説明

新規ChemerinRアゴニスト

【課題】新規なChemR23アゴニスト及びその用途を提供する。
【解決手段】tyr−Phe−Leu−Pro−X1−Gln−Phe−X2−X3−Serで表されるペプチドは、生体内で安定なChemR23アゴニストである。[式中、tyrはD−Tyrであり、X1はD−Ala又はD−Serであり、X2はAla又はD−Alaであり、X3はD−Phe又はTicである]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なChemR23アゴニスト及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
Gタンパク質共役型レセプターであるChemR23は、内在性タンパク質であるChemerinとの結合を介して、細胞内にシグナルを伝達し、種々の生体内反応を惹起する。ChemR23及びそのリガンドの作用により脂質生成、免疫作用へ作用することが報告されている(非特許文献1及び2)。ChemR23は抗原提示細胞、マクロファージなど免疫関連細胞に発現し、Chemerinにより細胞レベルで細胞走化性を調整することが知られている(非特許文献3)。またChemR23のアゴニストとして知られるResolvin E1はマウスに投与することにより、炎症部位から炎症性細胞の除去、炎症性サイトカインの低下を誘起し、炎症病態からの回復を促進することが報告されており、自然免疫、応答免疫に関与していることが示唆されている(非特許文献4)。また、ChemR23は脂肪組織、株化脂肪細胞に発現することが知られており(非特許文献2)、細胞レベルで脂肪細胞の分化に伴いChemR23の発現が誘導されることが認められている。さらに、Chemerinは株化脂肪細胞において脂肪酸分解作用を抑制、遊離脂肪酸を低下させることが報告されている(非特許文献5)。インスリン抵抗性の原因の一つとして血中脂肪値が高いことが知られている。したがって、ChemR23アゴニストの脂肪分解抑制によって、血中遊離脂肪酸量を減少させ、血中脂肪値を正常化することでインスリン抵抗性が改善されることが期待できる。ChemR23の生理的意義、創薬可能性を明らかにするために生体へ投与可能なChemR23アゴニストが必要だが、これまでの生体内で安定、且つChemR23に対する結合活性を有するアゴニストは同定されていない。内在性リガンドであるChemerinは生体内で前駆体として合成後、様々なタンパク分解酵素の作用により活性化、さらに容易に不活性化されることが知られている(非特許文献6,7及び8)。近年、ヒト活性型ChemerinのC末端のアミノ酸9残基(148〜156残基目)が活性型Chemerinとほぼ同様のChemR23に対する結合活性を有することが見出され、Chemerin−9として報告された(非特許文献9)。しかし、Chemerin−9は生体内においてタンパク分解酵素による分解を受け、非常に不安定であるため、生体におけるChemR23アゴニストとしては不適当である。上記の記載から、ChemR23アゴニスト活性を有し、生体内で安定な化合物は、免疫疾患、炎症性疾患、糖尿病の治療及び/又は予防剤としてきわめて有用であると考えられる。
【非特許文献1】Samson M.ら、European Journal of Immunology、28巻、1689−1700頁(1998年)
【非特許文献2】Roh SG.ら、Biochemical and Biophysical Research Communications、362巻、1013−1018頁(2007年)
【非特許文献3】Zabel BA.ら、The Journal of Immunology、174巻、244−251頁(2005年)
【非特許文献4】Makoto A.ら、The Journal of Experimental Medicine、201巻、713−722頁(2005年)
【非特許文献5】Goralski KB.ら、Journal of Biological Chemistry、282巻、28175−28188頁(2007年)
【非特許文献6】Du XY.ら、Journal of Biological Chemistry、284巻、751−758頁(2009年)
【非特許文献7】Guillabert A.ら、Journal of Leukocyte Biology、84巻、1530−1538頁(2008年)
【非特許文献8】Zabel BA.ら、Journal of Biological Chemistry、280巻、34661−34666頁(2005年)
【非特許文献9】Wittamer V.ら、Journal of Biological Chemistry、279巻、9956−9962頁(2004年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
天然のChemR23リガンドは、生体内での安定性が極めて低く、ChemR23アゴニストとしては不適当である。
【0004】
したがって、本発明の目的は、ChemR23アゴニスト活性を有し、かつ、生体内で安定なペプチドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明者らはChemR23リガンドのアナログを種々合成したところ、ChemR23アゴニスト活性を有し、かつ、生体内での安定性、特に、代謝安定性に優れたペプチドを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、
tyr−Phe−Leu−Pro−X1−Gln−Phe−X2−X3−Serで表されるペプチド(ここで、tyrはD−Tyrであり、X1はD−Ala又はD−Serであり、X2はAla又はD−Alaであり、X3はD−Phe又はTicである)に関する。
ここで、Ticとは、
【0007】
【化1】

で表される構造を有する。
【0008】
本発明は、また、ChemR23に選択的なリガンド、好ましくはChemR23アゴニストを提供する。
【0009】
本発明は、また、上記ペプチドを有効成分とする医薬を提供する。より具体的には、本発明は、免疫疾患、炎症性疾患、糖尿病の治療及び/又は予防剤を提供する。
【0010】
本発明は、また、ChemR23に結合する化合物をスクリーニングする方法であって、
(a)候補化合物が存在する条件及び存在しない条件の下で、ChemR23と請求項1乃至5のいずれか一項に記載のペプチドとを接触させ、ChemR23と本発明のペプチドとの結合量を測定する工程と、
(b)ChemR23と本発明のペプチドとの結合量を変化させる候補化合物を選択する工程と、
を備える方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明のペプチドは、代謝安定性が極めて高いため、ChemR23の機能を解明する上で有用なツールとなる。また、本発明のペプチドは糖尿病をはじめとする様々な疾患の予防・治療剤となり、さらに、様々な疾患に対する予防・治療剤となる医薬品候補化合物のスクリーニングに応用することも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
(ペプチド)
以下、本発明に係るペプチドについて説明する。
本発明のペプチドは、tyr−Phe−Leu−Pro−X1−Gln−Phe−X2−X3−Ser(ここで、X1はD−Ala又はD−Serであり、X2はAla又はD−Alaであり、X3はD−Phe又はTicである。)で表されるペプチド。
X2−Glnは、X2のカルボキシル基とGlnのアミノ基とが結合してアミド結合を形成していることを意味し、
Phe−X2は、Pheのカルボキシル基とX2のアミノ基とが結合してアミド結合を形成していることを意味し、
X2−X3は、X2のカルボキシル基とX3のアミノ基とが結合してアミド結合を形成していることを意味し、
X3−Serは、X3のカルボキシル基とSerのアミノ基とが結合してアミド結合を形成していることを意味する。
【0013】
本発明のペプチドは、例えば、公知のペプチド合成法を応用して合成することが可能である。公知のペプチド合成法としては、Fmoc法又はBoc法による固相合成法又は液相合成法などがある。特に、Fmoc法による固相合成法が収率等の観点から優れている。Fmoc法による固相合成法で使用するFmoc基で保護されたアミノ酸又はXは、市販されているものを利用することができ、また、必要に応じて公知の方法で合成することもできる。N末端(トリプトファン)まで伸長した後、トリフルオロ酢酸などで処理することにより脱保護を行い、本発明の化合物を固相(樹脂)から切断し、必要に応じて精製(例えば、ODSカラムなどを用いた逆相HPLC等)を行う。
【0014】
本発明のペプチドは、X1がD−Serである場合が好ましい。
【0015】
また、本発明のペプチドは、X1がD−Serであり、かつ、X2がD−Alaである場合がより好ましい。
【0016】
また、本発明のペプチドは、X1がD−Serであり、X2がD−Alaであり、かつ、X3が
【0017】
【化2】

である場合が特に好ましい。
【0018】
(医薬)
本発明の医薬は、本発明の化合物又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含有する。ChemR237及びChemR23リガンドが関与する疾患や症状に対して本発明の医薬は適用可能であるが、具体的な医薬としては、免疫疾患、炎症性疾患、糖尿病の治療及び/又は予防剤である。
【0019】
本発明の医薬は、その投与形態に合わせ、本発明の化合物に薬剤学的に許容される添加剤を加えて各種製剤化することができる。添加剤としては、製剤分野において通常用いられる各種の添加剤が使用可能であり、例えばゼラチン、乳糖、白糖、酸化チタン、デンプン、結晶セルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、トウモロコシデンプン、マイクロクリスタリンワックス、白色ワセリン、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、無水リン酸カルシウム、クエン酸、クエン酸三ナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ソルビトール、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリソルベート、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン、硬化ヒマシ油、ポリビニルピロリドン、ステアリン酸マグネシウム、軽質無水ケイ酸、タルク、植物油、ベンジルアルコール、アラビアゴム、プロピレングリコール、ポリアルキレングリコール、シクロデキストリン及びヒドロキシプロピルシクロデキストリン等が挙げられる。
【0020】
これらの添加剤との混合物として製剤化される剤形としては、例えば錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤若しくは坐剤等の固形製剤;シロップ剤、エリキシル剤若しくは注射剤等の液体製剤等が挙げられる。これらは、製剤分野における通常の方法に従って調製することができる。なお、液体製剤にあっては、用時に水又は他の適当な媒体に溶解又は懸濁させる様式であってもよい。また、特に注射剤の場合、必要に応じて生理食塩水又はブドウ糖液に溶解又は懸濁させてもよく、更に緩衝剤や保存剤を添加してもよい。
【0021】
本発明のペプチドを例えば臨床の場で使用する場合、その投与量及び投与回数は、患者の性別、年齢、体重、症状の程度及び目的とする処置効果の種類と範囲等により異なるが、一般に経口投与の場合、成人1日あたり、0.01〜100mg/kg、好ましくは0.03〜1mg/kgを1〜数回に分けて、また非経口投与の場合は、0.001〜10mg/kg、好ましくは0.001〜0.1mg/kg、より好ましくは0.01〜0.1mg/kgを1〜数回に分けて投与するのが好ましい。通常の内科医、獣医又は臨床医は病状進行を阻止し、抑制し又は停止させるに必要な効果的薬物量を容易に決定し処理することができる。
【0022】
本発明の医薬は、本発明のペプチドを全薬剤1.0〜100重量%、好ましくは1.0〜60重量%の割合で含有することができる。これらの製剤は、また、治療上有効な他の化合物を含んでいてもよい。
【0023】
(スクリーニング方法)
ChemR23に結合する化合物をスクリーニングする本発明の方法は以下の工程を備える:
(a)候補化合物が存在する条件及び存在しない条件の下で、ChemR23と本発明のペプチドとを接触させ、ChemR23と本発明のペプチドとの結合量を測定する工程、及び
(b)ChemR23と本発明のペプチドとの結合量を変化させる候補化合物を選択する工程。
【0024】
ChemR23は様々な疾患や症状に関連することから、ChemR23に結合する化合物(アゴニスト及びアンタゴニスト)は、ChemR23が関与する疾患等の予防・治療薬となり得る。具体的には、免疫疾患、炎症性疾患、糖尿病の予防・治療剤などである。本発明のスクリーニング方法によれば、これらの医薬の候補化合物を選別することが可能である。
【0025】
本発明のスクリーニング方法に用いる本発明のペプチドは、ChemR23との結合量を測定するために、標識されていることが好ましい。標識及び標識方法は特に制限されず、当業者にとって公知の標識及び標識方法を利用することができる。具体的には、[H]、[125I]、[14C]及び[35S]などで放射標識を利用することができ、特に[125I]による放射標識が好ましい。
【0026】
工程(a)は、候補化合物が存在する条件及び存在しない条件の下で、ChemR23と本発明のペプチドとを接触させ、その結合量を測定する工程である。ここで、ChemR23と本発明のペプチドとの接触は、適切なバッファー中で行う。好ましくはpH6〜8のリン酸バッファー、トリス−塩酸バッファーなどを使用するが、ChemR23、本発明のペプチド及び候補化合物の結合を阻害しない限りバッファーの種類は特に限定されない。必要に応じて、ChemR23、本発明のペプチド及び候補化合物間の非特異的結合を低減させる目的のために、界面活性剤などをバッファーに加えてもよい。また、必要に応じて、ChemR23、本発明のペプチド及び候補化合物の分解を抑制する目的のために、プロテアーゼ阻害剤をバッファーに加えてもよい。候補化合物が存在しない条件下又は存在する条件下(例えば、10−10M〜10−7Mの濃度範囲で)、一定量の標識された本発明の化合物(例えば、5000cpm〜500000cpmの範囲内で設定する)とChemR23とを含んだバッファーをインキュベートする。インキュベーション温度は4℃〜37℃が好ましく、インキュベーション時間は30分〜3時間が好ましい。インキュベーション後、グラスフィルター等で濾過し、適量のバッファーで洗浄し、グラスフィルター上の標識の量を測定して(液体シンチレーションカウンターやγ−カウンターで放射活性を測定する)、ChemR23と本発明のペプチドとの結合量を測定する。
【0027】
工程(b)は、ChemR23と本発明のペプチドとの結合量を変化させる候補化合物を選択する工程である。工程(a)で測定した結合量が、候補化合物の存在下及び非存在下で結合量に変化がないかどうかを調べる。例えば、候補化合物の非存在下の結合量(B)から非特異的な結合量(NSB)を引いた数値(B−NSB)を100%としたとき、特異的結合量(B−NSB)が50%以下になる候補化合物をChemR23に結合する化合物として選択することができる。あるいは、IC50が所定値(例えば、1〜100nM)以下の候補化合物をChemR23に結合する化合物として選択してもよい。
【実施例】
【0028】
以下、実施例を挙げて本発明について更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
以下の実施例においては、用いるアミノ酸は3文字表記で記載した。
また、本発明のペプチドを合成する際に用いたアミノ酸の保護基は、Fmoc法において通常用いられる保護基である。
さらに、本発明のペプチドを合成する際に用いた特殊アミノ酸を3文字で表記した。用いた特殊アミノ酸は、以下の通りである。
Tic:1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン−3−カルボン酸
ala:D−アラニン
ser:D−セリン
tyr:D−チロシン
(実施例1)Chemerin9:
Phe−Leu−Pro−Gly−Gln−Phe−Ala−Phe−Serの合成
novabiochem社より販売されている、Fmoc−Ser(tBu)−NovaSyn(登録商標)TGA resinを出発原料とし、Prelude(商標)ペプチド合成機を用いてHBTUを縮合試薬としたFmoc法でFmoc−Phe,Fmoc−Ala,Fmoc−Phe,Fmoc−Gln(Trt),Fmoc−Gly,Fmoc−Pro,Fmoc−Leu,Fmoc−Phe,の順で縮合を行いPhe−Leu−Pro−Gly−Gln(Trt)−Phe−Ala−Phe−Ser(tBu)− NovaSyn(登録商標) TGA resinを得た。このresinにTFA/water/triisopropylsilane(94/3/3)を加え室温で2時間振盪した後、樹脂をろ去した。このろ液に冷却したエーテルを加え、粗Phe−Leu−Pro−Gly−Gln−Phe−Ala−Phe−Serを沈殿として得た。この粗ペプチドをYMC−Pack ODS−AQ,S−5,120Aカラム(20X250mm)を用いた逆相分取HPLC(A液:0.1%TFA水、B液:0.1%TFAアセトニトリル、A/B:95/5−2min,80/20〜50/50−15min 直線型濃度勾配溶出、流速10ml/min)で精製し目的物を含む分画を回収、凍結乾燥することにより目的物を得た。
(実施例2)ペプチド1:
tyr−Phe−Leu−Pro−ser−Gln−Phe−ala−Tic−Serの合成
novabuochem社より販売されている、Fmoc−Ser(tBu)−NovaSyn(登録商標)TGA resinを出発原料とし、Prelude(商標)ペプチド合成機を用いてHBTUを縮合試薬としたFmoc法でFmoc−Tic,Fmoc−ala,Fmoc−Phe,Fmoc−Gln(Trt),Fmoc−ser(tBu),Fmoc−Pro,Fmoc−Leu,Fmoc−Phe,Fmoc−tyrの順で縮合を行いtyr−Phe−Leu−Pro−ser(tBu)−Gln(Trt)−Phe−ala−Tic−Ser(tBu)−NovaSyn(登録商標)TGA resinを得た。このresinにTFA/water/triisopropylsilane(94/3/3)を加え室温で2時間振盪した後、樹脂をろ去した。このろ液に冷却したエーテルを加え、粗tyr−Phe−Leu−Pro−ser−Gln−Phe−ala−Tic−Serを沈殿として得た。この粗ペプチドをYMC−Pack ODS−AQ,S−5,120Aカラム(20X250mm)を用いた逆相分取HPLC(A液:0.1%TFA水、B液:0.1%TFAアセトニトリル、A/B:95/5−2min,80/20〜50/50−15min 直線型濃度勾配溶出、流速10ml/min)で精製し目的物を含む分画を回収、凍結乾燥することにより目的物を得た。
上記ペプチドを用いた、ビトロ、ビボでの薬理試験方法、及びその結果
(1)ビトロ薬理試験(細胞内カルシウム変化測定試験)
マウスChemR23をコードするcDNA配列を、発現ベクターpEF1(インビトロジェン社製)にクローニングした。得られた発現ベクターをカチオン性脂質法[プロシーディング・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス・オブ・ザ・ユナイテッド・ステーツ・オブ・アメリカ(Proceedings of the national academy of sciences of the united states of America)、84巻、7413頁(1987年)参照]を用いて宿主細胞 CHO−K1 Gα15 NFAT β−Lactamase Cell(Aurora社製)にトランスフェクトし、マウスChemR23発現細胞を得た。
細胞内カルシウム変化測定試験を行うために、マウスChemR23発現細胞は96ウェルブラックプレート(ボトムクリアー)(パッカード社製)へ1ウェル当たり50,000細胞になるように培養し、CO2(5%)インキュベーター内で37℃に保ち、一晩培養した。培養後、培養培地をカルシウム反応性蛍光物質Fluo−4(インビトロジェン社製)を含む培地A(Hank’s balanced salt solution,20mM HEPES,2.5mMprobenecid,1%牛胎児血清)x50μLに交換し、CO2(5%)インキュベーター内で37℃に保ち、1時間培養した。培養後、1.6mM TR40(インビトロジェン社製)を含む培地Aを50μL加え、試験用細胞プレートとした。また、各試験薬剤を終濃度の3倍になるように培地Aを用いて希釈し、試験薬剤プレートとした。試験用細胞プレートと試験薬剤プレートをFLIPR TETRA (モレキュラーデバイス社製)にセットし、装置内で試験薬剤x50μLを細胞へ添加、細胞を刺激した。励起波長470−495nm、蛍光波長 626−575nmによって細胞内カルシウム濃度を測定し、その変化によって受容体に対する活性を測定した。活性は被験化合物の50%刺激濃度(EC50値)を求めた。
その結果、本発明に係るペプチド1のEC50値は23nMであった。
(2)ビボ薬理試験(絶食による亢進するマウス脂肪分解作用に対する抑制試験)
マウスにおける脂肪分解抑制作用を評価するために、雄性C57BL/6Jマウス(7−10週齢)を一晩絶食させ脂肪分解作用を亢進させた。10%エタノール水溶液に溶解した被験化合物を絶食処置マウスの腹腔内に投与し、各時間においてイソフルラン麻酔下眼窩より採血を行った。血液における遊離脂肪酸量はNEFA−HAテスト(和光社製)を用いて測定を行った。
その結果、被験化合物投与後30分では本発明に係るペプチド1を30ミリグラム/kg投与したマウスでは非投与に比べて血中の遊離脂肪酸の量が有意に減少した(図1)。
【0029】
次に、Chemerin9と本発明に係るペプチド1とで生体内での安定性を比較した。
(3)マウス血漿を用いた代謝安定性試験
マウス全血から遠心分離により血漿を調製した。各被験化合物を最終濃度5μMになるようにマウス血漿に加え、37℃でインキュベーションした。被験化合物添加後、0、10、30、60、120、240(本発明に係るペプチド1のみ)分後に3倍量のアセトニトリル(0.2%リン酸を含む)を加え、遠心分離後の上清をLC/MS/MSのサンプルとした。
LC/MS/MSはACQUITY UPLCとTQD triple quadrupole mass spectrometer(ウォーターズ社製)を用いた。被験化合物の分離には、40℃に保ったWaters ACQUITY BEH C18 (2.1mm i.d.×50mm,粒子径1.7μm)を用いた。移動相として精製水(0.1%ギ酸含む)(A)およびアセトニトリル(0.1%ギ酸含む)(B)を用い、90%A+10%Bから30%A+70%Bまで5分間で直線的に組成を変化させながら流速0.2mL/分によって行った。定量分析にはESI ポジティブモードでのmulti reaction monitoringにて測定した。
その結果、本発明に係るペプチド1は、マウスChemerin9に比べて、代謝安定性が著しく向上した(図2及び図3)。
(4)マウスChemerin9の薬理試験(細胞内カルシウム変化測定試験及びビボ薬理試験(絶食による亢進するマウス脂肪分解作用に対する抑制試験)
細胞内カルシウム変化測定試験によりマウスchemerin9はEC50値42nMの濃度で受容体であるマウスChemR23を刺激した。
また、絶食による亢進するマウス脂肪分解作用に対する抑制試験において、未修飾のマウスChemerin9を30ミリグラム/kg投与し血中遊離脂肪酸量を測定した。投与後30,60分後いずれも血中遊離脂肪酸の減少が観察されず、脂肪酸分解作用は抑制されなかった(図4)。
【0030】
以上の結果より、本発明に係るペプチドは、ChemR23アゴニスト活性を有し、かつ、天然のChemR23アゴニストに比べて、生体内での安定性、特に、代謝安定性が著しく向上した。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明のペプチドは、ChemR23アゴニストであり、かつ、代謝安定性に優れており、免疫疾患、炎症性疾患、糖尿病の治療・予防に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明のペプチド1をマウスに投与した場合及び非投与の場合の血中の遊離脂肪酸量を示す図である。
【図2】マウス血漿中における本発明のペプチド1の代謝安定性を示す図である。
【図3】マウス血漿中におけるChemerin9の代謝安定性を示す図である。
【図4】Chemerin9をマウスに投与した場合及び非投与の場合の血中の遊離脂肪酸量を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
tyr−Phe−Leu−Pro−X1−Gln−Phe−X2−X3−Ser(ここで、tyrはD−Tyrであり、X1はD−Ala又はD−Serであり、X2はAla又はD−Alaであり、X3はD−Phe又はTicであり、Ticは、
【化1】

で表される基を示す)で表されるペプチド。
【請求項2】
X1がD−Serである請求項1記載のペプチド。
【請求項3】
X2がD−Alaである請求項2記載のペプチド。
【請求項4】
X3が、Ticである請求項3記載のペプチド。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載のペプチドからなるChemR23リガンド。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載のペプチドからなるChemR23アゴニスト。
【請求項7】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載のペプチドを有効成分とする医薬。
【請求項8】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載のペプチドを有効成分とする免疫疾患、炎症性疾患、糖尿病の治療及び/又は予防剤。
【請求項9】
ChemR23に結合する化合物をスクリーニングする方法であって、
(a)候補化合物が存在する条件及び存在しない条件の下で、ChemR23と請求項1乃至4のいずれか一項に記載のペプチドとを接触させ、ChemR23と請求項1乃至5のいずれか一項に記載のペプチドとの結合量を測定する工程と、
(b)ChemR23と請求項1乃至4のいずれか一項に記載のペプチドとの結合量を変化させる候補化合物を選択する工程と、
を備える方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−229093(P2010−229093A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−79044(P2009−79044)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000005072)萬有製薬株式会社 (51)
【Fターム(参考)】