有害物質吸着材及びその製造方法並びにそれを用いた環境浄化方法

【課題】有害物質を効率良く吸着し不溶化できる有害物質吸着材とその製造方法を提供する。
【解決手段】有害物質吸着材として、ジルコニウム及びマンガンを含有する無水酸化鉄を含むものを用いる。また、前記有害物質吸着材は、鉄化合物、ジルコニウム化合物及びマンガン化合物を含む溶液を30〜80℃の範囲の温度下で、5.5〜8.0の範囲のpHで中和し、酸化してジルコニウム及びマンガンを含有する無水酸化鉄を生成させた後、得られた当該無水酸化鉄を固液分離することで製造される。
【効果】本発明は、有害物質、特にフッ素の吸着能力が高く、フッ素等の有害物質で汚染された水、土壌等を効果的に浄化できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有害物質を効率良く吸着し不溶化できる有害物質吸着材とその製造方法、この有害物質吸着材を用いた環境浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素、ヒ素、クロム、セレン、鉛、カドミウム等は、種々の工業分野で使用されているが、微量でも毒性が強く、これらの有害物質による水質、土壌等の環境汚染が深刻な社会問題となっている。このため、有害物質で汚染された環境を浄化する方法が、種々提案されている。例えば、ジルコニウム、マンガン等を含有する磁性含水酸化鉄に、ヒ酸イオン等を吸着させた後、磁別する技術(特許文献1)、マンガンを含有する酸化鉄を重金属吸着材に用いる技術(特許文献2)、特定量の炭素とジルコニウム等とを含有する含水酸化鉄を、フッ素、ヒ素、セレン、クロム等の吸着材に用いる技術(特許文献3)、ジルコニウムを含有する含水酸化鉄粒子及び/又は酸化鉄粒子を、フッ素吸着材に用いる技術(特許文献4)等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭55−13153号公報
【特許文献2】特開2004−255376号公報
【特許文献3】特開2007−229551号公報
【特許文献4】特開2011−194335号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これらの従来技術より、一層優れた有害物質の吸着能力を有する吸着材が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、ジルコニウムとマンガンを含有する無水酸化鉄は、有害物質の吸着能力が優れ、高度に不溶化できることを見出して本発明を完成した。
【0006】
即ち、本発明は、(1)ジルコニウム及びマンガンを含有する無水酸化鉄を含むことを特徴とする有害物質吸着材であり、(2)前記有害物質吸着材の製造方法であって、鉄化合物、ジルコニウム化合物及びマンガン化合物を含む溶液を30〜80℃の範囲の温度下で、5.5〜8.0の範囲のpHで中和し、酸化してジルコニウム及びマンガンを含有する無水酸化鉄を生成させた後、得られた当該無水酸化鉄を固液分離することを特徴とする有害物質吸着材の製造方法であり、(3)有害物質で汚染された水中又は土壌中に請求項1記載の有害物質吸着材を投入して有害物質を吸着させることを特徴とする環境浄化方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、有害物質の吸着能力が高く、有害物質で汚染された水、土壌等を効果的に浄化できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は有害物質吸着材であって、ジルコニウム及びマンガンを含有する無水酸化鉄を含むことを特徴とする。本発明は有害物質の、特にフッ素、ヒ素、クロム、セレン、鉛、カドミウム等の、中でもフッ素の吸着能力が優れ、これらの有害物質で汚染された水、土壌等の環境を高度に浄化することができる。本発明に用いられる無水酸化鉄は、鉄、ジルコニウム及びマンガンの複合酸化物であっても良く、酸化鉄と酸化ジルコニウム、酸化マンガンとの混晶や混合物であっても良い。ジルコニウムの含有量は、Fe換算の無水酸化鉄に対し、ZrO換算で0.1〜20重量%の範囲が好ましく、マンガンの含有量は、MnO換算で0.1〜10重量%の範囲が好ましい。それぞれの含有量の範囲が、5.0〜15.0重量%、0.5〜5.0重量%であれば、更に好ましい。当該無水酸化鉄が磁着性を有していると、有害物質を吸着させた後に、磁別によって吸着材を容易に分離できるのでより一層好ましい。当該吸着材の形状は、球状、塊状等の等方性形状、針状、板状等の異方性形状等制限を受けず、いずれの形状でも、BET法による比表面積が10〜90m/gの範囲にあれば好ましい。比表面積が前記範囲より低いと、有害物質の吸着能力が不十分になり、前記範囲より大きいと、水、土壌等の処理対象からの分離が困難となる。当該無水酸化鉄は、鉄と酸素から成る化学組成であれば、特に制限は無い。より具体的には、FeO、Fe、Fe、過還元マグネタイトFeO(1.0<x<1.33)、ベルトライドFeO(1.33<x<1.5)等が挙げられ、中でもFeO(1.33<x<1.5)の化学式で表されるベルトライドが好ましい。この化合物が、正スピネル、逆スピネル、欠陥スピネル等のスピネル型の結晶構造を有していれば更に好ましい。
【0009】
尚、ジルコニウム及びマンガンを含有する酸化鉄が、無水酸化鉄か含水酸化鉄であるかは、2価鉄、3価鉄、ジルコニウム、マンガンの含有量を分析し、2価鉄量、3価鉄量を、無水酸化鉄の化学式「FeO」、「Fe」の化学量論から、それぞれ酸化鉄としての含有量に換算し、この換算値と、ジルコニウム、マンガンの酸化物(ZrO、MnO)としての含有量との「合計量」によって判別できる。即ち、「合計量」が95〜100重量%の範囲であれば、無水酸化鉄であり、小さいと含水酸化鉄である。2価鉄量は、試料を強酸で溶解し、酸化還元滴定することで定量できる。また、3価鉄量は、強酸で溶解後、還元剤で2価鉄に還元して、酸化還元滴定で全鉄量を定量し、全鉄量から2価鉄量を差し引くことで求められる。ジルコニウム、マンガンの分析方法には、特に制限は無く、プラズマ発光分光分析、X線分光分析等、公知の方法によって測定できる。
【0010】
本発明の有害物質吸着材には、当該無水酸化鉄以外にも、必要に応じて、(a)他の吸着材(活性炭、ゼオライト、キレート樹脂等)、(b)粘土鉱物(ベントナイト、タルク、クレー等)、(c)有機高分子(アニオン系有機高分子(ポリアクリル酸ソーダ、アクリル酸−アクリル酸エステル共重合体、アクリル酸ソーダ−アクリルアミド共重合体、カルボキシメチルセルロースソーダ塩、デンプン−アクリル酸−アクリル酸ソーダ共重合体、酢酸ビニル−マレイン酸ソーダ共重合体等)、非イオン系有機高分子(ポリアクリルアミド、アルキルセルロース、ポリエチレンオキサイド等)等)、(d)固化材(セメント、石灰等)及び固化遅延剤(クエン酸等)、(e)分散剤等が配合されていても良い。
【0011】
次に、本発明は、ジルコニウム及びマンガンを含有する無水酸化鉄を含む有害物質吸着材の製造方法であって、鉄化合物、ジルコニウム化合物及びマンガン化合物を含む溶液を30〜80℃の範囲の温度下で、5.5〜8の範囲のpHで中和し、酸化してジルコニウム及びマンガンを含有する無水酸化鉄を生成させた後、得られた当該無水酸化鉄を固液分離することを特徴とする。反応温度や中和pHが前記範囲内であれば、無水酸化鉄が生成し易いくなる。反応温度は50〜80℃の温度が更に好ましく、中和pHは6.5〜8の範囲が更に好ましい。そして、酸化還元電位の測定により、酸化率を制御することで、所望の無水酸化鉄が得られる。
【0012】
中和に用いる中和剤としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、炭酸ナトリウム等のアルカリ金属の炭酸塩、アンモニウムガス、アンモニア水、炭酸アンモニウム等のアンモニウム化合物等の公知の塩基性化合物を用いることができる。また、酸化剤としては、空気、酸素、オゾン等の酸化性ガスや、過酸化水素等の酸化性化合物を用いることができ、特に、空気は経済的で取り扱い易く、工業的に有利である。鉄化合物としては硫酸鉄、塩化鉄等が、ジルコニウム化合物としては硫酸ジルコニウム、塩化ジルコニウム、硝酸ジルコニウムが、マンガン化合物としては硫酸マンガン、塩化マンガン等であれば溶解し易く好ましい。硫酸法酸化チタンの製造工程で副生する廃硫酸には、鉄成分として硫酸鉄と、マンガン成分として硫酸マンガンが、所望量含まれているので、この廃硫酸にジルコニウム化合物を添加して、鉄化合物、ジルコニウム化合物、マンガン化合物を含む溶液を調製すると、低コストで有害物質吸着材を得ることができ、廃硫酸の処理・再利用にも寄与できる。
【0013】
固液分離後の有害物質吸着材は、必要に応じて、乾燥し、乾式粉砕する。固液分離には、例えば、フィルタープレス、ロールプレス等を用いることができる。乾燥には、例えば、バンド式ヒーター、バッチ式ヒーター等を用いることができる。乾式粉砕には、例えば、ハンマーミル、ピンミル等の衝撃粉砕機、解砕機等に摩砕粉砕機、ジェットミル等の気流粉砕機、スプレードライヤー等の噴霧乾燥機等を用いることができる。
【0014】
また、本発明は環境浄化方法であって、有害物質で汚染された水中又は土壌中に前記の有害物質吸着材を投入して有害物質を吸着させることを特徴とする。水中または土壌中に含まれる有害物質を吸着させるには、水処理や土壌処理で用いられている公知の方法を用いることができる。例えば、水処理では、本発明の有害物質吸着材を有害物質を含む水に投入し、有害物質を吸着不溶化させた後、濾別しても良く、あるいは処理塔に充填したり、フィルターに担持させて用いることもできる。地下水の処理では、例えば、土壌中に本発明の有害物質吸着材を含む層を形成し、この層を地下水が透過する際に、地下水に含まれる有害物質を吸着させることもできる。土壌処理では、有害物質を含む土壌に直接投入する所謂原位置浄化法に有用であり、土壌に投入する方法には特に制限は無く、(a)土壌を掘り起こし本発明の有害物質吸着材と混合した後埋め戻す、(b)スラリー状にした本発明の有害物質吸着材を土壌に注入する等、土壌の性状、地形等に応じて適宜選択できる。また、水処理、土壌処理のいずれにおいても、当該無水酸化鉄が磁着性を有していると、有害物質を吸着させた後、分離する必要が生じれば、磁別することで容易に分離できるので好ましい。
【実施例】
【0015】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0016】
実施例1
硫酸法酸化チタンの製造工程から発生した廃硫酸(硫酸鉄をFeとして10g/リットル、硫酸マンガンをMnとして0.90g/リットル含む)に、硫酸ジルコニウム(Zrとして0.82g/リットル)を添加し、この溶液を65℃に昇温し、pHが6.0となるように20%苛性ソーダを添加しながら、溶液中に空気を吹き込み、酸化率が70.2%にまるまで酸化した後、濾過、洗浄し、大気中40℃の温度で48時間乾燥し、本発明の有害物質吸着材(試料A)を得た。酸化率から、この鉄酸化物は、FeO1.44で表される化合物であると考えられる。
【0017】
比較例1
実施例1において、硫酸ジルコニウムを添加しなかった以外は、実施例1と同様にして、比較対象の有害物質吸着材(試料B)を得た。
【0018】
比較例2
実施例1において、反応温度を45℃、中和pHを8.5、酸化率100%をとした以外は、実施例1と同様にして、比較対象の有害物質吸着材(試料C)を得た。酸化率から、この鉄酸化物は、FeOOHで表されるオキシ化合物であると考えられる。
【0019】
比較例3
比較例2において、硫酸ジルコニウムを添加しなかった以外は、比較例2と同様にして、比較対象の有害物質吸着材(試料D)を得た。
【0020】
評価1
実施例1、比較例1〜3試料(A〜D)について、X線回折、酸化ジルコニウム及び酸化マンガンの含有量、BET比表面積の測定結果を表1に示す。
【0021】
【表1】

【0022】
評価2
実施例1、比較例1〜3試料(A〜D)について、各試料を12規定の塩酸に煮沸溶解した後、試料溶液に指示薬としてジフェニルアミンスルホン酸ソーダを添加し、重クロム酸カリウムを用いて酸化還元滴定を行い、2価鉄量を定量した。また、同様に調製した試料溶液に指示薬としてインジコカルミンを添加し、更に還元剤として三塩化チタンを加え、試料溶液の無色〜薄黄色が青色に変わるまで、3価鉄を2価鉄に還元させた。その後、同様に酸化還元滴定を行い、2価鉄量を定量し、これを全鉄量とし、全鉄量から先に求めた2価鉄量を差し引いて、3価鉄量とした。結果を、表2に示す。実施例1、比較例1は、「合計量」が95〜100重量%の範囲内であることから、無水酸化鉄であり、一方、比較例3、4は、「合計量」が前記範囲より小さいことから、含水酸化鉄であることが判る。
【0023】
【表2】

【0024】
評価3
実施例1、比較例1〜3の試料(A〜D)を、フッ素を10mg/リットル含む模擬汚染水に、投入した後、pHを5に調整し、室温下2時間撹拌した。撹拌後、試料を固液分離した。模擬汚染水中の試料濃度は、1.0、5.0g/リットルの2水準とした。また、試料を投入せずに同様に処理した模擬汚染水を、比較例3とする。模擬汚染水中のフッ素濃度は、原子吸光分析で測定した。その結果を、表3に示す。本発明のフッ素吸着材は、フッ素の吸着能力が優れていることが判る。
【0025】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、有害物質で、特にフッ素、ヒ素、クロム、セレン、鉛、カドミウム等で、中でもフッ素で汚染された水、土壌等の浄化に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジルコニウム及びマンガンを含有する無水酸化鉄を含むことを特徴とする有害物質吸着材。
【請求項2】
Fe換算の無水酸化鉄に対し、ジルコニウムの含有量がZrO換算で0.1〜20重量%の範囲にあり、マンガンの含有量がMnO換算で0.1〜10重量%の範囲にあることを特徴とする請求項1記載の有害物質吸着材。
【請求項3】
無水酸化鉄が磁着性を有していることを特徴とする請求項1に記載の有害物質吸着材。
【請求項4】
無水酸化鉄がFeO(1.33<x<1.5)の化学式で表される化合物であることを特徴とする請求項1に記載の有害物質吸着材。
【請求項5】
無水酸化鉄がスピネル型の結晶構造を有することを特徴とする請求項1に記載の有害物質吸着材。
【請求項6】
有害物質がフッ素、ヒ素、クロム、セレン、鉛、カドミウムから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1記載の有害物質吸着材。
【請求項7】
ジルコニウム及びマンガンを含有する無水酸化鉄を含む有害物質吸着材の製造方法であって、鉄化合物、ジルコニウム化合物及びマンガン化合物を含む溶液を30〜80℃の範囲の温度下で、5.5〜8の範囲のpHで中和し、酸化してジルコニウム及びマンガンを含有する無水酸化鉄を生成させた後、得られた当該無水酸化鉄を固液分離することを特徴とする有害物質吸着材の製造方法。
【請求項8】
酸化チタンの製造工程から副生する鉄成分及びマンガン成分を含む廃硫酸にジルコニウム化合物を添加して当該溶液を調製することを特徴とする請求項7記載の有害物質吸着材の製造方法。
【請求項9】
有害物質で汚染された水中又は土壌中に請求項1記載の有害物質吸着材を投入して有害物質を吸着させることを特徴とする環境浄化方法。

【公開番号】特開2013−111524(P2013−111524A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−259732(P2011−259732)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000000354)石原産業株式会社 (289)
【出願人】(000200301)JFEミネラル株式会社 (79)
【Fターム(参考)】