説明

易引き裂き性フィルム

【課題】手などで容易に引き裂くことができる易引き裂き性フィルムを得るに際して、引き裂き方向の直線性が得られること、引き裂き個所に毛羽立ちなどが生じないこと。
【解決手段】低密度ポリエチレンと環状オレフィンコポリマーとを含む樹脂混合物を一方向に成形したフィルム層を備え、フィルム層は、樹脂混合物に対して環状オレフィンコポリマーを2重量%以上添加した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手などで容易に引き裂くことができる易引き裂き性フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、易引き裂き性及び柔軟性に優れたポリオレフィン系樹脂フィルムとして、長手方向の引張衝撃強度が0.07J/mm2以上0.25J/mm2以下にしたものが記載されている。具体的には、アイソタクチックポリプロピレン78重量部とエチレン9mol%を含有するエチレンプロピレンブロックコポリマー22重量部の混合物に対しシリカ0.3重量部を添加したものを押出機で溶融押出して得た320μmの未延伸フィルムを、165℃で横方向に8倍延伸し、3%の緩和率を与えながら155℃で3秒間熱処理して得た厚さ40μmのフィルムなどが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−34540号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
シリンジなどの医療品を密封状態で包装する包装袋に適用されるフィルムには、包装袋を開封器具なく開封できるように容易に引き裂きが可能な性質を有することが求められる。一般的には、フィルムの端縁に切り欠きや切り目を形成することで引き裂きを容易にしており、また、フィルムの表面に引き裂かれる方向に沿ってエンボス(凹溝)を設けることで引き裂き方向の安定化を図っている。
【0005】
特に、シリンジなどの医療品を包装する袋では、収容されているシリンジの長手方向に交差する方向に沿って直線的にフィルムを引き裂くことができれば、袋から医療品を簡単に取り出すことができ、その後の作業を円滑に進めることができる。これに対して従来のフィルムでは、引き裂き方向の直線性が得られず、袋に収容された医療品などを容易に取り出すことができる十分な開口が得られない問題があった。
【0006】
また、樹脂フィルムの引き裂き個所に毛羽立ちが生じたり波状の変形が生じたりすると、毛羽立ちや波状の変形が袋の開口から収容物を取り出す際の妨げになり、円滑に収容物を袋から取り出すことができなくなる問題があった。
【0007】
本発明は、このような問題に対処することを課題の一例とするものである。すなわち、手などで容易に引き裂くことができるフィルムを得るに際して、引き裂き方向の直線性が得られること、引き裂き個所に毛羽立ちなどが生じないことが本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような目的を達成するために、本発明は、以下の構成を少なくとも具備するものである。
【0009】
低密度ポリエチレンと環状オレフィンコポリマーとを含む樹脂混合物を一方向に成形したフィルム層を備え、該フィルム層は、前記樹脂混合物に対して前記環状オレフィンコポリマーを2重量%以上添加したことを特徴とする易引き裂き性フィルム。
【発明の効果】
【0010】
このような特徴によると、手などで容易に引き裂くことができるフィルムを得るに際して、引き裂き方向の直線性が得られ、また、引き裂き個所に毛羽立ちなどが生じない利点が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を説明する。本発明の実施形態に係る易引き裂き性フィルムは、低密度ポリエチレンと環状オレフィンコポリマーとを含む樹脂混合物を一方向に成形したフィルム層を備えている。フィルム層の成形方法は、カレンダー成形法や押出成形法などで、特定方向に沿ってフィルム成形が可能な方法であれば特に限定されない。
【0012】
低密度ポリエチレン(LDPE)は、密度0.93g/cm3以下、好ましくは0.92g/cm3未満のポリエチレンである。環状オレフィンコポリマーは、環状オレフィン構造を有する非晶性のコポリマーであり、より具体的には、ノルボルネンとエチレンをメタロセン触媒にて共重合したシクロオレフィンコポリマー(COC)を用いることができる。使用可能な環状オレフィンコポリマーの一例における物理特性を列挙すると、密度が1.02g/cm3程度、引張弾性率2600MPa程度、引張強度が63MPa程度、破断伸び4.5%程、ガラス転移温度78℃などの性質を有する。
【0013】
フィルム成形される樹脂混合物は、低密度ポリエチレン(LDPE)をベースとして数重量%の環状オレフィンコポリマー(COC)が添加される。環状オレフィンコポリマー(COC)の添加量は、全体の樹脂混合物に対して2重量%以上とする。環状オレフィンコポリマーの添加率が2重量%未満の場合は、成形されたフィルムを成形方向に交差する方向に引き裂いた場合に良好な引き裂き直進性が得られず、引き裂き個所の状態も毛羽立ちの多い不良な状態になる。環状オレフィンコポリマーの添加率を2重量%以上にすることで、成形されたフィルムを成形方向に交差する方向に引き裂いた場合に良好な引き裂き直進性が得られ、引き裂き個所の状態も毛羽立ちの少ない良好な状態になる。
【0014】
低密度ポリエチレン(LDPE)と環状オレフィンコポリマー(COC)との混合割合は、成形されたフィルムを成形方向に沿って引き裂く場合の引き裂き強度(縦引き裂き強度という)と成形されたフィルムを成形方向と交差する方向に沿って引き裂く場合の引き裂き強度(横引き裂き強度という)の大小関係に影響する(表1参照)。環状オレフィンコポリマーの添加率を大きくし過ぎると縦引き裂き強度が低下することになる。縦引き裂き強度をある程度維持して、成形方向に交差する方向の引き裂き直進性を得るためには、環状オレフィンコポリマーの添加率は、樹脂混合物全体に対して3重量%程度にするのが好ましい。ここでの引き裂き強度は、エレメンドルフ引き裂き試験機で試験片の引き裂き試験を行うことで測定された引き裂き強度(N/mm)である。
【0015】
本発明の実施形態に係る易引き裂き性フィルムは、前述したフィルム層単層であっても良いが、多層構造にすることもできる。この場合には、環状オレフィンコポリマーを含む前述したフィルム層を一対の表面層として、この表面層間に低密度ポリエチレンからなる中間層を備えた多層構造にすることがコストの面で有効である。
【0016】
[実施例]
以下に、表1を参照しながら本発明の実施例を説明する。樹脂混合物のベースとしては、密度:0.918g/cm3,メルトフローレート(MFR):7g/10min,融点:106℃の低密度ポリエチレン(LDPE)を使用した。
【0017】
例2〜例5に添加された第1の添加成分は、密度:1.02g/cm3,MFR:1.2g/10minの環状オレフィンコポリマー(COC;polyplastics社製の商品名「TOPAS 8007」)である。例6〜例10に添加された第2の添加成分は、密度:0.915g/cm3,MFR:4g/10min,融点:127℃のポリブデン(PB)である。例11〜例14に添加された第3の添加成分は、密度1.04g/cm3,MFR2.6g/10minのポリスチレン(PS)である。
【0018】
表1において、例1は添加成分0%(すなわち、LDPE100%)の樹脂、例2はLDPEをベースにCOCを1%添加した樹脂混合物、例3はLDPEをベースにCOCを2%添加した樹脂混合物、例4はLDPEをベースにCOCを3%添加した樹脂混合物、例5はLDPEをベースにCOCを4%添加した樹脂混合物である。
【0019】
例6はLDPEをベースにPBを1%添加した樹脂混合物、例7はLDPEをベースにPBを2%添加した樹脂混合物、例8はLDPEをベースにPBを3%添加した樹脂混合物、例9はLDPEをベースにPBを4%添加した樹脂混合物、例10はLDPEをベースにPBを5%添加した樹脂混合物である。
【0020】
例11はLDPEをベースにPSを1%添加した樹脂混合物、例12はLDPEをベースにPSを3%添加した樹脂混合物、例13はLDPEをベースにPSを5%添加した樹脂混合物、例14はLDPEをベースにPSを10%添加した樹脂混合物である。
【0021】
表1は、前述した例1〜例14に対して、引き裂き強度の測定結果、横方向への引き裂き直線性の測定結果、横方向への引き裂き個所の状態評価結果をそれぞれ示したものである。ここでの引き裂き強度(N/mm)は、エレメンドルフ引き裂き試験機にて試験片に引き裂き試験を行い、成形方向に沿った引き裂き強度(縦引き裂き強度)と成形方向に交差する方向に沿った引き裂き強度(横引き裂き強度)をそれぞれ測定したものである。
【0022】
ここでの引き裂き直線性は、エレメンドルフ引き裂き試験機にて縦方向50mm×横方向100mmの矩形試験片を短辺の中心から長手方向に向けて引き裂き、引き裂き端における短辺の中心からのズレ幅(mm)を計測したものである。ズレ幅が小さいほど引き裂き直線性が高いことを指し、ズレ幅が大きいほど引き裂き直線性が低いことを指している。
【0023】
引き裂き個所状態評価としては、エレメンドルフ引き裂き試験機にて縦方向50mm×横方向100mmの矩形試験片を短辺の中心から長手方向に向けて引き裂き、引き裂き個所の毛羽立ち状態を評価した。○は毛羽立ちが少ない、△は毛羽立ちがやや多い、×は毛羽立ちが多いことをそれぞれ示している。前述の試験片は、各例の樹脂混合物を押出成形法によってフィルム厚さ0.13mmにフィルム成形したものである。
【0024】
表1において、引き裂き直線性が高く(ズレ幅7mm以下)、且つ引き裂き個所の状態評価が良い(評価○)例が、例3〜例5であり、この例が本発明の実施例である。本発明の実施例(例3〜例5)は、LDPEベースにCOCを2〜4%添加した樹脂混合物を押出成形法によってフィルム成形(フィルム厚さ0.13mm)したものである。本実施例に係るフィルムは、成形方向に交差する方向に沿った引き裂きに対して直線的な引き裂き状態が得られると共に、引き裂き個所に毛羽立ちが少なく良好な状態での引き裂きが可能になる。
【0025】
また、成形方向に交差する方向に沿って引き裂きを行う場合、引き裂き強度は横方向の引き裂き強度が縦方向の引き裂き強度より小さい方が好ましい。LDPEベースにCOCを添加した例2〜5では、COCの添加量を多くし過ぎると(添加率4%以上)、縦方向の引き裂き強度が横方向の引き裂き強度より小さくなる傾向がある。したがって、横方向の引き裂き強度を縦方向の引き裂き強度より小さくするためには、COCの添加量を3%程度にすることが好ましい。
【0026】
一方、前述した実施例以外の例は比較例となる。添加成分のない例1は、引き裂き直線性と引き裂き個所の状態評価の両方で不良の結果になった。添加成分としてCOC以外のものを添加した例としては、PBを添加した例6〜例10、PSを添加した例11〜13のいずれにおいても、引き裂き直線性と引き裂き個所の状態評価の両方で不良の結果になった。また、PSを10%添加した例14では、引き裂き直線性は良好な結果が得られたが、引き裂き個所の状態評価で不良の結果になった。
【0027】
なお、表1の各例のフィルムは押出成形によって形成したものであるが、カレンダー成形によって形成されたフィルムでも同様の結果が得られることが予測できる。ここでは成形方向を縦方向とし、成形方向と交差する方向を横方向としている。また、表1の各例では、引き裂きに際してフィルムの辺にノッチ(切り込み又は切れ目)を入れて引き裂き時のきっかけとしている。各例では、シボ加工は施されていないが、横方向に沿ってシボ加工を施すことで引き裂き直線性をより高めることができる。
【0028】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
低密度ポリエチレンと環状オレフィンコポリマーとを含む樹脂混合物を一方向に成形したフィルム層を備え、該フィルム層は、前記樹脂混合物に対して前記環状オレフィンコポリマーを2重量%以上添加したことを特徴とする易引き裂き性フィルム。
【請求項2】
前記一方向の引き裂き強度が当該一方向に交差する方向の引き裂き強度より大きいことを特徴とする請求項1記載の易引き裂き性フィルム。
【請求項3】
前記低密度ポリエチレンの密度が0.92未満であることを特徴とする請求項1または2記載の易引き裂き性フィルム。

【公開番号】特開2012−72210(P2012−72210A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−216073(P2010−216073)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【出願人】(000000550)オカモト株式会社 (118)
【Fターム(参考)】