易層間剥離性シートの製造方法および該製造方法により得られた層間剥離性シート
【課題】成形シートの切断工程とシートの切削工程を不要とすることにより、手間、コストを削減し、原料の歩留りを向上させ、樹脂シートの表層に凹部を設けることができ、凹部を表層に有するシートの表裏両面を使用でき、リサイクル可能な易層間剥離性シートの製造方法を提供すること、該製法により得られたシートを提供すること。
【解決手段】(a)エラストマー組成物が分散されてなるPETとポリオレフィンとを共押出しし、ポリオレフィン層の表裏両面にPETからなる層が積層されたシート状成形物を得る工程と、(b)該シート状成形物を冷却せしめ、前記エラストマー組成物をシート表面を疎、シート中心部を密に分散させる工程と、(c)二酸化炭素を、シートに浸透せしめる工程と、(d)シートを膨張せしめ、微細な空隙を密に形成させる工程とからなる易層間剥離性シートの製造方法である。
【解決手段】(a)エラストマー組成物が分散されてなるPETとポリオレフィンとを共押出しし、ポリオレフィン層の表裏両面にPETからなる層が積層されたシート状成形物を得る工程と、(b)該シート状成形物を冷却せしめ、前記エラストマー組成物をシート表面を疎、シート中心部を密に分散させる工程と、(c)二酸化炭素を、シートに浸透せしめる工程と、(d)シートを膨張せしめ、微細な空隙を密に形成させる工程とからなる易層間剥離性シートの製造方法である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、易層間剥離性シートの製造方法および該製造方法により得られた易層間剥離性シートに関する。さらに詳しくは、(a)エラストマー組成物が分散されてなり、275〜300℃で保持された溶融状態のポリエチレンテレフタレート(以下、PETという)と、190〜260℃で保持されたポリオレフィンとを、PETの押出し時の圧力5〜10MPa、ポリオレフィンの押出し時の圧力7.5〜15MPa、押出し時の温度265〜280℃、PETの押出し時のシリンダー温度250〜280℃、ポリオレフィンの押出し時のシリンダー温度180〜240℃で共押出しし、ポリオレフィンからなる層の表裏両面にPETからなる層が積層されたシート状成形物を得る工程と、(b)該シート状成形物を冷却せしめ、前記エラストマー組成物をシート表面を疎、シート中心部を密に分散させる工程と、(c)二酸化炭素を、該シートに浸透せしめる工程と、(d)前記シートを常圧下でポリエチレンテレフタレートのガラス転移温度(Tg)以上にて膨張せしめ、微細な空隙を密に形成させる工程とからなり、前記二酸化炭素が、二酸化炭素の三重点以上の温度および圧力に調整されてなる易層間剥離性シートの製造方法および該易層間剥離性シートの製造方法により得られた易層間剥離性シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂フィルムからなるシートは、たとえば図3に示されるように、ポリウレタンを使用してある程度の厚みを有する樹脂フィルム5を成形や注型を用いて作成した後に、該成形フィルムを薄く切断することにより作成されていた。参照符号6は、切断後のシート、参照符号7は切断前の樹脂フィルムを表す。かかるシートは、種々の用途、たとえば研磨液を塗布して精密機器の研磨工程に使用されていた。
【0003】
しかしながら、ポリウレタンを使用してある程度の厚みを有する樹脂フィルムを薄く切断して成形シートを作成したとしても、その厚さは厚く、一般的に75μm以下の厚さのシートを作成することは困難であり、それにより原料コストの増大が問題となっていた。また、厚いシートを使用した場合、超小型の精密機器を充分に細部にわたり研磨することは困難であった。さらに、切断工程を必須とし、手間、コスト等の問題もあった。また、たとえば研磨用途に使用する場合、ポリウレタンシートの表層に、研磨スラリーに適した凹部形状を設けることが好ましいが、この製法では凹部形状の大きさをコントロールすることが困難であり、研磨精度に限界があった。
【0004】
そこで、図4に示されるように、たとえばPETと相溶性を有するエラストマー組成物8(たとえばスチレン系、スチレンブタジエン系、オレフィン系またはポリエステル系熱可塑性エラストマーからなる)を、PET樹脂中に溶融させ、冷却することにより、PETシートの中心部に該エラストマー組成物8を集合させる方法がある。該エラストマーは、シート表面部は疎、シート中心部は密なる状態に分散する。かかる機序は、PETとエラストマー組成物とは融点が大きく異なることから溶融状態の混合物を冷却することにより、PETの表層部が徐々に冷却され、PETからなる層9が形成されるとともに、エラストマー組成物8がシートの中心に向かって疎から密に分散する性質を利用したものである。また、PETは、エラストマー組成物よりも早く硬化するため、PETが硬化した後にエラストマー組成物が硬化する。この後、二酸化炭素の浸透工程、さらには空隙発生工程を経て、中心部に微細な空隙を有するシートが形成される。この方法で作成されたシートの表層を切削することにより微細な空隙が密に分散した層を露出させることができ、空隙が切削された凹部を表層に設けることができ、これにより、たとえば研磨液を保持するための凹部を設けることができる。切削すべき基準(切断基準)を参照符号A1で示す。しかしながら、冷却後のシートの切削工程が必須であり、手間やコストについて新たな問題が生じていた。また、切削によって得られたシートは片面しか使用することができないという問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来の問題に鑑みてなされたものであり、従来必須であった成形シートの切断工程を不要としながら、かつ、シートの切削工程も不要とすることにより、手間、コストを削減し、原料の歩留りを向上させ、樹脂シートの表層に凹部を設けることができ、凹部を表層に有するシートの表裏両面を使用でき、さらに、リサイクル可能な易層間剥離性シートの製造方法を提供すること、該易層間剥離性シートの製造方法により得られた易層間剥離性シートを提供することを目的とする。
【0006】
なお、本発明の二酸化炭素を用いた発泡は、一度シートを固層状態としたうえでの発泡であるが、樹脂が溶融状態で二酸化炭素またはチッ素を注入する物理的発泡法や予め樹脂に発泡剤をブレンドして押し出す化学発泡法等の従来の方法では、均一かつ目標とする発泡セルの大きさを制御することは容易でない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の易層間剥離性シートは、(a)エラストマー組成物が分散されてなり、275〜300℃で保持された溶融状態のポリエチレンテレフタレート(以下、PETという)と、190〜260℃で保持されたポリオレフィンとを、PETの押出し時の圧力5〜10MPa、ポリオレフィンの押出し時の圧力7.5〜15MPa、押出し時の温度265〜280℃、PETの押出し時のシリンダー温度250〜280℃、ポリオレフィンの押出し時のシリンダー温度180〜240℃で共押出しし、ポリオレフィンからなる層の表裏両面にPETからなる層が積層されたシート状成形物を得る工程と、(b)該シート状成形物を冷却せしめ、前記エラストマー組成物をシート表面を疎、シート中心部を密に分散させる工程と、(c)二酸化炭素を、該シートに浸透せしめる工程と、(d)前記シートを常圧下でポリエチレンテレフタレートのガラス転移温度(Tg)以上にて膨張せしめ、微細な空隙を密に形成させる工程とからなり、前記二酸化炭素が、二酸化炭素の三重点以上の温度および圧力に調整されてなることを特徴とする。
【0008】
前記ポリオレフィンからなる層がポリプロピレンまたはポリエチレンであることが好ましい。
【0009】
前記エラストマーが、スチレン系、スチレンブタジエン系、オレフィン系またはポリエステル系熱可塑性エラストマーであることが好ましい。
【0010】
また、本発明は、ポリオレフィンからなる層の表裏両面にPETからなる層が積層され、該PETからなるシートの表層に、凹部を設けられてなる易層間剥離性シートである。
【0011】
前記ポリオレフィンからなる層がポリプロピレンまたはポリエチレンであることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の易層間剥離性シートの製造方法および該製造方法により得られる易層間剥離性シートによれば、従来必須であった成形シートの切断工程を不要としながら、かつ、シートの切削工程も不要とすることにより、手間、コストを削減し、原料の歩留りを向上させ、樹脂シートの表層に凹部を設けることができ、凹部を表層に有するシートの表裏両面を使用でき、さらに、リサイクル可能な易層間剥離性シートの製造方法を提供すること、該易層間剥離性シートの製造方法により得られる易層間剥離性シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1a】本発明の易層間剥離性シートの製造方法により得られる易層間剥離シートの一実施形態にかかる易層間剥離性シートの断面図である。
【図1b】本発明の易層間剥離性シートの製造方法により得られる易層間剥離シートの一実施形態にかかる易層間剥離性シートの断面図である。
【図1c】本発明の易層間剥離性シートの製造方法により得られる易層間剥離シートの一実施形態にかかる易層間剥離性シートの断面図である。
【図2a】本発明の易層間剥離性シートの製造方法における製造工程を説明するための断面図である。
【図2b】本発明の易層間剥離性シートの製造方法における製造工程を説明するための断面図である。
【図2c】本発明の易層間剥離性シートの製造方法における製造工程を説明するための断面図である。
【図2d】本発明の易層間剥離性シートの製造方法における製造工程を説明するための断面図である。
【図3】従来のシートの説明図である。
【図4】従来のシートの説明図である。
【図5】本発明の易層間剥離性シートの一実施形態(実施例1)にかかる易層間剥離性シートの剥離後の発泡状態を説明する顕微鏡写真である。
【図6】比較例4にかかる易層間剥離性シートの剥離後の発泡状態を説明する顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の易層間剥離性シートの製造方法は(a)エラストマー組成物が分散されてなり、275〜300℃で保持された溶融状態のPETと、190〜260℃で保持されたポリオレフィンとを、PETの押出し時の圧力5〜10MPa、ポリオレフィンの押出し時の圧力7.5〜15MPa、押出し時の温度265〜280℃、PETの押出し時のシリンダー温度250〜280℃、ポリオレフィンの押出し時のシリンダー温度180〜240℃で共押出しし、ポリオレフィンからなる層の表裏両面にPETからなる層が積層されたシート状成形物を得る工程と、(b)該シート状成形物を冷却せしめ、前記エラストマー組成物をシート表面を疎、シート中心部を密に分散させる工程と、(c)二酸化炭素を、該シートに浸透せしめる工程と、(d)前記シートを常圧下でポリエチレンテレフタレートのガラス転移温度(Tg)以上にて膨張せしめ、微細な空隙を密に形成させる工程とからなり、前記二酸化炭素が、二酸化炭素の三重点以上の温度および圧力に調整されてなることを特徴とする。
【0015】
図1(a)および図2(a)に示されるように、(a)の工程を経て得られたシート状成形物1aは、ポリオレフィンからなる層2の表裏両面にPETからなる層3が積層されてなる。
【0016】
ポリオレフィンからなる層2としては、極性を有しない樹脂であれば特に制限はないが、汎用性かつ選択肢の多さからポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂が好ましい。また、PETに代えて、種々の熱可塑性樹脂を使用することも可能である。
【0017】
PETからなる層3とポリオレフィンからなる層の層構成としては、ポリオレフィンからなる層2がPETからなる層3によって表裏両面から挟まれた構成であれば特に制限はなく、具体的な層構成は、a1/b1/a1またはa1/b1/a2/b1/a1である。図1(b)および図1(c)に示されるようにPETとポリオレフィンとは相溶性を有さず、両者は容易に剥離することができる。また、a1とa2は同じかまたは異なる材料を使用してよく、a2を含む五層の場合は、表裏の両面使用が可能となる。
【0018】
共押出しの方法としては、一般的な方法を採用することができる。すなわち、溶融状態のPETからなる層と、溶融状態のポリオレフィンからなる層とを細いスリット状の隙間から押出して、冷却後に巻き取る方法を採用できる。ダイは、フィードブロック式による単層ダイおよびフィードブロックを使用しないマルチマニホールドダイのいずれも使用することができる。これにより、異なる複数の樹脂を押出すことができ、かつ、製膜と同時にラミネートすることができる。かかる工程を採用できる装置であれば特に制限はなく、たとえばPETにはTEM104SS(東芝機械(株)製)、ポリオレフィンにはSE90DVB(東芝機械(株)製)を使用することができる。溶融状態のPETからなる層の温度としては、275〜300℃、ポリオレフィンからなる層の温度としては、190〜260℃に調整することが好ましい。PETの押出し時の圧力としては、5〜10MPa、ポリオレフィンの押出し時の圧力としては、7.5〜15MPaを採用することができる。圧力が上記範囲よりも小さい場合、バンク変動が激しくなるという問題があり、上記範囲よりも大きい場合、ダイ内の圧力が高く、ダイリップが開いてシート中央部のシート厚みが厚くなりすぎて厚み調整が困難となるという問題がある。また、PET層とポリオレフィン層が合流する点では、(PET層のせん断応力)<(ポリオレフィンのせん断応力)を維持しないとフローマークが発生するという問題がある。また、ポリエチレンテレフタレートの押出し時のシリンダー温度としては250〜280℃が好ましく、ポリオレフィンの押出し時のシリンダー温度としては180〜240℃が好ましい。シリンダー温度が上記範囲よりも低い場合、PET層とポリオレフィン層が合流する点では、(PET層のせん断応力)<(ポリオレフィンのせん断応力)を維持しないとフローマークが発生するという問題があり、上記範囲よりも高い場合、物性の低下を招くという問題がある。
【0019】
シート状成形物1aにおける成形後のPETからなる層3の厚さとしては、100〜450μmが好ましい。100μmよりも薄いと成形が困難であり、かつ、溶融状態において、後述のエラストマー組成物4を均一に分散させることが困難となる。また、450μmよりも厚いと原料コスト、成形性の観点から好ましくない。
【0020】
一方、シート状成形物1aにおける成形後のポリオレフィンからなる層3の厚さとしては、30〜60μmが好ましい。30μmよりも薄いと強度等が充分でないという問題がある。60μmよりも厚いと冷却工程が長期化するという問題と、コスト的に不利となるという問題がある。
【0021】
図2(b)および図2(c)に示されるように、冷却工程において、PETからなる層3は、エラストマー組成物4よりも先に硬化することとなる。また、エラストマー組成物4は、シート表面部は疎、シート中心部は密なる状態に分散する。かかる機序は、PETとエラストマー組成物とは融点が大きく異なることから溶融状態の混合物を冷却することにより、PETの表層部が徐々に冷却され、PETからなる層9が形成されるとともに、エラストマー組成物8がシートの中心に向かって疎から密に分散する性質を利用したものである。
【0022】
図2(c)に示されるように、二酸化炭素中にフィルム状成形物1aを曝すことにより、前記凹部4aに二酸化炭素を浸透せしめることができる。二酸化炭素は、二酸化炭素の三重点以上の温度および圧力に調整されてなる。すなわち、二酸化炭素の三重点は、温度が−56.6℃、圧力が0.52MPaであるから、それ以上の温度および圧力を有するものが使用される。前記三重点以上の温度および圧力としては特に限定されないが、実用に即する観点から、たとえば−56.6℃〜30℃であって、0.52MPa〜7.0MPaのものが好ましく、0℃〜30℃であって、1MPa〜7.0MPaのものがさらに好ましく、15℃〜30℃であって、1MPa〜7.0MPaのものがさらに好ましい。二酸化炭素の浸透方向をA2で示す。二酸化炭素は、エラストマー組成物4のみでなく、PET中にも溶解する。そして、エラストマー組成物とPETとの界面部分において、気泡核が形成される。すなわち、エラストマー組成物4は、PETに溶解した二酸化炭素を周囲に集め(ただしこの時点で気泡は形成されておらず、溶解した状態である)、気泡を形成するための核(気泡核)となり、部分的に二酸化炭素濃度が上昇する。ついで、気泡核の周囲(すなわちエラストマー組成物4の周囲)に、PETおよびエラストマー組成物4中に溶解していた二酸化炭素が拡散し、気泡として成長することと考えられる。そして、図2(d)に示されるように、かかる工程の後、常圧下にフィルム状成形物1aを戻すと、二酸化炭素膨張し、空隙4aが密に形成されることとなる。そして、その後PETが硬化するため、気泡の成長が停止することとなる。
【0023】
該エラストマー組成物4としては、前記PETからなる層3中に溶融状態で均一に分散し得るものであって、PETからなる層3を構成する樹脂組成物が有する融点およびガラス転移温度(Tg)よりも低い融点およびTgを有するものが使用できる。かかる観点から、PETからなる層3がPETシートの場合、スチレン系、スチレンブタジエン系、オレフィン系またはポリエステル系熱可塑性エラストマーからなるエラストマー組成物4が好ましい。
【0024】
空隙4aの大きさとしては、5〜100μmが好ましい。5μmよりも小さい場合、たとえば研磨液を塗布して研磨用途に使用する場合、研磨液の保持が困難となる。100μmよりも大きい場合、不均一な大きさとなりやすく、かつ超小型の精密機器を研磨する場合に充分な効果が得られない傾向がある。
【0025】
二酸化炭素に曝す方法は、特に限定されず、樹脂へのガス浸透量が飽和するのに充分な時間だけ暴露させればよい。
【0026】
本発明の易層間剥離性シート1は、PETからなる層3を、ポリオレフィンからなる層2から容易に剥離することができる。剥離後のポリオレフィンからなる層2は、粉砕して再利用することができる。
【0027】
以下、実施例により、本発明の易層間剥離性シートの製造方法およびその製造方法により得られた易層間剥離性シートをより詳細に説明するが、本発明は、なんらこれらに限定されるものではない。
【0028】
実施例1
PETからなる層として、PET(数平均分子量(以下、単にMnという):17500、Tg:75.9℃)を105kg/h(仕込み量ではなく、単位時間当たりの使用量として示す。以下同じ)と、ポリオレフィンからなる層として、ポリエチレン(Mn:11200、Tg:−70℃)を8.3kg/h使用した。両樹脂組成物を298℃で溶融させた。PETからなる層中に、2.1kg/hのポリエステル系熱可塑性エラストマー(Mn:20000〜30000、融点(Tm):221℃からなるエラストマーを分散させた。
【0029】
溶融状態の両樹脂組成物を、TEM104SS/SE90DVB(東芝機械(株)製)を使用して共押出しした。押出し時の圧力は、PETが6.3MPa、ポリオレフィンが10.7MPaであり、押出し時の温度は275℃であった。冷却には41/38/36℃の三本の冷却ロールにて冷却し、三本ロール以降は室温(約25℃)にて室温まで徐冷し、シート状成形物を得た。該シート状成形物の層構成は、a/b/aであった。得られたシート状成形物に二酸化炭素(ガス浸透温度:17℃、ガス浸透圧力:7.0MPa)を浸透させ、PETからなる層の表層に空隙を形成させた。得られた易層間剥離性シートの厚さは780μm(それぞれ350/50/380μm)であり、凹部の大きさは約10μmであった。
【0030】
比較例1
ポリオレフィンからなる層として、8.3kg/hのポリプロピレン(Mn:51000、Tg:−10℃)を使用した以外は、実施例1と同様に易層間剥離性シートを作成した。得られた易層間剥離性シートの厚さは720μm(それぞれ350/50/320μm)であり、凹部の大きさは約10μmであった。
【0031】
比較例2
ポリオレフィンからなる層として、11.5kg/hのオレフィン系ポリマー(三菱化学(株)製 モディックF554A)を使用した以外は、実施例1と同様に易層間剥離性シートを作成した。得られた易層間剥離性シートの厚さは745μm(それぞれ350/75/320μm)であり、凹部の大きさは約10μmであった。
【0032】
実施例2
ポリオレフィンからなる層として、11.5kg/hのオレフィン系ポリマー(三井化学株式会社製 アドマーSE800)を使用した以外は、実施例1と同様に易層間剥離性シートを作成した。得られた易層間剥離性シートの厚さは720μm(それぞれ350/40/330μm)であり、凹部の大きさは約10μmであった。
【0033】
実施例3
ガス浸透圧力を5.5MPaとした以外は、実施例1と同様に易層間剥離性シートを作成した。得られた易層間剥離性シートの厚さは780μm(それぞれ350/50/380μm)であり、凹部の大きさは約12μmであった。
【0034】
実施例4
ガス浸透温度を35℃とした以外は、実施例1と同様に易層間剥離性シートを作成した。得られた易層間剥離性シートの厚さは780μm(それぞれ350/50/380μm)であり、凹部の大きさは約8μmであった。
【0035】
比較例3
ガス浸透圧力を0.2MPaとした以外は、実施例1と同様に易層間剥離性シートを作成した。得られた易層間剥離性シートの厚さは780μm(それぞれ350/50/380μm)であったが、発泡は困難であった。
【0036】
比較例4
ガス浸透温度を35℃、ガス浸透圧力を0.6MPaとした以外は、実施例1と同様に易層間剥離性シートを作成した。得られた易層間剥離性シートの厚さは780μm(それぞれ350/50/380μm)であり、凹部の大きさは約100μm超であった。
【0037】
試験評価
(剥離強度)
実施例1および2、比較例1および2で得られた易層間剥離性シートの最外層を剥離するために必要な強度を、デジタルフォースゲージ(日本電産シンポ(株)製)を使用して測定した。結果を表1に示す。
【0038】
剥離強度が0.65(N/mm)を超える場合、剥離が困難となり、0.03よりも小さい場合、発泡段階で部分的に剥離することとなり好ましくない。
【0039】
(外観評価)
実施例1、3および4、比較例3および4で得られた易層間剥離性シートにおいて、最外層のシートのみを剥離し、ポリオレフィンからなる層の表層部を顕微鏡観察した。結果を表2に示す。また、実施例1および比較例4の顕微鏡写真をそれぞれ図5および図6に示す。表2に示されるように、比較例1および2の易層間剥離性シートのポリオレフィンからなる層の表層は、凹部の大きさが不均一であった。
【0040】
図5に示されるように、実施例1の表層部の発泡状態は約10μmの凹部が均一に形成されていたが、図6に示されるように、比較例4の表層部の発泡状態は、約10〜250μmの凹部が不均一に形成され、粗大な凹部が多数形成された。図5および図6において、それぞれB1、B2は凹部を指す。
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
【符号の説明】
【0043】
1 易層間剥離性シート
1a シート状成形物
2 ポリオレフィンからなる層
3 ポリエチレンテレフタレート(PET)からなる層
4 エラストマー組成物
4a 空隙
5 樹脂フィルム
6 切断後のシート
7 切断前の樹脂フィルム
8 エラストマー組成物
9 ポリエチレンシートからなる層
A1 切断基準
A2 二酸化炭素の浸透方向
B1、B2 凹部
【技術分野】
【0001】
本発明は、易層間剥離性シートの製造方法および該製造方法により得られた易層間剥離性シートに関する。さらに詳しくは、(a)エラストマー組成物が分散されてなり、275〜300℃で保持された溶融状態のポリエチレンテレフタレート(以下、PETという)と、190〜260℃で保持されたポリオレフィンとを、PETの押出し時の圧力5〜10MPa、ポリオレフィンの押出し時の圧力7.5〜15MPa、押出し時の温度265〜280℃、PETの押出し時のシリンダー温度250〜280℃、ポリオレフィンの押出し時のシリンダー温度180〜240℃で共押出しし、ポリオレフィンからなる層の表裏両面にPETからなる層が積層されたシート状成形物を得る工程と、(b)該シート状成形物を冷却せしめ、前記エラストマー組成物をシート表面を疎、シート中心部を密に分散させる工程と、(c)二酸化炭素を、該シートに浸透せしめる工程と、(d)前記シートを常圧下でポリエチレンテレフタレートのガラス転移温度(Tg)以上にて膨張せしめ、微細な空隙を密に形成させる工程とからなり、前記二酸化炭素が、二酸化炭素の三重点以上の温度および圧力に調整されてなる易層間剥離性シートの製造方法および該易層間剥離性シートの製造方法により得られた易層間剥離性シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂フィルムからなるシートは、たとえば図3に示されるように、ポリウレタンを使用してある程度の厚みを有する樹脂フィルム5を成形や注型を用いて作成した後に、該成形フィルムを薄く切断することにより作成されていた。参照符号6は、切断後のシート、参照符号7は切断前の樹脂フィルムを表す。かかるシートは、種々の用途、たとえば研磨液を塗布して精密機器の研磨工程に使用されていた。
【0003】
しかしながら、ポリウレタンを使用してある程度の厚みを有する樹脂フィルムを薄く切断して成形シートを作成したとしても、その厚さは厚く、一般的に75μm以下の厚さのシートを作成することは困難であり、それにより原料コストの増大が問題となっていた。また、厚いシートを使用した場合、超小型の精密機器を充分に細部にわたり研磨することは困難であった。さらに、切断工程を必須とし、手間、コスト等の問題もあった。また、たとえば研磨用途に使用する場合、ポリウレタンシートの表層に、研磨スラリーに適した凹部形状を設けることが好ましいが、この製法では凹部形状の大きさをコントロールすることが困難であり、研磨精度に限界があった。
【0004】
そこで、図4に示されるように、たとえばPETと相溶性を有するエラストマー組成物8(たとえばスチレン系、スチレンブタジエン系、オレフィン系またはポリエステル系熱可塑性エラストマーからなる)を、PET樹脂中に溶融させ、冷却することにより、PETシートの中心部に該エラストマー組成物8を集合させる方法がある。該エラストマーは、シート表面部は疎、シート中心部は密なる状態に分散する。かかる機序は、PETとエラストマー組成物とは融点が大きく異なることから溶融状態の混合物を冷却することにより、PETの表層部が徐々に冷却され、PETからなる層9が形成されるとともに、エラストマー組成物8がシートの中心に向かって疎から密に分散する性質を利用したものである。また、PETは、エラストマー組成物よりも早く硬化するため、PETが硬化した後にエラストマー組成物が硬化する。この後、二酸化炭素の浸透工程、さらには空隙発生工程を経て、中心部に微細な空隙を有するシートが形成される。この方法で作成されたシートの表層を切削することにより微細な空隙が密に分散した層を露出させることができ、空隙が切削された凹部を表層に設けることができ、これにより、たとえば研磨液を保持するための凹部を設けることができる。切削すべき基準(切断基準)を参照符号A1で示す。しかしながら、冷却後のシートの切削工程が必須であり、手間やコストについて新たな問題が生じていた。また、切削によって得られたシートは片面しか使用することができないという問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来の問題に鑑みてなされたものであり、従来必須であった成形シートの切断工程を不要としながら、かつ、シートの切削工程も不要とすることにより、手間、コストを削減し、原料の歩留りを向上させ、樹脂シートの表層に凹部を設けることができ、凹部を表層に有するシートの表裏両面を使用でき、さらに、リサイクル可能な易層間剥離性シートの製造方法を提供すること、該易層間剥離性シートの製造方法により得られた易層間剥離性シートを提供することを目的とする。
【0006】
なお、本発明の二酸化炭素を用いた発泡は、一度シートを固層状態としたうえでの発泡であるが、樹脂が溶融状態で二酸化炭素またはチッ素を注入する物理的発泡法や予め樹脂に発泡剤をブレンドして押し出す化学発泡法等の従来の方法では、均一かつ目標とする発泡セルの大きさを制御することは容易でない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の易層間剥離性シートは、(a)エラストマー組成物が分散されてなり、275〜300℃で保持された溶融状態のポリエチレンテレフタレート(以下、PETという)と、190〜260℃で保持されたポリオレフィンとを、PETの押出し時の圧力5〜10MPa、ポリオレフィンの押出し時の圧力7.5〜15MPa、押出し時の温度265〜280℃、PETの押出し時のシリンダー温度250〜280℃、ポリオレフィンの押出し時のシリンダー温度180〜240℃で共押出しし、ポリオレフィンからなる層の表裏両面にPETからなる層が積層されたシート状成形物を得る工程と、(b)該シート状成形物を冷却せしめ、前記エラストマー組成物をシート表面を疎、シート中心部を密に分散させる工程と、(c)二酸化炭素を、該シートに浸透せしめる工程と、(d)前記シートを常圧下でポリエチレンテレフタレートのガラス転移温度(Tg)以上にて膨張せしめ、微細な空隙を密に形成させる工程とからなり、前記二酸化炭素が、二酸化炭素の三重点以上の温度および圧力に調整されてなることを特徴とする。
【0008】
前記ポリオレフィンからなる層がポリプロピレンまたはポリエチレンであることが好ましい。
【0009】
前記エラストマーが、スチレン系、スチレンブタジエン系、オレフィン系またはポリエステル系熱可塑性エラストマーであることが好ましい。
【0010】
また、本発明は、ポリオレフィンからなる層の表裏両面にPETからなる層が積層され、該PETからなるシートの表層に、凹部を設けられてなる易層間剥離性シートである。
【0011】
前記ポリオレフィンからなる層がポリプロピレンまたはポリエチレンであることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の易層間剥離性シートの製造方法および該製造方法により得られる易層間剥離性シートによれば、従来必須であった成形シートの切断工程を不要としながら、かつ、シートの切削工程も不要とすることにより、手間、コストを削減し、原料の歩留りを向上させ、樹脂シートの表層に凹部を設けることができ、凹部を表層に有するシートの表裏両面を使用でき、さらに、リサイクル可能な易層間剥離性シートの製造方法を提供すること、該易層間剥離性シートの製造方法により得られる易層間剥離性シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1a】本発明の易層間剥離性シートの製造方法により得られる易層間剥離シートの一実施形態にかかる易層間剥離性シートの断面図である。
【図1b】本発明の易層間剥離性シートの製造方法により得られる易層間剥離シートの一実施形態にかかる易層間剥離性シートの断面図である。
【図1c】本発明の易層間剥離性シートの製造方法により得られる易層間剥離シートの一実施形態にかかる易層間剥離性シートの断面図である。
【図2a】本発明の易層間剥離性シートの製造方法における製造工程を説明するための断面図である。
【図2b】本発明の易層間剥離性シートの製造方法における製造工程を説明するための断面図である。
【図2c】本発明の易層間剥離性シートの製造方法における製造工程を説明するための断面図である。
【図2d】本発明の易層間剥離性シートの製造方法における製造工程を説明するための断面図である。
【図3】従来のシートの説明図である。
【図4】従来のシートの説明図である。
【図5】本発明の易層間剥離性シートの一実施形態(実施例1)にかかる易層間剥離性シートの剥離後の発泡状態を説明する顕微鏡写真である。
【図6】比較例4にかかる易層間剥離性シートの剥離後の発泡状態を説明する顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の易層間剥離性シートの製造方法は(a)エラストマー組成物が分散されてなり、275〜300℃で保持された溶融状態のPETと、190〜260℃で保持されたポリオレフィンとを、PETの押出し時の圧力5〜10MPa、ポリオレフィンの押出し時の圧力7.5〜15MPa、押出し時の温度265〜280℃、PETの押出し時のシリンダー温度250〜280℃、ポリオレフィンの押出し時のシリンダー温度180〜240℃で共押出しし、ポリオレフィンからなる層の表裏両面にPETからなる層が積層されたシート状成形物を得る工程と、(b)該シート状成形物を冷却せしめ、前記エラストマー組成物をシート表面を疎、シート中心部を密に分散させる工程と、(c)二酸化炭素を、該シートに浸透せしめる工程と、(d)前記シートを常圧下でポリエチレンテレフタレートのガラス転移温度(Tg)以上にて膨張せしめ、微細な空隙を密に形成させる工程とからなり、前記二酸化炭素が、二酸化炭素の三重点以上の温度および圧力に調整されてなることを特徴とする。
【0015】
図1(a)および図2(a)に示されるように、(a)の工程を経て得られたシート状成形物1aは、ポリオレフィンからなる層2の表裏両面にPETからなる層3が積層されてなる。
【0016】
ポリオレフィンからなる層2としては、極性を有しない樹脂であれば特に制限はないが、汎用性かつ選択肢の多さからポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂が好ましい。また、PETに代えて、種々の熱可塑性樹脂を使用することも可能である。
【0017】
PETからなる層3とポリオレフィンからなる層の層構成としては、ポリオレフィンからなる層2がPETからなる層3によって表裏両面から挟まれた構成であれば特に制限はなく、具体的な層構成は、a1/b1/a1またはa1/b1/a2/b1/a1である。図1(b)および図1(c)に示されるようにPETとポリオレフィンとは相溶性を有さず、両者は容易に剥離することができる。また、a1とa2は同じかまたは異なる材料を使用してよく、a2を含む五層の場合は、表裏の両面使用が可能となる。
【0018】
共押出しの方法としては、一般的な方法を採用することができる。すなわち、溶融状態のPETからなる層と、溶融状態のポリオレフィンからなる層とを細いスリット状の隙間から押出して、冷却後に巻き取る方法を採用できる。ダイは、フィードブロック式による単層ダイおよびフィードブロックを使用しないマルチマニホールドダイのいずれも使用することができる。これにより、異なる複数の樹脂を押出すことができ、かつ、製膜と同時にラミネートすることができる。かかる工程を採用できる装置であれば特に制限はなく、たとえばPETにはTEM104SS(東芝機械(株)製)、ポリオレフィンにはSE90DVB(東芝機械(株)製)を使用することができる。溶融状態のPETからなる層の温度としては、275〜300℃、ポリオレフィンからなる層の温度としては、190〜260℃に調整することが好ましい。PETの押出し時の圧力としては、5〜10MPa、ポリオレフィンの押出し時の圧力としては、7.5〜15MPaを採用することができる。圧力が上記範囲よりも小さい場合、バンク変動が激しくなるという問題があり、上記範囲よりも大きい場合、ダイ内の圧力が高く、ダイリップが開いてシート中央部のシート厚みが厚くなりすぎて厚み調整が困難となるという問題がある。また、PET層とポリオレフィン層が合流する点では、(PET層のせん断応力)<(ポリオレフィンのせん断応力)を維持しないとフローマークが発生するという問題がある。また、ポリエチレンテレフタレートの押出し時のシリンダー温度としては250〜280℃が好ましく、ポリオレフィンの押出し時のシリンダー温度としては180〜240℃が好ましい。シリンダー温度が上記範囲よりも低い場合、PET層とポリオレフィン層が合流する点では、(PET層のせん断応力)<(ポリオレフィンのせん断応力)を維持しないとフローマークが発生するという問題があり、上記範囲よりも高い場合、物性の低下を招くという問題がある。
【0019】
シート状成形物1aにおける成形後のPETからなる層3の厚さとしては、100〜450μmが好ましい。100μmよりも薄いと成形が困難であり、かつ、溶融状態において、後述のエラストマー組成物4を均一に分散させることが困難となる。また、450μmよりも厚いと原料コスト、成形性の観点から好ましくない。
【0020】
一方、シート状成形物1aにおける成形後のポリオレフィンからなる層3の厚さとしては、30〜60μmが好ましい。30μmよりも薄いと強度等が充分でないという問題がある。60μmよりも厚いと冷却工程が長期化するという問題と、コスト的に不利となるという問題がある。
【0021】
図2(b)および図2(c)に示されるように、冷却工程において、PETからなる層3は、エラストマー組成物4よりも先に硬化することとなる。また、エラストマー組成物4は、シート表面部は疎、シート中心部は密なる状態に分散する。かかる機序は、PETとエラストマー組成物とは融点が大きく異なることから溶融状態の混合物を冷却することにより、PETの表層部が徐々に冷却され、PETからなる層9が形成されるとともに、エラストマー組成物8がシートの中心に向かって疎から密に分散する性質を利用したものである。
【0022】
図2(c)に示されるように、二酸化炭素中にフィルム状成形物1aを曝すことにより、前記凹部4aに二酸化炭素を浸透せしめることができる。二酸化炭素は、二酸化炭素の三重点以上の温度および圧力に調整されてなる。すなわち、二酸化炭素の三重点は、温度が−56.6℃、圧力が0.52MPaであるから、それ以上の温度および圧力を有するものが使用される。前記三重点以上の温度および圧力としては特に限定されないが、実用に即する観点から、たとえば−56.6℃〜30℃であって、0.52MPa〜7.0MPaのものが好ましく、0℃〜30℃であって、1MPa〜7.0MPaのものがさらに好ましく、15℃〜30℃であって、1MPa〜7.0MPaのものがさらに好ましい。二酸化炭素の浸透方向をA2で示す。二酸化炭素は、エラストマー組成物4のみでなく、PET中にも溶解する。そして、エラストマー組成物とPETとの界面部分において、気泡核が形成される。すなわち、エラストマー組成物4は、PETに溶解した二酸化炭素を周囲に集め(ただしこの時点で気泡は形成されておらず、溶解した状態である)、気泡を形成するための核(気泡核)となり、部分的に二酸化炭素濃度が上昇する。ついで、気泡核の周囲(すなわちエラストマー組成物4の周囲)に、PETおよびエラストマー組成物4中に溶解していた二酸化炭素が拡散し、気泡として成長することと考えられる。そして、図2(d)に示されるように、かかる工程の後、常圧下にフィルム状成形物1aを戻すと、二酸化炭素膨張し、空隙4aが密に形成されることとなる。そして、その後PETが硬化するため、気泡の成長が停止することとなる。
【0023】
該エラストマー組成物4としては、前記PETからなる層3中に溶融状態で均一に分散し得るものであって、PETからなる層3を構成する樹脂組成物が有する融点およびガラス転移温度(Tg)よりも低い融点およびTgを有するものが使用できる。かかる観点から、PETからなる層3がPETシートの場合、スチレン系、スチレンブタジエン系、オレフィン系またはポリエステル系熱可塑性エラストマーからなるエラストマー組成物4が好ましい。
【0024】
空隙4aの大きさとしては、5〜100μmが好ましい。5μmよりも小さい場合、たとえば研磨液を塗布して研磨用途に使用する場合、研磨液の保持が困難となる。100μmよりも大きい場合、不均一な大きさとなりやすく、かつ超小型の精密機器を研磨する場合に充分な効果が得られない傾向がある。
【0025】
二酸化炭素に曝す方法は、特に限定されず、樹脂へのガス浸透量が飽和するのに充分な時間だけ暴露させればよい。
【0026】
本発明の易層間剥離性シート1は、PETからなる層3を、ポリオレフィンからなる層2から容易に剥離することができる。剥離後のポリオレフィンからなる層2は、粉砕して再利用することができる。
【0027】
以下、実施例により、本発明の易層間剥離性シートの製造方法およびその製造方法により得られた易層間剥離性シートをより詳細に説明するが、本発明は、なんらこれらに限定されるものではない。
【0028】
実施例1
PETからなる層として、PET(数平均分子量(以下、単にMnという):17500、Tg:75.9℃)を105kg/h(仕込み量ではなく、単位時間当たりの使用量として示す。以下同じ)と、ポリオレフィンからなる層として、ポリエチレン(Mn:11200、Tg:−70℃)を8.3kg/h使用した。両樹脂組成物を298℃で溶融させた。PETからなる層中に、2.1kg/hのポリエステル系熱可塑性エラストマー(Mn:20000〜30000、融点(Tm):221℃からなるエラストマーを分散させた。
【0029】
溶融状態の両樹脂組成物を、TEM104SS/SE90DVB(東芝機械(株)製)を使用して共押出しした。押出し時の圧力は、PETが6.3MPa、ポリオレフィンが10.7MPaであり、押出し時の温度は275℃であった。冷却には41/38/36℃の三本の冷却ロールにて冷却し、三本ロール以降は室温(約25℃)にて室温まで徐冷し、シート状成形物を得た。該シート状成形物の層構成は、a/b/aであった。得られたシート状成形物に二酸化炭素(ガス浸透温度:17℃、ガス浸透圧力:7.0MPa)を浸透させ、PETからなる層の表層に空隙を形成させた。得られた易層間剥離性シートの厚さは780μm(それぞれ350/50/380μm)であり、凹部の大きさは約10μmであった。
【0030】
比較例1
ポリオレフィンからなる層として、8.3kg/hのポリプロピレン(Mn:51000、Tg:−10℃)を使用した以外は、実施例1と同様に易層間剥離性シートを作成した。得られた易層間剥離性シートの厚さは720μm(それぞれ350/50/320μm)であり、凹部の大きさは約10μmであった。
【0031】
比較例2
ポリオレフィンからなる層として、11.5kg/hのオレフィン系ポリマー(三菱化学(株)製 モディックF554A)を使用した以外は、実施例1と同様に易層間剥離性シートを作成した。得られた易層間剥離性シートの厚さは745μm(それぞれ350/75/320μm)であり、凹部の大きさは約10μmであった。
【0032】
実施例2
ポリオレフィンからなる層として、11.5kg/hのオレフィン系ポリマー(三井化学株式会社製 アドマーSE800)を使用した以外は、実施例1と同様に易層間剥離性シートを作成した。得られた易層間剥離性シートの厚さは720μm(それぞれ350/40/330μm)であり、凹部の大きさは約10μmであった。
【0033】
実施例3
ガス浸透圧力を5.5MPaとした以外は、実施例1と同様に易層間剥離性シートを作成した。得られた易層間剥離性シートの厚さは780μm(それぞれ350/50/380μm)であり、凹部の大きさは約12μmであった。
【0034】
実施例4
ガス浸透温度を35℃とした以外は、実施例1と同様に易層間剥離性シートを作成した。得られた易層間剥離性シートの厚さは780μm(それぞれ350/50/380μm)であり、凹部の大きさは約8μmであった。
【0035】
比較例3
ガス浸透圧力を0.2MPaとした以外は、実施例1と同様に易層間剥離性シートを作成した。得られた易層間剥離性シートの厚さは780μm(それぞれ350/50/380μm)であったが、発泡は困難であった。
【0036】
比較例4
ガス浸透温度を35℃、ガス浸透圧力を0.6MPaとした以外は、実施例1と同様に易層間剥離性シートを作成した。得られた易層間剥離性シートの厚さは780μm(それぞれ350/50/380μm)であり、凹部の大きさは約100μm超であった。
【0037】
試験評価
(剥離強度)
実施例1および2、比較例1および2で得られた易層間剥離性シートの最外層を剥離するために必要な強度を、デジタルフォースゲージ(日本電産シンポ(株)製)を使用して測定した。結果を表1に示す。
【0038】
剥離強度が0.65(N/mm)を超える場合、剥離が困難となり、0.03よりも小さい場合、発泡段階で部分的に剥離することとなり好ましくない。
【0039】
(外観評価)
実施例1、3および4、比較例3および4で得られた易層間剥離性シートにおいて、最外層のシートのみを剥離し、ポリオレフィンからなる層の表層部を顕微鏡観察した。結果を表2に示す。また、実施例1および比較例4の顕微鏡写真をそれぞれ図5および図6に示す。表2に示されるように、比較例1および2の易層間剥離性シートのポリオレフィンからなる層の表層は、凹部の大きさが不均一であった。
【0040】
図5に示されるように、実施例1の表層部の発泡状態は約10μmの凹部が均一に形成されていたが、図6に示されるように、比較例4の表層部の発泡状態は、約10〜250μmの凹部が不均一に形成され、粗大な凹部が多数形成された。図5および図6において、それぞれB1、B2は凹部を指す。
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
【符号の説明】
【0043】
1 易層間剥離性シート
1a シート状成形物
2 ポリオレフィンからなる層
3 ポリエチレンテレフタレート(PET)からなる層
4 エラストマー組成物
4a 空隙
5 樹脂フィルム
6 切断後のシート
7 切断前の樹脂フィルム
8 エラストマー組成物
9 ポリエチレンシートからなる層
A1 切断基準
A2 二酸化炭素の浸透方向
B1、B2 凹部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)エラストマー組成物が分散されてなり、275〜300℃で保持された溶融状態のポリエチレンテレフタレートと、190〜260℃で保持されたポリオレフィンとを、PETの押出し時の圧力5〜10MPa、ポリオレフィンの押出し時の圧力7.5〜15MPa、押出し時の温度265〜280℃、ポリエチレンテレフタレートの押出し時のシリンダー温度250〜280℃、ポリオレフィンの押出し時のシリンダー温度180〜240℃で共押出しし、ポリオレフィンからなる層の表裏両面にポリエチレンテレフタレートからなる層が積層されたシート状成形物を得る工程と、
(b)該シート状成形物を冷却せしめ、前記エラストマー組成物をシート表面を疎、シート中心部を密に分散させる工程と、
(c)二酸化炭素を、該シートに浸透せしめる工程と、
(d)前記シートを常圧下でポリエチレンテレフタレートのガラス転移温度(Tg)以上にて膨張せしめ、微細な空隙を密に形成させる工程とからなり、
前記二酸化炭素が、二酸化炭素の三重点以上の温度および圧力に調整されてなる易層間剥離性シートの製造方法。
【請求項2】
前記ポリオレフィンからなる層がポリプロピレンまたはポリエチレンである請求項1記載の易層間剥離性シートの製造方法。
【請求項3】
前記エラストマーが、スチレン系、スチレンブタジエン系、オレフィン系またはポリエステル系熱可塑性エラストマーである請求項1または2記載の易層間剥離性シートの製造方法。
【請求項4】
ポリオレフィンからなる層の表裏両面にポリエチレンテレフタレートからなる層が積層され、該ポリエチレンテレフタレートからなるシートの表層に、凹部を設けられてなる易層間剥離性シート。
【請求項5】
前記ポリオレフィンからなる層がポリプロピレンまたはポリエチレンである請求項4記載の易層間剥離性シート。
【請求項1】
(a)エラストマー組成物が分散されてなり、275〜300℃で保持された溶融状態のポリエチレンテレフタレートと、190〜260℃で保持されたポリオレフィンとを、PETの押出し時の圧力5〜10MPa、ポリオレフィンの押出し時の圧力7.5〜15MPa、押出し時の温度265〜280℃、ポリエチレンテレフタレートの押出し時のシリンダー温度250〜280℃、ポリオレフィンの押出し時のシリンダー温度180〜240℃で共押出しし、ポリオレフィンからなる層の表裏両面にポリエチレンテレフタレートからなる層が積層されたシート状成形物を得る工程と、
(b)該シート状成形物を冷却せしめ、前記エラストマー組成物をシート表面を疎、シート中心部を密に分散させる工程と、
(c)二酸化炭素を、該シートに浸透せしめる工程と、
(d)前記シートを常圧下でポリエチレンテレフタレートのガラス転移温度(Tg)以上にて膨張せしめ、微細な空隙を密に形成させる工程とからなり、
前記二酸化炭素が、二酸化炭素の三重点以上の温度および圧力に調整されてなる易層間剥離性シートの製造方法。
【請求項2】
前記ポリオレフィンからなる層がポリプロピレンまたはポリエチレンである請求項1記載の易層間剥離性シートの製造方法。
【請求項3】
前記エラストマーが、スチレン系、スチレンブタジエン系、オレフィン系またはポリエステル系熱可塑性エラストマーである請求項1または2記載の易層間剥離性シートの製造方法。
【請求項4】
ポリオレフィンからなる層の表裏両面にポリエチレンテレフタレートからなる層が積層され、該ポリエチレンテレフタレートからなるシートの表層に、凹部を設けられてなる易層間剥離性シート。
【請求項5】
前記ポリオレフィンからなる層がポリプロピレンまたはポリエチレンである請求項4記載の易層間剥離性シート。
【図1a】
【図1b】
【図1c】
【図2a】
【図2b】
【図2c】
【図2d】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図1b】
【図1c】
【図2a】
【図2b】
【図2c】
【図2d】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【公開番号】特開2011−173391(P2011−173391A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−40893(P2010−40893)
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(598071530)ポリテック株式会社 (2)
【出願人】(000100595)アァルピィ東プラ株式会社 (27)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(598071530)ポリテック株式会社 (2)
【出願人】(000100595)アァルピィ東プラ株式会社 (27)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】
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