説明

新規植物病害防除剤

【課題】植物における病害抵抗性遺伝子の発現を誘導する効果を有する化合物及びその誘導体を見出し、当該化合物及びその誘導体を利用して、植物病害を防除しうる方法を提供する。
【解決手段】次式で示される化合物を1種以上含んでなる植物病害防除剤。


(ここで、RはC1〜4のアルキル基を示し、XはNH、硫黄原子、またはSOを示し、Rは置換されていてもよいフェニル基または置換されていてもよい5または6員の芳香族ヘテロ環基を示し、nは0〜1を示す)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物病害抵抗性を誘導することにより、植物を病害から保護する、新規植物病害防除剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
これまでに多くに植物病害防除剤が創出され、使用されているが、病害を起因するバクテリア類、カビ類等の植物病原微生物が薬剤に対する抵抗性を獲得することから、依然として新規な病害防除剤の創出が望まれている。
【0003】
一方で、プロベナゾール(特許文献1、非特許文献1)やBenzo(1,2,3)Thiadiazole-7-Carbothioic Acid S-Methyl Ester(BTH)(特許文献2、非特許文献2)等は、植物に対して病害への抵抗性を高めることにより、病害から植物を保護出来ることが知られており、実際にこれまでにこれらの化合物に対する耐性菌の発生は報告されていない。これらの化合物によって誘導される病害抵抗性のメカニズムは解明されていないが、植物が本来有している病害防御機構を活性化していると考えられている。植物の病害防御機構としては、過敏感反応に代表されるような誘導性の防御応答により、感染部位の周辺に抗菌性の化学的環境と物理的障壁を形成して抵抗する機構を有しており、これによって微生物などの病原体の侵入に際して感染の拡大を抑制して生体防御を行っている。一方、病原体は、宿主である植物を認識して、胞子発芽、付着器および侵入菌糸の形成、宿主内への侵入、並びに伸展を行う。例えば、アブラナ科野菜類炭疽病菌(Colletotrichum higginsianum)は、アブラナ科植物を宿主とする糸状菌であり、感染した植物に灰褐色から白色の病斑を形成する。シロイヌナズナのエコタイプ(生態型)であるコロンビアや、ハクサイを代表とするアブラナ科植物の多くは、炭疽病菌に対して感受性である。炭疽病菌をこれら植物に接種すると、接種72時間から96時間後に水浸状の病斑を形成する。これに対して、炭疽病菌を、抵抗性のシロイヌナズナエコタイプWsに接種すると、接種48時間から72時間後に過敏感細胞死様の病斑を形成する。この現象は、植物特有の抵抗反応として知られており、病原菌の侵入に対し、植物が自ら積極的に細胞(組織)を殺すことで、病原菌の感染の拡大を阻止する“植物におけるアポトーシス”として注目されている(非特許文献3)。
【0004】
また、病原体の感染から過敏感細胞死に至るまでの作用機序に関する防御シグナル伝達には、サリチル酸がシグナル物質として関与していることが知られている。病原体の攻撃に対して、植物はシグナル物質を介して感染緊急シグナルを全身的に発信し、感染部位のみならず未感染組織の防御態勢をも誘導する。植物の生物ストレスに対する防御反応の発現誘導には、サリチル酸以外に、ジャスモン酸、エチレン、および活性酸素がシグナル物質として同定されている(非特許文献4〜6)。サリチル酸は、植物に病原菌が感染したときに植物体内で合成される病害防御応答のためのシグナル物質であり、抗菌性のタンパク質をコードしているPR-1遺伝子及びPR-2遺伝子は、サリチル酸のシグナルで発現が制御されている。また、ジャスモン酸は、植物に病原菌が感染したときに植物体内で合成される病害防御応答のためのシグナル物質であり、抗菌性のタンパク質をコードしているPDF1.2遺伝子は、ジャスモン酸のシグナルで発現が制御されている。その他の、植物病害に対する防御応答のための病害抵抗性遺伝子としては、キチナーゼ遺伝子、PR-3遺伝子、VSP2遺伝子などが知られている。このように植物においては、病害抵抗性遺伝子が植物病害の防御に重要な役割を担っていることから、これら遺伝子の発現を誘導しうる薬剤は、植物病害の防除剤として有用であると考えられる。
また次式(I)で示される化合物群については、マラリア治療薬としての報告(非特許文献7)、合成抗菌剤の合成中間体としての報告(特許文献3)があるが、これまで植物病害防除活性に関する報告はない。
【0005】
【化1】

(I)
(ここで、RはC1〜4のアルキル基を示し、XはNH、硫黄原子、またはSOを示し、Rは置換されていてもよいフェニル基または置換されていてもよい5または6員の芳香族ヘテロ環基を示し、nは0〜1を示す)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭49−37147
【特許文献2】EP0313512
【特許文献3】特開平3−232871
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J. Pesticide Science, 1979, 4, 53
【非特許文献2】Plant J. 1996, 10, 61
【非特許文献3】Plant J. 2009, 60, 218
【非特許文献4】Plant Biotechnology 2009, 26, 345
【非特許文献5】Plant Cell 1998, 10, 2103
【非特許文献6】Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 1998, 95, 15107
【非特許文献7】Journal of Medicinal Chemistry,2007, 50(17), 4243
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、植物における病害抵抗性遺伝子の発現を誘導する効果を有する化合物及びその誘導体を見出し、当該化合物及びその誘導体を利用して、植物病害を防除しうる薬剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
今般、本発明者らは、上記課題を解決すべく、防御応答のマーカー遺伝子であるPR-1遺伝子とPDF1.2遺伝子の発現をモニターすることにより、次式(I)で示される化合物が植物の病害抵抗性を誘導し、病害防除剤として利用できることを見出した。
【0010】
従って、本発明は、当該化合物を有効成分とする、植物における病害抵抗性遺伝子の発現誘導剤および植物病害の防除剤に関し、より詳しくは、以下の発明を提供するものである。
【0011】
【化2】

(I)
(ここで、RはC1〜4のアルキル基を示し、XはNH、硫黄原子、またはSOを示し、Rは置換されていてもよいフェニル基または置換されていてもよい5または6員の芳香族ヘテロ環基を示し、nは0〜1を示す)。
【0012】
すなわち第一の発明として、上記式(I)で示される化合物を1種以上含んでなる植物病害防除剤が提供される。
【0013】
また第二の発明として、上記式(I)で示される化合物を利用し、植物の病害抵抗性を誘導する、植物病害防除方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
式(I)で示される本発明の化合物について、
が示すC1〜4アルキル基は分岐していてもよく、例えばメチル基、エチル基、n‐プロピル基、n‐ブチル基、イソプロピル基等が挙げられ、好ましくはメチル基である。
【0015】
が示す5または6員の芳香族ヘテロ環基は、炭素原子の他に、窒素原子、酸素原子、硫黄原子を1〜3個含んでなる芳香環基であり、例えばフリル基、チエニル基、ピロリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、チアゾリル基、イソチアゾリル基、ピリジル基、ピリミジル基等が挙げられ、好ましくはピリジル基であり、より好ましくは2−ピリジル基である。
【0016】
が示すフェニル基または5または6員の芳香族ヘテロ環基は、C1〜4アルキル基、C1〜4ハロゲン化アルキル基、C1〜4アルコキシ基、C1〜4ハロゲン化アルキルオキシ基、ハロゲン原子、シアノ基および、ニトロ基からなる群から選択される基に置換されていてもよい。
【0017】
XがNHのとき、R、n、Rの好ましい組合せとしては、Rはメチル基、nは1、Rはフェニル基が好ましく、より好ましくはRが4−トリフルオロメチルフェニル基である。
【0018】
Xが硫黄原子またはSOのとき、R、n、Rの好ましい組合せとしては、Rはメチル基、nは0、Rは2−ピリジル基が好ましく、より好ましくは、XがSO、nは0、Rが5−トリフルオロメチル−2−ピリジル基である。
【0019】
本発明の具体的な化合物例を表1に示す。
【0020】
【表1】

前記式(I)で示される化合物は、特開平3−232871(特許文献3)またはJournal of Medicinal Chemistry,2007,50(17),4243(非特許文献7)に記載の方法に準じて合成することが出来る。または市販品を入手することが出来る。具体的にはMaybridge社等のカタログに記載されている。
【0021】
本発明において防除の対象とする植物病原微生物は、特に限定されるものではないが、例えば、植物病原真菌、植物病原バクテリア等が挙げられ、好ましくは、植物病原真菌である。
【0022】
植物病原真菌としては、例えば、ナシ黒斑病菌(Alternaria kikutiana)、灰色かび病菌(Botrytis cinerea)、イネごま葉枯病菌(Cochliobolus miyabeanus)、ジャガイモ炭疽病菌(Colletotrichum atramentarium)、キュウリ炭疽病菌(Colletotrichum lagenarium)、キュウリつる割病菌(Fusarium oxysporum f. sp. cucumerinum)、トマト萎ちょう病菌(Fusarium oxysporum f. sp. lycopersici)、イネばか苗病菌(Gibberella fujikuroi)、ブドウ晩腐病菌(Glomerella cingulata)、イネいもち病菌(Pyricularia oryzae)、リゾクトニア苗立枯病菌(Rhizoctonia solani)、トマト小粒菌核病菌(Sclerotinia minor)、ジャガイモ半身萎ちょう病菌(Verticillium albo-atrum)、コムギ赤さび病菌(Puccinia recondita)、オオムギうどんこ病菌(Erysiphe graminis)、ジャガイモ疫病菌(Phytophthora infestans)、キュウリべと病菌(Pseudoperonospora cubensis)、キュウリうどんこ病菌(Sphaerotheca fuliginea)、トマト輪紋病菌(Alternaria solani)、野菜類菌核病菌(Sclerotinia sclerotiorum)、リンゴ黒星病菌(Venturia inaequalis)、モモ灰星病菌(Monilinia fructicola)、イチゴ炭疸病菌(Colletotrichum gloeosporioides)、ダイズ紫斑病菌(Cercospora kikuchii)、テンサイ褐斑病菌(Cercospora beticola)、コムギふ枯病菌(Leptosphaeria nodorum)等が挙げられ、好ましくは、灰色かび病菌、テンサイ褐斑病菌、リゾクトニア苗立枯病菌、ナシ黒斑病菌、キュウリ炭疽病菌、イネいもち病菌、コムギふ枯病菌であり、より好ましくは、炭疽病菌である。
【0023】
本発明による化合物を、農園芸用病害防除剤の有効成分として用いる場合は、本発明による化合物をそのまま用いても良いが、農園芸用病害防除剤の常法に従って、適当な固体担体、液体担体、ガス状担体、界面活性剤、分散剤、その他の製剤用補助剤と混合して、乳剤、液剤、懸濁剤、水和剤、粉剤、粒剤、錠剤、油剤、エアゾール、フロアブル剤等の任意の剤型にすることができる。
【0024】
固体担体としては、例えば、タルク、ベンナイト、クレー、カオリン、ケイソウ土、バーミキュライト、ホワイトカーボン、炭酸カルシウム等が挙げられる。
【0025】
液体担体としては、例えば、メタノール、n−ヘキサノール、エチレングリコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、n−ヘキサン、ケロシン、灯油等の脂肪族炭化水素類、トルエン、キシレン、メチルナフタレン等の芳香族炭化水素類、ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類、酢酸エチル等のエステル類、アセトニトリル、イソブチロニトリル等のニトリル類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等の酸アミド類、ダイズ油、綿実油等の植物油類、ジメチルスルホキシド、水等が挙げられる。
【0026】
ガス担体としては、例えば、LPG、空気、窒素、炭酸ガス、ジメチルエーテル等が挙げられる。
【0027】
界面活性剤または分散剤としては、例えば、アルキル硫酸エステル類、アルキル(アリール)スルホン酸塩類、ポリオキシアルキレンアルキル(アリール)エーテル類、多価アルコールエステル類、リグニンスルホン酸塩等が挙げられる。
【0028】
製剤用補助剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、アラビアガム、ポリエチレングリコール、ステアリン酸カルシウム等が挙げられる。
【0029】
上記の担体、界面活性剤、分散剤、および補助剤は、必要に応じて各々単独で、あるいは組み合わせて用いることができる。
【0030】
製剤中の有効成分の含有量は、特に限定されないが、例えば、乳剤では通常1〜50重量%、水和剤では通常1〜50重量%、粉剤では通常0.1〜30重量%、粒剤では通常0.1〜15重量%、油剤では通常0.1〜10重量%、エアゾールでは通常0.1〜10重量%である。
【0031】
本発明による農園芸用病害防除剤は、そのまま用いてもよいが、必要に応じて希釈して用いることができる。
【0032】
本発明による農園芸用病害防除剤は、他の有害生物防除剤と共に用いることができ、例えば、混合して散布しても、経時的あるいは同時に散布してもよい。混合可能な他の有害生物防除剤としては、例えば、殺菌剤、殺虫剤、殺ダニ剤、除草剤、植物成長調節剤、肥料等が挙げられ、具体的には、例えば、ペスティサイド マニュアル(The Pesticide Manual、第13版 The British Crop Protection Council 発行)およびシブヤインデックス(SHIBUYA INDEX 第13版、2008年、SHIBUYA INDEX RESEARCH GROUP 発行)に記載のものが挙げられる。
【0033】
混合して使用可能な殺虫剤としては、例えば、アセフェート(acephate)、ジクロルボス(dichlorvos)、EPN、フェニトロチオン(fenitrothion)、フェナミホス(fenamifos)、プロチオホス(prothiofos)、プロフェノホス(profenofos)、ピラクロホス(pyraclofos)、クロルピリホスメチル(chlorpyrifos-methyl)、クロルフェンビンホス(chlorfenvinphos)、デメトン(demeton)、エチオン(ethion)、マラチオン(malathion)、クマホス(coumaphos)、イソキサチオン(isoxathion)、フェンチオン(fenthion)、ダイアジノン(diazinon)、チオジカルブ(thiodicarb)、アルジカルブ(aldicarb)、オキサミル(oxamyl)、プロポキスル(propoxur)、カルバリル(carbaryl)、フェノブカルブ(fenobucarb)、エチオフェンカルブ(ethiofencarb)、フェノチオカルブ(fenothiocarb)、ピリミカーブ(pirimicarb)、カルボフラン(carbofuran)、カルボスルファン(carbosulfan)、フラチオカルブ(furathiocarb)、ヒキンカルブ(hyquincarb)、アラニカルブ(alanycarb)、メソミル(methomyl)、ベンフラカルブ(benfuracarb)、カルタップ(cartap)、チオシクラム(thiocyclam)、ベンスルタップ(bensultap)、ジコホル(dicofol)、テトラジホン(tetradifon)、アクリナトリン(acrinathrin)、ビフェントリン(bifenthrin)、シクロプロトリン(cycloprothrin)、シフルトリン(cyfluthrin)、ジメフルトリン(dimefluthrin)、エンペントリン(empenthrin)、フェンフルトリン(fenfluthrin)、フェンプロパトリン(fenpropathrin)、イミプロトリン(imiprothrin)、メトフルトリン(metofluthrin)、ペルメトリン(permethrin)、フェノトリン(phenothrin)、レスメトリン(resmethrin)、テフルトリン(tefluthrin)、テトラメトリン(tetramethrin)、トラロメトリン(tralomethrin)、トランスフルトリン(transfluthrin)、シペルメトリン(cypermethrin)、デルタメトリン(deltamethrin)、シハロトリン(cyhalothrin)、フェンバレレート(fenvalerate)、フルバリネート(fluvalinate)、エトフェンプロックス(ethofenprox)、フルフェンプロックス(flufenprox)、ハルフェンプロックス(halfenprox)、シラフルオフェン(silafluofen)、シロマジン(cyromazine)、ジフルベンズロン(diflubenzuron)、テフルベンズロン(teflubenzuron)、フルシクロクスロン(flucycloxuron)、フルフェノクスロン(flufenoxuron)、ヘキサフルムロン(hexaflumuron)、ルフェヌロン(lufenuron)、ノバルロン(novaluron)、ペンフルロン(penfluron)、トリフルムロン(triflumuron)、クロルフルアズロン(chlorfluazuron)、ジアフェンチウロン(diafenthiuron)、メトプレン(methoprene)、フェノキシカルブ(fenoxycarb)、ピリプロキシフェン(pyriproxyfen)、ハロフェノジド(halofenozide)、テブフェノジド(tebufenozide)、メトキシフェノジド(methoxyfenozide)、クロマフェノジド(chromafenozide)、ジシクラニル(dicyclanil)、ブプロフェジン(buprofezin)、ヘキシチアゾクス(hexythiazox)、アミトラズ(amitraz)、クロルジメホルム(chlordimeform)、ピリダベン(pyridaben)、フェンピロキシメート(fenpyroxymate)、フルフェネリム(flufenerim)、ピリミジフェン(pyrimidifen)、テブフェンピラド(tebufenpyrad)、トルフェンピラド(tolfenpyrad)、フルアクリピリム(fluacrypyrim)、アセキノシル(acequinocyl)、シフルメトフェン(cyflumetofen)、フルベンジアミド(flubendiamide)、エチプロール(ethiprole)、フィプロニル(fipronil)、エトキサゾール(ethoxazole)、イミダクロプリド(imidacloprid)、ニテンピラム(nitenpyram)、クロチアニジン(c1othianidin)、アセタミプリド(acetamiprid)、ジノテフラン(dinotefuran)、チアクロプリド(thiacloprid)、チアメトキサム(thiamethoxam)、ピメトロジン(pymetrozine)、ビフェナゼート(bifenazate)、スピロジクロフェン(spirodiclofen)、スピロメシフェン(spiromesifen)、フロニカミド(flonicamid)、クロルフェナピル(chlorfenapyr)、ピリプロキシフェン(pyriproxyfene )、インドキサカルブ(indoxacarb)、ピリダリル(pyridalyl)、スピノサド(spinosad)、アベルメクチン(avermectin)、ミルベマイシン(milbemycin)、アザジラクチン(azadirachtin)、ニコチン(nicotine)、ロテノン(rotenone)、BT剤、昆虫病原ウイルス剤、エマメクチン安息香酸塩(emamectinbenzoate)、スピネトラム(spinetoram)、ピリフルキナゾン(pyrifluquinazon)、クロルアントラニリプロール(chlorantraniliprole)、シアントラニリプロール(cyantraniliprole)、シエノピラフェン(cyenopyrafen)、スピロテトラマット(spirotetramat)、レピメクチン(lepimectin)、メタフルミゾン(metaflumizone)、ピラフルプロール(pyrafluprole)、ピリプロール(pyriprole)、ジメフルスリン(dimefluthrin)、フェナザフロル(fenazaflor)、ヒドラメチルノン(hydramethylnon)、トリアザメート(triazamate)等が挙げられる。
【0034】
混合して使用可能な殺菌剤としては、例えば、アゾキシストロビン(azoxystrobin)、クレソキシムメチル(kresoxym-methyl)、トリフロキシストロビン(trifloxystrobin)、オリサストロビン(orysastrobin)、ピコキシストロビン(picoxystrobin)、フロキサストロビン(fuoxastrobin)などのストロビルリン系化合物、メパニピリム(mepanipyrim)、ピリメサニル(pyrimethanil)、シプロジニル(cyprodinil)のようなアニリノピリミジン系化合物、トリアジメホン(triadimefon)、ビテルタノール(bitertanol)、トリフルミゾール(triflumizole)、エタコナゾール(etaconazole)、プロピコナゾール(propiconazole)、ペンコナゾール(penconazole)、フルシラゾール(flusilazole)、ミクロブタニル(myclobutanil)、シプロコナゾール(cyproconazole)、テブコナゾール(tebuconazole)、ヘキサコナゾール(hexaconazole)、プロクロラズ(prochloraz)、シメコナゾール(simeconazole)のようなアゾール系化合物、キノメチオネート(quinomethionate)のようなキノキサリン系化合物、マンネブ(maneb)、ジネブ(zineb)、マンコゼブ(mancozeb)、ポリカーバメート(polycarbamate)、プロビネブ(propineb)のようなジチオカーバメート系化合物、ジエトフェンカルブ(diethofencarb)のようなフェニルカーバメート系化合物、クロロタロニル(chlorothalonil)、キントゼン(quintozene)のような有機塩素系化合物、ベノミル(benomyl)、チオファネートメチル(thiophanate-methyl)、カーベンダジム(carbendazole)のようなベンズイミダゾール系化合物メタラキシル(metalaxyl)、オキサジキシル(oxadixyl)、オフラセ(ofurase)、ベナラキシル(benalaxyl)、フララキシル(furalaxyl)、シプロフラン(cyprofuram)のようなフェニルアミド系化合物、ジクロフルアニド(dichlofluanid)のようなスルフェン酸系化合物、水酸化第二銅(copper hydroxide)、オキシキノリン銅(oxine-copper)のような銅系化合物、ヒドロキシイソキサゾール(hydroxyisoxazole)のようなイソキサゾール系化合物、ホセチルアルミニウム(fosetyl-aluminium)、トルクロホス−メチル(tolclofos-methyl)のような有機リン系化合物、キャプタン(captan)、カプタホール(captafol)、フォルペット(folpet)のようなN−ハロゲノチオアルキル系化合物、プロシミドン(procymidone)、イプロジオン(iprodione)、ビンクロゾリン(vinchlozolin)のようなジカルボキシイミド系化合物、フルトラニル(flutolanil)、メプロニル(mepronil)のようなベンズアニリド系化合物、フェンプロピモルフ(fenpropimorph)、ジメトモルフ(dimethomorph)のようなモルフォリン系化合物、水酸化トリフェニルスズ(fenthin hydroxide)、酢酸トリフェニルスズ(fenthin acetate)のような有機スズ系化合物、フルジオキソニル(fludioxonil)、フェンピクロニル(fenpiclonil)のようなシアノピロール系化合物、その他フサライド(fthalide)、プロベナゾール(probenazole)、アシベンゾラルSメチル(acibenzolar-S-methyl)、チアジニル(tiadinil)、イソチアニル(isotianil)、カルプロパミド(carpropamid)、ジクロシメット(diclocymet)、フェノキサニル(fenoxanil)、トリシクラゾール(tricyclazole)、ピロキロン(pyroquilon)、フェリムゾン(ferimzone)、フルアジナム(fluazinam)、シモキサニル(cymoxanil)、トリホリン(triforine)、 ピリフェノックス(pyrifenox)、フェナリモル(fenarimol)、フェンプロピディン(fenpropidin)、ペンシクロン(pencycuron)、シアゾファミド(cyazofamid)、シフルフェナミド(cyflufenamid)、ボスカリド(boscalid)、ペンチオピラド(penthiopyrad)、プロキナジド(proquinazid)、キノキシフェン(quinoxyfen)、ファモキサドン(famoxadone)、フェナミドン(fenamidone)、イプロバリカルブ(iprovalicarb)、ベンチアバリカルブイソプロピル(benthiavalicarb-isopropyl)、フルオピコリド(fluopicolide)、ピリベンカルブ(pyribencarb)、フルチアニル(flutianil)、イソピラザム(isopyrazam)、カスガマイシン(kasugamycin)、またはバリダマイシン(validamycin)等が挙げられる。
【0035】
混合して使用可能な殺ダニ剤としては、例えば、ブロモプロピレート(bromopropylate)、テトラジホン(tetradifon)、プロパルギット(propargite)、アミトラズ(amitraz)、フェノチオカルブ(fenothiocarb)、ヘキシチアゾクス(hexythiazox)、フェンブタチンオキシド(fenbutatin oxide)、ジエノクロル(dienochlor)、フェンピロキシメート(fenpyroximate)、テブフェンピラド(tebufenpyrad)、ピリダベン(pyridaben)、ピリミジフェン(pyrimidifen)、クロフェンテジン(clofentezine)、エトキサゾール(etoxazole)、ハルフェンプロックス(halfenprox)、ミルベメクチン(milbemectin)、アセキノシル(acequinocyl)、ビフェナゼート(bifenazate)、フルアクリピリム(fluacrypyrim)、スピロジクロフェン(spirodichlofen)、スピロメシフェン(spiromesifen)、クロルフェナピル(chlorfenapyr)、アベルメクチン(Avermectin)、シエノピラフェン(cyenopyrafen)、シフルメトフェン(cyflumetofen)等が挙げられる。
【0036】
混合して使用可能な除草剤としては、例えば、シハロホップブチル(cyhalofop-butyl)、2,4-Dのようなフェノキシ酸系化合物、エスプロカルブ(esprocarb)、デスメディファム(desmedipham)のようなカーバメート系化合物、アラクロール(alachlor)、メトラクロール(metolachlor)のような酸アミド系化合物、ジウロン(diuron)、テブチウロン(tebuthiuron)のような尿素系化合物、ハロスルフロンメチル(halosulfuron)、フラザスルフロン(flazasulfuron)のようなスルホニルウレア系化合物、ピリミノバックメチル(pyriminobac-methyl)のようなピリミジルオキシ安息香酸系化合物、グリホサート(glyphosate)、ビアラホス(bilanafos)、グルホシネート(glufosinate-ammonium)、のようなアミノ酸系化合物等が挙げられる。
【0037】
混合して使用可能な植物成長調節剤としては、例えば、エテホン(ethephon)のようなエチレン剤、インドール酪酸(indolebutyric acid)、エチクロゼート(ethychlozate)のようなオーキシン剤、サイトカイニン剤、ジベレリン剤、オーキシン拮抗剤、矮化剤、蒸散抑制剤等が挙げられる。
【0038】
混合して使用可能な肥料としては、例えば、尿素、硝酸アンモニウム、硝酸苦土アンモニウム、塩化アンモニウムのような窒素質肥料、過リン酸石灰、リン酸アンモニウム、苦土過リン酸、苦土リン酸のようなリン酸質肥料、塩化カリウム、重炭酸カリウム、硝酸カリ苦土、硝酸カリウム、硝酸カリナトリウムのようなカリウム質肥料、硫酸マンガン、硝酸苦土マンガンのようなマンガン質肥料、ホウ酸、ホウ酸塩のようなホウ素質肥料等が挙げられる。
【0039】
本発明による農園芸用病害防除剤の施用方法は、農業、園芸において一般的に適用される施用方法であれば特に限定されないが、例えば、茎葉散布、水面施用、土壌処理、育苗箱施用、種子消毒等が挙げられる。
【0040】
本発明による農園芸用病害防除剤の施用量は、対象病害の種類および発病程度、対象作物の種類および対象部位、農業、園芸において一般的に適用される施用方法の他、航空散布、超微量散布等の施用態様に応じて決定することができる。本発明による農園芸用病害防除剤を植物の茎葉に散布する場合には、乳剤、水和剤、フロアブル剤では、10アール当たり、製剤1〜1000gを50〜1000lの水で希釈したものを使用することができ、粉剤では、10アール当たり1〜10kg程度使用することができる。例えば、化合物1を20重量%含む製剤100gを200lの水で希釈し、その全量を10アールあたりの畑に散布することができる。本発明による農園芸用病害防除剤を土壌に施用する場合には、粒剤では、10アール当たり1〜10kg程度使用することができる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例および比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0042】
[試験例1] 薬剤処理による病害抵抗性遺伝子(防御応答遺伝子)の発現誘導
非特許文献4及びPlant Biotechnology 23, 321-327,(2006)に記載の方法により、病原菌に対する植物の主たる防御シグナル伝達経路であるサリチル酸、エチレン及びジャスモン酸に位置するマーカー遺伝子(PR-1、PDF1.2)のプロモーター領域(開始コドンから上流1-1.5kbp)を、レポーター遺伝子であるβ-グルクロニダーゼ(GUS)遺伝子と融合して、モデル実験植物シロイヌナズナ(生態型コロンビア,Col-0)に導入した形質転換体(以上のコンストラクトがシロイヌナズナのゲノムにホモで導入された形質転換体)を用い、GUS染色(陽性化合物処理では青色に染色される)を指標として、防御応答を活性化する化合物を評価した。具体的な方法は以下の通りである。
【0043】
本発明化合物を100% DMSO溶液に溶解し、10,000 ppm溶液とした。本溶液は使用直前まで-20℃で保存した。本高濃度溶液を3%DMSO溶液にて1、10、100 ppmに調製し、48ウェルプレートに分注した。播種24〜28日後の上記シロイヌナズナ形質転換体からロゼット葉を切り取り、薬液の入ったウェルへ浸漬した。フタをしたプレートを植物培養装置内(22℃、弱光)に静置した。処理24時間後、薬液を取り除いてGUS溶液を添加した。さらに、37℃で24時間静置した後、タンパク質を固定、葉緑素を脱色して薬剤の効果を検定した。薬剤効果は、6段階(0: GUS染色無し、1: 部分的に薄く染まっている、2: ごく薄く全体的に染まっている、3: 部分的に濃く染まっているか、薄く全体的に染まっている、4: 濃く全体的に染まっている、5: かなり濃く全体的に染まっており、溶液も青く染まっている)で評価した。
【0044】
その結果、前記表1に記載の化合物は、PR-1遺伝子を導入した形質転換体で強く青色に染色され、陽性を示した。
【0045】
[試験例2] 薬剤処理による病害抵抗性遺伝子(防御応答遺伝子)の発現誘導
植物材料として、土(ダイオ化成社製)に播種し、24時間の明暗サイクルを明時間12時間及び暗時間12時間として4週間栽培したシロイヌナズナ(生態型:コロンビア)を用いた。0.01%の展着剤マイリノーを添加した本発明化合物の10ppm溶液を、上記シロイヌナズナ形質転換体に対し、1鉢当り3〜5mlの噴霧で処理した。
処理後、22℃で明時間12時間及び暗時間12時間のサイクル条件下で静置し、2、5、10、24及び48時間後にサンプリングした。サンプリングした植物体は液体窒素で凍結し、「RNA tissue Kit II」(富士フイルム社製)を用いて全RNAを抽出した。続いて、「PrimeScript RT reagent Kit」(タカラ社製)を用いて全RNAから一本鎖cDNAを合成した。さらに、「SYBR Green I PCR Master Mix」(タカラ社製)を用いて定量的RT-PCRを行った。また、定量的RT-PCRは、1×「SYBR Green I PCR Master Mix」、200nMのフォワードプライマーとリバースプライマーの反応液を、95℃10秒間の変性ステップの後、95℃5秒、65℃20秒のステップを1サイクルとし、40サイクル行った。
【0046】
各サンプル間の標準化は、植物で恒常的に発現しているCBP20遺伝子を用い、各サンプルにおける目的遺伝子の発現量をCBP20遺伝子の発現量で除することにより行った。
【0047】
シロイヌナズナにおける各遺伝子の定量的RT-PCRに用いたプライマーの配列は以下の通りである。
【0048】
CBP20(At5g44200;フォワードプライマー5’-TGTTTCGTCCTGTTCTACTC-3’
リバースプライマー5’-ACACGAATAGGCCGGTCATC-3’)
PR-1(At2g14610;フォワードプライマー5’-CCCACAAGATTATCTAAGGGTTCAC-3’
リバースプライマー5’-CCCTCTCGTCCCACTGCAT-3’)
(Jirage et al. (2001) Plant J 26: 395-407)
PDF1.2(At5g44420;フォワードプライマー5’-CCATCATCACCCTTATCTTCGC-3’
リバースプライマー5’-TGTCCCACTTGGCTTCTCG-3’)
その結果、前記表1に記載の当該化合物は、以下の表に記すように防御応答遺伝子PR-1及びPR1.2を強く発現誘導した。表中の数値は、薬剤無処理区を対照区とし、その発現量を1とした場合の発現比で示した。
【0049】
【表2】

【表3】

【0050】
[試験例3] 炭疽病に対する効果
植物材料として、土(ダイオ化成社製)に播種し、24時間の明暗サイクルを明時間12時間及び暗時間12時間として4週間栽培したシロイヌナズナ(生態型:コロンビア)を用いた。各種薬剤を上述したように培養したシロイヌナズナに、予め調製した0.01%の展着剤マイリノーを添加した10ppmの化合物を、1鉢当り3〜5mlの噴霧で処理した。処理後、22℃で明時間12時間及び暗時間12時間のサイクル条件下で静置した。散布1日後、人工培養したアブラナ科野菜類炭疽病菌(Colletotrichum higginsianum)胞子の懸濁液(5×105胞子/ml)を噴霧接種し、22℃、相対湿度100%の湿度に保ち感染させた。接種6日後、鉢当りの罹病度を下記基準により類別評価し、以下に示す式に従って防除価を算出した。結果は1区3個体の平均である。
【0051】
罹病度
0:病斑を認めない.1:病斑がわずかに認められる.2:病斑が葉面積の1/4未満を占める.3:病斑が葉面積の1/4〜1/2未満を占める.4:病斑が葉面積の1/2以上を占める.5:枯死.

防除価(%)=(1-(処理区の罹病度÷無処理区の罹病度))×100

その結果、表1に示した化合物2と化合物10がそれぞれ防除価30、55であった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
次式(I)で示される化合物を1種以上含んでなる植物病害防除剤
【化1】

(I)
(ここで、RはC1〜4のアルキル基を示し、XはNH、硫黄原子、またはSOを示し、Rは置換されていてもよいフェニル基または置換されていてもよい5または6員の芳香族ヘテロ環基を示し、nは0〜1を示す)。
【請求項2】
請求項1に記載の式(I)で示される化合物を利用した植物病害防除方法。


【公開番号】特開2012−153609(P2012−153609A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−11399(P2011−11399)
【出願日】平成23年1月21日(2011.1.21)
【出願人】(000006091)Meiji Seikaファルマ株式会社 (180)
【Fターム(参考)】