物又は塩を含ませて得られる繊維は、生体溶解性とすることができる。
本実施形態の生体溶解性ファイバは、少なくとも酸化マグネシウム(MgO)を15〜30重量%含むか、又は、少なくとも酸化カルシウム(CaO)を15〜35重量%含むものが好ましい。
【0039】
本実施形態に係る断熱材に含まれる生体溶解性ファイバは、上記アルカリ金属化合物等の他にシリカを60〜85重量%含むことが望ましく、70〜80重量%含むことがより望ましい。生体溶解性ファイバ中のシリカの含有量が60重量%未満であると、生体溶解性ファイバの強度が弱くなり易い。一方、生体溶解性ファイバ中のシリカの含有量が85重量%を超えると、生体溶解性ファイバ中の無機化合物の含有量が少なくなるため、生体溶解性が低下し易くなる。
生体溶解性ファイバとしては、例えば、ニチアス社製のファインフレックスE、BIOOL、新日本サーマルセラミックス社製のSW607、SW607HT、ユニフラックス社製のIsofrax、Insulfrax等が挙げられる。
【0040】
上記ロックウールとは、一般に、高炉スラグ又は玄武岩、その他の天然岩石などを主原料として、キュポラ又は電気炉で1500〜1600℃の高温で溶融するか、又は、高炉から出たのち、同程度の高温に保温した溶融スラグを炉底から流出させ、遠心力などで吹き飛ばして繊維状にした人造鉱物繊維をいう。
【0041】
上記無機粒子は、酸化チタン粉末、シリカ粉末、アルミナ粉末及びムライト粉末からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが望ましく、酸化チタン粉末であることがより望ましい。
【0042】
上記無機粒子が酸化チタン粉末である場合、上記無機繊維100重量部に対する上記酸化チタン粉末の含有量は、5〜80重量部であることが望ましく、20〜40重量部であることがより望ましい。
【0043】
上記無機粒子がアルミナ粉末である場合、上記無機繊維100重量部に対する上記アルミナ粉末の含有量は、5〜80重量部であることが望ましく、20〜40重量部であることがより望ましい。
【0044】
上記粘土鉱物とは、粘土を構成する鉱物で、層状粘土鉱物を主成分とする。
【0045】
上記粘土鉱物は、カオリン、雲母、スメクタイト、ベントナイトからなる群から選ばれる少なくとも1種であることが望ましく、ベントナイトであることがより望ましい。
【0046】
上記粘土鉱物がベントナイトである場合、上記無機繊維100重量部に対する上記ベントナイトの含有量は、3〜80重量部であることが望ましく、5〜20重量部であることがより望ましい。
【0047】
上記無機粒子が酸化チタン粉末であり、上記粘土鉱物がベントナイトである場合、上記ベントナイト100重量部に対する上記酸化チタン粉末の含有量は、5〜800重量部であることが望ましく、100〜400重量部であることがより望ましい。
【0048】
上記無機粒子がアルミナ粉末であり、上記粘土鉱物がベントナイトである場合、上記ベントナイト100重量部に対する上記アルミナ粉末の含有量は、5〜800重量部であることが望ましく、100〜400重量部であることがより望ましい。
【0049】
上記カチオン性凝集剤は、特に限定されるものではないが、例えば、カチオン性アクリルアミド、カチオン化澱粉、カチオン化変性アクリル系共重合体等が挙げられる。
カチオン性凝集剤の具体例としては、敷島スターチ製のマーメイド350(カチオン化澱粉)、アライドコロイド社製のパーコール(カチオン性アクリルアミド)、荒川化学工業社製のポリストロン705(カチオン性アクリルアミド)、ポリストロンアラフィックスDC−R(カチオン性アクリルアミド)、明成化学工業社製のファイレックスRC−104(カチオン変性アクリル系共重合体)等が挙げられる。
【0050】
上記アニオン性凝集剤としては、例えば、アニオン性ポリアクリルアミド、アクリル系共重合体等が挙げられる。
アニオン性凝集剤の具体例としては、例えば、荒川化学工業社製のポリストロン117(アニオン性ポリアクリルアミド)、星光PMC社製のポリアクロン(アニオン性ポリアクリルアミド)、明成化学工業社製のファイレックスM(アクリル系共重合体)等が挙げられる。
【0051】
本実施形態に係る断熱材の強熱減量は1重量%以下であることが望ましく、0.2〜1重量%であることがより望ましい。
強熱減量が0.2重量%未満であると、スラリーが凝集せず、断熱材の強度が低くなる。
【0052】
次に、本実施形態に係る断熱材の製造方法について説明する。
本実施形態に係る断熱材の製造方法は、無機繊維、無機粒子及び粘土鉱物を水中に投入して上記無機繊維、上記無機粒子及び上記粘土鉱物が水中に分散したスラリーとした後、上記スラリーに、カチオン性凝集剤、アニオン性凝集剤の順序で添加して凝集体を得て、その後、上記凝集体を型に投入し、脱水成形、乾燥する。
【0053】
まず最初に、水を張った槽に無機繊維を投入して攪拌する。
無機繊維の投入量は、水1000重量部に対して3〜50重量部が好ましい。これにより、無機繊維が水中で均一に分散し、凝集性の良い断熱材が得られる。
無機繊維の投入量が3重量部未満であると、無機繊維の投入量が少なすぎるため、得られる断熱材の量が少なくなり、生産性が低下する。
無機繊維の投入量が50重量部を超えると、水に対する無機繊維の量が多くなりすぎるので、後に投入する無機粒子等の添加物質を均一に攪拌するのが難しくなる。
【0054】
次に、粘土鉱物を投入し、攪拌する。
粘土鉱物を投入した後、無機粒子を投入するまでの攪拌時間は、30秒〜5分が好ましい。攪拌時間が30秒未満の場合には、粘土鉱物が水中で均一に分散せず、良好な凝集を行うことができない。一方、攪拌時間が5分を超えても、攪拌による粘土鉱物の均一分散効果は上がらず、経済的でない。
【0055】
続いて、無機粒子を投入し、攪拌する。
無機粒子を投入した後、カチオン性凝集剤を添加するまでの攪拌時間は、30秒〜5分が好ましい。
攪拌時間が30秒未満の場合には、無機粒子が水中で均一に分散せず、良好な凝集を行うことができない。一方、攪拌時間が5分を超えても、攪拌による無機粒子の均一分散効果は上がらず、経済的でない。
【0056】
次に、無機繊維、粘土鉱物及び無機粒子が添加されたスラリーにカチオン性凝集剤を添加する。
カチオン性凝集剤の添加により、無機繊維、粘土鉱物及び無機粒子を含むフロックを形成させることができる。
【0057】
カチオン性凝集剤を添加した後、アニオン性凝集剤を添加するまでの攪拌時間は、30秒〜5分が好ましい。攪拌時間が30秒未満の場合には、カチオン性凝集剤が水中で均一に分散せず、良好な凝集を行うことができない。一方、攪拌時間が5分を超えても、攪拌によるカチオン性凝集剤の均一分散効果は上がらず、経済的でない。
【0058】
その後、無機繊維、粘土鉱物、無機粒子及びカチオン性凝集剤を含むプラスに帯電したフロックを反対の電荷を有するアニオン性凝集剤により凝集させることができる。
【0059】
アニオン性凝集剤を添加した後、濾過を行うまでの攪拌時間は、30秒〜5分が好ましい。
攪拌時間が30秒未満の場合には、アニオン性凝集剤が水中で均一に分散せず、良好な凝集を行うことができない。一方、攪拌時間が5分を超えても、攪拌によるアニオン性凝集剤の均一分散効果は上がらず、経済的でない。
【0060】
無機繊維100重量部に対するカチオン性凝集剤とアニオン性凝集剤との合計添加量は、0.5重量部以下であることが望ましく、0.2〜0.4重量部であることがより望ましい。
【0061】
このようにして、無機繊維、無機粒子及び粘土鉱物を水中に投入して上記無機繊維、上記無機粒子及び上記粘土鉱物が水中に分散したスラリーとした後、上記スラリーに、カチオン性凝集剤、アニオン性凝集剤の順序で添加して凝集体を得て、その後、上記凝集体を型に投入し、脱水成形することにより成形断熱材が成形される。
この後、成形断熱材中の水分を除去するために乾燥させ、厚さが5〜100mmのブロック体に加工することにより、断熱材が完成する。
【0062】
以下、本発明の第一実施形態に係る断熱材及び断熱材の製造方法の効果について列挙する。
(1)本実施形態に係る断熱材では、断熱材中に無機粒子が保持されているため、無機粒子の特性に応じた性能の高い断熱材とすることができる。
(2)本実施形態に係る断熱材では、強熱減量が1重量%以下である。有機系のバインダーや凝集剤を含む断熱材は、高温環境下で使用される際に悪臭のガスを発生するという問題があるが、強熱減量が1重量%以下であると、悪臭の燃焼ガスの発生を抑えることができる。
(3)本実施形態に係る断熱材では、無機粒子は、酸化チタン粉末、シリカ粉末、アルミナ粉末及びムライト粉末からなる群から選ばれる少なくとも1種である。
断熱材が酸化チタン粉末、シリカ粉末、アルミナ粉末、ムライト粉末等を含有することにより、それぞれの無機粒子の機能に応じた特性を断熱材に付与することができる。
(4)本実施形態に係る断熱材の製造方法では、無機繊維、無機粒子及び粘土鉱物を水中に投入して上記無機繊維、上記無機粒子及び上記粘土鉱物が水中に分散したスラリーとした後、上記スラリーに、カチオン性凝集剤、アニオン性凝集剤の順序で添加して凝集体を得て、その後、上記凝集体を型に投入し、脱水成形、乾燥する。これによって、無機粒子を含むスラリーを充分に凝集させて、無機粒子を含む断熱材を効率的に製造することができる。また、無機粒子を含む凝集体が充分に凝集しているので、短時間で脱水成形を行うことができ、効率的に断熱材を製造することができる。
(5)本実施形態に係る断熱材の製造方法では、無機繊維100重量部に対するカチオン性凝集剤とアニオン性凝集剤との合計添加量は、0.5重量部以下である。
粘土鉱物と無機粒子とからなる集団は、ほぼ電荷を失っているので、カチオン性凝集剤とともに無機繊維に付着し易い。その結果、カチオン性凝集剤とアニオン性凝集剤との合計添加量が0.5重量部以下であっても、無機粒子を含むスラリーを充分に凝集させて、無機粒子を含む断熱材を効率的に製造することができる。
(6)本実施形態に係る断熱材の製造方法では、無機粒子は、酸化チタン粉末、シリカ粉末、アルミナ粉末及びムライト粉末からなる群から選ばれる少なくとも1種である。断熱材に酸化チタン粉末、シリカ粉末、アルミナ粉末、ムライト粉末等を添加することにより、それぞれの無機粒子の機能に応じた特性を持つ断熱材を製造することができる。
【実施例】
【0063】
以下、本発明の第一実施形態をより具体的に開示した実施例を示すが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0064】
(実施例1)
まず、槽に9900重量部の水を張り、ロックウール(太平洋マテリアル株式会社製の太平洋ミネラルファイバ、SiO:42.3重量%、CaO:35.5重量%、Al:15.5重量%、MgO:6.4重量%、Fe:0.6重量%、平均繊維径:5.0μm)100重量部を添加し、1分間よく攪拌した。
【0065】
次に、ベントナイト(水澤化学工業社製のエードプラス)を20重量部(固形分換算で20重量部)加え、1分間よく攪拌した。
【0066】
次に、酸化チタン粉末(キンセイマテック社製のルチールフラワーS)を40重量部加え、1分間よく攪拌した。
【0067】
次に、カチオン性凝集剤(アライドコロイド社製のパーコール292)を0.2重量部(固形分換算で0.2重量部)加え、1分間攪拌した後、アニオン性凝集剤(明成化学工業社製のファイレックスM)を2重量部(固形分換算で0.2重量部)加え、1分間攪拌し、その後10分間放置し、凝集体を作製した。
【0068】
続いて、形成された凝集体を含むスラリーを65メッシュの金網が取り付けてある脱水用の型に流し込み、脱水成形を行うことにより水分を含む成形断熱体を作製した。
この後、水分を含む成形断熱体を105℃で乾燥させた後、切削加工を行い断熱材を製造した。添加した粘土鉱物等の添加物質の重量(重量部)を表1に示す。
【0069】
(凝集性の評価)
凝集体を作製した際のスラリーの上澄み液を採取し、上澄み液の透明度を測定して、スラリーの凝集性を評価した。
上澄み液の透明度の測定は、以下のように上澄み液の吸光度を求めることにより行った。
すなわち、まず、脱イオン水を用い、光路長10mmのセルに入れ、650nmの光を当てて透過した光の強度Iを測定し、それをベースラインとした。
次に、スラリーの上澄み液を光路長10mmのセルに入れ、同様に650nmの光を当てて透過した光の強度Iを測定し、吸光度を求めた。
このときの吸光度Aλは、下記の(1)式で表される。スラリーの上澄み液の吸光度の測定結果を表2に示す。
λ=−log10I/I・・・(1)
【0070】
吸光度の値は、高いほどスラリー内に光を吸収する成分が高いことを意味する。上記凝集性の評価では、凝集体を作製した際のスラリーの上澄み液を測定している。そのため、無機粒子が無機繊維を含んだ凝集体と凝集しない場合、スラリーの上澄み液に無機粒子が存在するので、吸光度は高くなる。
すなわち、無機粒子が無機繊維を含む凝集体と凝集しているのであれば吸光度が低くなり、吸光度が0.1以下であれば、無機繊維を含んだ凝集体に無機粒子が充分に凝集していると言える。
【0071】
(収率の測定)
水分を含む成形断熱体を乾燥させた後の重量を測定し、以下の計算式(2)により収率を求めた。その結果を表2に示す。
収率(wt%)=(乾燥後の重量/投入原料固形分重量)×100・・・(2)
【0072】
収率の値は、高いほど投入した原材料が無駄なく乾燥後の断熱材に含まれていることを意味する。つまり、無機繊維を含む凝集体と無機粒子とが充分に凝集していれば、収率は高くなる。また、無機繊維を含む凝集体と無機粒子との凝集が不充分である場合は、脱水時に多くの無機粒子が排水されるため、乾燥後の断熱材に含まれる無機粒子が少なく、収率も小さくなる。断熱材においては、収率が85重量%以上であれば、断熱材中に無機粒子が充分に存在していると言える。
【0073】
(強熱減量の測定)
強熱減量は、乾燥試料を高温で加熱し、加熱前後の重量比を算出することで求められる。強熱減量を測定することによって、断熱材中に含まれる有機物の量を求めることができる。
具体的には、まず、乾燥させた成形断熱体を3〜5g採取して、るつぼに投入し、150℃で1時間乾燥させた後、重量を測定した。次に、400℃で1時間焼成し、再び重量を測定し、焼成前後の重量比を求めた。最後に、以下の計算式(3)により強熱減量を求めた。その結果を表2に示す。
強熱減量(wt%)=100−(焼成後の重量/乾燥後の重量)×100・・・(3)
【0074】
断熱材中に含まれる有機物の量が多いほど、高温時に悪臭ガスの発生量が増える。従って、強熱減量の値は小さい方が好ましい。
【0075】
(実施例2〜4)
実施例2〜4ではベントナイトの添加量を変えた以外は、実施例1と同様にして断熱材を製造し、凝集性の評価、収率の測定及び強熱減量の測定を行った。添加した粘土鉱物等の添加物質の重量(重量部)を表1に、凝集性の評価、収率の測定結果及び強熱減量の測定結果を表2に示す。なお、ベントナイトの添加量は3〜80重量部の範囲で変化させている。
【0076】
(実施例5)
実施例5では、酸化チタン粉末の添加量を80重量部とした以外は、実施例1と同様にして断熱材を製造し、凝集性の評価、収率の測定及び強熱減量の測定を行った。添加した粘土鉱物等の添加物質の重量(重量部)を表1に、凝集性の評価、収率の測定結果及び強熱減量の測定結果を表2に示す。
【0077】
(実施例6)
実施例6では、ベントナイトの代わりにカオリンを用いた以外は、実施例3と同様にして断熱材を製造し、凝集性の評価、収率の測定及び強熱減量の測定を行った。添加した粘土鉱物等の添加物質の重量(重量部)を表1に、凝集性の評価、収率の測定結果及び強熱減量の測定結果を表2に示す。
【0078】
(実施例7)
実施例7では、カチオン性凝集剤及びアニオン性凝集剤の添加量をそれぞれ0.4重量部とした以外は、実施例1と同様にして断熱材を製造し、凝集性の評価、収率の測定及び強熱減量の測定を行った。添加した粘土鉱物等の添加物質の重量(重量部)を表1に、凝集性の評価、収率の測定結果及び強熱減量の測定結果を表2に示す。
【0079】
(実施例8)
実施例8では、カチオン性凝集剤及びアニオン性凝集剤の添加量をそれぞれ0.3重量部とした以外は、実施例4と同様にして断熱材を製造し、凝集性の評価、収率の測定及び強熱減量の測定を行った。添加した粘土鉱物等の添加物質の重量(重量部)を表1に、凝集性の評価、収率の測定結果及び強熱減量の測定結果を表2に示す。
【0080】
(比較例1)
比較例1では、粘土鉱物が含まれない以外は、実施例1と同様にして断熱材を製造し、凝集性の評価、収率の測定及び強熱減量の測定を行った。添加した無機粒子等の添加物質の重量(重量部)を表1に、凝集性の評価、収率の測定結果及び強熱減量の測定結果を表2に示す。
【0081】
(比較例2)
比較例2では、カチオン性凝集剤及びアニオン性凝集剤の添加量をそれぞれ1.0重量部とした以外は、比較例1と同様にして断熱材を製造し、凝集性の評価、収率の測定及び強熱減量の測定を行った。添加した無機粒子等の添加物質の重量(重量部)を表1に、凝集性の評価、収率の測定結果及び強熱減量の測定結果を表2に示す。
【0082】
(比較例3及び4)
比較例3ではカチオン性凝集剤が含まれず、比較例4ではアニオン性凝集剤が含まれない以外は、実施例1と同様にして断熱材を製造し、凝集性の評価、収率の測定及び強熱減量の測定を行った。添加した無機粒子等の添加物質の重量(重量部)を表1に、凝集性の評価、収率の測定結果及び強熱減量の測定結果を表2に示す。
【0083】
【表1】

【0084】
【表2】

【0085】
表2の実施例1〜8の結果からわかるように、無機繊維、無機粒子、粘土鉱物、カチオン性凝集剤、及び、アニオン性凝集剤を含む断熱材では、凝集体を作製した際のスラリーの吸光度が低く、収率が高い。つまり、無機繊維等を含む凝集体が充分に凝集した断熱材であって、断熱材中に無機粒子が保持されていることがわかる。
【0086】
また、カチオン性凝集剤及びアニオン性凝集剤の合計添加量が0.5重量部を超える実施例7及び8では、強熱減量が1重量%を超えて大きい。つまり、断熱材中に含まれる有機物の量が多いため、高温環境下で使用される際に悪臭のガスを発生する場合がある。
【0087】
これに対して、粘土鉱物を含まない比較例1の断熱材では、凝集体を作製した際のスラリーの吸光度が高く、収率が低い。つまり、無機繊維等を含む凝集体が充分に凝集していないことから、断熱材中に無機粒子が保持されていないことがわかる。
【0088】
また、カチオン性凝集剤及びアニオン性凝集剤の添加量を増やした比較例2でも、吸光度が高く、収率が低い。つまり、カチオン性凝集剤及びアニオン性凝集剤の添加量を増やしても、粘土鉱物を含まない断熱材では、無機繊維等を含む凝集体が充分に凝集せず、断熱材中に無機粒子が保持されていないことがわかる。
【0089】
カチオン性凝集剤又はアニオン性凝集剤のどちらか一方が含まれない比較例3及び4では、カチオン性凝集剤及びアニオン性凝集剤の両方が含まれる実施例に比べて、吸光度が高く、収率が低い。つまり、無機繊維等を含む凝集体が充分に凝集していないことから、断熱材中に無機粒子が保持されていないことがわかる。
【0090】
(実施例9)
実施例9では、ロックウールの代わりに生体溶解性ファイバ(ニチアス株式会社製のBIOOL、SiO:73重量%、CaO:25重量%、Al:2重量%、MgO:1重量%未満、平均繊維径:4.0μm)、酸化チタン粉末の代わりにアルミナ粉末を用い、カチオン性凝集剤及びアニオン性凝集剤の添加量をそれぞれ0.1重量部とした以外は、実施例1と同様にして断熱材を製造し、凝集性の評価、収率の測定及び強熱減量の測定を行った。添加した粘土鉱物等の添加物質の重量(重量部)を表3に、凝集性の評価、収率の測定結果及び強熱減量の測定結果を表4に示す。
【0091】
(実施例10及び11)
実施例10ではベントナイトの添加量を5重量部、実施例11ではアルミナ粉末の添加量を80重量部に変えた以外は、実施例9と同様にして断熱材を製造し、凝集性の評価、収率の測定及び強熱減量の測定を行った。添加した粘土鉱物等の添加物質の重量(重量部)を表3に、凝集性の評価、収率の測定結果及び強熱減量の測定結果を表4に示す。
【0092】
(比較例5)
比較例5では、ベントナイトが含まれない以外は、実施例9と同様にして断熱材を製造し、凝集性の評価、収率の測定及び強熱減量の測定を行った。添加した無機粒子等の添加物質の重量(重量部)を表3に、凝集性の評価、収率の測定結果及び強熱減量の測定結果を表4に示す。
【0093】
(比較例6)
比較例6では、カチオン性凝集剤及びアニオン性凝集剤の添加量をそれぞれ1.0重量部とした以外は、比較例5と同様にして断熱材を製造し、凝集性の評価、収率の測定及び強熱減量の測定を行った。添加した無機粒子等の添加物質の重量(重量部)を表3に、凝集性の評価、収率の測定結果及び強熱減量の測定結果を表4に示す。
【0094】
(比較例7及び8)
比較例7ではカチオン性凝集剤が含まれず、比較例8ではアニオン性凝集剤が含まれない以外は、実施例9と同様にして断熱材を製造し、凝集性の評価、収率の測定及び強熱減量の測定を行った。添加した無機粒子等の添加物質の重量(重量部)を表3に、凝集性の評価、収率の測定結果及び強熱減量の測定結果を表4に示す。
【0095】
【表3】

【0096】
【表4】

【0097】
表4の実施例9〜11の結果からわかるように、無機繊維、無機粒子、粘土鉱物、カチオン性凝集剤、及び、アニオン性凝集剤を含む断熱材では、凝集体を作製した際のスラリーの吸光度が低く、収率も高い。つまり、無機繊維等を含む凝集体が充分に凝集した断熱材であって、断熱材中に無機粒子が保持されていることがわかる。
【0098】
これに対して、粘土鉱物を含まない比較例5の断熱材では、凝集体を作製した際のスラリーの吸光度が高く、収率も低い。つまり、無機繊維等を含む凝集体が充分に凝集していないことから、断熱材中に無機粒子が保持されていないことがわかる。
【0099】
また、カチオン性凝集剤及びアニオン性凝集剤の添加量を増やした比較例6でも、吸光度が高く、収率が低い。つまり、カチオン性凝集剤及びアニオン性凝集剤の添加量をふやしても、粘土鉱物を含まない断熱材では、無機繊維等を含む凝集体が充分に凝集せず、断熱材中に無機粒子が保持されていないことがわかる。
【0100】
カチオン性凝集剤又はアニオン性凝集剤のどちらか一方が含まれない比較例7及び8では、カチオン性凝集剤及びアニオン性凝集剤の両方が含まれる実施例に比べて、吸光度が高く、収率が低い。つまり、無機繊維等を含む凝集体が充分に凝集していないことから、断熱材中に無機粒子が保持されていないことがわかる。
【0101】
(その他の実施形態)
本発明の断熱材の製造方法により製造された断熱材は、上記のように、充分な耐熱性を有するので、工業炉、ヒータ等の用途に好適に用いることができる。
【0102】
本発明の断熱材においては、無機繊維、無機粒子、粘土鉱物、カチオン性凝集剤、及び、アニオン性凝集剤を含むことを必須の構成要素としている。
係る必須の構成要素に、本発明の第一実施形態、及び、その他の実施形態で詳述した様々な構成(例えば、断熱材の製造工程等)を適宜組み合わせることにより所望の効果を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機繊維、無機粒子、粘土鉱物、カチオン性凝集剤、及び、アニオン性凝集剤を含むことを特徴とする断熱材。
【請求項2】
強熱減量が1重量%以下である請求項1に記載の断熱材。
【請求項3】
前記無機繊維は、生体溶解性ファイバ、ロックウール、アルミナファイバ、シリカ−アルミナファイバ、又は、シリカアルミナジルコニアファイバである請求項1又は2に記載の断熱材。
【請求項4】
前記生体溶解性ファイバは、アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物を含む請求項3に記載の断熱材。
【請求項5】
前記粘土鉱物は、カオリン、雲母、スメクタイト、ベントナイトからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜4のいずれかに記載の断熱材。
【請求項6】
前記粘土鉱物がベントナイトであって、
前記無機繊維100重量部に対する前記ベントナイトの含有量は、5〜80重量部である請求項1〜4のいずれかに記載の断熱材。
【請求項7】
前記無機粒子は、酸化チタン粉末、シリカ粉末、アルミナ粉末及びムライト粉末からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜6のいずれかに記載の断熱材。
【請求項8】
前記無機粒子が酸化チタン粉末であって、
前記無機繊維100重量部に対する前記酸化チタン粉末の含有量は、5〜80重量部である請求項1〜6のいずれかに記載の断熱材。
【請求項9】
前記無機粒子がアルミナ粉末であって、
前記無機繊維100重量部に対する前記アルミナ粉末の含有量は、5〜80重量部である請求項1〜6のいずれかに記載の断熱材。
【請求項10】
前記無機粒子が酸化チタン粉末であり、前記粘土鉱物がベントナイトであって、
前記ベントナイト100重量部に対する前記酸化チタン粉末の含有量は、5〜800重量部である請求項1〜4のいずれかに記載の断熱材。
【請求項11】
前記無機粒子がアルミナ粉末であり、前記粘土鉱物がベントナイトであって、
前記ベントナイト100重量部に対する前記アルミナ粉末の含有量は、5〜800重量部である請求項1〜4のいずれかに記載の断熱材。
【請求項12】
無機繊維、無機粒子及び粘土鉱物を水中に投入して前記無機繊維、前記無機粒子及び前記粘土鉱物が水中に分散したスラリーとした後、前記スラリーに、カチオン性凝集剤、アニオン性凝集剤の順序で添加して凝集体を得て、その後、前記凝集体を型に投入し、脱水成形することを特徴とする断熱材の製造方法。
【請求項13】
前記無機繊維100重量部に対する前記カチオン性凝集剤と前記アニオン性凝集剤との合計添加量は、0.5重量部以下である請求項12に記載の断熱材の製造方法。
【請求項14】
前記無機繊維は、生体溶解性ファイバ、ロックウール、アルミナファイバ、シリカ−アルミナファイバ、又は、シリカアルミナジルコニアファイバである請求項12又は13に記載の断熱材の製造方法。
【請求項15】
前記生体溶解性ファイバは、アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物を含む請求項14に記載の断熱材の製造方法。
【請求項16】
前記粘土鉱物は、カオリン、雲母、スメクタイト、ベントナイトからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項12〜15のいずれかに記載の断熱材の製造方法。
【請求項17】
前記粘土鉱物がベントナイトであって、
前記無機繊維100重量部に対する前記ベントナイトの添加量は、5〜80重量部である請求項12〜15のいずれかに記載の断熱材の製造方法。
【請求項18】
前記無機粒子は、酸化チタン粉末、シリカ粉末、アルミナ粉末及びムライト粉末からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項12〜17のいずれかに記載の断熱材の製造方法。
【請求項19】
前記無機粒子が酸化チタン粉末であって、
前記無機繊維100重量部に対する前記酸化チタン粉末の添加量は、5〜80重量部である請求項12〜17のいずれかに記載の断熱材の製造方法。
【請求項20】
前記無機粒子がアルミナ粉末であって、
前記無機繊維100重量部に対する前記アルミナ粉末の添加量は、5〜80重量部である請求項12〜17のいずれかに記載の断熱材の製造方法。
【請求項21】
前記無機粒子が酸化チタン粉末であり、前記粘土鉱物がベントナイトであって、
前記ベントナイト100重量部に対する前記酸化チタン粉末の添加量は、5〜800重量部である請求項12〜15のいずれかに記載の断熱材の製造方法。
【請求項22】
前記無機粒子がアルミナ粉末であり、前記粘土鉱物がベントナイトであって、
前記ベントナイト100重量部に対する前記アルミナ粉末の添加量は、5〜800重量部である請求項12〜15のいずれかに記載の断熱材の製造方法。
【請求項23】
前記凝集体を作製した際のスラリーの上澄み液の吸光度が0.1以下である請求項12〜22のいずれかに記載の断熱材の製造方法。
【請求項24】
収率が85重量%以上である請求項12〜23のいずれかに記載の断熱材の製造方法。

【公開番号】特開2013−79665(P2013−79665A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−219439(P2011−219439)
【出願日】平成23年10月3日(2011.10.3)
【出願人】(000000158)イビデン株式会社 (856)
【Fターム(参考)】