説明

既設管更生部材

【課題】伸縮機能を持つとともに耐薬品性に優れた既設管更生部材を実現する。
【解決手段】既設管の内面に沿って、螺旋状に巻回または、既設管の長手方向に設置されるとともに、隣接する既設管更生部材の幅方向側縁と嵌合することによって、既設管の内部に内管を形成するようになっており、伸縮部が備えられている既設管更生部材であって、当該伸縮部はポリオレフィン系樹脂で構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設管の内面に沿って設置することによって既設管を更生または保護するための帯状の既設管更生部材に関し、特に、幅方向への伸長および/または収縮が可能な伸縮部を備えるとともに耐薬品性に優れた既設管更生部材に関する。
【背景技術】
【0002】
老朽化や環境変化によるひび割れ、内部腐食、摩耗等で機能が低下した下水道等の既設管を、道路を掘り返さずに更生する工法として、非開削管路更生工法が知られている。
【0003】
非開削管路更生工法は、既設管の内面に沿って、硬質塩化ビニル樹脂等で構成される帯状の既設管更生部材を、隣接する既設管更生部材の幅方向側縁と相互に嵌合しつつ螺旋状に巻回すること等によって既設管を更生する工法である。かかる工法においては、既設管の曲がりや段差がある場合、非円形の既設管を更生する場合、または、地震への対策として、前記既設管更生部材に伸縮機能を持たせる方法が開発されている(例えば、特許文献1〜2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−251340号公報(2004年9月9日公開)
【特許文献2】特開2006−29561号公報(2006年2月2日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、伸縮機能を持たせた前記既設管更生部材は、伸縮機能を発揮する部分の耐薬品性が、既設管更生部材の他の部分と比較して十分ではないという問題を有する。
【0006】
具体的には、特許文献1には、帯状ストリップを既設管の内面に沿って、ジョイナを用いて幅方向側縁同士を嵌合しつつ螺旋状に巻回する方法において、ジョイナに伸縮部が固着され、地震等によって帯状ストリップのピッチが広がる場合に、ジョイナが破断しても伸縮部によって水密封止することができる技術が開示されている。かかる伸縮部は、その材質として軟質合成樹脂やエラストマーが用いられるが、ジョイナの硬質塩化ビニル樹脂で構成された部分と比較して耐薬品性が十分ではないという問題を有する。
【0007】
また、特許文献2には、矩形などの非円形の既設管を更生するために、アンカでストリップを既設管の内面に取り付け、ストリップの長さ方向を接続部材で連結する方法において、既設管の角に伸縮可変ジョイナを配置し、ストリップの幅方向をジョイナおよび伸縮可変ジョイナで接合する技術が開示されている。かかる伸縮可変ジョイナの伸縮可変部についても、その材質として、軟質合成樹脂やエラストマーが用いられるので、前記伸縮部と同様の問題が存在する。
【0008】
本発明は、前記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、伸縮機能を持つとともに耐薬品性に優れた既設管更生部材を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る既設管更生部材は、前記課題を解決するために、既設管を更生または保護するための帯状の既設管更生部材であって、既設管の内面に沿って、
(a)螺旋状に巻回、または、
(b)既設管の長手方向に設置、
されるとともに、隣接する既設管更生部材の幅方向側縁と相互に嵌合することによって、既設管の内部に内管を形成するようになっており、当該既設管更生部材には、帯状部と、幅方向への伸長および/または収縮が可能な伸縮部とが備えられており、前記伸縮部はポリオレフィン系樹脂で構成され、前記帯状部は硬質塩化ビニル系樹脂で構成されていることを特徴としている。
【0010】
前記の構成によれば、伸縮部にポリオレフィン系樹脂を用いることにより、伸縮部の耐薬品性を向上させることができる。それゆえ、伸縮機能を持つとともに耐薬品性に優れた既設管更生部材を実現することができるという効果を奏する。
【0011】
本発明に係る既設管更生部材では、前記伸縮部を構成するポリオレフィン系樹脂は、極性変性されていないポリオレフィン系樹脂と、極性変性されたポリオレフィン系樹脂とを含むことが好ましい。
【0012】
前記伸縮部を構成するポリオレフィン系樹脂が極性変性されていないポリオレフィン系樹脂と、極性変性されたポリオレフィン系樹脂とを含むことにより、ポリオレフィン系樹脂で構成される伸縮部と、硬質塩化ビニル系樹脂で構成される前記帯状部とを強固に接着することができるというさらなる効果を奏する。
【0013】
本発明に係る既設管更生部材では、前記伸縮部を構成するポリオレフィン系樹脂に占める極性変性されたポリオレフィン系樹脂の割合は、前記伸縮部に含まれる極性変性されていないポリオレフィン系樹脂100重量部に対して50重量部以下であることがより好ましい。
【0014】
前記伸縮部を構成するポリオレフィン系樹脂に占める極性変性されたポリオレフィン系樹脂の割合が、前記伸縮部に含まれる極性変性されていないポリオレフィン系樹脂100重量部に対して50重量部以下であることにより、ポリオレフィン系樹脂で構成される伸縮部と、硬質塩化ビニル系樹脂で構成される前記帯状部とのより優れた接着性を確保することができるとともに、極性変性されたポリオレフィン系樹脂の割合を減らし、目的とするポリオレフィン系樹脂の特性を維持することができるというさらなる効果を奏する。
【0015】
本発明に係る既設管更生部材では、前記極性変性されたポリオレフィン系樹脂は、無水マレイン酸をグラフト共重合することで極性基を導入した無水マレイン酸変性ポリオレフィン、または(メタ)アクリル酸4−t−ブチルシクロヘキシル単量体とリン酸基含有ビニル単量体とを含むビニル系単量体でグラフト変性したポリオレフィン樹脂であることが好ましい。
【0016】
前記極性変性されたポリオレフィン系樹脂が無水マレイン酸をグラフト共重合することで極性基を導入した無水マレイン酸変性ポリオレフィン、または(メタ)アクリル酸4−t−ブチルシクロヘキシル単量体とリン酸基含有ビニル単量体とを含むビニル系単量体でグラフト変性したポリオレフィン樹脂であることにより、ポリオレフィン系樹脂で構成される伸縮部と、硬質塩化ビニル系樹脂で構成される帯状部とを強固に接合することができるというさらなる効果を奏する。
【0017】
本発明に係る既設管更生部材では、前記ポリオレフィン系樹脂は、メタロセン系ポリエチレンを含むことが好ましい。
【0018】
前記ポリオレフィン系樹脂がメタロセン系ポリエチレンを含むことにより、前記伸縮部の低低分子量成分、耐衝撃性、耐ESCR性、透明性、低温シール性、耐ブロッキング性、低臭性、耐溶剤抽出性等を向上させることができるというさらなる効果を奏する。また、曲がりや段差などがある既設管に更生を行う場合、前記伸縮部を大きく伸縮させる必要があり、前記伸縮部の剛性を低下させて施工を容易に行うという効果も奏する。
【0019】
本発明に係る既設管更生部材では、前記ポリオレフィン系樹脂に占めるメタロセン系ポリエチレンの割合は、前記ポリオレフィン系樹脂に含まれる極性変性されていないポリオレフィン系樹脂全体に対して、10〜30重量%であることが好ましい。
【0020】
前記ポリオレフィン系樹脂に占めるメタロセン系ポリエチレンの割合が前記ポリオレフィン系樹脂に含まれる極性変性されていないポリオレフィン系樹脂全体に対して、10〜30重量%であることにより、前記伸縮部の引張降伏応力、引張破断伸びおよび引張弾性率に優れるというさらなる効果を奏する。
【0021】
本発明に係る既設管更生部材では、前記伸縮部を構成するポリオレフィン系樹脂は、熱可塑性ポリウレタンベースの接着剤を含む接着剤層を介して、前記帯状部と接合されることが好ましい。
【0022】
前記伸縮部を構成するポリオレフィン系樹脂が熱可塑性ポリウレタンベースの接着剤を含む接着剤層を介して、前記帯状部と接合されることにより、ポリオレフィン系樹脂で構成される伸縮部と、硬質塩化ビニル系樹脂で構成される帯状部とを強固に接合することができるというさらなる効果を奏する。
【0023】
本発明に係る既設管更生部材では、前記帯状部は突起部を有し、前記伸縮部を構成するポリオレフィン系樹脂は、前記帯状部と前記突起部とに接合されることが好ましい。
【0024】
前記帯状部が突起部を有し、前記伸縮部を構成するポリオレフィン系樹脂が、前記帯状部と前記突起部とに接合されることにより、帯状部と接着剤層との接着面積を増加させることができる。それゆえ、ポリオレフィン系樹脂で構成される伸縮部と、硬質塩化ビニル系樹脂で構成される帯状部とをさらに強固に接合することができるというさらなる効果を奏する。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係る既設管更生部材は、以上のように、既設管を更生または保護するための帯状の既設管更生部材であって、既設管の内面に沿って、
(a)螺旋状に巻回、または、
(b)既設管の長手方向に設置、
されるとともに、隣接する既設管更生部材の幅方向側縁と相互に嵌合することによって、既設管の内部に内管を形成するようになっており、当該既設管更生部材には、帯状部と、幅方向への伸長および/または収縮が可能な伸縮部とが備えられており、前記伸縮部はポリオレフィン系樹脂で構成され、前記帯状部は硬質塩化ビニル系樹脂で構成されているので、伸縮部にポリオレフィン系樹脂を用いることにより、伸縮部の耐薬品性を向上させることができる。それゆえ、伸縮機能を持つとともに耐薬品性に優れた既設管更生部材を実現することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る既設管更生部材であるジョイナの概略の構成を示す断面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る既設管更生部材であるジョイナの使用状態を示す断面図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る既設管更生部材であるジョイナを使用して既設管の内面に内管を形成した状態を示す断面図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る既設管更生部材であるジョイナの屈曲部が破断して伸縮部が広がった状態を示す断面図である。
【図5】本発明の第1の実施形態に係る既設管更生部材であるジョイナの他の構成を示す断面図である。
【図6】本発明の第2の実施形態に係る既設管更生部材であるジョイナの概略の構成を示す断面図である。
【図7】本発明の第2の実施形態に係る既設管更生部材であるジョイナの中央部を除去した断面図、または、本発明の第3の実施形態に係る既設管更生部材であるジョイナの概略の構成を示す断面図である。
【図8】本発明の第4の実施形態に係る既設管更生部材であるジョイナの概略の構成を示す断面図である。
【図9】実施例において、引張試験に供した試料片を示す図であり、(a)は試料片の断面図であり、(b)は試料片の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではなく、記述した範囲内で種々の変形を加えた態様で実施できるものである。また、本明細書中に記載された特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A〜B」は、「A以上、B以下」を意味する。
【0028】
〔第1の実施形態〕
本発明にかかる既設管更生部材の第1の実施形態について図1〜5に基づいて説明する。図1は本実施形態に係る既設管更生部材であるジョイナの概略の構成を示す断面図である。図2は、本実施形態に係る既設管更生部材であるジョイナの使用状態を示す断面図である。図3は、本実施形態に係る既設管更生部材であるジョイナを使用して既設管の内面に内管を形成した状態を示す断面図である。図4は、本実施形態に係る既設管更生部材であるジョイナの屈曲部が破断して伸縮部が広がった状態を示す断面図である。図5は、本実施形態に係る既設管更生部材であるジョイナの他の構成を示す断面図である。
【0029】
図1および2に示す本実施形態に係るジョイナ80は、老朽化した下水管等の既設管12を更生するために、または既設管12の内面を保護するために、既設管12の内面に沿って螺旋状に巻回された帯状ストリップ14の隣接する幅方向側縁同士を接合して内管16を形成するためのものである。本実施形態では既設管12はヒューム管である。もちろん、本発明は、ヒューム管以外のたとえば合成樹脂製や金属製の既設管12にも適用することができる。帯状ストリップ14は、たとえば硬質塩化ビニル系樹脂等のような合成樹脂の押出成形によって連続的に形成されるものであり、帯状の本体18を含む。本体18の一方主面には、既設管12の内面に当接する断面略T状の脚部20が形成され、また、本体18の幅方向両側縁には、条溝22、22が形成されている。各条溝22は、本体18に近い第1壁24と本体18から遠い第2壁26とによって形成され、第2壁26の内面および外面には、図2に示すように、断面略爪状の係合部28、28、29、29が形成されている。また、各条溝22の底部には、既設管12の内面に当接する断面略コ状の脚部30が形成されている。これら脚部20、条溝22、第1壁24、第2壁26、係合部28、29および脚部30は、本体18の長手方向に沿ってその全体に亘って形成されている。
【0030】
ジョイナ80は、たとえば硬質塩化ビニル系樹脂のような硬質合成樹脂の押出成形によって連続的に形成された帯状の本体を構成する帯状部32を含む。この帯状部32は、螺旋状に巻回されて内管を形成するときに、形成された内管の内側に向かう平坦な一面32aを有する。帯状部32の幅方向両端部のそれぞれには、帯状ストリップ14の条溝22に嵌合される突条34、および挟持部36が、螺旋状に巻回されたときに前記内管の外側に向かう他面から突出して形成され、これらの間にはシール材23が装着される。帯状部32の幅方向端部により近い突条34および突条34より中央側の挟持部36は、互いに協働して帯状ストリップ14の第2壁26を挟持する。挟持部36は、先端が帯状部32の幅方向中央側に向かってくの字状に折れ曲がった断面形状を有し、帯状部の端部側の面に、第2壁26の外面に形成された係合部29と係合される断面略爪状の係合部39が形成されている。そして、突条34には、第2壁26の内面に形成された係合部28と係合される断面略爪状の係合部38が形成されている。この突条34、挟持部36および係合部38、39は、帯状部32の長手方向に沿ってその全体に亘って連続して形成されている。さらに、帯状部32の前記他面には、この帯状部32の長手方向に沿って帯状に伸縮部40が形成されている。
【0031】
帯状部32は、硬質塩化ビニル系樹脂で構成されている。なお、硬質塩化ビニル系樹脂で構成されるとは、帯状部32が主成分として硬質塩化ビニル系樹脂を含んでいることをいう。したがって、本発明の効果に影響を与えない範囲で、他の樹脂を含んでいてもよい。なお、本明細書において「主成分として」含まれるとは、90重量部以上、より好ましくは95重量部以上含まれることをいう。
【0032】
伸縮部40は、ポリオレフィン系樹脂で構成され、図1および2に示すように、幅方向の各側縁40a、40aが互いに間隔を隔てた状態で、ジョイナ80の帯状部32の長手方向に沿って帯状部32の前記他面に固着されている。
【0033】
なお、ポリオレフィン系樹脂で構成されるとは、伸縮部40が主成分としてポリオレフィン系樹脂を含んでいることをいう。したがって、本発明の効果に影響を与えない範囲で、他の樹脂を含んでいてもよい。従来前記既設管更生部材に伸縮機能を持たせる伸縮部としては、軟質合成樹脂やエラストマーが用いられていたが、耐薬品性という観点からは、硬質塩化ビニル系樹脂で構成される帯状部と比較して十分ではなかった。伸縮部40を構成する材質として、ポリオレフィン系樹脂を用いることにより、既設管の曲がりや段差がある場合、非円形の既設管を更生する場合、または、地震への対策として、伸縮機能を持つとともに、耐薬品性に優れた既設管更生部材を実現することができる。
【0034】
前記ポリオレフィン系樹脂としては、モノマー単位としてエチレン、プロピレン、ブテン等のオレフィン成分を主なモノマー成分として含む樹脂であれば特に限定されるものではない。なお、ここで、「主なモノマー成分として含む」とは、全モノマー成分を100モル%としたときに、好ましくは50モル%以上、さらに好ましくは70モル%以上含まれることをいう。前記オレフィン成分は単独のオレフィンであってもよいし、2種類以上の組合せであってもよい。
【0035】
前記ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン−1共重合体、ポリブテン、ポリイソブチレン、ポリ−4−メチルペンテン−1樹脂、オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)(エチレン・α−オレフィン共重合体ゴム/ポリプロピレン等から構成されるエラストマー組成物)等のポリオレフィン樹脂等を挙げることができる。これらのポリオレフィン系樹脂は単独で用いてもよいし、2種類以上を組合せて用いてもよい。さらに、前記ポリオレフィン系樹脂には、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体等も含まれる。
【0036】
前記ポリエチレンとしては、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(LLDPE)、低密度ポリエチレン樹脂(LDPE)、中密度ポリエチレン樹脂(MDPE)、高密度ポリエチレン樹脂(HDPE)を挙げることができる。これらのエチレンも単独で用いてもよいし、2種類以上を組合せて用いてもよい。
【0037】
また、伸縮部40を構成するポリオレフィン系樹脂は、極性変性されていないポリオレフィン系樹脂と、極性変性されたポリオレフィン系樹脂とを含むことがより好ましい。なお、極性変性されていないポリオレフィン系樹脂とは、上述したような極性変性されていないポリオレフィン系樹脂である。前記伸縮部40を構成するポリオレフィン系樹脂が極性変性されていないポリオレフィン系樹脂と、極性変性されたポリオレフィン系樹脂とを含むことにより、ポリオレフィン系樹脂で構成される伸縮部40と、硬質塩化ビニル系樹脂で構成される帯状部32とを強固に接合することができる。
【0038】
本発明において、極性変性されたポリオレフィン系樹脂とは、分子内に極性基が導入されたポリオレフィン系樹脂であれば特に限定されるものではない。この極性変性されたポリオレフィン系樹脂としては、これに限定されるものではないが、例えば、特開平7−62024号公報、特開平9−278956号公報等に記載の無水マレイン酸をグラフト共重合することで極性基を導入した無水マレイン酸変性ポリオレフィン、特開2007−112881号公報等に記載の(メタ)アクリル酸4−t−ブチルシクロヘキシル単量体とリン酸基含有ビニル単量体とを含むビニル系単量体でグラフト変性したポリオレフィン樹脂等を挙げることができる。
【0039】
極性変性されたポリオレフィン系樹脂としては、より具体的には、例えば、デュポン社のフサボンド(登録商標)E528、E226Y、E265等;三菱化学株式会社のモディック(登録商標)H511、H503、L502、L553、L504、M142、M502、M512、M545等;三井化学株式会社のアドマー(登録商標)NE065、NE827、NF559、NF587、SE800、SF731、QB550等を好適に用いることができる。前記極性変性されたポリオレフィン系樹脂は、単独で用いてもよいし、2種類以上を組合せて用いてもよい。
【0040】
なお、前記ポリオレフィン系樹脂は、極性変性されたポリオレフィン系樹脂を含むものであれば好ましい。したがって、極性変性されたポリオレフィン系樹脂は、必ずしも同時に含まれるポリオレフィン系樹脂を極性変性させたものでなくてもよいが、目的とするポリオレフィン系樹脂の特性を維持するという観点からは、同時に含まれるポリオレフィン系樹脂を極性変性させたものであることがより好ましい。
【0041】
伸縮部40を構成するポリオレフィン系樹脂に占める極性変性されたポリオレフィン系樹脂の割合は、特に限定されるものではないが、前記伸縮部に含まれる極性変性されていないポリオレフィン系樹脂100重量部に対して1重量部以上であることがより好ましく、4重量部以上であることがさらに好ましい。また、伸縮部40を構成するポリオレフィン系樹脂に占める極性変性されたポリオレフィン系樹脂の割合の上限は特に限定されるものではないが、前記伸縮部に含まれる極性変性されていないポリオレフィン系樹脂100重量部に対して50重量部以下であることがより好ましく、30重量部以下であることがさらに好ましく、12重量部以下であることが最も好ましい。
【0042】
伸縮部40を構成するポリオレフィン系樹脂に占める極性変性されたポリオレフィン系樹脂の割合が前記伸縮部に含まれる極性変性されていないポリオレフィン系樹脂100重量部に対して1重量部以上であることにより、ポリオレフィン系樹脂で構成される伸縮部40と、硬質塩化ビニル系樹脂で構成される帯状部32との接着性に優れるためより好ましい。また、伸縮部40を構成するポリオレフィン系樹脂に占める極性変性されたポリオレフィン系樹脂の割合が前記伸縮部に含まれる極性変性されていないポリオレフィン系樹脂100重量部に対して50重量部以下であることにより、極性変性されたポリオレフィン系樹脂の割合を減らし、目的とするポリオレフィン系樹脂の特性を維持することができるという効果を奏し、30重量部以下であればその効果はより顕著である。
【0043】
また、前記ポリオレフィン系樹脂は、メタロセン系ポリエチレンを含んでいてもよい。ここで、メタロセン系ポリエチレンとは、メタロセン系触媒で得られるポリエチレンであれば特に限定されるものではない。メタロセンポリエチレンは、低分子量成分が少なく、耐衝撃性や耐ESCR性がよく、透明性、低温シール性、耐ブロッキング性、低臭性、耐溶剤抽出性等に優れるため、かかる特性を利用して、前記ポリオレフィン系樹脂と混合することにより、前記ポリオレフィン系樹脂を改質することができる。例えば、メタロセン系ポリエチレンは、低分子量成分が少なく軟質であるという利点を利用するために、ポリエチレンと混合して用いることができる。
【0044】
ポリオレフィン系樹脂として、メタロセン系ポリエチレンを含むポリオレフィン系樹脂を用いる場合には、メタロセン系ポリエチレンを前記ポリオレフィン系樹脂に含まれる極性変性されていないポリオレフィン系樹脂全体に対して、10〜30重量%含んでいることがより好ましい。言い換えれば、メタロセン系ポリエチレンを、前記ポリオレフィン系樹脂に含まれるメタロセン系ポリエチレン以外の極性変性されていないポリオレフィン系樹脂とメタロセン系ポリエチレンとの合計に対して、10〜30重量%含んでいることがより好ましい。メタロセン系ポリエチレンを10重量%以上含むことにより、低低分子量成分、耐衝撃性、耐ESCR性、透明性、低温シール性、耐ブロッキング性、低臭性、耐溶剤抽出性等を向上させるとともに、前記伸縮部の剛性を低下させて施工を容易に行うことができるため好ましい。また、メタロセン系ポリエチレンを10〜30重量%含んでいることにより、前記伸縮部の引張降伏応力、引張破断伸びおよび引張弾性率に優れるため好ましい。
【0045】
かかるメタロセン系ポリエチレンとしては、より具体的には、例えば、日本ポリエチレン株式会社のカーネル(登録商標)KF360T、KS240T等を挙げることができる。
【0046】
伸縮部40は、幅方向の各側縁40a、40aが、帯状部32の前記他面に固着されていればよいが、ポリオレフィン系樹脂で構成される伸縮部40の幅方向の各側縁40a、40aと、硬質塩化ビニル系樹脂で構成される帯状部32とは、図1に示すように、接着剤層25、25を介して接合される。前記接着剤層25、25としては、例えば、熱可塑性ポリウレタンベースの接着剤を含む接着剤層を好適に用いることができる。かかる接着剤を用いることにより、ポリオレフィン系樹脂で構成される伸縮部40と、硬質塩化ビニル系樹脂で構成される帯状部32とを好適に接合することができる。
【0047】
熱可塑性ポリウレタンベースの接着剤としては、熱可塑性ポリウレタン、アクリル変性ポリウレタン、アクリレート変性ポリウレタン、ポリエステル系熱可塑性ポリウレタン、ポリエステル系熱可塑性ポリウレタン等を含む接着剤を挙げることができる。
【0048】
かかる接着剤としては、より具体的には、例えば、BASF社のエラストラン(登録商標)C70A11FG、ET875−10AVS、1180A10、Huntsman社のIrogran(登録商標)CA116等を挙げることができる。
【0049】
ポリオレフィン系樹脂で構成される伸縮部40の幅方向の各側縁40a、40aと、硬質塩化ビニル系樹脂で構成される帯状部32とは、図1に示すように、接着剤層25、25を介して接合されていればよいが、本実施形態にかかるジョイナ80は、図5に示すように、帯状部32と接着剤層25との接着面積を増加させるために、帯状部32の前記他面から突出するように備えられた突起部27、27を有していてもよい。これにより、突起部の側面とこれに接する帯状部32の他面との2面を接着剤層25と接着させることができ、接着強度を向上させることができる。また、かかる突起部は、伸縮部を挟み込むように2つあってもよい。
【0050】
本実施形態に係るジョイナにおいては、ポリオレフィン系樹脂で構成される伸縮部40の幅方向の各側縁40a、40aと、硬質塩化ビニル系樹脂で構成される帯状部32との接着強度は、8N/mm以上であり、より好ましくは10N/mm以上である。
【0051】
なお、ここで、ポリオレフィン系樹脂で構成される伸縮部40の幅方向の各側縁40a、40aと、硬質塩化ビニル系樹脂で構成される帯状部32との接着強度とは、後述する実施例12に記載の引張試験を行い、伸縮部40と帯状部32とが、いずれかの位置で破断するまでの最大荷重を、破断した面の面積で除することによって得られる値をいう。
【0052】
本実施形態に係るジョイナは、図3に示されるような内管を形成している状態で、帯状ストリップ14のピッチPがたとえば地振動によって大きく広がった場合にジョイナを破断させるための手段として、破断部を備える。本実施形態では、破断部として、図1および2に示す屈曲部82が設けられている。
【0053】
屈曲部82は、図1および2に示すように、断面形状がほぼ逆U字状であり、帯状部32の幅方向の略中央部を屈曲して形成されたものである。そして屈曲部82の内側の底部略中央に切欠部が形成されている。屈曲部82および切欠部は、帯状部32の長手方向の全体に亘って連続して形成されており、帯状部32の前記他面(既設管12側の面)から突出するように形成されている。
【0054】
既設管12の内面に内管16を形成する際には、図2および図3に示すように、帯状ストリップ14を既設管12の内面に沿って螺旋状に巻回し、ジョイナ80の一対の各突条34を帯状ストリップ14の一対の各条溝22に嵌め込む。これによって、帯状ストリップ14の幅方向側縁同士をジョイナ80によって接合することができる。これにより、内管16を形成することができる。
【0055】
内管16を形成した後、既設管12の内面と帯状ストリップ14およびジョイナ80との間に例えばセメントミルク等のような裏込材78を充填する。すると、ジョイナ80に形成された挟持部36が裏込材78内に埋め込まれ、裏込材78の硬化後は、挟持部36が裏込材78に強固に固定される。なお、ジョイナ80における帯状部32の一面32aには、逆U字状の屈曲部82による隙間84が形成されているが、この隙間84は内管16における例えば下水の流下性能に支障をきたさないように小さい寸法(たとえば約1mm以下)に形成されている。したがって、この隙間84には、パテ等の充填材を充填する等の後処理をする必要はない。なお、伸縮部40も裏込材78内に埋め込まれるが、伸縮部40と帯状部32とによって形成された伸縮部40の内側空間40bは閉じた状態にあるので、この内側空間40bには裏込材78が充填されていない。
【0056】
図1および2に示す本実施形態に係るジョイナ80によると、既設管12の内面に沿って螺旋状に巻回された帯状ストリップ14のピッチPが、たとえば地振動によって狭まる方向または広がる方向に少し変化した場合は、ジョイナ80の突条34、34および挟持部36、36と、帯状ストリップ14の条溝22、22との嵌まり合いがそのまま維持された状態で、屈曲部82が閉じる方向または開く方向に弾性変形するとともに、各突条34および挟持部36ならびに帯状ストリップ14の各条溝22を構成する第1および第2壁24および26が弾性変形する。したがって、ジョイナ80が帯状ストリップ14から外れることがない。この状態では、突条34と条溝22との一対の各嵌合部の水密性が保持されている。
【0057】
次に、図4に示すように、帯状ストリップ14のピッチPがたとえば地振動によって大きく広がる場合は、ジョイナ80の突条34、34および挟持部36、36と、帯状ストリップ14の条溝22、22との嵌まり合いがずれたり外れたりする前に、帯状部32を幅方向に広げる外力によって屈曲部82の切欠部が形成された底部82aで破断することになる。これによって、帯状ストリップ14のピッチPの広がりを許容することができる。
【0058】
屈曲部82が破断するときのメカニズムは、帯状部32を幅方向に広げる外力(変位)によって、屈曲部82の隙間84が広がり、このときに屈曲部82の底部82aに大きなモーメントが働き、このモーメントによってこの底部82aに応力が集中して切欠部から破断することとなる。このように、屈曲部82に働くモーメントを利用して屈曲部82の切欠部を有する底部82aが破断するようにしているので、帯状部32を幅方向に広げる予め定めた外力(変位)が掛かったときに、屈曲部82を確実に破断させるための設定を簡単に行うことができる。その結果、ジョイナ80の突条34、34および挟持部36、36と、帯状ストリップ14の条溝22、22との嵌合部の損傷を確実に防止して、帯状ストリップ14のピッチPの広がりを許容することができる。
【0059】
そして、帯状部32が屈曲部82の底部82aで破断して帯状部32の各側部44、46が互いに引き離された状態となっても、ジョイナ80の互いに引き離された側部44と側部46との間の隙間48を伸縮部40によって水密封止することができる。
【0060】
また、ジョイナ80の各側部44、46が互いに引き離されていくときは、伸縮部40が広げられることによって、各側部44、46の移動を許容することができる。さらに、ジョイナ80の互いに引き離された各側部44、46が、地震動によって互いに接近する方向に移動するときは、伸縮部40が折り畳まれる方向に変形することによって、各側部44、46の移動を許容することができる。そして、ジョイナ80の各側部44、46が図2および図4に示す各状態、およびこの2つの状態の間にある状態では、ジョイナ80の突条34、34および挟持部36、36と、帯状ストリップ14の条溝22、22との嵌合部には、大きな外力が掛からないので、各嵌合部の水密性が保持されている。
【0061】
このように、比較的大きい地震動があった場合でも、ジョイナ80が帯状ストリップ14から外れることがないし、内管16の水密性が保持されるので、内管16を補修するための手間を削減することができる。
【0062】
なお、屈曲部の形状は逆U字状以外にも任意の形状が適用できる。
【0063】
〔第2の実施形態〕
次に、本発明にかかる既設管更生部材の第2の実施形態について図6〜7に基づいて説明する。図6は、本発明の第2の実施形態に係る既設管更生部材であるジョイナの概略の構成を示す断面図である。図7は、本発明の第2の実施形態に係る既設管更生部材であるジョイナの中央部を除去した断面図である。
【0064】
図6に示す第2の実施形態に係る既設管更生部材であるジョイナ102は、第1の実施形態に係る既設管更生部材であるジョイナ80に切欠部104を設けたものである。切欠部104は、条溝であって、帯状部32の長手方向に沿って帯状部32の前記他面に形成されている。そして、各切欠部104は、伸縮部40のそれぞれの側縁40a、40aと屈曲部82との間の各位置に形成されている。このジョイナ102によると、図6に示すように、屈曲部82が形成されている中央部106を備えている状態で使用して、帯状ストリップ14とともに内管16を形成することができるし、図7に示すように、中央部106を除去した状態で使用して、帯状ストリップ14とともに内管16のたとえば一部を形成することができる。すなわち、中央部106を除去することによって、既設管12の内面形状に応じた形状に変形させて、帯状ストリップ14の幅方向側縁同士をこのジョイナ102によって接合することができる。
【0065】
〔第3の実施形態〕
上記第2の実施形態に係る既設管更生部材は、図6、7に示される中央部106を備え、該中央部は除去可能となっていたが、本発明の第3の実施形態に係る既設管更生部材であるジョイナは、前記中央部が当初から存在しないものである。
【0066】
本実施形態に係るジョイナは、中央部が存在しないため、ジョイナの一対の突条34の間隔を自在に変化させることができるので、既設管12の内面形状に応じた形状に変形させて、帯状ストリップ14の幅方向側縁同士を接合することができる。
【0067】
〔第4の実施形態〕
本発明にかかる既設管更生部材の第4の実施形態について図8に基づいて説明する。図8は本実施形態に係る既設管更生部材であるジョイナ10の概略の構成を示す断面図である。
【0068】
本実施形態に係る既設管更生部材であるジョイナ10と、第1の実施形態に係る既設管更生部材であるジョイナ80との相違点は、帯状ストリップ14のピッチPがたとえば地振動によって大きく広がった場合に、ジョイナを破断させるための破断部として、第1の実施形態では、図1および2に示す屈曲部82を設けたのに対して、本実施形態では、図8に示す切欠部42を設けたところである。これ以外は、第1の実施形態と同様であるので同等部分を同一の図面符号で示し、それらの詳細な説明を省略する。
【0069】
本実施形態では、破断部として、図8に示す切欠部42が設けられている。切欠部42は、前記帯状部の前記他面に、前記一面に向かって窪んだ溝状に形成されたものである。言い換えれば、切欠部42は、条溝であって、伸縮部40と同様に本体32の長手方向の全体に亘って連続して形成されている。なお、伸縮部40の各側縁40a、40aおよび切欠部42は、本体32の幅方向の略中央に配置されている。
【0070】
既設管12の内面に内管16を形成する際には、図2および図3に示すように、第1の実施形態と同様にして、螺旋状に巻回された帯状ストリップ14の幅方向側縁同士をジョイナ10によって接合すればよいので、その詳細な説明を省略する。
【0071】
また、第4の実施形態において、図6〜図7に示す第2の実施形態と同様に、伸縮部40の側縁40a、40a間にたとえば2条の切欠部104を設けてもよい。このように、2条の切欠部104を設けることによって、この2条の切欠部104の間に形成される中央部を備えている状態で使用することができるし、この中央部を除去した状態で使用することができる。
【0072】
〔その他の実施形態〕
第1〜第4の各実施形態では、図2等に示す形状の帯状ストリップ14の幅方向側縁同士をジョイナ80、102、10等によって接合する例を示したが、これ以外の形状の帯状ストリップについても、幅方向側縁同士をこれらのジョイナによって接合することができる。かかる帯状ストリップは、ジョイナ80、102、10等の各突条34、34が嵌合することによって、接合可能な条溝または突条等を有する帯状ストリップであればよい。
【0073】
また、第1〜第4の各実施形態では、既設管の内面に沿って螺旋状に巻回される帯状ストリップの隣接する幅方向側縁同士をジョイナ80、102、10等によって接合する例を示したが、既設管の内面に沿って既設管の長手方向に設置される帯状ストリップについても、幅方向側縁同士をこれらのジョイナによって接合することができる。
【0074】
既設管の内面に沿って既設管の長手方向に設置される帯状ストリップとしては、例えば矩形断面の既設管の内面を更生するためのライニング方法を開示する特開2006−29561号公報に開示されている帯状体(帯状ストリップ)を、ジョイナ80、102、10等によって接合することができる。
【0075】
また、本発明に係る既設管更生部材は、第1〜第4の各実施形態に係る既設管更生部材であるジョイナに限定されるものではなく、ジョイナの帯状の本体を構成し、前記内管の内側に向かう一面が平坦な帯状部、前記帯状部の、前記内管の外側に向かう他面に、前記帯状部の長手方向に沿って設けられ、隣接する前記帯状ストリップの幅方向側縁のそれぞれと嵌合する突条、前記帯状部の長手方向に沿って帯状に形成された伸縮部を備えるジョイナであれば、他の形状を有していてもよい。
【0076】
以上のように、本発明に係る既設管更生部材は、既設管の内面に沿って螺旋状に巻回される帯状ストリップの隣接する幅方向側縁同士を接合するためのジョイナであってもよく、また、既設管の内面に沿って既設管の長手方向に設置される帯状ストリップの隣接する幅方向側縁同士を接合するためのジョイナであってもよい。
【0077】
しかし、本発明に係る既設管更生部材は、上述した既設管更生部材に限定されるものではなく、既設管を更生または保護するための帯状の既設管更生部材であって、既設管の内面に沿って、
(a)螺旋状に巻回、または、
(b)既設管の長手方向に設置、
されるとともに、隣接する既設管更生部材の幅方向側縁と相互に嵌合することによって、既設管の内部に内管を形成するようになっており、当該既設管更生部材には、幅方向への伸長および/または収縮が可能な伸縮部が備えられており、当該伸縮部はポリオレフィン系樹脂で構成され、当該伸縮部を除く前記既設管更生部材は硬質塩化ビニル系樹脂で構成されていればよい。
【0078】
したがって、本発明に係る既設管更生部材は、ジョイナに限られるものではなく、幅方向への伸長および/または収縮が可能な伸縮部が備えられており、当該伸縮部はポリオレフィン系樹脂で構成され、当該伸縮部を除く前記既設管更生部材は硬質塩化ビニル系樹脂で構成されている帯状ストリップであってもよい。
【0079】
さらには、既設管の内面に沿って、1種類の既設管更生部材を、螺旋状に巻回、または、既設管の長手方向に設置するとともに、隣接する既設管更生部材の幅方向側縁と相互に嵌合することによって、既設管の内部に内管を形成するような工法にも適用することができる。
【0080】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0081】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【0082】
〔実施例1〜11〕
本発明に係る既設管更生部材の伸縮部の耐薬品性を評価するために、表1に示すポリオレフィン系樹脂を用いて試験片を作製し、日本下水道協会規格JSWAS K−1に準じて耐薬品性試験を行った。
【0083】
表1に示すポリオレフィン系樹脂をロールで練った後、プレスしてシートを作製し、型で打ち抜いて50mm×25mm×4mmの試験片を作製した。
【0084】
作製した試験片を、表1の各試験液に60℃で5時間浸漬した後、流水で5秒間洗浄し、乾いた布で表面の水分をふき取ってから質量を量った。下記式によって質量変化度を算出した。結果は2個の試験片の平均値とする。
質量変化度(mg/cm)=
(試験片の浸漬後の質量(mg)−試験片の浸漬前の質量(mg))/試験片の表面積(cm
【0085】
【表1】

【0086】
表1に示すように、ポリオレフィン系樹脂を用いて作製した試験片は、すべての試験液に対して質量変化度が±0.2mg/cm以下であり、日本下水道協会規格JSWAS K−1の耐薬品性を有していた。
【0087】
〔実施例12〕
図9に示す試験片は、図5に示すジョイナを成形した後、これを切り出して製造した。オレフィン系樹脂で構成された伸縮部(樹脂部材1)および硬質塩化ビニル系樹脂で構成された帯状部(樹脂部材3)が接着剤層2を介して接合されたジョイナを押出成形により製造した。樹脂部材1に含まれる極性変性されていないオレフィン系樹脂および極性変性されたオレフィン系樹脂、樹脂部材3に含まれる硬質塩化ビニル系樹脂並びに接着剤層2に含まれる接着剤として、表2に示す材料を用いた。樹脂部材1、樹脂部材3および接着剤層2を構成する材料は、溶融され、図9(a)の紙面に垂直な方向に押し出された。樹脂部材1の押出し方向に垂直な断面の幅dは1mmであった。得られたジョイナを、押出方向の長さbが20mmとなるように切り出した後、屈曲部の底部を破断したものを試験片とした。
【0088】
一対の樹脂部材3のそれぞれに、樹脂部材3の外側面に対して垂直の方向であって、相互に離反する方向に引張荷重をかけて引張試験を行った。なお、引張試験は、試験片の形状や試験数は異なるものの、JISK7161(プラスチック−引張特性の試験方法)に準拠して行い、23±2℃の条件下、島津製作所製AG−Xplus10kN型引張試験機を用いて行った。表3に、3種類の試験速度において、極性変性されていないオレフィン系樹脂および極性変性されたオレフィン系樹脂の割合を変化させて引張試験を行ったときの、試験片の破断状況の観察結果と、破断するまでの最大荷重を示す。なお、表3では、樹脂部材1と接着剤層2との境界以外での破断を境界外とし、破断位置を示している。
【0089】
【表2】

【0090】
【表3】

【0091】
表3に示すように、極性変性されていないオレフィン系樹脂と極性変性されたオレフィン系樹脂とを含む樹脂部材を、接着剤層を介して硬質塩化ビニル系樹脂で構成された樹脂部材と接着した試験片では、オレフィン系樹脂で構成された樹脂部材と接着剤層との間での既設管更生部材の破断は殆ど起こらなかった。かかる結果より、極性変性されていないオレフィン系樹脂と極性変性されたオレフィン系樹脂とを含む伸縮部を用いれば、硬質塩化ビニル系樹脂で構成された帯状部と、オレフィン系樹脂で構成された伸縮部とを、強固に接着できることが示された。また、本実施例の結果は、極性変性されたオレフィン系樹脂を含まない伸縮部を用いる場合と比較してより強固に接着できることを示すものであった。
【0092】
また、前記伸縮部を構成するポリオレフィン系樹脂に占める極性変性されたポリオレフィン系樹脂の割合は、前記伸縮部に含まれる極性変性されていないポリオレフィン系樹脂100重量部に対して4〜12重量部の範囲であるときに、特に最大荷重が大きいことから接着強度により優れることが判る。
【0093】
〔実施例13〜17〕
メタロセン系ポリエチレンを含むポリオレフィン系樹脂を用いて、極性変性されていないオレフィン系樹脂と極性変性されたオレフィン系樹脂とを含む伸縮部を製造した。このとき、ポリオレフィン系樹脂に含まれるメタロセン系ポリエチレンの割合を変化させたときの伸縮部の引張降伏応力、引張破断伸びおよび引張弾性率を測定した。
【0094】
メタロセン系ポリエチレンを含む極性変性されていないオレフィン系樹脂および極性変性されたオレフィン系樹脂として、表4に示す材料を表4に示す割合で用い、ロールで練ってプレスでシートを作製した。得られたシートから、表5に示す試験片を試験項目に応じて、型で打ち抜いて作製した。表5に示す試験方法により、引張降伏応力、引張破断伸びおよび引張弾性率を測定した。結果を表6に示す。
【0095】
【表4】

【0096】
【表5】

【0097】
【表6】

【0098】
表6に示すように、メタロセン系ポリエチレンの割合が、前記ポリオレフィン系樹脂に含まれる極性変性されていないポリオレフィン系樹脂全体に対して、10〜30重量%である場合、引張降伏応力、引張破断伸びおよび引張弾性率に優れることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0099】
以上のように、本発明に係る既設管更生部材は、幅方向への伸縮機能を有するとともに、耐薬品性に優れるので、非開削管路更生工法において、既設管の曲がりや段差がある場合、非円形の既設管を更生する場合、既設管更生部材のピッチが例えば地震によって変化した場合等に、互いに隣合う既設管更生部材の側縁間の水密性を保持することができるとともに、互いに隣合う既設管更生部材の側縁間においても耐薬品性に優れるので、各種既設管を更生または保護するために好適に利用することができ、非常に有用である。
【符号の説明】
【0100】
1 …樹脂部材
2 …接着剤層
3 …樹脂部材
80、86、88、90、102、10 …ジョイナ
12 …既設管
14 …帯状ストリップ
16 …内管
18 …帯状ストリップの本体
20 …脚部
22 …条溝
23 …シール材
24 …第1壁
26 …第2壁
27 …突起部
28、29、38、39 …係合部
30 …脚部
32 …帯状部
32a …帯状部の一面
34 …突条
36 …挟持部
40 …伸縮部
40a …幅方向の側縁
42 …切欠部
82 …屈曲部
78 …裏込材
104 …切欠部
106 …中央部



【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設管を更生または保護するための帯状の既設管更生部材であって、
既設管の内面に沿って、
(a)螺旋状に巻回、または、
(b)既設管の長手方向に設置、
されるとともに、隣接する既設管更生部材の幅方向側縁と相互に嵌合することによって、既設管の内部に内管を形成するようになっており、
当該既設管更生部材には、帯状部と、幅方向への伸長および/または収縮が可能な伸縮部とが備えられており、
前記伸縮部はポリオレフィン系樹脂で構成され、前記帯状部は硬質塩化ビニル系樹脂で構成されていることを特徴とする既設管更生部材。
【請求項2】
前記伸縮部を構成するポリオレフィン系樹脂は、極性変性されていないポリオレフィン系樹脂と、極性変性されたポリオレフィン系樹脂とを含むことを特徴とする請求項1に記載の既設管更生部材。
【請求項3】
前記伸縮部を構成するポリオレフィン系樹脂に占める極性変性されたポリオレフィン系樹脂の割合は、前記伸縮部に含まれる極性変性されていないポリオレフィン系樹脂100重量部に対して50重量部以下であることを特徴とする請求項2に記載の既設管更生部材。
【請求項4】
前記極性変性されたポリオレフィン系樹脂は、無水マレイン酸をグラフト共重合することで極性基を導入した無水マレイン酸変性ポリオレフィン、または(メタ)アクリル酸4−t−ブチルシクロヘキシル単量体とリン酸基含有ビニル単量体とを含むビニル系単量体でグラフト変性したポリオレフィン樹脂であることを特徴とする請求項2または3に記載の既設管更生部材。
【請求項5】
前記ポリオレフィン系樹脂は、メタロセン系ポリエチレンを含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の既設管更生部材。
【請求項6】
前記ポリオレフィン系樹脂に占めるメタロセン系ポリエチレンの割合は、前記ポリオレフィン系樹脂に含まれる極性変性されていないポリオレフィン系樹脂全体に対して、10〜30重量%であることを特徴とする請求項5に記載の既設管更生部材。
【請求項7】
前記伸縮部を構成するポリオレフィン系樹脂は、熱可塑性ポリウレタンベースの接着剤を含む接着剤層を介して、前記帯状部と接合されることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の既設管更生部材。
【請求項8】
前記帯状部は突起部を有し、前記伸縮部を構成するポリオレフィン系樹脂は、前記帯状部と前記突起部とに接合されることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の既設管更生部材。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−82095(P2013−82095A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−222259(P2011−222259)
【出願日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【出願人】(505142964)クボタシーアイ株式会社 (192)
【出願人】(507157676)株式会社クボタ工建 (8)
【出願人】(000149206)株式会社大阪防水建設社 (44)
【出願人】(594079464)金森化学工業株式会社 (4)
【Fターム(参考)】