既設基礎補強方法および既設基礎補強構造
【課題】環境・騒音等を含めた「居ながら施工」は勿論のこと、狭小地において補強用鉄板を簡便かつ確実に基礎梁部に固定して既設基礎を補強することができる、既設基礎補強方法および既設基礎補強構造を提供する。
【解決手段】基礎梁部11の側面11aの長手方向に、所定間隔で複数のアンカー挿入穴11a1を開設するアンカー挿入穴開設工程と、アンカー体挿通孔611,621が開設された長尺状補強用鉄板61および座金状補強用鉄板62を設置する補強用鉄板設置工程と、接着系あと施工アンカーのアンカー体4を打設するアンカー打設工程と、接着系あと施工アンカーのアンカー体4の頭部にナット82を取り付け、当該ナット82の締め付けにより長尺状補強用鉄板61および座金状補強用鉄板62を基礎梁部11に固定する補強用鉄板固定工程と、を有する。
【解決手段】基礎梁部11の側面11aの長手方向に、所定間隔で複数のアンカー挿入穴11a1を開設するアンカー挿入穴開設工程と、アンカー体挿通孔611,621が開設された長尺状補強用鉄板61および座金状補強用鉄板62を設置する補強用鉄板設置工程と、接着系あと施工アンカーのアンカー体4を打設するアンカー打設工程と、接着系あと施工アンカーのアンカー体4の頭部にナット82を取り付け、当該ナット82の締め付けにより長尺状補強用鉄板61および座金状補強用鉄板62を基礎梁部11に固定する補強用鉄板固定工程と、を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の基礎に関し、特に、耐震性に劣る既存建築物の基礎を簡便かつ確実に効率良く補強することができる既設基礎補強方法および既設基礎補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、木造建築物の中で新耐震基準以前に建設された建築物は数多く存在する。新耐震基準以前の建築物は、当時の建築基準法により設計されているため無筋コンクリートの基礎が用いられている場合が多い。その後の阪神淡路大震災等で甚大な被害を受けたことが報告されている。
【0003】
地震等により生じたコンクリートのクラックをコンクリートにより埋めて修繕する方法も取られているが、亀裂が生じてしまった部分にコンクリートで補強しても耐力上昇を見込むことはできない。
【0004】
そこで、地震被害状況により建築基準法が見直され、所定量の鉄板を基礎に配設するなどの耐震性能の基準が引き上げられ、既設基礎の補強方法についても、様々な工法が提案されている。
【0005】
そこで、例えば、特許文献1には、無筋コンクリートからなる布基礎又はベタ基礎の片側側面又或いは両側側面に、所定間隔をおいて上下二段で、長尺の金属薄板を複数つなぎ合わせて帯状に連結し、かつ、つなぎ目の部分を二重構造とすると共に、金属薄板を、その図6に示すように、あと施工アンカーとして、ネジ固定式アンカーであるハードエッジアンカーを用いて固定する無筋コンクリートからなる布基礎又はベタ基礎の補強構造が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−053607号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、前述の特許文献1に記載の従来の既設基礎補強方法および既設基礎補強構造は、長尺の金属薄板を複数つなぎ合わせて帯状に連結し、かつ、つなぎ目の部分を二重構造とすると共に、金属薄板の連結部を、ねじ固定式のあと施工アンカーを用いて固定しているため、アンカー部分がピン支持となり、金属薄板が回転するおそれがあった。そのため、連結された金属薄板が一体的に作用せず、バラバラに動くことにより、面外方向の抵抗力も弱くなり、金属薄板の中には面外座屈を生じ、簡便かつ確実に基礎梁部の補強を行うには不十分である、という課題があった。
【0008】
特に、特許文献1に記載の従来の既設基礎補強方法および既設基礎補強構造では、あと施工アンカーとして、その図6に示すようにネジ固定式アンカーを用いているため、既設基礎のコンクリート強度が低い場合には、固着力が低くなる一方、既設基礎のコンクリート強度が高い場合には、ネジ固定式アンカーのネジ山が損傷してアンカー挿入穴に引っ掛かり難くなり、固着力が低下し易い、という問題がある。さらに、ネジ固定式アンカーは、接着系アンカーに較べて、アンカー挿入穴に対するガタツキが大きくなり、応力が均等に伝達しにくい、という問題点もある。
【0009】
そこで、本発明は、環境・騒音等を含めた「居ながら施工」は勿論のこと、狭小地において簡便かつ確実に補強用鉄板を基礎梁部に固定して既設基礎を補強することができる、既設基礎補強方法および既設基礎補強構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するため、本願の請求項1に係る発明の既設基礎補強方法は、既設基礎の基礎梁部の少なくとも一方の側面の長手方向に、所定間隔で複数のアンカー挿入穴を開設するアンカー挿入穴開設工程と、前記アンカー挿入穴開設工程によって開設された複数の前記アンカー挿入穴に、接着剤を内包したアンカー体固着用カプセルを挿入するカプセル挿入工程と、複数の前記アンカー挿入穴に対応した位置にアンカー体挿通孔が開設された補強用鉄板を、そのアンカー体挿通孔を前記アンカー挿入穴に合わせて設置する補強用鉄板設置工程と、前記アンカー体固着用カプセルをアンカー体の先端により破砕しながら前記アンカー挿入穴に挿入し、破砕された前記アンカー体固着用カプセル内の接着剤により前記アンカー挿入穴に前記アンカー体を打設するアンカー打設工程と、前記アンカー打設工程による前記アンカー体の打設後、前記アンカー体の頭部にナットを取り付け、当該ナットの締め付けにより前記補強用鉄板を前記基礎梁部に固定する補強用鉄板固定工程と、を有することを特徴とする。
この方法によれば、複数の接着系あと施工アンカーのアンカー体を用いて補強用鉄板を基礎梁部に固定するようにしたため、環境・騒音等を含めた「居ながら施工」は勿論のこと、既設基礎に余計なダメージを与えることなく、狭小地において簡便かつ確実に補強用鉄板を基礎梁部に固定して既設基礎を補強することができる。
また、本願の請求項2に係る発明の既設基礎補強方法は、請求項1記載の既設基礎補強方法において、前記補強用鉄板のアンカー体挿通孔の内径を、前記アンカー体の外径より大きくし、前記補強用鉄板のアンカー体挿通孔の内周面と、前記アンカー体の外周面との間の空隙部分に、前記アンカー挿入穴から溢れ出た前記接着剤を充填させる、ことを特徴とする。
これにより、補強用鉄板と接着系あと施工アンカーのアンカー体とがナットの締め付けだけでなく、接着剤によっても接合するので、補強用鉄板とアンカー体との接合力がさらに向上し、既設基礎をより強固に補強することができる。
また、本願の請求項3に係る発明の既設基礎補強方法は、請求項1または請求項2記載の既設基礎補強方法において、前記補強用鉄板は、複数の前記アンカー挿入穴に対応した位置にアンカー体挿通孔が開設された長尺状補強用鉄板と、前記複数のアンカー挿入穴毎に設けられ、前記複数のアンカー挿入穴に対応したアンカー体挿通孔が開設され、前記長尺状補強用鉄板にその前記アンカー体挿通孔部分にて重ねて使用される座金状補強用鉄板と、であり、前記長尺状補強用鉄板には、複数の前記アンカー体挿通孔それぞれの周囲に凹部または凸部が形成されている一方、前記座金状補強用鉄板には、それぞれの前記アンカー体挿通孔の周囲に、前記長尺状補強用鉄板の前記凹部または凸部に対応する位置に、それぞれの前記凹部または凸部に嵌合される凸部または凹部が形成されており、前記補強用鉄板設置工程では、前記長尺状補強用鉄板の前記凹部または凸部に、前記座金状補強用鉄板の凸部または凹部を嵌合し、前記長尺状補強用鉄板の前記アンカー体挿通孔と前記座金状補強用鉄板の前記アンカー体挿通孔とを合わせて重ねる、ことを特徴とする。
これにより、長尺状補強用鉄板と座金状補強用鉄板とが溶接等しなくても固定されることになり、それらに応力が加わっても、回転することがなくなり、既存基礎にかかった応力を確実に長尺状補強用鉄板と座金状補強用鉄板とに伝達することが可能となる。
また、本願の請求項4に係る既設基礎補強方法は、請求項1〜請求項3いずれか一の請求項に記載の既設基礎補強方法において、前記長尺状補強用鉄板は、前記基礎梁部の少なくとも一方の側面にてその長手方向に延び、少なくとも上下の水平梁部と、その上下の水平梁部を連結する斜め梁部とを有するトラス構造であって、前記上下の水平梁部と前記斜め梁部との連結部分に、前記アンカー体挿通孔が開設されているトラス状補強用鉄板、ことを特徴とする。
これにより、長尺状補強用鉄板はトラス構造であるので、既存基礎にかかった応力をより確実に受けることが可能となる。
また、本願の請求項5に係る既設基礎補強方法は、請求項1〜請求項4いずれか一の請求項に記載の既設基礎補強方法において、さらに、前記基礎梁部の少なくとも一方の側面の長手方向に所定間隔で形成されたアンカー挿入穴に打設された前記接着系あと施工アンカーのアンカー体と、前記基礎梁部上に設けられている少なくとも土台とを連結する補強金物を設置する補強金物設置工程を有する、ことを特徴とする。
これにより、補強金物と接着系あと施工アンカーのアンカー体とを介して土台と補強用鉄板等も連結されるので、既設基礎だけでなく土台等も一体化され、補強用鉄板と補強金物等により建物全体として補強することが可能となる。
また、本願の請求項6に係る発明の既設基礎補強構造は、請求項1〜請求項5のいずれか一の請求項に記載された既設基礎補強方法により補強されたことを特徴とする。
この構造によれば、複数の接着系あと施工アンカーを用いて補強用鉄板が基礎梁部に固定されるため、既設基礎に余計なダメージを与えることなく、簡便かつ確実に補強用鉄板を基礎梁部に固定して既設基礎を補強することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の既設基礎補強方法および既設基礎補強構造によれば、複数の接着系あと施工アンカーを用いて補強用鉄板を基礎梁部に固定するようにしたため、環境・騒音等を含めた「居ながら施工」は勿論のこと、狭小地において簡便かつ確実に補強用鉄板を基礎梁部に固定して既設基礎を補強することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】(a),(b)は、それぞれ、実施形態1の既設基礎補強方法により補強した既設基礎補強構造における補強用鉄板の配設状況を示す図、A−A線断面図である。
【図2】図1(b)におけるB部分を拡大した拡大断面図である。
【図3】(a)〜(d)は、実施形態1の既設基礎補強方法における各工程を示す図である。
【図4】(a)〜(d)は、実施形態1の既設基礎補強方法の他の例における各工程を示す図である。
【図5】(a)〜(d)は、実施形態1の既設基礎補強方法のさらに他の例における各工程を示す図である。
【図6】(a)〜(c)は、それぞれ、実施形態2の長尺状補強用鉄板の平面図、C−C線断面図、D−D線断面図である。
【図7】(a)〜(c)は、それぞれ、実施形態2の座金状補強用鉄板の平面図、E−E線断面図、F−F線断面図である。
【図8】図6および図7に示す実施形態2の長尺状補強用鉄板と座金状補強用鉄板とを重ねた状態を示す図である。
【図9】(a),(b)は、それぞれ、実施形態3のトラス状補強用鉄板の設置例を示す正面図、G−G線断面図である。
【図10】(a),(b)は、それぞれ、実施形態3のトラス状補強用鉄板の他の設置例を示す正面図、H−H線断面図である。
【図11】(a),(b)は、それぞれ、実施形態3のトラス状補強用鉄板のさらに他の設置例をを示す正面図、I−I線断面図である。
【図12】(a),(b)は、それぞれ、実施形態4の既設基礎補強方法および既設基礎補強構造の補強金物設置工程における補強金物の設置例を示す正面図、J−J線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る既設基礎補強方法および既設基礎補強構造の実施形態1〜3について説明する。
【0014】
実施形態1.
まず、実施形態1の既設基礎補強方法および既設基礎補強構造について説明する。
【0015】
図1(a),(b)は、それぞれ、実施形態1の既設基礎補強方法により補強した既設基礎補強構造における補強用鉄板の配設状況を示す図、A−A線断面図である。また、図2は、図1(b)におけるB部分を拡大した拡大断面図である。
【0016】
図1(a),(b)に示すように、既設基礎1は、基礎梁部11とフーチング部12とからなり、実施形態1の既設基礎補強構造では、基礎梁部11の側面11aの上下それぞれの長手方向に、長尺状補強用鉄板61および複数の座金状補強用鉄板62を重ねて配設して、接着系あと施工アンカーのアンカー体4等により基礎梁部11に固定している。なお、図1(a),(b)において、2は土台、3は柱である。
【0017】
そして、図2に示すように、基礎梁部11の側面11aにはアンカー挿入穴11a1が開設されており、このアンカー挿入穴11a1にアンカー体固着用カプセル(図示せず)が挿入され、アンカー体固着用カプセルに内包されたセメント等の無機系接着剤によりアンカー体4が固定される。そして、このアンカー体4の突出部分に、長尺状補強用鉄板61と、座金状補強用鉄板62とを重ねた状態で設置して、その上からナット82により締め付けて固定する。なお、長尺状補強用鉄板61と、座金状補強用鉄板62とには、後述の図3(b)に示すように、それぞれ、アンカー体4を挿通させるアンカー体挿通孔611,621が形成されている。なお、アンカー体4としては、図示した異形鉄筋の他に、全ネジボルトなども使用可能である。
【0018】
なお、実施形態1の既設基礎補強方法は、アンカー挿入穴開設工程と、カプセル挿入工程と、補強用鉄板設置工程と、アンカー打設工程と、補強用鉄板固定工程とを有している。以下、これらの各工程を、図面を参照して分説する。
【0019】
図3(a)〜(e)は、実施形態1の既設基礎補強方法における各工程を示す図である。
【0020】
≪アンカー挿入穴開設工程(図3(a))≫
まず、アンカー挿入穴開設工程では、図3(a)に示すように、既設基礎1の基礎梁部11の少なくとも一方の側面の上下それぞれの長手方向に、所定間隔でアンカー挿入穴11a1を開設する。本発明では、基礎梁部11の両側面にアンカー挿入穴11a1を設けても良いが、この実施形態1では、一方の側面11aにのみアンカー挿入穴11a1を開設するものとする。また、アンカー挿入穴11a1は、上下方向に2箇所でなく、1箇所だけでも、さらには3箇所以上開設しても勿論よい。
【0021】
≪カプセル挿入工程および補強用鉄板設置工程(図3(b)≫
次のカプセル挿入工程および補強用鉄板設置工程では、図3(b)に示すように、基礎梁部11の側面11aに所定間隔で空けられたアンカー挿入穴11a1に、無機系接着剤等を内包したアンカー体固着用カプセル5を挿入すると共に、各アンカー挿入穴11a1に、長尺状補強用鉄板61のアンカー体挿通孔611と、座金状補強用鉄板62それぞれのアンカー体挿通孔621とを合わせて配設する。ここで、本実施形態1では、カプセル挿入工程の後に補強用鉄板設置工程を行って、アンカー体固着用カプセル5の挿入後に、長尺状補強用鉄板61と座金状補強用鉄板62とを配設しても良いし、それとは逆に、補強用鉄板設置工程の後にカプセル挿入工程を行って、長尺状補強用鉄板61と座金状補強用鉄板62とを配設した後、アンカー体固着用カプセル5を挿入するようにしてもどちらでも良い。
【0022】
ここで、本実施形態1では、補強用鉄板設置工程では、図3(b)に示すように、長尺状補強用鉄板61のアンカー体挿通孔611と、座金状補強用鉄板62それぞれのアンカー体挿通孔621とを合わせて配設しているため、アンカー挿入穴11a1の周囲では、長尺状補強用鉄板61に、座金状補強用鉄板62が重なり、増厚されている。これにより、アンカーのせん断耐力の増加だけでなく、長尺状補強用鉄板61の曲げ抵抗やせん断抵抗などの補強効果を増大させることができる。なお、長尺状補強用鉄板61と座金状補強用鉄板62の接合部分の板厚は、例えば、接着系あと施工アンカーのアンカー体4の外径の0.7倍以上とする。これは、その接合部分の板厚がアンカー体4の外径の0.7倍より小さいと、アンカー体4を固着している接着剤51が破壊されることが実験等により分かったからである。
【0023】
また、本実施形態1の場合、長尺状補強用鉄板61のアンカー体挿通孔611と、座金状補強用鉄板62のアンカー体挿通孔621とは、位置合わせされた状態で、長尺状補強用鉄板61と座金状補強用鉄板62とがその隅部で溶接等により接合されている。これにより、長尺状補強用鉄板61と座金状補強用鉄板62とが固定されて、応力がかかっても、ズレたり回転等することがなくなるので、補強度が向上している。
【0024】
≪アンカー打設工程(図3(c))≫
次のアンカー打設工程では、図3(c)に示すように、アンカー挿入穴11a1に挿入されたアンカー体固着用カプセル5に対し、ハンマードリル等に装着したアンカー体4を挿入して、アンカー体4の回転と打撃等によりアンカー体固着用カプセル5を破砕する。すると、アンカー体4の先端により、アンカー体固着用カプセル5が破砕され、アンカー体固着用カプセル5の中からセメント粉体や水等の内容物が流れ出し、さらにアンカー体4の先端により攪拌されてモルタル化して接着剤51となり、アンカー挿入穴11a1にアンカー体4を固着する。
【0025】
ここで、本実施形態1では、あと施工アンカーとして、従来技術のように機械式のあと施工アンカーを使用するのではなく、アンカー体固着用カプセル5とアンカー体4とからなる接着系のあと施工アンカーを使用する。これは、機械式のあと施工アンカーは、穿孔径も大きく、作業効率が悪いばかりか、アンカー打設後においても穿孔した部分に空隙部が残り、固着強度の点で問題があるからである。これに対し、上記構成の接着系あと施工アンカーでは、アンカー挿入穴11a1に空隙部が残らないため、アンカーにせん断力が作用した場合に、その応力伝達を確実に図ることができるからである。また、地震等が発生すると、既設基礎1には、縦横の地震力により面内だけでなく、面外にも変形する。そのため、基礎梁部11に補強用鉄板61,62を固定している接着系あと施工アンカーのアンカー体4には、引張力やせん断力が作用する。鋼板のネジ結合(ボルト接合)においては、引張力とせん断力の組み合わせ応力が作用すると、せん断力の程度により引張力が低減される。しかし、本実施形態1では、アンカー体固着用カプセル5内の無機系接着剤51がアンカー体4周りに充填されるため、引張力の低減度合いが大きく改善され、固着力が向上する。
【0026】
また、従来の機械式のあと施工アンカーにおけるネジ結合(ボルト接合)は、1つの被接合物に複数の孔を有していると、ボルト全部で均等に応力を負担することが設計の前提にあるが、施工精度等によりどこか一箇所の孔にてボルトと競ると、そのボルトに応力が集中する場合があり、その応力集中部分で早期破断が発生する可能性がある。しかし、本実施形態1では、接着系あと施工アンカーのアンカー体4の周りに接着剤51が充填されているため、長尺状補強用鉄板61と座金状補強用鉄板62と、アンカー体4が競ることもなく、応力集中なども防止することができる。
【0027】
また、接着系あと施工アンカーの接着剤には、有機系と無機系とがあり、本発明では、どちらでも良いが、本実施形態1では、無機系の接着剤を使用することする。これは、無機系の接着系あと施工アンカーには、不燃性・耐熱性に優れる、紫外線劣化に強い、耐候性に優れる、既設基礎1のコンクリートと同質であるため、既設基礎1と一体化が図れる、揮発性有機化合物(VOC)を含んでいないため、人体・環境に優しい等の優れた効果を有するからである。また、有機系接着剤は、剛性がコンクリートより低く、変形し易い。充填量にもよるがコンクリートと同等の剛性が得難い等の不利な点も多いからである。
【0028】
また、本実施形態1では、長尺状補強用鉄板61のアンカー体挿通孔611と、座金状補強用鉄板62のアンカー体挿通孔621の孔径は、アンカー体4の外径以上とする。これにより、長尺状補強用鉄板61のアンカー体挿通孔611と、座金状補強用鉄板62のアンカー体挿通孔621とにアンカー体4に簡便に通すことが可能になると共に、アンカー体固着用カプセル5に内包されていた無機系接着剤51等が攪拌され、アンカー挿入穴11a1より漏れ出し、長尺状補強用鉄板61のアンカー体挿通孔611と、座金状補強用鉄板62のアンカー体挿通孔621まで溢れ出て固まり、基礎梁部11と、アンカー体4と、長尺状補強用鉄板61および座金状補強用鉄板62と、座金81やナット82とを接着剤51によっても固着し、補強効果が向上する。
【0029】
そのため、接着剤51は、既存基礎1や、長尺状補強用鉄板61、座金状補強用鉄板62、座金81、ナット82、アンカー体4により周囲を囲まれて拘束されるため、固化した接着剤51の強度が数倍にもなり、アンカー体4も接着剤51によって、点ではなく面で応力を受けることになる。その結果、引張力の低減度合いが大きく改善されるだけでなく、アンカー体4がせん断破壊するまで、固化した接着剤51が破壊することがなくなる。ここで、長尺状補強用鉄板61と座金状補強用鉄板62とを重ねた接合部分の厚さが、アンカー体4の外径の0.7倍を下回ると、その接合部分の厚さが薄くなり、接着剤51が破壊されるおそれが出てくるので、本実施形態1では、接合部分の厚さをアンカー体4の外径の0.7倍以上にする。また、本実施形態1では、長尺状補強用鉄板61のアンカー体挿通孔611と、座金状補強用鉄板62のアンカー体挿通孔621とは、ネジ溝またはネジ山の形成されていない通し穴(バカ孔)とする。なお、長尺状補強用鉄板61のアンカー体挿通孔611と、座金状補強用鉄板62のアンカー体挿通孔621の孔径を基礎梁部11に開設されるアンカー挿入穴11a1の穴径以上とすること、および通し穴(バカ孔)とすることは、本発明では任意である。
【0030】
なお、アンカー打設の際、アンカー体固着用カプセル5内の無機系接着剤(充填材)が、基礎梁部11のアンカー挿入穴11a1の開口部や、長尺状補強用鉄板61のアンカー体挿通孔611および座金状補強用鉄板62のアンカー体挿通孔621から大量に溢れ出しそうになることがあるが、アンカー体4には、予め弾性体からなる漏れ防止具41(図3(c)参照。)が装着され、ある程度の圧では変形しないため、アンカー挿入穴11a1の入り口付近まできた接着剤51を押し返すことにより、接着剤51が確実に混ざり、安定した強度を発現することができる。
【0031】
≪補強用鉄板固定工程(図3(d))≫
補強用鉄板固定工程では、接着系あと施工アンカーのアンカー体4の打設後、漏れ防止具41が装着されている場合には、漏れ防止具41を取外して、アンカー体4の頭部に座金81を介してナット82を取り付け、当該ナット82の締め付けにより長尺状補強用鉄板61と座金状補強用鉄板62とを基礎梁部11に固定する。
【0032】
なお、本実施形態1では、図3(a)〜(d)に示すような順番で既設基礎補強方法の各工程を説明したが、本発明ではこれに限らず、図4(a)〜(d)に示すような順番や、図5(a)〜(d)に示すような順番で既設基礎補強方法の各工程を構成してもよい。
【0033】
図4(a)〜(d)は、実施形態1の既設基礎補強方法の他の例における各工程を示す図である。
【0034】
図3(a)〜(d)に示す実施形態1の既設基礎補強方法では、図3(c)に示すアンカー打設工程の前に、図3(b)に示すカプセル挿入工程および補強用鉄板設置工程を行っているが、図4(a)〜(d)に示す実施形態1の既設基礎補強方法では、図4(a)に示すアンカー挿入穴開設工程の次に、図4(b)に示すカプセル挿入工程を行い、次に図4(c)に示すアンカー打設工程を行って、最後に図4(d)に示す補強用鉄板設置工程と補強用鉄板固定工程とを行う方法である。この方法によれば、補強用鉄板設置工程の際には、接着系あと施工アンカーのアンカー体4が打設されているので、長尺状補強用鉄板61と座金状補強用鉄板62とを簡便にアンカー体4に装着することが可能になる。また、この場合、図4(c)に示すアンカー打設工程の際には、長尺状補強用鉄板61と座金状補強用鉄板62とが基礎梁部11に配設されていないので、接着剤51は漏れ防止具41によりアンカー挿入穴11a1に押し返され、アンカー挿入穴11a1から漏れ出すことがなくなり、長尺状補強用鉄板61のアンカー体挿通孔611と座金状補強用鉄板62のアンカー体挿通孔621まで到達しない。そのため、長尺状補強用鉄板61の一部に空隙部61aを設けておき、図4(d)に示す補強用鉄板設置工程と補強用鉄板固定工程の際に、長尺状補強用鉄板61の空隙部61aから別途、モルタルや接着剤(充填剤)等を充填させるようにすると良い。
【0035】
図5(a)〜(d)は、実施形態1の既設基礎補強方法のさらに他の例における各工程を示す図である。
【0036】
図4(a)〜(d)に示す実施形態1の既設基礎補強方法の他の例では、図4(c)に示すようにアンカー打設工程において、接着系あと施工アンカーのアンカー体4に漏れ防止具41を装着した状態でアンカー体固着用カプセル5を破砕してその内容物を攪拌したが、図5(c)に示すアンカー打設工程では、アンカー体4に漏れ防止具41を装着せずにアンカー体固着用カプセル5を破砕して接着剤等を攪拌する。ただし、この場合には、アンカー体固着用カプセル5内の接着剤等の量を少なめにして、接着剤51の漏れを最小にすると良い。このようにすれば、漏れ防止具41の装着および脱着の作業が不要になり、作業がより簡便になる。なお、図5(d)に示す場合も、図4(d)に示す場合と同様に、長尺状補強用鉄板61の一部に空隙部61aを設けて、モルタルや接着剤(充填剤)等を後から別途充填させるようにするとよい。
【0037】
従って、本実施形態1の既設基礎補強方法および既設基礎補強構造によれば、複数のアンカー体4および無機系のアンカー体固着用カプセル5を用いて、基礎梁部11の長手方向に延びる長尺状の長尺状補強用鉄板61と、座金状補強用鉄板62とを基礎梁部11に固定するようにしたため、環境・騒音等を含めた「居ながら施工」は勿論のこと、既設基礎1に機械式のあと施工アンカー等による余計なダメージを与えることがなくなり、狭小地において長尺状補強用鉄板61と座金状補強用鉄板62とを簡便かつ確実に基礎梁部11に固定して、新設の鉄板コンクリート基礎と同等の強度とすることができる。
【0038】
特に、本実施形態1では、無機系のアンカー体固着用カプセル5を使用することにより、アンカー挿入穴11a1と、接着系あと施工アンカーのアンカー体4との間が接着剤等51により埋まり、アンカー挿入穴11a1とアンカー体4との間に空隙部分が形成されないので、後施工でも、既設基礎1の基礎梁部11の強度を維持したまま補強用鉄板61,62とが一体化される。これにより、既設基礎1の基礎梁部11の強化を図ることができ、新設の鉄筋コンクリート基礎と同等の強度とすることも可能となる。また、無機系のアンカー体固着用カプセル5の破砕によって形成される接着剤の固化物は、耐久性、耐火性、耐候性に優れるため、恒久的な基礎補強が可能となる。
【0039】
また、本実施形態1では、長尺状補強用鉄板61と座金状補強用鉄板62それぞれのアンカー体挿通孔611,621が接着系あと施工アンカーのアンカー体4の外径より大きい径であるので、アンカー体固着用カプセル5内のセメント粉体等を含む無機系接着剤(充填材)等が攪拌され、長尺状補強用鉄板61と座金状補強用鉄板62にも達して固まるので、長尺状補強用鉄板61および座金状補強用鉄板62と、アンカー体4等との結合力を高めることができる。
【0040】
実施形態2.
次に、実施形態2の既設基礎補強方法および既設基礎補強構造について説明する。
【0041】
実施形態2の既設基礎補強方法および既設基礎補強構造では、長尺状補強用鉄板に座金状補強用鉄板を重ねて接合する際に、溶接等をしなくても、長尺状補強用鉄板と座金状補強用鉄板との位置ズレや回転等を簡単に防止できるようにしたことを特徴とする。
【0042】
図6(a)〜(c)は、それぞれ、実施形態2の長尺状補強用鉄板61’の平面図、C−C線断面図、D−D線断面図である。また、図7(a)〜(c)は、それぞれ、実施形態2の座金状補強用鉄板62’の平面図、E−E線断面図、F−F線断面図である。図8は、図6および図7に示す実施形態2の長尺状補強用鉄板61’と座金状補強用鉄板62’とを重ねた状態を示す図である。
【0043】
つまり、実施形態2では、図6(a)〜(c)に示すように、長尺状補強用鉄板61’の複数のアンカー体挿通孔611’それぞれの周囲に、凹部(貫通孔)または凸部が形成されている。なお、ここでは、例えば、4つの凹部(貫通孔)612’〜615’が形成されているものとする。
【0044】
また、図7(a)〜(c)に示すように、座金状補強用鉄板62’におけるアンカー体挿通孔621’それぞれの周囲には、長尺状補強用鉄板61’の凹部612’〜615’に対応する位置に、その凹部612’〜615’にそれぞれ嵌合する凸部622’〜625’が形成されている。
【0045】
そのため、図8に示すように、長尺状補強用鉄板61’の複数のアンカー体挿通孔611’それぞれの周囲に、凹部または凸部が形成されている。なお、ここでは、例えば、4つの凹部612’〜615’が形成されているものとする。
【0046】
また、図7(a)〜(c)に示すように、アンカー体挿通孔611’,621’が一致するように長尺状補強用鉄板61’に座金状補強用鉄板62’を重ねると、長尺状補強用鉄板61’の凹部612’〜615’に座金状補強用鉄板62’の凸部622’〜625’が嵌合することになり、溶接等しなくても、長尺状補強用鉄板61’と座金状補強用鉄板62’とが一体化され、長尺状補強用鉄板61’と座金状補強用鉄板62’とが回転等してズレることを防止することができる。
【0047】
従って、実施形態2の既設基礎補強方法および既設基礎補強構造によれば、前述の実施形態1と同様の効果が得られると共に、長尺状補強用鉄板61’に座金状補強用鉄板62’を重ねて接合する際、長尺状補強用鉄板61’の凹部612’〜615’に座金状補強用鉄板62’の凸部622’〜625’が嵌合されるため、溶接等しなくても長尺状補強用鉄板61’と座金状補強用鉄板62’との位置ズレや回転等を簡単に防止することができ、熟練工でなくても、簡便に施工が可能となる。
【0048】
特に、本実施形態2では、実施形態1と同様に、長尺状補強用鉄板61’と座金状補強用鉄板62’とには、それぞれ、接着剤51を溢れ出させるため接着系あと施工アンカーのアンカー体4の外径より大きい径のアンカー体挿通孔611’,621’が開設されており、本来なら長尺状補強用鉄板61’と座金状補強用鉄板62’とはずれ易く、アンカー体挿通孔611’,621’の中心を合わせ難いが、長尺状補強用鉄板61’の凹部612’〜615’に座金状補強用鉄板62’の凸部622’〜625’が嵌合されることにより、熟練工でなくても、簡単にアンカー体挿通孔611’,621’の中心を合わせて施工することが可能となる。
【0049】
実施形態3.
次に、実施形態3の既設基礎補強方法および既設基礎補強構造について説明する。
【0050】
実施形態3では、トラス状補強用鉄板またはトラス構造に組んだ補強用鉄板により補強したことを特徴とする。
【0051】
図9(a),(b)は、それぞれ、実施形態3のトラス状補強用鉄板63の設置例を示す正面図、G−G線断面図である。
【0052】
図9(a),(b)に示すように、実施形態3のトラス状補強用鉄板63は、基礎梁部11の側面11aにてその長手方向に延び、少なくとも上下の水平梁部631と、その上下の水平梁部631を連結する斜め梁部632とを有するトラス構造であって、上下の水平梁部631と斜め梁部632との交差部分に、アンカー体挿通孔(図示せず。)が開設され、接着系あと施工アンカーのアンカー体4が打設される。
【0053】
これにより、実施形態3のトラス状補強用鉄板63では、主に、上下の水平梁部631が既設基礎1に加わる曲げ応力に対抗する一方、斜め梁部632が既設基礎1に加わるせん断曲げ応力に対抗することになり、トラス構造とも相まって既設基礎1を効果的に補強することが可能となる。
【0054】
そして、図9(a),(b)に示すように、上下の水平梁部631と斜め梁部632との交差部分に、実施形態1と同様の座金状補強用鉄板62を重ねて接合して、トラス状補強用鉄板63のアンカー体挿通孔(図示せず。)と、座金状補強用鉄板62のアンカー体挿通孔621に接着系あと施工アンカーのアンカー体4を通し、アンカー体4の頭部をナット82により締め付けて、トラス状補強用鉄板63と座金状補強用鉄板62とを基礎梁部11に固定している。
【0055】
これにより、1枚のトラス状補強用鉄板63と、座金状補強用鉄板62とが、実施形態1と同様に、接着系あと施工アンカーのアンカー体4との連結部分で重ねて増厚されるので、この点でも既設基礎1を効果的に補強することが可能となる。
【0056】
図10(a),(b)は、それぞれ、実施形態3のトラス状補強用鉄板63の他の設置例を示す正面図、H−H線断面図である。
【0057】
図10(a),(b)の例では、図9(a),(b)に示すトラス状補強用鉄板63と同じものを使用しており、異なる点は、接着系あと施工アンカーのアンカー体4の打接箇所を2倍に増やしている。つまり、図10(a),(b)に示す例では、図9(a),(b)に示す例と同様に、上下の水平梁部631と斜め梁部632との交差部分にアンカー体4を打設するだけでなく、上下の水平梁部631それぞれ交差部分間の中間部分にも、座金状補強用鉄板62を重ねてアンカー体4を打設して、トラス状補強用鉄板63と座金状補強用鉄板62とを基礎梁部11に固定している。
【0058】
これにより、図10(a),(b)に示す例の場合、図9(a),(b)に示す例の場合よりも、トラス状補強用鉄板63と基礎梁部11との固定箇所が増えるので、この点で既設基礎1をより強固に補強することが可能となる。
【0059】
図11(a),(b)は、それぞれ、実施形態3のトラス状補強用鉄板のさらに他の設置例をを示す正面図、I−I線断面図である。
【0060】
図11(a),(b)に示す例は、図9(a),(b)や図10(a),(b)に示す例とは異なり、一体式のトラス状補強用鉄板63を使用するのではなく、基礎梁部11の上下に設けた実施形態1,2と同様の長尺状補強用鉄板61に、同幅の短尺状補強用鉄板64をトラス構造になるように斜めに配設した既設基礎補強構造である。そして、長尺状補強用鉄板61と、2枚の短尺状補強用鉄板64との交差部分に、長尺状補強用鉄板61のアンカー体挿通孔611と、2枚の短尺状補強用鉄板64のアンカー体挿通孔(図示せず。)とに接着系あと施工アンカーのアンカー体4を通してナット82により締め付けて、トラス構造の長尺状補強用鉄板61と2枚の短尺状補強用鉄板64とを基礎梁部11に固定している。
【0061】
これにより、一体式のトラス状補強用鉄板63を使用しなくても、長尺状補強用鉄板61と、短尺状補強用鉄板64とを使用することによりトラス構造を実現できると共に、接着系あと施工アンカーのアンカー体4を通す交差部分では、座金状補強用鉄板62を省略しても、長尺状補強用鉄板61と2枚の短尺状補強用鉄板64との三重構造になり、十分な増厚を確保することも可能となり、補強度が向上する。なお、この図11(a),(b)に示す場合も、アンカー体4が通る交差部分の増厚は、実施形態1,2と同様にアンカー体4の外径の0.7倍以上として、アンカー体4を固着している固化した接着剤51の破壊を防止する。
【0062】
従って、実施形態3の既設基礎補強方法および既設基礎補強構造によれば、前述の実施形態1,2と同様の効果が得られると共に、トラス状補強用鉄板63またはトラス構造に組んだ長尺状補強用鉄板61と短尺状補強用鉄板64とにより基礎梁部11を補強するので、既存基礎1を効率良く補強することができる。
【0063】
なお、本実施形態3では、トラス状補強用鉄板63と座金状補強用鉄板62との間、または長尺状補強用鉄板61と短尺状補強用鉄板64との間の接合については触れなかったが、この接合は、実施形態1のように溶接等により接合しても良いし、あるいは実施形態2のように凹部と凸部との嵌合により接合するようにしてもどちらでも良い。
【0064】
実施形態4.
次に、実施形態4の既設基礎補強方法および既設基礎補強構造について説明する。
【0065】
木造住宅は、柱材にいわゆるホゾが設けられ、土台に差し込まれることで立てられている。しかし、地震の上下動などによりホゾが抜け出て、建物が倒壊する事例が多く見受けられる。現在は、法改正がありホールダウン金物と呼ばれる金物等により柱や土台と基礎が連結されているが、新耐震基準以前の建築物には取り付けられていない。また、土台は、基礎と細いアンカーボルトにより固定されているので、土台と基礎とのより強固な連結も必要である。
【0066】
そこで、実施形態4の既設基礎補強方法および既設基礎補強構造では、前述の実施形態1,2の既設基礎補強方法に対し、さらに、補強金物設置工程を追加したことを特徴とする。
【0067】
つまり、実施形態4の既設基礎補強方法および既設基礎補強構造では、前述の実施形態1,2の既設基礎補強方法のアンカー打設工程と、補強筋配設工程との間に、さらに、基礎梁部11の側面11aに打設された接着系あと施工アンカーのアンカー体4と、基礎梁部11上に設けられている土台2や柱3とを連結する補強金物91,92を設置する補強金物設置工程を設ける。
【0068】
図12(a),(b)は、それぞれ、実施形態4の既設基礎補強方法および既設基礎補強構造の補強金物設置工程における補強金物の設置例を示す正面図、J−J線断面図である。
【0069】
つまり、図12(a)、(b)に示す例では、柱3のある箇所では、長尺補強金物91により、柱3と土台2を基礎梁部11に連結する一方、柱3のない箇所では、短尺補強金物92により、土台2を基礎梁部11に連結する。これにより、基礎梁部11上に設けられている土台2や柱3も、長尺補強金物91や短尺補強金物92により基礎梁部11に連結されるので、柱3や土台2をアンカーボルトやホールダウン金物等により基礎梁部11に連結する場合と較べると、柱3や土台2がトラス状補強用鉄板63を介して基礎梁部11に対し、より一体化するので、柱3や、土台2、既設基礎1の建物全体として補強度がさらに向上し、トラス状補強用鉄板63と長尺補強金物91や短尺補強金物92等により既設基礎1および土台2等が一体化し、建物全体として補強することが可能となる。
【0070】
ここで、本実施形態4では、図12(b)に示すように、トラス状補強用鉄板63の上から長尺補強金物91および短尺補強金物92を重ねて、座金状補強用鉄板62を省略しているが、長尺補強金物91および短尺補強金物92の上にさらに座金状補強用鉄板62を重ねるようしても勿論よい。
【0071】
なお、本実施形態4では、実施形態3のトラス状補強用鉄板63に長尺補強金物91および短尺補強金物92を設けて説明したが、実施形態3の長尺状補強用鉄板61と短尺状補強用鉄板64とのトラス構造に設けても良いし、さらには、実施形態1,2の長尺状補強用鉄板61,61’を使用した既設基礎補強構造に、長尺補強金物91および短尺補強金物92を設けて補強するようにしても勿論良い。
【0072】
また、長尺補強金物91および短尺補強金物92は、プレート状のものでも、隅柱などの外側を覆うようなL字状断面を有する金物でも良い。また、図示はしないが、柱3のある箇所だけ柱3と土台2を基礎梁部11に連結して補強しても良いし、柱3まで連結せずに、土台2と基礎梁部11のみを連結して補強しても良い。また、図示はしないが、さらに、中尺補強金物を用いて、下側の接着系あと施工アンカーのアンカー体4も土台2等と連結し、アンカー体4が設けられている箇所全てに補強金物を連結しても良いし、上側のアンカー体4についても飛び飛びに短尺補強金物92を連結するようにしても勿論よい。
【0073】
従って、実施形態4の既設基礎補強方法および既設基礎補強構造によれば、前述の実施形態1〜3と同様の効果が得られると共に、接着系あと施工アンカーのアンカー体4と、基礎梁部11上に設けられている少なくとも土台2とが補強金物によって連結されるので、さらに、基礎梁部11上に設けられている土台2等も含め建物全体での補強度を向上させることが可能となる。
【符号の説明】
【0074】
1 既設基礎
11 基礎梁部
11a 側面
11a1 アンカー挿入穴
12 フーチング部
2 土台
3 柱
4 アンカー体
5 アンカー体固着用カプセル
51 接着剤
61,61’ 長尺状補強用鉄板
611,611’ アンカー体挿通孔
62,62’ 座金状補強用鉄板
621,621’ アンカー体挿通孔
63 トラス状補強用鉄板
64 短尺状補強用鉄板
82 ナット
91 長尺補強金物
92 短尺補強金物
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の基礎に関し、特に、耐震性に劣る既存建築物の基礎を簡便かつ確実に効率良く補強することができる既設基礎補強方法および既設基礎補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、木造建築物の中で新耐震基準以前に建設された建築物は数多く存在する。新耐震基準以前の建築物は、当時の建築基準法により設計されているため無筋コンクリートの基礎が用いられている場合が多い。その後の阪神淡路大震災等で甚大な被害を受けたことが報告されている。
【0003】
地震等により生じたコンクリートのクラックをコンクリートにより埋めて修繕する方法も取られているが、亀裂が生じてしまった部分にコンクリートで補強しても耐力上昇を見込むことはできない。
【0004】
そこで、地震被害状況により建築基準法が見直され、所定量の鉄板を基礎に配設するなどの耐震性能の基準が引き上げられ、既設基礎の補強方法についても、様々な工法が提案されている。
【0005】
そこで、例えば、特許文献1には、無筋コンクリートからなる布基礎又はベタ基礎の片側側面又或いは両側側面に、所定間隔をおいて上下二段で、長尺の金属薄板を複数つなぎ合わせて帯状に連結し、かつ、つなぎ目の部分を二重構造とすると共に、金属薄板を、その図6に示すように、あと施工アンカーとして、ネジ固定式アンカーであるハードエッジアンカーを用いて固定する無筋コンクリートからなる布基礎又はベタ基礎の補強構造が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−053607号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、前述の特許文献1に記載の従来の既設基礎補強方法および既設基礎補強構造は、長尺の金属薄板を複数つなぎ合わせて帯状に連結し、かつ、つなぎ目の部分を二重構造とすると共に、金属薄板の連結部を、ねじ固定式のあと施工アンカーを用いて固定しているため、アンカー部分がピン支持となり、金属薄板が回転するおそれがあった。そのため、連結された金属薄板が一体的に作用せず、バラバラに動くことにより、面外方向の抵抗力も弱くなり、金属薄板の中には面外座屈を生じ、簡便かつ確実に基礎梁部の補強を行うには不十分である、という課題があった。
【0008】
特に、特許文献1に記載の従来の既設基礎補強方法および既設基礎補強構造では、あと施工アンカーとして、その図6に示すようにネジ固定式アンカーを用いているため、既設基礎のコンクリート強度が低い場合には、固着力が低くなる一方、既設基礎のコンクリート強度が高い場合には、ネジ固定式アンカーのネジ山が損傷してアンカー挿入穴に引っ掛かり難くなり、固着力が低下し易い、という問題がある。さらに、ネジ固定式アンカーは、接着系アンカーに較べて、アンカー挿入穴に対するガタツキが大きくなり、応力が均等に伝達しにくい、という問題点もある。
【0009】
そこで、本発明は、環境・騒音等を含めた「居ながら施工」は勿論のこと、狭小地において簡便かつ確実に補強用鉄板を基礎梁部に固定して既設基礎を補強することができる、既設基礎補強方法および既設基礎補強構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するため、本願の請求項1に係る発明の既設基礎補強方法は、既設基礎の基礎梁部の少なくとも一方の側面の長手方向に、所定間隔で複数のアンカー挿入穴を開設するアンカー挿入穴開設工程と、前記アンカー挿入穴開設工程によって開設された複数の前記アンカー挿入穴に、接着剤を内包したアンカー体固着用カプセルを挿入するカプセル挿入工程と、複数の前記アンカー挿入穴に対応した位置にアンカー体挿通孔が開設された補強用鉄板を、そのアンカー体挿通孔を前記アンカー挿入穴に合わせて設置する補強用鉄板設置工程と、前記アンカー体固着用カプセルをアンカー体の先端により破砕しながら前記アンカー挿入穴に挿入し、破砕された前記アンカー体固着用カプセル内の接着剤により前記アンカー挿入穴に前記アンカー体を打設するアンカー打設工程と、前記アンカー打設工程による前記アンカー体の打設後、前記アンカー体の頭部にナットを取り付け、当該ナットの締め付けにより前記補強用鉄板を前記基礎梁部に固定する補強用鉄板固定工程と、を有することを特徴とする。
この方法によれば、複数の接着系あと施工アンカーのアンカー体を用いて補強用鉄板を基礎梁部に固定するようにしたため、環境・騒音等を含めた「居ながら施工」は勿論のこと、既設基礎に余計なダメージを与えることなく、狭小地において簡便かつ確実に補強用鉄板を基礎梁部に固定して既設基礎を補強することができる。
また、本願の請求項2に係る発明の既設基礎補強方法は、請求項1記載の既設基礎補強方法において、前記補強用鉄板のアンカー体挿通孔の内径を、前記アンカー体の外径より大きくし、前記補強用鉄板のアンカー体挿通孔の内周面と、前記アンカー体の外周面との間の空隙部分に、前記アンカー挿入穴から溢れ出た前記接着剤を充填させる、ことを特徴とする。
これにより、補強用鉄板と接着系あと施工アンカーのアンカー体とがナットの締め付けだけでなく、接着剤によっても接合するので、補強用鉄板とアンカー体との接合力がさらに向上し、既設基礎をより強固に補強することができる。
また、本願の請求項3に係る発明の既設基礎補強方法は、請求項1または請求項2記載の既設基礎補強方法において、前記補強用鉄板は、複数の前記アンカー挿入穴に対応した位置にアンカー体挿通孔が開設された長尺状補強用鉄板と、前記複数のアンカー挿入穴毎に設けられ、前記複数のアンカー挿入穴に対応したアンカー体挿通孔が開設され、前記長尺状補強用鉄板にその前記アンカー体挿通孔部分にて重ねて使用される座金状補強用鉄板と、であり、前記長尺状補強用鉄板には、複数の前記アンカー体挿通孔それぞれの周囲に凹部または凸部が形成されている一方、前記座金状補強用鉄板には、それぞれの前記アンカー体挿通孔の周囲に、前記長尺状補強用鉄板の前記凹部または凸部に対応する位置に、それぞれの前記凹部または凸部に嵌合される凸部または凹部が形成されており、前記補強用鉄板設置工程では、前記長尺状補強用鉄板の前記凹部または凸部に、前記座金状補強用鉄板の凸部または凹部を嵌合し、前記長尺状補強用鉄板の前記アンカー体挿通孔と前記座金状補強用鉄板の前記アンカー体挿通孔とを合わせて重ねる、ことを特徴とする。
これにより、長尺状補強用鉄板と座金状補強用鉄板とが溶接等しなくても固定されることになり、それらに応力が加わっても、回転することがなくなり、既存基礎にかかった応力を確実に長尺状補強用鉄板と座金状補強用鉄板とに伝達することが可能となる。
また、本願の請求項4に係る既設基礎補強方法は、請求項1〜請求項3いずれか一の請求項に記載の既設基礎補強方法において、前記長尺状補強用鉄板は、前記基礎梁部の少なくとも一方の側面にてその長手方向に延び、少なくとも上下の水平梁部と、その上下の水平梁部を連結する斜め梁部とを有するトラス構造であって、前記上下の水平梁部と前記斜め梁部との連結部分に、前記アンカー体挿通孔が開設されているトラス状補強用鉄板、ことを特徴とする。
これにより、長尺状補強用鉄板はトラス構造であるので、既存基礎にかかった応力をより確実に受けることが可能となる。
また、本願の請求項5に係る既設基礎補強方法は、請求項1〜請求項4いずれか一の請求項に記載の既設基礎補強方法において、さらに、前記基礎梁部の少なくとも一方の側面の長手方向に所定間隔で形成されたアンカー挿入穴に打設された前記接着系あと施工アンカーのアンカー体と、前記基礎梁部上に設けられている少なくとも土台とを連結する補強金物を設置する補強金物設置工程を有する、ことを特徴とする。
これにより、補強金物と接着系あと施工アンカーのアンカー体とを介して土台と補強用鉄板等も連結されるので、既設基礎だけでなく土台等も一体化され、補強用鉄板と補強金物等により建物全体として補強することが可能となる。
また、本願の請求項6に係る発明の既設基礎補強構造は、請求項1〜請求項5のいずれか一の請求項に記載された既設基礎補強方法により補強されたことを特徴とする。
この構造によれば、複数の接着系あと施工アンカーを用いて補強用鉄板が基礎梁部に固定されるため、既設基礎に余計なダメージを与えることなく、簡便かつ確実に補強用鉄板を基礎梁部に固定して既設基礎を補強することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の既設基礎補強方法および既設基礎補強構造によれば、複数の接着系あと施工アンカーを用いて補強用鉄板を基礎梁部に固定するようにしたため、環境・騒音等を含めた「居ながら施工」は勿論のこと、狭小地において簡便かつ確実に補強用鉄板を基礎梁部に固定して既設基礎を補強することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】(a),(b)は、それぞれ、実施形態1の既設基礎補強方法により補強した既設基礎補強構造における補強用鉄板の配設状況を示す図、A−A線断面図である。
【図2】図1(b)におけるB部分を拡大した拡大断面図である。
【図3】(a)〜(d)は、実施形態1の既設基礎補強方法における各工程を示す図である。
【図4】(a)〜(d)は、実施形態1の既設基礎補強方法の他の例における各工程を示す図である。
【図5】(a)〜(d)は、実施形態1の既設基礎補強方法のさらに他の例における各工程を示す図である。
【図6】(a)〜(c)は、それぞれ、実施形態2の長尺状補強用鉄板の平面図、C−C線断面図、D−D線断面図である。
【図7】(a)〜(c)は、それぞれ、実施形態2の座金状補強用鉄板の平面図、E−E線断面図、F−F線断面図である。
【図8】図6および図7に示す実施形態2の長尺状補強用鉄板と座金状補強用鉄板とを重ねた状態を示す図である。
【図9】(a),(b)は、それぞれ、実施形態3のトラス状補強用鉄板の設置例を示す正面図、G−G線断面図である。
【図10】(a),(b)は、それぞれ、実施形態3のトラス状補強用鉄板の他の設置例を示す正面図、H−H線断面図である。
【図11】(a),(b)は、それぞれ、実施形態3のトラス状補強用鉄板のさらに他の設置例をを示す正面図、I−I線断面図である。
【図12】(a),(b)は、それぞれ、実施形態4の既設基礎補強方法および既設基礎補強構造の補強金物設置工程における補強金物の設置例を示す正面図、J−J線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る既設基礎補強方法および既設基礎補強構造の実施形態1〜3について説明する。
【0014】
実施形態1.
まず、実施形態1の既設基礎補強方法および既設基礎補強構造について説明する。
【0015】
図1(a),(b)は、それぞれ、実施形態1の既設基礎補強方法により補強した既設基礎補強構造における補強用鉄板の配設状況を示す図、A−A線断面図である。また、図2は、図1(b)におけるB部分を拡大した拡大断面図である。
【0016】
図1(a),(b)に示すように、既設基礎1は、基礎梁部11とフーチング部12とからなり、実施形態1の既設基礎補強構造では、基礎梁部11の側面11aの上下それぞれの長手方向に、長尺状補強用鉄板61および複数の座金状補強用鉄板62を重ねて配設して、接着系あと施工アンカーのアンカー体4等により基礎梁部11に固定している。なお、図1(a),(b)において、2は土台、3は柱である。
【0017】
そして、図2に示すように、基礎梁部11の側面11aにはアンカー挿入穴11a1が開設されており、このアンカー挿入穴11a1にアンカー体固着用カプセル(図示せず)が挿入され、アンカー体固着用カプセルに内包されたセメント等の無機系接着剤によりアンカー体4が固定される。そして、このアンカー体4の突出部分に、長尺状補強用鉄板61と、座金状補強用鉄板62とを重ねた状態で設置して、その上からナット82により締め付けて固定する。なお、長尺状補強用鉄板61と、座金状補強用鉄板62とには、後述の図3(b)に示すように、それぞれ、アンカー体4を挿通させるアンカー体挿通孔611,621が形成されている。なお、アンカー体4としては、図示した異形鉄筋の他に、全ネジボルトなども使用可能である。
【0018】
なお、実施形態1の既設基礎補強方法は、アンカー挿入穴開設工程と、カプセル挿入工程と、補強用鉄板設置工程と、アンカー打設工程と、補強用鉄板固定工程とを有している。以下、これらの各工程を、図面を参照して分説する。
【0019】
図3(a)〜(e)は、実施形態1の既設基礎補強方法における各工程を示す図である。
【0020】
≪アンカー挿入穴開設工程(図3(a))≫
まず、アンカー挿入穴開設工程では、図3(a)に示すように、既設基礎1の基礎梁部11の少なくとも一方の側面の上下それぞれの長手方向に、所定間隔でアンカー挿入穴11a1を開設する。本発明では、基礎梁部11の両側面にアンカー挿入穴11a1を設けても良いが、この実施形態1では、一方の側面11aにのみアンカー挿入穴11a1を開設するものとする。また、アンカー挿入穴11a1は、上下方向に2箇所でなく、1箇所だけでも、さらには3箇所以上開設しても勿論よい。
【0021】
≪カプセル挿入工程および補強用鉄板設置工程(図3(b)≫
次のカプセル挿入工程および補強用鉄板設置工程では、図3(b)に示すように、基礎梁部11の側面11aに所定間隔で空けられたアンカー挿入穴11a1に、無機系接着剤等を内包したアンカー体固着用カプセル5を挿入すると共に、各アンカー挿入穴11a1に、長尺状補強用鉄板61のアンカー体挿通孔611と、座金状補強用鉄板62それぞれのアンカー体挿通孔621とを合わせて配設する。ここで、本実施形態1では、カプセル挿入工程の後に補強用鉄板設置工程を行って、アンカー体固着用カプセル5の挿入後に、長尺状補強用鉄板61と座金状補強用鉄板62とを配設しても良いし、それとは逆に、補強用鉄板設置工程の後にカプセル挿入工程を行って、長尺状補強用鉄板61と座金状補強用鉄板62とを配設した後、アンカー体固着用カプセル5を挿入するようにしてもどちらでも良い。
【0022】
ここで、本実施形態1では、補強用鉄板設置工程では、図3(b)に示すように、長尺状補強用鉄板61のアンカー体挿通孔611と、座金状補強用鉄板62それぞれのアンカー体挿通孔621とを合わせて配設しているため、アンカー挿入穴11a1の周囲では、長尺状補強用鉄板61に、座金状補強用鉄板62が重なり、増厚されている。これにより、アンカーのせん断耐力の増加だけでなく、長尺状補強用鉄板61の曲げ抵抗やせん断抵抗などの補強効果を増大させることができる。なお、長尺状補強用鉄板61と座金状補強用鉄板62の接合部分の板厚は、例えば、接着系あと施工アンカーのアンカー体4の外径の0.7倍以上とする。これは、その接合部分の板厚がアンカー体4の外径の0.7倍より小さいと、アンカー体4を固着している接着剤51が破壊されることが実験等により分かったからである。
【0023】
また、本実施形態1の場合、長尺状補強用鉄板61のアンカー体挿通孔611と、座金状補強用鉄板62のアンカー体挿通孔621とは、位置合わせされた状態で、長尺状補強用鉄板61と座金状補強用鉄板62とがその隅部で溶接等により接合されている。これにより、長尺状補強用鉄板61と座金状補強用鉄板62とが固定されて、応力がかかっても、ズレたり回転等することがなくなるので、補強度が向上している。
【0024】
≪アンカー打設工程(図3(c))≫
次のアンカー打設工程では、図3(c)に示すように、アンカー挿入穴11a1に挿入されたアンカー体固着用カプセル5に対し、ハンマードリル等に装着したアンカー体4を挿入して、アンカー体4の回転と打撃等によりアンカー体固着用カプセル5を破砕する。すると、アンカー体4の先端により、アンカー体固着用カプセル5が破砕され、アンカー体固着用カプセル5の中からセメント粉体や水等の内容物が流れ出し、さらにアンカー体4の先端により攪拌されてモルタル化して接着剤51となり、アンカー挿入穴11a1にアンカー体4を固着する。
【0025】
ここで、本実施形態1では、あと施工アンカーとして、従来技術のように機械式のあと施工アンカーを使用するのではなく、アンカー体固着用カプセル5とアンカー体4とからなる接着系のあと施工アンカーを使用する。これは、機械式のあと施工アンカーは、穿孔径も大きく、作業効率が悪いばかりか、アンカー打設後においても穿孔した部分に空隙部が残り、固着強度の点で問題があるからである。これに対し、上記構成の接着系あと施工アンカーでは、アンカー挿入穴11a1に空隙部が残らないため、アンカーにせん断力が作用した場合に、その応力伝達を確実に図ることができるからである。また、地震等が発生すると、既設基礎1には、縦横の地震力により面内だけでなく、面外にも変形する。そのため、基礎梁部11に補強用鉄板61,62を固定している接着系あと施工アンカーのアンカー体4には、引張力やせん断力が作用する。鋼板のネジ結合(ボルト接合)においては、引張力とせん断力の組み合わせ応力が作用すると、せん断力の程度により引張力が低減される。しかし、本実施形態1では、アンカー体固着用カプセル5内の無機系接着剤51がアンカー体4周りに充填されるため、引張力の低減度合いが大きく改善され、固着力が向上する。
【0026】
また、従来の機械式のあと施工アンカーにおけるネジ結合(ボルト接合)は、1つの被接合物に複数の孔を有していると、ボルト全部で均等に応力を負担することが設計の前提にあるが、施工精度等によりどこか一箇所の孔にてボルトと競ると、そのボルトに応力が集中する場合があり、その応力集中部分で早期破断が発生する可能性がある。しかし、本実施形態1では、接着系あと施工アンカーのアンカー体4の周りに接着剤51が充填されているため、長尺状補強用鉄板61と座金状補強用鉄板62と、アンカー体4が競ることもなく、応力集中なども防止することができる。
【0027】
また、接着系あと施工アンカーの接着剤には、有機系と無機系とがあり、本発明では、どちらでも良いが、本実施形態1では、無機系の接着剤を使用することする。これは、無機系の接着系あと施工アンカーには、不燃性・耐熱性に優れる、紫外線劣化に強い、耐候性に優れる、既設基礎1のコンクリートと同質であるため、既設基礎1と一体化が図れる、揮発性有機化合物(VOC)を含んでいないため、人体・環境に優しい等の優れた効果を有するからである。また、有機系接着剤は、剛性がコンクリートより低く、変形し易い。充填量にもよるがコンクリートと同等の剛性が得難い等の不利な点も多いからである。
【0028】
また、本実施形態1では、長尺状補強用鉄板61のアンカー体挿通孔611と、座金状補強用鉄板62のアンカー体挿通孔621の孔径は、アンカー体4の外径以上とする。これにより、長尺状補強用鉄板61のアンカー体挿通孔611と、座金状補強用鉄板62のアンカー体挿通孔621とにアンカー体4に簡便に通すことが可能になると共に、アンカー体固着用カプセル5に内包されていた無機系接着剤51等が攪拌され、アンカー挿入穴11a1より漏れ出し、長尺状補強用鉄板61のアンカー体挿通孔611と、座金状補強用鉄板62のアンカー体挿通孔621まで溢れ出て固まり、基礎梁部11と、アンカー体4と、長尺状補強用鉄板61および座金状補強用鉄板62と、座金81やナット82とを接着剤51によっても固着し、補強効果が向上する。
【0029】
そのため、接着剤51は、既存基礎1や、長尺状補強用鉄板61、座金状補強用鉄板62、座金81、ナット82、アンカー体4により周囲を囲まれて拘束されるため、固化した接着剤51の強度が数倍にもなり、アンカー体4も接着剤51によって、点ではなく面で応力を受けることになる。その結果、引張力の低減度合いが大きく改善されるだけでなく、アンカー体4がせん断破壊するまで、固化した接着剤51が破壊することがなくなる。ここで、長尺状補強用鉄板61と座金状補強用鉄板62とを重ねた接合部分の厚さが、アンカー体4の外径の0.7倍を下回ると、その接合部分の厚さが薄くなり、接着剤51が破壊されるおそれが出てくるので、本実施形態1では、接合部分の厚さをアンカー体4の外径の0.7倍以上にする。また、本実施形態1では、長尺状補強用鉄板61のアンカー体挿通孔611と、座金状補強用鉄板62のアンカー体挿通孔621とは、ネジ溝またはネジ山の形成されていない通し穴(バカ孔)とする。なお、長尺状補強用鉄板61のアンカー体挿通孔611と、座金状補強用鉄板62のアンカー体挿通孔621の孔径を基礎梁部11に開設されるアンカー挿入穴11a1の穴径以上とすること、および通し穴(バカ孔)とすることは、本発明では任意である。
【0030】
なお、アンカー打設の際、アンカー体固着用カプセル5内の無機系接着剤(充填材)が、基礎梁部11のアンカー挿入穴11a1の開口部や、長尺状補強用鉄板61のアンカー体挿通孔611および座金状補強用鉄板62のアンカー体挿通孔621から大量に溢れ出しそうになることがあるが、アンカー体4には、予め弾性体からなる漏れ防止具41(図3(c)参照。)が装着され、ある程度の圧では変形しないため、アンカー挿入穴11a1の入り口付近まできた接着剤51を押し返すことにより、接着剤51が確実に混ざり、安定した強度を発現することができる。
【0031】
≪補強用鉄板固定工程(図3(d))≫
補強用鉄板固定工程では、接着系あと施工アンカーのアンカー体4の打設後、漏れ防止具41が装着されている場合には、漏れ防止具41を取外して、アンカー体4の頭部に座金81を介してナット82を取り付け、当該ナット82の締め付けにより長尺状補強用鉄板61と座金状補強用鉄板62とを基礎梁部11に固定する。
【0032】
なお、本実施形態1では、図3(a)〜(d)に示すような順番で既設基礎補強方法の各工程を説明したが、本発明ではこれに限らず、図4(a)〜(d)に示すような順番や、図5(a)〜(d)に示すような順番で既設基礎補強方法の各工程を構成してもよい。
【0033】
図4(a)〜(d)は、実施形態1の既設基礎補強方法の他の例における各工程を示す図である。
【0034】
図3(a)〜(d)に示す実施形態1の既設基礎補強方法では、図3(c)に示すアンカー打設工程の前に、図3(b)に示すカプセル挿入工程および補強用鉄板設置工程を行っているが、図4(a)〜(d)に示す実施形態1の既設基礎補強方法では、図4(a)に示すアンカー挿入穴開設工程の次に、図4(b)に示すカプセル挿入工程を行い、次に図4(c)に示すアンカー打設工程を行って、最後に図4(d)に示す補強用鉄板設置工程と補強用鉄板固定工程とを行う方法である。この方法によれば、補強用鉄板設置工程の際には、接着系あと施工アンカーのアンカー体4が打設されているので、長尺状補強用鉄板61と座金状補強用鉄板62とを簡便にアンカー体4に装着することが可能になる。また、この場合、図4(c)に示すアンカー打設工程の際には、長尺状補強用鉄板61と座金状補強用鉄板62とが基礎梁部11に配設されていないので、接着剤51は漏れ防止具41によりアンカー挿入穴11a1に押し返され、アンカー挿入穴11a1から漏れ出すことがなくなり、長尺状補強用鉄板61のアンカー体挿通孔611と座金状補強用鉄板62のアンカー体挿通孔621まで到達しない。そのため、長尺状補強用鉄板61の一部に空隙部61aを設けておき、図4(d)に示す補強用鉄板設置工程と補強用鉄板固定工程の際に、長尺状補強用鉄板61の空隙部61aから別途、モルタルや接着剤(充填剤)等を充填させるようにすると良い。
【0035】
図5(a)〜(d)は、実施形態1の既設基礎補強方法のさらに他の例における各工程を示す図である。
【0036】
図4(a)〜(d)に示す実施形態1の既設基礎補強方法の他の例では、図4(c)に示すようにアンカー打設工程において、接着系あと施工アンカーのアンカー体4に漏れ防止具41を装着した状態でアンカー体固着用カプセル5を破砕してその内容物を攪拌したが、図5(c)に示すアンカー打設工程では、アンカー体4に漏れ防止具41を装着せずにアンカー体固着用カプセル5を破砕して接着剤等を攪拌する。ただし、この場合には、アンカー体固着用カプセル5内の接着剤等の量を少なめにして、接着剤51の漏れを最小にすると良い。このようにすれば、漏れ防止具41の装着および脱着の作業が不要になり、作業がより簡便になる。なお、図5(d)に示す場合も、図4(d)に示す場合と同様に、長尺状補強用鉄板61の一部に空隙部61aを設けて、モルタルや接着剤(充填剤)等を後から別途充填させるようにするとよい。
【0037】
従って、本実施形態1の既設基礎補強方法および既設基礎補強構造によれば、複数のアンカー体4および無機系のアンカー体固着用カプセル5を用いて、基礎梁部11の長手方向に延びる長尺状の長尺状補強用鉄板61と、座金状補強用鉄板62とを基礎梁部11に固定するようにしたため、環境・騒音等を含めた「居ながら施工」は勿論のこと、既設基礎1に機械式のあと施工アンカー等による余計なダメージを与えることがなくなり、狭小地において長尺状補強用鉄板61と座金状補強用鉄板62とを簡便かつ確実に基礎梁部11に固定して、新設の鉄板コンクリート基礎と同等の強度とすることができる。
【0038】
特に、本実施形態1では、無機系のアンカー体固着用カプセル5を使用することにより、アンカー挿入穴11a1と、接着系あと施工アンカーのアンカー体4との間が接着剤等51により埋まり、アンカー挿入穴11a1とアンカー体4との間に空隙部分が形成されないので、後施工でも、既設基礎1の基礎梁部11の強度を維持したまま補強用鉄板61,62とが一体化される。これにより、既設基礎1の基礎梁部11の強化を図ることができ、新設の鉄筋コンクリート基礎と同等の強度とすることも可能となる。また、無機系のアンカー体固着用カプセル5の破砕によって形成される接着剤の固化物は、耐久性、耐火性、耐候性に優れるため、恒久的な基礎補強が可能となる。
【0039】
また、本実施形態1では、長尺状補強用鉄板61と座金状補強用鉄板62それぞれのアンカー体挿通孔611,621が接着系あと施工アンカーのアンカー体4の外径より大きい径であるので、アンカー体固着用カプセル5内のセメント粉体等を含む無機系接着剤(充填材)等が攪拌され、長尺状補強用鉄板61と座金状補強用鉄板62にも達して固まるので、長尺状補強用鉄板61および座金状補強用鉄板62と、アンカー体4等との結合力を高めることができる。
【0040】
実施形態2.
次に、実施形態2の既設基礎補強方法および既設基礎補強構造について説明する。
【0041】
実施形態2の既設基礎補強方法および既設基礎補強構造では、長尺状補強用鉄板に座金状補強用鉄板を重ねて接合する際に、溶接等をしなくても、長尺状補強用鉄板と座金状補強用鉄板との位置ズレや回転等を簡単に防止できるようにしたことを特徴とする。
【0042】
図6(a)〜(c)は、それぞれ、実施形態2の長尺状補強用鉄板61’の平面図、C−C線断面図、D−D線断面図である。また、図7(a)〜(c)は、それぞれ、実施形態2の座金状補強用鉄板62’の平面図、E−E線断面図、F−F線断面図である。図8は、図6および図7に示す実施形態2の長尺状補強用鉄板61’と座金状補強用鉄板62’とを重ねた状態を示す図である。
【0043】
つまり、実施形態2では、図6(a)〜(c)に示すように、長尺状補強用鉄板61’の複数のアンカー体挿通孔611’それぞれの周囲に、凹部(貫通孔)または凸部が形成されている。なお、ここでは、例えば、4つの凹部(貫通孔)612’〜615’が形成されているものとする。
【0044】
また、図7(a)〜(c)に示すように、座金状補強用鉄板62’におけるアンカー体挿通孔621’それぞれの周囲には、長尺状補強用鉄板61’の凹部612’〜615’に対応する位置に、その凹部612’〜615’にそれぞれ嵌合する凸部622’〜625’が形成されている。
【0045】
そのため、図8に示すように、長尺状補強用鉄板61’の複数のアンカー体挿通孔611’それぞれの周囲に、凹部または凸部が形成されている。なお、ここでは、例えば、4つの凹部612’〜615’が形成されているものとする。
【0046】
また、図7(a)〜(c)に示すように、アンカー体挿通孔611’,621’が一致するように長尺状補強用鉄板61’に座金状補強用鉄板62’を重ねると、長尺状補強用鉄板61’の凹部612’〜615’に座金状補強用鉄板62’の凸部622’〜625’が嵌合することになり、溶接等しなくても、長尺状補強用鉄板61’と座金状補強用鉄板62’とが一体化され、長尺状補強用鉄板61’と座金状補強用鉄板62’とが回転等してズレることを防止することができる。
【0047】
従って、実施形態2の既設基礎補強方法および既設基礎補強構造によれば、前述の実施形態1と同様の効果が得られると共に、長尺状補強用鉄板61’に座金状補強用鉄板62’を重ねて接合する際、長尺状補強用鉄板61’の凹部612’〜615’に座金状補強用鉄板62’の凸部622’〜625’が嵌合されるため、溶接等しなくても長尺状補強用鉄板61’と座金状補強用鉄板62’との位置ズレや回転等を簡単に防止することができ、熟練工でなくても、簡便に施工が可能となる。
【0048】
特に、本実施形態2では、実施形態1と同様に、長尺状補強用鉄板61’と座金状補強用鉄板62’とには、それぞれ、接着剤51を溢れ出させるため接着系あと施工アンカーのアンカー体4の外径より大きい径のアンカー体挿通孔611’,621’が開設されており、本来なら長尺状補強用鉄板61’と座金状補強用鉄板62’とはずれ易く、アンカー体挿通孔611’,621’の中心を合わせ難いが、長尺状補強用鉄板61’の凹部612’〜615’に座金状補強用鉄板62’の凸部622’〜625’が嵌合されることにより、熟練工でなくても、簡単にアンカー体挿通孔611’,621’の中心を合わせて施工することが可能となる。
【0049】
実施形態3.
次に、実施形態3の既設基礎補強方法および既設基礎補強構造について説明する。
【0050】
実施形態3では、トラス状補強用鉄板またはトラス構造に組んだ補強用鉄板により補強したことを特徴とする。
【0051】
図9(a),(b)は、それぞれ、実施形態3のトラス状補強用鉄板63の設置例を示す正面図、G−G線断面図である。
【0052】
図9(a),(b)に示すように、実施形態3のトラス状補強用鉄板63は、基礎梁部11の側面11aにてその長手方向に延び、少なくとも上下の水平梁部631と、その上下の水平梁部631を連結する斜め梁部632とを有するトラス構造であって、上下の水平梁部631と斜め梁部632との交差部分に、アンカー体挿通孔(図示せず。)が開設され、接着系あと施工アンカーのアンカー体4が打設される。
【0053】
これにより、実施形態3のトラス状補強用鉄板63では、主に、上下の水平梁部631が既設基礎1に加わる曲げ応力に対抗する一方、斜め梁部632が既設基礎1に加わるせん断曲げ応力に対抗することになり、トラス構造とも相まって既設基礎1を効果的に補強することが可能となる。
【0054】
そして、図9(a),(b)に示すように、上下の水平梁部631と斜め梁部632との交差部分に、実施形態1と同様の座金状補強用鉄板62を重ねて接合して、トラス状補強用鉄板63のアンカー体挿通孔(図示せず。)と、座金状補強用鉄板62のアンカー体挿通孔621に接着系あと施工アンカーのアンカー体4を通し、アンカー体4の頭部をナット82により締め付けて、トラス状補強用鉄板63と座金状補強用鉄板62とを基礎梁部11に固定している。
【0055】
これにより、1枚のトラス状補強用鉄板63と、座金状補強用鉄板62とが、実施形態1と同様に、接着系あと施工アンカーのアンカー体4との連結部分で重ねて増厚されるので、この点でも既設基礎1を効果的に補強することが可能となる。
【0056】
図10(a),(b)は、それぞれ、実施形態3のトラス状補強用鉄板63の他の設置例を示す正面図、H−H線断面図である。
【0057】
図10(a),(b)の例では、図9(a),(b)に示すトラス状補強用鉄板63と同じものを使用しており、異なる点は、接着系あと施工アンカーのアンカー体4の打接箇所を2倍に増やしている。つまり、図10(a),(b)に示す例では、図9(a),(b)に示す例と同様に、上下の水平梁部631と斜め梁部632との交差部分にアンカー体4を打設するだけでなく、上下の水平梁部631それぞれ交差部分間の中間部分にも、座金状補強用鉄板62を重ねてアンカー体4を打設して、トラス状補強用鉄板63と座金状補強用鉄板62とを基礎梁部11に固定している。
【0058】
これにより、図10(a),(b)に示す例の場合、図9(a),(b)に示す例の場合よりも、トラス状補強用鉄板63と基礎梁部11との固定箇所が増えるので、この点で既設基礎1をより強固に補強することが可能となる。
【0059】
図11(a),(b)は、それぞれ、実施形態3のトラス状補強用鉄板のさらに他の設置例をを示す正面図、I−I線断面図である。
【0060】
図11(a),(b)に示す例は、図9(a),(b)や図10(a),(b)に示す例とは異なり、一体式のトラス状補強用鉄板63を使用するのではなく、基礎梁部11の上下に設けた実施形態1,2と同様の長尺状補強用鉄板61に、同幅の短尺状補強用鉄板64をトラス構造になるように斜めに配設した既設基礎補強構造である。そして、長尺状補強用鉄板61と、2枚の短尺状補強用鉄板64との交差部分に、長尺状補強用鉄板61のアンカー体挿通孔611と、2枚の短尺状補強用鉄板64のアンカー体挿通孔(図示せず。)とに接着系あと施工アンカーのアンカー体4を通してナット82により締め付けて、トラス構造の長尺状補強用鉄板61と2枚の短尺状補強用鉄板64とを基礎梁部11に固定している。
【0061】
これにより、一体式のトラス状補強用鉄板63を使用しなくても、長尺状補強用鉄板61と、短尺状補強用鉄板64とを使用することによりトラス構造を実現できると共に、接着系あと施工アンカーのアンカー体4を通す交差部分では、座金状補強用鉄板62を省略しても、長尺状補強用鉄板61と2枚の短尺状補強用鉄板64との三重構造になり、十分な増厚を確保することも可能となり、補強度が向上する。なお、この図11(a),(b)に示す場合も、アンカー体4が通る交差部分の増厚は、実施形態1,2と同様にアンカー体4の外径の0.7倍以上として、アンカー体4を固着している固化した接着剤51の破壊を防止する。
【0062】
従って、実施形態3の既設基礎補強方法および既設基礎補強構造によれば、前述の実施形態1,2と同様の効果が得られると共に、トラス状補強用鉄板63またはトラス構造に組んだ長尺状補強用鉄板61と短尺状補強用鉄板64とにより基礎梁部11を補強するので、既存基礎1を効率良く補強することができる。
【0063】
なお、本実施形態3では、トラス状補強用鉄板63と座金状補強用鉄板62との間、または長尺状補強用鉄板61と短尺状補強用鉄板64との間の接合については触れなかったが、この接合は、実施形態1のように溶接等により接合しても良いし、あるいは実施形態2のように凹部と凸部との嵌合により接合するようにしてもどちらでも良い。
【0064】
実施形態4.
次に、実施形態4の既設基礎補強方法および既設基礎補強構造について説明する。
【0065】
木造住宅は、柱材にいわゆるホゾが設けられ、土台に差し込まれることで立てられている。しかし、地震の上下動などによりホゾが抜け出て、建物が倒壊する事例が多く見受けられる。現在は、法改正がありホールダウン金物と呼ばれる金物等により柱や土台と基礎が連結されているが、新耐震基準以前の建築物には取り付けられていない。また、土台は、基礎と細いアンカーボルトにより固定されているので、土台と基礎とのより強固な連結も必要である。
【0066】
そこで、実施形態4の既設基礎補強方法および既設基礎補強構造では、前述の実施形態1,2の既設基礎補強方法に対し、さらに、補強金物設置工程を追加したことを特徴とする。
【0067】
つまり、実施形態4の既設基礎補強方法および既設基礎補強構造では、前述の実施形態1,2の既設基礎補強方法のアンカー打設工程と、補強筋配設工程との間に、さらに、基礎梁部11の側面11aに打設された接着系あと施工アンカーのアンカー体4と、基礎梁部11上に設けられている土台2や柱3とを連結する補強金物91,92を設置する補強金物設置工程を設ける。
【0068】
図12(a),(b)は、それぞれ、実施形態4の既設基礎補強方法および既設基礎補強構造の補強金物設置工程における補強金物の設置例を示す正面図、J−J線断面図である。
【0069】
つまり、図12(a)、(b)に示す例では、柱3のある箇所では、長尺補強金物91により、柱3と土台2を基礎梁部11に連結する一方、柱3のない箇所では、短尺補強金物92により、土台2を基礎梁部11に連結する。これにより、基礎梁部11上に設けられている土台2や柱3も、長尺補強金物91や短尺補強金物92により基礎梁部11に連結されるので、柱3や土台2をアンカーボルトやホールダウン金物等により基礎梁部11に連結する場合と較べると、柱3や土台2がトラス状補強用鉄板63を介して基礎梁部11に対し、より一体化するので、柱3や、土台2、既設基礎1の建物全体として補強度がさらに向上し、トラス状補強用鉄板63と長尺補強金物91や短尺補強金物92等により既設基礎1および土台2等が一体化し、建物全体として補強することが可能となる。
【0070】
ここで、本実施形態4では、図12(b)に示すように、トラス状補強用鉄板63の上から長尺補強金物91および短尺補強金物92を重ねて、座金状補強用鉄板62を省略しているが、長尺補強金物91および短尺補強金物92の上にさらに座金状補強用鉄板62を重ねるようしても勿論よい。
【0071】
なお、本実施形態4では、実施形態3のトラス状補強用鉄板63に長尺補強金物91および短尺補強金物92を設けて説明したが、実施形態3の長尺状補強用鉄板61と短尺状補強用鉄板64とのトラス構造に設けても良いし、さらには、実施形態1,2の長尺状補強用鉄板61,61’を使用した既設基礎補強構造に、長尺補強金物91および短尺補強金物92を設けて補強するようにしても勿論良い。
【0072】
また、長尺補強金物91および短尺補強金物92は、プレート状のものでも、隅柱などの外側を覆うようなL字状断面を有する金物でも良い。また、図示はしないが、柱3のある箇所だけ柱3と土台2を基礎梁部11に連結して補強しても良いし、柱3まで連結せずに、土台2と基礎梁部11のみを連結して補強しても良い。また、図示はしないが、さらに、中尺補強金物を用いて、下側の接着系あと施工アンカーのアンカー体4も土台2等と連結し、アンカー体4が設けられている箇所全てに補強金物を連結しても良いし、上側のアンカー体4についても飛び飛びに短尺補強金物92を連結するようにしても勿論よい。
【0073】
従って、実施形態4の既設基礎補強方法および既設基礎補強構造によれば、前述の実施形態1〜3と同様の効果が得られると共に、接着系あと施工アンカーのアンカー体4と、基礎梁部11上に設けられている少なくとも土台2とが補強金物によって連結されるので、さらに、基礎梁部11上に設けられている土台2等も含め建物全体での補強度を向上させることが可能となる。
【符号の説明】
【0074】
1 既設基礎
11 基礎梁部
11a 側面
11a1 アンカー挿入穴
12 フーチング部
2 土台
3 柱
4 アンカー体
5 アンカー体固着用カプセル
51 接着剤
61,61’ 長尺状補強用鉄板
611,611’ アンカー体挿通孔
62,62’ 座金状補強用鉄板
621,621’ アンカー体挿通孔
63 トラス状補強用鉄板
64 短尺状補強用鉄板
82 ナット
91 長尺補強金物
92 短尺補強金物
【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設基礎の基礎梁部の少なくとも一方の側面の長手方向に、所定間隔で複数のアンカー挿入穴を開設するアンカー挿入穴開設工程と、
前記アンカー挿入穴開設工程によって開設された複数の前記アンカー挿入穴に、接着剤を内包したアンカー体固着用カプセルを挿入するカプセル挿入工程と、
複数の前記アンカー挿入穴に対応した位置にアンカー体挿通孔が開設された補強用鉄板を、そのアンカー体挿通孔を前記アンカー挿入穴に合わせて設置する補強用鉄板設置工程と、
前記アンカー体固着用カプセルをアンカー体の先端により破砕しながら前記アンカー挿入穴に挿入し、破砕された前記アンカー体固着用カプセル内の接着剤により前記アンカー挿入穴に前記アンカー体を打設するアンカー打設工程と、
前記アンカー打設工程による前記アンカー体の打設後、前記アンカー体の頭部にナットを取り付け、当該ナットの締め付けにより前記補強用鉄板を前記基礎梁部に固定する補強用鉄板固定工程と、
を有することを特徴とする既設基礎補強方法。
【請求項2】
請求項1記載の既設基礎補強方法において、
前記補強用鉄板のアンカー体挿通孔の内径を、前記アンカー体の外径より大きくし、前記補強用鉄板のアンカー体挿通孔の内周面と、前記アンカー体の外周面との間の空隙部分に、前記アンカー挿入穴から溢れ出た前記接着剤を充填させる、
ことを特徴とする既設基礎補強方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の既設基礎補強方法において、
前記補強用鉄板は、
複数の前記アンカー挿入穴に対応した位置にアンカー体挿通孔が開設された長尺状補強用鉄板と、
前記複数のアンカー挿入穴毎に設けられ、前記複数のアンカー挿入穴に対応したアンカー体挿通孔が開設され、前記長尺状補強用鉄板にその前記アンカー体挿通孔部分にて重ねて使用される座金状補強用鉄板と、であり、
前記長尺状補強用鉄板には、複数の前記アンカー体挿通孔それぞれの周囲に凹部または凸部が形成されている一方、前記座金状補強用鉄板には、それぞれの前記アンカー体挿通孔の周囲に、前記長尺状補強用鉄板の前記凹部または凸部に対応する位置に、それぞれの前記凹部または凸部に嵌合される凸部または凹部が形成されており、
前記長尺状補強用鉄板の前記凹部または凸部に、前記座金状補強用鉄板の凸部または凹部を嵌合し、前記長尺状補強用鉄板の前記アンカー体挿通孔と前記座金状補強用鉄板の前記アンカー体挿通孔とを合わせて重ねる、
ことを特徴とする既設基礎補強方法。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか一の請求項に記載の既設基礎補強方法において、
前記長尺状補強用鉄板は、
前記基礎梁部の少なくとも一方の側面にてその長手方向に延び、少なくとも上下の水平梁部と、その上下の水平梁部を連結する斜め梁部とを有するトラス構造であって、前記上下の水平梁部と前記斜め梁部との連結部分に、前記アンカー体挿通孔が開設されているトラス状補強用鉄板である、
ことを特徴とする既設基礎補強方法。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか一の請求項に記載の既設基礎補強方法において、
さらに、
前記基礎梁部の少なくとも一方の側面の長手方向に所定間隔で形成されたアンカー挿入穴に打設された前記アンカー体と、前記基礎梁部上に設けられている少なくとも土台とを連結する補強金物を設置する補強金物設置工程を有する、
ことを特徴とする既設基礎補強方法。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれか一の請求項に記載された既設基礎補強方法により補強されたことを特徴とする既設基礎補強構造。
【請求項1】
既設基礎の基礎梁部の少なくとも一方の側面の長手方向に、所定間隔で複数のアンカー挿入穴を開設するアンカー挿入穴開設工程と、
前記アンカー挿入穴開設工程によって開設された複数の前記アンカー挿入穴に、接着剤を内包したアンカー体固着用カプセルを挿入するカプセル挿入工程と、
複数の前記アンカー挿入穴に対応した位置にアンカー体挿通孔が開設された補強用鉄板を、そのアンカー体挿通孔を前記アンカー挿入穴に合わせて設置する補強用鉄板設置工程と、
前記アンカー体固着用カプセルをアンカー体の先端により破砕しながら前記アンカー挿入穴に挿入し、破砕された前記アンカー体固着用カプセル内の接着剤により前記アンカー挿入穴に前記アンカー体を打設するアンカー打設工程と、
前記アンカー打設工程による前記アンカー体の打設後、前記アンカー体の頭部にナットを取り付け、当該ナットの締め付けにより前記補強用鉄板を前記基礎梁部に固定する補強用鉄板固定工程と、
を有することを特徴とする既設基礎補強方法。
【請求項2】
請求項1記載の既設基礎補強方法において、
前記補強用鉄板のアンカー体挿通孔の内径を、前記アンカー体の外径より大きくし、前記補強用鉄板のアンカー体挿通孔の内周面と、前記アンカー体の外周面との間の空隙部分に、前記アンカー挿入穴から溢れ出た前記接着剤を充填させる、
ことを特徴とする既設基礎補強方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の既設基礎補強方法において、
前記補強用鉄板は、
複数の前記アンカー挿入穴に対応した位置にアンカー体挿通孔が開設された長尺状補強用鉄板と、
前記複数のアンカー挿入穴毎に設けられ、前記複数のアンカー挿入穴に対応したアンカー体挿通孔が開設され、前記長尺状補強用鉄板にその前記アンカー体挿通孔部分にて重ねて使用される座金状補強用鉄板と、であり、
前記長尺状補強用鉄板には、複数の前記アンカー体挿通孔それぞれの周囲に凹部または凸部が形成されている一方、前記座金状補強用鉄板には、それぞれの前記アンカー体挿通孔の周囲に、前記長尺状補強用鉄板の前記凹部または凸部に対応する位置に、それぞれの前記凹部または凸部に嵌合される凸部または凹部が形成されており、
前記長尺状補強用鉄板の前記凹部または凸部に、前記座金状補強用鉄板の凸部または凹部を嵌合し、前記長尺状補強用鉄板の前記アンカー体挿通孔と前記座金状補強用鉄板の前記アンカー体挿通孔とを合わせて重ねる、
ことを特徴とする既設基礎補強方法。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか一の請求項に記載の既設基礎補強方法において、
前記長尺状補強用鉄板は、
前記基礎梁部の少なくとも一方の側面にてその長手方向に延び、少なくとも上下の水平梁部と、その上下の水平梁部を連結する斜め梁部とを有するトラス構造であって、前記上下の水平梁部と前記斜め梁部との連結部分に、前記アンカー体挿通孔が開設されているトラス状補強用鉄板である、
ことを特徴とする既設基礎補強方法。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか一の請求項に記載の既設基礎補強方法において、
さらに、
前記基礎梁部の少なくとも一方の側面の長手方向に所定間隔で形成されたアンカー挿入穴に打設された前記アンカー体と、前記基礎梁部上に設けられている少なくとも土台とを連結する補強金物を設置する補強金物設置工程を有する、
ことを特徴とする既設基礎補強方法。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれか一の請求項に記載された既設基礎補強方法により補強されたことを特徴とする既設基礎補強構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−241392(P2012−241392A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−111465(P2011−111465)
【出願日】平成23年5月18日(2011.5.18)
【出願人】(000000446)岡部株式会社 (277)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月18日(2011.5.18)
【出願人】(000000446)岡部株式会社 (277)
【Fターム(参考)】
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