説明

方向性結合器、光学素子、マッハツェンダ干渉器及びリング共振器

【課題】偏波依存性をなくすること。
【解決手段】光結合可能な間隔を隔てて平行に配置された単結晶Siからなる第1及び第2光導波路16及び16を備え、第1及び第2光導波路は、屈折率nが1.46〜2.0の範囲の値を有するクラッド14中に埋め込まれていて、第1光導波路に入力された、波長が1.31μmの第1光L1と波長が1.49μmの第2光L2との混合光LMを偏波無依存で伝播させるために、第1及び第2光導波路は、光伝播方向に直交する横断面の形状が、正方形状であり、正方形の1辺の長さを導波路寸法sとし、第1及び第2光導波路の中心軸間の距離を中心軸間距離Gとするとき、中心軸間距離Gが0.6〜0.9μmの範囲の値の場合に、導波路寸法sが、屈折率n及び中心軸間距離Gに応じて0.21〜0.35μmの範囲の値に定められている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、偏波無依存なSi製の方向性結合器と、この方向性結合器を利用した光学素子、マッハツェンダ干渉器及びリング共振器に関する。
【背景技術】
【0002】
光加入者系においては、加入者側から局側への光伝送(上り通信)と、局側から加入者側への光伝送(下り通信)を一本の光ファイバで行う必要があり、そのため上り通信及び下り通信を異なる波長の光で行っている。このため、局側及び加入者側の双方で、異なる波長の光を分離する光波長フィルタが必要となる。一般的に光加入者系では、この光波長フィルタと発光素子及び受光素子とを空間光学的に光軸合わせして組み立てることより、光合分波素子として用いている。加入者側で用いられる光合分波素子は加入者側終端装置(ONU:Optical Network Unit)と称される。
【0003】
近年、光波長フィルタとして、光軸合わせを不要とする光導波路型の光波長フィルタが研究されている。この種の光波長フィルタとしては、マッハツェンダ干渉器を用いたもの等が知られている(例えば、特許文献1〜5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第4860294号明細書
【特許文献2】米国特許第5764826号明細書
【特許文献3】米国特許第5960135号明細書
【特許文献4】米国特許第7072541号明細書
【特許文献5】特開平8−163028号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1〜5に記載されたマッハツェンダ干渉器を用いた光波長フィルタは、回路理論を用いて波長特性を設計できる利点がある。しかしながら、ONUに使用するSi製のマッハツェンダ型光波長フィルタは、等価屈折率や結合係数の波長依存性が大きく、さらに、方向性結合器部分において導波路幅を変更する等の特別な工夫無しには偏波依存性を解消できなかった。
【0006】
発明者は、鋭意検討を重ねた結果、方向性結合器を構成する2本の光導波路の中心軸間距離と導波路寸法とをクラッドの屈折率に対して最適化することにより、OUNに用いられる波長帯域の光を偏波無依存で波長分離できることを見出し、本発明を想到するに至った。
【0007】
この発明は、このような問題点に鑑みなされたものである。従って、この発明の目的は、ONUの波長範囲に好適に用いることができる偏波無依存なSi製の方向性結合器を得ることにある。また、この発明の更なる目的は、この方向性結合器を利用した光学素子、マッハツェンダ干渉器及びリング共振器を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した目的の達成を図るために、この発明の方向性結合器は、光結合可能な間隔を隔てて平行に配置された単結晶Siからなる第1及び第2光導波路を備えている。そして、第1及び第2光導波路は、屈折率nが1.46〜2.0の範囲の値を有するクラッド中に埋め込まれている。
【0009】
この方向性結合器は、第1光導波路に入力された、波長が1.31μmの第1光と波長が1.49μmの第2光との混合光を偏波無依存で伝播させるために、以下のように構成されている。
【0010】
第1及び第2光導波路は、光伝播方向に直交する横断面の形状を正方形状とし、正方形の1辺の長さを導波路寸法sとし、第1及び第2光導波路の中心軸間の距離を中心軸間距離Gとするとき、中心軸間距離Gが0.6〜0.9μmの範囲の値の場合に、導波路寸法sが、屈折率n及び中心軸間距離Gに応じて0.21〜0.35μmの範囲の値に定められている。
【0011】
上述の方向性結合器の好適な実施態様によれば、ミクロン単位で測った導波路寸法sが、下記式(1)の領域内の点で与えられるのがよい。
【0012】
0.148n−0.006<s<0.148n+0.054・・・(1)
上述の方向性結合器の好適な別の実施態様によれば、クラッドの材料をSiONとするのがよい。
【0013】
上述の方向性結合器の好適なさらに別の実施態様によれば、クラッドの材料をSiOとするのがよい。
【0014】
この発明の光学素子は、上述の方向性結合器を用いていて、第1及び第2光導波路のそれぞれに接続された、光伝播方向に直交する横断面の形状が第1及び第2光導波路と等しく形成された第3及び第4光導波路を備えている。
【0015】
この発明の光学素子としてのマッハツェンダ干渉器は、互いに等しく形成された方向性結合器としての第1及び第2方向性結合器を備えていて、第1方向性結合器の第1光導波路と第2方向性結合器の第1光導波路との間、及び、第1方向性結合器の第2光導波路と第2方向性結合器の第2光導波路との間をそれぞれ接続する、互いに光路長が異なる第3及び第4光導波路を備える。
【0016】
この発明の光学素子としてのリング干渉器は、第1光導波路の両端を無終端状に接続する第3光導波路と、第2光導波路に接続された光入出力用の第4光導波路とを備えている。
【発明の効果】
【0017】
この発明の方向性結合器は、中心軸間距離Gと導波路寸法sとをクラッドの屈折率nに対して最適化しているので、OUNに用いられる波長1.31μmの第1光と波長1.49μmの第2光とを偏波無依存で波長分離することができる。
【0018】
この方向性結合器において、導波路寸法sを上述の式(1)で規定される値とする場合には、第2光のTE波に関する方向性結合器の結合長と、第2光のTM波に関する方向性結合器の結合長との差を5%以内とすることができ、良好な偏波無依存性を達成することができる。
【0019】
この方向性結合器のクラッドをSiOとする場合には、第1及び第2光導波路を単結晶Siとしたことと相俟って、製造が非常に容易である。
【0020】
或いは又、方向性結合器のクラッドをSiONとする場合には、第1及び第2光導波路の導波路寸法sの設計条件、及び導波路寸法sの許容誤差範囲をクラッドとしてSiOを用いた場合よりも緩やかにすることができる。その結果、製造が非常に容易である。
【0021】
この発明の光学素子は、上述の方向性結合器を用いているので、伝播する第1光及び第2光に対して偏波無依存で種々の光学的処理を行うことが可能である。
【0022】
この発明のマッハツェンダ干渉器は、上述の方向性結合器を用いているので、第1光及び第2光を偏波無依存で波長分離することができる。
【0023】
この発明のリング干渉器は、上述の方向性結合器を用いているので、第1光及び第2光を偏波無依存で共振させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施形態1の方向性結合器の構造を概略的に示す斜視図である。
【図2】(A)は、実施形態1の方向性結合器の構造を概略的に示す平面図であり、(B)は、(A)のA−A線で切断した切断端面図である。
【図3】実施形態1の方向性結合器において、偏波無依存を達成する導波路寸法、中心軸間距離及びクラッドの屈折率nの関係を示す特性図である。
【図4】実施形態1の方向性結合器において、偏波無依存を達成する導波路寸法、中心軸間距離及びクラッドの屈折率の関係を示す特性図である。
【図5】実施形態1の方向性結合器において、偏波無依存を達成する導波路寸法sと結合器長Laとを示した特性図である。
【図6】(A)及び(B)は、実施形態1の方向性結合器において、方向性結合器の導波路寸法を式(1)の範囲外まで変化させたときの第2光の結合長の変化を偏波ごとに示す特性図である。
【図7】実施形態2のマッハツェンダ干渉器の構造を概略的に示す斜視図である。
【図8】実施形態2のマッハツェンダ干渉器の構造を概略的に示す平面図である。
【図9】実施形態2の応用例の光学素子の構造を概略的に示す平面図である。
【図10】実施形態2の応用例の光学素子の波長分離特性を説明するための特性図である。
【図11】実施形態3のリング干渉器の構造を概略的に示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して、この発明の実施形態について説明する。なお、図1、図2(A)及び(B)、並びに図7〜9、図11は、各構成要素の形状、大きさ及び配置関係について、この発明が理解できる程度に概略的に示してある。また、以下、この発明の好適な構成例について説明するが、各構成要素の材質及び数値的条件などは、単なる好適例にすぎない。従って、この発明は、以下の実施形態に何ら限定されない。また、図1、図2(A)及び(B)、並びに図7〜9、図11において、共通する構成要素には同符号を付し、その説明を省略することもある。
【0026】
(実施形態1)
以下、図1〜図6を参照して、好ましい実施形態1の方向性結合器について説明する。
【0027】
(構造)
まず、図1,図2(A)及び(B)を参照して方向性結合器10の構造について説明する。図1は、方向性結合器の構造を概略的に示す斜視図である。図2(A)は、方向性結合器の構造を概略的に示す平面図である。図2(B)は、図2(A)のA−A線で切断した切断端面図である。なお、図1及び図2(A)において、方向性結合器10は、クラッド14に埋め込まれているために、直接目視することはできないが、その存在を強調するために、実線で描いて示してある。
【0028】
方向性結合器10は、基板12の第1主面12a上に形成されたクラッド14中に埋め込まれた第1及び第2光導波路16及び16とから構成されている。
【0029】
方向性結合器10には、第1光導波路16から、波長が1.31μmの第1光L1と波長が1.49μmの第2光L2との混合光LMが入力され、この混合光LMを偏波無依存で伝播する。
【0030】
より詳細には、方向性結合器10は、第1光導波路16から入力された混合光LMを伝播しながら偏波無依存で波長分離して、第1光L1(波長1.31μm)を第1光導波路16から出力し、及び第2光L2(波長1.49μm)を第2光導波路16から出力する。
【0031】
以降、第1光L1のように、第1光導波路16から入力された光が、第2光導波路16にパワーが移行せず、第1光導波路16から出力されることを、「バー状態」で出力されると称する。また、第2光L2のように、第1光導波路16から入力された光が、第2光導波路16にパワーが移行して、第2光導波路16から出力されることを、「クロス状態」で出力されると称する。
【0032】
以下、方向性結合器10の構成要素を順に説明する。
【0033】
基板12は、この実施形態に示す例では、矩形状の平行平板とする。基板12を構成する材料に特に限定はないが、この実施形態では、好ましくは、例えば単結晶Siとする。
【0034】
クラッド14は、基板12の第1主面12a上に積層されたほぼ平行平板状の積層体である。詳しくは後述するが、クラッド14の屈折率nは1.46〜2.0の範囲の値とする。この実施形態に示す例では、クラッド14は、屈折率nが1.46のSiOとするのが好適である。
【0035】
第1及び第2光導波路16及び16と基板12との間に介在するクラッド14の厚み、すなわち第1及び第2光導波路16及び16の下面と基板12の第1主面12aとの距離は、好ましくは約1μm以上の大きさとするのがよい。クラッド14の厚みをこの範囲の値とすることにより、第1及び第2光導波路16及び16を伝播する第1光L1及び第2光L2の基板12への放射による損失を抑えることができる。この実施形態に示す例では、第1及び第2光導波路16及び16と基板12との間に介在するクラッド14の厚みは、例えば約2μmとするのが好適である。
【0036】
第1及び第2光導波路16及び16は、基板12の第1主面12aに平行な面内で、光結合可能な間隔を隔てて平行に配置された単結晶Siからなるチャネル型光導波路である。
【0037】
より詳細には、第1光導波路16は、光伝播方向に沿った全長がLaであり、一端部16aと他端部16bとを備えた直線状に形成されている。同様に第2光導波路16は、光伝播方向に沿った全長がLaであり、一端部16aと他端部16bとを備えた直線状に形成されていている。
【0038】
また、第1及び第2光導波路16び16の一端部16a及び16a同士は光伝播方向に沿った位置が揃っている。つまり、一端部16a及び16aの端面は、光伝播方向に直交する同一の平面内に位置している。同様に、第1及び第2光導波路16及び16の他端部16b及び16b同士も光伝播方向に沿った位置が揃っている。つまり、他端部16b及び16bの端面は、光伝播方向に直交する同一の平面内に位置している。
【0039】
すなわち、第1及び第2光導波路16及び16は、全長Laにわたって互いの側面同士が向かい合うように配置されている。ここで、第1及び第2光導波路16及び16の全長La、すなわち光伝播方向に沿った長さを、「結合器長La」と称する。具体的な数値を挙げると、この実施の形態に示す例では、結合器長Laは、好ましくは、例えば約11.2μmとする。
【0040】
詳しくは(設計条件)の項で後述するが、この実施の形態のように、第1光L1の波長が1.31μmであり、第2光L2の波長が1.49μmである場合、結合器長Laは、導波路寸法sと中心軸間距離Gとが決定されると、これらの値に応じて一意に定まる。
【0041】
より詳細には、結合器長Laは、波長1.49μmの第2光L2の結合長に一致した長さとする。つまり、結合器長Laは、第2光L2がクロス状態で出力されるような長さとする。結合器長Laをこのように設定することにより、方向性結合器10において、第1光L1と第2光L2とを消光比よく波長分離することができる。なお、結合器長Laの決定に当たり、波長が1.31μmの第1光L1について考慮しない理由については(設計条件)の項で後述する。
【0042】
図2(B)に示すように、第1及び第2光導波路16及び16は、光伝播方向に直交した横断面形状が互いに等しい正方形状である。ここで、第1及び第2光導波路16及び16の横断面がなす正方形の1辺の長さを、「導波路寸法s」と称する。また、第1及び第2光導波路16及び16の中心軸C1及びC2の間の距離を「中心軸間距離G」と称する。
【0043】
なお、第1及び第2光導波路16及び16の中心軸C1及びC2とは、それぞれの正方形状の横断面において、2本の対角線が交差する交点を第1及び第2光導波路16及び16の延在方向に結ぶことでそれぞれ形成される直線のことを示す。
【0044】
詳しくは(設計条件)の項で後述するが、中心軸間距離Gは、0.6〜0.9μmの範囲の値とする。この実施形態に示す例では、中心軸間距離Gは、好ましくは、例えば約0.7μmとする。
【0045】
詳しくは(設計条件)の項で後述するが、導波路寸法sは、上述の中心軸間距離Gの値に応じて、0.21〜0.35μmの範囲の値に一意に定められている。この実施形態に示す例では、導波路寸法sは、好ましくは、例えば約0.255μmとする。
【0046】
中心軸間距離G及び導波路寸法sをこのように設定することにより、方向性結合器10は、波長1.31μmの第1光L1と、波長1.49μmの第2光L2とを偏波無依存で波長分離することができる。
【0047】
ここで、「偏波無依存」とは、第2光L2のTE成分及びTM成分とで方向性結合器10の結合長が実質的に一致していることを示す。なお、この定義において、第1光L1を考慮しない理由については、(設計条件)の項で後述する。
【0048】
第1及び第2光導波路16及び16には、入出力用のチャネル型光導波路である第1〜第4入出力用光導波路18〜18が接続されている。
【0049】
より詳細には、第1光導波路16の一端部16aには、第1入力用光導波路18が光学的に接続されている。第1光導波路16の他端部16bには、第3出力用光導波路18が光学的に接続されている。第2光導波路16の一端部16aには、第2入力用光導波路18が光学的に接続されている。第2光導波路16の他端部16bには、第4出力用光導波路18が光学的に接続されている。
【0050】
(動作)
続いて、図1及び図2(A)を参照して、方向性結合器10の動作について説明する。
【0051】
第1入力用光導波路18に入力された第1光L1及び第2光L2の混合光LMは、方向性結合器10に向けて伝播し、第1光導波路16に至る。
【0052】
第1及び第2光導波路16及び16が光結合可能な間隔を隔てて平行に配置されていることから、第1光導波路16に至った第1光L1及び第2光L2は、第1及び第2光導波路16及び16の間で相互作用を行い、結合器長Laに応じて、第1光導波路16→第2光導波路16へとパワーが移行する。
【0053】
上述のように、方向性結合器10の結合器長Laは第2光L2の結合長に一致しているので、第2光L2は、第1光導波路16を伝播する過程で、第2光導波路16に全てのパワーが移行する。つまり、第2光L2は、第4出力用光導波路18からクロス状態で出力される。
【0054】
一方、第1光L1(波長:1.31μm)は、結合器長Laが第1光L1の結合長と大きくずれていることから、第2光導波路16へのパワー移行がほとんど生ぜず、第1光導波路16をそのまま伝播し、ほとんどの成分が第3出力用光導波路18からバー状態で出力される。
【0055】
このようにして、方向性結合器10は、第1光導波路16から入力された第1光L1及び第2光L2を偏波無依存で波長分離する。
【0056】
(設計条件)
まず始めに、結合器長Laの設計に当たり、波長が1.31μmの第1光L1について考慮しなかった理由について説明する。
【0057】
この実施形態に示したような単結晶Si製の方向性結合器10は、結合長の波長依存性がきわめて大きいことが知られている。この実施形態で用いる第1光L1と第2光L2とでは、波長1.31μmの第1光L1の結合長は、波長1.49μmの第2光L2の結合長の3〜4倍の大きさであることが知られている。
【0058】
つまり、波長1.31μmの第1光L1は、波長1.49μmの第2光L2に比べて、方向性結合器10における結合が非常に弱い。つまり第1光L1は、第1光導波路16から第2光導波路16へとパワーが移行しにくく、バー状態を取りやすい。一方、方向性結合器10における結合が強い波長1.49μmの第2光L2は、第1光導波路16から第2光導波路16へとパワーが移行し易く、クロス状態を取りやすい。
【0059】
これらのことから、この実施形態では、方向性結合器10の結合器長Laを、第1光L1(波長:1.31μm)をバー状態で出力し、第2光(波長:1.49μm)をクロス状態で出力するように設計している。
【0060】
ところで、一般に方向性結合器において、クロス状態で出力される光(第2光L2)の消光比及び偏波無依存性を実用上充分なレベルとするためには結合長を厳密に設定する必要のあることが知られている。それに対して、バー状態で出力される光(第1光L1)については、厳密な結合長の設定は必要ないことが知られている。
【0061】
つまり、この実施形態の場合には、波長1.49μmの第2光L2に対しては、結合長、従って結合器長Laを厳密に設定する必要があるが、波長1.31μmの第1光L1に対しては、結合長の厳密な設定は必要ない。
【0062】
これが、結合器長Laの設計に当たり、波長が1.31μmの第1光L1について考慮しなかった理由である。
【0063】
上述した「偏波無依存」の定義において、第1光L1を考慮しなかった理由もこれと同様である。すなわち、波長1.49μmの第2光L2についてのみ結合器長Laを厳密に設定することで、第2光L2に関して偏波無依存を達成すれば、設計条件の緩やかな第1光L1に関しては、偏波無依存が実用上充分なレベルで自動的に満たされるからである。
【0064】
続いて、図3を参照して、導波路寸法s及び中心軸間距離Gの設計条件について説明する。
【0065】
図3は、偏波無依存を達成する導波路寸法s、中心軸間距離G及びクラッド14の屈折率nの関係を示す特性図であり、横軸はクラッド14の屈折率n(無次元)を示し、縦軸は導波路寸法s(μm)を示している。
【0066】
図3を得るに当たっては、与えられた中心軸間距離G及びクラッド14の屈折率nに対して、波長1.49μmの第2光L2が偏波無依存となる導波路寸法sを、有限要素法による固有モード解析を用いて計算している。ここで第2光L2のみを考慮した理由は、既に説明したものと同様である。また、第1及び第2光導波路16及び16に用いられている単結晶Siの屈折率を計算するに当たっては、光学関連で一般的に知られているセルマイヤの分散公式を適用し、単結晶Siの屈折率の波長依存性を考慮している。
【0067】
図3には、4本の曲線I〜IVが描かれている。曲線Iは、中心軸間距離Gが0.6μmの場合に対応している。曲線IIは、中心軸間距離Gが0.9μmの場合に対応している。曲線IIIは、中心軸間距離Gが0.7μmの場合に対応している。曲線IVは、中心軸間距離Gが0.8μmの場合に対応している。
【0068】
曲線I〜IVは、クラッド14の屈折率nが1.46〜2.0の範囲内において、近似直線V及びVIで挟まれた領域内に分布していることがわかる。ここで、近似曲線V及びVIで挟まれた領域は、第2光L2のTE波の結合長と、第2光L2のTM波の結合長の差が5%以内に収まり、実用上充分なレベルで偏波無依存性が達成される領域である。
【0069】
より詳細には、近似直線Vは、s=0.148n−0.006で与えられる。また、近似直線VIは、s=0.148n+0.054で与えられる。なお、これらの近似直線V及びVIは、従来公知の最小二乗法により線形関数で近似して得られたものである。
【0070】
従って、偏波無依存を達成する導波路寸法sは、近似直線VとVIとで挟まれた下記式(1)の領域内の点で与えられる。
【0071】
0.148n−0.006<s<0.148n+0.054・・・(1)
なお、式(1)で与えられる領域は、曲線I〜IVの分布範囲に比較して若干幅広に設定されており、例えば、点(n=1.5,s=0.24)のような無効領域(偏波に依存する領域)を含んでいるように見える。しかし、これは無効領域ではなく、方向性結合器10の動作する温度範囲(10〜80℃)を考慮して得られた結果である。つまり、クラッド14や第1及び第2光導波路16及び16の屈折率は温度の関数となっているので、この温度による屈折率の変化分を近似直線V及びVIに反映させている。ちなみに、曲線I〜IVは、方向性結合器10が室温(約25℃)で動作すると仮定して得られたものである。
【0072】
続いて、図4を参照して、導波路寸法s及び中心軸間距離Gの設計条件について、さらに詳細に説明する。
【0073】
図4は、偏波無依存を達成する導波路寸法s、中心軸間距離G及びクラッド14の屈折率nの関係を示す特性図であり、横軸は中心軸間距離G(μm)を示し、縦軸は導波路寸法s(μm)を示している。
【0074】
図4は、いわば、図3の座標軸の取り方を変更しただけの特性図である。すなわち、図3においては、横軸はクラッド14の屈折率nを、及び縦軸は導波路寸法sをそれぞれ示し、中心軸間距離Gをグラフのパラメータとして変化させて4本の曲線I〜IVを描いていた。図4は、図3と同様の手法により計算されている。
【0075】
図4には、3本の曲線I〜IIIが描かれている。曲線Iは、クラッド14の屈折率nが1.46の場合に対応している。曲線IIは、クラッド14の屈折率nが1.7の場合に対応している。曲線IIIは、クラッド14の屈折率nが2.0の場合に対応している。
【0076】
曲線Iを参照すると、クラッド14の屈折率nが1.46で、中心軸間距離Gが0.6〜0.9μmの場合、偏波無依存を達成するための導波路寸法sは、0.24〜0.262μmの間で単調に増加する。
【0077】
曲線IIを参照すると、クラッド14の屈折率nが1.7で、中心軸間距離Gが0.6〜0.9μmの場合、偏波無依存を達成するための導波路寸法sは、0.28〜0.285μmの間で単調に増加する。
【0078】
曲線IIIを参照すると、クラッド14の屈折率nが2.0で、中心軸間距離Gが0.6〜0.9μmの場合、偏波無依存を達成するための導波路寸法sは、約0.32μmでほぼ一定である。
【0079】
これらの曲線I〜IIIから、偏波無依存を達成する導波路寸法sは、クラッド14の屈折率nが大きくなるほど、大きくなっていくことがわかる。すなわち、n=1.46の場合には、中心軸間距離Gが0.6〜0.9μmの範囲で、導波路寸法sの平均値は約0.255μmである。また、n=1.7の場合には、中心軸間距離Gが0.6〜0.9μmの範囲で、導波路寸法sの平均値は約0.282μmである。さらに、n=2.0の場合には、中心軸間距離Gが0.6〜0.9μmの範囲で、導波路寸法sの平均値は約0.32μmである。
【0080】
このことから、クラッド14の屈折率nが大きくなるほど、方向性結合器10を構成する第1及び第2光導波路16及び16の横断面のサイズが大きくなり、その結果、方向性結合器を作成し易くなることがわかる。
【0081】
また、クラッド14の屈折率nが大きくなるほど、導波路寸法sの中心軸間距離Gに対する変化率が小さくなっていくことがわかる。すなわち、n=1.46の場合には、中心軸間距離Gが0.6〜0.9μmへと変化する間に、導波路寸法sは、約0.022μm(=0.262−0.24)増加する。また、n=1.7の場合には、中心軸間距離Gが0.6〜0.9μmへと変化する間に、導波路寸法sは、約0.002μm(=0.282−0.28)増加する。さらに、n=2.0の場合には、中心軸間距離Gが0.6〜0.9μmへと変化する間に、導波路寸法sは一定値(0.32μm)である。
【0082】
このことから、クラッド14の屈折率nが大きくなるほど、偏波無依存を達成する第1及び第2光導波路16及び16の寸法誤差許容度が大きくなり、その結果、方向性結合器を作成し易くなることがわかる。
【0083】
続いて、図5を参照して、導波路寸法sと結合器長Laとの関係について説明する。
【0084】
図5は、偏波無依存を達成する導波路寸法sと結合器長Laとを示した特性図であり、横軸は中心軸間距離G(μm)を示し、左縦軸は導波路寸法s(μm)を示し、右縦軸は、結合器長La(μm)を示している。
【0085】
図5には、2本の曲線I及びIIが描かれている。曲線Iは、図4の曲線Iと同じ曲線を縦軸(左縦軸)のスケールを変えて描いたものである。すなわち、曲線Iは、クラッド14の屈折率nが1.46の場合における偏波無依存を達成する導波路寸法sと中心軸間距離Gとの関係を表している。
【0086】
曲線IIは、導波路寸法sを曲線Iに従って変化させたときに、第1光L1及び第2光L2を偏波無依存で波長分離するために必要な方向性結合器10の結合器長Laを示している。なお、曲線IIにおける結合器長Laは、方向性結合器10における対称モードと反対称モードの等価屈折率差から常法に従って計算した。
【0087】
図5より、曲線Iの各点に対して、結合器長Laが一意に定まることがわかる。
【0088】
(効果)
次に、表1、表2及び図6を参照して、この方向性結合器10の効果について説明する。
【0089】
【表1】

【0090】
【表2】

【0091】
表1及び2は、波長1.31μmの第1光L1と、波長1.49μmの第2光L2のそれぞれについて、TE波とTM波とが感じる方向性結合器10の等価屈折率及び結合器長Laを有限要素法による固有モード解析を用いて算出した結果を示したものである。
【0092】
表1は、導波路寸法s:0.255μm、中心軸間距離G:0.7μm及びクラッド14の屈折率n:1.46(SiO)という条件で設計された方向性結合器10に関する計算結果である。なお、図3を参照すると明らかなように、これらの寸法及び屈折率の条件は、偏波無依存条件を満たしている。
【0093】
表2は、導波路寸法s:0.28μm、中心軸間距離G:0.6μm及びクラッド14の屈折率n:1.7という条件で設計された方向性結合器10に関する計算結果である。なお、図3を参照すると明らかなように、これらの寸法及び屈折率の条件は、偏波無依存条件を満たしている。また、屈折率nが1.7となる材料としては、SiONが挙げられる。
【0094】
表1及び表2において、Neff0は、第1光L1及び第2光L2に関して、固有モード定数mが0(ゼロ)の対称モード光が感じる方向性結合器10における等価屈折率を、偏波ごとに求めたものである。Neff1は、両波長の光に関して、固有モード定数mが1の反対称モード光が感じる方向性結合器10における等価屈折率を、偏波ごとに求めたものである。dNeffは、上述のNeff0とNeff1との差の絶対値を求めたものである。Laは、Neff0,Neff1及びdNeffの値を元にして方向性結合器10の結合器長を求めたものである。
【0095】
表1の第2光L2(波長:1.49μm)におけるLaを参照すると、方向性結合器10の結合器長Laの両偏波間での差は、1%以内に抑えられていることがわかる。つまり、TE波とTM波とにおける結合器長Laが実質的に等しく、TE波及びTM波は、実質的に等しい結合器長Laを伝播すると、第1光導波路16から第2光導波路16へとパワー移行することがわかる。このことから、方向性結合器10は、第2光L2を偏波によらずクロス状態で出力できることがわかる。
【0096】
表1の第1光L1(波長:1.31μm)におけるLaを参照すると、方向性結合器10の結合器長Laの両偏波間での差は、15%程度であり、表1を見る限りにおいては、第1光L1では充分な偏波無依存性が達成されていないように見える。しかし、上述したように、第1光L1をバー状態で方向性結合器10から出力する場合には、第1光L1に対する方向性結合器10の設計条件は非常に緩やかなものなる。このことを勘案すると、方向性結合器10は、第1光L1に対しても実用上充分なレベルの偏波無依存性を達成している。
【0097】
表2の第2光L2(波長:1.49μm)におけるLaを参照すると、方向性結合器10の結合器長Laの両偏波間での差は、1%以内に抑えられていることがわかる。このことから、表2の寸法条件の方向性結合器10は、第2光L2を偏波によらずクロス状態で出力できることがわかる。
【0098】
表2の第1光L1(波長:1.31μm)におけるLaを参照すると、方向性結合器10の結合器長Laの両偏波間での差は、10%程度であり、表2を見る限りにおいては、第1光L1では充分な偏波無依存性が達成されていないように見える。しかし、上述した理由により、表2の寸法条件の方向性結合器10は、第1光L1に対しても、実用上充分なレベルの偏波無依存性を達成している。
【0099】
図6(A)及び(B)は、方向性結合器10の導波路寸法sを式(1)の範囲外まで変化させたときの第2光L2の結合長の変化を偏波ごとに示す特性図である。図6(A)及び(B)に共通して、縦軸は第2光L2の結合長(μm)を示し、及び横軸は導波路寸法s(μm)を示す。
【0100】
なお、図6(A)及び(B)に示したTE波及びTM波の結合長は、表1及び表2のLaを求めたと同じ手法で算出した。
【0101】
まず、図6(A)について説明する。図6(A)は、クラッド14の屈折率nを1.46とし、中心軸間距離を0.7μmとした場合の特性図である。図5を参照すると、この条件においては、導波路寸法sの最適値は0.255μmである。
【0102】
図6(A)中には、2本の曲線I及びIIが描かれている。曲線Iは、第2光L2のTE波に対応している。曲線IIは、第2光L2のTM波に対応している。また、図6(A)には、上述した導波路寸法sの最適値(0.255μm)を示す矢印Aと、この設計条件における式(1)の導波路寸法範囲(0.21〜0.27μm)を示す点線(好適範囲)とを描いてある。
【0103】
図6(A)を参照すると、導波路寸法sが式(1)の範囲内(0.21〜0.27μm)の場合には、TE波とTM波の結合長は±5%の範囲内で一致している。それに対して、導波路寸法sが式(1)の範囲から外れると、TE波とTM波の結合長は、大きくずれ始め、例えば、s=0.30μmにおいては、TE波とTM波の結合長の差は約20%に達する。
【0104】
なお、図6では、導波路寸法sが0.21μm未満の領域については計算を行っていない。これは、これ以下の導波路寸法sでは、奇モードがカットオフとなるために、方向性結合器10が正常に動作しないためである。
【0105】
続いて、図6(B)について説明する。図6(B)は、クラッド14の屈折率nを2.0とし、中心軸間距離を0.7μmとした場合の特性図である。図4を参照すると、この条件においては、導波路寸法sの最適値は0.32μmである。
【0106】
図6(B)中には、2本の曲線III及びIVが描かれている。曲線IIIは、第2光L2のTE波に対応している。曲線IVは、第2光L2のTM波に対応している。また、図6(B)には、上述した導波路寸法sの最適値(0.32μm)を示す矢印Bと、この設計条件における式(1)の導波路寸法範囲(0.29〜0.35μm)を示す点線(好適範囲)とを描いてある。
【0107】
図6(B)を参照すると、導波路寸法sが式(1)の範囲内(0.29〜0.35μm)の場合には、TE波とTM波の結合長は±5%の範囲内で一致している。それに対して、導波路寸法sが式(1)の範囲から外れると、TE波とTM波の結合長は、大きくずれ始め、例えば、s=0.37μmにおいては、TE波とTM波の結合長の差は約20%に達する。
【0108】
表1、表2及び図6(A)及び(B)より明らかなように、この実施形態の方向性結合器は、ONUに用いられる波長1.31μmの第1光L1及び波長1.49μmの第2光L2を、実用上充分なレベルの偏波無依存性で波長分離することができる。
【0109】
(実施形態2)
続いて、図7〜図8を参照して、この実施形態の光学素子としてのマッハツェンダ干渉器について説明する。
【0110】
図7は、マッハツェンダ干渉器の構造を概略的に示す斜視図である。図8は、マッハツェンダ干渉器の構造を概略的に示す平面図である。なお、図7及び8において、図1及び図2(A)と同様の構成要素には同符号を付して、その説明を省略する。また、図7及び8において、マッハツェンダ干渉器30は、クラッド14に埋め込まれているために、直接目視することはできないが、その存在を強調するために、実線で描いて示してある。
【0111】
(構造)
まず始めに、マッハツェンダ干渉器30の構造について説明する。マッハツェンダ干渉器30は、上述の方向性結合器10を用いて形成されている。より詳細には、マッハツェンダ干渉器30は、互いに等しく形成された第1及び第2方向性結合器10及び10と、光伝播方向に直交する横断面の形状が第1及び第2光導波路16及び16(図2(B)参照)と等しく形成された第3及び第4光導波路32及び32とを備えている。
【0112】
そして、マッハツェンダ干渉器30は、後述する第1光導波路1611から入力された第1光L1及び第2光L2の混合光LMを波長分離して、後述する第1光導波路1621から第1光L1をバー状態で出力し、及び後述する第2光導波路1622から第2光L2をクロス状態で出力する。
【0113】
マッハツェンダ干渉器30は、実施形態1の方向性結合器10と同様に、基板12の第1主面12a上に形成されたクラッド14中に埋め込まれている。マッハツェンダ干渉器30を構成する材料は、方向性結合器10と同様に単結晶Siとする。
【0114】
以下、マッハツェンダ干渉器30の構造を構成要素ごとに説明する。
【0115】
第1及び第2方向性結合器10及び10は、結合器長Lbが実施形態1の方向性結合器10の結合器長Laの1/2とされている(Lb=La/2)以外は、方向性結合器10と同様に構成されている。従って、これ以上の構造の説明を省略する。
【0116】
第1及び第2方向性結合器10及び10の結合器長をLbとした理由は、第1及び第2方向性結合器10及び10の両者を伝播し終わった段階で、第2光L2の伝播距離がLaとなり、第2光L2が完全にクロス状態で出力されるからである。
【0117】
なお、第1及び第2方向性結合器10及び10の第1及び第2光導波路を区別するために、第1方向性結合器10の第1光導波路に1611なる符号を付する。また、第1方向性結合器10の第2光導波路に1612なる符号を付する。また、第2方向性結合器10の第1光導波路に1621なる符号を付する。同様に、第2方向性結合器10の第2光導波路に1622なる符号を付する。
【0118】
第3及び第4光導波路32及び32は、互いに光路長が異なる単結晶Si製のチャネル型光導波路である。この実施形態に示す例では、光路長の大小関係は、「第3光導波路32<第4光導波路32」とする。
【0119】
ここで、第3光導波路32の光路長と第4光導波路32の光路長差をΔLとする。このときΔLは、第1光L1に対しては第3及び第4光導波路32及び32を伝播した後の位相差がπ+2mπ(mは正の整数)となるように、及び第2光L2に対しては第3及び第4光導波路32及び32を伝播した後の位相差が2mπとなるように決定する。このように第3及び第4光導波路32及び32の光路長差ΔLを設定した理由については、(動作)の項で詳述する。
【0120】
第3及び第4光導波路32及び32は、第1方向性結合器10の第1光導波路1611と第2方向性結合器10の第1光導波路1621との間、及び、第1方向性結合器10の第2光導波路1612と第2方向性結合器10の第2光導波路1622との間をそれぞれ光学的に接続している。
【0121】
第3及び第4光導波路32及び32の光伝播方向に直交する横断面形状は、第1及び第2光導波路1611〜1622と同様の寸法を有する正方形状とする。第3及び第4光導波路32及び32の横断面形状を正方形状とすることにより、従来周知のように第3及び第4光導波路32及び32は、第1光L1及び第2光L2を偏波無依存で伝播させることができる。
【0122】
なお、第1及び第2光導波路1611及び1612には、入力用のチャネル型光導波路である第1及び第2入力用光導波路20及び20がそれぞれ接続されている。また、第1及び第2光導波路1621及び1622には、出力用のチャネル型光導波路である第3及び第4出力用光導波路20及び20がそれぞれ接続されている。
【0123】
(動作)
続いて、図8を参照してマッハツェンダ干渉器30の動作について説明する。
【0124】
第1入力用光導波路20から入力された第1光L1及び第2光L2の混合光LMは、第1入力用光導波路20を伝播して、第1方向性結合器10へと至る。
【0125】
既に説明したように、第1方向性結合器10の結合器長はLb(=La/2)であり、第2光L2をクロス状態で出力するために最適化されている。その結果、第2光L2は、第1方向性結合器10を伝播する過程で、第1及び第2光導波路1611と1612とにパワーが等分配される。そして、第2光L2は、第3及び第4光導波路32及び32の双方を等しい強度で伝播する。
【0126】
一方、波長1.31μmの第1光L1に対しては、第1方向性結合器10の結合器長Lbが最適化されていない。その結果、第1光L1は、第1方向性結合器10を伝播する過程で第2光導波路1612へとパワーが僅かしか移行しない。つまり、第1光L1においては、第1方向性結合器10を伝播する過程で第1及び第2光導波路1611と1612へと分配される光強度の関係は、「第1光導波路1611≫第2光導波路1612」となる。そして、第1光L1は、この強度の大小関係を維持したまま、第3及び第4光導波路32及び32を伝播する。
【0127】
上述のように、第3及び第4光導波路32及び32の光路長差は第2光L2の波長(1.49μm)に対して、2mπとなるように設定されている。その結果、第3及び第4光導波路32及び32のそれぞれを伝播して第2方向性結合器10に至った第2光L2は、位相が一致していることから、互いに足しあわされる。そして、第2光L2は、第2方向性結合器10を伝播する過程で、第1光導波路1621から第2光導波路1622へと完全にパワーが移行し、第4出力用光導波路20からクロス状態で出力される。
【0128】
上述のように、第3及び第4光導波路32及び32の光路長差は第1光L1の波長(1.31μm)に対して、π+2mπとなるように設定されている。その結果、第3及び第4光導波路32及び32のそれぞれを伝播して第2方向性結合器10に至った第1光L1は、位相が逆転していることから、相殺される。結果として、相対的に光強度が弱かった第4光導波路32を伝播してきた第2光L2の成分が失われる。
【0129】
さらに、第2方向性結合器10の結合器長Lbも第1光L1に対しては最適化されていない。よって、第1光L1においては、第2方向性結合器10を伝播する過程で、第1光導波路1621から第2光導波路1622へのパワー移行がほとんど発生しない。そのため第1光L1は、第1光導波路1621を伝播し、バー状態で第3出力用光導波路20から出力される。
【0130】
(効果)
以下、この実施形態のマッハツェンダ干渉器30の効果について説明する。
【0131】
マッハツェンダ干渉器30は、実施形態1の方向性結合器10を利用しているとともに、第3及び第4光導波路32及び32として偏波無依存なチャネル型光導波路を用いている。その結果、OUNで用いられる波長1.31μmの第1光L1と波長1.49μmの第2光L2とを偏波無依存で波長分離できる。
【0132】
また、第3及び第4光導波路32及び32の光路長差を、第1光L1に対してπ+2mπとし、及び第2光L2に対して2mπとしたことにより、実施形態1の方向性結合器10に比較して、より優れた消光比で波長分離を行うことができる。
【0133】
また、第3及び第4光導波路32及び32の光伝播方向に直交する横断面形状を、第1及び第2方向性結合器10及び10を構成する第1及び第2光導波路1611〜1622の光伝播方向に直交する横断面形状と等しくしている。その結果、半導体製造プロセスを利用してマッハツェンダ干渉器30を製造するに当たり、第3及び第4光導波路32及び32部分と、第1及び第2方向性結合器10及び10部分とで同一幅のマスクを用いることができる。
【0134】
(応用例)
以下、図9及び図10を参照して、マッハツェンダ干渉器30の応用例について説明する。
【0135】
図9は、応用例の光学素子40の構造を概略的に示す平面図である。
【0136】
光学素子40は、いわばマッハツェンダ干渉器30を直列に2段にわたり接続した構造を有している。
【0137】
より詳細には、光学素子40は、第1及び第2マッハツェンダ干渉器30及び30を備えている。
【0138】
第1及び第2マッハツェンダ干渉器30及び30は、第1及び第2方向性結合器1011〜1022の結合器長LcがそれぞれLa/4とされている点以外は、実施形態2のマッハツェンダ干渉器30と同様に構成されている。従って、第1及び第2マッハツェンダ干渉器30及び30の個々の構造について、これ以上の説明を省略する。
【0139】
なお、第1及び第2方向性結合器1011〜1022の結合器長LcがそれぞれLa/4とされている理由は、実施形態2におけるマッハツェンダ干渉器30の結合器長LbがLa/2であった理由と同様に、合計4個の方向性結合器(1011〜1022)を伝播した後に、第2光L2をクロス状態で出力させるためである。
【0140】
この光学素子40においては、第1及び第2マッハツェンダ干渉器30及び30の光路長差の正負が逆転している。
【0141】
以下、この点について詳細に説明する。ここで、光路長差ΔLを、「第3光導波路の光路長−第4光導波路の光路長」と定義する。このとき、第1マッハツェンダ干渉器30においては、光路長差は、「第3光導波路3231の光路長−第4光導波路3241の光路長」と計算でき、光路長差として−ΔLが得られる。それに対して、第2マッハツェンダ干渉器30においては、光路長差は、「第3光導波路3232の光路長−第4光導波路3242の光路長」と計算でき、光路長差としてΔLが得られる。
【0142】
このように、第1及び第2マッハツェンダ干渉器30及び30で光路長差の正負を逆転させた理由は、次に図10を用いて説明する光学素子40の波長分離特性を改善するためである。
【0143】
続いて、図10を参照して、光学素子40の効果について説明する。
【0144】
図10は、光学素子40の波長分離特性を説明するための特性図である。図10において、横軸は波長(μm)を示し、縦軸は光強度(任意単位)を示す。
【0145】
図10には、2本の曲線が示されている。曲線Iは、光学素子40の第3出力用光導波路18からバー状態で出力される波長1.31μmの第1光L1の光強度に対応している。また、曲線IIは、光学素子40の第4出力用光導波路18からクロス状態で出力される波長1.49μmの第2光L2の光強度に対応している。
【0146】
なお、曲線I及びIIは、それぞれ有限要素法を用いた数値計算により得られたものである。また、光学素子40の設計条件は、波長1.49μmの第2光L2に対して干渉器の干渉次数を1.9とし、及び方向性結合器1011〜1022の全長を、結合長の1.1倍としている。
【0147】
図10を参照すると、第1光L1に対応する曲線Iは、1.3μmの波長付近で、波長幅が約0.14μmに及ぶ幅広のピークを有している。また、第2光L2に対応する曲線IIは、1.5μmの波長付近で、波長幅が約0.1μmに及ぶ幅広のピークを有している。
【0148】
偏波無依存性を達成するために方向性結合器の断面形状と第3及び第4光導波路3231〜3242の断面形状とを違えた従来型マッハツェンダ干渉器を用いた従来型光学素子では、図10と同様の波長分離特性を得るためには、従来型マッハツェンダ干渉器を4段にわたって直列に接続する必要があった。
【0149】
しかし、この応用例の光学素子40は、従来型光学素子と同様の特性を、2段のマッハツェンダ干渉器30及び30を接続するだけで達成することができる。
【0150】
(実施形態3)
続いて、図11を参照して、この実施形態の光学素子としてのリング干渉器について説明する。
【0151】
図11は、リング干渉器の構造を概略的に示す平面図である。なお、図11において、図1及び図2(A)と同様の構成要素には同符号を付してその説明を適宜省略する。また、図11において、リング干渉器50は、クラッド14に埋め込まれているために、直接目視することはできないが、その存在を強調するために、実線で描いて示してある。
【0152】
リング干渉器50は、方向性結合器52を構成する第1及び第2光導波路54及び54と、第1光導波路54の両端を無終端状に接続する第3光導波路54と、第2光導波路54に接続された光入出力用の第4光導波路54とを備えている。
【0153】
より詳細には、第1及び第3光導波路54及び54は、一体に形成された無終端状、すなわち円環状のチャネル型光導波路である。以下、この円環状に形成された光導波路をリング光導波路Rと称する。
【0154】
リング光導波路Rを構成する第1光導波路54には、第2光導波路54が光結合可能な距離を隔てて配置されており、その結果、第1及び第2光導波路54及び54によりこの発明の偏波無依存な方向性結合器52が構成されている。
【0155】
このリング干渉器50は、この発明の方向性結合器50を用いて形成されているので、偏波に依存せず動作する。その結果、偏波無依存な共振器型光フィルタや、共振器型遅延素子として用いることができる。
【符号の説明】
【0156】
10,52 方向性結合器
10,1011,1021 第1方向性結合器
10,1012,1022 第2方向性結合器
12 基板
12a 第1主面
14 クラッド
16,1611,1621,54 第1光導波路
16a,16a 一端部
16b,16b 他端部
16,1612,1622,54 第2光導波路
18 第1入力用光導波路
18 第2入力用光導波路
18 第3出力用光導波路
18 第4出力用光導波路
20 第1入力用光導波路
20 第2入力用光導波路
20 第3出力用光導波路
20 第4出力用光導波路
30 マッハツェンダ干渉器
30 第1マッハツェンダ干渉器
30 第2マッハツェンダ干渉器
32,3231,3232,54 第3光導波路
32,3241,3242,54 第4光導波路
40 光学素子
50 リング干渉器


【特許請求の範囲】
【請求項1】
光結合可能な間隔を隔てて平行に配置された単結晶Siからなる第1及び第2光導波路を備え、該第1及び第2光導波路は、屈折率nが1.46〜2.0の範囲の値を有するクラッド中に埋め込まれていて、
前記第1光導波路に入力された、波長が1.31μmの第1光と波長が1.49μmの第2光との混合光を偏波無依存で伝播させるために、
前記第1及び第2光導波路は、光伝播方向に直交する横断面の形状を正方形状とし、該正方形の1辺の長さを導波路寸法sとし、前記第1及び第2光導波路の中心軸間の距離を中心軸間距離Gとするとき、
前記中心軸間距離Gが0.6〜0.9μmの範囲の値の場合に、前記導波路寸法sが、前記屈折率n及び前記中心軸間距離Gに応じて0.21〜0.35μmの範囲の値に定められていることを特徴とする方向性結合器。
【請求項2】
ミクロン単位で測った前記導波路寸法sが、下記式(1)の領域内の点で与えられることを特徴とする請求項1に記載の方向性結合器。
0.148n−0.006<s<0.148n+0.054・・・(1)
【請求項3】
前記クラッドの材料をSiONとすることを特徴とする請求項1又は2に記載の方向性結合器。
【請求項4】
前記クラッドの材料をSiOとすることを特徴とする請求項1又は2に記載の方向性結合器。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一項に記載の方向性結合器を用いた光学素子であって、
前記第1及び第2光導波路のそれぞれに接続された、光伝播方向に直交する横断面の形状が当該第1及び第2光導波路と等しく形成された第3及び第4光導波路を備えることを特徴とする光学素子。
【請求項6】
請求項5に記載の光学素子としてのマッハツェンダ干渉器であって、
互いに等しく形成された前記方向性結合器としての第1及び第2方向性結合器を備えていて、
該第1方向性結合器の第1光導波路と前記第2方向性結合器の第1光導波路との間、及び、該第1方向性結合器の第2光導波路と前記第2方向性結合器の第2光導波路との間をそれぞれ接続する、互いに光路長が異なる前記第3及び第4光導波路を備えることを特徴とするマッハツェンダ干渉器。
【請求項7】
請求項5に記載の光学素子としてのリング干渉器であって、
前記第1光導波路の両端を無終端状に接続する前記第3光導波路と、
前記第2光導波路に接続された光入出力用の前記第4光導波路とを備えたリング干渉器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−43567(P2011−43567A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−190209(P2009−190209)
【出願日】平成21年8月19日(2009.8.19)
【出願人】(000000295)沖電気工業株式会社 (6,645)
【Fターム(参考)】