説明

新しい骨量増加薬

【課題】骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞の分化・成熟・石灰化を増強するRANKL作用分子を含む骨形成増強剤の提供。
【解決手段】骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞上のRANKLに作用し、骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞の分化、増殖、成熟又は石灰化を促進する化合物を有効成分として含む、骨量減少を伴う骨代謝疾患の治療又は予防のための医薬組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨芽細胞又は骨芽前駆細胞、間葉系幹細胞、間質細胞、筋芽細胞等の骨芽細胞に分化し得る細胞に作用しそれらの細胞の分化・成熟を増強する分子であって、その分子を有効量投与することにより骨形成を増強する方法に関する。
【0002】
本発明はまた骨形成を刺激するための医薬品組成物に関する。
さらに本発明はRANKLに作用し、シグナルを伝える物質のスクリーニング方法、及びこれにより得られた物質、及び得られた物質を含有する医薬品組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
骨は自らの形態変化や血中カルシウム濃度の維持のため、常に形成と吸収・破壊を繰り返し再構築を行う動的な器官である。通常は骨芽細胞による骨形成と破骨細胞による骨吸収とは平衡状態にあり、これらの細胞間の相互応答機構により骨量が一定に保たれる(非特許文献1を参照)。閉経、老化、炎症などによりこの平衡状態が破綻すると骨粗鬆症、関節リウマチによる骨破壊などの骨代謝異常を発症する。これらの骨代謝異常症は現在高齢化社会の大きな問題の一つとなっており、その発症メカニズムの分子レベルでの解明と有効な治療薬の開発は急務である。
【0004】
骨粗鬆症は日本においては1千万人以上の潜在的な患者がいると推測されている。骨粗鬆症をはじめとする骨量減少症には、若年性骨粗鬆症、骨形成不全、高カルシウム血症、上皮小体機能亢進症、骨軟化症、骨石灰脱失症、骨溶解性骨疾患、骨壊死、パジェット病、関節リウマチ、変形性関節症による骨の低下、炎症性関節炎、骨髄炎、グルココルチコイド処置、転移性の骨疾患、歯周の骨の喪失、癌による骨の喪失、加齢による骨の喪失、及びその他の骨量減少症が含まれる。
【0005】
これまで骨粗鬆症などの骨量減少を示す骨代謝疾患に対する治療薬としては、骨形成の増強よりむしろ骨吸収過程を阻害する骨吸収抑制剤が用いられてきた。骨吸収を阻害する能力により、骨粗鬆症の治療に使用又は示唆されている薬剤には、エストロゲン、選択的エストロゲンレセプター調節因子(SERM)、イプリフラボン、ビタミンK2、カルシウム、カルシトリオール、カルシトニン(非特許文献2を参照)、アレンドロネートなどのビスホスホネートがある。(非特許文献3を参照)。しかし、これらの薬剤を用いた治療法は、その効果並びに治療結果において必ずしも満足できるものではなく、より安全かつ有効性の高い新しい治療薬の開発が待ち望まれている。特に、これらビスホスホネートを中心とする骨吸収抑制剤による過度の骨吸収抑制は、人体に悪影響を及ぼすのではないかという懸念がある。医原性大理石骨病になる危険もあり(非特許文献4を参照)、特に若年者への投与は慎重に行う必要がある。特にビスホスホネートによって高度に骨代謝回転が低下する症例では、骨折治癒が遅延する可能性も報告されている(非特許文献5を参照)。
【0006】
一方、日本では骨形成促進薬としては副甲状腺ホルモン(parathyroid hormone, PTH)が臨床開発中である。その他にはBMP2、BMP7、IGF1、FGF2などに骨形成促進作用が知られているが、実際に骨形成促進薬として応用されている例は限られている。例えば、米国などでPTHが骨粗鬆症に、BMP2、BMP7が脊椎すべり症などに、IGF1が重症原発性IGF1欠損症による低身長の小児に臨床応用されているのみである。このように骨形成促進薬の応用例が非常に少ないのは骨形成を行う骨芽細胞の分化・成熟のメカニズムが解明されていないからであった。
【0007】
骨破壊を司る破骨細胞は単球・マクロファージ系の造血細胞に由来する大型の多核細胞である。その前駆細胞は骨表面において骨芽細胞/間質細胞による調節を受け破骨細胞へと分化・成熟する(非特許文献1を参照)。破骨細胞分化因子(RANKL; receptor activator of NF-κB ligand)は、骨吸収因子によって骨芽細胞/間質細胞上に誘導される腫瘍壊死因子(TNF; tumor necrosis factor)ファミリーに属する膜結合タンパク質で、破骨細胞分化・成熟に必須の因子である(非特許文献6及び7を参照)。その受容体であるRANK(receptor activator of NF-κB)及びおとり受容体のOPG(osteoprotegerin)を含めたRANKL/RANK/OPGを軸とした研究により、破骨細胞分化・成熟の調節メカニズムの解明が生体レベルで進み、これら3分子と骨代謝疾患との関わりも明らかになってきている(非特許文献8を参照)。
【0008】
骨吸収と骨形成は通常平衡状態にあり、吸収した量だけ形成するという絶妙のバランスを調節するメカニズムが存在する。この骨吸収と骨形成の共役のことはカップリングと呼ばれる(非特許文献9を参照)。破骨細胞分化因子であるRANKLは骨吸収因子の刺激を受けて骨芽細胞上に産生され、破骨細胞前駆細胞や破骨細胞上のRANKL受容体であるRANKに結合することにより、分化・活性化シグナルを伝える。このメカニズムに基づいて、TNFの結合領域の立体構造に似せた人工ペプチドをRANKLからRANKへのシグナル伝達の抑制に用いたという報告がある(非特許文献10〜12を参照)。
【0009】
一方、骨吸収のシグナルを受けて、骨芽細胞に骨形成シグナルを伝えるメカニズムは解明されていなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Sudaら、Endocr Rev,13:66, 1992
【非特許文献2】Sambookら,N Engl J Med 328: 1747, 1993
【非特許文献3】Luckmanら、J Bone Miner Res 13 :581, 1998
【非特許文献4】Whyteら、N Engl J Med 349 : 457, 2003
【非特許文献5】Odvinaら、J Clin Endocrinol Metab 90 : 1294, 2005
【非特許文献6】Yasudaら、Proc Natl Acad Sci USA 95: 3597, 1998
【非特許文献7】Laceyら、Cell 93: 165, 1998
【非特許文献8】Sudaら、Endocr Rev,20:345, 1999
【非特許文献9】Martinら、Trends Mol Med,11:76, 2005
【非特許文献10】Aokiら、J Clin Invest 116: 1525, 2006
【非特許文献11】Takasakiら、Nat Biotec, 15:1266, 1997
【非特許文献12】Chengら、J Biol Chem, 279; 8269, 2004
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞の分化・成熟・石灰化を増強するRANKL結合分子であって、その分子を有効量投与することにより骨形成を増強する方法及び骨形成を刺激するための医薬品組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、リガンドであるRANKLからその受容体であるRANKに順方向のシグナルが入るだけでなく、RANKからRANKLに逆方向のシグナルが入ることを見出した。また、このRANKLとRANKの間の双方向性シグナルが、骨吸収と骨形成のカップリングを司ることを見出した。破骨細胞上の膜型RANKから骨芽細胞上の膜型RANKLへの逆シグナルは、生理的骨代謝において骨吸収と骨形成のカップリングを司ると考えられる。この逆シグナルを利用することにより、骨量を増加させる薬剤の開発が可能である。具体的には膜型RANK、RANK類似ペプチド、抗RANKL抗体、可溶型RANK、OPG及びそれらの変異体、類似物などのRANKL結合分子による膜型RANKLへの結合による逆シグナルにより、骨芽細胞分化・成熟が亢進し、骨量を増加させることができる。
【0013】
このようにして、本発明者等は、RANKLに作用する分子として用いられる様々なタンパク質やペプチドなどを骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞上のRANKLに作用させることにより、in vitroにおいて骨芽細胞が分化・成熟し、石灰化が起こることを見出した。さらに、本発明者等は、RANKLに作用する分子として用いられる様々なタンパク質やペプチドなどをマウスにin vivoで投与すると、骨密度等が増加し、骨量減少を伴う骨代謝疾患の治療や予防に用いられることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1] 骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞に作用し、骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞の分化、増殖、成熟又は石灰化を促進する化合物を有効成分として含む、骨量減少を伴う骨代謝疾患の治療又は予防のための医薬組成物。
[2] 骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞に作用し、骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞の分化、増殖、成熟又は石灰化を促進する化合物が、骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞上のRANKLに作用する、[1]の骨量減少を伴う骨代謝疾患の治療又は予防のための医薬組成物。
【0015】
[3] 骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞に作用し、骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞の分化、増殖、成熟又は石灰化を促進する化合物がRANK、RANKの変異体若しくは断片ペプチド、RANKに構造が類似したペプチド、RANKの断片ペプチドに構造が類似したペプチド、RANKに構造が類似した化学物質、RANKの断片ペプチドに構造が類似した化学物質、OPG、OPGの変異体若しくは断片ペプチド、OPGに構造が類似したペプチド、OPGの断片ペプチドに構造が類似したペプチド、OPGに構造が類似した化学物質、並びにOPGの断片ペプチドに構造が類似した化学物質からなる群から選択される化合物である、[1]の骨量減少を伴う骨代謝疾患の治療又は予防のための医薬組成物。
【0016】
[4] 骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞上のRANKLに作用し、骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞の分化、増殖、成熟又は石灰化を促進する化合物がRANK、RANKLに作用し得るRANKの変異体若しくは断片ペプチド、RANKに構造が類似しRANKLに作用し得るペプチド、RANKの断片ペプチドに構造が類似しRANKLに作用し得るペプチド、RANKに構造が類似しRANKLに作用し得る化学物質、RANKLに作用し得るRANKの断片ペプチドに構造が類似した化学物質、OPG、RANKLに作用し得るOPGの変異体若しくは断片ペプチド、OPGに構造が類似しRANKLに作用し得るペプチド、OPGの断片ペプチドに構造が類似しRANKLに作用し得るペプチド、OPGに構造が類似しRANKLに作用し得る化学物質、並びにRANKLに作用し得るOPGの断片ペプチドに構造が類似した化学物質からなる群から選択される化合物である、[2]の骨量減少を伴う骨代謝疾患の治療又は予防のための医薬組成物。
【0017】
[5] 骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞に作用し、骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞の分化、増殖、成熟又は石灰化を促進する化合物が配列番号7又は配列番号16で表されるアミノ酸配列からなるペプチドである、[1]又は[2]の骨量減少を伴う骨代謝疾患の治療又は予防のための医薬組成物。
[6] 骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞に作用し、骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞の分化、増殖、成熟又は石灰化を促進する化合物が配列番号7又は配列番号16で表されるアミノ酸配列からなるペプチドとGST又はIgG1のFc領域との融合タンパク質である、[1]又は[2]の骨量減少を伴う骨代謝疾患の治療又は予防のための医薬組成物。
【0018】
[7] 骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞に作用し、骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞の分化、増殖、成熟又は石灰化を促進する化合物が抗RANKL抗体又はその機能的断片である、[1]又は[2]の骨量減少を伴う骨代謝疾患の治療又は予防のための医薬組成物。
[8] 骨量減少を伴う骨代謝疾患が、骨粗鬆症、若年性骨粗鬆症、骨形成不全、高カルシウム血症、上皮小体機能亢進症、骨軟化症、骨石灰脱失症、骨溶解性骨疾患、骨壊死、パジェット病、関節リウマチ、変形性関節症による骨の低下、炎症性関節炎、骨髄炎、グルココルチコイド処置、転移性の骨疾患、歯周の骨の喪失、癌による骨の喪失、及び加齢による骨の喪失からなる群から選択される、[1]〜[7]のいずれかの骨量減少を伴う骨代謝疾患の治療又は予防のための医薬組成物。
【0019】
[9] さらに、BMPファミリーメンバーを有効成分として含む、[1]〜[8]のいずれかの骨量減少を伴う骨代謝疾患の治療又は予防のための医薬組成物。
[10] 骨芽細胞に分化し得る細胞が、骨芽前駆細胞、間葉系幹細胞、間質細胞及び筋芽細胞からなる群から選択される、[1]〜[9]のいずれかの骨量減少を伴う骨代謝疾患の治療又は予防のための医薬組成物。
[11] 骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞に作用し、骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞にシグナルを伝達し、前記細胞の分化、増殖、成熟又は石灰化を促進する化合物をスクリーニングする方法であって、候補化合物を、RANKLを発現している骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞と接触させ、候補化合物が該骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞の分化、増殖、成熟又は石灰化を促進した場合に、候補化合物が骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞に作用し、骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞にシグナルを伝達し、前記細胞の分化、増殖、成熟又は石灰化を促進する化合物であると判断することを含む、スクリーニング方法。
【0020】
[12] 骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞に作用し、骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞の分化、増殖、成熟又は石灰化を促進する化合物が、骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞上のRANKLに作用する、[11]のスクリーニング方法。
[13] 骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞に作用し、骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞にシグナルを伝達し、前記細胞の分化、増殖、成熟又は石灰化を促進する化合物をスクリーニングする方法であって、候補化合物を、マウスに投与し、該マウスにおいて、骨密度の増加、骨塩量の増加、骨面積の増加、単位骨量の増加、骨梁幅の増加、骨梁数の増加からなる群から選択される少なくとも1つの現象が認められた場合に、候補化合物が骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞に作用し、骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞にシグナルを伝達し、前記細胞の分化、増殖、成熟又は石灰化を促進する化合物であると判断することを含む、スクリーニング方法。
【0021】
[14] 骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞に作用し、骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞の分化、増殖、成熟又は石灰化を促進する化合物が、骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞上のRANKLに作用する、[13]のスクリーニング方法。
[15] 骨芽細胞に分化し得る細胞が、骨芽前駆細胞、間葉系幹細胞、間質細胞及び筋芽細胞からなる群から選択される、[11]〜[14]のいずれかのスクリーニング方法。
[16] 骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞に作用し、骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞の分化、増殖、成熟又は石灰化を促進する化合物を有効成分として含む、骨芽細胞分化・成熟剤。
[17] 骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞に作用し、骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞の分化、増殖、成熟又は石灰化を促進する化合物が、骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞上のRANKLに作用する、[16]の骨芽細胞分化・成熟剤。
【0022】
[18] 骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞に作用し、骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞の分化、増殖、成熟又は石灰化を促進する化合物がRANK、RANKの変異体若しくは断片ペプチド、RANKに構造が類似したペプチド、RANKの断片ペプチドに構造が類似したペプチド、RANKに構造が類似した化学物質、RANKの断片ペプチドに構造が類似した化学物質、OPG、OPGの変異体若しくは断片ペプチド、OPGに構造が類似したペプチド、OPGの断片ペプチドに構造が類似したペプチド、OPGに構造が類似した化学物質、並びにOPGの断片ペプチドに構造が類似した化学物質からなる群から選択される化合物である、[16]の骨芽細胞分化・成熟剤。
【0023】
[19] 骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞上のRANKLに作用し、骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞の分化、増殖、成熟又は石灰化を促進する化合物がRANK、RANKLに作用し得るRANKの変異体若しくは断片ペプチド、RANKに構造が類似しRANKLに作用し得るペプチド、RANKの断片ペプチドに構造が類似しRANKLに作用し得るペプチド、RANKに構造が類似しRANKLに作用し得る化学物質、RANKLに作用し得るRANKの断片ペプチドに構造が類似した化学物質、OPG、RANKLに作用し得るOPGの変異体若しくは断片ペプチド、OPGに構造が類似しRANKLに作用し得るペプチド、OPGの断片ペプチドに構造が類似しRANKLに作用し得るペプチド、OPGに構造が類似しRANKLに作用し得る化学物質、並びにRANKLに作用し得るOPGの断片ペプチドに構造が類似した化学物質からなる群から選択される化合物である、[17]の骨芽細胞分化・成熟剤。
【0024】
[20] 骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞に作用し、骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞の分化、増殖、成熟又は石灰化を促進する化合物が配列番号7又は配列番号16で表されるアミノ酸配列からなるペプチドである、[16]〜[19]のいずれかの骨芽細胞分化・成熟剤。
[21] 骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞に作用し、骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞の分化、増殖、成熟又は石灰化を促進する化合物が配列番号7又は配列番号16で表されるアミノ酸配列からなるペプチドとGST又はIgG1のFc領域との融合タンパク質である、[16]〜[19]のいずれかの骨芽細胞分化・成熟剤。
[22] 骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞に作用し、骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞の分化、増殖、成熟又は石灰化を促進する化合物が配列番号7又は配列番号16で表されるアミノ酸配列からなるペプチドの酢酸塩である、[20]の骨芽細胞分化・成熟剤。
【0025】
[23] 骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞に作用し、骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞の分化、増殖、成熟又は石灰化を促進する化合物が抗RANKL抗体又はその機能的断片である、[19]の骨芽細胞分化・成熟剤。
[24] 骨芽細胞に分化し得る細胞が、骨芽前駆細胞、間葉系幹細胞、間質細胞及び筋芽細胞からなる群から選択される、[16]〜[23]のいずれかの骨芽細胞分化・成熟剤。
[25] 配列番号7又は配列番号16で表されるアミノ酸配列からなるペプチドを有効成分として含む、骨量減少を伴う骨代謝疾患の治療又は予防のための医薬組成物。
[26] 配列番号7又は配列番号16で表されるアミノ酸配列からなるペプチドとGST又はIgG1のFc領域との融合タンパク質を有効成分として含む、骨量減少を伴う骨代謝疾患の治療又は予防のための医薬組成物。
[27] 有効成分が配列番号7又は配列番号16で表されるアミノ酸配列からなるペプチドの酢酸塩である、[25]の骨量減少を伴う骨代謝疾患の治療又は予防のための医薬組成物。
【0026】
[28] 骨量減少を伴う骨代謝疾患が、骨粗鬆症、若年性骨粗鬆症、骨形成不全、高カルシウム血症、上皮小体機能亢進症、骨軟化症、骨石灰脱失症、骨溶解性骨疾患、骨壊死、パジェット病、関節リウマチ、変形性関節症による骨の低下、炎症性関節炎、骨髄炎、グルココルチコイド処置、転移性の骨疾患、歯周の骨の喪失、癌による骨の喪失、及び加齢による骨の喪失からなる群から選択される、[25]〜[27]のいずれかの骨量減少を伴う骨代謝疾患の治療又は予防のための医薬組成物。
[29] さらに、BMPファミリーメンバーを有効成分として含む、[25]〜[28]のいずれかの骨量減少を伴う骨代謝疾患の治療又は予防のための医薬組成物。
【発明の効果】
【0027】
本発明では、リガンドであるRANKLからその受容体であるRANKに順方向のシグナルが入るだけでなく、RANKからRANKLに逆方向のシグナルが骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞に入ることを見出した。また、このRANKLとRANKの間の双方向性シグナルが、骨吸収と骨形成のカップリングを司ることを見出した。破骨細胞上の膜型RANKから骨芽細胞上の膜型RANKLへの逆シグナルは、生理的骨代謝において骨吸収と骨形成のカップリングを司ると考えられる。この逆シグナルを利用することにより、骨量を増加させる薬剤の開発が可能である。具体的には膜型RANK、RANK類似ペプチド、抗RANKL抗体、可溶型RANK、OPG及びそれらの変異体、類似物などのRANKLに作用する分子による膜型RANKLへの作用による逆シグナルにより、骨芽細胞分化・成熟が亢進し、骨量を増加させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】ヒト間葉系幹細胞におけるペプチドDによるALP活性の上昇を示す図である。
【図2】ヒト間葉系幹細胞におけるペプチドDによるALP活性の上昇(染色)を示す図である。
【図3】ヒト間葉系幹細胞におけるペプチドDによる石灰化作用を示す図である。
【図4】マウス骨芽前駆細胞株MC3T3-E1細胞におけるペプチドDによるALP活性の上昇を示す図である。
【図5】マウス骨芽前駆細胞株MC3T3-E1細胞におけるペプチドDによる石灰化作用を示す図である。
【図6】マウス骨芽細胞におけるペプチドDによるALP活性の上昇を示す図である。
【図7】マウス骨芽細胞における抗RANKLポリクローナル抗体によるALP活性の上昇を示す図である。
【図8】マウス骨芽細胞における抗RANKLポリクローナル抗体及び抗RANKLモノクローナル抗体によるALP活性の上昇を示す図である。
【図9】ヒト骨芽細胞におけるペプチドD、抗RANKLポリクローナル抗体及び抗RANKLモノクローナル抗体によるALP活性の上昇を示す図である。
【図10】ヒト骨芽細胞におけるペプチドD、OPGFc、RAMKFc及び抗RANKLモノクローナル抗体によるALP活性の上昇を示す図である。
【図11】マウス筋芽細胞株C2C12における抗RANKLモノクローナル抗体によるALP活性の上昇を示す図である。
【図12】ヒト間葉系幹細胞におけるペプチドDによるALP及びI型コラーゲン遺伝子発現の上昇を示す図である。図12Aは、電気泳動の結果を示し、図12B及びCはGAPDHの発現量で標準化した結果を示す。
【図13】膜型RANKによるC2C12のALP活性の上昇を示す図である。
【図14】膜型RANKによるST2のALP活性の上昇を示す図である。図14Aは通常培地にて、図14BはDexamethasone(10-7M)及び活性型Vitamin D3(10-8M)存在下で培養した結果をそれぞれ示す。
【図15】RANKLを投与したマウス及び投与しないマウスにおける頸骨の単位骨量を示す図である。
【図16】RANKLを投与したマウス及び投与しないマウスにおける頸骨の破骨細胞数を示す図である。
【図17】RANKLを投与したマウス及び投与しないマウスにおける頸骨の骨梁数を示す図である。
【図18】RANKLを投与したマウス及び投与しないマウスの大腿骨の、μCTにより測定した骨形態を示す図である。
【図19】RANKLを投与したマウス及び投与しないマウスにおける頸骨の骨芽細胞面を示す図である。
【図20A】ペプチドDを投与したマウスにおける大腿骨の骨塩量を示す図である。
【図20B】ペプチドDを投与したマウスにおける大腿骨の骨面積を示す図である。
【図20C】ペプチドDを投与したマウスにおける大腿骨の骨密度を示す図である。
【図21】ペプチドDを投与したマウスにおける大腿骨の各領域における骨密度を示す図である。
【図22A】ペプチドDを投与したマウスにおける大腿骨の遠位骨端部から5mmの領域の骨密度を示す図である。
【図22B】ペプチドDを投与したマウスにおける大腿骨の遠位骨端部から5mmの領域の皮質骨量を示す図である。
【図23】ペプチドDを投与したマウスにおける大腿骨の遠位骨端部から2mmの領域のμCTによる3次元構造解析の結果を示す図である。
【図24A】ペプチドDを投与したマウスにおける大腿骨の遠位骨端部から2mmの領域のμCTによる海綿骨領域の骨梁構造計測によるBV/TVを示す図である。
【図24B】ペプチドDを投与したマウスにおける大腿骨の遠位骨端部から2mmの領域のμCTによる海綿骨領域の骨梁構造計測による骨梁幅を示す図である。
【図24C】ペプチドDを投与したマウスにおける大腿骨の遠位骨端部から2mmの領域のμCTによる海綿骨領域の骨梁構造計測による骨梁数を示す図である。
【図25】ペプチドDを投与したマウスにおける石灰化率(A)及び骨形成率(B)を示す図である。
【図26】ペプチドDを添加してから12時間後のp38のリン酸化を示す図である。
【図27】ペプチドDを添加してから短時間でのp38のリン酸化を示す図である。
【図28】ペプチドD添加によるGSK3βのリン酸化を示す図である。
【図29】ペプチドD添加によるSmadのリン酸化を示す図である。
【図30】SB203580によるペプチドDのALP活性亢進の抑制を示す図である。
【図31】Dkk-1によるペプチドDのALP活性亢進の抑制を示す図である。
【図32】BMPR-IAによるペプチドDのALP活性亢進の抑制を示す図である。
【図33】C2C12細胞におけるペプチドDとBMP-2の併用によるALP活性亢進作用を示す図である。
【図34】MC3T3-E1細胞におけるペプチドDとBMP-2の併用によるALP活性の亢進を示す図である。
【図35】BMP-2添加によるC2C12細胞でのRANKLの発現の促進を示す図である。
【図36】ペプチドD及びペプチドEのRAW264細胞でのTRAP活性抑制作用を示す図である。
【図37】ペプチドD及びペプチドEのMC3T3-E1細胞でのALP活性の亢進作用を示す図である。
【図38】RANKLをノックダウンしたMC3T3-E1細胞におけるペプチドDのALP活性亢進作用を示す図である。
【図39A】ペプチドDの様々な塩置換体によるALP活性亢進作用を示す図である。
【図39B】ペプチドDの酢酸塩の用量依存的なALP活性亢進作用を示す図である。
【図39C】ペプチドDとBMP-4の併用によるALP活性亢進作用を示す図である。
【図40】C2C12細胞におけるRANKL抗体およびRANKL抗体とBMP-2の併用によるALP活性亢進作用を示す図である。
【図41】マウス骨芽細胞におけるRANKL抗体によるALP活性亢進作用を示す図である。
【図42】マウス骨芽細胞におけるRANKL抗体とBMP-2の併用によるALP活性亢進作用を示す図である。
【図43】MC3T3-E1細胞におけるペプチドDとBMP-2の併用によるALP活性亢進作用に対するGST-RANKLの影響を示す図である。
【図44】ペプチドDおよびRANKL抗体のマウス骨芽細胞の増殖促進作用を示す図である。
【図45】ペプチドDによるMC3T3-E1細胞における遺伝子発現変化を示す図である(12時間後)。
【図46】ペプチドDによるMC3T3-E1細胞における遺伝子発現変化を示す図である(96時間後)。
【図47A】MC3T3-E1細胞におけるペプチドDおよびBMP-2によるALP, Col1, OCそれぞれの遺伝子発現変化を示す電気泳動図である。
【図47B】MC3T3-E1細胞におけるペプチドDおよびBMP-2によるALP, Col1, OCそれぞれの遺伝子発現変化を示す図である。
【図48】ペプチドDによる生体内骨形成マーカーの増加を示す図である。
【図49】ペプチドDの骨形成作用を遺伝子発現変化にて示す図である。
【図50A】ペプチドDによる各種増殖因子およびその受容体などの発現を示す写真である。
【図50B】ペプチドDによる各種増殖因子およびその受容体などの発現を示す図である。
【図51】Fc融合ペプチドDのALP活性亢進能を示す図である。
【図52】塩置換したペプチドDの破骨細胞形成活性に対する影響を示す図である。
【図53】各種RANKL抗体のRANKLによる破骨細胞形成活性に対する中和能を示す図である。
【図54】抗ヒトRANKLモノクローナル抗体のRANKLによる破骨細胞形成活性に対する中和能を示す図である。
【図55】GST融合ペプチドDのALP活性亢進能を示す図である。
【図56】抗ヒトRANKLモノクローナル抗体のALP活性亢進能を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明を詳細に説明する。
RANKL(Receptor activator of NF-κB ligand)は、TNFRスーパーファミリーのメンバーであるRANKL(NF-κBの受容体アクティベーター)のリガンドであり、細胞内ドメイン(RANKのN末端から第1番目から48番目のアミノ酸からなるドメイン)、膜貫通ドメイン及び細胞外ドメインを有する2型貫通タンパク質である(特表2002-509430号公報、国際公開第WO98/46644号パンフレット、後者は現在特許公報3523650号となっている)。RANKLは骨吸収因子の刺激を受けて骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞上に発現する。ここで、骨芽細胞に分化し得る細胞には、骨芽細胞に分化し得る限りあらゆる細胞が含まれ、例えば、骨芽前駆細胞、間葉系幹細胞、間質細胞、筋芽細胞等が挙げられる。細胞外ドメイン中、N末端から第152番目以降のアミノ酸からなるドメインは、TNFリガンドファミリー相同性ドメインである。ヒト由来のRANKLの全長塩基配列及びアミノ酸配列を、それぞれ配列番号1及び2に示す。RANKの全長塩基配列及びアミノ酸配列を、それぞれ配列番号3及び4に示す。
【0030】
OPG(osteoprotegerin)は、構造がRANKに類似したタンパク質であり、RANKLに作用し得る。OPGの全長塩基配列及びアミノ酸配列を、それぞれ配列番号5及び6に示す。
【0031】
本発明は、骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞に作用しそれら細胞の分化、増殖、成熟、石灰化を促進し、骨形成を促し、骨量増強等を引き起こす化合物を有効成分として含む医薬組成物である。該医薬組成物として、骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞にシグナルを伝達し、骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞の分化、増殖、成熟、石灰化を促進し、骨形成を促し、骨量増強等を引き起こす化合物を有効成分として含む医薬組成物、例えば、RANKLに作用し、RANKLから骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞にシグナルを伝達し、骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞の分化、増殖、成熟、石灰化を促進し、骨形成を促し、骨量増強等を引き起こす化合物を有効成分として含む医薬組成物がある。前記化合物がRANKLに作用する場合、作用し得るRANKLの由来動物種は限定されず、ヒト由来RANKL、マウス由来RANKL、ラット由来RANKL等あらゆる動物種由来のRANKLが対象となる。ここで、RANKLに作用するとは、RANKLに作用してRANKLから骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞にシグナルを伝達することをいい、例えば、RANKLに結合し、RANKLから骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞にシグナルを伝達する。
【0032】
RANKLに作用し、骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞の分化、増殖、成熟、石灰化を促進し、骨形成を促し、骨量増強等を引き起こす化合物として、あらゆる動物種由来のあらゆるRANKL作用化合物が挙げられる。該化合物は、天然及び非天然ペプチドや化学合成あるいは微生物由来などの低分子化合物を含む。
【0033】
本発明の骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞の分化、増殖、成熟、石灰化を促進し、骨形成を促し、骨量増強等を引き起こす化合物として、RANKの変異体若しくは断片ペプチド、RANKに構造が類似しているペプチド、RANKの断片ペプチドに構造が類似しているペプチド、RANKに構造が類似している化学物質、RANKの断片ペプチドに構造が類似した化学物質等が挙げられる。このような化合物として、例えば、RANK、RANKLに作用し得るRANKの変異体若しくは断片ペプチド、RANKに構造が類似しRANKLに作用し得るペプチド、RANKの断片ペプチドに構造が類似しRANKLに作用し得るペプチド、RANKに構造が類似しRANKLに作用し得る化学物質、RANKLに作用し得るRANKの断片ペプチドに構造が類似した化学物質等が挙げられる。
【0034】
また、化学物質とは、ペプチド及びタンパク質以外の化合物をいう。RANKは膜型RANKも可溶型RANKも含む。膜型RANKとは、細胞表面に結合している状態の膜貫通領域を有するRANKをいい、天然型RANKを発現している細胞やリコンビナントRANKを発現しているヒト細胞等の動物細胞を用いることができる。また、RANKFcも含まれる。ここで、RANKFcはヒトRANKの細胞外領域にヒトIgG1のFc領域を結合させた融合タンパク質である。
【0035】
また、本発明において、構造が類似しているとは、例えば、RANKLに作用し得る部分の立体構造が類似していることをいう。ペプチドやタンパク質の場合、通常アミノ酸配列で表される1次構造も類似しているが、アミノ酸配列が類似しておらず、立体構造が類似しており、RANKLに作用し得る化合物も含まれる。
【0036】
さらに、骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞の分化、増殖、成熟、石灰化を促進し、骨形成を促し、骨量増強等を引き起こす化合物として、OPG、OPGの変異体若しくは断片ペプチド、OPGに構造が類似しているペプチド、OPGの断片ペプチドに構造が類似しているペプチド、OPGに構造が類似している化学物質、OPGの断片ペプチドに構造が類似した化学物質等が挙げられる。このような化合物として、例えば、RANKLに作用し、骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞の分化、増殖、成熟、石灰化を促進し、骨形成を促し、骨量増強等を引き起こす化合物として、OPG、RANKLに作用し得るOPGの変異体若しくは断片ペプチド、OPGに構造が類似しRANKLに作用し得るペプチド、OPGの断片ペプチドに構造が類似しRANKLに作用し得るペプチド、OPGに構造が類似しRANKLに作用し得る化学物質、RANKLに作用し得るOPGの断片ペプチドに構造が類似した化学物質等が挙げられる。
【0037】
また、化学物質とは、ペプチド及びタンパク質以外の化合物をいう。OPGは膜型OPGも可溶型OPGも含む。膜型OPGとは、C末端領域などで細胞表面に結合している状態のOPGをいい、天然型OPGを発現している細胞やリコンビナントOPGを発現しているヒト細胞等の動物細胞を用いることができる。また、OPGFcも含まれる。ここで、OPGFcとは、OPGにヒトIgG1のFc領域を結合させた融合タンパク質(Fc融合タンパク質)である。
【0038】
RANK又はOPGの類似体として、例えば、RANK若しくはOPG又はそれらの断片ペプチドのアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつRANK又はOPGの活性を有するタンパク質若しくはペプチドを含む。ここで、1又は数個とは1〜9個、好ましくは1〜5個、さらに好ましくは1若しくは2個である。
【0039】
RANKのRANKLに結合する部位の構造に似せたペプチドとして、例えば、配列番号7で表されるアミノ酸配列からなるペプチド(ペプチドD)及び配列番号16で表されるアミノ酸配列からなるペプチド(ペプチドE)が挙げられる。これらのペプチドは、2番目のCysと8番目のCysがジスルフィド結合で結ばれた環状ペプチドである。
【0040】
さらに、上記のRANKのRANKLに結合する部位の構造に似せたペプチド塩も用い得る。ペプチド塩は、薬学的に許容できる塩であれば限定されないが、たとえば、酸付加塩および塩基付加塩が挙げられる。酸付加塩としては、酢酸、リンゴ酸、コハク酸、トリフルオロ酢酸(TFA)塩、酒石酸またはクエン酸等の有機酸との塩、塩酸、硫酸、硝酸またはリン酸等の無機酸との塩が挙げられる。また塩基付加塩としては、ナトリウムまたはカリウム等のアルカリ金属との塩、カルシウムまたはマグネシウム等のアルカリ土類金属との塩、アンモニウムまたはトリエチルアミン等のアミン類との塩が挙げられる。この中でも、酢酸塩が好ましく、特に配列番号7又は配列番号16で表されるアミノ酸配列からなるペプチドの酢酸塩が好ましい。
【0041】
また、上記のRANKのRANKLに結合する部位の構造に似せたペプチドとGST(グルタチオン-S-トランスフェラーゼ)又はヒトIgG1のFc領域を結合させた融合タンパク質(Fc融合タンパク質又はGST融合タンパク質)も用いることができる。このような融合タンパク質として、例えばペプチドDとGST(グルタチオン-S-トランスフェラーゼ)又はヒトIgG1のFc領域を結合させた融合タンパク質(Fc融合ペプチドD又はGST融合ペプチドD)が挙げられる。これらの融合タンパク質は、生体内での安定性が増し、血中半減期が長くなる。また、GSTとFc領域の他のエピトープタグとの融合タンパク質も用いることができる。他のエピトープタグとしては、2〜12個、好ましくは4個以上、さらに好ましくは4〜7個、さらに好ましくは5個若しくは6個のヒスチジンからなるポリヒスチジン、FLAGタグ、Mycタグ、V5タグ、Xpressタグ、HQタグ、HAタグ、AU1タグ、T7タグ、VSV-Gタグ、DDDDKタグ、Sタグ、CruzTag09、CruzTag22、CruzTag41、Glu-Gluタグ、Ha.11タグ、KT3タグ、チオレドキシン、マルトース結合タンパク質(MBP)、βガラクトシダーゼ等が挙げられる。
【0042】
本発明において、RANKLに作用し、骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞の分化、増殖、成熟、石灰化を促進し、骨形成を促し、骨量増強等を引き起こす化合物を、RANKLに対するアゴニスト物質ということがある。
【0043】
さらに、抗RANKL抗体であって、RANKLに作用することにより、骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞の分化、増殖、成熟、石灰化を促進し、骨形成を促し、骨量増強等を引き起こす抗体又はその機能的断片も含まれる。本発明において、これらの抗体をRANKLに対するアゴニスト抗体ということがある。抗RANKL抗体は、公知の方法により、ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体として得ることができ、モノクローナル抗体が好ましい。モノクローナル抗体は、ハイブリドーマに産生されるもの、及び遺伝子工学的手法により抗体遺伝子を含む発現ベクターで形質転換した宿主に産生されるものを含む。モノクローナル抗体産生ハイブリドーマは、公知の手法により、以下のようにして作製できる。すなわち、膜型若しくは可溶型RANKL又はその断片ペプチドを感作抗原として用いて、公知の免疫方法により免疫し、得られる免疫細胞を通常の細胞融合法によって公知の親細胞と融合させ、公知のスクリーニング法により、モノクローナル抗体を産生する細胞をスクリーニングすることによって作製することができる。RANKLを免疫する際、ウシ血清アルブミン(BSA)、キーホールリンペットヘモシアニン等のキャリアタンパク質と結合させて用いてもよい。モノクローナル抗体としては、抗体遺伝子をハイブリドーマからクローニングし、適当なベクターに組み込んで、これを宿主に導入し、遺伝子組換え技術を用いて産生させた組換え型のものを用いることができる(例えば、Vandamme, A. M. et al., Eur. J. Biochem. 1990;192:767-775.参照)。この際、抗体重鎖(H鎖)又は軽鎖(L鎖)をコードするDNAを別々に発現ベクターに組み込んで宿主細胞を同時形質転換させてもよいし、あるいはH鎖及びL鎖をコードするDNAを単一の発現ベクターに組み込んで宿主細胞を形質転換させてもよい(WO 94/11523 号公報参照)。また、トランスジェニック動物を使用することにより、組換え型抗体を産生することもできる。例えば、抗体遺伝子を、乳汁中に固有に産生されるタンパク質(ヤギβカゼインなど)をコードする遺伝子の途中に挿入して融合遺伝子として調製する。抗体遺伝子が挿入された融合遺伝子を含むDNA断片をヤギの胚へ注入し、この胚を雌のヤギへ導入する。胚を受容したヤギから生まれるトランスジェニックヤギ又はその子孫が産生する乳汁から所望の抗体を得る(Ebert, K.M. et al., Bio/Technology 1994;12:699-702)。
【0044】
本発明の抗RANKL抗体は、ヒトに対する異種抗原性を低下させること等を目的として人為的に改変した遺伝子組換え型抗体、例えば、キメラ抗体、ヒト型化(Humanized)抗体をも含む。このような抗体としてはキメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体が挙げられ、いずれも公知の方法を用いて製造することができる。キメラ抗体は、得た抗体V領域をコードするDNAを得て、ヒト抗体C領域をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターに組み込んで宿主に導入し産生させることにより得られる。ヒト型化抗体は、再構成(reshaped)ヒト抗体ともいう。ヒト型化抗体は、ヒト以外の哺乳動物、例えばマウス抗体の相補性決定領域(CDR; complementarity determining region)をヒト抗体の相補性決定領域へ移植したものであり、公知の方法により作製することができる(欧州特許出願公開番号EP 125023号公報、WO 96/02576 号公報参照)。キメラ抗体及びヒト型化抗体のC領域には、ヒト抗体のものが使用され、例えばH鎖では、Cγ1、Cγ2、Cγ3、Cγ4を、L鎖ではCκ、Cλを使用することができる。また、抗体又はその産生の安定性を改善するために、ヒト抗体C領域を修飾してもよい。
【0045】
ヒト抗体は、例えばヒト抗体遺伝子座を導入し、ヒト由来抗体を産生する能力を有するトランスジェニック動物に抗原を投与することにより得ることができる。該トランスジェニック動物としてマウスが挙げられ、ヒト抗体を産生し得るマウスの作出方法は、例えば、国際公開第WO02/43478号パンフレットに記載されている。
【0046】
抗RANKL抗体は、完全抗体だけでなく、その機能的断片も含む。抗体の機能的断片とは、抗体の一部分(部分断片)であって、抗体の抗原への作用を1つ以上保持するものを意味し、具体的にはF(ab')2 、Fab'、Fab、Fv、ジスルフィド結合Fv、一本鎖Fv(scFv)、及びこれらの重合体等が挙げられる[D.J.King., Applications and Engineering of Monoclonal Antibodies., 1998 T.J.International Ltd]。
【0047】
また、モノクローナル抗体を用いる場合、1種類のみのモノクローナル抗体を用いてもよいが、認識するエピトープが異なる2種類以上、例えば2種類、3種類、4種類又は5種類のモノクローナル抗体を用いてもよい。
【0048】
上記の化合物が、RANKLに対してシグナル伝達を促進させるアゴニスト活性を有するか否かは、例えば、抗体をRANKLを発現する骨芽細胞又はその骨芽前駆細胞、若しくは筋芽細胞や間質細胞等の骨芽前駆細胞、間葉系幹細胞と同様の性質を有する細胞に投与し、RANKLに作用させ、これらの細胞が分化、増殖するかを検定することにより、決定することができる。分化、増殖は、例えば細胞のアルカリフォスファターゼ活性の上昇や石灰化等を指標に決定することができる。
【0049】
また、上記化合物を動物に投与した場合、骨密度、骨塩量、骨面積が増加する。骨密度とは、骨中のカルシウムなどミネラル成分の密度を数字で表したものをいう。骨密度は、pQCT(peripheral quantitative computerized tomography; 末梢骨X線CT装置)、SXA(Single Energy X-Ray Absorptiometry)、DXA(Dual Energy X-Ray Absorptiometry; 二重エネルギーX線吸収法)等により計測することができる。さらに、上記化合物を動物に投与した場合、μCTで骨の3次元構造解析を行った場合、海綿骨の密度の上昇が認められる。さらに、海綿骨骨梁構造計測により、BV/TV(単位骨量:bone volume/total tissue volume)、骨梁幅、骨梁数の増加が認められる。さらに、上記化合物を動物に投与した場合、pQCTによる骨形態計測により、皮質骨領域の骨密度の増加が認められる。
【0050】
このことは、上記化合物が骨芽細胞、骨芽前駆細胞、間葉系幹細胞、間質細胞、筋芽細胞上のRANKLに作用することにより、逆シグナルが入り、そのために骨形成が促進されたことを示している。本発明の組成物は、骨形成を増強し得、in vitroで研究用試薬として用いることもでき、またin vivoで医薬組成物として用いることもできる。
【0051】
本発明の医薬組成物は、骨形成を増強する医薬組成物として用いることができる。特に、骨量減少を伴う骨代謝疾患の治療又は予防のために用いることができる。このような、骨代謝疾患としては、骨粗鬆症、若年性骨粗鬆症、骨形成不全、高カルシウム血症、上皮小体機能亢進症、骨軟化症、骨石灰脱失症、骨溶解性骨疾患、骨壊死、パジェット病、関節リウマチ、変形性関節症による骨の低下、炎症性関節炎、骨髄炎、グルココルチコイド処置、転移性の骨疾患、歯周の骨の喪失、癌による骨の喪失、加齢による骨の喪失、及びその他の骨量減少症が挙げられる。
【0052】
投与量は、症状、年齢、体重などによって異なるが、通常、経口投与では、成人に対して、1日約0.01mg〜1000mgであり、これらを1回、又は数回に分けて投与することができる。また、非経口投与では、1回約0.01mg〜1000mgを皮下注射、筋肉注射又は静脈注射によって投与することができる。また、投与時期としては、動脈硬化性疾患の臨床症状が生ずる前後いずれでもよい。
【0053】
組成物は、製剤分野において通常用いられる担体、希釈剤、賦形剤を含む。たとえば、錠剤用の担体、賦形剤としては、乳糖、ステアリン酸マグネシウムなどが使用される。注射用の水性液としては、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液などが使用され、適当な溶解補助剤、たとえばアルコール、プロピレングリコールなどのポリアルコール、非イオン界面活性剤などと併用してもよい。油性液としては、ゴマ油、大豆油などが使用され、溶解補助剤としては安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールなどを併用してもよい。
【0054】
本発明の医薬組成物は、骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞の分化、増殖、成熟、石灰化を促進し、骨形成を促し、骨量増強等を引き起こす化合物、例えばRANKLに作用し、骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞の分化、増殖、成熟、石灰化を促進し、骨形成を促し、骨量増強等を引き起こす化合物の他、BMP(Bone morphogenetic protein;骨形成タンパク質)ファミリーメンバーを含んでいてもよい。すなわち、骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞上のRANKLに作用するか、あるいはしないで骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞の分化、増殖、成熟又は石灰化を促進する化合物をBMPファミリーメンバーと併用することにより、より優れた効果を得ることができる。特にペプチドD若しくはペプチドE又は抗RANKL抗体とBMPファミリーメンバーとの併用が好ましい。すなわち、本発明は骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞の分化、増殖、成熟又は石灰化を促進する化合物、特にペプチドD若しくはペプチドE又は抗RANKL抗体とBMPファミリーメンバーを組合せてなる骨量減少を伴う骨代謝疾患の治療又は予防のための医薬組成物を包含する。本発明の化合物とBMPファミリーメンバーとを併用する場合、両方を含む医薬製剤を調製し、それを投与してもよいし、本発明の化合物とBMPファミリーメンバーを別々に投与してもよい。すなわち、本発明の医薬組成物は、骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞の分化、増殖、成熟又は石灰化を促進する化合物、特にペプチドD若しくはペプチドE又は抗RANKL抗体とBMPファミリーメンバーの配合剤を含む。BMPファミリーメンバーとしては、BMP-4、BMP-2、BMP-7、BMP-6等が挙げられる。本発明の化合物とBMPファミリーメンバーは共同作用し、骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞の分化、増殖、成熟、石灰化を促進し、骨形成を促し、骨量増強等を引き起こし得る。BMPメンバーの含有量は限定されないが、1回約0.01mg〜1000mgである。
【0055】
本発明は、さらに骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞の分化、増殖、成熟、石灰化を促進し、骨形成を促し、骨量増強等を引き起こす化合物、例えばRANKLに作用し、骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞の分化、増殖、成熟、石灰化を促進し、骨形成を促し、骨量増強等を引き起こす化合物のスクリーニング方法を包含する。
【0056】
該スクリーニング方法は、骨芽細胞、骨芽前駆細胞、間質細胞若しくは間葉系幹細胞又は筋芽細胞等の骨芽前駆細胞と同様の性質を有する細胞に候補化合物を投与し、候補化合物が、上記細胞の分化、増殖を促進するかを検定すればよい。例えば、RANKLを表面に発現している骨芽細胞、骨芽前駆細胞、間葉系幹細胞、間質細胞又は筋芽細胞等の骨芽前駆細胞と同様の性質を有する細胞に候補化合物を投与し、候補化合物がRANKLに作用し、上記細胞の分化、増殖を促進するかを検定すればよい。分化、増殖は、例えば細胞のアルカリフォスファターゼ活性の上昇や石灰化等を指標に決定することができる。分化、増殖を促進する場合、候補化合物を骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞の分化、増殖、成熟、石灰化を促進し、骨形成を促し、骨量増強等を引き起こす化合物、例えばRANKLに作用し、骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞の分化、増殖、成熟、石灰化を促進し、骨形成を促し、骨量増強等を引き起こす化合物であると判断することができる。
【0057】
また、例えば候補化合物をマウス、例えばC57BL/6CrjCrljに投与し、骨密度、骨塩量、骨面積等の上昇が認められるか否かを指標に、該候補化合物が骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞の分化、増殖、成熟、石灰化を促進し、骨形成を促し、骨量増強等を引き起こす化合物、例えばRANKLに作用し、骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞の分化、増殖、成熟、石灰化を促進し、骨形成を促し、骨量増強等を引き起こす化合物であるか否かを判断することができる。
【実施例】
【0058】
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
実施例1 ヒト間葉系幹細胞の分化誘導
試薬
実験には合成ペプチドを使用した。合成ペプチドDは配列番号7で表されるアミノ酸配列からなるペプチドであり、9アミノ酸から構成され、二つのシステイン残基がジスルフィド結合により結合した環状ペプチドである。合成ペプチドDはRANKLに結合することが報告されている(Aokiら、J Clin Invest 116: 1525, 2006)。コントロールペプチドはそのような機能を持たない合成ペプチドを使用した。
【0059】
培養細胞
ヒト間葉系幹細胞はCambrex社から購入した。専用の継代培地はLonza社製品を使用した。
【0060】
ヒト間葉系幹細胞の分化誘導
ヒト間葉系幹細胞を、1×103個/ウェルずつ96ウェルプレート(Nunc)に、又は2.4×103個/ウェルずつ48ウェルプレート(IWAKI)に播種した。24時間後に培養上清を除去し、骨芽細胞分化誘導培地(Lonza)に切換え、3〜4日毎に培地を交換した。
同時に100μMの濃度でペプチドDを添加した(ペプチドD投与群)。ネガティブコントロールとしてコントロールペプチドを同濃度で添加した。
【0061】
ALP(アルカリフォスファターゼ)活性測定
分化誘導後7日目に培養上清を除去し、細胞をアセトン・エタノール固定液で固定した。固定後のALP活性は、パラニトロフェニルリン酸を基質とする方法で測定を行った。すなわち、パラニトロフェニルリン酸(Nacalai) 1 mg/mLを含む炭酸バッファー(5 mM MgCl2, 50 mM NaHCO3)を各ウェルに100μL添加し、37℃でインキュベート後に各ウェルの405nmにおけるOD値をマイクロプレートリーダー(BMG Labtech)にて測定した。
【0062】
ヒト間葉系幹細胞にペプチドD 100μMを添加した群では、分化誘導後7日目において、分化誘導培地及び継代培地の両方でALP活性が有意に上昇していた(図1)。また、分化誘導後7日目において細胞のALP染色を行った場合にも、対照群に対しペプチドD投与群で濃度依存的なALP染色が認められた(図2)。
【0063】
実施例2 ヒト間葉系幹細胞の石灰化
ALP染色
分化誘導と同時にペプチドDを300μMの濃度で添加し、誘導後7日目に細胞を10%中性緩衝ホルマリン溶液で固定後、アセトン・エタノール固定液で再固定した。
【0064】
細胞には、下記の通りに調製した染色液500μLを添加し、37℃で10分インキュベート後に水洗し、乾燥させた。
(染色液の組成)
ナフトール AS-MX リン酸塩(SIGMA) 5mg
N-N-ジメチルホルムアミド(Wako) 0.5mL
0.1M Tris-HCl(pH8.5) 50mL
ファーストブルー塩ヘミ(SIGMA) 30mg
【0065】
アリザリンレッドS染色
分化誘導後21日目に細胞をPBSで洗浄し、10%中性緩衝ホルマリン溶液で固定した。
固定液除去後に水洗し、1%アリザリンレッドS染色液(Nacalai)を150μL加え、室温で3分間放置した。この後、染色液を除去後水洗し、乾燥後に顕微鏡下で観察した。
【0066】
ヒト間葉系幹細胞の培養は実施例1と同様の方法で行なった。ヒト間葉系幹細胞にペプチドDを300μM添加することにより、分化誘導の有無に関わらず、21日目において強いアリザリンレッド染色が認められた。ペプチドDがALP活性上昇と共に石灰化も誘導することが示された(図3)。
【0067】
実施例3 マウス骨芽前駆細胞株MC3T3-E1の分化誘導
培養細胞
マウス骨芽前駆細胞株であるMC3T3-E1(サブクローンNo.4)細胞はATCCより購入した。
【0068】
マウス骨芽前駆細胞MC3T3-E1
8×103個/ウェルを96ウェルプレートに、又は2×104個/ウェルを48ウェルプレートに10%FBS+αMEM (GIBCO)を用いて播種した。分化誘導のため48時間後に培養上清を交換し、5mMβグリセロリン酸(SIGMA)+10μg/mLアスコルビン酸ナトリウム(SIGMA)を含む10%FBS+αMEMに切換え、3〜4日毎に培地を交換した。対照としてプレートの半分では継代培地である10%FBS+αMEMにてMC3T3-E1を培養した。培地交換と同時に300μMの濃度でペプチドを添加した。ALP活性測定及びアリザリンレッドS染色は実施例1と同様の方法で、それぞれ7日目、21日目に行なった。
【0069】
マウス骨芽前駆細胞株の分化誘導
300μMペプチドDを添加した群では、MC3T3-E1細胞の分化誘導後7日目においてALP活性が有意に上昇していた(図4)。
【0070】
ペプチドDによる石灰化作用
ペプチドD 300μMを添加した群では、マウス骨芽前駆細胞MC3T3-E1の分化誘導後21日目において、強いアリザリンレッド染色が認められた(図5)。ペプチドDがALP活性の上昇と共に石灰化も誘導することが示された。この現象は分化誘導培地だけでなく、継代培地で培養したMC3T3-E1でも観察された。
【0071】
実施例4 マウス骨芽細胞の分化誘導
試薬
実験にはgoat ポリクローナル mRANKL抗体(R&D、Saint Cruz)、モノクローナル mRANKL抗体((A)クローン88227(R&D)、及び(B)クローン12A668)(ALEXIS)及び合成ペプチドDを使用した。ネガティブコントロールとしてgoat IgG(ZYMED)、及びコントロールペプチドを使用した。合成ペプチドD及びコントロールペプチドは実施例1と同じ物を使用した。また陽性対照として300 ng/mL BMP-2 (R&D)を使用した。ALP活性測定は実施例1と同様に行った。
【0072】
マウス骨芽細胞の採取
新生児マウス頭蓋骨を酵素溶液(0.1%コラゲナーゼ(Wako)+0.2%ディスパーゼ(合同酒精))に浸して、37℃の恒温槽にて5分間振とうさせた。最初の細胞浮遊画分は除去し、新しい酵素液10mLを添加し、さらに37℃の恒温槽にて10分間振とうさせた。この操作を4回繰り返し、それぞれの細胞浮遊液を回収した。細胞浮遊液を250×gで5分間遠心し、培地に懸濁してCO2インキュベーター内で3〜4日間培養した。トリプシン-EDTA溶液(Nacalai)を用いてこれら細胞を回収し、セルバンカー(十慈科学)にて凍結保存した。
【0073】
マウス骨芽細胞の分化誘導
得られたマウス骨芽細胞を0.8×104/wellとなるように96wellプレートに10%FBS+αMEMを用いて播種した。細胞が接着後に、5mMのβグリセロリン酸+10μg/mLのアスコルビン酸を含む培地にて分化誘導を行った。300μMの合成ペプチドDにより分化培地にて7日目にALP活性化の上昇が認められた(図6)。各抗体は1μg/mLを分化誘導と同時に添加した。分化誘導後7日目に各因子を添加した群において、有意なALP活性の上昇が確認された(図7)。この現象は分化誘導培地だけでなく、継代培地で培養したマウス骨芽細胞でも観察された。即ち、RANKLに結合するポリクローナル抗体がコントロール抗体に比べて有意にマウス骨芽細胞の分化を誘導した。さらに詳細に抗体の効果を確かめるために、ポリクローナル抗体の濃度を変えてマウス骨芽細胞に加え、7日間継代培地で培養した。同時に抗RANKLモノクローナル抗体AとBを用いてモノクローナル抗体でも同様の分化作用が認められるかを調べた。その結果、ばらつきはあるものの抗RANKLポリクローナル抗体は濃度依存的にマウス骨芽細胞のALP活性を上昇させた(図8)。さらに抗RANKLモノクローナル抗体AとBの混合物は同様にマウス骨芽細胞のALP活性を上昇させた(図8)。以上のことから、マウスRANKLに対するポリクローナル抗体やモノクローナル抗体はマウス骨芽細胞の分化を誘導することがわかった。
【0074】
実施例5 ヒト骨芽細胞のALP活性化作用
抗RANKLポリクローナル抗体や抗RANKLモノクローナル抗体などの試薬は実施例4と同じものを使用した。さらに、抗RANKLモノクローナル抗体((C)クローン12A380)(ALEXIS)、ヒトOPGFc、ヒトRANKFc(R&D)を用いた。ALP活性測定は実施例1と同様に行った。これらの抗体はすべてマウスRANKLに対する抗体であるが、ヒトRANKLにも交差し、結合することが分かっている。
【0075】
培養細胞
ヒト骨芽細胞はCambrex社から購入した。継代は専用培地(Lonza)にて行った。
【0076】
ヒト骨芽細胞の分化誘導
ヒト骨芽細胞は96ウェルプレートには3.1×103/ウェル、48ウェルプレートには7.65×103/ウェルとなるように播種した。細胞接着後に、5mMβのグリセロリン酸を含む培地にて分化誘導を行った。抗体は100 ng/mL又は1 ng/mLを分化誘導と同時に添加した。5日又は6日間培養し、ALP活性を測定した。
【0077】
抗RANKLポリクローナル抗体や抗RANKLモノクローナル抗体、ペプチドD、OPGFc、及びRANKFcによってヒト骨芽細胞のALP活性が有意に上昇し、分化誘導が認められた(図9、10)。以上のことから、マウスRANKLに対するポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体、OPGFc、及びRANKFcはヒト骨芽細胞の分化を誘導することがわかった。
【0078】
実施例6 マウス筋芽細胞の分化誘導
モノクローナルmRANKL抗体などの試薬は実施例4と同じものを使用した。ALP活性測定は実施例1と同様に行った。
【0079】
培養細胞
マウス筋芽前駆細胞株であるC2C12細胞は理化学研究所より購入した。
【0080】
マウス筋芽細胞の分化誘導
マウス筋芽前駆細胞であるC2C12細胞 6.5×103個/ウェルを96ウェルプレートに播種した。48時間後に培養上清を交換し、300 ng/mL BMP-2 (R&D)を含む5%FBS+DMEM (SIGMA)に切換えた。培地交換と同時に抗体100ng/mLを添加し、7日間培養した。monoclonal mRANKL抗体((A)クローン88227(R&D))によってマウス筋芽細胞のALP活性が有意に上昇し、骨芽細胞へと分化誘導したことが確認できた(図11)。この実験では抗RANKLモノクローナル抗体が単独で骨芽細胞前駆細胞の性質を持つマウス筋芽細胞に作用して骨芽細胞へと分化誘導したことが明らかとなった。
【0081】
実施例7 ペプチドDによるヒト間葉系幹細胞のALP活性化作用
RT-PCR解析
6ウェルプレートにヒト間葉系幹細胞3×104個を播種し、骨芽細胞分化誘導培地(Lonza)又は維持培地(Lonza)存在下で7日間培養した。各ウェルには100及び300μMのペプチドD、さらにコントロール群にはペプチドの溶媒を添加した。培養後に細胞をPBSで洗浄し、QIAzol Lysis Reagent(QIAGEN)0.75mLに細胞を溶解させ、溶液を回収した。室温で5分間溶液を放置後に0.15mLのクロロホルム(Wako)を添加し、激しく転倒混和させてから、4℃、12000×gの条件で15分間遠心を行い、上清を新しいチューブに回収した。上清からEZ1 RNA universal tissue kit (QIAGEN)及びMagtration System12GC(QIAGEN)を用いてRNAの単離を行った。 RNA濃度測定後に250ngの各RNAを1%アガロースゲルにて電気泳動を行い、RNA分解の有無を確認し、分解のないRNAそれぞれ500 ngをRT-PCRに供した。RT-PCRはThermoScript RT-PCR System(invitrogen)及びrandom primerを用いて行った。
【0082】
cDNA合成後に、ヒトのアルカリフォスファターゼ(hALP)及びヒトのI型コラーゲン(hCollagenI)特異的なプライマーを用いてPCRを行った。標準化用にヒトGAPDH特異的なプライマーを用いてPCRを行った。用いたPCRプライマー配列は下に記載した。Ex TaqTM Hot Start Version (Takara Bio Inc., Shiga, Japan)を用いて以下の条件でPCRを行った。アルカリフォスファターゼ(hALP)は94℃で15分初期熱変性を行った後、94℃で1分、58℃で1分、72℃で30秒を28サイクル行い、72℃で10分間伸長反応を行った。I型コラーゲン(hCollagenI)は、94℃で15分初期熱変性を行った後、94℃で1分、58℃で1分、72℃で30秒を25サイクル行い、72℃で10分間伸長反応を行った。GAPDHは、95℃で3分初期熱変性を行った後、95℃で10秒、60℃で15秒、68℃で1分を28サイクル行い、68℃で10分間伸長反応を行った。
【0083】
PCRプライマー配列
hALP-F : 5’-GGGGGTGGCCGGAAATACAT-3’(配列番号8)
hALP-R : 5’-GGGGGCCAGACCAAAGATAGAGTT-3’(配列番号9)
hCollagenI-F :5’-ATTCCAGTTCGAGTATGGCG-3’(配列番号10)
hCollagenI-R : 5’-TTTTGTATTCAATCACTGTCTTGCC-3’(配列番号11)
hGAPDH-F : 5’-TGAAGGTCGGAGTCAACGGATTTGGT-3’(配列番号12)
hGAPDH-R : 5’-CATGTGGGCCATGAGGTCCACCAC-3’(配列番号13)
PCR反応後得られたサンプルは、1%アガロースゲルを用いて電気泳動を行い、エチジウムブロマイドを用いて、UV下で特異的なバンドが形成されていることを確認した(図12A)。得られた画像は、CSAnalyzerを用いて解析した。また、GAPDHの発現量で標準化し、図12B及びCに示した。
【0084】
ヒト間葉系幹細胞にペプチドD 300μMを添加した群では、分化誘導後7日目において、分化誘導培地及び継代培地の両方でALP活性が有意に上昇し、また、分化誘導後7日目において細胞のALP染色を行った場合にも、対照群に対しペプチドD投与群で濃度依存的なALP染色が認められたが、PCR解析の結果、ヒト間葉系幹細胞をペプチド存在下で7日間分化誘導を行うと、ペプチドの濃度依存的にアルカリフォスファターゼ及びI型コラーゲンの発現が上昇することが確認された(図12A)。また、継代培地下でも300μMの濃度でペプチドはアルカリフォスファターゼ及びI型コラーゲンのmRNA発現を上昇させた(図12B及びC)。
【0085】
実施例8 膜型RANKによるC2C12の骨芽細胞への分化誘導
96ウェルプレートにCOS1を10000cells/wellでDMEM-5% FBSで播種し1日培養後、各種プラスミドDNA(pSRα-EX1(コントロール発現ベクター1)、pSRα-mRANK(マウスRANK発現ベクター)、pCAGGS-mBMP-4(マウスBMP-4発現ベクター)、QIAwell8 plasmid purification kit(Qiagen)にて精製)をウェルあたり50 ngずつFuGENE HD(Roche)を用いてトランスフェクションした。同様に0.5 ngのpCAGGS-mBMP-4は24.5 ngのpCAGGS(コントロール発現ベクター2)及び25ngのpSRα-mRANKと混合し、トランスフェクションした。その対照として0.5 ngのpCAGGS-mBMP-4は24.5 ngのpCAGGS及び25ngのpSRα-EX1と混合し、トランスフェクションした。翌日、C2C12をウェルあたり10000cellsずつトランスフェクションしたCOS1プレートに播種し共培養した。3日ごとにDMEM-2.5% FBSにて培地交換し、1週間後、培地を除去し、アセトン・エタノール1:1混合溶液を加えて細胞を固定した。固定液を30秒で除去しプレートを30分程度乾燥させ、乾燥中にALP検出溶液(5mM MgCl2, 40mM NaHCO3, 1mg/ml p-nitrophenyl phosphate)を作製し、100μlずつ加えて反応を開始した。60分後、マイクロプレートリーダーでABS405nmを測定した。その結果、陽性コントロールであるpCAGGS-mBMP-4が強い骨芽細胞分化活性を示すのに比べ弱いものの、pSRα-mRANKは有意にALP活性を上昇させ、骨芽細胞分化活性を示した(図13)。また、pCAGGS-mBMP-4量を1%に減らすとコントロール発現ベクターであるpSRα-EX1との間で有意差はなくなったが、pSRα-mRANKと同時にトランスフェクションすることにより、有意にALP活性が上昇した(図13)。また、pCAGGS-mBMP-4量を1%に減らしpSRα-mRANKと同時にトランスフェクションすることにより、pSRα-mRANK単独のトランスフェクションよりも有意にALP活性が上昇した(図13)。これは膜型RANKがBMP-4と共同で作用したことを意味する。このように膜型RANKは単独で、あるいはBMP-4と共同で骨芽細胞前駆細胞の性質を持つマウス筋芽細胞株であるC2C12細胞を骨芽細胞へと分化誘導した。
【0086】
実施例9 膜型RANKによるST2の骨芽細胞への分化誘導
マウス間質細胞株であるST2細胞は理化学研究所より購入した。96ウェルプレートにCOS1を10000cells/wellでDMEM-5% FBSで播種し1日培養後、各種プラスミドDNA(pSRα-EX1(コントロール発現ベクター1)、pSRα-mRANK(マウスRANK発現ベクター)、QIAwell8 plasmid purification kit(Qiagen)にて精製)をウェルあたり50ngずつFuGENE HD(Roche)を用いてトランスフェクションした。翌日、ST2をウェルあたり5000cellsずつトランスフェクションしたCOS1プレートに播種し共培養した。このとき、ST2にRANKL発現誘導するためにDexamethasone(10-7M)、活性型Vitamin D3(10-8M)を加える系と加えない系(RANKL発現誘導なし)を作製した。3日後にDMEM-2.5% FBSを追加し、さらに3日後にDMEM-2.5% FBSにて培地交換し、1週間後、培地を除去し、アセトン・エタノール1:1混合溶液を加えて細胞を固定した。固定液を30秒で除去しプレートを30分程度乾燥させ、乾燥中にALP検出溶液(5mM MgCl2, 40 mM NaHCO3, 1mg/ml p-nitrophenyl phosphate)を作製し、100μlずつ加えて反応を開始した。60分後、マイクロプレートリーダーでABS405nmを測定した。その結果、Dexamethasone(10-7M)、活性型Vitamin D3(10-8M)を加える系(RANKL誘導)においてのみ、pSRα-mRANKは有意にALP活性を上昇させ、ST2細胞は骨芽細胞分化活性を示した(図14A及びB)。このように膜型RANKは単独で骨芽細胞前駆細胞や脂肪細胞前駆細胞の性質を持つマウス間質細胞株であるST2細胞を骨芽細胞へと分化誘導したが、この現象はRANKLを発現誘導したST2細胞を用いた場合にのみ認められた。これは膜型RANKがST2細胞上に発現誘導された膜型RANKLに結合してST2細胞内に骨芽細胞分化シグナルが伝わったことを示す。
【0087】
実施例10 生体内で分化誘導された破骨細胞による骨芽細胞の増殖、分化
GST-RANKLの調製
ヒト型RANKL残基140−317をコードするcDNAにPCRにてSal I,Not Iサイトを付加し、これらのエンドヌクレアーゼを用いて、pGEX-4T-2(GE healthcare;Genbank Accession Number U13854)のGlutathione S-transferaseの下流にクローニングした。配列番号14及び15に、RANKLのアミノ酸配列中第140番目のアミノ酸から第317番目のアミノ酸配列からなるタンパク質にGSTが融合したタンパク質をコードするDNAの塩基配列及び該タンパク質のアミノ酸配列を示す。BL21(DE3)Escherischia coli(invitrogen)におけるIPTG(終濃度:0.5mM)によるタンパク質発現の誘導後、菌体を抽出バッファー(50mM Tris-HCl, pH8.0,100mM NaCl, 1mM EDTA, 1mM DTT, 1%(v/v)TritonX-100)にて懸濁し、4℃でソニケーターを用いて破砕した。18000×g、15minで遠心後、上清を回収しGlutathione Sepharoseカラムにかけた。続いて洗浄バッファー(50mM Tris-HCl, pH8.0, 100mM NaCl, 1mM DTT, 0.1%(v/v)TritonX-100)にて洗浄した。その後、Glutathione溶液(20mM 還元型グルタチオン, 50mM Tris-HCl, pH8.0)で溶出した。SDS-PAGEにて精製したGST-RANKLの分子量及び純度を確認し、フィルターろ過した。分子量47.0kDa、純度95%以上であった。また、リムルス変形細胞溶解物試験(limulus amebocyte lysate assay)によりエンドトキシン濃度を測定し、1EU/ug未満であることを確認した。
【0088】
RANKL投与試験
7週齢のC57BL/6Nマウス雌10匹にGST-RANKLを57nmol(低用量)及び426nmol(高用量)を24時間毎3回腹腔内投与し3回目投与より1.5時間後に解剖した。比較対象としてPBSを同様に投与した群を用いた。
【0089】
解剖後のマウスは大腿骨、頚骨、大脳、肺、心臓、肝臓、胸腺、脾臓、腎臓、皮膚を採取し、大脳、肺、心臓、肝臓、胸腺、脾臓、腎臓、皮膚はHE染色により自然発生病変を観察した。
【0090】
骨形態計測
骨形態計測の結果単位骨量及び骨梁数は、GST-RANKL高用量の投与により約50%まで減少し、破骨細胞数は増加した。また低用量の投与において減少は見られなかった(図15、16及び17)。
【0091】
大腿骨の骨形態をμCTにより測定したところ高用量のGST-RANKL投与群においては顕著な骨の減少が見られた(図18)。
【0092】
採取した大脳、肺、心臓、肝臓、胸腺、脾臓、腎臓、及び皮膚をHE染色し観察したが、すべての群で異常所見及び自然発生病変は認められなかった。
【0093】
骨芽細胞面
高用量のGST-RANKL投与により破骨細胞数の増加、骨量の減少、骨吸収が見られた。さらに骨芽細胞面を調べたところ、有意に上昇していることがわかった(図19)。これは破骨細胞数の増加や破骨細胞の活性化による骨吸収の亢進により、骨形成が促進されるという現象、即ち骨吸収と骨形成のカップリングが起こっていることを示す。高用量のGST-RANKLを投与されたマウスでは、骨の微少環境において増加・活性化した破骨細胞上のRANKが骨芽細胞上のRANKLに作用し、分化、増殖、成熟又は石灰化などのシグナルを伝えていると考えられる。
【0094】
実施例11 合成ペプチド投与による生体内における骨量増加
試薬
実験には合成ペプチドを使用した。合成ペプチドDは配列番号7で表されるアミノ酸配列からなるペプチドであり、9アミノ酸から構成され、二つのシステイン残基がジスルフィド結合により結合した環状ペプチドである。合成ペプチドDはRANKLに結合することが報告されている(Aokiら、J Clin Invest 116: 1525, 2006)。合成ペプチドは10% DMSO(Nacalai)/PBSに1 mg/mlの濃度で溶解させた。
【0095】
実験動物
C57BL/6CrjCrljマウスは(株)オリエンタルバイオサービスから購入した。C57BL/6CrjCrljマウス近交系マウスであり、老化による細胞性免疫能の低下が少ないという特徴を有するマウスである。温度23℃±3℃、湿度50%±30%の環境下で1週間予備飼育した。照明時間は8:00〜20:00とした。
実験期間中は全数CR-LPF(オリエンタル酵母工業)を給餌した。
コントロール群をn=5でペプチドD投与群をn=4でケージ飼育した。
【0096】
投与方法及び期間
ペプチドDは10 mg/kgの用量で8:00、14:00及び20:00の1日3回、5日間皮下投与を行った。コントロール群には5% DMSO/PBSを投与した。5日の投与期間終了後12時間後に剖検を行い、全血採血後に大腿骨及び脛骨を採取した。全血は1時間室温で放置後、5000 rpm、4℃、5 minの条件で遠心分離を行い、血清を新しいチューブに回収した。大腿骨及び脛骨は冷70%エタノールで固定した。
【0097】
骨密度解析
エタノール固定した大腿骨をSingle energy X-ray absorptiometry (SXA)解析(DCS-600EX-IIIR 動物用DXA, ALOKA)により骨密度、骨塩量及び骨面積の測定を行った。骨全長を20分割し、各領域の骨密度を測定し、領域毎のペプチドの作用について解析を行った。
【0098】
骨構造解析及び骨梁構造解析
骨構造解析は末梢骨定量的コンピューター断層撮影(以下pQCT)及びマイクロコンピューター断層撮影(以下μCT)により行った。μCTはScan-Xmate-A080(コムスキャンテクノ)を、pQCTはXCT-Research SA+ (Stratec Medizintechnik GmbH)を用いた。μCTデータを用いた三次元構造作製及び骨梁構造解析には専用ソフトである3D-BON(ラトック社)を用いて行った。なおpQCTによる解析において、骨密度が395 mg/cm3以下の部分を海綿骨、骨密度が690 mg/cm3以上の部分を皮質骨として解析を行った。
【0099】
ペプチドD10 mg/kgを1日3回、5日間投与した大腿骨を、SXA解析により全体の骨塩量、骨面積及び骨密度を測定した。その結果、ペプチドD投与により骨塩量は増加し、骨密度は有意な増加(p <0.05 vs コントロール群)を示した(図20A〜C)。さらにSXA20分割解析で各領域の骨密度を測定した結果、遠位骨端部から6番目から9番目の領域で骨密度の有意な増加(p <0.05 vs コントロール群)が確認できた(図21)。またpQCTによる大腿骨骨密度解析の結果、遠位骨端部から5 mmの領域における皮質骨骨密度が有意(p <0.05 vs コントロール群)に増加した(図22A)。この領域での皮質骨の厚み、外膜周囲長、内膜周囲長、骨塩量及び骨面積を計測した結果、内膜周囲長が短くなっており、内側に向けて皮質骨が増えていることが示唆された(図22B)。
【0100】
一方、成長板付近の海綿骨が多く含まれる骨幹端領域について、μCTによる3次元構造解析を行った結果、ペプチドDを投与することにより遠位部骨端より2 mmの位置で海綿骨量が増加していることが観察された(図23)。そこでμCTによる海綿骨領域の骨梁構造計測を行ったところ、海綿骨のBV/TV及び骨梁幅が増加した(図24A〜C)。
【0101】
ペプチドDの骨に対する作用としては、μCTによる骨梁構造計測の結果から、弱いながらも骨吸収抑制作用を有していることは示された。しかしながら、わずか5日間の投与で骨幹部付近の皮質骨の骨密度を上昇させる作用については、この弱い骨吸収抑制作用だけでは説明ができない。この結果は、このペプチドが骨形成作用を有していることを示唆する。
【0102】
実施例12 骨形態計測
実施例11において合成ペプチドDをマウスに投与した実験において、各群のマウスには、投与開始後1日目及び4日目において、2%炭酸水素エタノール水溶液を用いて1.6 mg/mLに調整したカルセイン(Nacalai)を0.01 mL/g(体重)の用量で各個体に腹腔内に投与し、カルセインラベルを行った。剖検時に回収しエタノール固定した大腿骨の遠位骨端部から5mmの領域をMethylmethacrylate(MMA)樹脂包埋し、非脱灰標本を作製した。この領域は実施例11におけるSXA解析の結果、ペプチドD投与群にて骨密度が有意に増加していた領域である。標本はトルイジンブルー染色を行い、類骨面積、骨芽細胞面積、骨石灰化面積、石灰化速度及び骨形成率等を計測した。その結果、ペプチドD投与群にて石灰化率及び骨形成率の増加が認められた(図25A及びB)。SXA解析及びpQCT解析でペプチドD投与群において皮質骨骨密度の有意な増加が確認されたが、ペプチド投与によりin vivoでの石灰化率及び骨形成率が上昇した結果、皮質骨骨密度が増加したと考えられる。
【0103】
実施例13 ペプチドDのALP活性亢進作用のメカニズム解析(シグナル分子のリン酸化)
MC3T3-E1細胞を10%FBS+αMEM (SIGMA)を用いて6ウェルプレートに7.5×104個/ウェルにて播種した。12時間後に培地を除去し、200μMペプチドD又は200 ng/mlのBMP-2を含む培地を添加した。それぞれの図に示した経過時間後に培地を除去し、PBSを細胞に添加し、スクレイパー(Falcon)を用いて細胞を回収した。1200rpm、5min、4℃で遠心分離して回収した細胞ペレットにRIPAバッファー100μLを添加して細胞膜を溶解させた。さらに、これを14500rpm、25min、4℃の条件で遠心分離を行い、上清を細胞抽出液として回収した。細胞抽出液の一部を用いてBCAプロテインアッセイキット(PIERCE)にてタンパク質濃度の定量を行った。SDS-PAGE用に、細胞抽出液量の1/4量のサンプルバッファー(Fermentas)を添加し、95℃で5min加熱した。調整したサンプルを10%ポリアクリルアミドゲル(BioRad)に7.5又は10μgアプライし、170Vで1時間電気泳動を行った。泳動後にPVDFメンブレン(Millipore)に80mA、40minでトランスファーした。メンブレンをブロッキング液(Nacalai)で室温1時間振とう後に1次抗体を添加し、室温で1時間もしくは4℃で12時間の振とうを行った。1次抗体溶液を除去後、3回メンブレンを洗浄し、2次抗体含有ブロッキング液で室温1時間振とうした。2次抗体溶液を除去後に3回メンブレンを洗浄した。検出はECL plus(GEヘルスケアバイオサイエンス)にて行った。
【0104】
なお1次抗体及び2次抗体の組み合わせは以下に記載した通りである。
(1) 1次抗体 : リン酸化p38抗体(Cell signaling), 2次抗体 : Goat anti rabbit IgG HRP conjugated (santa cruz)
(2) 1次抗体 : p38抗体(santa cruz), 2次抗体 : Goat anti mouse IgG1-HRP conjugated (SouthernBiotech)
(3) 1次抗体 : βアクチン抗体(santa cruz), 2次抗体 : Goat anti rabbit IgG HRP conjugated (santa cruz)
(4) 1次抗体 : GSK3α/β抗体(santa cruz), 2次抗体 : Goat anti mouse IgG HRP conjugated (SIGMA)
(5) 1次抗体 : リン酸化GSK3α/β抗体(Cell signaling), 2次抗体 : Goat anti mouse IgG HRP conjugated (SIGMA)
(6) 1次抗体 : リン酸化smad1/5/8(Cell signaling), 2次抗体 : Goat anti rabbit IgG HRP conjugated (santa cruz)
【0105】
既知の骨形成因子であるBMP-2及びPTHが、骨形成を誘導する際に用いる主要なシグナル伝達経路であるMAPキナーゼp38のリン酸化についてウエスタンブロッティングにより検出を行った。その結果ペプチドD添加後12時間後に著しいp38のリン酸化を検出できた(図26)。なお、ペプチドD添加から短時間でのp38のリン酸化についても検討を行ったが、顕著な変化は認められなかった(図27)。一方、対照として用いたBMP-2では添加1時間後にp38のリン酸化が認められた。
【0106】
次に骨形成因子の1つであるWntのシグナル伝達経路に使用されるGSK3βのリン酸化についてウエスタンブロッティングにより検出を行った。ペプチドD添加後1及び3時間後に、GSK3βのリン酸化が誘導されていることが示された(図28)。対照として用いたBMP-2でも同様に添加後1及び3時間後にGSK3βのリン酸化が認められた。
【0107】
さらに骨形成因子BMPのシグナル伝達経路に使用されるSmad1/5/8のリン酸化についてウエスタンブロッティングにより検出を行った。その結果、MC3T3-E1細胞では無刺激の状態でSmadがリン酸化を受けていることが示された。ペプチドD添加によるSmad1/5/8のリン酸化誘導は少なくとも3時間以内には認められなかった(図29)。一方、対照として用いたBMP-2では添加3時間後にSmad1/5/8のリン酸化が認められた。以上から、ペプチドD添加後、少なくとも3時間以内にはBMP-2と同様のSmad1/5/8の活性化は起こらないが、12時間後にはBMP-2添加1時間後に見られるよりも顕著なp38のリン酸化が起こることが分かった。従ってペプチドDは添加後数時間では明らかにBMP-2とは異なるシグナルを使っていることが示された。一方、GSK3βのリン酸化についてはペプチドD、BMP-2共に添加後1時間及び3時間でほぼ同程度に認められたので、ペプチドDは一部でBMP-2と類似したシグナルを使っていることが示された。
【0108】
実施例14 ペプチドDのALP活性亢進のメカニズム解析(阻害剤の作用)
MC3T3-E1細胞を10%FBS+αMEM (SIGMA)を用いて96ウェルプレートに1.5×104個/ウェルにて播種した。12時間後に培地を除去し、p38阻害剤SB203580(カルビオケム)を含む培地を添加した。さらに1時間後に200μMのペプチドD又は100 ng/mlのBMP-2を添加し、5日間培養を行い、実施例1に記載した方法でALP活性測定を行った。その結果、SB203580の濃度依存的にペプチドDによるALP活性亢進が抑制され、1μMで有意に、さらに10μMで完全に抑制された(図30)。一方、対照として用いたBMP-2では1μMでは有意なALP活性亢進の抑制が認められず、10μMで弱い抑制効果が見られた。
【0109】
同様にWntアンタゴニストとしてそれぞれ0.25、0.5、1μg/mlの濃度のhrDkk-1(R&D)を添加し、1時間後に200μMのペプチドDを添加し、5日間培養を行い、実施例1に記載した方法でALP活性測定を行った。その結果、Dkk-1は弱いながらも有意にかつ濃度依存的にALP活性亢進を抑制した(図31)。
【0110】
また、同様にBMPアンタゴニストとしてそれぞれ0.25、1μg/mlの濃度のBMPR-IA(R&D)を添加し、1時間後に200μMのペプチドD又は200 ng/mlのBMP-2を添加し、5日間培養を行い、実施例1に記載した方法でALP活性測定を行った。その結果、BMPR-IA はペプチドD及びBMP-2によるALP活性亢進を著しく抑制した(図32)。以上の結果から、ペプチドDの作用がBMPの誘導もしくは細胞が定常的に自己産生するBMPに依存している可能性が考えられた。
【0111】
実施例15 ペプチドDのALP活性亢進のメカニズム解析(ペプチドDとBMP-2の協調作用)
ペプチドDのBMP-2との相乗効果を検討するために、BMP-2添加に依存してALP活性亢進されるC2C12細胞を用いてALP活性測定を行った。C2C12細胞を5%FBS+αMEM (SIGMA)を用いて96ウェルプレートに1×104個/ウェルにて播種した。6時間後に培地を除去し、それぞれ50μMのペプチドD、100及び200 ng/mlのBMP-2、50μMのペプチドDと100 ng/mlのBMP-2の組み合わせを含む培地を添加した。6日間培養を行い、実施例1に記載した方法でALP活性測定を行った。その結果、50μMのペプチドD 単独ではALP活性亢進作用が認められなかった。BMP-2は濃度依存的にALP活性を亢進した。一方、50μMのペプチドDに100 ng/mL BMP-2を加えた場合、BMP-2単独添加時の5倍以上のALP活性亢進作用が確認できた(図33)。この結果は実施例14にて示したペプチドDの作用がBMPの誘導又は細胞が定常的に自己産生するBMPに依存している可能性を支持する。筋芽細胞株であるC2C12細胞は骨芽細胞株であるMC3T3-E1細胞とは異なり、通常の培養条件ではALP活性が極めて低い。BMP-2を添加して培養すると本実施例のようにALP活性が亢進し、骨芽細胞に分化するが、C2C12細胞ではペプチドD単独ではその作用は極めて弱いと考えられる。一方、これまでの実施例で示したようにMC3T3-E1細胞ではペプチドDは単独でも強いALP活性亢進作用を示す。このことはMC3T3-E1細胞においてペプチドDの作用がBMPの誘導もしくは細胞が定常的に自己産生するBMPに依存している可能性を強く示唆する。
【0112】
さらにMC3T3-E1細胞における、BMP-2とペプチドDの協調作用についても検討を行った。MC3T3-E1細胞を10%FBS+αMEM (SIGMA)を用いて96ウェルプレートに1.5×104個/ウェルにて播種した。12時間後に培地を除去し、30 ng/mLのBMP-2にさらに150μペプチドDを添加した場合のALP活性測定を行った。その結果、MC3T3-E1細胞においてペプチドDはBMP-2と相加的なALP活性亢進作用を示した(図34)。
【0113】
C2C12細胞及びMC3T3-E1細胞におけるBMP-2とペプチドDのALP活性に対する相乗効果を図33で示したが、C2C12細胞にBMP-2を加えた場合に、RANKLの発現が上昇するという報告があった(Fujitaら、Molecular Cancer 6: 71, 2007)。そこでBMP添加時のRANKL発現についてRT-PCRを用いて確認を行った。
【0114】
96ウェルプレートに各ウェル5x103細胞ずつC2C12細胞を播種した。細胞接着後100 ng/mLとなるようにBMP-2を添加し、36時間後に各ウェルに84μLのTRIZOL液(Invitrogen)を添加し細胞を溶解させRNAを抽出した。1群6ウェル分をまとめ、0.1 mLのクロロホルム(Wako)を添加し、激しく転倒混和させてから、4℃、12000×gの条件で15分間遠心を行い、上清を新しいチューブに回収した。0.25mLイソプロパノール(Nacalai)を添加し、転倒混和後に室温で10min放置した。4℃、12000×gの条件で10分間遠心を行い、上清を除去後に1 mLの70%エタノールを添加し4℃、12000×gの条件で5分間遠心し、さらに上清を除去した。RNA濃度を測定後に2μgをRT-PCRに供した。RT-PCRはThermoScript RT-PCR System(Invitrogen)及びrandom primerを用いて行った。cDNA合成後に、マウスのRANKLに特異的なプライマーを用いてPCRを行った。標準化用にマウスGAPDH特異的なプライマーを用いてPCRを行った。用いたPCRプライマー配列は下に記載した。Ex TaqTM Hot Start Version (Takara Bio Inc., Shiga, Japan)を用いて以下の条件でPCRを行った。
【0115】
マウスRANKLは94℃で2分初期熱変性を行った後、94℃で20秒、60℃で20秒、72℃で40秒を35サイクル行い、72℃で10分間伸長反応を行った。GAPDHは、95℃で3分初期熱変性を行った後、95℃で10秒、60℃で15秒、68℃で1分を25サイクル行い、68℃で10分間伸長反応を行った。
mRANKL-F : 5’-GGCAAGCCTGAGGCCCAGCCATTT-3’(配列番号17)
mRANKL-R : 5’-GTCTCAGTCTATGTCCTGAACTTT-3’(配列番号18)
mGAPDH-F : 5’-CACCATGGAGAAGGCCGGGG-3’(配列番号19)
mGAPDH-R : 5’-GACGGACACATTGGGGGTAG-3’(配列番号20)
【0116】
その結果、BMP-2添加によりC2C12細胞でのRANKLの発現が上昇することが確認できた(図35)。この結果、BMP-2はC2C12細胞に作用してRANKLの発現を促し、ペプチドDがRANKLに作用する補助をしていることが示唆された。
【0117】
実施例16 ペプチドDとペプチドEの活性比較
ペプチドDに1アミノ酸置換を行ったペプチドE(配列番号16)を作製し、破骨細胞の分化及び骨芽細胞の分化に対する効果を、それぞれTRAP活性及びALP活性を測定することにより行った。RAW264細胞を10%FBS+αMEM (SIGMA)を用いて96ウェルプレートに2×103個/ウェルにて播種した。細胞接着後に10 nM GST-RANKL(オリエンタル酵母工業製)を含む10%FBS+αMEMに置換した。そこに25、50、100及び200μMの濃度のペプチドD及びペプチドEを添加し、4日間培養を行った。培養終了後に100μLのアセトン/エタノールを各ウェルに加え細胞を固定し、ドラフト内で30min乾燥させた。
【0118】
TRAP solutionバッファーは、1.5 mg/mL濃度になるようにp-nitrophenyl phosphate(Nacalai)を50 mM クエン酸バッファーで調製後、1/10量の0.2 M酒石酸ナトリウム溶液を添加した溶液を用いた。TRAP solutionバッファーを各ウェルに100μL加え、45min 37℃インキュベートを行った後に50μLの1N NaOH溶液を加え反応停止させた。実施例1と同様に各ウェルの405nmにおけるOD値をマイクロプレートリーダー(BMG Labtech)にて測定した。
【0119】
さらにペプチドD及びペプチドEのMC3T3-E1細胞でのALP活性亢進作用について比較を行った。25、50、100及び200μMの濃度のペプチドD及びペプチドEを用いて、実施例14に示した条件にて培養を行い、実施例1に示した方法にてALP活性測定を行った。
【0120】
その結果、ペプチドD及びペプチドEは共に濃度依存的にTRAP活性の抑制及びALP活性の亢進を示した(図36及び図37)。TRAP活性については、100、200μMの濃度においてペプチドEと比較してペプチドDが有意な抑制作用を示した(図36)。また、ALP活性については50、100μMの濃度においてペプチドEと比較してペプチドDが有意な亢進作用を示した(図37)。ほぼ同等の効果を与えるペプチドD及びEの濃度を比較すると、1アミノ酸置換によりTRAP活性抑制作用がほぼ半減し、一方ALP活性亢進作用も約1/4まで低下していた。この1アミノ酸置換によりペプチドDのsRANKLに対する親和性が約1/3まで低下することが知られている(Aokiら、J Clin Invest 116: 1525, 2006)。以上の結果から、ペプチドDによるTRAP活性の中和作用と骨芽細胞でのALP活性亢進作用は、共にRANKLへの作用を介して発揮されていることが示唆された。
【0121】
実施例17 ペプチドDレセプターのノックダウンによるペプチドDのALP活性亢進作用のメカニズム解析
C2C12細胞においてBMP-2とペプチドDの相乗効果が図33で示されたが、C2C12細胞にBMP-2添加時にRANKL発現の上昇が確認された(図35)。そこで、MC3T3-E1細胞においてRNAistealthによるRANKLのノックダウンを行い、ペプチドDのALP活性亢進作用とRANKLノックダウンの影響を検討した。OPTiMEM(Invitrogen) 20μLとRNA-stealth select (tnfrsf11)(Invitrogen) 1.2pmolを穏やかにウェル中で混合した。5分後に0.2μLのLipofectamine RNAiMAX(Invitrogen)を添加し、室温で20分間放置した。さらに各ウェルにMC3T3-E1細胞4x103を播種し、CO2インキュベータ内で48時間培養を行った。培養液を除去した後、200μMのペプチドD又は200 ng/mlのBMP-2を含むαMEMを添加し、さらに5日間培養し、実施例1に記載した方法でALP活性測定を行った。なお、3種類のRANKL(TNFRSF11)のKDのnegative controlとしてはStealth RNAi negative universal control(Invitrogen)を用いて同様の実験を行った。一部細胞を回収し実施例7の方法を用いてmRNAを抽出し、配列番号17および18のプライマーを用いてRT-PCRによりRANKLのノックダウンの確認を行ったところ、KD1及びKD2いずれの場合もそれぞれの陰性コントロールであるcontrol1及びcontrol2に比べて、GAPDH mRNA量には影響せず、顕著にかつ特異的にRANKL mRNA量を減少させた(図38)。KD1及びKD2いずれの場合もRANKLノックダウン群ではペプチドD添加時のALP活性亢進が有意に低下しており、ペプチドDのレセプターがRANKLであることが示唆された(図38)。また、MC3T3-E1細胞においてBMP-2単独によるALP活性亢進はRANKLノックダウンによる影響を受けなかった。
【0122】
以上より、ペプチドDは骨芽細胞や骨芽細胞前駆細胞、間葉系幹細胞、間質細胞、筋芽細胞など骨芽細胞に分化する細胞に作用し、その後、BMPの作用を強める、あるいはBMPの作用と協調して骨芽細胞の分化を促進することが示唆された。また、細胞によってはBMPがRANKLの発現を促進し、ペプチドDの作用と協調していることが示唆された。
【0123】
実施例18 合成ペプチドDの精製方法によるALP活性亢進作用への影響
通常、合成ペプチドDは精製時にトリフルオロ酢酸(TFA)を含むため、濃度を上げることにより細胞にダメージを与える可能性が考えられた。そこで、合成ペプチドDを酢酸塩及び塩酸塩で置換したものを作製し、毒性が低くなおかつ高いALP活性を有するペプチドを得ることを目的として以下の実験を行った。陽性対照として大腸菌にて作製したBMP-2(R&D)及び塩置換を行わない合成ペプチドD(50及び150μM)を使用した。
【0124】
マウス骨芽前駆細胞であるMC3T3-E1細胞を10%FBS+αMEM (SIGMA)を用いて96ウェルプレートに2×104個/ウェルにて播種した。細胞接着後に培地を除去し、50及び150μMのペプチドD(酢酸塩および塩酸塩)を添加した場合のALP活性測定を行った。陽性対照として大腸菌にて作製した50 ng/mL BMP-2(R&D)、CHO細胞で発現させたBMP-2(R&D)とNS0細胞で発現させたBMP-4(R&D)及び、TFA塩の合成ペプチドD(50及び150μM)を添加した。なおCHO細胞で発現させたBMP-2のED50値は40〜200 ng/mLであり、大腸菌で発現させたBMP-2のED50値は0.3〜1.0μg/mLである。各因子を添加後5日目に培養上清を除去し、実施例1の方法にてALP活性測定を行った。その結果、MC3T3-E1細胞において酢酸塩ペプチドDが最も高いALP活性亢進作用を示した(図39A)。一方、塩酸塩ペプチドDでは高い活性は見られなかった。このように同じアミノ酸配列でも用いる塩によって活性に影響が出ることが分かった。
【0125】
次に酢酸塩合成ペプチドDとBMP-2のALP活性に対する相乗効果について検討を行った。マウス骨芽前駆細胞であるMC3T3-E1細胞を10%FBS+αMEM (SIGMA)を用いて96ウェルプレートに2×104個/ウェルにて播種した。細胞接着後に培地を除去し、6.25、12.5、25、50および100μMの合成ペプチドDに5 ng/mLBMP-2(CHO細胞製)を混合した場合のALP活性測定を行った。各因子を添加後5日目に培養上清を除去し、実施例1の方法にてALP活性測定を行った。その結果、酢酸塩合成ペプチドDの用量依存的にALP活性の上昇が確認された(図39B)。
【0126】
最後にBMP-4(R&D)との相乗効果についても検討を行った。MC3T3-E1細胞を10%FBS+αMEM (SIGMA)を用いて96ウェルプレートに2×104個/ウェルにて播種した。細胞接着後に培地を除去し、2 ng/mLのBMP-4に対し100μMの酢酸塩合成ペプチドDを添加した。各因子を添加後5日目に培養上清を除去し、実施例1の方法にてALP活性測定を行った。
【0127】
合成ペプチドDとBMP-4を同時に添加することで有意なALP活性の上昇が確認され、BMP-2だけでなくBMP-4においても酢酸塩合成ペプチドDが相乗効果を示すことが確認できた(図39C)。
【0128】
以上の結果から、合成ペプチドDを精製する際に、細胞に障害を及ぼす可能性のあるTFA塩よりは酢酸塩とする方がより高いALP活性を誘導できることが示された。また、酢酸塩置換を行った合成ペプチドDにおいて、BMP-2だけでなくBMP-4についてもALP活性亢進能について相乗効果を示した。今後の実験には酢酸塩ペプチドDを用いることとした。
【0129】
実施例19 RANKL抗体のALP活性亢進のメカニズム解析(RANKL抗体とBMP-2の協調作用)
実験にはモノクローナルmRANKL抗体((A)クローン88227(R&D)、及び(B)クローン12A668)(ALEXIS)及びコントロール抗体(オリエンタル酵母工業製)、モノクローナルmRANKL抗体#22(クローンIKK22/5)及び、#36抗体(クローンIKK36/12)を使用した。#22、#36抗体は、順天堂大学医学部に所属の奥村康氏より譲渡を受けた。また、これらの抗体は、Biochemical and Biophysical Research Communication 2006; 347, 124-132に記載されている。合成ペプチドDは酢酸塩置換したものを用いた。添加するBMP-2は哺乳動物細胞(CHO細胞)で発現させたもの(R&D)(C2C12細胞に使用)及び大腸菌で発現させたBMP-2(R&D)(マウス骨芽細胞に使用)を使用した。製造メーカーの説明書には哺乳動物細胞で発現させたBMP-2は大腸菌で発現させたものよりも約10倍活性が強いと示されている。各因子を添加後5日目に培養上清を除去し、実施例1の方法にてALP活性測定を行った。
【0130】
モノクローナルRANKL抗体のBMP-2との相乗効果を検討するために、BMP-2添加に依存してALP活性亢進されるC2C12細胞を用いてALP活性測定を行った。C2C12細胞を5%FBS+αMEM (SIGMA)を用いて96ウェルプレートに1×104個/ウェルにて播種した。6時間後に培地を除去し、それぞれ0.3μg/mLのモノクローナルRANKL抗体、50 ng/mlのBMP-2(CHO細胞で発現 R&D)、モノクローナルRANKL抗体と50 ng/mlのBMP-2の組み合わせを含む培地を添加した。各因子を添加後6日目に培養上清を除去し、実施例1の方法にてALP活性測定を行った。その結果、0.3μg/mLのモノクローナル抗体A、Bおよび#22単独で有意なALP活性亢進作用が認められた。またモノクローナル抗体AおよびBについてはBMP-2添加時にもALP活性の有意な上昇が認められた(図40)。
【0131】
さらにマウス骨芽細胞を用いた検討を行った。10%FBS+αMEM (SIGMA)を用いて96ウェルプレートに8x103個/ウェルにて播種した。細胞接着後に培地を除去し、0.3-3μg/mLの各RANKL抗体、RANKL抗体に50 ng/mLのBMP-2(大腸菌で発現 R&D)を混合した場合のALP活性測定を行った。各因子を添加後4日目に培養上清を除去し、実施例1の方法にてALP活性測定を行った。その結果、マウス骨芽細胞においてモノクローナル抗体Aは3μg/mLの濃度で、モノクローナル抗体Bにおいては0.3μg/mLの濃度で弱いながらも有意なALP活性の上昇が確認できた。陰性対照として用いたコントロール抗体(オリエンタル酵母工業製)ではそのような作用は認められなかった。またモノクローナル抗体#36及び#22については0.3および3μg/mLの濃度で有意なALP活性の上昇が確認できた(図41)。また、BMP-2とモノクローナルRANKL抗体のALP活性に対する協調作用は全てのモノクローナル抗体において確認できた(図42)。このように実験に用いたすべての抗RANKLモノクローナル抗体は程度の差はあるものの、マウス骨芽細胞のALP活性亢進作用を示し、またBMP-2と相乗的なALP活性亢進作用を示した。
【0132】
実施例20 ペプチドD(酢酸塩)とBMP-2の相乗効果に対するGST-RANKLの作用
BMP-2と酢酸塩ペプチドDをMC3T3-E1細胞に同時に添加することによりALP活性亢進作用に相乗効果が認められるが、その際にGST-RANKLを添加した場合の、ALP活性亢進作用に対する影響について検討を行った。
【0133】
RANKL抗体は実施例19に示したものを、GST-RANKL及びGSTはオリエンタル酵母工業製を使用した。BMP-2(CHO細胞製)はR&D社のものを用いた。合成ペプチドDは酢酸塩置換したものを用いた。
【0134】
マウス骨芽前駆細胞であるMC3T3-E1細胞を10%FBS+αMEM (SIGMA)を用いて96ウェルプレートに2×104個/ウェルにて播種した。細胞接着後に培地を除去し、100μMの酢酸ペプチドD、100μM酢酸ペプチドDに5 ng/mLのBMP-2を混合した培地、さらにペプチドDとBMP-2混合物に100 nMのGST-RANKLもしくはGSTを添加した培地に交換した。各因子を添加後5日目に培養上清を除去し、実施例1の方法にてALP活性測定を行った。その結果、MC3T3-E1細胞においてGST-RANKLは、ペプチドD(酢酸塩)とBMP-2との相乗的なALP活性亢進作用を有意に抑制した(図43)。一方、GST添加群では有意な抑制は認められなかった。このことはペプチドDがMC3T3-E1細胞上に発現しているRANKLに作用してALP活性を亢進させていることを示す。GST-RANKLは細胞膜上のRANKLに拮抗してペプチドDの作用を抑制したと考えられる。
【0135】
実施例21 ペプチドD及びRANKL抗体のマウス骨芽細胞増殖作用
ペプチドDまたはRANKL抗体とBMP-2を同時添加することでALP活性亢進作用が認められることは実施例19及び20に示した。BMP-2との相乗的な効果を有するペプチドD及びRANKL抗体がマウス骨芽細胞に対し増殖作用を有するかどうかについて検討を行った。
合成ペプチドDは酢酸塩置換したものを用いた。BMP-2(CHO細胞製)はR&D社のものを用いた。
【0136】
マウス骨芽細胞を10%FBS+αMEM(SIGMA)を用いて96ウェルプレートに2×103個/ウェルにて播種した。細胞接着後に培地を除去し、100μMのペプチドD(酢酸塩)、実施例19に記載の各種RANKL抗体(3μg/mL)及び各因子に5 ng/mLのBMP-2を混合した培地を添加した。培養72時間後にWST-1(Roche)を培地量の1/10の量添加し、37℃で3時間インキュベート後に各ウェルの450nmにおけるOD値(参照波長は595nm)をマイクロプレートリーダー(BMG Labtech)にて測定した。その結果、BMP-2の有無に関わらず、ペプチドDおよびRANKL抗体Bはマウス骨芽細胞の増殖を促進した(図44)。但し、ペプチドDの効果は弱く、他のRANKL抗体(#22, #36, A)では増殖促進効果は認められなかった。
【0137】
以上から、RANKLに対するモノクローナル抗体は認識するエピトープの違いによりマウス骨芽細胞を増殖促進するものとそうでないものがあることが分かった。一方、実施例19において示したように、マウス骨芽細胞を増殖促進しない抗RANKLモノクローナル抗体でもマウス骨芽細胞のALP活性亢進作用、即ち分化促進作用を示すことが分かった。まとめると、認識するエピトープの違う抗RANKLモノクローナル抗体を使い分けることにより、骨芽細胞を増殖または分化させることが可能であった。
【0138】
実施例22 ペプチドDのMC3T3-E1細胞に対する作用メカニズムの解析(DNAマイクロアレイ)
MC3T3-E1細胞を10%FBS+αMEM (SIGMA)を用いて10 cmディッシュに2×105個/ウェルにて播種した。12時間後に培地を除去し、200μMペプチドD(酢酸塩)または150 ng/mlのBMP-2(R&D社、大腸菌製)を含む培地を添加した。12及び96時間後に培地を除去し、各ウェルに3 mLのTRIZOL液(Invitrogen)を添加して細胞を溶解させ、実施例15の方法に従いtotal RNAを抽出した。抽出したtotal RNAは2μgを用いてDNAマイクロアレイ解析(Mouse Genomu 430 2.0 Affymetrix)を行った。なおスキャンはGeneChip Scanner 3000 (Affymetrix 690036)により行い、数値化はGene Chip Operating Software ver1.4にて行った。
【0139】
その結果、ペプチドD添加後12時間で、IRS-1、IGF-1、FGFレセプター2、PDGFレセプターβ、PDGFレセプターα、CTGF、I型コラーゲンα1及びα2鎖の各遺伝子発現が顕著に増加した(図45)。96時間後ではさらにIGF-2、ALP、BMP-4、OC(オステオカルシン)、FGF2、PDGFc、PDGFα及びPDGFβの各遺伝子発現が顕著に増加した(図46)。I型コラーゲン、ALP、オステオカルシンは骨芽細胞のマーカーとして知られている。実施例7ではペプチドDによるヒト間葉系幹細胞でのI型コラーゲン、ALP各遺伝子の発現上昇を示したが、MC3T3-E1細胞においてもこの二つの遺伝子発現の上昇が認められ、さらに骨芽細胞の後期分化マーカーとして知られるオステオカルシン(OC)遺伝子の発現も非常に上昇したことから、ペプチドDはMC3T3-E1細胞を骨芽細胞へと分化させたと考えられる。
【0140】
実施例23 DNAアレイ解析のRT-PCRによる検証
DNAマイクロアレイにおいて発現シグナルの増加が確認された遺伝子の中で、骨芽細胞のマーカーとして知られているアルカリフォスファターゼ(ALP)、I型コラーゲン(Col1)、オステオカルシン(OC)について、確認の為RT-PCRを行った。実施例22で採取したtotal RNA各々2μgをRT-PCRに供した。RT-PCRはThermoScript RT-PCR System(invitrogen)およびrandom primerを用いて行った。
【0141】
cDNA合成後に、マウスのアルカリフォスファターゼ(mALP)およびマウスのI型コラーゲンα1(mColI)およびマウスオステオカルシン(mOC)特異的なプライマーを用いてPCRを行った。標準化用にマウスGAPDH特異的なプライマーを用いてPCRを行った。用いたPCRプライマー配列は下に記載した。Ex TaqTM Hot Start Version (Takara Bio Inc., Shiga, Japan)を用いて以下の条件でPCRを行った。アルカリフォスファターゼ(mALP)は95℃で3分初期熱変性を行った後、95℃で10秒、60℃で15秒、68℃で1分を28サイクル行い、68℃で10分間伸長反応を行った。I型コラーゲンα1(mColI)は、93℃で3分初期熱変性を行った後、94℃で30秒、58℃で30秒、72℃で15秒を20サイクル行い72℃で10分間伸長反応を行った。オステオカルシン(mOC)は、95℃で3分初期熱変性を行った後、94℃で30秒、58℃で30秒、72℃で15秒を28および30サイクル行い72℃で10分間伸長反応を行った。GAPDHは、95℃で3分初期熱変性を行った後、94℃で10秒、58℃で15秒、68℃で1分を20サイクル行い、68℃で10分間伸長反応を行った。
【0142】
PCRプライマー配列
mALP-F: 5’-CCAAGCAGGCTCTGCATGAA-3’(配列番号21)
mALP-R: 5’-GCCAGACCAAAGATGGAGTT-3’(配列番号22)
mOC-F: 5’-TCTGACAAAGCCTTCATGTCC-3’(配列番号23)
mOC-R: 5’-AAATAGTGATACCATAGATGCG-3’(配列番号24)
mCol1-F: 5’-CCTGGTAAAGATGGTGCC-3’(配列番号25)
mCol1-R: 5’-CACCAGGTTCACCTTTCGCACC-3’(配列番号26)
mGAPDH-F: 5’-CACCATGGAGAAGGCCGGGG-3’(配列番号19)
mGAPDH-R: 5’-GACGGACACATTGGGGGTAG-3’(配列番号20)
【0143】
反応液の一部をアガロースゲルにて電気泳動し、エチジウムブロマイド液にて染色した。その結果、DNAマイクロアレイ解析の結果と同様にペプチドDおよびBMP-2によりALP, Col1, OCそれぞれの遺伝子発現が顕著に上昇していることが確認できた(図47A)。発現強度を数値化し、コントロールにおけるそれぞれの遺伝子発現量を1としてグラフ化したところ、DNAマイクロアレイ解析よりもさらに顕著にこれらの遺伝子発現上昇が認められた(図47B)。
以上から、ペプチドDによってMC3T3-E1細胞が骨芽細胞へ分化したことがRT-PCRによる遺伝子発現レベルの変化でも確認できた。
【0144】
実施例24 合成ペプチド投与による生体内における骨形成マーカーの解析
試薬
本実験では合成ペプチドDは酢酸塩置換品を使用した。PBSに1 mg/mLの濃度で溶解させた。対照群にはPBSを投与した。
【0145】
実験動物
C57BL/6Crjマウスは(株)北山ラベスから購入した。C57BL/6Crjマウス近交系マウスであり、老化による細胞性免疫能の低下が少ないという特徴を有するマウスである。温度23℃±3℃、湿度50%±30%の環境下で1週間予備飼育した。照明時間は8:00〜20:00とした。
実験期間中は全数MF(オリエンタル酵母工業)を給餌した。
コントロール群をn=6でペプチドD投与群をn=7で各々をケージ飼育した。
【0146】
投与方法及び期間
酢酸塩合成ペプチドDは10 mg/kgの用量で8:00、14:00及び20:00の1日3回、5日間皮下投与を行った。コントロール群にはPBSを投与した。5日の投与期間終了後12時間後に剖検を行い、全血採血後に大腿骨及び脛骨を採取した。全血は1時間室温で放置後、5000 rpm、4℃、5 minの条件で遠心分離を行い、血清を新しいチューブに回収した。大腿骨は冷70%エタノールで固定させた。脛骨は筋肉等を丁寧に除去後、PBSにて洗浄し、ハサミで1 mm断片にした後に液体窒素にて凍結させた。凍結させた脛骨にTRIZOL液(Invitrogen)を1mL添加し、ポリトロンにてホモジナイズした。実施例7の方法に従いtotal RNA抽出を行った後、50μLのDEPC水に溶解させた。個体別に抽出したtotal RNA 500 ngを実施例7の方法に従いRT-PCRに供した。RT-PCRはThermoScript RT-PCR System(invitrogen)およびrandom primerを用いて行った。
【0147】
cDNA合成後、実施例23と同様にマウスのアルカリフォスファターゼ(mALP)およびマウスのI型コラーゲンαI鎖(mCollagenαI)およびマウスオステオカルシン(mOC)特異的なプライマーを用いてPCRを行った。標準化用にマウスGAPDH特異的なプライマーを用いてPCRを行った。PCR条件は実施例23に従い、各々のサイクル数はmOCが23サイクル、mCollagenαIが20サイクル、mALPが28サイクル、最後にmGAPDHが23サイクルのデータを用いた。PCR反応後得られたサンプルは、1%アガロースゲルを用いて電気泳動を行い、エチジウムブロマイドを用いて、UV下で特異的なバンドが形成されていることを確認した。得られた画像はCSAnalyzerを用いて解析し、GAPDHの発現量で標準化した。その結果、各因子共にペプチドD投与群にて発現増加を示した(図48)。以上から、マウスの骨組織においてもペプチドD投与による骨芽細胞分化マーカー遺伝子の発現が確認できた。
【0148】
実施例25 ペプチドDのマウス脛骨に対する作用メカニズムの解析(DNAマイクロアレイ)
DNAマイクロアレイには実施例24に記載したマウス脛骨から個体別に抽出したtotal RNA 2μgを用いた。各群n=2とした。定法に従い、DNAマイクロアレイ解析(Mouse Genome 430 2.0 Affymetrix)を行った。なおスキャンはGeneChip Scanner 3000 (Affymetrix 690036)により行い、数値化はGene Chip Operating Software ver1.4にて行った。その結果、ペプチドD投与群マウス脛骨において、OC、ALP、I型コラーゲンα2鎖(CoL1α2)、血小板由来増殖因子cペプチド(PDGFc)、血小板由来増殖因子レセプター(PDGFRβ)およびインスリン様増殖因子(IGF-1)が標準サンプルに対し、有意に高いシグナルを示した(図49)。ペプチドDを添加したマウス骨芽前駆細胞だけでなく、ペプチドDを投与したマウスの脛骨からもOCやALPといった骨形成因子の増加が確認でき、in vivoにおいてもペプチドDが骨形成を行っていることが示された。
【0149】
実施例26 DNAアレイ解析のRT-PCRによる検証2
実施例23においてALP、CoL1およびOCについてRT-PCRを行い、DNAマイクロアレイの検証データを得た。さらなる検証データを得る為に、実施例23においてMC3T3-E1細胞から得られた各群のcDNAを用いて、DNAマイクロアレイにてシグナルの増強が見られた各種増殖因子およびそのレセプターについて確認のRT-PCRを行った。
【0150】
各cDNAは実施例23に記載した方法にて合成した。合成後に、マウス骨形成因子4(mBMP-4)、マウス結合組織増殖因子(mCTGF)マウスの血小板由来増殖因子(mPDGFc peptide)とそのレセプター(mPDGFRβ)、マウスの繊維芽細胞増殖因子2(mFGF2)とそのレセプター(mFGFR2)、インスリン様増殖因子2(mIGF-2)およびインスリンレセプターサブストレート(mIRS-1)特異的なプライマーを用いてPCRを行った。標準化用にマウスGAPDH特異的なプライマーを用いてPCRを行った。用いたPCRプライマー配列は下に記載した。Ex TaqTM Hot Start Version (Takara Bio Inc., Shiga, Japan)を用いて以下の条件でPCRを行った。BMP-4は95℃で3分初期熱変性を行った後、95℃で10秒、58℃で15秒、72℃で30秒を31サイクル行い、68℃で10分間伸長反応を行った。CTGFは95℃で3分初期熱変性を行った後、95℃で10秒、58℃で15秒、72℃で30秒を31サイクル行い、72℃で10分間伸長反応を行った。FGF2は95℃で3分初期熱変性を行った後、95℃で10秒、58℃で15秒、72℃で30秒を34サイクル行い、72℃で10分間伸長反応を行った。FGFR2は95℃で10秒、58℃で15秒、72℃で30秒を25サイクル行い、72℃で10分間伸長反応を行った。IGF-2は95℃で10秒、58℃で15秒、72℃で30秒を31サイクル行い、72℃で10分間伸長反応を行った。PDGFc peptide、PDGFRβおよびIRS-1は95℃で10秒、58℃で15秒、72℃で30秒を23サイクル行い、72℃で10分間伸長反応を行った。GAPDHは、95℃で3分初期熱変性を行った後、94℃で10秒、58℃で15秒、68℃で1分を20サイクル行い、68℃で10分間伸長反応を行った。反応液の一部を2%アガロースゲルにて電気泳動し、エチジウムブロマイド液にて染色した。
【0151】
その結果、MC3T3-E1細胞を用いたDNAマイクロアレイ解析の結果の中で、OC、ALPおよびCol1の他にIRS1、PDGFRβ、PDGFc、FGFR2、FGF2、CTGF、BMP-4およびIGF-2についてそれぞれの遺伝子発現がペプチドD添加により顕著に上昇していることが確認できた(図50A)。発現強度を数値化し、コントロールにおけるそれぞれの遺伝子発現量を1としてグラフ化したところ、IRS-1およびPDGFRβに関してはDNAマイクロアレイ解析よりもさらに顕著にこれらの遺伝子発現上昇が認められた(図50B)。その他の因子についてはDNAマイクロアレイとほぼ同様の結果が得られた。
【0152】
以上のことからペプチドDによる作用は、ペプチドDの刺激を受けた骨芽細胞がPDGFRβ、PDGFc、IGF-1、IGF-2、FGF2、CTGF、およびBMP-4などのサイトカイン、増殖因子群を自ら産生し、またPDGFRβ、FGFR2などのサイトカイン、増殖因子の受容体群をも産生させ、オートクライン的に骨芽細胞分化、増殖、骨形成を促進しているものと考えられる。生理的には、破骨細胞に接触している骨芽細胞にRANKからRANKLを介して逆シグナルが伝わり、オートクライン、パラクライン的に連鎖反応を引き起こし、破骨細胞に接触している骨芽細胞だけでなく、その近傍に位置する骨芽細胞が分化、増殖、骨形成を促進すると考えられる。
【0153】
PCRプライマー配列
mBMP-4-F: 5’-ATGAGGGATCTTTACCGGCT-3’ (配列番号27)
mBMP-4-R: 5’-TTTATACGGTGGAAGCCCTG-3’ (配列番号28)
mCTGF-F : 5’-AGTGTGCACTGCCAAAGATG-3’ (配列番号29)
mCTGF-R: 5’-GGCCAAATGTGTCTTCCAGT-3’ (配列番号30)
mFGF2-F: 5’-AAGCGGCTCTACTGCAAGAA-3’ (配列番号31)
mFGF2-R: 5’ -TCGTTTCAGTGCCACATACC-3’ (配列番号32)
mFGFR2-F: 5’-CTTTGGCCTGGCCAGGGATATCAAC-3’ (配列番号33)
mFGFR2-R: 5’ -CCAACTGCTTGAATGTGGGTCTCT-3’ (配列番号34)
mIGF2-F: 5’-CCCGCTGTTCGGTTTGCATAC-3’ (配列番号35)
mIGF2-R: 5’ -ACGGTTGGCACGGCTTGAAG-3’ (配列番号36)
mIRS1-F: 5’-AGCGTAACTGGACATCACAGCAG-3’ (配列番号37)
mIRS1-R: 5’-CGGTGTCACAGTGCTTTCTTGTTG-3’ (配列番号38)
mPDGFRβ-F: 5’-GTCTGGTCTTTTGGGATCCTACTCT-3’ (配列番号39)
mPDGFRβ-R: 5’-CTCCTCATCTACCTGCTGGTACT-3’(配列番号40)
mPDGFc-F: 5’-CTGATTCGGTACCTAGAGCCAGAT-3’ (配列番号41)
mPDGFc-R: 5’-CTGTCCTCTTTAGCTCTTCCCGT-3’ (配列番号42)
mGAPDH-F: 5’-CACCATGGAGAAGGCCGGGG-3’(配列番号19)
mGAPDH-R: 5’-GACGGACACATTGGGGGTAG-3’(配列番号20)
【0154】
実施例27 Fc融合ペプチドの作製
発現ベクターpFUSE-hIgG1-Fc2(Invivogen)をEcoRVおよびBglII(TOYOBO)にて制限酵素処理した。1%アガロースゲル(Wako)を用いて電気泳動を行い、必要な断片をゲルから切り出しMag Extractor(TOYOBO)にて断片の精製を行った。一方、インサート部分はPDF1-F(配列番号43)とPDF1-R(配列番号44)およびPAF1-F(配列番号45)とPAF1-R(配列番号46)のオリゴヌクレオチドを用いて95℃5分後、1サイクル1℃下降の条件で25℃になるまでアニーリングを行い、2種類の二本鎖DNA(PDF1およびPAF1)を合成した。ペプチドDを含むインサートDNAであるPDF1に対し、ネガティブコントロールとして配列番号47のアミノ酸配列からなるペプチドAを含むインサートDNAであるPAF1を作製した。制限酵素処理したベクターおよび2種類のインサートをLigation Mighty Mix(TAKARA)を用いて、16℃にて1時間ライゲーションを行った。このうち5μLをDH5α(Invitrogen)にトランスフォーメーションした。ゼオシン(Invitrogen)を含むLB培地にてスクリーニングを行い、得られたコロニーをミニプレップキット(BioRad)を用いて精製した。各プラスミドは制限酵素処理およびシークエンス解析を行い、目的とするプラスミドを確認した。配列番号50及び51にそれぞれ、ペプチドDとFcの融合タンパク質であるFc融合ペプチドDの塩基配列及びアミノ酸配列を示し、配列番号52及び53にペプチドAとFcの融合タンパク質であるFc融合ペプチドDの塩基配列及びアミノ酸配列を示す。
【0155】
PDF1-F:CTACTGCTGGAGCCAGTACCTGTGCTACGGTGGAGGTGGTAGCG(配列番号43)
PDF1-R:GATCCGCTACCACCTCCACCGTAGCACAGGTACTGGCTCCAGCAGTAG(配列番号44)
PAF1-F:CTACTGCGCTGCAGCTGCAGCTTGCTACGGTGGAGGTGGTAGCG(配列番号45)
PAF1-R:GATCCGCTACCACCTCCACCGTAGCAAGCTGCAGCTGCAGCGCAGTAG(配列番号46)
YCAAAAACY(配列番号47)
【0156】
実施例28 Fc融合ペプチドDのALP活性亢進能
COS-1細胞を10cmディッシュに2x106個ずつ播種した。FuGENE HD(Roche)を用いて、実施例27にて作製したFc融合ペプチドD発現プラスミド、Fc融合ペプチドA発現プラスミド、さらにベクターであるpFUSE-hIgG1-Fc2を各々5μgずつCOS-1細胞にトランスフェクションした。8時間後に培地をOptiMEM(GIBCO)10mLと交換し、72時間培養を行った。培養上清を回収し、2000rpm、4℃、5分の条件で遠心を行い死細胞等の不純物を除去した後、濃縮フィルター(Amicon)を用いて、培養上清中に産生されたFc融合ペプチドを濃縮した。培養上清中に産生されたFc融合ペプチドD(配列番号50)、Fc融合ペプチドA(配列番号52)およびFcの産生はSDS-PAGEにて当該サイズ(約30KDa)のバンドの検出により確認した。
【0157】
得られたFc融合ペプチドD、Fc融合ペプチドAおよびFcコントロールはαMEMで希釈を行い、MC3T3-E1細胞を2x104個/ウェルずつ播種した96ウェルプレート(Nunc)に添加し培養を行った。培養5日目に実施例1に記載した方法でALP活性測定を行った。その結果、Fc融合ペプチドDによりMC3T3-E1細胞にて有意なALP活性亢進が認められた(図51)。一方、Fc融合ペプチドAおよびFcコントロール添加群にはALP活性亢進作用は認められなかった。以上より、ペプチドD をFcに融合させたFc融合ペプチドDは、ペプチドDと同様にMC3T3-E1細胞からの骨芽細胞分化誘導を促進させた。
【0158】
実施例29 合成ペプチドDの精製方法によるTRAP活性への影響
実施例18で作製したペプチドDの塩置換品についてTRAP活性に対する影響について検討を行った。
【0159】
RAW264細胞を10%FBS+αMEM (SIGMA)を用いて96ウェルプレートに2×103個/ウェルにて播種した。細胞接着後に5 nM GST-RANKL(オリエンタル酵母工業)を含む10%FBS+αMEMに置換した。そこに25及び100μMの濃度のTFA塩ペプチドD、酢酸塩ペプチドD及び塩酸塩ペプチドDを添加し、4日間培養を行った。培養終了後に100μLのアセトン/エタノールを各ウェルに加え細胞を固定し、ドラフト内で30min乾燥させた。実施例16に記載した方法にてTRAP活性測定を行った。その結果、TFA塩ペプチドDは25μMにおいて有意なTRAP活性抑制作用が確認されたが、酢酸塩および塩酸塩置換したペプチドDには抑制効果は見られなかった。また、100μMの濃度においてもTFA塩ペプチドD抑制効果は著しく高く、一方で酢酸塩ペプチドDにより有意な抑制は認められたが、TFA塩に比して弱い抑制効果しか認められなかった(図52)。また、塩酸塩ペプチドDは100μMの濃度においてもTRAP活性抑制作用は認められなかった。実施例18の図39Aで示したように、同じアミノ酸配列でも用いる塩によって活性に影響が出ることが、破骨細胞形成抑制活性においても認められた。ペプチドDの場合、塩酸塩には骨芽細胞分化活性も、破骨細胞形成抑制活性も認められないが、酢酸塩はTFA塩に比して骨芽細胞分化活性は高く、破骨細胞形成抑制活性は低かった。このことはペプチドDが有する2つの活性、即ち、骨芽細胞分化活性と破骨細胞形成抑制活性を塩置換などの修飾により、独立に調節することが可能であることを示す。骨芽細胞分化活性だけを有する修飾ペプチドD、あるいは、破骨細胞形成抑制活性だけを有する修飾ペプチドDも作製可能である。
【0160】
実施例30 各種RANKL抗体の中和能の検討
ALP活性亢進能を示すRANKL抗体の機能を検討するために、RANKLによる破骨細胞形成活性に対する各種RANKL抗体の中和能を調べた。抗体はマウスモノクローナルRANKL抗体(#22、#36、AおよびB)を使用した。RAW264細胞を10%FBS+αMEM (SIGMA)を用いて96ウェルプレートに2×103個/ウェルにて播種した。細胞接着後に5 nMマウスsRANKL(ペプロテック社)を含む10%FBS+αMEMに置換した。そこに1μg/mLの各種RANKL抗体を添加し、4日間培養を行った。培養終了後に100μLのアセトン/エタノールを各ウェルに加え細胞を固定し、ドラフト内で30min乾燥させた。実施例16に記載した方法にてTRAP活性測定を行った。その結果、#22およびB抗体についてはTRAP活性抑制作用が見られたが、#36およびA抗体は中和活性を持たないことが示された(図53)。#36およびA抗体は逆にRANKLの破骨細胞形成活性を有意に促進した。これはこれらの抗体がsRANKLに結合することにより、sRANKLが3量体になるなどの構造的変化を起こし、RAW264細胞上のRANKに結合する際にRANKのクラスター化を促進し、破骨細胞形成を促進したものと考えられる。
【0161】
実施例31 GST融合ペプチドの作製
実施例27と同様にペプチドDをコードする配列にリンカー配列及びEcoRI、BamHI制限酵素サイト両端に付加したインサートDNA部分は、GPD1-F(配列番号48)とGPD1-R(配列番号49)のオリゴヌクレオチドを用いて作製し、これらのエンドヌクレアーゼを用いてpGEX-4T-2(GE healthcare;Genbank Accession Number U13854)のGlutathione S-transferaseの下流に定法によりクローニングした。配列番号54及び55に、それぞれペプチドDとGSTの融合タンパク質であるGST融合ペプチドDの塩基配列とアミノ酸配列を示す。トランスフォーメーションにはDH5α(Invitrogen)を用いた。得られた陽性クローンを定法により培養し、IPTG(終濃度:0.5 mM)でタンパク質発現の誘導後、菌体を抽出バッファー(50 mM Tris-HCl、pH 8.0、100 mM NaCl、1 mM EDTA、1 mM DTT、1%(v/v)TritonX-100)にて懸濁し、氷上にてソニケーターを用いて破砕した。18000 ×g, 15 minで遠心後、上清を回収しGlutathione Sepharoseカラムにかけた。続いて洗浄バッファー(50 mM Tris-HCl、pH 8.0、100 mM NaCl、1 mM DTT、 0.1%(v/v)TritonX-100)にて洗浄し、その後、Glutathione溶液(12 mM 還元型グルタチオン、50 mM Tris-HCl,pH 8.0)で溶出した。溶出後リン酸バッファー(PBS)にて透析を行った。精製したGST融合ペプチドDをSDS-PAGEにて分子量を確認したところ、約27 kDaであった。0.22μmのフィルター(ポール)ろ過により滅菌し、以下の実験に用いた。
【0162】
実施例32 抗ヒトRANKLモノクローナル抗体の調製
ヒトRANKLの細胞外ドメイン(aa140-317)を含むGST-RANKL(オリエンタル酵母工業)をマウスに免疫し、定法によりハイブリドーマを作製した。作製したハイブリドーマは細胞培養用の培地であるDMEM(4.5g/L glucose, L-グルタミン含有)+ 10% FBSにて培養を行い、限界希釈によるクローン化の後に6種類を選び、培養上清をそれぞれ回収した。回収した培養上清は、0.22μmフィルター(ポール)によりろ過を行い、protein Gセファロースカラム(GEヘルスケア)にかけた。続いてPBSにて洗浄し、溶出バッファー(0.1M グリシン-HCl, pH 2.7)にて抗体を溶出した。また溶出した抗体は即座に中和バッファーにて(1M Tris - HCl, pH 9.0)中和し、PBSにて透析の後に0.22μmフィルターによりろ過滅菌を行なった。SDS-PAGEにて抗体のL鎖H鎖のバンドを確認後、分光光度計にてA280の吸光度より濃度を算出した。
【0163】
実施例33 抗ヒトRANKLモノクローナル抗体の中和能の検討
ALP活性亢進能とRANKL抗体の中和能の因果関係を検討するために、実施例32にて作製した抗ヒトRANKLモノクローナル抗体を用いてRANKLの破骨細胞形成能に及ぼす中和活性を調べた。クローンは4G4、7H12および10C11を使用した。RAW264細胞を10%FBS+αMEM (SIGMA)を用いて96ウェルプレートに2×103個/ウェルにて播種した。細胞接着後に5 nMヒトsRANKL(ペプロテック社)を含む10%FBS+αMEMに置換した。そこに0.0625、0.25および1μg/mLの抗ヒトRANKLモノクローナル抗体を添加し、4日間培養を行った。培養終了後に100μLのアセトン/エタノールを各ウェルに加え細胞を固定し、ドラフト内で30min乾燥させた。実施例16に記載した方法にてTRAP活性測定を行った。その結果、10C11には1μg/mLで有意なTRAP活性抑制作用が認められたが、0.25および0.0625μg/mLの濃度では抑制作用は見られなかった(図54)。一方で7H12には各濃度で強い中和能が確認されたが、4G4は全く中和作用を示さなかった。
【0164】
実施例34 ヒト間葉系幹細胞の分化誘導におけるGST融合ペプチドDおよび抗ヒトRANKLモノクローナル抗体の効果
ヒト間葉系幹細胞(hMSC、Lonza社)を2×103個/ウェルずつ96ウェルプレート(Nunc)に播種した。細胞接着後に、専用維持培地(Lonza社)に100 nMデキサメサゾン(SIGMA)、10 mM BGP(SIGMA)および50μg/mLアスコルビン酸を添加して作製した分化誘導培地に切換え、10 nMのGST融合ペプチドDおよびGST 、あるいは0.3および3μg/mLの濃度で3種類の抗ヒトRANKLモノクローナル抗体を添加し培養を行った。培養5日目に実施例1に記載した方法でALP活性測定を行った。その結果、hMSCにおいてGST融合ペプチドDにより有意なALP活性の上昇が確認された(図55)。GSTだけではALP活性に変化は認められなかった。一方、実施例33にて用いた3種類の抗ヒトRANKLモノクローナル抗体をhMSCに添加すると、10C11抗体によりALP活性が有意に亢進した(図56)。4G4および7H12にはALP活性亢進作用が認められなかった。
【0165】
以上より、ペプチドDをGSTに融合させたGST融合ペプチドDは、ペプチドDと同様にヒト間葉系幹細胞からの骨芽細胞分化誘導を促進させた。実施例28のFc融合ペプチドDによる骨芽細胞分化誘導を促進と合わせて考えると、ペプチドDを何らかの蛋白質と融合させてもペプチドDと同様の作用を発揮させることが可能であることが明らかとなった。また、上記の実験から抗ヒトRANKLモノクローナル抗体の中にはヒト間葉系幹細胞からの骨芽細胞分化誘導を促進させる作用を有するものがあることが分かった。つまり、RANKLのある特定の部分をエピトープとして抗体が認識することにより、RANKLに作用して骨芽細胞分化シグナルを伝えることが示された。このことを利用して効果的に骨芽細胞分化シグナルを伝える抗RANKLモノクローナル抗体をデザイン、スクリーニング、作製することが可能である。実施例21の抗マウスRANKLモノクローナル抗体Bのように、抗RANKLモノクローナル抗体の中にはRANKLに作用して骨芽細胞増殖シグナルを伝えるものも存在するので、RANKLのある特定の部分をエピトープとして抗体が認識することにより、RANKLに作用して骨芽細胞増殖シグナルを伝えることが示されている。このように多くの抗RANKLモノクローナル抗体をスクリーニングし、最適化することにより、骨芽細胞増殖または分化シグナルを効率よく伝える抗体を見つけることが可能である。
【0166】
また、実施例19および30に示されているように、RANKLの破骨細胞分化作用を中和する抗マウスRANKLモノクローナル抗体(#22およびB抗体)の中にも骨芽細胞増殖作用を有するもの(B抗体)と有しないもの(#22)があること、中和抗体であってもなくても骨芽細胞分化作用を示す抗体(#22、#36、AおよびB)があることが示された。さらに、RANKLの破骨細胞分化作用を中和する抗ヒトRANKLモノクローナル抗体(7H12および10C11)の中にも、骨芽細胞分化作用を有するもの(10C11)と有しないもの(7H12)があることが示された。一方、どちらの作用も示さない抗体(4G4)もあった。以上の事実は、抗RANKLモノクローナル抗体が示し得る3つの作用、即ち、破骨細胞分化作用の中和、骨芽細胞増殖、および骨芽細胞分化は、それぞれ独立に別々の抗RANKLモノクローナル抗体によって実現させることができることを示す。また、B抗体のように破骨細胞分化作用の中和と骨芽細胞増殖、および骨芽細胞分化の3つの作用を一つの抗体に持たせることも可能である。さらに、#22抗体や10C11抗体のように、これら3つの作用の内、任意の2つの作用を一つの抗体に持たせることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0167】
膜型RANK、RANK類似ペプチド、抗RANKL抗体、可溶型RANK、OPG及びそれらの変異体、類似物、さらに天然あるいは合成の低分子化合物などの骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞の分化、増殖、成熟又は石灰化を促進する化合物、例えばRANKL作用分子により、骨芽細胞分化・成熟が亢進し、骨量を増加させることに利用できる。即ち、医薬品及び体外診断薬などへの利用が可能である。また、骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞の分化、増殖、成熟又は石灰化を促進する化合物、例えばRANKL作用分子をスクリーニングすることにより、新しい骨形成促進薬を探索、開発することに利用できる。また、骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞の分化、増殖、成熟又は石灰化を促進する化合物、例えばRANKL作用分子は骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞にシグナルを伝達し、分化・成熟させるための試薬としても利用できる。RANKLを発現する細胞は骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞以外にはT細胞、B細胞、滑膜細胞など様々な細胞が知られているが、骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞の分化、増殖、成熟又は石灰化を促進する化合物、例えばRANKL作用分子はこれらの細胞にも同様にシグナルを伝達し、分化・成熟・活性化を引き起こす物質として、医薬品、体外診断薬、研究用試薬など様々な用途に利用できる。
【配列表フリーテキスト】
【0168】
配列番号7、16 合成、2番目のCysは8番目のCysとジスルフィド結合により結ばれている
配列番号8〜13、17〜46、48、49 プライマー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞に作用し、骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞の分化、増殖、成熟又は石灰化を促進し骨形成を促進する、化合物を有効成分として含む、骨形成促進剤であって、前記化合物が以下の化合物から選択される骨形成促進剤:
(i) RANK;
(ii) RANKLに作用し得るRANKの変異体若しくは断片ペプチド;
(iii) RANKに構造が類似しRANKLに作用し得るペプチド;
(iv) OPG;
(v) RANKLに作用し得るOPGの変異体若しくは断片ペプチド;
(vi) 抗RANKL抗体又はその機能的断片;
(vii) 配列番号7又は配列番号16で表されるアミノ酸配列からなるペプチド;
(viii) 配列番号7又は配列番号16で表されるアミノ酸配列からなるペプチドとGST又はIgG1のFc領域との融合タンパク質;及び
(ix) 配列番号7又は配列番号16で表されるアミノ酸配列からなるペプチドの酢酸塩。
【請求項2】
骨芽細胞に分化し得る細胞が、骨芽前駆細胞、間葉系幹細胞、間質細胞及び筋芽細胞からなる群から選択される、請求項1記載の骨形成促進剤。
【請求項3】
配列番号7又は配列番号16で表されるアミノ酸配列からなるペプチドを有効成分として含む、骨形成促進剤。
【請求項4】
配列番号7又は配列番号16で表されるアミノ酸配列からなるペプチドとGST又はIgG1のFc領域との融合タンパク質を有効成分として含む、骨形成促進剤。
【請求項5】
ペプチドが、配列番号7又は配列番号16で表されるアミノ酸配列からなるペプチドの酢酸塩である、請求項3又は4に記載の、骨形成促進剤。
【請求項6】
骨形成促進剤の製造のための、骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞に作用し、骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞の分化、増殖、成熟又は石灰化を促進し骨形成を促進する、化合物の使用であって、前記化合物が以下の化合物から選択される使用:
(i) RANK;
(ii) RANKLに作用し得るRANKの変異体若しくは断片ペプチド;
(iii) RANKに構造が類似しRANKLに作用し得るペプチド;
(iv) OPG;
(v) RANKLに作用し得るOPGの変異体若しくは断片ペプチド;
(vi) 抗RANKL抗体又はその機能的断片;
(vii) 配列番号7又は配列番号16で表されるアミノ酸配列からなるペプチド;
(viii) 配列番号7又は配列番号16で表されるアミノ酸配列からなるペプチドとGST又はIgG1のFc領域との融合タンパク質;及び
(ix) 配列番号7又は配列番号16で表されるアミノ酸配列からなるペプチドの酢酸塩。
【請求項7】
骨芽細胞に分化し得る細胞が、骨芽前駆細胞、間葉系幹細胞、間質細胞及び筋芽細胞からなる群から選択される、請求項6記載の使用。
【請求項8】
骨形成促進剤の製造のための、配列番号7又は配列番号16で表されるアミノ酸配列からなるペプチドの使用。
【請求項9】
骨形成促進剤の製造のための、配列番号7又は配列番号16で表されるアミノ酸配列からなるペプチドとGST又はIgG1のFc領域との融合タンパク質の使用。
【請求項10】
ペプチドが、配列番号7又は配列番号16で表されるアミノ酸配列からなるペプチドの酢酸塩である、請求項8又は9に記載の使用。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20A】
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【図20B】
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【図20C】
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【図21】
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【図22A】
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【図22B】
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【図23】
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【図24A】
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【図24B】
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【図24C】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39A】
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【図39B】
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【図39C】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【図44】
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【図45】
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【図46】
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【図47A】
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【図47B】
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【図48】
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【図49】
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【図50A】
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【図50B】
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【図51】
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【図52】
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【図53】
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【図54】
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【図55】
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【図56】
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【公開番号】特開2013−32385(P2013−32385A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−240089(P2012−240089)
【出願日】平成24年10月31日(2012.10.31)
【分割の表示】特願2009−517928(P2009−517928)の分割
【原出願日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【出願人】(000103840)オリエンタル酵母工業株式会社 (60)
【Fターム(参考)】