説明

新規なエポキシ樹脂およびその製造方法

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、新規にして有用なエポキシ樹脂およびその製造方法に関する。更に詳細には、積層、接着、成形、封止、複合材等の用途に適する硬化物を与えるエポキシ樹脂およびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、かかる用途におけるエポキシ樹脂は多種多様であり、典型的な例としては、2,2’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン〔ビスフェノールA〕から得られる液状ないし固形の各種エポキシ樹脂、2,2’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン〔ビスフェノールF〕から得られるエポキシ樹脂、ノボラック樹脂から得られるエポキシ樹脂等があり、また高耐熱性エポキシ樹脂としては4,4’−ジアミノジフェニルメタン(MDA)得られるエポキシ樹脂等がある。しかしながら、これら従来のエポキシ樹脂を用いて得られる硬化物は、各利用分野において要求される様々な性能の全てを満足し得るものとは言い難い。
【0003】例えば、ビスフェノールAから得られるエポキシ樹脂は、可とう性に優れた硬化物を与えるが、耐熱性に乏しく、硬度が不足しているため衝撃に弱い。また、長時間高熱下におかれると、機械的な強度が極端に低下する。同様に、ビスフェノールFから得られるエポキシ樹脂の硬化物は、耐熱性が著しく不足している。さらに、o−クレゾールノボラックから得られるエポキシ樹脂の硬化物は、耐熱性、機械的強度は比較的高い水準にあるが、やはり長期的な耐熱性、さらには耐湿性に問題があり、4,4’−ジアミノジフェニルメタン(MDA)から得られるエポキシ樹脂の硬化物は、その構造上、吸水率の大きさが欠点となっている。また、高耐熱性エポキシ樹脂として、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン〔ビスフェノールS〕から得られるエポキシ樹脂が知られているが、このものは、スルホン結合の導入により耐熱性を向上させているため、同時に親水性が増すために耐湿性が劣っている。この様に、従来のエポキシ樹脂は性能的に一長一短があり、様々な利用分野における、多くの要求に対し、必ずしも充分に満足させる状況にあるわけではなかった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、前記問題点に鑑み成されたものであり、その課題は、耐湿性、耐熱性、接着性、機械的強度等の諸性能のバランスの優れた硬化物を得るためのエポキシ樹脂を提供することである。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明を完成するに到ったものである。即ち、本発明は、2,5(又は6)−ビス(アミノメチル)−ビシクロ〔2,2,1〕ヘプタン(以下、NBDAと称する)
【化2】


とエピハロヒドリンとを反応させて得られる次式で表わされるエポキシ樹脂
【化3】


、およびハロゲン化水素アクセプターの存在下において反応させる該エポキシ樹脂の製造方法に関するものである。本発明のエポキシ樹脂は、従来汎用のエポキシ樹脂、すなわち、ビスフェノール類から得られるエポキシ樹脂と比較して、その硬化物は、機械的な性能は同等、あるいはそれ以上の水準を示し、且つ耐熱性、耐衝撃性等の面でより優れた性能を示すものである。
【0006】本発明において、NBDAとエピハロヒドリンとを反応させる方法としては、(i)アルカリ金属、アルカリ土類金属の水酸化物を用いて、付加反応と脱ハロゲン化水素反応を連続的に行う一段法と、(ii)NBDAとエピハロヒドリンの付加反応を実質的に完了させた後、脱ハロゲン化水素反応を行う二段法とがある。本発明においては、どちらの方法を選択してもかまわないが、最終製品の品質、着色、保存安定性等の面で、二段法の方が優れたものが得られ、より好ましいといえる。
【0007】本発明では、エピハロヒドリンの使用量は、NBDA1モルに対し、4〜40モル、好ましくは6〜30モル、より好ましくは8〜20モルの範囲である。反応温度としては、−15℃〜120℃、好ましくは0℃〜100℃、さらに好ましくは5℃〜80℃の範囲である。反応時間は実質的に反応が完結するまでであり、反応条件により左右されるが通常1〜20時間である。反応の形態としては、両者を一括して反応容器に装入する方法では、その反応熱により、反応温度のコントロールが困難になることもあるため、エピハロヒドリン中にNBDAを滴下していく方法が望ましい。また、付加反応の際、必要に応じて、テトラメチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムクロライド、テトラエチルメチルアンモニウムクロライド、トリオクチルメチルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムブロマイド、セチルトリエチルアンモニウムブロマイド等の四級アンモニウム塩を触媒として用いることができる。
【0008】本発明で用いられるハロゲン化水素アクセプターは、アルカリ金属、アルカリ土類金属の水酸化物であり、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化バリウム、水酸化カルシウム等が挙げられるが、水酸化ナトリウム、水酸化ナトリウムが好ましく、また水溶液で用いられることが好ましい。アルカリ金属、アルカリ土類金属の水酸化物の使用量は、NBDAの活性水素に対して少過剰、すなわちNBDA1モルに対し、4.05〜4.5モル程度である。
【0009】反応終了後、副生する無機塩等を水洗、濾過等任意の方法で除去し、さらに過剰のエピハロヒドリンを減圧留去することにより、目的のエポキシ樹脂を得ることができる。得られたエポキシ樹脂は、常温(20℃)において液状であるため取扱いが容易である。即ち、硬化剤との混合や各種の無機充填剤の配合の際、作業性が非常に優れている特徴を有するものである。
【0010】このようにして得られた本発明のエポキシ樹脂は、通常のエポキシ樹脂用硬化剤を用いて硬化させることができる。硬化剤の代表的なものを例示すれば、ビス(4−アミノフェニル)メタン、アニリン/ホルムアルデヒド樹脂、ビス−(4−アミノフェニル)スルホン、プロパン−1,3−ジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、2,2,4−トリメチルヘキサミン−1,6−ジアミン、m−キシリレンジアミン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス−(4−アミノシクロヘキシル)プロパンまたは3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルアミン〔イソホロンジアミン〕の様な脂肪族、脂環式、芳香族および複素環式アミン;脂肪族ポリアミンと二量化または三量化脂肪酸から得られるポリアミノアミド;レゾルシノール、ハイドロキノン、2,2−(4−ヒドロキシフェニル)プロパンおよびフェノール/ホルムアルデヒド樹脂の様なポリフェノール;無水フタル酸、無水テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、ピロメリット酸無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、前記無水物の酸等が挙げられる。
【0011】さらに、本発明のエポキシ樹脂には、硬化剤の他に、必要に応じて、各種無機充填剤を添加して用いることができる。使用される無機充填剤としてはシリカ、アルミナ、窒化珪素、炭化珪素、タルク、ケイ酸カルシウム、炭酸カルシウム、マイカ、クレー、チタンホワイト等の粉体、ガラス繊維、カーボン繊維等の繊維体が挙げられる。これらの中で熱膨張率と熱伝導率の点から、結晶性シリカおよび/または溶融性シリカが好ましい。更に、樹脂組成物の成形時の流動性を考えると、その形状は球形、または球形と不定型の混合物が好ましい。無機充填剤の配合量は、エポキシ樹脂および硬化剤の総重量に対して100〜900重量%であることが必要であり、好ましくは200〜600重量%である。
【0012】また、前記の無機充填剤と同時に、機械的強度、耐熱性の点から各種の添加剤をも配合することが望ましい。すなわち、樹脂と無機充填剤との接着性向上の目的でカップリング剤を併用することが好ましく、かかるカップリング剤としてはシラン系、チタネート系、アルミネート系、およびジルコアルミネート系等のカップリング剤が使用できる。中でもシラン系カップリング剤が好ましく、特にエポキシ樹脂と反応する官能基を有するシラン系カップリング剤が最も好ましい。かかるシラン系カップリング剤の例としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランN−(2−アミノメチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アニリノプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができ、これらを単独、あるいは併用して使用することができる。これらのシラン系カップリング剤は、予め無機充填剤の表面に吸着、あるいは、反応により固定化されているのが好ましい。
【0013】本発明において、これらの樹脂組成物を硬化させるにあたっては、硬化促進剤を使用することが望ましい。かかる硬化促進剤としては、2−メチルイミダゾール、2−メチル−4−エチルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾ−ル等のイミダゾール類、トリエタノールアミン、トリエチレンジアミン、N−メチルモルホリン等のアミン類、トリブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリトリルホスフィン等の有機ホスフィン類、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、トリエチルアンモニウムテトラフェニルボレ−ト等のテトラフェニルボロン類、1,8−ジアザ−ビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7およびその誘導体がある。上記硬化促進剤は、単独で用いても、2種類以上を併用してもよく、また、これら硬化促進剤の配合はエポキシ樹脂および硬化剤の合計量100重量部に対して0.01〜10重量部の範囲で用いられる。
【0014】該樹脂組成物には、上記各成分の他、必要に応じて、脂肪酸、脂肪酸塩、ワックスなどの離型剤、ブロム化合物、アンチモン、りん等の難燃剤、カーボンブラック等の着色剤、各種シリコーンオイル等を配合し、混合、混練して成形材料とすることができる。以上の様にして得られる、本発明のエポキシ樹脂から得られる硬化物は、従来汎用のエポキシ樹脂、例えばビスフェノールAから得られる硬化物と比較すると、機械的性質は同等、あるいはそれ以上でありつつ、耐熱性が優れ且つ、優れた電気的特性を示し、さらに耐衝撃強度も充分得られるため、前述した従来のエポキシ樹脂の利用されている技術分野と同様の分野において有用のものである。
【0015】
【実施例】次に、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれにより何ら制限されるものではない。
実施例1攪拌器、温度計、ディーンスターク水分離器、および冷却器を装着した反応装置に、エピクロルヒドリン185g(2.0モル)、水9g(0.5モル)を装入し、20〜25℃に保ちながら、2,5(または6)−ビス(アミノメチル)−ビシクロ〔2,2,1〕ヘプタン(NBDA)30.4g(0.2モル)を1時間で滴下した。滴下終了後、同温度を保ちながら、2時間熟成したのち50℃まで加熱し、減圧下において、40%水酸化ナトリウム水溶液96g(0.96モル)を2時間で滴下した。この際、共沸してくる水は系外に留去し、エピクロルヒドリンは系内に戻し、反応系の各濃度がほぼ一定になるようにした。滴下終了後、30分で水が完全に留出しなくなった。この時点で反応終了とした。未反応のエピクロルヒドリンを減圧下において回収した後、トルエン150gを加え、200gの水で3回水洗を繰り返して無機塩を除去した。トルエン層からトルエンを減圧留去し、淡黄色透明油状のエポキシ樹脂を60g得た。このエポキシ樹脂のエポキシ当量は101.8g/eqであった。尚、NBDAのテトラグリシジル体〔2,5(または6)−ビス(ジグリシジルアミノメチル)−ビシクロ〔2,2,1〕ヘプタン〕のエポキシ当量は94.5g/eqである。また、得られたエポキシ樹脂の赤外線吸収スペクトル分析から、910cm-1付近にエポキシ基の吸収を確認した。
【0016】使用例1実施例1により得られたエポキシ樹脂を芳香族アミン系硬化剤(商品名、エピキュアーZ;シェル化学製)を硬化剤として、表−1(表1)に示す割合で配合し、その混合物を注型加工して得られる硬化物の物性を測定した。その結果を表−1に示した。
【0017】比較例1使用例1におけるエポキシ樹脂を、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名、エピコート828;シェル化学製)に代え、表−1に示す割合で配合して得られる硬化物の物性を測定した。その結果を表−1に示した。
比較例2使用例1におけるエポキシ樹脂を、ビスフェノールF型エポキシ樹脂(商品名、エピコート807;シェル化学製)に代え、表−1に示す割合で配合して得られる硬化物の物性を測定した。その結果を表−1に示した。
【0018】
【表1】


A:エピコート828;ビスフェノールA型エポキシ樹脂(油化シェル製)
B:エピコート807;ビスフェノールF型エポキシ樹脂(油化シェル製)
・熱変形温度:JIS K−7207による・Tg(ガラス転移温度):TMA法による・曲げ試験:JIS K−7203による・引っ張り試験:JIS K−7112による・誘電率:JIS K−6760による・Izod衝撃強度:JIS K−7110による
【0019】表−1から明らかな様に、本発明のエポキシ樹脂を用いた硬化物は、従来のビスフェノール類から得られるエポキシ樹脂の硬化物と比較して、機械的な物性は同等、あるいはそれ以上の性能を示し、さらに耐熱性が向上している。特に耐衝撃性に関しては大きな進歩がみられる。
【0020】
【発明の効果】本発明により提供されるエポキシ樹脂組成物は、耐熱性に優れ、更に機械的性能、耐衝撃性に優れているため、各種マトリックス樹脂として極めて有用性が高いものである。従って、本発明は、従来エポキシ樹脂が多く利用されてきた分野において、新規且つ有用な材料を提供するものであり、その貢献するところは大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】2,5(又は6)−ビス(アミノメチル)−ビシクロ〔2,2,1〕ヘプタンとエピハロヒドリンとを反応させて得られる次式
【化1】


で表わせられるエポキシ樹脂。
【請求項2】 2,5(又は6)−ビス(アミノメチル)−ビシクロ〔2,2,1〕ヘプタンとエピハロヒドリンとを、ハロゲン化水素アクセプターの存在下に反応させることを特徴とする請求項1記載のエポキシ樹脂の製造方法。

【特許番号】特許第3221726号(P3221726)
【登録日】平成13年8月17日(2001.8.17)
【発行日】平成13年10月22日(2001.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−138964
【出願日】平成4年5月29日(1992.5.29)
【公開番号】特開平5−331258
【公開日】平成5年12月14日(1993.12.14)
【審査請求日】平成11年3月25日(1999.3.25)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【参考文献】
【文献】特開 昭58−162584(JP,A)
【文献】特開 昭58−135875(JP,A)
【文献】特開 昭56−22771(JP,A)
【文献】特開 昭49−51298(JP,A)
【文献】特開 昭54−4992(JP,A)
【文献】特開 平4−80227(JP,A)
【文献】特開 平4−80228(JP,A)