説明

新規A−97065類物質

【課題】
従来のタイプの薬剤とは交差耐性がなく、かつ、優れた抗菌活性を有する化合物を提供すること。
【解決手段】
下記一般式(I)で表される化合物等。
【化1】


(I)
[式中、Xは水酸基又はリン酸基を表し、Xが水酸基である場合、Rは−(CHCH(CH]又は −(CH10CH(CHを表し、Xがリン酸基である場合Rは−(CH10CH(CHを表す]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れたトランスロケースI阻害活性を有する新規化合物、該化合物を有効成分として含有する医薬(特に、抗菌剤)、該化合物の製造方法、及び該化合物を生産する新規微生物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、細菌感染症の予防及び治療には各種ベータラクタム抗生物質、アミノ配糖体、マクロライド、グリコペプチド、キノロンなどが使われてきたが、最近これらの抗生物質に耐性を示す感染菌が増加しており、従来のタイプとは異なる抗生物質が渇望されている。
【0003】
細菌細胞壁構成成分である、ペプチドグリカン生合成に関与するトランスロケースIは、細菌の生育には必須の酵素である。近年、トランスロケースI阻害活性に基づき、マイコバクテリウム属の細菌に対して抗菌活性を示す化合物として、リポシドマイシン(liposidomycin)類、カプラザマシン(caprazamycin)類、ムラミノミシン(muraminomycin)類等が報告されている(例えば、特許文献1、特許文献2、非特許文献1及び非特許文献2参照)。これらはいずれも類似した母核構造を有する化合物であるが、本発明の化合物であるA‐97065類物質と同一の母核構造を有する化合物は未だ報告されていない。
【特許文献1】国際公開第 WO 01/12643号パンフレット
【特許文献2】国際公開第 WO 2004/046368号パンフレット
【非特許文献1】ジャーナルオブアンチビオチクス,1985年,第38巻,p.1617−1621(J.Antibiotics,1985,38,p.1617−1621)
【非特許文献2】アグリカルチュラルアンドバイオロジカルケミストリー,1989年,第53巻,p.1811−1815(Agric.Biol.Chem,1989,53,p.1811−1815)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、抗菌活性を有する新規化合物を見出すべく鋭意探索研究を行った結果、ストレプトマイセス属に属する微生物の培養物中に新規化合物を見出し、これらの化合物がトランスロケースI阻害活性に基づく抗菌活性を有し、従来のタイプの薬剤とは交差耐性がなく、かつ、従来知られていた化合物と比べて優れた酵素阻害活性を有することを見出すと共に、該化合物を生産する新規微生物及び該微生物を用いた該化合物の製造方法を確立し、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、下記(1)乃至(3)のいずれかで示される新規化合物に関する。
(1)下記、一般式(I):
【0006】
【化1】

【0007】
(I)
[式中、Xは水酸基又はリン酸基を表し、Xが水酸基である場合、Rは−(CHCH(CH]又は −(CH10CH(CHを表し、Xがリン酸基である場合Rは−(CH10CH(CHを表す]
で表される化合物又はその塩。
(2)下記の物理化学的性状を有する化合物又はその塩。
1)物質の性状:無色粉末状物質
2)溶解性:メタノール、ジメチルスルホキシドに可溶、クロロホルムに不溶
3)分子式:C436918
4)分子量:943(FABマススペクトル法により測定)
5)高分解能FABマススペクトル法により測定した精密質量、[M+H]は次に示す通りである。
実測値:944.4671
計算値:944.4716
6)紫外部吸収スペクトル:
ジメチルスルホキシド中で測定した紫外部吸収スペクトルは、次に示す極大吸収を示す:
263nm(ε8300)
7)旋光度:
ジメチルスルホキシド中で測定した旋光度は、以下に示す値を示す:
[α]29:+1.5°(c0.4)
8)赤外吸収スペクトル:
臭化カリウム(KBr)錠剤法で測定した赤外吸収スペクトルは以下に示す極大吸収を示す。
3388,2954,2926,2855,1736,1699,1632,1466,1393,1269,1122,1068,1015cm−1
9)H−核磁気共鳴スペクトル:
重メタノール中、内部標準に重メタノール(4.78ppm)を用いて測定した、H−核磁気共鳴スペクトルは、以下に示すとおりである。
0.74(6H,d,J=6.7Hz),0.87(3H,d,J=6.4Hz),1.0−1.2(14H,m),1.37(1H,m),1.49(2H,m),2.0−2.3(5H,m),2.33(3H,s),2.5(2H,m),2.95(1H,m),2.97(3H,s),3.02(1H,dd,J=2.0,3.7Hz),3.12(1H,dd,J=3.7,13.4),3.29(1H,m),3.30(3H,s),3.65(1H,d,4.7Hz),3.78(1H,d,J=8.7Hz),3.93(1H,dd,5.4,7.4Hz),3.97(1H,m),4.05(1H,dd,J=3.3,7.4Hz),4.07(2H,m),4.18(1H,d,J=4.7Hz),4.27(1H,dd,J=3.3,8.7Hz),5.11(1H,m),5.13(1H,s),5.37(1H,m),5.50(1H,d,J=2.7Hz),5.59(1H,d,J=8.0Hz),7.68(1H,d,J=8.0Hz)ppm
10)13C−核磁気共鳴スペクトル:
重メタノール中、内部標準に重メタノール(49.0ppm)を用いて測定した、13C−核磁気共鳴スペクトルは、以下に示すとおりである。
20.1(q),23.1(q),23.1(q),26.3(t),28.6(t),28.7(d),29.2(d),30.4(t),30.6(t),30.7(t),31.0(t),35.1(t),37.8(q),39.0(q),40.2(t),40.4(t),41.6(t),41.6(t),41.8(t)58.2(t),58.7(q),64.1(d),67.7(d),70.7(d),71.6(d),71.9(d),73.7(d),74.9(d),79.2(d),80.5(d),84.9(d),85.7(d),92.8(d),102.3(d),109.1(d),143.4(d),152.0(s),166.3(s),171.0(s),172.8(s),173.0(s),173.8(s),176.4(s)ppm。
(3)下記の物理化学的性状を有する化合物又はその塩。
1)物質の性状:無色粉末状物質
2)溶解性:メタノール、ジメチルスルホキシドに可溶、クロロホルムに不溶
3)分子式:C457421
4)分子量:1051(FABマススペクトル法により測定)
5)高分解能FABマススペクトル法により測定した精密質量、[M−H]は次に示す通りである。
実測値:1050.4550
計算値:1050.4536
6)紫外部吸収スペクトル:
メタノール中で測定した紫外部吸収スペクトルは、次に示す極大吸収を示す:
262nm(ε7900)
7)旋光度:
メタノール中で測定した旋光度は、以下に示す値を示す:
[α]29:+7.0°(c0.8)
8)赤外吸収スペクトル:
臭化カリウム(KBr)錠剤法で測定した赤外吸収スペクトルは以下に示す極大吸収を示す。
3397,2926,2854,1735,1700,1466,1385,1268,1129,1074,938cm−1
9)H−核磁気共鳴スペクトル:
重メタノール中、内部標準に重メタノール(4.78ppm)を用いて測定した、H−核磁気共鳴スペクトルは、以下に示すとおりである。
0.79(6H,d,J=6.6Hz),0.92(3H,d,J=6.6Hz),1.09(2H,m),1.2−1.3(16H,m),1.43(1H,m),1.55(2H,m),2.1(2H,m),2.2−2.3(3H,m),2.38(3H,s),2.55(2H,m),3.02(3H,s),3.0(1H,br.m),3.2(2H,m),3.36(3H,s),3.40(1H,m),3.82(1H,d,J=4.4Hz),3.86(1H,d,J=8.4Hz),3.97(1H,dd,J=5.9,6.6Hz),4.11(2H,m),4.17(2H,m),4.30(1H,dd,J=4.0,8.4Hz),4.52(1H,m),5.14(1H,m),5.15(1H,m),5.44(1H,m),5.62(1H,d,J=3.3Hz),5.76(1H,d,J=8.1Hz),7.72(1H,d,J=8.1Hz)ppm
10)13C−核磁気共鳴スペクトル:
重メタノール中、内部標準に重メタノール(49.0ppm)を用いて測定した、13C−核磁気共鳴スペクトルは、以下に示すとおりである。
20.2(q),23.1(q),26.3(t),28.5(t),28.9(d),29.2(d),30.4(t),30.6(t),30.7(t),30.7(t),30.8(t),31.0(t),35.1(t),38.0(q),39.0(q),40.3(t),40.4(t),41.4(t),41.7(t),42.3(t),58.4(t),59.1(q),64.0(d),68.2(d),70.8(d),71.9(d),74.1(d),74.4(d),75.1(d),78.9(d),79.2(d),84.9(d),85.3(d),92.0(d),102.7(d),109.1(d),143.0(d),152.1(s),166.3(s),171.0(s),173.0(s),173.8(s),177.1(s)ppm。
【0008】
また、本発明は、下記の(4)及び(5)に記載の製造方法に関する。
(4)ストレプトマイセス属に属する、(1)乃至(3)のいずれか1項に記載の化合物の生産菌を培養し、その培養物より該化合物を採取することを特徴とする、(1)乃至(3)のいずれか1項に記載の化合物の製造方法。
(5)該生産菌がストレプトマイセス・エスピー(Streptomyces sp.)SANK60704(FERM BP−10629)である、(4)に記載の製造方法。
【0009】
また、本発明は(6)及び(7)に記載の微生物に関する。
(6)ストレプトマイセス属に属し、(1)乃至(3)のいずれか1項に記載の化合物を生産することを特徴とする微生物。
(7)ストレプトマイセス・エスピー(Streptomyces sp.)SANK60704(FERM BP−10629)。
【0010】
また本発明は、下記(8)及び(9)に記載の脱リン酸化化合物の製造方法に関する。
(8)一般式(I)においてXがリン酸基である(1)に記載の化合物又はその塩を脱リン酸化反応に供することを特徴とする、一般式(I)においてXがリン酸基である(1)に記載の化合物又はその塩を出発物質として一般式(I)においてXが水酸基であり、Rが出発物質と同一である(1)に記載の化合物又はその塩を製造する方法。
(9)脱リン酸化酵素を用いることを特徴とする(8)に記載の製造方法
更に本発明は、下記(10)及び(11)に記載の医薬に関する。
(10)請求項1乃至3のいずれか1項に記載の化合物又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する医薬。
(11)抗菌剤である、請求項10に記載の医薬。
【0011】
本発明において、一般式(I)
【0012】
【化2】

【0013】
(I)
[式中、Xは水酸基又はリン酸基を表し、Rは炭化水素鎖を表す]により表わされる構造からなる化合物を「A−97065類物質」とよぶ。
本発明のA−97065類物質において、上記一般式(I)中Xが水酸基である化合物をA−97065A物質と呼ぶ。また、A−97065A物質において、Rが−(CHCH(CHである化合物又は上記(i)に記載の物理化学的性状を有する化合物をA1物質と呼び、Rが−(CH10CH(CHである化合物をA2物質と呼ぶ。
本発明のA−97065類物質において、上記一般式(I)中Xがリン酸基である化合物をA−97065B物質と呼ぶ。また、A−97065B物質において、Rが−(CH10CH(CHである化合物又は上記(ii)に記載の物理化学的性状を有する化合物をB2物質と呼ぶ。
【0014】
本発明の化合物は、いくつかの不斉炭素原子を有するため、種々の光学異性体が存在する。一般式(I)において、これらの異性体はすべて単一の式で示されているが、本発明はラセミ化合物を含むこれらの異性体、及びこれらの異性体の混合物をもすべて含む。これらの異性体は、立体特異的合成法により、若しくは光学活性化合物を原料化合物とした合成により、製造することができ、又は、異性体の混合物として製造した後、所望の異性体をクロマトグラフィー等を用いて常法により単離することにより製造することもできる。
【0015】
本発明の化合物は、カルボキシル基、アミノ基等を有するため、酸又は塩基を用いて当業者に周知の方法により塩にすることができる。本発明はこれらの塩も包含する。本発明の化合物の塩を医薬として使用する場合、医学的に使用され、薬理学的に許容されるものであれば特に限定されない。また、本発明の化合物の塩を医薬以外の用途に用いる場合、例えば中間体として用いる場合には、該用途に用いることのできるものであれば特に限定されない。
そのような塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、のようなアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩、のようなアルカリ土類金属塩;アルミニウム塩、鉄塩、亜鉛塩、銅塩、ニッケル塩、コバルト塩等の金属塩;アンモニウム塩のような無機塩;t−オクチルアミン塩、ジベンジルアミン塩、モルホリン塩、グルコサミン塩、フェニルグリシンアルキルエステル塩、エチレンジアミン塩、N−メチルグルカミン塩、グアニジン塩、ジエチルアミン塩、トリエチルアミン塩、ジシクロヘキシルアミン塩、N,N’−ジベンジルエチレンジアミン塩、クロロプロカイン塩、プロカイン塩、ジエタノールアミン塩、N−ベンジル−フェネチルアミン塩、ピペラジン塩、テトラメチルアンモニア塩、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン塩のような有機アミン塩;グリシン塩、リジン塩、アルギニン塩、オルニチン塩、アスパラギン塩のようなアミノ酸塩;酢酸塩、臭化物塩、塩化物塩、塩酸塩、臭酸塩、ヨウ化物塩、硫酸塩、リン酸塩、ニリン酸塩のような無機塩;及びクエン酸塩、マレイン酸塩、パモ酸塩、酒石酸塩のような有機酸塩等を挙げることができる。好適には、薬理学的に許容される塩であり、より好適には、ナトリウム塩、カリウム塩、塩酸塩、アンモニウム塩、パモ酸塩である。
【0016】
また、本発明の化合物及びその塩は、大気中に放置したり、水又は有機溶媒と混和することによって水又は溶媒と結合し、水和物又は溶媒和物を形成する場合があるが、これらの水和物及び溶媒和物も「薬理上許容される塩」として本発明に含まれる。
本発明のA−97065類物質のうちA1物質、B2物質等多くのものはは、ストレプトマイセス属に属する菌株を培養することにより、その培養液中から得ることができる。本発明の化合物の製造法において用いられるストレプトマイセス(Streptomyces)属に属する菌株としては、例えばストレプトマイセス・エスピー(Streptomyces sp.)SANK 60704株を挙げることができる。SANK 60704株は沖縄県で採集された土壌から分離できる。SANK 60704株の菌学的特徴は、次のとおりである。
【0017】
1.形態学的特徴
SANK 60704株は、ISP〔インターナショナル・ストレプトマイセス・プロジェクト(International Streptomyces Project)〕規定の寒天培地上28℃、14日間培養後、顕微鏡下観察では、基生菌糸は良好に伸長、分岐し、白乃至茶味灰を示すが、ノカルディア(Nocardia)属菌株様の菌糸断裂やジグザグ伸長は観察されない。気菌糸は単純分岐である。気菌糸の先端に10乃至50個又はそれ以上の胞子連鎖を形成し、胞子連鎖の形態は螺旋状を示す。走査型電子顕微鏡による観察では、胞子の表面構造は平滑(smooth)状を示す。胞子は楕円形で、その大きさは0.4乃至0.7 μm、×0.8乃至1.2 μmである。また、気菌糸の車軸分岐、菌核や胞子のうなどの特殊器官は観察されない。
【0018】
2.各種培養基上の諸性質
各種培養基上で28℃、14日培養後の性状は表1に示したとおりである。色調の表示はマンセル方式による日本色彩研究所版「標準色票」のカラーチップ・ナンバーをあらわす。
[表1]
培地の種類 項目*1 SANK 60704株の性状
イーストエキス G : 非常に良好、隆起状、黄味茶(10YR 7/6)
麦芽エキス寒天 AM : 豊富に形成、ビロード状、明茶味灰(10YR 7/1)
(ISP 2) R : 黄味茶(10YR 7/6)
SP : 黄味茶(10YR 5/6)
オートミール寒天 G : 良好、隆起状、薄黄味茶(2.5Y 8/4)
(ISP 3) AM : 余り良くない、ビロード状、白
R : 薄黄味茶(2.5Y 8/4)
SP : 産生せず
澱粉・無機塩寒天 G : 非常に良好、隆起状、黄味茶(2.5Y 7/4)
(ISP 4) AM : 非常に良好、ビロード状、茶味灰(2.5Y 5/1)
R : 黄味茶(2.5Y 7/4)
SP : 産生せず
グリセリン・ G : 非常に良好、隆起状、薄黄味茶(2.5Y 8/4)
アスパラギン寒天 AM : 非常に良好、茶味灰(2.5Y 6/2)
(ISP 5) R : 薄黄味茶(2.5Y 8/4)
SP : 産生せず
ペプトン・ G : 余り良くない、隆起状、薄黄味茶(2.5Y 8/6)
イースト・鉄寒天 AM : 余り良くない、白
(ISP 6) R : 薄黄味茶(2.5Y 8/6)
SP : 産生せず
チロシン寒天 G : 非常に良好、隆起状、黄味茶(10YR 5/6)
(ISP 7) AM : 非常に良好、ビロード状、黄味茶(10YR 5/4)
R : 黄味茶(10YR 5/6)
SP : 灰味赤茶(2.5YR 5/6)
シュークロース・ G : 余り良くない、隆起状、薄黄橙(2.5Y 9/2)
硝酸塩寒天 AM : 余り良くない、ビロード状、茶味灰(2.5Y 4/2)
R : 薄黄味橙(2.5Y 9/2)
SP : 産生せず
グルコース・ G : 余り良くない、隆起状、薄黄橙(2.5Y 9/2)
アスパラギン寒天 AM : 余り良くない、白
R : 薄黄味橙(2.5Y 9/2)
SP : 産生せず
栄養寒天 G : 余り良くない、平坦、黄味茶(2.5Y 8/2)
(Difco) AM : 形成せず
R : 黄味茶(2.5Y 8/2)
SP : 産生せず
ポテトエキス・ G : 余り良くない、平坦、薄黄味橙(2.5Y 9/2)
人参エキス寒天 AM : 余り良くない、ビロード状、明茶味灰(2.5Y 7/1)
R : 薄黄味橙(2.5Y 9/2)
SP : 産生せず
水寒天 G : 良くない、平坦、白
AM : 良くない、ビロード状、白
R : 白
SP : 産生せず
*1 G:生育、AM:気菌糸、R:裏面、SP:可溶性色素
*2 性状の欄の( )内はマンセル方式による色調表示。
【0019】
3.生理学的性質
28℃で培養後、2乃至21日間に観察したSANK 60704株の生理学的性質は表2に示したとおりである。
[表2]
澱粉の水解 陽性
ゼラチンの液化 陽性
硝酸塩の還元 陰性
ミルクのペプトン化 陽性
ミルクの凝固 陽性
メラニン様色素の生産性(培地1) 陰性
(培地2) 陰性
(培地3) 陰性
基質分解性 カゼイン 陰性
チロシン 陽性
キサンチン 陰性
生育温度範囲(培地4) 10〜37℃
生育適正温度(培地4) 24〜34℃
食塩耐性 7%
*)培地1;トリプトン・イーストエキス・ブロス(ISP 1)
培地2;ペプトン・イーストエキス・鉄寒天(ISP 6)
培地3;チロシン寒天(ISP 7)
培地4;イーストエキス・麦芽エキス寒天(ISP 2)
また、プリドハム・ゴトリーブ寒天培地(ISP 9)を使用して、28℃、14日間培養後に観察したSANK 60704株の炭素源の資化性は表3に示すとおりである。
[表3]
D−グルコース + :D−フルクトース +
L−アラビノース − :L−ラムノース −
D−キシロース + :シュクロース +
イノシトール + :ラフィノース +
D−マンニトール ± :対照 −
+:利用する、±:弱く利用する、−:利用しない。
【0020】
4.菌体成分について
SANK 60704株の化学分類学的性状は「放線菌の分類と同定(Identification Manual of Actinomycetes) (日本放線菌学会編、日本学会事務センター、49-82頁(2001) )」に従い検討した。その結果、細胞壁からLL−ジアミノピメリン酸が検出され、全細胞中の糖成分として特徴的なパターンは認められなかった。主要メナキノン分子種としてMK-9(H6), MK-9(H8)が検出された。
【0021】
5.16S rRNA遺伝子解析
SANK 60704株の16S rRNA遺伝子の塩基配列(1488bp:配列番号1)を解読しデータベース検索を行った結果、公知の菌株の16S rRNA遺伝子の塩基配列の中にSANK 60704株と一致するものは見出されなかったが、その配列相同性からSANK 60704株はストレプトマイセス属のクラスターに含まれると判断された。16S rRNA遺伝子の塩基配列(1488bp)においてSANK 60704株と最も高い相同性を示した公知の菌株としては、ストレプトマイセス・ハイグロスコピカス・サブエスピー.・グレボサス(Streptomyces hygroscopicus subsp. glebosus) (GenBank accession No. AB184479)、ストレプトマイセス・プラテンシス(Streptomyces platensis) (GenBank accession No. AB045882)、ストレプトマイセス・リバニ・サブエスピー.・ルファス(Streptomyces libani subsp. rufus (GenBank accession No. AJ781351)、及び、ストレプトマイセス・カニフェラス(Streptomyces caniferus (GenBank accession No. AB184640)が挙げられ、いずれもSANK 60704株と16S rRNA遺伝子塩基配列において99%以上の相同性を示した。
【0022】
上記の知見に基づき、「ISP(インターナショナル・ストレプトマイセス・プロジェクト(International Streptomyces Project))基準」、ワックスマン(S. Å. Waksman)著、「ジ・アクチノミセテス(The Actinomycetes)・第2巻」、ブキャナンとギボンズ(R. E. Buchanan and N.E. Gibbons)編、「バージーズ・マニュアル(’Bergey’s Manual of Determinative Bacteriology)第8版」(1974年)、「バージーズ・マニュアル(’Bergey’s Manual of Systematic Bacteriology)第 4 巻」(1989年)、及びストレプトマイセス(Streptomyces)属放線菌に関する最近の文献によって本菌株の同定を行い、本菌株が放線菌の中でもストレプトマイセス(Streptomyces)属に属すると判断された。そこで、本菌株をストレプトマイセス・エスピー(Streptomyces sp.)SANK 60704株と命名した。種レベルの同定については、バージーズ・マニュアル(Bergey’s Manual of Systematic Bacteriology)第 4 巻(1989年)でストレプトマイセス・リディカス(Streptomyces lydicus)と呼称された分類群に所属すると考えるのが妥当である。なお、本菌株は2006年6月28日に独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番1号中央第6)に国際寄託され、受託番号FERM BP−10629を付与された。
【0023】
周知のとおり、放線菌は自然界において、又は人工的な操作(例えば、紫外線照射、放射線照射、化学薬品処理等)により、変異を起こし易く、本発明のSANK 60704株もこの点は同じである。また、これらの変異株の中には、遺伝学的方法、例えば組み換え、形質導入、形質転換等により得られたものも包含される。これら、SANK 60704株及びその変異株並びに菌学的性状によりそれらと明確に区別されない菌株は、すべてSANK 60704株に包含されるものである。本発明のSANK 60704株として、好適には前記菌株のうちA−97065類物質を産生するストレプトマイセス(Streptomyces)属に属する菌株であり、より好適には、それらのうち更に16S rRNAの塩基配列が、配列番号1に記載の塩基配列と同一である菌株であり、更により好適には受託番号FERM BP−10629として国際寄託されているSANK 60704株である。
また、本発明は、ストレプトマイセス属に属し、A−97065類物質を生産する全ての菌株を包含する。
【0024】
本発明のA−97065類物質の生産菌を培養するに際し使用される培地としては、炭素源、窒素源、無機イオン及び有機栄養源等より選択されたものを適宜含有する培地であれば、合成又は天然培地のいずれも使用することができる。
【0025】
該栄養源としては、従来真菌類や放線菌類の菌株の培養に利用されている公知の、微生物が資化できる炭素源、窒素源及び無機塩が使用できる。
【0026】
具体的には、炭素源としてグルコース、フルクトース、マルトース、シュークロース、マンニトール、グリセロール、デキストリン、オート麦、ライ麦、トウモロコシ澱粉、ジャガイモ、トウモロコシ粉、大豆粉、綿実油、水飴、糖蜜、大豆油、クエン酸、酒石酸などを単一に、あるいは併用して使用できる。一般的には、上記炭素源を培地量の1乃至10重量%で使用することができるが、この範囲に限定されない。
また、窒素源としては、蛋白質又はその水解物を含有する物質、あるいは含窒素無機塩類を用いることができる。好適な窒素源としては、例えば大豆粉、フスマ、落花生粉、綿実粉、スキムミルク、カゼイン加水分解物、ファーマミン、魚粉、コーンスチープリカー、ペプトン、肉エキス、生イースト、乾燥イースト、イーストエキス、マルトエキス、ジャガイモ、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、硝酸ナトリウム等を使用することができる。該窒素源は、単一で又は併用して、好ましくは培地量の0.2乃至6重量%の範囲で使用する。
さらに栄養無機塩としては、ナトリウム、アンモニウム、カルシウム、フォスフェート、サルフェート、クロライド、カーボネート等のイオンを含む、通常の塩類を使用することができる。また、カリウム、カルシウム、コバルト、マンガン、鉄、マグネシウム等の微量の金属も使用することができる。
なお、液体培養に際しては、消泡剤としてシリコン油、植物油、界面活性剤等を使用することができる。
【0027】
SANK60704株を培養してA−97065類物質を生産するための培地のpHは、好適には5.0乃至8.0である。
SANK60704株の生育温度は12乃至38℃であるが、A−97065類物質を生産させるためには、該菌株を18乃至36℃で培養することが好ましく、より好適には、20乃至32℃で培養するのが好ましい。
A−97065類物質は、SANK60704株を好気的に培養することにより得られるが、そのような培養法としては、通常用いられる好気的培養法、例えば固体培養法、振とう培養法、通気攪拌培養法等を用いることができる。
【0028】
小規模の培養においては、20乃至32℃で数日間振とう培養を行うのが好適である。培養は、バッフル(水流調節壁)のついた、あるいはついていない三角フラスコ中で、1又は2段階の種の発育工程により開始する。
種発育段階の培地には、炭素源及び窒素源を併用することができる。種培養は、20乃至32℃の定温インキュベーター中で、8日間振とうするか、又は充分に成長するまで振とうすることにより行う。成長した種は、第二の種培地、又は、生産培地に接種する。
中間の発育工程を用いる場合には、種培養と同様の方法で行うことができる。中間の発育工程により得られた種は、その一部を生産培地に接種する。
【0029】
生産のための培養は、種を接種した生産培養用フラスコを一定の温度で数日間振とう培養することにより行うことができる。
生産のための培養を大量培養で行う場合には、攪拌機、通気装置が付いたジャーファーメンターあるいはタンクで培養するのが好ましい。そのためには、まず栄養培地を121乃至130℃まで加熱して滅菌し、その後冷却させておく。次いで、該滅菌済培地に前述の方法によって予め成長させておいた種を接種する。その後の培養は20乃至32℃で通気攪拌して行う。この方法は、多量の化合物を得るのに適している。
【0030】
培養終了後、フラスコ内の培養物を遠心分離又はろ過するか、又は培養物全体を用いて抽出、精製することにより、目的の化合物を得ることができる。
培養の経過に伴って生産されるA−97065類物質の量は、培養液の一部を採取して該化合物群を抽出し、トランスロケースI阻害活性を測定することにより該化合物群を総活性量として確認するか、又は、高速液体クロマトグラフィーを実施し、該化合物群を各々測定することによりモニターすることができる。A−97065類物質の生産量は、通常3乃至15日で最高値に達する。
【0031】
培養終了後、培養液中の液体部分及び菌体内、又はその双方に存在するA−97065類物質は、培養終了液の全て、あるいは菌体、その他の固形部分を、珪藻土をろ過助剤とするろ過操作又は遠心分離によって分別し、得られたろ液又は上清及び菌体中から、トランスロケースI阻害活性又は高速液体クロマトグラフィーを指標にして、その物理化学的性状を利用し抽出精製することができる。
【0032】
ろ液又は上清中に存在するA−97065類物質は、中性pH条件下で、水と混和しない有機溶剤、例えば、酢酸エチル、クロロホルム、塩化エチレン、塩化メチレン、ブタノール等の単独又は、それらの組み合わせにより抽出精製することができる。あるいは、吸着剤として、例えば、活性炭又は吸着用樹脂であるアンバーライトXAD−2、XAD−4(登録商標、ローム・アンド・ハース社製)等や、ダイヤイオンHP−10、HP−20、CHP−20P、HP−50、セパビーズSP−207(登録商標、三菱化学社製)等を使用して抽出精製することもできる。吸着剤を使用して抽出精製する場合、目的化合物を含む液を吸着剤の層を通過させ、不純物を吸着剤に吸着させることにより取り除くか、又は、目的化合物を吸着させて不純物を洗い流した後、メタノール水、アセトン水、ブタノ−ル水等を用いて目的化合物を溶出させることにより、目的化合物を抽出精製することができる。
【0033】
菌体内に存在するA−97065類物質は、50乃至90%の含水アセトン又は含水メタノールにより抽出し、濃縮操作により有機溶剤を除去した後、上記と同様に抽出精製操作を行うことにより得ることができる。例えば、培養終了後に適当量(好ましくは終濃度50%)の、アセトン又はメタノールを添加することにより目的の化合物を抽出することができる。抽出終了後、珪藻土をろ過助剤とするろ過操作を行ない、得られた抽出液をろ液と同様な抽出精製操作を行うことにより目的の化合物を抽出精製することができる。
【0034】
上記の方法により抽出精製されたA−97065類物質を含む溶液は、シリカゲル、セファデックスLH−20(アマシャムバイオサイエンス社製)、フロリジル、コスモシル(ナカライテスク社製)のような担体を用いた分配カラムクロマトグラフィー;ダイヤイオンCHP−20P(三菱化学社製)のような担体を用いた吸着カラムクロマトグラフィー;セファデックスG−10(アマシャムバイオサイエンス社製)、トヨパールHW40F(トーソー社製)などを用いたゲルろ過クロマトグラフィー;ダウエックス50(ダウケミカル社製)ダウエックス1(ダウケミカル社製)、ダイヤイオンPK216(三菱化学社製)、ダイヤイオンPA316(三菱化学社製)、CMセファデックスC−25(アマシャムバイオサイエンス社製)、DEAEセファデックスA−25(アマシャムバイオサイエンス社製)などを用いたイオン交換クロマトグラフィー;順層、逆層カラムを用いた高速液体クロマトグラフィー等により更に精製することができる。
以上の分離、精製の手段を単独又は適宜組み合わせ、場合によっては反復して用いることにより、本発明のA−97065類物質を分離精製することができる。
【0035】
本発明のA−97065B物質は、周知の方法により加水分解及び脱リン酸化されることで、対応する炭化水素鎖を有するA−97065A物質に変換されうる。反応の方法としては、脱リン酸化に用いられる方法であれば特に限定されず、化学的反応、酵素的反応、微生物変換反応等をあげることができる。脱リン酸化は、例えば、溶媒中でA−97065B物質に脱リン酸化酵素を作用させることにより達成される。
使用される溶媒としては、酵素反応に使用できる溶媒であれば特に限定は無く、溶媒中に有機溶媒を含んでいても良く、有機溶媒のみからなる溶媒であっても良い。本反応に用いる溶媒として、具体的には、水;メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類;アセトン、等を挙げることができ、これらの溶媒の2種類以上の混合物であっても良いが、好適には、水である。
脱リン酸化酵素としては、酸性フォスファターゼ、塩基性フォスファターゼの他、ヌクレアーゼ、ヌクレオチダーゼを挙げることができ、好適には酸性フォスファターゼ又は塩基性フォスファターゼであり、より好適には酸性フォスファターゼであり、更により好適にはジャガイモ由来の酸性フォスファターゼである。
【0036】
前記の脱リン酸化処理に用いるA−97065B物質を含むサンプルは、A−97065A物質を含んでいてもよく、また、A−97065A物質を除いた分離されたA−97065B物質であっても良い。また、前記サンプル中には複数種類のA−97065B物質が含まれていても良い。
得られた脱リン酸化体は、前記と同様に公知の分離手法(例えば、コスモシル(ナカライテスク社製)のような担体を用いた分配カラムクロマトグラフィー;ダイヤイオンCHP−20P(三菱化学社製)のような担体を用いた吸着カラムクロマトグラフィー;セファデックスG−10(アマシャムバイオサイエンス社製)、トヨパールHW40F(トーソー社製)などを用いたゲルろ過クロマトグラフィー;ダウエックス50(ダウケミカル社製)ダウエックス1(ダウケミカル社製)、ダイヤイオンPK216(三菱化学社製)、ダイヤイオンPA316(三菱化学社製)、CMセファデックスC−25(アマシャムバイオサイエンス社製)、DEAEセファデックスA−25(アマシャムバイオサイエンス社製)などを用いたイオン交換クロマトグラフィー;順層、逆層カラムを用いた高速液体クロマトグラフィー等)を用いる(必要に応じて複数組み合わせても良い)ことにより精製することができる。 以上、A−97065類物質の製造法の代表的な方法を説明したが、製造方法はこれらに限定されず、既に当業者に知られているこれら以外の製造方法を用いることもできる。
【0037】
本発明は、さらに、一般式(I)のRが所望の脂肪酸側鎖であるA−97065類物質の製造方法に関する。
上記したようなA−97065類物質生産菌の培養において、通常用いられる培地に所望の脂肪酸を添加することにより(「脂肪酸添加培養」という)、一般式(I)においてRが前記脂肪酸に対応した炭化水素鎖であるA−97065類物質の生産量を特異的に増加させることが出来る。用いる脂肪酸は主鎖の炭素数が3以上のものであれば特に限定されず、直鎖脂肪酸、分枝鎖脂肪酸、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸等を用いることができるが、好適には分枝状飽和脂肪酸である。分枝状飽和脂肪酸の鎖長は炭素数3以上であれば特に限定されないが、好適には炭素数7乃至15であり、より好適には炭素数9乃至13である。
【0038】
例えば、下記一般式(II)で表わされる脂肪酸を用いた場合、生産量が増加するA−97065類物質は、一般式(I)において、R=R1として表わされる。
【0039】
【化3】

【0040】
このようにして、A−97065生産菌の脂肪酸添加培養により生産される所望の脂肪酸側鎖を有するA−97065類物質は、他のA−97065類物質と同様、前記の方法を用いて単離、精製される。このようにして製造される、所望の脂肪酸側鎖を有するA−97065類物質も本発明のA−97065類物質に含まれる。
【0041】
また、本発明は、所望の脂肪酸側鎖を有するA−97065A物質を特異的に製造する方法に関する。脂肪酸添加培養により生産される所望の脂肪酸側鎖を有するA−97065B物質は、前述の通り脱リン酸化反応に供することにより、対応する脂肪酸側鎖を有するA−97065A物質に変換することが出来る。このような手法により所望の脂肪酸側鎖を有するA−97065A物質の製造量を特異的に向上させることが可能である。
【0042】
以上のごとくして得られる本発明の化合物の、一般グラム陽性細菌及びグラム陰性細菌に対する最少生育阻止濃度(MIC)は、普通寒天培地(栄研化学社製)や、ミュラー−ヒントン寒天(Mueller−Hintonagar)培地(BBL社製)等を用いた、当業者周知の寒天平板希釈法によって測定することができる。
【0043】
また、本発明の化合物のトランスロケースIに対する酵素阻害活性は、酵素とUDP−N−アセチル−L−アラニル−γ−D−グルタミル−m−ジアミノピメリル−(Nε−ダンシル)−D−アラニル−D−アラニン(UDP−N−acetylmuramyl−L−Ala−γ−D−Glu−m−DAP−(Nε−dansyl)−D−Ala−D−Ala)及びウンデカプレニルリン酸(undecaprenylphosphate)の反応を用いて測定することができる。また、本発明の化合物のトランスロケースIに対する酵素阻害活性は、当業者周知の方法により測定することもできる。
【0044】
本発明の化合物はトランスロケースI酵素阻害活性を示す。トランスロケースIは、細菌細胞壁の構成成分であるペプチドグリカンの生合成に関与する酵素であり、該酵素を阻害すると細菌が細胞壁を維持することが出来なくなると考えられている。すなわち、トランスロケースI阻害作用を有する本発明の化合物は抗菌活性を有する。また、このようなトランスロケースI阻害活性に基づく抗菌活性は、従来の抗菌剤とは異なるメカニズムであり、従来品に対する耐性菌に対しても有効な抗菌活性を発揮する。
【0045】
本発明は、A−97065類物質又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する医薬組成物に関する。前記医薬組成物は、好適にはトランスロケースI阻害剤であり、より好適には抗菌剤である。このような医薬組成物は、細菌感染症、特に耐性菌を含む細菌感染症の予防剤又は治療剤として有用である。また、このような医薬組成物の製造のためのA−97065類物質の使用も本発明に含まれるものである。また、患者にA−97065類物質又はその薬理学的に許容される塩の有効量を投与することを含む細菌感染症、特に耐性菌を含む細菌感染症、の治療方法も本発明に含まれる。
【0046】
本発明のA−97065類物質又はその薬理学的に許容される塩は、その投与される形態に応じて種々の形態で製剤化することができる。その製剤の形態としては、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、乳剤、丸剤、散剤、シロップ剤(液剤)等による経口投与、又は注射剤(静脈内、筋肉内、皮下又は腹腔内投与)、点滴剤、坐剤(直腸投与)等による非経口投与を挙げることができる。これらの各種製剤は、常法に従って主薬に賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、矯味矯臭剤、溶解補助剤、懸濁剤、コーティング剤等の医薬の製剤技術分野において通常使用し得る補助剤を用いて製剤化することができる。
【0047】
錠剤として使用する場合、担体として、例えば、乳糖、白糖、塩化ナトリウム、グルコース、尿素、澱粉、炭酸カルシウム、カオリン、結晶セルロース、ケイ酸等の賦形剤;水、エタノール、プロパノール、単シロップ、グルコース液、澱粉液、ゼラチン溶液、カルボキシメチルセルロース、セラック、メチルセルロース、リン酸カリウム、ポリビニルピロリドン等の結合剤;乾燥澱粉、アルギン酸ナトリウム、寒天末、ラミナラン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、澱粉、乳糖等の崩壊剤;白糖、ステアリン、カカオバター、水素添加油等の崩壊抑制剤;第4級アンモニウム塩類、ラウリル硫酸ナトリウム等の吸収促進剤;グリセリン、澱粉等の保湿剤;澱粉、乳糖、カオリン、ベントナイト、コロイド状ケイ酸等の吸着剤;精製タルク、ステアリン酸塩、硼酸末、ポリエチレングリコール等の潤沢剤等を使用することができる。また、必要に応じ通常の剤皮を施した錠剤、例えば糖衣錠、ゼラチン被包錠、腸溶被錠、フィルムコーティング錠あるいは二重錠、多層錠とすることができる。
【0048】
丸剤として使用する場合、担体として、例えば、グルコース、乳糖、カカオバター、澱粉、硬化植物油、カオリン、タルク等の賦形剤;アラビアゴム末、トラガント末、ゼラチン、エタノール等の結合剤;ラミナラン寒天等の崩壊剤等を使用することができる。
坐剤として使用する場合、担体としてこの分野で従来公知のものを広く使用でき、例えばポリエチレングリコール、カカオバター、高級アルコール、高級アルコールのエステル類、ゼラチン、半合成グリセリド等を挙げることができる。
注射剤として使用する場合、液剤、乳剤又は懸濁剤として使用することができる。これらの液剤、乳剤又は懸濁剤は、殺菌され、血液と等張であることが好ましい。これら液剤、乳剤又は懸濁剤の製造に用いる溶液は、医療用の希釈剤として使用できるものであれば特に限定はなく、例えば、水、エタノール、プロピレングリコール、エトキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類等を挙げることができる。なお、この場合、等張性の溶液を調製するのに充分な量の食塩、グルコース又はグリセリンを製剤中に含んでいてもよく、また通常の溶解補助剤、緩衝剤、無痛化剤等を含んでいてもよい。
【0049】
また、上記の製剤には、必要に応じて、着色剤、保存剤、香料、風味剤、甘味剤等を含めることもでき、更に、他の医薬品を含めることもできる。
【0050】
上記製剤に含まれる有効成分化合物の量は、特に限定されず広範囲に適宜選択されるが、通常、全組成物中1乃至70重量%、好ましくは1乃至30重量%含む。
【0051】
使用量としては、症状、年齢、体重、投与方法及び剤形等によって異なるが、通常は成人に対して1日あたり、上限として40 mg/kg(好ましくは2 mg/kg)であり、下限として0.002 mg/kg(好ましくは0.02 mg/kg、さらに好ましくは0.2 mg/kg)を症状に応じて、一日1回又は数回に分けて投与することができる。
【0052】
このように医薬用途に用いられるA−97065類物質としては、本発明に含まれるものなら全て用いることが出来るが、好適にはA1物質である。
【発明の効果】
【0053】
上記の通り、本発明の化合物群はグラム陽性菌を含む各種細菌感染症の予防薬又は治療薬として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0054】
以下に実施例をあげて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0055】
(実施例1)ストレプトマイセス・エスピー.SANK 60704株の培養
1)一次培養
斜面培地上に生育させたSANK 60704株に、滅菌水を添加し、白金耳を用いて菌糸をかきとった。この菌糸懸濁液をホモジナイズし均一化したものを、表4に記載する組成の前培養培地100mlを入れた500ml容の三角フラスコに無菌的に接種し、次いで該フラスコをロータリー振とう機中で28℃、210rpmにて、3日間振とう培養して、一次前培養液を得た。
[表4]前培養培地
―――――――――――――――――――――――
グルコース 20 g
可溶性デンプン 10 g
カツオエキス 1 g
大豆粉 2.5g
NaCl 2 g
HPO 50 mg
―――――――――――――――――――――――
水道水 1000 ml
滅菌前のpH6.7
滅菌:121℃にて30分間滅菌した。
【0056】
2)二次培養
滅菌済みの上記表4の組成の前培養培地300mlが入った2L容の三角フラスコ2本に、前記一次前培養液を1%(V/V)植菌し、該フラスコをロータリー振とう機中で28℃、210rpmにて、1日間振とう培養して、二次前培養液を得た。
【0057】
3)本培養
滅菌済みの下記表5の組成の本培養培地20Lが入った30L容タンク培養機2基に、前記二次前培養液を1%(V/V)植菌し、温度28℃、通気量1vvm、回転数100乃至200rpm、溶存酸素量5.0ppmで8日間培養し、培養終了液を得た。
[表5]本培養培地
―――――――――――――――――――――――
シュークロース 50 g
カツオエキス 30 g
NaCl 2 g
HPO 50 mg
消泡剤(CB442) 10 mg
―――――――――――――――――――――――
水道水 1000 ml
滅菌前のpH6.7
滅菌:121℃にて30分間滅菌した。
【0058】
(実施例2)A1物質及びB2物質の単離
以下の精製においては、活性画分を以下の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)でモニターした。
i)A1物質
カラム:Unison(インタクト株式会社製)UK−C18:4.6φ×75mm
溶媒:0.3%トリエチルアミン・45%アセトニトリル水(pH3.0)[*]
流速:1.0ml/分
検出:紫外部吸収260nm
保持時間: 7.6分
ii)B2物質
カラム:Unison(インタクト株式会社製)UK−C18:4.6φ×75mm
溶媒:0.3%トリエチルアミン・50%アセトニトリル水(pH3.0)
流速:1.0ml/分
検出:紫外部吸収260nm
保持時間: 5.9分。
[*]「0.3%トリエチルアミン・45%アセトニトリル水(pH3.0)」は、次のように調製した。すなわち、リン酸によりpH3.0に調節した3%トリエチルアミン水溶液とアセトニトリルと水を、トリエチルアミンの終濃度が0.3%、アセトニトリルの終濃度が45%となるように混合した。本明細書の実施例において、濃度及び/又はpHの異なるトリエチルアミン・アセトニトリル水についても、同様の手法により調製した。
【0059】

1)混合粗粉末の抽出
実施例1で得られた培養終了液(30L)にアセトンを30L添加した後、セライト545(1.5kg)をろ過助剤として添加し、フィルタープレスろ過した。得られたろ液及び洗液を合併し(54L)、75%硫酸を用いてpHを3に調節した後、食塩632gを添加し、20L、15L及び17Lの酢酸エチルで3回抽出を行った。得られた溶媒層(83L)に、pHを7に調節した0.2Mリン酸バッファー (1.6L)を添加した後、10Lまで減圧濃縮した。次いで、得られた溶液に対し、1.6L及び0.5Lの前記0.2Mリン酸バッファーで2回逆抽出を行った。続いて得られた逆抽出液(8L)を濃縮した後、水で平衡化したダイヤイオンHP‐20カラム(3L容)に付し、カラムを10mMギ酸アンモニウム水、水、 及び40%アセトン水で洗浄の後、60%アセトン水(11L)で活性物質を溶出することにより脱塩を行った。この溶出液を減圧濃縮、凍結乾燥して粗粉末(11.1g)を得た。
【0060】
この粗粉末のうち10gを、pHを6.8に調節した50mMリン酸バッファー(120ml)に溶解し、同一のリン酸バッファーで平衡化したコスモシルカラム(1L容:ナカライテスク社製)に付した。カラムを同溶媒1.5Lで洗浄の後、pH6.8に調整した500mMリン酸バッファーとアセトニトリルと水を混合して得られた50mMリン酸・30%アセトニトリル水(2.5L)、続いて前記リン酸・アセトリトリル水と同様に調製した50mMリン酸・35%アセトニトリル水(4.5L)で活性物質の溶出を行った。溶出液は15ml毎に分画・回収した。得られたフラクション135から170を合わせてB2物質を含有する粗精製画分1(375ml)、フラクション191から260を合わせてA1物質を含有する粗精製画分2(1L)を、それぞれ得た。
【0061】
2)A1物質の単離
上記の粗精製画分2を減圧濃縮し、得られた濃縮液を水で平衡化したダイヤイオンHP−20カラム(50ml容)に付した。カラムを水(250ml) で洗浄した後、90%アセトン水(250ml)で活性物質を溶出することにより脱塩を行った。得られた溶出液を減圧濃縮後、凍結乾燥し、粗精製粉末961.6mgを得た。この粗精製粉末のうち200mgをジメチルスルホキシド(8ml)に溶解し、150μlを0.5%トリエチルアミン・45%アセトニトリル水(pH3.3)で平衡化したHPLCカラム(カプセルパック(CAPCELL PAK)C18UG120、20φ×250mm、資生堂(株)製)に供与した。カラムを流速10.0ml/分で展開し、目的物質の260nmでの紫外部吸収を検出して、保持時間29.2分に溶出される画分を分取した。この操作を53回に分けて行った。得られた同一保持時間の画分をあわせ、pHを7に調節した後、減圧濃縮し、水で平衡化したダイヤイオンHP−20カラム(10ml)に付した。カラムを水(50ml) で洗浄した後、70%アセトン水(50ml)で活性物質を溶出することにより脱塩を行った。得られた溶出液を減圧濃縮後、凍結乾燥し、A1物質(78.9mg)を無色粉末として得た。
【0062】
3)B2物質の単離
上記の粗精製画分1を減圧濃縮し、得られた濃縮液を水で平衡化したダイヤイオンHP−20カラム(50ml容)に付した。カラムを水(250ml) で洗浄した後、90%アセトン水(250ml)で活性物質を溶出することにより脱塩を行った。得られた溶出液を減圧濃縮後、凍結乾燥し、粗精製粉末684.3mgを得た。この粗精製粉末のうち650mgをジメチルスルホキシドと5%トリエチルアミン水溶液(リン酸によりpH3.3に調節)を9:1で混合した溶液(11ml)に溶解し、このうち100μlを0.5%トリエチルアミンを含有する51.3%アセトニトリル水(リン酸によりpH3.3に調節)で平衡化したHPLCカラム(カプセルパック(CAPCELL PAK)C18UG120、20φ×250mm)に供与した。カラムを流速10.0ml/分で展開し、目的物質の260nmでの紫外部吸収を検出して、保持時間26.5分に溶出される画分を分取した。この操作を110回に分けて行った。得られた同一保持時間の画分をあわせ、pHを7に調節した後、減圧濃縮し、pHを3に再調節した後、水で平衡化したダイヤイオンHP−20カラム(10ml)に付した。カラムを水(50ml) で洗浄した後、70%アセトン水(50ml)で活性物質を溶出することにより脱塩を行った。得られた溶出液を減圧濃縮後、凍結乾燥し、B2物質(146.6mg)を無色粉末として得た。
【0063】
(実施例3)B2物質からA2物質への変換
以下の反応においては、活性画分を以下の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)でモニターした。
i)B2物質
カラム:Unison(インタクト株式会社製)UK−C18:4.6φ×75mm
溶媒:0.3%トリエチルアミン・50%アセトニトリル水(pH3.0)
流速:0.7ml/分
検出:紫外部吸収260nm
保持時間:6.2分
ii)A2物質
カラム:Unison(インタクト株式会社製)UK−C18:4.6φ×75mm
溶媒:0.3%トリエチルアミン・50%アセトニトリル水(pH3.0)
流速:0.7ml/分
検出:紫外部吸収260nm
保持時間:7.3分。
【0064】
実施例2で得られたB2物質(55mg)をメタノールとジメチルスルホキシドと水を4:3:1の割合で混合した溶液(0.8ml)に溶解し、基質溶液とした。この基質溶液20μlにpHを5に調節した0.1Mの酢酸−酢酸ナトリウムバッファーを100μl、水70μlを順次添加した後、酵素溶液(ジャガイモ由来酸性フォスファターゼ(EC3.1.3.2:和光純薬(株)社製)12.5mgを上記0.1M酢酸−酢酸ナトリウムバッファー50μlに溶解し調製)を10μl添加し反応を開始させた。、37℃で30分インキュベーションした後、この混合溶液に200μlのアセトニトリルを添加することにより、反応を終了させた。この終了液を7500rpmで10分間遠心分離し残存酵素を沈殿させ、上澄に存在するA2物質を得た。
【0065】
(試験例1)抗菌活性の測定(抗グラム陽性菌活性)
本発明のA1物質の黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)FDA209P JC−1株(以降S.aureus 209P株と略記)に対する最小発育阻止濃度(MIC)の測定は、以下の方法で行った。検体水溶液を1000μg/mlの濃度より2倍希釈し、14段階(1000μg/ml、500μg/ml、250μg/ml、125μg/ml、62.5μg/ml、31.3μg/ml、15.6μg/ml、7.8μg/ml、3.9μg/ml、2μg/ml、1μg/ml、0.5μg/ml、0.24μg/ml、0.12μg/ml)の希釈液を調製した。各希釈液を丸型シャーレ(90φ×20mm、テルモ社製)に1mlずつ分注後、ミュラー−ヒントン寒天(Mueller−Hinton agar)培地(BBL社製)を9ml加えて混合し、平板とした。被検菌S.aureus209P株をトリプトソイブイヨン(TSB)培地(栄研化学社製)にて37℃、一夜前培養した。試験当日、得られた菌液を、TSBを用いて100倍に希釈し、その1白金耳を平板培地に画線塗沫した。この画線塗沫した平板培地を37℃、18時間培養した後、MICを判定した。
[表6]抗菌活性(抗グラム陽性菌活性)
―――――――――――――――――――――――――――――――
試験化合物 MIC(μg/ml)
―――――――――――――――――――――
被検菌 S.aureus 209P
―――――――――――――――――――――――――――――――
A1物質 6.25
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以上の結果から、A1物質は、S.aureus209P株に対して抗菌活性を有することが示された。
【0066】
(試験例2)トランスロケースI酵素阻害活性の測定
本発明の各化合物のトランスロケースIに対する酵素阻害活性は、酵素とUDP−N−アセチル−L−アラニル−γ−D−グルタミル−m−ジアミノピメリル−(Nε−ダンシル)−D−アラニル−D−アラニン(UDP−N−acetylmuramyl−L−Ala−γ−D−Glu−m−DAP−(Nε−dansyl)−D−Ala−D−Ala)及びウンデカプレニルリン酸(undecaprenylphosphate)の反応を用いて測定した。
すなわち、トランスロケースIをコードしたプラスミドを有する大腸菌、E.coli/pTA5株を培養して得られる菌体を、トリス塩酸緩衝液(pH8.0)中にて超音波破砕した後、粗抽出液を超遠心し、得られた沈殿を界面活性化剤で可溶化した溶液を酵素源として使用した。UDP−N−アセチル−L−アラニル−γ−D−グルタミル−m−ジアミノピメリル−(Nε−ダンシル)−D−アラニル−D−アラニンとウンデカプレニルリン酸を酵素液とともにインキュベートした後、酵素反応により増加した蛍光度を、励起波長355nm、検出波長538nmの条件で定量して酵素活性とし、50%酵素阻害濃度(IC50)は、同時に添加した阻害剤の濃度と阻害率から計算して求めた。
[表7]トランスロケースI阻害活性
―――――――――――――――――――――――――――――――
試験化合物 IC50値(μg/ml)
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A1物質 0.0024
B2物質 0.10
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A1物質及びB2物質は、トランスロケースIに対し阻害活性を示した。
【0067】
(製剤例)カプセル剤
A1物質 100mg
乳糖 100mg
トウモロコシ澱粉 148.8mg
ステアリン酸マグネシウム 1.2mg
――――――――――――――――――――――――――
全量 350mg
上記処方の粉末を混合し、60メッシュのふるいに通した後、この粉末をゼラチンカプセルに入れ、カプセル剤とする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記、一般式(I):
【化1】

(I)
[式中、Xは水酸基又はリン酸基を表し、Xが水酸基である場合、Rは−(CHCH(CH]又は −(CH10CH(CHを表し、Xがリン酸基である場合Rは−(CH10CH(CHを表す]
で表される化合物又はその塩。
【請求項2】
下記の物理化学的性状を有する化合物又はその塩。
1)物質の性状:無色粉末状物質
2)溶解性:メタノール、ジメチルスルホキシドに可溶、クロロホルムに不溶
3)分子式:C436918
4)分子量:943(FABマススペクトル法により測定)
5)高分解能FABマススペクトル法により測定した精密質量、[M+H]は次に示す通りである。
実測値:944.4671
計算値:944.4716
6)紫外部吸収スペクトル:
ジメチルスルホキシド中で測定した紫外部吸収スペクトルは、次に示す極大吸収を示す:
263nm(ε8300)
7)旋光度:
ジメチルスルホキシド中で測定した旋光度は、以下に示す値を示す:
[α]29:+1.5°(c0.4)
8)赤外吸収スペクトル:
臭化カリウム(KBr)錠剤法で測定した赤外吸収スペクトルは以下に示す極大吸収を示す。
3388,2954,2926,2855,1736,1699,1632,1466,1393,1269,1122,1068,1015cm−1
9)H−核磁気共鳴スペクトル:
重メタノール中、内部標準に重メタノール(4.78ppm)を用いて測定した、H−核磁気共鳴スペクトルは、以下に示すとおりである。
0.74(6H,d,J=6.7Hz),0.87(3H,d,J=6.4Hz),1.0−1.2(14H,m),1.37(1H,m),1.49(2H,m),2.0−2.3(5H,m),2.33(3H,s),2.5(2H,m),2.95(1H,m),2.97(3H,s),3.02(1H,dd,J=2.0,3.7Hz),3.12(1H,dd,J=3.7,13.4),3.29(1H,m),3.30(3H,s),3.65(1H,d,4.7Hz),3.78(1H,d,J=8.7Hz),3.93(1H,dd,5.4,7.4Hz),3.97(1H,m),4.05(1H,dd,J=3.3,7.4Hz),4.07(2H,m),4.18(1H,d,J=4.7Hz),4.27(1H,dd,J=3.3,8.7Hz),5.11(1H,m),5.13(1H,s),5.37(1H,m),5.50(1H,d,J=2.7Hz),5.59(1H,d,J=8.0Hz),7.68(1H,d,J=8.0Hz)ppm
10)13C−核磁気共鳴スペクトル:
重メタノール中、内部標準に重メタノール(49.0ppm)を用いて測定した、13C−核磁気共鳴スペクトルは、以下に示すとおりである。
20.1(q),23.1(q),23.1(q),26.3(t),28.6(t),28.7(d),29.2(d),30.4(t),30.6(t),30.7(t),31.0(t),35.1(t),37.8(q),39.0(q),40.2(t),40.4(t),41.6(t),41.6(t),41.8(t)58.2(t),58.7(q),64.1(d),67.7(d),70.7(d),71.6(d),71.9(d),73.7(d),74.9(d),79.2(d),80.5(d),84.9(d),85.7(d),92.8(d),102.3(d),109.1(d),143.4(d),152.0(s),166.3(s),171.0(s),172.8(s),173.0(s),173.8(s),176.4(s)ppm
【請求項3】
下記の物理化学的性状を有する化合物又はその塩。
1)物質の性状:無色粉末状物質
2)溶解性:メタノール、ジメチルスルホキシドに可溶、クロロホルムに不溶
3)分子式:C457421
4)分子量:1051(FABマススペクトル法により測定)
5)高分解能FABマススペクトル法により測定した精密質量、[M−H]は次に示す通りである。
実測値:1050.4550
計算値:1050.4536
6)紫外部吸収スペクトル:
メタノール中で測定した紫外部吸収スペクトルは、次に示す極大吸収を示す:
262nm(ε7900)
7)旋光度:
メタノール中で測定した旋光度は、以下に示す値を示す:
[α]29:+7.0°(c0.8)
8)赤外吸収スペクトル:
臭化カリウム(KBr)錠剤法で測定した赤外吸収スペクトルは以下に示す極大吸収を示す。
3397,2926,2854,1735,1700,1466,1385,1268,1129,1074,938cm−1
9)H−核磁気共鳴スペクトル:
重メタノール中、内部標準に重メタノール(4.78ppm)を用いて測定した、H−核磁気共鳴スペクトルは、以下に示すとおりである。
0.79(6H,d,J=6.6Hz),0.92(3H,d,J=6.6Hz),1.09(2H,m),1.2−1.3(16H,m),1.43(1H,m),1.55(2H,m),2.1(2H,m),2.2−2.3(3H,m),2.38(3H,s),2.55(2H,m),3.02(3H,s),3.0(1H,br.m),3.2(2H,m),3.36(3H,s),3.40(1H,m),3.82(1H,d,J=4.4Hz),3.86(1H,d,J=8.4Hz),3.97(1H,dd,J=5.9,6.6Hz),4.11(2H,m),4.17(2H,m),4.30(1H,dd,J=4.0,8.4Hz),4.52(1H,m),5.14(1H,m),5.15(1H,m),5.44(1H,m),5.62(1H,d,J=3.3Hz),5.76(1H,d,J=8.1Hz),7.72(1H,d,J=8.1Hz)ppm
10)13C−核磁気共鳴スペクトル:
重メタノール中、内部標準に重メタノール(49.0ppm)を用いて測定した、13C−核磁気共鳴スペクトルは、以下に示すとおりである。
20.2(q),23.1(q),26.3(t),28.5(t),28.9(d),29.2(d),30.4(t),30.6(t),30.7(t),30.7(t),30.8(t),31.0(t),35.1(t),38.0(q),39.0(q),40.3(t),40.4(t),41.4(t),41.7(t),42.3(t),58.4(t),59.1(q),64.0(d),68.2(d),70.8(d),71.9(d),74.1(d),74.4(d),75.1(d),78.9(d),79.2(d),84.9(d),85.3(d),92.0(d),102.7(d),109.1(d),143.0(d),152.1(s),166.3(s),171.0(s),173.0(s),173.8(s),177.1(s)ppm
【請求項4】
ストレプトマイセス属に属する、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の化合物の生産菌を培養し、その培養物より請求項1乃至3のいずれか1項に記載の化合物を採取することを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の化合物の製造方法。
【請求項5】
該生産菌がストレプトマイセス・エスピー(Streptomyces sp.)SANK60704(FERM BP−10629)である、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
ストレプトマイセス属に属し、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の化合物を生産することを特徴とする微生物。
【請求項7】
ストレプトマイセス・エスピー(Streptomyces sp.)SANK60704(FERM BP−10629)。
【請求項8】
一般式(I)においてXがリン酸基である請求項1に記載の化合物又はその塩を脱リン酸化反応に供することを特徴とする、一般式(I)においてXがリン酸基である請求項1に記載の化合物又はその塩を出発物質として一般式(I)においてXが水酸基であり、Rが出発物質と同一である請求項1に記載の化合物又はその塩を製造する方法。
【請求項9】
脱リン酸化酵素を用いることを特徴とする請求項8に記載の製造方法
【請求項10】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の化合物又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する医薬。
【請求項11】
抗菌剤である、請求項10に記載の医薬。

【公開番号】特開2008−74710(P2008−74710A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−252237(P2006−252237)
【出願日】平成18年9月19日(2006.9.19)
【出願人】(000001856)三共株式会社 (98)
【Fターム(参考)】