説明

新規抗生物質SF2811物質、その製造法およびその用途

【課題】 各種細菌に対して抗菌活性を有し、特に医療上問題となっている多剤耐性菌を含むグラム陽性菌に対して強い抗菌活性を示し、多剤耐性菌を含むグラム陽性菌などを起因菌とする細菌感染症の治療に有用な抗菌剤を提供すること。
【解決手段】 式(1)で表わされる新規抗生物質SF2811物質、または薬理学的に許容される塩、およびそれらの製造法、ならびにそれらの医薬組成物を提供する。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は新規抗生物質SF2811物質およびその製造法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】抗菌剤としてペニシリンGの実用化がなされた1940年代以降、抗生物質に関する研究開発の急速な進歩により、細菌感染症に対する多くの治療薬が開発されてきた。当初はグラム陽性菌に対しては有効であるがグラム陰性菌に対する活性が弱い薬剤が多かったが、近年ではグラム陰性菌にも有効な幅広い抗菌スペクトルを有する薬剤が開発され臨床に用いられるようになり、細菌感染症の克服が可能になると思われていた。しかしながら、これら薬剤の頻用により、耐性菌の出現や菌交代現象などが見られるという臨床上の問題が生じており、新たな抗菌剤が望まれている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】現在使用されている主な抗菌剤としては、各種β−ラクタム系、アミノグリコシド系、マクロライド系およびテトラサイクリン系薬剤などがあり、他にも合成抗菌薬としてフルオロキノロン系およびオキサゾリジノン系などが用いられている。抗菌剤の開発当初はグラム陰性菌に対する活性が弱い薬剤が多かったが、改良により幅広い抗菌スペクトルを有し、さらに強い抗菌力を示す薬剤が登場し、頻用されるようになってきた。細菌はこれら薬剤に対して、薬剤の不活性化、作用点の変異、透過性の変化といった機序などにより耐性を獲得し、近年ではメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)、ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)、多剤耐性緑膿菌(MDRP)およびβ-ラクタマーゼ非産生アンピシリン耐性インフルエンザ菌(BLNAR)などの耐性菌の出現が報告され、臨床上問題となっている。そして、これら耐性菌に対して有効な薬剤が少ないため、新たな抗菌剤が望まれている。本発明は、多剤耐性菌を含むグラム陽性菌などを起因菌とする細菌感染症の治療に有用な抗生物質SF2811物質を提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、新規抗生物質を見出すべく、微生物産物をソースに新規化合物の探索を行った。そして本発明者らが土壌試料より分離したSF2811株と命名した放線菌ミクロモノスポラ属の一菌株(Micromonospora sp. SF2811)の培養物中に抗菌活性を示す物質が生産、蓄積されることを見出した。さらにこの活性物質が上記の式(1)で表される化学構造を有することを見出し、新規な化合物であることを確認して、本物質をSF2811物質と命名した。
【0005】本発明の第1の要旨とするところは、式(1)で表され、ナトリウム塩において下記の理化学的性状を有する新規抗生物質SF2811物質にある。
【0006】1. SF2811物質ナトリウム塩の理化学的性状(1) 色および性状:白色粉末(2) 分子式:C42H62ClNaO12(3) マススペクトル (HRFAB-MS):実測値 817.3895 (M+H)+計算値 817.3906(4) 融点:>300℃(5) 比旋光度:[α]D25 = +2.4°(c 1.0, CHCl3)(6) 紫外線吸収スペクトル[λmax nm (ε)]
MeOH : 210 (13400), 226 (7940), 292 (2190)MeOH+1N HCl : 210 (13000), 226 (6990), 292 (2010), 315 (1110)MeOH+1N NaOH: 210 (14200), 238 (6280), 309 (2290)(7) 赤外線吸収スペクトル[νmax cm-1 (KBr)]:3453, 2955, 2934, 2878, 1727, 1456, 1381, 1283, 1105, 1061, 959(8) 1H-NMRスペクトル(400 MHz, CDCl3
δ(ppm):0.77 (3H, d, J= 7.1 Hz), 0.80 (3H, d, J= 6.4 Hz), 0.94 (3H,d, J= 6.8 Hz), 1.00 (1H, m), 1.06 (3H, d, J=7.3 Hz), 1.11 (2H, m), 1.14(1H, m), 1.19 (3H, s), 1.26 (1H, s), 1.31 (3H, d, J= 6.6 Hz), 1.36 (1H,m), 1.48 (1H, m), 1.53 (1H, m), 1.65 (1H, m), 1.65 (3H, s), 1.69 (2H, m), 1.86 (1H, m), 1.87 (1H, m), 2.01 (1H, m), 2.04 (1H, m), 2.13 (1H, m),2.13 (1H, m), 2.16 (1H, m), 2.26 (3H, s), 2.30 (1H, m), 2.60 (1H, dd, J= 15.6, 1.5 Hz), 3.23 (3H, s), 3.27 (3H, s), 3 .44 (1H, m), 3.54 (1H, t,J= 5.1 Hz), 3.57 (1H, m), 3.80 (1H, dt, J= 13.2, 4.6 Hz), 3.85 (1H, t,J= 4.4 Hz), 4.15(1H, d, J= 4.9 Hz), 4.17 (1H, dt, J= 5.6, 1.5 Hz), 4.70(1H, dt, J= 11.2, 2.7 Hz), 5.38 (1H, dq, J= 6.6, 1.5 Hz), 6.95 (1H, d, J= 9.0 Hz), 7.12 (1H, d, J= 9.0 Hz)(9) 13C-NMRスペクトル(100 MHz, CDCl3
δ(ppm):178.3, 168.7, 156.1, 132.5, 130.7, 123.8, 122.3, 117.2, 108.0, 87.5, 84.8, 83.2, 82.3, 81.5, 80.7, 78.4, 72.9, 72.0, 69.1, 60.3, 57.6, 57.0, 41.9, 41.4, 39.3, 37.0, 35.8, 35.3, 33.7, 33.2, 31.3, 29.7, 29.4, 28.9, 27.0, 23.3, 18.5, 17.6, 17.1, 16.7, 13.0, 12.6(10) 溶解性:クロロホルム、メタノールに可溶、水に難溶。
【0007】本発明化合物は、塩として存在することができ、そのような塩としては例えばナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属やカルシウム、バリウムなどのアルカリ土類金属など無機塩基との塩、またはエタノールアミン、トリエチルアミンなど有機塩基との塩などが挙げられる。
【0008】本発明の第2の要旨とするところは、上記の式(1)に示されるSF2811物質を生産するミクロモノスポラ属に属する菌を培養し、その培養物からSF2811物質を採取することを特徴とする、SF2811物質の製造法である。
【0009】上記のSF2811物質生産菌としては、例えば本発明者らが土壌試料から新たに分離したミクロモノスポラ属に属するSF2811株が挙げられる。なお、本発明で用いられるSF2811物質生産菌は、本明細書に記載の特定の微生物に限定されるものではない。SF2811物質を生産する能力を有している菌であればSF2811物質生産菌としていずれを用いてもよい。使用できる微生物の例としては、SF2811株、あるいはこれらの菌株の継代培養物、人工変異株並びに自然変異株、遺伝子組換え株などが挙げられる。SF2811株の菌学的性状は以下の通りである。
【0010】2. SF2811株の分類学的性質SF2811株の形態的性質、培養的性質、生理学的性質、化学分類学的性質および16S rRNA遺伝子などの分類学的解析は、『放線菌の分類と同定』(日本放線菌学会編、日本学会事務センター刊、2001年)に記載された方法に従った。
【0011】(a)形態的性質SF2811株を酵母エキス・でんぷん寒天培地(酵母エキス0.2%、でんぷん1.0%、寒天18 g、精製水1L、pH 7.0)で28℃、14日間培養し、光学顕微鏡並びに走査型電子顕微鏡で観察した。栄養菌糸は直径0.2〜0.3 μmでよく発達し、不規則に分岐するが、分断はしない。気菌糸の形成は観察されない。栄養菌糸には単独で球状の胞子が多数形成され、これらの直径は0.8〜1.0 μmで、表面はやや粗面である。
【0012】(b)培養的性質28℃で14日間培養後のSF2811株の生育、コロニーの裏面の色、可溶性色素の有無とその色調は以下の通りである。なお、気菌糸の形成は全ての培地で認められなかった。色の表示はColor Harmony Manual(Container Corporation of America, 1958)に従った。
(1)イースト・麦芽寒天培地(ISP-2); コロニーの生育は普通〜やや貧弱で、裏面は黄土色を呈する。可溶性色素は産生しない。
(2)オートミール寒天培地(ISP-3); 生育は普通で、裏面はこげ茶色を呈する。可溶性色素は産生しない。
(3)スターチ・無機塩寒天培地(ISP-4); 生育は良好で、裏面はキャラメル色を呈する。可溶性色素は産生しない。
(4)グリセリン・アスパラギン寒天培地(ISP-5); 生育は普通で、裏面は茶褐色を呈する。淡紅色の可溶性色素を弱く産生する。
(5)ぺプトン・イースト・鉄寒天培地(ISP-6); 生育は貧弱で、裏面は黄土色を呈する。可溶性色素は産生しない。
(6)チロシン寒天培地(ISP-7); 生育は普通で、裏面は茶色を呈する。可溶性色素は産生しない。
(7)スターチ・イースト寒天培地; 生育は良好で、裏面は黄土色を呈する。可溶性色素は産生しない。
(8)栄養寒天培地; 生育は貧弱で、裏面は黄褐色を呈する。可溶性色素は産生しない。
【0013】(c)生理学的性質(1)メラニン様色素の生成;ペプトン・イースト・鉄寒天培地(ISP-6)およびチロシン寒天培地(ISP-7)でメラニン様色素を生成しない。
(2)ゼラチンの液化;ゼラチンを液化しない。
(3)ミルクの凝固・ペプトン化;スキムミルクのペプトン化および凝固は認められない。
(4)スターチの加水分解;スターチを加水分解する。
(5)硝酸塩の還元;硝酸塩を還元しない。
(6)生育温度範囲;28℃〜37℃で生育するが15℃および42℃で生育しない。生育至適温度は28℃近辺である。
(7)耐塩性;酵母エキス・でんぷん寒天培地を基礎培地とした場合、食塩濃度2%で生育するが3%で生育しない。
(8)炭素源の利用;D-グルコース、L-アラビノース、D-キシロース、D-フルクトース、D-マンニトール、L-ラムノース、シュクロース、ガラクトースを利用するが、ラフィノース、myo-イノシトールは利用しない。
【0014】(d)化学分類学的性質細胞壁には、メソ・ジアミノピメリン酸およびグリシンの存在が確認され、また全菌体の加水分解物中には、アラビノースとキシロースが検出されたことから、SF2811株はルシェバリエなどの分類による細胞壁化学型IID型と分類された。また、ペプチドグリカンのアシル型はグリコレート型で、ミコール酸は検出されなかった。主要なメナキノンは、MK-10(H4)およびMK-10(H6)が共に35%程度で最も多く、MK-10(H8, H2)を合わせると、90%以上を占めた。菌体脂肪酸はiso-C16:0, anteiso-C17:0の分枝酸が主体であり両者で約70%を占め、10メチル脂肪酸やハイドロキシ脂肪酸を含まなかった。これらの形態的性質と化学分類学的性質から、SF2811株はミクロモノスポラ(Micromonospora)属に所属することが強く示唆された。
【0015】(e)16S rRNA遺伝子解析SF2811株の16S rRNA遺伝子の部分塩基配列(1446bp)を解読しデータベース検索を行った結果、SF2811株はミクロモノスポラ科(family Micromonosporaceae)のクラスターに収容され、最も高い類似性を示した16S rRNA遺伝子の塩基配列としては、Catellatospora ferruginea AF152108およびMicromonospora olivasterospora X92613と96%の相同性を示した。しかし、形態的性質と化学分類学的性質から想定されたミクロモノスポラ(Micromonospora)属のクラスターには含まれず、その他既知のいかなる属のクラスターにも含まれなかった。
【0016】以上のことから、本菌株はミクロモノスポラ科の新属に所属させるのが妥当と考えられるが、現状ではミクロモノスポラ属と明瞭に区別される表現形が明らかになっておらず、しかもSF2811株1株しか分離されていないため新属の提案には納得性が得られない。従って、本菌株を便宜的にミクロモノスポラエスピー(Micromonospora sp.)SF2811と呼称することとした。なお、本菌株は、平成14年1月18日付けで受託番号FERM P-18684として独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに寄託されている。
【0017】3. SF2811物質生産菌の培養本発明の方法では、SF2811物質生産菌、例えばSF2811株を適当な炭素源および窒素源を含む栄養培地で培養する。使用される培地は天然培地、合成培地のいずれでもよい。炭素源としては、グルコース、フラクトース、シュクロース、糖蜜、でんぷんあるいはでんぷん加水分解物などの炭水化物、プロピオン酸などの有機酸類が用いられる。一方、窒素源としては、通常ペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンスチープリカー、オートミール、小麦胚芽、カゼイン加水分解物、大豆粕および大豆粕加水分解物などを使用するが、アンモニウム塩(例えば、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、リン酸アンモニウムなど)、尿素、アミノ酸などの無機および有機の窒素化合物も有効である。なおこれらの炭素源及び窒素源はそれぞれ併用することができる。
【0018】必要ある場合には、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅、炭酸カルシウムまたはその他の無機塩類を培地に添加してもよい。また培地が発泡する場合には、液体パラフィン、動物油、植物油、鉱物油またはシリコンなどを添加することができる。
【0019】SF2811物質生産菌の培養は、振盪培養または深部通気撹拌培養などにより好気的条件下で行う。培養温度は、SF2811物質生産菌が目的物質を生産する範囲内で適宜変更しうるが、好ましくは25〜37℃がよい。培養時間は通常1〜14日間である。
【0020】4. SF2811物質の精製法本発明によって得られるSF2811物質は、その性状に従って培養物から精製することが可能である。即ち、有機溶媒を用いた溶媒抽出法、吸着剤を用いた吸脱着法、ゲル濾過剤を用いた分子分配法、適当な溶剤からの再結晶法などを単独もしくは適宜組み合わせることにより精製できる。
【0021】例えば、SF2811物質を含む培養物から酢酸エチルにより抽出し、酢酸エチル層を減圧濃縮する。この抽出物を少量のクロロホルム、メタノールなどの有機溶媒に溶解してシリカゲルカラムに付し、クロロホルム/メタノール、ヘキサン/酢酸エチルなどの溶媒系でクロマトグラフィーを行う。その後、メタノールなどの展開溶媒を用いたセファデックスLH-20(ファルマシアファインケミカルズ社製)などのゲル濾過を行い、最後にクロロホルム/メタノール、ヘキサン/酢酸エチルなどの溶媒系で分取薄層クロマトグラフィーを行うことによりSF2811物質を単離することができる。さらに、エーテル、ヘキサン、アセトン、メタノール、水などの溶剤を用いることで再結晶化することが可能である。
【0022】本発明の第3の要旨とするところは、上記の式(1)で表わされるSF2811物質または薬理学的に許容されるその塩を含有する医薬にある。本発明のSF2811物質は、試験例に示すように細菌に対して発育阻害活性を有し、ヒトを含む動物に医薬として投与することが有用である。具体的には、抗菌剤として有効である。
【0023】本発明のSF2811物質を医薬品として投与する場合、種々の投与形態または使用形態に合わせて、常法に従い製剤化することができる。
【0024】経口投与のための製剤としては、錠剤、丸剤、顆粒剤、カプセル剤、散剤、液剤、懸濁剤、シロップ剤、舌下剤などが挙げられる。また非経口投与のための製剤としては、注射剤、経皮吸収剤、吸入剤、座剤などが挙げられる。製剤化に際しては、界面活性剤、賦形剤、安定化剤、湿潤剤、崩壊剤、溶解補助剤、等張剤、緩衝剤、着色剤、着香料などの医薬用添加剤を適宜使用する。
【0025】医薬としての投与量は、患者の年齢、体重、疾病の種類や程度、投与経路によって異なるがヒトに経口投与する場合には、成人一人当たり一日に0.02〜200 mg/kg、静脈投与の場合には同じく0.01〜100 mg/kgの範囲内で投与する。
【0026】
【実施例】以下に本発明の実施例および試験例を示すが、本発明はこれに限定されるものではなく、ここに示さなかった変法あるいは修飾手段の全てを包括する。
【0027】実施例1. SF2811物質生産菌の培養グルコース1.0%、可溶性でんぷん2.0%、酵母エキス0.3%、ポリぺプトン0.5%、小麦胚芽0.6%、大豆粕0.2%および炭酸カルシウム0.2%を含み、6N水酸化ナトリウムでpH 7.0に調整した前培養培地を100 mL容エレンマイヤーフラスコ5本に20mLずつ分注し、120℃で20分間滅菌した。これに寒天平板培養のSF2811株(FERM P-18684)を一白金耳ずつ植菌し、28℃で5日間振盪培養して種培養液として用いた。
【0028】一方、水飴2.0%、大豆粕1.0%、ファーマメディア0.5%、サングレイン0.25%、サラダ油0.15%、炭酸カルシウム0.1%、硫化鉄0.0005%、塩化ニッケル0.00005%および塩化コバルト0.00005%を含み、6N水酸化ナトリウムでpH 7.0に調整した生産用培地を500 mL容エレンマイヤーフラスコ30本に80 mLずつ分注し、120℃で20分間滅菌した。その後、先に得た種培養液を2%分ずつ無菌的に接種し、28℃で5日間、撹拌は200 rpmで培養を行った。
【0029】2. SF2811物質の精製得られた培養物(22 L)を1N塩酸でpH 2.0に調整後、酢酸エチル(22 L)で抽出し、酢酸エチル層を減圧濃縮して約7.58 gの粗抽出物を得た。得られた粗抽出物をメタノール約100 mLに溶解し、38.0 gのシリカゲル(ワコーゲル C-300、和光純薬社製)を加えた後、減圧下でメタノールを留去し、粗抽出物をシリカゲルに均一に吸着させた。これをグラスフィルター上のシリカゲル75.8 gに重層し、クロロホルム/メタノール溶液(メタノール濃度が0, 1, 3%をそれぞれ2.3 L)で溶出し、活性成分を含む画分を集めて減圧濃縮し、2.59 gの油状物質を得た。
【0030】この油状物質を少量のメタノールに溶解させ、あらかじめメタノールで充填したセファデックスLH-20カラム(ファルマシアファインケミカルズ社製)に供してメタノールで溶出した。次いで活性成分を含む画分を集めて減圧濃縮し、512.7 mgの残渣を得た。
【0031】得られた残渣をクロロホルム/メタノール(20:1)、次いでヘキサン/酢酸エチル(1:1)溶液を展開溶媒とする分取薄層クロマトグラフィー(キーゼルゲル60、0.5 mm、メルク社製)を行い、白色粉末状のSF2811物質を98.8 mg得た。
【0032】得られたSF2811物質を50 mLのクロロホルムに溶解し、等量の0.1N塩酸で洗浄後、等量の1N水酸化ナトリウムで洗浄し、クロロホルムを減圧濃縮することで白色粉末状のSF2811物質ナトリウム塩を100.6 mg得た。その一部を用いてメタノール/水溶液での再結晶化により、SF2811物質ナトリウム塩を無色柱状結晶として得た。
【0033】本発明により得られるSF2811物質ナトリウム塩は各種細菌に対して発育阻害活性を有する。SF2811物質ナトリウム塩の抗菌活性は次の試験例にしたがって測定した。
【0034】試験例 SF2811物質ナトリウム塩の抗菌活性1. 試験菌株試験には、当研究所保存の菌株を使用した。
2. 接種菌液の調製接種菌液は感性測定用ブイヨン(日水製薬)で35℃一夜培養し、約106 cfu/mLの濃度になるように懸濁した。ただし、栄養要求性の強いStreptococcus属、Haemophilus属およびMoraxella catarrhalisの菌株では、5%馬脱繊血(日本生物材料センター)、5 μg/mL hemin(和光純薬工業)および15 μg/mL NAD(和光純薬工業)を含む感性ディスク用培地-N(SDA 日水製薬)で培養した後、約106cfu/mLの濃度になるように懸濁して用いた。
3. 薬剤感受性の測定最小発育阻止濃度(MIC)は、SDAを用いた寒天平板希釈法で測定した。また、Streptococcus属菌株、Haemophilus属菌株およびMoraxella catarrhalisに対するMICの測定には、5%馬脱繊血、5 μg/mL heminおよび15 μg/mL NADを含むSDA平板を使用した。各種の薬剤含有平板に上記の接種菌液をミクロプランター(佐久間製作所)にて接種し、35℃で約20時間培養後にMICを判定した。その結果を表1に示す。
【0035】
【表1】


【0036】本発明のSF2811物質のナトリウム塩は、表1に示したように多剤耐性菌を含むグラム陽性菌に対して、強い抗菌活性を示した。
【0037】
【発明の効果】本発明の新規抗生物質SF2811物質は、試験例に示したように各種細菌に対して抗菌活性を有しており、特に医療上問題となっている多剤耐性菌を含むグラム陽性菌に対して強い抗菌活性を示した。したがってSF2811物質を有効成分とする抗菌剤は、多剤耐性菌を含むグラム陽性菌などを起因菌とする細菌感染症の治療に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 式(1)
【化1】


で表わされるSF2811物質、または薬理学的に許容されるその塩。
【請求項2】 ミクロモノスポラ(Micromonospora)属に属する菌を培養し、その培養物より請求項1記載の式(1)で表わされるSF2811物質、または薬理学的に許容されるその塩を採取することを特徴とするSF2811物質、または薬理学的に許容されるその塩の製造法。
【請求項3】 ミクロモノスポラ(Micromonospora)属に属する菌がミクロモノスポラ属の一菌株(Micromonospora sp. SF2811)(FERM P-18684)であることを特徴とする請求項2記載の製造法。
【請求項4】 請求項1記載の式(1)で表わされるSF2811物質、または薬理学的に許容されるその塩を有効成分とする医薬。
【請求項5】 請求項1記載の式(1)で表わされるSF2811物質、または薬理学的に許容されるその塩を有効成分とする抗菌剤。
【請求項6】 請求項1記載の式(1)で表わされるSF2811物質、または薬理学的に許容されるその塩を生産する特性を有し、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに、受託番号FERM P-18684として寄託されたSF2811株およびその変異株。

【公開番号】特開2003−286288(P2003−286288A)
【公開日】平成15年10月10日(2003.10.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−85659(P2002−85659)
【出願日】平成14年3月26日(2002.3.26)
【出願人】(000006091)明治製菓株式会社 (180)
【Fターム(参考)】