説明

既存壁の板間処理方法及び改修壁

【課題】不陸調整された美麗な改修仕上りとすることができる既存壁の改修方法と、改修壁を提供する。
【解決手段】既存壁の改修に際しては、既存サイディング5の表面にプライマー7を塗布し、次いで不陸調整材8を塗る。該不陸調整材8上に、既存サイディング5同士の間の目地部を跨ぐようにネット11を押し当てる。ネット11及び不陸調整材8の上から再度不陸調整材8を塗り、該不陸調整材8の前面を均等に平坦にして不陸調整を行う。下塗り材9、上塗り材10を塗って仕上げる。ネット11が他の素材を介することなく不陸調整材8に埋設されているため、他の素材と不陸調整材8との境界付近に亀裂等の不具合が生じることが防止されると共に、不陸調整材8の厚みを小さくすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既存壁を改修する方法と、既存壁が改修されてなる改修壁に関する。
【背景技術】
【0002】
外壁がサイディング材等の板状壁部材の張設によって仕上げられるものである場合、該板状壁部材間の目地部(板間)に、該目地部を跨ぐようにしてパテを塗り重ねる等の目地処理が行われる。
【0003】
例えば、実開平4−20539号公報には、板状壁部材間の目地部を跨ぐようにパテを塗り、該パテ内部に、該目地部を覆うようにネットを埋設して該パテの強度を高めた大壁構造が記載されている。このように施工された壁構造体に塗り仕上げが施される。
【0004】
これら外壁は、経年的に表面が劣化し、美観が損なわれてくることがある。例えば、サイディング表面の塗装が部分的に剥れてくることがある。
【0005】
このような場合、劣化した既存サイディング材を取り除き、新規サイディング材を取り付けることがあるが、大掛りな工事になると共に、除去作業時に大量に塵埃が発生する。
【0006】
劣化部分を除去することなく外壁をタイル張りする方法として、外壁に塗り仕上げ材を塗布する改修方法がある。しかし、既存壁に不陸があると、不陸がそのまま仕上げ面に現われることになる。特に、改修の際に、目地処理として上記実開平4−20539号公報のように既存壁表面の目地部及びその周辺部にパテを塗布する場合、パテを塗布した箇所とその他の箇所との不陸がより大きなものとなる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、不陸調整された美麗な改修仕上りとすることができる既存壁の板間処理方法と、既存壁が改修されてなる改修壁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明(請求項1)の既存壁の板間処理方法は、目地部を有する既存壁の改修の際の板間処理方法において、該既存壁の表面のうち少なくとも該目地部及び該目地部の周辺部に、該目地部を跨ぐように不陸調整材を塗る第1の不陸調整材塗布工程と、次いで該不陸調整材の上に、該目地部を跨ぐようにネットを配置する工程と、その後、該既存壁の表面に、該ネットが埋没するように該不陸調整材を塗って不陸を調整する第2の不陸調整材塗布工程と、を有することを特徴とするものである。なお、ここでいう目地部とは既存サイディングの板間や、既存壁の板間、既存壁の隙間等を言う。
【0009】
請求項2の既存壁の板間処理方法は、請求項1において、前記第1の不陸調整材塗布工程の前に、前記既存壁にプライマーを塗布するプライマー塗布工程を行うことを特徴とするものである。
【0010】
本発明(請求項3)の改修壁は、目地部を有する既存壁の改修壁において、既存壁と、該既存壁の表面に設けられた不陸調整材と、該不陸調整材の内部であって該既存壁の目地部に沿う位置に配置されたネットと、を有することを特徴とするものである。
【0011】
本発明(請求項4)の改修壁は、請求項1又は2に記載の工法により既存壁が改修されてなるものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の改修方法及び改修壁によると、既存壁の不陸が調整されて塗り仕上げもしくはタイル張りされた美麗な改修壁とすることができる。
【0013】
また、目地部付近の不陸調整材がネットで補強されているため、外気温の変化に伴って既存壁が伸縮し、既存壁同士の間の目地部の幅が変化しても、目地部付近の不陸調整材に亀裂等の不具合が生じることが防止される。
【0014】
本発明の改修壁の改修方法は、既存壁の表面の目地部及びその周辺部のみに不陸調整材及びネットを設け、次いで既存壁の表面の全面に不陸調整材を塗布するものであってもよいし、既存壁の全面に不陸調整材を塗布し、次いで目地部を跨ぐようにネットを配置し、その後、再度既存壁の全面に不陸調整材を塗布するものであってもよい。
【0015】
また、既存壁に先ずプライマーを塗布し、次いで不陸調整材を塗布すると、不陸調整材が既存壁に強固に付着する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。第1図は改修された改修壁の斜視図、第2図は改修された改修壁の厚み方向の断面図、第3図は改修される前の既存壁の斜視図である。
【0017】
第3図の通り、柱1の前面に透湿防水シート2が張り渡され、その上から縦胴縁3が該柱1に対し釘等により留めつけられている。この縦胴縁3の前面に、バックアップ材4を介して複数のサイディング(既存サイディング)5が留め付けられ、該サイディング5,5同士の間にコーキング材6が充填されている。
【0018】
この既存壁を改修するに際しては、必要に応じ既存サイディング5を高圧水吹付等によって汚れ除去処理し、乾燥させた後、その表面にプライマー7を塗布する。次いで、パテなどの不陸調整材8を塗って、前面を均等に平坦にして不陸調整を行う。
【0019】
次いで、該不陸調整材8上に、既存サイディング5同士の間の目地部(板間)を跨ぐようにネット11を押し当て、このネット11及び不陸調整材8の上から再度不陸調整材8を塗って、該不陸調整材8の前面を均等に平坦にして不陸調整を行う。
【0020】
次いで、下塗り材9を塗り、その上に上塗り材10を塗って仕上げる。
【0021】
このように、不陸調整材8を塗って不陸調整するため、上塗り材10の塗り仕上り面は面精度が良好で美麗なものとなる。
【0022】
このネット11を板間に跨って設けることにより、板間が拡張するようにサイディング5が変位した場合に不陸調整材8及び塗り仕上げ材9,10に亀裂が入ることが防止される。
【0023】
さらに、ネット11が他の素材を介することなく不陸調整材8に埋設されている。このため、他の素材と不陸調整材8との境界付近に亀裂等の不具合が生じることが防止される。また、ネット11のみを不陸調整材8内に埋設すればよいため、不陸調整材8の厚みを小さくすることができ、ネット11の両面に異素材を積層する場合と比べて、不陸調整材8の使用量を少なくすることができる。なお、本実施例ではネットのみを介したが適宜他のものを介してもよい。
【0024】
なお、上記のようにプライマー7を塗ることにより、不陸調整材8の付着が強固となる。プライマー7としては、アクリルシリコン溶液にシランカップリング剤を混入した溶剤型のものが好適である。その理由としては、シランカップリング剤は、分子中に2個以上の異なった反応基を有する有機珪素化合物であり、これらの反応基は、無機質と化学結合するものと、有機材料(各種の合成樹脂)と化学結合するものとの双方を含んでいるため、既存塗装の種類にかかわりなく、接着性を向上させることができるからである。
【0025】
また、プライマー7としては、キシレン、トルエン等を含んだ溶剤型ものが、チョーキング(白亜化)した既存塗膜を健全化するので好ましい。
【0026】
不陸調整材8としては、アクリル樹脂系エマルジョン等の樹脂系塗り材が好適である。
【0027】
下塗り材9及び上塗り材10は、いずれも変性シリコン系あるいはエポキシウレタン系などの弾性接着剤をベースとし、これに必要に応じ顔料やフィラーを添加したものが好適である。
【0028】
ネット11としては、ガラス繊維よりなるネット(以下、ガラスネットという。)11を固着するのが好適である。この実施の形態では該ネット11はガラス繊維よりなるが、ネットの材質はこれに限定されるものではない。ガラス繊維以外の材質としては、ナイロン、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)等が好ましい。
【0029】
なお、本実施の形態とは異なり、既存サイディング5にプライマー7を塗布した後、既存サイディング5の板間(目地部)及びその周辺部のみに不陸調整材8を塗布してもよい。この場合、次いで、該不陸調整材8の上に目地部を跨ぐようにしてネット11を押し当て、該ネット11、不陸調整材8及びプライマー7上に不陸調整材8を塗布して既存サイディング5の前面の全面を均等に平坦にし、不陸調整を行うことにより、既存修壁の改修を行う。
【0030】
第4図は別の実施の形態に係る改修壁を説明する水平断面図、第5図(a)は参考例に係る改修壁を説明する水平断面図、第5図(b)は第5図(a)の改修壁に亀裂が生じた状態を説明する水平断面図である。
【0031】
第4図の改修壁は、第1〜2図の改修壁において、プライマー7及び下塗り材9を省略したものである。第4図の改修壁を施工するに際しては、既存サイディング5の前面の全面又は目地部及びその周辺部に不陸調整材8を塗布し、次いで該不陸調整材8上に該目地部を跨ぐようにネット11を押し当て、その後、不陸調整材8を塗布して既存サイディング5の前面の全面を均等に平坦にして不陸調整を行い、その上に上塗り材10を塗布する。
【0032】
第5図(a)の改修壁を施工するに際しては、不陸調整材8とは材質の異なるパテ12を既存サイディング5の目地部を跨ぐように塗布し、その上にネット11を押し当て、さらに該ネット11の上にパテ12を塗布した後、1日放置して乾燥させる。次いで該パテ12,12及びネット11よりなる積層体及び既存サイディング5の前面に不陸調整材8を塗布し、その後上塗り材10を塗布する。
【0033】
第5図(a)の改修壁は、該積層体と不陸調整材8の材質が異なっている。このため、第5図(b)のように、積層体と不陸調整材8との境界で、亀裂13等の不具合が生じるおそれがある。また、パテ12,12とネット11とからなる積層体の厚みは、ネット11のみの厚みと比べて大きいため、この積層体を不陸調整材8で埋設するためには不陸調整材8を多量に使用する必要が生じ、コスト高となる等の不都合が生じる。なお、不陸調整材8の使用量を少なくするために不陸調整材8の厚みを小さくすると、積層体の前面にある不陸調整材8の厚みが小さくなり、該不陸調整材8と積層体との境界で、より亀裂が生じ易くなる。さらに、既存サイディング5の目地部にパテ12,ネット11及びパテ12を設けた後、1日放置して乾燥させる必要があることから、施工日数が長くなると共に手間がかかる。
【0034】
一方、第4図の改修壁は、不陸調整材8内に異なる材質のパテ12,12が埋設されていないため、第5図(b)のように異なる材質との境界で割れ等の不具合が生じることはない。また、ネット11の厚みは小さいことから、不陸調整材8の厚みを小さくすることができ、従って、不陸調整材8の使用量を少なくすることができる。さらに、ネットを介して不陸調整材8が異なる材質ではなく、同質のパテ12を使用しているため、パテ12を乾燥させる手間が省かれ、施工日数が短縮される。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】改修された改修壁の斜視図である。
【図2】改修された改修壁の厚み方向の断面図である。
【図3】改修される既存壁の斜視図である。
【図4】別の実施の形態を示す水平断面図である。
【図5】(a)は参考例に係る改修壁を示す水平断面図であり、(b)は(a)の改修壁に亀裂が生じた状態を示す水平断面図である。
【符号の説明】
【0036】
5 既存サイディング
7 プライマー
8 不陸調整材
9 下塗り材
10 上塗り材
11 ガラスネット
12 パテ
13 亀裂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
目地部を有する既存壁の改修の際の板間処理方法において、
該既存壁の表面のうち少なくとも該目地部及び該目地部の周辺部に、該目地部を跨ぐように不陸調整材を塗る第1の不陸調整材塗布工程と、
次いで該不陸調整材の上に、該目地部を跨ぐようにネットを配置する工程と、
その後、該既存壁の表面に、該ネットが埋没するように該不陸調整材を塗って不陸を調整する第2の不陸調整材塗布工程と、
を有することを特徴とする既存壁の板間処理方法。
【請求項2】
請求項1において、前記第1の不陸調整材塗布工程の前に、前記既存壁にプライマーを塗布するプライマー塗布工程を行うことを特徴とする既存壁の板間処理方法。
【請求項3】
目地部を有する既存壁の改修壁において、
既存壁と、
該既存壁の表面に設けられた不陸調整材と、
該不陸調整材の内部であって該既存壁の目地部に沿う位置に配置されたネットと、
を有することを特徴とする改修壁。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の工法により既存壁が改修されてなる改修壁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−283446(P2006−283446A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−106274(P2005−106274)
【出願日】平成17年4月1日(2005.4.1)
【出願人】(000000479)株式会社INAX (1,429)